(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240620BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H01L29/78 652L
H01L29/78 652Q
H01L21/78 R
(21)【出願番号】P 2023571108
(86)(22)【出願日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2023020639
【審査請求日】2023-11-14
(32)【優先日】2022-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】田口 晶英
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-025115(JP,A)
【文献】特開2008-192998(JP,A)
【文献】特開2021-114621(JP,A)
【文献】特開2020-053451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイスダウン実装が可能なチップサイズパッケージ型の半導体装置であって、
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された半導体層と、
前記半導体層に形成された縦型電界効果トランジスタと、
前記半導体層の表面側に形成された、高さ100μm以上のボール型のバンプ電極と、
前記半導体基板の裏面側の全面に接触して形成された多層構成の金属層と、を備え、
前記金属層のうち、最も厚い第1の金属層は、
Ag以上の延性を有する金属を主成分とし、
前記第1の金属層は厚さが8μm以上で、
前記半導体層の平面視において、前記金属層の外周には前記半導体基板の裏面側下方に突き出る突起が備わり、
前記突起の断面視において、前記突起の幅は5μm以上となる個所が備わり、
前記金属層は、第2の金属層を有し、
前記第2の金属層は、前記第1の金属層に接触して積層形成され、
前記平面視において、前記半導体装置の中央に面する方を内側とし、前記半導体装置の外周に面する方を外側とすると、前記個所における、前記突起の内側側面は、厚さが1μm未満の前記第2の金属層が露出し、
前記個所における、前記突起の外側側面は前記第1の金属層が露出し、
前記個所における、前記突起の、前記半導体基板の裏面側下方に突き出る長さは20μm以下である
半導体装置。
【請求項2】
前記個所における前記突起の断面視で、前記突起は、前記突起を構成する前記第1の金属層が、前記半導体層の側面よりも前記外側へ膨らむ形状である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記個所における前記突起の断面視で、前記半導体層の側面に直交する方向で、前記半導体層の側面から、前記突起を構成する前記第1の金属層が前記外側へ最も膨らむ位置までの長さの2倍をL1[μm]とし、前記突起の長さをHb[μm]とすると、
前記第1の金属層の厚さは5×Hb/L1[μm]以上である
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記個所における前記突起の断面視において、前記突起を構成する前記第1の金属層で、前記半導体層と近接する部分における前記外側側面は、前記半導体層の側面に起点がある湾曲形状を有し、
前記半導体層の側面に直交する方向で、前記半導体層の側面から、前記湾曲形状を多項式近似したときの近似曲線が極小となる位置までの長さの2倍をL2[μm]とし、前記突起の長さをHb[μm]とすると、
前記第1の金属層の厚さは5×Hb/L2[μm]以上である
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記個所における前記突起の断面視において、前記突起は、前記半導体基板の裏面側下方に向かって、前記突起の根元から先端までの区間において幅が増加する部分を有さない
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記個所における前記突起の断面視において、前記突起は、前記突起の先端が前記半導体基板の裏面側下方における最下点である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記半導体基板の厚さは150μm以上であり、
前記半導体装置の厚さは390μm以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関し、特には、チップサイズパッケージ型の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
縦型電界効果トランジスタにおいてボール型のバンプ電極を有することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に、ボール型のバンプ電極を有する縦型電界効果トランジスタで、裏面に2μm程度の厚さの電極金属を備える構造が開示されている。ボール型のバンプ電極を有する縦型電界効果トランジスタでは、裏面の電極金属に形成された突起(バリ)が、超音波洗浄後に脱落して他部品との短絡要因となることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示に係る半導体装置は、フェイスダウン実装が可能なチップサイズパッケージ型の半導体装置であって、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された半導体層と、前記半導体層に形成された縦型電界効果トランジスタと、前記半導体層の表面側に形成された、高さ100μm以上のボール型のバンプ電極と、前記半導体基板の裏面側の全面に接触して形成された多層構成の金属層と、を備え、前記金属層のうち、最も厚い第1の金属層は、前記金属層を構成する金属種の中で最も延性が高い第1の金属を主成分とし、前記第1の金属層は厚さが8μm以上で、前記半導体層の平面視において、前記金属層の外周には前記半導体基板の裏面側下方に突き出る突起(バリ)が備わり、前記突起の断面視において、前記突起の幅は5μm以上となる個所が備わる半導体装置であることを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、半導体装置を個片化する過程で形成される金属層の突起(バリ)を幅の太い構造で安定して形成することができ、半導体装置が超音波洗浄のような衝撃を受けた際に突起(バリ)が脱落して、短絡要因となることを回避することができる。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、ボール型のバンプ電極を備えながら、オン抵抗を低くし、さらに超音波洗浄などの衝撃に対する耐性のある半導体装置を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る半導体装置の構造の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る半導体装置の構造の一例を示す平面模式図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態1に係る縦型電界効果トランジスタの略単位構成の平面模式図である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態1に係る縦型電界効果トランジスタの略単位構成の斜視模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る半導体装置の製造工程の一部を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る半導体装置の斜視SEM像である。
【
図6A】
図6Aは、実施形態1の比較例1に係る半導体装置の断面SEM像である。
【
図6B】
図6Bは、実施形態1の比較例1に係る半導体装置の断面SEM像である。
【
図7A】
図7Aは、実施形態1の比較例1に係る半導体装置の平面電子顕微鏡像である。
【
図7B】
図7Bは、実施形態1の比較例1に係る半導体装置の平面電子顕微鏡像である。
【
図8A】
図8Aは、実施形態1に係る半導体装置の個片化工程の一時点を示した断面模式図である。
【
図8B】
図8Bは、実施形態1に係る半導体装置の個片化工程の一時点を示した断面模式図である。
【
図8C】
図8Cは、実施形態1に係る半導体装置の個片化工程の一時点を示した断面模式図である。
【
図8D】
図8Dは、実施形態1に係る半導体装置の個片化工程の一時点を示した断面模式図である。
【
図8E】
図8Eは、実施形態1に係る半導体装置の個片化工程の一時点を示した断面模式図である。
【
図8F】
図8Fは、実施形態1に係る半導体装置の個片化工程の一時点を示した断面模式図である。
【
図9A】
図9Aは、実施形態1に係る半導体装置の断面SEM像である。
【
図9B】
図9Bは、
図9Aの白枠部分の拡大図で、実施形態1に係る半導体装置の断面SEM像である。
【
図10】
図10は、実施形態1および実施形態1の比較例1に係る半導体装置の断面SEM像と突起の超音波洗浄実施後の脱落率である。
【
図11】
図11は、実施形態1の比較例2に係る半導体装置の断面SEM像と突起の超音波洗浄実施後の脱落率である。
【
図13】
図13は、実施形態1に係る半導体装置をフェイスダウン実装したときの断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一態様に係る半導体装置の具体例について、図面を参照しながら説明する。ここで示す実施形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。従って、以下の実施形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置および接続形態は一例であって本開示を限定する趣旨ではない。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0010】
(実施形態1)
[1.半導体装置の構造]
本開示における縦型電界効果トランジスタ10の構造について、シングル構成を例にとって説明する。しかし本開示の効果を享受するには、シングル構成であることは必須ではなく、デュアル構成の縦型電界効果トランジスタであってもよく、トリプル以上の構成の縦型電界効果トランジスタであってもよい。
【0011】
図1は半導体装置1の構造の一例を示す断面図である。
図2はその平面図であり、半導体装置1の大きさや形状、パッドの配置は一例である。
図1は、
図2のI-Iにおける切断面である。また、
図2中に示されるS、G、Dは、それぞれ、ソース、ゲート、ドレインのバンプ電極であることを示す。
【0012】
図1および
図2に示すように、半導体装置1は、半導体層40と、金属層30と、半導体層40内に形成された縦型電界効果トランジスタ10(以下では単にトランジスタ10ともいう)を有する。半導体層40は、半導体層40の平面視で、活性領域A1を有する。活性領域A1とは、ソース電極11の電位を基準として、ゲート電極(不図示)にしきい値以上の電圧を印加した際に、反転層が形成されて導通チャネルとなる領域をすべて内包する最小限の範囲である。
【0013】
半導体層40は、半導体層40の平面視で、ゲート電極を内包し、活性領域A1の導通を制御する制御領域A2を有する。また後述するドレイン領域(半導体基板32)と、半導体層40の表面側とを導通するドレイン引き上げ領域38を含む導通ドレイン領域A3を有する。
【0014】
半導体層40は、半導体基板32と低濃度不純物層33とが積層されて構成される。半導体基板32は、半導体層40の裏面側に配置され、第1導電型の不純物を含む第1導電型のシリコンからなる。低濃度不純物層33は、半導体層40の表面側に配置され、半導体基板32に接触して形成され、半導体基板32の第1導電型の不純物の濃度より低い濃度の第1導電型の不純物を含んで、第1導電型である。
【0015】
低濃度不純物層33は、例えば、エピタキシャル成長により半導体基板32上に形成されてもよい。なお、低濃度不純物層33はトランジスタ10のドリフト層でもあり、本明細書中ではドリフト層とよぶこともある。
【0016】
金属層30は、半導体層40の裏面側に接触して形成されており、半導体層40の裏面側の全面に形成されている。金属層30は多層構成であり、第1の金属層30aと、第1の金属層30aと接触して半導体装置1の裏面側で露出する第2の金属層30bと、から成る。
【0017】
第1の金属層30aは少なくとも8μm以上の厚さであって、多層構成の中で最も厚い金属層である。さらに第1の金属層30aは、金属層30を成す金属種の中で最も延性の大きい第1の金属を主成分としている。第1の金属は、例えば、銀(Ag)もしくは銅(Cu)とすることができる。
【0018】
第2の金属層30bは第1の金属よりも延性の小さい第2の金属を主成分としている。第2の金属は、例えば、ニッケル(Ni)とすることができる。なお、金属層30(第1の金属層30aおよび第2の金属層30b)には、金属材料の製造工程において不純物として混入する金属以外の元素が微量に含まれていてもよい。
【0019】
金属層30には半導体基板32の裏面側下方に向かって突き出る、突起50が形成されている。突起50は、平面視で金属層30の外周に沿って形成されている(
図5参照)。突起50には第1の金属層30aの主成分である第1の金属が含まれている。突起50の詳細については後述する。なお、
図1において図示されている突起50は、第1の金属と第2の金属との成分比が必ずしも正確に表現されているものではない。
【0020】
図1および
図2に示すように、低濃度不純物層33の活性領域A1には、第1導電型と異なる第2導電型の不純物を含むボディ領域18が形成されている。ボディ領域18には、第1導電型の不純物を含むソース領域14、ゲート導体15、およびゲート絶縁膜16が形成されている。ゲート導体15、ゲート絶縁膜16は、半導体層40の上面からボディ領域18を貫通して低濃度不純物層33の一部までの深さに形成された複数のゲートトレンチ17の内部に、それぞれ形成されている。ソース電極11は部分12と部分13とからなり、部分12は、部分13を介してソース領域14およびボディ領域18に接続されている。ゲート導体15は半導体層40の内部に埋め込まれた、埋め込みゲート電極であり、制御領域A2に設置された、不図示のゲート電極を介して、ボール型のゲートバンプ電極119に電気的に接続される。
【0021】
ソース電極11の部分12は、ボール型のソースバンプ電極111と接合される層であり、限定されない一例として、ニッケル、チタン、タングステン、パラジウムのうちのいずれか1つ以上を含む金属材料で構成されてもよい。部分12の表面には、金などのめっきが施されてもよい。
【0022】
ソース電極11の部分13は、部分12と半導体層40とを接続する層であり、限定されない一例として、アルミニウム、銅、金、銀のうちのいずれか1つ以上を含む金属材料で構成されてもよい。
【0023】
低濃度不純物層33内のドレイン導通領域A3には、半導体基板32へ到達する深さでドレイン引き上げ領域38が形成される。ドレイン引き上げ領域38は低濃度不純物層33における第1導電型の不純物の濃度より高い濃度の、第1導電型の不純物を含む層である。
【0024】
ドレイン電極81の部分82は、ボール型のドレインバンプ電極181と接合される層であり、限定されない一例として、ニッケル、チタン、タングステン、パラジウムのうちのいずれか1つ以上を含む金属材料で構成されてもよい。部分82の表面には、金などのめっきが施されてもよい。
【0025】
ドレイン電極81の部分83は、部分82と半導体層40とを接続する層であり、限定されない一例として、アルミニウム、銅、金、銀のうちのいずれか1つ以上を含む金属材料で構成されてもよい。
【0026】
トランジスタ10の上記構成により、半導体基板32は、トランジスタ10のドレイン領域として機能する。低濃度不純物層33の、半導体基板32に接する側の一部も、ドレイン領域として機能する場合がある。また金属層30はトランジスタ10のドレイン電極として機能する。
【0027】
図1に示すように、ボディ領域18は、開口を有する層間絶縁層34で覆われ、層間絶縁層34の開口を通して、ソース領域14に接続されるソース電極11の部分13が設けられている。層間絶縁層34およびソース電極11の部分13は、開口を有するパッシベーション層35で覆われ、パッシベーション層35の開口を通してソース電極11の部分13に接続される部分12が設けられている。ボール型のソースバンプ電極111はパッシベーション層35の開口を通して、ソース電極11の部分12に接触接続して設置されている。
【0028】
ドレイン引き上げ領域38は、開口を有する層間絶縁層34で覆われ、層間絶縁層34の開口を通して、ドレイン引き上げ領域38に接続されるドレイン電極81の部分83が設けられている。層間絶縁層34およびドレイン電極81の部分83は、開口を有するパッシベーション層35で覆われ、パッシベーション層35の開口を通してドレイン電極81の部分83に接続される部分82が設けられている。ボール型のドレインバンプ電極181はパッシベーション層35の開口を通して、ドレイン電極81の部分82に接触接続して設置されている。
【0029】
それぞれソース電極11およびドレイン電極81が、パッシベーション層35の開口を通して半導体装置1の表面に部分的に露出する領域をそれぞれソースパッド、ドレインパッドとよぶ。ソースバンプ電極111、ドレインバンプ電極181は、それぞれソースパッド、ドレインパッドに各々接触接続して設置される。
図1には示していないが、同様に、ゲートバンプ電極119は、ゲート電極(不図示)が半導体装置1の表面に部分的に露出したゲートパッドに接触接続して設置される。
【0030】
ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181は典型的にはボール型である。本明細書においてバンプ電極がボール型であるとは、完全な球状の一部が切り取られたり、欠けたりする形状も含めるものとする。また典型的には、平面視でソースパッド、ゲートパッド、ドレインパッドは同じ大きさの円形である。
【0031】
ボール型のバンプ電極は、まず球状で同径の半田ボールを、それぞれのパッドに載置し、熱処理(リフロー)をおこなうことで各々のパッドに接触する部分を溶融させて形成する。バンプ電極の形状は、それぞれ接触接続するパッドの径、および形成後に所望する高さ(パッシベーション層35の上面から見たそれぞれのバンプ電極の高さh[μm])によって選択的である。本実施形態1では
図1で示すように、平面視で各バンプ電極の直径r1[μm]が、対応するパッドの直径(パッシベーション層35の開口の直径r2[μm])よりも大きい。
図2に示す平面図では各パッドを破線で示している。
【0032】
半導体装置1において、例えば、第1導電型をN型、第2導電型をP型として、ソース領域14、半導体基板32、低濃度不純物層33、および、ドレイン引き上げ領域38はN型半導体であり、かつ、ボディ領域18はP型半導体であってもよい。
【0033】
また、半導体装置1において、例えば、第1導電型をP型、第2導電型をN型として、ソース領域14、半導体基板32、低濃度不純物層33、およびドレイン引き上げ領域38はP型半導体であり、かつ、ボディ領域18はN型半導体であってもよい。
【0034】
以下の説明では、トランジスタ10が、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした、いわゆるNチャネル型トランジスタの場合として、半導体装置1の導通動作について説明する。
【0035】
[2.縦型電界効果トランジスタの動作]
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ、半導体装置1の半導体層40内において、X方向およびY方向に繰り返し形成される、トランジスタ10の略単位構成の、平面図および斜視図である。
図3Aおよび
図3Bでは、分かりやすくするために半導体基板32、ソース電極11は図示していない。なおY方向とは、半導体層40の上面と平行し、ゲートトレンチ17が延在する方向である。またX方向とは、半導体層40の上面と平行し、Y方向に直交する方向のことをいう。
【0036】
図3Aおよび
図3Bに示すように、トランジスタ10には、ボディ領域18とソース電極11とを電気的に接続する接続部18aが備わる。接続部18aは、ボディ領域18のうち、ソース領域14が形成されていない領域であり、ボディ領域18と同じ第2導電型の不純物を含む。ソース領域14と接続部18aとは、Y方向に沿って交互に、かつ周期的に繰り返し配置される。
【0037】
半導体装置1において、ドレイン電極81に高電圧およびソース電極11に低電圧を印加し、ソース電極11を基準としてゲート電極(ゲート導体15)にしきい値以上の電圧を印加すると、ボディ領域18中のゲート絶縁膜16の近傍に反転層が形成され、これが導通チャネルとなる。その結果、ドレイン電極81-ドレイン引き上げ領域38-半導体基板32-金属層30-半導体基板32-低濃度不純物層33-ボディ領域18に形成された導通チャネル-ソース領域14-ソース電極11という経路で主電流が流れて半導体装置1が導通状態となる。なお、この導通経路における、低濃度不純物層33とボディ領域18との接触面にはPN接合があり、ボディダイオードとして機能している。また、この主電流は金属層30を流れるため、金属層30を厚くすることで、主電流経路の断面積が拡大し、半導体装置1のオン抵抗は低減できる。
【0038】
[3.半導体装置の個片化と突起の形成]
ここから半導体装置1の製造過程と共に、半導体装置1の金属層30の外周に備わる突起50の形成について述べる。
【0039】
図4に、本実施形態1における半導体装置1の製造工程を簡易に示した。後に個片化されて半導体装置1になる各々の縦型電界効果トランジスタの構造は、工程501までにシリコンウェーハ上にアレイ状に形成される。
【0040】
次に工程502において、ソース、ドレイン、ゲートのそれぞれのバンプ電極が形成される。バンプ電極の形成では、まず球状の半田ボールが、ソースパッド、ドレインパッド、ゲートパッドのそれぞれに載置され、その後に熱処理をおこなって形成される。
【0041】
次に工程503において、シリコンウェーハ(後に個片化される各々の半導体装置1で見れば半導体基板32に相当する)の裏面側が薄化加工される。次に工程504において、シリコンウェーハの薄化加工された裏面全面に多層構成の金属層30が形成される。金属層30には第1の金属層30aと第2の金属層30bが含まれてよい。第1の金属層30aは8μm以上の厚さで、多層構成の金属層30の中で最も厚くなるように形成される。第2の金属層30bは、例えば1μm未満の厚さであってもよい。
【0042】
次に、工程505でシリコンウェーハにブレードを用いたダイシングをおこない、各々の半導体装置1が個片化される。このとき、シリコンウェーハと共に、工程504でシリコンウェーハの裏面全面に形成された金属層30も切断されるが、物理的にブレードで押し出される金属層30は、半導体装置1の側面に沿って延伸する。このため個片化された半導体装置1の金属層30の外周には、半導体装置1の裏面側下方(-Z方向)に向かって延伸した突起(いわゆるバリ)50が形成される。
【0043】
図5に、本実施形態1における半導体装置1の、金属層30の露出面側から見た斜視SEM像を示す。半導体装置1の裏面全面には金属層30が備わるので、個片化された半導体装置1で見ると、突起50は金属層30の外周4辺の全長にわたって形成される。突起50が形成されるのは、工程505における半導体装置1の個片化が、ブレードを用いておこなわれるためである。本開示において、工程505がブレードを用いたダイシングであることは重要である。以下でその理由を説明する。
【0044】
例えば、ブレードを用いたダイシングの他には、レーザを用いたダイシングがある。レーザを用いる場合、レーザ照射によって飛び散る半導体材料や金属種の飛散物(いわゆるデブリ)が、半導体装置に付着することを防ぐ必要がある。このため一般的に、半導体装置の表面にあらかじめ、デブリ付着を防止する保護膜を被覆させる。しかし本実施形態1の半導体装置1においては、バンプ電極(ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181)が、一定の高さを有するボール型の形状で備わる。このためデブリが付着することを防ぐための保護膜を、バンプ電極を含めた半導体装置1の表面を十分に被覆するように製膜することが難しい。
【0045】
本発明者らが検討したところ、バンプ電極の高さが100μmを超えると、従来一般的に使用される保護膜では、半導体装置1の表面を十分に被覆することは困難になる。本開示は100μm以上の高さのバンプ電極が備わる半導体装置1を対象とするものである。したがって個片化においてはブレードを用いたダイシングを実施せざるを得ない。このため金属層30に突起50が形成されることを回避するのはたいへん難しい。
【0046】
ところで半導体装置1を実装基板に実装する前後の段階において、付着している異物を除去する目的で、半導体装置1に超音波洗浄を施すことがある。超音波洗浄のような衝撃を半導体装置1に与えると、異物だけでなく、金属層30の外周に形成された突起50までもが金属層30から物理的に離れることがある。
【0047】
図6A、
図6Bに、本実施形態1の比較例1における突起500の断面SEM像を示す。比較例1は金属層30の厚さが3μmの場合に形成される突起500の例である。
図6Aおよび
図6Bに示す突起500は、いずれも断面視で、幅が5μmを下回っている。後述するが、断面視において突起500は、幅が5μmを下回ると、超音波洗浄のような衝撃により金属層30から物理的に離れてしまう傾向がある。
【0048】
図6Aまたは
図6Bに示すような形状の突起500であっても、超音波洗浄によって半導体装置1の外周4辺に沿ってすべて一様に脱落することは少ない。典型的には、脱落せずに金属層30とつながり続ける部分が所々で生じる。結果的に突起500は、
図7Aまたは
図7Bに示すように、見た目には紐状の半遊離体500aとして比較例1に係る半導体装置(金属層30)に残ることが多い。
図7A、
図7Bは、本実施形態1の比較例1において形成された突起500に、超音波洗浄を施した後の、金属層30の露出面側から見た光学顕微鏡像である。
【0049】
図7A、
図7Bに示すように、脱落せず紐状に残った半遊離体500aは、比較例1に係る半導体装置が実装される実装基板において、比較例1に係る半導体装置と隣接する別の部品(不図示)に接触し、意図しない導通経路を成すことがある。また比較例1に係る半導体装置が実装される実装基板において、半遊離体500aが何らかの要因で比較例1に係る半導体装置から脱落し、比較例1に係る半導体装置とは関係のない別の部品同士を短絡させる要因となる可能性がある。
【0050】
このような事情を考慮し、本発明者らは突起50が超音波洗浄のような衝撃を与えられても金属層30から離れることなく、安定して金属層30と接続し続けられるよう、断面視で、幅が太い突起50を再現性よく形成できる構造を開発した。
【0051】
すなわち、フェイスダウン実装が可能なチップサイズパッケージ型の半導体装置1であって、半導体基板32と、半導体基板32上に形成された低濃度不純物層33と、半導体基板32と低濃度不純物層33とを合わせて半導体層40と称したとき、半導体層40に形成された縦型電界効果トランジスタ10と、半導体層40の表面側に形成された、高さ100μm以上のボール型のバンプ電極(ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181)と、半導体基板32の裏面側の全面に接触して形成された多層構成の金属層30と、を備え、金属層30のうち、最も厚い第1の金属層30aは、金属層30を構成する金属種の中で最も延性が高い第1の金属を主成分とし、第1の金属層30aは厚さが8μm以上で、半導体層40の平面視において、金属層30の外周には半導体基板32の裏面側下方に突き出る突起(バリ)50が備わり、突起50の断面視において、突起50の幅は5μm以上となる個所が備わる半導体装置1である。
【0052】
このような構造であると、工程505において、ブレードによって物理的に押し出される金属層30のほとんどの部分が第1の金属層30aとなる。つまり半導体装置1が有する突起50を、第1の金属層30aを成す第1の金属を主成分として構成することができる。第1の金属は、金属層30を構成する金属の中で最も延性が大きいために物理的な外圧に対して柔軟に変形され得る。また第1の金属層30aは8μm以上の厚さを有するために、物理的な外圧に対して柔軟に変形され得る余地が大きく、突起50を、超音波洗浄における衝撃では脱落しない、幅の太い形状にすることができる。
【0053】
図8Aから
図8Fを用いて、本実施形態1で突起50が幅の太い形状となることを説明する。
図8Aから
図8Fは、工程505における個片化の様子を、段階的かつ模式的に示したものである。シリコンウェーハはあらかじめダイシングシート700に貼り付けられており、シリコンウェーハにアレイ状に形成された半導体装置1同士の間に、ブレード600があてがわれる。なお、
図8C~
図8Fにおいて図示されている突起50(
図8C~
図8F中に符号は振られていない)は、第1の金属と第2の金属との成分比が必ずしも正確に表現されているものではない。
【0054】
図8Aに示すように、ブレード600は-Z方向に降ろされ、回転かつ進行しながらシリコンウェーハおよび金属層30を切断する。
図8Bに示すように、本実施形態1では第1の金属層30aが厚く、また第1の金属の延性が大きいため、ブレード600が最下点に達する前に金属層30が物理的に押し出される状態となる。ダイシングシート700はもともと柔軟性を有した素材であるため破れることはない。
【0055】
図8Cはブレード600が最下点に達したところを模式的に示している。このときブレード600の先端は第2の金属層30bを貫通するため、この段階で半導体装置1は個片化されている。しかし押し出された金属層30(第1の金属層30a)は、ブレード600の先端の形状を反映するように、Z方向およびX方向へ柔軟に変形する。特にブレード600の先端の、丸みを帯びた形状が反映されて、第1の金属層30aがX方向に変形することは重要であり、この変形があるために突起50の幅を太くすることができる。尚、第2の金属層30bは、第1の金属層30aとの積層の状態を維持したまま、露出面の法線方向を変える。
【0056】
第1の金属層30aが薄い場合、ブレード600が最下点に到達しても第1の金属層30aは物理的に押し出されて変形する余地がほとんどなく、単にブレード600の一直線状の側面が反映されて、突起50の幅を太くするような作用が得られない。第1の金属の延性が小さい場合も同様である。
【0057】
図8Dと
図8Eはブレード600を+Z方向へ引き上げる途中を表した模式図であるが、このとき第1の金属層30aはブレード600の引き上げに巻き込まれるようにして、半導体層40側面の方へも引き戻される部分が生じる場合がある。個片化された半導体装置1には、結果的に
図8Fに示すように、金属層30の外周に突起50が形成される。
【0058】
図9A、
図9Bに本実施形態1の典型例となる突起50の断面SEM像を示す。
図9Bは
図9Aに示す白枠部分を拡大したものである。
図9Bを用いて、断面視において突起50の構造を見るときの定義を明確化しておく。
図9BではX方向とZ方向とを含む断面視を例示しているが、突起50の断面であれば、これとは別の方向の断面であって構わない。
【0059】
図9Bにおける破線Aは、半導体基板32と金属層30との界面である。半導体基板32は典型的にはシリコンである。半導体基板32と金属層30との界面は比較的に平坦であり、したがって破線Aは断面視で、凹凸の少ない一直線状であると見てよい。
【0060】
図9Bにおける破線Bは、第1の金属層30aと第2の金属層30bとの、およその界面である。第1の金属層30aと第2の金属層30bとの厳密な界面は、半導体基板32と金属層30との界面ほど平坦ではないことが多く、断面視で第1の金属層30aと第2の金属層30bとの界面は一直線状であるとは言い難い場合がある。しかし便宜的に破線Bを、破線Aと平行であって、第1の金属と第2の金属との違いに起因するコントラストの差が大きくなるところを、X方向においてなるべく多くの部分で通るように設置してよい。
【0061】
尚、本実施形態1の半導体装置1(
図9B)においては、第1の金属層30aが半導体基板32と接触しているので、破線Aと破線Bとの間のZ方向の距離が、第1の金属層30aの厚さとなる。また
図9Bにおいては参考として、グレーの実線で第1の金属層30aと第2の金属層30bとの実際の界面を示しているが、これは第1の金属と第2の金属の違いに起因するコントラストの差が大きくなるところに沿ったものである。
【0062】
図9Bにおける破線Cは、第2の金属層30bの、-Z方向における露出面である。断面視において第2の金属層30bの露出面は、第1の金属層30aと第2の金属層30bとの界面と同様にして、一直線状であるとは言い難い場合がある。しかし便宜的に破線Cを、破線Aおよび破線Bと平行であって、第2の金属層30bが-Z方向に露出するところを、X方向においてなるべく多くの部分で通るように設置してよい。したがって破線Bと破線Cとの間のZ方向の距離が、第2の金属層30bの厚さとなる。
【0063】
図9Bにおける破線Dは、半導体層40の側面である。半導体層40の側面は、金属層30との界面付近において、金属層30を構成する金属によって一部被覆されていてもよいが、+Z方向に向かって金属層30から離れていくと、いずれ半導体層40だけが露出する側面が現れる。半導体層40の側面が金属層30との界面付近において、金属層30を構成する金属によって一部被覆されるのは、工程505におけるダイシング時に、ブレード600のZ方向における押し出しや引き戻し、あるいはその際のブレード600の回転方向の影響を受けて、金属層30を構成する金属が+Z方向に巻き返されることがあるためである。
【0064】
図9Bにおける実線Eは、突起50の根元の位置を定義する基準である。突起50の内側において、第2の金属層30bの、露出面における法線方向が、-Z方向から別の方向(
図9Bでは-X方向)へ変化する箇所を通って、破線Aに平行する線である。
【0065】
図9Bにおける実線Fは、突起50の長さを定義する最下点である。すなわち突起50が-Z方向において最も下方へ到達する箇所を通って、実線Eに平行する線である。本開示では、実線Eと実線Fとの間のZ方向の距離を、その突起50の長さと定義する。
【0066】
図9Bにおける実線Gは、突起50の内側の位置を定義する基準である。突起50の内側において、第2の金属層30bの露出面における法線方向が、-Z方向から別の方向(
図9Bでは-X方向)へ変化する箇所を通って、実線Eに直交する線である。
図9Bでは、実線Gを+Z方向へ延長すると半導体層40の側面である破線Dとほとんど一致するが、破線Dと実線Gは一致していても一致していなくてもよい。
【0067】
図9Bにおける実線Hは、突起50の外側の位置を定義する基準である。実線Hは、突起50の外側において、半導体層40の側面(破線D)から、半導体層40の側面に直交する方向(X方向)において、最も離れる個所を通って、実線Gに平行する線である。本開示では、実線Gと実線Hとの間のX方向の距離を、その突起50の幅、または突起50の根元の幅と定義する。
【0068】
本開示においては、金属層30という用語には突起50が含まれるものとする。しかし金属層30のうち、半導体層40とZ方向において正規に積層された範囲、と称する場合には突起50は含まれないものとする。すなわち、金属層30のうち半導体層40とZ方向において正規に積層された範囲とは、突起50の内側の位置を定義する基準(実線G)あるいは半導体層40の側面(破線D)とをX方向において比べたとき、より半導体装置1の内側に位置するものの方よりも、さらに半導体装置1の内側の範囲を指すものとする。例えば
図9Bにおいては、実線Gよりも半導体装置1の内側にある範囲が相当する。
【0069】
突起50という用語が指すのは、金属層30のうち、突起50の内側の位置を定義する基準よりも外側にある部分を指す。
図9Bにおいては、実線Gよりも外側の部分であり、必然的に実線Eよりも-Z方向に突出する部分を含む。また半導体層40の側面(破線D)を一部被覆する金属部分も、突起50という用語に含まれるものとする。
【0070】
突起50に、超音波洗浄のような衝撃に対する耐性を持たせるためには、断面視で根元の幅を太くすることが好ましい。
図10に本実施形態1の一例として、第1の金属層30aに銀(Ag)を用い、Agの膜厚を変更したときに形成される突起50の形状を示した。またそれぞれに超音波洗浄を施した後の突起50の脱落発生率も示した。水準1は、第2の金属層30bを製膜せず、第1の金属層30aであるAgが半導体装置1の裏面側に露出する場合のものである。水準2は、第2の金属層30bとして1μm未満の厚さのニッケル(Ni)を用いたときのものであり、この中で第1の金属層30aであるAgの厚さが3μmのものは比較例1のものである。
【0071】
Agは金属の中で最も延性が高いものの1つであり、Niの延性はAgに比べて低い。このため、
図8Aから
図8Fで示したように、断面視での突起50の幅を太くしやすい条件を備えている。しかし
図10に示すように、第1の金属層30aであるAgの厚さが3μmの場合(比較例1)、工程505における個片化で形成された突起50の幅は2.4μmであって、衝撃に対して脆弱な形状となった。超音波洗浄後の突起50の脱落発生率は19%であり、突起50が実装後に短絡要因となる可能性を排除できない結果であった。
【0072】
これに対して、第1の金属層30aであるAgの厚さが8μmになると、水準1であれ水準2であれ、突起50の幅が安定して5.0μm以上となり、超音波洗浄後の脱落発生も見られなかった。第1の金属層30aであるAgの厚さが厚いほど、突起50の幅も太くなる傾向がある。つまり超音波洗浄後の突起50の脱落は、第2の金属層30bの有無、あるいは第2の金属層30bの厚さに関係なく、第1の金属層30aの厚さが8μm以上あれば防ぐことができるといえる。したがって第2の金属層30bの有無や厚さに関係なく、第1の金属層30aの厚さは8μm以上あることが望ましい。
【0073】
図11に本実施形態1の比較例2として、第1の金属層30aに厚さ10μmのニッケル(Ni)を用い、第2の金属層30bを製膜せず、第1の金属層30aであるNiが半導体装置1の裏面側に露出する場合に形成される突起50の形状を示した。またそのときに超音波洗浄を施した後の突起50の脱落発生率も示した。
【0074】
Niは金属の中でも特に延性が高いわけではない。このため10μmの厚さがあるとはいえ、工程505における個片化で形成された突起50の幅はわずか1.0μm程度しかなく、衝撃に対して脆弱な形状となった。超音波洗浄後の突起50の脱落発生率は69%と高いものであり、突起50が実装後に短絡要因となる可能性が高いという結果であった。
【0075】
したがって突起50に、超音波洗浄のような衝撃に対する耐性を十分に持たせるためには、半導体装置1は、半導体基板32の裏面側の全面に接触して形成された多層構成の金属層30のうち、最も厚い第1の金属層30aは、金属層30を構成する金属の中で最も延性が高い第1の金属を主成分とし、第1の金属層30aは厚さが8μm以上であることが望ましい。このような形状の場合、工程505の個片化の後に現れる突起50の幅を、安定して5μm以上の太いものにすることができる。
【0076】
本実施形態1の突起50に現れる特徴を、典型例(
図9B)と比較例1(
図6Aおよび
図6B)とを対比しながら説明する。本実施形態1で形成される突起50の幅が安定して5μm以上の太さであることは説明したとおりである。幅が太いのは、本実施形態1で形成される突起50が、断面視で、突起50の根元における第1の金属層30aが、半導体層40の側面(
図9Bでは破線D)よりも外側へ膨らむ形状であるためである。
【0077】
また
図9Bによれば、突起50の断面視において、突起50は先端が半導体基板32の裏面側下方(-Z方向)における最下点となる形状である。これに対して比較例1における
図6Aでは、突起50が-Z方向に一直線状でなく曲がりくねっているため、突起50の先端が-Z方向の最下点とは一致しない。突起50が-Z方向に一直線状でなく曲がりくねっていると、突起50の表面が超音波洗浄の衝撃をあらゆる方向から受けることになり、脱落の可能性が高まるため望ましくない。
【0078】
また
図9Bによれば、突起50の断面視において、突起50の根元から先端までの区間において、先端(半導体装置1の裏面側下方)へ向かう方向においては、突起50の幅がいったん縮小した後に、再び増加する部分を有することがない。これに対して比較例1における
図6Bでは、突起500の根元の幅が細いながら、最下点に向かう方向において幅が太くなるところを有する形状である。つまり比較例1(
図6B)では突起500の根元の幅の方が細い形状であり、超音波洗浄のような衝撃に対して特に脆弱である。
【0079】
図9Bではグレーの実線で示しているとおり、本実施形態1では、金属層30の多層構成が突起50においても維持されている。本開示においては、半導体層40の平面視において、半導体装置1の中央に面する方を内側とし、半導体装置1の外周に面する方を外側とよぶが、突起50の内側側面は、厚さが1μm未満の第2の金属層30bが露出し、突起50の外側側面は第1の金属層30aが露出していることが分かる。
【0080】
ここで第2の金属層30bが備わることの効果を説明する。先に述べたとおり本開示の効果を享受するには、金属層30の中で最も延性の大きい第1の金属を主成分とする第1の金属層30aの厚さが、最も厚く8μm以上であることが求められる。第2の金属層30bについては備わっていてもいなくてもよく、また第2の金属層30bが備わっていても、その厚さに制約はない。
【0081】
しかし第2の金属層30bを備え、第2の金属の延性を適切に選択すると、突起50の長さを不要に長くすることを防ぐ効果を得ることができる。
図10に示した突起50の形状を、水準1と水準2とで比較すると、第2の金属層30bとしてNiを1μm未満でも製膜している水準2の方が、突起50の長さが短くなっている。これは第2の金属層30bの主成分である第2の金属(Ni)の延性が大きくないため、工程505における個片化で、第1の金属層30aが不要に引き伸ばされることを、第2の金属層30bが抑制するためである。
【0082】
脱落防止や短絡回避の観点から捉えて、突起50の長さは不要に長くない方が好ましい。本発明者らが検討した結果、第1の金属層30aとしてAgもしくはCuを10μmの厚さで形成し、さらに第1の金属層30aに直接接触して積層するように、第2の金属層30bを形成するとき、第2の金属をNiと同程度の延性を有するように選べば、厚さが1μm未満であっても、突起50の長さを20μm未満に抑えることができる。
【0083】
図10に示した水準2の結果では、突起50の長さはすべて20μm未満であり、超音波洗浄後の脱落は発生しない。このため突起50の、半導体基板32の裏面側下方に向かって突き出る長さは20μm未満であることが望ましい。
【0084】
すなわち、金属層30は、第2の金属層30bを有し、第2の金属層30bは、第1の金属層30aに接触して積層形成され、平面視において、半導体装置1の中央に面する方を内側とし、半導体装置1の外周に面する方を外側とすると、突起50の内側側面は、厚さが1μm未満の第2の金属層30bが露出し、突起50の外側側面は第1の金属層30aが露出し、突起50の、半導体基板32の裏面側下方に突き出る長さは20μm以下である半導体装置1であることが望ましい。
【0085】
ところで
図8Aから
図8Fで示したように、工程505において、第1の金属層30aはブレード600によって物理的に押し出された分が突起50の主成分となる。そのため突起50の幅を太くするのに必要な第1の金属層30aの厚さと、突起50の断面視における形状に現れる特徴との間には相関がある。以下ではその相関を説明する。
【0086】
図12Aに本実施形態1における別の典型例である突起50の断面SEM像を示す。
図12Aに示した構造は、第1の金属層30aとしてAgを厚さ10μmで製膜し、第1の金属層30aに接触して積層形成される第2の金属層30bとして、Niを厚さ1μm未満で製膜した半導体装置1を個片化することで形成された突起である。
図9Bを用いて定義した突起50の幅をWb[μm]、突起50の長さをHb[μm]とし、第1の金属層30aの厚さをM1[μm]とする。
【0087】
さらに半導体層40の側面(破線D)から、半導体装置1の外側に向かって最も突き出る位置(実線H)までのX方向における距離をL1/2[μm]とすると、L1は概ね、工程505における個片化で用いられたブレード600の幅であるとみてよい。ブレード600があてがわれることで、シリコンウェーハから、X方向においてL1の幅が削除されることになり、ブレード600の両側にそれぞれ備わる半導体装置1の、片方側だけでこれを見ると、L1/2だけ削除される痕跡が残ることになる。
【0088】
したがって片方側だけで見ると、工程505においてブレード600で物理的に押し出された第1の金属層30aの量(
図12Aにおいて紙面奥行き方向は一様であると捉えて、ここでは量の概念を断面視的に論じる)は、M1×L1/2[μm
2]であり、これが突起50の長さの基準(実線E)よりも下方における突起50に変形すると見ることができる。実線Eよりも下方における突起50の形状は、断面視で概ね三角形と捉えられるため、形成された突起50の量はWb×Hb/2となる。
【0089】
これらがおよそ等しくなるはずであるため、M1×L1/2≒Wb×Hb/2の関係が成立することになる。したがって、およそM1=Wb×Hb/L1の関係が成立することになる。突起50の幅WbについてはWb≧5μmの関係になることが望ましいため、本実施形態1においてはM1≧5×Hb/L1の関係が成立するように、第1の金属層30aの厚さが備わっていればよい。この関係が成立していれば、突起50を安定して幅の太い形状にすることができる。
【0090】
すなわち突起50の断面視で、突起50の根元の、第1の金属層30aが半導体層40の側面よりも外側へ最も膨らむ位置において、当該位置の、半導体層40の側面に垂直な方向で、半導体層40の側面から外側に膨らむ長さの2倍をL1[μm]とし、突起50の根元の幅をWb[μm]とし、突起50の長さをHb[μm]とすると、第1の金属層30aの厚さは5×Hb/L1[μm] 以上であればよい。
【0091】
上記の関係をさらに厳密に捉えたものを
図12Bに示す。断面視において、突起50の外側側面で、半導体層40に近接するところに現れる湾曲形状は、ブレード600の先端の丸みを帯びた形状が反映されたものであるとみることができる。断面視において、半導体層40に近接し、半導体層40の側面(破線D)から下方かつ外側に現れる湾曲形状を2乗までの多項式で近似したとき、その近似曲線が極小(すなわち微分係数がゼロ)となる位置(
図12B中における点J)までの、半導体層40の側面(破線D)からの距離をL2/2[μm]とすると、L2は概ね工程505における個片化で用いられたブレード600の幅であるとみてよい。
【0092】
したがってM1×L2/2≒Wb×Hb/2の関係が成立することになり、突起50の幅WbはWb≧5μmの関係が望ましいことから、M1≧5×Hb/L2の関係が成立することが望ましい。
【0093】
すなわち突起50の断面視で、金属層30と突起50との外側側面は、半導体層40の側面に起点がある湾曲形状を有し、半導体層40の側面から、湾曲形状を多項式近似したときの近似曲線が極小となる位置までの、半導体層40の側面に垂直な方向における距離の2倍をL2[μm]とし、突起50の根元の幅をWb[μm]とし、突起50の長さをHb[μm]とすると、第1の金属層30aの厚さは5×Hb/L2[μm] 以上であればよい。
【0094】
ところで金属層30を厚くすると、
図4に示す製造工程のうち、工程504のシリコンウェーハ裏面への金属(金属層30)製膜の後に、シリコンウェーハの反りが大きくなる場合がある。シリコンウェーハの反りが大きいと、以降の工程が進行しにくくなるため都合がわるい。なるべくシリコンウェーハの反りを抑制するためには、工程503のシリコンウェーハの薄化加工で、シリコンウェーハをなるべく薄化しないことが有効である。
【0095】
本発明者らの検討の結果によれば、金属層30において、第1の金属層30aを、Agを主成分として8μmの厚さで形成した場合、半導体基板32の厚さが150μm以上であればシリコンウェーハに生じる反りを最大でも7mm未満に抑制できることが分かった。シリコンウェーハの反りが7mm未満であれば工程504より後の工程を円滑に進行することができる。
【0096】
また半導体装置1として許容される製品の厚さを超えない範囲で、半導体基板32を厚く残すことが望ましい。製品の厚さの上限としては400μmが要望されることが多い。半導体装置1の厚さは、マージンを考慮して、390μm以下であることが望ましい。
【0097】
すなわち本実施形態1における半導体装置1は、半導体基板32の厚さが150μm以上であり、半導体装置1の厚さが390μm以下であることが望ましい。半導体基板32の厚さは、より具体的には、150μm以上280μm以下であることが望ましい。上限280μmというのは、半導体装置1の厚さ上限390μmから、ボール型のバンプ電極の高さの最小である100μmと、金属層30の厚さの最小である8μmを、マージンを考慮して差し引いた値である。
【0098】
ところで本実施形態1における半導体装置1は、ボール型のバンプ電極(ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181)の高さが、最小でも100μm以上で備わることを特徴としている。バンプ電極の高さは150μm以上の大きいものが求められることもあり、そのような場合には、各バンプ電極の高さは、半導体基板32の厚さよりも大きくなることがある。以下では、各バンプ電極の高さが、半導体基板32の厚さよりも大きくなる場合の特徴について説明する。
【0099】
各バンプ電極の高さh[μm]が、半導体基板32の厚さよりも大きくなる場合、
図1および
図2に示すように、典型的には、実装前の各バンプ電極の直径r1[μm]は、各バンプ電極が接触するそれぞれのパッドの直径r2[μm]よりも大きくなる(r1>r2)。しかしr1およびr2の大小関係および、平面視における半導体層40の大きさによっては、半導体装置1を実装基板にフェイスダウン実装すると、バンプ電極が半導体装置1の外周からはみ出てしまうことがある。バンプ電極が半導体装置1の外周からはみ出ると、金属層30と接触して短絡する可能性が高まるので望ましくない。
図13に、本実施形態1における半導体装置1で、平面視での形状が1辺の長さが800μm(0.8mm)の正方形である半導体装置1を、実装基板にフェイスダウンで実装した後の断面SEM像を示す。
【0100】
図13に示すように、半導体装置1のバンプ電極は実装基板800へのフェイスダウン実装で、縦方向(+Z方向)に一定量だけ押しつぶされる。この結果、バンプ電極は横方向(±X方向)に押し出される。実装後のバンプ電極の直径をr3[μm]とするならば、r3>r1となる。
図13に示す半導体装置1においては、実装前のバンプ電極の直径r1は0.26μmであったが、実装後のバンプ電極の直径r3は少なくとも0.29μmまで拡大していることが分かる。
【0101】
本発明者らの検討では、各パッドから横方向へ押し出された分(r3-r2)は、最大で、実装前におけるバンプ電極の直径とパッド直径との差(r1-r2)の5倍に至ることが分かった。そこで、平面視で半導体装置1の各パッド(ソースパッド、ゲートパッド、ドレインパッド)の外周から、それぞれ最近接する半導体層40の外周までの距離をd[μm]とすると、あらかじめ半導体装置1について、d≧(r3-r2)/2≧5×(r1-r2)/2の関係が成立するように、各パッドを設置すればよいといえる。関係式の右辺が2で除してあるのは、断面視において各バンプ電極が押し出された分の、片側だけを考慮するためである。
【0102】
上記の関係が成立するように各パッドを設置すれば、半導体装置1をフェイスダウン実装した後においても、平面視で半導体層40の外周からバンプ電極(ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181)がはみ出ることがなく、短絡の可能性を低めることができる。
【0103】
ところでバンプ電極の高さを150μm以上確保しながら、半導体装置1の面積を特に小さくすることが求められる場合がある。典型的には、平面視で半導体装置1(半導体層40)を1辺の長さが800μm(0.8mm)以下の正方形状とすることが求められる。尚、ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181の3種類のバンプ電極の形成が必要であれば、半導体層40をなるべく小さい形状にすることが求められる場合ほど、
図2に示すように半導体装置1はバンプ電極を4つ備える正方形状とすることが自然である。
【0104】
半導体装置1の限られた面積の中に、相対的に大きなバンプ電極を形成するには、バンプ電極同士が接触しないよう特に留意せねばならない。平面視で、隣接するバンプ電極間においては少なくとも2×dの寸法が確保されることが好ましい。したがって、平面視において半導体層40が、1辺の長さをL[μm]とする正方形状であるとすると、半導体層40の1辺に沿ってバンプ電極は2つ形成されるから、L≧2×r2+4×d≧10×r1-8×r2の関係が成立することが好ましい。
【0105】
所望する半導体装置1の1辺の長さLに対して、上記の関係が成立するように、バンプ電極の直径r1やパッドの直径r2を選択することが望ましい。例えば、半導体層40の1辺の長さL=780μm(0.78mm)の制約の下で、バンプ電極の高さh=190μmが求められる場合、バンプ電極の直径r1はおよそ260μmとなる。すると上記の関係式に基づいて、バンプ電極を載置するパッドの直径r2は、228μm以上であることが望ましいことになる。
【0106】
すなわち本開示における半導体装置1は、フェイスダウン実装が可能なチップサイズパッケージ型の半導体装置1であって、半導体基板32と、半導体基板32上に形成された低濃度不純物層33と、半導体基板32と低濃度不純物層33とを合わせて半導体層40と称したとき、半導体層40の表面側に形成された、高さ150μm以上のボール型のバンプ電極(ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181)と、を備え、ボール型のバンプ電極の高さは半導体基板32の厚さよりも大きく、半導体層40の平面視において、半導体層40は1辺の長さがL[μm]の正方形状であり、平面視でボール型のバンプ電極の直径をr1[μm]、ボール型のバンプ電極と半導体層40の表面との接触面の直径をr2[μm]とすると、r1>r2であり、L≧10×r1-8×r2の関係が成立する半導体装置1であることが好ましい。
【0107】
このような構造である場合、小型の半導体装置1でバンプ電極の高さを150μm以上確保しながら、フェイスダウン実装後においても、平面視で半導体層40の外周からバンプ電極(ソースバンプ電極111、ゲートバンプ電極119、ドレインバンプ電極181)がはみ出ることがなく、さらにバンプ電極同士が接触することを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本願発明に係る縦型電界効果トランジスタを備える半導体装置は、電流経路の導通状態を制御する装置として広く利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 半導体装置
10 縦型電界効果トランジスタ(トランジスタ)
11 ソース電極
12、13、82,83 部分
14 ソース領域
15 ゲート導体
16 ゲート絶縁膜
17 トレンチ
18 ボディ領域
18a 接続領域
30 金属層
30a 第1の金属層
30b 第2の金属層
32 半導体基板
33 低濃度不純物層またはドリフト層
34 層間絶縁膜
35 パッシベーション層
38 ドレイン引き上げ領域
40 半導体層
50、500 突起(バリ)
81 ドレイン電極
111 ソースバンプ電極
119 ゲートバンプ電極
181 ドレインバンプ電極
500a 半遊離体
600 ブレード
700 ダイシングシート
800 実装基板
501 工程
502 工程
503 工程
504 工程
505 工程
A1 活性領域
A2 制御領域
A3 ドレイン導通領域
【要約】
フェイスダウン実装が可能なチップサイズパッケージ型の半導体装置(1)は、半導体基板(32)と、半導体基板(32)上に形成された半導体層(40)と、半導体層(40)に形成された縦型電界効果トランジスタ(10)と、半導体層(40)の表面側に形成された、高さ100μm以上のボール型のバンプ電極と、半導体基板(32)の裏面側の全面に接触して形成された多層構成の金属層(30)と、を備え、金属層(30)のうち、最も厚い第1の金属層(30a)は、金属層(30)を構成する金属種の中で最も延性が高い第1の金属を主成分とし、第1の金属層(30a)は厚さが8μm以上で、半導体層(40)の平面視において、金属層(30)の外周には半導体基板(32)の裏面側下方に突き出る突起(50)が備わり、突起(50)の断面視において、突起(50)の幅は5μm以上となる個所が備わる。