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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】電気特性検査用導線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20240620BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240620BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20240620BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20240620BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240620BHJP
   G01R 1/067 20060101ALI20240620BHJP
   B21C 1/00 20060101ALI20240620BHJP
   B21C 19/00 20060101ALI20240620BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
C22F1/08 C
C22C9/00
H01B5/02 Z
H01B1/02 A
H01B13/00 501D
G01R1/067 A
B21C1/00 A
B21C19/00
C22F1/00 606
C22F1/00 625
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023564628
(86)(22)【出願日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2023011321
(87)【国際公開番号】W WO2023238476
(87)【国際公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022093060
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂上 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】大達 剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 璃久也
(72)【発明者】
【氏名】小泉 勉
(72)【発明者】
【氏名】新井 龍一
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-028598(JP,A)
【文献】特開2009-280860(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046378(WO,A1)
【文献】特開2011-146352(JP,A)
【文献】特開2004-055179(JP,A)
【文献】特開2005-336510(JP,A)
【文献】特開2010-205549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/08
C22C 9/00
H01B 5/02
H01B 1/02
H01B 13/00
G01R 1/067
B21C 1/00
B21C 19/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~30質量%の銀を含有し、残部が銅および不可避不純物である銅合金から構成される電気特性検査用導線であって、
当該電気特性検査用導線の径が0.2mm以下であり、
外周部には長さ方向に対して角度0.5~20°の方向に延在する繊維状組織を有し、
ビッカース硬さが300HV以上でかつ導電率が57%IACS以上であることを特徴とする電気特性検査用導線。
【請求項2】
請求項1に記載の電気特性検査用導線において、
前記繊維状組織が角度0.5~11.2°の方向に延在し、
ビッカース硬さが320HV以上でかつ導電率が73.4%IACS以上であることを特徴とする電気特性検査用導線。
【請求項3】
0.1~30質量%の銀を含有し、残部が銅および不可避不純物であり、径が0.2mm以下の銅合金線を準備する工程と、
前記銅合金線を一方向に搬送しかつ所定の方向に押し込みながら前記銅合金線の周方向に回転させ、前記銅合金線を捻じり加工する工程とを有し、
前記銅合金線を捻じり加工する工程では、押し込み後の前記銅合金線と、前記銅合金線の搬送方向とがなす角度を10~70°とし、前記銅合金線の搬送速度に対する、前記周方向への回転速度が1~60回転/mmに設定し、
外周部には長さ方向に対して角度0.5~20°の方向に延在する繊維状組織を有し、ビッカース硬さが300HV以上でかつ導電率が57%IACS以上である電気特性検査用導線を製造することを特徴とする電気特性検査用導線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電気特性検査用導線の製造方法において、
前記銅合金線を捻じり加工する工程では、押し込み後の前記銅合金線と、前記銅合金線の搬送方向とがなす角度を20~40°とし、前記銅合金線の搬送速度に対する、前記周方向への回転速度が1~15回転/mmに設定することを特徴とする電気特性検査用導線の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の電気特性検査用導線の製造方法において、
捻じり加工後の前記銅合金線を一方向に搬送しながら、捻じり加工時の回転方向と逆方向に回転させ、前記銅合金線の捻じりを戻す工程を有することを特徴とする電気特性検査用導線の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電気特性検査用導線の製造方法において、
前記銅合金線を捻じり戻す工程では、捻じり戻し量を前記捻じり加工量の0.02~3.0%で設定することを特徴とする電気特性検査用導線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気特性検査用導線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、それらに使用される各種回路基板の高密度実装等が求められている。一方、このような各種実装基板や、ICパッケージ基板等の様々な回路基板について、製造時に直流抵抗値の測定や導通検査等、各種電気特性の検査を行うことが一般的である。このような電気特性の検査は、通常、回路基板の電極に接触させるためのコンタクトプローブと、当該コンタクトプローブを介して抵抗値等を測定するための検査装置(信号処理装置)と、で構成されることが多い(例えば特許文献1)。そして、このような検査装置やコンタクトプローブに使用する導線についても、各種回路基板の高密度実装等に合わせて、細径化や高導電率化が求められている。また、検査装置やコンタクトプローブに使用する導線には、高い硬度が求められることもある。
【0003】
上記検査装置やプローブ等に使用する導線としては、銅合金線が一般的である。銅合金は、一般的に歪みを加えるほど硬度が上昇する。そのため、従来、伸線加工したり、圧延加工したりすることで、銅合金線の硬度を高めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/159316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の伸線加工や圧延加工によって硬度を高めるためには、鋳造径を大きくし、多数の伸線加工や圧延加工を繰り返すことが必要である。しかしながら、鋳造径が大きい線材を伸線加工することは難しく、生産性の低下や生産コストの増大が生じやすい。さらに、一般的な銅合金では、伸線加工や圧延加工によって導電率が低下しやすく、高硬度および高導電率を兼ね備えた導線を得ることは難しかった。
本発明の主な目的は、高い硬度および高い導電率を有する電気特性検査用導線、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
0.1~30質量%の銀を含有し、残部が銅および不可避不純物である銅合金から構成される電気特性検査用導線であって、
当該電気特性検査用導線の径が0.2mm以下であり、
外周部には長さ方向に対して角度0.5~20°の方向に延在する繊維状組織を有し、
ビッカース硬さが300HV以上でかつ導電率が57%IACS以上であることを特徴とする電気特性検査用導線が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
0.1~30質量%の銀を含有し、残部が銅および不可避不純物であり、径が0.2mm以下の銅合金線を準備する工程と、
前記銅合金線を一方向に搬送しかつ所定の方向に押し込みながら前記銅合金線の周方向に回転させ、前記銅合金線を捻じり加工する工程とを有し、
前記銅合金線を捻じり加工する工程では、押し込み後の前記銅合金線と、前記銅合金線の搬送方向とがなす角度を10~70°とし、前記銅合金線の搬送速度に対する、前記周方向への回転速度が1~60回転/mmに設定し、
外周部には長さ方向に対して角度0.5~20°の方向に延在する繊維状組織を有し、
ビッカース硬さが300HV以上でかつ導電率が57%IACS以上である電気特性検査用導線を製造することを特徴とする電気特性検査用導線の製造方法。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い硬度および高い導電率を有する電気特性検査用導線、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電気特性検査用導線を使用可能なコンタクトプローブや検査装置を説明するための概略図である。
図2】電気特性検査用導線の製造方法における捻じり加工工程を説明するための概略図である。
図3】電気特性検査用銅線の製造方法における捻じり戻し工程を説明するための概略図である。
図4】捻じり加工量に対する、電気特性検査用導線の長さ方向および繊維状組織の延在方向のなす角度と、ビッカース硬度との関係を示すグラフである。
図5】電気特性検査用導線の製造方法における捻じり戻し工程を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る電気特性検査用導線(以下単に「導線」ともいう。)、およびその製造方法について説明する。
ただし、本発明の導線およびその製造方法は、以下に示す実施形態に限定されない。本明細書では、数値範囲を示す「~」には上限値と下限値が当該数値範囲に含まれる。
【0011】
[電気特性検査用導線]
本実施形態の導線は銅合金で構成される。
当該銅合金は銀、錫、ベリリウム、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、インジウム、シリコン、リンのいずれか1種または2種以上を含み、残部が銅および不可避不純物であることが好ましい。当該銅合金線は銅および銀を含む銅合金が好ましい。
銀の量は、導線の所望の特性に合わせて適宜選択されるが、0.1~30質量%が好ましく、10~15質量%がより好ましい。銀の量が当該範囲であると、導線の硬度および導電率を所望の範囲としやすくなる。
【0012】
導線の径は、導線の用途に応じて適宜選択されるが、通常0.2mm以下が好ましく、0.01mm~0.1mmがより好ましい。導線の径が当該範囲であると、例えば導線電気特性検査装置やプローブピンに使用した際に、狭ピッチで導線を配置することが可能となる。
【0013】
本実施形態の導線はその外周部に所定の方向に延在する繊維状組織を有する。
「導線の外周部」とは、導線の周面近傍の領域をいい、例えば導線の外周面から、導線の直径の1/3の深さまでの領域をいう。導線の長さ方向と、当該繊維状組織の延在方向とがなす角度は、0.5°以上20°以下であり、0.5°以上11.2°以下が好ましく、3.3°以上11.2°以下がより好ましい。上記方向に延在する繊維状組織は、その製造の際に、所定の方向に一定の力が加わったことを表す。
具体的には、導線を製造する際に、後述の捻じり加工工程を行うことで、導線の周囲に一定方向に延在する繊維状組織が生じる。そして、上記導線の長さ方向と繊維状組織の延在方向とのなす角度が0.5°以上であると、格段に導線の硬度が高まるだけでなく、導電率が良好になりやすい。上記角度が20°を超えると、断線する可能性があり、20°以下であれば、硬度および導電率が良好になりやすい。導線の外周部が、上記繊維状組織を有するか、また当該導線の長さ方向と、当該繊維状組織の延在方向とがなす角度の特定は、導線の表面から当該導線の直径の20%程度研磨しその研磨面をビデオマイクロスコープまたは走査型電子顕微鏡によって観察することで確認できる。
【0014】
当該導線の導電率は50%IACS以上が好ましく、57%IACS以上がより好ましい。
導線の導電率が60%IACS以上であると、導線を後述のように、各種用途に使用しやすくなる。導線の導電率の上限は特に制限されないが、通常当該導線では、上限が85%IACS程度である。
【0015】
当該導線のビッカース硬度は、導線の用途に応じて適宜選択される。
例えば、導線を後述の電気特性検査用のプローブに使用する場合、そのビッカース硬度は300HV以上が好ましく、320HV以上がより好ましい。一方、導線を後述の電気特性検査用の装置のリード線等に使用する場合、そのビッカース硬度は250HV以上が好ましい。ビッカース硬度が上記範囲であると、各用途に使用しやすくなる。本明細書におけるビッカース硬度とは、JIS Z 2244に準拠して測定した値である。
【0016】
当該導線の伸びは1~5%が好ましい。
当該伸び率は、精密万能試験機(例えば島津製作所社製)等によって特定できる。導線の伸びが5%以下であると、例えば導線の端部が他の部材と繰り返し接触しても、端部にダレが発生し難い。
【0017】
当該導線の真直性は高いことが好ましい。
当該導線の曲率半径は300mm以上が好ましく、1000mm以上がより好ましい。導線の真直性が高いと、導線を電気特性検査用装置等に使用した際に、隣り合う導線同士が接触したり絡まったりすることを抑制できる。導線の真直性が高いと、導線を各種用途に使用しやすくなる。上記曲率半径は、キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-6000を使用して、サンプルの円弧から任意に3点を選定し、算出した値である。
【0018】
当該導線は、電気特性を検査するための装置や器具等に主に使用される。
導線の用途として、例えば、電気特性検査用装置のリード線やコンタクトプローブのプローブピン等が挙げられるが、これらに限定されない。
図1に、基板11および電極12を有する回路基板10の電気特性を検査するためのコンタクトプローブ20や、これに接続する検査装置30の一部を示す。
図1に示すコンタクトプローブ20は、プローブピン22およびこれを支持する支持部21を有する。検査装置30は、リード線32、これを支持する保持部31、およびリード線32に接続された信号処理部(図示せず)を有する。当該構成のコンタクトプローブ20や検査装置30では、プローブピン22を回路基板10の電極12およびリード線32に押し当てることで、回路基板10側からの電気信号が検査装置30に伝わる。そして、信号処理部によって、当該電気信号を検出することで、回路基板10の直流抵抗値の測定や、導通検査等を行うことができる。
なお、上述の導線は、上記コンタクトプローブ20のプローブピン22や、検査装置30のリード線32のいずれにも使用することが可能である。プローブピン22およびリード線32は、繰り返し接触する。そのため、これらに使用する導線の硬度が低いと、繰り返しの接触によって、摩耗してしまうことがある。これに対し、上述の導線は、高い硬度および高い導電率を兼ね備えている。したがって、これらの用途に非常に有用である。
【0019】
なお、上述の導線をリード線32として使用する場合には、上記導線の周囲に絶縁被膜を形成してもよい。導線の周囲に絶縁被膜を形成すると、隣接するリード線32同士の接触を抑制できる。絶縁被膜は、一般的な導線の絶縁被膜と同様に、樹脂からなる被膜とすることができる。絶縁被膜に使用可能な樹脂の例には、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が含まれる。ただし、これらに限定されない。その厚みも用途に応じて適宜選択され、例えば1.0~10μm程度とすることができる。
【0020】
[電気特性検査用導線の製造方法]
上述の導線は、例えば、以下の方法で製造できる。ただし、上記導線の製造方法は当該方法に限定されない。本実施形態の製造方法は、銅および銀を含む銅合金線を準備する工程(以下単に「準備工程」ともいう。)と、当該銅合金線を一方向に搬送しながら、銅合金線を所定の方向に押し込み、銅合金線の周方向に回転させる工程(以下単に「捻じり加工工程」ともいう。)と、捻じり加工後の銅合金線の捻じりを戻す工程(以下単に「捻じり戻し工程」ともいう。)と、を有する。
【0021】
準備工程では、銅および銀を含む銅合金線を準備する。銅合金線の組成は、上述の導線が含む銅合金と同様の組成とする。当該銅合金線は、任意の方法で製造されたものであってもよく、例えば任意の鋳造径で作製した線材を伸線加工したもの等であってもよい。準備する銅合金線の径は、0.2mm以下が好ましく、0.01mm~0.1mmがより好ましい。
【0022】
本実施形態の捻じり加工工程の概略図を図2に示す。
当該捻じり加工工程では、上記準備工程で準備した銅合金線130を加工装置200内で上述のように捻じり加工する。
加工装置200は、銅合金線130を挟んで対向するように配置される、1対の回転板(第1の回転板211a、第2の回転板211b)を有する。1対の回転板(第1の回転板211a、第2の回転板211b)は、モータ(図示せず)と接続されており、銅合金線130を中心軸として、一体に所定の速度で、銅合金線130の周方向に回転するように構成されている。
一方の回転板(本実施形態では第1の回転板211a)は、銅合金線130を所定の高さで支持するための第1支持部212aおよび第3支持部212cを有する。他方の回転板(本実施形態では第2の回転板211b)は、銅合金線130を所定の位置まで押し込むための第2支持部212bを有する。各支持部212a、212b、212cの端部は、それぞれ銅合金線130を支持するための溝(図示せず)を有する。
【0023】
捻じり加工工程では、まず、銅合金線130を、加工装置200の第1支持部212a、第2支持部212b、第3支持部212cにそれぞれ支持させる。このとき、第2支持部212bによって押し込まれた銅合金線130と搬送方向とがなす角度(図2におけるαおよびβ)が10~70°になるように、第1支持部212a、第2支持部212b、および第3支持部212cの高さや位置を調整する。銅合金線130と搬送方向とがなす角度αおよびβは、好ましくは20~50°であり、より好ましくは20~40°である。上記角度αおよびβは、異なる値であってもよいが、同じ値であることが好ましい。
続いて、銅合金線130を一方のボビン100側から他方のボビン160側に一定の速度で搬送しながら、加工装置200の回転板(第1の回転板211a、第2の回転板211b)を銅合金線130の周方向に、一定の速度で回転させる。このときの搬送速度に対する回転板の回転速度、すなわち、以下の式で定義される捻じり加工量は、1~60回転/mmであ、1~30回転/mmであることが好ましく、1~20回転/mmであることがより好ましく、1~15回転/mmであることがさらに好ましい。
捻じり加工量=回転速度[rpm]/銅合金線130の搬送速度[mm/min]
捻じり加工量を上記範囲とすることで、銅合金線130に適度な力が加わり、銅合金線130の外周部に繊維状組織が観察されるようになる。
【0024】
本実施形態の捻じり戻し工程の概略図を図3に示す。
当該捻じり戻し工程では、捻じり加工工程後の銅合金線130を捻じり戻す。
捻じり戻し工程では、捻じり加工工程後の銅合金線130を巻回した元巻きのボビン160(供給用のボビン)を回転させながら、銅合金線130を回収用のボビン170で巻き取り、銅合金線線材130の捻じりを戻す。供給用のボビン160を、加工装置200の回転板(第1の回転板211a、第2の回転板211b)の回転方向とは逆方向に回転させる必要がある。銅合金線130の捻じり戻し量は下記式で定義される。
捻じり戻し量
=供給用ボビンの回転数[rpm]/銅合金線130の搬送速度[mm/min]
詳しくは捻じり戻し工程では、捻じり戻し量を捻じれ加工量より少なくし、捻じれ加工量の0.02~3.0%程度で設定する。銅合金線130の捻じり戻し工程は主に、銅合金線のハンドリング性の向上に寄与する。
なお、上記捻じり加工工程および捻じり戻し工程はいずれも、通常常温で行う。
【実施例
【0025】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
【0026】
(1)サンプルの作製
銀を10質量%含有し、残部が銅および不可避不純物であり、直径が0.074mmである複数本の銅合金線を準備した(準備工程)。その後、図2に示す加工装置を用い、銅合金線を一定速度で移動させながら、当該銅合金線を長さ方向に垂直に4.0mm押し込むとともに、銅合金線の周方向に速度6000rpmで回転させた(捻じり加工工程)。すなわち、第2支持部212bによって押し込まれた銅合金線130と銅合金線の搬送方向とのなす角度α、βを30°とし、捻じり加工量が1~15回転/mmとなるように調整した。
【0027】
その後、銅合金線に対し捻じり戻すか、または捻じり戻しを行わずにそのまま巻き取った(表1参照)。捻じり戻し量は捻じり加工量の0.7%程度(0.01~0.11回転/mm)となるように調整した。
【0028】
(2)サンプルの評価
(2.1)繊維状組織の角度
電気特性検査用導線の各サンプルを表面から15μm研磨し、研磨した面を、ビデオマイクロスコープで確認し、当該電気特性検査用導線の長さ方向と、繊維状組織の延在方向との角度を確認した。当該結果を表1および図3に示す。
【0029】
(2.2)ビッカース硬度および導電率の測定
電気特性検査用導線の各サンプルの硬度(ビッカース硬度)をJIS Z 2244に準拠してビッカース硬度計にて測定するとともに、導電率をマルチメーターで測定した。当該結果を表1および図4に示す。
【0030】
(2.3)ハンドリング性の評価
電気特性検査用銅線の各サンプルに対しハンドリング性の評価を行った。
具体的には図5に示すとおり、巻き取ったボビンからサンプルを100cm引き出し、その状態で銅線の端部をボビンに近付けキンクが発生したときの長さLを測定し、当該長さLによって評価した。当該結果を表1に示す。ここでは代表的にサンプル12、22、42に対してのみ捻じり戻しを行った。
【0031】
【表1】
【0032】
(3)まとめ
上記表1および図3に示すように、サンプル1とそれ以外のサンプルとの比較から、銅合金線を一定量押し込みながら、捻じり加工量1~60回転/mmで捻じり加工工程を行うと、繊維状組織の角度が0.5°~20.0°に収まり、導線の硬度が高まった。このとき、当該捻じり加工工程による導電率も高まった。
上記捻じり加工工程を行うと、硬度が上昇した。これは繊維状組織において捻じり加工により長さ方向に対し一定の角度が付与され、変形抵抗が増加したことによる。併せて導電率も上昇した。これは銅合金線の長さ方向の歪みが解放されて電子散乱が抑制されたことによるか、または捻じり加工により母相中に含まれる溶質元素が析出したことによると推察した。
さらにサンプル11、21、41とサンプル12、22、42との比較から、上記捻じり戻しを行うと、ボビンから引き出したときの銅合金線のキンクの発生を抑制することができた。
【0033】
本出願は、2022年6月8日出願の特願2022-093060号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電気特性検査用導線は、高い硬度および高い導電率を兼ね備える。したがって、電気特性検査用導線は、コンタクトプローブや、電気特性検査装置のリード線等、各種用途に使用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 回路基板
11 基板
12 電極
20 コンタクトプローブ
21 支持部
22 プローブピン
30 検査装置
31 保持部
32 リード線
100 ボビン
130 銅合金線
160 ボビン
170 ボビン
200 加工装置
211a 第1の回転板
211b 第2の回転板
212a 第1支持部
212b 第2支持部
212c 第3支持部

図1
図2
図3
図4
図5