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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ブレーキフルード組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240620BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20240620BHJP
   C10M 145/26 20060101ALN20240620BHJP
   C10M 145/36 20060101ALN20240620BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240620BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240620BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20240620BHJP
   B60T 11/10 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M107/34
C10M145/26
C10M145/36
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N40:08
B60T11/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021073441
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167571
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399040313
【氏名又は名称】谷川油化興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和参
(72)【発明者】
【氏名】原田 仁
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113609(JP,A)
【文献】特表2009-507938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M、C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とするブレーキフルード100重量部に対し、ポリオキシプロピレンを0.2~4.0重量部混合したしたものであって、該ブレーキフルードのマイナス40度の動粘度が900mm/sec以下であり、ウェット沸点が180度以上であり、ポリオキシプロピレンの平均分子量が1500~5000であり、ポリオキシプロピレンがトリス(ポリオキシプロピレン)グリセリルエーテルであるブレーキフルード組成物。
【請求項2】
ポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とするブレーキフルード100重量部に対し、ポリオキシプロピレンを0.2~4.0重量部混合したしたものであって、該ブレーキフルードのマイナス40度の動粘度が900mm /sec以下であり、ウェット沸点が180度以上であり、ポリオキシプロピレンの平均分子量が1500~5000であり、ポリオキシプロピレンがポリオキシプロピレン単位の平均分子量が1000~2000、ポリオキシエチレン単位の平均分子量が400~1000であるプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体であるブレーキフルード組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキフルードと特定の有機化合物の組み合わせにより、電子制御ブレーキシステムの応答性を極めて高くでき、尚且つ高い沸点を有するブレーキフルード組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御ブレーキシステムの応答性は、特に電動自動車分野において安全性、正確性及びエネルギー消費の視点より重要度が極めて大きい。
【0003】
この応答性には、電子システムそのものでも改善が提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方、ブレーキフルードの改善も有力な方法である。ブレーキフルード(特許文献2)については、湿潤平衡還流沸点等と粘度の改善について提案されているが、更に、ブレーキシステムの応答性の改善を行うことが本発明の目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-131835号公報
【文献】特表2009-507938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
沸点を高く保持して、電子制御ブレーキシステムに高度な応答性を付与するブレーキフルード組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記問題を解決する方法について鋭意検討し、特定の化合物を組み合わせた組成物を用いることで上記問題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、ポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とするブレーキフルード100重量部に対し、ポリオキシプロピレンを0.2~4.0重量部混合したしたものであって、該ブレーキフルードのマイナス40度の動粘度が900mm/sec以下であり、ウェット沸点が180度以上であるブレーキフルード組成物である。
【発明の効果】
【0009】
電気自動車等に用いられる電子制御式ブレーキにおいては、運転者への良好なブレーキ動作に対するブレーキフィーリング(応答性)が求められており、本ブレーキフルード組成物は、このような要請に応えるものであり、応答性が極めて高く、工業的な価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、ポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とするブレーキフルードとしては、最も一般的にブレーキフルードとして用いられているものであり、ポリエチレングリコールモノエーテルに加えアルコキシグリコールホウ酸エステルを併用したものも好ましく利用できる。
【0011】
本発明のブレーキフルード組成物は、マイナス40度の動粘度が900mm/sec以下であり、ウェット沸点が180度以上であることが必要であり、この特性を有するブレーキフルードとしては、示性式R(OCHCH)nOHで示されるポリエチレングルコールモノエーテルのアルコキシ基の構造Rを、炭素数1~3とし、繰り返し単位nを2~4とし、さらに、これらのポリエチレングリコールモノエーテルのホウ酸エステルを併用することなどを好ましい態様として示すことができる。
【0012】
本発明において、ポリオキシプロピレンとしては、好ましくはトリス(ポリオキシプロピレン)グリセリルエーテルであり、分子量が1000~5000、より好ましくは2000~4000程度のものであり、ポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とするブレーキフルード100重量部に対し0.2~4.0重量部用いるのが好ましく、0.3から2重量部用いるのがより好ましい。
【0013】
本発明において、好ましい別の態様としては、ポリオキシプロピレンとしてオキシプロピレンとオキシエチレンの共重合体が例示でき、ポリオキシプロピレン単位の分子量が1000~2000であり、ポリオキシエチレン単位の分子量が400~1000であるプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体を用いることが好ましく例示できる。
【0014】
ここで、ポリオキシプロピレンの添加量が少ないと、応答性の改善が少なく、多すぎると、粘度が上昇し応答性が悪くなる。
【0015】
本発明は、更に、腐食抑制剤、pH安定剤、酸化防止剤などの他の添加剤を含有してもよい。
【0016】
本発明のブレーキフルード組成物のマイナス40度の粘度は900mm/sec以下、好ましくは、500~750mm/sec程度に保持される。これはポリエチレングリコールモノエーテルを主成分とするブレーキフルードを用いることで達成されるが、ポリエチレングリコールモノエーテルに加えアルコキシグリコールホウ酸エステルを併用したものであるのがより好ましく、そのようなものは、市場で一般的に入手できる。
【0017】
本発明は、上記組成とすることにより、電子制御ブレーキシステムを用いた車両において、ブレーキ作動動作に対し、運転者に良好なブレーキ効果のフィーリングを与える事(以下、応答性という)を改善する効果を有するものである。
【0018】
本発明においては、上述のように、腐食防止剤を併用することもでき、腐食防止剤としては、脂肪酸(ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸またはオレイン酸)、リンまたはリン酸と脂肪族アルコールのエステル(亜リン酸エステル、リン酸エチル、リン酸ジメチル、リン酸イソプロピル、亜リン酸ブチル、亜リン酸トリフェニルおよび亜リン酸ジイソプロピル)、複素環式窒素含有化合物(ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、およびそのような化合物と1,2,4トリアゾールの混合物およびその誘導体)、アミン化合物(ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-アミルアミンのようなアルキルアミン、シクロヘキシルアミン、およびそれらの塩)、アルカノールアミン(モノ、ジおよびトリメタノールアミン、モノ、ジおよびトリエタノールアミン、モノ、ジおよびトリプロパノールアミンならびに、モノ、ジおよびトリイソプロパノールアミン)が挙げられる。
【0019】
本発明においては、上述のように、pH安定剤を併用することもでき、pH安定剤としては、一般的には硝酸ナトリウムなどが挙げられるが、安定に寄与する防錆剤が存在する場合には特に添加しなくともよい。
【0020】
本発明においては、上述のように、酸化防止剤を併用することもでき、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤(2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、4,4-ブチリデンビス(6-tert-ブチルメタクレゾール))、アミン系(アミン系酸化防止剤(例えばフェニル-α-ナフチルアミン等))が挙げられる。
【0021】
本発明のブレーキフルード組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、本発明の添加剤以外の添加剤をさらに含むことは問題がない。
【実施例
【0022】
[実施例1]
ブレーキフルードを電子制御式ブレーキに適用した時の性能につて、実際に車両(市販の2000CCのクラスの乗用車)を運転した時の運転者による評価をプロの運転者(国際競技運転者許可証C以上を取得した運転者)により実施した。
【0023】
テストは、サーキット施設で、1周約5km、高低差約30mで、直線最高速度200km/時程度、コーナー最低速度約50km/時程度で、1周でのスピードのアップ・ダウンを5回以上おこなうような運転を3人の運転者に実施してもらうことで行った。
ブレーキの応答性については、表に示すような評価視点で、5段階評価し各運転者が点数をつけ、3名の平均値の集計値として評価点とし、表に示した。
【0024】
実施例1では、エチレングリコール系ブレーキフルード(谷川油化興業(株)製、ポリエチレングリコールモノエーテルに加えアルコキシグリコールホウ酸エステルを併用したもの)100部に平均分子量2200、エチレンオキサイド36重量%のプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体1部を添加したブレーキフルード組成物を用いた。
上記評価方法で評価した結果を表に示す。
【0025】
なお、表中の「短時間運転」とは、5周の走行、「長時間運転」とは、50周の走行を示す。
【0026】
また「ABS」とは、急ブレーキあるいは低摩擦路でのブレーキ操作において、車輪のロックによる滑走発生を低減する装置である。
【0027】
[比較例1]
エチレングリコール系ブレーキフルード(ポリエチレングリコールモノエーテルに加えアルコキシグリコールホウ酸エステルを併用したもの)をそのまま用いた結果は表に示す。
【0028】
[比較例2]
平均分子量2200、エチレンオキサイド36重量%のプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体の使用量を6部とした他は実施例1と同様に評価した。結果は表に示す。
【0029】
[比較例3]
グリコール系ブレーキフルードとして、ホウ酸エステルを併用しないものを用い、平均分子量2200、エチレンオキサイド36重量%のプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体の添加量を0.1とした他は実施例1と同様に評価した。結果は表に示す。
【0030】
[比較例4]
平均分子量1100のプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体(エチレンオキサイド12重量%)1部を用いた他は実施例1と同様に評価した。結果は表に示す。
【0031】
[比較例5]
平均分子量5500のプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体(エチレンオキサイド43重量%)1部を用いた他は実施例1と同様に評価した。結果は表に示す。
【0032】
[実施例2]
平均分子量3500のトリス(ポリオキシプロピレン)グリセリルエーテルを1部、と実施例1で用いた市販のブレーキフルード100部からなるブレーキフルード組成物を用い同様に評価した結果を表に合わせて示す。
【0033】
[比較例6]
平均分子量が2000のポリエチレングリコールを用いた他は実施例1と同様とした。結果は表に示す。
【0034】
【表1】