(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】タオル織物
(51)【国際特許分類】
D03D 27/00 20060101AFI20240621BHJP
A47K 10/02 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
D03D27/00 A
A47K10/02 C
(21)【出願番号】P 2020094196
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】391052161
【氏名又は名称】楠橋紋織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】池内 勇二
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-086574(JP,U)
【文献】実公昭03-013106(JP,Y1)
【文献】特開昭56-123421(JP,A)
【文献】特開2002-155436(JP,A)
【文献】実公昭43-024536(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18、
D02G1/00-3/48、D02J1/00-13/00、
A47K10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物地の片面又は両面にパイル糸によるパイルを備えたタオル織物において、
前記パイル糸は、複数本の原糸が撚られた撚糸であり、
前記撚糸を構成する撚り合わされる前記原糸のうち2本以上は、紡績糸であって糸の太さが長さ方向において
ランダムに変化しているムラ糸であり、
前記原糸は、第1原糸と第2原糸との少なくとも2本を備え、
前記第1原糸は、太番手部分、中番手部分及び細番手部分の番手の異なる3種の部分を備え、前記第2原糸は、太番手部分、中番手部分及び細番手部分の番手の異なる3種の部分を備え、
一方の前記原糸の一つの番手に対しては前記他方の原糸の一つの番手が組み合わされているか、一方の前記原糸の番手部分の途中で他方の前記原糸の番手部分が変化しているかの何れかであることを特徴とするタオル織物。
【請求項2】
織物地の片面又は両面にパイル糸によるパイルを備えたタオル織物において、
前記パイル糸は、複数本の原糸が撚られた撚糸であり、
前記撚糸を構成する撚り合わされる前記原糸のうち3本以上は、紡績糸であって糸の太さが長さ方向において
ランダムに変化しているムラ糸であり、
前記原糸は、第1原糸、第2原糸及び第3原糸の少なくとも3本を備え、
前記第1原糸は、太番手部分と細番手部分の番手の異なる2種の部分を備え、前記第2原糸は、太番手部分、中番手部分及び細番手部分の番手の異なる3種の部分を備え、前記第3原糸は、太番手部分、中番手部分及び細番手部分の番手の異なる3種の部分を備え、
一方の前記原糸の一つの番手に対しては前記他方の原糸の一つの番手が組み合わされているか、一方の前記原糸の番手部分の途中で他方の前記原糸の番手部分が変化しているかの何れかであることを特徴とするタオル織物。
【請求項3】
前記ムラ糸は、撚り数が6~15(回/インチ)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタオル織物。
【請求項4】
複数の前記番手部分の互いの長さが異なることを特徴とする請求項1~3の何かに記載のタオル織物。
【請求項5】
前記原糸が綿100パーセントの紡績糸であることを特徴とする請求項1~4の何かに記載のタオル織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物地の片面又は両面にパイル糸によるパイルを備えたタオル織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タオル織物は、パイルの持つ柔らかな風合いや良好な吸水性、保温性、保湿性によって古くから我が国の日常生活で愛用されており、バスタオル、フェイスタオル、ウォッシュタオル、スポーツタオル、ハンドタオルなどのいわゆるタオル製品や、タオルケット,シーツ,ベッドカバー等の寝具製品,クッション,敷物など室内製品、バスローブやおくるみなどのベビー用衣類や帽子に代表される衣服製品に用いられている他、玩具、マスク、装飾品等々、様々な製品に適用されている。
他方、1本の糸に、太い部分、細い部分をランダムに施したムラ糸は、紡績技術が未発達の段階では糸のムラとして嫌われる傾向にあったが、紡績技術の発達に伴い均一な太さの糸が安定して供給されるようになった近年では、不均一な色落ちや風合いなどが評価され、特許文献1に示すようにジーンズに意図的に用いられたりしている。また、特許文献2にあっては、モップのような床面や壁面を清掃するための清掃具に適するパイル用繊維糸として、以上の単糸を寄り合わせて原糸とし、複数本の前記原糸を撚り合わせたものとして、複数本の前記原糸が、最大太さを有する第1原糸と、次に太い太さを有する第2原糸とを少なくとも有し、前記パイル用繊維糸の繊維方向の表面に前記第1原糸により第1凸部が形成され、前記第2原糸により第2凸部が形成され、前記第1凸部と前記第2凸部の高低差により前記繊維方向の表面に凹凸パターンを形成することによって、ペット毛などの捕集性を向上させるが提案されている。ところがこの特許文献2の提案は、清掃用具としての捕集性の向上という特殊な用途における提案であることがもちろん、前記第1原糸と前記第2原糸のそれぞれは均一な糸の太さのものを用いることを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-120525号公報
【文献】特開2013-199711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、織物表面に凹凸の変化や色彩の変化がランダムに表れることによって、織物地の全体の外観に斑模様状の外観や形態を現出させたタオル織物の提供を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、織物地の片面又は両面にパイル糸によるパイルを備えたタオル織物において、前記パイル糸は、複数本の原糸が撚られた撚糸であり、前記原糸の少なくとも1本を、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸としたタオル織物を提供することにより上記の課題を解決する。
【0006】
前記パイル糸を構成する複数本の前記原糸は、全てを前記ムラ糸とすることもできるし、少なくとも1本を前記ムラ糸とし、他の糸を太さが長さ方向に変化していない普通糸とすることもできる。
また、複数本の前記原糸のうち、少なくとも1本の前記ムラ糸と、少なくとも他の一本の前記原糸との色が異なるようにすることもできる。色が異なるとは、色相、彩度、明度のうち少なくとも一つが異なることを言い、染料の相違によるものの他、金属反射などの反射性の顔料や粒子の有無や相違によるものであっても構わない。
本発明のタオル織物にあっては、織物表面の前記パイルに凹凸による外観と色による外観との少なくとも一方の外観の変化が不規則に表れており、織物地の全体として斑模様状の形態外観を出現させることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、タオル織物の表面に凹凸の変化や色彩の変化がランダムに表れることによって、織物地の全体の外観に斑模様状の外観や形態を現出させることができたものである。
その結果、新規で独特の風合いや手触りを備えたタオル織物を提供することができたものである。また、人がデザインした斑模様ではなく、いわば偶然によって生まれた新規で独特な色彩変化を備えたタオル織物を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係るタオル織物に用いられるパイル糸の説明図。
【
図2】第2の実施の形態に係るタオル織物に用いられるパイル糸の説明図。
【
図3】第3の実施の形態に係るタオル織物に用いられるパイル糸の説明図。
【
図4】第1の実施の形態に係るタオル織物の平面の拡大写真。
【
図5】第2の実施の形態に係るタオル織物の平面の拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する
【0010】
(タオル織物)
一般にタオル織物は、図示は省略するが、平織や綾織の地組織の片面または両面にパイル糸によるパイルが形成された片面パイルと両面パイルがあるが本発明の実施に際してはその何を採用することもできる。また、ジャカードやドビー機で織物の表面に紋様に応じて自由にパイルが出る組織であっても構わない。
【0011】
(第1の実施の形態に係るパイル糸)
この実施の形態に係るパイル糸は、第1原糸10と第2原糸20の2本の原糸が撚られた撚糸である。
第1原糸10は、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸であり、この例では大別して太番手部分11、中番手部分12、細番手部分13の3種類の太さの部分がランダムに現れるものが用いられている。
第2原糸20は、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸であり、この例では大別して太番手部分21、中番手部分22、細番手部分23の3種類の太さの部分がランダムに現れるものが用いられている。
第1原糸10と第2原糸20とは、それぞれ綿100%の紡績糸であるが、レーヨン、アクリル、ポリエステル等のスパン糸であっても構わない。
またこの例では、太番手部分11と太番手部分21とは20s、中番手部分12と中番手部分22とは40s、細番手部分13と細番手部分23とは60sの糸番のものが用いられているが、各部の糸番は種々を変更して実施することができるものである。
具体例としては、80s~20sの組み合わせのものを好適に用いることができる。
このように、好適に用いることができる番手の範囲は80s~20sであるが、この範囲を超えて実施することを妨げるものではない。
【0012】
パイル糸の太さは、タオル用途の場合、ボリューム等考慮して撚り後10s~30sが適当であるが、製品アイテムの種類や用途によって変更して実施することができる。
【0013】
また
図1では、第1原糸10における太番手部分11、中番手部分12、細番手部分13の長さはほぼ等しいものを示しており、第2原糸20においても太番手部分21、中番手部分22、細番手部分23の長さはほぼ等しいものを示しているが、その長さが異なるものでもよく、これらの長さは同じであっても異なるものであっても構わない。
【0014】
また
図1では、図の上から順に、第1原糸10の中番手部分12と第2原糸20の太番手部分21とが撚り合わされ、次に第1原糸10の太番手部分11と第2原糸20の細番手部分23とが撚り合わされ、次に第1原糸10の細番手部分13と第2原糸20の中番手部分22とが撚り合わされ、次に第1原糸10の太番手部分11と第2原糸20の太番手部分21とが撚り合わされると言うように、一方の原糸の一つの番手に対しては他方の原糸の一つの番手が組み合わされているが、一方の原糸の番手部分の途中で他方の原糸の番手部分が変化しているものでも構わない。また、全ての番手部分の長さが同じであったとしても、一方の原糸の番手部分の途中で他方の原糸の番手部分が変化するようにずれていることは当然にあり得るものであるし、第1原糸10と第2原糸20の番手部分の組合せについては、多くの種類の組み合わせがランダムに出現するものである。
【0015】
さらに第1原糸10と第2原糸20とは同じ色で染色されているものであっても構わないし、異なる色で染色されているものであっても構わないため、番手と色彩の組み合わせの出現順は予測できないほど極めて多くの出現順となる。
【0016】
これらの原糸(第1原糸10と第2原糸20)が撚り合わされてパイル糸が完成され、このパイル糸によるパイルが片面又は両面に形成されたタオル織物が完成される(
図4参照)。
原糸の撚りについては、一般的なタオル用のパイル糸と同様の製法に従い行えばよく、撚り数についても特に制約はないが、6~15(回/インチ)が適当である。
それ以上撚ると柔らかさが無くなり、少ないとパイル立ちが悪くなり、凹凸感が減少するおそれがあるが、変更して実施することを妨げない。
【0017】
(第2の実施の形態に係るパイル糸)
この実施の形態に係るパイル糸は、第1原糸10と第2原糸20の2本の原糸が撚られた撚糸である。
【0018】
第1原糸10は、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸であり、この例では30sの糸番の太番手部分11と、80sの糸番の細番手部分13との大別して2種類の太さの部分がランダムに現れるものが用いられている。
第2原糸20については、すべてが30sの糸番の太番手部分21であり、糸の太さが長さ方向において変化していない普通糸が用いられている。好適に用いることができる番手の範囲は10s~40sであるが、この範囲を超えて実施することを妨げるものではない。
【0019】
この例では、太さの組み合わせの変化は2通りであり、先の実施の形態よりも少ない組み合わせとなるが、太番手部分11と細番手部分13との長さや出現率は様々であることは勿論、他の糸と撚り合わされることによりムラ糸を単独で用いるよりも形態の変化が強調され、さらに異なる色の原糸を用いることによりその変化が顕著に認識されるタオル地を提供することができる(
図5参照)。
【0020】
他の点については第1の実施の形態と同じく実施することができ、いずれの実施の形態にあっても、原糸として用いることができる糸の本数は、2本撚りの他、3本撚り、4本撚りなど、一般のタオル織り物用の撚糸と同様、種々変更して実施することができる。
【0021】
(第3の実施の形態に係るパイル糸)
この実施の形態に係るパイル糸は、第1原糸10と第2原糸20と第3原糸30の3本の原糸が撚られた撚糸である。
第1原糸10は、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸であり、この例では30sの糸番の太番手部分11と、80sの糸番の細番手部分13との大別して2種類の太さの部分がランダムに現れるものが用いられている。
第2原糸20については、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸であり、この例では30sの糸番の太番手部分21と、40sの糸番の中番手部分22と、80sの糸番の細番手部分23との大別して3種類の太さの部分がランダムに現れるものが用いられている。
【0022】
第3原糸30については、糸の太さが長さ方向において変化しているムラ糸であり、この例では30sの糸番の太番手部分31と、50sの糸番の中番手部分32と、80sの糸番の細番手部分33との大別して3種類の太さの部分がランダムに現れるものが用いられている。
これらの3本の原糸は、図示は省略するが常法に従って撚りがかけられパイル糸が形成される。先の実施例と同様、一つの番手部分に対しては、少なくとも一回望ましくは複数回の撚りがかかっていることが、その変化が見る者に対して訴え易い点で好ましい。
【0023】
なお、第1原糸10についても太番手部分11と細番手部分13に加えて中番手部分を備えたもの用いることもできるし、糸の太さの変化がない普通糸を採用することもできる。
第2原糸20の中番手部分22(40s)と、第3原糸30の中番手部分32(50s)との相手が異なることからも明らかなように、これらの番手部分の太中細は相対的な糸の太さの差異を表すに止まり、絶対的な糸の太さを示すものではなく、複数種類の番手を適宜組み合わせて実施することができる。
【0024】
以上のように、本発明の実施の形態に係るタオル織物は、織物表面のパイルに凹凸による外観と色による外観との少なくとも一方の外観の変化が不規則に表れていることによって、織物地の全体として、人為的なデザインでは得ることができない斑模様状の形態外観を現出させることができたものである。
【符号の説明】
【0025】
10 第1原糸
11 太番手部分
12 中番手部分
13 細番手部分
20 第2原糸
21 太番手部分
22 中番手部分
23 細番手部分
20 第3原糸
21 太番手部分
22 中番手部分
23 細番手部分