(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ポリペプチド、その調製方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/165 20060101AFI20240620BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240620BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240620BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240620BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240620BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240620BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240620BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240620BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240620BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240620BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240620BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240620BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240620BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240620BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240620BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240620BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240620BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240620BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/472 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/34 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20240620BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20240620BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C07K14/165 ZNA
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P21/02 C
A61K38/16
A61P31/14
A61K45/00
A61K47/54
A61K47/60
A61K9/10
A61K9/08
A61K9/127
A61K9/14
A61K9/19
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/4965
A61K31/472
A61K31/505
A61K31/426
A61K31/34
A61K31/675
A61K31/4706
A61K31/4045
C12N15/50
(21)【出願番号】P 2022545338
(86)(22)【出願日】2021-01-11
(86)【国際出願番号】 CN2021071078
(87)【国際公開番号】W WO2021155733
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】202010080751.4
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522112755
【氏名又は名称】山西錦波生物医薬股▲フェン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】陸 路
(72)【発明者】
【氏名】姜 世勃
(72)【発明者】
【氏名】夏 帥
(72)【発明者】
【氏名】楊 霞
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】XIA, S., et al.,A pan-coronavirus fusion inhibitor targeting the HR1 domain of human coronavirus spike,SCIENCE ADVANCES,2019年04月10日,5(4),p. 1-15,doi: 10.1126/sciadv.aav4580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/00
C07K 19/00
C12P 21/00
A61K 38/16
A61P 31/00
A61K 45/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1または配列番号2のポリペプチド誘導体であって、該誘導体は、ポリペプチドのパルミトイル化修飾またはコレステロール修飾により得られ、該ポリペプチドは、C末端でリンカーを介して、パルミトイル化修飾されたリシンまたはコレステロール修飾されたシステインに連結され、該リンカーは、PEG化されたものである、ポリペプチド誘導体。
【請求項2】
前記リンカーが、(GSG)nまたは(GSGSG)nを含み、ここで、nは1または2である、請求項
1に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項3】
前記リンカーが、-(GSG)n-DPEG4-または-(GSGSG)n-DPEG4-である、請求項
2に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項4】
前記のポリペプチド誘導体は、SLDQINVTFLDLEYEMKKLEEAIKKLEESYIDLKEL-(GSG)n-DPEG4-K-パルミチン酸、またはSLDQINVTFLDLEYEMKKLEEAIKKLEESYIDLKEL-(GSGSG)n-DPEG4-C-コレステロールであり、ここで、nは1または2である、請求項
1に記載のポリペプチド誘導体。
【請求項5】
請求項
1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体を含む、組成物。
【請求項6】
前記組成物が、外用剤である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記外用剤が、外用塗布剤である、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記外用塗布剤が、外用ゲル剤または外用浸潤製剤である、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
コロナウイルスを阻害するための医薬品、またはコロナウイルスに起因する疾患を治療および/または予防するための医薬品をさらに含む、請求項
5に記載の組成物。
【請求項10】
前記医薬品は、ファビピラビル、ネルフィナビル、アルビドール、ロピナビル、リトナビル、クロロキンリン酸塩、ダルナビルまたはレムデシビルからなる群から選択される、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物は、薬学的に許容される担体を含む、請求項
5に記載の組成物。
【請求項12】
コロナウイルスを阻害するため、またはコロナウイルスによって引き起こされる疾患を治療および/または予防するための医薬品の製造における請求項
1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体または請求項
5~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
前記コロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVであり、および/または前記疾患は、コロナウイルス肺炎である、請求項
12に記載の使用。
【請求項14】
前記医薬品の剤形が、錠剤、カプセル剤、滴丸剤、エアゾール剤、丸剤、粉剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、リポソーム、経皮製剤、坐剤、または凍結乾燥製剤である、請求項
12または13に記載の使用。
【請求項15】
前記医薬品は、注射、腔内投与、呼吸器内投与、粘膜投与、または局所投与により投与される、請求項
14に記載の使用
【請求項16】
前記医薬品は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射および腹腔内注射、大槽内注射または注入、直腸内投与、膣内投与、舌下投与、または鼻腔内投与により、投与される、請求項
14に記載の使用。
【請求項17】
インビトロでコロナウイルスを阻害する方法であって、
請求項
1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド誘導体、または請求項
5~11のいずれか1項に記載の組成物を用いて、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVを阻害することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2020年02月05日に出願された出願番号が202010080751.4である中国特許出願(発明の名称:ポリペプチド、その調製方法およびその使用)の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものそして引用する。
【0002】
本発明は、ポリペプチド医薬品分野、特にコロナウイルスを阻害するポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0003】
新型コロナウイルスは、動物によってヒトに感染する可能性がある。この病原体はすぐに新規のコロナウイルスとして同定され、世界保健機関はそれを2019-nCoV[J.Med.Virol.2020.92,doi:10.1002/jmv.25678]と名付けた。その後、国際ウイルス分類委員会は、この新型コロナウイルスをSARS-CoV-2と名付けた。
【0004】
したがって、このウイルスの拡散を効果的に防止や制御すること、および特効薬を開発することは、早急に解決すべき重要な課題になっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、新型コロナウイルス(2019-nCoV)の感染を阻害する効果を有するポリペプチドを開示する。本発明者らは、2019-nCoVのSタンパク質のS2領域におけるHR1標的に基づいて、2019-nCoV感染のみを阻害することができるポリペプチドまたはポリペプチド誘導体を見出した。また、これらは、SARS様ウイルス(Rs3367-CoVまたはWIV1-CoV)などのヒトに感染する可能性のある他のコロナウイルスに対しても優れた阻害効果を発揮することができる。本発明は、現在も流行している2019-nCoVおよび将来発生する可能性のあるSARS様ウイルスに対して優れた予防および治療の候補医薬品を提供することができる。
【0006】
一局面では、本発明は、以下のポリペプチドを提供する。
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、または挿入されたアミノ酸配列を含み、且つコロナウイルスに対して阻害活性を有するポリペプチド;或いは
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、94%または95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つコロナウイルスに対して阻害活性を有するポリペプチド。
【0007】
また、一局面では、本発明は、本発明のポリペプチドを含む、融合タンパク質またはコンジュゲートを提供する。
【0008】
また、一局面では、本発明は、本発明のポリペプチドまたは本発明の融合タンパク質をコードする核酸を提供する。
【0009】
また、一局面では、本発明は、本発明の核酸を含むベクターを提供する。
【0010】
また、一局面では、本発明は、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0011】
また、一局面では、本発明は、以下の工程を含む、本発明のポリペプチドまたは融合タンパク質を調製する方法を提供する。
(1)本発明のベクターを宿主細胞に導入すること;
(2)適切な培地で前記の宿主細胞を培養すること;および
(3)ポリペプチドまたは融合タンパク質を収集して単離すること。
【0012】
また、一局面では、本発明は、以下の(1)~(3)のいずれか1項に記載のポリペプチドのパルミトイル化修飾またはコレステロール修飾された誘導体である、ポリペプチド誘導体を提供する。
(1)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号2に示すアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、付加、または挿入されたアミノ酸配列を含み、且つコロナウイルスに対して阻害活性を有するポリペプチド;或いは
(3)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、94%または95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つコロナウイルスに対して阻害活性を有するポリペプチド。
【0013】
一実施形態では、パルミトイル化修飾またはコレステロール修飾は、ポリペプチドのC末端で行われた。
【0014】
一実施形態では、ポリペプチドは、C末端でリンカーを介してパルミチン酸またはコレステロールの部分に連結されている。
【0015】
一実施形態では、リンカーは、PEG化されている。例えば、リンカーは、dPEGでPEG化される。
【0016】
一実施形態では、ポリペプチドは、C末端でリンカーを介して、パルミトイル化修飾されたリシンまたはコレステロール修飾されたシステインに連結されている。言い換えれば、ポリペプチドは、リンカーを介してリシンまたはシステインを経由してパルミチン酸またはコレステロールの部分に連結されている。
【0017】
一実施形態では、リンカーは、(GSG)nまたは(GSGSG)nを含み、ここで、nは任意の整数であってもよい。例えば、nは、1、2、3、4または5である。
【0018】
一実施形態では、リンカーは、-(GSG)n-DPEG4-または-(GSGSG)n-DPEG4-であり、ここで、nは任意の整数であってもよい。例えば、nは、1、2、3、4または5である。
【0019】
一実施形態では、ポリペプチド誘導体は、SLDQINVTFLDLEYEMKKLEEAIKKLEESYIDLKEL-(GSG)n-DPEG4-K-パルミチン酸、またはSLDQINVTFLDLEYEMKKLEEAIKKLEESYIDLKEL-(GSGSG)n-DPEG4-C-コレステロールである。nは任意の整数であってもよい。例えば、nは、1、2、3、4または5である。
【0020】
一実施形態では、ポリペプチド誘導体は、SLDQINVTFLDLEYEMKKLEEAIKKLEESYIDLKEL-GSG-DPEG4-K-パルミチン酸、またはSLDQINVTFLDLEYEMKKLEEAIKKLEESYIDLKEL-GSGSG-DPEG4-C-コレステロールである。
【0021】
また、一局面では、本発明は、本発明のポリペプチドおよび/または本発明のポリペプチド誘導体を含む組成物を提供する。
【0022】
一実施形態では、組成物は外用剤である。一実施形態では、組成物は外用塗布剤である。一実施形態では、組成物は、外用ゲル剤または外用浸潤製剤(external infiltration preparation)である。
【0023】
一実施形態では、組成物は、コロナウイルスを阻害するための医薬品、或いはコロナウイルスによる疾患を治療および/または予防するための医薬品をさらに含む。前記の医薬品は、ファビピラビル、ネルフィナビル、アルビドール、ロピナビル、リトナビル、ダルナビル、クロロキンリン酸塩、またはレムデシビルからなる群から選択される。一実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体を含む。
【0024】
一局面では、本発明は、コロナウイルスを阻害するための医薬品、或いはコロナウイルスによる疾患を治療および/または予防するための医薬品の調製における、本発明のポリペプチド、融合タンパク質またはコンジュゲート、核酸、ベクター、宿主細胞、ポリペプチド誘導体、または組成物の使用を提供する。
【0025】
一実施形態では、コロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVおよび/またはWIV1-CoVである。
【0026】
一実施形態では、医薬品の剤形は、錠剤、カプセル剤、滴丸剤、エアゾール剤、丸剤、粉剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、リポソーム、経皮製剤、坐剤、または凍結乾燥製剤である。
【0027】
一実施形態では、医薬品は、好ましくは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射および腹腔内注射、大槽内注射または注入などを含む注射投与、直腸、膣および舌下などの腔内投与、鼻腔などの呼吸器内投与;粘膜投与、または局所投与によって投与される。
【0028】
一局面では、本発明は、本発明のポリペプチド、融合タンパク質またはコンジュゲート、核酸、ベクター、宿主細胞、ポリペプチド誘導体、或いは組成物を適用することを含む、インビトロでコロナウイルスを阻害する方法を提供する。
【0029】
一実施形態では、コロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVである。
【0030】
本明細書には、コロナウイルスによる疾患は、コロナウイルス肺炎、特に新型コロナウイルス肺炎COVID-19であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、2019-nCoVおよびSARS様ウイルスSタンパク質の配列分析の図である。
【
図2】
図2は、2019-nCoVのSタンパク質によって媒介される細胞-細胞融合に対するポリペプチドの阻害活性を示す。
【
図3】
図3は、2019-nCoVシュードウイルスに対するポリペプチドの阻害活性を示す。
【
図4】
図4は、SARS-CoVシュードウイルスに対するポリペプチドの阻害活性を示す。
【
図5】
図5は、Rs3367-CoVシュードウイルスに対するポリペプチドの阻害活性を示す。
【
図6】
図6は、WIV1-CoVシュードウイルスに対するポリペプチドの阻害活性を示す。
【
図7】
図7は、生きている2019-nCoVウイルスに対するポリペプチドの阻害活性を示す。
【
図8】
図8a-
図8bは、2019-HR2Pに代表されるポリペプチドの抗ウイルス作用のメカニズムを示す。
【
図9】
図9は、pAAV-IRES-EGFPプラスミドマップである。
【
図10】
図10は、生きているSARS-CoV-2ウイルスの感染に対するポリペプチドEK1、EK1-cholの阻害効果である。
【
図11】
図11は、インビボでのEK1ポリペプチドの予防的および治療的保護効果を示す。Aは肺のウイルス量の変化であり;B.腸内のウイルス量の変化である。
【
図12】
図12は、インビボでのEK1-cholポリペプチドの予防的および治療的保護効果を示す。Aは肺のウイルス量(viral load)の変化であり;Bは腸内のウイルス量の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ヒトコロナウイルスが標的細胞に感染する過程において、そのスパイク糖タンパク質(Sタンパク質)は重要な役割を果たす。Sタンパク質はS1サブユニットとS2サブユニットに分けることができる。S1サブユニットは、N末端ドメイン(NTD)と受容体結合ドメイン(RBD)の2つの機能ドメインを含み、両者はともにウイルスが宿主細胞の受容体と結合する役割を担っている。また、それらは、中和抗体およびワクチンの開発の標的であるいくつかのコンフォメーション中和エピトープを含む。S2サブユニットは、融合ペプチド(FP)および2つのヘプタッドリピート領域(HR)-HR1とHR2の3つの機能ドメインを含む。S1のRBDが受容体に結合した後、S2サブユニットはFPを宿主細胞膜に挿入することによってコンフォメーションを変化させ、次にHR1およびHR2領域は6ヘリックスバンドル(6-HB)を形成し、ウイルス膜と細胞膜との融合を引き起こし、ウイルスの遺伝物質は融合穴を介して標的細胞に入り、複製して新しいウイルス粒子を生成する。Sタンパク質のS2領域は、ドラッグデザインの重要なターゲットである。SARS-CoV Sタンパク質のHR2ドメインに由来するポリペプチド(SC-1)は、ウイルスのSタンパク質のHR1領域と相互作用して、異種6-HBを形成することで、HR1とHR2ドメインの間の相同6-HBの形成を阻害することにより、ウイルスと宿主細胞の融合を阻止する。しかしながら、このポリペプチドは、活性が非常に低く(IC50は20μM)、医薬品としてさらに開発することが困難である。一方、同じメカニズムを持つポリペプチドでは、エイズウイルス(HIV)の治療に承認されている医薬品がすでにある。例えば、米国FDAによって承認された世界初のポリペプチド系HIV侵入阻害剤であるエンフビルタイド(Enfuvirtide、Fuzeon、T20としても知られている)は、現在、エイズの臨床治療に使用されている。姜世勃教授(本願の発明者の一人)は、エンフビルタイドのプロトタイプポリペプチド(米国特許第5,444,044号)の発明者である。
【0033】
今まで流行している2019-nCoVについては、現在、S2領域に対するポリペプチド系阻害剤を含む、このウイルスを標的とする特異的な医薬品はまだない。本発明は、このウイルスのS2領域におけるHR1標的部位の配列の特徴および重要なアミノ酸部位が比較的保存されているという現象に基づいて、この領域を標的とする一連のポリペプチド阻害剤を初めて設計した。実験結果は、これらのポリペプチドが上記のウイルスの膜融合およびシュードウイルスの感染を効果的に阻害することができ、非常に効果的な抗2019-nCoV特異性医薬品として開発する可能性があることを示した。同時に、設計されたポリペプチドがコウモリに由来するさまざまなSARS様ウイルスを効果的に阻害できることも発見した。したがって、本発明は、まだ流行している2019-nCoVおよび将来発生する可能性のあるSARS様ウイルスに対して優れた予防および治療の候補医薬品を提供することができる。
【0034】
本発明の目的は、2019-nCoVおよびSARS様ウイルスの感染に対する阻害機能を有する一連のポリペプチド系侵入阻害剤を提供することである。前記のポリペプチド系侵入阻害剤は、2019-nCoVおよびSARS様ウイルスのS2タンパク質におけるHR1領域に結合し、ウイルスの6HBの形成プロセスを妨害することにより、ウイルスの融合および感染のプロセスを阻害する。この一連のポリペプチドの具体的な配列を表4に示し、また、ポリペプチド配列リストにも詳細に示す。本発明の重要な革新的ポイントは、ポリペプチドが新たに発生した2019-nCoVに対して阻害活性を有し、しかも一部のポリペプチドの阻害活性が予想外に高いレベルに達していることである。
【0035】
本発明の目的の1つは、コロナウイルスを阻害するポリペプチドまたはポリペプチド誘導体、或いはコロナウイルスの感染に対する阻害機能を有するポリペプチドまたはポリペプチド誘導体を提供することである。これは、コロナウイルスのS2タンパク質におけるHR1領域に結合することによって達成される。なお、コロナウイルスは、2019-nCoV、SARS様ウイルスRs3367-CoVまたはWIV1-CoVであってもよい。
【0036】
本明細書において、ポリペプチドは、配列番号1または2を含むポリペプチドまたはそのバリアントであってもよい。
【0037】
例えば、ポリペプチドは、配列番号1または2に示すアミノ酸配列において1個または複数個、好ましくは2個、3個、4個または5個のアミノ酸残基が置換、付加、欠失、または挿入されたアミノ酸配列を含んでもよい。
【0038】
アミノ酸の付加とは、ポリペプチドがコロナウイルスに対して阻害活性を有する限り、例えば配列番号1または2などのアミノ酸配列のC末端またはN末端へのアミノ酸の付加を指す。
【0039】
アミノ酸の置換とは、ポリペプチドがコロナウイルスに対して阻害活性を有する限り、例えば配列番号1または2などのアミノ酸配列におけるある位置にある特定のアミノ酸残基が、他のアミノ酸残基で置き換えられたことを指す。
【0040】
アミノ酸の挿入とは、ポリペプチドがコロナウイルスに対して阻害活性を有する限り、例えば配列番号1または2などのアミノ酸配列における適切な位置にアミノ酸残基を挿入することを指す。なお、挿入されたアミノ酸残基は、全体的または部分的に互いに隣接していてもよく、または互いに隣接していなくてもよい。
【0041】
アミノ酸の欠失とは、ポリペプチドがコロナウイルスに対して阻害活性を有する限り、例えば配列番号1または2などのアミノ酸配列から1個、2個または3個以上のアミノ酸を除去することを指す。
【0042】
本発明において、置換は、保存的アミノ酸置換であってもよい。これは、配列番号1または2のアミノ酸配列と比較して、好ましくは3個、より好ましくは2個のアミノ酸または1個のアミノ酸が、類似した性質を有するアミノ酸によって置換されてペプチドを形成することを意味する。これらの保存的変異ペプチドは、表1にしたがってアミノ酸を置換することによって生成することができる。
【0043】
本明細書において、保存的置換は、以下の3つの表のうちの1つ以上に反映されるアミノ酸カテゴリ内の置換に基づいて定義することができる:
【0044】
表1:保存的置換のアミノ酸残基のカテゴリ
【表1】
【0045】
表2:保存的アミノ酸残基置換のカテゴリの候補
【表2】
【0046】
表3:アミノ酸残基の物理的および機能的分類の候補
【表3-1】
【表3-2】
【0047】
本発明の目的のために、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Riceら、2000,Trends Genet.16:276-277)、好ましくはバージョン5.0.0以降のNeedleプログラムを利用して、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)により2つのアミノ酸配列間の配列同一性を決定する。使用されるパラメーターは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ拡張ペナルティ0.5、およびEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長の同一性」とラベル付けされたNeedleの出力(-nobriefオプションを使用して取得)は、パーセント同一性として使用され、次のように計算される。
【0048】
(同一の残基×100)/(アラインメントの長さ-アラインメントのギャップの総数)。
【0049】
また、本発明は、融合タンパク質またはコンジュゲートが本発明のポリペプチドのコロナウイルス阻害活性を有する限り、例えば配列番号1または2などの本発明のポリペプチドを含む融合タンパク質またはコンジュゲートを提供する。当業者は、融合タンパク質またはコンジュゲートの調製方法を完全に理解している。例えば、本発明のポリペプチドは、リンカーを介して直接的または間接的に別の機能的部分に融合またはコンジュゲートすることができる。別の機能的部分は、コレステロール部分、パルミチン酸部分、担体タンパク質、活性タンパク質、マーカータンパク質などであってもよい。ポリペプチドは、ミリストイル化修飾、またはステアリン酸修飾、またはパルミチン酸修飾、またはコレステロール修飾、アミド化修飾、またはイソプレニル化修飾を行うことができる。
【0050】
本発明のポリペプチドは、合成により生成されたものであってもよく、または細胞によって発現されたものであってもよい。例えば、本発明のポリペプチドは、化学的手段によって合成することができる。あるいは、本発明のポリペプチドは、組換え細胞で発現される。細胞の種類は限定されなく、例えば、細胞は真核細胞または原核細胞であってもよい。真核細胞は、例えば、酵母細胞などの真菌細胞、或いは昆虫細胞またはマウス細胞などの哺乳動物細胞であってもよい。原核細胞は、大腸菌細胞などの細菌細胞であってもよい。
【0051】
本発明のポリペプチドをコードする核酸は、使用される宿主細胞に応じてコドン最適化することができる。この核酸は、適切な発現ベクターにクローンした後、発現ベクターを宿主細胞に導入して発現することができる。発現ベクターのタイプは限定されておらず、当業者にはよく知られている。
【0052】
また、本発明は、ポリペプチドまたは融合タンパク質の調製方法を提供する。この方法は、発現ベクターを宿主細胞に導入した後、適切な培地で培養し、次いで、上清からポリペプチドまたは融合タンパク質を収集または単離することを含み、または細胞内で発現する場合、宿主細胞を収集した後、細胞を溶解して、これらのポリペプチドまたは融合タンパク質を収集することを含む。ポリペプチドまたは融合タンパク質の場合、ポリペプチドまたは融合タンパク質は、適切なシグナルペプチドに連結することができる。上記のシグナルペプチドは、収集した後に切断されてもよく、切断されなくてもよい。これらの技術は、当業者にはよく知られている。
【0053】
本発明のポリペプチドは、誘導体として調製することができる。例えば、ポリペプチドは、パルミトイル化修飾またはコレステロール修飾を行うことができる。パルミトイル化修飾またはコレステロール修飾の方法は周知のものである。一実施形態では、パルミトイル化修飾またはコレステロール修飾は、ポリペプチドがC末端でパルミチン酸またはコレステロールの部分に連結されるように、ポリペプチドのC末端で実施することができる。この連結は、直接に連結してもよく、リンカーを介して連結してもよい。
【0054】
リンカーの種類および長さは、さまざまである。例えば、リンカーは、(GSG)nまたは(GSGSG)nであってもよい。ここで、nは、例えは1、2、3、4、5、6などの任意の整数であってもよい。
【0055】
リンカーはPEG化されていてもよい。PEG化修飾の方法は、当業者に知られている。本明細書において、PEG化リンカーという用語は、1つまたは複数のPEGが結合したリンカーを指す。ここで、PEG化リンカーは、PEG化された(GSG)nまたは(GSGSG)nであってもよい。nは、例えば1、2、3、4、5、6などの任意の整数であってもよい。
【0056】
本明細書において、「DPEG」とは、離散型ポリエチレングリコール(discrete polyethylene glycol)を指す。DPEG4は、繰返しエチレングリコール残基の数が4であることを示す。
【0057】
本明細書において、コロナウイルスは、任意のコロナウイルスであってもよい。好ましくは、コロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVである。
【0058】
本発明のポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、単独でまたは組み合わせて使用してもよく、或いは抗コロナウイルス活性またはコロナウイルス阻害活性を有する他の医薬品と併用してもよい。例えば、これらの医薬品は、例えば、ファビピラビル、ネルフィナビル、アルビドール、ロピナビル、リトナビル、クロロキンリン酸塩、ダルナビル、またはレムデシビルなどの、コロナウイルスに対する阻害活性を有するか、またはコロナウイルス肺炎などのコロナウイルスによる疾患に対する治療効果を有することが報告されている医薬品であってもよい。
【0059】
本明細書において、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、2019-HR2P、EK1、EK1-plam、およびEK1-cholを含んでもよい。それらは、組成物として適用することができる。組成物は、薬学的に許容される担体などの適切な担体を含んでもよい。このような組成物は、例えば、外用剤、外用ゲル剤または外用浸潤製剤などの外用塗布剤として、外部使用のために使用することができる。このような組成物は、例えば、マスク、ティッシュ、手袋、防護服などの衣類などのウイルスを阻害する必要がある物品にコーティングすることができる。或いは、それらは、有効成分として手指消毒剤、シャワージェルなどの手洗い用品に添加することができる。このようなポリペプチドまたはポリペプチド誘導体を使用して、インビトロでコロナウイルスを阻害し、ウイルス感染を予防および/または低減することができる。このようなポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、被験者におけるコロナウイルス感染またはコロナウイルスによる疾患を予防または治療するために使用することができる。
【0060】
本発明のポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、医薬品または医薬組成物に調製することができる。このような医薬品は、錠剤、カプセル剤、滴丸剤、エアゾール剤、丸剤、粉剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、リポソーム、経皮製剤、坐剤、または凍結乾燥製剤であってもよい。これらの医薬品または医薬組成物は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射および腹腔内注射、大槽内注射または注入などを含む注射投与、直腸、膣および舌下などの腔内投与、鼻腔などの呼吸器内投与;粘膜投与、または局所投与などの様々な投与経路によって適用される。
【0061】
本発明は、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド誘導体を投与することを含む、被験者におけるコロナウイルス感染またはコロナウイルスによる疾患を予防または治療する方法を提供する。また、本発明は、被験者におけるコロナウイルス感染またはコロナウイルスによる疾患を予防または治療することに使用されるポリペプチドまたはポリペプチド誘導体を提供する。
【0062】
また、本発明は、被験者/患者に、本発明のポリペプチド、融合タンパク質またはコンジュゲート、核酸、ベクター、宿主細胞、ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体或いは組成物を投与することを含む、被験者におけるコロナウイルス感染またはコロナウイルスによる疾患を予防または治療する方法に関する。
【0063】
好ましくは、前記のコロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVである。
【0064】
また、本発明は、被験者におけるコロナウイルス感染またはコロナウイルスによる疾患の予防または治療に使用するための、ポリペプチド、融合タンパク質またはコンジュゲート、核酸、ベクター、宿主細胞、ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体或いは組成物に関する。好ましくは、前記のコロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVである。
【0065】
さらに、本発明は、被験者/患者におけるコロナウイルス感染またはコロナウイルスによる疾患の予防または治療に使用するための、ポリペプチド、融合タンパク質またはコンジュゲート、核酸、ベクター、宿主細胞、ポリペプチドまたはポリペプチド誘導体或いは組成物、医薬組成物、およびキットに関する。好ましくは、前記のコロナウイルスは、2019-nCoV、Rs3367-CoVまたはWIV1-CoVである。
【0066】
実施例
【0067】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、これらの実施例または組み合わせは、本発明の範囲または実施形態を限定するものとして理解されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって限定される。また、本明細書および当分野の常識と組み合わせることにより、当業者は、特許請求の範囲によって限定される範囲を明確に理解することができる。さらに、当業者は、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、本発明の技術構成に任意の修正または変更を加えることができ、このような修正および変更も本発明の範囲に含まれる。
【0068】
実験材料:
ポリペプチド:
本発明者らは、ヒト感染性コロナウイルスのスパイクタンパク質におけるHR1およびHR2の配列の相同性を比較することにより、HR2領域に由来する3つの人工ポリペプチドを設計した。これらのポリペプチドは、2019-HR2Pシリーズポリペプチド(2019-HR2P、EK1-PlamおよびEK1-chol)と略称する。これらのポリペプチドの具体的な配列と構造を表1に示す。これらは、ShanghaiSynPeptide社によって合成され、純度が95%を超える。
【0069】
表4.実施例で使用されたポリペプチドの具体的な配列:
【表4】
【0070】
pAAV-IRES-EGFP-2019-nCoV-Sにおける2019-nCoV-Sのアミノ酸配列(挿入の制限部位はBamHIとXhoI)は次のとおりである。
【0071】
【0072】
ヌクレオチド配列は次のとおりである。
【0073】
【0074】
pAAV-IRES-EGFPプラスミドマップを
図8に示す。pAAV-IRES-EGFPは、米国のagilent technologies社から購入された。
【0075】
pcDNA3.1-SARS-CoV-Sプラスミド、pcDNA3.1-Rs3367-CoV-Sプラスミド、pcDNA3.1-WIV1-CoV-SプラスミドおよびpNL4-3.luc.REプラスミドは、米国のニューヨーク血液センターのDu Lanying博士から寄贈された。2019-nCoV-SをpcDNA3.1に挿入する制限部位は、BamHIおよびXhoIである。
【0076】
ヒト感染性コロナウイルスの受容体を発現する標的細胞であるHuH7細胞は、中国科学院の細胞バンクから購入された。
【0077】
実施例1:2019-nCoVまたはSARS-CoVまたはRs3367-CoVまたはWIV1-CoVシュードウイルスの調製。
実験方法:
1.トランスフェクションの24h前に、293T細胞を消化し、10cmの組織培養皿(2×106/dish)にプレーティングした。
2.トランスフェクションの2h前に、培地を新しい予熱したDMEM培地(10%FBSを含む)と交換した。
3.トランスフェクションにおいて、2本の1.5mLのEPチューブを使用した。EPチューブ1に、pcDNA3.1-プラスミド(またはpcDNA3.1-SARS-CoV-SプラスミドまたはpcDNA3.1-Rs3367-CoV-SプラスミドまたはpcDNA3.1-WIV1-CoV-Sプラスミド)とpNL4-3.luc.REプラスミド(これらのプラスミドはニューヨーク血液センターのDu Lanying博士から寄贈された。関連情報は、Xia,S.#,Yan,L.#,Xu,W.#,Agrawal,A.S.,Alsaissi,A.,Tseng,C.T.K.,Wang,Q.,Du,L.,Tan,W.,Wilson,I.A.*,Jiang,S.*,Yang,B.*,Lu,L.*(2019).A pan-coronavirus Fusion Inhibitor Targeting the HR1 Domain of Human Coronavirus Spike.Science Advances.2019 Apr 10;5(4):eaav4580を参照)とをそれぞれ20μg含む、500μLの0.9%NaCl溶液を添加した。EPチューブ2に、500μLの0.9%NaClを添加した後、さらにトランスフェクション試薬vigofectを10μL加えた。両方のチューブを5分間放置した。
4.EPチューブ2中の500μL溶液を、EPチューブ1に滴下しながら、ピペットチップで十分に混合し、室温で15min放置した。
5.上記の混合液1mLを、あらかじめ293T細胞をプレーティングした培養皿に滴下して均一にした。
6.トランスフェクトした8~10h後に、培地を、10%FBSを含む10mLの新しいDMEM培地と交換した。
7. 48h後に、シュードウイルスを含む上清を収集した。
8. 4000rpmで4min遠心分離して細胞破片を除去し、0.45μm滅菌フィルターで濾過し、-80℃で分注して保管した。
【0078】
実施例2:ヒトコロナウイルスのSタンパク質によって媒介される細胞-細胞融合(cell-cell fusion)の阻害実験
【0079】
実験方法:
1.ヒトコロナウイルスのSタンパク質をコードするプラスミドを、293T細胞にトランスフェクトした後、36-48h培養し、エフェクター細胞とした。具体的に、2019-nCoVのSタンパク質をコードするプラスミドpAAV-IRES-GFP-2019-nCoV-Sを使用して、293T細胞にトランスフェクトし、293T/2019/EGFP細胞と呼ばれるトランスフェクトされた細胞を得た。空ベクタープラスミドpAAV-IRES-GFPを、293T細胞にトランスフェクトし、293T/EGFP細胞を取得し、陰性対照細胞とした。
2.0.02%のEDTAで293T/2019/EGFP細胞および293T/EGFP細胞を消化し、遠心分離し、10%FBSを含む新しいDMEM培地で細胞を再懸濁し、細胞濃度を2×105個/mLに調整した。50μLを取り出して、段階希釈した各試験ポリペプチド医薬品(50μL)に添加し、37℃で30minインキュベートした。医薬品を添加しなかったものを陽性対照細胞とした。
3.細胞/医薬品混合液100μLを、96ウェルプレートにプレーティングされた標的細胞Huh-7に添加した。5%CO2、37℃で2-4時間培養し、蛍光顕微鏡の緑色蛍光チャネルにより、細胞の融合状態を観察し、記録した。
阻害活性の計算式:阻害率=(陽性孔ウェルの融合細胞数-医薬孔ウェルの融合数)/(陽性孔ウェルの融合細胞数-陰性ウェルの融合数)*100
【0080】
結果と考察:
図2に示すように、2019-HR2Pシリーズポリペプチド2019-HR2P、EK1-Plam、EK1-cholおよびEK1は、2019-nCoVのSタンパク質によって媒介される細胞-細胞融合に対して非常に優れた阻害効果を示す。その結果、これらの2019-HR2Pシリーズポリペプチドは2019-nCoVを阻害できることがわかった。2019-nCoVのSタンパク質によって媒介される細胞-細胞融合では、EK1と比較して、その誘導体EK1-PlamおよびEK1-cholの阻害活性が大幅に増強され、ポリペプチド2019-HR2Pは、かなりの阻害活性を持つ。
【0081】
実施例3:2019-nCoVなどのコロナウイルスのシュードウイルスに対するポリペプチドの阻害活性の測定
【0082】
実験方法:
1.DMSOで試験ポリペプチド医薬品を溶解し、ポリペプチド濃度を測定した。
2.ヒト感染性コロナウイルス受容体を発現する標的細胞であるHuH7細胞の懸濁液を調製し、細胞濃度を調整した後、ウェルあたり104個の細胞を添加した。
3.96ウェルプレートに、10%FBSを含むDMEM培地で2倍の勾配で希釈されたポリペプチド医薬品をウェルあたり50μLで使用した。
4.一定の力価の2019-nCoVまたはSARS-CoVまたはRs3367-CoVまたはWIV1-CoVシュードウイルスを、医薬品希釈プレートに50μL/ウェルで添加した。室温で30minインキュベートして、医薬品をウイルスと十分に作用させた。上清を除去した各ウェルの標的細胞に、医薬品とウイルスとの混合液100μLを添加し、37℃で12h培養した後、10%FBSを含む新しいDMEM培地に交換した。
5.72h後に、luciferaseを測定し、阻害率曲線を作成し、医薬品の半数阻害濃度(IC50)を算出した。
阻害活性の計算式:阻害率=(ウイルス対照ウェルの値-医薬品ウェルの値)/(ウイルス対照ウェルの値-細胞ウェルの値)*100%;ここで、ウイルス対照ウェルは、医薬品を添加しなかったウェルであり、細胞ウェルは、ウイルスを添加しなかったウェルである。
【0083】
結果と考察:
2019-nCoVまたはSARS-CoVまたはRs3367-CoVまたはWIV1-CoVシュードウイルスシステムにおいて、2019-HR2Pシリーズポリペプチドの抗ウイルス活性を再度に検出した。結果を
図3~6および表5に示す。2019-HR2P、EK1-Plam、EK1-cholおよびEK1ポリペプチドは、いずれも良好な抗ウイルス活性を示し、上記の細胞-細胞融合実験の結果と一致した。さらに、EK1-PlamおよびEK1-cholポリペプチドの阻害活性は、EK1ポリペプチドよりも明らかに優れ、約数十倍まで高くなった。
【0084】
表5.複数種類のヒトコロナウイルスシュードウイルスに対する2019-HR2Pシリーズポリペプチドの阻害活性:
【表7】
【0085】
実施例4:生きている2019-nCoVウイルスの感染に対するポリペプチドの阻害活性の測定
実験方法:
この研究は、中国科学院武漢ウイルス研究所の研究室(バイオセーフティーレベル3)に委託した。具体的に、生きている2019-nCoVウイルスによるプラーク法により、2019-HR2P、EK1-Plam、EK1-cholおよびEK1の阻害活性を検出した。異なる濃度の上記の各ポリペプチドを、生きている2019-nCoVウイルス(ウイルス力価は100PFU)と30分間インキュベートした後、それらを単層のVERO-E6細胞に添加した。37℃で1時間培養した後、培養上清を除去した。次に、0.9%のメチルセルロースを添加して細胞を覆った。72時間後、細胞を染色してプラークの数を観察し、カウントした。阻害活性の計算式:阻害率=(ウイルス対照ウェルのプラーク数-医薬品ウェルのプラーク数)/ウイルス対照ウェルのプラーク数*100%。
【0086】
結果と考察:
生きている2019-nCoVウイルスにおいて、2019-HR2Pシリーズポリペプチドの抗ウイルス活性を検出した。結果を
図7に示す。2019-HR2P、EK1-Plam、EK1-cholおよびEK1ポリペプチドは、いずれも生きている2019-nCoVウイルスに対する阻害活性を示したが、対照ポリペプチド(Control peptide)は、阻害活性を示さなかった。さらに、EK1-PlamおよびEK1-cholポリペプチドの阻害活性は、EK1ポリペプチドよりも明らかに優れ、それぞれ5倍および67倍まで高くなった。具体的に、生きている2019-nCoVウイルスシステムにおいて、EK1のIC50は2468nMであり、EK1-PlamのIC50は435.8nMであり、EK1-cholのIC50は36.5nMである。
【0087】
実施例5:HR2ポリペプチドの抗ウイルスメカニズムに関する研究
2019-HR2Pポリペプチドを代表とし、EK1ポリペプチドを対照とし、ポリペプチドと、2019-nCoV HR1領域に由来するポリペプチド2019-HR1Pとの間の相互作用を検出し、2019-HR2Pポリペプチドの抗ウイルスメカニズムをさらに調査した。
【0088】
実験方法:
1.非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(N-PAGE)。HR1シリーズのポリペプチド2019-HR1Pを、HR2シリーズのポリペプチド2019-HR2PまたはEK1とそれぞれ混合(それぞれ最終濃度は30μM)し、37℃で30分間インキュベートした。高pHの5xローディングバッファーを4倍量のペプチド混合物と混合し、18%非変性ゲル(Tiandz、Beijing)にロード(ウェルあたり25μl)し、室温、125V定電圧で2時間電気泳動を行い、クマシーブリリアントブルーで染色した。
2.円二色性分光法によるポリペプチドの二次構造の決定。50mmol/L、pH7.2のリン酸緩衝液を利用して、遊離したポリペプチドまたはポリペプチド混合物を最終濃度10μmol/Lに希釈した。分光偏光計(J-815型、Jasco Inc,Japan)により円二色性スペクトルを測定した。検出温度は4℃、帯域幅は5.0nm、分解能は0.1nm、光路は0.1cm、反応時間は4.0s、スキャン速度は50nm/minであった。222nmにおいて、5℃/分の温度勾配でポリペプチドの熱変性をモニターした。緩衝液のブランク対照を引いて、スペクトル値を補正した。融解曲線を平滑化し、Jascoで熱解離転移の中点温度、すなわちTm値を算出した。
【0089】
結果と解析:
1.2019-HR2Pを2019-HR1Pポリペプチドと混合した後、6ヘリックスバンドル複合体である可能性のある新しいバンド(
図8a、凡例:1、2、3レーンは2019-nCoV-HR1P+2019-nCoV-HR2P;4レーンは2019-nCoV-HR2P;5レーンは2019-nCoV-HR1P)は生成した。EK1もp同様の効果を示し、システムの安定性およびEK1による6ヘリックスバンドル複合体(
図8a、凡例:6レーンは2019-nCoV-HR1P;7レーンはEK1;8、9、10レーンはEK1+2019-nCoV-HR1P)の形成を証明した。
2.単独のポリペプチドは低らせん構造を持つ。2019-HR2Pポリペプチドを2019-HR1Pポリペプチドと混合した後、高らせん構造が現れた。この結果は、6ヘリックスバンドル(6-HB)構造のCDスペクトルと一致した。また、そのTm値は、その熱安定性を示す。EK1も同様の効果を示し、システムの安定性およびEK1による6ヘリックスバンドル複合体の形成を証明した。
【0090】
考察
以上のことにより、本発明は、2019-HR2Pシリーズポリペプチド(2019-HR2P、EK1、EK1-PlamおよびEK1-chol)が2019-nCoVに対して良好な阻害活性を有することを初めて発見した。そのメカニズムは、ウイルスのHR1領域に結合することにより、安定した異種6HBを形成し、ウイルス自体のHR2とHR1トリマーとの結合を阻止し、相同6HBの形成を防ぎ、それによってウイルスと細胞膜の融合を妨害し、ウイルス感染を遮断する。さらに、2019-HR2Pシリーズポリペプチド(2019-HR2P、EK、EK1-PlamおよびEK1-chol)は、いずれもSARSウイルスおよびSARS様ウイルス(Rs3367-CoVおよびWIV1-CoV)に対して優れた阻害活性を有することも判明した。なお、EK1-PlamとEK1-cholの活性がEK1の活性よりも大幅に高く、数十倍まで高くなることは初めて発見された。
【0091】
本発明において、本発明者らは、
図2に示すように、2019-nCoVおよびSARS様ウイルスのSタンパク質によって媒介される細胞-細胞融合システムを確立することにより、2019-HR2Pシリーズポリペプチドが、対応するウイルス融合プロセスに対する阻害活性を検出した。2014年、Lu l.(陸路、本願の発明者の一人である)らは、ウイルスのSタンパク質とGFPを共発現させることにより、SARS-CoV、MERS-CoVなどの細胞-細胞融合システムを構築した。また、この知られているウイルス感染をシミュレートするシステムに基づいて、より優れた活性を持つ一連のポリペプチド侵入阻害剤の設計と評価に成功した。これらの結果は、Nature CommunicationsおよびScience Advancesに掲載された。本発明では、同様の方法を使用して、本発明者らは、2019-nCoV Sタンパク質によって媒介される膜融合システムを世界で初めて確立し、現在最高の活性を有するポリペプチド侵入阻害剤EK1を対照として、2019-nCoVおよびSARS様ウイルスに対する、発明された一連のポリペプチドの膜融合阻害効果をそれぞれ検出した(参考文献:Lu,L.,Q.Liu,Y.Zhu,K.H.Chan,L.Qin,Y.Li,Q.Wang,J.F.Chan,L.Du,F.Yu,C.Ma,S.Ye,K.Y.Yuen,R.Zhang,and S.Jiang.2014.Structure-based discovery of Middle East respiratory syndrome coronavirus fusion inhibitor.Nat Commun 5:3067.およびXia,S.,Yan,L.,Xu,W.,Agrawal,A.S.,Alsaissi,A.,Tseng,C.T.K.,Wang,Q.,Du,L.,Tan,W.,Wilson,I.A.,Jiang,S.,Yang,B.,Lu,L.A pan-coronavirus Fusion Inhibitor Targeting the HR1 Domain of Human Coronavirus Spike.Science Advances.2019 Apr 10;5(4):eaav4580)。2019-nCoVの細胞-細胞融合実験において、2019-HR2PシリーズポリペプチドおよびEK1ポリペプチドは、いずれも良好な阻害効果を示し、また、EK1-PlamおよびEK1-cholポリペプチドの阻害活性はEK1ポリペプチドよりも明らかに優れ、約10~100倍まで高くなった(
図2)。陰性対照である2019-HR1Pポリペプチドは活性を示さなかった。
【0092】
同時に、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド誘導体の阻害活性をさらに確認するために、本発明者らはまた、別のよく知られている抗ウイルス医薬品の活性を評価するモデルであるシュードウイルス感染モデルを使用した。本発明者らは、2019-nCoVシュードウイルス感染システムを世界で初めて確立した後、シュードウイルスに対する2019-HR2Pシリーズポリペプチドおよび対照EK1ポリペプチドの阻害効果を検出した。
図3に示すように、2019-HR2Pシリーズポリペプチドは、2019-nCoVシュードウイルスと生きているウイルスの両方に対して良好な阻害効果を示し、また、EK1-PlamおよびEK1-cholポリペプチドの阻害活性は、EK1ポリペプチドよりも明らかに優れ、約6~120倍まで高くなった(
図3および表2)。この結果は、上記のMERS-CoV細胞-細胞融合実験の結果と一致した。同様の結果は、SARSウイルスおよびSARS様ウイルスのシュードウイルス阻害実験でも得られた(
図4、5、6および7)。一方、陰性対照である2019-HR1Pポリペプチドは活性を示さなかった。
【0093】
本発明のポリペプチドまたはポリペプチド誘導体は、非常に効果的な抗2019-nCoV活性を示すだけでなく、2019-HR2Pポリペプチドを代表としてそれらの具体的な抗ウイルスメカニズムも明確に示す。
図8aに示すNative PAGE実験において、2019-HR2PポリペプチドおよびEK1ポリペプチドを、2019-nCoV HR1領域に由来する2019-HR1Pと混合した後、いずれも6ヘリックスバンドである新しいバンドが現れた。さらに、ポリペプチドの二次構造の検出は、2019-HR2PポリペプチドおよびEK1ポリペプチドを、2019-HR1Pと混合した後、高度のらせん構造が現れたことを示した。この結果は、6ヘリックスコア構造のCDスペクトルと一致し、また、そのTm値はその熱安定性を示した(
図8b)。このことから、2019-HR2Pポリペプチドの抗ウイルスメカニズムは、主に2019-nCoVウイルスのHR1領域に結合して、ウイルス自体の6HBの形成を妨害することにより、ウイルスの融合および侵入のプロセスを阻害することが分かった。
【0094】
以上のことにより、2019-HR2Pシリーズポリペプチドは、2019-nCoV、SARSウイルス、SARS様ウイルスに対して優れた阻害活性を示し、今でも流行している2019-nCoVおよび将来発生する可能性のあるSARS様ウイルスに対して優れた予防および治療の候補医薬品を提供する。さらに、2019-HR2Pポリペプチドの明確な抗ウイルスメカニズムは、その適用の安全性と最適化アプローチの明確さを保証することができ、将来のさらなる開発に有利である。
【0095】
実施例6:ヒト腸由来細胞株CaCO2における生きているSARS-CoV-2ウイルスに対するEK1およびEK1-cholの阻害
【0096】
(一)実験方法:
1.本実験は、復旦大学の研究室(バイオセーフティーレベル3)で実施され、使用されたSARS-CoV-2株は、この研究室で分離されたnCoV-SH01株であった。
2.感染の12時間前に、CaCO2細胞を96ウェルプレート(ウェルあたり10000細胞)にプレーティングした。
3.無血清DMEMを使用し、系が50μLの容量になるように、ポリペプチド阻害剤を段階希釈した後、50μLのウイルス希釈液(750pfu/ml)を加えて混合した後、37℃で30minインキュベートした。
4.ウイルス/医薬品混合物100μLを、96ウェルプレートにプレーティングされた標的細胞に添加し、5%CO2、37℃で48時間インキュベートした。
5.各ウェルの上清を収集し、上清中のウイルスRNAの含有量を定量的に検出して、阻害率を測定した。
【0097】
結果:
SARS-CoV-2はヒトの腸組織に効果的に感染することができるため、ヒト腸由来細胞株を使用してポリペプチドEK1、EK1-cholを評価することは非常に重要である。結果は、
図10に示すように、EK1、EK1-cholのポリペプチドがSARS-CoV-2に対して非常に効果的な阻害効果を示し、それらの半数阻害濃度がそれぞれ573.2nMおよび5.5nMであった。
【0098】
実施例7:生きているSARS-CoV-2ウイルスに感染されたトランスジェニックマウスに対するポリペプチドEK1のインビボ保護効果。
(一)実験方法:
1.本実験は、復旦大学の研究室(バイオセーフティーレベル3)で実施され、使用されたSARS-CoV-2株は、この研究室で分離されたnCoV-SH01株であった。h-ACE2トランスジェニックマウスは、Shanghai Model Organisms Center社から購入した。マウス系統:Tgtn(CAG-human ACE2-IRES-Luciferase)。
2.各マウスを30000pfu(30μL)のウイルスでチャレンジした。
3.チャレンジした30分間前、またはチャレンジした30分間後に、鼻腔内投与経路により200μgのEK1/マウスの用量で投与した。
4.感染させた4日目にマウスを安楽死させ、各群のマウスの肺および腸組織のウイルス量を検出した。
【0099】
(二)結果:
EK1ポリペプチドの治療的経鼻投与は、マウスの肺(A)および腸(B)におけるウイルス量(
図11)を大幅に減少させることができ、EK1がインビボでより良好な保護効果を有することを示した。
【0100】
実施例8:生きているSARS-CoV-2ウイルスに感染されたトランスジェニックマウスに対するポリペプチドEK1-cholのインビボ保護効果
(一)実験方法:
1.本実験は、復旦大学の研究室(バイオセーフティーレベル3)で実施され、使用されたSARS-CoV-2株は、この研究室で分離されたnCoV-SH01株であった。h-ACE2トランスジェニックマウスは、Shanghai Model Organisms Center社から購入した。マウス系統:Tgtn(CAG-human ACE2-IRES-Luciferase)。
2.各マウスを30000pfu(30μL)のウイルスでチャレンジした。
3.チャレンジした30分間前、またはチャレンジした30分間後に、鼻腔内投与経路により10μgのEK1C4/マウスの用量で投与した。
4.感染させた4日目にマウスを安楽死させ、各群のマウスの肺および腸組織のウイルス量を検出した。
【0101】
(二)結果:
EK1-cholポリペプチドの治療的経鼻投与は、マウスの肺(A)および腸(B)におけるウイルス量(
図12)を大幅に減少させることができ、EK1-cholがインビボでより良好な保護効果を有することを示した。
【配列表】