(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】表面被覆蛍光体粒子、表面被覆蛍光体粒子の製造方法および発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20240620BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240620BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240620BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/08 B
C09K11/64
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2021513590
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014910
(87)【国際公開番号】W WO2020209147
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019074459
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155209(JP,A)
【文献】特表2002-539925(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098932(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/077240(WO,A1)
【文献】特開2015-224339(JP,A)
【文献】特開2009-286995(JP,A)
【文献】特表2015-526532(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105400513(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00- 11/89
H01L 33/00- 33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体を含む粒子と、
前記粒子の表面を被覆する被覆部と、
を含む表面被覆蛍光体粒子であって、
前記蛍光体は、一般式M
1
aM
2
bM
3
cAl
3N
4-dO
d(ただし、M
1はSr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素であり、M
2はLi、およびNaから選ばれる1種以上の元素であり、M
3はEu、およびCeから選ばれる1種以上の元素である。)で表される組成を有し、前記a、b、c、およびdが次の各式を満たすものであり、
0.850≦a≦1.150
0.850≦b≦1.150
0.001≦c≦0.015
0≦d≦0.40
0≦d/(a+d)<0.30
前記被覆部は、前記粒子の最表面の少なくとも一部を構成するとともに、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含み、
前記表面被覆蛍光体粒子全体に対して、フッ素元素の含有率が15質量%以上30質量%以下である表面被覆蛍光体粒子。
【請求項2】
前記フッ素含有化合物において、フッ素元素とアルミニウム元素とが直接に共有結合している請求項1に記載の表面被覆蛍光体粒子。
【請求項3】
前記フッ素含有化合物は、(NH
4)
3AlF
6またはAlF
3のいずれか一方または両方を含む請求項1または2に記載の表面被覆蛍光体粒子。
【請求項4】
前記M
1は、少なくともSrを含み、前記M
2は、少なくともLiを含み、前記M
3は、少なくともEuを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面被覆蛍光体粒子。
【請求項5】
波長300nmの光照射に対する拡散反射率が56%以上であり、蛍光スペクトルのピーク波長における光照射に対する拡散反射率が85%以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表面被覆蛍光体粒子。
【請求項6】
波長455nmの青色光で励起した場合、ピーク波長が640nm以上670nm以下の範囲にあり、半値幅が45nm以上60nm以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の表面被覆蛍光体粒子。
【請求項7】
波長455nmの青色光で励起した場合、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、x値が0.680≦x<0.735を満たす請求項1乃至6のいずれか1項に記載の表面被覆蛍光体粒子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の表面被覆蛍光体粒子の製造方法であって、
原料を混合する混合工程と、
前記混合工程により得た混合体を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程により得た焼成物と酸性溶液とを混合する酸処理工程と、
前記酸処理工程を経た前記焼成物と、フッ素元素を含む化合物とを混合するフッ素処理工程と、
を含み、
前記酸性溶液が酸性の水溶液であり、
前記混合工程において、前記Alのモル比を3としたときの前記M
1の仕込み量がモル比1.10以上1.20以下である表面被覆蛍光体粒子の製造方法。
【請求項9】
前記酸処理工程において、前記酸性溶液に、フッ素濃度が25%以上のフッ酸水溶液を用いる、請求項8に記載の表面被覆蛍光体粒子の製造方法。
【請求項10】
前記フッ素処理工程により得られる結果物に加熱処理を施す加熱工程をさらに備える請求項8または9に記載の表面被覆蛍光体粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の表面被覆蛍光体粒子と、発光素子とを有する発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆蛍光体粒子、表面被覆蛍光体粒子の製造方法および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)と蛍光体を組み合わせて形成した発光装置は、照明装置や液晶表示装置のバックライト等に盛んに使用されている。特に、液晶表示装置に発光装置を使用する場合は、高い色再現性が求められるため、蛍光スペクトルの半値全幅(以下、単に「半値幅」と称する)の狭い蛍光体の使用が望まれている。
【0003】
従来使用されている半値幅の狭い赤色蛍光体としてEu2+で賦活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体が知られている。これらの代表的な純窒化物蛍光体としては、Sr2Si5N8:Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+(CASNと略記する)、(Ca,Sr)AlSiN3:Eu2+(SCASNと略記する)などがある。CASN蛍光体及びSCASN蛍光体は、610~680nmの範囲にピーク波長を有しており、その半値幅は75nm以上90nm以下と比較的狭い。しかし、これらの蛍光体を液晶表示用の発光装置として用いる場合、色再現範囲の更なる拡大が望まれており、半値幅がより狭い蛍光体が望まれている。
【0004】
近年、半値幅が70nm以下を示す狭帯域赤色蛍光体として、SrLiAl3N4:Eu2+(SLANと略記する)蛍光体が知られており、この蛍光体を応用した発光装置は優れた演色性や色再現性が期待できる。
【0005】
特許文献1には、特定の組成を有するSLAN蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SLAN蛍光体は、水と接触すると分解しやすいという性質を有している。この性質は、時間の経過とともに発光強度が低下する要因となっている。近年、SLAN蛍光体を用いた発光装置の信頼性についてより一層の向上が求められており、SLAN蛍光体の耐湿性についてもより一層の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が検討した結果、SLAN蛍光体やこれに結晶構造が類似する窒化物蛍光体を含む粒子において、詳細なメカニズムは定かではないが、その粒子表面を少なくともフッ素含有化合物で構成するとともに、粒子全体に対するフッ素元素の含有量を所定値以上とすることによって、水暴露環境下における蛍光強度の低下を抑制できること、すなわち、耐湿性を向上できることが判明した。
【0009】
本発明によれば、蛍光体を含む粒子と、前記粒子の表面を被覆する被覆部と、を含む表面被覆蛍光体粒子であって、前記蛍光体は、一般式M1
aM2
bM3
cAl3N4-dOd(ただし、M1はSr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素であり、M2はLi、およびNaから選ばれる1種以上の元素であり、M3はEu、およびCeから選ばれる1種以上の元素である。)で表される組成を有し、前記a、b、c、およびdが次の各式を満たすものであり、
0.850≦a≦1.150
0.850≦b≦1.150
0.001≦c≦0.015
0≦d≦0.40
0≦d/(a+d)<0.30
前記被覆部は、前記粒子の最表面の少なくとも一部を構成するとともに、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含み、
前記表面被覆蛍光体粒子全体に対して、フッ素元素の含有率が15質量%以上30質量%以下である、表面被覆蛍光体粒子が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上述した表面被覆蛍光体粒子の製造方法であって、原料を混合する混合工程と、前記混合工程により得た混合体を焼成する焼成工程と、前記焼成工程により得た焼成物と酸性溶液とを混合する酸処理工程と、前記酸処理工程を経た前記焼成物と、フッ素元素を含む化合物とを混合するフッ素処理工程と、を含み、前記混合工程において、Alのモル比を3としたときの前記M1の仕込み量が1.10以上1.20以下である表面被覆蛍光体粒子の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上述した表面被覆蛍光体粒子と、発光素子とを有する発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐湿性が向上した窒化物蛍光体粒子に関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
実施形態に係る表面被覆蛍光体粒子は、蛍光体を含む粒子と、当該粒子の表面を被覆する被覆部とを含む。以下、表面被覆蛍光体粒子の詳細について説明する。
【0015】
本実施形態の粒子を構成する蛍光体は一般式M1
aM2
bM3
cAl3N4-dOdで表される。a、b、c、4-d、およびdは、各元素のモル比を示す。
【0016】
上記一般式中、M1はSr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素である。好ましくは、M1は、少なくともSrを含む。M1のモル比aの下限は、0.850以上が好ましく、0.950以上がより好ましい。一方、M1のモル比aの上限は、1.150以下が好ましく、1.100以下がより好ましく、1.050以下がさらに好ましい。M1のモル比aを上記範囲とすることにより、結晶構造安定性を向上させることができる。
【0017】
上記一般式中、M2はLi、およびNaから選ばれる1種以上の元素である。好ましくは、M2は、少なくともLiを含む。M2のモル比bの下限は、0.850以上が好ましく、0.950以上がより好ましい。一方、M2のモル比bの上限は、1.150以下が好ましく、1.100以下がより好ましく、1.050以下がさらに好ましい。M2のモル比aを上記範囲とすることにより、結晶構造安定性を向上させることができる。
【0018】
上記一般式中、M3は、母体結晶に添加される賦活剤、すなわち蛍光体の発光中心イオンを構成する元素であり、Eu、およびCeから選ばれる1種以上の元素である。M3は、求められる発光波長によって選択することができ、好ましくは少なくともEuを含む。
M3のモル比cの下限は0.001以上が好ましく、0.005以上がより好ましい。一方、M3のモル比cの上限は0.015以下が好ましく、0.010以下がより好ましい。M3のモル比cの下限を上記範囲とすることにより、十分な発光強度を得ることができる。また、M3のモル比cの上限を上記範囲とすることにより、濃度消光を抑制し、発光強度を十分な値に保つことができる。
【0019】
上記一般式において、酸素のモル比dの下限は0以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。一方、酸素のモル比dの上限は、0.40以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。酸素のモル比dを上記範囲とすることにより、蛍光体の結晶状態を安定化させ、発光強度を十分な値に保つことができる。
また、蛍光体中の酸素元素の含有量は2質量%未満が好ましく、1.8質量%以下がより好ましい。酸素元素の含有量を2質量%未満とすることにより、蛍光体の結晶状態を安定化させ、発光強度を十分な値に保つことができる。
【0020】
M1および酸素のモル比、即ちa、dから算出されるd/(a+d)の値の下限は、0以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。一方、d/(a+d)の値の上限は、0.30未満が好ましく、0.25以下がより好ましい。d/(a+d)を上記範囲とすることにより、蛍光体の結晶状態を安定化させ、発光強度を十分な値に保つことができる。
【0021】
被覆部は、上述した蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部を構成する。当該被覆部は、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含む。
フッ素含有化合物において、フッ素元素とアルミニウム元素とが直接に共有結合していることが好ましく、より具体的には、フッ素含有化合物は、(NH4)3AlF6またはAlF3のいずれか一方または両方を含むことが好ましい。なお、フッ素含有化合物は、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有する単一の化合物により構成されていてもよい。
上述の被覆部が蛍光体を含む粒子の表面の少なくとも一部を構成することにより、粒子を構成する蛍光体の耐湿性を向上させることができる。なお、蛍光体の耐湿性をより一層向上させる観点から、被覆部がAlF3を含むことがより好ましい。
【0022】
被覆部の態様は特に制限されないが、被覆部は粒子表面の少なくとも一部を覆うように構成されていればよく、粒子表面全体を覆うように構成されてもよい。被覆部の態様として、たとえば、粒子状のフッ素含有化合物が蛍光体を含む粒子の表面に多数分布している態様や、フッ素含有化合物が蛍光体を含む粒子の表面を連続的に被覆する態様が挙げられる。
【0023】
本実施形態では、表面被覆蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率が15質量%以上30質量%以下である。表面被覆蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率を15質量%以上とすることにより、耐湿性を高めることができる。表面被覆蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率を30質量%以下とすることにより、耐湿性を高めつつ、発光強度を十分な値に保つことができる。
表面被覆蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率の下限は18質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、表面被覆蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率の上限は、27質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。フッ素元素の含有率の下限を上記範囲とすることにより、より一層耐湿性を高めることができる。また、フッ素元素の含有率の上限を上記範囲とすることにより、耐湿性をより一層高めつつ、発光強度を十分な値に保つことができる。
なお、フッ素元素は、後述する、原料として用いられる金属元素のフッ化物に由来するか、後述するフッ素処理工程により添加されるものであり、蛍光体の結晶構造を構成しない。
【0024】
本実施形態の表面被覆蛍光体粒子によれば、水暴露環境下における蛍光強度の抑制でき、好ましくは90%RH以上等の高湿環境下における蛍光強度の低下を抑制でき、より好ましくは高温高湿環境下における蛍光強度の低下を抑制できる。
【0025】
本実施形態の表面被覆蛍光体粒子における、波長300nmの光照射に対する拡散反射率が、例えば、56%以上、より好ましくは58%以上、より好ましくは60%以上である。
また、表面被覆蛍光体粒子における、蛍光スペクトルのピーク波長における光照射に対する拡散反射率が、例えば85%以上、好ましくは86%以上である。このような特性を備えることにより、さらに発光効率が高くなり発光強度が向上する。
【0026】
本実施形態の表面被覆蛍光体粒子の一例は、波長455nmの青色光で励起した場合、ピーク波長が640nm以上670nm以下の範囲にあり、半値幅が45nm以上60nm以下であることが好ましい。このような特性を備えることにより、優れた演色性や色再現性が期待できる。
【0027】
本実施形態の表面被覆蛍光体粒子の一例は、波長455nmの青色光で励起した場合、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、x値が0.680≦x<0.735を満たすことが好ましい。このような特性を備えることにより、優れた演色性や色再現性が期待できる。x値が0.680以上であれば色純度の良い赤色発光をさらに期待でき、x値が0.735以上の値はCIE-xy色度図内の最大値を超えるため、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、酸処理工程における酸および溶媒の種類、酸の濃度、フッ酸処理工程における、フッ酸の濃度、フッ酸処理の時間、フッ酸処理後に行う加熱工程における加熱温度および加熱時間等を適切に調整すること等により、蛍光体を含む粒子の表面にフッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を形成でき、粒子中のフッ素元素の含有率を所望の範囲内に制御することができる。
【0029】
以上説明した表面被覆蛍光体粒子によれば、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含む被覆部が蛍光体粒子の表面を被覆することにより、窒化物蛍光体の耐湿性を高めることができ、ひいては発光強度を長期間にわたって維持することができる。
【0030】
(表面被覆蛍光体粒子の製造方法)
本実施形態の表面被覆蛍光体粒子は、原料を混合する混合工程と、混合工程により得た混合体を焼成する焼成工程と、焼成工程により得た焼成物と酸性溶液とを混合する酸処理工程と、酸処理工程を経た焼成物と、フッ素元素を含む化合物とを混合するフッ素処理工程によって製造することができる。上記の工程の他に、フッ素処理工程により得られる結果物に加熱処理を施す加熱工程を追加することが好ましい。
【0031】
(混合工程)
混合工程は、目的とする表面被覆蛍光体粒子が得られるように秤量した各原料を混合して粉末状の原料混合体を得る工程である。原料を混合する方法は特に限定されないが、たとえば、乳鉢、ボールミル、V型混合機、遊星ミルなどの混合装置を用いて十分に混合する方法がある。なお、空気中の水分や酸素と激しく反応する窒化ストロンチウム、窒化リチウム等は、内部が不活性雰囲気で置換されたグローブボックス内や混合装置を用いて取り扱うことが適切である。
【0032】
混合工程において、Alのモル比を3としたときのM1の仕込み量がモル比で1.10以上であることが好ましい。M1の仕込み量をモル比で1.10以上とすることにより、焼成工程中のM1の揮発などにより蛍光体中のM1が不足することが抑制され、M1に欠陥が生じにくくなり、結晶構造の結晶性が良好に保たれる。この結果、狭帯域の蛍光スペクトルが得られ、発光強度を高めることができると推測される。また、混合工程において、Alのモル比を3としたときのM1の仕込み量がモル比で1.20以下であることが好ましい。M1の仕込み量をモル比で1.20以下とすることにより、M1を含む異相の増加を抑制し、酸処理工程により異相の除去が容易になり、発光強度を高めることができる。
【0033】
混合工程において用いられる各原料は、蛍光体の組成に含まれる金属元素の金属単体および当該金属元素を含む金属化合物からなる群より選ばれる1種以上を含むことができる。金属化合物としては、窒化物、水素化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、塩化物等が挙げられる。このうち、蛍光体の発光強度を向上させる観点から、M1およびM2を含む金属化合物として窒化物が好ましく用いられる。具体的には、M1を含む金属化合物として、Sr3N2、SrN2、SrNなどが挙げられる。M2を含む金属化合物として、Li3N、LiN3などが挙げられる。M3を含む金属化合物としては、Eu2O3、EuN、EuF3が挙げられる。Alを含む金属化合物としては、AlN、AlH3、AlF3、LiAlH4などが挙げられる。なお、必要に応じて、フラックスを添加してもよい。フラックスとしては、LiF、SrF2、BaF2,AlF3などが挙げられる。
【0034】
(焼成工程)
焼成工程では、上述した原料の混合体を焼成容器の内部に充填して焼成する。前記焼成容器は、気密性を高められる構造を備えていることが好ましく、焼成容器の内部はアルゴン、ヘリウム、水素、窒素等の非酸化性ガスの雰囲気ガスで満たすことが好ましい。焼成容器は、高温の雰囲気ガス下において安定で、原料の混合体及びその反応生成物と反応しにくい材質で構成されることが好ましく、たとえば、窒化ホウ素製、カーボン製の容器や、モリブデンやタンタルやタングステン等の高融点金属製の容器を使用することが好ましい。
【0035】
[焼成温度]
焼成工程における焼成温度の下限は、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましい。一方、焼成温度の上限は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましい。焼成温度を上記範囲とすることにより、焼成工程終了後の未反応原料を少なくでき、また主結晶相の分解を抑制することができる。
【0036】
[焼成雰囲気ガスの種類]
焼成工程における焼成雰囲気ガスの種類としては、例えば元素としての窒素を含むガスを好ましく用いることができる。具体的には、窒素および/またはアンモニアを挙げることができ、特に窒素が好ましい。また同様に、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスも好ましく用いることができる。なお焼成雰囲気ガスは1種類のガスで構成されていても、複数の種類のガスの混合ガスであっても構わない。
【0037】
[焼成雰囲気ガスの圧力]
焼成雰囲気ガスの圧力は、焼成温度に応じて選択されるが、通常0.1MPa・G以上10MPa・G以下の範囲の加圧状態である。焼成雰囲気ガスの圧力が高いほど、蛍光体の分解温度は高くなるが、工業的生産性を考慮すると0.5MPa・G以上1MPa・G以下とすることが好ましい。
【0038】
[焼成時間]
焼成工程における焼成時間は、未反応物が多く存在したり、蛍光体の粒子が成長不足であったり、或いは生産性の低下という不都合が生じない時間範囲が選択される。実施形態に係る表面被覆蛍光体粒子の製造方法では、焼成時間の下限は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。また、焼成時間の上限は、48時間以下が好ましく、36時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。
【0039】
焼成工程により得られる焼成物の状態は、原料配合や焼成条件によって、粉体状、塊状と様々である。表面被覆蛍光体粒子として実際に使用する場合に備えて、得られた焼成物を所定のサイズの粉末にする解砕・粉砕工程及び/又は分級操作工程を備えていてもよい。なお、表面被覆蛍光体粒子の平均粒子径は、励起光の吸収効率および十分な発光効率を得るという点から、LED用の表面被覆蛍光体粒子として使用する場合には、表面被覆蛍光体粒子の平均粒子径が5μm以上30μm以下となるように調整することが好ましい。また上述の解砕・粉砕工程では、その処理に由来する不純物の混入を防ぐため、焼成物と接触する機器の部材が、窒化ケイ素、アルミナ、サイアロンといった高靭性セラミックス製であることが好ましい。
【0040】
(酸処理工程)
酸処理工程において用いられる酸性溶液は水溶液であることが好ましく、酸性溶液との接触は、たとえば、硝酸、塩酸、酢酸、硫酸、蟻酸、リン酸の1種以上を含む酸性の水溶液中に上述の焼成物を分散させ、数分から数時間撹拌する方法が一般的である。
具体的には、有機溶媒および酸性溶液の混合溶液中に上述の焼成物を分散させ、数分から数時間撹拌後、有機溶媒を用いて洗浄することができる。酸処理によって、原料に含まれる不純物元素、焼成容器に由来する不純物元素、焼成工程で生じた異相、粉砕工程にて混入した不純物元素を溶解除去できる。同時に微粉を取り除くことも可能なため、光の散乱を抑えられ、蛍光体の光吸収率も向上する。
なお、有機溶媒は、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコールおよびアセトンなどのケトンを使用できる。酸性溶液は、硝酸、塩酸、酢酸、硫酸、蟻酸、リン酸の1種以上とする。これら溶液の混合比率としては、たとえば、有機溶媒に対して酸性溶液が0.1体積%以上3体積%以下の濃度となるように調製する。
【0041】
(フッ素処理工程)
フッ素処理工程において、酸処理工程を経た焼成物に混合されるフッ素元素を含む化合物として、フッ酸水溶液が好ましく用いられる。フッ酸水溶液の濃度の下限は25%以上が好ましく、27%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。一方、フッ酸水溶液の濃度の上限は、38%以下が好ましく、36%以下がより好ましく、34%以下がさらに好ましい。フッ酸水溶液の濃度を25%以上とすることにより、蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部に(NH4)3AlF6を含む被覆部を形成することができる。一方、フッ酸水溶液の濃度を38%以下とすることにより、粒子とフッ酸との反応が激しくなり過ぎることを抑制することができる。
酸処理工程を経た焼成物とフッ酸水溶液との混合は、スターラーなどの攪拌手段により行うことができる。上記焼成物とフッ酸水溶液との混合時間の下限は、5分以上が好ましく10分以上がより好ましく、15分以上がさらに好ましい。一方、上記焼成物とフッ酸水溶液との混合時間の上限は、30分以下が好ましく、25分以下がより好ましく、20分以下がさらに好ましい。上記焼成物とフッ酸水溶液との混合時間を上記範囲とすることにより、蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部に(NH4)3AlF6を含む被覆部を安定的に形成することができる。
【0042】
(加熱工程)
フッ素処理により得られる結果物が被覆部として(NH4)3AlF6を含む場合には、以上の工程の後に、加熱工程を実施してもよい。加熱工程における加熱温度の下限は220℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。一方、上記加熱温度の上限は、500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましい。
加熱温度を220℃以上とすることにより、下記反応式(1)を進行させることにより、(NH4)3AlF6をAlF3に変えることができる。
(NH4)3AlF6→AlF3+3NH3+3HF・・・(1)
一方、加熱温度を500℃以下とすることにより、蛍光体の結晶構造を良好に維持し、発光強度を高めることができる。
加熱時間の下限は、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。一方、加熱時間の上限は、6時間以下が好ましく、5.5時間以下がより好ましく、5時間以下がさらに好ましい。加熱時間を上記範囲とすることにより、(NH4)3AlF6を耐湿性がより高いAlF3に確実に変えることができる。
なお、加熱工程は大気中あるいは窒素雰囲気下で実施することが好ましい。これによれば、加熱雰囲気の物質自身が上記の反応式(1)を阻害することなく、目的の物質を生成することができる。
【0043】
以上説明した表面被覆蛍光体粒子の製造方法によれば、耐湿性が向上し、ひいては発光強度を長期間にわたり維持することができる窒化物蛍光体粒子を製造することができる。
【0044】
(発光装置)
実施形態に係る発光装置は、上述した実施形態の表面被覆蛍光体粒子と発光素子とを有する。
発光素子としては、紫外LED、青色LED、蛍光ランプの単体又はこれらの組み合わせを用いることができる。発光素子は、250nm以上550nm以下の波長の光を発するものが望ましく、なかでも420nm以上500nm以下の青色LED発光素子が好ましい。
【0045】
発光装置に使用する蛍光体粒子としては、上述した実施形態の表面被覆蛍光体粒子の他に、他の発光色を持つ蛍光体粒子を併用することができる。他の発光色の蛍光体粒子としては、青色発光蛍光体粒子、緑色発光蛍光体粒子、黄色発光蛍光体粒子、橙色発光蛍光体粒子、赤色蛍光体があり、例えば、Ca3Sc2Si3O12:Ce、CaSc2O4:Ce、β-SiAlON:Eu、Y3Al5O12:Ce、Tb3Al5O12:Ce、(Sr、Ca、Ba)2SiO4:Eu、La3Si6N11:Ce、α-SiAlON:Eu、Sr2Si5N8:Eu等が挙げられる。上述した実施形態の表面被覆蛍光体粒子と併用できる蛍光体粒子は、特に限定されるものではなく、発光装置に要求される輝度や演色性等に応じて適宜選択可能である。上述した実施形態の表面被覆蛍光体粒子と他の発光色の蛍光体粒子とを混在させることにより、昼白色や電球色などの様々な色温度の白色を実現することができる。
発光装置としては、照明装置、バックライト装置、画像表示装置および信号装置がある。
【0046】
本実施形態の発光装置は、上述した実施形態の表面被覆蛍光体粒子を採用することにより、高い発光強度を実現しつつ、信頼性を高めることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
1. 蛍光体を含む粒子と、
前記粒子の表面を被覆する被覆部と、
を含む表面被覆蛍光体粒子であって、
前記蛍光体は、一般式M
1
a
M
2
b
M
3
c
Al
3
N
4-d
O
d
(ただし、M
1
はSr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素であり、M
2
はLi、およびNaから選ばれる1種以上の元素であり、M
3
はEu、およびCeから選ばれる1種以上の元素である。)で表される組成を有し、前記a、b、c、およびdが次の各式を満たすものであり、
0.850≦a≦1.150
0.850≦b≦1.150
0.001≦c≦0.015
0≦d≦0.40
0≦d/(a+d)<0.30
前記被覆部は、前記粒子の最表面の少なくとも一部を構成するとともに、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含み、
前記表面被覆蛍光体粒子全体に対して、フッ素元素の含有率が15質量%以上30質量%以下である表面被覆蛍光体粒子。
2. 前記フッ素含有化合物において、フッ素元素とアルミニウム元素とが直接に共有結合している1.に記載の表面被覆蛍光体粒子。
3. 前記フッ素含有化合物は、(NH
4
)
3
AlF
6
またはAlF
3
のいずれか一方または両方を含む1.または2.に記載の表面被覆蛍光体粒子。
4. 前記M
1
は、少なくともSrを含み、前記M
2
は、少なくともLiを含み、前記M
3
は、少なくともEuを含む1.乃至3.のいずれか1つに記載の表面被覆蛍光体粒子。
5. 波長300nmの光照射に対する拡散反射率が56%以上であり、蛍光スペクトルのピーク波長における光照射に対する拡散反射率が85%以上である1.乃至4.のいずれか1つに記載の表面被覆蛍光体粒子。
6. 波長455nmの青色光で励起した場合、ピーク波長が640nm以上670nm以下の範囲にあり、半値幅が45nm以上60nm以下である1.乃至5.のいずれか1つに記載の表面被覆蛍光体粒子。
7. 波長455nmの青色光で励起した場合、発光色の色純度がCIE-xy色度図において、x値が0.680≦x<0.735を満たす1.乃至6.のいずれか1つに記載の表面被覆蛍光体粒子。
8. 1.乃至7.のいずれか1つに記載の表面被覆蛍光体粒子の製造方法であって、
原料を混合する混合工程と、
前記混合工程により得た混合体を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程により得た焼成物と酸性溶液とを混合する酸処理工程と、
前記酸処理工程を経た前記焼成物と、フッ素元素を含む化合物とを混合するフッ素処理工程と、
を含み、
前記混合工程において、前記Alのモル比を3としたときの前記M
1
の仕込み量がモル比1.10以上1.20以下である表面被覆蛍光体粒子の製造方法。
9. 前記酸処理工程において、前記酸性溶液に、フッ素濃度が25%以上のフッ酸水溶液を用いる、8.に記載の表面被覆蛍光体粒子の製造方法。
10. 前記フッ素処理工程により得られる結果物に加熱処理を施す加熱工程をさらに備える8.または9.に記載の表面被覆蛍光体粒子の製造方法。
11. 1.乃至7.のいずれか1つに記載の表面被覆蛍光体粒子と、発光素子とを有する発光装置。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
M1
aM2
bM3
cAl3N4-dOdで表される組成を有する蛍光体であり、M1=Sr、M2=Li、M3=Euを満たすものを得るため、Sr3N2(太平洋セメント社製)、Li3N(Materion社製)、AlN(トクヤマ社製)、Eu2O3(信越化学工業社製)を各原料として用い、フラックスとしてLiF(和光純薬社製)を用いた。Alのモル比を3としたときのSrの仕込み量をモル比で1.15とするとともに、Euの仕込み量をモル比で0.0115とした。前記原料混合物とフラックスの合計量100質量%に対して、5質量%のLiFを添加した。なお、Euは前述したようにAlのモル比を3としたときの仕込み量をモル比で0.0115とした。
以下、実施例1の表面被覆蛍光体粒子の製造方法について具体的に記載する。
大気中で、AlN、Eu2O3およびLiFを秤量、混合したのち、目開き150μmのナイロン篩で凝集を解砕し、プレ混合物を得た。
前記プレ混合物を、水分1ppm以下、酸素1ppm以下とした不活性雰囲気を保持しているグローブボックス中に移動させた。その後、化学量論比(a=1、b=1)でaの値が15%過剰、bの値が20%過剰になるように、前述のSr3N2およびLi3Nを秤量後、追加配合して混合後、目開き150μmのナイロン篩で凝集を解砕して蛍光体の原料混合物を得た。SrおよびLiは焼成中に飛散しやすいため、理論値より多めに配合した。
次いで、前記原料混合物を蓋付きの円筒型BN製容器(デンカ株式会社製)に充填した。
次いで、蛍光体の原料混合物を充填した前記容器をグローブボックスから取り出した後、グラファイト断熱材を備えたカーボンヒーター付きの電気炉(富士電波工業社製)にセットし、焼成工程を実施した。
焼成工程の開始にあっては、電気炉内を真空状態まで一旦脱ガスしたのち、室温から0.8MPa・Gの加圧窒素雰囲気下で焼成を開始した。電気炉内の温度が1100℃に到達後は、8時間温度を保ちながら焼成を続け、その後室温まで冷却した。得られた焼成物は乳鉢で粉砕後、目開き75μmのナイロン篩で分級し、回収した。
酸処理工程としてMeOH(99%)(国産化学株式会社製)にHNO3(60%)(和光純薬社製)を加えた混合溶液中に焼成物の粉体を加えて3時間撹拌した後、分級し、蛍光体粉末を得た。
得られた蛍光体粉末を30%フッ酸水溶液中に加え、15分間撹拌することでフッ素処理工程を実施した。フッ素処理工程の後、MeOHによるデカンテーションで溶液が中性になるまで洗浄し、濾過による固液分離を行った後、固形分を乾燥し、それを目開き45μmの篩を全通させることで、凝集を解き、実施例1の表面被覆蛍光体粒子を得た。
【0050】
(実施例2)
フッ素処理が施された後、目開き45μmの篩を全通させることで凝集を解いた蛍光体粉末に対して、大気雰囲気下で250℃、4時間の加熱処理を実施したことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて実施例2の表面被覆蛍光体粒子を得た。
【0051】
(実施例3)
フッ素処理が施された後、目開き45μmの篩を全通させることで、凝集を解いた蛍光体粉末に対して、大気雰囲気下で300℃、4時間の加熱処理を実施したことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて実施例3の表面被覆蛍光体粒子を得た。
【0052】
(実施例4)
フッ素処理が施された後、目開き45μmの篩を全通させることで、凝集を解いた蛍光体粉末に対して、大気雰囲気下で350℃、4時間の加熱処理を実施したことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて実施例4の表面被覆蛍光体粒子を得た。
【0053】
(実施例5)
フッ素処理が施された後、目開き45μmの篩を全通させることで、凝集を解いた蛍光体粉末に対して、大気雰囲気下で400℃、4時間の加熱処理を実施したことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて実施例5の表面被覆蛍光体粒子を得た。
【0054】
(比較例1)
フッ素処理を実施しないことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて比較例1の蛍光体粒子を得た。
【0055】
(比較例2)
フッ素処理で10%フッ酸水溶液を用いたことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて比較例2の蛍光体粒子を得た。
【0056】
(比較例3)
フッ素処理で20%フッ酸水溶液を用いたことを除いて、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて比較例3の蛍光体粒子を得た。
【0057】
各実施例の表面被覆蛍光体粒子および各比較例の蛍光体粒子について、全結晶相を合計した化学組成(即ち、一般式:M1
aM2
bM3
cAl3N4-dOd)の各元素の添字a~dを求めた。
上記添字a~dを求めるに当たっては、得られた蛍光体粒子を以下の方法で分析することにより求めた。すなわち、Sr、Li、Al及びEuについてはICP発光分光分析装置(SPECTRO社製、CIROS-120)により、O及びNについては酸素窒素分析計(堀場製作所社製、EMGA-920)を用いた分析結果を用いて算出した。実施例および比較例の蛍光体に関するa~dの数値を表1に示す。
【0058】
(X線回折法による分析)
各実施例の表面被覆蛍光体粒子および各比較例の蛍光体粒子について、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンによりその結晶構造を確認した。実施例1については、2θが16.5°以上17.5°以下の範囲に(NH4)3AlF6に対応するピークが確認された。実施例2~5については、2θが14°以上15°以下の範囲にAlF3に対応するピークが確認された。一方、比較例1、2では、(NH4)3AlF6に対応するピーク、AlF3に対応するピークのいずれも観察されなかった。比較例3では、AlF3に対応するピークは確認されず、(NH4)3AlF6に対応する小さいピークが観察された。
【0059】
(XPSによる表面分析)
各実施例の表面被覆蛍光体粒子および各比較例の蛍光体粒子について、XPSによる表面分析を実施した。各実施例の表面被覆蛍光体粒子については、蛍光体粒子の最表面において、AlとFが存在し、AlとFとが共有結合していることが確認された。一方、比較例1、2ではAlとFとが共有結合していることは確認できず、比較例3ではわずかではあるがAlとFとが共有結合していることが確認された。
XPSによる表面分析結果と、X線回折法による分析により、実施例1の表面被覆蛍光体粒子では、蛍光体粒子の最表面の少なくとも一部を(NH4)3AlF6が構成しており、実施例2~5の表面被覆蛍光体粒子では、蛍光体粒子の最表面の少なくとも一部をAlF3が構成しているといえる。
また、比較例1、2では、蛍光体粒子の最表面には(NH4)3AlF6およびAlF3は存在しておらず、比較例3では、AlF3は存在しておらず、わずかに(NH4)3AlF6が存在していると考えられる。
【0060】
(フッ素元素の含有率)
各実施例の表面被覆蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率および各比較例の蛍光体粒子全体に対するフッ素元素の含有率を、試料燃焼装置(三菱化学アナリテック社製、AQF-2100H)およびイオンクロマト(日本ダイオネクス社製、ICS1500)を用いた分析結果を用いて算出した。
【0061】
(拡散反射率)
拡散反射率は、日本分光社製紫外可視分光光度計(V-550)に積分球装置(ISV-469)を取り付けて測定した。標準反射板(スペクトラロン)でベースライン補正を行い、各実施例の表面被覆蛍光体粒子または各比較例の蛍光体粒子を充填した固体試料ホルダーを取り付けて、波長300nmの光に対する拡散反射率、およびピーク波長の光に対する拡散反射率の測定を行った。
【0062】
(発光特性)
色度xは、分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定し、以下の手順で算出した。
各実施例の表面被覆蛍光体粒子または各比較例の蛍光体粒子を凹型セルの表面が平滑になるように充填し、積分球を取り付けた。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した青色単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を励起源として、蛍光体の試料に照射し、試料の蛍光スペクトル測定を行った。
得られた蛍光スペクトルデータからピーク波長およびピークの半値幅を求めた。
また、色度xは蛍光スペクトルデータの465nmから780nmの範囲の波長域データからJIS Z 8724:2015に準じ、JIS Z 8781-3:2016で規定されるXYZ表色系におけるCIE色度座標x値(色度x)を算出した。
【0063】
(高温高湿試験前後の発光強度比)
各実施例の表面被覆蛍光体粒子および各比較例の蛍光体粒子について、高温高湿試験を開始する前の発光強度I0を測定した。続いて、恒温恒湿器(ヤマト科学株式会社製、IW-222)を用いて、60℃、90%RHの環境に50時間載置する高温高湿試験後の発光強度I1を測定した。得られた測定値から発光強度比I1/I0(%)を算出した。
また、60℃、90%RHの環境に100時間載置し、高温高湿試験後の発光強度I2を測定した。得られた測定値から発光強度比I2/I0(%)を算出した。
発光強度比I1/I0、I2/I0に関して得られた結果を表1に示す。
なお、発光強度の測定は、ローダミンBと副標準光源により補正した分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F-7000)を用いて測定した。即ち光度計に付属の固体試料ホルダーを使用し、励起波長455nmでの蛍光スペクトルを測定した。
各実施例の表面被覆蛍光体粒子および比較例3の蛍光体粒子の蛍光スペクトルのピーク波長は656nmであった。また、比較例1、2の蛍光体粒子の蛍光スペクトルのピーク波長は657nmであった。蛍光スペクトルのピーク波長における強度値を表面被覆蛍光体粒子または蛍光体粒子の発光強度とした。
【0064】
【0065】
表1に示すように、蛍光体粒子の最表面の少なくとも一部がフッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含む被覆部で構成された実施例1~5は、50時間の高温高湿試験を経た後の発光強度の低下が顕著に抑制されており、比較例1~3と比べて、発光強度比I1/I0が大幅に高くなっており、耐湿性が優れていることが確認された。また、実施例2~4は、100時間の高温高湿試験を経た後の発光強度比I2/I0が50時間の高温高湿試験を経た後の発光強度比I1/I0からほとんど低下しておらず、耐湿性が特に優れていることが確認された。
なお、比較例3では、(NH4)3AlF6の生成量が不十分であるため、十分な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0066】
この出願は、2019年4月9日に出願された日本出願特願2019-074459号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。