(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】計時器用ムーブメントのためのスパイラルばね
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20240620BHJP
G04B 17/22 20060101ALI20240620BHJP
F16F 1/06 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04B17/22 Z
F16F1/06 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022039952
(22)【出願日】2022-03-15
【審査請求日】2022-03-15
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・ミシュレ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ヴェラルド
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007955(JP,A)
【文献】特開2005-140674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06,17/22
F16F 1/06
C22C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルばねであって、前記スパイラルばねは、
Nb及びTiの元素、及びVとTaから選択される少なくとも1つの元素を含む合金によって作られ、前記合金において、
Nbの含有量は45重量%よりも大きく、
Tiの含有量は15重量%以上であり、
VとTaの合計含有量は、5~25重量%
であり、
弾性限界が500MPa以上であり、弾性率が100GPa
より大きい
ことを特徴とするスパイラルばね。
【請求項2】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルばねであって、前記スパイラルばねは、
Nb及びTiの元素、及びVとTaから選択される少なくとも1つの元素と、
選択的に、ZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
選択的に、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素と
からなる合金によって作られ、前記合金において、
Nb、V及びTaの合計含有量は85重量%以下であり、
Ti、Zr及びHfの合計含有量は15~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下であり、
Nbの含有量は45重量%よりも大きく、
Tiの含有量は15重量%以上であり、
VとTaの合計含有量は、5~25重量%であり、
Zr及び/又はHfを含み、ZrとHfの合計含有量は、5~25重量%である
ことを特徴とす
るスパイラルばね。
【請求項3】
選択的に、ZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
選択的に、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素と
からなる合金によって作られ、前記合金において、
Nb、V及びTaの合計含有量は85重量%以下であり、
Ti、Zr及びHfの合計含有量は15~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のスパイラルばね。
【請求項4】
VとTaの合計含有量は、10~25重量%である
ことを特徴とする請求項1
~3のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項5】
VとTaの合計含有量は、15~25重量%である
ことを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項6】
Zr及び/又はHfを含み、ZrとHfの合計含有量は、1~40重量%である
ことを特徴とする
請求項1および請求項1を引用する請求項
3~
5のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項7】
Zr及び/又はHfを含み、ZrとHfの合計含有量は、5~25重量%である
ことを特徴とする請求項
6に記載のスパイラルばね。
【請求項8】
Zr及び/又はHfを含み、ZrとHfの合計含有量は、10~25重量%である
ことを特徴とする請求項
7に記載のスパイラルばね。
【請求項9】
Zr及び/又はHfを含み、ZrとHfの合計含有量は、15~25重量%である
ことを特徴とする請求項
8に記載のスパイラルばね。
【請求項10】
Nb、V及び/又はTaのβ相と、Tiの、及び前記合金がZr及び/又はHfを含む場合にZr及び/又はHfのα相とを含む微細構造を有する
ことを特徴とする請求項2~
9のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項11】
弾性限界が500MPa以上であり、弾性率が100GPa以上である
ことを特徴とする
請求項2および請求項2を引用する請求項
3~
10のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項12】
弾性率が110GPa以上、である
ことを特徴とする請求項
1~11に記載のスパイラルばね。
【請求項13】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図された請求項1~
12のいずれかに記載のスパイラルばねを製造する方法であって、
少なくとも三元の前記合金によってブランクを作成するステップと、
前記合金のTiが実質的に固溶体の形態となり、Nb、及びV及び/又はTaがβ相であり、前記合金がZr及び/又はHfを含む場合に前記合金のZr及び/又はHfも実質的に固溶体の形態となるように、前記ブランクに対してβ型クエンチを行うステップと、
前記合金に対して一連の変形のシーケンスを行い、その後に中間的熱処理を行うステップと、
ワインドしてスパイラルばねを形成するワインドステップと、及び
最終熱処理を行うステップと
を行い、前記合金は、
Nb及びTiの元素、及びVとTaから選択される少なくとも1つの元素と、
選択的に、ZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
選択的に、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなり、
前記合金において、
Nb、V及びTaの合計含有量は85重量%以下であり、
Ti、Zr及びHfの合計含有量は15~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記β型クエンチは溶解処理であり、真空下で700℃~1000℃の温度で5分~2時間の持続時間行い、その後にガス下で冷却する
ことを特徴とする請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
各シーケンスの最終熱処理及び中間的熱処理は、300℃~700℃の保持温度で1時間~200時間の持続時間行うα相のTi、及び前記合金がZr及び/又はHfを含む場合にはZr及び/又はHf、の析出処理である
ことを特徴とする請求項
13又は
14に記載の方法。
【請求項16】
前記合金がZr及び/又はHfを含む場合に、前記最終熱処理は、400℃~600℃の保持温度で4~8時間の持続時間行う
ことを特徴とする請求項
13~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ブランクを作成するステップの後であって前記一連の変形のシーケンスを行いその後に中間的熱処理を行うステップの前に、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケルリン(Ni-P)及びニッケルホウ素(Ni-B)から選ばれる延性材料の表面層を前記ブランクに付加して、ワイヤの形への成形を容易にし、前記ワインドステップの前又は後に、化学的攻撃によって前記ワイヤから前記延性材料の層を除去する
ことを特徴とする請求項
13~
16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルばねに関する。本発明は、さらに、このスパイラルばねを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携行型時計(例、腕時計、懐中時計)のためのスパイラルばねの製造においては、
- 高い弾性限界
- 生産、特に、延伸と圧延、が容易にできること
- 優れた耐疲労性
- 長期にわたって安定したパフォーマンス
- 小さな断面
という相容れないように思える制約に直面することになる。
【0003】
また、スパイラルばねのために選択される合金には、このようなスパイラルばねを組み込んだ携行型時計が様々な温度で使用されてもクロノメーター的性能を維持することを確実にする性質もある必要がある。したがって、合金の熱弾性係数(TEC)が非常に重要になる。CuBe又は洋銀製のバランスを備えるクロノメーター的発振器を形成するには、熱弾性係数が±10ppm/℃の範囲内である必要がある。
【0004】
合金の熱弾性係数と、スパイラルばねの膨張係数(α)及びバランスの膨張係数(β)とを関連づける式は以下の通りである。
【0005】
【0006】
ここで、変数Mはs/dでのレートであり、変数Tは℃単位の温度であり、Eは、スパイラル合金のヤング係数であり、(1/E)(dE/dT)は、スパイラル合金の熱弾性係数であり、膨張係数は℃-1で表されている。
【0007】
実際に、TCは、次のように計算される。
【0008】
【0009】
この値は、-0.6~+0.6s/d℃の範囲内である必要がある。
【0010】
携行型時計製造用のスパイラルばねは、Tiの割合が、典型的には40~60重量%であり、特に47重量%であるような従来技術の二元系Nb-Ti合金によって知られている。変形と熱処理の図を適応させて、このスパイラルばねは、β相にNbを含み、α相に析出の形態のTiを含む2相の微細構造を有する。冷間加工されたβ相のNbは強い正の熱弾性係数を有し、α相のTiは強い負の熱弾性係数を有し、これによって、この2相合金の熱弾性係数をゼロに近づけることができ、これはTCのために特に好ましい。
【0011】
しかし、スパイラルばねにNb-Tiの二元の合金を用いる場合にはいくつかの課題がある。Nb-Tiの二元の合金は、上記のようにTCが低い場合に特に好ましい。一方、その組成は、2点(8℃と38℃)を通り抜ける直線によって上にて近似されるレートの曲率の尺度である二次的エラーのために最適化されていない。このレートは、8℃と38℃の間のこの線形的なふるまいから逸脱することがあり、23℃における二次的エラーは、23℃の温度におけるこの逸脱の尺度である。典型的には、NbTi47合金の場合、二次的エラーは4.5s/dであり、好ましくは-3~+3s/dの範囲内であるべきである。
【0012】
二元のNb-Ti合金の別の課題の1つは、主に定着ステップ中のワインドステップ後に発生するTiの析出に関連している。このステップは重要である。なぜなら、スパイラルばねの形を定着させ、Tiの析出の後にゼロに近いTCを得ることを可能にするからである。実際に、析出時間は非常に長く、NbTi47合金の場合、時間は8~30時間であり、平均して約20時間である。これによって、生産時間が非常に長くなってしまう。生産時間が長いという問題とは別に、Tiの割合が多すぎると、壊れやすいマルテンサイト相が形成されることがあり、それがスパイラルばねを生産するための材料の変形を困難ないし不可能にしてしまう。このように、合金にTiを過剰に入れないことが薦められる。
【0013】
現在においても、依然として、スパイラルばねの生産のためにTCが低く維持されつつ、脆弱な相がなく、生産時間が短く、二次的エラーが小さいという様々な条件を満たすような新しい化学組成を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記課題を解決することができるような、スパイラルばねの新しい化学組成を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このために、本発明は、Nb及びTiをベースとする少なくとも三元の合金によって作られた携行型時計のスパイラルばねに関する。本発明によると、Nbは、二次的エラーを低減させるように、Ta及び/又はVによって部分的に置き換えられる。好ましいことに、TiをZr及び/又はHfによって部分的に置き換えて、これによって、同じTCを維持しつつ、定着の間に、析出を加速させ、すなわち、析出の原動力を大きくする。また、合金の大きな割合に少なくとも3つの元素が存在することによって、合金の機械的性質、特に弾性限界、を改善させることができる。
【0016】
具体的には、本発明は、 計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルばねに関する。前記スパイラルばねは、
Nb及びTiの元素、及びVとTaから選択される少なくとも1つの元素と、
存在する場合、ZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
存在する場合、O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素と
からなる少なくとも三元の合金によって作られ、前記合金において、
Nb、V及びTaの合計含有量は40~85重量%であり、
Ti、Zr及びHfの合計含有量は15~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
【0017】
好ましくは、Nbの含有量は45重量%よりも大きく、これによって、強く正の熱弾性係数を有するβ相の十分な割合を得る。この強く正の熱弾性係数は、Ti、Zr、Hfのα相の負の熱弾性係数によって補償されるように意図されている。
【0018】
好ましくは、Tiの含有量は15重量%以上である。
【0019】
本発明は、さらに、このような携行型時計のスパイラルばねを製造する方法に関する。
【0020】
以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴や利点を理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、Nb、Ti、及び1つ又は複数の付加的な元素を含む少なくとも三元の合金によって作られた携行型時計のスパイラルばねに関する。
【0022】
本発明によれば、この合金は、
- Nb及びTiの元素、及びVとTaから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、ZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
- 存在する場合、O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなり、
- Nb、V及びTaの合計含有量は40~85重量%であり、好ましくはNbの含有量は45重量%よりも大きく、さらには50重量%以上であり、
- Ti、Zr及びHfの合計含有量は15~55重量%であり、好ましくはTiの含有量は15重量%以上であり、
- WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
- O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
【0023】
本発明によると、Nbは、Ta及び/又はVによって部分的に置き換えられる。このTa及び/又はVによるNbの部分的な置き換えは、二次的エラーを低減させるように意図されている。二次的エラーに対するVとTaそれぞれの影響を示すように、二元のNb-V及びNb-Ta合金に対してテストを行った。二次的エラーを23℃において測定した。これは、8℃におけるレートと38℃におけるレートを結ぶ直線に対する23℃におけるレートの差である。例えば、8℃、23℃、38℃におけるレートを、ウィッチ(Witschi)クロノスコープタイプの装置を用いて測定することができる。
【0024】
下の表1は、Nb-V合金とNb-Ta合金におけるVとTaの重量%に応じた、純粋なNb、純粋なV、純粋なTa及びNbTi47合金の基準データ及び各値を示している。純粋なNbは、23℃における二次的エラーが-6.6s/dである。Tiを加えることによるNbTi47合金におけるα相におけるTiの析出は、4.5s/dに到達する値の大きな上昇をして、Nbの負の影響を補償する。純粋なV及び純粋なTaは、純粋なNbよりも大きく負である二次的エラーを有し、それぞれ-24.9及び-28.7s/dの値である。V及び/又はTaによるNbの部分的な置き換えは、二次的エラーを-7s/dよりも小さい負の値まで低減させることを可能にする。したがって、V又はTaによるNbの置き換えが5%~25%にまで増えると、二次的エラーを約-7s/dから-12s/dまで低減させる。このように、この範囲の値に到達するために、V又はTa、又はVとTaの組み合わせによってNbを置き換えることができる。二次的エラーは、Ta単独、V単独、TaとVの合計含有量が5重量%~25重量%である場合の含有量である場合、-7s/d~-12s/dの範囲内である。好ましくは、二次的エラーは、Ta単独、V単独、TaとVの合計含有量が10重量%~25重量%、好ましくは15重量%~25重量%である場合の含有量である場合、-9s/d~-12s/dの範囲内である。定着ステップの間にNb-V/Ta合金に析出のα相を形成する1つ又は複数の元素を付加することによって、この負の値を補償し、0s/dに近い値に到達することが可能になる。好ましくは、析出のα相を形成する元素のすべての合計含有量は、15重量%~55重量%である。α層を形成する元素は、少なくともTiであり、好ましくは15重量%以上である。それは、Tiに加えて、Hf及び/又はZrであることができ、これは、定着ステップの間にTiとともに析出の単一のα層を形成する。合金がZr及び/又はHfを含む場合、Zr及びHfの合計含有量は、1~40重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは10~25重量%、さらに好ましくは15~25重量%、である。
【0025】
【0026】
当該合金は、さらに、この合金のヤング率を上昇させるように、それぞれ0~2.5重量%の含有量のW及びMoを含むことができ、これによって、ばねの所与のトルクがスパイラルばねの厚みを薄くして、スパイラルばねを軽くすることができる。
【0027】
特に好ましい形態において、本発明で用いられる合金は、潜在的な避けられない微量含有物を除いていかなる他の元素も含有しない。
【0028】
具体的には、酸素の含有量は、全体の0.10重量%以下、さらには全体の0.085重量%以下である。
【0029】
具体的には、炭素の含有量は、全体の0.04重量%以下、特に全体の0.020重量%以下、さらには全体の0.0175重量%以下である。
【0030】
具体的には、鉄の含有量は、全体の0.03重量%以下、特に全体の0.025重量%以下、さらには全体の0.020重量%以下である。
【0031】
具体的には、窒素の含有量は、全体の0.02重量%以下、特に全体の0.015重量%以下、さらには全体の0.0075重量%以下である。
【0032】
具体的には、水素の含有量は、全体の0.01重量%以下、特に全体の0.0035重量%以下、さらには全体の0.0005重量%以下である。
【0033】
具体的には、ケイ素の含有量は、全体の0.01重量%以下である。
【0034】
具体的には、ニッケルの含有量は、全体の0.01重量%以下、特に全体の0.16重量%以下である。
【0035】
具体的には、銅の含有量は、全体の0.01重量%以下、特に全体の0.005重量%以下である。
【0036】
具体的には、アルミニウムの含有量は、全体の0.01重量%以下である。
【0037】
好ましいことに、このスパイラルばねは、Nb、V及び/又はTaの単一のβ相、及び合金がHf及び/又はZrを含む場合にTi、及びHf及び/又はZrの単一のα相を含む多相微細構造を有する。TaとVの存在下で、この微細構造は、さらに、TaV2のタイプの中間金属性物質を含むことができる。このような微細構造を得るために、下で説明するように、熱処理によってα相(Ti、Hf、Zr)を析出させることが必要である。
【0038】
この合金を用いて作られるバランスばねは、500MPa以上、特に500~1000MPa、の弾性限界を有する。好ましいことに、このバランスばねは、100GPa以上、好ましくは110GPa以上の弾性率を有する。
【0039】
本発明は、さらに、携行型時計のためのバランスばねを製造する方法に関し、この方法は、
a)合金によって作られるブランクを作成又は用意するステップと、
b)存在する場合に前記合金のTi、及びZr及び/又はHfが実質的に固溶体の形態となり、Nb、Ta及び/又はVがβ相となるように、前記ブランクに対してβ型クエンチを行うステップと、及び
c)前記合金に対して変形シーケンスを行い、その後に熱処理を行うステップと、及び
d)スパイラルばねを形成するようにワインドし、その後に最終熱処理を行うステップと
を順次的に行う。前記合金は、
- Nb及びTiの元素、及びVとTaから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、ZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
- 存在する場合、O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される他の微量元素とからなり、
- Nb、V及びTaの合計含有量は40~85重量%であり、好ましくはNbの含有量は45重量%よりも大きく、
- Ti、Zr及びHfの合計含有量は15~55重量%であり、好ましくはTiの含有量は15重量%以上(境界を含む)であり、
- WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
- O、H、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
変形とは、延伸及び/又は圧延による変形を意味する。延伸においては、必要であれば、同じシーケンス中又は異なるシーケンス中に、1つ又は複数のダイを用いる必要がある場合がある。延伸は、丸い断面のワイヤが得られるまで行う。圧延は、延伸と同じ変形シーケンス中に又は別のシーケンス中に行うことができる。好ましいことに、前記合金に対して行う最後のシーケンスは、圧延であり、好ましくは、ワインド用ピンの入口セクションと整合する長方形のプロファイルを用いる。
【0040】
これらの結合された変形-熱処理シーケンスにおいて、各変形は、1~5の範囲の所与の変形量となるように行われ、この変形量は、伝統的な式2ln(d0/d)を満たし、ここで、d0は最後のβクエンチの直径であり、dは冷間加工ワイヤの直径である。この一連のシーケンス全体における変形のグローバルな累積によって、合計変形量が1~14となる。結合された変形-熱処理シーケンスはそれぞれ、毎回、α相(Ti、Zr及び/又はHf)の析出の熱処理を行うことを含む。
【0041】
変形及び熱処理シーケンスの前のβクエンチは、真空下で700℃~1000℃の温度で5分~2時間の持続時間行われる溶解処理であり、その後に、ガス下で冷却される。特に、このβクエンチは、真空中で800℃で1時間持続するような溶解処理であり、その後にガス下で冷却する。
【0042】
結合された変形-熱処理シーケンスに戻るために、熱処理は、300℃~700℃の温度で1時間~200時間の持続時間行われる析出処理である。特に、400℃~600℃の保持温度で前記持続時間は5時間~30時間である。
【0043】
特に、本方法には、1~5の数の結合された変形-熱処理シーケンスを行う。
【0044】
特に、第1の結合された変形-熱処理シーケンスは、断面を少なくとも30%減少させる第1の変形の処理を含む。
【0045】
特に、前記第1の変形の処理ではない結合された変形-熱処理シーケンスのそれぞれは、断面を少なくとも25%減少させる、2つの熱処理の間の1つの変形の処理を行う。
【0046】
特に、この合金ブランクを作った後であって前記変形-熱処理シーケンスの前に、付加的なステップにおいて、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケルリン(Ni-P)及びニッケルホウ素(Ni-B)等から選ばれた延性材料の表面層が、ブランクに付加されて、変形時にワイヤ状に成形しやすくする。そして、変形-熱処理シーケンスの後に、又はワインドステップの後に、特に化学的攻撃によって、ワイヤから延性材料の層が除去される。
【0047】
代わりに、延性材料の表面層を、ピッチがブレードの厚みの倍数ではないようなスパイラルばねを形成するように堆積させる。別の変異形態において、延性材料の表面層を、ピッチが変動するようなばねを形成するように堆積させる。
【0048】
したがって、特定の計時器のアプリケーションにおいて、延性材料又は銅を所与の時点にて付加して、ワイヤ形状への成形を容易にし、これによって、10~500μmの厚みがワイヤ上に残り、最終直径が0.3~1mmであるようにする。ワイヤから、特に化学的攻撃によって、延性材料又は銅の層が除去され、圧延されて平らにされ、その後にワインドすることによって実際のばねを製造する。
【0049】
延性材料又は銅の用意は、ガルバニックで行っても機械的に行ってもよく、機械的である場合、延性材料又は銅のジャケット又はチューブを大きな直径の合金の棒上で調整し、そして、その複合ロッドを変形する工程において細くされる。
【0050】
層の除去は、特に、シアン化物、又は酸、例えば硝酸、ベースの溶液を用いた化学的攻撃によって行うことができる。
【0051】
最終熱処理は、300℃~700℃の温度で1時間~200時間の持続時間行われる。特に、400℃~600℃の保持温度で前記持続時間は5時間~30時間である。この最終熱処理中に、α相の析出が完了する。Ha及び/又はZrが存在する場合に、前記最終熱処理の時間を数時間少なくすることができ、典型的には400℃~600℃の保持温度で4~8時間行われる。
【0052】
変形と熱処理のシーケンスの適切な組み合わせによって、特にナノメーター規模であり、Nb、Ta及び/又はVのβ相、そして、Ti、及びZr及び/又はHf(合金にZrとHfの一方又は両方が存在する場合)のα相、によって構成している非常に精密な微細構造を得ることができる。この合金は、少なくとも500MPaよりも大きい非常に高い弾性限界と、100GPa以上の弾性率を兼ね備える。この性質の組み合わせは、スパイラルばねに非常に適している。また、この本発明に係る合金は、延性材料又は銅によって容易に覆うことができ、このことによって、延伸による変形を大幅に促進することができる。
【0053】
また、本発明を実装するために選択された上述したタイプのNb、Ti、Ta及び/又はVを含有する少なくとも三元のタイプの合金は、携行型時計の通常の動作温度範囲において熱弾性係数が実質的にゼロであるような「Elinvar」の効果と同様の効果を発揮し、自己補償スパイラルばねの製造に適している。