(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08G 63/18 20060101AFI20240621BHJP
C08G 63/672 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C08G63/18
C08G63/672
(21)【出願番号】P 2020008843
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019011081
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】勝間 啓太
(72)【発明者】
【氏名】沖本 昌也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久芳
(72)【発明者】
【氏名】早▲崎▼ 忠義
(72)【発明者】
【氏名】金田 将平
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-109996(JP,A)
【文献】特開2008-106236(JP,A)
【文献】特開2007-213043(JP,A)
【文献】特開2009-185299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含むポリエステル樹脂であって、
前記(A)成分は、(A1)カルボキシ残基のトランス体/シス体異性比率が85/15~100/0である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分及び(A2)トランス体/シス体異性比率が80/20~100/0である2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分のうちの少なくとも一方を含み、
前記(B)成分は、
(B1)前記重合体の質量に対して12質量%~61質量%のフルオレン系ポリオール成分と、
(B2)
トランス体比率が95%以上の下記化1に示す化合物から導かれる成分と、
を含み、
ガラス転移温度が135℃以上である、ポリエステル樹脂。
【化1】
【請求項2】
(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含むポリエステル樹脂であって、
前記(A)成分は、(A1)カルボキシ残基のトランス体/シス体異性比率が85/15~100/0である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分を含み、
前記(B)成分は、
(B1)前記重合体の質量に対して12質量%~61質量%のフルオレン系ポリオール成分と、
(B2)前記重合体の質量に対して3.3質量%~37.0質量%の下記化2に示す化合物から導かれる成分及び下記化3に示す化合物から導かれる成分のうちの少なくとも一方と、を含み、
ガラス転移温度が135℃以上である、ポリエステル樹脂。
【化2】
【化3】
【請求項3】
前記(B1)成分は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分及び9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン成分のうちの少なくとも1つを含む、請求項1
又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記重合体の質量に対して3.8質量%~18.1質量%である前記化1又は前記化3に示す化合物から導かれる成分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
27~45のアッベ数を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂が光学レンズ用ポリエステル樹脂である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一
項に記載のポリエステル樹脂を含むポリエステル成形体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本発明は、日本国特許出願:特願2019-011081号(2019年1月25日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ポリエステル樹脂及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、携帯電話やスマートフォンのカメラ、ビデオカメラ等のレンズに使用される光学素子の材料として、光学ガラス又は光学用透明樹脂が使用されてきた。光学ガラスは、耐熱性や透明性、寸法安定性、耐薬品性に優れ、様々な屈折率やアッベ数を有する材料が存在しているが、材料コストが高い上、成形加工性が悪く、又生産性が低いという問題点を有している。また、光学ガラスを色収差補正に使用されるレンズに加工するには、高度な技術と高いコストがかかるという問題もある。一方、光学用透明樹脂からなる光学レンズは、射出成形により大量生産が可能である為、カメラ用レンズ用途として幅広く使用されている。例えば、ポリメチルメタクリレートや脂環式ポリオレフィン、フルオレン系樹脂等がレンズの光学材料として使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
特許文献1には、フルオレン骨格の9,9-位にそれぞれヒドロキシ(ポリ)アルコキシ縮合多環式芳香族基を有するジオール成分(A1)を含むジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)を含むジカルボン酸成分(B)とを重合成分とするポリエステル樹脂が開示されている。
【0005】
特許文献2には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のエステル化物(A)を含む酸成分と、特定の式で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物(B)と、炭素数2~6の脂肪族ジオール化合物(C)とを含むジオール成分と、を重合反応させてなるポリエステル樹脂を含む組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-069643号公報
【文献】特開2011-12178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下の分析は、本開示の観点から与えられる。
【0008】
光学レンズユニットの設計においては、アッベ数が異なる複数の材料とレンズの形状、構成により、合成的に色収差を打ち消すことが行われている。例えば、アッベ数が大きく、屈折率が中程度の、例えばアッベ数50~60の脂環式ポリオレフィン樹脂製のレンズ2~4枚と、アッベ数が小さく、かつ屈折率が高い例えば、アッベ数23~26のフルオレン系樹脂製のレンズを1~2枚を組み合わせて色収差を補正することが行われている。
【0009】
しかしながら、スマートフォン端末の薄型化や、多機能化に伴い、光学レンズユニットの小型化が求められている。光学レンズユニットを小型化する為、アッベ数の小さい樹脂の高屈折率化が進み、結果として、特許文献1に示されるように、高屈折率かつ小アッベ数のレンズが開発されている。このため、アッベ数の大きいレンズとアッベ数の小さいレンズの差が大きくなってきている。そこで、光学レンズユニットの設計自由度を上げる為、アッベ数の大きいレンズとアッベ数の小さいレンズの中間領域のアッベ数を有する樹脂組成物の需要が高まっている。
【0010】
一方で、樹脂組成物を光学部品として利用するためには、光学部品へと成形可能な成形性も要求される。また、夏場の車内等の高温環境においても変形しない耐熱性も要求される。特許文献2においては、成形性を有すると共に、中間領域のアッベ数及び高い耐熱性を有するポリエステル樹脂組成物は得られていない。
【0011】
そこで、成形性を有すると共に、中間領域のアッベ数及び高い耐熱性を有するポリエステル樹脂の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1視点によれば、(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含むポリエステル樹脂が提供される。(A)成分は、(A1)カルボキシ残基のトランス体/シ ス体異性比率が85/15~100/0である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分 及び(A2)トランス体/シス体異性比率が80/20~100/0である2,6-デカ ヒドロナフタレンジカルボン酸成分のうち少なくとも一方を含む。(B)成分は、(B1)重合体の質量に対して12質量%~61質量%のフルオレン系ポリオール成分と、(B2)
トランス体比率が95%以上の下記化1に示す化合物から導かれる成分と、を含む。ポリエステル樹脂のガラス転移温度は135℃以上である。
【化1】
本発明の第2視点によれば、(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含むポリエステル樹脂が提供される。(A)成分は、(A1)カルボキシ残基のトランス体/シス体異性比率が85/15~100/0である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分を含む。(B)成分は、(B1)前記重合体の質量に対して12質量%~61質量%のフルオレン系ポリオール成分と、(B2)重合体の質量に対して3.3質量%~37.0質量%の下記化2に示す化合物から導かれる成分及び下記化3に示す化合物から導かれる成分のうちの少なくとも一方と、を含む。ポリエステル樹脂のガラス転移温度は135℃以上である。
【化2】
【化3】
【0013】
本発明の第3視点によれば、上記第1視点又は第2視点に係るポリエステル樹脂を含むポリエステル成形体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本開示のポリエステル樹脂は、良好な成形性を有すると共に、中間領域のアッベ数及び高耐熱性を有する。これにより、本開示のポリエステル樹脂は、所望の形状を有する製品に成形することができる。本開示のポリエステル樹脂及びその成形体によれば、光学設計の自由度を高めることができる。また、本開示のポリエステル樹脂及びその成形体は、高温環境においても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例3~28における(B1)第1のポリオール成分の質量割合とアッベ数の相関を示すグラフ。
【
図2】試験例35~41における(B1)第1のポリオール成分の質量割合とアッベ数の相関を示すグラフ。
【
図3】試験例3~28及び35~41における(B1)第1のポリオール成分の質量割合とアッベ数の相関を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(B1)成分は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分及び9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン成分のうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、複素環系ポリオール成分は、下記化4に示す化合物から導かれる成分を含む。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、脂環系ポリオール成分は、下記化5に示す化合物から導かれる成分を含む。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂は27~45のアッベ数を有する。
【0020】
以下の説明において、図面参照符号は発明の理解のために付記しているものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図示の形状、寸法、縮尺等も図面に示す形態に発明を限定するものではない。各実施形態において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲において、各酸成分及び各アルコール成分にはその誘導体も含まれ得る。例えば、酸成分には酸成分の誘導体(例えばエステル)も含まれ得る。
【0022】
本開示において、ポリカルボン酸とは、カルボキシ基を複数有する化合物及び/又はその誘導体のことをいう。また、ポリオールとは、ヒドロキシ基を複数有する化合物(ポリヒドロキシ化合物)及び/又はその誘導体のことをいう。
【0023】
本開示において、重合体には、2種類以上の単量体成分から構成される共重合体(コポリマー)、及び架橋重合体(クロスポリマー)も含み得る。
【0024】
第1実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂及びその製造方法について説明する。
【0025】
本開示のポリエステル樹脂は、(A)ポリカルボン酸成分と(B)ポリオール(アルコール)成分との第1の重合体(ポリマー)を含む。本開示のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の質量に対して、第1の重合体を90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは100質量%含むと好ましい。本開示のポリエステル樹脂は、第1の重合体以外の第2の重合体(例えばポリエステル樹脂)を含むブレンド体(ポリマーアロイ)であってもよい。
【0026】
本開示において、重合体中の各成分の質量割合は、各成分のモル分率及び各成分のユニット分子量から算出した質量割合として算出することができる。各成分のモル分率は、重合体を構成する各成分の物質量の総和に対する物質量割合として算出することができる。各成分のユニット分子量は、単量体の分子量から、縮合重合時に除かれる原子(官能基、分子)相当分を差し引いた値とすることができる。例えば、(A1)成分の基礎とする単量体が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸メチルエステルである場合、(A1)成分のユニット分子量は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸メチルエステルの分子量から、メタノール2分子の分子量を差し引いて、水1分子の分子量を足した値(すなわち、C2H6O相当分子量を差し引いた値)とすることができる。(B1)成分の基礎とする単量体が下記化2に示す化合物である場合、(B1)成分のユニット分子量は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの分子量から、水1分子の分子量を差し引いた値とすることができる。重合体のユニット分子量は、重合体を構成する各成分の、モル分率に応じたユニット分子量の合計とすることができる。
【0027】
[(A)酸成分]
(A)ポリカルボン酸成分は、(A1)1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分及び(A2)2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分のうちの少なくとも一方を含む。
【0028】
(A1)成分及び/又は(A2)成分は、(A)成分の質量の総量に対して、95mol%以上であると好ましく、100mol%であるとより好ましい。(A1)成分及び/又は(A2)成分が95mol%未満となり、他の酸成分が5mol%以上含有すると、耐熱性が低下すると共に、中間領域のアッベ数が得られない可能性が高くなってしまう。
【0029】
本開示のポリエステル樹脂において、第1の重合体中の(A)成分の質量割合は、後述の(B1)成分及び(B2)成分の量に応じて決定することができる。例えば、(B1)成分の質量割合を基準にして、(A)成分と(B)成分のモル比が1対1となるように(A)成分の質量割合を決めることができる。
【0030】
(A1)成分におけるシクロヘキサン環に対するカルボキシ残基(エステル基)の異性比率は、トランス(trans)体とシス(cis)体の合計に対してトランス体が85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとより好ましい。トランス体が85%未満であると、ポリエステル樹脂組成物の耐熱性が劣ってしまう。
【0031】
(A2)成分におけるビシクロヘキサン環に対するカルボキシ残基(エステル基)の異性比率は、トランス体とシス体の合計に対してトランス体が例えば80%以上とすることができる。
【0032】
(A)ポリカルボン酸成分は、本開示の組成物の本質的な性質を変えない範囲において、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分及び2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分以外の酸成分を含有してもよい。他の酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン等の芳香族ジカルボン酸成分;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピレミン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分;1,2-、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-、1,5-、2,7-デカヒドロナフタレンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸成分等が挙げられる。なお、これらの酸成分は単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
[(B)ポリオール成分]
(B)ポリオール成分は、(B1)フルオレン骨格を有する第1のポリオール成分(フルオレン系ポリオール成分)、及び(B2)脂肪族の第2のポリオール成分を有する。
【0034】
[(B1)第1のポリオール成分]
(B1)第1のポリオール成分は、フルオレンに、ヒドロキシ基を有する置換基が複数導入されたフルオレン系ポリオール成分を含む。フルオレン系ポリオール成分の化学式の一例を下記化1に示す。(B1)成分としては、例えば、フルオレンの9位に、ヒドロキシ基を有する置換基が2つ導入されたビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ成分が含まれ得る。化1において、R1とR2は同じ置換基とすることができる。R1及びR2は、例えば、ヒドロキシアルコキシアリール基とすることができる。(B1)成分としては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン成分、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン成分、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン成分、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3エチルフェニル]フルオレン成分、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジエチルフェニル]フルオレン成分等のうちの少なくとも1つが挙げられる。これらの中でも、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分(下記化2)及び9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン成分(下記化3)のうちの少なくとも1つが、樹脂組成物の光学特性及び成形性の観点から特に好ましい。なお、下記化2及び化3においては、表記の便宜上、(B1)成分に対応するモノマー(ビスフェニルフルオレン化合物)を示してある。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
本開示のポリエステル樹脂における第1の重合体中の(B1)成分の質量割合は、第1の重合体の質量に対して、12質量%以上であると好ましい。(B1)成分が12質量%以上であると、ポリエステル樹脂のアッベ数を45以下にすることができる。第1の重合体中の(B1)成分の質量割合は、第1の重合体の質量に対して、61質量%以下であると好ましい。(B1)成分が61質量%以下であると、ポリエステル樹脂のアッベ数を27以上にすることができる。
【0039】
ポリエステル樹脂のアッベ数は(B1)成分の含有率によって調整することができる。例えば、ポリエステル樹脂のアッベ数を42以下にする場合、(B1)成分の質量割合は20質量%以上にすることができる。アッベ数を39以下にする場合、(B1)成分の質量割合は24質量%以上にすることができる。アッベ数を36以下にする場合、(B1)成分の質量割合は30質量%以上にすることができる。アッベ数を33以下にする場合、(B1)成分の質量割合は40質量%以上にすることができる。アッベ数を30以下にする場合、(B1)成分の質量割合は50質量%以上にすることができる。
【0040】
例えば、アッベ数を30以上にする場合、(B1)成分の質量割合は50質量%以下にすることができる。アッベ数を33以上にする場合、(B1)成分の質量割合は38質量%以下にすることができる。アッベ数を36以上にする場合、(B1)成分の質量割合は35%以下にすることができる。アッベ数を39以上にする場合、(B1)成分の質量割合は24質量%以下にすることができる。アッベ数を42以上にする場合、(B1)成分の質量割合は20質量%以下にすることができる。
【0041】
(A)成分の主成分が(A1)1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分であるとき、アッベ数45以下とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して8mol%以上であると好ましく、10mol%以上であるとより好ましい。アッベ数を42以下とする場合、(B1)成分は15mol%以上であると好ましい。アッベ数を39以下とする場合、(B1)成分は18mol%以上であると好ましい。同様にして、アッベ数を27以上とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して72mol%以下であると好ましく、70mol%以下であるとより好ましい。アッベ数を30以上とする場合、(B1)成分は55mol%以下であると好ましい。アッベ数を33以上とする場合、(B1)成分は40mol%以下であると好ましい。
【0042】
(A)成分の主成分が(A2)2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分であるとき、アッベ数45以下とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して11mol%以上であると好ましく、13mol%以上であるとより好ましい。アッベ数を42以下とする場合、(B1)成分は16mol%以上であると好ましい。アッベ数を39以下とする場合、(B1)成分は21mol%以上であると好ましい。同様にして、アッベ数を27以上とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して84mol%以下であると好ましく、82mol%以下であるとより好ましい。アッベ数を30以上とする場合、(B1)成分は60mol%以下であると好ましい。アッベ数を33以上とする場合、(B1)成分は40mol%以下であると好ましい。
【0043】
[(B2)第2のポリオール成分]
(B2)第2のポリオール成分は、複素環に、ヒドロキシ基を有する置換基が複数導入された複素環系ポリオール成分及び脂環式化合物に、ヒドロキシ基を有する置換基が複数導入された脂環系ポリオール成分のうちの少なくとも1つを含む。
【0044】
(B2)複素環系ポリオール成分としては、例えば、下記化4の式で表される複素環式ジヒドロキシ成分、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン成分、2-(5-エチル-5-ヒドキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール成分等のスピロ炭化水素誘導体成分等のうちの少なくとも1つが挙げられる。このうち、下記化4の式で表される複素環式ジヒドロキシ成分であると好ましい。化4の式で表される成分としては、例えば、イソソルバイド(下記化5;1,4:3,6-ジアンヒドロソルビトール、イソソルビド)成分、イソマンニド(1,4:3,6-ジアンヒドロマンニトール)成分、及びイソイジド(1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール)成分が挙げられる。例えば、(B2)成分のモノマーとしてイソソルバイドを用いた場合には、(B2)成分の主たる成分はイソソルバイド成分であると考えられる。なお、下記化4においては、表記の便宜上、(B2)成分に対応するモノマー(ジヒドロキシ化合物)を示してある。
【0045】
【0046】
(B2)脂環系ポリオール成分としては、例えば、下記化5の式で表される脂環式ジヒドロキシ成分である1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、2,6-デカヒドロナフタレンジオール、1,4-デカヒドロナフタレンジオール、2,2’-ビス(4-ヒドロキシシキロヘキシル)プロパン、4,4’ジヒドロキシシクロヘキシル、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分等のうち少なくとも1つが挙げられる。このうち、脂環系ポリオール成分は1,4-シクロヘキサンジオールであると好ましい。
【0047】
【0048】
中間領域のアッベ数、高耐熱性、及び高透明性を得るため、(B1)成分及び(B2)成分が(B)成分を占める割合は、(B)成分の総量に対して95mol%以上であると好ましく、98mol%以上であるとより好ましく、100mol%以上であるとさらに好ましい。
【0049】
(A1)成分の主成分が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分であるとき、アッベ数45以下とする場合、(B2)成分はアルコール成分の総量に対して92mol%以下であると好ましく、90mol%以下であるとより好ましい。アッベ数を42以下とする場合、(B2)成分は85mol%以下であると好ましい。アッベ数を39以下とする場合、(B2)成分は82mol%以下であると好ましい。同様にして、アッベ数を27以上とする場合、(B2)成分はアルコール成分の総量に対して28mol%以上であると好ましく、30mol%以上であるとより好ましい。アッベ数を30以上とする場合、(B2)成分は45mol%以上であると好ましい。アッベ数を33以上とする場合、(B2)成分は60mol%以上であると好ましい。
【0050】
(A1)成分の主成分が2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分であるとき、アッベ数45以下とする場合、(B2)成分はアルコール成分の総量に対して89mol%以下であると好ましく、87mol%以下であるとより好ましい。アッベ数を42以下とする場合、(B2)成分は84mol%以下であると好ましい。アッベ数を39以下とする場合、(B2)成分は79mol%以下であると好ましい。同様にして、アッベ数を27以上とする場合、(B2)成分はアルコール成分の総量に対して16mol%以上であると好ましく、18mol%以上であるとより好ましい。アッベ数を30以上とする場合、(B2)成分は40mol%以上であると好ましい。アッベ数を33以上とする場合、(B2)成分は60mol%以上であると好ましい。
【0051】
(B)ポリオール成分は、本開示の組成物の本質的な性質を変えない範囲において、(B1)成分及び(B2)以外の成分を含むことができる。他のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール成分、プロピレングリコール成分、ブタンジオール成分、ヘキサンジオール成分、オクタンジオール成分、デカンジオール成分、エチレンオキサイド付加型ビスフェノールA成分、エチレンオキサイド付加型ビスフェノールS成分、トリメチロールプロパン成分等が挙げられる。これらのアルコール成分は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
例えば、(B)ポリオール成分は、(B1)成分及び(B2)以外の成分(例えば、エチレングリコール成分)をアルコール成分の総量に対して10mol%以下で含むことができる。
【0053】
本開示のポリエステル樹脂において、(B2)成分の質量割合は、(B1)成分の量に応じて、決定することができる。
【0054】
本開示のポリエステル樹脂は、本開示の効果を阻害しない範囲において、上述した以外の公知の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、重合触媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、離型剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、顔料、染料等を使用することができる。
【0055】
[ガラス転移温度]
本開示のポリエステル樹脂は、135℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは142℃以上、さらに好ましくは145℃以上のガラス転移温度を有することができる。本開示のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、成形容易性を確保するため、160℃以下、好ましくは155℃以下であると好ましい。本開示にいうガラス転移温度(Tg)とは、示差走査熱量測定(DSC;Differential Scanning Calorimetry)におけるガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をいう。
【0056】
[屈折率]
本開示のポリエステル樹脂は、例えば、屈折率1.5以上を有することができる。また、本開示のポリエステル樹脂組成物は、例えば屈折率1.6以下を有することができる。本開示の屈折率は、20℃において波長589nmの単色光で測定した値とすることができる。屈折率の測定試料は、厚さ150μmのフィルムとすることができる。
【0057】
[アッベ数]
本開示のポリエステル樹脂は、中間領域のアッベ数を有することができる。本開示のポリエステル樹脂組成物は、例えば27以上、28以上、29以上又は30以上のアッベ数を有することができる。本開示のポリエステル樹脂組成物は、例えば47以下、46以下、45以下、44以下、43以下、42以下、41以下、又は40以下のアッベ数を有することができる。アッベ数(νd)は、波長589nm、486nm及び656nmの単色光に対する屈折率を測定し、以下の数式を用いて算出することができる。
νd=(nD-1)/(nF-nC)
nD:フラウンホーファーのD線である波長が589nmの光に対する樹脂組成物の屈折率
nF:フラウンホーファーのF線である波長が486nmの光に対する樹脂組成物の屈折率
nC:フラウンホーファーのC線である波長が656nmの光に対する樹脂組成物の屈折率
【0058】
[固有粘度]
本開示のポリエステル樹脂は、0.32dl/g(102cm3/g)以上、0.34dl/g以上、又は0.35dl/g以上の固有粘度(IV値)を有することができる。本開示のポリエステル樹脂組成物は、0.45dl/g以下、0.43dl/g以下、又は0.42dl/g以下の固有粘度を有することができる。固有粘度は、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に試料0.5000±0.0005gを溶解させ、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて測定した、20℃における固有粘度とすることができる。
【0059】
[成形性]
本開示のポリエステル樹脂は、所望の形状に容易に成形可能な成形性を有している。例えば、本開示のポリエステル樹脂は、割れ等の欠陥を発生させることなく、レンズ等の光学部品、フィルム等に容易に成形することができる。
【0060】
第1実施形態に係るポリエステル樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0061】
本開示のポリエステル樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の触媒を使用して公知の重合方法によって行うことが出来る。本開示のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、未置換のポリカルボン酸を出発原料として直接エステル化する方法、ジメチルエステル等のエステル化物を出発原料としてエステル交換反応を行なう方法のいずれであってもよい。本開示のポリエステル樹脂組成物の製造に際しては、十分な反応速度を得るため、第1段階として、公知の触媒を使用して常圧下でエステル交換反応を実施し、引き続く第2段階として、公知の触媒を使用して減圧下で重縮合反応を実行することが望ましい。
【0062】
(A)酸成分の原料として、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸及び/又は2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸を使用することができる。1,4-シクロヘキサンジカルボン酸及び/又は2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸、並びにその他の酸は、カルボン酸のまま出発原料としてもよいし、アルキルエステル等の誘導体としてから重合させてもよい。アルキルエステルの誘導体としては、例えば、炭素数1~10のアルキルエステル、より具体的には、ジメチルエステル、ジエチルエステル等が挙げられ、特にジメチルエステルを好適に使用することができる。なお、特に限定されるものではないが、未置換の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を重合原料として使用し、直接エステル化によって重合すると、重合反応中にトランス体からシス体への異性化が生じやすくなり、樹脂組成物中に含まれるトランス体の比率を90%以上に制御するのが困難となる。このため、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アルキルエステルにしてから重合させることが特に望ましい。
【0063】
重合原料として使用する1,4-シクロヘキサンジカルボン酸においてトランス体とシス体の異性体比率はトランス体/シス体=90/10~100/0であると好ましく、より好ましくは95/5~100/0である。重合工程におけるトランス体からシス体への異性化を考慮すると、トランス体の割合が90%未満であると、樹脂組成物中に含まれるトランス体の比率を90%以上に制御することが困難となる。
【0064】
重合原料として使用する2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸においてトランス体とシス体の異性体比率はトランス体/シス体=80/20~100/0とすることができる。
【0065】
(B)ポリオール成分のうち、(B1)第1のポリオール成分としては、上記に挙げたような各成分の基礎となるフルオレン化合物を使用することができる。
【0066】
(B)ポリオール成分のうち、(B2)第2のポリオール成分としては、上記に挙げたような各成分の基礎となる複素環化合物及び脂環式化合物のうちの少なくとも一方を使用することができる。このうち、複素環化合物としては化4の式で示される化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルバイド(下記化6)が、入手及び製造のしやすさ、並びに、樹脂組成物の光学特性及び成形性の面から最も好ましい。脂環式化合物としては化5の式で示される化合物のうち、1,4-シクロヘキサンジオールが、入手及び製造のしやすさ、並びに、樹脂組成物の光学特性及び成形性の面から最も好ましい。
【0067】
【0068】
重合原料として使用する1,4-シクロヘキサンジオールにおいてトランス体とシス体の異性体比率は30/70~100/0であると好ましい。重合工程におけるシス体からトランス体への異性化により原料のトランス体比率によらず、樹脂組成物中に含まれるトランス体の比率は95%以上となるが、原料のトランス体比率が低くなると、重合反応性が悪くなってしまう。
【0069】
成分(A)、(B1)及び(B2)の原料化合物を反応させるにあたって、原料中の(B)ポリオール成分/(A)ポリカルボン酸成分のモル比は、0.8以上であると好ましく、0.9以上であると好ましい。該モル比が0.8未満であると、エステル交換反応が円滑に進まず、得られる樹脂組成物の分子量が小さくなり、実使用可能な程度の十分な機械物性が得られない場合がある。また、(B)ポリオール成分/(A)ポリカルボン酸成分のモル比は、1.5以下であると好ましく、1.3以下であるとより好ましい。該モル比が1.5を超えると、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸において、トランス体からシス体への異性化が生じやすくなり、重合後の樹脂組成物に含まれるトランス体比率が低くなって、耐熱性に劣る場合がある。
【0070】
エステル交換反応は、例えば、重合原料として使用する各化合物と、必要に応じて用いられる他の各種共重合成分とを、加熱装置、撹拌機及び留出管を備えた反応容器に仕込み、反応触媒を加えて常圧不活性ガス雰囲気下で撹拌しつつ昇温し、反応により生じたメタノール等の副生成物を溜去しつつ反応させることによって行うことができる。反応温度は150℃~270℃、好ましくは160℃~260℃とすることができる。反応時間は3~7時間程度とすることができる。
【0071】
エステル交換反応の触媒としては、少なくとも1種類以上の金属化合物を使用することが望ましい。好ましい金属元素としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、スズ、コバルト等が挙げられる。これらの中でも、チタン化合物は反応性が高く、得られる樹脂の色調が良好なことから好ましい。エステル交換触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、5ppm~1000ppm、好ましくは10~100ppmとすることができる。
【0072】
また、エステル交換反応が終了した後に、エステル交換触媒と等モル以上のリン化合物を添加することが望ましい。リン化合物の例としては、リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト等が挙げられる。これらのうち、トリメチルホスフェートが特に好ましい。リン化合物の添加率は、生成するポリエステル樹脂に対して、5ppm~1000ppm、好ましくは20ppm~100ppmとすることができる。
【0073】
エステル交換反応につづいて、所望の分子量となるまで更に重縮合反応を行うことができる。重縮合反応は、例えば、上記のエステル交換反応終了後の生成物を入れた反応槽内に、重合触媒を添加した後、反応槽内を徐々に昇温且つ減圧しながら行うことができる。槽内の圧力は常圧雰囲気下から最終的には0.4kPa以下、好ましくは0.2kPa以下まで減圧することができる。槽内の温度は220℃~240℃から最終的には250℃~290℃、好ましくは250℃~270℃まで昇温し、所定のトルクに到達した後、槽底部から反応生成物を押出して回収することができる。通常の場合、反応生成物を水中にストランド状に押し出し、冷却した上でカッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
【0074】
重縮合反応の触媒としては少なくとも1種類以上の金属化合物を使用することが望ましい。好ましい金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、チタン及びゲルマニウム化合物は反応性が高く、得られる樹脂の透明性及び色調に優れていることから、光学用樹脂を作製する場合には特に好ましい。重合触媒の添加率は、生成するポリエステル樹脂に対して、10ppm~1000ppm、好ましくは30ppm~100ppmとすることができる。
【0075】
本開示のポリエステル樹脂組成物には、用途及び成形目的に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を便宜配合することができる。また、これらの添加剤成分は、重合反応工程、加工・成形工程のいずれの工程においても配合してよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられるが、特にヒンダードフェノール系を好適に使用することができる。酸化防止剤の添加率は100ppm~5000ppm程度であると望ましい。
【0076】
第2実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂の成形体及びその製造方法について説明する。
【0077】
第2実施形態に係るポリエステル樹脂の成形体は、第1実施形態に係るポリエステル樹脂と同様の組成を有する。第2実施形態に係る樹脂組成物の組成については上述の説明を援用する。
【0078】
本開示のポリエステル樹脂の成形体は、例えば、光学レンズ等の光学部品、フィルム、シート等の形状を有することができる。本開示のポリエステル樹脂は、耐熱性に優れ、かつアッベ数27~45を有することができるので、その成形体は、例えば、携帯通信端末等におけるカメラ用レンズ等に好適に適用することができる。本開示のポリエステル成形体によれば、光学設計の自由度を高めることができる。また、本開示のポリエステル成形体は、使用時に高温となる環境においても使用することができる。
【0079】
ポリエステル樹脂の成形体は、第1実施形態に係るポリエステル樹脂を成形加工することにより得ることができる。ポリエステル樹脂の成形体は、例えば、ポリエステル樹脂を押出成形、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形、カレンダー成形、延伸成形するによって所望の形状に製造することができる。
【0080】
本開示のポリエステル樹脂及びその成形体には、本開示の製造方法によって得られるポリエステル樹脂組成物も含まれ得る。本開示のポリエステル樹脂及びその成形体における上述以外の特徴は、本開示のポリエステル樹脂及びその成形体の組成、構造又は特性により直接特定することが困難なものもあり、その場合には製造方法によって特定することが有用である。例えば、本開示のポリエステル樹脂及びその成形体の特性が、組成等によって直接特定できない場合、製造方法によって特定することが適切な場合もある。
【実施例】
【0081】
以下に、本開示のポリエステル樹脂及びその成形体について実施例を用いて説明する。本開示のポリエステル樹脂及びその成形体は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
[試験例1~34]
[ポリエステル樹脂の作製]
表1及び表2に、各試験例において作製したポリエステル樹脂の組成及び物性を示す。攪拌機、留出管及び減圧装置を装備した反応器内に、(A)成分の原料として(A1)1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(トランス体比率98%)9.6kg(表1及び表2において「DMCD」と表記する)、(B1)成分の原料として9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン4.21kg(表1において「BPEF」と表記する)、及び(B2)成分の原料としてイソソルバイド5.63kg(表1及び表2において「ISB」と表記する)を投入し、窒素置換した後200℃で原料を溶解させた。その後、チタンテトラブトキシド(以下、「TBT」と表記する)の50%1,4ブタンジオール(以下、「BD」と表記する)溶液11.75gを系内に投入し、230℃まで1時間かけて昇温させた。その後、内温を230℃から250℃へと引き上げながら、2時間エステル交換反応を行った。つづいて、トリメチルリン酸の50%BD溶液7.5g、TBTの50%BD溶液2.35gを投入し、重縮合反応を開始した。90分後に133Pa以下まで減圧し、この間に内温を250℃から270℃へと昇温させ、133Pa以下の高真空下で所定の粘度となるまで撹拌して重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂をストランド状に水中に押し出してカットし、ペレット状にした。得られたポリエステル樹脂の組成及び評価物性を表1及び表2に試験例7として示す。表1において、各化合物は上記略語で表してある。
【0083】
試験例1~6及び8~15も同様にしてポリエステル樹脂を作製し、各ポリエステル樹脂の組成及び物性を測定した。試験例5及び6においては、トランス体比率の低い1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを用いて、生成されたポリエステル樹脂におけるトランス体比率を他の試験例よりも低下させた。
【0084】
試験例16~18においては、(B1)成分として、BPEFの代わりに、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを原料として用いて(表1及び表2において「BOPPEF」と表記する)ポリエステル樹脂を作製し、各ポリエステル樹脂の組成及び物性を測定した。
【0085】
試験例19~28においては、(A)成分として2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジメチル(表1及び表2において「DDCM」と表記する)を用いてポリエステル樹脂を作製し、各ポリエステル樹脂の組成及び物性を測定した。
【0086】
試験例29~34においては、(B2)成分の代わりに、エチレングリコール(表1及び表2において「EG」と表記する)を用いてポリエステル樹脂を作製し、各ポリエステル樹脂の組成及び物性を測定した。
【0087】
表1には、各試験例で作製したポリエステル樹脂の組成について、(A)酸成分及び(B)アルコール成分それぞれのモル分率を表記してある。表2に示すポリエステル樹脂の組成は、表1に示す各ポリエステル樹脂における各成分のモル分率に応じた、(A)成分と(B)成分の質量の総量に対する各成分の質量割合である。
図1に、表2に示す(B1)成分の質量割合とアッベ数の相関を示す。
【0088】
[成分組成]
生成したポリエステル樹脂の成分組成及びポリエステル樹脂中の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分及び2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分におけるトランス体比率は、ポリエステル樹脂の核磁気共鳴(NMR;Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルを測定するによって決定した。プロトンNMRスペクトルは、テトラメチルシランが標準物質として含まれる重水素化クロロホルムに試料を溶解し、FT-NMR装置(ブルカー・バイオスピン社製DPX400型)を使用して測定した。
【0089】
[固有粘度(IV)]
フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に、ポリエステル樹脂試料0.5000±0.0005gを溶解させ、自動粘度計(サン電子工業(株)製AVL-6C)を使用して、20℃条件下のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)を測定した。
【0090】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製DSC-7)を使用し、ポリエステル樹脂試料を窒素雰囲気中で30℃から10℃/分で昇温しながら吸熱挙動を観察し、ガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0091】
[屈折率]
ポリエステル樹脂試料1gを200℃で熱プレス成形して、測定試料となる厚さ約150μmの透明なフィルムを作成した。アッベ屈折計(アタゴ社製DR-M2型)を使用し、20℃条件下、波長589nmでの測定試料の屈折率を測定した。
【0092】
[アッベ数]
屈折率測定と同様の試料及び装置を用い、波長589nm、486nm、及び656nmでの屈折率を測定し、以下の数式を用いてアッベ数(νd)を算出した。
νd=(nD-1)/(nF-nC)
nD:フラウンホーファーのD線である波長が589nmの光に対するポリエステル樹脂の屈折率
nF:フラウンホーファーのF線である波長が486nmの光に対するポリエステル樹脂の屈折率
nC:フラウンホーファーのC線である波長が656nmの光に対するポリエステル樹脂の屈折率
【0093】
試験例1及び2において作製したポリエステル樹脂は結晶性が高くなったため脆く、シートに成形できなかった。しかしながら、試験例3及び4においては、ポリエステル樹脂をシート状に成形でき、屈折率を測定することができた。試験例1及び2においては、(B1)成分が少なかったため、又は(B2)成分が多すぎたために成形性が低下したものと考えられる。これより、成形性を高めるためには、(B1)成分は、(B)成分の総量に対して、8mol%以上であると好ましく、10mol%以上であるとより好ましいと考えられる。(B2)成分は、(B)成分の総量に対して、92mol%以下であると好ましく、90mol%以下であるとより好ましいと考えられる。
【0094】
試験例5及び6において作製したポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が135℃未満となった。しかしながら、その他の試験例においては、ガラス転移温度は135℃以上となった。特に、試験例5及び6と組成が同じである試験例7においては、ガラス転移温度を144℃とすることができた。これより、ガラス転移温度を高めるためには、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分におけるトランス体率は、トランス体とシス体の総量に対して、85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましいと考えられる。
【0095】
図1に示すように、(B1)成分の質量割合が増加すると、アッベ数が反比例的に低下していることが分かる。すなわち、アッベ数は、(A)成分の種類によらず、(B1)成分の質量割合に依存していると考えられる。これより、中間領域であるアッベ数27~45のポリエステル樹脂を得るためには、(B1)成分の質量割合は12質量%~61質量%にすると好ましいと考えられる。そして、(B1)成分の質量割合を調整することによって、所望のアッベ数を有するポリエステル樹脂を得ることができると考えられる。例えば、ポリエステル樹脂のアッベ数を42以下にする場合、(B1)成分の質量割合は20質量%以上にすることができると考えられる。アッベ数を39以下にする場合、(B1)成分の質量割合は24質量%以上にすることができると考えられる。アッベ数を36以下にする場合、(B1)成分の質量割合は30質量%以上にすることができると考えられる。アッベ数を33以下にする場合、(B1)成分の質量割合は40質量%以上にすることができると考えられる。アッベ数を30以下にする場合、(B1)成分の質量割合は50質量%以上にすることができると考えられる。アッベ数を30以上にする場合、(B1)成分の質量割合は50質量%以下にすることができると考えられる。アッベ数を33以上にする場合、(B1)成分の質量割合は38質量%以下にすることができると考えられる。アッベ数を36以上にする場合、(B1)成分の質量割合は35%以下にすることができると考えられる。アッベ数を39以上にする場合、(B1)成分の質量割合は24質量%以下にすることができると考えられる。アッベ数を42以上にする場合、(B1)成分の質量割合は20質量%以下にすることができると考えられる。
【0096】
図1は、(B1)成分がBPEF成分である試験例3~15及び(B1)成分がBOPPEF成分である試験例16~18のデータを含んでいる。
図1によれば、試験例3~15及び試験例16~18は同様の傾向を示していると思われる。これより、(B1)成分は、少なくともビスフェニルフルオレン成分であれば本開示のポリエステル樹脂に適用することができると考えられる。
【0097】
図1は、(A)成分が(A1)1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分である試験例3~18及び(A)成分が(A2)2,6-デカヒドロナフタレンジカルボン酸成分である試験例19~28を含んでいる。
図1によれば、試験例3~18及び試験例19~28は同様の傾向を示していると思われる。これより、(A)成分は、少なくとも脂環族飽和炭化水素の酸成分であれば本開示のポリエステル樹脂に適用することができると考えられる。
【0098】
(B2)成分の代わりにエチレングリコール成分を用いた試験例29~34においては、いずれもガラス転移温度が低くなった。これより、耐熱性を高めるためには、脂肪族系ポリオールよりも(B2)複素環系ポリオールをモノマーとして用いることが好ましいと考えられる。
【0099】
(A1)成分の主成分がシクロヘキサンジカルボン酸成分であるとき、アッベ数45以下とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して8mol%以上であると好ましく、10mol%以上であるとより好ましいと考えられる。アッベ数を42以下とする場合、(B1)成分は15mol%以上であると好ましいと考えられる。アッベ数を39以下とする場合、(B1)成分は18mol%以上であると好ましいと考えられる。同様にして、アッベ数を27以上とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して72mol%以下であると好ましく、70mol%以下であるとより好ましいと考えられる。アッベ数を30以上とする場合、(B1)成分は55mol%以下であると好ましいと考えられる。アッベ数を33以上とする場合、(B1)成分は40mol%以下であると好ましいと考えられる。
【0100】
(A1)成分の主成分がデカヒドロナフタレンジカルボン酸成分であるとき、アッベ数45以下とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して11mol%以上であると好ましく、13mol%以上であるとより好ましいと考えられる。アッベ数を42以下とする場合、(B1)成分は16mol%以上であると好ましいと考えられる。アッベ数を39以下とする場合、(B1)成分は21mol%以上であると好ましいと考えられる。同様にして、アッベ数を27以上とする場合、(B1)成分はアルコール成分の総量に対して84mol%以下であると好ましく、82mol%以下であるとより好ましいと考えられる。アッベ数を30以上とする場合、(B1)成分は60mol%以下であると好ましいと考えられる。アッベ数を33以上とする場合、(B1)成分は40mol%以下であると好ましいと考えられる。
【0101】
試験例3~4、7~14、16~17及び20~27におけるポリエステル樹脂は、所望の形状、例えば光学部品、に成形可能な成形容易性を有していた。該ポリエステル樹脂は140℃~150℃の高いガラス転移温度を有していた。これより、該ポリエステル樹脂の成形体は高温環境においても使用することができる。また、該ポリエステル樹脂は27~45のアッベ数を有していた。これより、該ポリエステル樹脂の成形体は、中間領域のアッベ数を有する光学部品として使用することができる。
【0102】
【0103】
【0104】
[試験例35~42]
試験例1~34においては(B2)成分として複素環系ポリオール成分を用いたが、試験例35~42においては(B2)成分として脂環式ポリオール成分を用いた。(B2)成分の原料として1,4-シクロヘキサンジメタノール(表3及び表4において「CHDM」と表記する)及びトランス体比率55%の1,4-シクロヘキサンジオール(表3及び表4において「CHD」と表記する)を用いた。ただし、試験例37においてはトランス体率35%のCHDを用いて、試験例36と同じ重縮合反応時間でペレット化した。ポリエステル樹脂の作製方法、並びにその組成及び物性の測定方法は試験例1~34と同様である。表3及び表4に、各試験例において作製したポリエステル樹脂の組成及び物性を示す。表3及び表4の表記方法は表1及び表2と同様である。
図2に、表4に示す(B1)成分の質量割合とアッベ数の相関を示す。
図3に、
図1と
図2を合わせたもの、すなわち試験例3~28及び35~42における(B1)成分の質量割合とアッベ数の相関を示す。
【0105】
試験例35~42においても試験例3~4、7~14、16~17及び20~27におけるポリエステル樹脂と同様の物性を有していた。すなわち、試験例35~42に係るポリエステルは、中間領域のアッベ数を有すると共に、高いガラス転移温度を有していた。また、試験例35~42に係るポリエステルは成形容易性も有していた。これより、脂環系ポリオールを用いたポリエステル樹脂の成形体は、中間領域のアッベ数を有する光学部品として使用することができる。
【0106】
試験例35~42においては、エチレングリコールを用いてもガラス転移温度の低下は見られなかった。(B2)成分は、アルコール成分に対して10mol%以下であれば、エチレングリコール等の他のアルコール成分を含むことができることが分かった。
【0107】
図2に示すように、試験例35~42においても(B1)成分の質量割合が増加するとアッベ数が反比例的に低下していた。また、
図3に示すように、試験例35~42は試験例3~28と同様のアッベ数変化を示していた。これより、上述の試験例1~34に関して述べた事項は、試験例35~42においても妥当する。
【0108】
表4に示すように、試験例37において、原料の1,4-シクロヘキサンジオールのトランス体は重縮合反応中の異性化により、樹脂組成物中のトランス体比率は95%程度となることが分かった。また、試験例36と試験例37の比較により、同じ重縮合反応時間で試験例37の方がIV値が低くなることから原料の1,4-シクロヘキサンジオールのトランス体が高い方が反応性がいいことが分かった。
【0109】
【0110】
【0111】
本開示のポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂成形体、及びこれらの製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本開示の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0112】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0113】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示のポリエステル樹脂は、成形性及び耐熱性に優れている。したがって、本開示のポリエステル樹脂及びその成形体は、例えば、容器、電気電子部品、自動車用材料等、広範囲に用いることが可能である。