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特許7507236高いイオン交換容量を有するセルロース系機能性繊維を製造するための方法、セルロース系機能性繊維、セルロース系機能性繊維を含む繊維製品、及び前記セルロース系機能性繊維又は繊維製品を含む衣類又は家具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】高いイオン交換容量を有するセルロース系機能性繊維を製造するための方法、セルロース系機能性繊維、セルロース系機能性繊維を含む繊維製品、及び前記セルロース系機能性繊維又は繊維製品を含む衣類又は家具
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/00 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022522784
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2020079089
(87)【国際公開番号】W WO2021074319
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102019007165.4
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/060630
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522151592
【氏名又は名称】スマートファイバー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルベ,アクセル
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0186611(US,A1)
【文献】特表2019-515151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0051435(US,A1)
【文献】特開2002-223723(JP,A)
【文献】特開2000-143703(JP,A)
【文献】特開平11-056384(JP,A)
【文献】特開昭58-174617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00- 6/96
9/00- 9/04
C08B1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、
ポリマー結合ウロン酸を含有する原材料の植物性物質を供給する工程、
抽出剤を用いて前記原材料の植物性物質を抽出して、抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質を供給する工程、
セルロースと前記抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質を含む紡糸液を供給する工程、及び
前記紡糸液を紡糸する工程を含み、
前記抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質が、前記抽出剤を用いて前記原材料の植物性物質を抽出した後に得られる抽出残渣であり、
前記抽出残渣が、前記抽出剤に溶解しない前記原材料の植物性物質の成分を含有し、
前記ポリマー結合ウロン酸を含有する原材料の植物性物質が、アスコフィルム属、ダービリア属、エクロニア属、ヒバマタ属、ラミナリア属、レッソニア属及びマクロシスチス属からなる群から選択される褐藻であり、
前記紡糸液中に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される、前記紡糸液中の前記抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質の割合が、0.1~15重量%である方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記ポリマー結合ウロン酸を含有する原材料の植物性物質が、ラミナリア属の褐藻であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記ポリマー結合ウロン酸を含有する原材料の植物性物質が、ラミナリア属の乾燥褐藻からの藻類粉末であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記抽出剤が、水、有機溶媒、又は水と少なくとも1種の有機溶媒との混合物を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記有機溶媒が、アルコール、アミン、アミド及びカルボン酸からなる群から選択されるプロトン性溶媒、又は/及びケトン、ラクトン、ラクタム、ニトリル、ニトロ化合物、第三級カルボキサミド、スルホキシド、スルホン、及びカルボキシルエステルからなる群から選択される非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記紡糸液中に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される、前記紡糸液中の前記抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質の割合が、1.0~10重量%であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記セルロース系機能性繊維が、リヨセルプロセスに従って製造されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記紡糸液が、前記紡糸液中に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される0.5~5重量%の、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するアルカリ土類金属塩又は亜鉛塩をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、前記方法が、前記紡糸液を紡糸することによって得られる前記セルロース系機能性繊維を、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するアルカリ土類金属塩又は亜鉛塩の2~8%水溶液で処理することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のセルロース系機能性繊維を製造するための方法であって、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有する前記アルカリ土類金属塩又は亜鉛塩が、塩化カルシウムであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法によって製造されるセルロース系機能性繊維。
【請求項12】
請求項11に記載のセルロース系機能性繊維を含む繊維製品。
【請求項13】
請求項12に記載の繊維製品であって、前記繊維製品が、糸、ツイスト、ロープ、布、編まれた又はクロシェ編みされた生地、メッシュ、不織布又はフェルトである繊維製品。
【請求項14】
請求項11に記載のセルロース系機能性繊維又は/及び請求項12又は13に記載の繊維製品を含む衣類。
【請求項15】
請求項11に記載のセルロース系機能性繊維又は/及び請求項12又は13に記載の繊維製品を含む家具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いイオン交換容量を有するセルロース系機能性繊維を製造するための方法、前記方法によって製造されるセルロース系機能性繊維、前記セルロース系機能性繊維を含む繊維製品、及び前記セルロース系機能性繊維及び/又は前記繊維製品を含む衣類又は家具に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維は、セルロースから人工的に製造することができる。技術的には、このようなセルロース系繊維は、再生繊維として製造され、その主な代表は、レーヨン、モダール、リヨセル及びキュプラである。リヨセルは、セルロース再生繊維であり、所謂リヨセルプロセス(溶媒としてN-メチルモルホリン-N-オキシド一水和物(NMMO)を用いる直接溶解プロセス)に従って製造される。リヨセルプロセスに従って製造されるセルロース系繊維は、紡織繊維の中にかなりの量の異物を組み込むことを可能にする優れた物理的特性を有する。
【0003】
これらの異物は、とりわけ、他の多糖類、例えばセルロース誘導体、キチン、キシラン又はデンプンであり得、その中でウロン酸含有多糖類は特に興味深いことが証明されている。これらのセルロース系繊維は、とりわけ、医療、水処理及び機能性ウェアにおいて使用することができる。モノマー及びオリゴマーとして、ウロン酸は、水溶性であるため、紡織繊維の素材としては全く不向きである。
【0004】
ドイツ出願公開第10009034号は、低減された選択的に調節可能なフィブリル化を有するセルロース系成形体を製造するための方法を開示する。前記方法は、セルロースと水性N-メチルモルホリン-N-オキシドの懸濁液を押出溶液に移し、前記押出溶液を成形金型を通して及びエアギャップを通して紡糸浴の中に押し出し、沈殿した成形体を洗浄及び架橋することを含み、さらに酸化された副次的多糖類が使用され、前記セルロースは、前記酸化された副次的多糖類に架橋される。水溶性のホモ多糖類及びヘテロ多糖類は、副次的多糖類として使用することができ、ヘテロ多糖類の例には、ペクチン及びアルギンが含まれる。
【0005】
国際公開第2001/062844号は、低いフィブリル化傾向を有する成形体を製造するための方法を開示する。前記方法は、(a)セルロース、改質セルロース及びそれらの混合物からなる群から選択される生分解性ポリマーと、海洋植物及び/又は海洋動物の殻からの物質を混合し、ここで、前記海洋植物及び/又は海洋動物の殻からの物質は、前記生分解性ポリマーの重量に基づく計算で、0.1~30重量%の量で存在し、(b)リヨセルプロセスに従って変形可能な塊を製造し、(c)(b)で得られた塊を成形体に加工し、(d)製造された成形体を後処理することを含む。海洋植物から作られる前記物質は、藻類、昆布、及び海藻からなる群から選択されることが好ましく、藻類の例には、褐藻類、緑藻類、紅藻類、藍藻類、及びこれらの混合物が含まれる。
【0006】
国際公開第2003/012182号は、水性液体に対して高い保持容量を有するセルロース系成形体を製造するための方法を開示する。前記方法は、リヨセルプロセスに従って変形可能な塊を製造し、押出加工することを含み、前記変形可能な塊は、セルロースに加えて、(a)モノエチレン性不飽和カルボキシル基を有する55~99.95重量%のモノマーと、(b)0.05~5.0重量%の少なくとも1種の架橋剤と、(c)(a)と共重合し得る0~40重量%の更なるモノマーと、(d)0~30重量%の水溶性グラフトベースの重合によって得られる超吸収性ポリマーを含有する。前記グラフトベースは、とりわけ、部分的に又は完全に加水分解されたポリビニルアルコール類、ポリアクリル酸類、ポリグリコール類及び多糖類で作ることができ、多糖類の具体例としては、セルロースのほかに、セルロース誘導体、デンプン、デンプン誘導体及びキサンタン、アルギン酸塩も言及されている。
【0007】
中国出願公開第103194826号は、抗菌性、良好な吸湿性及び高い糸強度を有し、特に、衣類の製造に使用できる生分解性複合糸を製造するための方法を開示する。前記方法は、10~80重量%のアルギン酸繊維と、10~80重量%のカイコタンパク質系繊維と、10~80重量%の竹繊維の適切な混合物のオープニング及びクリーニング、カージング、ロービング、スピニング、及びワインディングを含み、前記アルギン酸繊維は、抽出剤として水を使用して海藻を抽出することによって予め得られたアルギン酸ナトリウムから作られる。
【0008】
中国出願公開第108065459号は、良好な吸湿性を有し、保温性のよい下着の製造に使用される繊維を製造するための方法を開示する。前記方法は、40~60重量部の綿繊維と、20~40重量部のリヨセル竹繊維と、30~40重量部のモダール繊維と、25~30重量部のエラスタン繊維と、25~45重量部のアルギン酸繊維と、5~15重量部のカシミヤの混合物を紡糸することを含み、前記アルギン酸繊維は、抽出剤として水を使用して海藻を抽出することによって予め得られたアルギン酸ナトリウムから作られる。
【0009】
一般に、ウロン酸含有ポリマーもイオン交換性を持つ。しかしながら、リヨセルプロセスのような直接溶解プロセスの状況でセルロース系機能性繊維にイオン交換天然物質を使用することには、安定したプロセス管理を困難にする様々な欠点がある。特に、無機塩及び可溶性有機物質(例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、及び染料)などの可溶性成分は、循環操作媒体中(例えば、N-メチルモルホリン N-オキシドなどの溶媒中)に蓄積する。これらの不要な成分は、溶媒の分解又はシステム内の付着物形成若しくは汚染につながり、必要な洗浄措置の結果として、低い生産処理能力と増加した生産コストをもたらす。さらに、前記不要な成分は、製造されるセルロース系成形体の品質に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の根底にある目的は、上記の欠点を大きく回避するセルロース系機能性繊維を製造するための方法を提供することからなる。特に、前記方法は、溶媒サイクル又は繊維製造プロセスのいずれにも悪影響を及ぼすべきではなく、天然に存在するポリマーに基づいて、高いイオン交換容量を有するセルロース系機能性繊維の費用対効果と効率的な製造を確保すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、特許請求の範囲に規定された発明の主題によって達成される。
したがって、第1の態様では、本発明は、セルロース系機能性繊維を製造するための方法に関し、その方法は、
ポリマー結合ウロン酸を含有する原材料の植物性物質を供給する工程、
抽出剤を用いて前記原材料の植物性物質を抽出して、ポリマー結合ウロン酸を含有する抽出された植物性物質を供給する工程、
セルロースと、ポリマー結合ウロン酸を含有する前記抽出された植物性物質を含む紡糸液(ドープ)を調製する工程、及び
前記紡糸液を紡糸する工程を含む。
第2の態様では、本発明は、第1の態様に記載の方法によって製造されたセルロース系機能性繊維に関する。
第3の態様では、本発明は、第2の態様に記載のセルロース系機能性繊維を含む繊維製品に関する。
第4の態様では、本発明は、第2の態様に記載のセルロース系機能性繊維及び/又は第3の態様に記載の繊維製品を含む衣類又は家具に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造方法では、まず、ポリマー結合ウロン酸を含有する原材料の植物性物質が供給される。本明細書で使用される用語「原材料の植物性物質」は、陸生の又は海洋起源のすべての天然に存在する植物及び植物部位を含み、これはポリマー結合ウロン酸を含み、よってカチオンに対して有意なイオン交換容量を既に有するはずである。
【0013】
前記原材料の植物性物質は、好ましくは、果実、種子、葉、根、ステム、及びストークからなる群から選択され、特に好ましくは、ペクチン含有植物部位及び/又はウロン酸含有海洋植物を含む。ペクチン含有植物部位の例としては、柑橘類の果実、並びにヒマワリ、ナシ、リンゴ、グアバ、マルメロ、プラム、及びグーズベリーの果実序が挙げられる。また、ジュースの製造から生じる残渣(搾りかす)も適している。ウロン酸含有海洋植物の例としては、特に、藻類、昆布、及び海藻などのウロン酸を含有する多糖類から構成される海洋植物が挙げられる。その状況において藻類を使用することが非常に好ましく、その例としては、特に、褐藻類、緑藻類、紅藻類、藍藻類、及びこれらの混合物が挙げられる。褐藻類、特に、アスコフィルム(Ascophyllum)属、ダービリア(Durvillea)属、エクロニア(Ecklonia)属、ヒバマタ(Fucus)属、ラミナリア(Laminaria)属、レッソニア(Lessonia)属及びマクロシスチス(Macrocystis)属の褐藻類は、特に好ましいと考えられる。さらに、本発明によれば、植物性物質がミント又はその一部でないことが特に好ましく、具体例は、特に、スペアミント、ウォーターミント、コーンミント及びペパーミントを含む。
【0014】
本明細書で使用される用語「イオン交換容量」は、繊維のグラム当たりの結合し得る亜鉛イオンのモル量を指す。亜鉛イオンの定義は、測定方法から生じる。質的には、イオン交換容量は、他の金属イオンに移すこともできるので、亜鉛イオンに対する容量の増加は、例えば、マグネシウムイオンに対する容量の増加も意味するが、必ずしも同じ量ではない。
【0015】
本発明の製造方法の次工程では、選択された原材料の植物性物質を抽出剤を用いて抽出し、必要に応じて、紡糸工程を妨害し得る無機塩等の水溶性成分が除去され、および植物の非水溶性骨格構造のみが残る程度に後処理する。原材料の植物性物質から無機塩を除去することにより、イオン交換のための活性中心が脱ブロックされ、これは植物性物質のイオン交換容量をさらに増加させる。原材料の植物性物質の調製は、固液抽出によって行われ、ここで、抽出剤は、好ましくは、水、有機溶媒、又は水と少なくとも1種の有機溶媒との混合物を含む。より好ましくは、抽出剤は、水又は水と少なくとも1種の有機溶媒との混合物であり、特に好ましくは、水と少なくとも1種の有機溶媒との混合物である。
【0016】
可能な有機溶媒は、特に、アルコール、アミン、アミド及びカルボン酸からなる群から選択されるプロトン性溶媒、又は/及びケトン、ラクトン、ラクタム、ニトリル、ニトロ化合物、第三級カルボキサミド、スルホキシド、スルホン、及びカルボン酸エステルからなる群から選択される非プロトン性極性溶媒である。プロトン性溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、ホルムアミド、ギ酸、酢酸、プロピオン酸が挙げられるが、これらに限定されない。非プロトン性極性溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-5-ピロリドン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルカーボネート及びエチレンカーボネートが挙げられる。
【0017】
使用される抽出剤が水と少なくとも1種の有機溶媒との混合物である場合、溶媒混合物の総重量に基づいて計算される有機溶媒の割合は、好ましくは、10~80重量%である。有機溶媒の割合の上限は、有機溶媒と水との既存の混合限界によって当然制限される。より強く好ましくは、溶媒混合物の総重量に基づいて計算される有機溶媒の割合が、20~70重量%の範囲であり、特に好ましくは、30~60重量%の範囲である。
【0018】
抽出自体は、連続的又は不連続的に行うことができる。不連続的抽出は、0度から溶媒/溶媒混合物の沸点までの温度範囲で行われる。この目的のために、原材料の植物性物質は、例えば、ソックスレースリーブに導入することができ、ソックスレー抽出装置を備える装置を用いて、溶媒の還流下で抽出することができる。このようにして、抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質が得られ、これは典型的には、さらなる処理のために乾燥され、すり砕かれる。驚いたことに、抽出によって得られた植物性物質は、非常によくすり砕くことができる。
【0019】
したがって、本明細書で使用される用語「抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質」とは、抽出剤を用いてそれぞれの原材料の植物性物質を抽出した後に得られる抽出残渣を意味し、抽出剤に溶解しない原材料の植物性物質の成分を含有する。対照的に、定義上、抽出物は、無機塩並びにアルギン酸及びアルギン酸ナトリウムを含む水溶性ウロン酸誘導体などの、特定の反応条件下で抽出剤に溶解する原材料の植物性物質の成分を含有する。
【0020】
本発明の製造方法の最終工程では、抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質をセルロースと一緒にして紡糸液を用意し、そして、紡糸液は、公知の方法に従って、セルロース系機能性繊維に紡糸される。特に、本発明は、リヨセルプロセスに従ったセルロース系機能性繊維の製造を提供し、抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質は、例えば、セルロース及びNメチルモルホリンN-オキシド一水和物含有紡糸液に添加され、得られた紡糸液は、その後、適切な条件下で、フィラメント、繊維、又はフィルムに紡糸される。よって、本発明によれば、紡糸液が、原材料の植物性物質の抽出の過程で副生成物として得られる抽出物も、抽出物を加工又は洗浄することによって得られる物質もどちらも含有しないことが特に好ましい。抽出物をさらに使用しないことによって、繊維製造方法を簡素化することができ、メンテナンス作業と生産スループットとの間隔の増加により製造コストを決定的に低減させることができる。
【0021】
紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される、紡糸される紡糸液中の抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質の割合は、最終繊維製品に対するそれぞれの必要条件に従って必要に応じて当業者が調整し得るが、好ましくは、0.1から15重量%である。より好ましくは、紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される、紡糸液中の抽出されたポリマー結合ウロン酸含有植物性物質の割合は、1.0から10重量%の範囲であり、特に好ましくは、2.5から7.5重量%の範囲である。
【0022】
紡糸液に添加された溶媒(例えば、N-メチルモルホリン-N-オキシド一水和物)が再利用される場合、適切な抽出剤による原材料の植物性物質の本発明の抽出の結果として、無機塩又は可溶性有機成分の蓄積をシステム内でほぼ回避でき、それによって洗浄関連のメンテナンス作業を低減でき、生産スループットを増大させることができる。さらに、この方法は、セルロース系繊維の既存の生産工場に容易に適用し得る。
【0023】
本発明の方法によって製造されるセルロース系機能性繊維は、糸、ツイスト、ロープ、布、編まれた又はクロシェ編みされた生地、メッシュ、不織布、フェルト、及び他の繊維製品を製造するために有利に使用でき、この繊維は、その機能性を繊維製品全体に伝達する。繊維製品は、次に、適切な方法でさらに加工することができ、特に、衣類、家具(特に内装材)又はカーペットを製造するために役立てることができる。これらの繊維を含む又はこれらの繊維から作られる繊維製品は、同様に高い着用快適性と、セルロース系機能性繊維より優れたイオン結合性によって特徴付けられ、ある割合の未処理の天然物を含む。また、本発明の方法によって製造されるセルロース系機能性繊維は、リヨセルプロセスに従って従来の方式で製造された繊維と同様の特性も有し、同等の技術を用いて繊維製品を製造するために加工することができる。
【0024】
これらの特性は、おそらく、本発明に従って製造されるセルロース系機能性繊維がα-L-グルロン酸及びβ-D-マンヌロン酸などのポリマー結合セルロース固定化ウロン酸を含み、そのpKa値が驚くほどよく皮膚のpHと調和し、イオン交換を担うウロン酸の活性中心が目標とされる無機塩の分離によって容易にアクセス可能であり、それは典型的に少なくとも60μmol/gのイオン交換容量をもたらすという事実に関係している。好ましくは、本発明に従って製造されるセルロース系機能性繊維のイオン交換容量は、少なくとも65μmol/gであり、特に好ましくは、少なくとも70μmol/gである。
【0025】
驚くべきことに、本明細書に記載されたセルロース系機能性繊維のイオン交換容量は、紡糸液自体、又は紡糸液を紡糸した後に得られるセルロース系機能性繊維のいずれかに、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するアルカリ土類金属塩又は亜鉛塩を、好ましくは、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するマグネシウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩を、より強く好ましくは、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するマグネシウム塩又はカルシウム塩を、及び特に好ましくは塩化カルシウムを選択的に供給することによって少なくとも予備的に、すなわち、予備的に、又は永久にさらに増大させることができる。
【0026】
このようなアルカリ土類金属塩又は亜鉛塩、好ましくはマグネシウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩、より強く好ましくはマグネシウム塩又はカルシウム塩、及び特に好ましくは塩化カルシウムが紡糸液に直接添加される場合、セルロース系機能性繊維のイオン交換容量は、通常少なくとも75μmol/gに著しく増大する。この目的のために、紡糸液は、例えば、紡糸液中に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される0.5~5重量%のアルカリ土類金属塩又は亜鉛塩を、好ましくはマグネシウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩を、より強く好ましくはマグネシウム塩又はカルシウム塩を、及び特に好ましくは塩化カルシウムをさらに含む。塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属又は亜鉛塩を用いる場合、紡糸液中に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される紡糸液中の塩の割合は、好ましくは、1.0から3.5重量%の範囲であり、特に好ましくは、1.5から3.0重量%の範囲である。この方法で製造されたセルロース系機能性繊維を家庭用洗濯洗剤で洗浄することによって、繊維のイオン交換容量をさらに増大させることができる。
【0027】
或いは、紡糸液を紡糸した後に得られるセルロース系機能性繊維は、その後、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するアルカリ土類金属又は亜鉛塩の水溶液で、好ましくは、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するマグネシウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩の水溶液で、より強く好ましくは、20℃で少なくとも100g/lの水溶性を有するマグネシウム塩又はカルシウム塩の水溶液で、及び特に好ましくは、塩化カルシウム液の水溶液で処理(例えば、飽和)することができる。その結果、セルロース系機能性繊維の初期のイオン交換容量は、通常少なくとも80μmol/gに著しく増大する。しかしながら、このようなセルロース系機能性繊維のイオン交換容量は、洗浄回数の増加により未処理の添加剤含有繊維のレベルまで低下する。水溶液中のアルカリ土類金属塩又は亜鉛塩、好ましくはマグネシウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩、より強く好ましくはマグネシウム塩又はカルシウム塩、及び特に好ましくは塩化カルシウムの濃度は、当業者が必要に応じて調整することができるが、好ましい量は、2から8重量%であり、より強く好ましくは4から6重量%である。
【0028】
以下に、本発明は、実施例を用いてより詳細に説明される。特に断りのない限り、実施例で用いた化学物質は、いずれの場合もシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)から入手した。
【実施例1】
【0029】
ラミナリア(Laminaria)属の乾燥褐藻(製造元:スマートファイバーアーゲー(smartfiber AG))からの藻類粉末をソックスレーを用いて抽出した。この目的のために、藻類粉末1gをソックスレースリーブに秤量し、環流下で2時間抽出した。抽出剤として、最初に水(超純水)を使用し、次いで質量比70:30の水/エタノール混合物を使用した。抽出後に得られた藻類材料をそれぞれのケースにおいて乾燥し、次いで選択した化学元素に関して元素分析によって分析した。
【0030】
炭素(C)、水素(H)、窒素(N)及び硫黄(S)の含有量は、ハーエーカーアーテックゲーエムベーハー(HEKAtech GmbH)のユーロエレメンタルアナライザー(Euro Elemental Analyser)で製造業者の仕様に従ってそれぞれのケースにおいて測定した。
【0031】
塩素(Cl)及びヨウ素(I)の含有量は、サーモフィッシャーサイエンティフィックインク(Thermo Fisher Scientific Inc.)によるICS-900イオンクロマトグラフィーシステム(ICS-900 ion chromatography system)で塩素についてはDIN EN ISO 10304-1:2009-07に準拠して、ヨウ素についてはDIN EN ISO 10304-1:2009-07に従って測定した。
【0032】
ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)の含有量は、サーモフィッシャーサイエンティフィックインク(Thermo Fisher Scientific Inc.)によるiCAP(商標)7400 ICP-OESアナライザー(iCAPTM7400 ICP-OES Analyzer)でDIN EN ISO 11885:2009-09に従って測定した。
【0033】
元素分析の結果を表1及び表2に示す。
【表1】
【表2】
【実施例2】
【0034】
615のCuoxam-DPを有する6重量%のセルロース(製造元:ドムシェファブリカルアーベー(Domsjo Fabriker AB))、52.5重量%のN-メチルモルホリン-N-オキシド一水和物(NMMO)(製造元:オケマアーゲー(OQEMA AG))及び41.5重量%の水から成る懸濁液を生成した。95℃の温度及び70mbarの圧力での剪断及び水分蒸発によってこの懸濁液から溶液を生成し、それは、次いで、繊維紡糸口金から押し出され、エアギャップを通じて紡糸浴に導かれ、その後に引き出される。これに続いて、溶媒を浸出させ、潤滑にし、切断し、得られたセルロース系機能性繊維(繊維1:リヨセル繊維)を乾燥する。
【実施例3】
【0035】
出発物質として、実施例1で使用した未処理の藻類粉末5重量%(紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて算出)を紡糸液に添加したこと以外は、リヨセルプロセスに従ってセルロース系機能性繊維を製造するための実施例2に記載された工程を繰り返した。紡糸及び後処理後に、ウロン酸を含有するセルロース系機能性繊維(繊維2)が得られた。
【実施例4】
【0036】
水を用いて抽出した実施例1で得られた藻類粉末5重量%(紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて算出)を紡糸液に添加したこと以外は、リヨセルプロセスに従ってセルロース系機能性繊維を製造するための実施例2に記載された工程を繰り返した。紡糸及び後処理後に、ウロン酸含有セルロース系機能性繊維(繊維3)が得られた。
【実施例5】
【0037】
質量比70:30の水/エタノールを用いて抽出した実施例1で得られた藻類粉末5重量%(紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて算出)を紡糸液に添加したこと以外は、リヨセルプロセスに従ってセルロース系機能性繊維を製造するための実施例2に記載された工程を繰り返した。紡糸及び後処理後に、ウロン酸含有セルロース系機能性繊維(繊維4)が得られた。
【0038】
次に、実施例2から5で製造されたセルロース系機能性繊維の着色、繊維物性値、保水性、及びイオン交換容量を試験した。異なるセルロース系機能性繊維は、着色において異ならないことがわかった。
【0039】
繊維繊度は、DIN EN ISO 1973:1995-12に従って測定した。
【0040】
最大破断荷重、最大破断荷重の変動係数、最大破断における伸び、破壊強度、破壊強度の変動係数、繊度関連ループ破壊強度、及びA-モジュールは、ツヴィックロエルゲーエムベーハーウントコカーゲー(ZwickRoell GmbH & Co.KG)によるZ005万能試験機でDIN EN ISO 5079:1996-02に従って測定した。
【0041】
保水容量は、DIN 53814:1974-10に従って測定した。
【0042】
イオン交換容量は、洗浄及び乾燥した繊維を用いて、以下により詳細に記載される工程1から4を実行することによって測定した。
【0043】
工程1:灰除去
金属イオンを除去するために、ウルトラ-ターラックス(Ultra-Turrax)攪拌装置を用いて約5gの細かく切断された繊維を約200mlの0.1~0.2N塩酸の中に広げ、マグネチックスターラーを用いて2時間攪拌した。次いで、セルロースをG2フリットを介して引き出し、水で中性に洗浄し、風乾した。これらの脱灰風乾繊維の乾燥含有量を測定した。
【0044】
工程2:酢酸亜鉛との反応
水素イオンを亜鉛イオンに交換するために、既知の乾燥含有量を有する1gの脱灰繊維(重量mE)を三角フラスコの中で50mlの0.02N酢酸亜鉛溶液と混合し、栓で閉じた。繊維試料を酢酸亜鉛溶液中に24時間残存させ、それらの少なくとも5時間振とうした(振とうテーブル)。
【0045】
工程3:滴定
添加した酢酸亜鉛溶液中の亜鉛イオン濃度の低下を測定するために、滴定前に繊維パルプを再度よく振とうし、乾燥G3フリットを介して引き出した。25mlの濾過液を5mlのNH/NHCl緩衝液(pH10)と混合し、滴定の指示薬(Eriochrome Black T)を赤紫色に至るまで溶液に添加した。0.01Nコンプレクソン溶液を用いて、青色に色が変化するまで滴定を行った(消費量b)。別の試料では、25mlの使用される酢酸亜鉛溶液を0.01Nコンプレクソン溶液を用いて同じ条件下で滴定した(消費量a)。
【0046】
工程4:イオン交換容量の計算
以下の式に従って各セルロース系機能性繊維のイオン交換容量の計算を行った。
【数1】
式中、m=試料の重量(g)、TG=乾燥含有量(%)、b=試料溶液のコンプレクソン消費量(ml)、及びa=酢酸亜鉛溶液のコンプレクソン消費量(ml)である。
【0047】
繊維物性値、保水性及びイオン交換容量の測定結果を表3に示す。
【表3】
【0048】
表3から分かるように、藻類粉末の形態でポリマー結合ウロン酸が添加されたセルロース系機能性繊維の繊維物理パラメータは、すべてリヨセル繊維の分散の正常範囲内であった。イオン交換容量に関する限り、紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて計算される5重量%の藻類粉末の添加は、イオン交換容量の著しい増大を既にもたらすことがわかった。未処理の藻類粉末を使用した場合には、イオン交換容量が、藻類粉末と混合されない繊維1の値の7倍に増大し(繊維2参照)、水で抽出後の藻類粉末を使用した場合には、それが繊維1の値の7.5倍に増大し(繊維3参照)、水/エタノール混合物で抽出後の藻類粉末を使用した場合には、繊維1の値の9倍になった(繊維4参照)。
【実施例6】
【0049】
1.8重量%(紡糸液に含有されるセルロースの重量に基づいて算出)の塩化カルシウムを紡糸液に添加したこと以外は、リヨセルプロセスに従ってセルロース系機能性繊維を製造するための実施例4に記載された工程を繰り返した。紡糸及び後処理後に、ウロン酸含有セルロース系機能性繊維(繊維5)が得られた。この繊維のイオン交換容量は、78μmol/gであり、したがって、藻類粉末と混合されない繊維1の値の約10倍であった。
【実施例7】
【0050】
実施例2から6で得られたセルロース系機能性繊維を洗剤で25回家庭洗浄した後にそれらのイオン交換容量に関して再試験した。その結果を表4に示す。
【表4】
【0051】
表4から分かるように、リヨセルプロセスに従って製造された従来のウロン酸のないセルロース系機能性繊維のイオン交換容量は、繰り返し洗浄した後に低減した(繊維1参照)。一方、藻類粉末と混合したセルロース系機能性繊維は、それぞれ、対応する未洗浄繊維よりも25回家庭洗浄した後に高いイオン交換容量を有する(繊維2から5参照)。これはおそらく繊維のフィブリル化の増加によるものであり、それにより、イオン結合のためのさらなる活性中心がアクセス可能になる。
【実施例8】
【0052】
実施例3から5で得られたセルロース系機能性繊維を、それぞれ5重量%の塩化カルシウム水溶液で処理(飽和)した後に乾燥した。次いで、この方法で得られた繊維を、洗濯洗剤で25回家庭洗浄する前と後で、イオン交換容量に関して試験した。その結果を表5に示す。
【表5】
【0053】
表5から分かるように、セルロース系機能性繊維をCaClで飽和した場合には、未処理の繊維と比較してイオン交換容量の即時増大が観察される。しかしながら、後処理のこの効果は、洗剤で25回洗浄した後にはもはや有意ではない。