(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240621BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/01 301
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2020091288
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】松江 圭祐
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-223929(JP,A)
【文献】国際公開第2006/049159(WO,A1)
【文献】特開2007-161851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、前記液体吐出部と対向する位置にある支持部を有し、
前記液体吐出部および前記支持部の少なくとも一方または両方が導電部材を含み、
前記導電部材が導電性フィラーを含むポリアセタール樹脂組成物の射出成形品であり、
前記射出成形品のゲートを中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率をA(Ω・cm)、前記射出成形品の流動末端を中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率をB(Ω・cm)としたとき、0.7≦A/B≦2.2を満た
し、
前記体積抵抗率A(Ω・cm)と、前記体積抵抗率B(Ω・cm)の平均値((A+B)/2)が1×10
3
(Ω・cm)以下であることを特徴とする
液体吐出装置。
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を100質量部含み、導電性フィラーを5~30質量部含むことを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記導電性フィラーが、導電性のカーボンブラックまたはカーボンファイバーであることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記射出成形品が3mm以下の部分を有することを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
0.7≦A/B≦2.0を満たすことを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出装置に関し、例えばインクジェットプリンタ装置に搭載して使用するのに適している液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吐出口から液滴状のインクを吐出し、用紙等に付着させることにより、文字、画像などを記録するインクジェットプリンタ装置が種々提案されている。
【0003】
インクジェットプリンタ装置は、吐出した液滴状のインク、用紙等に付着した直後のインクおよび吐出口付近の部材が帯電している状態になる。このため、帯電しているインク同士が反発することによって、または、インクと部材が反発することによって、インクが用紙等の所定の位置に付着せずに滲みが発生したり、吐出口が汚れたりすることが問題となる。
【0004】
このような帯電によるインクジェットプリンタ装置の性能劣化防止のため、例えば、特許文献1では、液体噴射装置の液体を噴射する液体噴射部と対向する位置にあるフラッシングユニットに導電部材を使用し、帯電しないような対策がされている。導電部材は、例えばステンレスおよび導電性を有する樹脂である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は抵抗率の偏りを含む導電部材の性能について記載していない。従来、射出成形により導電性を有する樹脂を成形して部品を作る場合、導電部材の形状が単純でなく溶融した樹脂の流動方向が単純でないため、部品内で抵抗率のバラツキが生じやすく、除電できない箇所が生じ、帯電防止の効果は不十分である。
【0007】
本開示は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、印刷の滲み、吐出口の汚れなど、液体の吐出に関する問題の抑制効果を高めた液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、前記液体吐出部と対向する位置にある支持部を有し、前記液体吐出部および前記支持部の少なくとも一方または両方が導電部材を含み、前記導電部材が導電性フィラーを含むポリアセタール樹脂組成物の射出成形品であり、前記射出成形品のゲートを中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率をA(Ω・cm)、前記射出成形品の流動末端を中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率をB(Ω・cm)としたとき、0.7≦A/B≦2.2を満たすことを特徴とする。
【0009】
この構成により、インクが吐出する全領域において、液滴状のインクの帯電が防止され、インク同士の反発が起きない。また、周辺部材の帯電も防止されるため、インクと部材との反発も抑制することができる。
【0010】
また、本開示の液体吐出装置において、前記ポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を100質量部含み、導電性フィラーを5~30質量部含むことが好ましい。
【0011】
また、本開示の液体吐出装置において、前記導電性フィラーが、導電性のカーボンブラックまたはカーボンファイバーであることが好ましい。
【0012】
また、本開示の液体吐出装置において、前記体積抵抗率A(Ω・cm)と、前記体積抵抗率B(Ω・cm)の平均値((A+B)/2)が1×103(Ω・cm)以下であることが好ましい。
【0013】
また、本開示の液体吐出装置において、前記射出成形品が3mm以下の部分を有することが好ましい。
【0014】
また、本開示の液体吐出装置において、0.7≦A/B≦2.0を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、印刷の滲み、吐出口の汚れなど、液体の吐出に関する問題の抑制効果を高めた液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、液体吐出部と支持部の概略図である。
【
図4】
図4は、2軸押出機を模式的に示す構成図である。
【
図6】
図6は、導電部材の実施例のゲート部の概略図である。
【
図7】
図7は、体積抵抗率の測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照して詳細に説明される。ここで、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
図1は、液体吐出部10と支持部20の位置関係を示す概略図である。液体吐出部10と支持部20は、液体を吐出していない停止状態のときに対向する位置にある。本実施形態において、液体はインクである。液体吐出部10と支持部20は接していて良い。インクを吐出するとき、液体吐出部10は支持部20の対向する位置から離れ、所定の位置に移動する。液体吐出部10がインクを吐出することにより、文字、画像などが描画される。
【0019】
図2は、液体吐出部10の概略図である。液体吐出部10は、液体吐出部本体1と吐出口周辺領域2と対向面3を備えている。対向面3には、複数の吐出口周辺領域2が設けられている。それぞれの吐出口周辺領域2には複数の吐出口が設けられ、それぞれの吐出口からインクが吐出される。複数の吐出口は、吐出口周辺領域2の長手方向に沿って一定ピッチで配置されてよい。
【0020】
対向面3は、支持部20と対向する面に設けられる。対向面3の形状の外形は、長方形、その他の四角形、多角形、Rが付いた形状、円状など特に限定されたものではない。吐出口周辺領域2を除く面内のデザインは、平面、部分的に穴が空いている構造、格子状、メッシュ状など特に限定されたものではない。
【0021】
図3は、支持部20の概略図である。支持部20は、支持部本体4と支持面5を備えている。
【0022】
支持部20は、吸引機能またはインクを吸収する素材を備えることにより、文字、画像などを描画していないときに、液体吐出部10に残っているインクを除去する機能を有していて良い。
【0023】
支持面5は、液体吐出部10と対向する面に設けられる。支持面5の形状の外形は、長方形、その他の四角形、多角形、Rが付いた形状、円状など特に限定されたものではない。面内のデザインは、平面、部分的に穴が空いている構造、格子状、メッシュ状など特に限定されたものではない。ただし、インクを除去する機能を有している場合は、インクの通り道が必要であるため、部分的に穴が空いている構造、格子状およびメッシュ状が好ましい。
【0024】
対向面3と支持面5の少なくとも一方もしくは両方は導電部材を含む。導電部材は射出成形品である。ここで、射出成形品とは、加熱等の手段により軟化した材料を、射出圧を加えて金型に押込み、型に充填して成形されたものである。導電部材として、導電性フィラーを含むポリアセタール樹脂組成物を好適に用いることが出来る。
【0025】
「ポリアセタール樹脂」
本実施形態で用いるポリアセタール樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド単量体またはその3量体(トリオキサン)、4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られる実質上オキシメチレン単位のみから成るポリアセタールホモポリマーを用いることができる。また、ポリアセタール樹脂として、例えば、ホルムアルデヒド単量体またはその3量体(トリオキサン)、4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマールなどのグリコール、ジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル、環状ホルマールを共重合させて得られるポリアセタールコポリマーを用いることができる。また、ポリアセタール樹脂として、例えば、単官能グリシジルエーテルを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマーを用いることができる。また、ポリアセタール樹脂として、例えば、多官能グリシジルエーテルを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーも用いることができる。さらに、ポリアセタール樹脂として、例えば、両末端または片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えばポリアルキレングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体またはホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーを用いることができる。ポリアセタール樹脂として、例えば、両末端または片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体またはその3量体(トリオキサン)、4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテル、環状ホルマールを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーも用いることができる。
【0026】
以上のように、本実施形態においては、ポリアセタール樹脂として、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマーいずれも用いることが可能であるが、好ましくはポリアセタールコポリマーである。
【0027】
「導電性フィラー」
本実施形態で用いる導電性フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、カーボン系、金属系、金属酸化物系および金属メッキ系などが挙げることができる。なかでも、ポリアセタール樹脂との親和性および導電性能の観点から、カーボン系である導電性のカーボンブラック、黒鉛、カーボンファイバー、カーボンナノチューブのいずれかが好まく、導電性カーボンブラックまたはカーボンファイバーがより好ましい。また、導電性フィラーは、1種類のみを用いてよいし、2種以上を併用してよい。
【0028】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物において、導電性フィラーの含有量は、ポリアセタール樹脂を100質量部に対して5~30質量部であることが好ましい。より好ましくは10~30質量部である。導電性フィラーの含有量が、ポリアセタール樹脂を100質量部に対して5質量部以上であることにより、十分な導電性を有したポリアセタール樹脂組成物を得ることが可能となり、30質量部以下であると、諸特性のバランスが取れ、また、成形不良率が極めて低いポリアセタール樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0029】
「導電性カーボンブラック」
本実施形態に用いる導電性カーボンブラックは特に限定されないが、一次粒子径が0.05μm以下であることが好ましい。導電性カーボンブラックの一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により1万倍から5万倍の拡大倍率で導電性カーボンブラックを観察し、最低で100個の導電性カーボンブラックの粒子について長径と短径とを計測し、その平均値を計算することにより求められる。また、導電性カーボンブラックは、1種類のみを用いてよいし、2種以上を併用してよい。
【0030】
〔添加剤〕
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、必要に応じて、ホルムアルデヒド反応性窒素含有化合物、酸化防止剤、ギ酸捕捉剤、耐候(光)安定剤、離型剤、結晶核剤、導電材、有熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、顔料、ワックスおよびその他有機化合物などを、本開示の目的達成を損なわない範囲で含有させてよい。
【0031】
ホルムアルデヒド反応性窒素含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン4-6、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン12等のポリアミド樹脂、および、これらの重合体(例えば、ナイロン6/6-6/6-10、ナイロン6/6-12等)が挙げられる。また他に、例えば、アクリルアミドおよびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体と他のビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。具体的にはアクリルアミドおよびその誘導体と他のビニルモノマーとを金属アルコラートの存在下で重合して得られたポリ-β-アラニン共重合体が挙げられる。その他の例として、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物およびイミド化合物が挙げられる。
【0032】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、1,4-ブタンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]およびペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。これらの中で、好ましくは、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]およびペンタエリスリトールテトラキス[メチレン‐3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0033】
ギ酸捕捉剤としては、特に限定されないが、例えば、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。他のギ酸捕捉剤としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩またはアルコキシドが挙げられる。より具体的には、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムもしくはバリウムの水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩が挙げられる。これらのギ酸捕捉剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
耐候(光)安定剤は、ベンゾトリアゾール系および蓚酸アニリド系紫外線吸収剤並びにヒンダードアミン系光安定剤の中から選ばれる1種以上であると好ましい。
【0035】
離型剤としては、アルコール、脂肪酸およびそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、平均重合度が10~500であるオレフィン化合物が好ましく用いられる。
【0036】
結晶核剤としては、特に限定されないが、例えば窒化ホウ素などが挙げられる。
【0037】
導電剤としては、特に限定されないが、上記の導電性フィラー成分として挙げたもの以外のカーボンブラック、黒鉛、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、金属粉末および金属繊維などが挙げられる。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーネート系樹脂および未硬化のエポキシ系樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の変性物が熱可塑性樹脂として用いられてよい。
【0039】
熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマーおよびポリアミド系エラストマーが挙げられる。
【0040】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、無機系顔料および有機系顔料、メタリック系顔料および蛍光顔料が挙げられる。ここで、無機系顔料としては、樹脂の着色用として一般的に用いられているものが挙げられ、特に限定されないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、アセチレンブラックおよびランプブラックが挙げられる。また、有機系顔料としては、特に限定されないが、例えば、縮合ウゾ系、イノン系、フロタシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系およびフタロシアニン系の顔料が挙げられる。
【0041】
ワックスとしては、特に限定されないが、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックスおよびポリアミドワックスなどが挙げられる。
【0042】
その他有機化合物としては、特に限定されないが、エステル化合物、エポキシ化合物、エポキシ化合物の硬化性添加剤およびカルボニル化合物などが挙げられる。
【0043】
本実施形態における液体吐出装置において、液体吐出部10および/または支持部20に含まれる導電部材は、量産が容易な観点から、射出成形によって作製される。射出成形によって作製された部品には、ゲート(金型の入り口側の部分)と流動末端(金型に入った樹脂が最後に流れつく部分)が存在する。一般に、ゲートは射出成形品に痕跡が残るため、目視で確認することが出来る。一方、流動末端は単純な形状の射出成形品であれば、ゲートの位置と対称の位置になることが多いが、複雑な形状で流動末端を特定することが困難な場合、コンピュータによる流路の解析(CAE解析)により確認することができる。
【0044】
本実施形態の液体吐出装置において、液体吐出部10および/または支持部20に含まれる導電部材は、ゲートを中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率をA(Ω・cm)、流動末端を中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率をB(Ω・cm)としたとき、0.7≦A/B≦2.2を満たすことが望ましい。好ましくは、0.7≦A/B≦2.0、より好ましくは、0.7≦A/B≦1.8を満たす。ゲート側の体積抵抗率Aと流動末端側の体積抵抗率Bが上述の関係を満たすことにより、導電部材内の抵抗率のバラツキが少なく、インクの帯電防止を十分に行うことができ、結果としてインクの滲み、および吐出口の汚れを防ぐことができる。各部の体積抵抗率は、後述した実際に記載する方法により測定することが出来る。ここで、ゲートおよび流動末端が複数存在する場合は、それぞれの平均値を体積抵抗率A、Bとする。
【0045】
ゲート側の体積抵抗率Aと流動末端側の体積抵抗率Bを上述の範囲に制御するには、樹脂の流れが均一になるように、射出成形時の樹脂の押出速度を適宜調整することが有効である。樹脂の流れが均一であれば、射出成形品にムラが少なく、各部の体積抵抗率の差を小さくすることが出来る。また、成形不良を防ぎつつ、十分な導電性も同時に付与するという観点から、導電性フィラーの添加量を調整することも有効である。
【0046】
ゲート側の体積抵抗率A(Ω・cm)と流動末端側の体積抵抗率B(Ω・cm)の平均((A+B)/2))は、1×103(Ω・cm)以下であることが好ましい。より好ましくは5×102(Ω・cm)以下である。体積抵抗率AとBの平均値が1×103(Ω・cm)以下であることにより、帯電防止の効果がより優れる傾向がある。体積抵抗率を小さくする方法としては、導電性フィラーの添加量を増やすことが簡便な方法であるが、この方法に限定されない。
【0047】
射出成形品の厚みは、小型化が可能なことから3mm以下の部分を有することが好ましい。さらには、設計の自由度が増すことから2mm以下の部分を有することがより好ましい。3mm以下であると射出成形時の樹脂の流れが不均一になりやすいが、導電性フィラーの添加量、成形速度などを適宜調節することにより、樹脂の流れを均一に制御し、抵抗率のばらつきを小さくすることが出来る。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔ポリアセタール樹脂組成物の製造方法〕
本実施例では、2軸押出機(東芝機械(株)製TEM-48SS押出機(L/D=58、ベント付き)を用いて、ポリアセタール樹脂組成物を製造した。
図4は2軸押出機の概略構成図を示す。
【0050】
図4の2軸押出機は、個々に独立している押出機のバレルゾーン101~114を具備し、バレルゾーン101~114の終端部をダイヘッド115に連結した。バレルゾーン101~114の始端部は押出機モーター116に連結され、押出機モーター116の駆動により原料がバレルゾーン101~114を移動するように設定した。バレルゾーン101にはトップ部の定量フィーダー117、バレルゾーン108にはサイド部の定量フィーダー118を設けた。バレルゾーン113には脱気ベント119を設けた。全てのバレルゾーン101~114の温度は200℃に設定され、ポリアセタール樹脂を含む導電性カーボンブラック以外の成分のブレンド物が定量フィーダー117より、導電性カーボンブラックが定量フィーダー118よりそれぞれ供給されて、押出量200kg/時間、スクリュー回転数240rpmの条件で押出を行うことによって、ポリアセタール樹脂組成物が得られた。
【0051】
〔導電部材の作製方法〕
射出成形機(日本製鋼所(株)製J110AD-K、スクリュー径35mm)を用いて、上記ポリアセタール樹脂組成物から、
図5(a)~(c)に示す形状の導電部材が作製された。導電部材の作製に用いる型は、
図5のBの部分に、
図6(a)に示すサイドゲートを設け、3種類のゲートサイズに変更できるようにした。第1のゲートサイズは3mm幅×1mm厚で、ゲート面積が3mm
2である。第2のゲートサイズは3mm幅×2mm厚で、ゲート面積が6mm
2である。第3のゲートサイズは6mm幅×3mm厚で、ゲート面積が18mm
2である。ここで、
図6(b-1)、
図6(b-2)は、それぞれ、第1のゲートサイズを有するゲートの概略正面図、概略断面図を示す。
図6(c-1)、
図6(c-2)は、それぞれ、第2のゲートサイズを有するゲートの概略正面図、概略断面図を示す。
図6(d-1)、
図6(d-2)は、それぞれ、第3のゲートサイズを有するゲートの概略正面図、概略断面図を示す。
【0052】
射出成形機のシリンダー温度を195℃、最大射出圧力1000kgf/cm2、保圧時間を40秒、冷却時間を20秒に設定し、フローフロントがゲートを通過した後の射出速度は90mm/sec~900mm/secであるように調整した。使用するゲート、設定した射出速度に関する条件、および、このときの溶融樹脂のフローフロントがゲート通過する速度を表1に示す。導電部材の作製の際には、バリが発生していないことを確認しながら行った。
【0053】
【0054】
〔成形性の評価方法〕
作製した導電部材は、目視で観察された。成形性の評価基準は、下記の通りにて実施した。
〇:目的の形状が作製できている
×:ショートショットになり、目的の形状が作製できていない
【0055】
〔体積抵抗率の測定方法〕
JIS K 7194に準拠し、三菱ケミカルアナリテック社製のロレスタGP、PSPプローブMCP-TP06P RMH112を用い、体積抵抗率が測定された。
図7に示すように、導電部材のゲートを中心とする半径3mmの半円C
A上の一点P
Aにプローブの中央がくるように体積抵抗率(A)が測定された。また、流動末端を中心とする半径3mmの半円C
B上の一点P
Bにプローブの中央がくるように体積抵抗率(B)が測定された。また、A/Bが算出され、導電部材の体積抵抗率として平均((A+B)/2)が求められた。
【0056】
〔印刷試験方法〕
作製した導電部材の中央の開口部に、液体吐出部10の吐出口周辺領域2が位置するように設置した。カラーでグラデーション配色され、線の間隔が3mmの格子のA4サイズの図面を印刷物として用い、用紙を100枚印刷した後1分間停止するのを1サイクルとし、10サイクル後の印刷物および吐出口を目視にて観察した。
印刷物の評価基準は、下記の通りにて実施した。
◎:印刷物に滲みが全くない
〇:印刷物に滲みが1~3箇所確認される
×:印刷物に滲みが4箇所以上確認される
吐出口の評価基準は、下記の通りに実施した。
◎:吐出口およびその周辺に付着物が全くない
〇:吐出口およびその周辺に付着物が1~3箇所確認される
×:吐出口およびその周辺に付着物が4箇所以上確認される
【0057】
また、液体吐出部10には導電部材は用いず、停止時に液体吐出部10と対向する位置にある支持部20の液体吐出部10に面する支持面5に、作製した導電部材を用い、上記同様の印刷試験を実施した。
【0058】
さらに、作製した導電部材の中央の開口部に、液体吐出部10の吐出口周辺領域2が位置するように設置し,停止時に液体吐出部10と対向する位置にある支持部20の液体吐出部10に面する支持面5に、作製した導電部材を用い、上記同様の印刷試験を実施した。
【0059】
〔実施例1~8、比較例1~3〕
表2に示す導電性カーボンブラック質量部のポリアセタール樹脂組成物を用い、表2に示す樹脂速度条件にて導電部材が作製された。得られた導電部材の成形性は上記の方法で評価され、体積抵抗率が上記の方法で測定された。表2はその結果を示す。また、印刷試験が上記の方法で実施された。表3はその結果を示す。
【0060】
【0061】
【0062】
〔実施例1と比較例1〕〔実施例5~7〕
ゲート面積が同一のとき、射出速度が速い方が、A/Bが大きいことが分かった。
【0063】
〔実施例2~4〕〔実施例8と比較例2〕
射出速度が同一のとき、ゲート面積が小さい方が、A/Bが大きいことが分かった。
【0064】
〔実施例1、3、7、8と比較例3〕
樹脂速度条件が同一のとき、導電性カーボンブラック(導電性フィラー)の量が少ない方が、A/Bが大きいことが分かった。
【0065】
比較例3は、ショートショットになり、目的の形状が作製できなかった。そのため、印刷試験は実施されなかった。
【0066】
これらの評価結果より、本実施形態が規定するカーボンブラックの質量部、体積抵抗率、ゲートを中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率(A)と流動末端を中心として半径3mmの箇所の体積抵抗率(B)の比A/Bにすることにより、印刷物の滲みおよび吐出口の付着物が低減でき、高品質な印刷物を作成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示の液体吐出装置は、滲みのない印刷物を作製できるのを可能とし、用紙用、衣類のデザイン用、印字用のインクジェットプリンタ装置等に適用される。
【符号の説明】
【0068】
1 液体吐出部本体
2 吐出口周辺領域
3 対向面
4 支持部本体
5 支持面
10 液体吐出部
20 支持部
101~114 バレルゾーン
115 ダイヘッド
116 押出機モーター
117 トップ部の定量フィーダー
118 サイド部の定量フィーダー
119 脱気ベント