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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20240620BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240620BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240620BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C21D8/12 B
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/60
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021536312
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 KR2019014623
(87)【国際公開番号】W WO2020130328
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165663
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ギュ-ソク
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,スン イル
(72)【発明者】
【氏名】ク,ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ソン ヨン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048377(JP,A)
【文献】特開2012-057190(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0073343(KR,A)
【文献】特開2003-253336(JP,A)
【文献】特開2017-222898(JP,A)
【文献】特開平02-159319(JP,A)
【文献】特開2012-188733(JP,A)
【文献】特開平07-118745(JP,A)
【文献】特開2000-199015(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0062833(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0174940(US,A1)
【文献】特開2018-125425(JP,A)
【文献】特表2015-526597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
H01F 1/12, 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01%~0.1%、Si:2.0%~4.0%、Mn:0.01%~0.20%、酸可溶性Al:0.010%~0.040%、N:0.001%~0.008%、S:0.004%~0.008%、Se:0.0001~0.008%、Cu:0.002~0.1%、Ni:0.005~0.1%、Cr:0.005~0.1%、P:0.005%~0.1%、Mo:0.001~0.1%およびSn:0.005%~0.20%を含有し、Sb:0.0005%~0.10%、Ge:0.0005%~0.10%、As:0.0005%~0.10%、Pb:0.0001%~0.10%およびBi:0.0001%~0.10%のうちの1種以上を含有し、残部Feおよびその他不可避な不純物からなるスラブを準備する段階と、
前記スラブを1280℃以下で加熱する段階と、
前記加熱されたスラブを熱間圧延および熱延板焼鈍して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延および中間焼鈍して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を600℃以上の温度で20℃/sec以上の昇温率で加熱して脱炭焼鈍と窒化処理をして一次再結晶させる段階と、
前記一次再結晶された鋼板をMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終焼鈍して二次再結晶させる段階とを含み、
前記熱間圧延する前のスラブ粗圧延段階において累積圧下率60%以上で粗圧延を施し、1回の圧下率が20%以上である粗圧延を1回以上施した後に熱間圧延を施し、
最終焼鈍後の磁束密度(B8)が1.92テスラ以上であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記一次再結晶させる段階において脱炭焼鈍と窒化処理を施して鋼板の総窒素含有量が0.01~0.05%であることを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記スラブ粗圧延段階において累積圧下率が70%以上で粗圧延を施すことを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷間圧延時に圧延温度を150~300℃の温度範囲で冷間圧延することを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記一次再結晶させる段階において、前記冷延板を600℃以上の温度で50℃/sec以上の昇温率で加熱して焼鈍することを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、より詳細には、鋼板の組成を制御し、同時に熱間圧延時に圧延条件を制御して集積度に優れた結晶方位を形成し、その結果、磁束密度をより向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、変圧機および発電機のような大型回転機などの電子機器製品用鉄心材料として使用されるため、電子機器の電力損失を減らすことによってエネルギー変換効率を向上させるためには、鉄心素材の磁束密度が高く、鉄損に優れて磁性が極めて優れた電磁鋼板が要求される。方向性電磁鋼板は、熱延、冷延および焼鈍工程を通じて二次再結晶された結晶粒が圧延方向に{110}<001>方向に配向された集合組織(別名「Goss Texture」ともいう)を有する機能性鋼板をいう。このような方向性電磁鋼板は、鋼板面の全ての結晶粒の方位が{110}面であり、圧延方向の結晶方位は<001>軸と平行な集合組織(Goss texture)をなして鋼板の圧延方向に磁気特性が非常に優れた軟磁性材料である。
【0003】
一般的に電磁鋼板の磁気特性は、磁束密度と鉄損で表現され、高い磁束密度は結晶粒の方位を{110}<001>方位に正確に配列することによって得られる。磁束密度が高い電磁鋼板は、電気機器の鉄心材料の大きさを小さくすることができるだけでなく、履歴損失が低くなって電気機器の小型化と同時に高効率化が可能である。鉄損は、鋼板に任意の交流磁場を加えた時、熱エネルギーとして消費される電力損失であり、鋼板の磁束密度と板厚さ、鋼板中の不純物量、比抵抗そして二次再結晶粒の大きさなどにより大きく変化し、磁束密度と比抵抗が高いほど、そして板厚さと鋼板中の不純物量が低いほど、鉄損が低くなって電気機器の効率が増加する。
【0004】
このように磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造するためには、鋼板の圧延方向に{110}<001>方位の集合組織で強く形成させなければならず、このような組織を形成させるためには、鋼板の成分、スラブの加熱条件、熱間圧延、熱延板焼鈍、一次再結晶焼鈍、二次再結晶のための最終焼鈍などの製造工程全体を各工程単位毎に非常に厳密に制御することが重要である。方向性電磁鋼板を製造するためには、一次再結晶粒の成長を抑制させるための成長抑制剤(以下、「抑制剤」という)を組織内に形成させておく必要があり、最終焼鈍工程で成長が抑制された結晶粒中で安定的に{110}<001>方位の集合組織を有する結晶粒が優先的に成長(以下、「二次再結晶」という)することができるように制御する必要がある。
【0005】
このような抑制剤は、微細な析出物や偏析された元素であり、二次再結晶が起こる直前の高温までは熱的に安定して存在しており、温度がさらに高くなれば成長または分解され、この時、比較的短時間で二次再結晶粒子が優先的に急速に成長するようになる。現在、広く利用されている抑制剤としては、MnS、AlN、MnSe(Sb)などがある。まず、MnSを結晶粒成長抑制剤として使用し、2回の冷間圧延および高温焼鈍を通じて製造される場合、磁束密度(B8、800A/mにおける磁束密度)が1.80テスラ(Tesla)水準であり、鉄損も比較的高い方であった。そしてAlNとMnS析出物を結晶粒成長抑制剤として複合的に利用し、80%以上の冷間圧延率で1回の強冷間圧延して製造される場合、磁束密度(B8)が1.87テスラ(Tesla)以上まで発揮する方向性電磁鋼板を製造する方法が知られている。
【0006】
しかし、このような磁束密度水準は、3%Siを含有する方向性電磁鋼板の理論的な飽和磁束密度2.03テスラ(Tesla)に比べればまだ改善が必要な水準であり、最近の変圧機の高効率化および小型化の需要に対応するためには磁束密度の向上が必要である。従来の磁束密度の向上技術として、高温焼鈍時に温度勾配焼鈍によって磁束密度(B8)が1.95テスラ(Tesla)以上である方向性電磁鋼板製造方法を提案した技術がある。しかし、この方法は、重量で10トン以上のコイル状態で高温焼鈍が行われる大量生産工程の側面でみると、コイルの一側面から加熱しなければならないため、エネルギー損失が高く、非効率的な製造方法で実際の生産ラインでは具現されていない。
【0007】
また他の磁束密度の改善方法として、AlN、MnS析出物を使用する方向性電磁鋼板成分系の溶鋼にBi含有物を添加して磁束密度(B8)が1.95テスラ(Tesla)以上である製品を得る製造方法が知られている。しかし、このような技術は、全てAlN、MnS析出物を複合使用する成分系であり、このような析出物を効率的に使用するためには、AlN、MnS析出物形成元素を含むスラブを1300℃以上で加熱して析出物を完全に固溶させる熱処理が必要であった。このような熱処理は、スラブ高温加熱によるエネルギー費用が上昇することと、高温でスラブが溶けて落ちるスラブウォッシングおよび熱延時にエッジクラック(edge crack)が発生して実収率が低下することから、高費用低効率の製造方法とみることができる。
【0008】
また、Bi添加を通じた高磁束密度特性の確保が可能であるというが、以前に提案された特許は、大部分Biを主に添加することによる表面および二次再結晶の不安定形成などが発生する問題点に着眼してそのような副作用を克服するために熱延以降の工程で多様な改善アイディアを提案したもので、実際の製造過程で安定的に生産することが難しく、多くの試行錯誤が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供するもので、具体的には、鋼板の組成を制御し、同時に熱間圧延と冷間圧延時に圧延条件を制御して集積度に優れた結晶方位を形成して、その結果、磁性をより向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による電磁鋼板は、重量%で、C:0.01%以下(0%を除く)、Si:2.0%~4.0%、Mn:0.01%~0.20%、酸可溶性Al:0.040%以下(0%を除く)、N:0.008%(0%を除く)、S:0.008%(0%を除く)、Se:0.0001~0.008%、Cu:0.002~0.1%、Ni:0.005~0.1%、Cr:0.005~0.1%、P:0.005%~0.1%およびSn:0.005%~0.20%を含有し、Sb:0.0005%~0.10%、Ge:0.0005%~0.10%、As:0.0005%~0.10%、Pb:0.0001%~0.10%、Bi:0.0001%~0.10%およびMo:0.001~0.1%のうちの1種以上を含有し、残部およびその他不可避な不純物からなり、最終二次再結晶後の磁束密度(B8)が1.92テスラ(Tesla)以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の最終二次再結晶後の二次再結晶粒に対する正確な{110}<001>ゴス方位との方位差が4°以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明による電磁鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.01%~0.1%、Si:2.0%~4.0%、Mn:0.01%~0.20%、酸可溶性Al:0.010%~0.040%、N:0.001%~0.008%、S:0.004%~0.008%、Se:0.0001~0.008%、Cu:0.002~0.1%、Ni:0.005~0.1%、Cr:0.005~0.1%、P:0.005%~0.1%およびSn:0.005%~0.20%を含有し、Sb:0.0005%~0.10%、Ge:0.0005%~0.10%、As:0.0005%~0.10%、Pb:0.0001%~0.10%、Bi:0.0001%~0.10%およびMo:0.001~0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Feおよびその他不可避な不純物からなるスラブを準備して段階と、前記スラブを1280℃以下で加熱する段階と、前記加熱されたスラブを熱間圧延および熱延板焼鈍して熱延板を製造する段階と、前記熱延板を冷却圧延および中間焼鈍して冷延板を製造する段階と、前記冷延板を600℃以上の温度で20℃/sec以上の昇温率で加熱して脱炭焼鈍と窒化処理をして一次再結晶させる段階と、前記一次再結晶された鋼板をMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して最終焼鈍して二次再結晶させる段階とを含み、前記熱間圧延する前にスラブ粗圧延段階において累積圧下率60%以上で粗圧延を施し、1回の圧下率が20%以上である粗圧延を1回以上施した後に熱間圧延を施すことを特徴とする。
【0013】
前記一次再結晶させる段階において前記脱炭焼鈍と窒化処理を施して鋼板の総窒素含有量が0.01~0.05%に形成させることを特徴とする。
【0014】
前記スラブ粗圧延段階において累積圧下率が70%以上で粗圧延を施すことを特徴とする。
【0015】
前記冷却圧延時に圧延温度を150~300℃の温度範囲で冷間圧延することを特徴とする。
【0016】
前記一次再結晶させる段階において、前記冷延板を600℃以上の温度で50℃/sec以上の昇温率で加熱して焼鈍することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電磁鋼板の組成を精密に制御し、熱間圧延段階で累積圧下率を高めることによって1.92テスラ(Tesla)以上の高磁束密度を有する優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。
本発明によれば、最終二次再結晶後に二次再結晶粒の方位が正確な(exact){110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2が4°以下にゴス方位集積度が高い方向性電磁鋼板を得ることができる。
本発明によれば、磁束密度が高くて磁気的特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができ、このような方向性電磁鋼板を利用して鉄心材料として利用した電子機器は磁気的特性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用される。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためだけに使用される。単数の形態は、特に記載がないなら、複数の形態も含む。ある部分が他の部分の「上に」あるとする場合、他の部分の「直上に」にあるか、またはその間にまた他の部分が介されことがある。ある部分が他の部分の「直上に」あるとする場合、その間に他の部分を介さない。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は多様な異なる形態に実現することができ、この実施形態に限定されない。
【0019】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板を製造することに当たり、磁束密度特性を向上させるための製造方法は次のとおりである。磁束密度に優れた方向性電磁鋼板を製造するためには、二次再結晶の核である正確なゴス方位(exact Goss texture)を有する結晶粒を鋼板内に多く形成させることが必要である。正確なゴス方位の結晶粒を多く作るためには、スラブ製造後に最初変形時からゴス方位結晶粒が多く発生することができるように加工条件を事前に制御しておく必要がある。この時、鋼板の組成中のP、Sn、Sb、Ge、As、PbおよびBiのような元素は結晶粒界に偏析して粗圧延時に結晶粒の変形抵抗を減らすことによって、ゴス以外の他の方位の再結晶を抑制する。
【0020】
その結果、熱間圧延時に粗圧延および熱間圧延後に鋼板内にはゴス方位結晶粒が多く存在するようになり、このような鋼板を冷延後に高温焼鈍した時、磁束密度に優れた方向性電磁鋼板を製造することができるようにする根拠となる。また、粒界偏析元素を添加することによってゴス方位結晶粒を増加させる方法以外に、粗圧延のような高温変形時に一定の圧下率以上に圧延するようになると、剪断変形が発生するようになり、これによって剪断変形集合組織であるゴス方位を有する結晶粒が鋼板内に多く存在するようになる。
【0021】
鋼板を1000℃以上の高温領域で変形させると動的回復あるいは動的再結晶現象が発生するようになる。このような変形量が増加することによって粒界に変形エネルギーが集中されるが、十分に高温である場合には粒界に集中された変形エネルギーが自然に解かれる現象を動的回復といい、粒界に集中した変形エネルギーによる再結晶現象が変形過程で連続的に発生する現象を動的再結晶という。本発明の一実施形態では、粒界偏析元素添加と共に粗圧延段階で1回の圧下率が20%以上である粗圧延を1回以上施し、累積圧下率を60%以上とした時、最終高温焼鈍後に磁束密度が1.92テスラ(Tesla)以上に優れるようになる。
【0022】
この点については、粒界偏析元素と粗圧延圧下率との相関関係について研究した結果、1回の圧下率を20%以上で粗圧延時に高温剪断変形によりゴス方位の結晶粒が多く発生し、添加された粒界偏析元素による粒界での変形抵抗を減少させてゴス以外の他の方位への動的再結晶なしに動的回復をしたため、鋼板内にゴス方位結晶粒が多く存在した。したがって、最終的に高温焼鈍後に1.92テスラ(Tesla)以上の高磁束密度特性を確保することができた。
【0023】
一方、このような優れた高磁束密度特性は、結局、二次再結晶されたゴス方位結晶粒が最も理想的な{110}<001>方位にどれくらい配列がよく行われたのかによって決定される。このような二次再結晶されたゴス結晶粒の方位を評価するための方法としては。まず、鋼板の圧延面に対する法線方向(ND)に対する方位差(deviation angle、°)α、圧延直角方向(TD)に対する方位差(deviation angle、°)β、そして圧延方向(RD)における方位差(deviation angle、°)γを測定して正確な(exact){110}<001>方位との差を評価する方法がある。
【0024】
このうち、磁束密度に最も大きい影響を与える方位差(deviation angle、°)はαとβであり、この方位差は結局二次再結晶粒の<001>軸が圧延方向からどれくらいずれているかを評価できる基準となる。言い換えれば、1.92テスラ(Tesla)以上の高磁束密度製品は、二次再結晶された結晶粒の結晶方位が正確な{110}<001>ゴス方位に対する結晶方位差αとβが小さいということを意味する。これをより定量的に評価するための方法としては次のような数式で表現される。
【0025】
[数式1]
正確な{110}<001>結晶方位に対する方位差:(α+β1/2
つまり、二次再結晶されたGoss結晶粒の方位が正確な{110}<001>結晶方位に対する(α+β1/2値が小さければ小さいほど磁束密度が高い。本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板が1.92テスラ(Tesla)以上の高磁束密度特性を確保するために製造された方向性電磁鋼板の二次再結晶粒方位を測定した結果、正確な{110}<001>結晶方位に対する方位差は約4°以下に確認された。以下、前述した本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の成分(本発明で成分元素の%は、他の説明がない限り、全て重量%を意味する)の限定理由について詳しく説明する。
【0026】
まず、Cは、オーステナイト相変態を促進する元素として、方向性電磁鋼板の熱延組織を均一にし、冷間圧延時にゴス方位の結晶粒形成を促進して磁性に優れた方向性電磁鋼板を製造することに重要な元素である。このような効果はCが0.01%以上添加されてこそ効果が得ることができ、それより少ない含有量では不均一な熱延組織によって二次再結晶が不安定に形成される。しかし、0.10%以上添加するようになると熱間圧延時にオーステナイト相変態による微細な熱延組織の形成で一次再結晶粒が微細になり、熱間圧延終了後の巻取過程や熱延板焼鈍後に冷却過程で粗大なカーバイド(carbide)を形成することがあり、常温でセメンタイト(FeC、Cementite)を形成して組織に不均一を招きやすい。したがって、スラブ内でCの含有量は0.01~0.10%に限定することが好ましい。
【0027】
しかし、Cは、一次再結晶過程中に脱炭が起きてその含有量が減るようになる。また最終製造される方向性電磁鋼板にCが多く残存するようになる場合、磁気的時効効果によって形成される炭化物を鋼板内に析出させて磁気的特性を悪化させる元素である。したがって、最終製造される方向性電磁鋼板ではCの含有量を0.01重量%以下(0%を除く)含むことが好ましい。より具体的にCを0.005重量%以下含むことができる。さらに具体的にCを0.003重量%以下含むことができる。
【0028】
Siは、方向性電磁鋼板の基本組成で、素材の比抵抗を増加させて鉄心損失(core loss)、つまり、鉄損を低める役割を果たす。Si含有量が2.0%未満の場合、比抵抗が減少して鉄損特性が劣化し、高温焼鈍時に相変態区間が存在して二次再結晶が不安定になり、4.0%以上に過剰含有時には、鋼の脆性が大きくなって冷間圧延が極めて難しくなる。したがって、Siは2.0~4.0%に限定する。具体的に、Siは3.0~4.0%含まれ得る。
Mnは、Siと同様に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、SおよびSeと反応してMn[S、Se]析出物を形成することによって一次再結晶粒の成長を抑制する抑制剤として使用する。本発明には0.200%以上添加するとMn[S、Se]析出物が粗大になって抑制力が低下し、また、Mn[S、Se]析出物を溶体化させるためにスラブを高温で加熱しなければならない問題が発生する。反対に、0.01%以下に制御するためには製鋼で精練の負担が大きくなり、Mn[S、Se]析出が少なく形成されて抑制剤としての効果が低下するため、Mnの含有量は0.01~0.20%に限定する。具体的に、Mnの含有量は0.05~0.15%含まれる。
【0029】
Sは、一般的にMnと反応してMnS析出物を形成して一次再結晶粒の成長を抑制する抑制剤の役割を果たす。本発明ではAlN析出物と共にMnS析出物を結晶成長抑制剤として使用するため、特別に多くの含有量は添加しない。Sを0.008%以上添加するようになるとMnS析出物が粗大になりながら抑制力が弱まり、またスラブ加熱時に析出物が完全溶解されないという短所が存在するようになる。反対に0.004%以下添加するようになるとMnS析出物が非常に少なくなって抑制剤としての効果が低下するため、本発明でスラブ内でSの含有量は0.004~0.008%に限定する。
【0030】
しかし、Sは、製品製造工程中に析出物を形成したり分解する過程があり、最終製造される方向性電磁鋼板では、Sの含有量は0.008重量%以下(0%を除く)含むことが好ましい。Seは、一般的にMnと反応してMnSe析出物を形成して一次再結晶粒の成長を抑制する抑制剤の役割を果たす。本発明ではAlNおよびMnSと共にMnSe析出物を結晶成長抑制剤として使用するため、特別に多くの含有量は添加しない。Seを0.008%以上添加するようになるとMnSe析出物が粗大になりながら抑制力が弱まり、またスラブ加熱時に析出物が完全溶解されないという短所が存在するようになる。反対に0.0001%以下添加するようになるとMnSe析出物が非常に少なくなって抑制剤としての効果が低下するため、本発明でSeの含有量は0.0001~0.008%に限定する。具体的に、Seの含有量は0.001~0.008%含有される。より具体的にSeの含有量は0.005~0.008%含有される。
【0031】
Cuは、鋼中にSおよびSeと結合してCu[S、Se]析出物を形成することによって、結晶粒の成長を抑制する効果がある。Mn[S、Se]析出物よりも速く微細に析出するため、結晶成長抑制力はより強い。このような結晶成長抑制力を確保するために添加されるCu含有量は、0.002%以上で、それより少ない含有量はCu[S、Se]析出物形成が少なくて抑制力を確保するには難しく、反対に0.1%以上増加するようになると粗大なCu[S、Se]析出物が多くなり、やはり結晶成長抑制力が低下するようになる。したがって、本発明でCuの含有量は0.002~0.1%に限定することが好ましい。具体的に、Cuは0.005~0.07%含まれ得る。より具体的に、Cuは0.01~0.07%含まれる。
【0032】
Alは、鋼中Nと結合してAlNを形成することによって、方向性電磁鋼板の二次再結晶を形成するための代表的な結晶粒成長抑制剤の構成元素である。本発明では一次再結晶焼鈍過程で窒化処理を通じてAl系窒化物を形成することによって、結晶粒成長抑制効果を確保するため、製鋼段階でAlは0.010~0.040%添加することが好ましい。Al含有量が0.010%未満の場合には、一次再結晶および窒化過程で形成されるAl系析出物の総量が微小で一次再結晶粒成長抑制力が不足するようになり、反対に、0.040%以上の場合には、スラブ製造および熱延工程で析出物が粗大に成長することによって結晶粒成長抑制力が低下するようになって高磁束密度の磁気特性を確保できなくなる。したがって、スラブ内でAlの含有量は0.010~0.040%に限定する。しかし、Alは、製品製造工程中に析出物を形成したり分解する過程があり、最終製造される方向性電磁鋼板でAlの含有量は0.040重量%以下(0%を除く)含むことが好ましい。
【0033】
Nは、Alと反応して再結晶粒成長を抑制するAlNを形成する重要な元素であるが、Nの含有量を0.008%以上添加するようになると、スラブ製造および熱延段階でAlN析出物形成が増加して一次再結晶および結晶成長を妨害して一次再結晶微細組織を不均一に作って高磁束密度特性確保が難しくなる。反対に、0.001%以下添加することは製鋼の精練工程の負荷を増加させ、一次再結晶時に結晶粒成長が促進されて均一な一次再結晶微細組織確保が難しくなり、やはり高磁束密度特性を確保することができない。したがって、製鋼段階でNの含有量は、0.001~0.008%に限定する。具体的に、Nの含有量は0.003~0.008%含まれ得る。より具体的に、Nの含有量は、0.005~0.008%含まれ得る。しかし、Nは、製品製造工程中に析出物を形成したり分解する過程があり、最終製造される方向性電磁鋼板でNの含有量は0.008重量%以下(0%を除く)含むことが好ましい。
【0034】
Niは、オーステナイト形成を促進する合金元素で、Cと共に相変態を促進して均一な熱延微細組織を作るのに重要である。そして、熱間圧延過程で高磁束密度特性確保に重要な剪断変形集合組織である{110}<001>方位の集合組織の形成を促進する。したがって、Niを0.005%以上添加してこそ{110}<001>集合組織形成を促進することができ、反対に0.1%以上添加するようになると{110}<001>集合組織形成は良好になされるが、鋼板表面に酸化層形成を妨害して最終製品の表面品質が低下するようになる。したがって、本発明ではNi添加量を0.005~0.1%に限定することが好ましい。具体的に、Niの含有量は、0.005~0.08%含有され得る。より具体的に、Niの含有量は0.005~0.05%含有される。
【0035】
Moは、熱間圧延過程で高磁束密度特性確保に重要な剪断変形集合組織である{110}<001>方位の集合組織の形成を促進する。そして、高温で粒界酸化を抑制して熱延過程で表面クラック発生を抑制する効果がある。このようなMoは、0.001%以上添加してこそ{110}<001>集合組織形成を促進することができ、反対に0.1%以上添加するようになると{110}<001>集合組織形成は良好になされるが、高価の合金鉄であるため、磁束密度向上に比べて添加効果が低下するようになる。したがって、本発明ではMo添加量を0.001~0.1%に限定することが好ましい。具体的にMoの含有量は、0.003~0.07%含有される。
【0036】
Crは、脱炭焼鈍工程で酸素と最も速く反応して鋼板表面にCrを形成することによって本発明の特徴である偏析元素添加による面酸化層の不安定形成を安定化するための重要な元素である。一般的に偏析元素は、結晶粒界だけでなく、表面まで偏析する傾向を示すため、偏析元素による脱炭および表面酸化層形成が抑制される前に、先に表面層にCrを形成することによって脱炭反応が円滑に行われるようになる。このようなCrを0.005%以下添加するようになると添加効果がなく、0.1%以上添加する場合に表面酸化層形成に大きい影響を与えないため、好ましいCr添加量は0.005~0.1%に限定する。具体的にCrの含有量は0.01~0.08%含まれる。
【0037】
Pは、本発明の核心的な粒界偏析元素として、結晶粒系の移動を妨害する結晶粒成長抑制の役割が可能であり、集合組織の側面で{110}<001>集合組織を改善する効果がある。Pの含有量が0.005%以下であれば添加効果がなく、0.100%以上添加すると脆性が増加して圧延性が大きく悪化するため、0.005~0.100%に限定することが好ましい。具体的にPの含有量は0.005~0.07%含まれ得る。
Snは、本発明の重要な偏析元素のうちの一つとして、結晶粒界に偏析して粒界の移動を妨害する効果に優れた補助的結晶粒成長抑制剤として作用する。また高温でも安定的に結晶粒系に存在し、脱炭および表面酸化層形成に大きい影響を与えない。また、熱間圧延時にゴス方位の結晶粒生成を促進して優れた磁性の二次再結晶が良好に発達するように助ける。本発明でSnが0.005%より小さいと添加効果が微々であり、反対に0.200%以上添加されると粒界および表面偏析が激しく起こるようになって脱炭工程の負荷が順次に増加し、冷間圧延時に板破断の可能性が高まる。したがって、Sn含有量は0.005~0.20%に限定する。具体的にSnの含有量は、0.005~0.08%含まれ得る。より具体的にSnは0.005~0.04%含まれる。
【0038】
Sbは、本発明の重要な偏析元素のうちの一つとして、結晶粒界に偏析して粒界の移動を妨害する効果に優れた元素である。また脱炭過程で形成される鋼板内部酸化層の深さを制御することによって内部酸化層の形成で磁区移動が抑制されて鉄損が増加する現象を最小化する効果がある。本発明でSbの含有量が0.0005%以下である場合に添加量が非常に少なくて添加効果を得ることができず、反対に0.100%以上添加する場合には前述したSnと同じ問題点である冷間圧延板破断と脱炭遅延という現象が発生するため、製鋼段階でSb含有量は0.0005~0.10%に限定する。具体的にSbは0.001~0.05%含まれる。
【0039】
Geは、本発明の重要な偏析元素のうちの一つとして、結晶粒界に偏析して粒界の移動を妨害する効果に優れた補助的結晶粒成長抑制剤として作用する。また、熱間圧延時にゴス方位の結晶粒生成を促進して優れた磁性の二次再結晶が良好に発達するように助ける。本発明ではGeが0.0005%より小さいと添加効果が微々であり、反対に0.10%以上添加されると脱炭負荷が増加し、磁束密度改善特性が添加効果に比べて落ちる。したがって、Ge含有量は0.0005~0.10%に限定する。
【0040】
AsもGeと共に本発明の重要な偏析元素のうちの一つとして、結晶粒界に偏析して粒界の移動を妨害する効果に優れており、熱間圧延時にGoss方位の結晶粒生成を促進して優れた磁性の二次再結晶が良好に発達するように助ける。本発明ではAs含有量が0.0005%より小さいと添加効果が微々であり、反対に0.10%以上添加されると脱炭負荷が増加し、磁束密度改善特性が添加効果に比べて落ちる。したがって、As含有量は0.0005~0.10%に限定する。
【0041】
Pbは、Sn、Sb、As、Geと共に本発明の重要な偏析元素のうちの一つとして、結晶粒界に偏析して粒界の移動を妨害する効果に優れており、熱間圧延時にゴス方位の結晶粒生成を促進して優れた磁性の二次再結晶が良好に発達するように助ける。本発明ではPb含有量が0.0001%より小さいと添加効果が微々であり、反対に0.10%以上添加されると脱炭負荷が増加し、磁束密度改善効果が落ちるようになる。したがって、Pb含有量は0.0001~0.10%に限定する。
【0042】
Biは、Pb、Sn、Sb、As、Geと共に本発明の重要な偏析元素のうちの一つとして、結晶粒界に偏析して粒界の移動を妨害する効果に優れており、熱間圧延時にゴス方位の結晶粒生成を促進して優れた磁性の二次再結晶が良好に発達するように助ける。本発明ではBi含有量が0.0001%より小さいと添加効果が微々であり、反対に0.10%以上添加されると表面偏析が増加して脱炭負荷が増加し、酸化層形成が不安定で表面欠陥が増加する。したがって、Bi含有量は0.0001~0.10%に限定する。
【0043】
本発明ではP、Sn、Sb、As、Ge、Pb、Biのような偏析元素が一次再結晶でGoss方位結晶粒を増加させて磁束密度向上に効果があり、また、一次結晶粒の成長を抑制する効果があるため、少なくとも一種類以上の偏析元素を複合添加することが好ましい。
【0044】
次に、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法について詳しく説明する。まず、前述した組成を有するスラブを準備する。前述したような成分範囲で成分調整をするようになるとスラブ製造および熱間圧延過程でAlN、Mn[S、Se]およびCu[S、Se]の析出物形成で一次再結晶粒の結晶成長を抑制してゴス方位結晶粒の二次再結晶を促進し、P、Sn、Sb、As、Ge、PbおよびBi元素の粒界偏析によって変形過程での粒界に応力集中を緩和し、剪断変形によるゴス方位結晶粒形成を促進して一次再結晶組織でゴス方位結晶粒を多く再結晶させて磁束密度を向上できるようになる。また、NiとMoは、固溶強化を通じて熱延中にゴス方位結晶粒の成長を促進し、Cr添加を通じて粒界偏析による酸化層形成が不安定になることを防止できる。
【0045】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、製鋼から熱延板を製造する方法としては、分塊法と連続鋳造方法および薄スラブ鋳造あるいはストリップキャスティングが可能である。以下、スラブを利用して熱延板を製造する方法を中心として説明する。
以上のような組成を有するスラブを加熱炉に装入した後、1,280℃以下で加熱する。具体的に、スラブを1100~1280℃で加熱する。加熱されたスラブを利用して熱間圧延を施すようになる。熱間圧延工程は、加熱されたスラブを900℃以上の高温で粗圧延と仕上げ圧延をして冷間圧延するのに適正な厚さである1.0~3.5mmの厚さに圧延する。熱間圧延過程においてスラブ厚さと圧延ロール直径による構造的剪断変形が発生し、それによって剪断変形組織内にゴス方位結晶粒が形成される。このような熱延過程の根本的な剪断変形機構に加えて前述した固溶強化元素と粒界偏析元素の添加によりゴス方位の結晶粒形成がより促進されるようになる。また、粗圧延および熱間圧延時に圧延率によっても変形量が大きく変わり、ゴス方位結晶粒形成に大きい影響を与えるようになる。なお、粗圧延のように初期圧延厚さが厚い素材の変形時に剪断変形が大きくなるように粗圧延条件を制御すれば(つまり、圧延率を大きく付与する場合)ゴス方位結晶粒形成を大きく促進するようになる。
【0046】
熱間圧延時の圧下率について詳しく説明する。加熱されたスラブを1.0~3.5mmの厚さに熱間圧延するためには、数回の粗圧延を通じて熱間圧延するのに適当な厚さに圧延するようになる。加熱された状態の厚いスラブ厚さで30mm以上の厚さにバー(Bar)として粗圧延することが好ましく、この時、粗圧延は、少なくとも1回以上の圧延を通じてバー(Bar)を製造するようになる。この時、少なくとも1回以上で圧延率が20%以上圧延する場合、剪断変形によるゴス集合組織が大きく発達することを確認した。具体的に、少なくとも1回以上の圧延率は20~40%である。
【0047】
そして、スラブでバー(Bar)厚さに圧延する累積圧下率は、少なくとも60%以上で粗圧延を施した時、最終の一次再結晶微細組織でゴス方位結晶粒が増加し、以降の高温焼鈍工程を経る場合、磁束密度特性が1.92テスラ(Tesla)以上に優れていた。より好ましくは、粗圧延段階で累積圧下率が70%以上とする。具体的に、粗圧延段階で累積圧下率は60~80%である。
【0048】
熱間圧延において粗圧延時に1回圧延率が20%以下である場合には剪断変形量が少なくてゴス方位結晶粒形成が少なく発生した。反対に、圧延率を高くするほど剪断変形に大きく作用してゴス方位結晶形成に多いに役立つが、粗圧延設備負荷が大きく増加するため、設備の能力を考慮して1回の圧下率が20%以上になるようにして少なくとも1回以上粗圧延を施してバー(Bar)を製造した後、最終熱間圧延することが好ましい。以上のような方法で粗圧延を施してバー(Bar)を製造した後、熱間圧延は1.0~3.5mmの厚さに圧延を施すが、通常、圧延負荷を考慮して850℃以上の温度で圧延を終了し、600℃以下の温度で冷却して巻き取ることが好ましい。
【0049】
熱間圧延を完了した鋼板は、その後、熱延板焼鈍工程で熱間圧延された変形組織を再結晶させて後工程である冷間圧延工程で最終製品厚さまで圧延が円滑に行われるようにする。熱延板焼鈍温度は、再結晶のために800℃以上の温度で加熱して一定時間維持することが好ましく、AlN、Mn[S、Se]およびCu[S、Se]析出物形成と大きさの制御のために複数の温度で加熱する焼鈍も可能である。このような熱延板焼鈍過程を経た熱延板は、酸洗を施して鋼板表面の酸化層を除去した後、冷間圧延を施すようになる。冷間圧延は、最終製品厚さまで鋼板の厚さを低める工程であり、本発明では1回あるいは中間焼鈍を含む1回以上の冷間圧延を施して最終製品厚さまで圧延するようになる。この時、冷間圧延率は、ゴス方位の集積度を強化して最終の二次再結晶焼鈍後に磁束密度向上に影響を与えるため、最小80%以上の圧延率で冷間圧延することが好ましい。
【0050】
冷間圧延率が80%未満であれば、ゴス方位の集積度が低くて最終製品の磁束密度が低下するようになる。したがって、冷間圧延率は最小80%以上とし、最大圧延率は圧延設備の圧延能力によって最大圧延可能な範囲まで圧延すれば良い。また、冷間圧延過程において冷間圧延された鋼板の温度を150℃以上に上げれば固溶炭素による加工硬化でゴス方位の二次再結晶核が多く発生するようになって最終製品の磁束密度を向上させることができる。冷延された鋼板の温度が150℃未満であればゴス方位の二次再結晶核発生が微々であり、反対に300℃以上であれば、固溶炭素による加工硬化効果が弱まってゴス方位の二次再結晶核発生が弱まる。したがって、冷間圧延工程では中間圧延段階で最小1回以上150~300℃温度の領域で鋼板が維持されることが好ましい。
【0051】
次に、冷間圧延された鋼板を、圧延油除去工程を経た後に一次再結晶と同時に脱炭および窒化処理工程によって適正な結晶粒大きさの均一な一次再結晶微細組織および強力な結晶成長抑制力を有するAlN析出物を形成するようになる。この時、冷間圧延された鋼板は、600℃以上の温度で20℃/sec以上の昇温率で加熱してこそ以前の工程で偏析元素添加および1回20%以上の粗圧延によって増加させたゴス方位結晶粒の一次再結晶を促進することができる。この時、前記冷延板を600℃以上の温度で50℃/sec以上の昇温率で加熱することがより好ましい。具体的に、前記冷延板は、600~900℃の温度で20~200℃/secの昇温率で加熱される。
【0052】
昇温率が20℃/sec以下である場合には、冷間圧延により変形された組織の回復現象でゴス方位結晶粒の再結晶が遅延され、一次再結晶後にゴス方位結晶粒の分率が減少するようになる。したがって、冷間圧延板を一次再結晶焼鈍する場合に、600℃以上の脱炭および再結晶温度領域まで20℃/sec以上の昇温率で昇温することが好ましい。同時に、脱炭焼鈍と共にアンモニアを使用した窒化処理を通じて鋼板内にAlN析出物形成させて、一次再結晶粒の結晶成長を抑制することが必要である。
【0053】
この時、窒化処理された鋼板内の総窒素含有量は0.01~0.05%範囲に限定することが好ましい。総窒素含有量が0.01%未満であれば窒化処理を通じて形成されたAlN析出物の総量が過度に少ないため、所望する結晶成長抑制力確保が難しくなって二次再結晶が不安定に形成され、1.92テスラ(Tesla)以上の磁束密度の確保が難しくなる。
反対に、0.05%以上に総窒素含有量が増加することは、過剰のAlN形成で結晶成長が過度に増加する二次再結晶がよく形成されなくなる。また、過剰の窒素が1100℃以上の高温領域で、鋼板で分解されて出る時、鋼板表面に窒素放出口のような表面欠陥を誘発するようになる。したがって、総窒素含有量は0.01~0.05%範囲に限定して窒化処理することが好ましい。
【0054】
このように脱炭および窒化処理された鋼板は、以降にMgOを基本とする焼鈍分離剤を塗布した後、1000℃以上に昇温して長時間亀裂焼鈍して二次再結晶を起こすことによって鋼板の{110}面が圧延面と平行であり、<001>方向が圧延方向と平行なゴス方位の集合組織を形成して磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造する。以上で説明したような条件で製造された方向性電磁鋼板は、AlN、Mn[S、Se]およびCu[S、Se]析出物を使用して強力な結晶成長抑制力を確保すると同時に、P、Sn、Sb、As、Ge、PbおよびBi元素の粒界偏析効果と、NiおよびMo添加による剪断変形増加でゴス方位結晶粒形成を促進するようになる。
また、スラブ加熱後粗圧延過程で1回圧延率が20%以上である粗圧延を少なくとも1回以上施して累積圧下率全体が60%以上になるように粗圧延を施すことによって、剪断変形量増加によるゴス方位結晶粒形成を促進してバー(Bar)を製造し、これを熱間圧延し、最終製品厚さに冷間圧延した後、600℃以上の温度領域で20℃/sec以上の昇温率で加熱して脱炭および一次再結晶させ、同時に窒化処理を施して鋼板内に総窒素含有量を0.01~0.05%範囲に調整した結果、最終高温焼鈍後に二次再結晶されたゴス方位結晶粒の結晶方位を測定した結果、正確な{110}<001>結晶方位に対する方位差は約4°以下であった。
【0055】
したがって、本発明の一実施形態により製造された方向性電磁鋼板は、磁束密度が1.92テスラ(Tesla)以上に優れた磁気的特性を示した。以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるのではない。
【実施例1】
【0056】
下記の表1のようにC、Si、Mn、酸可溶性Al、N、S、Se、Cu、Ni、CrおよびMoを基本組成とし、P、Sn、Sb、Ge、As、PbおよびBi含有量を変化させた鋼成分系を真空溶解して鋳片を作った。このような鋳片を1150℃の温度で加熱した後、6回の粗圧延を通じて40mmのバー(Bar)を製造し、次いで、厚さ2.3mmに熱間圧延した後、600℃で急冷して巻き取った。
【0057】
この時、1、2および3回の粗圧延を圧延率20%以上で圧延を施して総累積圧下率が60%以上で粗圧延を施した。このような熱間圧延鋼板を1050℃で熱延板焼鈍を施した後、酸洗を施した後、0.23mm厚さに1回強冷間圧延した。冷間圧延された鋼板は、50℃/secの昇温速度で850℃まで加熱した後、湿った水素と窒素およびアンモニアの混合ガス雰囲気中で180秒間維持して一次再結晶焼鈍をした。このように一次再結晶焼鈍時に鋼板の総窒素含有量が200ppmになるように窒化処理を同時に施した。
【0058】
次いで、鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してコイル状で二次再結晶高温焼鈍を施した。高温焼鈍は、1200℃までは25% N+75% Hの混合ガス雰囲気とし、1200℃到達後には100% Hガス雰囲気で20時間維持後に徐冷した。それぞれの合金成分系に対して二次再結晶高温焼鈍後の磁束密度(B8)および鉄損特性(W17/50)測定結果を表1に共に示した。同時に二次再結晶された結晶粒の方位を、ラウエ回折(Laue diffraction)測定を通じて正確な{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2を測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
前記の表1で確認できるように、P、Sn、Sb、Ge、As、PbおよびBi含有量添加した時、二次再結晶粒の方位は正確に{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2が4.0°以下であり、1.92テスラ(Tesla)以上の磁束密度を安定的に確保できることが分かる。また方向性電磁鋼板にこのような成分を1種以上に複合添加した時、1.92テスラ(Tesla)より優れた磁束密度特性を確保した。
【実施例2】
【0061】
実施例1で評価された発明材12の組成を有し、真空溶解して製造されたスラブを1200℃で加熱した。加熱されたスラブに対して粗圧延回数と圧下率を変更して粗圧延を施した後、熱間圧延で厚さ2.6mmの熱延板を製造した。このような熱間圧延鋼板は、1080℃で熱延板焼鈍を施し、酸洗を施した後、0.30mm厚さに1回強冷間圧延した。冷間圧延された鋼板は、30℃/secの昇温速度で860℃まで加熱した後、湿った水素と窒素およびアンモニアの混合ガス雰囲気中で150秒間維持することによって一次再結晶を形成し、同時に鋼板の総窒素含有量が180ppmになるように窒化処理を同時に施した。次いで、鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してコイル状で二次再結晶のための最終高温焼鈍を施した。
【0062】
高温焼鈍は、1200℃までは25% N+75% Hの混合ガス雰囲気とし、1200℃到達後には100% Hガス雰囲気で20時間維持した後に徐冷した。表2では粗圧延回数および1回圧延率による二次再結晶高温焼鈍後の二次再結晶粒に対する正確な{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2、そして磁束密度(B8)および鉄損特性(W17/50)を測定した結果を示している。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示したように、1回粗圧延圧下率が20%未満の場合、あるいは累積圧下率が60%未満の場合には、二次再結晶された結晶粒方位の正確な{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2が4°以上であり、磁束密度も1.92テスラ(Tesla)以上の優れた磁束密度の確保が難しかった。
【実施例3】
【0065】
実施例1で評価された発明材8の組成を有し、真空溶解して製造されたスラブを1130℃で加熱した。加熱されたスラブに対して総6回の粗圧延を施すに当たり、3、4、5および6回粗圧延時に20%以上の圧下率を適用して累積圧下率76.0%で粗圧延を施し、60mmのバー(Bar)を製造した後、2.3mm厚さに熱間圧延した。このような熱間圧延鋼板は、1100℃で熱延板焼鈍を施し、酸洗を施した後、0.23mm厚さに1回強冷間圧延した。
冷間圧延時に圧延温度を50~350℃まで変更して最終製品厚さまで圧延を施した後、冷延鋼板を70℃/secの昇温速度で855℃まで加熱し、湿った水素と窒素およびアンモニアの混合ガス雰囲気中で180秒間維持することによって一次再結晶を形成しながら鋼板の総窒素含有量が220ppmになるように窒化処理を同時に施した。次いで、鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してコイル状で二次再結晶高温焼鈍を施した。
【0066】
高温焼鈍は、1200℃までは50% N+50% Hの混合ガス雰囲気とし、1200℃到達後には100% Hガス雰囲気で20時間維持後に徐冷した。表3は、冷間圧延時の圧延温度による最終高温焼鈍後に二次再結晶粒に対する正確な{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2、そして磁束密度および鉄損の変化を示したものである。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示したように、冷間圧延温度が150℃未満の場合とは反対に、300℃以上の場合には二次再結晶された結晶粒方位の正確な{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2が4°以上であり、1.92テスラ(Tesla)以上の磁束密度の確保が難しかった。
【0069】
実施例4
実施例3で評価された発明材2(表1の発明材8の組成)の冷延板を利用して脱炭および一次再結晶焼鈍を施すに当たり、表4に示す条件で昇温速度を変化させて昇温し、次いで、追加的に昇温して850℃領域で脱炭および窒化処理を施した。窒化処理は、脱炭焼鈍中にアンモニアガスを使用して総窒素含有量を200ppmになるように窒化処理した。次いで、窒化処理された鋼板は、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してコイル状で二次再結晶高温焼鈍を施した。高温焼鈍は、1200℃までは75% N+25% Hの混合ガス雰囲気とし、1200℃到達後には100% Hガス雰囲気で20時間維持後に徐冷した。表4は、脱炭および一次再結晶時に昇温速度による最終高温焼鈍後に二次再結晶粒に対するexact{110}<001>方位との方位差(deviation angle、°)(α+β1/2、そして磁束密度および鉄損の変化を示したものである。
【0070】
【表4】
【0071】
前記表4に示したように、600℃以上の温度で昇温速度を20℃/sec以上の速度を昇温する場合に方位差(α+β1/2が4°以下であり、磁束密度が1.92テスラ(Tesla)以上に確保されることが分かる。これはP、Sn、Sb、Ge、As、PbおよびBiなどの粒界偏析元素添加と粗圧延段階で20%以上の圧下率で1回以上粗圧延を施した効果を最終製品の磁束密度まで連結するためには、脱炭および一次再結晶焼鈍段階で600℃以上の温度領域で昇温速度を20℃/sec以上に昇温することが必要であるということを意味する。
【0072】
本発明は、この実施形態に限定されるのではない。異なる多様な形態デ製造可能である。