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特許7507550蓄積可能な引張応力が増加していることが好ましいガラス、蓄積可能な引張応力が増加していることが好ましいガラスを有する化学的に強化されたガラス製品、それを製造する方法、およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】蓄積可能な引張応力が増加していることが好ましいガラス、蓄積可能な引張応力が増加していることが好ましいガラスを有する化学的に強化されたガラス製品、それを製造する方法、およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20240621BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20240621BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/085
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019184392
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2020059645
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10 2018 124 785.0
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リューディガー ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン アルケンパー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ホーホライン
(72)【発明者】
【氏名】ズザンネ クリューガー
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ヴァイスフーン
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116315(JP,A)
【文献】特開昭61-101434(JP,A)
【文献】国際公開第2018/152845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00,1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが少なくとも0.4mmで、かつ最大1mmであり、カリウムについての圧縮応力深さが、少なくとも4μmで、かつ最大8μmであり、ナトリウム交換による圧縮応力深さ30μmでの圧縮応力が、最大200MPaであり、かつ0.5mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも90MPaであり、0.55mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも100MPaであり、0.6mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも110MPaであり、0.7mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも120MPaであり、1mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも140MPaであり、ここで、mmでの前記ガラス製品の厚さに対するμmでのナトリウム圧縮応力深さの比率が、0.130より大きく、正規化された引張応力積分値、すなわち蓄積可能な引張応力が、少なくとも20.6MPaで、かつ最大30MPa、好ましくは最大27.5MPa、特に好ましくは最大25MPa、極めて特に好ましくは最大24MPaである、化学的に強化されたシート状のガラス製品(7)。
【請求項2】
以下の成分:
SiO 54~64、好ましくは57~64、特に好ましくは60~62、極めて特に好ましくは61~62;
Al 16~28、好ましくは16~21、特に好ましくは17.5~19.5、極めて特に好ましくは18~19;
0~0.6、好ましくは0~0.45、特に好ましくは0~0.28、極めて特に好ましくは0~0.1;
LiO 3.5~6.5、好ましくは3.7~5.7、特に好ましくは3.9~5.5、極めて特に好ましくは4~5.4、最も好ましくは4.5~5.4;
NaO 3~11.1、好ましくは7.1~11.1、特に好ましくは7.5~10.7、極めて特に好ましくは7.8~10.5;
O 0~1.5、好ましくは0.1~1.5、特に好ましくは0.2~1、極めて特に好ましくは0.3~0.75;
MgO 0~2、好ましくは0~1.5、特に好ましくは0~1;
CaO 0~0.55、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0~0.25、極めて特に好ましくは0~0.1;
ZnO 0~3、好ましくは0~2、特に好ましくは0~1.5、極めて特に好ましくは0~1;
0.1~4.5、好ましくは0.1~2、特に好ましくは0.25~1.75、極めて特に好ましくは0.5~1.5;
ZrO 1~4.5、好ましくは2.5~4.5、特に好ましくは2.8~4.2、極めて特に好ましくは2.9~4.1
を質量%で含み、
ここで、ガラス製品(7)が、好適には0.15質量%までのCeO、好ましくは0.1質量%までのCeOおよび/または0.1質量%までのFeを含み、かつここで、さらに好適には前記ガラス製品が、SrOおよびBaOを、不可避の痕跡量としてのみ、それぞれ最大500ppmの濃度で含み、かつ
ここで、0.8<[P+(NaZnO)]<12
である、請求項1記載の化学的に強化されたシート状のガラス製品(7)。
【請求項3】
リチウムアルミノシリケートガラスの二段階のイオン交換により製造され、ここで
1.5時間~4時間の期間にわたる、380℃~最大400℃未満、殊に最大395℃の温度での、少なくとも40質量%~最大70質量%未満のカリウム塩、殊にKNOと、最大60質量%~少なくとも30質量%超のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第一のイオン交換が実施され、かつ
2.5時間~5時間の期間にわたる、360℃~390℃の温度での、90質量%~95質量%のカリウム塩、殊にKNOと、10質量%~5質量%のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第二のイオン交換が実施される、
厚さが少なくとも0.4mmで、かつ最大1mmである、請求項1または2記載の化学的に強化されたシート状のガラス製品(7)。
【請求項4】
最大引張応力が55MPa~85MPaである、請求項1から3までのいずれか1項記載のガラス製品(7)。
【請求項5】
前記ガラス製品の厚さが少なくとも0.5mmである、請求項1から4までのいずれか1項記載のガラス製品(7)。
【請求項6】
カバーシートとしての、殊に家庭用電化製品におけるカバーシートとしての、または保護ガラス部材としての、殊に機械用の保護ガラス部材としての、または高速列車におけるガラス部材としての、または安全ガラス部材としての、または自動車ガラス部材としての、またはダイバーズウォッチにおける、または潜水艦における、または防爆装置用の、殊にガラスの使用が必須と規定されている装置用のカバーシートとしての、請求項1から5までのいずれか1項記載のガラス製品(7)の使用。
【請求項7】
- 1.5時間~4時間の期間にわたる、380℃~395℃の温度での、少なくとも40質量%~最大70質量%未満のカリウム塩、殊にKNOと、最大60質量%~少なくとも30質量%超のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第一のイオン交換、および
- 2.5時間~5時間の期間にわたる、360℃~390℃の温度での、90質量%~95質量%のカリウム塩、殊にKNOと、10質量%~5質量%のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第二のイオン交換
を含む、請求項1から5までのいずれか1項記載のガラス製品(7)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は全体として、ガラス、殊に強化可能なガラス、殊に化学的に強化可能なガラス、およびそのようなガラスを含むガラス製品、例えばそのようなガラスから製造されたガラス製品またはそのようなガラスから成るガラス製品に関する。殊に本開示は、化学的に強化可能および化学的に強化されたガラス製品にも関する。これらのガラスおよびガラス製品は、その内部に蓄積可能な引張応力が従来技術のガラスおよびガラス製品よりも増加するように構成されることが好ましい。さらに、本開示は、そのようなガラス製品を製造する方法およびその使用に関する。
【0002】
背景技術
強化可能な、および強化されたガラスおよび/またはガラス製品は、例えば以下の文献から公知である:米国特許出願公開第2018/0057401号明細書、米国特許出願公開第2018/0029932号明細書、米国特許出願公開第2017/0166478号明細書、米国特許第9,908,811号明細書、米国特許出願公開第2016/0122240号明細書、米国特許出願公開第2016/0122239号明細書、米国特許出願公開第2017/0295657号明細書、米国特許第8,312,739号明細書、米国特許第9,359,251号明細書、米国特許第9,718,727号明細書、米国特許出願公開第2012/0052271号明細書、米国特許出願公開第2015/0030840号明細書、米国特許出願公開第2014/0345325号明細書、米国特許第9,487,434号明細書、米国特許第9,517,968号明細書、米国特許第9,567,254号明細書、米国特許第9,676,663号明細書、米国特許出願公開第2018/0002223号明細書、米国特許出願公開第2017/0166478号明細書、米国特許出願公開第2017/0129803号明細書、米国特許出願公開第2016/01002014号明細書、米国特許出願公開第2015/0368153号明細書、米国特許出願公開第2015/0368148号明細書、米国特許出願公開第2015/0239775号明細書、米国特許第9,908,812号明細書、米国特許第9,902,648号明細書、米国特許第9,593,042号明細書、国際公開第2012/126394号、米国特許第9,54,0278号明細書、米国特許第8,759,238号明細書、米国特許第8,075,999号明細書、米国特許第4,055,703号明細書、独国特許発明第102010009584号明細書、および中国特許出願公開第102690059号明細書。
【0003】
そのような高度に強化可能なガラスは、例えば移動式装置用の保護ガラスに課される要求を満たすために開発された。これは通常、本開示の範囲において「ASガラス」とも称されるアルミノシリケートガラスであるか、またはいわゆるリチウム-アルミノシリケートガラス(本開示の範囲において「LASガラス」とも称される)である。
【0004】
別の言葉で表現すると、アルミノシリケートガラスは、酸化ケイ素SiOおよび酸化アルミニウムAlを成分として含み、かつ酸化リチウムLiO以外のアルカリ金属酸化物を含み、リチウム-アルミノシリケートガラスは、さらに酸化リチウムLiOを含む。すなわち、ここで「アルミノシリケートガラス」および「リチウム-アルミノシリケートガラス」と称されるガラスの間の違いは、リチウム-アルミノシリケートガラスはLiOを含むが、アルミノシリケートガラスはこれを含まないことである。先に挙げた成分の他に、ガラスは、たいていの場合、さらなる成分も含む。
【0005】
これらのガラスは、化学的に強化可能であるように構成されている。本開示の範囲において、化学的に強化可能なガラスとは、イオン交換プロセスに利用可能なガラスであると理解される。そのような方法では、ガラス製品、例えばガラスシートの表面層においてアルカリ金属イオンの交換が行われる。これは、表面層においてその時点より圧縮応力域が構築されるように行われ、これは、半径がより小さなイオンと半径がより大きなイオンとの交換により達成される。そのために、ガラス製品は、いわゆるイオン交換浴、例えば塩溶融物に浸漬され、ここでイオン交換浴は、イオン半径がより大きいイオン、殊にカリウムイオンおよび/またはナトリウムイオンを含み、そのため、これらはガラス製品の表面層に移動する。反対に、イオン半径がより小さいイオン、殊にリチウムイオンおよび/またはナトリウムイオンは、ガラス製品の表面層からイオン交換浴に移動する。
【0006】
それにより圧縮応力域が形成される。この圧縮応力域は、「圧縮強さ(compressive stress)」または略して「CS」とも称される圧縮応力の特徴的な大きさ、および「層深さ(Depth of Layer)」または略して「DoL」とも称される圧縮応力深さにより説明することができる。この圧縮応力深さDoLは、当業者に十分に知られており、本開示の範囲において、応力曲線が応力ゼロ交点を有する深さを示す。あるいはまたはさらに、この厚さDoLは、応力光ゼロ交点測定法により、例えば商品名FSM-6000またはSLP1000の測定装置により特定することができる。
【0007】
この測定装置により、アルミノシリケートガラスについても同様に、表面の圧縮応力、およびシートまたはシート状のガラス製品の最大圧縮応力CSを求めることができる。
【0008】
通常、高度に強化可能なガラス(これのみが、例えば様々な強度の要求についての需要が高い移動式装置用の保護ガラスに用いられる)の場合、40μm~200μmの圧縮応力深さで、圧縮応力について高い値(700MPa~1000MPa)が得られる。イオンの交換が行われるのみならず、一般的にはLASガラスの場合がそうであるように、例えばカリウムイオンおよびナトリウムイオンの交換が組み合わされる場合、圧縮応力を特徴付ける大きさCSおよびDoLは、しばしば各成分またはイオンに関連させた形でも記載され、すなわち、例えばカリウムの交換により生じる圧縮応力は、「CSカリウム」と記載され、相応する圧縮応力深さは、「カリウムDoL」またはカリウム圧縮応力深さと記載される。
【0009】
ASガラスよりもLASガラスが有利である。というのも、LASガラスを用いると、より速くより高い圧縮応力深さを得ることができるからである。ここで圧縮応力深さは、応力曲線が0MPaの値を示すときの値として記載され、すなわち、応力グラフ中で0における応力曲線の交点により記される。圧縮応力深さは、LASガラスの場合、すでに1~3時間のプロセス時間で、一般的に少なくとも100μm以上である。
【0010】
ASガラスの場合も、たしかに高い圧縮応力深さ、例えば125μm以上までの圧縮応力深さは可能である。ただし、そのようなガラスの場合、そのような圧縮応力深さに達するためには、450℃以上の非常に高い強化温度および/または8時間以上の非常に長い強化時間を選択する必要がある。それに比べて、LASガラスには、圧縮応力および圧縮応力深さについて高い値が、著しくより有利な条件、すなわち、より低い温度および/またはより少ない交換時間で達成可能であるという利点がある。
【0011】
圧縮応力および圧縮応力深さについての値の計量的特定は、市販の装置を用いて、例えば、カリウム交換により得られる圧縮応力(カリウムCS)および圧縮応力深さ(カリウムDoL)を特定するための装置FSM6000を用いて、ならびに例えばナトリウム交換により得られる応力についての特性値、殊に30μmの深さでナトリウム交換により得られる圧縮応力の値(「Na CS30」とも略される)およびナトリウムにより得られる圧縮応力深さ(ナトリウムDoL)を特定するための装置SLP1000を用いて行われる。これらの装置は、Orihara Ltd.社から調達したものである。
【0012】
そのような強化されたガラス製品により、高い機械的強度が得られる。しかしながら、製造物、例えばガラス製品の強度に関して、製造物の機械的強度は、材料に応じるのみならず、殊に負荷の種類にも応じることに注目したい。例えば、公知の化学的に強化されたガラス製品は、例えば四点曲げで測定される曲げ強度が高いか、または例えばいわゆる球体落下試験で測定される衝撃強度が高いか、またはいわゆる「鋭い衝撃(sharp impact)」における強度が高い。移動式端末装置についての非常に重要な試験は、例えばいわゆるセットドロップ(set-drop)試験である。この試験は、ガラス製品の負荷を実際の適用で生じ得るように調べる調査である。このために、ガラス製品を、例えばスマートフォンのような後の移動式装置で取り付けられるような形態で取り付ける。したがって、例えばディスプレイのカバーとして使用されるガラス製品が使用される、端末装置のモデル、例えばスマートフォンのモデルが作製される。ここで、モデルの重量は、ガラス製品の組み込みと同様に、ほぼ実際の端末装置の重量に相応するが、相応する部材は使用されない。その後、ガラス製品を下方に向けて、例えば曲率半径が小さい粒子を含む表面にモデルを落下させる。したがって、そのような試験は、例えばスマートフォンがアスファルトまたはタイル張りの土台に落下する場合の、実際の負荷をシミュレーションするものとする。ここで一般的には、粗い土台、すなわち尖った小石または砂粒が突き出た土台が、移動式端末装置の保護ガラスの完全性に非常に重要であることが知られている。例えば、記載のガラスを装着したダミーでの落下高は、これらが花崗岩のような滑らかな表面に落下する場合、またはサンドペーパーを付けた花崗岩のようなサンドペーパーを付けた粗い表面に落下する場合では著しく異なる。サンドペーパーを付けた花崗岩によりシミュレーションされる粗い土台での落下高は、滑らかな土台における落下高よりも低い。
【0013】
そのような「鋭い衝撃」における強度を調べる代替的な試験は、例えばいわゆる「サンドペーパー球体落下試験(sandpaper ball drop tests)」である。例えば、米国特許出願公開第2015/0239775号明細書には、サンドペーパー球体落下試験の例示的な構成が記載されている。
【0014】
アルミノシリケートガラスは、滑らかな土台での「セットドロップ」試験において、その強化プロファイルについて良好~非常に良好までの落下高をなおも示すものの、サンドペーパー上での「セットドロップ」試験におけるLASガラスに対する差異は、極めてすぐに明らかとなる。これは例えば、添付の図4にも見られる。アルミノシリケートガラスの圧縮応力パラメーターは、例えば添付の図2に見ることができる。
【0015】
ここで、一般的な圧縮応力パラメーター、すなわち圧縮応力CSおよび圧縮応力深さDoLは、LASガラスの圧縮応力CSおよび圧縮応力深さDoLと実質的に同等であり得る。LASガラスを含む強化されたガラス製品についての例示的な圧縮応力プロファイルは、図3に見ることができる。これは、従来技術によるLASガラスの圧縮応力プロファイルである。したがって、図2および3の比較から明らかであるように、これらのガラス製品の間に、アルミノシリケートガラスにおけるより高い蓄積された引張応力において、著しい違いが存在する。図4では、この事実が実験的に明らかにされている。蓄積された引張応力が著しくより高いアルミノシリケートガラスは、バー401に図示されるように、サンドペーパー「セットドロップ」試験において、すなわち、いわゆる「鋭い衝撃」での強度試験において、サンドペーパー「セットドロップ」試験におけるその強度がバー402に図示されているLASガラスよりも著しくより不良な強度を有する。
【0016】
従来の圧縮応力パラメーターCSおよびDoLの他に、引張応力も強度に関連することは従来技術であるといえる。ここで、圧縮応力積分値が高すぎる場合(強化プロセスにより生じる表面に導入されるガラス製品の圧縮応力が、ガラス製品の内部に生じる引張応力と同じ大きさであるため、相応して非常に大きな引張応力積分値も生じる)、強度増加が滞るか、または減少することさえあることが示された。このことは、亀裂の広がりがより強く引き起こされること、またはガラス破壊が、例えば四点曲げのような強度実験において、もしくは鋭い衝撃における強度を調べる試験、例えば「セットドロップ」試験においてより早く生じることに起因する。これについては、例えば添付の図4により実験データを用いて説明する。ここでは、蓄積された引張強さが著しくより高いアルミノシリケートガラスが、サンドペーパー「セットドロップ」試験、すなわち「鋭い衝撃」での試験でより不良な強度を示している。ここで、先にすでに述べられているように、その他の圧縮応力パラメーター、すなわちアルミノシリケートガラス製品のCSおよびDOL(図2参照)は、図3によるLASガラス製品のCSおよびDOLと実質的に同等である。しかしながら、アルミノシリケートガラス製品におけるより高い蓄積された引張応力について、これは60.7MPaであり、明らかな差異が存在する(表2の比較例(VB)7参照)。これは、カリウムイオン交換およびナトリウムイオン交換からの圧縮応力割合から構成されるLASガラス製品の圧縮応力プロファイルを合成または組み合わせることにより可能になる。
【0017】
すなわち、組み合わされた圧縮応力プロファイルを有するガラス製品には、鋭い衝撃における臨界強度について、蓄積された引張応力が著しくより低く、その他の点ではCS値およびDoL値が同等であることを理由に、アルミノシリケートガラスまたはアルミノシリケートガラス製品に比べて明らかな利点がある。しかしながら、最適化された強化プロファイルを有する現在市販されているLASガラスまたはLASガラス製品でも、粗い土台で1メートル超という、市場に関連する可能な落下高を超えることはない。すなわち、例えば移動式端末装置の保護シートについて鋭い衝撃に対する強度がさらに向上している化学的に強化されたまたは化学的に強化可能なガラス製品のさらなる需要がある。しかしながら、蓄積された引張応力が比較的低い場合、圧縮応力パラメーターCSおよびDoLのさらなる上昇は、現在市場にあるガラスおよび使用される後加工法によっては期待できない。蓄積された引張応力が低いことを理由にまだ可能であり得るCSおよびDoLのさらなる上昇は、現在のLASガラスの場合、蓄積可能な引張応力の最大値がすでに達成されているため叶わない。現在のLASガラスおよびそれにより得られる蓄積された引張応力の最大値は、例えば、表2、比較例(VB)3~5に見られる。
【0018】
したがって、これらの負荷は、ASガラスにおいて特に重要である。というのも、ここでイオン交換プロファイルに基づき、表面における圧縮応力が高いこと、および圧縮応力深さが高いことにより、蓄積された引張応力も常に高くなるからである。
【0019】
ここで、圧縮応力プロファイルまたはイオン交換プロファイルがナトリウムイオンのみならずカリウムイオンの交換からも成るいわゆるLASガラスにより、1つの利点がもたらされる。すなわちここでは、高い圧縮応力および大きな圧縮応力深さが、アルミノシリケートガラスに比べてより低い蓄積された引張応力と同時に達成可能である。例えば、ドイツの特許文献である独国特許発明第102010009584号明細書では、二段階のイオン交換プロセスが記載されており、ここで例えば、390℃で4時間にわたり硝酸ナトリウム溶融物中において交換が起こり、引き続き、3時間の期間にわたり390℃で硝酸カリウム溶融物中において交換が起こる。このようにして、そのような合成された圧縮応力プロファイルが得られる。
【0020】
このことは、例えば、カリウムイオンおよびナトリウムイオンと、ナトリウムイオンおよび/またはリチウムイオンとの交換が行われるLASガラスについて、ガラス中に生じる圧縮応力の一部がカリウム交換に起因しており、さらに一部がナトリウム交換に起因していることを意味する。
【0021】
高い強化度を有するガラス製品において特に「鋭い衝撃」での負荷の際に生じ得る早期のガラス破壊は、そのような負荷の場合に、ガラス製品の損傷が、非常に尖った粒子による負荷によって圧縮応力域を通して引張応力が存在するガラス製品の領域まで起こることに起因する。殊にガラス製品中に蓄積された引張応力が非常に高い場合、結果としてガラス破壊が起こることがある。
【0022】
「鋭い衝撃」によるそのような破損は、ガラス製品の表面において、ガラス製品の厚さが増加するほど大幅に減少する非常に高い圧縮応力を、全体的に高い交換深さと組み合わせて生じさせることにより回避することができるだろう。
【0023】
例えばLASガラスについて、これは、カリウム交換により非常に高い圧縮応力が表面に生じる場合に、ただし、カリウムについて数マイクロメートルだけの非常に低い圧縮応力深さが生じる場合、および同時にナトリウムについて、ナトリウム交換により生じ得る、いわゆるNa CS30圧縮応力値を特徴とし得る圧縮応力が同時に僅かだけであり、高い圧縮応力深さが生じる場合に、可能であろう。
【0024】
しかしながら、カリウムについての圧縮応力深さが非常に低い場合、殊に4μm未満である場合、およびNa CS30圧縮応力値が120MPa未満と非常に低い場合、欠陥許容値が非常に低くなり、強度試験において得られる値が大きく変動し、殊に下方への異常値が生じることが示される。これらの限界値を非常に大きく下回る場合、強度の値は、いわゆる「鈍い」破損の場合、すなわち鈍い物体による負荷(例えば従来の球体落下試験)においても、また静的な強度調査、例えば二重リング法(Doppelringmethode)または四点曲げによる強度特定においても、全体的に非常に低くなる。
【0025】
ここで欠陥許容値とは、すでに予備的損傷が導入されたガラス製品の強度を調べる場合であると理解される。ガラス製品が低い欠陥許容値を有する場合、このことは、予備的損傷の度合いが低いときにすでに、非常に大きな強度低下が生じていると理解される。それに対して、高い欠陥許容値は、予備的損傷が導入されている場合でも、なおも高い強度が得られることを意味する。ここで予備的損傷とは、例えばサンドブラストによる、または粗い表面でのガラス製品の処理による、ガラス製品の表面の損傷であると理解される。ガラス製品の強度は、実質的に表面の仕上がりにより決まるため、ガラス製品の表面の予備的損傷は、基本的に著しい強度の減少をもたらす。
【0026】
したがって、いわゆる「鋭い衝撃」での負荷に対して高い機械的強度を有するガラス製品の需要がある。さらに、好ましくは化学的な強化によりいわゆる「鋭い衝撃」における高い強度を有するガラスの需要がある。
【0027】
本発明の課題は、先に挙げた従来技術の欠点を克服するか、または少なくとも低減し、殊に例えば鋭い衝撃での負荷において従来技術よりも改善された強度を有するガラス製品およびガラスを提供することである。本発明はさらに、そのようなガラス製品の使用およびそれを製造する方法に関する。
【0028】
本課題は独立請求項の対象により解決され、好ましい具体的な実施形態は従属請求項に見られる。
【0029】
本開示の第一の態様は、厚さが少なくとも0.4mmで、かつ最大3.0mmであり、カリウムについての圧縮応力深さが、少なくとも4μmで、かつ最大8μmであり、ナトリウム交換による深さ30μmでの圧縮応力が、0.5mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも90MPaであり、0.55mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも100MPaであり、0.6mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも110MPaであり、0.7mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも120MPaであり、1mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも140MPaであり、好ましくは最大200MPaであり、ここで、mmでのガラス製品の厚さに対するμmでのナトリウム交換深さの比率が、0.130より大きく、蓄積可能な引張応力が、少なくとも20.6MPaで、かつ最大30MPa、好ましくは最大27.5MPa、特に好ましくは最大25MPa、極めて特に好ましくは最大24MPaである、化学的に強化されたシート状のガラス製品に関する。ここで、蓄積可能な引張応力とはそれぞれ、第一の主表面から反対側の主表面において法線方向の直線に沿って生じる引張応力積分値であると理解され、この積分値を、積分長、すなわち基板の厚さで割ると、様々な厚さの基板について比較可能な値が得られる。したがって、厚さに対して正規化されたこの引張応力積分値は、応力の次元を有し、様々な厚さの基板について比較可能な値を有する。
【0030】
そのようなガラス製品では、高い圧縮応力および大きな圧縮応力深さが有利に組み合わされている。圧縮応力深さが高いことにより、ガラス製品の傷が非常に深い場合にはじめて、すなわち、例えば擦り傷などが非常に深い場合等に、引張応力が存在するガラス製品の領域が得られることが保証される。したがって、ガラス製品は、鋭い衝撃での負荷に対する耐久性が改善されている。この高い強度は、少なくとも20.6MPaの蓄積可能な引張応力から得られる。
【0031】
しかしながら、蓄積可能な引張応力は、アルミノシリケートガラスの例(表2、VB7参照)から明らかであるように、最大化されるべきではない。というのも、蓄積可能な引張応力の値がさらに高いと、鋭い衝撃での負荷に対する強度が再び低くなり得るからである。鋭い衝撃での調査においてなおも良好な値が得られる、蓄積可能または蓄積された引張応力についての可能な上限は、30MPaである。蓄積された引張応力は、好ましくは27.5MPaの値を上回るべきではなく、特に好ましくは25MPa以下であるべきである。殊に現在は、24MPaの蓄積された引張応力の最大値が極めて特に好ましいと分かった。
【0032】
蓄積された引張応力の特定は、所定の値から約5%~10%の変動を伴って行われる。
【0033】
便宜上、引張応力積分値の計算は、圧縮応力プロファイルが直線状に走るという仮定のもとで行われる。よって、アルミノシリケートガラスについて、この計算は、以下の式:
CSDoL/21000
により行われ、ここで、CSは、ガラス製品の表面における最大圧縮応力であると理解され、DoLは圧縮応力深さであり、dはガラス製品の厚さである。
【0034】
合成された圧縮応力プロファイルを有するLASガラスについて、計算は、幾分複雑になり、以下の式:
[K CSK DoL/21000+Na CS交点((Na DoL-K DoL)+(Na DoL-K DoL交点))/21000]/d
により求められる。
【0035】
ここでも、dはガラス製品の厚さを表す。「ナトリウムCS交点」とは、ナトリウム圧縮応力曲線とカリウム圧縮応力曲線とが交わる圧縮応力プロファイルの一点の圧縮応力を表す。「カリウムDoL交点」とは、ナトリウム圧縮応力曲線とカリウム圧縮応力曲線とが交わる圧縮応力プロファイルの一点のガラス製品における深さであると理解される。
【0036】
添付の図において、この点は、図1では参照番号108が記されており、図3では参照番号303が記されている。
【0037】
本開示の第二の態様は、
カリウムについての圧縮応力深さが、少なくとも4μmで、かつ最大8μmであり、ナトリウム交換による深さ30μmでの圧縮応力が、0.5mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも90MPaであり、0.55mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも100MPaであり、0.6mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも110MPaであり、0.7mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも120MPaであり、1mmのガラス製品の厚さの場合に少なくとも140MPaであり、好ましくは最大200MPaであり、ここで、mmでのガラス製品の厚さに対するμmでのナトリウム交換深さの比率が、0.130より大きく、蓄積可能な引張応力が、少なくとも20.6MPaで、かつ最大30MPa、好ましくは最大27.5MPa、特に好ましくは最大25MPa、極めて特に好ましくは最大24MPaであり、
以下の成分:
SiO 54~64、好ましくは57~64、特に好ましくは60~62、極めて特に好ましくは61~62;
Al 16~28、好ましくは16~21、特に好ましくは17.5~19.5、極めて特に好ましくは18~19;
0~0.6、好ましくは0~0.45、特に好ましくは0~0.28、極めて特に好ましくは0~0.1;
LiO 3.5~6.5、好ましくは3.7~5.7、特に好ましくは3.9~5.5、極めて特に好ましくは4~5.4、最も好ましくは4.5~5.4;
NaO 3~11.1、好ましくは7.1~11.1、特に好ましくは7.5~10.7、極めて特に好ましくは7.8~10.5;
O 0~1.5、好ましくは0.1~1.5、特に好ましくは0.2~1、極めて特に好ましくは0.3~0.75;
MgO 0~2、好ましくは0~1.5、特に好ましくは0~1;
CaO 0~0.55、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0~0.25、極めて特に好ましくは0~0.1;
ZnO 0~3、好ましくは0~2、特に好ましくは0~1.5、極めて特に好ましくは0~1;
0.1~4.5、好ましくは0.1~2、特に好ましくは0.25~1.75、極めて特に好ましくは0.5~1.5;
ZrO 1~4.5、好ましくは2.5~4.5、特に好ましくは2.8~4.2、極めて特に好ましくは2.9~4.1
を質量%で含み、
ここで、ガラス製品が、好適には0.15質量%までのCeO、好ましくは0.1質量%までのCeOおよび/または0.1質量%までのFeを含み、かつここで、さらに好適にはガラス製品が、SrOおよびBaOを、不可避の痕跡量としてのみ、それぞれ最大500ppmの濃度で含み、かつ
ここで、0.8<[P+(NaZnO)]<12
である、
厚さが少なくとも0.4mmで、かつ最大3.0mmのシート状のガラス製品、
好ましくは、化学的に強化された、または化学的に強化可能なシート状のガラス製品、
殊に好ましくは、シート状の化学的に強化されたガラス製品に関する。
【0038】
先に挙げた組成範囲にあるガラスまたはガラス製品の組成には、複数の利点がある。
【0039】
殊に、ガラスまたはガラス製品におけるAlの含量が16質量%~28質量%であると、ガラスまたはガラス製品の強化性が有利に向上することが示された。ガラスまたはガラス製品は、Alを、好ましくは16質量%~21質量%、特に好ましくは17.5質量%~19.5質量%、極めて特に好ましくは18~19質量%含む。
【0040】
は、溶融物において融点を低下させる成分である。Bを添加することにより、ガラスまたはガラス製品の引っ掻き強度を有利に向上させることもできる。しかしながら、高含量のBは、ガラスまたはガラス製品の強化性に不利に作用する。よって、B含量は、本開示によるガラスおよびガラス製品において制限されている。殊に、本開示によるガラスまたはガラス製品の含量は、最大0.6質量%、好ましくは最大0.45質量%、特に好ましくは最大0.28質量%、極めて特に好ましくは最大0.1質量%である。本開示によるガラスまたはガラス製品がBを含まないこと、またはBが不可避の不純物の形態としてのみガラスまたはガラス製品に含まれていることも可能である。
【0041】
LiOは、本開示によるガラスおよびガラス製品の必要な構成要素である。殊に、本開示によるガラスおよびガラス製品における酸化リチウム含量により、静的強度調査における強化されたガラスの良好な強度、例えば四点曲げによる曲げ強度または二重リング試験での特定による強度、また鈍い衝撃(blunt-impact)での負荷、例えば球体落下試験に対する良好な強度、また鋭い衝撃での負荷、すなわち、100°未満の角度を有する粒子によるガラスまたはガラス製品の表面への作用に対する良好な強度も可能である。よって、本開示によるガラスおよびガラス製品は、LiOを、少なくとも3.5質量%、好ましくは少なくとも3.7質量%、特に好ましくは少なくとも3.9質量%、極めて特に好ましくは少なくとも4質量%、最も好ましくは少なくとも4.5質量%含む。しかしながら、本開示によるLiOの含量は、制限されている。例えば、LiOの含量が高すぎると、分離が起こり得る。よって、ガラスおよびガラス製品は、LiOを、最大6.5質量%、好ましくは最大5.7質量%、特に好ましくは最大5.5質量%、極めて特に好ましくは最大5.4質量%含む。
【0042】
さらに、酸化ナトリウムNaOが、本開示によるガラスおよびガラス製品に含まれている。本開示によるガラスは、少なくとも3質量%のNaO、好ましくは少なくとも7.1質量%のNaO、特に好ましくは少なくとも7.5質量%のNaO、極めて特に好ましくは少なくとも7.8質量%のNaOを含む。NaOの含量も本開示により制限されている。本開示によるガラスおよびガラス製品は、NaOを、最大11.1質量%、好ましくは最大10.7質量%、極めて特に好ましくは最大10.5質量%含む。
【0043】
ガラスおよびガラス製品は、任意の構成要素としてKOを含む。しかしながら、静的強度調査における強度、例えば曲げ強度および鈍い衝撃での負荷に対する強度が同時に良好である場合、ガラスまたはガラス製品の最適化された強度、殊に鋭い衝撃における最適化された強度を調整するためには、ガラスが特定量のKOを含むと有利であり得る。殊に、KOにより、イオン交換を改善し、したがって強化性を改善することができると示された。これは、カリウムイオンにより弛緩されたガラス構造に起因する。本開示によるガラスまたはガラス製品は、KOを、好ましくは少なくとも0.1質量%、特に好ましくは少なくとも0.2質量%、極めて特に好ましくは少なくとも0.3質量%含む。しかしながら、KOの含量は制限されている。というのも、これはイオン交換に関与しないからである。よって、本開示によるガラスまたはガラス製品は、KOを、最大1.5質量%、特に好ましくは最大1質量%、極めて特に好ましくは最大0.75質量%含む。
【0044】
MgOは、本開示によるガラスまたはガラス製品のさらなる任意の成分である。マグネシウムは、溶融粘度を低減させ、イオン交換に対しても影響を与える。MgOの含量は、ガラスおよびガラス製品において制限されており、最大2質量%、好ましくは最大1.5質量%、極めて特に好ましくは最大1質量%である。
【0045】
さらに、本開示によるガラスまたはガラス製品は、CaOを、最大0.55質量%、好ましくは最大0.5質量%、特に好ましくは最大0.25質量%、極めて特に好ましくは最大0.1質量%含んでいてもよい。SrOも本開示によるガラスまたはガラス製品に含まれていてもよいが、ただし3質量%までの含量である。
【0046】
本開示によるガラスまたはガラス製品のさらなる任意の成分は、ZnOである。本開示によるガラスまたはガラス製品は、最大3質量%のZnO、好ましくは最大2質量%のZnO、特に好ましくは最大1.5質量%のZnO、極めて特に好ましくは最大1質量%のZnOを含む。
【0047】
は、本開示によるガラスまたはガラス製品により少なくとも0.1質量%含まれている。Pは、イオン交換を容易にする、すなわち、プロセス時間をより短くするか、または短くすることが可能な成分である。ガラスまたはガラス製品の含量は、好ましくは0.25質量%、特に好ましくは少なくとも0.5質量%である。しかしながら、ガラスまたはガラス製品におけるPの含量が高すぎると、ガラスまたはガラス製品の化学的安定性が減少するか、またはPにより分離現象が起こることがある。よって、本開示によるガラスまたはガラス製品は、Pを、最大4.5質量%、好ましくは最大2質量%、特に好ましくは最大1.75質量%、極めて特に好ましくは最大1.5質量%含む。
【0048】
本開示によるガラスおよびガラス製品のさらなる成分は、ZrOである。ZrOは、本開示によるガラスおよびガラス製品において網目構造形成剤として作用し、有利には、ガラスまたはガラス製品の耐薬品性およびその硬度を向上させる。
【0049】
よって、本開示によるガラスおよびガラス製品には、ZrOが、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2.5質量%、特に好ましくは少なくとも2.8質量%、極めて特に好ましくは少なくとも2.9質量%含まれている。さらに、本開示によるガラスおよびガラス製品は、ZrOを、最大4.5質量%、好ましくは最大4.2質量%、特に好ましくは最大4.1質量%含む。
【0050】
さらに、本開示によるガラス製品またはガラスは、好適には0.15質量%までのCeO、好ましくは0.1質量%までのCeOおよび/または0.1質量%までのFeを含む。ここでCeOは、例えば清澄剤として添加されていてもよい。有利には、CeOは、ガラスおよびガラス製品のUV安定性も向上させる。
【0051】
本開示によるガラス製品またはガラスは、SrOおよびBaOを、不可避の痕跡量としてのみ、それぞれ最大500ppmの濃度で含むことがさらに好ましい。
【0052】
さらに、ガラスまたはガラス製品に含まれるアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の比率が重要である。これらは、網目構造を広げ、このようにして、迅速に高い強化度を得ることを可能にする。ここで、Pも重要である。発明者等は、この関連性を、ガラスまたはガラス製品におけるNaO(アルカリ金属酸化物の場合)、ZnO(ここで、これはアルカリ土類金属酸化物の機能を担う)およびPの含量(それぞれ質量%で記載)により、すなわち、
[P+(NaZnO)]
により表すことができると発見した。
【0053】
この値は、0.8超であるべきであるが、ただし12未満であるべきである。驚くべきことに、この組成範囲内の組成において、かつこの条件に従うことによってのみ、相応する蓄積された引張応力、すなわち、「鋭い衝撃」での負荷における良好な強度が達成されることが示された。
【0054】
本開示のもう1つのさらなる態様は、
リチウムアルミノシリケートガラスの二段階のイオン交換により製造され、ここで
1.5時間~4時間の期間にわたる、380℃~最大400℃未満、殊に最大395℃の温度での、少なくとも40質量%~最大70質量%未満のカリウム塩、殊にKNOと、最大60質量%~少なくとも30質量%超のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第一のイオン交換が実施され、かつ
2.5時間~5時間の期間にわたる、360℃~390℃の温度での、90質量%~95質量%のカリウム塩、殊にKNOと、10質量%~5質量%のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第二のイオン交換が実施される、
厚さが少なくとも0.4mmで、かつ最大3mmである化学的に強化されたシート状のガラス製品、
好ましくは本開示の第一および/または第二の態様によるガラス製品に関する。
【0055】
強化されたガラス製品を先に説明したように製造することにより、高い強度を有するガラス製品を特に迅速に作製することができる。
【0056】
殊にこのようにして、鋭い衝撃での負荷において高い強度を有するガラス製品を製造することが可能である。
【0057】
本開示の範囲において、以下の用語および定義を適用する。
【0058】
交換浴とは、塩溶融物であると理解され、ここでこの塩溶融物は、ガラスまたはガラス製品のためのイオン交換プロセスに使用される。本開示の範囲において、交換浴およびイオン交換浴という用語は、同義的に使用される。
【0059】
基本的に、交換浴には、工業純度の塩が使用される。このことは、例えば硝酸ナトリウムのみを交換浴の出発物質として使用しているにもかかわらず、なおも特定の不純物が交換浴に含まれていることを意味する。ここで交換浴は、塩、例えばすなわち硝酸ナトリウムの溶融物であるか、または塩の混合物、例えばナトリウム塩およびカリウム塩の混合物の溶融物である。ここで交換浴の組成は、場合によって存在する不純物を考慮しない交換浴の公称組成に関連する形で記載される。よって、本開示の範囲において100%の硝酸ナトリウム溶融物について言及される場合、すなわちこれは、原料として硝酸ナトリウムのみが使用されたことを意味する。しかしながら、交換浴における硝酸ナトリウムの実際の含量は、これとは異なっていてもよく、また一般的に異なる。というのも、殊に工業用原料は、特定の割合の不純物を有するからである。しかしながら、これは基本的に、交換浴の合計重量を基準として、5質量%未満、殊に1質量%未満である。
【0060】
同様に、様々な塩の混合物を有する交換浴の場合、これらの塩の公称含量は、工業的に条件付けられた出発物質の不純物を考慮せずに記載される。すなわち、90質量%のKNOおよび10質量%のNaNOを有する交換浴も、同様に僅かな不純物をなお有していてもよいが、しかしながらこれは、原料に条件付けられており、一般的に、交換浴の合計重量を基準として、5質量%未満、殊に1質量%未満であるべきである。
【0061】
さらに、交換浴の組成は、イオン交換の過程においても変化する。というのも、イオン交換が進むにつれて、殊にガラスまたはガラス製品からのリチウムイオンが交換浴へと移動するからである。ただし、ここでも同様に、エージングによる交換浴の組成のそのような変化は、別途明確に記載のない限り、考慮されない。むしろ、本開示の範囲において、交換浴の組成は、元々の公称組成に基づいて記載される。
【0062】
本開示の範囲において、応力プロファイルとは、観察されるガラス製品の厚さに対するガラス製品、例えばガラスシート中での応力付与のグラフであると理解される。本開示の範囲において、圧縮応力プロファイルについて言及されている場合、これは、応力が正の値を取る、すなわちゼロより大きい応力プロファイルの部分であると理解される。それに対して、引張応力は負の符号を有する。
【0063】
本開示の範囲において、合成された圧縮応力プロファイルとは、相応する製品、例えばガラス製品において生じる圧縮応力が少なくとも2つの部分領域から成る圧縮応力プロファイルであると理解される。
【0064】
強化されたガラス製品において蓄積された圧縮応力は、ガラス製品の厚さにわたる圧縮応力の積分値として求められる。本開示の範囲において、この積分値は、圧縮応力積分値と称される。
【0065】
強化されたガラス製品において蓄積された引張応力は、ガラス製品の厚さ全体にわたる引張応力積分値の平均値として求められる。本開示の範囲において、この積分値は、引張応力積分値と称される。よって、本開示の範囲において、蓄積された引張応力は、正規化された引張応力であると理解されるか、または同義的に正規化された引張応力積分値である、すなわち厚さに基づく引張応力積分値であると理解され、常に絶対値(正の値)として記載される。本開示の範囲において、蓄積された引張応力は、正規化された(または厚さに基づく)引張応力および正規化された(または厚さに基づく)引張応力積分値という用語と同義語である。
【0066】
本開示の範囲において、シート状のガラス製品とは、1つの空間方向における横寸法がその他の2つの空間方向よりも少なくとも1桁小さいガラス製品であると理解され、ここで、これらの空間方向はデカルト座標系に関連して記載されており、ここで、これらの空間方向は互いにそれぞれ垂直に延伸し、その際、厚さは、最大表面または主表面の法線方向において、主表面から別の主表面の間で測定される。
【0067】
厚さがガラス製品の幅および長さよりも少なくとも1桁小さいため、ここで幅および長さは、同じ桁にあってもよい。しかしながら、長さがガラス製品の幅よりもさらに著しく大きいことも可能である。よって、本開示の意味合いにおいて、シート状のガラス製品は、ガラスリボンも含み得る。
【0068】
本開示の意味合いにおいて、ガラスとは材料であると理解され、ガラス製品とは材料のガラスから製造された製造物および/または材料のガラスを含む製造物であると理解される。殊に、ガラス製品は、ガラスから成っていても、または大部分、すなわち少なくとも90質量%が材料のガラスを含有していてもよい。
【0069】
本開示の範囲において、化学的な強化とは、ガラス製品をいわゆる交換浴に浸漬するプロセスであると理解される。これはイオンの交換である。本開示の意味合いにおいて、カリウム交換とは、カリウムイオンが、交換浴からガラス製品へと、殊にガラス製品の表面へと移動すること、すなわち例えば組み込まれることであると理解され、ここで同時に、小さなアルカリ金属イオン、例えばナトリウムが、ガラス製品から交換浴へと移動する。同様に、ナトリウム交換とは、ナトリウムイオンが、交換浴からガラス製品の表面へと移動し、その一方で、小さなイオン、例えばリチウムイオンが、ガラス製品から、殊にガラス製品の表面から交換浴へと移動することであると理解される。すでに先に記載したように、このイオン交換により、ガラス製品の表面領域において圧縮応力域が構築される。
【0070】
本開示の範囲において、最大引張応力とは、ガラス製品の応力プロファイルにおける応力値が最小であることと理解される。
【0071】
本開示の範囲において、いわゆる「鋭い衝撃」とは、小さな尖った物体または多数のそのような小さな尖った物体により損傷が生じる際の負荷であると理解される。これはすなわち、言い換えれば、1個以上の尖った物体、すなわち、例えば、非常に小さな曲率半径を有する、または尖端の角度が100°未満である粒子による作用である。
【0072】
本開示の実施形態によると、ガラス製品は、55MPa~85MPaの最大引張応力を有する。ガラス製品のそのような構成は、このようにして殊に鈍い衝撃の負荷における強度が改善されるため、すなわち、殊にいわゆる球体落下強度が改善されるため、有利である。すなわち、この実施形態によるガラス製品は、あらゆる関連する負荷の場合における特に良好な強度と関係している。これはこれまでに可能ではなかった。殊にこれまでは、例えば「中心引張力(center tension)」または「中心の引張力(central tension)」とも称され「CT」と略される最大引張応力が高い場合、鋭い衝撃での負荷における良好な強度を達成することができなかった。55MPa~85MPaの現在達成可能な最大引張応力は、現在市場にみられるガラスまたはガラス製品よりも約10%~15%高い。
【0073】
ガラス製品の厚さは、少なくとも0.5mmであることが好ましい。そのような最小厚さが有利である。なぜなら、ガラス製品の厚さがより小さい場合、全体としてすでに非常に脆くなるからである。
【0074】
しかしながら、ガラス製品の厚さが小さいと有利である。というのも、このようにしてガラス製品の重量が小さくなるからである。これは殊に、例えば、スマートフォンなどの移動式装置におけるディスプレイのカバーとしてガラス製品を適用する場合に有利である。
【0075】
ガラス製品のさらなる実施形態によると、ガラス製品の厚さは、最大2mm、好ましくは最大1mmである。そのような構成は、ガラス製品がより厚いほど機械的作用に対して安定するため、有利である。よって本質的には、より厚いガラス製品により、より高い機械的安定性がもたらされる。しかしながら、これにより重量が増加する。よって、ガラス製品は、有利には、最大2mmの厚さ、殊に最大1mmの厚さであるべきである。
【0076】
本開示の別のさらなる態様は、本開示の実施形態によるガラス製品の使用に関する。よって、本開示は、カバーシートとしての、殊に家庭用電化製品におけるカバーシートとしての、または保護ガラス部材(Schutzverglasung)としての、殊に機械用の保護ガラス部材としての、または高速列車におけるガラス部材としての、または安全ガラス部材としての、または自動車ガラス部材としての、またはダイバーズウォッチにおける、または潜水艦における、または防爆装置用の、殊にガラスの使用が必須と規定されている装置用のカバーシートとしての、実施形態によるガラス製品の使用に関する。
【0077】
本開示の別のさらなる態様は、以下の成分:
SiO 54~64、好ましくは57~64、特に好ましくは60~62、極めて特に好ましくは61~62;
Al 16~28、好ましくは16~21、特に好ましくは17.5~19.5、極めて特に好ましくは18~19;
0~0.6、好ましくは0~0.45、特に好ましくは0~0.28、極めて特に好ましくは0~0.1;
LiO 3.5~6.5、好ましくは3.7~5.7、特に好ましくは3.9~5.5、極めて特に好ましくは4~5.4、最も好ましくは4.5~5.4;
NaO 3~11.1、好ましくは7.1~11.1、特に好ましくは7.5~10.7、極めて特に好ましくは7.8~10.5;
O 0~1.5、好ましくは0.1~1.5、特に好ましくは0.2~1、極めて特に好ましくは0.3~0.75;
MgO 0~2、好ましくは0~1.5、特に好ましくは0~1;
CaO 0~0.55、好ましくは0~0.5、特に好ましくは0~0.25、極めて特に好ましくは0~0.1;
ZnO 0~3、好ましくは0~2、特に好ましくは0~1.5、極めて特に好ましくは0~1;
0.1~4.5、好ましくは0.1~2、特に好ましくは0.25~1.75、極めて特に好ましくは0.5~1.5;
ZrO 1~4.5、好ましくは2.5~4.5、特に好ましくは2.8~4.2、極めて特に好ましくは2.9~4.1
を質量%で含み、
ここで、ガラスおよび/またはガラスを含むガラス製品が、好適には0.15質量%までのCeO、好ましくは0.1質量%までのCeOおよび/または0.1質量%までのFeを含み、かつここで、さらに好適にはガラスが、SrOおよびBaOを、不可避の痕跡量としてのみ、それぞれ最大500ppmの濃度で含み、かつ
ここで、0.8<[P+(NaZnO)]<12
である、ガラスに関する。
【0078】
さらに、本開示は、別のさらなる態様によると、
- 1.5時間~4時間の期間にわたる、380℃~最大400℃未満の温度での、少なくとも40質量%~最大70質量%未満のカリウム塩、殊にKNOと、最大60質量%~少なくとも30質量%超のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第一のイオン交換、および
- 2.5時間~5時間の期間にわたる、360℃~390℃の温度での、90質量%~95質量%のカリウム塩、殊にKNOと、10質量%~5質量%のナトリウム塩、殊にNaNOとの交換浴組成物を用いた第二のイオン交換
を含む、本開示の実施形態によるガラス製品を製造する方法にも関する。
【0079】
実施例
以下で実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0080】
一実施形態によると、本開示によるガラスまたはガラス製品は、以下の成分(質量%で記載):
SiO 54~64
Al 16~28
0~0.6
LiO 3.5~6.5
NaO 3~11.1
O 0~1.5
MgO 0~2
CaO 0~0.55
ZnO 0~3、好ましくは0~2、特に好ましくは0~1.5、極めて特に好ましくは0~1
0.1~4.5
ZrO 1~4.5
を含み、かつここで、0.8<[P+(NaZnO)]<12である。
【0081】
ガラスまたはガラス製品のさらなる実施形態によると、ガラスまたはガラス製品は、以下の成分(質量%で記載):
SiO 57~64
Al 16~21
0~0.45
LiO 3.7~5.7
NaO 7.1~11.1
O 0.1~1.5
MgO 0~2
CaO 0~0.5
ZnO 0~2
0.1~2
ZrO 2.5~4.5
を含み、かつここで、0.8<[P+(NaZnO)]<12である。
【0082】
ガラスまたはガラス製品のさらなる実施形態によると、ガラスまたはガラス製品は、以下の成分(質量%で記載):
SiO 60~62
Al 17.5~19.5
0~0.28
LiO 3.9~5.5
NaO 7.5~10.7
O 0.2~1
MgO 0~1.5
CaO 0~0.25
ZnO 0~1.5
0.25~1.75
ZrO 2.8~4.2
を含み、かつここで、0.8<[P+(NaZnO)]<12である。
【0083】
ガラスまたはガラス製品のさらなる実施形態によると、ガラスまたはガラス製品は、以下の成分(質量%で記載):
SiO 61~62
Al 18~19
0~0.1
LiO 4~5.4
NaO 7.8~10.5
O 0~1、好ましくは0.3~0.75
MgO 0~1
CaO 0~0.1
ZnO 0~1
0.5~1.5
ZrO 2.9~4.1
を含み、かつここで0.8<[P+(NaZnO)]<12である。
【0084】
さらに、ガラスまたはガラス製品は、0.15質量%まで、好ましくは0.1質量%までのCeOおよび/または0.1質量%までのFeを含んでいてもよい。ガラスは、BaOおよび/またはSrOを、不可避の痕跡量の形態としてのみ、それぞれ最大500ppmの含量で含むことが好ましい。
【0085】
以下の表1では、強化されたガラス製品の幾つかの例がまとめられている。ここでは殊に、本開示による実施例が比較例(略称:VB)に比べて記載されている。
【表1】
【0086】
表2は、強化されたガラス製品と、本開示による最適化された強化されたガラス製品とのさらなる比較を示す。
【表2】
【0087】
以下の2つの表では、計算をより良好に後から追えるように、蓄積された引張応力の計算についての値が記載されている。ここで「SP」は、「交点」を表す。
【表3】
【表4】
【0088】
本開示によるガラスの組成は、以下の表5にまとめられている。これは、質量%での記載であり、溶融後かつ化学的な強化前にガラスを分析することで得られた。
【表5】
【0089】
表6には、比較用ガラスの組成が記載されている。
【表6】
【0090】
表7には、本開示による例6による最適化された組成のガラス製品について、化学的な強化の影響が示されている。
【表7】
【0091】
しかしながら、達成可能な強化は、その他の条件の他に、交換浴の経過時間、殊にそのリチウム含量にも応じる。次にみられる表8から分かるように、達成可能な蓄積された引張応力は、リチウム含量が上昇するほど減少し、結果として交換浴の経過時間が増加するほど減少する。
【0092】
ここで殊に、少なくとも40質量%超のカリウム塩(および相応して最大60質量%未満のナトリウム塩)および最大70質量%未満のカリウム塩(および相応して少なくとも30質量%超のナトリウム塩)の第一のイオン交換における交換浴の公称含量、ならびに少なくとも380℃~400℃未満、例えば最大395℃の温度が、蓄積された引張応力の達成に決定的であるように思われる。第一のイオン交換においてこれらの条件が満たされなかった交換プロセスは、十分には蓄積されていない引張応力を示し、先の表7においてイタリック体で示されている。
【表8】
【0093】
以下で図を用いて本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1】従来技術によるガラス製品の応力プロファイルを示す。
図2】従来技術によるガラス製品の応力プロファイルを示す。
図3】従来技術によるガラス製品の応力プロファイルを示す。
図4】いわゆるセットドロップ強度に対するガラス組成および応力プロファイルの影響を示す。
図5】サンドペーパー球体落下試験における蓄積された引張応力と強度との間の関係を明確化するグラフを示す。
図6】サンドペーパー球体落下試験における様々なガラス製品の強度のグラフを示す。
図7】本開示によるガラス製品の概略的かつ縮尺通りではない図を示す。
図8】厚さ0.7mmのガラスについての、サンドペーパー球体落下試験における蓄積可能な引張応力と破壊高さとの関係を示す。
【0095】
図1では、y軸に応力をMPaで取り、かつx軸にガラス深さをμmで取るグラフにおいて、例示的な合成応力プロファイル1を用いて、LASガラスを含むガラス製品についての応力プロファイルの特徴的大きさが示されている。ここでは、ガラス製品の厚さ全体にわたる応力が示されているのではなく、ガラス製品の約半分までのみ、応力が例示的に記されている。
【0096】
ここで、点101は、ガラス製品の表面において、すなわちガラス深さ0μmにおいて存在する応力を表す。これは、カリウムイオンの交換により生じる圧縮応力(カリウムCS)である。点102は、ガラス製品の表面においてナトリウムの交換により生じる圧縮応力(ナトリウムCSとも称される)を表す。これは外挿により求められた値である。というのも、ここで、ナトリウムイオンの交換に起因する応力プロファイルとカリウムの交換に基づく応力プロファイルとが重なるからである。点103は、30μmのガラス深さにおけるナトリウムイオンの交換に基づく圧縮応力(ナトリウムCS30)の値を示す。点105では、ガラス製品における応力が0である。これは、ナトリウムイオンについてのいわゆる圧縮応力深さであり、ナトリウムDoLとも(またはDoLとだけでも)称される。104により、ナトリウムイオンの交換により生じる圧縮応力積分値が表される。
【0097】
応力プロファイル1のこの部分を外挿することにより、カリウムについての圧縮応力深さ(カリウムDoL)が得られ、ここでは106で表される。
【0098】
正規化された引張応力積分値、すなわち、蓄積された引張応力の領域には、107が記されている。最後に、108は、「ナトリウムCS交点」、すなわち、ナトリウム圧縮応力曲線とカリウム圧縮応力曲線とが交差する圧縮応力プロファイルの点における圧縮応力を表す。
【0099】
図2では、アルカリ金属シリケートガラスを含む厚さ0.7mmのガラス製品についての概略的な応力プロファイル2が記されており、ここでは、純粋な圧縮応力プロファイルとして描かれている。すなわち、そのようなガラスを用いても高い圧縮応力深さおよび高い圧縮応力を得ることができる。ただし、図1に例示的に示されているように、合成圧縮応力プロファイルに比べて、より高い圧縮応力積分値および同様に相応してより高い引張応力積分値が得られる。このことは、そのような強化されたASガラスが、鋭い衝撃での負荷に対して低い強度を有することを意味する。ここで、正規化された引張応力積分値は、約60.7MPaの非常に高い値を有する。
【0100】
図3は、LASガラスを含むガラス製品の応力プロファイル3を示す。すなわち、ここで応力プロファイルは合成されている。表面における圧縮応力深さおよび圧縮応力が、図2からのASガラスと同等だとしても、ここで圧縮応力積分値は著しくより低く、すなわち、図2によるガラス製品について特定されるものの約3分の1しかない。ここで301は、カリウムCS値が975MPaであり、かつカリウムDoLが5μmである場合の蓄積された圧縮応力のカリウム積分値を表す。127μmのナトリウムCS30および127μmのナトリウムDoLでの蓄積された圧縮応力のナトリウム積分値は302で表される。これらの2つの正規化された積分値の合計が、蓄積された圧縮応力であり、これは、強化されたガラスにおいて蓄積された引張応力に絶対値が相応する。
【0101】
この関係性は、図2によるASガラスおよび図3によるLASガラスについて特定された、図4に示されるいわゆるセットドロップ試験における値により明確化される。表面における圧縮応力がほぼ同じであるにもかかわらず、かつ圧縮応力深さがほぼ同じであるにもかかわらず、この鋭い衝撃での負荷において、得られる強度に著しい差異が生じる。殊に、強化されたLASガラス製品について、この負荷において特定される強度は、強化されたASガラス製品について特定された強度よりも著しく高い。
【0102】
蓄積された引張応力に応じた、サンドペーパー球体落下調査において特定される強度の依存性は、図5に示されている。その際、図5では、より見やすくするために、「サンドペーパー」をSPと省略している。蓄積された引張応力が20MPaを下回ると、不良な試験結果、すなわち、20cm未満の破壊高さがもたらされる。図6は、強度に対するガラス組成の影響を示す。ここでは、それぞれ様々なLAS出発ガラスを含むガラス製品について、サンドペーパー球体落下試験において得られる強度が記されている。グラフの左側には、例えば国際公開第2012/126394号によるLASガラスを含む化学的に強化されたガラス製品について、サンドペーパー球体落下強度がバー601に示されている。右側には、従来技術によるさらなるLASガラスを含む別の強化されたガラス製品について、サンドペーパー球体落下強度がバー603に示されている。中央には、本開示による化学的に強化されたガラス製品について、サンドペーパー球体落下試験における強度がバー602に示されている。これは、サンドペーパー球体落下試験において最適化された強度を有する。
【0103】
図7は、本開示の実施形態によるシート状の化学的に強化された、または化学的に強化可能なガラス製品7を示す。
【0104】
図8は、厚さ0.7mmのガラスについて、正規化された引張応力積分値に応じた、サンドペーパーセットドロップ試験における破壊高さの図を示す。少なくともここで存在する蓄積された引張応力の範囲において破壊高さがより大きくなること、すなわち、蓄積された引張応力が大きいほど、相応してガラスまたはガラス製品の強度が増加しているか、またはすなわち、この機械的負荷に対してガラスまたはガラス製品の耐久性が改善されていることが明らかである。
【符号の説明】
【0105】
1 強化されたLASガラス製品の例示的な応力プロファイル、 101 ガラス製品の表面、カリウムCS、 102 ナトリウムCS、 103 ナトリウムCS30、 104 ナトリウムの圧縮応力積分値、 105 ナトリウムDoL、ナトリウムイオンについての圧縮応力深さ、 106 カリウムイオンについての圧縮応力深さ、カリウムDoL 、107 蓄積された引張応力、正規化された引張応力積分値、 108 Na-CS-K-DoL交点、 2 強化されたASガラス製品の概略的な応力プロファイル、 3 強化されたLASガラス製品の応力プロファイル、 301 正規化された圧縮応力のカリウム積分値、 302 正規化された圧縮応力のナトリウム積分値、 303 Na-CS-K-DoL-交点、 7 シート状の化学的に強化された、または化学的に強化可能なガラス製品、 401 ASガラスについてのサンドペーパーセットドロップ強度、 402 LASガラスについてのサンドペーパーセットドロップ強度、 601 従来技術によるLASガラスについてのサンドペーパー球体落下強度、 602 実施形態によるLASガラスについてのサンドペーパー球体落下強度、 603 従来技術によるさらなるLASガラスについてのサンドペーパー球体落下強度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8