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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】酸化物系固体電解質粒子
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20240620BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240620BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240620BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20240620BHJP
   H01G 9/032 20060101ALI20240620BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20240620BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20240620BHJP
【FI】
H01B1/08
H01B1/06 A
H01M10/052
C01G23/00 B
H01G9/032
H01G11/56
H01M10/0562
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021519375
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018343
(87)【国際公開番号】W WO2020230657
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019090201
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堺 英樹
(72)【発明者】
【氏名】西島 一元
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502746(JP,A)
【文献】特開2011-119158(JP,A)
【文献】特開2012-184138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/08
H01B 1/06
H01M 10/052
C01G 23/00
H01G 9/032
H01G 11/56
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体の製造に用いられる酸化物系固体電解質粒子であって、
下記一般式(I)
2/3-xLi3xTiO3 (I)
(式中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
で表される化合物を含み、平均粒径D50が0.2μm~0.6μmであり、BET比表面積が10.02/g~30.02/gであることを特徴とする酸化物系固体電解質粒子。
【請求項2】
前記一般式(I)A2/3-xLi3xTiO3で表される化合物中のAがLaであることを特徴とする請求項1に記載の酸化物系固体電解質粒子。
【請求項3】
当該酸化物系固体電解質粒子から作製した成形体について熱機械分析装置(TMA)で焼結開始温度を測定したとき、焼結開始温度が900℃以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物系固体電解質粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば二次電池の焼成型固体電解質等に用いて好適な酸化物系固体電解質粒子に関するものであり、特に、全固体電池の製造時等における酸化物系固体電解質粒子の低温焼結を可能にする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池のなかでも特に、電解質が固体からなる全固体リチウムイオン電池等の全固体電池は、液体電解質を用いるリチウムイオン電池に比して、優れた安定性及び信頼性、高エネルギー密度化、高出力化ならびに、広い作動温度等を実現できる可能性がある。それ故に、全固体電池は、自動車や電子機器、家庭用蓄電池等といった様々な用途での実用化が期待されている。
【0003】
この全固体電池は一般に、気相法により作製される薄膜型と、微粒子を焼結させて作製されるバルク型に大別される。このうち、バルク型の全固体電池は、集電体間に正極活物質と固体電解質と負極活物質の各粒子を層状に積層させ、所定の温度で加熱することにより、それらの粒子を焼結させて形成される。バルク型の全固体電池の固体電解質は、固体電解質粒子を焼結させて得られるので、焼成型固体電解質と称されることがある。
【0004】
全固体電池の焼成型固体電解質に用いる材料の候補としては、種々のものが提案されているが、その材料の選定は、電池性能を大きく左右することから重要になる。それらのなかでも、A2/3-xLi3xTiO3(0<x<0.16、A:ランタノイドから選択される一種以上の元素)で表される複合酸化物(いわゆる酸化物系固体電解質)、特にAがLaであるペロブスカイト結晶構造の複合酸化物(いわゆるLLTO)は、高いイオン伝導率、安定性及び耐久性を有すること等の理由から有望視されている。
【0005】
この種の酸化物系固体電解質について記載された文献としては、たとえば特許文献1及び2がある。
特許文献1には、「二次電池であって、正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に介在された固体電解質層を備えてなり、前記正極及び前記負極が、固体電解質粒子として、第1固体電解質粒子のみを含んでなり、前記固体電解質層が、固体電解質粒子として、第2固体電解質粒子のみを含んでなり、前記第2固体電解質粒子の平均粒径が、前記第1固体電解質粒子の平均粒径よりも大きいものであり、前記第1固体電解質粒子の平均粒径が、1nmから100nmであり、前記第2固体電解質粒子の平均粒径が、2μmから10μmであり、前記第1固体電解質粒子及び前記第2固体電解質粒子が、下記化学式(1)で表わされる複合酸化物であり、Li3xLa(2/3-x)TiO3(0<x<0.16) 化学式(1) 前記第1固体電解質粒子内の2次相の比率が、前記第1固体電解質粒子の総重量に対して0.1重量%から5重量%であり、前記第2固体電解質粒子内の2次相の比率が、前記第2固体電解質粒子の総重量に対して0.1重量%から5重量%であることを特徴とする、二次電池」が開示されている。この特許文献1には、「前記第1固体電解質粒子の比表面積(BET)が100m2/gから400m2/gであり、前記第2固体電解質粒子の比表面積(BET)が10m2/gから50m2/gである」と記載されている。
【0006】
特許文献2には、「下記化学式(1)で表される固体電解質粒子を製造する方法であって、Li3xLa(2/3-x)TiO3(0<x<0.16) (1) 水系溶媒又は有機溶媒の下、チタン前駆体、ランタン前駆体、リチウム前駆体を混合し、前駆体溶液を製造する段階と、及び前記前駆体溶液を熱処理する段階とを含んでなり、前記チタン前駆体が、平均粒径(D50)が、0.5nmから10nmであるチタン酸化物粒子を含んでなり、前記固体電解質粒子の平均粒径(D50)が、20nmから100nmであることを特徴とする、固体電解質粒子の製造方法」が提案されている。特許文献2では、「本発明の一実施形態によれば、前記固体電解質層をなす固体電解質粒子の比表面積は200m2/gから400m2/gであることが好ましい。」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5957618号公報
【文献】特許第6181199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような焼成型固体電解質の形成に用いられる酸化物系固体電解質等では、比較的低温の加熱で焼結して、所定の高いイオン伝導率を発揮し得るものであることが求められる。これはすなわち、高い温度に加熱しなければ焼結しない酸化物系固体電解質では、正極活物質と負極活物質との間に配置して焼結させるべく当該高温に加熱した際に、正極活物質や負極活物質との間で反応が生じ、それらの界面で、イオン伝導率を低下させ得る物質が生成するおそれがあること等の理由によるものである。
【0009】
しかしながら、これまでのA2/3-xLi3xTiO3(0<x<0.16、A:ランタノイドから選択される一種以上の元素)の酸化物系固体電解質は、ある程度の高温に加熱しなければ焼結しないものであった。したがって、かかる酸化物系固体電解質は、たとえば焼成型固体電解質の形成等に用いるには、この点で改善が必要である。
【0010】
特許文献1及び2に記載された酸化物系固体電解質粒子では、このような低温焼結を実現することができなかった。なお、特許文献1及び2の酸化物系固体電解質粒子は、焼成型固体電解質に用いられるものではなく、スクリーン印刷及び乾燥により固体電解質を形成するものであるから、そもそも上述したような低温焼結が要求されない。
【0011】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、比較的低い温度で焼結することができる酸化物系固体電解質粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討の結果、所定の粒径かつ所定の比表面積を有する酸化物系固体電解質粒子であれば、その焼結温度が有意に低下することを新たに見出した。
【0013】
このような知見の下、この発明の酸化物系固体電解質粒子は、焼結体の製造に用いられるものであって、下記一般式(I)
2/3-xLi3xTiO3 (I)
(式中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
で表される化合物を含み、平均粒径D50が0.1μm~1.0μmであり、BET比表面積が5.0m2/g~100.0m2/gであることを特徴とするものである。
【0014】
なお、前記一般式(I)A2/3-xLi3xTiO3で表される化合物中のAは、Laとすることができる。
また、この発明の酸化物系固体電解質粒子は、当該酸化物系固体電解質粒子から作製した成形体について熱機械分析装置(TMA)で焼結開始温度を測定したとき、焼結開始温度が900℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の酸化物系固体電解質粒子は、比較的低い温度で焼結することができる。それにより、当該酸化物系固体電解質粒子は、全固体電池を含む二次電池の焼成型固体電解質に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例1のX線回折パターンを示すグラフである。
図2】比較例2のX線回折パターンを示すグラフである。
図3参考例1のX線回折パターンを示すグラフである。
図4参考例2のX線回折パターンを示すグラフである。
図5参考例1の固体電解質粒子のSEM画像である。
図6参考例2の固体電解質粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の酸化物系固体電解質粒子(単に「酸化物系固体電解質」という。)は、たとえば二次電池の焼成型固体電解質に用いられる粒子状ないし粉末状等のものであり、下記一般式(I)
2/3-xLi3xTiO3 (I)
(式中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
で表される化合物を含み、該一般式(I)中のAは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)から選択される一種以上のランタノイドである。
また、この発明の一の実施形態の酸化物系固体電解質は、平均粒径D50が0.1μm~1.0μmであり、BET比表面積が5.0m2/g~100.0m2/gである。
【0018】
(組成)
酸化物系固体電解質は、上記一般式(I)で表される化合物を含むものである。この化合物は、より具体的には、LLTO等の複合酸化物である場合がある。酸化物系固体電解質は、特に、上記一般式(I)中のAがLaであるLa2/3-xLi3xTiO3(0.04<x<0.14)の化合物を含むことが好適である。たとえば、一般式(I-a)で表されるLaxLi2-3xTiO3-aSrTiO3、一般式(I-b)で表されるLaxLi2-3xTiO3-aLa0.50.5TiO3、一般式(I-c)で表されるLaxLi2-3xTi1-aa3-a、又は、一般式(I-d)で表されるSrx-1.5aLaaLi1.5-2xTi0.5Ta0.53(式(I-a)から式(I-d)中、xは、0.55≦x≦0.59を満たし、aは、0≦a≦0.2を満たし、Mは、Al、Fe、Gaから選択される少なくとも一種である。)で表され、Al23含有量としては0.35重量%以下、かつSiO2含有量としては0.1重量%以下であるもの等が挙げられる。
【0019】
酸化物系固体電解質が、上記一般式(I)で表される化合物を含むことは、粉末X線回折法により確認することができる。粉末X線回折法では、PANalytical X’pert Proにより得られた酸化物系固体電解質のX線回折パターンを、ICDDデータベース(PANalytical Example DatabaseとPDF-4+ 2019RDB)と照合して、酸化物系固体電解質中に含まれる上記一般式(I)で表される化合物を同定する。
【0020】
ここでは、粉末X線回折法により得られノイズを除去した酸化物系固体電解質のX線回折パターンを上記ICDDデータベースと照合して、該酸化物系固体電解質のX線回折パターン中に上記一般式(I)で表される化合物のX線回折パターンが存在すると認められる場合に、酸化物系固体電解質中に上記一般式(I)で表される化合物が含まれていると判断する。一方、同様に上記ICDDデータベースと照合して、該酸化物系固体電解質のX線回折パターン中に上記一般式(I)で表される化合物のX線回折パターンが存在しないと認められない場合には、酸化物系固体電解質中に上記一般式(I)で表される化合物が含まれていないと判断する。
【0021】
酸化物系固体電解質中の上記一般式(I)で表される化合物は、酸素の一部がFやClなどの他の元素に置換されている場合や、遷移金属の一部が、Fe、Cr、Ti、Nb、W、Mo、Na、K、Mg、Caなどの他の金属で置換されている場合がある。また、上記一般式(I)で表される化合物の化学量論組成に対してLiや酸素が過剰か欠損の場合もある。さらに、酸化物系固体電解質中の上記一般式(I)で表される化合物の結晶構造に歪みが生じている場合もある。この発明の実施形態においては、このような化合物の化学量論組成に対して構成元素の置換、欠損もしくは過剰の場合、または結晶構造に歪みが生じた場合についても、酸化物系固体電解質の特性に変化が生じない範囲内であれば、上記一般式(I)で表される化合物として許容され得る。
なお、構成元素が欠損している化合物や構成元素が過剰な化合物の各X線回折パターンを上記ICDDデータベースに照合した場合、上記一般式(I)で表される化合物のX線回折パターンからピークがシフト(ピークシフト)する可能性がある。しかしながら、この発明の実施形態においては、そのようなピークシフトについても、上記ICDDデータベースのリファレンス値に対して±10%以内であれば、酸化物系固体電解質中に上記一般式(I)で表される化合物が含まれていると判断する。
【0022】
酸化物系固体電解質中に、上記一般式(I)で表される化合物は、99.0質量%以上で含まれることが好ましく、さらに99.5質量%以上で含まれることがより一層好ましい。この化合物の含有量は多いほど望ましいので、その好ましい上限値は特にないが、たとえば99.999質量%以下、典型的には99.99質量%以下になることがある。当該化合物の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)により測定する。
酸化物系固体電解質は、上記一般式(I)で表される化合物の他、不純物として、Si、Al及びFeからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがある。当該酸化物系固体電解質中の不純物の含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0023】
一般に、固体電解質とは、外部から加えられた電場によってイオン(帯電した物質)を移動させることができる固体と認識されている。また、固体電解質からは、イオンの移動を利用して電力を取り出すこともできる。この発明の実施形態においては、酸化物である固体電解質(酸化物系固体電解質)を対象とする。この発明の実施形態の酸化物系固体電解質は、二次電池の発電材料や電解コンデンサの電極導体に用いることができるほか、ガスセンサやガス分離・製造などの各種固体電解質デバイスへ適用することも考えられる。
【0024】
この発明の実施形態においては、上記一般式(I)で表される化合物を含む酸化物系固体電解質を、たとえば二次電池の発電材料に適用する場合に、27℃で測定したときのリチウムイオン伝導率が、たとえば5×10-4Scm-1以上、さらに6×10-4Scm-1以上であることが好ましい。酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導率を測定するには、インピーダンス法を用いる。
インピーダンス法による酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導率の測定例は、以下に示すとおりである。なお、ここでは、上記一般式(I)で表される化合物を含む酸化物系固体電解質を用いた測定手順を例に挙げて説明する。
1MのLiCl水溶液を、10mm角の2枚の濾紙に染み込ませ、厚さ2mmの上記一般式(I)で表される化合物を含む酸化物系固体電解質のプレートの両面に張り付ける。上記一般式(I)で表される化合物を含む酸化物系固体電解質は14mm角、濾紙は10mm角で用意する。これを、ステンレス鋼からなる電極で挟み込む。ここでは、濾紙に染み込ませたLiCl水溶液が、電解質として使われる。上記一般式(I)で表される化合物を含む酸化物系固体電解質の粒界の影響を明らかにするために、イオン伝導率は、13MHzまで5Hzの周波数レンジで、LCRメータ(ヒューレッドパッカード社製、HP4192A)を用いたACインピーダンス法で測定する。
【0025】
(粒径)
粉末状の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は、0.1μm~1.0μmとする。平均粒径D50がこの範囲内であり、かつ、後述するようにBET比表面積が所定の範囲内であれば、たとえば1000℃以下の比較的低温の加熱で、粒子同士の固結が始まって焼結が開始される。この温度を、本明細書では「焼結開始温度」と記載することがある。これは高温時の原子の移動によるものと考えられるが、このような理論に限定されない。
なお、これまでの酸化物系固体電解質に含まれる複合酸化物粒子は、1400℃以上の高温に加熱しなければ焼結が始まらなかった。これに対し、この発明の実施形態の酸化物系固体電解質では、その焼結開始温度を1000℃以下、好ましくは900℃以下、より好ましくは200℃~900℃まで低くすることができる場合がある。これにより、酸化物系固体電解質を全固体電池等の電池の製造に用いた場合、より有効な低温焼結が可能になる。このような低い焼結温度は、酸化物系固体電解質の先述した平均粒径D50、後述するBET比表面積等により実現することができる。焼結開始温度は、熱機械分析装置(TMA)に基いて決定することができる。
【0026】
熱機械分析装置(TMA)を用いた酸化物系固体電解質の焼結開始温度の測定例は、以下に示すとおりである。
まず、0.5gの酸化物系固体電解質に対して40MPaの一軸圧縮を施して圧粉体を作製する。次いで、この圧粉体を冷間等方圧加圧装置に配置し、該圧粉体に対して200MPaの圧力で冷間等方圧加圧(CIP)を行う。これにより、直径5mm、長さ10mmの円柱状の成形体を得る。その後、この成形体の焼結開始温度を、熱機械分析装置(TMA)により測定する。
なお、焼結開始温度は、熱機械分析装置(TMA)を用いて空気中で酸化物系固体電解質の成形体を5℃/分で昇温した際の、相互に接触した粒子(相互接触粒子)の長さの収縮率が0.1%に達したときの温度を意味する。通常、粒子の焼結は、焼結前の粒子の消耗と粒子同士の接合部の成長によって進行し、同時に収縮が起こる。すなわち、ここでいう収縮率とは、複数の粒子を焼結させた場合において、焼結前の相互接触粒子の長さL1に対する、焼結前の相互接触粒子の長さL1と焼結後の相互接触粒子の長さL2の差ΔL(=L1-L2)の比(ΔL/L1)の百分率(%)を意味する。この発明においては、TMAにより測定時に、該収縮率が0.1%となった時の温度を焼結開始温度とする。
【0027】
また、酸化物系固体電解質の平均粒径D50をこのように比較的小さくすることにより、焼結時の密度を高めることができる。その結果として、イオン伝導率が向上し、全固体電池の焼成型固体電解質に好適に用いることができる。
【0028】
平均粒径D50が1.0μmを超える場合は、そのような低温焼結の実現が困難となる可能性がある。一方、平均粒径D50が0.1μm未満である場合は、粒子が微細になりすぎて凝集しやすくなる等といったように、ハンドリング性の点で不都合が生じる。この観点から、酸化物系固体電解質の平均粒径D50は、より好ましくは0.1μm~0.9μmとする。
【0029】
酸化物系固体電解質の平均粒径D50は、レーザー回折・散乱法により求められる粒度分布測定で、体積基準の累積分布が50%となる粒径を指し、JIS Z8825:2013に基いて測定する。
【0030】
(表面積)
酸化物系固体電解質のBET比表面積は、5.0m2/g~100.0m2/gとする。上述した平均粒径D50とともに、BET比表面積がこの範囲内になるように調整することにより、先に述べたように、低い温度での焼結が可能になる。BET比表面積が5.0m2/gを下回る場合は、焼結温度が十分に低下しない。また、BET比表面積が100.0m2/gより大きい場合は、ハンドリング性の低下といった不都合が生じる。それ故に、BET比表面積は、さらに5.0m2/g~50.0m2/gとすることがより一層好ましい。
【0031】
酸化物系固体電解質のBET比表面積は、BET法により測定する。
【0032】
(焼結体密度)
上述した酸化物系固体電解質は、それに対して200MPaの圧力で冷間等方圧加圧(CIP)を行って得られる成形体を焼結して得られた焼結体の密度(焼結体密度)が、4.50g/cm3~5.23g/cm3になることが好ましい。この場合、焼成型固体電解質を形成する際の焼結で、酸化物系固体電解質の粒成長が促進されて、イオン伝導率がさらに向上する。
【0033】
焼結体密度は、4.90g/cm3~5.23g/cm3であることがより一層好ましい。焼結体密度が低すぎると、イオン伝導性が低下するおそれがある。
【0034】
焼結体密度は具体的には次のようにして測定する。はじめに、0.5gの酸化物系固体電解質に対して40MPaの一軸圧縮を施して圧粉体を作製する。次いで、この圧粉体を冷間等方圧加圧装置に配置し、該圧粉体に対して200MPaの圧力で冷間等方圧加圧を行う。これにより、直径5mm、長さ10mmの円柱状の成形体を得る。そして、得られた成形体を焼結して焼結体を得る。その後、この焼結体の密度を、焼結体の寸法と重量により測定する。なお、この発明の実施形態の酸化物系固体電解質では、その焼結温度を1000℃以下、好ましくは900℃以下、より好ましくは200℃~900℃とすることができる場合がある。
【0035】
(製造方法)
上述した酸化物系固体電解質を製造するには、たとえば、原料準備工程、第一湿式粉砕工程、仮焼工程、第二湿式粉砕工程、乾式粉砕工程および微粒子化工程をこの順に行うことにより製造することができる。より詳細には以下のとおりである。
【0036】
はじめに、リチウム原料として水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物を、またチタン原料として酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸等のチタン化合物を、さらにランタン原料として酸化ランタンをそれぞれ準備する原料準備工程を行う。なお必要に応じて、Sr、K、Fe、Ga及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の水酸化物、塩化物及び/又は炭酸塩等も準備する。
【0037】
原料準備工程では、チタン原料として、粒径の比較的小さい酸化チタン等のチタン化合物を準備することが重要である。これにより、製造しようとする酸化物系固体電解質の平均粒径D50及びBET比表面積をそれぞれ所定の範囲内に調整しやすくなる。但し、チタン化合物の粒径が小さすぎると、ハンドリング性に問題が生じる。具体的には、酸化チタン等のチタン化合物の平均粒径D50は、好ましくは0.1μm~1.0μm、より好ましくは0.1μm~0.9μmとする。また、チタン原料として用いるチタン化合物は、BET比表面積が、好ましくは5.0m2/g~100.0m2/g、より好ましくは5.0m2/g~50.0m2/gである。チタン化合物の平均粒径D50及びBET比表面積はそれぞれ、酸化物系固体電解質の平均粒径D50及びBET比表面積について先に述べた方法と同様にして測定する。
【0038】
次いで、第一湿式粉砕工程として、上記のリチウム原料、チタン原料及びランタン原料等の原料を所定のモル比で、ボールミル等にて混合して粉砕する。ボールミルには、純水とエタノール等のアルコールの混合溶媒及び、必要に応じて界面活性剤等の分散媒を投入し、その状態で原料の粉砕を行う。なお、リチウム原料は、仮焼工程及び焼結工程での揮発分を考慮して、所期する組成のリチウム量よりも0重量%~15重量%多く添加することがある。
【0039】
ここで、ボールミルに投入する溶媒として、純水とアルコールの混合溶媒を用いることにより、原料が凝集せず分散しやすくなるので、水のみで粉砕する場合よりも粉砕時間を短縮することができる。
【0040】
またここでは、ボールミルで、たとえば、20分~50分にわたって粉砕した後、10時間~20時間放置し、その後、再度20分~50分の粉砕を行うことができる。粉砕の間に10時間~20時間放置することにより、原料のリチウム化合物、ランタン化合物の一部が溶出してその粒径が小さくなるので、粉砕に要する時間を短縮することができる。
このようにして粉砕時間を短縮すれば、アルミナライニングボールミルを用いた場合のAl23及びSiO2成分の混入を抑制することができる。
【0041】
なお、ボールミルのなかでも、ウレタンライニングボールミル、ナイロン製ボールミル、天然ゴムライニングボールミル等を用いることが好適である。これにより、アルミナライニングボールミルを用いる場合のAl23及びSiO2成分の混入が抑制される。粉砕メディアには、ジルコニアメディア、アルミナメディアを用いることができる。
【0042】
第一湿式粉砕工程では、粉砕の後、スプレードライヤー乾燥機、流動層乾燥機、転動造粒乾燥機、凍結乾燥機または熱風乾燥機等を用いて乾燥する。なお、スプレードライヤー乾燥機を用いる場合、たとえば、熱風入口温度を200~250℃、排風温度を90~120℃とすることができる。これにより、第一粉砕粉末が得られる。
【0043】
上記の第一粉砕粉末に対しては、必要に応じて所定の目開きの篩で篩別した後、1000℃~1200℃で1時間~12時間にわたって加熱する仮焼工程を行う。仮焼工程では、酸素雰囲気もしくは大気雰囲気または、窒素等の不活性ガス雰囲気とすることができる。なお、仮焼後には、所定の目開きの篩にて篩別することができる。仮焼工程を経ることにより、仮焼粉末が得られる。
【0044】
そして、仮焼粉末を、ボールミル等で溶媒を加えて粉砕する第二湿式粉砕工程を行う。第二湿式粉砕工程も、ボールミルに、純水とエタノール等のアルコールの混合溶媒及び、必要に応じて界面活性剤等の分散媒を投入して行われる。またここでも、アルミナライニングボールミル、ウレタンライニングボールミル、ナイロン製ボールミル、天然ゴムライニングボールミルを用いることができる。粉砕メディアはジルコニアメディア、アルミナメディアを用いることができる。ボールミルによる湿式粉砕に加えて又は代えて、ビーズミルによる湿式粉砕を行ってもよい。なお、粉砕時間は1時間~6時間とすることができる。また、粉砕後は、第一湿式粉砕工程と同様にして乾燥することができる。第二湿式粉砕工程では第二粉砕粉末が得られる。
【0045】
しかる後は、第二粉砕粉末に対して乾式粉砕工程を行うことができる。ここでは、ボールミル等を用いて第二粉砕粉末を乾式で粉砕し、第三粉砕粉末とする。ボールミルとしては、アルミナライニングボールミル、ウレタンライニングボールミル、ナイロン製ボールミル、天然ゴムライニングボールミル等を、また粉砕メディアとしては、ジルコニアメディア、アルミナメディア等をそれぞれ用いることができる。粉砕時間は、たとえば2時間~10時間とする。但し、乾式粉砕工程は省略することもある。
【0046】
さらにその後、必要に応じて、第二粉砕粉末又は第三粉砕粉末を微粒子化する微粒子化工程を行うことができる。微粒子化工程を行った場合、第二粉砕粉末又は第三粉砕粉末は粉砕ないし解砕されて、より粒径が小さくなる。微粒子化工程では、乾式もしくは湿式のジェットミル、ボールミル又はビーズミル等を用いることができるが、なかでも、ジェットミルが粉砕効率の点で好ましい。
上記の乾式粉砕工程の後、又は、微粒子化工程の後、先に述べたような酸化物系固体電解質が得られる。
【0047】
(二次電池)
以上に述べた酸化物系固体電解質を用いて、二次電池を作製することができる。ここでいう二次電池は、充電可能であって繰返し使用できる蓄電池を意味し、液体電解質を用いたものや、固体電解質を用いたものが含まれる。液体電解質を用いた二次電池では、正極や負極を改善する目的で、上記の酸化物系固体電解質を混ぜ込むことがある。酸化物系固体電解質は典型的には、固体電解質を含む全固体電池に好適に用いられ得る。
【0048】
全固体電池は、たとえば、少なくとも、正極活物質粒子を層状に配置した正極層と、負極活物質粒子を層状に配置した負極層と、正極層及び負極層の間に位置し、酸化物系固体電解質を層状に配置した固体電解質層とを有することがある。正極層や負極層内には、一部の酸化物系固体電解質が存在し得る。なお一般に、全固体電池は、正極層及び負極層のそれぞれの外側に、それらの正極層、固体電解質層及び負極層を両側から挟むように設けられる集電体をさらに有する。このような全固体電池は、真空蒸着法等の気相法により薄膜を積層させて形成される薄膜型の全固体電池と区別して、バルク型の全固体電池と称されることがある。
【0049】
バルク型の全固体電池を作製する方法の一例としては、集電体の間に、正極活物質粒子、酸化物系固体電解質及び負極活物質粒子を層状に積層させる。そして、それらの正極活物質粒子、酸化物系固体電解質及び負極活物質粒子を、所定の温度に加熱して焼結させる。これにより、所要のイオン伝導率を発揮し得る全固体リチウムイオン電池等の全固体電池が得られる。なお、バルク型の全固体電池では、正極層や負極層内にも酸化物系固体電解質が焼結して配置され得るので、そこでのイオン伝導経路が確保されて、高い伝導率を有するものになる。この場合、固体電解質層のみならず正極層や負極層にも、焼成型固体電解質が存在する。
【0050】
仮に、酸化物系固体電解質が比較的高い温度で加熱しなければ焼結しないものであった場合、バルク型の全固体電池を作製する際に、当該酸化物系固体電解質を焼結させるべく高温に加熱することが必要になる。但し、層状に積層させた正極活物質粒子、酸化物系固体電解質及び負極活物質粒子を高温に加熱すると、正極活物質粒子や負極活物質粒子と酸化物系固体電解質とが反応し、正極層や負極層と固体電解質層との界面に、意図しない物質が生成して、イオン伝導率を低下させるおそれがある。
これに対し、先に述べた実施形態の酸化物系固体電解質は低温焼結が可能になるので、バルク型の全固体電池に用いた場合に、各層の界面への、イオン伝導率を低下させ得る物質の生成を抑制することができる。それ故に、所要の電池性能を有するバルク型の全固体電池を有効に作製することができる。つまり、ここで述べた実施形態の酸化物系固体電解質は、全固体電池の焼成型固体電解質に好適に用いることができる。
【実施例
【0051】
次に、この発明の酸化物系固体電解質を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0052】
(製造方法)
原料として、炭酸リチウム(Sociedad Quimica y Minera de Chile S.A.製、純度99.2質量%以上)、酸化ランタン(宣興新威利成稀土有限公司製、純度99.99質量%以上)、酸化チタン(東邦チタニウム株式会社製、純度99.99質量%以上)を準備した。酸化チタンとしては、比較例1及び2では、平均粒径D50が2.3μm、BET比表面積が2.0m2/gであるものを、また参考例1及び2では、平均粒径D50が0.8μm、BET比表面積が6.0m2/gであるものをそれぞれ用いた。比較例3では、平均粒径D50が2.2μm、BET比表面積が2.0m2/gである酸化チタンを用いた。参考例3では、平均粒径D50が0.8μm、BET比表面積が5.0m2/gである酸化チタンを用いた。実施例では、平均粒径D50が2.2μm、BET比表面積が2.0m2/gである酸化チタンを用いた。
【0053】
上記の原料を秤量し、イオン交換水35L及びエタノール35Lならびに、アルミナメディア(径3mm)200kgとともに、ウレタンライニングボールミル(容量200L)に投入した。そして、粉砕を30分間行った後、当該ボールミル内で15時間放置し、さらにその後、再度粉砕を30分間行った。この粉砕後、スプレードライヤーにより乾燥し、第一粉砕粉末を得た。乾燥は、原料供給量:10~30L/h、熱風入口温度:200~250℃、排風温度:90~120℃の条件とした。
【0054】
次いで、第一粉砕粉末をコウジライトムライト材質の匣鉢内に投入し、電気炉にて仮焼を行った。仮焼条件は、大気雰囲気、仮焼温度:1150℃、仮焼時間:2時間とした。
【0055】
その後、仮焼で得られた仮焼粉末70kgを、イオン交換水60L及び、分散剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩700gならびに、ジルコニアメディア(径3mm)200kgとともに、ウレタンライニングボールミル(容量200L)に投入し、粉砕を6時間行った。粉砕後、アクリル樹脂系バインダー4.5kgを投入し、15分間混合を行った。その後、スプレードライヤーにより乾燥し、第二粉砕粉末を得た。乾燥は、原料供給量:10~30L/h、熱風入口温度:200~250℃、排風温度:90~120℃の条件とした。
【0056】
そして、第二粉砕粉末を、アルミナメディアとともにテフロンライニングボールミル(「テフロン」は登録商標)に投入し、4時間にわたって乾式粉砕を行った。これにより、第三粉砕粉末を得た。
【0057】
その後、ジェットミル((株)セイシン企業社製のSTJ-200)を用いて、第三粉砕粉末の微粒子化を行った。ジェットミルでの微粒子化の条件は、処理量11kg/hr、プレッシャー圧力0.7MPa、グライディング圧力0.7MPaとした。なお、比較例1及び参考例1では、この微粒子化を行わなかった。
【0058】
実施例及び実施例では、仮焼粉末に対してボールミルによる湿式粉砕を行った後にさらに、ビーズミルによる湿式粉砕を行って第二粉砕粉末を得たこと、並びに、この第二粉砕粉末に対して微粒子化を行ったことを除いて、上述したところと実質的に同様にして酸化物系固体電解質を製造した。
より詳細には、実施例及び実施例では、仮焼で得られた仮焼粉末400gを、イオン交換水1.2L及び、分散剤としてのポリアクリル酸アンモニウム塩4gならびに、ジルコニアメディア(径3mm)5kgとともに、ウレタンライニングボールミル(容量5L)に投入し、粉砕を19時間行った。
次いで、得られたスラリー1600gを、ビーズミル(装置名:MINICer)で1時間にわたって湿式粉砕を行った。ビーズミルのメディアの径は、実施例では0.3mmとし、実施例では0.1mmとした。
その後、スプレードライヤーにより乾燥し、第二粉砕粉末を得た。乾燥は、原料供給量:10~30L/h、熱風入口温度:200~250℃、排風温度:90~120℃の条件とした。
そして、実施例及びでは乾式粉砕を省略し、この第二粉砕粉末に対して、上記と同様の条件でジェットミルによる微粒子化を行った。
【0059】
(評価)
上記のようにして得られた比較例1、2及び参考例1、2のそれぞれに対し、PANalytical X’pert Proを用いて、粉末X線回折法を行い、それにより得られた各X線回折パターンについて、ICDDデータベース(PANalytical Example DatabaseとPDF-4+ 2019RDB)と照合した。比較例1のX線回折パターンを図1に、比較例2のX線回折パターンを図2に、参考例1のX線回折パターンを図3に、参考例2のX線回折パターンを図4にそれぞれ示す。粉末X線回折法及び同定は具体的には、先述した方法に基いて行った。
その結果、比較例1、2及び参考例1、2はいずれも、X線回折パターン中に上記一般式(I)で表される化合物のX線回折パターンが存在していたことから、La0.57Li0.29TiO3が含まれる酸化物系固体電解質であることが確認された。比較例3、参考例3及び実施例1~3についても、図示は省略するがX線回折パターンより、La0.57Li0.29TiO3が含まれる酸化物系固体電解質であることが確認された。
【0060】
また、比較例1~3、参考例1~3及び実施例1~の各酸化物系固体電解質の平均粒径D50及びBET比表面積をそれぞれ、先述した方法に基いて、LA-920及びマックソーブを用いて測定した。その結果、表1及び表2に示すように、比較例1の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は41.9μm、BET比表面積は1.0m2/gであった。比較例2の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は20.0μm、BET比表面積は2.0m2/gであった。比較例3の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は1.3μm、BET比表面積は2.0m2/gであった。参考例1の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は1.0μm、BET比表面積は5.0m2/gであった。参考例2の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は0.9μm、BET比表面積は5.0m2/gであった。参考例3の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は1.0μm、BET比表面積は5.0m2/gであった。実施例の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は0.6μm、BET比表面積は10.0m2/gであった。実施例の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は0.4μm、BET比表面積は25.0m2/gであった。実施例の酸化物系固体電解質の平均粒径D50は0.2μm、BET比表面積は30.0m2/gであった。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
参考として、参考例1の酸化物系固体電解質のSEM画像を図5に示し、参考例2の酸化物系固体電解質のSEM画像を図6に示す。
【0064】
また、比較例1~3、参考例1~3及び実施例1~の各酸化物系固体電解質を用いて、表3及び表4に示す各条件にて、一軸圧縮及び冷間等方圧加圧(CIP)をこの順序で行い、成形体を得た。具体的には、0.5gの酸化物系固体電解質に対して40MPaの一軸圧縮を施して圧粉体を作製した。次いで、この圧粉体を冷間等方圧加圧装置に配置し、該圧粉体に対して200MPaの圧力で冷間等方圧加圧(CIP)を行った。これにより、直径5mm、長さ10mmの円柱状の成形体を得た。
それらの各成形体に対し、上述した熱機械分析装置(TMA、リガク株式会社製TMA8310)を使用して表3及び表4に示す条件で、空気中で加熱した。なお、本測定における到達温度は1350℃である。表3及び表4には、一軸圧縮、CIP及びTMAの各処理後に測定した各密度も示した(試験例1~14)。なお、一軸圧縮にはENERPAC社製のESE-433-00を、またCIPにはエヌピーエーシステム(株)社製のCPP28-300Bをそれぞれ用いた。また、試験例4では、CIP条件を150MPaとした。
【0065】
ここで、試験例1~14では、表3及び表4に示した条件によりTMAで加熱した成形体の収縮率が0.1%に達したときの、各実施例、参考例及び各比較例の焼結開始温度とした。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
表3及び表4から解かるように、参考例1~3及び実施例1~の酸化物系固体電解質を用いた試験例3~9、11~14ではいずれも、特に焼結開始温度を900℃以下に十分に低くすることができた。
このことから、この発明の酸化物系固体電解質は、比較的低い温度で焼結できる可能性があることが示唆された。
【0069】
また、参考例2の酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導率を、以下の手順に沿って測定した。
まず、1MのLiCl水溶液を、10mm角の2枚の濾紙に染み込ませ、厚さ2mmの参考例2の酸化物系固体電解質のプレートの両面に張り付けた。参考例2の酸化物系固体電解質は14mm角、濾紙は10mm角で用意した。これを、ステンレス鋼からなる電極で挟み込んだ。ここでは、濾紙に染み込ませたLiCl水溶液が、電解質として使われた。参考例2の酸化物系固体電解質の粒界の影響を明らかにするために、イオン伝導率は、13MHzまで5Hzの周波数レンジで、LCRメータ(ヒューレッドパッカード社製、HP4192A)を用いたACインピーダンス法で測定した。その結果、参考例2の酸化物系固体電解質のイオン伝導率は、5×10-4S/cm(全体の抵抗400Ω)であった。
また、参考例2と同様にして、比較例2の酸化物系固体電解質のイオン伝導率を測定したところ、5×10-4S/cm(全体の抵抗400Ω)であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6