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  • 特許-セラミックス焼結体、及び切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】セラミックス焼結体、及び切削工具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/56 20060101AFI20240621BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20240621BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C04B35/56 260
C04B41/87 N
B23B27/14 B
B23B27/14 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020058074
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155282
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 信良
(72)【発明者】
【氏名】飯田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
(72)【発明者】
【氏名】勝 祐介
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113320(JP,A)
【文献】特開2015-101747(JP,A)
【文献】特開2002-194474(JP,A)
【文献】特開2016-113200(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C04B 41/80-41/91
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ(Al)、および炭化タングステン(WC)を含むセラミックス焼結体であって、
隣接する炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、ニッケル(Ni)を含
前記セラミックス焼結体の質量を100質量%として、
炭化タングステン(WC)の含有量は、48.0質量%以上であり、
アルミナ(Al )の含有量は、3.5質量%以上であり、
前記結晶粒界に含まれるニッケル(Ni)の含有量は、0.5質量%以上3質量%以下である、セラミックス焼結体。
【請求項2】
前記結晶粒界に、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1種の元素が存在している、請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
隣接するアルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子との結晶粒界に、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1つが含まれている、請求項1又は請求項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体から構成されている、切削工具。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体を基材とし、該基材の表面には被覆層が形成されている、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス焼結体、及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種製造現場において材料加工の高速化および効率化が求められており、切削加工においても、より高速な加工が期待されている。そのため、切削加工を行う際に、耐熱性の優れたセラミックス工具が用いられている。その一例として、高硬度で高熱伝導であるAl-WC系の焼結体から構成された切削工具が用いられている。
【0003】
AlおよびWCを含有する従来の焼結体は、WC/WC界面の結合が十分でなく、材料加工の高速化および効率化が進むにつれて、高い負荷に耐えられないことがある。そのため、このような焼結体によって構成される切削工具としての性能は、必ずしも満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/198719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される焼結体では、脆弱な金属層が凝縮したり、金属層の融点を上げるために添加されるタングステンが組織中のWCと反応して脆弱なWCの粗大粒子を生じさせたりする。そのため、十分な耐欠損性を有するものではなかった。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐欠損性を高めることができるセラミックス焼結体及び切削工具を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕アルミナ(Al)、および炭化タングステン(WC)を含むセラミックス焼結体であって、
隣接する炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、ニッケル(Ni)を含
セラミックス焼結体の質量を100質量%として、
炭化タングステン(WC)の含有量は、48.0質量%以上であり、
アルミナ(Al )の含有量は、3.5質量%以上であり、
前記結晶粒界に含まれるニッケル(Ni)の含有量は、0.5質量%以上3質量%以下である、セラミックス焼結体。
【0010】
〕前記結晶粒界に、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(W)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1種の元素が
存在している、〔1に記載のセラミックス焼結体。
【0011】
〕隣接するアルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子との結晶粒界に、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1つが含まれている、〔1〕又は〔2〕のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体。
【0012】
〕〔1〕から〔〕のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体から構成されている、切削工具。
【0013】
〕〔1〕から〔〕のいずれか一項に記載のセラミックス焼結体を基材とし、該基材の表面には被覆層が形成されている、切削工具。
【発明の効果】
【0014】
本開示のセラミックス焼結体は、隣接する炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含ことで、炭化タングステン結晶粒子同士の結晶粒界における結合を強化することができる。そのため、セラミックス焼結体の耐欠損性を高めることができる
セラミックス焼結体の質量を100質量%として、炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、含まれる、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)の合計含有率は、0.5質量%以上4.5質量%以下である場合には、炭化タングステン結晶粒子同士の結晶粒界における結合をより一層強化することができる。そのため、セラミックス焼結体の耐欠損性をより一層高めることができる。
炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(W)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1種の元素が存在している場合には、金属層の軟化温度が上昇し、より高速な切削に耐えられるようになる。
隣接するアルミナ(Al)結晶粒子と炭化タングステン(WC)結晶粒子との結晶粒界に、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1つが含まれている場合には、アルミナ結晶粒子と炭化タングステン結晶粒子との間の結晶粒界における結合を強化することができる。そのため、セラミックス焼結体の耐欠損性をより一層高めることができる。
本発明のセラミックス焼結体を切削工具に供することで、鋼材の高速加工下における耐摩耗性と耐欠損性を両立できる。
本発明のセラミックス焼結体を基材とし、被覆層が形成されている場合には、表面を硬質化するとともに表面における基材の酸化を抑制できるため、切削工具の耐摩耗性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】セラミックス焼結体のSEM画像を模式的に示した図である。
図2図1の一部を拡大して示す拡大図である。
図3】炭化タングステン結晶粒子同士の間の結晶粒界の周辺におけるコバルト元素の濃度をEDSで測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、更に詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0017】
1.セラミックス焼結体1
(1)セラミックス焼結体1の構成
セラミックス焼結体1は、図1に示すように、アルミナ(Al)結晶粒子11と、炭化タングステン(WC)結晶粒子12と、を備えている。図1は、セラミックス焼結体1のSEM(Scanning Electron Microscope,走査型電子顕微鏡)により得られたSEM画像を模式的に示した図である。但し、図1は、セラミックス焼結体1のSEM画像を概念的に示したものであり、実際のSEM画像を正確に示したものではない。図2は、図1の内側の一点鎖線で囲まれる部分を拡大したものであり、炭化タングステン結晶粒子12同士の界面の一部を示している。
【0018】
隣接する炭化タングステン結晶粒子12同士の結晶粒界Gに、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含
【0019】
例えば、図3のグラフは、隣接する炭化タングステン結晶粒子12同士の間の結晶粒界Gの周辺におけるコバルト元素の濃度をEDSで測定したグラフである。図3のグラフの横軸は、結晶粒界Gを横切る直線上の位置として、一方の炭化タングステン結晶粒子12における位置A1から、結晶粒界G上の位置A2を経て、他方の炭化タングステン結晶粒子12における位置A3までの各位置を示す。図3のグラフの縦軸は、コバルト(Cо)元素の濃度を示す。炭化タングステン結晶粒子12同士が隣接する結晶粒界Gに、コバルトが分布する。ここで結晶粒界Gのいずれの位置においてEDSを用いたライン分析を行っても、鉄、コバルト、およびニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の元素が検出され
【0020】
このように、隣接する炭化タングステン結晶粒子12同士の結晶粒界Gに、鉄、コバルト、およびニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含ことで、炭化タングステン結晶粒子12同士の結晶粒界Gにおける結合を強化することができる。そのため、セラミックス焼結体1の耐欠損性を高めることができる。
【0022】
セラミックス焼結体1の質量を100質量%として、炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に含まれる、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)の合計含有率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がより一層好ましい。また、この合計含有率は、4.5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がより一層好ましい。また、この合計含有率は、0.5質量%以上 4.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上2質量%以下がより一層好ましい。このような構成によって、炭化タングステン結晶粒子12同士の結晶粒界Gにおける結合をより一層強化することができる。そのため、セラミックス焼結体1の耐欠損性をより一層高めることができる。
【0023】
炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(W)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1種の元素が存在していることが好ましい。このような構成によって、金属層の軟化温度が上昇し、より高速な切削に耐えられるようになる。
【0024】
セラミックス焼結体1は、隣接するアルミナ結晶粒子11と炭化タングステン結晶粒子12との結晶粒界に、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1つが含まれていることが好ましい。このような構成によって、アルミナ結晶粒子11と炭化タングステン結晶粒子12との間の結晶粒界における結合を強化することができる。そのため、セラミックス焼結体1の耐欠損性をより一層高めることができる。
【0025】
(2)セラミックス焼結体1の製造方法(製造方法A)
セラミックス焼結体1の製造方法は特に限定されない。セラミックス焼結体1の製造方法の一例を以下に示す。
【0026】
(2.1)原料
原料として次の原料粉末を使用する。
・炭化タングステン粉末(WC粉末)
・アルミナ粉末(Al粉末)
・ジルコニア粉末(ZrO粉末)
・コバルト粉末(Co粉末)
・ニッケル粉末(Ni粉末)
・モリブデン粉末(Mo粉末)
・タンタル粉末(Ta粉末)
・ハフニウム粉末(Hf粉末)
【0027】
(2.2)混合乾燥粉末(原料粉末X)の作製
(2.2.1)炭化タングステン粉末、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、コバルト粉末、ニッケル粉末、モリブデン粉末、タンタル粉末、およびハフニウム粉末を用意する。
(2.2.2)炭化タングステン粉末、および金属粉末(コバルト粉末、ニッケル粉末、モリブデン粉末、タンタル粉末、およびハフニウム粉末のうち表1に記載の粉末)を予備粉砕する。得られたスラリーを目開き25μmの篩に通し、振動乾燥機によって乾燥させる。得られた粉末を目開き125μmの篩に通し、炭化タングステン粉末に金属粉末がコーティングされた原料粉末Xを得る。
(2.3)調合
原料粉末X、およびアルミナ粉末を、5℃以下に冷却したイオン交換水とともに冷却ジャケットを備えたカルマンアジテーターに投入し、冷却しつつ撹拌し、スラリーを得る。
(2.4)乾燥、造粒
得られたスラリーを目開き25μmの篩に通し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥させる。得られた粉末を目開き250μmの篩に通し、乾燥粉末を得る。
(2.5)焼成
得られた混合乾燥粉末をカーボン冶具に投入し、真空条件にて所定温度で焼成した後、所定温度でホットプレス焼成する。このようにして、セラミックス焼結体1が作製される。セラミックス焼結体1は、切削、研削、及び研磨の少なくとも1つの加工法によって形状や表面の仕上げを行ってもよい。
【0028】
(3)切削工具の用途
切削工具は、セラミックス焼結体1から構成されている。切削工具は、従来公知の様々な切削工具に適用することができる。切削工具として、旋削加工用又はフライス加工用刃先交換型チップ(切削インサート、スローアウェイチップ)、ドリル、エンドミル、を好適に例示できる。なお、切削工具は、広義の切削工具であり、旋削加工、フライス加工などを行う工具全般を言う。
【0029】
(4)表面の被覆層
切削工具は、セラミックス焼結体1を基材として、基材の表面に被覆層が形成されていてもよい。被覆層が形成されると、切削工具の表面硬度が増加すると共に、被加工物との反応・溶着による摩耗進行が抑制される。その結果、切削工具の耐摩耗性が向上する。
被覆層の成分は特に限定されない。被覆層は、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、酸窒化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物から形成されていることが好ましい。チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、酸窒化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物としては、特に限定されないが、TiN、TiCN、TiAlN、TiAlVN、Al 、CrAlNが好適な例として挙げられる。
被覆層の厚みは、特に限定されない。被覆層の厚みは、耐摩耗性の観点から、0.02μm以上30μm以下が好ましい。
【実施例
【0030】
1 セラミックス焼結体の作製
1.1 実施例1~22のセラミックス焼結体(製造方法Aで作製する焼結体)
(1)原料
原料として次の原料粉末を使用した。
・炭化タングステン粉末(WC粉末):平均粒径0.7μm
・アルミナ粉末(Al粉末):平均粒径0.5μm
・ジルコニア粉末(ZrO粉末):平均粒径0.3μm
・コバルト粉末(Co粉末):平均粒径0.1μm
・ニッケル粉末(Ni粉末):平均粒径0.1μm
・モリブデン粉末(Mo粉末):平均粒径0.1μm
・タンタル粉末(Ta粉末):平均粒径0.1μm
・ハフニウム粉末(Hf粉末):平均粒径0.1μm
【0031】
(2)混合乾燥粉末(原料粉末X)の作製
(2.1)炭化タングステン粉末、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、コバルト粉末、ニッケル粉末、モリブデン粉末、タンタル粉末、およびハフニウム粉末を用意した。
(2.2)炭化タングステン粉末、および金属粉末(コバルト粉末、ニッケル粉末、モリブデン粉末、タンタル粉末、およびハフニウム粉末のうち表1に記載の粉末)を予備粉砕した。炭化タングステン粉末、および金属粉末を、超硬製の球石、バインダー粉末(ポリビニルアルコール)、およびアセトンとともに樹脂製のポットに投入して粉砕した。粉砕時間は55時間である。得られたスラリーを目開き25μmの篩に通し、振動乾燥機によって乾燥させた。得られた粉末を目開き125μmの篩に通し、炭化タングステン粉末に金属粉末がコーティングされた原料粉末Xを得た。
(3)調合
原料粉末X、およびアルミナ粉末を、5℃以下に冷却したイオン交換水とともに冷却ジャケットを備えたカルマンアジテーターに投入し、冷却しつつ撹拌し、スラリーを得た。水温が5℃以下となるようにして、6時間撹拌を行った。なお、実施例17~22については、ジルコニア粉末もカルマンアジテーターに投入して撹拌した。
(4)乾燥、造粒
得られたスラリーを目開き25μmの篩に通し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥させた。得られた粉末を目開き250μmの篩に通し、乾燥粉末を得た。
(5)焼成
得られた混合乾燥粉末を表1に記載の組成(mass%)の割合で秤量してからカーボン冶具に投入し、真空条件にて所定温度で焼成した後、所定温度でホットプレス焼成した。具体的には、真空条件にて800℃で2時間焼成した後、表1に記載の焼成温度でホットプレス焼成した。ホットプレス焼成において、焼成時間は2時間であり、圧力は30MPaであり、雰囲気ガスはアルゴン(Ar)である。このようにして、セラミックス焼結体1が作製される。セラミックス焼結体1は、切削、研削、及び研磨の少なくとも1つの加工法によって形状や表面の仕上げを行ってもよい。なお、表1に記載の組成(mass%)は小数第二位を四捨五入したものである。
【0032】
【表1】

【0033】
1.2 比較例1~5のセラミックス焼結体(実験方法Bで作製する焼結体)
比較例1~5のセラミックス焼結体は、炭化タングステン粉末および金属粉末の予備粉砕を行わなかった。
(1)原料
原料として次の原料粉末を使用した。
・炭化タングステン粉末(WC粉末):平均粒径0.7μm
・アルミナ粉末(Al粉末):平均粒径0.5μm
【0034】
(2)混合乾燥粉末の作製(調合)
(2.1)炭化タングステン粉末、およびアルミナ粉末を用意した。
(2.2)炭化タングステン粉末、およびアルミナ粉末を、アセトンとともに樹脂製のポットに投入して撹拌した。撹拌時間は60時間である。
(3)乾燥、造粒
得られたスラリーを目開き25μmの篩に通し、振動乾燥機によって乾燥させた。得られた粉末を目開き250μmの篩に通し、乾燥粉末を得た。
(4)焼成
得られた乾燥粉末をカーボン冶具に投入し、表1に記載の焼成温度でホットプレス焼成した。焼成時間は2時間であり、圧力は30MPaであり、雰囲気ガスはアルゴン(Ar)である。このようにして、比較例1~5のセラミックス焼結体が作製される。セラミックス焼結体は、切削、研削、及び研磨の少なくとも1つの加工法によって形状や表面の仕上げを行ってもよい。
【0035】
2.切削試験
(1)試験方法
各セラミックス焼結体から構成される各切削工具を用いて、切削試験を行って耐欠損性を評価した。
試験条件は、下記の通りである。
・工具形状:DNGA150412BQT00520
・被削材:チタン合金(Ti-6Al-4V)
・切削速度:500m/min
・切込み量:0.5mm~
・送り量:0.1mm/rev.
・切削環境:Wet
切込み量は、0.5mmから1パス毎に0.1mmずつ増加させる。
切削工具に欠損が生じたときの切込み量を評価した。
【0036】
(2)試験結果
表1に試験結果を併記し、これについて検討する。
実施例1~22の切削工具は、下記第1要件を満たしている。これに対して比較例1~5の切削工具は、第1要件を満たしていない。実施例1~22の切削工具は、欠損時の切込み量が1.0~1.8mmであり、比較例1~5の切削工具は、欠損時の切込み量が0.5~0.6mmである。そのため、実施例1~22の切削工具は、比較例1~5の切削工具と比較して耐欠損性が高かった。よって、第1要件を満たすことで耐欠損性が向上することが確認された。
〔第1要件〕:コバルト、およびニッケルのうち少なくとも1種の元素を含む。
【0037】
次に、実施例1~16の切削工具を比較検討する。実施例14~16の切削工具は、いずれも第1要件に加えて下記第要件も満たしていた。他方で、実施例1~10の切削工具は、いずれも下記第要件を満たしていない実施例14~16の切削工具は、欠損時の切込み量が1.5mmである。実施例1~13の切削工具は、欠損時の切込み量が1.0~1.2mmである。実施例14~16の切削工具は、実施例1~13の切削工具と比較して耐欠損性が高かった。よって、第1要件に加えて第要件を満たすことで耐欠損性がより向上することが確認された。
〔第2要件〕:炭化タングステン(WC)結晶粒子同士の結晶粒界に、モリブデン、タンタル、およびハフニウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が存在している。
【0038】
次に、実施例1~22の切削工具を比較検討する。実施例20~22の切削工具は、いずれも第1要件に加えて下記第要件も満たしていた。他方で、実施例1~16の切削工具は、いずれも下記第要件を満たしていない実施例20~22の切削工具は、欠損時の切込み量が1.7~1.8mmである。実施例1~19の切削工具は、欠損時の切込み量が1.0~1.5mmである。実施例20~22の切削工具は、実施例1~19の切削工具と比較して耐欠損性が高かった。よって、第1要件に加えて第要件を満たすことで耐欠損性がより向上することが確認された
〔第要件〕:切削工具にジルコニウムが含まれる。
【0039】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 …セラミックス焼結体
11 …アルミナ結晶粒子
12 …炭化タングステン結晶粒子
G …炭化タングステン結晶粒子同士の結晶粒界
図1
図2
図3