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特許7507621スピニング加工装置およびスピニング加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】スピニング加工装置およびスピニング加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/16 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
B21D22/16 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020116155
(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公開番号】P2022014029
(43)【公開日】2022-01-19
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳昭
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-070327(JP,A)
【文献】特開2014-094384(JP,A)
【文献】特開2001-025825(JP,A)
【文献】特開2003-136152(JP,A)
【文献】米国特許第05236115(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなし、中心軸から所定の長さの位置に位置する外周を有する大径部と、小径部と、を少なくとも有する母材を相対的に回転させた状態で、前記母材を加工することによりフランジ部を成形するフランジ成形部を備え、
前記フランジ成形部は、前記中心軸と直交する軸回りに回転可能なローラを有し、前記小径部の外周部に前記ローラを当接しつつ、前記ローラにより前記大径部を前記母材の中心軸方向に沿って押圧することにより、記大径部に縮径した縮径部を形成すると共に、前記縮径部を形成することにより生ずる体積の余り分を、前記中心軸から遠ざかる方向に向かって前記中心軸から前記所定の長さの位置よりも前記中心軸から遠ざかる位置まで突出させて、前記フランジ部を成形し、
前記大径部の前記加工前と前記加工後の壁厚及び前記小径部の前記加工前と前記加工後の壁厚の各々が一定に維持される、
スピニング加工装置。
【請求項2】
前記母材には、外径の大きさが前記中心軸方向に沿って一定の1次母材の状態と、前記大径部と前記小径部とを有する2次母材の状態とがあり、
前記母材は、前記1次母材の状態の後に、前記2次母材の状態になり、
前記2次母材で前記小径部となる前記1次母材の一部の外径を縮径させることにより、前記小径部を成形する小径部成形部を備える請求項1に記載のスピニング加工装置。
【請求項3】
前記小径部成形部は、前記中心軸と平行な軸回りに回転可能なローラを有する請求項に記載のスピニング加工装置。
【請求項4】
筒状をなし、中心軸から所定の長さの外周を有する大径部と、小径部と、を少なくとも有する母材に対して、前記中心軸と直交する軸回りに回転可能なローラを有するフランジ成形部が加工を施す加工工程を有し、
前記加工工程では、
前記母材を相対的に回転させた状態で、前記小径部の外周部に前記ローラを当接しつつ、前記ローラにより前記大径部を前記母材の中心軸方向に沿って押圧することにより、前記大径部に縮径した縮径部を形成すると共に前記縮径部を形成することにより生ずる体積の余り分を、前記中心軸から遠ざかる方向に向かって前記中心軸から前記所定の長さの位置よりも前記中心軸から遠ざかる位置まで突出させて、フランジ部を成形し、
前記大径部の前記加工前と前記加工後の壁厚及び前記小径部の前記加工前と前記加工後の壁厚の各々が一定に維持される、
スピニング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニング加工装置およびスピニング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用部品には、例えば、シャフトがある。シャフトは、円筒状の母材を加工することにより得られる場合がある。
特許文献1には、円筒状の母材(ワーク)を薄肉加工するスピニング加工装置が開示されている。このスピニング加工装置は、母材の外周壁部をしごきによって薄くする回転ローラを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-115813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、薄肉加工された部材をシャフトに用いようとする場合、当該部材は、薄肉された分、強度(変形抵抗)が低下して、実際の使用環境下に耐え得るのが困難となるおそれがある。
【0005】
また、シャフトには、フランジ部を有するものがある。円筒状の母材を加工して、フランジ部を成形する場合にも、フランジ部の隣接部分が薄肉にすることが知られており、強度低下の原因となっていた。
【0006】
本発明の目的は、筒状をなす母材にフランジ部を成形する際、母材の壁厚を維持したまま、フランジ部を容易に成形することができるスピニング加工装置およびスピニング加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスピニング加工装置の一つの態様は、筒状をなし、中心軸から所定の長さの位置に位置する外周を有する大径部と、小径部と、を少なくとも有する母材を相対的に回転させた状態で、前記母材を加工することによりフランジ部を成形するフランジ成形部を備え、
前記フランジ成形部は、前記中心軸と直交する軸回りに回転可能なローラを有し、前記小径部の外周部に前記ローラを当接しつつ、前記ローラにより前記大径部を前記母材の中心軸方向に沿って押圧することにより、前記大径部に縮径した縮径部を形成すると共に前記縮径部を形成することにより生ずる体積の余り分を、前記中心軸から遠ざかる方向に向かって前記中心軸から前記所定の長さの位置よりも前記中心軸から遠ざかる位置まで突出させて、前記フランジ部を成形し、
前記大径部の前記加工前と前記加工後の壁厚及び前記小径部の前記加工前と前記加工後の壁厚の各々が一定に維持される。
【0008】
本発明のスピニング加工方法の一つの態様は筒状をなし、中心軸から所定の長さの外周を有する大径部と、小径部と、を少なくとも有する母材に対して、前記中心軸と直交する軸回りに回転可能なローラを有するフランジ成形部が加工を施す加工工程を有し、
前記加工工程では、
前記母材を相対的に回転させた状態で、前記小径部の外周部に前記ローラを当接しつつ、前記ローラにより前記大径部を前記母材の中心軸方向に沿って押圧することにより、前記大径部に縮径した縮径部を形成すると共に前記縮径部を形成することにより生ずる体積の余り分を、前記中心軸から遠ざかる方向に向かって前記中心軸から前記所定の長さの位置よりも前記中心軸から遠ざかる位置まで突出させて、フランジ部を成形し、
前記大径部の前記加工前と前記加工後の壁厚及び前記小径部の前記加工前と前記加工後の壁厚の各々が一定に維持される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フランジ部を成形する際、大径部を母材の中心軸方向に沿って押圧して変形させる。これにより、大径部は、一部が潰されて縮径して縮径部となる。また、大径部の一部が縮径部となると、その分、大径部では、体積の余り分が生じる。この余り分は、母材の中心軸から遠ざかる方向に向かって隆起して変形し、フランジ部となる。
【0010】
また、前述したように、母材は、大径部が母材の中心軸に沿って押圧される。このような押圧は、母材の壁厚を増やすか、もしくは、ほとんど同じとすることを可能とする。これにより、母材から得られる成形品での壁厚は、できる限り減少されずに、母材での壁厚の大きさのまま一定に近い状態に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のスピニング加工装置(第1実施形態)の作動状態(小径部成形前)を順に示す部分垂直断面側面図(小径部成形工程前)である。
図2】本発明のスピニング加工装置(第1実施形態)の作動状態(小径部成形中)を順に示す部分垂直断面側面図である。
図3】本発明のスピニング加工装置(第1実施形態)の作動状態(フランジ部成形前)を順に示す部分垂直断面側面図である。
図4】本発明のスピニング加工装置の(第1実施形態)作動状態(フランジ部成形中)を順に示す部分垂直断面側面図である。
図5図2中の二点鎖線で囲まれた領域[A]の拡大図である。
図6図4中の二点鎖線で囲まれた領域[B]の拡大図である。
図7】本発明のスピニング加工装置(第1実施形態)の主要部を示すブロック図である。
図8】本発明のスピニング加工方法が有する工程を順に示す図である。
図9】本発明のスピニング加工装置(第2実施形態)の作動状態(小径部成形中)を順に示す部分垂直断面図である。
図10】本発明のスピニング加工装置の(第2実施形態)作動状態(フランジ部成形中)を順に示す部分垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のスピニング加工装置およびスピニング加工方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
以下、図1図8を参照して、本発明のスピニング加工装置およびスピニング加工方法の第1実施形態について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、互いに直交する3軸をX軸、Y軸およびZ軸を設定する。一例として、X軸とY軸を含むXY平面が水平となっており、Z軸が鉛直となっている。また、図1図6中(図9図10についても同様)の上側を「上(または上方)」、下側を「下(または下方)」と言うことがある。
【0013】
図1図4に示すように、スピニング加工装置1は、回転支持部2と、加工部3と、第1移動機構部4と、第2移動機構部5とを備える。スピニング加工装置1は、母材9を成形して、その母材9から成形品9Cを得ることができる。そして、成形品9Cは、例えば、シャフトとして用いられる。
また、図7に示すように、スピニング加工装置1は、回転支持部2、第1移動機構部4および第2移動機構部5と電気的に接続された制御部8を備える。
【0014】
図8に示すように、スピニング加工装置1は、本発明のスピニング加工方法、すなわち、回転工程と、加工工程とを順に実行することができる。また、加工工程では、第1成形工程(小径部成形工程)と、第2成形工程(フランジ部成形工程)とが順に実行される。
【0015】
母材9は、本実施形態では円筒状(円管状)をなす部材である。なお、母材9は、筒状であれば、円筒状をなす部材に限定されない。また、母材9は、例えば、機械構造用炭素鋼、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料で構成される。
【0016】
母材9には、図1に示す1次母材9Aの状態と、図2図3に示す2次母材9Bの状態とがある。そして、母材9は、1次母材9Aの状態から、2次母材9Bの状態を経て、図4に示す成形品9Cとなる。成形品9Cは、シャフトとして使用される。
【0017】
1次母材9Aは、外径および内径の大きさが中心軸O9方向に沿って一定となっている。従って、母材9の壁厚(壁部の厚さ)t9、すなわち、外径から内径を減じた大きさ(値)も中心軸O9方向に沿って一定となる。後述するように、壁厚t9は、成形品9Cとなるまでそのまま一定に維持される。なお、この「一定」については、後述で定義する。
【0018】
2次母材9Bは、中心軸O9方向に隣り合って配置された大径部91と小径部92とを有する。大径部91と小径部92とは、外径および内径の大きさが互いに異なる。なお、大径部91と小径部92との外径の半径差は、特に限定されないが、例えば、壁厚t9以上が好ましく、壁厚t9の1倍以上2倍以下がより好ましい(内径の差についても同様)。これにより、例えば、第2成形工程でのフランジ部93の成形が容易となる。また、2次母材9Bが成形品9Cとなるまでの壁厚t9の一定化に寄与する。
【0019】
回転支持部2は、加工部3と母材9とを相対的に中心軸O9回りに回転可能に支持することができる。これにより、回転工程が行われる。本実施形態では、回転支持部2は、加工部3に対して母材9を中心軸O9回りに回転させるよう構成されている。
【0020】
図1図4に示すように、回転支持部2は、チャック21と、モータ23とを有する。
チャック21は、母材9の一端側、すなわち、X軸方向正側を保持する。これにより、母材9は、中心軸O9がX軸と平行な姿勢で片持ち支持される。
【0021】
モータ23は、チャック21と連結されている。モータ23が作動することにより、その動力がチャック21に伝達される。これにより、母材9を中心軸O9回りに回転させることができる。なお、スピニング加工装置1では、モータ23に対する印加電圧を調整することにより、モータ23の回転数を変更することができる。
【0022】
加工部3は、母材9に対して塑性加工を施すことができる。これにより、加工工程が行われる。加工部3は、第1成形部6と、第2成形部7とを備える。
第1成形部6は、第1成形工程で用いられ、1次母材9Aに小径部92を成形する小径部成形部である。第1成形工程では、2次母材9Bが得られる。
【0023】
第2成形部7は、第2成形工程で用いられ、2次母材9Bにフランジ部93を成形するフランジ成形部である。第2成形工程では、成形品9Cが得られる。
なお、第1成形部6および第2成形部7の構成については、後述する。
【0024】
図1図2に示すように、第1移動機構部4は、第1成形部6をX軸方向(水平方向)とZ軸方向(鉛直方向)とにそれぞれ独立して移動させる機構である。第1移動機構部4の構成としては、特に限定されず、例えば、直動部41と、モータ42とを有する構成とすることができる。
【0025】
直動部41は、第1成形部6と連結され、第1成形部6を所定の方向に沿って直進移動させる部分であり、例えば、リニアガイド、ボールねじ等で構成される。
モータ42は、直動部41と連結されている。モータ42が作動することにより、その動力が直動部41を介して第1成形部6に伝達される。これにより、第1成形部6を移動させることができる。なお、スピニング加工装置1では、モータ42に対する印加電圧を調整することにより、モータ42の回転数を変更して、第1成形部6の移動速度を変更することができる。
【0026】
図3図4に示すように、第2移動機構部5は、第2成形部7をX軸方向(水平方向)とZ軸方向(鉛直方向)とにそれぞれ独立して移動させる機構である。第2移動機構部5の構成としては、特に限定されず、例えば、直動部51と、モータ52とを有する構成とすることができる。
【0027】
直動部51は、第2成形部7と連結され、第2成形部7を所定の方向に沿って直進移動させる部分であり、例えば、リニアガイド、ボールねじ等で構成される。
モータ52は、直動部51と連結されている。モータ52が作動することにより、その動力が直動部51を介して第2成形部7に伝達される。これにより、第2成形部7を移動させることができる。なお、スピニング加工装置1では、モータ52に対する印加電圧を調整することにより、モータ52の回転数を変更して、第2成形部7の移動速度を変更することができる。
【0028】
図7に示すように、制御部8は、回転支持部2、第1移動機構部4および第2移動機構部5と電気的に接続されており、これらの作動を制御することができる。制御部8は、CPU81と、記憶部82とを有する。CPU81は、例えば、記憶部82に予め記憶されている制御プログラムを実行することができる。制御プログラムには、例えば、回転支持部2、第1移動機構部4および第2移動機構部5の作動条件(作動タイミング)を制御して、母材9を成形品9Cに成形するためのプログラム等が含まれる。
【0029】
前述したように、加工部3は、第1成形部6と、第2成形部7とを備える。第1成形部6は、第1成形工程で1次母材9Aに小径部92を成形する小径部成形部である。第2成形部7は、第2成形工程で2次母材9Bにフランジ部93を成形するフランジ成形部である。
【0030】
図1図2に示すように、第1成形部6は、第1ローラ(ローラ)61と、第1ローラ61を回動可能に支持する第1回動支持部62とを有する。本実施形態では、第1ローラ61と第1回動支持部62との組が上下に2組配置されている。これにより、小径部92を安定して迅速に成形することができる。
【0031】
なお、第1ローラ61と第1回動支持部62との組数については、2組に限定されず、例えば、1組または3組以上であってもよい。また、各組は、配置箇所が異なること以外は、同じ構成であるため、下側の1組の構成について、代表的に説明する。
【0032】
第1回動支持部62は、基部621と、軸部材622とを有する。
基部621は、第1移動機構部4の直動部41に連結されている。
軸部材622は、1次母材9Aの中心軸O9、すなわち、X軸と平行な円柱状をなし、基部621に片持ち支持されている。また、軸部材622は、第1ローラ61の中心部に連結されている。
【0033】
第1ローラ61は、円盤状をなし、その中心軸がX軸と平行となって配置されている。第1ローラ61は、外径一定部611と、突出部612とを有する。
外径一定部611は、第1ローラ61の外径がX軸方向に沿って一定の部分である。
【0034】
外径一定部611に対してX軸方向正側には、突出部612が隣り合って配置けられている。突出部612は、第1ローラ61の中心軸から遠ざかる方向に向かって、すなわち、外方に向かって突出し、第1ローラ61の外周部に沿ってリング状に設けられている。
【0035】
この突出部612の頂部613は、丸みを帯びており、その半径R613(図5参照)は、特に限定されないが、例えば、壁厚t9以上が好ましく、壁厚t9の1倍以上3倍以下がより好ましい。これにより、大径部91と小径部92との外径の半径差を前記の数値範囲とすることができる。また、頂部613での外径が第1ローラ61の最大外径となる。
【0036】
1次母材9Aに小径部92を成形する際には、まず、図1に示すように、第1ローラ61が1次母材9AからX軸方向負側に離間した状態とする。そして、回転支持部2を作動させて、1次母材9Aを回転させた状態とする。この回転状態は、小径部92の成形が完了するまで維持される。
【0037】
次いで、図2に示すように、第1ローラ61を1次母材9Aに接近させる。そして、突出部612の頂部613を1次母材9Aの外周部に当接させて中心軸O9方向(X軸方向)に沿って移動させつつ、頂部613で当該外周部を中心軸O9側に向かって押圧する。これにより、2次母材9Bで小径部92となる1次母材9Aの他端部、すなわち、X軸方向負側の端部(一部)の外径および内径を一括して縮径変形させることができる(図5参照)。この変形により、小径部92を成形することができ、2次母材9Bが得られる。その後、第1成形部6を2次母材9Bから退避させる。
なお、図5に示すように、1次母材9Aの外周部は、大径部91と小径部92との間の部分(段差部)94が頂部613の形状にならって丸みを帯びる。
【0038】
また、前述のように1次母材9Aの外径および内径が一括して縮径するため、2次母材9Bでの壁厚t9は、1次母材9Aでの壁厚t9の大きさのまま一定に維持される。ここで「一定」とは、成形後の壁厚t9が成形前の壁厚t9の60%以上120%以下の範囲内であることを言う(以降同様)。
【0039】
前述したように、第1ローラ61は、中心軸O9と平行な軸回りに回転可能に支持されている。小径部92は、中心軸O9と平行に成形されるため、第1ローラ61も、中心軸O9と平行な軸回りに回転するのが好ましい。なお、第1ローラ61の回転軸は、第1ローラ61が機能を発揮可能な範囲内で、中心軸O9と平行な軸に対して所定角度傾斜していてもよい。
【0040】
また、第1ローラ61は、アイドルローラである。これにより、第1ローラ61の突出部612を1次母材9Aの外周部に当接させた際に、第1ローラ61は、1次母材9Aの回転に追従して、すなわち、同期して無理なく回転することができ、よって、小径部92の成形を正確に行うことができる。
【0041】
第1ローラ61の直径(最大外径)は、特に限定されないが、例えば、1次母材9A(大径部91)の外径の1倍以上10倍以下であるのが好ましく、4倍以上8倍以下であるのがより好ましい。これにより、突出部612の頂部613で1次母材9Aの外周部を中心軸O9側に向かって過不足なく押圧することができ、迅速な小径部92の成形に寄与する。
【0042】
図3図4に示すように、第2成形部7は、第2ローラ(ローラ)71と、第2ローラ71を回動可能に支持する第2回動支持部72とを有する。本実施形態では、第2ローラ71と第2回動支持部72との組が上下に2組配置されている。これにより、フランジ部93を安定して迅速に成形することができる。
【0043】
なお、第2ローラ71と第2回動支持部72との組数については、2組に限定されず、例えば、1組または3組以上であってもよい。また、各組は、配置箇所が異なること以外は、同じ構成であるため、下側の1組の構成について、代表的に説明する。
【0044】
第2回動支持部72は、基部721と、軸部材722とを有する。
基部721は、第2移動機構部5の直動部51に連結されている。
軸部材722は、Z軸と平行な円柱状をなし、基部721に片持ち支持されている。また、軸部材722は、第2ローラ71の中心部に連結されている。
【0045】
第2ローラ71は、円盤状をなし、その中心軸がZ軸と平行となって配置されている。第2ローラ71は、外径一定部711と、凸湾曲部712と、テーパ部713とを有する。
【0046】
外径一定部711は、第2ローラ71の外径がZ軸方向に沿って一定の部分である。この外径一定部711での外径が第2ローラ71の最大外径となる。
【0047】
外径一定部711の上側には、凸湾曲部712が配置されている。凸湾曲部712は、丸みを帯びて張り出しており、その半径R712(図6参照)は、特に限定されないが、例えば、頂部613の半径R613と同じが好ましい。これにより、後述のように凸湾曲部712で大径部91を中心軸O9方向に沿って押圧した際、大径部91と小径部92との間の丸みを帯びた部分94が不本意に変形してしまい、フランジ部93の成形を阻害するのを防止することができる。
【0048】
外径一定部711と凸湾曲部712との間には、それぞれ、テーパ部713が配置されている。図6に示すように、各テーパ部713は、第2ローラ71の外径が外径一定部711側に向かって漸増した部分である。なお、図6中の二点鎖線で描いた部分は、図5の状態を仮想して重ねて示している。
【0049】
2次母材9Bにフランジ部93を成形する際には、まず、図3に示すように、第2ローラ71が2次母材9BからX軸方向負側に離間した状態とする。そして、回転支持部2を作動させて、2次母材9Bを回転させた状態とする。この回転状態は、フランジ部93の成形が完了するまで維持される。
【0050】
次いで、図4に示すように、第2ローラ71を2次母材9Bに接近させる。そして、第2ローラ71を小径部92の外周部に当接させて中心軸O9方向(X軸方向)に沿って移動させつつ、凸湾曲部712で大径部91を中心軸O9方向に沿って、すなわち、X軸方向正側に向かって押圧する。これにより、大径部91は、一部が潰されて縮径して縮径部92となる。また、大径部91の一部が縮径部92となると、その分、大径部91では、体積の余り分が生じる。この余り分は、中心軸O9から遠ざかる方向に向かって隆起して変形することとなる。そして、この隆起した部分は、外径一定部711とテーパ部713とに到達して、フランジ部93としての形状に整えられる(図6参照)。これにより、大径部91の小径部92との境界部、すなわち、大径部91と小径部92との間にフランジ部93を成形することができ、成形品9Cが得られる。その後、第2成形部7を成形品9Cから退避させる。
【0051】
また、前記のように2次母材9Bは、大径部91がX軸方向正側に向かって押圧される。このような押圧は、壁厚t9が減少する(変化する)のを可能とする。これにより、2次母材9Bから得られる成形品9Cでの壁厚t9は、できる限り減少されずに、2次母材9Bでの壁厚t9の大きさのまま一定に維持される。ここで「一定」とは、前記と同様である。
【0052】
以上のように、スピニング加工装置1(スピニング加工方法)によれば、母材9にフランジ部93を成形する際、母材9の壁厚t9を維持したまま、フランジ部93を容易に成形することができる。これにより、成形品9Cは、壁厚t9が減少することによる強度(機械的強度)の低下が防止され、よって、シャフトとして使用される実際の使用環境下に十分に耐え得る。
【0053】
前述したように、第2ローラ71は、中心軸O9と直交する軸、すなわち、Z軸回りに回転可能に支持されている。第2ローラ71の凸湾曲部712で押圧される2次母材9Bの部分(大径部91の一部)は、Z軸方向と平行となっているため、第2ローラ71は、その中心軸(回転軸)がZ軸と平行となっているのが好ましい。なお、第2ローラ71の回転軸は、第2ローラ71が機能を発揮可能な範囲内で、中心軸O9と直交する軸に対して所定角度傾斜していてもよい。
【0054】
また、第2ローラ71は、アイドルローラである。これにより、第2ローラ71を2次母材9Bの外周部に当接させた際に、第2ローラ71は、2次母材9Bの回転に追従して、すなわち、同期して無理なく回転することができ、よって、フランジ部93の成形を正確に行うことができる。
【0055】
第2ローラ71の凸湾曲部712での直径は、特に限定されないが、例えば、大径部91の外径の1倍以上10倍以下であるのが好ましく、4倍以上8倍以下であるのがより好ましい。これにより、凸湾曲部712で大径部91を過不足なく押圧することができ、迅速なフランジ部93の成形に寄与する。
【0056】
<第2実施形態>
以下、図9および図10を参照して本発明のスピニング加工装置およびスピニング加工方法の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、回転支持部2の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0057】
本実施形態では、回転支持部2は、切替機構(図示せず)によって、第1成形部6に接続された第1接続状態と、第2成形部7に接続された第2接続状態とを取り得る。
そして、第1接続状態では、図9に示すように、回転支持部2は、母材9を固定した状態とし、この母材9に対して第1成形部6を母材9(中心軸O9)回りに回転させることができる。なお、第1成形部6は、2つの第1ローラ61を有するが、図9では、1つの第1ローラ61が代表的に描かれている。
【0058】
また、第2接続状態では、図10に示すように、回転支持部2は、母材9を固定した状態とし、この母材9に対して第2成形部7を母材9(中心軸O9)回りに回転させることができる。なお、第2成形部7は、2つの第2ローラ71を有するが、図10では、1つの第2ローラ71が代表的に描かれている。
以上のような構成の回転支持部2によっても、回転工程を円滑に行うことができ、よって、母材9の成形を容易かつ正確に行うことができる。
【0059】
以上、本発明のスピニング加工装置およびスピニング加工方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、スピニング加工装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明のスピニング加工装置およびスピニング加工方法は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 スピニング加工装置
2 回転支持部
21 チャック
23 モータ
3 加工部
4 第1移動機構部
41 直動部
42 モータ
5 第2移動機構部
51 直動部
52 モータ
6 第1成形部
61 第1ローラ(ローラ)
611 外径一定部
612 突出部
613 頂部
62 第1回動支持部
621 基部
622 軸部材
7 第2成形部
71 第2ローラ(ローラ)
711 外径一定部
712 凸湾曲部
713 テーパ部
72 第2回動支持部
721 基部
722 軸部材
8 制御部
81 CPU
82 記憶部
9 母材
9A 1次母材
9B 2次母材
9C 成形品
91 大径部
92 小径部
93 フランジ部
94 部分(段差部)
O9 中心軸
R631 半径
R712 半径
t9 壁厚(壁部の厚さ)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10