(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】溶解金属加熱用ヒータ及び溶解金属加熱方法
(51)【国際特許分類】
F27B 3/20 20060101AFI20240621BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
F27B3/20
F27D11/06 Z
(21)【出願番号】P 2021149766
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592017002
【氏名又は名称】三建産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】万代 峻
(72)【発明者】
【氏名】吉本 成実
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-226235(JP,A)
【文献】実開昭64-033351(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/20
F27D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉又は溶解保持炉おいて、溶解または温度保持に使用される溶湯を加熱する溶解金属加熱用ヒータであって、
前記溶湯の表面より高い位置に設置され、加熱材料を誘導加熱する誘導加熱コイルと、
前記加熱材料を、前記誘導加熱コイルが設置された上部位置から前記溶湯内の下部位置まで昇降可能な昇降装置を備えることを特徴とする溶解金属加熱用ヒータ。
【請求項2】
前記加熱材料は、カーボンからなることを特徴とする請求項1に記載の溶解金属加熱用ヒータ。
【請求項3】
溶解炉又は溶解保持炉おいて、溶解または温度保持に使用される溶湯を加熱する溶解金属加熱方法であって、
前記溶湯の表面より高い位置に設置され、加熱材料を誘導加熱する誘導加熱コイルと、前記加熱材料を、前記誘導加熱コイルが設置された上部位置から前記溶湯内の下部位置まで昇降可能な昇降装置を備える溶解金属加熱用ヒータを使用して、
前記上部位置にて前記誘導加熱コイルを介して前記加熱材料を加熱した後、前記加熱材料を前記下部位置まで降下させて前記溶湯を昇温し、次に前記加熱材料をさらに前記上部位置まで上昇させて前記加熱材料を加熱した後、前記加熱材料を前記下部位置まで降下させる工程を繰り返して行い前記溶湯に熱量を伝達させることを特徴とする溶解金属加熱方法。
【請求項4】
前記誘導加熱コイルを介した前記加熱材料の加熱により、前記加熱材料を前記溶湯の温度よりも高い温度にすることを特徴とする請求項3に記載の溶解金属加熱方法。
【請求項5】
前記溶湯は、アルミ溶湯であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の溶解金属加熱用ヒータ及び溶解金属加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解または温度保持に使用される溶湯を加熱する溶解金属加熱用ヒータ及び溶解金属加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、
図4に示すように、誘導加熱を利用して金属を溶解する誘導加熱溶解炉が知られている(例えば、特許文献1など)。
【0003】
これは、容器状の炉本体1の周囲に誘導加熱コイル5が巻回されたもので、炉本体1に収容された被溶融金属10に磁場を浸透させて誘導加熱するものである。
炉本体1は底面壁を構成するベース体2と、ベース体2上に円周方向に配設された複数の導電性セグメント3を有していて、各導電性セグメント3の内部には冷却水路4が形成され、冷却水路4に冷却水を流通させることによって導電性セグメント3を含む炉本体1の全体を所定の温度以下に冷却させるものである。そして、炉本体1の側壁の内側面に炉本体1の冷却能力を低減するための隔壁部材6を設けて、必要以上に冷却能力が大きくなることを防止している。
【0004】
また、
図5に示すように、容器状の炉本体1の周囲に巻回された誘導加熱コイル5の中に冷却水路4が形成され、冷却水路4に冷却水を流通させることによって誘導加熱コイル5を所定の温度以下に冷却させるものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、容器状の炉本体1の周囲に誘導加熱コイル5を設けたものは、被溶融金属10を効率よく誘導加熱するために炉本体1の側壁を薄くする必要があり、そのため側壁の経時的な傷みが早くなるといった問題がある。特に被溶融金属10がアルミ溶湯の場合、非磁性体のため誘導加熱ではコイルの銅損が生じて効率が低下する。
そして、側壁が傷んだ場合には、被溶融金属10(溶湯)の抜き取りが必要になることに加えて、誘導加熱コイル5のメンテナンスも含めて炉本体1を交換しなくてはならないので、作業時間が長くなるとともにコスト高にもなる。
【0007】
また、誘導加熱コイル5の中に冷却水を流通させたものでは、誘導加熱コイル5が傷つくと水が飛び散り溶湯と接触し水蒸気爆発の恐れがある。
【0008】
また、炉本体1の中に複数の溶解金属加熱用の電気ヒータを浸漬して被溶融金属10を加熱することも考えられるが、炉本体1自体が大型化するとそれに見合っただけの電気ヒータを複数設置することは困難であり、設置スペースも限られるので現実的ではない。既存の電気ヒータは表面積あたりの負荷が30W/cm2以下の低負荷で使用制限もある。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、誘導加熱により効率よく溶湯に熱量を伝えることのできる溶解金属加熱用ヒータ及び溶解金属加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の溶解金属加熱用ヒータは、溶解炉(20)又は溶解保持炉おいて、溶解または温度保持に使用される溶湯(M)を加熱する溶解金属加熱用ヒータ(30)であって、
前記溶湯(M)の表面より高い位置に設置され、加熱材料(50)を誘導加熱する誘導加熱コイル(31)と、
前記加熱材料(50)を、前記誘導加熱コイル(31)が設置された上部位置(HP)から前記溶湯(M)内の下部位置(LP)まで昇降可能な昇降装置(32)を備えることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記加熱材料(50)は、カーボンからなることを特徴とする。
【0012】
また本発明の溶解金属加熱方法は、溶解炉(20)又は溶解保持炉おいて、溶解または温度保持に使用される溶湯(M)を加熱する溶解金属加熱方法であって、
前記溶湯(M)の表面より高い位置に設置され、加熱材料(50)を誘導加熱する誘導加熱コイル(31)と、前記加熱材料(50)を、前記誘導加熱コイル(31)が設置された上部位置(HP)から前記溶湯(M)内の下部位置(LP)まで昇降可能な昇降装置(32)を備える溶解金属加熱用ヒータ(30)を使用して、
前記上部位置(HP)にて前記誘導加熱コイル(31)を介して前記加熱材料(50)を加熱した後、前記加熱材料(50)を前記下部位置(LP)まで降下させて前記溶湯(M)を昇温し、次に前記加熱材料(50)をさらに前記上部位置(HP)まで上昇させて前記加熱材料(50)を加熱した後、前記加熱材料(50)を前記下部位置(LP)まで降下させる工程を繰り返して行い前記溶湯(M)に熱量を伝達させることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記誘導加熱コイル(31)を介した前記加熱材料(50)の加熱により、前記加熱材料(50)を前記溶湯(M)の温度よりも高い温度にすることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記溶湯(M)は、アルミ溶湯であることを特徴とする。
【0015】
なお、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶解炉又は溶解保持炉おいて、溶解または温度保持に使用される溶湯を加熱する場合に、溶湯の表面より高い位置で、例えばカーボンからなる加熱材料を誘導加熱した後、加熱した加熱材料を昇降装置により溶湯内に浸漬させることができるので、効率よく溶湯に熱量を伝えることができる。
すなわち、本発明は、誘導加熱を利用して溶湯を加熱するものではあるが、従来例のように、炉本体の周囲に誘導加熱コイルを巻回するものではなく、炉本体から離れた上部位置に誘導加熱コイルを設け、そこで加熱した加熱材料を溶湯内に浸漬させるものであるので、炉本体の側壁を特別に薄くする必要はない。
よって、側壁を薄くしたことに起因して炉本体が傷むことが早くなることを防止することができる。
【0017】
また、従来例では、側壁など炉本体が傷んだ場合に、溶湯の抜き取りに加えて、誘導加熱コイルのメンテナンスも含めて炉本体を交換しなくてはならないので、作業時間が長くなるとともにコスト高にもなっていたが、本発明ではこのような問題はない。
また、電気ヒータを浸漬した場合には、炉本体自体が大型化するとそれに見合っただけの電気ヒータを複数設置する必要があるが、本発明では一つの加熱材料を溶湯内に浸漬させるだけでよい。また、設置についても省スペース化が図れる。また、既存の電気ヒータでは表面積あたりの負荷が30W/cm2以下の低負荷であるが、本発明のように加熱材料を誘導加熱したものでは50W/cm2以上の表面負荷を達成することができる。
【0018】
このように溶湯の表面よりも上方の位置で誘導加熱した加熱材料を溶湯内に浸漬させることで溶湯を加熱する点は、上述した特許文献には一切記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る溶解金属加熱用ヒータにおいて加熱材料が上部位置にある状態を示した部分断面側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る溶解金属加熱用ヒータにおいて加熱材料が下部位置にある状態を示した部分断面側面図である。
【
図3】
図1に示す溶解金属加熱用ヒータを利用した溶解金属加熱方法を実施するための電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】従来例に係る溶解金属加熱用ヒータを示す部分断面側面図である。
【
図5】従来例に係る別の溶解金属加熱用ヒータを示す部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至
図3を参照して、本発明の実施形態に係る溶解金属加熱用ヒータ及びそれを利用した溶解金属加熱方法について説明する。
【0021】
本実施形態に係る溶解金属加熱用ヒータ30は、
図1に示すように、アルミニウムなどの非鉄金属の溶解炉20(溶解保持炉であってもよい)において、溶解または温度保持に使用される溶湯Mの中に、誘導加熱された加熱材料50を直接浸漬して加熱材料50の熱量を溶湯Mに与えて溶湯Mを加熱するものである。
【0022】
溶解炉20は、側壁21と底壁22からなり上部の開口は天井蓋25によって覆われていて、その天井蓋25に溶解金属加熱用ヒータ30が設けられている。天井蓋25は全体が蓋になっているが、一部が蓋になったものであってもよい。
【0023】
溶解金属加熱用ヒータ30は、誘導加熱コイル31と昇降装置32を備えている。
誘導加熱コイル31は、溶湯Mの表面より高い位置に設置され、加熱材料50を誘導加熱する。誘導加熱コイル31は、天井蓋25の略中央上面を上方から半分切欠いた部分にセットされた収納ボックス41中に設けられている。
ここで、加熱材料50は誘導加熱されるものであればよいので特に材質は限定されるものではないが、本実施形態では中空状のカーボンを使用している。
【0024】
昇降装置32は、天井蓋25の上面に固定された架台42に取付けられたエアーシリンダーからなり、上下に伸縮するエアーシリンダー32のロッド32aの下端に加熱材料50の上面がボルト締めされている。エアーシリンダー32は、ロッド32aの伸縮によって、加熱材料50を、誘導加熱コイル31が設置された上部位置HP(
図1)から、溶湯M内の下部位置LP(
図2)まで昇降可能にしている。
加熱材料50は、上部位置HP(
図1)において下端から半分の高さよりやや上の位置までの周囲が誘導加熱コイル31で覆われて加熱され、下部位置LP(
図2)では同じく下端から半分の高さよりやや上の位置までが溶湯Mの中に浸漬するようにされている。天井蓋25にはロッド32aの伸縮によって加熱材料50が貫通可能な円筒状の開口孔25aが形成されている。
また溶解炉20の内部には溶湯Mの温度を検知する溶湯温度センサーSが設けられている。
【0025】
このような溶解金属加熱用ヒータ30を利用した溶解金属加熱方法は、
図3に示すように構成される装置によって実施される。
これは、装置全体を制御するCPUからなる制御部61と、制御プログラムや各種データを格納するROMやRAMからなる記憶部62と、時間計測用のタイマー63からなる。制御部61には、溶湯Mの温度を検知する溶湯温度センサーSからの温度情報が入力される。また、制御部61はエアーシリンダー32及び誘導加熱コイル31用の交流電源Eと接続されている。
【0026】
次に本実施形態における溶解金属加熱方法について具体的に説明する。
制御部61は、エアーシリンダー32により加熱材料50を上部位置(HP)に移動させる。なお、初期設定では加熱材料50は上部位置(HP)に位置している。ここで、制御部61は、交流電源Eをオンして電源を誘導加熱コイル31に供給する。特に限定されるものではないが、ここでは30秒間、誘導加熱コイル31で加熱材料50を加熱する。このときの加熱材料50の表面温度は1200度(℃)以上である。時間はタイマー63により計測され、それら情報は制御部61に常時入力される。
【0027】
次に制御部61は、交流電源Eをオフするとともに、エアーシリンダー32を駆動してロッド32aを伸長させて、加熱材料50を上部位置(HP)から下部位置(LP)まで降下させる。このとき、加熱材料50は、溶湯Mの中に浸漬させられた状態でありこの状態を、制御部61は30秒間維持させる。
これにより、加熱材料50からの熱量が30秒間、溶湯Mに伝達されて溶湯Mが加熱される。
【0028】
次に制御部61は、エアーシリンダー32を駆動してロッド32aを収縮させて、加熱材料50を下部位置(LP)から上部位置(HP)まで上昇させるとともに、交流電源Eをオンして電源を誘導加熱コイル31に供給して、加熱材料50を再度30秒間誘導加熱する。
【0029】
制御部61は、このような工程をサイクル的に繰り返して行うことによって溶湯Mに熱量を伝達させて、溶湯Mの温度が設定温度(例えば、650~750度(℃))になるように制御する。溶湯Mの温度は、溶湯温度センサーS2により常時検知されているので、制御部61は、溶湯Mの温度が設定温度よりもかなり低いと加熱材料50による加熱を早めたり、あるいは加熱材料50の温度をさらに高くしたりすることもでき、また、逆に溶湯Mの温度が設定温度よりもかなり高いと加熱材料50を溶湯Mに浸漬させる時間を少なくしたり、あるいは加熱材料50を溶湯Mに浸漬させないようにしたり制御することができる。
【0030】
以上のように本実施形態に係る溶解金属加熱用ヒータ及び溶解金属加熱方法によれば、溶解炉20又は溶解保持炉おいて、溶解または温度保持に使用される溶湯Mを加熱する場合に、溶湯Mの表面より高い位置で加熱材料50を誘導加熱した後、加熱した加熱材料50を昇降装置であるエアーシリンダー32により溶湯M内に浸漬させることができるので、効率よく溶湯Mに熱量を伝えることができる。
【0031】
なお、本実施形態では、一つの加熱材料50を溶湯Mに浸漬させるようにしたが複数の加熱材料50を誘導加熱して使用することもできる。
天井蓋25に誘導加熱コイル31を設けるように収納ボックス41を取付けたが、天井蓋25から離れた上方に設けることもできる。また、天井蓋25にかえて、側壁21及び底壁22と一体化された天井壁を形成することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 炉本体
2 べース体
3 導電性セグメント
4 冷却水路
5 誘導加熱コイル
6 隔壁部材
10 被溶融金属
20 溶解炉
21 側壁
22 底壁
25 天井蓋
25a 開口孔
30 溶解金属加熱用ヒータ
31 誘導加熱コイル
32 昇降装置(エアーシリンダー)
32a ロッド
41 収納ボックス
42 架台
50 加熱材料
61 制御部
62 記憶部
63 タイマー
E 交流電源
HP 上部位置
LP 下部位置
M 溶湯
S 溶湯温度センサー