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特許7507174歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/70 20170101AFI20240620BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
A61C5/70
A61C13/083
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021567509
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020048058
(87)【国際公開番号】W WO2021132290
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019232125
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新一郎
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077454(JP,A)
【文献】特開2014-218389(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131782(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0237345(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/70
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォームであって、
前記プリフォームは、4~20HV(GPa)のビッカース硬度を有する機械加工可能な歯科材料で構成された本体であって、
外表面と、上端部と、下端部と、
前記上端部と前記下端部との間の中央部分とを備えた前記本体と、
第1のステム端部と、第2のステム端部とを備え、前記第1のステム端部が4mm以下の幅を有し、前記第1のステム端部において、前記本体と接続するステムと、
必要に応じて、第2のステム端部で前記ステムに接続される、整形の間、焼結されたセラミックプリフォームを整形機械に取り付けるための取付け部材とを備え、
前記本体の前記中央部分が、前記第1のステム端部の位置において、直径が12mm超の内接円と直径が20mm未満の外接円とを有する断面幾何学形状を有し、
前記上端部から前記下端部に向かう第1方向に向かって色が変化しており、
前記上端部から前記下端部に向かって、L*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)の増減傾向が変化せず、
前記上端部の一端から前記下端部の一端に向かう第1方向に延在する直線上において、
前記上端部の一端から全長の15%までの区間にある第1点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L1,a1,b1)とし、
前記下端部の一端から全長の15%までの区間にある第2点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L2,a2,b2)としたとき、
L1が68.0以上90.0以下であり、
a1が-3.0以上4.5以下であり、
b1が0.0以上24.0以下であり、
L2が60.0以上85.0以下であり、
a2が-2.0以上7.0以下であり、
b2が4.0以上28.0以下であり、
L1>L2であり、
a1<a2であり、
b1<b2である、
歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項2】
前記中央部分が、円筒状本体と、前記第1のステム端部の位置で20mm未満の直径を有する円形断面幾何学形状とを備える、請求項1に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項3】
前記プリフォームの本体が、下端面から前記中央部分に向かって延在する、前記プリフォーム本体の前記外表面内に含まれるキャビティをさらに備える、請求項1に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項4】
前記機械加工可能な歯科材料が、85質量%以上が完全焼結されたジルコニア又は完全焼結されたイットリア安定化ジルコニアである焼結ジルコニアセラミック材料を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項5】
L1-L2が0超12.0以下であり、
a2-a1が0超6.0以下であり、
b2-b1が0超12.0以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項6】
前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線上において、
前記第1点から前記第2点に向かってL*値が減少傾向にある場合、前記第1点から前記第2点に向かって焼結後のL*値が1以上増加する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってa*値が増加傾向にある場合、前記第1点から前記第2点に向かって焼結後のa*値が1以上減少する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってb*値が増加傾向にある場合、前記第1点から前記第2点に向かって焼結後のb*値が1以上減少する区間が存在しない、
請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項7】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が66.0以上89.0以下であり、
a3が-2.5以上6.0以下であり、
b3が1.5以上25.0以下であり、
L1>L3>L2であり、
a1<a3<a2であり、
b1<b3<b2である、
請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項8】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と第2点の間の点を第3点とし、
前記第3点と前記第2点の間にある第4点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L4,a4,b4)としたとき、
L4が62.0以上86.0以下であり、
a4が-2.2以上7.0以下であり、
b4が3.5以上27.0以下であり、
L1>L3>L4>L2であり、
a1<a3<a4<a2であり、
b1<b3<b4<b2である、
請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項9】
前記第3点は前記上端部の一端から全長の35%の距離にあり、
前記第4点は前記上端部の一端から全長の65%の距離にある、
請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【請求項10】
前歯用である、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野での使用が知られているセラミック材料は、クラウン、ブリッジなど、高強度の修復物を提供する。一部のセラミック材料は、完全に焼結すると800MPaを上回る曲げ強度を有し、欠け落ち、破損、及び摩耗に対して耐性をもつ修復物をもたらす。材料の進歩によって、容認可能な強度を維持したまま、色調及び透光性の点で美観が向上し、これらの材料からコスト効率の良い方法で修復物を製造することができる。
【0003】
コンピュータ支援の設計プロセスによって作られた歯科用修復物は、完全密度まで加熱する際の全体サイズの低減に適応するための拡大率を使用して、未加工又は焼結前セラミックの段階にある多孔質セラミック材料からCAMプロセスによって切削されて、多孔質の修復物の設計(デザイン)を得てもよい。切削後、多孔質の修復物の設計が完全密度まで焼結されて、最終的な歯科用修復物が生成される。一方で、多孔質セラミックの歯科用修復物の設計(未焼結体又は半焼結体)を切削するステップ、及び切削した未焼結体を焼結して最終的な歯科用修復物を形成するステップが別個のステップであることが、歯科医が歯科医院内でセラミック修復物を作製する大きな妨げとなって、患者が修正を待たなければならない時間の量が増加することがある。
【0004】
そこで、歯科用修復物を整形後に強化するためのさらなる加工ステップを要することなく、十分な強度を有する歯科用修復物へと整形可能である、機械加工可能なプリフォームが提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、セラミック材料として、歯科医院内で最終的な歯科用修復物が得られるように、短時間の焼成でも、優れた透光性を有するジルコニア仮焼体も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-77454号公報
【文献】国際公開第2019/131782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者は、特許文献1では、プリフォーム体を着色することは開示されているものの、単色であり、歯科用(特に前歯)としてそのまま使用可能な審美性を十分に有していないという課題を見出した。また、特許文献2では、焼成時間を短くすることを目的として、切削加工した後に焼結するジルコニア仮焼体に関し、焼成を行わない場合にはジルコニア焼結体が有する程度の十分な強度が得られず、焼成を行わないことは想定されていない。これは、一般的にジルコニア焼結体は、強度が高く、硬度も高いことから、歯科医院における切削加工機器が破損するおそれがあり、最終的な微調整の切削加工を除いて、歯科医院においてジルコニア焼結体を多量の切削加工することは想定されないためであると考えられる。
【0008】
本発明は、整形後の着色や焼成を必要とせず、歯科用(特に前歯)として好適な審美性を兼ね備える、加工用ジルコニア焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
[1]歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォームであって、
前記プリフォームは、4~20HV(GPa)のビッカース硬度を有する機械加工可能な歯科材料で構成された本体であって、
外表面と、上端部と、下端部と、
前記上端部と前記下端部との間の中央部分とを備えた前記本体と、
第1のステム端部と、第2のステム端部とを備え、前記第1のステム端部が4mm以下の幅を有し、前記第1のステム端部において、前記本体と接続するステムと、
必要に応じて、第2のステム端部で前記ステムに接続される、整形の間、焼結されたセラミックプリフォームを整形機械に取り付けるための取付け部材とを備え、
前記本体の前記中央部分が、前記第1のステム端部の位置において、直径が12mm超の内接円と直径が20mm未満の外接円とを有する断面幾何学形状を有し、
前記上端部から前記下端部に向かう第1方向に向かって色が変化しており、
前記上端部から前記下端部に向かって、L*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)の増減傾向が変化しない、
歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[2]前記中央部分が、円筒状本体と、前記第1のステム端部の位置で20mm未満の直径を有する円形断面幾何学形状とを備える、[1]に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[3]前記プリフォームの本体が、下端面から前記中央部分に向かって延在する、前記プリフォーム本体の前記外表面内に含まれるキャビティをさらに備える、[1]に記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[4]前記機械加工可能な歯科材料が、85質量%以上が完全焼結されたジルコニア又は完全焼結されたイットリア安定化ジルコニアである焼結ジルコニアセラミック材料を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[5]前記上端部の一端から前記下端部の一端に向かう第1方向に延在する直線上において、
前記上端部の一端から全長の15%までの区間にある第1点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L1,a1,b1)とし、
前記下端部の一端から全長の15%までの区間にある第2点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L2,a2,b2)としたとき、
L1が68.0以上90.0以下であり、
a1が-3.0以上4.5以下であり、
b1が0.0以上24.0以下であり、
L2が60.0以上85.0以下であり、
a2が-2.0以上7.0以下であり、
b2が4.0以上28.0以下であり、
L1>L2であり、
a1<a2であり、
b1<b2である、
[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[6]L1-L2が0超12.0以下であり、
a2-a1が0超6.0以下であり、
b2-b1が0超12.0以下である、
[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[7]前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線上において、
前記第1点から前記第2点に向かってL*値が減少傾向にある場合、前記第1点から前記第2点に向かって焼結後のL*値が1以上増加する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってa*値が増加傾向にある場合、前記第1点から前記第2点に向かって焼結後のa*値が1以上減少する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってb*値が増加傾向にある場合、前記第1点から前記第2点に向かって焼結後のb*値が1以上減少する区間が存在しない、
[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[8]前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が66.0以上89.0以下であり、
a3が-2.5以上6.0以下であり、
b3が1.5以上25.0以下であり、
L1>L3>L2であり、
a1<a3<a2であり、
b1<b3<b2である、
[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[9]前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第3点と前記第2点の間にある第4点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L4,a4,b4)としたとき、
L4が62.0以上86.0以下であり、
a4が-2.2以上7.0以下であり、
b4が3.5以上27.0以下であり、
L1>L3>L4>L2であり、
a1<a3<a4<a2であり、
b1<b3<b4<b2である、
[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
[10]前記第3点は前記上端部の一端から全長の35%の距離にあり、
前記第4点は前記上端部の一端から全長の65%の距離にある、
[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォーム;
を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、整形後の着色や焼成を必要とせず、歯科用(特に前歯)として好適な審美性を兼ね備える、加工用ジルコニア焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態のプリフォームを示す底面斜視図である。
図1B図1Bは、底面斜視図から見たプリフォームの一実施形態内における入れ子状の修復物設計の図である。
図1C図1Cは、ブロックの寸法を示す図である。
図2A図2Aは、本発明の一実施形態のプリフォームの上面斜視図である。
図2B図2Bは、本発明の一実施形態のプリフォームの側面図である。
図2C図2Cは、本発明の一実施形態のプリフォームの正面図である。
図3A図3Aは、本発明の一実施形態のマンドレルに取り付けられているプリフォームの底面図である。
図3B図3Bは、本発明の一実施形態のマンドレルに取り付けられているプリフォームの上面図である。
図3C図3Cは、本発明の一実施形態のマンドレルに取り付けられているプリフォームの側面図である。
図4図4は、プリフォーム及びプリフォームステムから作製される一実施形態による修復物を示す斜視図である。
図5A図5Aは、本発明の一実施形態のプリフォームの底面斜視図である。
図5B図5Bは、本発明の一実施形態のプリフォームの側面図である。
図6図6は、本発明のプリフォームの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォームは、プリフォームの本体(以下、「プリフォーム本体」ともいう)と、ステムと、を備える。前記プリフォーム本体は、4~20HV(GPa)のビッカース硬度を有する機械加工可能な歯科材料で構成された本体であって、外表面と、上端部と、下端部と、前記上端部と前記下端部との間の中央部分とを備える。前記ステムは、4mm以下の幅を有する第1のステム端部から、前記本体の前記中央部分の外表面から突出する。言い換えると、前記ステムは、第1のステム端部と、第2のステム端部とを備え、前記第1のステム端部が4mm以下の幅を有し、前記第1のステム端部において、プリフォーム本体に接続される。さらに、本発明のプリフォームは、必要に応じて、第2のステム端部で前記ステムに接続される、整形の間、焼結されたセラミックプリフォームを整形機械に取り付けるための取付け部材を備えていてもよい。前記本体の前記中央部分は、前記第1のステム端部の位置において、直径が12mm超の内接円と直径が20mm未満の外接円とを有する断面幾何学形状を備える。さらに、プリフォーム本体において、前記上端部から前記下端部に向かう第1方向に向かって色が変化しており、前記上端部から前記下端部に向かって、L*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)の増減傾向が変化しないことを特徴とする。
【0013】
本発明のプリフォームは、焼結体であり、さらに焼成が必要となる仮焼体(半焼結体)又は未焼結体とは異なる。なお、本明細書において各数値範囲(物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0014】
本明細書及び図面では、整形後に焼結を要することなく、患者の口内に直接挿入するのに十分な材料の硬さ及び強度を有するクラウンなどの最終的な歯科用修復物へと、歯科医院内で整形されてもよい、機械加工可能なプリフォームが開示される。図1A及び1Bに示される一実施形態を参照すると、機械加工可能なプリフォーム(100)は、プリフォーム本体(101)と、プリフォーム本体(101)から突出するプリフォームステム(102)とを備える。図1Bに例示されるように、歯科用修復物設計(103)は、プリフォームステム(102)に対する歯科用修復物設計(103)の選択された入れ子及び配置のため、プリフォーム本体のモデル内で完全回転(360°)を有する。機械加工可能なプリフォームから修復物を整形する際の最終的な歯科用修復物上におけるステムの位置は、入れ子位置によって決定される。
【0015】
図2A、2B、及び2Cに示される一実施形態では、プリフォーム(200)は、円筒状本体の所定の長さ(線A-A’)を有する円形の円筒状本体(201)を有する(図2B)。円筒状本体の長さは、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。プリフォーム本体(201)は、湾曲した外表面(204)と、上端部(206)及び下端部(207)の間の中央部分(205)とを備える。上端部及び下端部は、以下、それぞれ第1部、第2部ともいう。図2A、2B、及び2Cでは、円筒状本体(201)の長さ(線A-A’)は、ステム(202)の長さ(図3A、線C-C’)に実質的に直交して配向される。ステム(202)は、円筒状本体の湾曲した外表面(204)から離れる方向で突出し、整形機械に直接又は間接的に取り付けるための取付け部材(203)まで延在する。プリフォーム本体(201)は、下端部(207)のキャビティブレークアウト寸法から中央部分(205)に向かって延在する、キャビティ(208)をさらに備える。図2A、2B、及び2Cに例示されるような、円筒状本体の中央部分(205)の湾曲した外表面(204)は、実質的に平滑であり、中央部分(205)は、上端部と下端部との間に均一な外形を有する。
【0016】
図3A、3B、及び3Cは、プリフォーム(300)の一実施形態を示す。円筒状のプリフォーム本体(301)は、円形の上端面(309)及び下端面(310)と、外形(線B-B)を有する実質的に円形の断面を備えた中央部分(306)と、キャビティ(308)がそこから中央部分(306)に向かって内側に延在する陥凹部(311)とを備える。ステム(302)は、上端部と下端部との間のほぼ等距離で、中央部分の湾曲したプリフォーム本体外表面(304)から離れる方向で延在する。ステムは、湾曲した中央部分(306)と取付け部材(303)との間に延在する。取付け部材(303)は、取付け部材の底面(315)によってマンドレル(305)に付着し、プリフォームを整形機械に間接的に取り付ける。
【0017】
クラウン修復物がそこから整形(成形及び切削)されるプリフォーム本体は、図面に描かれるような円筒形態の中央部分を備えてもよいが、他の形状も本発明で使用するのに適していることがある。あるいは、本体(101)又は本体中央部分は、例えば、楕円状の円筒、多面体、曲面多面体、扁平面を有する円筒、立方体、辺を丸み付けた立方体などを含む。図1Bは、プリフォーム本体(101)の形状及びサイズが、z軸(線Z-Z’)を中心にしたプリフォーム本体内の修復物設計(103)の完全回転に適応しており、したがって、プリフォームが最終的な歯科用修復物に対する360°(完全回転)のステム(102)配置を含む、一実施形態を示している。修復物設計がそこから整形される中央部分の円形断面の外径は、約12mm~約20mm、又は約13mm~約18mm、又は約14mm~約17mmであってもよい。上端部と下端部との間のプリフォーム本体の長さは、例えば、咬合面の最高点(404)から歯の辺縁部(tooth margin)の最低点(405)まで測定した場合の、ほとんどの最終的な歯科用修復物(400)の高さに適応するのに十分であり、したがって、プリフォーム本体又はプリフォーム本体の中央部分の長さは、20mm未満、もしくは18mm未満、もしくは16mm未満、もしくは15mm未満であってもよく、又は約10mm~15mmであってもよい。いくつかの実施形態では、中央部分の横断直径とプリフォーム本体の長さの比は、1.0:1.0超過である。
【0018】
いくつかの実施形態では、非円形の断面又は不規則形状の断面を有するプリフォーム本体は、z軸を中心にした修復物設計の完全回転(360°)に対して中央部分内に断面幾何学形状を有する。上側部分、下側部分、及びそれらの間の中央部分を備えるプリフォーム本体は、断面幾何学形状(上部表面及び下部表面とほぼ平行)を有し、ステムが中央部分から突出する位置において、内接円の直径は約12mm超であり、外接円の直径は約20mm未満である。前記中央部分は、円筒状本体と、前記第1のステム端部の位置で20mm未満の直径を有する円形断面幾何学形状とを備えていてもよい。対照的に、既知の切削ブロックのサイズ及び形状(例えば、約15mm×16mm)を有するブロックの代表例は、図1Cに示されるような断面幾何学形状(112)を有する。この例では、選択された直径(例えば、12mm)の内接円(114)は、代表的なブロックの断面寸法内に収まる。しかしながら、代表的なブロックの断面幾何学形状は、選択された直径(例えば、20mm)の外接円(115)内に収まらず、したがって、ブロックのサイズを増加させずに既知のブロック設計内で完全回転させることができるクラウン修復物設計のサイズが低減される。
【0019】
いくつかの実施形態では、プリフォーム本体は、平坦な端面と、本体の長さを通して均一な断面直径又は幅とを有する。あるいは、上端及び下端領域(206、207)は先細状であって、中央部分(205)よりも小さい断面直径又は幅の上端面及び下端面を備える。先細状の上端及び/又は下端部分は、中央部分のプリフォーム外表面(204)と端面(例えば、下端面211)との間の整形縁部、又は端面のキャビティ(208)の周りの整形縁部、又はそれら両方を備えてもよい。例えば、図1Aに示されるように、下端領域(105)は、中央部分の外表面(104)と下端面(107)との間に第1のフィレット縁部(filleted edge)(106)を有し、さらに、第2のフィレット縁部(108)が下端面(107)で陥凹部(109)を取り囲み、キャビティ(110)が第2のフィレット縁部から円筒状本体の中央部分(111)に向かって内側に延在する。図1Aに示される実施形態では、プリフォーム本体は、上端面(図示なし)とプリフォーム本体外表面(104)との間にフィレット縁部を備える、上端領域(113)へと先細状になっている。
【0020】
さらなるプリフォーム(500)が図5A(下面図)及び図5B(側面図)に例示されており、これらの図は、ステム(502)及び取付け部材(503)を備えるプリフォーム本体(501)を示し、プリフォーム本体(501)は下端領域(506)及び上端領域(507)が両方とも面取り縁部(508、508’)を有する。プリフォーム本体外表面(504)の直径は、中央部分(505)から上端面及び下端面(それぞれ、510、509)まで先細状になっている。図5Aに例示される下端領域(506)は、下端面(509)に陥凹部(512)を形成する第2の面取り縁部(511)を有し、キャビティ(513)は陥凹部から中央部分に向かって延在する。
【0021】
いくつかの実施形態では、1つ又はそれ以上の整形縁部を有する機械加工可能なプリフォームは、クラウンなどの最終的な歯科用修復物を作製する際に除去すべき材料が少ない。キャビティの周りの整形縁部によって、整形工具がキャビティにアクセスするのが容易になってもよい。さらに、プリフォーム材料が実質的にないキャビティにより、修復物を整形する際に除去すべき材料の量を低減できる。図5Aに例示されるように、キャビティ(513)は、キャビティ開口部からプリフォーム本体の中央部分内へと延在し、上端面及び/又は下端面の陥凹部から内表面を形成する。他の実施形態では、キャビティは、プリフォームの前端及び後端それぞれに形成される。
【0022】
各キャビティの形状は同じであっても異なってもよく、倒立円錐、ドーム、円筒、溝などを含んでもよいがそれらに限定されず、又は不規則形状を有してもよい。キャビティの開口部又はブレークアウト幾何学形状(breakout geometry)は、プリフォーム本体の中央部分の外径又は幅の約20%~80%の幅(もしくは、例えばブレークアウト面積が円形の場合は直径)を有してもよい。「幅」という用語は、本明細書において、対象が円形の場合は直径を指すことがある。いくつかの実施形態では、キャビティの開口部は、プリフォーム本体の中央部分の外側幅の約30%~約75%、もしくは約40%~約75%の幅、又は中央部分の外側幅の50%~80%の幅を有し、あるいはキャビティ開口部又はブレークアウト寸法は、上端面、下端面、もしくは中央部分断面の表面積の約50%~約80%の表面積を有する。
【0023】
おおよそのキャビティ深さは、プリフォームを上端から下端まで測定したときの、プリフォーム本体の長さの5%~50%、又はプリフォーム本体の長さの10%~35%、又はプリフォーム本体の長さの10%~30%であってもよい。円形のキャビティ開口部は、端面から測定したときの、プリフォーム本体の外表面直径の約75%以下の内径を有してもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、プリフォーム本体は、キャビティによって形成される、ほぼ倒立円錐の形状の内表面(212)を有する。内表面は、機械加工工具によってアクセスされ、患者の口内の構造に付着し当接する、歯科用修復物の凹状表面を形成するように機械加工される。プリフォーム本体のモデル内で修復物設計を入れ子にし、プリフォームのキャビティを修復物設計の凹状内表面と同軸で位置合わせすることによって、整形プロセス中の材料除去の量が低減される。
【0025】
一実施形態では、プリフォーム本体は、断面幅(上述したように、直径を指してもよい)と、全ての単一の前方及び後方(例えば、第一及び第二大臼歯及び小臼歯)の歯科用修復物の少なくとも約90%のサイズに適応する長さとを備えて、歯科医が複数のサイズ及び形状のプリフォームの在庫を蓄積する必要性を排除する。プリフォーム本体は、異なる形状及びサイズのこれまで準備した修復物設計に関する情報に基づいて設計されてもよい。一実施形態では、プリフォーム本体は、取得され、次に修復物設計の凸状の内表面が共通軸(例えば、図1Bに示されるような)の周りで配向されるようにして重ねられた、数千の単一のクラウン修復物設計の電子的表現によって設計される。一実施形態では、プリフォーム本体設計は、複数の前方歯タイプ(例えば、中切歯、側切歯、犬歯、ならびに任意に、第一及び第二小臼歯)の修復物設計の複合物である。別の実施形態では、プリフォーム本体設計は、複数の後方歯タイプ(例えば、第一及び第二大臼歯、ならびに任意に、第一及び第二小臼歯)の修復物設計の複合物である。別の実施形態では、プリフォーム本体設計は、前方歯及び後方歯タイプの修復物設計の複合物である。
【0026】
重ねられ同軸で位置合わせされた修復物設計は、共通軸を中心にして回転させられる。回転の際、複合設計の最大寸法、例えば修復物設計の分割線又はシルエットは、整形本体設計の最大外表面寸法を形成する。いくつかの実施形態では、整形本体設計の外表面は、最大外表面寸法に基づいて平滑化されて、中心軸(例えば、線Z-Z’)を中心にして360°回転する、修復物設計の約90%を入れ子にするのに適したサイズの直径を有する、実質的に円筒状の形状と円形断面とを形成してもよい。下端部と上端部との間のプリフォーム縁部、及び中央部分は、上述したように整形されてもよい。任意に、プリフォームキャビティ設計は、倒立円錐形状の内表面をプリフォーム本体に提供するように平滑化された、複合修復物設計の凹状表面に対応する。
【0027】
一実施形態では、類似サイズの複合修復物設計に適応する、縁部又は角が約90°の立方体又は直方柱形状を有する標準的なプリフォームブロック形状と比べて材料体積が少ない、丸み付けされた又は円形の断面設計を有するプリフォーム本体が提供される。さらに、z軸を中心にした複合修復物設計の完全回転に適応する単一のプリフォーム設計は、非対称の歯形状を模倣するか又はそれに似せた、非対称の幾何学形状を有するほぼネット形状のブロックとは対照的である。歯形状を有するほぼネット形状のブロックは、修復物設計の回転に適応せず、修復物のタイプ及びサイズの潜在的な範囲の装備を担保するため、特定の歯のタイプ又は歯番号の大型ライブラリもしくはキットを要する。
【0028】
ステムは、最終的な歯科用修復物を整形する間、プリフォーム本体に対する支持を提供する。ステムの長さは、プリフォーム本体と取付け部材との間に十分に大きい空間を提供して、プリフォーム材料に接触せずに工具経路に入るように、プリフォーム本体に隣接した位置で削合工具を配置するのを可能にしてもよい。図3A及び3Bに例示される一実施形態では、ステム(302)は、円筒状本体(301)と取付け部材(303)とを架橋し、円筒状本体の外表面から上端部及び下端部の間のほぼ中間をほぼ直交して延在する。ステムは、上端面及び下端面から等距離で、又は上端面及び下端面の中間の約15%~約25%以内で、プリフォームの外表面から突出してもよい。他の実施形態では、ステム接続部から上端部又は下端部までの距離は、プリフォーム本体長さの約20%~約80%、又はプリフォーム本体長さの約25%~約75%、又はプリフォーム本体の長さの約30%~70%に等しい距離、又はプリフォーム本体の長さの約40%~60%に等しい距離と同じであってもよい。
【0029】
ステムの長さの軸(線C-C’)は、円筒状本体(301)の長さの軸(線A-A’)に対して実質的に直交してもよい。いくつかの実施形態では、ステムの長さの軸は、プリフォーム本体長さに対する直交から約30°以内、又は約45°以内である。ステムの形状は、円筒、円錐、角錐などであってもよい。一実施形態では、前端及び後端の整形縁部まで先細状になっているプリフォーム本体は、プリフォーム本体の中央部分から延在するステムを備え、機械加工後、ステムは、図4に見られるように、最終的な歯科用修復物の咬合面及び縁部又は辺縁部から離れて、最終的な歯科用修復物(400)の中央に接続される。
【0030】
一実施形態では、プリフォーム本体は完全焼結された材料であり、第1のステム端部(313)におけるステム(302)の屈曲強度は、焼結状態から機械加工する間、焼結プリフォーム(300)を支持するのに十分に高く、最終的な歯科用修復物を例えば手でステムから簡単に折り取るのに十分に低い。プリフォーム(300)のステム(302)は、最終的な歯科用修復物が得られるまで、整形プロセス全体を通して、焼結された円筒状本体(301)に第1のステム端部(313)で取り付けられたままであり、それを支持する。整形可能なプリフォーム本体の外表面から延在するステム(302)を有する、本明細書に記載するプリフォーム本体とは対照的に、従来の修復物切削プロセスは、整形プロセス中に、未焼結ブロック材料の残骸である、スプルー又はコネクタを生じる。
【0031】
いくつかの実施形態では、修復物を整形する前は、プリフォームステムの長さは、プリフォーム本体に近接した第1のステム端部(313)におけるステム幅よりも長い。ステムの長さは、約3mm~約12mm、又は約3mm~10mmであってもよい。いくつかの実施形態では、ステムの長さは、約3mm超過、又は約4mm超過、又は約5mm超過、又は約6mm超過、又は約8mm超過であってもよい。一実施形態では、円筒状本体に近接した第1のステム端部の幅(本明細書において、「幅」はステム直径を指すのにも使用されることがある)は、取付け部材(303)に近接した第2のステム端部(314)の幅(直径)未満である。第1のステム端部幅は、1mm~5mm、もしくは約1mm~約4mm、もしくは約1.5mm~約3.5mm、もしくは1.5mm~約3mmの範囲、又は約4mm以下、もしくは約3mm以下、もしくは約2.5mm以下、もしくは約2mm以下であってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、ステムの長さと第1のステム端部(円筒状本体に近接した端部)の幅との比は、1.5:1以上、又は2:1超、又は3:1超、又は3.5:1超、及び6:1未満、又は5:1未満、又は4.5:1未満、又は約4:1以下である。一実施形態では、ステムは、機械加工工具がプリフォーム材料に接触することなく、取付け部材と円筒状本体との間で工具のアクセス及び配置を提供して、ステム付近で円筒状本体を機械加工するときの機械加工工具の摩耗を低減するのに十分な長さを有する。したがって、この実施形態では、ステムの長さは、工具先端、工具シャンク、又は両方の直径よりも長い。
【0033】
取付け部材(303)は、第2のステム端部(314)でステムに接合され、整形プロセスの間、機械加工可能なプリフォームを整形機械に対して直接、又は中間構成要素(マンドレル305など)に対して間接的に固定する。取付け部材の形状及びサイズは、焼結プリフォームを最終的な歯科用修復物へと整形するのに適したあらゆる機械又は中間マンドレルと適合性があってもよい。取付け部材は、クランプ、グリップ、接着剤、又は他の機械的取付けを含む機械的手段によって、焼結プリフォームを機械に対して直接もしくは間接的に固定してもよい。例えば、正方形、長方形、又は円形として整形された実質的に平坦な下面(315)を有する取付け部材が、図3Aに例示されるように、マンドレルに対して接着剤で取り付けられてもよい。別の実施形態(図示なし)では、焼結プリフォームは、マンドレルに挿入可能に装着することができる取付け部材を備え、取付け部材をマンドレル内で噛合又は圧締めすることによって固定される。この実施形態の一例では、ステムは延長され、第2のステム端部がマンドレルに挿入するように整形される。取付け部材は、ねじを配置するための穴(316)、もしくはダブテールなど、マンドレルに取り付けるための、又は整形機械に直接取り付けるための機械的取付け手段を備えてもよい。
【0034】
プリフォーム材料は、本明細書に提供する方法にしたがって測定したときに、約4HV(GPa)(マクロビッカース硬度)以上、又は4~20HV(GPa)の範囲のビッカース硬度値を有するものを含んでもよい。あるいは、プリフォーム材料は、5~15HV(GPa)、又は11~14HV(GPa)のビッカース硬度値を有する。この範囲内の硬度値を含むプリフォーム本体材料は、コバルトクロムなどの金属、ケイ酸リチウム及び二ケイ酸リチウムなどのガラス及びガラスセラミックス、ならびにアルミナ及びジルコニアを含む焼結セラミックスを含むセラミックスを含んでもよい。市販の歯科用ガラス、ガラスセラミックもしくはセラミック、又はそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない歯科修復材料が、本明細書に記載の機械加工可能なプリフォームを作製するのに使用されてもよい。セラミック材料は、ジルコニア、アルミナ、イットリア、酸化ハウニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ニオブ、及びそれらの混合物を含んでもよい。ジルコニアセラミック材料は、セラミック材料の約85質量%~約100質量%の量でジルコニアが存在する、主にジルコニアで構成される材料を含む。ジルコニアセラミックスは、ジルコニア、正方晶安定化ジルコニアなどの安定化ジルコニア、及びそれらの混合物を含んでもよい。イットリア安定化ジルコニアは、約3mol%~約6mol%のイットリア安定化ジルコニア、又は約2mol%~約7mol%のイットリア安定化ジルコニアを含んでもよい。イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対するイットリアの割合(mol%)を意味する。本明細書で使用するのに適した安定化ジルコニアの例としては、(例えば、東ソー株式会社から、TZ-3Y等級として)市販されているイットリア安定化ジルコニアが挙げられるが、それに限定されない。本明細書で使用するのに同様に適した歯科用セラミックスを作製する方法を、米国特許第8,298,329号明細書に見出すことができ、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0035】
未焼結材料は、焼結プリフォームと実質的に同じ幾何学形状を有するが、必要であれば焼結の際の収縮に適応するように拡大寸法を有する、中間形態へと整形されてもよい。中間整形形態は、未焼結材料の射出成形、又は切削、又は削合によって作製されてもよい。適切な未焼結セラミック材料としては、理論上の最高密度まで完全に焼結されていない、セラミック粉末及びセラミックブロックが挙げられる。セラミック粉末は、成形、及び二軸又はアイソスタティックプレスを含むプロセスによってブロック状に作製されてもよく、任意に結合剤及び処理助剤を含んでもよい。任意に、セラミック粉末は、それらの全体を参照により組み込む、米国特許出願公開第2009/0115084号明細書、同第2013/0231239号明細書、及び同第2013/0313738号明細書に記載されているプロセスを含む、スリップ注型プロセスによって、ブロック状に加工されてもよい。
【0036】
歯科用修復物の形成後にそれ以上の着色を要さない、天然又は人工歯列の色を有する色付きの機械加工可能なプリフォームを作製するため、着色材料が使用されてもよい。未着色もしくは色なしのセラミック材料よりも一層、天然歯列又は市販の人工歯列の外観に近付けるため、粉末又はブロック形成の間に着色剤が組み込まれてもよい。例えば、米国特許出願公開第2013/0231239号明細書は、コロイド分散系によってセラミックスを着色し、スリップ注型方法によってセラミックスを注型する方法を記載しており、その全体を参照により本明細書に組み込む。さらなる例としては、アイソスタティック又は二軸プレス製造プロセスによって未加工状態のセラミック本体状に形成された、着色セラミック粉末を作製する方法について教示している、米国特許出願公開第2014/0109797号明細書が挙げられ、その全体をやはり参照により本明細書に組み込む。任意に、着色剤は、プレスしてブロック状にするのに先立って、例えば、金属塩、着色液、又は色付き粉末として、セラミック粉末と直接混合されてもよい。必要に応じて、多孔質材料から作製された中間プリフォーム形状は、例えば、着色液に浸漬し、次に焼結することによって色付けされていてもよい。
【0037】
未焼結材料は、多孔性を低減して欠け落ち又は破損なしに整形するのを容易にするため、加熱又は部分的に焼結されてもよい、上述のプロセスによって作製された未加工状態の焼結前のセラミックブロックを含む。焼結前ブロックは、整形形態へと切削するための構造を保持するのに十分な固さであるが、切削工具を損傷せずに迅速に整形できるようにするのには十分に柔らかく、完全密度まで加熱又は焼結されていない。本明細書に記載の方法で有用な焼結前ブロックとしては、完全焼結されたセラミック材料の理論上の最高密度の約50%~約90%、又は50%~95%の範囲の密度を有してもよい、多孔質ブロックが挙げられる。焼結前密度は、完全焼結されたセラミックブロックの理論上の無孔密度と比べて、非セラミック結合剤ならびにセラミック粒子を含んでもよいことに留意すべきである。いくつかの実施形態では、完全焼結されたジルコニアセラミックスの理論上の最高密度は、約5.9g/cm~約6.1g/cm、又は例えば約6.08g/cmである。中間整形形態の作製に使用するのに適した焼結前ブロックとしては、クラレノリタケデンタル株式会社製「カタナ(登録商標) ジルコニアブロック」を含む、市販のセラミック切削ブロックが挙げられる。
【0038】
焼結の際、焼結前セラミックブロックの多孔性によって収縮がもたらされるが、それは非常に予測可能な収縮を有する材料密度から計算することができる。したがって、中間整形形態は、完全密度へと焼結する際のサイズの低減を予想するスケール因子の分、最終プリフォームよりも大きいことがある。同様に、焼結の際に収縮する未焼結セラミック材料を射出成形することによって作製される中間整形形態は、焼結の際のサイズ低減を予想する拡大因子を含めて設計される。CAD/CAMプロセスを使用して、中間整形形態が設計され、スケール拡大因子を用いた切削のための対応する切削指示が送られてもよい。中間整形形態は、例えば、セラミック切削ブロックの要件にしたがってメーカーによって指定されるような、市販のミル及び切削工具を用いて切削することができる。
【0039】
プリフォーム本体、ステム、及び任意に取付け部材を含む、単一体又はモノリシックのプリフォームは、単一の連続した未加工状態のブロック又は焼結前セラミックブロックから整形され、ステム及び/又は取付け部材をプリフォーム本体に取り付ける別個の取付けステップを要しない。あるいは、ステム及び取付け部材は、単一体構造として作製され、別個のステップとしてプリフォーム本体に取り付けられてもよい。別の実施形態では、整形プリフォームは、射出成形を含む既知の成形プロセスによって作製されて、プリフォーム本体、ステム、及び任意に取付け部材を連続構造として備える、単一体又はモノリシックのプリフォームを形成する。あるいは、整形形態は、例えば、中間整形形態が最初に成形され、次にステム及び/又は取付け部材が標準的な切削技術によって切削される、成形及び切削技術の組み合わせによって作製されてもよい。あるいは、ステム及び取付け部材は、焼結前又は焼結後に、プリフォーム本体に別個に取り付けられてもよい。
【0040】
中間整形形態は、既知の焼結プロトコルによって、理論上の最高密度の約95%を超える密度まで焼結されてもよい。ジルコニアセラミックプリフォームなどのセラミックプリフォームを、セラミック本体の理論上の最高密度の約95%超過、又は約98%超過、又は約99%超過、又は約99.5%超過の密度まで焼結する場合、歯科用修復物の焼結に適した材料製造プロトコルが使用されてもよい。例えば、焼結前ジルコニアブロックから切削した中間整形形態は、約400℃~1700℃の温度で約30分~48時間、又はセラミックブロックのメーカーによって提供される焼結プロトコルにしたがって焼結されて、6.08g/cmなど、約5.8g/cm~6.1g/cmの範囲、又は約5.9g/cm~6.0g/cmの範囲の密度を有する焼結ジルコニアプリフォームを形成してもよい。
【0041】
プリフォーム本体は、歯科用修復物として整形されてもよく、前方、後方、又は前方及び後方の両方の歯科用修復物用途で使用するのに許容可能であるのに十分な強度特性を有する材料を含み、整形後に焼結などによって材料の強度特性を変更する、追加の整形後加工ステップを有さない。焼結プリフォームは、密度-セラミック材料に記載されている3点曲げ強度試験にしたがって測定され計算されるように、ISO 6872:2008に概説されているジルコニア材料の曲げ強度試験方法によって試験したとき、約400MPa超、又は約500MPa超、又は約600MPa超、又は約800MPa超の曲げ強度を示す、高い曲げ強度を有するジルコニアセラミック材料を含んでもよい。
【0042】
a)未焼結ジルコニアセラミック材料を得るステップと、b)未焼結ジルコニアセラミック材料から、上端部、下端部、及び上端部と下端部との間の中央部分を備える未焼結セラミック材料の円筒状本体と、上端部又は下端部の少なくとも1つにあるキャビティと、円筒状本体の中央部分の外表面から突出するステムとを備える、未焼結整形形態を整形するステップと、c)未焼結ジルコニアセラミック整形形態を焼結して、ジルコニアセラミック本体の理論上の最高密度の約98%~約100%の密度を達成して機械加工可能な焼結プリフォームを形成するステップとを含む、歯科用修復物で使用される機械加工可能なプリフォームを作製する1つの方法が開示される。
【0043】
方法の一実施形態では、未焼結ジルコニアセラミック材料は単一の焼結前セラミックブロックであり、未焼結セラミック整形形態を整形するステップは、ジルコニア焼結前セラミックブロックを、本体部分及びステムを連続構造として備えるモノリシックの整形形態へと切削することを含む。別の実施形態では、未焼結セラミック形態を整形するステップは、未焼結セラミック材料をモノリシックの整形形態へと整形することを含む。一実施形態では、焼結前ジルコニアセラミック整形形態は、第1のサイズを有する円筒状本体及びステムを備え、低減された第2のサイズを有する円筒状形態及びステムを備える、完全焼結されたジルコニアプリフォーム(「焼結ジルコニアプリフォーム」もしくは「ジルコニア焼結体」ともいう。)を形成するように焼結される。
【0044】
完全焼結されたジルコニアプリフォームは、CNC機械及び削合工具を使用して、CAD設計に基づいて最終的な歯科用修復物へと整形される。焼結プリフォームから作製された最終的な歯科用修復物(400)が図4の図面に例示されている。焼結プリフォームから整形されたクラウン修復物(401)は、歯の辺縁部と咬合(咀嚼)面との間のクラウン外表面から延在する、ステム(402)を除去する前の状態で示されている。いくつかの実施形態では、最小限の量の焼結プリフォーム材料(403)が、最終歯科クラウン修復物(401)とステム(402)との間で円筒状本体から残ったままであり、例えばハンドサンディングによって、ステムを除去する際に除去されてもよい。一実施形態では、単一の削合工具が、約60分未満で、完全焼結されたジルコニアプリフォームを最終的な歯科用修復物へと整形するのに使用されてもよい。
【0045】
削合工具と機械加工可能なプリフォームとを備え、プリフォーム材料が、そこから整形された歯科用修復物の強度特性を修正するための整形後処理を必要とせずに、後方歯科クラウン修復物として使用するのに適した強度及び硬度値を有する、歯科用修復物を形成するためのキットが提供される。機械加工可能なプリフォームは、プリフォーム本体と、プリフォーム本体長さからほぼ直交して延在するステムとを備える。プリフォーム本体を最終的な歯科用修復物へと整形するのに、単一の削合工具が使用されてもよく、削合工具は、ダイヤモンド高さの約60%~95%の範囲の厚さを有する合金層に埋め込まれた、107ミクロン~250ミクロンの範囲の平均サイズを有するダイヤモンドを含む、ダイヤモンドコーティングされたシャンクを備える。一実施形態では、プリフォーム本体は、例えば、既存の歯列又はシェードガイド色に合致するように選択されており、整形後の着色又は焼結を要しない、予め色付けされた材料を含む。
【0046】
さらなる実施形態では、複数の同様に整形されたプリフォーム本体が、ノリタケシェードガイド、VITAクラシカルシェードガイド、又は歯科業界で使用するのに適した他の商業的に認められているシェードガイド色に対応する色調など、整形後の着色又は焼結を要しない歯科用シェードの範囲内の、歯科用修復物の作製に使用するのに適した複数の色で提供される。
【0047】
本発明のプリフォームにおいて、前記上端部から前記下端部に向かう第1方向に向かって色が変化しており、前記上端部から前記下端部に向かって、L*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)の増減傾向が変化しないことが重要である。特許文献1では、着色することは示唆されているものの、得られるプリフォームは単色であり、徐々に色が変化していく色調は得られていない。これは、特許文献1では、着色液とセラミック粉末と混合してスラリーとする等の着色方法が示唆されているが、これではスラリーは単色になっていまい、複数の色を有するものは得ることができない。さらに、着色液に浸漬する場合も、着色液の色が単色であるため、複数の色を備えるプリフォームを得ることができない。
【0048】
本発明のプリフォームは、歯科用として好適な色調を再現する観点から、前記プリフォームの前記上端部の一端から他端(前記下端部の一端)に向かう第1方向に延在する直線上において、前記上端部の一端から全長の15%までの区間にある第1点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L1,a1,b1)とし、前記下端部の一端から全長の15%までの区間にある第2点のL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)を(L2,a2,b2)としたとき、
L1が68.0以上90.0以下であり、
a1が-3.0以上4.5以下であり、
b1が0.0以上24.0以下であり、
L2が60.0以上85.0以下であり、
a2が-2.0以上7.0以下であり、
b2が4.0以上28.0以下であり、
L1>L2であり、
a1<a2であり、
b1<b2であり、
前記第1点から前記第2点に向かってL*a*b*表色系による焼結後の(L*,a*,b*)の増減傾向が変化しないことが好ましい。好ましくは、
L1が69.0以上89.0以下であり、
a1が-2.7以上4.0以下であり、
b1が1.0以上23.5以下であり、
L2が61.5以上84.5以下であり、
a2が-1.5以上6.5以下であり、
b2が5.5以上26.0以下である。より好ましくは、
L1が70.0以上87.0以下であり、
a1が-2.5以上3.7以下であり、
b1が2.0以上23.0以下であり、
L2が63.0以上84.0以下であり、
a2が-1.2以上6.0以下であり、
b2が7.0以上24.0以下である。
上記の範囲を満たすことにより、平均的な天然歯の色調に適合させることができる。
【0049】
本発明のプリフォームは、
L1-L2が0超12.0以下であり、
a2-a1が0超6.0以下であり、
b2-b1が0超12.0以下であることが好ましい。より好ましくは、
L1-L2が0超10.0以下であり、
a2-a1が0超5.5以下であり、
b2-b1が0超11.0以下である。さらに好ましくは、
L1-L2が0超8.0以下であり、
a2-a1が0超5.0以下であり、
b2-b1が0超10.0以下である。特に好ましくは、
L1-L2が1.0以上7.0以下であり、
a2-a1が0.5以上3.0以下であり、
b2-b1が1.6以上6.5以下である。最も好ましくは、
L1-L2が1.5以上6.4以下であり、
a2-a1が0.8以上2.6以下であり、
b2-b1が1.7以上6.0以下である。
上記の範囲を満たすことにより、天然歯の色調をより好適に再現することができる。
【0050】
本発明のプリフォームは、両端を結ぶ一端から他端に向かって色が変化していることが好ましい。以下、プリフォーム(好適にはジルコニア焼結体)の模式図として図6を用いて説明する。図6に示すジルコニア焼結体10の一端Pから他端Qに向かう第1方向Yに延在する直線上において、L*値、a*値及びb*値の増加傾向又は減少傾向は逆方向に変化しないと好ましい。すなわち、一端Pから他端Qに向かう直線上においてL*値が減少傾向にある場合、L*値が実質的に増加する区間は存在しないと好ましい。例えば、図6のように、一端Pから他端Qを結ぶ直線上の点として第1点A、第2点Dとしたとき、第1点Aと第2点Dとを結ぶ直線上において、第1点Aから第2点Dに向かってL*値が減少傾向にある場合、L*値が1以上増加する区間が存在しないと好ましく、0.5以上増加する区間が存在しないとより好ましい。また、一端Pから他端Qに向かう直線上においてa*値が増加傾向にある場合、a*値が実質的に減少する区間は存在しないと好ましい。例えば、第1点Aと第2点Dとを結ぶ直線上において、第1点Aから第2点Dに向かってa*値が増加傾向にある場合、a*値が1以上減少する区間が存在しないと好ましく、0.5以上減少する区間が存在しないとより好ましい。さらに、一端Pから他端Qに向かう直線上においてb*値が増加傾向にある場合、b*値が実質的に減少する区間は存在しないと好ましい。例えば、第1点Aと第2点Dとを結ぶ直線上において、第1点Aから第2点Dに向かってb*値が増加傾向にある場合、b*値が1以上減少する区間が存在しないと好ましく、0.5以上減少する区間が存在しないとより好ましい。
【0051】
ジルコニア焼結体であるプリフォーム(10)における色の変化方向は、一端Pから他端Qに向かって、L*値が減少傾向にあるとき、a*値及びb*値は増加傾向にあると好ましい。例えば、一端Pから他端Qに向かって、白色から薄黄色、薄オレンジ色又は薄茶色へと変化する。
【0052】
図6のプリフォーム(10)において、一端Pから他端Qを結ぶ直線上の点として第1点Aと第2点Dの間の点を第3点Bとする。第3点BのL*a*b*表色系による(L*,a*,b*)を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が66.0以上89.0以下であり、
a3が-2.5以上6.0以下であり、
b3が1.5以上25.0以下であり、
L1>L3>L2であり、
a1<a3<a2であり、
b1<b3<b2である、
ことが好ましい。
【0053】
さらに、第3点Bと第2点Dの間の点を第4点Cとする。第4点のL*a*b*表色系による(L*,a*,b*)を(L4,a4,b4)としたとき、
L4が62.0以上86.0以下であり、
a4が-2.2以上7.0以下であり、
b4が3.5以上27.0以下であり、
L1>L3>L4>L2であり、
a1<a3<a4<a2であり、
b1<b3<b4<b2である、
ことが好ましい。
【0054】
図6のプリフォーム(10)において、第1点Aは、一端P(前記上端部の一端)から、一端Pと他端Q(前記下端部の一端)間の長さ(以下、「全長」という)の15%までの区間にあると好ましい。第3点Bは、一端Pから全長の長さの20%離れた所から、一端Pから全長の80%までの区間にあると好ましく、例えば、一端Pから全長の35%の距離にあってもよい。第2点Dは、他端Qから、全長の15%までの区間にあると好ましい。第4点Cは、他端Qから全長の20%離れた所から、他端Qから全長の80%までの区間にあると好ましく、例えば、他端Qから全長の35%(すなわち、一端Pから全長の65%)の距離にあってもよい。ある好適な実施形態としては、このような位置に、第1点A、及び第2点D、さらに必要に応じて第3点B、及び第4点Cを設定し、(L*,a*,b*)の各値が調整された機械加工可能なプリフォームが挙げられる。このような位置に各点を設定することで、構造的特徴と相まって、焼結されたセラミックプリフォーム(好適には焼結ジルコニアプリフォーム)として、さらなる着色を必要とせずに、好適な審美性を有することができる。このような加工性ジルコニア焼結体では、徐々に色が変化していく色調が得られ、さらなる着色が不要であり、かつさらなる焼結も不要であるため、切削加工した未焼結体を焼結するという従来技術において必須の工程が不要となり、歯科医院内でセラミック修復物を作製することができる点で、従来技術とは大きく異なる。
【0055】
本発明のプリフォームの製造方法の一例について以下に説明する。
【0056】
まず、焼結前のプリフォームの製造方法について、材料がジルコニアであるジルコニアプリフォームを例として説明する。水中でジルコニアと安定化剤を湿式粉砕混合してスラリーを形成する。次に、スラリーを乾燥させて造粒して造粒物を得る。次に、造粒物を焼成して、1次粉末を作製する。
【0057】
次に、1次粉末を、積層させる層の数に分ける。例えば、計4層の原料組成物を作製する場合には、1次粉末を4つに分け、第1~4粉末とする。各粉末に顔料を添加する。顔料の添加量は、各層の色を発現するように適宜調節する。そして、それぞれについて、水中で所望の粒径になるまでジルコニア粉末を混合して、ジルコニアスラリーを形成する。次に、スラリーを乾燥させて造粒し、各層の2次粉末を作製する。原料組成物に、ジルコニア、安定化剤、及び顔料以外に、添加剤を加えてもよい。添加剤としては、アルミナ、酸化チタン、バインダ等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。原料組成物に、添加剤を添加する場合には、1次粉末の作製時に添加してもよいし、2次粉末の作製時に添加してもよい。
【0058】
顔料としては、着色剤、複合顔料及び蛍光剤等が挙げられる。顔料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記顔料のうち着色剤としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErの群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物(例えば、NiO、Cr)が挙げられる。複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O、Fe(Fe,Cr)、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)・ZrSiO、(Co,Zn)Al等が挙げられる。蛍光剤としては、例えば、YSiO:Ce、YSiO:Tb、(Y,Gd,Eu)BO、Y:Eu、YAG:Ce、ZnGa:Zn、BaMgAl1017:Eu等が挙げられる。
【0059】
次に、複数の粉末を順に積層させる。上層を積層する前に、プレス処理を施すことなく下層の上面を平坦にならす。例えば、下層の粉末の上面をすりきったりして、上面を平坦にする。例えば、計4層の原料組成物を作製する場合、型に、第1粉末を所定の厚さ(例えば全体の厚さの25~45%)まで充填する。この時、プレス処理を施さずに、第1粉末の上面を平坦にする。次に、第1粉末の上に、第2粉末を所定の厚さ(例えば全体の厚さの5~25%)まで充填する。第2層の上面もプレス処理を施さずに平坦にする。第2粉末の上に、第3粉末を所定の厚さ(例えば全体の厚さの5~25%)まで充填する。第3層の上面もプレス処理を施さずに平坦にする。次に、第3粉末の上に、第4粉末を所定の厚さ(例えば全体の厚さの25~45%)まで充填する。第4層の上面もプレス処理を施さずに平坦にする。第1~4層にかけて顔料の含有率が順に増大又は減少するように積層すると好ましい。また、例えば、計4層の原料組成物を作製する場合、各層の基本物性を揃え、安定した加工性を担保する観点から、各層に含まれる安定化剤(好適には、イットリア)の含有率を前記した範囲内で、同一量になるように設定してもよい。焼結後の整形プリフォームに含まれるイットリアの含有率は、透光性および強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対して、約2mol%~約8.5mol%が好ましく、約2mol%~約7mol%がより好ましく、約2.5mol%~約6.5mol%がさらに好ましく、約3mol%~約6mol%が特に好ましい。焼結後の整形プリフォームにおけるイットリアの含有率が前記範囲になるように、原料組成物に含ませることができる。例えば、ある好適な実施形態では、4層の原料組成物を使用する場合、プリフォームの形状の影響を考慮し、すべての層の厚みをほぼ均等に設定することができる。従来技術(例えば、ブロック状、ミルブランク状)では、両端の層が厚く、中間層が薄く設定されるものであるのに対して、本発明のプリフォームが積層構造を有する場合、すべての層の厚みをほぼ均等に設定した上で、前記色調の設定を行ってもよい。
【0060】
次層を充填する前にプレス処理を施さないことにより、焼結体において、隣接する層間の密着性を高めることができ、強度を高めることができる。さらに、隣接する層間の色の差異を緩和することができる。これにより、焼結体において、積層方向に色を自然に変化させ、グラデーションを作り出すことができる。
【0061】
次に、全層を積層した後プレス成形を行い、成形物を作製する。プレス成形は、例えば、後記する実施例の圧力で行うことができる。プレス成形は、CIP成形で行うことができる。得られた成形体をジルコニア粒子が焼結に至らない温度で焼成(即ち仮焼)し、仮焼体を得る。仮焼温度は、特に限定されないが、800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、950℃以上がさらに好ましい。また、焼成温度は、特に限定されないが、1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下がさらに好ましい。
【0062】
得られた仮焼体を、所定の構造データ(例えば、図1A図2A)に基づいて、公知のCAD/CAMシステム(例えば、「カタナ(登録商標) CAD/CAMシステム」、クラレノリタケデンタル株式会社)を用いて切削し、プリフォーム本体が円筒状の焼結前整形プリフォームを得る。また、前述のように、原料組成物を用いて射出成形を含む既知の成形プロセスによって作製されててもよい。
【0063】
焼結前整形プリフォームを、ジルコニア粒子が焼結に至る温度(焼結可能温度)で焼成して、完全焼結されたジルコニアプリフォームを作製することができる。
【0064】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例
【0065】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0066】
[実施例1~5及び比較例1~2]
[ジルコニア仮焼体及び焼結体の作製]
各実施例及び比較例のジルコニア仮焼体及びその焼結体を以下の手順により作製した。
【0067】
ジルコニア仮焼体を作製するために使用する原料粉末の作製方法について説明する。まず、ジルコニア粉末とイットリア粉末とを用いて、表1に記載のイットリアの含有率となるように混合物を作製した。次に、この混合物を水に添加してスラリーを作製し、平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕混合した。粉砕後のスラリーをスプレードライヤで乾燥させ、得られた粉末を950℃で2時間焼成して、粉末(一次粉末)を作製した。なお、前記平均粒径は、レーザー回折散乱法により求めることができる。レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0068】
得られた一次粉末を第1~第4粉末として4つに分け、各粉末に対して、表1に示す組成で顔料を添加した。表1に示す数値は、ジルコニアとイットリアの混合粉末(100質量%)に対する顔料の含有率である。その後、顔料を添加した各粉末を水に添加してそれぞれスラリーを作製し、平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕混合した。粉砕後のスラリーにバインダを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、第1~第4粉末の4種類の粉末(二次粉末)を作製した。
【0069】
次に、ジルコニア仮焼体の製造方法について説明する。まず、内寸82mm×25mmの金型に、前記二次粉末の第1粉末を35g充填し、上面をすりきって第1粉末の上面を平坦にならした。続けて、第1粉末上に、第2粉末を15g充填し、上面をすりきって第2粉末の上面を平坦にならした。同様に、第2粉末上に、第3粉末を15g充填し、上面をすりきって第3粉末の上面を平坦にならした。さらに、第3粉末上に、第4粉末を35g充填し、上面をすりきって第4粉末の上面を平坦にならした。最後に、上型をセットし、一軸プレス成形機によって、面圧300kg/cmで90秒間、1次プレス成形した。得られた1次プレス成形体を1700kg/cmで5分間、CIP成形して、4層構造の成形体を作製した。
【0070】
得られた成形体を1000℃で2時間焼成してジルコニア仮焼体を作製した。次に、CAD/CAMシステム(「カタナ(登録商標) CAD/CAMシステム」、クラレノリタケデンタル株式会社)を用いて円筒状の焼結前整形プリフォームに切削した。中間の焼結前整形形態(焼結前整形プリフォーム)は、実質的に図1Aに示されるように、上端部及び下端部を有する円筒状本体と、上端部及び下端部から等距離の第1のステム端部を有し、円筒状本体の長さに対して中央部分から直交して延在したステムと、第2のステム端部に取り付けられた取付け部材とを有していた。プリフォームは、下端面から内側に延在するキャビティを有していた。ステムは、取付け部材と円筒状本体との間に、焼結プリフォームに接触せずにz軸方向でボール削合工具の先端を位置付けるための十分な長さを有していた。取付け部材の形状及びサイズは、削合プロセスでCNC機械とともに使用されるマンドレルに取り付けるのに適合したものであった。
焼結前整形形態を、1500℃で2時間焼成して、約5.9g/cm~6.1g/cmの密度を有する完全焼結されたジルコニアプリフォームを形成した。完全焼結されたジルコニアプリフォーム(ジルコニア焼結体)は、約12.8mm~14.2mmの本体長さと、約14mm~15mmの断面外径と、約7mm~8mmの直径を有する下端面のキャビティブレークアウト直径と、約2~2.8mmの第1のステム端部幅と、約6.8~7.3mmのステムの長さとを有していた。
【0071】
[ジルコニア焼結体の色調確認(1)]
各実施例及び比較例のジルコニア焼結体について、前歯用補綴物に切削加工し、加工後の前歯用補綴物について、天然歯の外観との比較の観点で、目視により色調を評価した(n=1)。表1では「目視」の欄に結果を示す。グラデーションが形成され、かつ色調が天然歯と同様の外観を呈する場合を「〇」と評価した。グラデーションが形成されていない、或いは、色調が天然歯と同様の外観を呈していない場合を「×」とした。
【0072】
実施例1~5では、ジルコニアプリフォームから60分以内の加工時間にて、第1粉末に由来する第1層に相当する領域から第4粉末に由来する第4層に相当する領域に向かって、黄白色から薄黄色へと変化するグラデーションが形成され、天然歯と同様の外観を呈する歯冠形状のジルコニア焼結体を得ることができた。
【0073】
一方、比較例1はエナメル部とボディ部が同一の色調であり、比較例2は黄色みが強く、いずれも色調が天然歯と比較して不自然であり、天然歯と同等の外観を呈するとは言えなかった。
【0074】
[ジルコニア焼結体の色調確認(2)]
各実施例及び比較例のジルコニア焼結体の色調について、以下の方法で定量的に評価した。各例における二次粉末の第1粉末、第2粉末、第3粉末、及び第4粉末について、それぞれ単独のジルコニア焼結体を作製し、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)による(L*,a*,b*)を測定した。これらの各粉末単独で作製したジルコニア焼結体の(L*,a*,b*)は、上記の4つの粉末の積層体から作製したジルコニア焼結体における各点の(L*,a*,b*)に相当する。具体的には、第1粉末は第1点A、第2粉末は第3点B、第3粉末は第4点C、第4粉末は第2点Dに相当する。(L*,a*,b*)は、各粉末単独で製造したジルコニア焼結体を直径14mm、厚さ1.2mmの円板となるように加工(両面は#600研磨)した後、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM-3610Aを用いて、D65光源、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm、白背景にて測定した(n=1)。評価結果を表1に示す。
【0075】
[ビッカース硬度の測定]
下記実施例ないし比較例で得た焼結体を用い、JIS Z 2244:2009に準拠し測定した。Innovatest社製のFalcon500を用いて、荷重20kgfにて30秒保持し、Hv値を算出した(n=5の平均値)。実施例3の第1粉末から作製された焼結体でのHv値は1351(=13.2Hv(GPa))、実施例3の第4粉末から作製された焼結体でのHv値は1345、実施例5の第1粉末から作製された焼結体でのHv値は1358(=13.3Hv(GPa))となった。
【0076】
【表1】
【0077】
上記結果から、本発明の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォームは、整形後の着色や焼成を必要とせず、歯科用(特に前歯)として好適な審美性を兼ね備えることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の歯科用修復物を整形するための機械加工可能なプリフォームは、補綴物等の歯科用製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
10、100、200、300、500 プリフォーム
101、201、301、501 プリフォーム本体
102、202、302、402、502 ステム
103 歯科用修復物設計
104、204、304、504 外表面
105、506 下端領域
106 第1のフィレット縁部
107 下端面
108 第2のフィレット縁部
109、311、512 陥凹部
110、208、308、513 キャビティ
111、205、306、505 中央部分
112 断面幾何学形状
113、507 上端領域
114 内接円
115 外接円
206 上端部
207 下端部
303、503 取付け部材
305 マンドレル
313 第1のステム端部
314 第2のステム端部
400 最終的な歯科用修復物
401 歯科クラウン修復物
508、508’ 面取り縁部
509 下端面
510 上端面
A 第1点
B 第3点
C 第4点
D 第2点
P 一端
Q 他端
L 全長
Y 第1方向
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6