IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オーク製作所の特許一覧

特許7507615放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法
<>
  • 特許-放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法 図1
  • 特許-放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法 図2
  • 特許-放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法 図3
  • 特許-放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法 図4
  • 特許-放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法 図5
  • 特許-放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】放電ランプおよび放電ランプ用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/06 20060101AFI20240621BHJP
   H01J 61/073 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01J61/06 Z
H01J61/073 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020106865
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022002187
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-04-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-133994(JP,A)
【文献】特開2008-218071(JP,A)
【文献】国際公開第2015/059589(WO,A1)
【文献】特開2008-186790(JP,A)
【文献】特開2019-096860(JP,A)
【文献】特開2018-019055(JP,A)
【文献】国際公開第2006/002157(WO,A1)
【文献】特開2009-211916(JP,A)
【文献】特開2013-004397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0211379(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/06
H01J 61/073
H01J 1/02
H01J 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と、
前記放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極において、内部空間が形成され、
前記内部空間には、単結晶炭化ケイ素から成る複数の伝熱部材と、単結晶炭化ケイ素以外の素材から成り、電極軸垂直方向に関して前記伝熱部材を挟むように配置される複数の付随部材とが設けられ、
前記複数の伝熱部材と複数の付随部材とが、交互に配置されていることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記伝熱部材と前記付随部材との間の熱膨張係数の差が、1.0×10 -6 /K以下であることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記伝熱部材が板状であって、
前記伝熱部材の厚さが、330μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
凹部を形成した第1の部材と、前記第1の部材と同じ素材から成る第2の部材とを形成し、
単結晶炭化ケイ素から成る伝熱部材、あるいは前記伝熱部材と単結晶炭化ケイ素以外の素材から成る付随部材とを含む第3の部材とを形成し、
前記伝熱部材または前記第3の部材を、前記第1の部材の凹部に配置し、
前記第1の部材、前記第2の部材、前記伝熱部材または前記第3の部材とを固相接合することを特徴とする放電ランプ用電極の製造方法。
【請求項5】
複数の伝熱部材と、複数の付随部材とを交互に配置し、固相接合することによって、前記第3の部材を形成することを特徴とする請求項4に記載の放電ランプ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極を備えた放電ランプに関し、特に、電極の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプは、点灯中に電極先端部が高温となり、タングステンなどの電極材料が溶融、蒸発し、放電管が黒化してランプ照度低下を招く。電極先端部の過熱を防ぐため、異なる材料を接合した接合電極が知られている。例えば、タングステンから成る電極本体に対し、熱伝導性のより高いセラミックスなどの材料を後端側(電極支持棒側)に接合させ、放熱性を高めている(特許文献1参照)。
【0003】
また、タングステンなどを主成分とする電極先端部の後端側に、電極先端部よりも低密度の材料から成る電極胴体部を接合する接合電極も知られている(特許文献2参照)。そこでは、電極先端部に対し、モリブデン、ニオブなどの焼結体を接合し、さらにその後端側に、炭化ケイ素の焼結体を接合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-211916号公報
【文献】特開2013-4397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
異種材料の部材をその端面同士で接合し、電極を構成する場合、その接合面は電極端面にまで渡ることから、セラミックスなどの部材とタングステンなどの部材とを接合すると、熱膨張率の違いによる力が接合面全体にかかり、接合剥がれの恐れがある。
【0006】
したがって、接合剥がれを抑えながら、より放熱性を向上させた電極構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放電ランプは、放電管と、放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、少なくとも一方の電極において、内部空間が形成され、内部空間には、単結晶炭化ケイ素から成る伝熱部材が設けられている。例えば、伝熱部材は、電極軸に沿って延び、その内部を電極軸が通るように配置することが可能である。
【0008】
伝熱部材は、内部空間の電極軸垂直方向に沿った先端側底面および電極支持棒側底面と接するように構成することができる。ここでの「接する」には、固相接合などの接合や、接触が含まれる。
【0009】
例えば、内部空間には、単結晶炭化ケイ素以外の素材から成り、電極軸垂直方向に関して伝熱部材を挟むように配置される部材(ここでは、付随部材という)を設けることができる。例えば、板状の伝熱部材を付随部材で挟みこみ、あるいは、柱状の伝熱部材を同心円状に覆う付随部材を設けることが可能である。
【0010】
複数の伝熱部材を設ける場合、複数の伝熱部材と複数の付随部材とを、交互に配置することが可能である。例えば、板状の伝熱部材と付随部材とを列状に交互に配置し、また、同心円状に筒状の伝熱部材と付随部材を交互に配置することも可能である。
【0011】
伝熱部材と付随部材との間の熱膨張係数の差が、1.0×10-6/K以下となるように、伝熱部材と付随部材を構成するのがよい。また、板状の伝熱部材の場合、伝熱部材の厚さが、330μm以上にすればよい。
【0012】
本発明の一態様である放電ランプ用電極の製造方法は、凹部を形成した第1の部材と、第1の部材と同じ素材から成る第2の部材とを形成し、単結晶炭化ケイ素から成る伝熱部材、あるいは伝熱部材と単結晶炭化ケイ素以外の素材から成る付随部材とを含む第3の部材とを形成し、伝熱部材または第3の部材を、第1の部材の凹部に配置し、第1の部材、第2の部材、伝熱部材または第3の部材とを固相接合する。
【0013】
例えば、複数の伝熱部材と、複数の付随部材とを交互に配置し、固相接合することによって、第3の部材を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放電ランプにおいて、接合剥がれを抑えながら、より放熱性を向上させた電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態である放電ランプの平面図である。
図2】電極の電極軸方向に沿った概略的断面図である。
図3】電極の径方向に沿った概略的断面図である。
図4】第2の実施形態である電極の電極軸方向に沿った概略的断面図である。
図5】第2の実施形態である電極の径方向に沿った断面図である。
図6】第2の実施形態の伝熱部材の製造方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0017】
ショートアーク型放電ランプ10は、高輝度の光を出力可能な大型放電ランプであり、透明な石英ガラス製の略球状放電管(発光管)12を備え、放電管12内には、タングステン製の一対の電極20、30が対向配置される。放電管12の両側には、石英ガラス製の封止管13A、13Bが放電管12と連設し、一体的に形成されている。放電管12内の放電空間DSには、水銀とハロゲンやアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。
【0018】
陰極である電極20は、電極支持棒17Aによって支持されている。封止管13Aには、電極支持棒17Aが挿通されるガラス管(図示せず)と、外部電源と接続するリード棒15Aと、電極支持棒17Aとリード棒15Aを接続する金属箔16Aなどが封止されている。陽極である電極30についても同様に、電極支持棒17Bが挿通されるガラス管(図示せず)、金属箔16B、リード棒15Bなどのマウント部品が封止されている。また、封止管13A、13Bの端部には、口金19A、19Bがそれぞれ取り付けられている。
【0019】
一対の電極20、30に電圧が印加されると、電極20、30との間でアーク放電が発生し、放電管12の外部に向けて光が放射される。ここでは、1kW以上の電力が投入される。放電管12から放射された光は、反射鏡(図示せず)によって所定方向へ導かれる。例えば露光装置に放電ランプ10が組み込まれた場合、放射光はパターン光となって基板などに照射される。
【0020】
図2は、電極30の電極軸方向に沿った概略的断面図である。図3は、図2のラインIII―IIIに沿った概略的断面図である。
【0021】
電極30は、電極先端面30Sを有するテーパー状の電極先端部42と、柱状の電極胴体部44から構成され、電極支持棒17Bが電極軸Eに対して同軸的に接続されている。電極30は、ここではタングステンやモリブデンなどの金属によって構成される。
【0022】
電極30の電極胴体部44には、内部空間50が形成されている。内部空間50は、電極軸Eに対して同軸的である。ここでは、内部空間50が筒状空間として形成され、また、密閉空間として形成されている。
【0023】
内部空間50には、伝熱部材60が設けられている。伝熱部材60は、電極軸Eに沿って延び、ここでは断面矩形の板状に形成され、その中心が電極軸Eと一致するように内部空間50に配置されている。なお、伝熱部材60は板状に限定されず、内部空間50に対して同軸的に配置可能な形状(例えば円柱状)にすればよい。あるいは、電極軸Eを通る配置であってもよい。
【0024】
伝熱部材60は、単結晶炭化ケイ素(SiC)で組成された成形体で構成されている。単結晶炭化ケイ素(SiC)は、タングステン、モリブデンなどの電極30の素材よりも熱伝導率が大きく、また、多結晶炭化ケイ素よりも熱伝導率が高い。伝熱部材60の厚さT0は、クラック発生を抑制するため、330μm以上に定められている。
【0025】
伝熱部材60は、内部空間50の側面、すなわち電極30内の電極軸に沿った内表面50Sと接しておらず、内表面50Sとの間に隙間が形成されている。一方、電極軸方向に関しては、伝熱部材60が内部空間50の両底面と接合している。すなわち、伝熱部材60の電極支持棒側端面60T1は、電極内の電極軸垂直方向に沿った内表面50T1と接続し、伝熱部材60の電極先端側端面60T2は、反対側(電極先端側)の内表面50T2と接続している。
【0026】
単結晶炭化ケイ素は、熱膨張率などに関してタングステンなどの電極30の素材と一致しない異種材のため、ランプ点灯中、熱膨張率の違いによって接合部分が剥がれる可能性がないわけではない。しかしながら、本実施形態では、タングステンなどから成る同一素材で電極30が構成される一方、熱伝導性のより高い単結晶炭化ケイ素から成る伝熱部材60を、内部空間50に設けている。
【0027】
従来のような、タングステンなどの部材と炭化ケイ素などから成る部材とをその端面同士で接合する電極構造とは異なり、炭化ケイ素とタングステンなどの電極部材との接合部分が電極外表面に露出せず、部材間の端面全体に渡って接合していない。そのため、接合時のエネルギーが集中し、接合の剥がれを抑制することができる。
【0028】
そして、電極軸Eに沿って延びる熱伝導性の高い伝熱部材60が、電極先端側と電極支持棒側を繋ぐように電極内部で接合することによって、電極先端側の熱を電極支持棒側へ効果的に輸送することができる。また、多結晶の炭化ケイ素よりも熱伝導率が高い単結晶で伝熱部材60を組成するため、より効果的に熱を輸送することができる。
【0029】
伝熱部材60が電極軸Eを通るように内部空間50に対して同軸的に配置することにより、例えばコストなどの制約から内部空間50に対してサイズの小さい伝熱部材60を用意する場合であっても、電極先端側から電極支持棒側へ効率よく熱を伝達することができる。
【0030】
単結晶炭化ケイ素は、多結晶炭化ケイ素と比べて接合強度が劣り、接合部分の剥がれが生じやすい。しかしながら、伝熱部材60が内部空間50において接合しているため、仮に伝熱部材60と電極30との間に接合剥がれが生じたとしても、落下の恐れがない。
【0031】
また、単結晶炭化ケイ素の熱膨張係数(約4.6×10-6/K)は、多結晶炭化ケイ素の熱膨張係数(約4.0×10-6/K)と比べ、タングステン、モリブデンの熱膨張係数との差が小さい。そのため、点灯時に伝熱部材60の熱膨張があっても、電極30の電極先端部42と胴体部44との接合部分に大きな力が掛かるのを抑制することができる。
【0032】
このような内部空間50に伝熱部材60を設けた電極30は、以下のように製造することができる。まず、凹部を設けた電極胴体部となる部材(第1の部材)と、電極先端部となる部材(第2の部材)とを形成し、伝熱部材を用意する。そして、伝熱部材を凹部に配置した後、所定の圧力、温度、加圧時間を設定して、第1の部材と第2の部材とを、固相接合する。例えば、SPSによって固相接合することができる。
【0033】
固相接合後、切削加工などの加工処理を施すことにより、所望のサイズ、形状をもつ電極が製造される。そして、電極製造後にマウント、封止など従来周知の方法によって放電ランプを製造することができる。なお、上記以外の方法で接合することも可能であり、電極胴体部と電極先端部との接合に限定されず、内部空間を形成するように電極を構成すればよく、インサート部材を介在させて電極を構成してもよい。内部空間は密閉空間を形成することに限定されず、例えば内部空間と通じる貫通孔を設けることも可能である。
【0034】
次に、図4~6を用いて、第2の実施形態である放電ランプ用電極について説明する。第2の実施形態では、伝熱部材を単体で内部空間に配置する代わりに、電極と同じ素材と伝熱部材とを接合させた部材を内部空間に設けている。
【0035】
図4は、第2の実施形態である放電ランプの電極の概略的断面図である。図5は、図4のラインV-Vに沿った電極の概略的断面図である。
【0036】
電極130は、第1の実施形態と同様、電極先端部42、電極胴体部44から構成され、電極内部には内部空間50が形成されている。そして、内部空間50には、複数の伝熱部材60A~60Cと、電極と同じ素材から成る複数の部材(以下、付随部材という)とによって構成される柱状部材160が設けられ、電極130と内部空間50で接合している。
【0037】
柱状部材160は、伝熱部材60A~60Cと付随部材70A~70Dが交互に並んで接する一体的構造になっている。伝熱部材60A、60B、60Cは、それぞれ、付随部材70Aと付随部材70B、付随部材70Bと付随部材70C、付随部材70Cと付随部材70Dとの間に挟まれている。
【0038】
このような柱状部材160を内部空間50に設けることにより、電極の熱容量を確保しながら、また、付随部材70A~70Dの素材が電極130と同じ素材(タングステン)であるため、電極内部における柱状部材160の接合が強固になる。さらに、伝熱部材60Bを電極軸Eが通るように配置することで、電極先端部42の熱を電極支持棒側へより効果的に伝達することができる。
【0039】
なお、付随部材70A~70Dの素材は電極130と同じ素材に限定されず、単結晶炭化ケイ素と熱膨張係数の差が所定値以下となるような素材を定めればよく、例えば、熱膨張係数の差が1.0×10-6/Kとなるように素材を定めればよい。これによって、電極130と柱状部材160とがより一体化した構造にすることができ、接合剥がれを抑制することができる。
【0040】
伝熱部材60A~60Cの厚さTは、いずれも330μm以上の同じ厚さに定められ、付随部材70A~70Dの厚さT1も、伝熱部材60A~60Cの厚さTと等しい。なお、伝熱部材60A~60Cの厚さTはすべて同一でなくもよく、電極軸Eが通る位置の伝熱部材を厚くしてもよく、付随部材70A~70Dの厚さも同様に揃えなくてもよい。
【0041】
図6は、柱状部材160の製造工程を示した図である。
【0042】
板状の単結晶炭化ケイ素から成る素材と板状のタングステンから成る素材とを交互に接するように配置し、SPSなどの固相接合を行う。そして、切削して柱状部材(第3の部材)を形成する。なお、柱状に成形することに限定されず、板状に切削してもよい。さらには、環状の伝熱部材と環状の付随部材と同心円状に交互に配置して接合する構成にすることも可能である。
【0043】
ここでは3つの伝熱部材を用いているが、3つ以上用いてもよく、1つの伝熱部材で両側に付随部材を配置する構成でもよい。また、伝熱部材と付随部材との間に他の素材から成るインサート部材を介在させてもよい。
【0044】
第1、第2の実施形態では、伝熱部材を内部空間で電極と接合する構成であるが、接合させずに接するだけの構成にしてもよい。また、電極先端側端面、電極支持棒側端面の一方にのみ接合、あるいは接するような構成にすることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 放電ランプ
30 陽極(電極)
50 内部空間
60 伝熱部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6