(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】縦まくらぎの管理方法
(51)【国際特許分類】
E01B 37/00 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
E01B37/00 B
(21)【出願番号】P 2021165966
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勉
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134496(JP,A)
【文献】特開昭51-113752(JP,A)
【文献】特開2012-018057(JP,A)
【文献】特開2011-149227(JP,A)
【文献】国際公開第2008/068342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に伸びるレールと道床との間に配置され、前記第1方向に伸びる縦梁と、
前記第1方向に間隔を置いて配置され、前記レールを前記縦梁に締結する締結部と、
を有する縦まくらぎの管理方法であって、
前記縦梁の上面に装着した歪みゲージにより、鉄道車両が前記レールを走行するときの前記縦梁の歪みを測定し、
前記歪みゲージにより測定される歪みと前記縦梁に作用する曲げモーメントとの関係から、前記縦梁に作用する曲げモーメントを算出し、
前記縦梁の下方への撓みに対応する正曲げモーメントの大きさと前記縦梁の上方への撓みに対応する負曲げモーメントの大きさとの比率を算出し、
前記縦梁が前記道床から浮いた状態であると評価することができる前記比率の下限値を第1所定値としたとき、前記比率が
前記第1所定値以上の場合に、前記縦梁が前記道床から浮いた状態であると評価する、
縦まくらぎの管理方法。
【請求項2】
前記縦梁の上面における前記締結部の位置に前記歪みゲージを装着して、前記縦梁の歪みを測定する、
請求項1に記載の縦まくらぎの管理方法。
【請求項3】
前記縦梁の前記第1方向の端部における前記締結部の位置では、前記縦梁の歪みを測定しない、
請求項2に記載の縦まくらぎの管理方法。
【請求項4】
前記縦梁が前記道床から浮いた状態であると評価され、前記縦梁に作用する曲げモーメントが前記縦梁のひび割れ発生モーメント以上である場合に、前記縦梁のひび割れを調査し、
前記縦梁のPC鋼材に腐食や降伏が発生している可能性がある前記縦梁のひび割れの幅の下限値を第2所定値としたとき、前記縦梁のひび割れの幅が
前記第2所定値未満の場合に、
前記縦梁のPC鋼材に腐食や降伏が発生していないと判断し、前記道床の突き固めを行
って、前記縦梁が前記道床から浮いた状態を解消する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の縦まくらぎの管理方法。
【請求項5】
前記縦梁のひび割れを調査する前に前記道床の突き固めを行うべき、前記縦梁の終局曲げモーメントに対する前記縦梁に作用する曲げモーメントの割合の下限値を第1所定割合とし、
前記縦梁のひび割れを調査する前に前記道床の突き固めを行うべき、前記縦梁のPC鋼材の降伏曲げモーメントに対する前記縦梁に作用する曲げモーメントの割合の下限値を第2所定割合としたとき、
前記縦梁に作用する曲げモーメントが前記縦梁の終局曲げモーメントの
前記第1所定割合以上であるか、または前記縦梁に作用する曲げモーメントが前記縦梁のPC鋼材の降伏曲げモーメントの
前記第2所定割合以上である場合には、前記縦梁のひび割れを調査する前に、前記道床の突き固めを行う、
請求項4に記載の縦まくらぎの管理方法。
【請求項6】
前記縦まくらぎを交換すべき前記縦梁のひび割れの幅の下限値を第3所定値としたとき、前記縦梁のひび割れの幅が
前記第3所定値以上の場合に、前記縦まくらぎを交換する、
請求項5に記載の縦まくらぎの管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、縦まくらぎの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道の保守省力化等を目的として、縦まくらぎが実用化されている。縦まくらぎとは、プレストレストコンクリート(PC)製の長尺な縦梁をレールに沿って配置したまくらぎである。レールおよび縦まくらぎがバラスト道床により支持されて、バラスト軌道が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-053557号公報
【文献】特開2018-066146号公報
【文献】特開2014-234693号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】“コンクリートまくらぎの健全度の判定手引き<暫定版>”,公益財団法人 鉄道総合技術研究所 鉄道技術推進センター,平成27年6月,p28-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道車両がバラスト軌道を走行すると、レールを介して縦梁に曲げモーメントが作用する。バラスト道床による縦梁の支持が不十分な状態では、縦梁に大きな曲げモーメントが作用する。曲げモーメントの大きさに応じて、縦梁のひび割れが発生および拡大する可能性があり、適切な保守作業内容を決定する必要がある。縦まくらぎの支持状態の評価や保守作業内容の決定を適切に行うことが求められる。
【0006】
特許文献1から3には、軌道の支持剛性を評価する手法が提案されている。しかしながら、特許文献1から3の技術では、縦梁に作用する曲げモーメントを評価していない。具体的には、鉄道車両の通過時に縦梁に作用する曲げモーメントの大きさと、縦梁の設計限界値(デコンプレッションモーメント、コンクリートにひび割れが発生するモーメント、コンクリートの終局モーメント、PC鋼材の降伏モーメント等)との関係が不明である。その結果、縦まくらぎの適切な保守作業内容を決定することができない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、縦まくらぎの支持状態の評価や保守作業内容の決定を適切に行うことができる縦まくらぎの管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
縦まくらぎは、縦梁と、締結部と、を有する。縦梁は、第1方向に伸びるレールと道床との間に配置され、第1方向に伸びる。締結部は、第1方向に間隔を置いて配置され、レールを縦梁に締結する。
本発明の縦まくらぎの管理方法は、縦梁の上面に装着した歪みゲージにより、鉄道車両がレールを走行するときの縦梁の歪みを測定する。歪みゲージにより測定される歪みと縦梁に作用する曲げモーメントとの関係から、縦梁に作用する曲げモーメントを算出する。縦梁の下方への撓みに対応する正曲げモーメントの大きさと縦梁の上方への撓みに対応する負曲げモーメントの大きさとの比率を算出する。比率が第1所定値以上の場合に、縦梁が道床から浮いた状態であると評価する。
【0009】
縦梁に作用する曲げモーメントに基づいて縦まくらぎを管理する。正曲げモーメントの大きさと負曲げモーメントの大きさとの比率が第1所定値以上の場合には、縦梁が道床から浮いた状態であると評価できる。縦梁に作用する曲げモーメントの大きさを設計限界値と比較して、縦まくらぎの保守に必要な作業内容を決定できる。したがって、縦まくらぎの支持状態の評価や保守作業内容の決定を適切に行うことができる。
【0010】
縦梁の上面における締結部の位置に歪みゲージを装着して、縦梁の歪みを測定する。
締結部には大きな曲げモーメントが作用するので、縦梁に作用する曲げモーメントを適切に評価することができる。
【0011】
縦梁の第1方向の端部における締結部の位置では、縦梁の歪みを測定しない。
縦梁の第1方向の端部に作用する曲げモーメントは小さい。端部の歪みを測定しないことにより、縦梁に作用する曲げモーメントを適切に評価することができる。
【0012】
縦梁が道床から浮いた状態であると評価され、縦梁に作用する曲げモーメントが縦梁のひび割れ発生モーメント以上である場合に、縦梁のひび割れを調査する。縦梁のひび割れの幅が第2所定値未満の場合に、道床の突き固めを行う。
縦梁のひび割れの幅が第2所定値未満の場合には、縦梁のPC鋼材に腐食や降伏が発生していないと判定される。道床の突き固めを行うことにより、縦梁が道床から浮いた状態が解消される。
【0013】
縦梁に作用する曲げモーメントが縦梁の終局曲げモーメントの第1所定割合以上であるか、または縦梁に作用する曲げモーメントが縦梁のPC鋼材降伏曲げモーメントの第2所定割合以上である場合には、縦梁のひび割れを調査する前に、道床の突き固めを行う。
縦梁に作用する曲げモーメントが大きい場合には、直ちに道床の突き固めを行う。これにより、縦梁に作用する曲げモーメントが減少して、ひび割れの拡大が抑制される。
【0014】
縦梁のひび割れの幅が第3所定値以上の場合に、縦まくらぎを交換する。
縦梁のひび割れの幅が第3所定値以上の場合には、縦梁の鋼材に腐食や降伏が発生していると判定される。適切なタイミングで縦まくらぎを交換することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の縦まくらぎの管理方法は、縦梁に作用する曲げモーメントに基づいて縦まくらぎを管理する。これにより、縦まくらぎの支持状態の評価や保守作業内容の決定を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】縦まくらぎを使用したバラスト軌道の斜視図。
【
図3】縦まくらぎが一様支持状態での締結部における曲げモーメントのグラフ。
【
図4】縦まくらぎが第1不支持状態での締結部における曲げモーメントのグラフ。
【
図5】縦まくらぎが第2不支持状態での締結部における曲げモーメントのグラフ。
【
図6】縦まくらぎが第3不支持状態での締結部における曲げモーメントのグラフ。
【
図8】実施形態の縦まくらぎの管理方法のフローチャート。
【
図9】歪みと曲げモーメントとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態の縦まくらぎを、図面を参照して説明する。実施形態では、バラスト軌道用の縦まくらぎを例にして説明する。
図1は、縦まくらぎを使用したバラスト軌道の斜視図である。バラスト軌道1は、バラスト道床3の上に、縦まくらぎ10を敷設した軌道である。バラスト道床3は、土などの路盤の上にバラスト材料を敷いたものである。縦まくらぎ10は、レール5の直下に配置した、はしご状のまくらぎ(ラダーマクラギ)である。レール5は、締結装置6により縦まくらぎ10に固定される。
【0018】
本願において、直交座標系のZ方向、X方向およびY方向が以下のように定義される。Z方向は鉛直方向であり、+Z方向は上方向である。X方向(第1方向)は、レール5が伸びる方向である。Y方向は、Z方向およびX方向に直交する方向である。X方向およびY方向は、水平方向である。
【0019】
図2は、縦まくらぎの平面図である。縦まくらぎ10は、縦梁12と、端部閉合梁18と、継材14と、を有する。縦まくらぎ10は、一対の縦梁12a,12bを複数の継材14で剛結合することにより、はしご状に形成される。
【0020】
縦梁12は、X方向に伸びる。縦梁12は、プレストレストコンクリート(PC)により形成される。PCは、PC鋼材によりプレストレスを与えられたコンクリートである。一対の縦梁12a,12bが、Y方向に間隔を置いて平行に配置される。縦梁12の上面には、締結装置6(
図1参照)を取り付けるための取付穴16が形成される。取付穴16は、レール5(
図1参照)のY方向の両側に相当する位置に配置される。複数の取付穴16が、X方向に沿って等間隔で配置される。X方向における締結装置6および取付穴16の個数は、各図の例に限定されない。
【0021】
端部閉合梁18は、一対の縦梁12a,12bに跨って配置され、一対の縦梁12a,12bをY方向に連結する。端部閉合梁18の基本構造は鉄筋コンクリート構造である。ただし、端部閉合梁18のひび割れを防止するため、補助的にアンボンドPC鋼材によりプレストレス(ポストテンション式)が与えられている。一対の端部閉合梁18が、一対の縦梁12a,12bのX方向の両端部に配置される。端部閉合梁18は、バラストに対する縦まくらぎ10の受圧面積を増やして、縦梁12の端部の沈下を抑制する。
【0022】
継材14は、一対の縦梁12a,12bに跨って配置される。継材14のY方向の両端部は、一対の縦梁12a,12bの内部に埋め込まれる。複数(
図2の例では3本)の継材14が、X方向において一対の端部閉合梁18の間に配置される。複数の継材14が、X方向に等間隔に、平行に並んで配置される。
【0023】
図1のバラスト軌道1を鉄道車両が走行するとき、縦まくらぎ10の縦梁12に曲げモーメントが作用する。バラスト道床3による縦梁12の支持が不十分な状態では、縦梁12に大きな曲げモーメントが作用する。バラスト道床3による縦梁12の支持が不十分な状態とは、縦梁12の下方に十分な量のバラストが配置されずに、縦梁12の一部がバラスト道床3から浮いた状態である。縦梁12に大きな曲げモーメントが作用すると、縦梁12が破損する可能性がある。縦梁12の支持状態および縦梁12に作用する曲げモーメントを適切に評価することが求められる。
【0024】
本願の発明者は、縦まくらぎ10を使用したバラスト軌道を鉄道車両が通過するとき、縦梁12に作用する曲げモーメントの数値実験(シミュレーション)を行った。バラスト道床3による縦梁12の支持に対応して、縦梁12の下方にバネ要素を設定した。
図2において、取付穴16が形成される締結部A-Hにそれぞれ1個のバネ要素を設定し、隣り合う締結部の間に3個のバネ要素を設定した。数値実験は、縦梁12の支持状態を変化させて行った。縦梁12の全体が一様に支持された状態(一様支持状態)に加えて、
図2に示す第1-3区間α―γが不支持の状態(第1-3不支持状態)を設定した。第1区間αは、締結部EとFとの中間から、締結部FとGとの中間までの区間である。第2区間βは、締結部EからGまでの区間である。第3区間γは、締結部DとEとの中間から、締結部GとHとの中間までの区間である。第1-3区間α―γが不支持の状態での数値実験は、各区間におけるバネ要素を削除して行った。バラスト道床3の硬さ(地盤反力係数)に対応して、バネ要素のバネ定数を設定した。
【0025】
図3-6は、締結部A-Hにおける曲げモーメントのグラフである。
図3-6の横軸は、鉄道車両の走行に対応する時間である。
図3-6の縦軸において、正の曲げモーメント(「正曲げモーメント」または「正曲げ」と言う場合がある。)は、縦梁12が下方に撓む(下方に凸となる)変形を生じさせるモーメントである。負の曲げモーメント(「負曲げモーメント」または「負曲げ」と言う場合がある。)は、縦梁12が上方に撓む(上方に凸となる)変形を生じさせるモーメントである。
図3-6は、地盤反力係数K
30=70MN/m
3の場合である。
図3は一様支持状態である。
図4は第1不支持状態である。
図5は第2不支持状態である。
図6は第3不支持状態である。
【0026】
図3-6では、縦梁12の端部である締結部A,Hの曲げモーメントが小さい。縦梁12の端部では、その外側に縦梁12が存在しないため、曲げモーメントが小さくなると考えられる。
図3の一様支持状態では、端部の締結部A,Hを除いて、締結部B-Gの曲げモーメントが同等である。
【0027】
図4-6の第1-3不支持状態では、第1-3区間α-γに存在する締結部の正曲げモーメントが大きい。
図4の第1不支持状態では、第1区間αに存在する締結部Fの正曲げモーメントが、締結部B-E,Gに比べて大きい。
図5の第2不支持状態では、第2区間βの中央部に存在する締結部Fに加えて、第2区間βの端部に存在する締結部E,Gの正曲げモーメントが、締結部B-Dに比べて大きい。これに加えて、締結部Dでは、負曲げモーメントが大きい。
図6の第3不支持状態では、第3区間γに存在する締結部E-Gの正曲げモーメントが、締結部B-Dに比べて大きい。これに加えて、締結部C,Dでは、負曲げモーメントが大きい。
【0028】
図7は、縦梁12の変形の模式図である。前述されたように、縦梁12は、締結部Fが不支持状態であり、締結部Dが支持状態である。
図7(a)に示すように、鉄道車両Wが締結部Fを走行するとき、締結部Fの正曲げモーメントがピーク値となる。これに伴って、締結部Dの負曲げモーメントがピーク値に近くなる。
図7(b)に示すように、鉄道車両Wが締結部Dを走行するとき、締結部Dの正曲げモーメントがピーク値となる。これに伴って、締結部Fの負曲げモーメントがピーク値に近くなる。各締結部における正曲げモーメントのピーク値の大きさと負曲げモーメントのピーク値の大きさとの比率(「正曲げ/負曲げ」と言う場合がある。)は、締結部Dが小さく、締結部Fが大きい。すなわち、正曲げ/負曲げは、支持状態の区間において小さくなり、不支持状態の区間において大きくなる。
【0029】
表1-3は、正曲げモーメントおよび負曲げモーメントのピーク値およびそれらの大きさの比率の一覧表である。表1-3には、締結部A-Hに加えて、隣り合う締結部の中間部の値が記載されている。表1は、地盤反力係数K30=100MN/m3の場合である。表2は、地盤反力係数K30=70MN/m3の場合である。表3は、地盤反力係数K30=30MN/m3の場合である。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
表1-3では、正曲げ/負曲げの比率が2.5以上となる部分(端部の締結部A,Hを除く)にハッチングが施されている。ハッチングが施された部分は、第1-3不支持状態において不支持とした第1-3区間α-γに概ね一致している。したがって、正曲げ/負曲げの比率が2.5(第1所定値)以上の場合に、縦梁12がバラスト道床3から浮いた不支持状態であると評価できる。
【0034】
図8は、実施形態の縦まくらぎ10の管理方法のフローチャートである。実施形態の縦まくらぎ10の管理方法では、鉄道車両の走行時に縦梁12の歪みを測定する(S10)。縦梁12の歪みと曲げモーメントとの関係式を予め求めておく(S5)。縦梁12に作用する曲げモーメントを求める(S12)。正曲げ/負曲げの比率により、縦梁12の支持状態を評価する(S16)。曲げモーメントの大きさに応じて、縦まくらぎ10およびバラスト道床3の保守作業の内容を決定する(S20以下)。以下、順番に説明する。
【0035】
鉄道車両の走行時に縦梁12の歪みを測定する(S10)。縦梁12の歪みは、
図2のように装着した複数の歪みゲージ20により測定する。歪みゲージ20は、縦梁12の上面(+Z方向の面)に装着する。歪みゲージ20は、X方向において締結部の位置に装着する。締結部では、鉄道車両の荷重がレール5から縦梁12に直接伝達されるため、縦梁12に作用する曲げモーメントが大きくなる。これに対して、隣り合う締結部の中間では、レール5と縦梁12との間に配置される軌道パッドが緩衝材になるため、縦梁12に作用する曲げモーメントが小さくなる。締結部に歪みゲージ20を装着することにより、縦梁12に作用する曲げモーメントを適切に評価することができる。
【0036】
前述した数値実験において、縦梁12の端部の曲げモーメントが小さくなることが判明している。そこで、縦梁12の端部の締結部A,Hには歪みゲージ20を装着せず、これらの内側の締結部B-Gのみに歪みゲージ20を装着する。これにより、縦梁12に作用する曲げモーメントを適切に評価することができる。また、縦まくらぎ10の管理作業が省力化される。
【0037】
縦梁12の歪みと曲げモーメントとの関係を予め求めておく(S5)。そのため、
図2の縦まくらぎ10の曲げ試験を予め実施する。曲げ試験では、縦まくらぎ10に所定の大きさの曲げモーメントを作用させて、縦梁12の歪みを測定する。縦梁12の歪みは、上記のように締結部B-Gに装着した歪みゲージ20により測定する。
【0038】
図9は、歪みと曲げモーメントとの関係を示すグラフである。歪みと曲げモーメントとは、概ね比例関係にある(
図9の実線)。縦梁12のPCが弾性体として挙動する200μ程度までの範囲で、歪みと曲げモーメントとの関係を線形近似して、1次の関係式を得る(
図9の破線)。歪みゲージを装着した締結部B-Gにつき、歪みと曲げモーメントとの関係式を取得する。
【0039】
歪みゲージ20で測定された歪みを曲げモーメントに換算するには、縦梁12の中立軸を求める必要がある。そのためには、縦梁12の上縁および下縁の歪みを測定する必要がある。縦梁12の下縁に歪みゲージ20を装着するには、バラストを一時的に除去する必要があるため、労力を要する。
これに対して、実施形態の縦まくらぎ10の管理方法では、縦梁12の上面の歪みと曲げモーメントとの関係式を予め求めておく。これにより、縦梁12の下縁に歪みゲージ20を装着しなくても、縦梁12に作用する曲げモーメントが得られる。したがって、縦まくらぎ10の管理作業が省力化される。
【0040】
縦梁12に作用する曲げモーメントを求める(S12)。締結部B-Gで測定した歪みを、歪みと曲げモーメントとの関係式に代入して、締結部B-Gに作用する曲げモーメントを算出する。
締結部B-Gに作用する正曲げモーメントのピーク値および負曲げモーメントのピーク値を求める。正曲げモーメントのピーク値の大きさMpと負曲げモーメントのピーク値の大きさMnとの比率として、正曲げ/負曲げ(Mp/Mn)を算出する。
【0041】
正曲げ/負曲げの比率により、縦梁12の支持状態を評価する(S16)。S16では、Mp/Mn<2.5が成立するか、締結部B-Gについて判断する。S16の判断がYesの締結部は、バラスト道床3により支持された状態である。この場合には、その締結部の縦梁12およびバラスト道床3に対して保守作業を実施しない(S18)。S16の判断がNoの締結部は、バラスト道床3により支持されていない(バラスト道床3から浮いた)状態であり、S20に進む。
【0042】
曲げモーメントの大きさに応じて、縦まくらぎ10およびバラスト道床3の保守作業の内容を決定する(S20以下)。
正曲げモーメントのピーク値の大きさおよび負曲げモーメントのピーク値の大きさのうち、大きい方をMrとする。縦梁12のひび割れ発生モーメントをMcとする。S20では、Mr<Mcが成立するか、締結部B-Gについて判断する。S20の判断がYesの締結部では、縦梁12にひび割れが発生する可能性が小さい。この場合には、縦まくらぎ10およびバラスト道床3を経過観察とする(S22)。この場合に、バラスト道床3の突き固めを行ってもよい。S20の判断がNoの締結部では、縦梁12にひび割れが発生する可能性があり、S24に進む。
【0043】
縦梁12の終局曲げモーメントをMuとする。終局曲げモーメントMuとは、縦梁12のコンクリートが圧壊する曲げモーメントである。縦梁12のPC鋼材の降伏曲げモーメントをMyとする。PC鋼材の降伏曲げモーメントMyとは、PC鋼材に引張力が作用して塑性変形する曲げモーメントである。MuおよびMyは、ひび割れ発生モーメントMcより大きい。MuとMyとの大小関係は、縦梁12の断面設計によって決まる。
【0044】
S24では、Mr<0.4MuかつMr<0.4Myが成立するか、締結部B-Gについて判断する。Muの係数0.4およびMyの係数0.4は、それぞれの安全率である。S24の判断がYesの締結部では、縦梁12に作用する曲げモーメントMrが、終局曲げモーメントMuおよびPC鋼材の降伏曲げモーメントMyより十分に小さい。この場合には、その締結部の外観調査を実施する(S26)。外観検査は、縦梁12がバラストに埋まっている部分についても実施する。S20の判断がYesだったので、縦梁12に作用する曲げモーメントMrは、ひび割れ発生モーメントMc以上である。そのため、S26の外観調査では、その締結部のひび割れの状態を調査する。ひび割れの状態調査は、鉄道車両が通過していない(除荷された)状態で実施する。
【0045】
S28では、ひび割れの幅が0.2mm(第2所定値)未満か判断する。ひび割れの幅が0.2mm未満の状態は、ひび割れが存在しない場合を含む。S28の判断がYesの場合には、PC鋼材の腐食や降伏が発生していないと判断される。この場合には、縦まくらぎ10の交換は不要であり、経過観察すればよい(非特許文献1参照)。ただし、S16の判断がYesだったので、その締結部はバラスト道床3により支持されていない状態である。そこで、その締結部の保守作業として、バラスト道床3の突き固めを行う(S30)。バラスト道床3の突き固めとは、縦梁12の下方にバラストを埋設する作業である。これにより、縦梁12がバラスト道床3から浮いた状態が解消される。S28の判断がNoの場合には、S32に進む。
【0046】
S32では、ひび割れの幅が1.0mm未満か判断する。S32の判断がYesでも、S28の判断がNo(ひび割れの幅が0.2mm以上)だったので、PC鋼材の腐食や降伏が発生している可能性がある(非特許文献1参照)。この場合には、バラスト道床3の突き固めを実施するか、または縦まくらぎ10の交換を計画する(S34)。一方、ひび割れの幅が1.0mm(第3所定値)以上であり、S32の判断がNoの場合には、PC鋼材の腐食や降伏が発生していると判定される(非特許文献1参照)。この場合には、速やかに縦まくらぎ10の交換を実施する(S36)。これにより、適切なタイミングで縦まくらぎ10を交換することができる。
【0047】
前述したように、S24では、Mr<0.4MuかつMr<0.4Myが成立するか、締結部B-Gについて判断する。MrがMuの0.4倍(第1所定割合)以上であるか、またはMrがMyの0.4倍(第2所定割合)以上の場合には、S24の判断がNoである。この場合には、縦梁12に作用する曲げモーメントMrが、終局曲げモーメントMuまたはPC鋼材の降伏曲げモーメントMyに近い。この場合には、直ちにバラスト道床3の突き固めを実施し(S40)、その後に外観調査を実施する(S42)。直ちにバラスト道床3の突き固めを行うことにより、縦梁12に作用する曲げモーメントが減少して、ひび割れの拡大が抑制される。そして、S26以下と同様に、その締結部のひび割れの状態に応じた保守作業を実施する。
【0048】
以上に詳述したように、縦まくらぎ10は、縦梁12と、締結部A-Hと、を有する。縦梁12は、X方向に伸びるレール5とバラスト道床3との間に配置され、X方向に伸びる。締結部A-Hは、X方向に間隔を置いて配置され、レール5を縦梁12に締結する。実施形態の縦まくらぎ10の管理方法は、縦梁12の上面に装着した歪みゲージ20により、鉄道車両がレールを走行するときの縦梁12の歪みを測定する。歪みゲージ20により測定される歪みと縦梁12に作用する曲げモーメントとの関係式から、縦梁12に作用する曲げモーメントを算出する。縦梁12の下方への撓みに対応する正曲げモーメントの大きさと縦梁の上方への撓みに対応する負曲げモーメントの大きさとの正曲げ/負曲げの比率を算出する。正曲げ/負曲げの比率が2.5以上の場合に、縦梁12がバラスト道床3から浮いた状態であると評価する。
【0049】
縦梁12に作用する曲げモーメントに基づいて縦まくらぎ10を管理する。正曲げ/負曲げの比率が2.5以上の場合には、縦梁12がバラスト道床3から浮いた状態であると評価できる。縦梁12に作用する曲げモーメントの大きさを設計限界値と比較して、縦まくらぎ10の保守に必要な作業内容を決定できる。したがって、縦まくらぎ10の支持状態の評価や保守作業内容の決定を適切に行うことができる。
【0050】
縦まくらぎ10は、バラスト道床3を横断する開渠などの構造物の近くに設置される場合がある。この場合、バラスト道床3による縦まくらぎ10の支持が不十分になり、縦梁12に大きな曲げモーメントが作用することがある。ただし、縦梁12の支持が不十分となる位置を特定することは困難である。そこから外れた位置で曲げモーメントを評価すると、縦梁12に作用する曲げモーメントが過小評価されることになる。
【0051】
これに対して、実施形態の縦まくらぎ10の管理方法では、締結部B-Gの範囲で連続して歪みを測定し、曲げモーメントを評価する。これにより、縦梁12の支持が不十分となる位置を特定すると同時に、その位置の曲げモーメントの大きさを把握することができる。したがって、縦まくらぎ10の支持状態の評価や保守作業内容の決定を適切に行うことができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
【符号の説明】
【0053】
A-H…締結部、3…バラスト道床(道床)、5…レール、10…縦まくらぎ、12…縦梁、20…歪みゲージ。