(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ロープ寿命の診断方法及び診断装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20240620BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B66B5/02 C
B66B5/02 S
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2021077398
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西江 聡
(72)【発明者】
【氏名】西迫 竜一
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/75223(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/12518(WO,A1)
【文献】特開2012-66881(JP,A)
【文献】特開2008-24395(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/104715(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターのロープ寿命を診断するロープ寿命診断方法において、
磁気センサと気圧センサで通過階床数を計測し、
通過階数計数部で磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を各々カウントし、
異常診断部が磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を比較し、
異常診断部が比較した通過階床数が不一致であったとき、外部通報部が磁気センサと気圧センサの少なくとも一方が故障していることを通報するロープ寿命の診断方法。
【請求項2】
通過階数計測部は同じ時刻に磁気センサで計測した通過階床数のカウントと気圧センサで計測した通過階床数のカウントを開始し、
同じ時刻に磁気センサで計測した通過階床数のカウントと気圧センサで計測した通過階床数のカウントを終了し、
異常診断部は前記カウント期間の磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を比較する請求項1に記載のロープ寿命診断方法。
【請求項3】
前記異常診断部が通過階床数の不一致を検出したとき、磁気センサが各階付近の昇降路内壁面に設置されたマーカ磁石を検出する間隔が一定かどうかを判定し、
当該間隔が一定でないときは、前記磁気センサに異常が発生していると判定する、請求項1に記載のロープ寿命の診断方法。
【請求項4】
マーカ磁石を検出する間隔が一定であるとき、外部通報部は気圧センサの故障を通報し磁気センサによる通過階床数検出をする請求項3に記載のロープ寿命診断方法。
【請求項5】
エレベーターのロープ寿命を診断するロープ寿命診断装置において、
磁気センサと気圧センサで通過階床数を計測し、
通過階数計数部で磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を各々カウントし、
異常診断部が磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を比較し、
異常診断部が比較した通過階床数が不一致であったとき、外部通報部が磁気センサと気圧センサの少なくとも一方が故障していることを通報する、ロープ寿命の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのロープ寿命の診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターにおける乗りかごの移動距離や高度の計測には、様々な技術が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、かごの外側の上部に加速度計及び高度計を設けた構成を有し、加速度の大きさについて所定の閾値を設定し、その閾値の大きさを所定の時間より長く継続して超えた場合に、エレベーターの起動の回数に一回を加算する、エレベーターの起動回数計測装置であって、高度計が測定する高度に基づいてかごが停止している階床を判定するものが開示されている。また、特許文献1には、計測した起動回数は、エレベーターの主ロープの寿命の算出に用いられること、算出された寿命は、主ロープの交換時期の決定などに用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているエレベーターの起動回数計測装置は、加速度計もしくは高度計の故障を検出することができないため、計測処理を継続してしまう。そのため、加速度計もしくは高度計が故障した場合、実際の起動回数と、計測した起動回数とに乖離が発生する点で改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、エレベーターの起動回数及び乗りかごの通過階床数の計数処理の信頼性を向上させるとともに、階床検出の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、磁気センサと気圧センサで通過階床数を計測し、通過階数計数部で磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を各々カウントし、異常診断部が磁気センサで計測した通過階床数と気圧センサで計測した通過階床数を比較し、異常診断部が比較した通過階床数が不一致であったとき、外部通報部が磁気センサと気圧センサの少なくとも一方が故障していることを通報する、ロープ寿命の診断方法で解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エレベーターの起動回数及び乗りかごの通過階床数の計数処理の信頼性を向上させるとともに、階床検出の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るエレベーターの診断システムを示す全体構成図である。
【
図2】
図1の診断装置における起動回数及び通過回数の計数処理を示すフローチャートである。
【
図3】エレベーターが移動している状態であって気圧センサおよび磁気センサが正常に機能している場合におけるかご速度、気圧センサの出力および磁気センサの出力の経時変化を示すグラフである。
【
図4】磁気センサの出力に異常が生じている場合におけるかご速度、気圧センサの出力および磁気センサの出力の経時変化を示すグラフである。
【
図5】気圧センサの出力に異常が生じている場合におけるかご速度、気圧センサの出力および磁気センサの出力の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、エレベーターの制御信号を使用せずに、エレベーターの運転状態を監視・診断する方法及び装置に関する。
【0011】
以下、図面を用いて、実施形態について説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係るエレベーターの診断システムを示す全体構成図である。
【0013】
本図に示すように、エレベーターは、乗りかご1と、乗り場ドア2と、を含む。乗りかご1は、昇降路内に設置され、図示していない主ロープ及び巻上機により昇降する。乗りかご1には、図示していないかごドアが設けられている。
【0014】
乗り場ドア2は、各階に設置されている。乗り場ドア2は、乗りかご1が各階に停止した際にかごドアと連動して開閉する。
【0015】
本図においては、各階の乗り場ドア2の上方であって昇降路側の壁面にマーカー磁石3が設置されている。また、乗りかご1の上部には、診断装置4が設置されている。診断装置4は、乗りかご1の運転状態等を計測し診断する機能を有するコンピュータ装置である。
【0016】
マーカー磁石3と診断装置4とは、各階に乗りかご1が到着した状態で、接近する位置に設置されている。
【0017】
診断装置4は、磁気センサ5と、加速度センサ6と、気圧センサ7と、I/F回路8(インターフェイス回路)と、起動回数計数部9と、通過階床計数部10と、階床検出部11と、初期状態記憶部12と、異常診断部13と、外部通報部14(外部通知部)と、を有する。起動回数計数部9、通過階床計数部10、階床検出部11、異常診断部13及び外部通報部14は、コンピュータ装置に内蔵された演算ユニットである。起動回数計数部9、通過階床計数部10、階床検出部11、異常診断部13及び外部通報部14は、それぞれがいくつかの演算ユニットに分かれて設置されていてもよいし、1つの中央演算ユニット(CPU:Central Processing Unit)に含まれるものであってもよい。初期状態記憶部12は、コンピュータ装置のメモリの1つである。
【0018】
磁気センサ5は、各階に設置されたマーカー磁石3による磁界を検出するものである。加速度センサ6は、乗りかご1の走行状態(加速度)を検出するものである。加速度センサ6により検出された加速度は、1階積分することにより、かご速度が算出できる。また、当該加速度を2階積分することにより、乗りかご1の移動距離が算出できる。気圧センサ7は、乗りかご1のかご位置(高度)を検出するものである。
【0019】
I/F回路8は、磁気センサ5、加速度センサ6及び気圧センサ7の出力信号を受信し、各機器に送信するものである。起動回数計数部9は、I/F回路8を介して受信した各センサの出力信号をもとに起動回数を計数する。通過階床計数部10は、各センサの出力信号をもとに通過回数を計数する。階床検出部11は、各センサからの出力信号をもとに乗りかご1の現在階を推定する。
【0020】
初期状態記憶部12は、磁気センサ5の出力信号をもとに、各階に設置されたマーカー磁石3の検出間隔を測定し、記憶する。異常診断部13は、通過階床計数部10および初期状態記憶部12のデータをもとに、磁気センサ5および気圧センサ7の診断を行う。外部通報部14は、異常診断部13による診断結果を、図示していない管制センターに対して通報する。これにより、専門技術者に通知することができ、専門技術者による是正作業を実施させることができる。
【0021】
なお、階ごとに異なる形状等を有するマーカー磁石3を設置すれば、磁気センサ5により検出される磁界の違いから、磁気センサ5が通過した階を特定することができる。
【0022】
図2は、
図1の診断装置における起動回数及び通過回数の計数処理を示すフローチャートである。
【0023】
本図に示す計数処理は、乗りかご1の出発を検出するたびに実行される。乗りかご1の出発は、加速度センサ6の出力信号をもとに、起動回数計数部9にて検出する。
【0024】
起動回数計数部9は、I/F回路8を介して取得した加速度センサ6の出力信号をもとに乗りかご1の出発を検出する。そして、階床検出部11にて検出した乗りかご1の現在階を、出発階として記憶する(S001)。
【0025】
起動回数計数部9は、起動回数の計数を階床別に記憶しており、工程S001にて記憶した出発階における起動回数に1を加算する(S002)。
【0026】
起動回数計数部9は、乗りかご1の出発を検出すると、乗りかご1の出発信号を通過階床計数部10に対して送信する。通過階床計数部10は、乗りかご1の出発信号を受信すると、各階の乗り場ドア2付近に設置されたマーカー磁石3の通過の検出を開始し、マーカー磁石3の通過した回数を磁気センサ5により検出した通過階床数として記憶する(S003)。
【0027】
また、通過階床計数部10は、各階に設置されたマーカー磁石3の検出間隔(時間)を計測し、記憶する(S004)。
【0028】
通過階床計数部10は、加速度センサ6の出力信号をもとに、乗りかご1の停止を検出するまで、工程S003およびS004の処理を実施する(S005)。
【0029】
乗りかご1の到着を検出した通過階床計数部10は、階床検出部11にて検出した乗りかご1の現在階と、工程S001にて記憶した出発階とから、その回の出発から停止に至る移動において通過した階床を計数し、気圧センサ7により検出した通過階床数として記憶する(S006)。
【0030】
なお、通過階床計数部10は、同じ時刻に磁気センサ5で計測した通過階床数のカウント(計数)と気圧センサ7で計測した通過階床数のカウント(計数)とを開始することが望ましい。また、同じ時刻に磁気センサ5で計測した通過階床数のカウントと気圧センサ7で計測した通過階床数のカウントを終了する。
【0031】
異常診断部13は、工程S003にて計測した磁気センサ5により検出した通過階床数と、工程S006にて計測した気圧センサ7により検出した通過階床数とを比較する(S007)。この場合に、異常診断部13は、同じ時刻に計数を開始し同じ時刻に計数を終了する間に検出された2つの通過階床数(磁気センサ5により検出された通過階床数及び気圧センサ7により検出された通過階床数)を比較することが望ましい。言い換えると、カウント期間における磁気センサ5で計測した通過階床数と気圧センサ7で計測した通過階床数とを比較する。
【0032】
磁気センサ5により検出した通過階床数と、気圧センサ7により検出した通過階床数とが不一致の場合、異常診断部13は、磁気センサ5の診断を実施する(S008)。
【0033】
工程S008において診断結果が異常である場合、磁気センサ5に異常が発生していると判定し、外部通報部14から管制センターに磁気センサ5の異常を通報する(S009)。具体的には、マーカー磁石3(
図1)が脱落している場合等が考えられる。
【0034】
通過階床計数部10は、工程S001にて記憶した出発階と、階床検出部11で検出した乗りかご1の現在階とから、各階の通過回数を計数する。通過回数の計数は、例えば乗りかご1が1階から5階まで走行した場合、1階から4階を通過したとして、1階から4階の通過回数に1を加算する(S010)。
【0035】
階床検出部11は、気圧センサ7の出力信号をもとにした階床検出処理を継続して実施する(S011)。
【0036】
工程S007にて、磁気センサ5により検出した通過階床数と、気圧センサ7により検出した通過階床数とが一致した場合は、磁気センサ5及び気圧センサ7ともに正常と判定し、工程S010及びS011の処理を実施する。
【0037】
工程S008にて、異常診断部13による診断の結果、磁気センサ5が正常である場合、気圧センサ7に異常が発生していると判定し、外部通報部14から管制センターに気圧センサ7の異常を通報する(S012)。
【0038】
通過階床計数部10は、工程S001にて記憶した出発階と、磁気センサ5により検出した通過階床数とから、乗りかご1の現在階を算出し、各階の通過回数を計数する(S013)。
【0039】
階床検出部11は、工程S013にて磁気センサ5により検出した通過階床数から算出した現在階を基準に、磁気センサ5により検出した通過階床数を使用した乗りかご1の現在階検出処理を継続する(S014)。この場合、以降の起動回数、通過回数および乗りかご1の階床検出には、磁気センサ5の出力信号を用いることができる。
【0040】
以上の工程により、起動回数、通過回数および乗りかご1の階床の計測精度を向上させることができる。
【0041】
以下、異常診断部13による診断処理について、
図3、
図4及び
図5を用いて説明する。
【0042】
図3は、エレベーターが移動している状態であって気圧センサおよび磁気センサが正常に機能している場合におけるかご速度、気圧センサの出力および磁気センサの出力の経時変化を示すグラフである。ここで、「正常に機能している」ことを「正常状態である」と表現してもよい。
【0043】
本図においては、乗りかご1(
図1)が1階から5階まで移動する際における乗りかご1のかご速度、気圧センサ7の出力及び磁気センサ5の出力を示している。
【0044】
気圧センサの出力は、階(高度)が上がるに従って低下する。一方、磁気センサ5の出力は、各階に設置されたマーカー磁石3に接近するたびに、出力が大きくなる。
【0045】
初期状態記憶部12(
図1)は、磁気センサ5および気圧センサ7が正常に機能している場合において、磁気センサ5により検出されるマーカー磁石3の間隔を初期状態(S1~S4)として記憶する。
【0046】
図4は、磁気センサの出力に異常が生じている場合におけるかご速度、気圧センサの出力および磁気センサの出力の経時変化を示すグラフである。
【0047】
本図においては、一例として、3階に設置されたマーカー磁石3(
図1)が脱落した状態で、乗りかご1が1階から5階まで移動した場合を示している。
【0048】
磁気センサ5は、3階に設置されているはずのマーカー磁石3を検出できないため、検出間隔T2が正常時と比較して増大する。異常診断部13は、直近の検出間隔(T1~T4)と、初期状態記憶部12に記憶されている検出間隔(S1~S4)とを比較し、検出間隔T2が初期状態S2と異なることをもって異常が生じていると判定する。なお、直近の検出間隔は、検出間隔についての最新のデータが望ましいが、これに限定されるものではなく、例えば数日前のデータであってもよい。
【0049】
磁気センサ5自体が故障した場合においても、検出間隔に影響が出るため、本処理で故障の検出は可能である。
【0050】
図5は、気圧センサの出力に異常が生じている場合におけるかご速度、気圧センサの出力および磁気センサの出力の経時変化を示すグラフである。
【0051】
本図においては、一例として、乗りかご1(
図1)が5階まで移動しても、気圧センサ7の出力が4階分の変化量となっている場合を示している。
【0052】
気圧センサ7が異常の状態で乗りかご1が移動した場合、気圧センサ7により検出した通過階床数と、磁気センサ5により検出した通過階床数とが一致しない。一方、磁気センサ5によるマーカー磁石3の検出間隔(T1~T4)は、初期状態(S1~S4)と一致している。このため、磁気センサ5およびマーカー磁石3は正常であると判定できる。この場合、異常診断部13は、気圧センサ7に異常が生じていると判定する。
【0053】
このように、磁気センサ5及び気圧センサ7のデータを組み合わせることにより、起動回数および通過回数の計数処理の信頼性を向上させるとともに、階床検出の精度を向上させることができる。
【0054】
また、通過回数は、ロープの屈曲回数に対応する値として計測され、ロープの寿命診断に活用される。
【符号の説明】
【0055】
1:乗りかご、2:乗り場ドア、3:マーカー磁石、4:診断装置、5:磁気センサ、6:加速度センサ、7:気圧センサ、8:I/F回路、9:起動回数計数部、10:通過階床計数部、11:階床検出部、12:初期状態記憶部、13:異常診断部、14:外部通報部。