(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤および合成繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20240621BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20240621BHJP
D06M 101/28 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M13/224
D06M101:28
(21)【出願番号】P 2024036114
(22)【出願日】2024-03-08
【審査請求日】2024-03-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特許第2883668(JP,B2)
【文献】特開平06-220723(JP,A)
【文献】特開平11-012853(JP,A)
【文献】特開2004-149983(JP,A)
【文献】特開2011-106044(JP,A)
【文献】特開2012-046855(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169632(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/070796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ変性シリコーン(A)およびグリセリン誘導体(B)を含有し、
前記グリセリン誘導体(B)が、
ポリオキシアルキレンひまし油エーテルと、カルボン酸、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である第一エステル化合物(B1)、
ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルと、カルボン酸、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である第二エステル化合物(B2)、ならびに、
ポリオキシアルキレングリセリルエーテルと、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステル、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ酸誘導体と、のエステル化合物である第三エステル化合物(B3)、
からなる群から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物を含み、
前記カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルが、カルボン酸と、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である、ことを特徴とする合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記グリセリン誘導体(B)中のポリオキシアルキレン基において、ポリオキシエチレン基が占める割合が99質量%以上である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記グリセリン誘導体(B)が、
前記第一エステル化合物(B1)、
前記第二エステル化合物(B2)、ならびに、
前記ポリオキシアルキレングリセリルエーテル残基1モルあたりのヒドロキシ酸誘導体残基の含有量が2.5モル以上3.0モル以下である前記第三エステル化合物(B3)である特定第三エステル化合物(B3a)、
からなる群から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記グリセリン誘導体(B)がカルボン酸残基を含み、
前記カルボン酸残基のうち一価カルボン酸に由来する残基が占める割合が99質量%以上である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記アミノ変性シリコーン(A)および前記グリセリン誘導体(B)の総質量に対して、
前記アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が5質量%以上98質量%以下である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
ホスホニウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一つのカチオン化合物(C)をさらに含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記アミノ変性シリコーン(A)、前記グリセリン誘導体(B)、および前記カチオン化合物(C)の総質量に対して、
前記アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が8.0質量%以上94.5質量%以下であり、
前記グリセリン誘導体(B)が占める割合が5.0質量%以上90質量%以下であり、
前記カチオン化合物(C)が占める割合が0.5質量%以上5.0質量%以下である請求項6に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする合成繊維。
【請求項9】
前記繊維材料が炭素繊維前駆体である請求項8に記載の合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤および合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造方法として、繊維状の材料を紡糸した後に当該材料を焼成する、という手法が汎用されており、この繊維状の材料を炭素繊維前駆体という。炭素繊維前駆体としては、高分子等の繊維材料の表面に炭素繊維前駆体用処理剤が付着したものが使用される場合がある。かかる処理剤は、炭素繊維を製造する際の諸工程における炭素繊維前駆体の取扱性を向上する等の目的で用いられる。この例のように、合成繊維の取扱いにおいては、合成繊維の取扱性を向上できる種々の合成繊維用処理剤が用いられる場合がある。
【0003】
たとえば特許第7098210号公報(特許文献1)には、グリセリン誘導体であるエステル化合物を含む平滑剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤が開示されている。特許文献1に記載の発明によれば、炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は、処理剤によって処理された合成繊維の強度および制電性について、改善の余地があった。
【0006】
そこで、従来技術に比べて合成繊維の強度および制電性を改善できる合成繊維用処理剤、および当該合成繊維用処理剤が付与された合成繊維、の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、アミノ変性シリコーン(A)およびグリセリン誘導体(B)を含有し、前記グリセリン誘導体(B)が、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルと、カルボン酸、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である第一エステル化合物(B1)、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルと、カルボン酸、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である第二エステル化合物(B2)、ならびに、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルと、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステル、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ酸誘導体と、のエステル化合物である第三エステル化合物(B3)、からなる群から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物を含み、前記カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルが、カルボン酸と、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である、ことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、従来技術に比べて合成繊維の強度および制電性を改善できる合成繊維用処理剤が得られる。
【0009】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記グリセリン誘導体(B)中のポリオキシアルキレン基において、ポリオキシエチレン基が占める割合が99質量%以上であることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の金属との摩擦が低減されやすいため、合成繊維の巻取りが円滑に進みやすい。
【0011】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記グリセリン誘導体(B)が、前記第一エステル化合物(B1)、前記第二エステル化合物(B2)、ならびに、前記ポリオキシアルキレングリセリルエーテル残基1モルあたりのヒドロキシ酸誘導体残基の含有量が2.5モル以上3.0モル以下である前記第三エステル化合物(B3)である特定第三エステル化合物(B3a)、からなる群から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物を含むことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の集束性が向上するため、合成繊維の巻取りが円滑に進みやすい。
【0013】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記グリセリン誘導体(B)がカルボン酸残基を含み、前記カルボン酸残基のうち一価カルボン酸に由来する残基が占める割合が99質量%以上であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維が融着しにくいため、ロールなどに巻き取られた合成繊維の解舒が円滑に進みやすい。
【0015】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記アミノ変性シリコーン(A)および前記グリセリン誘導体(B)の総質量に対して、前記アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が5質量%以上98質量%以下であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の強度および制電性がさらに良好である。
【0017】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一つのカチオン化合物(C)をさらに含有することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の制電性がさらに良好である。
【0019】
本発明に係る合成繊維用処理剤は、一態様として、前記アミノ変性シリコーン(A)、前記グリセリン誘導体(B)、および前記カチオン化合物(C)の総質量に対して、前記アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が8.0質量%以上94.5質量%以下であり、前記グリセリン誘導体(B)が占める割合が5.0質量%以上90質量%以下であり、前記カチオン化合物(C)が占める割合が0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、合成繊維用処理剤が付与された合成繊維の制電性が一層良好である。
【0021】
本発明に係る合成繊維は、上記の合成繊維用処理剤が繊維材料に付着していることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、従来技術に比べて強度および制電性が改善された合成繊維が得られる。
【0023】
本発明に係る合成繊維は、一態様として、前記繊維材料が炭素繊維前駆体であることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、従来技術に比べて強度および制電性が改善された炭素繊維前駆体が得られる。
【0025】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る合成繊維用処理剤および合成繊維の実施形態について説明する。以下では、本発明に係る合成繊維用処理剤を、炭素繊維前駆体の処理に適用した例について説明する。
【0027】
〔合繊繊維用処理剤の構成〕
本実施形態に係る合成繊維用処理剤は、アミノ変性シリコーン(A)と、グリセリン誘導体(B)と、を含有する。また、本実施形態に係る合成繊維用処理剤は、カチオン化合物(C)をさらに含有することが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る合成繊維用処理剤を、合成繊維を防止する際の処理剤として使用すると、合成繊維の集束性の向上、巻取時の制電性の向上、および、巻取時の金属との摩擦の低下、が見られるため、合成繊維を紡糸する際の効率が向上しうる。また、本実施形態に係る合成繊維用処理剤を用いて炭素繊維前駆体を製造すると、高い強度を有するとともに融着しにくい炭素繊維が得られる。
【0029】
(アミノ変性シリコーン)
アミノ変性シリコーン(A)は、シリコーン主鎖の末端、側鎖、またはその双方にアミノ基が導入された化合物である。シリコーン主鎖の末端にアミノ基が導入される場合、双方の末端にアミノ基が導入されてもよいし、片方の末端のみにアミノ基が導入されてもよい。導入されるアミノ基は任意であり、モノアミン、ジアミン、アミノポリエーテルなどでありうる。なお、末端基が変性されていない場合、当該末端基は、アルキル基(メチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基など)、ヒドロキシ基などでありうる。
【0030】
アミノ変性シリコーン(A)は、25℃における動粘度が50mm2/s以上5000mm2/s以下であることが好ましい。なお、アミノ変性シリコーン(A)の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計で測定されうる。
【0031】
アミノ変性シリコーン(A)は、アセトン60mL、ノルマルヘキサン20mLの混合溶液に対して1g精秤後、濃度既知の過塩素酸溶液で滴定することで測定される全アミン価の値(KOH-mg/g)から計算されるアミノ当量(g/mol)によって特定されうる。アミノ変性シリコーンのアミノ当量は、1000g/mol以上15000g/mol以下でありうる。
【0032】
(グリセリン誘導体)
グリセリン誘導体(B)は、以下の第一エステル化合物(B1)、第二エステル化合物(B2)、および第三エステル化合物(B3)からなる群から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物を含む。
【0033】
第一エステル化合物(B1)は、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルと、カルボン酸、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物(以下、酸化合物と称する。)と、のエステル化合物である。
【0034】
第一エステル化合物(B1)におけるポリオキシアルキレン基は限定されず、ポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基などでありうる。また、ポリオキシアルキレン基は、一種類であっても複数種類であってもよい。ポリオキシアルキレン基が複数種類存在する場合は、当該複数種類のポリオキシアルキレン基は、ランダムに存在してもよいし(ランダム付加体)、ブロック状に存在していてもよい(ブロック付加体)。ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基を含むことが好ましい。第一エステル化合物(B1)中のポリオキシアルキレン基において、ポリオキシエチレン基が占める割合が99質量%以上であると、合成繊維と金属との摩擦が抑制されるため、特に好ましい。なお、ポリオキシアルキレン基は、第一エステル化合物(B1)において、ポリオキシアルキレンひまし油エーテル残基中のポリオキシアルキレン基、および、酸化合物残基がヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物残基を含む場合の当該残基中のポリオキシアルキレン基、として存在しうる。
【0035】
第一エステル化合物(B1)におけるポリオキシアルキレン基の付加数は特に限定されないが、たとえば第一エステル化合物(B1)1モルあたり5モル以上60モル以下でありうる。なお、第一エステル化合物(B1)が複数種類のポリオキシアルキレン基を含む場合は、全てのポリオキシアルキレン基の合計数が上記の範囲でありうる。
【0036】
酸化合物は、カルボン酸を含むことが好ましく、一価カルボン酸を含むことがより好ましい。すなわち、第一エステル化合物(B1)がカルボン酸残基を含むことが好ましい。当該カルボン残基のうち一価カルボン酸に由来する残基が占める割合が99質量%以上であると、炭素繊維の融着を防止する点で特に好ましい。
【0037】
酸化合物がカルボン酸を含む場合、当該カルボン酸は、イソステアリン酸(一価)、ラウリン酸(一価)、オレイン酸(一価)、2-エチルヘキサン酸(一価)、アジピン酸(二価)、マレイン(二価)、コハク酸(二価)、テレフタル酸(二価)、セバシン酸(二価)、などでありうるが、これらに限定されない。酸化合物がヒドロキシ酸を含む場合、当該ヒドロキシ酸は、乳酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、2-ヒドロキシデカン酸、12―ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、などでありうるが、これらに限定されない。酸化合物がヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物を含む場合は、上記に例示したヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物でありうるが、これらに限定されない。当該付加体におけるアルキレンオキサイドの付加数は限定されないが、たとえば付加体1モルあたり5モル以上10モル以下でありうる。酸化合物がヒドロキシ酸の多量体を含む場合は、上記に例示したヒドロキシ酸の多量体でありうるが、これらに限定されない。当該多量体の重合度は特に限定されないが、たとえば三量体以上六量体以下でありうる。
【0038】
第一エステル化合物(B1)の一例として、ポリオキシエチレンレンひまし油エーテル(ポリオキシアルキレンひまし油エーテルの一例である。)とラウリン酸(カルボン酸の一例である)とのエステル化合物を式1に示す。ただし、ポリオキシエチレンレンひまし油エーテルとラウリン酸とのエステル化合物の構造は、式1の構造に限定されない。
【化1】
【0039】
式1では、ポリオキシエチレンひまし油エーテルとラウリン酸とがモル比1:3で反応したエステル化合物を示している。すなわち式1の例では、ポリオキシエチレンひまし油エーテルのヒドロキシ基は全てエステル結合に変換されている。しかし本実施形態において、第一エステル化合物(B1)は、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルのヒドロキシ基に由来するヒドロキシ基を有していてもよい。すなわち、第一エステル化合物(B1)におけるポリオキシアルキレンひまし油エーテル残基と酸化合物残基との比率は限定されない。
【0040】
第二エステル化合物(B2)は、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルと、カルボン酸、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物(以下、酸化合物と称する。)と、のエステル化合物である。
【0041】
第二エステル化合物(B2)におけるポリオキシアルキレン基は限定されず、ポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基などでありうる。また、ポリオキシアルキレン基は、一種類であっても複数種類であってもよい。ポリオキシアルキレン基が複数種類存在する場合は、当該複数種類のポリオキシアルキレン基は、ランダムに存在してもよいし(ランダム付加体)、ブロック状に存在していてもよい(ブロック付加体)。ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基を含むことが好ましい。第二エステル化合物(B2)中のポリオキシアルキレン基において、ポリオキシエチレン基が占める割合が99質量%以上であると、合成繊維と金属との摩擦が抑制されるため、特に好ましい。なお、ポリオキシアルキレン基は、第二エステル化合物(B2)において、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル残基中のポリオキシアルキレン基、および、酸化合物残基がヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物残基を含む場合の当該残基中のポリオキシアルキレン基、として存在しうる。
【0042】
第二エステル化合物(B2)におけるポリオキシアルキレン基の付加数は特に限定されないが、たとえば第二エステル化合物(B2)1モルあたり5モル以上60モル以下でありうる。なお、第二エステル化合物(B2)が複数種類のポリオキシアルキレン基を含む場合は、全てのポリオキシアルキレン基の合計数が上記の範囲でありうる。
【0043】
酸化合物は、カルボン酸を含むことが好ましく、一価カルボン酸を含むことがより好ましい。すなわち、第二エステル化合物(B2)がカルボン酸残基を含むことが好ましい。当該カルボン残基のうち一価カルボン酸に由来する残基が占める割合が99質量%以上であると、炭素繊維の融着を防止する点で特に好ましい。
【0044】
酸化合物がカルボン酸を含む場合、当該カルボン酸は、イソステアリン酸(一価)、ラウリン酸(一価)、オレイン酸(一価)、2-エチルヘキサン酸(一価)、アジピン酸(二価)、マレイン(二価)、コハク酸(二価)、テレフタル酸(二価)、セバシン酸(二価)、などでありうるが、これらに限定されない。酸化合物がヒドロキシ酸を含む場合、当該ヒドロキシ酸は、乳酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、2-ヒドロキシデカン酸、12―ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、などでありうるが、これらに限定されない。酸化合物がヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物を含む場合は、上記に例示したヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物でありうるが、これらに限定されない。当該付加体におけるアルキレンオキサイドの付加数は限定されないが、たとえば付加体1モルあたり5モル以上10モル以下でありうる。酸化合物がヒドロキシ酸の多量体を含む場合は、上記に例示したヒドロキシ酸の多量体でありうるが、これらに限定されない。当該多量体の重合度は特に限定されないが、たとえば三量体以上六量体以下でありうる。
【0045】
第二エステル化合物(B2)の一例として、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル(ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルの一例である。)とオレイン酸(カルボン酸の一例である)とのエステル化合物を式2に示す。ただし、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルとオレイン酸とのエステル化合物の構造は、式2の構造に限定されない。
【化2】
【0046】
第二エステル化合物(B2)において、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル残基と酸化合物残基との比率は限定されない。したがって第二エステル化合物(B2)は、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルのヒドロキシ基に由来するヒドロキシ基を有していてもよい。
【0047】
第三エステル化合物(B3)は、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルと、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステル、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ酸誘導体と、のエステル化合物である。ここで、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルは、カルボン酸と、ヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物、および、ヒドロキシ酸の多量体、からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物と、のエステル化合物である。
【0048】
第三エステル化合物(B3)において、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル残基とヒドロキシ酸誘導体残基との比率は限定されない。したがって第三エステル化合物(B3)は、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルに由来するヒドロキシ基を有していてもよい。ただし、第三エステル化合物(B3)において、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル残基1モルあたりのヒドロキシ酸誘導体残基の含有量が2.5モル以上3.0モル以下であると、合成繊維の集束性が高くなりやすいため、好ましい。以下では、この要件を満たす第三エステル化合物(B3)を、特定第三エステル化合物(B3a)と称して区別する。
【0049】
第三エステル化合物(B3)におけるポリオキシアルキレン基は限定されず、ポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基などでありうる。また、ポリオキシアルキレン基は、一種類であっても複数種類であってもよい。ポリオキシアルキレン基が複数種類存在する場合は、当該複数種類のポリオキシアルキレン基は、ランダムに存在してもよいし(ランダム付加体)、ブロック状に存在していてもよい(ブロック付加体)。ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基を含むことが好ましい。第三エステル化合物(B3)中のポリオキシアルキレン基において、ポリオキシエチレン基が占める割合が99質量%以上であると、合成繊維と金属との摩擦が抑制されるため、特に好ましい。なお、ポリオキシアルキレン基は、第三エステル化合物(B3)において、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル残基、および、ヒドロキシ酸誘導体残基がカルボン酸-ヒドロキシ酸エステル残基を含み、当該カルボン酸-ヒドロキシ酸エステル残基がヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物残基を含む場合の当該残基中のポリオキシアルキレン基、として存在しうる。
【0050】
第三エステル化合物(B3)におけるポリオキシアルキレン基の付加数は特に限定されないが、たとえば第三エステル化合物(B3)1モルあたり5モル以上60モル以下でありうる。なお、第三エステル化合物(B3)が複数種類のポリオキシアルキレン基を含む場合は、全てのポリオキシアルキレン基の合計数が上記の範囲でありうる。
【0051】
ヒドロキシ酸誘導体がカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを含む場合、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを構成するカルボン酸が一価カルボン酸を含むことが好ましい。すなわち、第三エステル化合物(B3)がカルボン酸-ヒドロキシ酸エステル残基を含み、当該カルボン酸-ヒドロキシ酸エステル残基がカルボン酸残基を含むことが好ましい。当該カルボン残基のうち一価カルボン酸に由来する残基が占める割合が99質量%以上であると、炭素繊維の融着を防止する点で特に好ましい。カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを構成するカルボン酸は、イソステアリン酸(一価)、ラウリン酸(一価)、オレイン酸(一価)、2-エチルヘキサン酸(一価)、アジピン酸(二価)、マレイン(二価)、コハク酸(二価)、テレフタル酸(二価)、セバシン酸(二価)、などでありうるが、これらに限定されない。
【0052】
カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを構成する化合物がヒドロキシ酸を含む場合、当該ヒドロキシ酸は、乳酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、2-ヒドロキシデカン酸、12―ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、などでありうるが、これらに限定されない。カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを構成する化合物がヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物を含む場合は、上記に例示したヒドロキシ酸のアルキレンオキサイド付加物でありうるが、これらに限定されない。当該付加体におけるアルキレンオキサイドの付加数は限定されないが、たとえば付加体1モルあたり5モル以上10モル以下でありうる。酸化合物がヒドロキシ酸の多量体を含む場合は、上記に例示したヒドロキシ酸の多量体でありうるが、これらに限定されない。当該多量体の重合度は特に限定されないが、たとえば三量体以上六量体以下でありうる。
【0053】
第三エステル化合物(B3)の一例として、ポリオキシエチレングリセリルエーテル(ポリオキシアルキレングリセリルエーテルの一例である。)と、オレイン酸(カルボン酸の一例である。)と12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸の一例である。)とのエステル化合物であるカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルと、のエステル化合物を式3に示す。ただし、ポリオキシエチレングリセリルエーテルと上記カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとのエステル化合物の構造は、式3の構造に限定されない。
【化3】
【0054】
(カチオン化合物)
本実施形態に係る合成繊維用処理剤は、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一つのカチオン化合物(C)をさらに含有することが好ましい。合成繊維用処理剤がカチオン化合物(C)を含むことは、合成繊維の帯電を防止する観点で好適である。
【0055】
ホスホニウム塩としては、トリブチルエチルホスホニウムジエチルホスフェート、および、テトラブチルホスホニウムドデシルベンゼンスルホン酸、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0056】
アンモニウム塩としては、ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェート、および、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0057】
(その他の成分)
本実施形態に係る合成繊維用処理剤は、アミノ変性シリコーン(A)およびグリセリン誘導体(B)、ならびに任意に含まれるカチオン化合物(C)、の他の成分を含有しうる。かかるその他の成分としては、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などが例示されるが、これらに限定されない。
【0058】
本実施形態に係る合成繊維用処理剤は、アミノ変性シリコーン(A)以外のシリコーン化合物を含みうる。かかるシリコーン化合物としては、ジメチルシリコーンやポリエーテル変性シリコーンなどが例示されるが、これらに限定されない。
【0059】
本実施形態に係る合成繊維用処理剤は、グリセリン誘導体(B)以外のポリオキシアルキレン誘導体を含みうる。かかるポリオキシアルキレン誘導体としては、ひまし油のアルキレンオキサイド付加物、硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物、飽和または不飽和のアルコールのアルキレンオキサイド付加物、などでありうるが、これらに限定されない。
【0060】
(各成分の含有量)
本実施形態に係る合成繊維用処理剤において、アミノ変性シリコーン(A)およびグリセリン誘導体(B)の総質量に対して、アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が5質量%以上98質量%以下であることが好ましい。アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が上記の範囲にあると、合成繊維用処理剤を炭素繊維の製造に適用した際に、得られる炭素繊維の強度が高くなりやすい。
【0061】
本実施形態に係る合成繊維用処理剤において、アミノ変性シリコーン(A)、グリセリン誘導体(B)、およびカチオン化合物(C)の総質量に対して、アミノ変性シリコーン(A)が占める割合が8.0質量%以上94.5質量%以下であり、グリセリン誘導体(B)が占める割合が5.0質量%以上90質量%以下であり、カチオン化合物(C)が占める割合が0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。アミノ変性シリコーン(A)、グリセリン誘導体(B)、およびカチオン化合物(C)が占める割合がそれぞれ上記の範囲にあると、合成繊維用処理剤を炭素繊維の製造に適用した際に、得られる炭素繊維の強度が高くなりやすい。
【0062】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0063】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0064】
〔合成繊維用処理剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表2~表8に示す実施例1~68および比較例1~7の合成繊維用処理剤を得た。
【0065】
(1)試薬
(1-1)アミノ変性シリコーン
アミノ変性シリコーンとして、表1に示す性質を有するアミノ変性シリコーンA-1~A-8を用いた。いずれのアミノ変性シリコーンも、上記の実施形態に係るアミノ変性シリコーン(A)に該当する。なお、表1に記載の動粘度およびアミノ当量は、上記の実施形態に記載の方法で測定した値である。
【0066】
【0067】
(1-2)グリセリン誘導体
(1-2-1)第一エステル化合物
第一エステル化合物に該当するグリセリン誘導体として、以下の第一エステル化合物B1-1~B1-7を用いた。いずれの第一エステル化合物も、上記の実施形態に係る第一エステル化合物(B1)に該当する。ただし、それぞれの第一エステル化合物について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該第一エステル化合物が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0068】
(第一エステル化合物B1-1)
ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ポリオキシエチレンひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレンひまし油エーテルと3-ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、第一エステル化合物B1-1を得た。
【0069】
(第一エステル化合物B1-2)
ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、ポリオキシエチレンひまし油エーテルを得た。酸触媒としてメタンスルホン酸を用いて2-ヒドロキシデカン酸とエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、2-ヒドロキシデカン酸のエチレンオキサイド付加物を得た。ポリオキシエチレンひまし油エーテルと2-ヒドロキシデカン酸のエチレンオキサイド付加物とをモル比1:2で反応させて、第一エステル化合物B1-2を得た。
【0070】
(第一エステル化合物B1-3)
ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:25で反応させて、ポリオキシエチレンひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレンひまし油エーテルとイソステアリン酸(一価カルボン酸である。)とをモル比1:2で反応させて、第一エステル化合物B1-3を得た。
【0071】
(第一エステル化合物B1-4)
ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:40で反応させて、ポリオキシエチレンひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレンひまし油エーテルとアジピン酸(二価カルボン酸である。)とをモル比1:3で反応させて、第一エステル化合物B1-4を得た。
【0072】
(第一エステル化合物B1-5)
ひまし油、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:10:10で反応させて、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルを得た。ひまし油にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。酸触媒としてメタンスルホン酸を用いて3-ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:5:5で反応させて、3-ヒドロキシヘキサン酸のアルキレンオキサイド付加物を得た。3-ヒドロキシヘキサン酸にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。ポリオキシアルキレンひまし油エーテルと3-ヒドロキシヘキサン酸のアルキレンオキサイド付加物とをモル比1:2で反応させて、第一エステル化合物B1-5を得た。
【0073】
(第一エステル化合物B1-6)
ひまし油とプロピレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、ポリオキシプロピレンひまし油エーテルを得た。ポリオキシプロピレンひまし油エーテルとラウリン酸(一価カルボン酸である。)とをモル比1:2で反応させて、第一エステル化合物B1-6を得た。
【0074】
(第一エステル化合物B1-7)
ひまし油、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:20:40で反応させて、ポリオキシアルキレンひまし油エーテルを得た。ひまし油にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。ポリオキシアルキレンひまし油エーテルと乳酸(ヒドロキシ酸である。)の三量体とをモル比1:3で反応させて、第一エステル化合物B1-7を得た。
【0075】
(1-2-2)第二エステル化合物
第二エステル化合物として、以下の第二エステル化合物B2-1~B2-6を用いた。いずれの第二エステル化合物も、上記の実施形態に係る第二エステル化合物(B2)に該当する。ただし、それぞれの第二エステル化合物について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該第二エステル化合物が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0076】
(第二エステル化合物B2-1)
硬化ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルと12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:3で反応させて、第二エステル化合物B2-1を得た。
【0077】
(第二エステル化合物B2-2)
硬化ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:20で反応させて、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルとオレイン酸(一価カルボン酸である。)とをモル比1:2で反応させて、第二エステル化合物B2-2を得た。
【0078】
(第二エステル化合物B2-3)
硬化ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:60で反応させて、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルと12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)の六量体とをモル比1:2で反応させて、第二エステル化合物B2-3を得た。
【0079】
(第二エステル化合物B2-4)
硬化ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:25で反応させて、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルを得た。ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテルとマレイン酸(二価カルボン酸である。)とをモル比1:1で反応させて、第二エステル化合物B2-4を得た。
【0080】
(第二エステル化合物B2-5)
硬化ひまし油、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:10:5で反応させて、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルを得た。硬化ひまし油にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルとイソステアリン酸(一価カルボン酸である。)とをモル比1:1で反応させて、第二エステル化合物B2-5を得た。
【0081】
(第二エステル化合物B2-6)
硬化ひまし油とプロピレンオキサイドとをモル比1:50で反応させて、ポリオキシプロピレン硬化ひまし油エーテルを得た。ポリオキシプロピレン硬化ひまし油エーテルとコハク酸(二価カルボン酸である。)とをモル比1:3で反応させて、第二エステル化合物B2-6を得た。
【0082】
(1-2-3)第三エステル化合物
第三エステル化合物として、以下の第三エステル化合物B3a-1~B3a-8および第三エステル化合物B3-9~B3-20を用いた。いずれの第三エステル化合物も、上記の実施形態に係る第三エステル化合物(B3)に該当し、第三エステル化合物B3a-1~B3a-8は上記の実施形態に係る特定第三エステル化合物(B3a)に該当する。ただし、それぞれの第三エステル化合物について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該第三エステル化合物が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0083】
(第三エステル化合物B3a-1)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。2-エチルヘキサン酸(一価カルボン酸である。)と3―ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-1を得た。
【0084】
第三エステル化合物B3a-1において、ポリオキシエチレングリセリルエーテル残基1モルあたりの3―ヒドロキシヘキサン酸残基(ヒドロキシ酸誘導体残基である。)の含有量は3モルであり、この値はポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとを反応させる際のモル比に対応する値である。なお、以降の例においても、第三エステル化合物におけるポリオキシアルキレングリセリルエーテル残基1モルあたりのヒドロキシ酸誘導体残基の含有量は、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとを反応させる際のモル比に対応する値である。
【0085】
(第三エステル化合物B3a-2)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:20で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。オレイン酸(一価カルボン酸である。)と12―ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-2を得た。
【0086】
(第三エステル化合物B3a-3)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:35で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。酸触媒としてメタンスルホン酸を用いて12―ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、12―ヒドロキシステアリン酸のエチレンオキサイド付加物を得た。イソステアリン酸(一価カルボン酸である。)と12―ヒドロキシステアリン酸のエチレンオキサイド付加物とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-3を得た。
【0087】
(第三エステル化合物B3a-4)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:50で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルと12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)の六量体とをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-4を得た。
【0088】
(第三エステル化合物B3a-5)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。テレフタル酸(二価カルボン酸である。)と12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-5を得た。
【0089】
(第三エステル化合物B3a-6)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:20で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。セバシン酸(二価カルボン酸である。)と12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-6を得た。
【0090】
(第三エステル化合物B3a-7)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:25で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。マレイン酸(二価カルボン酸である。)とリシノール酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-7を得た。
【0091】
(第三エステル化合物B3a-8)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:40で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。アジピン酸(二価カルボン酸である。)と3-ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:3で反応させて、第三エステル化合物B3a-8を得た。
【0092】
(第三エステル化合物B3-9)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。オレイン酸(一価カルボン酸である。)と12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-9を得た。
【0093】
(第三エステル化合物B3-10)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:45で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。酸触媒としてメタンスルホン酸を用いて12―ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、12―ヒドロキシステアリン酸のエチレンオキサイド付加物を得た。イソステアリン酸(一価カルボン酸である。)と12―ヒドロキシステアリン酸のエチレンオキサイド付加物とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-10を得た。
【0094】
(第三エステル化合物B3-11)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルと12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)の六量体とをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-11を得た。
【0095】
(第三エステル化合物B3-12)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:20で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。オレイン酸(一価カルボン酸である。)と12―ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:1で反応させて、第三エステル化合物B3-12を得た。
【0096】
(第三エステル化合物B3-13)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:25で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。アジピン酸(二価カルボン酸である。)と3-ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-13を得た。
【0097】
(第三エステル化合物B3-14)
グリセリンとエチレンオキサイドとをモル比1:30で反応させて、ポリオキシエチレングリセリルエーテルを得た。マレイン酸(二価カルボン酸である。)とリシノール酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシエチレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-14を得た。
【0098】
(第三エステル化合物B3-15)
グリセリン、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:10:10で反応させて、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルを得た。グリセリンにエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。オレイン酸(一価カルボン酸である。)と12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシアルキレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-15を得た。
【0099】
(第三エステル化合物B3-16)
グリセリン、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:35:5で反応させて、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルを得た。グリセリンにエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。2-エチルヘキサン酸(一価カルボン酸である。)と3―ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシアルキレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-16を得た。
【0100】
(第三エステル化合物B3-17)
グリセリン、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:10:20で反応させて、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルを得た。グリセリンにエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドの順に付加させるブロック付加とした。ポリオキシアルキレングリセリルエーテルと12-ヒドロキシステアリン酸(ヒドロキシ酸である。)の六量体とをモル比1:1で反応させて、第三エステル化合物B3-17を得た。
【0101】
(第三エステル化合物B3-18)
グリセリン、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:5:35で反応させて、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルを得た。グリセリンにエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、ランダム付加とした。マレイン酸(二価カルボン酸である。)とリシノール酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシアルキレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-18を得た。
【0102】
(第三エステル化合物B3-19)
グリセリンとプロピレンオキサイドとをモル比1:60で反応させて、ポリオキシプロピレングリセリルエーテルを得た。アジピン酸(二価カルボン酸である。)と3-ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシプロピレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:2で反応させて、第三エステル化合物B3-19を得た。
【0103】
(第三エステル化合物B3-20)
グリセリン、エチレンオキサイド、およびプロピレンオキサイドをモル比1:20:10で反応させて、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルを得た。グリセリンにエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの順に付加させるブロック付加とした。アジピン酸(二価カルボン酸である。)と3-ヒドロキシヘキサン酸(ヒドロキシ酸である。)とをモル比1:1で反応させて、カルボン酸-ヒドロキシ酸エステルを得た。ポリオキシアルキレングリセリルエーテルとカルボン酸-ヒドロキシ酸エステルとをモル比1:1で反応させて、第三エステル化合物B3-20を得た。
【0104】
(1―3)カチオン化合物
カチオン化合物として、以下のカチオン化合物C-1~C-6を用いた。いずれのカチオン化合物も、上記の実施形態に係るカチオン化合物(C)に該当する。また、カチオン化合物C-1~C-4はアンモニウム塩であり、カチオン化合物C-5およびC-6はホスホニウム塩である。
C-1:ベンザルコニウムクロライド
C-2:ベンゼトニウムブロマイド
C-3:ステアリルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェート
C-4:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド
C-5:トリブチルエチルホスホニウムジエチルホスフェート
C-6:テトラブチルホスホニウムドデシルベンゼンスルホン酸
【0105】
(1-4)その他の成分
その他の成分として以下を用いた。その他の成分Z-1およびZ-2は、シリコーン化合物である。なお、その他の成分Z-1およびZ-2の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計で測定された値である。以下ではこれらの成分を、それぞれシリコーン化合物Z-1、Z-2と称する。
Z-1:25℃における動粘度が350mm2/sのジメチルシリコーン
Z-2:25℃における動粘度が1700mm2/sのポリエーテル変性シリコーンであって、シリコーンとポリエーテルとの質量比が20:80であり、ポリエーテル部分におけるポリオキシエチレン基とポリオキシプロピレン基とのモル比が40:60のもの
【0106】
その他の成分Z-3~Z-6は、ポリオキシアルキレン誘導体である。以下ではこれらの成分を、それぞれポリオキシアルキレン誘導体Z-3~Z-6と称し、製造方法を示す。ここに示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該ポリオキシアルキレン誘導体が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
Z-3:硬化ひまし油とエチレンオキサイドとをモル比1:20で反応させて得たポリオキシエチレン硬化ひまし油
Z-4:イソノニルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて得たポリオキシエチレンイソノニルエーテル
Z-5:2級ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて得たポリオキシエチレンドデシルエーテル
Z-6:オレイルアルコール、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドをモル比1:45:5で反応させて得たポリオキシアルキレンオレイルエーテルであって、オレイルアルコールにエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加させる態様を、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドの順のブロック付加としたもの
【0107】
(2)合成繊維用処理剤の調製
(実施例1の調製)
アミノ変性シリコーンA-5を45質量%、第一エステル化合物B1-1を35質量%、カチオン化合物C-6を1質量%、ポリオキシアルキレン誘導体Z-5を19質量%、の割合でそれぞれ秤量し、ビーカーに投入した。上記の各構成成分をよく混合した後、これを撹拌しながらイオン交換水を徐々に添加して構成成分の濃度合計が30質量%の水溶液を調製し、これを実施例1の合成繊維用処理剤とした。
【0108】
(他の実施例および比較例の調製)
混合対象とする試薬の種類および割合変更した他は、実施例1と同様の方法で各例の合成繊維用処理剤を調製した。実施例1を含む全ての例の調製条件を、後掲の表2~表8に示す。
【0109】
〔合成繊維用処理剤の評価〕
(1)炭素繊維の作成
(1-1)繊維材料の作成
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解し、ポリマー濃度が21.0質量%であり、60℃における粘度が500ポイズである紡糸原液を作成した。紡糸原液を、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(繊維材料の一例である。)を作成した。
【0110】
(1-2)炭素繊維前駆体の作成
作成したアクリル繊維ストランドに対して、実施例および比較例の各例の合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を、浸漬法にて、処理剤の付着量が1質量%(溶媒を含まない。)となるように給油した。その後、処理剤が付着したアクリル繊維ストランドに対して150℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に、糸管に巻き取って炭素繊維前駆体を得た。
【0111】
(1-3)炭素繊維の作成
実施例および比較例の各例の炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉において、空気雰囲気下で1時間耐炎化処理した後に、糸管に巻き取って耐炎化糸を得た。さらに、この耐炎化糸から糸を解舒し、300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉において窒素雰囲気下で焼成して炭素繊維に転換し、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0112】
(2)炭素繊維の強度の評価
実施例および比較例の各例の炭素繊維の引張強度を、JIS R 7606:2000に従って測定した。引張強度の測定値に応じて、下記の三水準に区分した。
A:引張強度が4.5GPa以上である。
B:引張強度が3.5GPa以上4.5GPa未満である。
C:引張強度が3.5GPa未満である。
【0113】
(3)繊維-金属摩擦の評価
実施例および比較例の各例について、炭素繊維前駆体を製造する際に、巻き取りワインダーにおける断糸の有無および頻度を観察した。観察結果に応じて、下記の三水準に区分した。
A:紡糸開始から24時間後まで断糸が生じなかった。
B:紡糸開始から24時間後までに2回以下の断糸が見られたが、操業に支障がなかった。
C:紡糸直後から24時間後までに3回以上の断糸が発生し、操業に支障があった。
【0114】
(4)集束性の評価
実施例および比較例の各例について、アクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で観察した。観察結果に応じて、下記の三水準に区分した。
A:集束状態が良好であり、加熱ローラーへの巻き付きが見られなかった。
B:糸がばらける様子が多少見られたが、断糸には至らず、操業に支障がなかった。
C:糸がばらける様子が多く見られ、断糸が生じ、操業に支障があった。
【0115】
(5)融着防止性の評価
実施例および比較例の各例の炭素繊維について、無作為に選択された十か所から1cmの試験片を切り出し、十点の試験片を得た。各試験片における糸の融着状態を目視で観察し、融着箇所の数を数えた。十点の試験片における融着箇所の数の平均値に応じて、以下の三水準に区分した。
A:融着箇所が一試験片あたり平均2か所未満である。
B:融着箇所が一試験片あたり平均2か所以上7か所未満である。
C:融着箇所が一試験片あたり平均7か所以上である。
【0116】
(6)制電性の評価
実施例および比較例の各例について、炭素繊維前駆体を製造する際に、巻き取りワインダーの直前における発生電気を、デジタル静電電位測定器KSD-1000(春日電機株式会社製)を用いて測定した。測定値に応じて、以下の三水準に区分した。
AA:発生電気が3kV未満である。
A :発生電気が3kV以上5kV未満である。
B :発生電気が5kV以上7kV未満である。
C :発生電気が7kV以上である。
【0117】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の合成繊維用処理剤の組成および評価結果を表2~表8に示す。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、たとえば炭素繊維前駆体の製造に利用できる。
【要約】
【課題】合成繊維の強度および制電性を改善する。
【解決手段】アミノ変性シリコーン(A)およびグリセリン誘導体(B)を含有し、グリセリン誘導体(B)が、ポリオキシアルキレンひまし油エーテル誘導体である第一エステル化合物(B1)、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル誘導体である第二エステル化合物(B2)、ならびに、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル誘導体である第三エステル化合物(B3)、からなる群から選ばれる少なくとも一つのエステル化合物を含むことを特徴とする。
【選択図】なし