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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ショベル及びショベルの制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20240621BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
E02F9/20 N
E02F9/22 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019534473
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2018028304
(87)【国際公開番号】W WO2019026802
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-04-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2017147669
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】呉 春男
(72)【発明者】
【氏名】佐野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】井辻 孔康
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】西田 秀彦
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172963(JP,A)
【文献】特開2017-14726(JP,A)
【文献】特開2014-6577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F9/00,9/20,9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に搭載される、アタッチメントを備えた上部旋回体と、
前記上部旋回体に搭載される制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記上部旋回体の周辺の地形に関する情報に基づいてショベル位置する地面に対して深さを有する地物から所定距離の範囲に設定された、前記下部走行体の進入を制限する制限範囲に前記下部走行体が進入しないように前記下部走行体の動きを制限する、
ショベル。
【請求項2】
前記上部旋回体の周辺の地形に関する情報は、前記上部旋回体の周辺の地形の変化に関する情報を含み、
前記制御装置は、前記上部旋回体の周辺の地形の変化に関する情報に基づいて前記下部走行体の動きを制限する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記上部旋回体の周辺の地形に関する情報は、掘削作業による地形の変化に関する情報を含み、
前記制御装置は、前記掘削作業による地形の変化に関する情報に基づいて前記下部走行体の動きを制限する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項4】
前記制御装置は、姿勢検出装置の検出値を含む前記アタッチメントの作動履歴に基づいて、前記掘削作業による地形の変化に関する情報を取得する、
請求項3に記載のショベル。
【請求項5】
前記上部旋回体の周辺の地形に関する情報は、前記上部旋回体の周辺の地形の変化に関する情報を含み、
前記制御装置は、地物の表面状態を取得する装置、又は、前記アタッチメントの動きの軌跡を取得する装置の出力に基づいて前記上部旋回体の周辺の地形の変化に関する情報を取得する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項6】
前記地物の表面状態を取得する装置、又は、前記アタッチメントの動きの軌跡を取得する装置は、前記アタッチメントに取り付けられている、
請求項5に記載のショベル。
【請求項7】
前記下部走行体は、可変容量型の油圧モータによって駆動され、
前記制御装置は、前記油圧モータの走行モードを低速走行モードに固定て前記下部走行体の動きを制限することによって前記制限範囲への前記下部走行体の進入を制限する
請求項1に記載のショベル。
【請求項8】
前記制御装置は、前記下部走行体の移動方向又は移動速度を制限することによって前記制限範囲への前記下部走行体の進入を制限する
請求項1に記載のショベル。
【請求項9】
前記地物は、所定地物を含み、
前記所定地物は、所定深さより深い穴を含み、
前記制御装置は、前記所定地物から所定距離の範囲を制限範囲として設定する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項10】
前記制御装置は、前記上部旋回体の周辺の地形に関する情報をショベルの外部の撮像装置から取得する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項11】
下部走行体と、前記下部走行体に搭載される上部旋回体とを備えるショベルの制御方法であって、
前記ショベルの作業現場における周辺の地形に関する情報に基づいて前記ショベル位置する地面に対して深さを有する地物から所定距離の範囲に、前記下部走行体の進入を制限する制限範囲を設定し、
前記制限範囲に前記下部走行体が進入しないように前記下部走行体の動きを制限する、
ショベルの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、下部走行体を備えたショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上部旋回体に取り付けられたカメラが撮像したステレオペア画像に基づいて上部旋回体の周辺の地形を計測する計測装置を備えたショベルが知られている(特許文献1参照。)。この構成により、計測装置は、作業現場の地形データをリアルタイムに生成し且つ表示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/033991号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ショベルの操作者は、掘削作業を行うために走行操作、旋回操作及びアタッチメント操作を繰り返していると、下部走行体の向きを失念してしまう場合がある。そして、意図した方向とは逆の方向に下部走行体を移動させてしまう場合がある。
【0005】
このような場合であっても、上述の計測装置は、ステレオペア画像に基づいて地形データを生成し且つ表示するのみであるため、ショベルの移動方向に穴がある場合であっても、ショベルの移動を停止させることができない。その結果、ショベルの機体を不安定な状態にしてしまう場合がある。
【0006】
上述に鑑み、機体が不安定な状態になるのを未然に防止できるショベルを提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施例に係るショベルは、下部走行体と、前記下部走行体に搭載される、アタッチメントを備えた上部旋回体と、前記上部旋回体に搭載される制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記上部旋回体の周辺の地形に関する情報に基づいてショベル位置する地面に対して深さを有する地物から所定距離の範囲に設定された、前記下部走行体の進入を制限する制限範囲に前記下部走行体が進入しないように前記下部走行体の動きを制限する。
【発明の効果】
【0008】
上述の手段により、機体が不安定な状態になるのを未然に防止できるショベルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係るショベルの側面図である。
図2図1のショベルに搭載される姿勢検出装置の構成例を示すショベルの側面図である。
図3図1のショベルに搭載される基本システムの構成例を示す図である。
図4図1のショベルに搭載される油圧システムの構成例を示す図である。
図5】外部演算装置の構成例を示す図である。
図6】外部演算装置の別の構成例を示す図である。
図7】走行制限処理のフローチャートである。
図8A】作業対象地面の断面図である。
図8B】作業対象地面の断面図である。
図8C】作業対象地面の断面図である。
図9A】作業現場の上面図である。
図9B】作業現場の上面図である。
図9C】作業現場の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、図1を参照し、本発明の実施例に係る建設機械としてのショベル(掘削機)について説明する。図1は、本発明の実施例に係るショベルの側面図である。ショベルの下部走行体1には旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3にはブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはバケット6が取り付けられている。作業要素としてのブーム4、アーム5及びバケット6は、アタッチメントの一例である掘削アタッチメントを構成する。ブーム4は、ブームシリンダ7により駆動される。アーム5は、アームシリンダ8により駆動される。バケット6は、バケットシリンダ9により駆動される。上部旋回体3にはキャビン10が設けられ、且つ、エンジン11等の動力源が搭載されている。また、上部旋回体3には通信装置M1、測位装置M2及び姿勢検出装置M3が取り付けられている。
【0011】
通信装置M1は、ショベルと外部との間の通信を制御するように構成されている。本実施例では、通信装置M1は、GNSS(Global Navigation Satellite System)測量システムとショベルとの間の無線通信を制御する。具体的には、通信装置M1は、例えば1日1回の頻度で、ショベルの作業を開始する際に作業現場の地形情報を取得する。GNSS測量システムは、例えばネットワーク型RTK-GNSS測位方式を採用する。
【0012】
測位装置M2は、ショベルの位置を測定するように構成されている。測位装置M2は、ショベルの向きを測定するように構成されていてもよい。本実施例では、測位装置M2は、電子コンパスを組み込んだGNSS受信機であり、上部旋回体3に取り付けられている。そして、ショベルの存在位置の緯度、経度、高度を測定し、且つ、ショベル(上部旋回体3)の向きを測定する。測位装置M2は、下部走行体1に対する上部旋回体3の旋回角度を検出する旋回角度検出装置を含んでいてもよい。この構成により、測位装置M2は、ショベル(上部旋回体3)の向きから下部走行体1の向きを測定できる。但し、下部走行体1の向きは、別のGNSS受信機に基づいて測定されてもよい。
【0013】
姿勢検出装置M3は、アタッチメントの姿勢を検出するように構成されている。姿勢検出装置M3は、例えば、操作に応じたアタッチメントの動きの軌跡を取得できる。本実施例では、姿勢検出装置M3は、掘削アタッチメントの姿勢を検出する。
【0014】
図2は、図1のショベルに搭載される姿勢検出装置M3を構成する各種センサの構成例を示すショベルの側面図である。具体的には、姿勢検出装置M3は、ブーム角度センサM3a、アーム角度センサM3b、バケット角度センサM3c及び車体傾斜センサM3dを含む。
【0015】
ブーム角度センサM3aは、ブーム角度θ1を取得するように構成されている。ブーム角度θ1は、例えば、XZ平面において、ブームフートピン位置P1とアーム連結ピン位置P2とを結ぶ線分の水平線に対する角度である。
【0016】
アーム角度センサM3bは、アーム角度θ2を取得するように構成されている。アーム角度θ2は、例えば、XZ平面において、アーム連結ピン位置P2とバケット連結ピン位置P3とを結ぶ線分の水平線に対する角度である。
【0017】
バケット角度センサM3cは、バケット角度θ3を取得するように構成されている。バケット角度θ3は、例えば、XZ平面において、バケット連結ピン位置P3とバケット爪先位置P4とを結ぶ線分の水平線に対する角度である。
【0018】
本実施例では、ブーム角度センサM3aは、加速度センサとジャイロセンサの組み合わせで構成されている。但し、ブームフートピンの回転角度を検出する回転角度センサ、ブームシリンダ7のストローク量を検出するストロークセンサ、又は、ブーム4の傾斜角度を検出する傾斜センサ等で構成されていてもよい。アーム角度センサM3b及びバケット角度センサM3cについても同様である。
【0019】
車体傾斜センサM3dは、ショベルのY軸回りの傾斜角θ4、及び、ショベルのX軸回りの傾斜角θ5(図示せず。)を取得するように構成されている。車体傾斜センサM3dは、例えば2軸傾斜(加速度)センサ又は3軸傾斜(加速度)センサ等を含む。図2のXY平面は水平面である。
【0020】
次に、図3を参照してショベルの基本システムについて説明する。図3は、ショベルの基本システムの構成例を示す図であり、機械的動力伝達ライン、作動油ライン、パイロットラインをそれぞれ二重線、実線、破線で示す。ショベルの基本システムは、主に、エンジン11、メインポンプ14、パイロットポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26、コントローラ30及びエンジン制御装置(ECU)74等を含む。
【0021】
エンジン11はショベルの駆動源であり、例えば、所定の回転数を維持するように動作するディーゼルエンジンである。エンジン11の出力軸はメインポンプ14及びパイロットポンプ15のそれぞれの入力軸に接続されている。
【0022】
メインポンプ14は、作動油ライン16を介して作動油をコントロールバルブ17に供給する油圧ポンプであり、例えば、斜板式可変容量型油圧ポンプである。メインポンプ14は、斜板の角度(斜板傾転角)を変更することでピストンのストローク長を調整し、吐出量、すなわち、ポンプ出力を変化させることができる。メインポンプ14の斜板傾転角は、レギュレータ14aにより制御される。レギュレータ14aは、付属の電磁弁(不図示)が受ける制御電流の変化に応じて斜板傾転角を変化させる。例えば、制御電流が増加すると、レギュレータ14aは、斜板傾転角を大きくして、メインポンプ14の吐出量を増大させる。また、制御電流が減少すると、レギュレータ14aは、斜板傾転角を小さくして、メインポンプ14の吐出量を低減させる。
【0023】
パイロットポンプ15は、パイロットライン25を介して各種油圧制御機器に作動油を供給するための油圧ポンプであり、例えば、固定容量型油圧ポンプである。
【0024】
コントロールバルブ17は、ショベルに搭載されている油圧システムを制御する1組の油圧制御弁である。本実施例では、複数の流量制御弁を含む。コントロールバルブ17は、例えば、メインポンプ14から作動油ライン16を通じて供給された作動油を、操作装置26の操作方向及び操作量に応じて、一又は複数の油圧アクチュエータに選択的に供給する。油圧アクチュエータは、例えば、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、左走行用油圧モータ1A、右走行用油圧モータ1B及び旋回用油圧モータ2Aを含む。左走行用油圧モータ1A、右走行用油圧モータ1B及び旋回用油圧モータ2Aは、電動モータで構成されていてもよい。
【0025】
操作装置26は、操作者が油圧アクチュエータの操作のために用いる装置であり、レバー又はペダル等を含む。本実施例では、操作装置26は、パイロットライン25を介してパイロットポンプ15から作動油の供給を受ける。そして、パイロットライン25a、25bを通じて、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する流量制御弁のパイロットポートに作動油を供給する。パイロットポートに供給される作動油の圧力は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量に応じた圧力とされる。
【0026】
コントローラ30は、ショベルを制御するための制御装置であり、例えば、CPU、RAM及びROM等を備えたコンピュータで構成される。コントローラ30は、各種機能に対応するプログラムを実行して各種機能を実現する。各種機能は、レギュレータ14aの電磁弁に対する制御電流の大きさを変化させることでメインポンプ14の吐出量を制御する機能を含む。
【0027】
エンジン制御装置(ECU)74は、エンジン11を制御するように構成されている。ECU74は、例えば、コントローラ30からの指令に基づいてエンジン11の回転数を制御する。操作者は、例えば、エンジン回転数調整ダイヤル75を用いてエンジン回転数を設定する。ECU74は、設定されたエンジン回転数を実現するように燃料噴射量等を制御する。
【0028】
エンジン回転数調整ダイヤル75は、エンジン11の回転数を調整するためのダイヤルであり、キャビン10内に設けられている。本実施例ではエンジン回転数を5段階で切り換えできるように構成されている。操作者は、エンジン回転数調整ダイヤル75を操作することで、Rmax、R4、R3、R2及びR1の5段階でエンジン回転数を切り換えることができる。図3は、エンジン回転数調整ダイヤル75でR4が選択された状態を示す。
【0029】
画像表示装置40は、各種情報を表示するための装置であり、キャビン10内に設けられている。本実施例では、画像表示装置40は、画像表示部41及び入力部42を含む。操作者は、画像表示部41を見てショベルの運転状況又は制御情報等を確認できる。また、操作者は、入力部42を利用して各種情報をコントローラ30に入力できる。画像表示装置40は、CAN又はLIN等の通信ネットワークを介してコントローラ30に接続される。但し、画像表示装置40は、専用線を介してコントローラ30に接続されてもよい。
【0030】
画像表示装置40は、表示用の画像を生成する変換処理部40aを含む。本実施例では、変換処理部40aは、地物の表面状態を取得する装置である撮像装置M5の出力に基づいて表示用のカメラ画像を生成する。撮像装置M5は、例えば専用線を介して画像表示装置40に接続される単眼カメラである。撮像装置M5は、ステレオカメラ、距離画像カメラ(距離画像センサ)、赤外線カメラ又は赤外線サーモグラフィカメラ等であってもよい。変換処理部40aは、コントローラ30の出力に基づいて表示用の画像を生成してもよい。
【0031】
変換処理部40aは、画像表示装置40が有する機能としてではなく、コントローラ30が有する機能として実現されてもよい。この場合、撮像装置M5は、画像表示装置40ではなく、コントローラ30に接続される。
【0032】
画像表示装置40は、蓄電池70から電力の供給を受けて動作する。蓄電池70はエンジン11のオルタネータ11a(発電機)で発電した電力で充電される。蓄電池70の電力は、コントローラ30、画像表示装置40及びショベルの電装品72等に供給される。スタータ11bは、蓄電池70からの電力で駆動され、エンジン11を始動する。
【0033】
ECU74は、エンジン11の状態を示す各種データをコントローラ30に送信する。各種データは、例えば、水温センサ11cが出力する冷却水温を示すデータ、レギュレータ14aが出力するメインポンプ14の斜板傾転角を示すデータ、吐出圧センサ14bが出力するメインポンプ14の吐出圧を示すデータ、油温センサ14cが出力する作動油の温度を示すデータ、操作圧センサ29a、29bが出力するパイロット圧を示すデータ、及び、エンジン回転数調整ダイヤル75が出力するエンジン回転数の設定状態を示すデータ等を含む。コントローラ30は一時記憶部30aにデータを蓄積しておき、必要なときに画像表示装置40に送信できる。
【0034】
外部演算装置30Eは、通信装置M1、測位装置M2、姿勢検出装置M3及び撮像装置M5等の少なくとも1つの出力に基づいて各種演算を行い、演算結果をコントローラ30に対して出力する制御装置である。本実施例では、外部演算装置30Eは蓄電池70から電力の供給を受けて動作する。
【0035】
図4は、ショベルに搭載される油圧システムの構成例を示す図である。油圧システムは、主に、メインポンプ14L、14R、パイロットポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26及び切換弁50等を含む。メインポンプ14L、14Rは、図3のメインポンプ14に対応する。
【0036】
コントロールバルブ17は、メインポンプ14L、14Rが吐出する作動油の流れを制御する流量制御弁171~176を含む。そして、コントロールバルブ17は、流量制御弁171~176を通じ、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、左走行用油圧モータ1A、右走行用油圧モータ1B、及び、旋回用油圧モータ2Aのうちの1又は複数のものに対しメインポンプ14L、14Rが吐出する作動油を選択的に供給する。
【0037】
操作内容検出装置29は、操作者による操作装置26の操作の内容を検出するように構成されている。本実施例では、操作内容検出装置29は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量を圧力の形で検出する操作圧センサ29a、29bで構成されている。操作内容検出装置29は、ポテンショメータ等、圧力センサ以外の他のセンサで構成されてもよい。
【0038】
エンジン11によって駆動されるメインポンプ14L、14Rは、センターバイパス管路40L、40Rのそれぞれを経て作動油タンクまで作動油を循環させる。センターバイパス管路40Lは、コントロールバルブ17内に配置された流量制御弁171、173及び175を通る作動油ラインである。センターバイパス管路40Rは、コントロールバルブ17内に配置された流量制御弁172、174及び176を通る作動油ラインである。
【0039】
流量制御弁171、172、173は、左走行用油圧モータ1A、右走行用油圧モータ1B、旋回用油圧モータ2Aに流出入する作動油の流量及び流れ方向を制御するスプール弁である。流量制御弁174、175、176は、バケットシリンダ9、アームシリンダ8、ブームシリンダ7に流出入する作動油の流量及び流れ方向を制御するスプール弁である。
【0040】
左走行用油圧モータ1A及び右走行用油圧モータ1Bは、下部走行体1を駆動する走行用油圧モータである。本実施例では、斜板式可変容量型油圧モータであり、高回転・低トルクの高速走行モードと、低回転・高トルクの低速走行モードとで走行モードを切り換えできるように構成されている。走行モードの切り換えは、走行用油圧モータに取り付けられたモータレギュレータによって行われる。モータレギュレータは、コントローラ30からの指令、及び、走行負荷(走行用油圧モータを流れる作動油の圧力)等の少なくとも1つに応じて走行用油圧モータの走行モードを切り換えることができる。高速走行モードでは、斜板傾転角が小さく、油圧モータの1回転当たりの押しのけ容積(モータ容積)が小さい。低速走行モードでは、斜板傾転角が大きく、モータ容積が大きい。
【0041】
切換弁50は、操作装置26と流量制御弁171~176のそれぞれのパイロットポートとの間の連通・遮断を切り換える弁である。本実施例では、切換弁50はコントローラ30からの制御指令に応じて弁位置を切り換える電磁弁である。具体的には、切換弁50は、コントローラ30から遮断指令を受けた場合に操作装置26と各パイロットポートとの間の連通を部分的に或いは完全に遮断し、連通指令を受けた場合に操作装置26と各パイロットポートとの間の遮断を解除する。切換弁50は、流量制御が可能な電磁比例弁であってもよい。
【0042】
次に、図5を参照して外部演算装置30Eの機能について説明する。図5は、外部演算装置30Eの構成例を示す機能ブロック図である。本実施例では、外部演算装置30Eは、通信装置M1、測位装置M2及び姿勢検出装置M3の出力を受けて各種演算を実行し、その演算結果をコントローラ30に対して出力する。コントローラ30は、例えば、その演算結果に応じた制御指令を動作制限部E1に対して出力する。
【0043】
動作制限部E1はショベルの動きを制限するための機能要素であり、例えば、パイロット圧を調整する減圧弁、又は、メインポンプ14からコントロールバルブ17への作動油の流れを遮断可能な切換弁等を含む。本実施例では、動作制限部E1として切換弁50が採用されている。動作制限部E1は、ショベルの操作者に対して警告を出力する警告出力装置を含んでいてもよい。警告出力装置は、例えば、音声出力装置又は警告ランプ等である。
【0044】
外部演算装置30Eは、主に、地形データベース更新部31、位置座標更新部32、地面形状情報取得部33及び走行制限部34を含む。
【0045】
地形データベース更新部31は、作業現場の地形情報を参照可能に体系的に記憶する地形データベースを更新する機能要素である。本実施例では、地形データベース更新部31は、例えばショベルの起動時に通信装置M1を通じて作業現場の地形情報を取得して地形データベースを更新する。地形データベースは不揮発性メモリ等に記憶されている。作業現場の地形情報は、例えば、世界測位系に基づく3次元地形モデルで記述される。
【0046】
位置座標更新部32は、ショベルの現在位置を表す座標及び向きを更新する機能要素である。本実施例では、位置座標更新部32は、測位装置M2の出力に基づいて世界測位系におけるショベルの位置座標及び向きを取得し、不揮発性メモリ等に記憶されているショベルの現在位置を表す座標及び向きに関するデータを更新する。位置座標更新部32は、ジャイロセンサ又は加速度センサ等の出力を用いたデッドレコニングに基づいてショベルの位置座標及び向きを取得してもよい。
【0047】
地面形状情報取得部33は、作業対象の地面の現在の形状に関する情報を取得する機能要素である。本実施例では、地面形状情報取得部33は、地形データベース更新部31が更新した地形情報と、位置座標更新部32が更新したショベルの現在位置を表す座標及び向きと、姿勢検出装置M3が検出した掘削アタッチメントの姿勢の過去の推移(作動履歴)とに基づいて作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得する。そのため、地面形状情報取得部33は、掘削作業による地形の変化に関する情報を含め、上部旋回体3の周辺の地形の変化に関する情報を取得できる。掘削アタッチメントの姿勢の過去の推移である作動履歴は、例えば、ブーム角度θ1、アーム角度θ2、バケット角度θ3、ショベルのY軸回りの傾斜角θ4、及び、ショベルのX軸回りの傾斜角θ5等の少なくとも1つの時系列データであり、揮発性メモリ又は不揮発性メモリに記憶されている。地面形状情報取得部33は、作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得した後でそれまでの作動履歴を消去してもよい。地面形状情報取得部33は、位置座標更新部32が更新したショベルの現在位置を表す座標及び向きと、姿勢検出装置M3が検出した掘削アタッチメントの姿勢の過去の推移(作動履歴)とに基づいて作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得してもよい。
【0048】
走行制限部34は、ショベルの走行を制限する機能要素である。本実施例では、走行制限部34は、位置座標更新部32が更新したショベルの現在位置を表す座標及び向きと、地面形状情報取得部33が取得した作業対象の地面の現在の形状に関する情報とに基づいて下部走行体1の動きを制限する。走行制限部34は、例えば、下部走行体1の前進方向における所定距離内に所定地物が存在すると判定した場合に下部走行体1の前進を制限し、且つ、下部走行体1の後進方向における所定距離内に所定地物が存在すると判定した場合に下部走行体1の後進を制限する。所定地物は、例えば、掘削作業で形成された穴又は盛り土等の地物のうち所定の条件を満たす地物である。本実施例では、所定地物は、所定深さより深い穴、側面(傾斜面)の傾斜角が所定角度より大きい穴、所定高さより高い盛り土、及び、側面(傾斜面)の傾斜角が所定角度より大きい盛り土等を含む。ショベルの姿勢は、仮に下部走行体1が所定地物を通過した場合、著しく不安定になる。下部走行体1の前進方向及び後進方向は、例えば、測位装置M2の出力に基づいて決定される。
【0049】
走行制限部34は、例えば、掘削作業で形成された穴のうち、その側面の傾斜角が所定角度以上の穴を所定地物とし、その傾斜角が所定角度未満の穴を所定地物から除外する。或いは、掘削作業で形成された穴のうち、その深さが所定深さ以上の穴を所定地物とし、その深さが所定深さ未満の穴を所定地物から除外してもよい。同様に、走行制限部34は、例えば、掘削作業で形成された盛り土のうち、その側面の傾斜角が所定角度以上の盛り土を所定地物とし、その傾斜角が所定角度未満の盛り土を所定地物から除外する。或いは、掘削作業で形成された盛り土のうち、その高さが所定高さ以上の盛り土を所定地物とし、その高さが所定高さ未満の盛り土を所定地物から除外してもよい。
【0050】
ショベルの走行の制限は、下部走行体1の最大移動速度の制限、最大移動加速度の制限、最大移動距離の制限、及び、移動の禁止等の少なくとも1つを含む。本実施例では、走行制限部34は、下部走行体1の前進方向における所定距離内に所定地物が存在すると判定した場合、その判定結果をコントローラ30に対して出力する。その判定結果を受けたコントローラ30は動作制限部E1としての切換弁50に対して遮断指令を出力する。遮断指令を受けた切換弁50は、操作装置26としての走行操作装置と流量制御弁171及び流量制御弁172のそれぞれの右パイロットポートとの間の連通を遮断してショベルの前進を禁止する。走行操作装置は、走行レバー及び走行ペダルを含む。流量制御弁171及び流量制御弁172のそれぞれの右パイロットポートに作用するパイロット圧の上限を下げて最大前進速度を制限してもよい。或いは、所定地物までの距離が所定値未満となったときにショベルの前進を停止させてもよい。
【0051】
コントローラ30は、動作制限部E1としてのモータレギュレータに対して指令を出力し、走行用油圧モータの走行モードを低速走行モードに固定することで下部走行体1の移動速度を制限してもよい。
【0052】
本実施例では、下部走行体1は左クローラ及び右クローラを含む。コントローラ30は、左クローラ及び右クローラの動きを同時に制限してもよく、個別に制限してもよい。
【0053】
この構成により、コントローラ30は、操作者の誤操作に起因してショベルが所定地物としての穴にはまったり所定地物としての盛り土に乗り上げたりするのを防止できる。操作者の誤操作は、下部走行体1を前進させるつもりで行う後進操作、及び、下部走行体1を後進させるつもりで行う前進操作を含む。
【0054】
次に、図6を参照し、外部演算装置30Eの別の構成例について説明する。図6の外部演算装置30Eは、地面形状情報取得部33が撮像装置M5の出力に基づいて作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得可能な点で、図5の外部演算装置30Eと異なるが、その他の点で共通する。そのため、共通部分の説明を省略し、相違部分を詳説する。
【0055】
撮像装置M5は、掘削アタッチメントに取り付けられていてもよく、キャビン10に取り付けられていてもよい。上部旋回体3の旋回と共に旋回して周囲の地形を撮像できるようにするためである。但し、撮像装置M5は、作業現場に設置されたポール等に取り付けられていてもよく、ショベルの周囲を飛行する飛行体に取り付けられていてもよい。飛行体は、例えば、マルチコプタ又は飛行船等を含む。
【0056】
図6の例では、地面形状情報取得部33は、例えば、ステレオカメラ又は距離画像カメラ等である撮像装置M5が出力する距離画像に基づいて作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得できる。撮像装置M5が掘削アタッチメントに取り付けられている場合、距離画像は、測位装置M2と撮像装置M5の相対位置関係に基づき、測位装置M2(ショベル)を基準とした距離画像に変換される。撮像装置M5がポールに取り付けられている場合、距離画像は、予め測定された撮像装置M5の取り付け位置(緯度、経度、高度)に基づき、測位装置M2(ショベル)を基準とした距離画像に変換される。撮像装置M5が飛行体に取り付けられている場合、距離画像は、飛行体に搭載されている測位装置の出力と測位装置M2の出力とに基づき、測位装置M2(ショベル)を基準とした距離画像に変換される。
【0057】
地面形状情報取得部33は、ライダ又はレーザ・レンジ・ファインダ等の地物の表面状態を取得する装置である測距装置の出力に基づいて作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得してもよい。この場合、測距装置は、撮像装置M5の場合と同様、掘削アタッチメントに取り付けられていてもよく、作業現場に設置されたポール等に取り付けられていてもよく、ショベルの周囲を飛行する飛行体に取り付けられていてもよい。測距装置が測定した距離情報からショベルを基準とした距離情報への変換は上述と同様に行われる。
【0058】
上述のように、撮像装置M5は、ショベルから独立していてもよい。この場合、コントローラ30は、通信装置M1を介して撮像装置M5が出力する地形情報を取得してもよい。具体的には、撮像装置M5は、空撮用マルチコプタ、又は、作業現場に設置された鉄塔等に取り付けられ、作業現場を上から見た画像に基づいて作業現場の地形情報を取得してもよい。更に、撮像装置M5は、他のショベルに備えられた撮像装置M5であってもよい。撮像装置M5がショベルから独立している場合、撮像装置M5は、ショベルにデータを直接送信してもよく、管理装置を介してショベルにデータを送信してもよい。管理装置は、例えば、管理センタ等の外部の施設に設置されているコンピュータである。このように撮像装置M5がショベルから独立している場合には、地形データベース更新部31は、通信装置M1を通じ、外部の撮像装置M5からの地形情報、若しくは、管理装置からの地形情報を取得する。そして、地形データベース更新部31は、取得した地形情報に基づいてショベルの周囲の地形情報を更新し、地面形状情報取得部33は、地形データベース更新部31が更新した地形情報に基づき、地形の変化に関する情報を取得できる。
【0059】
この構成により、コントローラ30は、操作者の誤操作に起因してショベルが所定地物としての穴にはまったり所定地物としての盛り土に乗り上げたりするのをより確実に防止できる。
【0060】
次に、図7及び図8A図8Cを参照し、コントローラ30が下部走行体1の動きを制限する処理(以下、「走行制限処理」とする。)について説明する。図7は、走行制限処理のフローチャートである。コントローラ30は、所定の制御周期で繰り返しこの走行制限処理を実行する。コントローラ30の地面形状情報取得部33は、走行制限処理と並行して、作業対象地面の現在の形状に関する情報を取得している。典型的には、地面形状情報取得部33は、地形データベース更新部31が更新した地形情報と、位置座標更新部32が更新したショベルの現在位置を表す座標及び向きと、姿勢検出装置M3が検出した掘削アタッチメントの姿勢の過去の推移(作動履歴)とに基づいて作業対象地面の現在の形状に関する情報を定期的に取得している。図8A図8Cは、作業対象地面の断面図であり、図8A図8B図8Cの順で形状が変化する様子を示す。図8A図8Cのそれぞれにおける一点鎖線は目標地形(掘削作業によって実現されることになっている地形)を表す。ショベルは、通信装置M1を通じて目標地形に関するデータを取得する。
【0061】
最初に、コントローラ30の走行制限部34は、前進方向の所定距離内に所定地物が存在するか否かを判定する(ステップST1)。この例では、所定地物は、所定深さTH1より深く、且つ、側面の傾斜角が所定角度TH2より大きい穴、及び、所定高さTH3より高く、且つ、側面の傾斜角が所定角度TH4より大きい盛り土を含む。
【0062】
走行制限部34は、例えば、所定地物の形状と所定地物までの距離とを把握し、前進方向の所定距離内に所定地物が存在するか否かを判定する。前進方向の所定距離は、例えば、下部走行体1の前端からの水平距離である。
【0063】
前進方向の所定距離内に所定地物が存在すると判定した場合(ステップST1のYES)、走行制限部34は、前進を制限する(ステップST2)。
【0064】
前進方向の所定距離内に所定地物が存在しないと判定した場合(ステップST1のNO)、走行制限部34は、後進方向の所定距離内に所定地物が存在するか否かを判定する(ステップST3)。
【0065】
後進方向の所定距離内に所定地物が存在すると判定した場合(ステップST3のYES)、走行制限部34は、後進を制限する(ステップST4)。後進方向の所定距離は、例えば、下部走行体1の後端からの水平距離である。
【0066】
後進方向の所定距離内に所定地物が存在しないと判定した場合(ステップST3のNO)、すなわち、前進方向及び後進方向の何れにも所定地物が存在しないと判定した場合、走行制限部34は、前進及び後進の何れをも制限することなく、今回の走行制限処理を終了させる。
【0067】
図7の例では、走行制限部34は、前進方向の所定距離内に所定地物が存在しないと判定した後で後進方向の所定距離内に所定地物が存在するか否かを判定している。しかしながら、走行制限部34は、後進方向の所定距離内に所定地物が存在しないと判定した後で前進方向の所定距離内に所定地物が存在するか否かを判定してもよい。或いは、2つの判定を同時並行で実行してもよい。
【0068】
例えば図8Aの状態では、前進方向の所定距離F内には所定深さTH1未満である深さD1の穴が存在するのみであるため、走行制限部34は、前進方向には所定地物が存在しないと判定する。この穴は、所定角度TH2より大きい傾斜角α1の側面を有するが、深さD1が所定深さTH1未満であるため、所定地物とは判定されていない。そのため、走行制限部34は前進を制限することはない。但し、深さD1の穴は、所定角度TH2より大きい傾斜角α1の側面を有することを理由として所定地物と判定されてもよい。この場合、走行制限部34は前進を制限する。
【0069】
また、後進方向の所定距離R内には所定高さTH3未満である高さH1の盛り土が存在するのみであるため、走行制限部34は、後進後方には所定地物が存在しないと判定する。この盛り土は、所定角度TH4より大きい傾斜角β1の側面を有するが、高さH1が所定高さTH3未満であるため、所定地物とは判定されていない。そのため、走行制限部34は後進を制限することはない。但し、高さH1の盛り土は、所定角度TH4より大きい傾斜角β1の側面を有することを理由として所定地物と判定されてもよい。この場合、走行制限部34は後進を制限する。
【0070】
図8Bの状態では、前進方向の所定距離F内には所定深さTH1以上である深さD2まで続く穴が存在するがその側面の傾斜角α2が所定角度TH2未満であるため、走行制限部34は、前進方向に所定地物が存在しないと判定する。また、後進方向の所定距離R内には所定高さTH3以上である高さH2まで続く盛り土が存在するがその側面の傾斜角β2が所定角度TH4未満であるため、走行制限部34は、後進後方に所定地物が存在しないと判定する。そのため、走行制限部34は、前進及び後進の何れをも制限することはない。但し、走行制限部34は、前進方向の所定距離F内に存在する穴が深さD2まで続いていることを理由としてその穴を所定地物と判定してもよい。また、後進方向の所定距離R内に存在する盛り土が高さH2まで続いていることを理由としてその盛り土を所定地物と判定してもよい。
【0071】
図8Cの状態では、前進方向の所定距離F内には所定深さTH1以上である深さD3まで続く深さを有し且つその側面の傾斜角α3が所定角度TH2以上である穴が存在するため、走行制限部34は、前進方向に所定地物が存在すると判定する。そのため、走行制限部34は前進を制限する。また、後進方向の所定距離R内には所定高さTH3以上である高さH3まで続く高さを有し且つその側面の傾斜角β3が所定角度TH4以上である盛り土が存在するため、走行制限部34は、後進方向に所定地物が存在すると判定する。そのため、走行制限部34は後進を制限する。
【0072】
地面形状情報取得部33は、所定地物と判定された穴の縁から穴の深さD3と同等の距離Lの範囲を制限範囲として設定し、制限範囲内にショベルが進入しないように下部走行体1の動きを制限してもよい。この場合、地面形状情報取得部33は、所定地物から所定距離の範囲を制限範囲として設定することで、ショベルが所定地物へ接近するのを抑制でき、安全性を更に高めることができる。
【0073】
次に、図9A図9Cを参照し、掘削作業の進行に伴う所定地物の位置の推移について説明する。図9A図9Cは作業現場の上面図であり、図9A図9B図9Cの順で掘削作業が進行する様子を示す。図9A図9Cのそれぞれにおける一点鎖線は、目標地形を構成する穴の位置を表す。ドットパターンは、所定地物としての穴の位置を表す。斜線パターンは、所定地物としての盛り土の位置を表す。
【0074】
図9Aは、掘削作業が行われる前の作業現場の状態を表す。一点鎖線は、穴が2箇所に形成される予定であることを表す。図9Aの状態では、所定地物が存在しないため、走行制限部34は、ショベルの走行を制限しない。
【0075】
図9Bは、2つの穴のうちの第1の穴をショベルが掘削しているときの作業現場の状態を表す。ドットパターンは、第1の穴に対応する範囲内に所定地物としての穴が形成されたことを表す。斜線パターンは、第1の穴を形成するために掘り出した土砂によって所定地物としての盛り土が形成されたことを表す。図9Bの状態では、走行制限部34は、ショベルの前進を制限する。下部走行体1の前進方向における所定距離F内に所定地物としての穴が存在するためである。一方、走行制限部34は、ショベルの後進を制限しない。下部走行体1の後進方向における所定距離R内に所定地物が存在していないためである。
【0076】
図9Cは、2つの穴のうちの第1の穴の形成を完了した後でショベルが第2の穴を掘削しているときの作業現場の状態を表す。ドットパターンは、第1の穴に対応する範囲内と第2の穴に対応する範囲内に所定地物としての穴が形成されたことを表す。斜線パターンは、第1の穴及び第2の穴を形成するために掘り出した土砂によって所定地物としての盛り土が形成されたことを表す。図9Cの状態では、走行制限部34は、ショベルの後進を制限する。下部走行体1の後進方向における所定距離R内に所定地物としての穴(第2の穴)が存在するためである。一方、走行制限部34は、ショベルの前進を制限しない。下部走行体1の前進方向における所定距離F内に所定地物が存在していないためである。
【0077】
上述のように、コントローラ30は、移動方向の所定距離内に所定地物が存在する場合に下部走行体1の動きを制限する。そのため、ショベルが掘削した穴にショベルが落ちてしまったり、ショベルが作った盛り土にショベルが乗り上げてしまったりするのを防止できる。この制限は、意図した方向とは反対の方向に操作者が下部走行体1を進行させてしまう状況において特に有効である。このような状況は、例えば、操作者がアタッチメントの操作に集中しすぎて下部走行体1の前進方向を後進方向と誤認してしまったときに生じる。但し、意図した方向に操作者が下部走行体1を進行させる場合にも有効である。穴、盛り土等の所定地物はキャビン10内からは見えにくく、操作者はその存在に気付き難いため或いはその存在を忘れ易いためである。
【0078】
上述のように、本発明の実施例に係るショベルは、コントローラ30が上部旋回体3の周辺の地形に関する情報に基づいて下部走行体1の動きを制限するように構成されている。典型的には、ショベルは、コントローラ30が上部旋回体3の周辺の地形の変化に関する情報に基づいて下部走行体1の動きを制限するように構成されている。そのため、本発明の実施例に係るショベルは、例えば、自機又は他機が掘削した穴にはまったり、自機又は他機が作った盛り土に乗り上げてしまったりして自機が不安定な状態になるのを未然に防止できる。
【0079】
コントローラ30は、望ましくは、掘削作業による地形の変化に関する情報に基づいて下部走行体1の動きを制限する。特に、自機の掘削作業による地形の変化に関する情報に基づいて下部走行体1の動きを制限する。そのため、コントローラ30を搭載するショベルは、自機が掘削した穴にはまったり、自機が作った盛り土に乗り上げてしまったりして自機が不安定な状態になるのを未然に防止できる。
【0080】
コントローラ30は、望ましくは、姿勢検出装置M3の検出値を含むアタッチメントの作動履歴に基づいて、掘削作業による地形の変化に関する情報を取得する。そのため、コントローラ30を搭載するショベルは、自機が掘削した穴に関する情報、自機が作った盛り土に関する情報等を確実且つ正確に取得できる。
【0081】
コントローラ30は、地物の表面状態を取得する装置(例えば、撮像装置M5若しくは測距装置)、又は、アタッチメントの動きの軌跡を取得する装置(例えば、姿勢検出装置M3)の出力に基づいて上部旋回体3の周辺の地形の変化に関する情報を取得してもよい。そのため、コントローラ30を搭載するショベルは、作業現場の広範囲にわたる、自機又は他機が掘削した穴に関する情報、自機又は他機が作った盛り土に関する情報等を確実且つ正確に取得できる。
【0082】
地物の表面状態を取得する装置(例えば、撮像装置M5若しくは測距装置)、又は、アタッチメントの動きの軌跡を取得する装置(例えば、姿勢検出装置M3)は、望ましくは、アタッチメントに取り付けられている。そのため、地物の表面状態を取得する装置(例えば、撮像装置M5若しくは測距装置)、又は、アタッチメントの動きの軌跡を取得する装置(例えば、姿勢検出装置M3)は、上部旋回体3の旋回に応じて撮像方向若しくは測定方向又は掘削位置が変化するため、周囲の地形を広範囲にわたって撮像若しくは測定でき或いは導き出すことができる。
【0083】
下部走行体1は、典型的には、可変容量型の油圧モータによって駆動される。この場合、コントローラ30は、油圧モータの走行モードを低速走行モードに固定することにより、すなわち、高速走行モードに切り換わらないようにすることにより、下部走行体1の動きを制限できる。そのため、コントローラ30は、簡易に且つ迅速に下部走行体1の動きを制限できる。
【0084】
コントローラ30は、望ましくは、下部走行体1の移動方向及び移動速度のうちの少なくとも1つを制限する。そのため、コントローラ30は、下部走行体1が所定地物から離れる方向への移動を制限することなく、下部走行体1が所定地物のところに侵入してしまうのを防止できる。
【0085】
コントローラ30は、所定地物から所定距離の範囲を制限範囲として設定してもよい。この構成により、コントローラ30は、ショベルが所定地物へ接近するのをより確実に抑制でき、安全性を更に高めることができる。
【0086】
コントローラ30は、上部旋回体3の周辺の地形に関する情報をショベルの外部の撮像装置M5から取得するように構成されていてもよい。この構成により、コントローラ30は、作業現場の地形情報をより容易に取得できる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施例が説明された。しかしながら、本発明は、上述した実施例に限定されることはない。上述した実施例は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形、置換等が適用され得る。また、上述の実施例を参照して説明された特徴のそれぞれは、技術的に矛盾しない限り、適宜に組み合わされてもよい。
【0088】
例えば、上述の実施例では、外部演算装置30Eはコントローラ30の外部にある別の演算装置として説明されたが、コントローラ30に一体的に統合されてもよい。また、外部演算装置30Eはショベルに搭載されていなくてもよい。例えば、外部演算装置30Eは管理センタ等の外部管理施設内に設けられていてもよい。この場合、外部演算装置30Eは、測位装置M2、姿勢検出装置M3及び撮像装置M5等の少なくとも1つが取得したデータをネットワーク経由で受信し、出来形情報等、地形に関する情報を算出してもよい。そして、算出した地形に関する情報をショベルへ送信してもよい。ショベルは、受信した地形に関する情報に基づいて下部走行体1の動きを制限してもよい。飛行体に搭載された測位装置及び撮像装置等が取得したデータは、飛行体から外部演算装置Eに送信されてもよい。そして、外部演算装置Eは、受信したデータに基づいて地形に関する情報を算出し、その地形に関する情報をショベルに送信してもよい。飛行体は、地形に関する情報を算出し、その地形に関する情報を直接的にショベルに送信してもよい。
【0089】
本願は、2017年7月31日に出願した日本国特許出願2017-147669号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0090】
1・・・下部走行体 1A・・・左走行用油圧モータ 1B・・・右走行用油圧モータ 2・・・旋回機構 2A・・・旋回用油圧モータ 3・・・上部旋回体 4・・・ブーム 5・・・アーム 6・・・バケット 7・・・ブームシリンダ 8・・・アームシリンダ 9・・・バケットシリンダ 10・・・キャビン 11・・・エンジン 11a・・・オルタネータ 11b・・・スタータ 11c・・・水温センサ 14、14L、14R・・・メインポンプ 14a・・・レギュレータ 14b・・・吐出圧センサ 14c・・・油温センサ 15・・・パイロットポンプ 16・・・作動油ライン 17・・・コントロールバルブ 25、25a・・・パイロットライン 26・・・操作装置 29・・・操作内容検出装置 29a、29b・・・操作圧センサ 30・・・コントローラ 30a・・・一時記憶部 30E・・・外部演算装置 31・・・地形データベース更新部 32・・・位置座標更新部 33・・・地面形状情報取得部 34・・・走行制限部 40・・・画像表示装置 40a・・・変換処理部 40L、40R・・・センターバイパス管路 41・・・画像表示部 42・・・入力部 50・・・切換弁 70・・・蓄電池 72・・・電装品 74・・・エンジン制御装置(ECU) 75・・・エンジン回転数調整ダイヤル 171~176・・・流量制御弁 E1・・・動作制限部 M1・・・通信装置 M2・・・測位装置 M3・・・姿勢検出装置 M3a・・・ブーム角度センサ M3b・・・アーム角度センサ M3c・・・バケット角度センサ M3d・・・車体傾斜センサ M5・・・撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C