(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板、電子デバイス、及び、金属部材
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20240620BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20240620BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H05K3/38 D
H01L23/12 C
C04B37/02 B
(21)【出願番号】P 2022512203
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013260
(87)【国際公開番号】W WO2021200809
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020059763
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】青野 良太
(72)【発明者】
【氏名】牛島 穣
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳一
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 辰雄
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-238753(JP,A)
【文献】特開2002-280705(JP,A)
【文献】特開平10-190176(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221174(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/154692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
H01L 23/12―23/15
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の少なくとも一面にろう材を介して板状の金属部材を接合してなるセラミックス回路基板において、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有し、
前記金属部材は多角形であって、その対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、
前記端面の下端と前記第一の面とが成す角をθ
Aとしたとき、
下記式(1)を満た
し、
前記端面の上端と前記第二の面とが成す角をθ
B
としたとき、
下記式(2)を満たす、セラミックス回路基板。
式(1) 0°<θ
A<90°
式(2) 0°<θ
B
<90°
【請求項2】
セラミックス基板の少なくとも一面にろう材を介して板状の金属部材を接合してなるセラミックス回路基板において、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
当該端面は、当該端面と前記第二の面との境界よりも金属部材の内側に位置する凹部を有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有
し、
前記端面が、前記金属部材の内側に凹の第一曲面と、前記第一曲面よりも前記第二の面側に位置し、前記金属部材の内側に凹の第二曲面、及び、前記第一曲面と前記第二曲面に挟まれた外側に曲面凸形状の凸部と、を有し、
前記第一曲面と前記凸部は、変曲点で連続している、セラミックス回路基板。
【請求項3】
前記凸部は前記端面の周全体にわたって周回するように設けられている、請求項1
または2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板を備える電子デバイス。
【請求項5】
セラミックス基板の一面にろう材で接合される板状の金属部材であって、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有し、
前記金属部材は多角形であって、その対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、
前記端面の下端と前記第一の面とが成す角をθ
Aとしたとき、
下記式(1)を満た
し、
前記端面の上端と前記第二の面とが成す角をθ
B
としたとき、
下記式(2)を満たす、セラミックス回路基板。
式(1) 0°<θ
A<90°
式(2) 0°<θ
B
<90°
【請求項6】
前記凸部は前記端面の周全体にわたって周回するように設けられている、請求項
5に記載の金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板、電子デバイス、及び、金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基板に金属部材を接合したセラミックス回路基板は、電子部品や機械部品等に広く用いられている。例えば、電鉄、車両、産業機械向けといった高電圧、大電流動作を必要とするパワーデバイスにおいて、セラミックス回路基板上に半導体素子を搭載した電子デバイスが用いられている。
セラミックス基板と金属部材を接合する方法の一つとして、セラミックス基板と金属部材とをろう材を用いて接合する方法がある。この場合、一般的には、銀・銅と活性金属を含むろう材をセラミックス基板に塗布し、ろう材上に金属部材を配置し、適当な温度で加熱処理することでセラミックス基板と金属板とを接合する。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板表面にろう材層を介して金属板を一体に接合したセラミックス回路基板において、金属板とろう材層との接合面の面積が、金属板の非接合面側の表面積より小さく、ろう材層とセラミックス基板との接合面の面積が金属板とろう材層との接合面の面積より大きいことを特徴とするセラミックス回路基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らが検討したところ、特許文献1に開示された形状のセラミックス回路基板では、セラミックス基板に金属部材を接合する工程において、ろう材が金属部材表面にはい上がり、はい上がったろう材によってハンダ濡れ性が低下する場合があることが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、セラミックス基板の少なくとも一面にろう材を介して板状の金属部材を接合してなるセラミックス回路基板において、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有し、
前記金属部材は多角形であって、その対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、
前記端面の下端と前記第一の面とが成す角をθAとしたとき、下記式(1)を満たす、セラミックス回路基板が提供される。
式(1) 0°<θA<90°
【0007】
また、本発明によれば、セラミックス基板の一面にろう材で接合される板状の金属部材であって、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
当該端面は、当該端面と第二の面との境界よりも金属部材の内側に位置する凹部を有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有するセラミックス回路基板が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、前記セラミックス回路基板を備える電子デバイスが提供される。
【0009】
セラミックス基板の少なくとも一面にろう材を介して板状の金属部材を接合してなるセラミックス回路基板において、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有し、
前記金属部材は多角形であって、その対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、
前記端面の下端と前記第一の面とが成す角をθAとしたとき、
下記式(1)を満たす、金属部材が提供される。
式(1) 0°<θA<90°
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セラミックス基板にろう材を介して板状の金属部材を接合する際に、ろう材が金属部材表面にはい上がることを抑制したセラミックス回路基板、該セラミックス回路基板を備える電子デバイス、また、セラミックス基板に接合される金属部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るセラミックス回路基板の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施形態に係るセラミックス回路基板の構成を模式的に示す上面図である。
【
図3】第一の実施形態に係るセラミックス回路基板における金属部材の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】第二の実施形態に係るセラミックス回路基板の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】第三の実施形態に係るセラミックス回路基板の構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】第三の実施形態に係る金属部材の断面写真の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0013】
<セラミックス回路基板>
はじめに、
図1及び
図2を用いて本実施形態に係るセラミックス回路基板の概要について説明する。
図1は、本実施形態に係るセラミックス回路基板100の全体の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態に係るセラミックス回路基板100は、セラミックス基板10、ろう材20、板状の金属部材30を備えるものである。セラミックス基板10の少なくとも一面にろう材20を介して板状の金属部材30が接合されており、接合によりセラミックス基板10、ろう材20、金属部材30が互いに固定されている。
【0014】
セラミックス基板10は第一の面11と第二の面12とを有する。セラミックス基板10には、第二の面12上に、ろう材20を介し、板状の金属部材30が接合されている。本実施形態に係るセラミックス回路基板100の構造は、上記構造に限定されず、例えばセラミックス回路基板100は、
図1の(a)に示すように、第一の面11又は第二の面12のいずれかに板状の金属部材30が接合されていてもよいし、
図1の(b)に示すように、第一の面11及び第二の面12の両面に金属部材30が接合されていてもよい。また、
図2に、本実施形態に係るセラミックス回路基板100を模式的に示す上面図を示す。セラミックス回路基板100は第一の面11及び第二の面12に、それぞれ一つの金属部材30が接合されていてもよいし、第一の面11に一つの金属部材30が接合され、第二の面12に2以上の金属部材30が接合されていてもよいし、第一の面11に2以上の金属部材30が接合され、第二の面12に一つの金属部材30が接合されていてもよいし、第一の面11及び第二の面12に、それぞれ2以上の金属部材30が接合されていてもよい。金属部材30は平面視で多角形であり、矩形であることが好ましい。
【0015】
以下、本実施形態に係るセラミックス回路基板の各構成について詳述する。
【0016】
<金属部材>
(第一の実施形態)
図3を参照し、第一の実施形態について詳述する。
図3は第一の実施形態のセラミックス回路基板100の構成を模式的に示す断面図である。
【0017】
第一の実施形態において、金属部材30はセラミックス基板に対向する第一の面31と、当該第一の面31とは逆の第二の面32と、その両面の外周端の相互間に存在する端面33とを有する。端面33は、金属部材30の外方向に凸の、凸部36を有する。また、凸部36は、端面33と第一の面31との境界34、又は、端面33と第二の面32との境界35のいずれか一方よりも金属部材30の外側に位置する。凸部36は、端面33の周全体にわたって周回するように設けられていることが好ましい。例えば、
図2(b)では、上面視で矩形の二つの金属部材30が設けられているが、それぞれの金属部材30の端面33の矩形の4辺全てを周回するように凸部36が設けられてもよい。
【0018】
第一の実施形態において、金属部材30はその対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、ここでは領域αに示すように、端面33の下端と前記第一の面31とが成す角をθ
Aとしたとき、下記式(1)を満たす。
式(1) 0°<θ
A<90°
θ
Aの下限値35°以上が好ましく、40°以上が特に好ましい。θ
Aの上限値87°以下が好ましく、82°以下が特に好ましい。
ここで、金属部材30のその対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面とは、例えば
図2の直線a~dで切断したときの断面をいう。なお、金属部材30が矩形の場合には、二つの対角線の切断面において、上記のθ
Aの範囲を満たすことが好ましい。
【0019】
以下、
図3を用いて、θ
Aの測定方法について詳説する。一方の端面33の下端(境界34)と、他方の端面(図示せず)の下端(図示せず)とを結んだ直線と、端面33の下端(境界34)における傾斜Aとの成す角をθ
Aとする。上記θ
Aは、一般には第一の面31と、端面33の下端(境界34)における傾斜Aとの成す角と近似することができる。
【0020】
第一の実施形態に係るセラミックス回路基板は、金属部材30の端面33を上記形状とすることにより、ろう材のはい上がりをより確実に抑制することができるセラミックス回路基板となる。すなわち、従来、セラミックス基板10と金属部材30とを、ろう材20を介して接合するろう付け工程では、接合端部において、ろう材20が金属部材30の端面33を伝って金属部材30の上面(第二の面32)にはい上がる場合があり、後工程において、金属部材30の上面(第二の面32)に半導体チップ等を搭載する際に、はい上がったろう材によってハンダ濡れ性が低下してハンダ付け不良が発生したり、外観不良が発生したりし、歩留り低下の一因となっていた。
【0021】
第一の実施形態によれば、金属部材30の端面33が、前記端面33と前記第一の面31との境界34、又は、前記端面33と前記第二の面32との境界35よりも前記金属部材30の外側に位置する凸部36を有する形状とし、かつ、端面33の下端と前記第一の面31とが成す角を鋭角とすることによって、ろう材が金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路が、複数回の反転を有し、より複雑になり、かつ、長くなるため、確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0022】
また、ろう材のはい上がりを抑制するために、例えば金属部材の端部に凸部を設けた場合、凸部の突出量を増大させざるを得ず、端部に凸部を有する金属部材と、隣り合う他の端部に凸部を有する金属部材との間で放電が起き、耐電圧が低下するリスクがある。
第一の実施形態によれば、端面33の下端と前記第一の面31とが成す角θAを鋭角とすることによって、確実にろう材のはい上がりを抑制することができ、かつ、凸部36の突出量を抑えることができるので、放電のリスクを低下させることができ、突出量を勘案してパターン間の距離を一定以上にしなければならない等の回路設計上の制約を緩和することができる。
【0023】
第一の実施形態において、凸部36は、端面33と第一の面31との境界34、及び、端面33と第二の面32との境界35のいずれか一方よりも金属部材30の外側に位置することが好ましい。
上記形状とすることにより、ろう材が金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路は、3回以上の反転を有し、より複雑、かつ、長くなるため、より確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0024】
また、第一の実施形態において、金属部材30は、前記端面33の上端と前記第二の面32とが成す角をθBとしたとき、下記式(2)を満たすことが好ましい。
式(2) 0°<θB<90°
θBの下限値は40°以上が好ましく、45°以上が特に好ましい。θBの上限値88°以下が好ましく、83°以下が特に好ましい。
θBを鋭角とすることで、ろう材は金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路の後半において、再度反転することとなり、より確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0025】
θ
Bの測定方法は上述したθ
Aの測定方法と同様であり、
図3を参照して説明する。領域βに示すように、一方の端面33の上端(境界35)と、他方の端面(図示せず)の上端(図示せず)とを結んだ直線と、端面33の上端(境界35)における傾斜Bとの成す角をθ
Bとする。上記θ
Bは、一般には第二の面32と、端面33の上端(境界35)における傾斜Bとの成す角と近似することができる。
【0026】
端面33と第一の面31との境界34と、凸部36の頂点との水平間距離を適正に設定することで、耐電圧低下のリスクを抑制しつつ、かつ、確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0027】
なお、ろう材のはい上がり性には、金属部材30の形状に加え、ろう材の塗布量も影響する。ろう材の塗布量は、接合工程前におけるろう材ペーストの乾燥膜厚で、例えば2μm以上40μm以下とすることができる。
【0028】
(第二の実施形態)
以下、
図4を参照し、第二の実施形態について詳述する。
図4は第二の実施形態のセラミックス回路基板101の構成を模式的に示す断面図である。
第二の実施形態において、金属部材30はセラミックス基板に対向する第一の面31と、当該第一の面31とは逆の第二の面32と、その両面の外周端の相互間に存する端面33とを有する。端面33は、端面33と第二の面32との境界35よりも金属部材30の内側に位置する凹部37を有し、端面33は、前記端面33と前記第一の面31との境界34、又は、前記端面33と前記第二の面32との境界35よりも前記金属部材30の外側に位置する凸部36を有する。
【0029】
第二の実施形態において、金属部材30は、端面33と第二の面32との境界35よりも金属部材30の内側に位置する凹部37を有し、かつ、前記端面33と前記第一の面31との境界34、又は、前記端面33と前記第二の面32との境界35よりも前記金属部材30の外側に位置する凸部36を有することにより、ろう材が金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路が、複数回の反転を有し、より複雑になり、かつ、長くなるため、より確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。また、本実施形態に係るセラミックス回路基板によれば、端面33が、凹部37と凸部36とを有することにより、凸部36の突出量を抑えつつ、かつ、確実にろう材のはい上がりを抑制することができるため、耐電圧の低下を抑制しつつ、かつ、確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0030】
第二の実施形態において、金属部材30は、端面33が、金属部材30の内側に凹の第一曲面38と、第一曲面38よりも第二の面32側に位置し、金属部材30の内側に凹の第二曲面39、及び、第一曲面38と当該第二曲面39に挟まれた稜線40を有することが好ましい。第二の実施形態に係る金属部材30は、端面33が、2つの凹部37と稜線40を有することにより、ろう材が金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路が、3回以上の反転を有し、より複雑、かつ、長くなるため、より確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0031】
第二の実施形態において、金属部材30は、凸部36は、端面33と第一の面31との境界34、及び、端面33と第二の面32との境界35のいずれか一方よりも金属部材30の外側に位置することが好ましい。
また、第二の実施形態において、金属部材30における稜線40が、第一の面31及び第二の面32の外周端部よりも前記金属部材の外縁に位置することが好ましい。
上記形状とすることにより、ろう材が金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路は、より複雑、かつ、長くなるため、より確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0032】
端面33と第一の面31との境界34と、凸部36の頂点との水平間距離を適正に設定することで、耐電圧低下のリスクを抑制しつつ、かつ、確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0033】
なお、ろう材のはい上がり性には、金属部材30の形状に加え、ろう材の塗布量、接合時にセラミックス基板10と金属部材30との積層体にかかる圧力等も影響するため、例えば、ろう材の塗布量が多い場合、又は、積層体にかかる圧力が大きい場合、端面33と第一の面31との境界34と凸部36の頂点との水平間距離を大きくする等、ろう材のはい上がりを促進する因子と抑制する因子のバランスを考慮して金属部材30の形状を調整することが好ましい。
【0034】
(第三の実施形態)
以下、
図5及び
図6を参照し、第三の実施形態について詳述する。
図5は第三の実施形態のセラミックス回路基板102の構成を模式的に示す断面図である。
図6は第三の実施形態の金属部材30として銅板を用いたときの断面写真の例を示す。以下では、第一及び第二の実施形態と異なる構成である金属部材30の端面33の形状に着目して説明する。
【0035】
第三の実施形態の金属部材30では、端面33が、金属部材30の内側に凹の第一曲面38と、第一曲面38よりも第二の面32側に位置し、金属部材30の内側に凹の第二曲面39、及び、第一曲面38と第二曲面39に挟まれたて外側に曲面凸形状45の凸部36とを有する。
【0036】
第一曲面38と凸部36は、変曲点43で連続している。第二曲面39と凸部36は、変曲点44で連続している。
【0037】
このような構成において、第三の実施形態に係る金属部材30は、端面33が、2つの凹部37(第一曲面38、第二曲面39)と凸部36を有することにより、ろう材が金属部材30の第二の面32に到達するまでの経路が、3回以上の反転を有し、より複雑、かつ、長くなるため、より確実にろう材のはい上がりを抑制することができる。
【0038】
以上の、第一の実施形態から第三の実施形態に係る特定の端部形状を有する金属部材30の作製方法としては、エッチングにより、所定のマスキングをされた板状の金属素材を個片化する方法が挙げられ、具体的には以下に示す通りである。
まず、金属素材の表面に、公知の手法によりマスキングを施す。ここで、マスキングは、公知の手法で両面の位置合わせを行うことにより、金属素材の両面に同一のパターンが施されることが好ましい。
次に、マスキングされた金属素材をエッチングにより個片化する。エッチング液は、公知のエッチング液を使用することができ、例えば金属素材が銅板である場合、具体例は、塩化第二鉄、塩化第二銅、硫酸、過酸化水素水等が挙げられる。両面に同一のマスキングを有する板状の金属素材をエッチングすることにより、両面からマスキングパターン間がエッチングされ、本実施形態に係る特定の端部形状を有する金属部材30を得ることができる。
金属部材30の形状は、エッチング条件等によって調整することができる。例えば、エッチング液の濃度や、エッチング時間を調整することにより、金属部材30におけるθA、θB、凸部36の突出量を調整することが可能である。
引き続き、マスキングを除去することにより、金属部材30が得られる。
【0039】
本実施形態に係る金属部材30に使用する金属は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銀、モリブテン、コバルトの単体またはその合金等が挙げられる。後述のように、金属部材30を、活性金属を含有するろう材でセラミックス基板10に接合する観点や、導電性、放熱性の観点から銅が好ましい。
【0040】
銅板を使用する場合、その純度は、90%以上であることが好ましい。純度を90%以上とすることにより、十分な導電性、放熱性を有するセラミックス回路基板となり、またセラミックス基板と銅板とを接合する際、銅板とろう材の反応が十分進行し、信頼性の高いセラミックス回路基板を得ることができる。
【0041】
本実施形態に係る金属部材30の厚みは特に限定されないが、0.1mm以上1.5mm以下のものが一般的である。金属部材30の厚みは、特に、放熱性の観点から0.2mm以上が好ましく、耐熱サイクル特性の観点から0.5mm以下が好ましい。
【0042】
<セラミックス基板>
本実施形態に係るセラミックス回路基板に使用されるセラミックス基板10としては、特に限定されるものではなく、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等が挙げられる。後述のように、金属部材30を、活性金属を含有する銀-銅系ろう材でセラミックス基板10に接合する観点からは、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の非酸化物系セラミックスが好適であり、更に、優れた熱伝導性の観点からは窒化アルミニウム基板が好ましい。
【0043】
本実施形態に係るセラミックス基板10の厚みは特に限定されないが、0.2mm以上、1.5mm以下が好ましい。上記数値範囲内とすることにより、十分に強度・耐久性を維持することができ、かつ、熱抵抗を抑制することができる。
【0044】
<ろう材>
本実施形態に係るセラミックス回路基板において、ろう材20は、ろう材中にチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、アルミニウム、錫から選択される少なくとも一種の活性金属を含有する銀-銅系ろう材で構成されることが好ましい。ろう材の配合におけるAg/Cu比は、AgとCuの共晶組成である72質量%:28質量%よりAg粉末の配合比を高めることで、Cuリッチ相の粗大化を防止し、Agリッチ相が連続したろう材層組織を形成することができる。
また、Ag粉末の配合量が多くCu粉末の配合量が少ないと、接合時にAg粉末が溶解しきれずに接合ボイドとして残る場合がある。よって、Ag粉末と、Cu粉末、Sn粉末またはIn粉末の配合比は、Ag粉末:85.0質量部以上95.0質量部以下、Cu粉末:5.0質量部以上13.0質量部以下、Sn粉末またはIn粉末:0.4質量部以上3.5質量部以下からなるものが好ましく挙げられる。上記数値範囲内とすることで、ろう材の融解温度が過度に上昇することを防ぎ、適度な温度での接合が可能となり、接合時の熱膨張率差に由来する熱ストレスを低下させることができ、耐熱サイクル性を向上することができる。
【0045】
チタン等の活性金属の添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下が好ましい。活性金属の添加量を適切に調整することで、セラミックス板に対する濡れ性を一層高めることができ、接合不良の発生を一層抑えることができる。また、未反応の活性金属の残存が抑えられ、Agリッチ相の不連続化なども抑えることができる。
【0046】
<セラミックス回路基板の製造方法>
以下に本実施形態に係るセラミックス回路基板の製造方法について説明する。
まず、セラミックス基板10、及び、金属部材30を準備する。セラミックス基板10、及び、金属部材30の態様については前述のとおりである。
次にろう材ペーストを調製する。ろう材の金属成分の配合は上述の通りであり、Ag粉末:85.0質量部以上95.0質量部以下、Cu粉末:5.0質量部以上13.0質量部以下、Sn粉末またはIn粉末:0.4質量部以上3.5質量部以下からなるものが好ましく挙げられる。チタン等の活性金属の添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下が好ましい。
これらの金属粉末と、樹脂、溶剤、必要に応じて分散剤等を公知の手法で混合することにより、ろう材ペーストを得ることができる。
続いて、セラミックス基板10の片面又は両面に、ろう材ペーストを塗布する。塗布方法は特に限定されず、例えばスクリーン印刷により塗布を行うことができる。塗布されたろう材ペーストの乾燥膜厚は、例えば1μm以上50μm以下とすることが好ましい。
【0047】
次に、セラミックス基板10に塗布されたろう材ペーストに接するように金属部材30を重ね、加熱炉内で加熱し、セラミックス基板10と金属部材30とを接合する。
本実施形態において、セラミックス基板10と金属部材30とを接合する接合温度は、780℃以上850℃以下であることが好ましく、より好ましくは800℃未満である。また、接合時の真空度は、1×10-3Pa以下とすることが好ましい。また、上記接合温度での保持時間は10分以上60分以下であることが望ましい。
接合温度・真空度・接合時間を上記範囲内とすることにより、活性金属を含む化合物が十分に生成され、セラミックス基板10と金属部材30とを全面にわたって接合することができる。また、接合温度が高温であったり、保持時間が長すぎたりする場合には、接合後のろう材層の厚みムラが大きくなり、超音波接合によるクラックが発生する場合があるが、接合温度・真空度・接合時間を上記範囲内とすることにより、接合後のろう材の厚みムラを低減することができる。
以上のようにして、本実施形態に係るセラミックス回路基板を得ることができる。
【0048】
本実施形態に係るセラミックス回路基板は、電子デバイスに用いることができ、エッチングによる回路パターン形成工程を経ることもできる。本実施形態に係るセラミックス回路基板に回路パターンを形成する場合、金属部材30にエッチングレジストを塗布してエッチングすることができる。エッチングレジストに関して特に制限はなく、公知の紫外線硬化型や熱硬化型のものが使用できる。また、エッチングレジストの塗布方法に関しては特に制限はなく、例えばスクリーン印刷法等の公知の塗布方法を採用することができる。
エッチング液に関しても特に制限はなく、公知のエッチング液を用いることができ、金属部材30が銅板である場合、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液、硫酸、過酸化水素水等を使用することができ、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液が好ましい。
【0049】
エッチングによって不要な金属部分を除去したセラミックス回路基板には、ろう材、その合金層、窒化物層等が残っている場合があり、その場合、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いて、それらを除去するのが一般的である。回路形成後、公知の方法でエッチングレジストの剥離を行うことができる。剥離方法は特に限定されず、例えば、アルカリ水溶液に浸漬させる方法などを挙げることができる。
【0050】
本実施形態に係るセラミックス回路基板100、101及び102は、例えば、金属部材30の第二の面32に半導体チップ等を搭載し、電子デバイスとすることができる。
本実施形態に係るセラミックス回路基板100、101及び102は、例えば、電鉄、車両、産業機械向けといった高電圧、大電流動作を必要とするパワーデバイスに特に好適に適用することができる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0051】
以下、本願発明の形態の例を纏めて付記する。これら形態は本願発明に含まれる。
1. セラミックス基板の少なくとも一面にろう材を介して板状の金属部材を接合してなるセラミックス回路基板において、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有し、
前記金属部材は多角形であって、その対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、
前記端面の下端と前記第一の面とが成す角をθAとしたとき、
下記式(1)を満たす、セラミックス回路基板。
式(1) 0°<θA<90°
2. 前記金属部材が矩形である、1.に記載のセラミックス回路基板。
3. 前記端面の上端と前記第二の面とが成す角をθBとしたとき、
下記式(2)を満たす、1.又は2.に記載のセラミックス回路基板。
式(2) 0°<θB<90°
4. 前記凸部は前記端面の周全体にわたって周回するように設けられている、1.または2.に記載のセラミックス回路基板。
5. セラミックス基板の少なくとも一面にろう材を介して板状の金属部材を接合してなるセラミックス回路基板において、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
当該端面は、当該端面と前記第二の面との境界よりも金属部材の内側に位置する凹部を有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有するセラミックス回路基板。
6. 前記端面が、
金属部材の内側に凹の第一曲面、
当該第一曲面よりも前記第二の面側に位置し金属部材の内側に凹の第二曲面、及び、
当該第一曲面と当該第二曲面に挟まれた稜線を有する、5.に記載のセラミックス回路基板。
7. 前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、及び、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有する、1.~6.のいずれか一つに記載のセラミックス回路基板。
8. 前記稜線が、前記第一の面及び前記第二の面の外周端部よりも前記金属部材の外縁に位置する、6.に記載のセラミックス回路基板。
9. 前記金属部材が銅板である、1.~8.のいずれか一つに記載のセラミックス回路基板。
10. 前記ろう材が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、アルミニウム、及び、錫から選択される少なくとも1つの金属を含む、1.~9.のいずれか一つに記載のセラミックス回路基板。
11. 前記セラミックス基板が窒化ケイ素及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1つである、1.~10.のいずれか一つに記載のセラミックス回路基板。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載のセラミックス回路基板であって、前記セラミックス基板の両面にろう材を介し板状の金属部材を接合した、セラミックス回路基板。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載のセラミックス回路基板を備える電子デバイス。
14. 13.に記載の電子デバイスであって、パワーデバイスである電子デバイス。
15. セラミックス基板の一面にろう材で接合される板状の金属部材であって、
前記金属部材はセラミックス基板に対向する第一の面と、当該第一の面とは逆の第二の面と、その両面の外周端の相互間に存する端面とを有し、
前記端面は、前記端面と前記第一の面との境界、又は、前記端面と前記第二の面との境界よりも前記金属部材の外側に位置する凸部を有し、
前記金属部材は多角形であって、その対角線に沿った厚み方向のいずれかの切断面において、
前記端面の下端と前記第一の面とが成す角をθAとしたとき、
下記式(1)を満たす、金属部材。
式(1) 0°<θA<90°
16. 前記凸部は前記端面の周全体にわたって周回するように設けられている、15.に記載の金属部材。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。表1に実施例1~3及び比較例1~2の評価結果を示す。表中の評価において、「◎」は「はい上がり無し」、「○」は「はい上がり僅か」、「×」は「はい上がりが明確」を示す。また、表中の項目「凸部」の有り/無しは、端面33において、端面33と第一の面31との境界34、又は、端面33と第二の面32との境界35よりも金属部材30の外側に位置する凸部36を有している場合を「有」、凸部36があっても上記境界34、35より外側に突出しない場合を「無し」と表記している。
【0053】
[実施例1]
窒化ケイ素基板(50mm×50mm、厚み0.32mm)、及び、銅板1(50mm×50mm、厚み0.8mm)を準備した。
なお、銅板1は、両面に同一のマスキングパターンを施し、塩化第二鉄水溶液に浸漬することにより、銅板の両側からエッチングし、個片化した。銅板1をその対角線に沿ってコンターマシンで切断し断面を露出させ、金属顕微鏡で断面観察を行った。断面形写真から、銅板1における端面33の下端と第一の面31とが成す角θAを測定したところ、θAは表1に示す通りであった。また、銅板1における端面33の上端と前記第二の面32とが成す角θBとを測定したところ、表1に示す通りであった。
【0054】
ろう材ペースト(Ag-Cu-Ti系ろう材)を調製した。
(ろう材)
上記のろう材ペーストをスクリーン印刷で、窒化ケイ素基板に印刷し、乾燥した。なお、ろう材ペーストは、乾燥後の厚さが20μmとなるよう塗布した。
その後、ろう材の上に、銅板1を重ね、真空雰囲気下で銅板と窒化ケイ素基板の接合し、セラミックス回路基板を製造した。
【0055】
得られたセラミックス回路基板の外観を観察したところ、銅板1の第二の面32上にはろう材のはい上がりが確認されなかった。
【0056】
[実施例2~3、比較例1~2]
銅板1の両側からエッチングし、塩化第二鉄水溶液への浸漬時間を長くして角度を大きくする、又は浸漬時間を短くして角度を小さくする変更を行った以外は実施例1と同様に実施した。実施例2は実施例1と同様にはい上がりは無く、実施例3ははい上がったものの程度は小さく、比較例1及び2は明確にはい上がりが確認できた。
【表1】
【0057】
この出願は、2020年3月30日に出願された日本出願特願2020-059763号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0058】
10 セラミックス基板
11 第一の面
12 第二の面
20 ろう材
30 金属部材
31 第一の面
32 第二の面
33 端面
34 境界
35 境界
36 凸部
37 凹部
38 第一曲面
39 第二曲面
40 稜線
43、44 変曲点
100、101、102 セラミックス回路基板