(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】電力管理装置および電力管理方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240620BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240620BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20240620BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02J3/00 130
H02J3/46
H02J3/38 120
(21)【出願番号】P 2023171635
(22)【出願日】2023-10-02
【審査請求日】2023-10-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 怜央
(72)【発明者】
【氏名】田中 和英
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/016273(WO,A1)
【文献】特開2019-009873(JP,A)
【文献】特開2005-025377(JP,A)
【文献】特許第7078183(JP,B1)
【文献】特開2021-069263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 13/00
H02J 3/46
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層を有する電力系統に接続された発電設備に対
し、前記電力系統の一部に送電混雑箇所が生じたことに起因して供給される発電出力上限値の指示を参照して、
需要家設備のうち、前記発電設備との間に前記送電混雑箇所を経由しない電力供給経路が存在するものの中から、更新要請対象需要家設備を選択する要請対象選定部と、
前記更新要請対象需要家設備に含まれる負荷制御装置に対して、需要計画の更新要請を送信する通信部と、
所定の時間帯における前記発電設備における、前記発電設備の発電量を増やすために、前記発電出力上限値の変化に伴う発電増加量を算出する発電増加量算出部と、を備え
、
前記発電増加量算出部は、
前記所定の時間帯における実気象に基づいて抑制前発電出力を推定する機能と、
前記抑制前発電出力と、前記需要計画の更新を要請する前に得た前記発電出力上限値と、に基づいて基準発電量を算出する機能と、
前記所定の時間帯における実際の発電量から前記基準発電量を減算した結果を前記発電増加量とする機能と、を備える
ことを特徴とする電力管理装置。
【請求項2】
前記電力系統は複数の変電所を備えるものであり、複数の前記階層は、前記変電所によって区切られ、下位に向かうほど公称電圧が低くなるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の電力管理装置。
【請求項3】
前記発電設備と、前記需要家設備と、前記電力系統と、を地図上に表示し、前記電力系統のうち前記送電混雑箇所が生じている部分を、他の部分と区別して表示する画面表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項
1に記載の電力管理装置。
【請求項4】
前記発電増加量算出部は、
前記需要計画の更新を要請する前に見込まれる前記需要家設備における消費電力量よりも、前記需要計画の更新を行った場合に見込まれる前記需要家設備における消費電力量が大きいという第1の条件と、
前記需要計画の更新を要請する前における前記発電設備に対する前記発電出力上限値よりも、前記需要計画の更新を要請した後における前記発電設備に対する前記発電出力上限値が大きいという第2の条件と、
の双方が成立した場合に前記発電増加量を算出する
ことを特徴とする請求項
1に記載の電力管理装置。
【請求項5】
前記抑制前発電出力と、前記発電出力上限値と、を画面上に表示する画面表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項
1に記載の電力管理装置。
【請求項6】
前記発電増加量算出部は、
複数の前記需要家設備毎に、前記需要計画の更新を要請する前に見込まれる消費電力量と、前記需要計画の更新を行った場合に見込まれる消費電力量と、の差分を算出する機能と、
算出した前記差分の比に応じて、複数の前記需要家設備に対して前記発電増加量を配分する機能と、をさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載の電力管理装置。
【請求項7】
複数の階層を有する電力系統に接続された発電設備に対
し、前記電力系統の一部に送電混雑箇所が生じたことに起因して供給される発電出力上限値の指示を参照して、
需要家設備のうち、前記発電設備との間に前記送電混雑箇所を経由しない電力供給経路が存在するものの中から、更新要請対象需要家設備を選択する要請対象選定過程と、
前記更新要請対象需要家設備に含まれる負荷制御装置に対して、需要計画の更新要請を送信する通信過程と、
所定の時間帯における前記発電設備における、前記発電出力上限値の変化に伴う発電増加量を算出する発電増加量算出過程と、を電力管理装置に実行させ
、
発電増加量算出過程は、
前記所定の時間帯における実気象に基づいて抑制前発電出力を推定する過程と、
前記抑制前発電出力と、前記需要計画の更新を要請する前に得た前記発電出力上限値と、に基づいて基準発電量を算出する過程と、
前記所定の時間帯における実際の発電量から前記基準発電量を減算した結果を前記発電増加量とする過程と、を備える
ことを特徴とする電力管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力管理装置および電力管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、下記特許文献1、2には、電力の需給バランスに対応して、発電電力を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-097252号公報
【文献】特開2019-009873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電力系統は、一般的に公称電圧が異なる複数の階層を有している。しかし、上記特許文献1,2においては、需要計画の更新を要請する需要家を選定するに際して、発電設備と需要家設備が属する階層を考慮する点については特に記載されていない。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、需要計画の更新を要請する需要家を選定するに際して、発電設備と需要家設備が属する階層を考慮することにより、電力の需給バランスを適切に調整できる電力管理装置および電力管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の電力管理装置は、複数の階層を有する電力系統に接続された発電設備に対し、前記電力系統の一部に送電混雑箇所が生じたことに起因して供給される発電出力上限値の指示を参照して、需要家設備のうち、前記発電設備との間に前記送電混雑箇所を経由しない電力供給経路が存在するものの中から、更新要請対象需要家設備を選択する要請対象選定部と、前記更新要請対象需要家設備に含まれる負荷制御装置に対して、需要計画の更新要請を送信する通信部と、所定の時間帯における前記発電設備における、前記発電設備の発電量を増やすために、前記発電出力上限値の変化に伴う発電増加量を算出する発電増加量算出部と、を備え、前記発電増加量算出部は、前記所定の時間帯における実気象に基づいて抑制前発電出力を推定する機能と、前記抑制前発電出力と、前記需要計画の更新を要請する前に得た前記発電出力上限値と、に基づいて基準発電量を算出する機能と、前記所定の時間帯における実際の発電量から前記基準発電量を減算した結果を前記発電増加量とする機能と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、需要計画の更新を要請する需要家を選定するに際して、発電設備と需要家設備が属する階層を考慮することにより、電力の需給バランスを適切に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】第1実施形態による電力システムのブロック図である。
【
図6】電力系統の状態のさらに他の例を示す図である。
【
図7】電力系統の状態のさらに他の例を示す図である。
【
図8】電力系統の状態のさらに他の例を示す図である。
【
図9】電力系統の状態のさらに他の例を示す図である。
【
図10】発電量の増加要否決定ルーチンのフローチャートである。
【
図11】発電増加量算出ルーチンのフローチャートである。
【
図12】発電増加量算出ルーチンにおける各種値の関係を示す図である。
【
図13】第2実施形態における改竄検知のシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
(需給バランス制約に起因する出力抑制)
電力系統を維持するため、電力の需要量と供給量を一致させること、すなわち需給バランスを確保することが一般的である。そこで、電力供給過多が見込まれる時間帯では、優先給電ルールに従って電源等が制御される。すなわち、電力供給過多が見込まれるとき、まず火力発電所の出力抑制や揚水発電所の揚水運転が行われ、次に連系線融通が行われ、さらに次に再生可能エネルギーの出力抑制が行われる。近年、再生可能エネルギーの導入が進むにつれて、再生可能エネルギーの出力抑制が必要とされる機会も増えつつある。
【0009】
(再生可能エネルギーの出力抑制の頻度を低減する必要性)
上述した状況下で、再生可能エネルギーを有効活用するために、再生可能エネルギーの出力抑制を低減できれば好ましい。そのため、再生可能エネルギーの電力供給過多が見込まれる時間帯で電力需要を増やすように、需要家に促す取り組みが知られている。その一例として、「エネルギーの使用の合理化および非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(いわゆる改正省エネ法)に基づく電気需要最適化評価原単位が挙げられる。すなわち、電気需要最適化評価原単位を算出する際、通常時の電気需要最適化係数は9.40[MJ/kWh]程度であるが、エリア(一般送配電事業者の供給区域)全体で再生可能エネルギーが出力抑制されている時間帯の電気需要最適化係数は3.60[MJ/kWh]程度に設定される。
【0010】
例えば工場の場合、再生可能エネルギーが出力抑制されている時間帯で工場を稼働することで、電気需要最適化評価原単位を削減することが可能となる。また、電力需給に不均衡が生じると予測された際、電力の需要家にインセンティブを与えて消費電力量の増減を要求するデマンドレスポンスと呼ばれる取り組みも考えられる。例えば、送配電事業者が需要家にデマンドレスポンスを要求する形態や、アグリゲータと呼ばれる事業者が複数の需要家のデマンドレスポンスを束ねて送配電事業者に提供する形態が考えられる。
【0011】
(送電容量制約に起因する出力抑制)
電力系統の制約には、需給バランス制約のみならず、送電容量制約も存在する。送電容量制約は、潮流を送変電設備の運用容量に収めるようにする制約である。送電容量制約を満足しない状況を送電混雑と呼ぶ。近年、ノンファーム型接続が導入されつつある。ノンファーム型接続とは、空き容量のない電力系統に発電設備を新規に接続する際、送電混雑時に発電設備を出力抑制する条件で、送変電設備を増強することなく発電設備を接続することである。送電混雑が生じた際、電力系統の運用者は発電設備に対して発電出力上限値を指示し、発電設備の運用者は指示された発電出力上限値に従うように発電設備を出力抑制する。日本においては、基幹系統におけるノンファーム型接続は2021年1月から、ローカル系統におけるノンファーム型接続は2023年4月から受付開始となった。
【0012】
(送電容量制約に起因する出力抑制の問題点)
需給バランス制約に起因する出力抑制を低減する手法は、送電容量制約に起因する出力抑制を低減する用途にも適用できるとは限らない。
図1を参照し、その一例を説明する。
図1は、電力系統400の一例を示す図である。
図1において電力系統400は、太実線で示す公称電圧275[kV]の送電線PL1と、細実線で示す公称電圧187[kV]の送電線PL2と、を備えている。電力系統400には、発電所200-1が接続されており、さらに図示せぬ複数の他の発電所200が接続されている。ここで、発電所200-1は、再生可能エネルギーによる発電所である。需要家設備300-1,300-2は、配電網(図示せず)や引込線(図示せず)を介して、電力系統400に接続されている。また、電力系統400においては、図中の送電混雑箇所490において、送電混雑が発生していることとする。さらに、送電混雑を緩和するため、発電所200-1に送電容量制約を起因とする出力抑制、すなわち発電出力上限値U(図示せず)が指示されているとする。
【0013】
この場合、需要家設備300-1が消費電力量を増加させたとしても、送電混雑箇所490における送電混雑は緩和されない。換言すると、発電所200-1が需要家設備300-1に対して消費電力量を増加するように要請したとしても、送電混雑は緩和されないので、発電所200-1における発電出力上限値Uは変わらず、発電所200-1は出力抑制を低減することはできない。
【0014】
逆に、発電所200-1が、需要家設備300-1に消費電力量を増加するように要請したことを理由として、電力系統400から指示された発電出力上限値Uを超えて発電すると、送電混雑が悪化する懸念がある。このように、送電容量制約に起因する出力抑制が指示された際は、需給バランス制約に起因する出力抑制を指示された場合とは異なり、送電混雑が生じている送電混雑箇所490の位置を考慮する必要がある。
【0015】
(特許文献1,2の応用例)
上述した特許文献1の技術を応用すると、電力システムにおいて供給可能な電力量を正確に特定できる系統運用者側コンピュータや発電事業者側コンピュータが実現できると考えられる。すなわち、発電量を増加させた場合の損益に基づいて最大電力供給可能量(利益がメンテナンス費用による損失よりも多くなる発電量のうち、例えば最大の利益が得られる発電量)を算出することで、供給可能な最大電力量を正確に特定できると考えられる。
【0016】
また、特許文献2の技術を応用すると、発電設備の余剰電力を有効に利用できる電力制御指示生成装置が実現できると考えられる。すなわち、発電設備に抑制指示があった場合、該抑制指示値を需要電力の増加量と発電電力の低減量に配分する制御指示を生成する。そして、生成された制御指示により、需要家の需要電力と太陽光発電の発電抑制量を組み合わせて最適制御できると考えられる。
【0017】
特許文献1の技術を応用すると、送配電事業者やアグリゲータではなく、発電事業者側コンピュータにおいて、要求された電力量に対する不足電力量と、不足電力量に対するインセンティブを、要求元に送信できると考えられる。当該技術によれば、主として要求された電力量に対して不足が生じる場合に対応可能である。しかし、特許文献1には、電力余剰時における再生可能エネルギーの出力抑制を低減する場合については特に記載されていない。
【0018】
また、特許文献2の技術を応用すると、電力系統管理装置において送配電設備の設備容量を考慮できると考えられる。しかし、特許文献2には、低減可能量特定部で電力系統上における発電設備の位置を考慮する点については特に記載されていない。また、特許文献2には、増加可能量特定部で電力系統上における需要設備の位置を考慮する点については特に記載されていない。そこで、後述する実施形態は、変動性再生可能エネルギー発電設備が送電容量制約に起因する発電出力上限値Uを得たとき、電力系統上における変動性再生可能エネルギー発電設備と需要家の位置を明示的に考慮する。そして、送電混雑を緩和できる需要家に限って需要計画の更新を要請することで、変動性再生可能エネルギーによる発電設備の出力抑制を低減する。
【0019】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図2は、第1実施形態による電力システムPSSのブロック図である。
電力システムPSSは、発電所200と、需要家設備300と、電力系統400と、を備えている。発電所管理者XP2は発電所200を管理し、需要家XP3は需要家設備300を管理し、送配電事業者XP4は電力系統400を管理する。
【0020】
なお、
図2においては需要家設備300を一つのみ示すが、一般的には、複数の需要家XP3が、複数の需要家設備300を管理する。同様に、
図2においては発電所200を一つのみ示すが、一般的には、複数の発電所管理者XP2が、複数の発電所200を管理する。
【0021】
(電力系統400)
電力系統400は、系統管理装置420と、上位系統430(階層)と、中位系統450(階層)と、下位系統470(階層)と、変電所440,460と、を備えている。系統管理装置420は、通信部422を備えている。
【0022】
上位系統430は、例えば、
図1で示したような、公称電圧275[kV]、187[kV]等の送電系統である。なお、これらの公称電圧は、経済産業省「電気設備の技術基準の解釈の解説第1条 第一号」で例示されている。中位系統450は、例えば公称電圧66[kV]の送電系統である。変電所440は、上位系統430の公称電圧と中位系統450の公称電圧とを相互変換する。下位系統470は、例えば公称電圧6.6[kV]の配電系統である。変電所460は、中位系統450の公称電圧と下位系統470の公称電圧とを相互変換する。
【0023】
下位系統470には、公称電圧6.6[kV]を例えば200[V]に変換するトランス472が含まれている。図示の例では、電力系統400を上位系統430、中位系統450および下位系統470の3階層に分類している。しかし、電力系統400を「3」以上の階層数に分類してもよい。
【0024】
(発電所200)
また、発電所200は、発電設備210と、この発電設備210を管理する電力管理装置220と、各種データを記憶する記録装置240と、を備えている。電力管理装置220は、通信部221(通信過程)と、発電出力予測部222と、発電計画部223と、要請対象選定部224(要請対象選定過程)と、抑制前発電出力推定部225と、基準発電量算出部226と、発電増加量算出部227と、画面表示部228と、を備えている。
【0025】
また、記録装置240は、需要計画記録部242と、発電出力上限値記録部244と、発電量記録部246と、実気象記録部248と、を備えている。電力管理装置220における通信部221、負荷制御装置320における通信部322、および系統管理装置420における通信部422は、図示せぬネットワークを介して相互に通信可能に構成されている。
【0026】
発電所200における発電設備210は、変動性再生可能エネルギーによる発電設備、すなわち、気象条件等によって発電出力が変動する発電設備である。発電設備210は、例えば、風力エネルギーをブレード(羽)で受けて、タービンによって回転エネルギーに変換して発電する風力発電設備、あるいは、太陽光を太陽光パネルによって電力に変換する太陽光発電設備等が考えられる。
【0027】
電力管理装置220は、系統管理装置420から発電出力上限値Uと、送電混雑箇所490(
図1参照)の位置と、を受信し、発電設備210の発電出力が発電出力上限値Uを超えないように各種制御を行う。発電出力予測部222は、気象予報や発電実績に基づいて発電設備210の発電出力予測G_est(図示せず)を出力する。
【0028】
例えば発電設備210が太陽光発電設備の場合、電力管理装置220は、例えば日射量の予報値に設備容量を乗算することで発電出力予測G_estを出力する。また、発電設備210が風力発電設備の場合、電力管理装置220は、例えば風速の予報値にパワーカーブ(風速と発電出力の関係式)を乗算することで発電出力予測G_estを出力する。また、電力管理装置220は、発電実績を補間することによっても、発電出力予測G_estを得ることができる。気象予報に基づく発電出力予測と、実績値を補間することで得られる発電出力予測を、適当な重みで加重平均することで、双方を考慮した発電出力予測G_estとすることも実用的である。
【0029】
発電計画部223は、計画値同時同量制度のため、発電出力予測G_est結果に基づいて30分単位の発電計画PG(図示せず)を作成する。この発電計画PGには、この30分単位の発電量Gが含まれる。ここで、発電出力予測部222が予測する発電出力予測G_estは30分間の発電出力[kW]の時系列である。一方で、発電計画部223が計画する発電量Gは発電出力[kW]を積分することで得られる発電量[kWh]の数値である。
【0030】
画面表示部228は、例えば、
図1に示したような地図を表示し、この地図にスーパーインポーズして、発電所200、需要家設備300、および電力系統400、を表示する機能を備えている。そして、画面表示部228は、電力系統400のうち、送電混雑箇所490が生じている部分を、他の部分と区別して表示する。例えば、送電混雑箇所490を赤色とし、電力系統400の他の部分を黒色で表示することが考えられる。
【0031】
要請対象選定部224は、送電混雑箇所490が無かったと仮定した場合に需要計画PDの更新を要請できる可能性がある需要家設備300のリストと、これら需要家設備300の電力系統400における位置とを、を記録している。
【0032】
そして、発電所200が系統管理装置420から発電出力上限値Uと、送電混雑箇所490(
図1参照)の位置と、を受信した場合、要請対象選定部224は、上記リストの中から、送電混雑箇所490を経由することなく電力を伝送できる需要家設備300を抽出し、抽出した負荷設備310の中から、需要計画PDの更新を要請する対象設備(以下、「更新要請対象需要家設備」と呼ぶ)を選定する。なお、要請対象選定部224、抑制前発電出力推定部225、基準発電量算出部226、および発電増加量算出部227、の詳細については後述する。
【0033】
(需要家設備300)
また、需要家設備300は、負荷設備310と、この負荷設備310を制御する負荷制御装置320と、を備えている。そして、負荷制御装置320は、通信部322と、需要計画部324と、画面表示部326と、を備えている。
【0034】
負荷設備310は、照明、空調、動力、IT機器、電熱などの電力負荷を備えている。さらに、負荷設備310は、ピークカット用や車載用の蓄電池の充電装置、水電解による水素製造装置等も含む。負荷制御装置320の需要計画部324は、ある30分間の単位時間(コマ)における負荷設備310の需要計画PD(図示せず)を作成する。この需要計画PDは、該30分間の消費電力量D[kWh](図示せず)を含む。
【0035】
消費電力量は、負荷設備310ごとに消費電力量を算出して、総和を取ることで算出できる。照明の消費電力量は、照明機器の消費電力[kW]に設置数を乗算し、30分間の積分を行うことで算出できる。空調の消費電力量は、まず温度や湿度ごとに空調機器の消費電力[kW]を調べておき、次に当該コマの温度や湿度を予測し、該当する消費電力[kW]に設置数を乗算し、30分間の積分を行うことで算出できる。
【0036】
〈第1実施形態の全体動作〉
図3は、第1実施形態の動作シーケンス図である。
すなわち、
図3は、電力管理装置220、負荷制御装置320、および系統管理装置420によって発電設備210の出力抑制を低減する動作を示す。また、
図3には、電力取引市場との時系列的な関連も合わせて示す。電力取引は、前日市場フェーズPH1と時間前市場フェーズPH2を経て実需給フェーズPH3に至る。実需給フェーズPH3において、現行の計画値同時同量制度下では、毎時0分または毎時30分から始まる30分間のコマ(実需給コマ)毎に、発電電力量と消費電力量Dとを好ましくは一致させる。
【0037】
(前日市場フェーズPH1)
ステップS102において、需要家XP3(
図2参照)は、需要計画部324を用いて、需要計画PD(図示せず)を作成する。次に、ステップS104において、負荷制御装置320は、この需要計画PDを、電力管理装置220および系統管理装置420に送信する。ここで、需要計画PDにおいて規定されている消費電力量DをD
1とする。
【0038】
一方、ステップS112において、発電所管理者XP2(
図2参照)は、発電出力予測部222を用いて発電出力を予測し、発電計画部223を用いて発電計画PGを作成する。ステップS114において、電力管理装置220は、該発電計画PGを系統管理装置420に送信する。ここで、発電計画PGに含まれる発電量をG
1とする。また、ステップS116において、電力管理装置220は、負荷制御装置320から供給された需要計画PDを需要計画記録部242に記録する。
【0039】
(前日市場フェーズPH1の終了後)
前日市場フェーズPH1が終了した後、ステップS152において、系統管理装置420は、複数の負荷制御装置320から供給された需要計画PDと、複数の電力管理装置220から供給された発電計画PGと、に基づいて、電力需給解析を行う。
【0040】
電力需給解析では、発電所200や電力系統400等の電力系統の構成要素を数理モデル化し、各発電所200の発電量や各送変電設備の潮流を変数とし、需給バランス制約や送電容量制約を満たす解を実行可能解として算出する。ある発電所200において、電力需給解析の結果で得られた発電量が、該発電所が計画している発電量を下回る場合、該発電所において出力抑制が生じる、と判別できる。
【0041】
電力需給解析の結果で得られた発電量[kWh]を30分間(0.5時間)で除算した結果を、発電出力上限値U[kW]とする。また、電力系統400における、ある送変電設備において、電力需給解析の結果で得られた潮流が、該送変電設備の運用容量と同値であるとき、該送変電設備において送電容量制約が効いている、すなわち送電混雑している、と判別できる。送電混雑している送変電設備が送電混雑箇所(例えば
図1における送電混雑箇所490)になる。
【0042】
なお、対象とする送変電設備は、交流による送電のための送変電設備に限らず、直流による送電や、交流、直流の相互変換を活用した送電のための送変電設備も含む。すなわち、送変電設備は、交流を直流に変換する交直変換所、交流を直流に変換して交流に再変換する直交変換所、周波数変換所(Frequency converter stationやBack-to-back)、直流送電(High Voltage Direct Current; HVDC)設備等を含む。
【0043】
ここで、電力需給解析の結果、送電混雑が予測されたとする。この場合、ステップS154において、系統管理装置420は、電力管理装置220に対して、送電混雑箇所490(
図1参照)の位置情報を通知するとともに、発電出力上限値Uを指示する。ここで、指示された発電出力上限値UをU
0とする。
【0044】
電力管理装置220は、発電出力上限値U0を受信すると、次に、ステップS156において、該発電出力上限値U0を発電出力上限値記録部244に記録する。さらに、要請対象選定部224は、需要計画PDの更新を要請する需要家設備300、すなわち更新要請対象需要家設備を選定する。なお、発電出力上限値Uが指示されたことを引き金に更新要請対象需要家設備を選択する処理が実行されるようにしてもよいし、引き金にしないようにしてもよい。次に、ステップS158において、電力管理装置220は、選定された更新要請対象需要家設備の負荷制御装置320に対して、需要計画PDの更新を要請する。
【0045】
(時間前市場フェーズPH2)
ステップS202において、更新要請対象需要家設備の負荷制御装置320が需要計画PDの更新要請を受信すると、需要家XP3は、需要計画PDの更新が可能であるか否かを検討する。そして、可能であると判定すると、需要家XP3は、需要計画部324において、需要計画PDを更新する。
【0046】
需要計画PDが更新されると、次に処理がステップS204に進み、負荷制御装置320は、電力管理装置220と、系統管理装置420と、に対して、更新後の需要計画PDを送信する。更新後の需要計画PDにおける消費電力量をD2とする。
【0047】
一方、新しい気象予報や発電実績が得られた場合、発電所200の電力管理装置220においてステップS212の処理が実行される。ここでは、電力管理装置220の発電出力予測部222は、発電出力予測G_est(図示せず)を更新する。さらに、発電計画部223は、更新後の発電出力予測G_estに発電出力上限値U0を適用することで、発電計画PGを更新する。更新後の発電計画PGにおける発電量をG2とする。
【0048】
次に、処理がステップS214に進むと、電力管理装置220は、発電量G2を含む更新後の発電計画PGを系統管理装置420に送信する。次に、処理がステップS216に進むと、電力管理装置220は、負荷制御装置320から受信した需要計画PDを、需要計画記録部242に記録する。
【0049】
(時間前市場フェーズPH2の終了後)
時間前市場フェーズPH2が終了した後、ステップS252において、系統管理装置420は、複数の負荷制御装置320から供給された需要計画PDと、複数の電力管理装置220から供給された発電計画PGと、に基づいて、電力需給解析を行う。
【0050】
ここで、電力需給解析の結果、送電混雑が予測されたとする。この場合、ステップS254において、系統管理装置420は、電力管理装置220に対して、送電混雑箇所を示すとともに、発電出力上限値Uを指示する。ここで、発電出力上限値UをUAとする。電力管理装置220は、発電出力上限値UAを受信すると、次に、ステップS256において、この発電出力上限値UAを、発電出力上限値記録部244に記録する。
【0051】
(実需給フェーズPH3)
実需給フェーズPH3のステップS302において、電力管理装置220は、系統管理装置420からの指示に応じて、発電設備210の発電出力上限値がUAとなるように制御する。また、ステップS302において、電力管理装置220は、発電量記録部246に対して、各コマの実際の発電量を記録する。この記録される発電量をGAと呼ぶ。
【0052】
また、ステップS302において、電力管理装置220は、発電設備210の周辺における実際の気象データを取得する。例えば、発電設備210が風力発電設備である場合、ナセルに取り付けられた風向風速計によって風速や風向を取得できる。また、発電設備210が太陽光発電設備である場合、日射計で日射量を、気温計で気温を取得する。電力管理装置220は、これら取得された気象データを、取得日時と紐づけた時系列データとして実気象記録部248に記憶させる。
【0053】
(実需給フェーズPH3の終了後)
実需給フェーズPH3が終了した後、電力管理装置220において処理はステップS352に進み、抑制前発電出力推定部225は、抑制前発電出力P(t)を推定する。抑制前発電出力P(t)とは、仮に発電出力上限値UAが指示されていなかった場合に得られていたと推定される発電量Gの予測値である。また、基準発電量算出部226は、基準発電量(詳細は後述する)を算出する。また、発電増加量算出部227は、発電増加量(詳細は後述する)を算出する。
【0054】
次に、処理がステップS354に進むと、電力管理装置220は、負荷制御装置320に対して、需要計画更新に対する対価の支払処理を行う。すなわち、発電増加量で得られた売電収入の増加額を原資とし、需要計画PDを更新した需要家XP3に対価を支払って還元する。ここで、電力管理装置220は、以下のようにしてこの対価を計算する。まず、発電増加量[kWh]×発電単価(円/kWh)を原資(円)とし、原資(円)×係数を報酬額(円)とする。係数は発電所管理者XP2と需要家XP3との間で設定する値であり、0以上1以下の任意の値(例えば0.01)である。これにより、発電所管理者XP2は、需要家XP3に需要計画PDを更新するインセンティブを与えることができる。
【0055】
〈更新要請対象需要家設備の選定処理〉
次に、要請対象選定部224が、需要計画PDの更新を要請する更新要請対象需要家設備を選定する処理を説明する。
図4は、電力系統400の状態の一例を示す図である。
先に
図2において説明したように、電力系統400は、上位系統430、中位系統450、下位系統470を備えている。
図4に示す例では、中位系統450は、送電線450A,450Bを備えており、それぞれに変電所460A,460Bが接続されている。下位系統470は、図中において変電所460A,460Bと、需要家設備300A,300Bおよび発電所200Bと、を接続する部分になる。変電所460Aは、送電線470Aを介してトランス472Aに接続されており、トランス472Aには、需要家設備300Aが接続されている。
【0056】
また、変電所460Bは、それぞれ送電線470B1,470B2を介して、トランス472B1,472B2に接続されている。そして、トランス472B2には、発電所200Bと、需要家設備300Bと、が接続されている。そして、
図4の例では、送電線450Bに送電混雑箇所490が発生している。すなわち、発電所200Bによる発電電力によって、送電線450Bの容量不足が生じると予想されている。
【0057】
この場合、需要家設備300Aにおける電力需要を増加させたとしても、送電混雑箇所490における送電混雑は緩和しない。一方、需要家設備300Bの電力需要を増加すると、送電線470B2からの電力供給過多による送電混雑を緩和できる。これは、発電所200Bから需要家設備300Bに対して、送電線470B2を経由して電力供給できるため、送電混雑箇所490を経由することなく電力供給が可能であるためである。
【0058】
そこで、発電所200Bにおける要請対象選定部224(
図2参照)は、需要家設備300Bを「更新要請対象需要家設備」に選定し、需要計画PDの更新を要請する。一方、電力管理装置220は、需要家設備300Aに対しては、需要計画PDの更新を要請しない。これは、送電混雑箇所490を経由することなく、発電所200Bから需要家設備300Aに電力供給する経路が存在しないためである。
【0059】
「更新要請対象需要家設備」に選定された需要家設備300Bは、対応可能であれば需要計画PDを更新する。
需要家設備300Bが例えば工場であって、生産設備、ポンプ設備、コンプレッサー設備、冷却塔設備等を備えている場合には、これらの稼働時間を変更することによって需要計画PDを更新することができる。また、空調設備の温度設定を変更し、照明設備の使用時間を削減する等の方法によっても需要計画PDを更新することができる。
【0060】
また、需要家設備300Bがデータセンタである場合、需要計画PDを変更する場合、例えば、需要計画PDの更新が必要な時間帯では、高負荷な計算を抑制する、または高負荷な計算を集中させる、等の方策を採ることができる。より具体的には、バッチ処理、AIの学習、CGレンダリングなどの計算のうち、リアルタイム性が要求されない計算を実行する時間を変更できる。
【0061】
また、需要家設備300Bが、任意の時刻に電熱やヒートポンプによって湯を沸かして貯蔵できる電気温水器である場合、湯を沸かすタイミングを変えることによって需要計画PDを変更できる。また、需要家設備300Bが、出発時刻を予約しておき出発時刻までの任意の時刻で充電する電気自動車用充電器である場合、充電するタイミングを変更することによって需要計画PDを変更できる。
【0062】
図5は、電力系統400の状態の他の例を示す図である。
図5における電力系統400の構成は
図4のものと同様であるが、送電混雑箇所490が変電所460Bに生じている。すなわち、変電所460Bに容量不足が発生すると予想されている。この状況においても、
図4の場合と同様に、要請対象選定部224は、需要家設備300Bを「更新要請対象需要家設備」に選定し、需要計画PDの更新を要請する。
【0063】
また、
図4の場合と同様に、電力管理装置220は、需要家設備300Aに対しては、需要計画PDの更新を要請しない。これは、
図4の場合と同様に、発電所200Bと需要家設備300Bとの間には、送電混雑箇所490を経由しない電力供給経路が存在するのに対して、発電所200Bと需要家設備300Aとの間には、そのような経路が存在しないためである。
【0064】
図6は、電力系統400の状態のさらに他の例を示す図である。
図6における電力系統400の構成は
図4のものと同様であるが、発電所200Bは、トランス472B1に接続されている点が異なっている。この状況においても、
図4の場合と同様に、要請対象選定部224は、需要家設備300Bを「更新要請対象需要家設備」に選定し、需要計画PDの更新を要請する。また、
図4の場合と同様に、要請対象選定部224は、需要家設備300Aに対しては、需要計画PDの更新を要請しない。
【0065】
図7は、電力系統400の状態のさらに他の例を示す図である。
図7における電力系統400の構成は
図4のものと同様であるが、発電所200Bは、送電線470B1を介して変電所460Bに接続されている点が異なっている。また、需要家設備300B1が変電所460Bに接続されている点が異なっている。発電所200Bに対して、需要家設備300B1は同じ階層に属し、需要家設備300B2は下位の階層に属している状況である。この状況において、発電所200Bの要請対象選定部224は、需要家設備300B1,300B2の双方を「更新要請対象需要家設備」に選定し、需要計画PDの更新を要請する。また、
図4の場合と同様に、発電所200Bの要請対象選定部224は、需要家設備300Aに対しては、需要計画PDの更新を要請しない。このように、本実施形態によれば、異なる階層の需要家設備300B1,300B2に対して、需要計画PDの更新を要請できるため、発電所200Bの発電能力を有効に活用できる。
【0066】
図8は、電力系統400の状態のさらに他の例を示す図である。
図8における電力系統400の構成は
図4のものと同様であるが、送電混雑箇所490は上位系統430に生じている。そして、他の系統では送電混雑箇所490は生じていない。この場合、発電所200Bと需要家設備300Bとの間、および発電所200Bと需要家設備300Aとの間には、何れも、送電混雑箇所490を経由しない電力供給経路が存在する。そこで、発電所200Bの電力管理装置220は、需要家設備300A,300Bの双方を「更新要請対象需要家設備」に選定し、需要計画PDの更新を要請する。
【0067】
図9は、電力系統400の状態のさらに他の例を示す図である。
図9において、変電所440には、送電線450A1を介して、発電所200A1が接続され、送電線450A2を介して需要家設備300A1が接続されている。さらに、変電所440には、送電線450A3を介して変電所460Aが接続されている。そして、変電所460Aは、送電線470A、トランス472Aを介して需要家設備300A2に接続されている。
【0068】
また、変電所440には、送電線450Bを介して変電所460Bが接続されている。変電所460Bは、送電線470B1,470B2を介して、トランス472B1,472B2に接続されている。
【0069】
トランス472B1には、発電所200B1と、需要家設備300B1と、が接続されている。また、トランス472B2には、発電所200B2と、需要家設備300B2と、が接続されている。
【0070】
上記構成において、発電所200B1および発電所200B2に対して発電出力上限値Uが指示されると、発電所200B1または200B2の要請対象選定部224は、複数の需要家設備300B1,300B2が存在するため、需要家設備300B1,300B2に需要計画PDの更新を要請する。
【0071】
一方、発電所200B1または200B2の要請対象選定部224は、需要家設備300Aに対しては、需要計画PDの更新を要請しない。これは、発電所200B1,200B2の何れについても、需要家設備300Aに対して、送電混雑箇所490を経由しない電力供給経路が存在しないためである。
【0072】
需要家設備300B1の、需要計画PDの更新が要請される前の需要計画PDにおける消費電力量をD1,300B1とし、需要計画PDの更新が要請された後の需要計画PDにおける消費電力量をD2,300B1とする。また、需要家設備300B2の、需要計画PDの更新が要請される前の需要計画PDにおける消費電力量をD1,300B2とし、需要計画PDの更新が要請された後の需要計画PDにおける消費電力量をD2,300B2とする。
【0073】
ある時間帯における発電所200B1,200B2の発電増加量を合計して、当該時間帯の発電増加量とする。この発電増加量によって得られた売電収入の増分を、「D2,300B1-D1,300B1」と、「D2,300B2-D1,300B2」の比率で配分して、需要家設備300B1,300B2に、対価として還元するとよい。
【0074】
〈発電量の増加要否決定〉
図10は、発電量の増加要否決定ルーチンのフローチャートである。なお、本ルーチンは、あるコマについて、発電量増加の要否を決定するルーチンである。
図10において処理がステップS501に進むと、発電増加量算出部227は、以下の条件CD1,CD2の双方が成立するか否かを判定する。
・条件CD1(第1の条件):更新前の需要計画PD(消費電力量D
1)よりも、更新後の需要計画PD(消費電力量D
2)の消費電力量が大きい。すなわち、すなわち需要計画PDを更新することによって消費電力量が増加した。
・条件CD2(第2の条件):需要計画PDの更新を要請した後の発電出力上限値U
Aが、需要計画PDの更新を要請する前の発電出力上限値U
0よりも大きい。
【0075】
ステップS501において「Yes」と判定されると、処理はステップS502に進み、発電増加量算出部227は、後述する発電増加量算出ルーチン(
図11)により、発電増加量を算出する。変動性再生可能エネルギーによる発電設備210は、発電出力上限値U
Aが大きいほど、出力抑制を低減でき、発電量を増やすことができる。
【0076】
一方、条件CD1,CD2のうち少なくとも一方の条件が満たされない場合、ステップS501において「No」と判定され、処理はステップS503に進む。ここでは、発電増加量算出部227は、発電増加量を「0」とする。なお、送電混雑がなく、発電出力上限値U
0またはU
Aが指示されなかった場合、発電設備210の定格出力を発電出力上限値U
Aの代用とすることで、
図10と同じ処理を適用できる。
【0077】
〈発電増加量の算出処理〉
図11は、発電増加量算出ルーチンのフローチャートである。なお、本ルーチンは、
図10のステップS502において呼び出され、指定されたあるコマの発電増加量を算出するものである。
図11において処理がステップS601に進むと、抑制前発電出力推定部225は、実気象に基づいて、当該コマにおける時刻tの関数である抑制前発電出力P(t)を算出する。
【0078】
上述したように、抑制前発電出力P(t)とは、仮に発電出力上限値UAが指示されていなかった場合に得られていたと予測される発電出力である。発電設備210が風力発電設備である場合、実気象データの風速にパワーカーブを乗算することで、抑制前発電出力P(t)を得ることができる。実気象データが時系列であれば、抑制前発電出力P(t)も時系列で得ることができる。但し、抑制前発電出力P(t)は、当該コマにおいて一定値であってもよい。
【0079】
次に、処理がステップS602に進むと、基準発電量算出部226は、抑制後発電出力C(t)を算出する。すなわち、基準発電量算出部226は、抑制前発電出力P(t)と、需要計画PDの更新を要請する前の発電出力上限値U0と、に基づいて、時刻tの関数である抑制後発電出力C(t)を算出する。「min」を引数のうち小さいほうを返す関数とすると、抑制後発電出力C(t)は、「C(t)=min(P(t),U0)」で求められる。
【0080】
次に、処理がステップS603に進むと、基準発電量算出部226は、抑制後発電出力C(t)を積分して、当該コマにおける発電量[kWh]である基準発電量GSを算出する。次に、処理がステップS604に進むと、発電増加量算出部227は、発電増加量[kWh]を算出する。すなわち、発電増加量算出部227は、発電量記録部246から実際の発電量GAを取得し、発電量GAから、基準発電量GSを減算した結果を発電増加量とする。
【0081】
図12は、発電増加量算出ルーチン(
図11)における各種値の関係を示す図である。
図12において、抑制前発電出力P(t)は破線で示す。発電出力上限値U
0は、図中の横線になる。そして、基準発電量GSは、図中でドットを付した部分の面積になる。このように、本実施形態によれば、送電容量制約に起因する出力抑制を行う場合、送電混雑を緩和しない需要家設備300の需要を増加することを防止しつつ、送電混雑を緩和できる需要家設備300の需要を増加することを実現できる。電力管理装置220(
図2参照)における画面表示部228は、
図12に示したグラフによって、抑制前発電出力P(t)と、発電出力上限値U
0と、を表示する機能も備えている。
【0082】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態による電力システムについて説明する。
第2実施形態による電力システムの構成は、以下述べる点を除いて、第1実施形態による電力システムPSS(
図2参照)と同様である。
図3に示した例では、負荷制御装置320は、電力管理装置220に対して需要計画PDを送信するが、電力管理装置220は、発電増加量の算出根拠を送信しない。
【0083】
そのため、需要家XP3が需要計画PDを更新して発電量が増加したにも関わらず、発電量が増加しなかったと虚偽の報告をして発電所管理者XP2が需要家XP3に対価を支払わない、という状況が起こり得る。そこで、このような疑いを招かないようにするため、発電増加量の算出根拠の改竄を検知する機能は有用である。
【0084】
図13は、第2実施形態における改竄検知のシーケンス図である。
発電増加量の算出根拠、すなわち、実気象データ、抑制前発電出力P(t)、受信した発電出力上限値U、実発電量データ、基準発電量には、タイムスタンプを付与することが有用である。まず、ステップS702において、電力管理装置220は、算出根拠データBDと、ハッシュ関数と、に基づいて、ハッシュ値#1を算出する。算出根拠データBDは、発電増加量と、その算出根拠と、を記述した、例えばテキストデータである。
【0085】
ハッシュ値#1はハッシュ関数の返り値である。ハッシュ関数は、ファイルなどの任意のデータを、固定長の値(ハッシュ値)に変換する関数である。ハッシュ関数は、一意性がある、すなわち、同じ入力に対しては同じ値、異なる入力に対しては異なる値を返す(ほとんど同じ入力に対しても大きく異なる値を返す)性質がある。また、ハッシュ関数は、一方向性がある、すなわち、ハッシュ値から元の入力を推測することは極めて困難、という性質がある。より具体的には、ハッシュ関数は、SHA、BLAKE、RIPEMDなどのシリーズ(派生版や改良版)が知られている。
【0086】
次に、ステップS704において、電力管理装置220は、ハッシュ値#1を、時刻認証局500に送信する。なお、時刻認証局500は、一般にTSA(Time Stamping Authority)と称されているものである。次に、ステップS706において、時刻認証局500はタイムスタンプTSを生成する。
【0087】
次に、ステップS708において、時刻認証局500は電力管理装置220にTSトークン(タイムスタンプトークン)を返信する。TSトークンは、「ハッシュ値#1は、その時間に、その内容で存在した」ことを証明するデータである。次に、ステップS710において、電力管理装置220は、ハッシュ値#1と、算出根拠データBDと、TSトークンと、を記録装置240に記録する。
【0088】
その後、ステップS722において、需要家XP3が、負荷制御装置320を介して、電力管理装置220に発電増加量の算出根拠を照会したとする。これに対して、電力管理装置220は、記録装置240から、ハッシュ値#1と、算出根拠データBDと、TSトークンと、を読み出し、これらを負荷制御装置320に送信する。
【0089】
次に、処理がステップS728に進むと、負荷制御装置320は、TSトークンに含まれるハッシュ値を取得する。取得したハッシュ値を#2とする。次に、処理がステップS730に進むと、負荷制御装置320は、ハッシュ値#1,#2が一致しているか否かを確認する。一致すれば、算出根拠データBDが真正なものであることを確認できる。一方、両者が一致しない場合は、算出根拠データBDが事後的に改竄されたものと判定する。
【0090】
このように、本実施形態によれば、電力管理装置220から負荷制御装置320に供給される算出根拠データBDの信憑性を確実化できる。このことは、実需給フェーズPH3において、需要家XP3が電力管理装置220からの指示を遵守する動機付けになる。
【0091】
[コンピュータの構成]
図14は、コンピュータ980のブロック図である。
図2に示した電力管理装置220、負荷制御装置320、および系統管理装置420は、何れも
図14に示すコンピュータ980を、1台または複数台備えている。
図14において、コンピュータ980は、CPU981と、記憶部982と、通信I/F(インタフェース)983と、入出力I/F984と、メディアI/F985と、を備える。ここで、記憶部982は、RAM982aと、ROM982bと、HDD982cと、を備える。通信I/F983は、通信回路986に接続される。入出力I/F984は、入出力装置987に接続される。メディアI/F985は、記録媒体988からデータを読み書きする。
【0092】
ROM982bには、CPUによって実行されるIPL(Initial Program Loader)等が格納されている。HDD982cには、制御プログラムや各種データ等が記憶されている。CPU981は、HDD982cからRAM982aに読み込んだ制御プログラム等を実行することにより、各種機能を実現する。先に
図2に示した、電力管理装置220、負荷制御装置320、系統管理装置420の内部は、主として、制御プログラム等によって実現される機能をブロックとして示したものである。
【0093】
[実施形態の効果]
以上のように上述した実施形態によれば、電力管理装置220は、複数の階層(430,450,470)を有する電力系統400に接続された発電設備210に対する発電出力上限値Uの指示を参照して、発電設備210が接続された階層(430,450,470)に接続された需要家設備300と、その下位における階層(430,450,470)に接続された需要家設備300の中から、需要計画PDの更新を要請する対象となる更新要請対象需要家設備を選択する要請対象選定部224と、更新要請対象需要家設備に含まれる負荷制御装置320に対して、需要計画PDの更新要請を送信する通信部221と、を備える。
【0094】
これにより、上記各実施形態によれば、発電設備210が属する階層とは異なる階層に属する需要家設備300に対して、需要計画PDの更新を要請することができ、電力の需給バランスを適切に調整できる。
特に、需要計画PDの更新は、需要家XP3に対して、行動の変容を強いるものである。需要家XP3が報酬を得られない場合にも需要計画PD更新を要請すると、需要家が疲弊してしまい、結果として、需要計画PDを更新しなくなってしまう懸念がある。
【0095】
上述した実施形態によれば、発電出力上限値Uを得た際、送電混雑を緩和できる位置における需要家設備300に限って需要計画PDの更新を要請することができる。一方で、送電混雑を緩和できる位置にいない需要家設備300には、需要計画PDの更新を要請しない。需要家XP3が報酬を得られうる場合に限って需要計画PD更新を要請することで、需要家XP3は需要計画PDを更新するモチベーションを維持しやすくなる。
【0096】
一方、インフラストラクチャーの分野では、公共の利益に資する施設を建設する際、当該施設の近隣住民が反対するNIMBY(Not In My Backyard)と向き合う必要がある。発電所は、情報提供や意見交換などの地域共生を模索し、NIMBYと向き合ってきた。共通の目標や利益を見つけ出し、協力関係を構築することで相互理解を促進することも地域共生の在り方である。
【0097】
電力管理装置220では、発電所管理者XP2から需要家XP3に支払う報酬の原資は、変動性再生可能エネルギーによる発電設備210の発電増加量である。電力管理装置220を通じて、発電所管理者XP2と需要家XP3は、変動性再生可能エネルギーの出力抑制を低減して発電量を増やす、という共通の目的を持つことができる。換言すると、電力管理装置220は発電所200にとっての地域共生にも寄与する。
【0098】
また、電力系統400は複数の変電所440,460を備えるものであり、複数の階層(430,450,470)は、変電所440,460によって区切られ、下位に向かうほど公称電圧が低くなるものであると一層好ましい。これにより、様々な公称電圧を有する複数の階層を経由して、電力系統400をフレキシブルに運用できる。
【0099】
また、発電出力上限値Uは、電力系統400の一部に送電混雑箇所490が生じたことに起因して供給されるものであり、要請対象選定部224は、需要家設備300のうち、発電設備210との間に送電混雑箇所490を経由しない電力供給経路が存在する需要家設備300の中から、更新要請対象需要家設備を選択すると一層好ましい。これにより、送電混雑箇所490に対応して、適切に更新要請対象需要家設備を選択することができる。
【0100】
また、電力管理装置220は、発電設備210と、需要家設備300と、電力系統400と、を地図上に表示し、電力系統400のうち送電混雑箇所490が生じている部分を、他の部分と区別して表示する画面表示部228をさらに備えると一層好ましい。これにより、発電所管理者XP2は、電力系統400における需要家設備300の位置関係を容易に把握できる。
【0101】
また、電力管理装置220は、所定の時間帯における発電設備210における発電増加量を算出する発電増加量算出部227をさらに備えると一層好ましい。これにより、発電所管理者XP2は、発電増加量を把握できるようになる。
【0102】
また、発電増加量算出部227は、需要計画PDの更新を要請する前に見込まれる需要家設備300における消費電力量D1よりも、需要計画PDの更新を行った場合に見込まれる需要家設備300における消費電力量D2が大きいという第1の条件(CD1)と、需要計画PDの更新を要請する前における発電設備210に対する発電出力上限値U0よりも、需要計画PDの更新を要請した後における発電設備210に対する発電出力上限値UAが大きいという第2の条件(CD2)と、の双方が成立した場合に発電増加量を算出すると一層好ましい。これにより、適切な条件下で発電増加量を算出できる。
【0103】
また、発電増加量算出部227は、所定の時間帯における実気象に基づいて抑制前発電出力(P(t))を推定する機能と、抑制前発電出力(P(t))と、需要計画PDの更新を要請する前に得た発電出力上限値U0と、に基づいて基準発電量GSを算出する機能と、所定の時間帯における実際の発電量GAから基準発電量GSを減算した結果を発電増加量とする機能と、を備えると一層好ましい。これにより、発電増加量算出部227は、適切な発電増加量を取得できる。
【0104】
また、電力管理装置220は、抑制前発電出力(P(t))と、発電出力上限値U0と、を画面上に表示する画面表示部228をさらに備えると一層好ましい。これにより、発電所管理者XP2は、抑制前発電出力(P(t))と、発電出力上限値U0と、を視覚的に把握できる。
【0105】
また、発電増加量算出部227は、複数の需要家設備300毎に、需要計画PDの更新を要請する前に見込まれる消費電力量D1と、需要計画PDの更新を行った場合に見込まれる消費電力量D2と、の差分を算出する機能と、算出した差分の比に応じて、複数の需要家設備300に対して発電増加量を配分する機能と、をさらに備えると一層好ましい。これにより、複数の需要家設備300に対して、発電増加量を適切に配分できる。
【0106】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0107】
(1)上記実施形態における電力管理装置220、負荷制御装置320および系統管理装置420のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した各ブロック図、各フローチャートに対応する処理、その他上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体(プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0108】
(2)上述した各ブロック図、各フローチャートに対応する処理、その他上述した各種処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0109】
(3)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0110】
210 発電設備
220 電力管理装置
221 通信部(通信過程)
224 要請対象選定部(要請対象選定過程)
227 発電増加量算出部
228 画面表示部
300 需要家設備
320 負荷制御装置
400 電力系統
430 上位系統(階層)
440,460 変電所
450 中位系統(階層)
470 下位系統(階層)
490 送電混雑箇所
U 発電出力上限値
GS 基準発電量
PD 需要計画
CD1 条件(第1の条件)
CD2 条件(第2の条件)
D1 消費電力量
D2 消費電力量
GA 発電量
U0 発電出力上限値
UA 発電出力上限値
【要約】
【課題】需要計画の更新を要請する需要家を選定するに際して、発電設備と需要家設備が属する階層を考慮することにより、電力の需給バランスを適切に調整できるようにする。
【解決手段】複数の階層430,450,470を有する電力系統400に接続された発電設備210に対する発電出力上限値Uの指示を参照して、前記発電設備210が接続された前記階層430,450,470に接続された需要家設備300と、その下位における前記階層430,450,470に接続された需要家設備300の中から、需要計画の更新を要請する対象となる更新要請対象需要家設備を選択する要請対象選定部224と、前記更新要請対象需要家設備に含まれる負荷制御装置320に対して、需要計画の更新要請を送信する通信部221と、を電力管理装置220に設けた。
【選択図】
図2