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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】Sm-Fe-N系希土類磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20240620BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20240620BHJP
【FI】
H01F1/059 160
B22F3/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021051882
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149639
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】福地 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 洋隆
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163967(WO,A1)
【文献】特開2020-53437(JP,A)
【文献】特開2020-57646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm-Fe-N系結晶粒と、Fe,O,C,及び,Znを含む化合物相と、を含有するSm-Fe-N系希土類磁石であって、
前記化合物相のSmに対するFeの原子比は、前記Sm-Fe-N系結晶粒のSmに対するFeの原子比よりも大きく、
前記化合物相のOの濃度は3at%以上であり、
前記化合物相のCの濃度は4at%以上である、Sm-Fe-N系希土類磁石。
【請求項2】
前記化合物相のZnの濃度は10at%以上である、請求項1に記載のSm-Fe-N系希土類磁石。
【請求項3】
前記化合物相のSmに対するFeの原子比は9.0以上である、請求項1又は2に記載のSm-Fe-N系希土類磁石。
【請求項4】
前記Sm-Fe-N系希土類磁石中のC含有量が、前記Sm-Fe-N系希土類磁石の全量を基準として0.05~1.2質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のSm-Fe-N系希土類磁石。
【請求項5】
前記Sm-Fe-N系希土類磁石中のO含有量が、前記Sm-Fe-N系希土類磁石の全量を基準として2質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のSm-Fe-N系希土類磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sm-Fe-N系希土類磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
Sm-Fe-N系希土類磁石は、キュリー温度が高く、且つ、Nd-Fe-B系希土類磁石と同等の磁気特性を示すことから、高耐熱性に優れた磁石として改良が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、酸素含有量が低減されSm-Fe合金からSm-Fe-N系粉末を作製し、最大エネルギー積が改善したことの開示がある。
【0004】
特許文献1には、所定の温度のSm-Fe-N系磁石粉末を、所定の成形面圧で圧密成形し、所定の相対密度を有するSm-Fe-N系磁石成形体を得る、Sm-Fe-N系磁石成形体の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石に含まれる酸素の含有率を抑制することで、原料粉末と同等以上の保磁力を有する、保磁力の優れた焼結磁石を得ることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、複数のSm-Fe-N系結晶粒からなる結晶相と、隣接するSm-Fe-N系結晶粒の間に存在する非磁性金属相とを含み、X線回折法で測定したSmFeNピークの強度と、Feピークの強度との比が所定範囲である焼結磁石が開示されている。
【0007】
非特許文献2には、グラファイト粉と共にSm-Fe-N系粉末を粉砕して、Sm-Fe-N系磁石を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2015/199096号公報
【文献】特開2017-55072号公報
【文献】WO2018/163967号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 35. NO. 5. 3322-3324, SEPTEMBER(1999)
【文献】M. Ito and H. Tsunemi, Journal of Magnetism and Magnetic Materials490 (2019) 165471
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のSm-Fe-N系希土類磁石の保磁力にはいまだに改善の余地がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、保磁力が向上したSm-Fe-N系希土類磁石等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面に係る希土類磁石は、Sm-Fe-N系結晶粒と、Fe,O,C,及び,Znを含む化合物相と、を含有するSm-Fe-N系希土類磁石である。
前記化合物相のSmに対するFeの原子比は、前記Sm-Fe-N系結晶粒のSmに対するFeの原子比よりも大きく、
前記化合物相のOの濃度は3at%以上であり、
前記化合物相のCの濃度は4at%以上である。
【0013】
上記希土類磁石において、前記化合物相のZnの濃度は10at%以上であることができる。
【0014】
上記希土類磁石において、前記化合物相のSmに対するFeの原子比は9.0以上であることができる。
【0015】
上記希土類磁石において、前記Sm-Fe-N系希土類磁石中のC含有量が、前記Sm-Fe-N系希土類磁石の全量を基準として0.05~1.2質量%であることができる。
【0016】
上記希土類磁石において、前記Sm-Fe-N系希土類磁石中のO含有量が、前記Sm-Fe-N系希土類磁石の全量を基準として2質量%以下であることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い保磁力を有するSm-Fe-N系希土類磁石が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<Sm-Fe-N系希土類磁石>
本実施形態に係る希土類磁石は、Sm-Fe-N系結晶粒と、Fe,O,C及びZnを含む化合物相と、を含有するSm-Fe-N系希土類磁石である。
【0020】
(Sm-Fe-N系結晶粒)
Sm-Fe-N系結晶粒とは、Sm、Fe及びNを含む合金の結晶粒である。Sm-Fe-N系結晶粒の結晶構造の例は、TbCu型結晶、及び、ThZn17型結晶である。中でも、ThZn17型結晶構造を有するSm-Fe-N系結晶粒が好ましい。ThZn17型結晶の例は、SmFe17結晶粒である。xは1~6であり、好ましくは2~4、より好ましくは2.5~3.5、更に好ましくは2.8~3.2であり、3であることができる。Sm-Fe-N系結晶粒のSmに対するFeの原子比は、8~9であることができ、好適には、8.5である。
【0021】
本実施形態に係る希土類磁石のc軸に平行な断面に占めるSmFe17結晶粒の面積割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
【0022】
Sm-Fe-N系結晶粒の平均粒径は、5μm以下であることができ、希土類磁石の残留磁束密度及び保磁力が一層向上することから、2μm以下であることができ、1μm以下であってもよい。平均粒径の下限についての限定はないが、例えば、0.1μmであることができ、0.04μmであることができる。
【0023】
Sm-Fe-N系結晶粒の平均粒径は、希土類磁石のc軸に平行な断面のSEMによる観察画像に基づいて測定することができる。すなわち、当該画像に基づいて、500個のSm-Fe-N系結晶粒の断面積をそれぞれ画像解析により求めた上で、各面積を、同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)に換算し、Sm-Fe-N系結晶粒の粒径分布を得る。得られた個数基準の粒径分布のメジアン径(D50)を取得し、Sm-Fe-N系結晶粒の平均粒径とする。
【0024】
(Fe,O,C及びZnを含む化合物相)
希土類磁石は、Fe,O,C,及び,Znを含む化合物相を含む。この化合物相は、SEM-EPMAなどの分析装置により、Fe,O,C,及びZnの全ての元素が確認される相である。
【0025】
この化合物相は、Smを含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。上記化合物相のSmに対するFeの原子比は、Sm-Fe-N系結晶粒のSmに対するFeの原子比よりも大きい。具体的には、上記化合物相のSmに対するFeの原子比は、9.0以上であってよく、9.1以上であってよい。化合物相のSmに対するFeの原子比に上限の限定はないが、10.5以下であることができる。
【0026】
上記化合物相のOの濃度は3at%以上であり、4at%以上であってよく、4.5at%以上であってよい。上記化合物相のOの濃度に上限の限定はないが、例えば、20at%以下であることができる。
【0027】
上記化合物相のCの濃度は4at%以上であり、5at%以上であってよく、6.0at%以上であってよい。上記化合物相のCの濃度に上限の限定はないが、例えば、10at%以下であることができる。
【0028】
上記化合物相のZnの濃度は、10at%以上であることができ、10.5at%以上であってよく、11at%以上であってよく、12at%以上であってよい。上記化合物相のZnの濃度に限定はないが、25at%以下であることができる。
【0029】
上記化合物相は、Nを含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。上記化合物相のNの濃度に限定はないが、10at%以下であることができる。
【0030】
上記化合物相において、Fe,Sm,O,C,及びZnは、全元素の70at%以上を占めてよく、80at%以上を占めてよく、90at%以上を占めてよく、95at%以上を占めてよく、99at%以上を占めてよい。
【0031】
上記化合物相における原子濃度は、FE-EPMA(高性能フィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザ)などの分析装置により行うことができる。
【0032】
(他の相)
本実施形態に係る希土類磁石は、Sm-Fe-N系結晶粒及び上記化合物相以外の金属相を有していてよい。このような金属相は、例えば、Fe相等であってよい。c軸に平行な断面に占めるこのような金属相の面積割合は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることが好適である。
【0033】
希土類磁石は、非磁性金属相を有していてよい。非磁性金属とは強磁性の金属(例えば、Fe,Co,Ni等)以外の金属であり、例えば、Zn,Al,Sn,Cu,Ti,Sm,Mo,Ru,Ta,W,Ce,La,V,Mu、及びZrが挙げられる。
【0034】
(全体組成)
本実施形態に係る希土類磁石中の炭素含有量は、希土類磁石の全量を基準として0.05~1.2質量%であることができる。希土類磁石中の炭素含有量は、0.1~1.0質量%であることができ、0.1~0.6質量%であってよい。
【0035】
希土類磁石中の炭素量は、希土類磁石を不活性雰囲気のグローブボックス中にてメノウ乳鉢で粉砕して粉末を得て、当該粉末を酸素気流中で燃焼してCO化し、燃焼ガス中のCOを赤外線吸収法で定量することにより得ることができる。
【0036】
本実施形態に係る希土類磁石中の酸素含有量は、希土類磁石の全量を基準として2質量%以下であることができ、1.7質量%以下であってよく、1.5質量%以下であってよく、1.0質量%以下であってよい。酸素含有量の下限は特にないが、0.1質量%以上であっても良い。
【0037】
希土類磁石中の酸素含有量は、不活性ガス雰囲気中において黒鉛るつぼ内で希土類磁石を溶融し、希土類磁石中の酸素と黒鉛るつぼの炭素とを反応させてCOを生成し、非分散赤外線検出器等の分光測定にてCOの量を検出することで測定できる。
【0038】
本実施形態に係る希土類磁石は、Sm、Fe、O、C、Zn、及びN以外に、例えば、Al、Si、P、Ti、Cr、Mn、Co、Cu、Y、Sn及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有してもよい。これらの各元素の含有量は10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。合計含有量は15質量%以下とすることが好適である。
【0039】
本実施形態に係る希土類磁石の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分光(EDS)法、蛍光X線(XRF)分析法、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、不活性ガス融解‐非分散型赤外線吸収法、酸素気流中燃焼‐赤外吸収法及び不活性ガス融解‐熱伝導度法等の分析方法によって特定されてよい。
【0040】
本実施形態に係る希土類磁石の残留磁束密度Brは、10.5kG以上であってよく、10.7kG以上であってよく、11.0kG以上であってよい。希土類磁石の残留磁束密度は、VSM(試料振動型磁力計)又はB-Hトレーサーを用いて測定することができる。
【0041】
本実施形態に係る希土類磁石の保磁力Hcjは、15kOe以上であることが好ましく、17kOe以上であることがより好ましく、17.5kOe以上であることが更に好ましい。希土類磁石の保磁力は、VSM(試料振動型磁力計)又はB-Hトレーサーを用いて測定される値を意味する。
【0042】
本実施形態に係る希土類磁石の寸法及び形状は、希土類磁石の用途に応じて様々であり、特に限定されない。希土類磁石の形状は、例えば、直方体、立方体、矩形(板)、多角柱、アークセグメント、扇、環状扇形(annular sector)、球、円板、円柱、リング、又はカプセルであってよい。希土類磁石の断面の形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓状、アーチ、又は円であってよい。
【0043】
本実施形態に係る希土類磁石は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用されてよい。希土類磁石は、モータ、発電機又はアクチュエーターを構成する材料として用いられてよい。
【0044】
(作用効果)
本実施形態に係る希土類磁石によれば、特定の組成のFe,O,C,及び,Znを含む化合物相を有している。したがって、希土類磁石のHcjを高くし易い。この理由は明らかでは無いが以下のような理由が考えられる。このような希土類磁石においては、磁石原料の微粉中に不可避的に混入する酸素原子により、特に、焼結工程において、SmFeN系結晶粒の酸化分解が起こりやすい。これに対して、本実施形態に係る希土類磁石では、焼結工程において酸素原子が当該化合物相(非磁性偏析相)に取り込まれるため、SmFeN系結晶粒の酸化分解が抑制され、HcJを高くできることが考えられる。
【0045】
<Sm-Fe-N系希土類磁石の製造方法>
本実施形態に係るSm-Fe-N系希土類磁石(以下、「希土類磁石」ともいう)の製造方法の一例について説明する。
【0046】
[Sm-Fe-N系粗粉準備工程]
【0047】
(Sm-Fe-N系合金粗粉)
まず、Sm-Fe-N系合金粗粉を用意する。SmFe17合金などのSm-Fe-N系合金粗粉は市場で入手でき、また、その製造方法も公知である。例えば、Sm及びFeを含有する合金粗粉(以下、「Sm-Fe合金」ともいう)を窒化処理することによって、Sm-Fe-N系合金粗粉を得ることができる。Sm-Fe合金は、例えば、カルシウム還元拡散法、又は鋳造法等によって作製されてよい。
【0048】
Sm-Fe-N系合金粗粉の平均粒径は5~50μmであることができ、10~30μmであることがより好ましい。平均粒径は、レーザー回折法による個数基準の粒度分布のD50である。
【0049】
合金粗粉の酸素含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
(Fe-C合金粗粉)
続いて、Fe-C合金粗粉を用意する。Fe-C合金粗粉は、FeとCとの混合物を、1500℃以上に加熱することで得ることができる。
Fe-C合金粗粉は、Fe-C合金の急冷薄帯の破砕物でもよく、Fe-C合金インゴットの粉砕物でもよい。
Fe-C合金粗粉の平均粒径は、5~50μmとすることができる。
Fe-C合金における、Cの濃度は5~15質量%とすることができる。
【0051】
(Zn粉末)
Zn粉末を用意する。Zn粉末は市販されている。平均粒径に特に限定はないが、1~10μmが好ましい。
【0052】
なお、Fe-C合金粗粉でなく、Fe粉とC粉との混合粉をSm-Fe-N系合金粗粉に添加して焼結しても、上記のFe,O,C及びZnを含む化合物相を有する希土類磁石を得ることはできない。なぜなら、400~600℃程度の通常のSm-Fe-N系希土類磁石の焼結温度ではFe、O、C及びZnは化合物を形成せず、本製法と同様の状態にならないからである。上述したように、通常、Fe及びCからFe-C合金を生成するには、1500℃以上の高温が必要である。
【0053】
[粉砕工程]
次に、上記のSm-Fe-N系合金粗粉、Fe-C合金粗粉、及び、Zn粉末を、粉砕して混合微粉を得る。粉砕は、ジェットミルなどを用いて乾式で行うことが好適であるが、液中(溶媒中)で粉砕する湿式粉砕を行っても実施は可能である。湿式粉砕は、ボールミル、振動ミル又はミキサーミル等を用いて行うことができる。
【0054】
乾式粉砕時には、潤滑剤を添加してもよい、潤滑剤の例は、ステアリン酸亜鉛などのステアリン酸金属セッケン、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル等の有機固体潤滑剤である。潤滑剤の添加量は、混合微粉全体に対して、0.1~5質量%とすることができる。
【0055】
湿式粉砕時には分散剤を添加してもよい。分散剤の例は、脂肪酸又は脂肪酸の誘導体であってよい。具体的には分散剤は、例えば、オレイン酸、オレイルアミン及びオクチルアミン等である。分散剤の他の例は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、エチレンジアミン、アニリン、ピリジン、など、その他界面活性剤でもよい。分散剤の添加量は、混合微粉の全量に対して0.1~5質量%とすることができる。
【0056】
湿式粉砕には、有機溶媒を用いることが好適である。溶媒の例は、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトニトリルなどのニトリル化合物;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシドなどである。
【0057】
粉砕工程を行う時間は、目標とする混合微粉の平均粒径に応じて適宜変更されてよい。
粉砕工程は主相の酸化を抑制して、得られる希土類磁石の残留磁束密度及び保磁力を高くする観点から、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。特に、酸素濃度が10ppm以下の不活性ガス雰囲気が好ましい。ここでの酸素濃度は、体積分率である。
【0058】
粉砕工程終了時の混合微粉の平均粒径は、希土類磁石の保磁力を一層向上させることから、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましい。混合微粉の平均粒径は、SEMによる混合微粉の観察画像を用いて求められる。具体的には、観察画像に基づいて500個の混合微粉の面積を画像解析によりそれぞれ求めた上で、各微粉の面積を、同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)に換算し、混合微粉の粒径分布を得る。得られた個数基準の粒子径分布のD50を、混合微粉の平均粒径とする。
【0059】
なお、本実施形態では3種の粉体を混合した後に微粉砕して混合微粉を得ているが、3種の粉体をそれぞれ微粉砕した後に混合して混合微粉を得てもよい。
【0060】
[成形工程]
次に、上記の混合微粉を磁場中で成形して成形体を得る。静磁場中で成形すると、静磁場に沿ってSm-Fe-N系粒子の磁化容易軸が配向した成形体が得られ、焼結後に異方性磁石が得られるので好ましい。例えば、金型内の混合微粉に静磁場を印加しながら、混合微粉を金型で加圧することにより、成形体が得られる。金型が混合微粉に及ぼす圧力は、10~3000MPaであってよい。混合微粉に印加される磁場の強さは、400kA/m以上3000kA/m以下であってよい。
【0061】
[焼結工程]
次に、上述の成形体を焼結して希土類磁石を得る。焼結条件は、目的とする希土類磁石の組成及び混合微粉の平均粒径等に応じて、適宜設定されてよい。焼結工程は、昇温過程と、昇温過程に続く温度保持過程とを有していてよく、昇温過程のみを有していてもよい。昇温過程における到達温度は、例えば、400~600℃であってよい。温度保持過程における焼結時間は、1時間以下であってよく、0時間であってもよい。
【0062】
焼結における加熱方法に特に限定はなく、抵抗加熱、通電加熱、高周波加熱でもよい。また、金型内で成形体/焼結体に圧力(例えば10~3000MPa)を加えながら加熱を行ってもよい。
【0063】
焼結工程の雰囲気中の酸素濃度及び水分濃度をそれぞれ1ppm以下とすることが好ましく、それぞれ0.5ppmとすることが好ましい。なお、雰囲気中の酸素濃度及び水分濃度はモル分率である。
【0064】
[冷却工程]
続いて、上述の焼結体を冷却する。焼結体は、不活性ガス中で冷却されてよい。焼結体の冷却速度は、例えば5℃/分以上100℃/分以下であってよい。
【0065】
なお、Sm-Fe-N系粗粉準備工程から焼結工程まで、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことが好適である。
【0066】
[加工工程]
必要に応じて、得られた希土類磁石に対して、切削及び研磨等により寸法及び形状を調整する加工工程を更に備えてよい。加工工程も、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
[粉砕工程]
SmFe17粗粉(x≒3、平均粒径D50≒25μm)、Fe-C合金粗粉(質量比Fe:C=10:1、平均粒径D50≒20μm:急冷薄帯の粉砕物)、及び、Zn粉末(平均粒径D50≒8μm)を準備した。
これらの3つの粉末を、表1に記載の質量比で混合した後、ジェットミルを用いて乾式粉砕し、混合微粉を得た。粉砕は、Ar雰囲気下で、表1の条件で行った。得られた混合微粉の平均粒径D50は2.0μmであった。粉砕には、表1の濃度で固体潤滑剤(脂肪酸アミド)を加えた。
【0069】
[成形工程]
得られた混合微粉を金型へ供給した。金型内の混合微粉に静磁場を印可しながら、混合微粉を金型で加圧することにより、成形体を得た。混合微粉に加えた圧力は1.2GPa、印可した静磁場の強さは2000kA/mとした。
【0070】
[焼結工程]
得られた成形体を、1.2GPaで金型を加圧しながら、窒素雰囲気下で480℃まで昇温し、480℃で10分保持した後、放冷することで希土類磁石を得た。
なお、ジェットミルでの粉砕を除く上記の全ての工程は窒素雰囲気中で行った。
【0071】
各条件を表1及び表2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
(実施例2、3)
Fe-C合金粗粉の配合量を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にしてした。
【0075】
(実施例4~6)
粉砕条件を表1のように変更する以外は、実施例2と同様とした。混合微粉の平均粒径D50はそれぞれ、5.0μm、1.0μm、0.7μmであった。
【0076】
(比較例1)
Fe-C合金粗粉、及び、Zn粉末を添加せず、SmFe17粗粉のみを粉砕した以外は実施例2と同様にした。
【0077】
(比較例2)
Fe-C合金粗粉に代えて、市販のC(グラファイト)粉末(平均粒径10μm)を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0078】
(比較例3)
Fe-C合金粗粉に代えて、Fe粗粉を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0079】
[粉砕後の混合微粉の平均粒径の測定]
混合微粉の平均粒径は、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:「SU5000」)による混合微粉の観察画像を用いて求めた。具体的には、観察画像に基づいて500個の混合微粉の面積をそれぞれ画像解析により求めた上で、各微粉の面積を、同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)に換算し、混合微粉の粒径分布を測定した。測定した個数基準の粒子径分布のD50を混合微粉の平均粒径とした。
【0080】
[希土類磁石におけるSmFe17結晶粒の平均粒径の測定]
希土類磁石におけるSmFe17結晶粒の平均粒径は、c軸に平行な断面のTEM(FEIカンパニー製、商品名:「Titan」)による観察画像を用いて測定した。すなわち、当該画像に基づいて、500個のSmFe17結晶粒の面積を画像解析により求めた上で、各面積を、同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)に換算し、SmFe17結晶粒の粒径分布を得た。得られた個数基準の粒径分布のD50を、SmFe17結晶粒の平均粒径とした。
【0081】
[希土類磁石における酸素含有量の測定]
希土類磁石の酸素含有量は、金属中酸素分析装置にて行った。具体的には、希土類磁石を黒鉛るつぼ中で溶融することで磁石中の酸素をガス化(CO化)し、非分散赤外線検出器にてCOを検出してそれぞれ定量した。
【0082】
[希土類磁石における炭素含有量の測定]
希土類磁石の炭素含有量は、それぞれのサンプルを不活性雰囲気のグローブボックス中にてメノウ乳鉢で粉砕して粉末を得て、当該粉末を酸素気流中で燃焼してCO化し、燃焼ガス中のCOを赤外線吸収法で定量することにより得た。
【0083】
[Feリッチ相又はFeOCリッチ相の組成分析]
希土類磁石の鏡面研磨面をSEM-EPMA(日本電子株式会社製、商品名:「JXA8500F」)にてマップ分析した。Sm:Fe:Nの原子比が略2:17:3である領域を主相と認識し、反射電子像のコントラストで主相よりも暗く見える部分を点分析して、Smに対するFe比(Fe/Sm)が9.0以上である領域をFeリッチ相として抽出した。Feリッチ相のO,C,Zn濃度を測定し、Feリッチ相内で、O≧3at%及びC≧4at%をともに満たした部分をFeOCリッチ相として抽出した。
表2において、FeOCリッチ相が観察された実施例ではFeOCリッチ相の濃度を、FeOCリッチ相が見られなかった比較例においてはFeリッチ相の平均組成を示す。
【0084】
[磁気特性の測定]
希土類磁石の磁気特性として、保磁力(HcJ)をVSM(株式会社玉川製作所製)を用いて測定した。
【0085】
[相対密度の算出]
得られた希土類磁石の寸法と質量を測定することで、SmFe17結晶の真密度に対する希土類磁石の相対密度を計算した。
【0086】
所定の組成のFeOCリッチな化合物相を有する実施例に係る希土類磁石は、高い保磁力(例えば10kOe以上)を示すことが確認された。