(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】アミノ変性シリコーンオイル組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/08 20060101AFI20240620BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C08L83/08
C08L71/02
(21)【出願番号】P 2021143884
(22)【出願日】2021-09-03
(62)【分割の表示】P 2018191613の分割
【原出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-09-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
(72)【発明者】
【氏名】肥後 圭哉
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】北澤 健一
【審判官】近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199824(JP,A)
【文献】特表2015-510017(JP,A)
【文献】特表2008-528775(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003347(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108178985(CN,A)
【文献】特開2018-80244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L83/00-83/16
C08L71/00-71/14
C08K5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)により規定されるアミノ変性シリコーンオイルと、下記式(2)により規定されるゲル化時間調整添加剤と、を含有するアミノ変性シリコーンオイル組成物の製造方法であって、
アミノ変性シリコーンオイルの用途に応じて、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびアミノ変性シリコーンオイルの種類を選択する工程(AA)と、
アミノ変性シリコーンオイルの用途から決まる、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率が、それぞれの適正値または適正数値範囲である場合において、当該アミノ変性シリコーンオイルのゲル化時間が、当該アミノ変性シリコーンオイルの用途で要求される要求ゲル化時間と異なる場合に、当該ゲル化時間が当該要求ゲル化時間となるように、または近づくように、前記ゲル化時間調整添加剤のポリオキシアルキレンユニットの付加モル数を決定する工程(BB)と、
前記工程(BB)で決定された前記ゲル化時間調整添加剤を、前記工程(AA)で選択されたアミノ変性シリコーンオイルに添加する工程(CC)と、
を含む、
アミノ変性シリコーンオイル組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
6は、同一もしくは異なる炭素数1~14の1価の飽和または不飽和炭化水素官能基、水酸基、窒素含有基、硫黄含有基、水素のいずれかである。p、qはともに1以上の任意の整数を満たす。)
(化2)
R
7(-(O-R
8-)
r-OH)
s (2)
(式(2)中、R
7は、1~3価の飽和または不飽和炭化水素官能基であって、炭素数が3~60であり、R
8は、2価の炭化水素であって、炭素数が2~4である。rは、3~200の整数であり、sは、1~3の整数である。)
【請求項2】
前記ゲル化時間調整添加剤と前記アミノ変性シリコーンオイルとの質量比は、
10/10~99質量部である、
請求項
1に記載のアミノ変性シリコーンオイル組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アミノ変性シリコーンオイルの用途は、160~300℃での使用である、
請求項
1または
2に記載のアミノ変性シリコーンオイル組成物の製造方法。
【請求項4】
前記アミノ変性シリコーンオイルが、200℃におけるゲル化時間が325分未満、または250℃におけるゲル化時間が140分未満である場合に、前記ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が7以上であるゲル化時間調整添加剤が決定される、
請求項
1から
3のいずれか1項に記載のアミノ変性シリコーンオイル組成物の製造方法。
【請求項5】
前記アミノ変性シリコーンオイルは、200℃におけるゲル化時間が100分より長い、または、250℃におけるゲル化時間が30分より長い場合に、前記ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が7以上であるゲル化時間調整添加剤が決定される、
請求項
1から
3のいずれか1項に記載のシリコーンオイル組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンオイル組成物、ゲル化時間調整添加剤、シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法に関し、より詳細には、シリコーンオイルに対する制約なしに、高温条件でのゲル化を促進、抑制するようにゲル化時間を効率的に調整されたシリコーンオイルまたはシリコーンオイル組成物、ならびにその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンオイルは、一般的に無色透明の液体で、鉱油、植物油などの有機系オイルと比較して、耐熱性、耐寒性に優れており化学的に不活性であり、温度による粘度の変化が少なく、表面張力が小さいので、電気特性、離型性、撥水性、消泡性、潤滑性などに優れた特徴を発揮しており、電気・機械・化学工業などの分野で幅広く使用されている。
この点において、シリコーンオイルは使用環境が高温、低温の場合に、温度による粘度の変化が少ないのが技術的に優位な点であるが、例えばその温度が、160~300℃にまで高温に至ると、増粘が進み、ゲル化する。上記の工業分野において、160~300℃のような高温下でシリコーンオイルを使用する場合、このゲル化が、シリコーンオイルに求められる機能の観点から、促進される方向にも、抑制される方向にも、操作できるよう、ゲル化の時間を調整できることが理想とされてきた。
【0003】
この点、特許文献1において、シリコーンオイルを繊維用途に利用する場合においては、高温下におけるゲル化抑制に着目されている。
より詳細には、炭素繊維製造用にアクリル繊維を前駆体繊維として使用し、耐炎化及び焼成の各処理を経ることにより、高性能な炭素繊維を製造する際、160~300℃程度の耐炎化処理時に、単繊維同士の融着を防止するために、フィラメントを耐熱性に優れたシリコーン油剤で被覆することが行われるところ、特に、熱架橋性の高いアミノ変性シリコーン油剤を用いる際には、繊維上または乾燥ローラー上で皮膜化または粘着剤化しやすいことから、アミノ変性シリコーンと、界面活性剤と、1級アミノ基とオキシアルキレン基とを有する化合物と、を併用することで、繊維に対する浸透性を向上する一方、アミノ変性シリコーンのゲル化の抑制が可能であると記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1には、以下の技術的課題が存する。
第1に、特徴の成分である1級アミノ基とオキシアルキレン基とを有する化合物により、経時的にシリコーン量低減が引き起こされる点である。これにより、アミノ変性シリコーン油剤が本来果たすべき機能が経時的に損なわれる。
第2に、シリコーン油剤がアミノ変性に限られる点である。より詳細には、1級アミノ基とオキシアルキレン基とを有する化合物は、界面活性剤の存在下、熱架橋性の高いアミノ変性シリコーン油剤に対して、ゲル化を抑制することが可能であり、非反応性シリコーン油剤に対して、同様なことが可能であるとの記載はない。
第3に、1級アミノ基とオキシアルキレン基とを有する化合物は、界面活性剤のもとでのみゲル化の抑制を果たすに過ぎず、乳化を必要としない用途においても界面活性剤が必要となる点である。これはシリコーン油剤中の成分数を増加させるため、シリコーンオイル油剤の品質不安定化や油剤の製造コストの増加を伴う場合がある。
第4に、1級アミノ基とオキシアルキレン基とを有する化合物によりゲル化の抑制は達成されるが、アミノ変性シリコーン油剤の加熱によるゲル化時間は調整できない点である。
【0005】
この点、特許文献2では、シリコーンオイルを付着する繊維束について開示する。詳細には、界面活性剤を例とする非シリコーン系油剤のシリコーン系油剤に対する割合を減らすことにより、高温下での熱分解残渣に起因する繊維間の熱融着を抑制する点について開示する。しかし、高温下における油剤のゲル化、ましてやゲル化時間に直接注目するものでない。
【0006】
この点、特許文献3では、特許文献2同様の効果を目的として、シリコーンオイルの粘度を制限するエマルジョン組成物について開示する。しかし、特許文献3は、高温下におけるゲル化時間に直接注目するものでない。
【0007】
なお、特許文献3において、乳化機能を発揮するポリオキシエチレンアルキルエーテルについては、用途に伴うその他の効果を奏するものであって、高温下におけるゲル化時間に効果を奏する点については、なんらの言及もなされていない。
【0008】
【文献】WO2018/003347
【文献】特開2016-199824
【文献】特許第6017109号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、シリコーンオイル組成物、ゲル化時間調整添加剤、シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法に関し、より詳細には、シリコーンオイルに対する制約なしに、高温条件でのゲル化を促進、抑制するようにゲル化時間を調整したシリコーンオイル組成物、またはそのためのゲル化時間調整添加剤を提供することにある。
さらに本発明の課題は、シリコーンオイルに対する制約なしに、高温下において、シリコーンオイルの機能を発現するために重要な構造要因を優先的に決定し、さらにゲル化を促進、抑制するようゲル化時間を効率的に調整できるシリコーンオイルまたはシリコーンオイル組成物の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、特に160~300℃の高温下におけるシリコーンオイルのゲル化時間は、その高温下においてシリコーンオイルが果たすべき機能を左右するアミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因に大きく影響され、かつ、ポリオキシアルキレンユニットを含有する添加剤によって、変化することに着目した。そこで本発明において、シリコーンオイルに併用するゲル化時間調整添加剤のポリオキシアルキレンユニットの付加モル数にしたがってゲル化時間を調整し、それがシリコーンオイルの機能を発現するために重要な構造要因を優先的に決定したうえで行えることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明において提供される組成物は、下記式(1)により規定されるシリコーンオイルと、下記式(2)により規定されるゲル化時間調整添加剤とを有するシリコーンオイル組成物であって、ゲル化時間調整添加剤は、シリコーンオイル、およびシリコーンオイルの所定加熱温度下における要求ゲル化時間に応じて、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が調整されている、ことを特徴とするシリコーンオイル組成物である。
なお要求ゲル化時間とは、シリコーンオイルの使用環境において、シリコーンオイルまたはシリコーンオイル組成物が有することになる温度におけるゲル化時間をいう。
【0012】
【0013】
式(1)中、R1~R6は、同一もしくは異なる炭素数1~14の1価の飽和または不飽和炭化水素官能基、水酸基、窒素含有基、硫黄含有基、水素のいずれかである。p、qはともに1以上の任意の整数を満たす。
【0014】
(化2)
R7(-(O-R8-)r-OH)s (2)
【0015】
式(2)中、R7は、1~3価の飽和または不飽和炭化水素官能基であって、炭素数が3~60 であり、R8 は、2価の炭化水素基であって、炭素数が2~4である。rは、3~200の整数であり、sは、1~3の整数である。
【0016】
すなわち本発明のゲル化時間調整添加剤は、シリコーンオイルに添加される、下記式(2)により規定されるゲル化時間調整添加剤であって、シリコーンオイル、およびシリコーンオイルの所定加熱温度下における要求ゲル化時間に応じて、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が調整されている、ことを特徴とするゲル化時間調整添加剤である。
【0017】
(化2)
R7(-(O-R8-)r-OH)s (2)
【0018】
式(2)中、R7は、1~3価の飽和または不飽和炭化水素官能基であって、炭素数が3~60 であり、R8 は、2価の炭化水素基であって、炭素数が2~4である。rは、3~200の整数であり、sは、1~3の整数である。
【0019】
すなわち本発明のシリコーンオイルの設計方法は、
シリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびシリコーンオイルの種類を選択する段階と、
要求加熱温度の下で、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とゲル化時間との間の近似式を求める段階と、
要求加熱温度の下で近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階と、
残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合に、上記近似式を用いて、前記段階を繰り返す段階と、
を有することを特徴とする、ゲル化時間が調整されたシリコーンオイルの設計方法である。
【0020】
すなわち本発明のシリコーンオイル組成物の設計方法は、
シリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびシリコーンオイルの種類を選択する段階と、
要求加熱温度の下で、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とゲル化時間との間の近似式を求める段階と、
要求加熱温度の下で求めた近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階と、
残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合に、上記近似式を用いて、前記段階を繰り返す段階と、
要求加熱温度における要求ゲル化時間に応じてポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が調整されているゲル化時間調整添加剤を添加する段階と、
を有することを特徴とする、ゲル化時間が調整されたシリコーンオイル組成物の設計方法である。
【発明の作用】
【0021】
本発明によれば、反応型、非反応型シリコーンオイルに関わらず、シリコーンオイルの用途に応じたシリコーンオイルの所定加熱温度下における要求ゲル化時間のもとで、シリコーンオイルのゲル化時間を、ゲル化時間調整添加剤のポリオキシアルキレンユニットの付加モル数により調整することにより、シリコーンオイルに対する制約なしに、高温下において、ゲル化を促進、抑制できるシリコーンオイル組成物、またはそのためのゲル化時間調整添加剤を提供できる。
本発明によれば、下記式(1)に規定されるシリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびシリコーンオイルの種類を選択する段階と、
要求加熱温度の下で、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とゲル化時間との間の近似式を求める段階と、
要求加熱温度の下で求めた近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階と、
残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合に、上記近似式を用いて、前記段階を繰り返す段階と、
を有することを特徴とする、ゲル化時間が調整されたシリコーンオイルの設計方法、または、
シリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびシリコーンオイルの種類を選択する段階と、
要求加熱温度の下で、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とゲル化時間との間の近似式を求める段階と、
要求加熱温度の下で求めた近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階と、
残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合に、上記近似式を用いて、前記段階を繰り返す段階と、
要求加熱温度における要求ゲル化時間に応じてポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が調整されているゲル化時間調整添加剤を添加する段階と、
を有することを特徴とする、ゲル化時間が調整されたシリコーンオイル組成物の設計方法により、シリコーンオイルに対する制約なしに、高温下において、シリコーンオイルの機能を発現するために重要な構造要因を優先的に決定し、さらにゲル化を促進、抑制するようゲル化時間を効率的に調整できるシリコーンオイル、またはシリコーンオイル組成物の設計方法を提供できる。
【0022】
【0023】
式(1)中、R1~R6は、同一もしくは異なる炭素数1~14の1価の飽和または不飽和炭化水素官能基、水酸基、窒素含有基、硫黄含有基、水素のいずれかである。p、qはともに1以上の任意の整数を満たす。
【0024】
(化2)
R7(-(O-R8-)r-OH)s (2)
【0025】
式(2)中、R7は、1~3価の飽和または不飽和炭化水素官能基であって、炭素数が3~60 であり、R8 は、2価の炭化水素基であって、炭素数が2~4である。rは、3~200の整数であり、sは、1~3の整数である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明は、ゲル化時間を調整されたシリコーンオイル組成物と、ゲル化時間調整添加剤、シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法に関する。本発明の組成物を構成する各成分と、シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法とについて、以下に説明する。
【0027】
本発明の組成物は、上記式(1)によりあらわされるシリコーンオイルを含有することを特徴とする。
【0028】
上記式(1)中、R1~R6が窒素含有基である場合、その窒素含有基は具体的に下記の一般式(3)で示すことができる。
【0029】
【0030】
式(3)中、R9~R10は炭素数1~5の飽和炭化水素基であり、R11~R12は水素または炭素数1~10の飽和炭化水素基であって直鎖状又は分岐状又は環状である。tは0か1のどちらかを満たす整数であるが、組成物の製造の観点から1であることが好ましい。この条件を満たす官能基には例えば、-CH2-CH2-CH2-NH(CH3)、-CH2-CH2-CH2-N(CH3)2、-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2、-CH2-CH2-CH2-NH(CH3)、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-N(CH3)2、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH(CH2CH3)、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-N(CH2CH3)2、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH(cyclo-C6H11)、等が挙げられる。
【0031】
本発明におけるゲル化時間調整添加剤は、本発明の組成物において、シリコーンオイルのゲル化時間を調整する役割を果たす。その構造式は上記式(2)で表される。
【0032】
式(2)中、R7は1~3価の飽和または不飽和の炭化水素官能基であって、炭素数3~60であり、内部に分岐の構造があっても、エステル結合、エーテル結合、水酸基があってもよく、具体的に、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等のアルコキシ基、オレート基、水添もしくは非水添ひまし油等の水酸基を有する脂肪酸エステル基が挙げられる。
【0033】
式(2)中、R8は、2価の炭化水素基であって、炭素数が2~4のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。
【0034】
式(2)中、pは3~200の整数を満たし、qは1~3の整数を満たす。pが3以上かつ200以下であると、160~300℃の高温下においてゲル化時間調整添加剤の揮散が抑えられ、シリコーンオイル組成物のゲル化時間に対する調整機能を引き出すことができる。
【0035】
上記式(2)を満たすような化合物としては、種々のポリオキシアルキレンユニットを含む有機化合物が挙げられ、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等の脂肪族アルコールのポリオキシアルキレン付加物、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(水添)ひまし油等が挙げられる。
【0036】
上記式(1)により規定されるシリコーンオイルの設計方法が、
シリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびシリコーンオイルの種類を選択する段階と、
要求加熱温度の下で、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とゲル化時間との間の近似式を求める段階と、
要求加熱温度の下で求めた近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階と、
残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合に、上記近似式を用いて、前記段階を繰り返す段階と、
を有することを特徴とする、ゲル化時間が調整されたシリコーンオイルの設計方法である。
【0037】
上記式(1)により規定されるシリコーンオイルと、上記式(2)により規定されるゲル化時間調整添加剤と、を含有するシリコーンオイル組成物の設計方法が、
シリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、要求ゲル化時間、およびシリコーンオイルの種類を選択する段階と、
要求加熱温度の下で、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とゲル化時間との間の近似式を求める段階と、
要求加熱温度の下で求めた近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階と、
残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合に、上記近似式を用いて、前記段階を繰り返す段階と、
要求加熱温度における要求ゲル化時間に応じてポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が調整されているゲル化時間調整添加剤を添加する段階と、
を有することを特徴とする、ゲル化時間が調整されたシリコーンオイル組成物の設計方法である。
【0038】
上記シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法は、途中までは互いに同様の段階を踏むことを特徴としているが、一方で、シリコーンオイルの3つの構造要因と、ゲル化時間と、を最適化するために、最終的にゲル化時間調整添加剤を使用しなくてもよい場合と、使用する必要がある場合とに分けられるという相違点が存する。そこで初めに、シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法で、共通している段階について以下に記載する。
上記シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法の上記の各段階は、順序を問わないが、要求される機能、使用環境に鑑み、最も好ましくは以下のような設計方法を例示できる。
【0039】
シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計において、初めの段階では、シリコーンオイルの用途から、要求加熱温度、および要求ゲル化時間に応じて、シリコーンオイルの種類を選択することが好ましい。ここでは、160~300℃の高温下においてシリコーンオイルを使用するような用途において、上記温度範囲内で具体的な加熱温度を決定し、さらにシリコーンオイルの要求ゲル化時間を決定することが前提となる。これらを決めたうえで、使用すべきシリコーンオイルを決定する。
例えば、160~300℃の高温下でのシリコーンオイルの用途において、然るべき加熱温度とゲル化時間が決まり、その上でシリコーンオイルに求められる機能の観点から、必ずアミノ変性基を有しているシリコーンオイルを使用したい場合には、アミノ変性基を有するシリコーンオイルを、使用するシリコーンオイルの種類として特定する。
【0040】
次に近似式を求める段階に移ることが好ましい。この段階では、160~300℃の温度範囲内で加熱温度、および使用するシリコーンオイルの種類が決定していることを前提とし、シリコーンオイルのアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率の3つを変数とした、近似式を導出する。
【0041】
その近似式は、シリコーンオイルのアミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の数値範囲に特に指定を受けず求めることができ、160~300℃の温度範囲内の、ある所定加熱温度下において、同系統の複数のシリコーンオイルから得られたゲル化時間の実測値と、アミノ当量、常温における粘度および両末端反応性官能基率の3つの構造要因とを利用して下記式(1)のような形の式として求められることを特徴とする。
【0042】
(式1)
G=α・Aa/(Bb・Cc) (1)
【0043】
式(1)中、Gはゲル化時間、Aはアミノ当量、Bは常温における粘度、Cは両末端反応性官能基率を指す。αはGの測定値によって決まる比例定数である。a、b、c、αは測定したゲル化時間が算出されるようにフィッティングするために必要な指数ならびに比例定数であり、シリコーンオイルの置かれる温度下において決まる実数であって、a≧0、b≧0、c≧0、α>0を満たす実数である。
【0044】
上記式(1)は、ゲル化時間と構造要因とに関する以下の現象を基に導出された近似式であることを特徴とする。
160~300℃の高温下においては、シリコーンオイルのゲル化時間は、そのシリコーンオイルが有するアミノ当量、常温における粘度、および両末端反応性官能基率に依存する現象が散見された。より詳細には、シリコーンオイルの有するアミノ当量が大きい、あるいは常温における粘度および/または両末端反応性官能基率が小さくなるにつれて、上記高温下におけるシリコーンオイルのゲル化時間が長くなっていくという現象が散見されていた。この事例に鑑みて、アミノ当量に対しては、それを底として指数が正である指数関数を、常温における粘度と両末端反応性官能基率とに対しては、それらを各々別に底として指数が負である指数関数を設定し、それら3つの指数関数の積を計算したところ、数種のシリコーンオイルに関して、各々に対応するゲル化時間の実測値が求まった。
この上記近似式(1)は、アミノ変性基を持たないシリコーンオイルである場合も求めることができるが、その場合、上記式(1)の右辺の項のAaは1とし、シリコーンオイルの常温における粘度、両末端反応性官能基率のみを用いて近似式を求める。ただし、アミノ変性基を持つシリコーンオイルと持たないシリコーンオイルでは、同一の所定加熱温度下であっても上記式(1)中のb、c、および比例定数αが異なる場合がある。
各種シリコーンオイルを上記温度範囲の高温下に配置したときのゲル化時間を測定すると、それらはゲル化時間が短い群と長い群に大別することができる。
【0045】
上記近似式(1)を求め、次は要求加熱温度の下で求めた近似式に基づき、シリコーンオイルに要求される機能から選択されるアミノ当量、常温における粘度、両末端反応性官能基率のいずれか2つから、残りの1つを決める段階に移ることが好ましい。この段階においては、最初の段階において決定していた要求ゲル化時間を上記近似式(1)に当てはめながら、3つに規定される構造要因のうち2つを当てはめ、残りの1つを決定する。最適とされる構造要因は、シリコーンオイルの用途によるが、数値範囲として設定されていることが多い。その場合は、その数値範囲内にある任意の値を近似式に当てはめていき、最後に決定した残りの1つの構造要因を決める。この残りの1つも数値範囲で規定されている場合には、その数値範囲に、最後に決定した構造要因があるかを確かめ、数値範囲で規定されていない場合(ある数値に規定されている場合)には、その数値と一致するかを確かめる。いずれの場合も、残り1つがシリコーンオイルに要求される機能を満たさない場合は、上記近似式を用いて、再び、2つの構造要因を適正な数値範囲内にある任意の数値を選び上記近似式(1)に当てはめ、残りの1つが適正値かを調べることを繰り返す段階に移る。
【0046】
上記段階を経て、残りの一つが、要求ゲル化時間を上記近似式(1)から求めようと繰り返し検討してもなお、シリコーンオイルの用途から決まる適正な数値範囲から外れてしまう、または適正値から外れてしまう場合には、それら構造要因すべてが適正の数値範囲ないしは適正値を満たすシリコーンオイルを選択する。そのシリコーンオイルの構造要因から上記近似式(1)によって得られるゲル化時間は、要求ゲル化時間から乖離するため、シリコーンオイル組成物として、ゲル化時間調整添加剤を使用する段階に移り、ゲル化時間を要求ゲル化時間に調整する段階に移る。
【0047】
すなわち、上記シリコーンオイル組成物の設計方法は、シリコーンオイルの構造要因を優先的に決め、シリコーンオイルを設計した結果、上記近似式(1)に当てはめ得られたゲル化時間が、要求ゲル化時間から乖離した場合に実施すべき設計方法である。この設計方法によって、すべて構造要因を最適にするとゲル化時間が要求ゲル化時間から乖離してしまう場合でも、ゲル化時間調整添加剤のポリオキシアルキレンユニットの付加モル数によってゲル化時間のみを調整できるため、優先的に決めた構造要因を最適にしつつも、ゲル化時間を要求ゲル化時間へ調整することができるようになる。
シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計方法における各段階は、その順序を問わずに行うことができる。また、ゲル化時間調整添加剤を設計する段階は、シリコーンオイルの設計を同時に行ってもよいし、逐次的に行っても構わない。ただし、例示した設計方法によれば、シリコーンオイルに対する制約なしに、高温下において、シリコーンオイルの機能を発現するために重要な構造要因を優先的に決定でき、さらにゲル化を促進、抑制するようゲル化時間を効率的に調整できる。なぜなら、本発明で提供するゲル化時間調整添加剤はゲル化時間のみに作用し、シリコーンオイルの機能発現に与える影響は無視できることが多いためである。
なお、上記例示で示した近似式(1)は、シリコーンオイルの設計段階を効率的に行うために、有用な関係式であることを本発明において見出した。
【0048】
シリコーンオイル組成物の設計方法において選択されるゲル化時間調整添加剤は、その添加剤の有するポリオキシアルキレンユニットの付加モル数に対してシリコーンオイルが示す、下記の傾向に基づいて選択される。
160~300℃の高温下におけるシリコーンオイル組成物のゲル化時間に与えるゲル化時間調整添加剤の有するポリオキシアルキレンユニットの付加モル数の影響は、シリコーンオイル単独でのゲル化時間によって異なる2通りの挙動を示す。すなわち、所定加熱温度でのゲル化時間が短い群に属するシリコーンオイルでは、ゲル化時間調整添加剤の有するポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が小さい場合には、シリコーンオイル組成物のゲル化時間は、シリコーンオイルに対するゲル化時間よりも長くなり、その変化量がユニットの付加モル数が小さくなるにつれ大きくなっていく傾向にある。逆にゲル化時間調整添加剤の有するポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が大きい場合には、シリコーンオイル組成物のゲル化時間は、シリコーンオイルに対するゲル化時間よりも短くなり、その変化量がユニットの付加モル数が大きくなるにつれ大きくなっていく傾向にある。一方、所定加熱温度でのゲル化時間が長い群に属するシリコーンオイルでは、ゲル化時間調整添加剤の有するポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が小さい場合にはシリコーンオイル組成物のゲル化時間は、シリコーンオイルに対するゲル化時間よりも短くなり、その変化量はユニットの付加モル数が小さくなるにつれ大きくなっていく傾向にある。逆にゲル化時間調整添加剤の有するポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が大きい場合には、シリコーンオイル組成物のゲル化時間は、シリコーンオイルに対するゲル化時間よりも長くなり、その変化量はユニットの付加モル数が大きくなるにつれ大きくなっていく傾向にある。
従って、ゲル化時間調整添加剤の選択は、適正とされる構造要因を満たすシリコーンオイルにおいて、上記近似式によって得られるゲル化時間と、要求ゲル化時間との比較を前提とし、例えばゲル化時間調整添加剤のポリオキシアルキレンの付加モル数とゲル化時間との関係に基づく下記の指針にしたがって行われる。
【0049】
所定加熱温度下でのゲル化時間が短い群に属するシリコーンオイルである場合、160~300℃の高温下におけるシリコーンオイルのゲル化時間の近似式によって得られるゲル化時間が要求ゲル化時間より短いならば、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が小さいゲル化時間調整添加剤を選択し、近似式によって得られるゲル化時間が要求ゲル化時間より長いならば、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が大きいゲル化時間調整添加剤を選択する。いずれの場合も、近似式によって得られるゲル化時間が要求ゲル化時間から大きく乖離する場合には、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が3~200の下限あるいは上限に近いゲル化時間調整添加剤を選択し、そうでない場合には、ポリオキシアルキレンンユニットの付加モル数が前記範囲の中間に近いゲル化時間調整添加剤を選択するという指針によって、シリコーンオイルの要求ゲル化時間に応じたゲル化時間調整添加剤の選択がなされる。
一方、所定加熱温度下でのゲル化時間が長い群に属するシリコーンオイルである場合、160~300℃の高温下におけるシリコーンオイルのゲル化時間の近似式によって得られるゲル化時間が要求ゲル化時間より短いならば、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が大きいゲル化時間調整添加剤を選択し、近似式によって得られるゲル化時間が要求ゲル化時間より長いならば、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が小さいゲル化時間調整添加剤を選択する。いずれの場合も、近似式によって得られるゲル化時間が要求ゲル化時間から大きく乖離する場合には、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が前記範囲の下限あるいは上限に近いゲル化時間調整添加剤を選択し、そうでない場合にはポリオキシアルキレンンユニットの付加モル数が前記範囲の中間に近いゲル化時間調整添加剤を選択するという指針によって、シリコーンオイルの要求ゲル化時間に応じたゲル化時間調整添加剤の選択がなされる。
【0050】
上記指針によってポリオキシアルキレンユニットの付加モル数を調整したゲル化時間調整添加剤をシリコーンオイルに添加する際、その添加剤は添加剤/シリコーンオイル=10/10~99質量部添加されていることが好ましく、10/10~90質量部添加されていることがより好ましい。添加剤/シリコーンオイルの質量比がこの範囲に含まれない場合、ゲル化時間を調整するというゲル化時間調整添加剤としての効果が発揮されない。
【0051】
上記方法により設計されるシリコーンオイル組成物は、ゲル化時間調整添加剤がシリコーンオイルに直接添加される場合と、水中に乳化した水中油型エマルジョンとする場合とに分けられる。
エマルジョンの場合、ゲル化時間調整添加剤は界面活性剤である必要があり、エマルジョン100質量部中に、ゲル化時間調整添加剤が1~10質量部、シリコーンオイルが10~50質量部含有されていることが好ましい。各々がこの質量部範囲を満たさない場合、エマルジョンとして高い乳化安定性を保つことができない。
またこのとき、各々を乳化・分散させる方法については特に限定されず、公知の手法を採用することが可能である。その手法としては、例えば、エマルジョンを構成する各成分を混合し、ホモジナイザー、ホモミキサーなどを用いて機械せん断力を与える環境下で、水を徐々に投入し、転相乳化する方法などが挙げられる。
【0052】
本発明のシリコーンオイル組成物は、本発明の趣旨に反しない限り、他の化合物を添加することができる。他の化合物としては、酸性リン酸エステル、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系、キノン系等の酸化防止剤;高級アルコール、スルホン酸塩、アミン塩型カチオン系界面活性剤等の制電剤;防腐剤;高温でのアミノ基含有のシリコーンオイルの黄変を抑制することを目的とした無水酢酸化合物、などが挙げられる。
【0053】
また本発明のシリコーンオイル組成物は、ゲル化時間の短い群に属するシリコーンオイルと、長い群に属するシリコーンオイルとを混合する場合でない限りにおいて、アミノポリエーテル変性シリコーン、アマイド変性シリコーン、アマイドポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーンなどのシリコーンオイルを含んでもよく、1種類のシリコーンオイルを用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0054】
シリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物の設計時に決める構造要因およびゲル化時間の4つの要素のうち、特に重要視される要素を、シリコーンオイルの用途別に、以下に記載する。160~300℃の高温下でシリコーンオイルを使用する用途は、例えば、ゴム、プラスティック成形、アルミダイキャスト用途における離型剤や、高温および高摩擦状態にさらされる機械可動部の潤滑剤、熱媒、アラミド・ポリイミド繊維処理剤、炭素繊維処理剤等が挙げられ、各用途において、重要視される要素が異なる。また各々で最適とされる構造要因の数値範囲または数値も異なる。
【0055】
ゴム、プラスティック成形用途では、シリコーンオイルは100~250℃の温度範囲内において使用されることが通常であって、粘度が最も重要であり、350mm2/sから1000mm2/sが好ましい。350mm2/sより低い場合も1000mm2/sより高い場合も離型性が低下する。その次にはゲル化時間が重要であり、型に塗布したシリコーン組成物が加熱によって速やかにゲル化することで均質な離型効果を得ることができる。
【0056】
アルミダイキャスト用途では、シリコーンオイルは300℃の所定加熱温度下において使用されることが通常であって、粘度が最も重要であり、10000mm2/s付近が好ましい。粘度が低い場合はシリコーンオイルの分解による揮散が顕著であり、粘度が高い場合は乳化が困難であり、それぞれ十分な離型効果が得られづらい。ゲル化時間も注目されており、ここでは速やかにゲル化することで均質な離型効果を狙う場合と、長時間に渡って流動性を保たせることでゲルによる操業性低下を防止する場合とがあり、目的に応じて使い分けが行われている。
【0057】
アラミド、ポリイミド等の繊維処理用途では、シリコーンオイルは100~200℃の温度範囲内において使用されることが通常であって、アミノ当量が最も重要であり、高アミノ当量では繊維に高い柔軟性を付与することができるが経時での黄変が問題となる。低アミノ当量では柔軟性を付与できるとともに黄変が抑えられる。アミノ当量の次には両末端反応性官能基率が重要であり、両末端反応性官能基率が高いほど高い反発性と滑り性が得られるため、目的に応じて適正な両末端反応性官能基率を選択する。次にはゲル化時間が重要であり、ゲル化時間が速いと繊維に付与したシリコーン組成物の揮散が抑えられるため高品位の繊維を製造することができる。一方、ゲル化時間が遅いとローラーなどに転移したシリコーン組成物がゲル化することなく流動性を保つため、設備保護洗浄の頻度を少なく保ち生産性を上げることができる。粘度も重要であり、高い粘度であるほど滑り性が向上するため目的に応じて適正な粘度を選択する。
【0058】
炭素繊維処理用途では、シリコーンオイルは200~300℃の温度範囲内で使用されることが通常であって、アミノ当量が最も重要であり、炭素繊維へシリコーン組成物を強固に付着させるために700g/molから6000g/molの範囲が好ましい。次に粘度が重要であり、シリコーン組成物を炭素繊維上で均一に塗布するために50mm2/sから5000mm2/sが好ましい。次にゲル化時間が重要であり、ゲル化時間が速いと繊維に付与したシリコーン組成物の揮散が抑えられるため高品位の繊維を製造することができる。一方、ゲル化時間が遅いとローラーなどに転移したシリコーン組成物がゲル化することなく流動性を保つため、設備保護洗浄の頻度を少なく保ち生産性を上げることができる。このゲル化時間は、速い場合と遅い場合との各々の長所をバランスよく保つべく、シリコーン組成物の本来のゲル化時間から、ゲル化時間を長くする、すなわちゲル化を抑制するなどの技術が存していることが好ましい。より具体的には、シリコーンオイルの200~300℃付近の高温下でのゲル化を抑制することにより、ローラー等に転移したオイルが流動状態を保つ時間をより長くできるので、設備保護洗浄の頻度を少なく保ち生産性を上げることができるという例を挙げることができる。
【0059】
上記用途においては、各々シリコーンオイルの構造要因とゲル化時間の中で重きを置くべき要素が異なり、その優先すべき要因が各々、ある数値範囲に決められているが、上記近似式(1)が、その数値範囲のすべてにおいて適用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。また、すべての粘度の数値は特に記載のない限り、25℃での粘度である。実施例に用いた各成分、近似式の導出とゲル化時間の測定方法は以下の通りである。
各実施例、比較例における組成物の質量比、および評価結果は表1に示す。
【0061】
<構成成分の内容>
A-1:アミノ変性シリコーン、粘度5000mm2/s、アミノ当量7000g/mol、両末端反応性官能基率100%
A-2:アミノ変性シリコーン、粘度800mm2/s、アミノ当量5000g/mol、両末端反応性官能基率5%
A-3:ポリジメチルシロキサン、粘度6000mm2/s、両末端反応性官能基率100%
B-1:界面活性剤の構造を有し、炭素数13、ポリオキシアルキレンユニット6のゲル化時間調整添加剤
B-2:界面活性剤の構造を有し、炭素数16、ポリオキシアルキレンユニット25のゲル化時間調整添加剤
B-3:界面活性剤の構造を有し、炭素数57、ポリオキシアルキレンユニット200のゲル化時間調整添加剤
【0062】
<近似式の導出>
上記成分(A-1、2)を含む複数のアミノ変性シリコーンを用いることにより、上記近似式(1)のa、b、c、およびαを求めた。具体的に、下記のゲル化時間の測定方法を採用することで各成分のゲル化時間を測定し(ただし250℃の場合のみ)、その測定結果と各々の成分の常温における粘度、両末端反応性官能基率、アミノ当量から上記式(1)のa、b、c、およびαを求めた。
【0063】
<ゲル化時間の定義>
ゲル化時間は、シリコーンオイルが160~300℃の温度範囲のうち、特に200、250℃という高温下でのシリコーンオイルのタックフリータイムとみなした。
【0064】
<ゲル化時間の測定方法>
実施例ならびに比較例の各組成物を、200℃、250℃の各試験条件について、複数準備し、複数回試験を行うことにより、ゲル化時間を測定した。ゲル化時間の見極めはタックフリータイムを測定することにより行った。タックフリータイムは試料を金属製の棒に触れさせて、試料が付着しなくなる時間とした。
【0065】
<実施例1>
上記のA-1とB-1をA-1/B-1=1.8g/0.2gとなるよう、アルミ製カップ内でスパチュラ―を用いて混合し、シリコーンオイル組成物を作製した。これを200℃と250℃で静置し、経時的に棒で接触させることによりゲル化時間を測定した。
【0066】
<実施例2>
実施例2は上記の実施例1のB-1をB-2に変更したものである。
【0067】
<実施例3>
実施例3は上記の実施例1のB-1をB-3に変更したものである。
【0068】
<実施例4>
実施例4は上記の実施例1のA-1をA-2に変更したものである。
【0069】
<実施例5>
実施例5は上記の実施例4のB-1をB-2に変更したものである。
【0070】
<実施例6>
実施例6は上記の実施例4のB-1をB-3に変更したものである。
【0071】
<実施例7>
実施例7は上記の実施例1のA-1をA-3に変更したものである。
【0072】
<実施例8>
実施例8は上記の実施例7のB-1をB-2に変更したものである。
【0073】
<実施例9>
実施例9は上記の実施例7のB-1をB-3に変更したものである。
【0074】
<実施例10>
上記近似式(1)中に指定した変数は、250℃のときa=1、b=0.5、c=0.5、α=3を満たした。
ある用途において、250℃でアミノ変性シリコーンを使用する必要があり、その要求される機能の観点から粘度は5000mm2/s、両末端反応性官能基率は100%、ゲル化時間は250℃で30分である必要があった。
これを踏まえ、上記式(1)の近似式を用いて、残りの構造要因であるアミノ当量を求めたところ、6000g/molであった。このアミノ当量は、シリコーンオイルに期待されていた機能を発揮するに十分な数値範囲内であることが分かったため、あえてゲル化時間を調整する必要はなかった。
【0075】
<実施例11>
上記近似式(1)中に指定した変数は、250℃のときa=1、b=0.5、c=0.5、α=3を満たした。
250℃でアミノ変性シリコーンを使用する必要があり、要求される機能の観点から粘度は800mm2/s、両末端反応性官能基率は5%、アミノ当量が7000~8000g/mol、ゲル化時間は250℃で250分以下である必要があった。
これを踏まえ、上記式(1)の近似式を用いてアミノ当量の最適化を試みたところ、5000g/molであった。このアミノ当量は7000~8000g/molにないため、ゲル化時間調整添加剤を使用すべきと判断された。
そこで、上記3つの構造要因を満たすよう、アミノ当量7000g/molのアミノ変性シリコーンを再度選択し、要求ゲル化時間と、このシリコーンオイルから近似式(1)で得られるゲル化時間320分との差に鑑みて、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が25のゲル化時間調整添加剤をアミノ変性シリコーンオイル10質量部に対して8質量部添加したシリコーンオイル組成物を作製すると、その組成物のゲル化時間は要求ゲル化時間である225分に調整できた。
【0076】
<実施例12>
ある用途において、アミノ変性シリコーンを使用する必要があり、その要求される機能の観点からオイルA-2を使う必要があり、250℃でのゲル化時間は180分である必要がある。
成分(B)のゲル化時間調整のための添加剤として、B-1とB-2をA-2に対しそれぞれ3質量部、7質量部添加したところ、ゲル化時間は175分となった。
【0077】
<実施例13>
ある用途において、アミノ変性シリコーンを使用する必要があり、その要求される機能の観点からオイルA-2を使う必要があり、250℃でのオイルのゲル化時間は250分である必要がある。
成分(B)のゲル化時間調整のための添加剤として、B-2とB-3をA-2に対しそれぞれ7質量部、3質量部添加したところ、ゲル化時間は248分となった。
【0078】
<比較例1>
上記のA-1 2.0gをアルミ製カップ内で、200℃と250℃で加熱し、ゲル化時間を測定した。
【0079】
<比較例2>
比較例2は比較例1のA-1をA-2としたものである。
【0080】
<比較例3>
比較例3は比較例1のA-1をA-3としたものである。
【0081】
<比較例4>
ある用途において、250℃でアミノ変性シリコーンを使用する必要があり、その要求される機能の観点から粘度は5000mm2/s、両末端反応性官能基率は100%である必要がある。さらに、その用途においてオイルのゲル化時間は35分である必要がある。この用途においてはアミノ当量の最適値は分かっていなかった。
目的のオイルのゲル化時間に到達するには、アミノ当量を試行錯誤的に設定するしか方法がなかった。
【0082】
<比較例5>
ある用途において、250℃でアミノ変性シリコーンを使用する必要があり、その要求される機能の観点から粘度は800mm2/s、両末端反応性官能基率は5%である必要がある。さらに、その用途においてオイルのゲル化時間は225分である必要がある。
上記近似式(1)から得られたアミノ当量は5000g/molであったが、このアミノ当量は7000~9000g/molである必要があった。しかし、アミノ当量7000~9000g/mol、粘度800mm2/s、両末端反応性官能基率5%、という最適な構造要因を有するシリコーンオイルを選択し、上記近似式(1)を用いて数回、構造要因を、上記に規定された数値ないしは数値範囲内で検討しても、得られるゲル化時間は要求ゲル化時間に合わず、また、そのシリコーンオイルにゲル化時間調整添加剤を添加しなかったため、ゲル化時間を要求ゲル化時間へ調整するには、アミノ当量、粘度、および両末端反応性官能基率のいずれかを犠牲にするしか方法がなかった。
【0083】
【0084】
表1の実施例1~9から分かるように、シリコーンオイル単体で得られたゲル化時間は、それに併用するゲル化時間調整添加剤によって複数通りに変化させることができ、そのゲル化時間をゲル化時間調整添加剤のポリオキシアルキレンユニットの付加モル数によって、ゲル化の抑制方向にも、促進方向にも、複数通りに調整できるようなシリコーンオイル組成物を得ることができる。
これに対し、表1の比較例1~3から分かるように、界面活性剤の構造を有する場合を例としたゲル化時間調整添加剤を含有しない場合は、1通りのゲル化時間しか得られない。
【0085】
実施例1~9から分かるように、例えば、シリコーンオイルを250℃の高温下で使用するような用途において、シリコーンオイルが期待される機能の観点から成分(A-2)のような構造要因を有するシリコーンオイルを使用したい場合があったとする。このとき、その用途におけるシリコーンオイルの要求ゲル化時間が、シリコーンオイル単体において得られるゲル化時間の225分に近い場合には、成分(A-2)を単独で使用することが可能であるし、シリコーンオイル単独の場合に比して短いゲル化時間を要求する場合(例えば120分付近)には、ポリオキシアルキレンユニットの付加モル数が小さいゲル化時間調整添加剤である成分(B-1)を、長いゲル化時間を要求する場合(例えば340分付近)またはシリコーンオイル単独の場合に比してゲル化時間を数分程度変更させたい場合(例えば200分付近)には、実施例12に示されるように、各々成分(B-1、2)のゲル化時間調整添加剤を併用することで、ゲル化時間を調整できる。
【0086】
実施例10、11から分かるように、あるシリコーンオイルの用途において、要求ゲル化時間のもとで、シリコーンオイルに求められる機能から当てはめた2つの構造要因から、上記近似式(1)によって残り1つを決定した場合に、その残り1つが適正な数値範囲に当てはまればゲル化時間調整添加剤を使用しなくてもよいし、当てはまらないならゲル化時間調整添加剤を使用して、シリコーンオイルの構造要因を最適に維持したまま、ゲル化時間を要求ゲル化時間に調整するシリコーンオイルおよびシリコーンオイル組成物を設計することができる。しかし、比較例4、5から分かるように、上記近似式(1)およびゲル化時間調整添加剤のどちらか一方でも使用しないと、シリコーンオイルを効率的に設計できず、構造要因を最適にしつつゲル化時間が調整されたシリコーンオイル組成物を設計することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のシリコーンオイル組成物は、高温条件でのシリコーンオイルのゲル化を促進、抑制するようにゲル化時間を効率的に調整された組成物であるため、ゴム、プラスティック成形、アルミダイキャスト用途における離型剤、高温および高摩擦状態にさらされる機械可動部の潤滑剤、熱媒、アラミド・ポリイミド繊維処理剤、炭素繊維処理剤等、シリコーンオイルを高温下において使用する用途で好適に用いることができ、有用である。また、シリコーンオイルの高温下でのゲル化時間を調整することにより、従来存在していなかった産業上の新しい用途の展開ができる可能性がある。