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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】分子シャペロン誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9794 20170101AFI20240621BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240621BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240621BHJP
   C12G 3/022 20190101ALN20240621BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61Q19/00
A61K36/899
A61P17/00
A61P43/00 111
A23L33/10
C12G3/022 119V
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019075337
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020172468
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-04-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年4月6日に下記アドレスのウエブサイトにて第9回化粧品産業技術展(CITE JAPAN 2019)の出展者技術発表会の発表予定内容概要として開示 https://www.citejapan.info/ https://evt-reg2.jp/reg3/Usr/citejapan2019/Usr_search.php?form_id=183(講演番号C-23の項)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398050261
【氏名又は名称】株式会社坂本バイオ
(73)【特許権者】
【識別番号】397066856
【氏名又は名称】秋田銘醸株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤英晃
(72)【発明者】
【氏名】山田紗弓
(72)【発明者】
【氏名】大友理宣
(72)【発明者】
【氏名】後藤考宏
(72)【発明者】
【氏名】向山俊之
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-284632(JP,A)
【文献】特開2010-285357(JP,A)
【文献】特開2009-298765(JP,A)
【文献】特開平05-310590(JP,A)
【文献】特開2005-015456(JP,A)
【文献】特開2002-034509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L 5/40- 5/49
A23L 31/00-33/29
C12G 1/00- 3/08
C12H 6/00- 6/04
A61K 35/00-35/768
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕を有効成分として含有する分子シャペロン発現促進剤。
【請求項2】
酒粕の溶媒抽出液及び/または酒粕溶媒抽出液の塩析沈殿物を有効成分として含有する分子シャペロン発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体などを構成する細胞における分子シャペロンの発現を活発化し、分子シャペロンの産生を促す作用を有する分子シャペロン産生促進剤に関する。このような分子シャペロン産生促進剤は、あらゆる種類の細胞に於いて、分子シャペロンの機能により、その細胞の生理作用を増強し、あるいはその細胞が傷害を受けていた場合は修復を促進し、本来の生理機能を回復させる役割を果たし得る。例えば皮膚化粧料などに用いることにより、皮膚の荒れなど不健康な状態からの回復を促し、健全性を保つ作用を該皮膚化粧料に付与し得る。また食品等に用いることにより、身体各所に於いて、傷害や不調など不健康状態からの回復、又は健全性保持に役立ち得る。
【背景技術】
【0002】
分子シャペロンは、当初は細胞内で新たに合成されたタンパク質分子のフォールディングを実現して機能を獲得するのを助けるタンパク質として知られていたが、現在では、変性タンパク質の高次構造の回復の介助や機能性タンパク質の生理機能の調節などにも関与していることが知られている。例えば、風邪などの発熱時に強く誘導され熱変性タンパク質の生理機能回復を介助する。細胞内の分子シャペロンの発現を抑えると細胞が死滅することも知られており、逆に遺伝子操作により分子シャペロンを高発現した細胞は各種ストレスから細胞を防御する。このため、分子シャペロン誘導剤を何らかの疾病の予防や治療、身体の不調の予防や回復、あるいは健康維持に利用することも考えられる。分子シャペロン誘導剤は様々なストレス等により生ずる生体の傷害等に関し、例えば皮膚に外用すれば様々なストレスによる荒れを防ぎ、又は荒れからの回復を促す作用が期待され、他方、内用すれば、胃粘膜やさらには諸臓器組織の細胞に作用し、その保護修復に資することが期待される。また分子シャペロンは老化に伴い減少することが知られており、分子シャペロン誘導剤は老化による種々の機能不全等の抑止、軽減に寄与し得る。
【0003】
分子シャペロンに関する先行技術の例として,分子シャペロン誘導に関しては,細胞内でコラーゲン繊維の正しい構造形成に関与するHSP47(特許文献2)、及び紫外線ストレスを軽減するHSP70(特許文献1)がある。本発明は主にHSP60に着目した。HSP60も細胞内外に存在して前段の諸機能を果たす分子シャペロンの一つであり、新規合成タンパク質の折り畳み介助のほか、免疫機能を調節する働きなどが知られている(非特許文献2、4、5、6、7)。HSP60は加齢と共に発現量が低下し、細胞内に異常タンパク質凝集体が蓄積しやすくなり、その結果、アルツハイマー病などのフォールディング病を誘発しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5697879号公報
【文献】特許第5787246号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shan, Y.-X. et al., Journal of Molecular and Cellular Cardiology, 35(9), 1135-1143, 2003
【文献】Juwono, J. et al., Journal of Diabetes Research, Volume 2016, Article ID 8017571, 6 pages
【文献】鮎沢 大, 他,:化学と生物, Vol. 38, No.4, 224-229, 2000
【文献】Itoh, H. et al., The Journal of Biological Chemistry, 270, 13429-13435, 1995
【文献】Itoh, H. et al., The Journal of Biological Chemistry, 274, 35147-35151, 1999
【文献】Hendrick, J. P. and Hartl, F.-U., Annual Review of Biochemistry, 62, 349-384, 1993
【文献】Georgopoulos, C. and Welch, W. J., Annual Review of Cell Biology, 9, 601-634, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分子シャペロンは新規合成タンパク質の正しいフォールディングを介助し機能を獲得させることに加え、変性タンパク質の高次構造の回復の介助などの作用を持つことが明らかとなっている。そのため、分子シャペロン誘導剤は疾病の予防や治療、身体の不調の予防や回復などに利用し得ると考えられ、例えば皮膚に於いては、様々なストレスや老化による皮膚の荒れを防いだり、あるいはその荒れからの回復を促進したりする目的で利用し得ると考えられる。よって、本発明の目的は、分子シャペロンの産生を誘導することにより、種々のストレスや老化に伴う生体組織、細胞の異常、傷害を防ぎ、又は回復を促し得る分子シャペロン誘導剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、酒粕、又はその由来成分を含む組成物を用いることにより、分子シャペロンの産生を誘導できることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
よって、本発明は、酒粕、又はその成分を有効成分として含む、分子シャペロン誘導剤を提供する。本発明の分子シャペロン誘導剤を人体に対し、内用若しくは外用することにより、分子シャペロン産生を誘導し、細胞保護作用、抗細胞死作用、抗炎症作用、及び胃粘膜保護作用等を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分子シャペロン誘導剤は、食品として広く用いられる酒粕に由来するものであり、人体に適用する素材として安全性に関する問題が少ないと考えられる。また酒粕は、酒粕エキスとして化粧料に配合され利用されている実績がある。本発明は酒粕そのものやその乾燥粉末、又は酒粕エキス即ち酒粕の溶媒抽出物、さらにはその一部分を成す成分である塩析沈殿物等を利用し得るものであり、食品として、また皮膚外用剤として人体に安全に適用し得るという利点がある。
酒粕は食品としても常用されているため入手しやすいものであり、その酒粕から比較的簡易に利用しやすい形態に加工し得ることも、本発明のシャペロン誘導剤の利点である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酒粕の水抽出物によるHSP60の産生誘導
【0011】
図2】各種酒粕サンプルによるHSP60の産生誘導
【0012】
図3】チミジン(Thymidine)によるCaco-2細胞の老化誘導現象の確認(細胞増殖の停止)
【0013】
図4】チミジンによるCaco-2細胞の老化誘導に対する酒粕の抑制効果
【0014】
図5】ドキソルビシン(Doxorubicin)による老化誘導作用に対する酒粕の抑制効果
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のシャペロン誘導剤は、酒粕そのものやその乾燥粉末、又は酒粕エキス即ち酒粕の溶媒抽出物、あるいは溶媒抽出物の塩析沈殿物等の分画物を含有する。
なお本発明に於いて、酒粕とは、日本酒製造の際、もろみの「圧搾」工程ののちに残る白色の固形分を指す。また吟醸、大吟醸、本醸造、純米、普通等の区分種類や、形状の別にかかわらず使用できる。
【0016】
本発明のシャペロン誘導剤の一形態として、溶媒抽出物がある。たとえば酒粕に精製水を添加し、30分~3時間程度、撹拌し、しかる後、遠心分離して上清を集めるか、あるいはろ過して固形分を除く、等の方法により、水溶液を得る。撹拌時は、中性条件が好ましく、中性条件を維持するために、緩衝剤を用いることができる。緩衝剤としてはTris塩酸などを用いることができ、この他にも、HEPES,PIPES等の中性域の緩衝剤が利用可能であるが、特段用いなくてもよい。
【0017】
上記の溶液はそのまま本発明のシャペロン誘導剤とすることもできるが、さらに工程を加え、硫酸アンモニウム等の塩を添加して得られる沈殿物を用いてもよい。例えば、この溶液に硫酸アンモニウムを撹拌しながら徐々に加え、飽和濃度としたのち、遠心分離して沈殿物を得る。
遠心分離は、例えば、10,000~22,000rpmで5~60分程度行なう。好ましくは、15,500~20,000rpmで10~15分程度行なう。もっとも、ここでの操作は、目的に応じて成分を大まかに分離するためのものであり、他のpH条件、他の遠心条件であっても、最終的に本発明の効果が得られるのであれば、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0018】
あるいは例えば、上記溶液に飽和濃度のn%の硫酸アンモニウムを加えて沈殿Pと上清Sに遠心分離し、その上清Sには飽和濃度のni+1%の硫酸アンモニウムを加えて遠心分離する操作(iは1以上の整数であり、0<n<ni+1≦100)を繰り返す。すなわち、硫酸アンモニウムの濃度が飽和濃度に達するまで、硫酸アンモニウムの濃度を漸増させて遠心分離と上清への添加を繰り返し分画成分を得る。濃度の増分は均等でもよいし、異なっていてもよく、例えば、10%ずつ変化させてもよいが、例えば、30%、50%、70%、100%のように増やすこともできる。
【0019】
このようにして各々の遠心分離過程で得られた沈殿物を、分子シャペロン誘導作用を有する分画成分として取り出すことで、本発明の分子シャペロン誘導剤組成物を得ることもできる。
【0020】
本発明においては、例えば、飽和濃度の30%の硫酸アンモニウムを添加して遠心分離を行なって得た上清に、飽和濃度の50%の硫酸アンモニウムを添加して遠心分離を行なって得た沈殿を30~50%の分画成分という。
【0021】
分子シャペロン誘導作用の確認は、後記の通り、被験物質を培養細胞系に添加してしばらく培養したのち、当該細胞を集めて溶解し電気泳動を行い、イムノブロット法を用いて行うことができるが、本発明者らの検討によれば、精製水等による簡易な方法を用いた抽出物について活性が認められ、また0~30%の分画成分、30~50%の分画成分、50~70%の分画成分70~100%の分画成分のすべて、又は何れかに有効な成分が存在することが見出された。
【0022】
本発明の組成物は、経口用(内用)又は非経口用(外用)の両形態をとることができる。経口用の場合は、本発明の組成物を、例えば医薬品または食品などの形態に調製する。また、非経口用の場合には、化粧料、医薬部外品、医薬、皮膚外用剤等の形態に調製することができる。経口、非経口の用途に依らず、本発明の組成物は分子シャペロン産生の誘導作用により、細胞保護薬、抗細胞死薬、抗炎症薬、及び胃粘膜保護薬等とすることができる。
【0023】
以下、本発明の具体的な組成物を用途別にさらに詳述する。化粧料等の用途に於いては、例えば、軟膏剤、溶液、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ジェル、エッセンス(美容液)、ファンデーション、パック・マスク、口紅、スティック、入浴剤等の皮膚外用剤等として、医薬品、医薬部外品を含む広い範囲に適用可能である。
【0024】
また、化粧料の剤型も、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。
【0025】
本発明の化粧料への酒粕エキスの配合量は、化粧料全量中0.001~20重量%が好ましく、より好ましくは0.01~16重量%、さらに好ましくは0.1~12重量%である。1~10重量%が最も好ましい。本発明の化粧料は、炎症を抑え、肌あれ、あれ性を防ぎ、皮膚を保護し、肌を整え、皮膚を健やかに保つ作用及び老化抑制作用を有するので、抗炎症用化粧料、肌あれ、あれ性を防ぎ、皮膚を保護し、肌を整え、皮膚を健やかに保つ用途の化粧料及び老化抑制用化粧料として使用される。また、本発明の化粧料は、特に皮膚外用剤としての用途に好ましく応用できるので、抗炎症用皮膚外用剤、肌あれ、あれ性を防ぎ、皮膚を保護し、肌を整え、皮膚を健やかに保つ用途の皮膚外用剤及び老化抑制用皮膚外用剤として使用される。
【0026】
本発明の分子シャペロン誘導剤(以下、本発明誘導剤)を含有させて食用に供する量の目安は、健康状態、年齢などにより異なるが、例えば、乾固物として成人1日あたり30~6000mg、好ましくは約500~2000mgである。健康食品とするときは、乾固物に換算して健康食品素材の全量に対し、0.0005~80重量%、好ましくは、0.1~20重量%の割合になるように添加される。0.0005重量%未満では、目的とする効果が乏しく、80重量%を越えて配合しても効果の顕著な増加は望めない。本発明の飲食品は、本発明誘導剤を単独か又は食品に一般に使用される原料、例えば糖類、澱粉、脂質などの賦形剤、さらには必要に応じて結合剤、滑沢剤、着色剤、香料などの矯味矯臭剤などを併用することができ、常法により製造される。本発明の飲食品には、例えばキャンディー、ドロップ、錠菓、チューイングガム、カプセル、飲料などの食品が含まれる。
【実施例
【0027】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は当該実施例により限定されるものではない。
【0028】
調製例1 酒粕の精製水による抽出液
酒粕1重量に対し20重量の精製水を加え、均一に分散させ、常温で穏やかに2時間撹拌したのち、濾紙を用いて濾過した。得られた濾液の一部を凍結乾燥し、10 mg/mlになるようにPBSに溶かし、次に記す細胞培養系の試験に供するサンプルとした。また残部の濾液7容量に対し、3容量の比で1,3-ブチレングリコールを加えて混合し、適宜滅菌処理を施し、化粧品等の原料サンプルを得た。
【0029】
試験例1 酒粕水抽出物による分子シャペロン誘導作用
Caco-2(理化学研究所から入手)はヒト結腸がん由来の細胞株であり、食品の吸収モデルとして使用される例が多い。Caco-2細胞を直径6 cm の培養皿に3.3×105個、播種し、3 mlのDMEM(High Glucose)に5%の仔牛の血清(FBS)と100 U/ml ペニシリン、100 mg/mlストレプトマイシンを添加した培地で24時間前培養し、細胞が培養皿に接着したのち、上記調製例1に記載の酒粕精製水抽出サンプルを、培地に対して終濃度0.1 mg/mlとなるよう添加し、さらに12時間培養した。なおPBSを対照とした。
【0030】
培養後の細胞を回収し、SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)を適宜加えて加熱溶解させ、SDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)に供した。SDS-PAGEにより、含まれるタンパク質を概ね分子量の順にゲル内に分離展開させたのち、さらに、ゲルにPVDF膜を密着させ、タンパク成分を電気的にPVDF膜へ移動させた。その後、PVDF膜上で抗HSP60抗体を使用した抗原抗体反応を行い発色させ、バンド状に発色検出されたHSP60の面積を当該タンパク質の量として解析した。試したサンプルによりHSP60の産生は、最大で2倍弱程度、誘導された。
【0031】
上記試験の結果、図1にて明らかなように、酒粕にはHSP60の産生を誘導する成分が含まれることが示された。
【0032】
調製例2 酒粕水溶性抽出物の硫安分画サンプル
日本酒の酒粕1重量を10mMのTris-HCl(pH7.4)緩衝液3重量中でホモジナイズし、遠心分離(20,000rpm, 30分)を行い上清と沈殿に分離させた。上清に30%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを加え30分攪拌し、攪拌終了後、遠心分離(20,000rpm, 30分)を行い、上清と沈殿に分離させた。沈殿は回収し、上清には50%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを加え30分攪拌後、遠心分離(20,000rpm, 30分)を行い上清と沈殿に分離させた。同様にして得た上清に、順次、飽和濃度の70%、100%の硫酸アンモニウムを加え撹拌、遠心分離を行い沈殿を回収することで、0~30%,30~50%,50~70%,70~100%の分画成分を得た。それぞれの分画成分を脱塩処理したのち、凍結乾燥し、10 mg/mlになるようにPBSに溶かし、次に記す細胞培養系の試験に供するサンプルとした。
【0033】
試験例2 酒粕抽出液の硫安分画サンプルによる分子シャペロン誘導作用
Caco-2(理化学研究所から入手)はヒト結腸がん由来の細胞株であり、食品の吸収モデルとして使用される例が多い。Caco-2細胞を直径6 cm の培養皿に3.3×105個、播種し、3 mlのDMEM(High Glucose)に5%の仔牛の血清(FBS)と100 U/ml ペニシリン、100 mg/mlストレプトマイシンを添加した培地で24時間前培養し、細胞が培養皿に接着したのち、上記調製例2に記載の酒粕抽出液硫安分画サンプルを、培地に対して終濃度0.1 mg/mlとなるよう添加し、さらに12時間培養した。なおPBSを対照とした。
【0034】
培養後の細胞を回収し、SDSを適宜加えて加熱溶解させ、SDS-PAGEに供した。SDS-PAGEにより、含まれるタンパク質を概ね分子量の順にゲル内に分離展開させたのち、さらに、ゲルにPVDF膜を密着させ、タンパク成分を電気的にPVDF膜へ移動させた。その後、PVDF膜上で抗HSP60抗体を使用した抗原抗体反応を行い発色させ、バンド状に発色検出されたHSP60の面積を当該タンパク質の量として解析した。試したサンプルは何れもHSP60の産生を、最大で2倍弱程度、誘導した。
【0035】
上記試験の結果、図2にて明らかなように、酒粕エキス分画成分はHSP60の産生を誘導することが示された。
【0036】
HSP70の誘導活性について、前記試験と同様に、但し検出系に用いる抗HSP60抗体の代わりに抗HSP70抗体を用い、試験を行った。その結果、酒粕はHSP70の産生をも誘導する活性を持つことが確認された。
【0037】
参考例1 チミジン(Thymidine)添加Caco-2細胞培養系による老化モデル
培養細胞の培地中にチミジン(Thymidine)を添加することにより、老化時によく似た状態を誘導できることが知られている。
【0038】
Caco-2細胞を直径6 cm の培養皿に3.3×105個、播種し、3 mlのDMEM(High Glucose)に5%の仔牛の血清(FBS)と100 U/ml ペニシリン、100 mg/mlストレプトマイシンを添加した培地で24時間前培養し、細胞が培養皿に接着したのち、チミジンを培地に対して終濃度1.5mMとなるよう添加し、数日間培養した。チミジンの添加、非添加の試験群を設け、比較した。
【0039】
培養後の細胞について、MTT法により、細胞数を計測した。細胞数は対象試験群の平均を1とする相対値で表示した。
【0040】
Caco-2細胞についてチミジンを添加することにより、増殖の停止に導かれた。この結果を図3に示した。また培地中にCD9の発現量が増加し、さらにはβ-actinに対する老化マーカーであるp53の発現量が増加したことから、老化誘導されたと考えられる状態になることを確認した(非特許文献3)。
これらの結果、チミジン添加Caco-2細胞培養系は老化モデルとして適した系であることが確認された。
なお、チミジンによる老化誘導に伴い、HSP60の発現量が6割程度にまで低下した。
【0041】
試験例3 チミジン添加培養系老化モデルによる酒粕の老化抑制効果の評価
Caco-2細胞を直径6 cm の培養皿に3.3×105個、播種し、3 mlのDMEM(High Glucose)に5%の仔牛の血清(FBS)と100 U/ml ペニシリン、100 mg/mlストレプトマイシンを添加した培地で24時間前培養し、細胞が培養皿に接着したのち、酒粕由来サンプルを、培地に対して終濃度0.1 mg/mlとなるよう添加し、12時間培養した。さらに、チミジンを培地に対して終濃度1.5mMとなるよう添加し数日間培養した。酒粕由来サンプルの添加、非添加の試験群を設け、比較した。
【0042】
培養後の細胞について、MTT法により細胞数を計測した。細胞数は対照となる酒粕サンプル非添加試験群の平均を1とする相対値で表示した。
【0043】
この結果を図4に示した。チミジンの前に酒粕エキスを添加することにより、チミジンによる老化誘導の指標である細胞増殖抑制が解除された。従って、酒粕エキスは老化の抑制に有効であることが示された。
【0044】
試験例4 ドキソルビシン(Doxorubicin)添加細胞培養系老化モデルを用いた酒粕の老化抑制効果の評価
ドキソルビシン(Doxorubicin)もまた、細胞培養系に添加して老化状態を誘導するために一般的に使用される試薬である。誘導される老化の指標として、たとえば細胞増殖の抑制がある。またHSP60等を過剰発現させるとドキソルビシンの影響を阻害することが報告されている(非特許文献1)。
Caco-2細胞を直径6 cm の培養皿に3.3×105個、播種し、3 mlのDMEM(High Glucose)に5%の仔牛の血清(FBS)と100 U/ml ペニシリン、100 mg/mlストレプトマイシンを添加した培地で24時間前培養し、細胞が培養皿に接着したのち、酒粕抽出物サンプルを、培地に対して終濃度0.1 mg/mlとなるよう添加し、12時間培養した。さらにドキソルビシン を添加し、数日間培養した。ドキソルビシンは100ng/ml、200ng/ml、又は無添加の試験群を設けた。また比較のためそれぞれ酒粕抽出物サンプルの代わりにPBSを添加試験群を設けた。
【0045】
培養後の細胞について、MTT法により、細胞数を計測した。細胞数は対照となるドキソルビシン無添加試験群の平均を1とする相対値で表示した。
【0046】
この結果を図5に示した。ドキソルビシン老化誘導モデル培養系に酒粕エキスを添加することにより、ドキソルビシンによる老化誘導の指標である細胞増殖抑制が緩和された。従って、酒粕エキスは老化の抑制に有効であることが示された。
【0047】
製品例1 化粧水
以下に示す処方の化粧水を常法により製造することができる。
成分 配合量(重量%)
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 3.5
イソステアリルアルコール 0.1
ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(20)ラウリルエーテル 0.5
エタノール 10.0
酒粕精製水抽出液(調製例1の化粧品原料) 5.0
防腐剤 適量
酸化防止剤 適量
香料 適量
精製水 残余
【0048】
製品例2 健康食品
以下に示す組成の錠剤様食品を常法により製造することができる。
成分 配合量(300mg中)
酒粕乾燥粉末(20%澱粉含有) 120.0mg
結晶セルロース 117.0mg
トレハロース 51.0mg
硬化ナタネ油 12.0mg
図1
図2
図3
図4
図5