IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立産機システムの特許一覧

特許7507631帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク
<>
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図1
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図2
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図3
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図4
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図5
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図6
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図7
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図8
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図9
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図10
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図11
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図12
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図13
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図14
  • 特許-帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/324 20140101AFI20240621BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240621BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C09D11/324
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020136901
(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公開番号】P2022032747
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】音羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達之介
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209316(JP,A)
【文献】特開2002-179965(JP,A)
【文献】特開2018-95750(JP,A)
【文献】特開2009-280766(JP,A)
【文献】特開2010-70759(JP,A)
【文献】特開2019-143095(JP,A)
【文献】特開昭63-295687(JP,A)
【文献】特開2004-307600(JP,A)
【文献】特開2004-315718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/324
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電剤と、
有機溶剤と、
樹脂と、
カーボンブラックを含む顔料と、
発光極大波長が400nm以上500nm以下の波長域にある蛍光材料と、を含むことを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項2】
請求項1に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
インクにおける蛍光材料の含有量は、0.1wt%以上1.0wt%以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記蛍光材料は、570nmにおける発光強度が、極大発光波長における発光強度の30%以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
波長400nm以上500nm以下の範囲内において、前記蛍光材料のインク中での吸光度が発光強度よりも小さいことを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記樹脂は、ベンゼン環を有するポリエステル樹脂を含むことを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項6】
請求項5に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記ポリエステル樹脂の酸価と水酸基価の合計が60mg(KOH)/g以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記ポリエステル樹脂は、べンゼン環を有するジカルボン酸又はジオールと、脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジオールと、を含むことを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記顔料の平均粒子径が0.02μm以上0.5μm以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記顔料の分散剤をさらに含み、
前記分散剤は、分子構造中に環状のエステル構造を有することを含むことを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項10】
請求項9に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記分散剤の添加量は、前記顔料に対して25wt%以上75wt%以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項11】
請求項9に記載の帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクにおいて、
前記分散剤の沸点は常圧で300℃以下であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ用インクであって、
前記有機溶剤は、水とは無限希釈しない溶媒であることを特徴とする帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
帯電制御方式のインクジェットプリンタは、立体的な形状の商品、製品に印字することが可能であることから、食品、電子部品等幅広い分野で、賞味期限、使用期限、製造番号等の印刷のために用いられている。
【0003】
帯電制御式のインクジェットプリンタ用インクは、樹脂、着色剤、溶剤、導電剤を含んいることが一般的である。これに印字ドットの形状を制御するためのレベリング剤等の添加剤を加えても良い。
【0004】
特許文献1には、水性顔料系インクに蛍光顔料を添加することにより、インクの彩度を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-130558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多くの電子部品は茶色、褐色、灰色等の黒系統、茶系統の色のものが多く、黒系統、茶系統の色の部品に印字しても十分な視認性を確保することも必要である。
【0007】
特許文献1では、電子部品等の黒系統、茶系統の基材に印字することが考慮されていない。また、蛍光顔料の種類によってはインクに添加しても印字が基材色と同系統の色を示してしまい、印字の視認性が改善しない場合もある。
【0008】
そこで、本発明では、電子部品などの黒系統、茶系統の基材に印字した際に視認性の高い印字を形成可能なインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る帯電制御方式のインクジェットプリンタ用インクは、導電剤と、有機溶剤と、樹脂と、カーボンブラックを含む顔料と、発光極大波長が400nm以上500nm以下の波長域にある蛍光材料と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、電子部品などの黒系統、茶系統の基材に印字した際に視認性の高い印字を形成可能なインクを供給することが可能である。
【0011】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】人間の視感度と波長との関係を示す図
図2】蛍光材料を含有しないインクで形成された印字ドットの反射光強度と化合物1の発光強度スペクトル
図3】化合物1を含有するインクで形成された印字ドットの光強度スペクトル
図4】化合物2の発光強度と吸光度のスペクトル
図5】化合物2の添加または無添加のインクの印字ドットの反射光強度スペクトル
図6】帯電制御方式インクジェットプリンタの印字プロセスの模式図
図7】化合物3の発光強度と吸光度のスペクトル
図8】実施例1に係るインクと比較例1に係るインクで形成された印字
図9】化合物3の添加または無添加のインクの印字ドットの反射光強度スペクトル
図10】化合物4の発光強度と吸光度のスペクトル
図11】化合物4の添加または無添加のインクの印字ドットの反射光強度スペクトル
図12】化合物5の発光強度と吸光度のスペクトル
図13】化合物5の添加または無添加のインクの印字ドットの反射光強度スペクトル
図14】化合物6の発光強度と吸光度のスペクトル
図15】化合物6の添加または無添加のインクの印字ドットの反射光強度スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
<インク>
インクは、樹脂、着色剤、有機溶剤、導電剤、を含む。これらの他に添加剤や分散剤などを含んでいても良い。これらをスターラーチップまたはオーバーヘッドスターラー等により攪拌し、お互いを相溶させ、インクが形成される。
【0015】
<樹脂>
樹脂は、主に印字の保持体としての役割を果たしている。すなわち、染料、顔料等の着色剤、その他の添加剤等を印字ドット中に保持する役割を果たす。実用上問題ないレベルの耐摩擦性、密着性等の確保の役割もある。また、樹脂としては、インクの溶剤に溶解する樹脂を用いることができる。
【0016】
視認性を向上するためには、樹脂としては、ベンゼン環を有しない樹脂を用いることが好ましい。ベンゼン環を有する樹脂は照射される光が350nm以下の場合、樹脂自身がこの光を一部吸収してしまい、発光量が減るおそれがあるためである。
【0017】
本発明の一実施形態に係るインクは、電子部品向けに製造番号等を印字するために用いることができる。電子部品への印字に用いられるインクは、印字後に半田付けするため半田ボールを融解する温度に耐える必要がある。印字ドットは概ね240℃以上260℃以下で2~3分間加熱を受ける。また、半田を接合させる基板は、はんだの濡れ性を向上させるフラックスをコートしておくが、はんだ付け後はエタノール、あるいは2-プロパノール等概ね沸点が100℃以下で低沸点アルコールで洗浄することによりフラックスを除去するので、印字にはアルコールに難溶であることも望まれている。そのため、電子部品に印字するインクは、印字後に240℃以上260℃以下のはんだリフローに耐え、且つ、その後のフラックス除去に用いるエタノールや2-プロパノール等のアルコールに溶解しないことが好ましい。
【0018】
我々の検討の結果、主鎖が炭化水素の樹脂、具体的にはアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂等を用いたインクの印字ドットは、エタノール、2-プロパノールに浸漬すると若干膨潤し、次第に剥離することが判った。
【0019】
これに対して、主鎖がジカルボン酸とジオールの縮合により形成されるポリエステルを用いたインクは、アルコールに浸漬しても剥離が認められなかった。特に、ポリエステルを形成するジカルボン酸がベンゼン環を有する場合、このポリエステルを含むインクは耐アルコール性が高いことが判った。ベンゼン環を有するジカルボン酸の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。また、ポリエステルを形成するジオールがベンゼン環を有する場合、このポリエステルを含むインクは耐アルコール性が高いことが判った。ベンゼン環を有するジオールの具体例は、ベンジルアルコール等が挙げられる。耐アルコール性が高くなった理由は、複数の分子鎖のベンゼン環同士がスタッキングして分子鎖の間隔を狭め、分子鎖間へのアルコールの侵入を抑制するためであると推定される。
【0020】
ただし、ポリエステルを構成する全てのジカルボン酸、及びジオールをベンゼン環を有する材料にした場合、後述するケトン系溶剤にポリエステルが溶解しなくなる。そのため、脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジオールもある程度導入したポリエステル樹脂を用いることが好ましい。すなわち、ポリエステル樹脂としては、べンゼン環を有するジカルボン酸又はジオールと、脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジオールを含むものを用いることが好ましい。
【0021】
なお、ポリエステル樹脂はジカルボン酸とジオールのエステル結合により合成されるが、末端にはカルボキシ基または水酸基が存在する。これら置換基は親水性であり、この割合が高いとアルコールに対して膨潤しやすくなる傾向がある。耐アルコール性を十分確保するのであれば、これら置換基を少なくすることが望ましい。耐アルコール性を向上させるために、これら置換基の割合を示す値である酸価、及び水酸基価の合計を60mg(KOH)/g以下にすることが望ましい。例えば、重合度を高め、高分子量化することにより、これらの置換基の割合を下げ、酸価及び水酸基価の合計を60mg(KOH)/g以下とすることができる。
【0022】
<着色剤>
着色剤としては、黒色染料ではなくカーボンブラックを用いる。電子部品向けの印字はハンダリフロー時に240℃以上260℃以下の加熱を受けるため、染料を用いた場合、染料が変性して茶色や赤茶色等に変化することがある。そのため、基材が茶色や赤色の場合は視認性が低下してしまう。そこで、本発明の一実施形態に係るインクにはハンダリフロー時の加熱条件で色調変化を生じないカーボンブラックを用いる。
【0023】
カーボンブラックの真比重は1.8以上1.9以下であり、比重が0.8以上0.9以下のケトン系溶剤に比べて大きい。そのため、インク中での沈殿を抑制するために、カーボンブラックの平均粒子径は、1μm未満であることが好ましい。さらに、カーボンブラックの粒子径は小さい方が単位重量あたりの表面積が大きいため、僅かな添加率で黒みが視認可能となる。視認性の観点からは、カーボンブラックの平均粒子径は0.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
一方で、平均粒子径が小さくなるほど、インク調製の際の秤量時、調製に用いる容器への投入時等に空気中に舞いやすくなる。また、静電気により調製場所のいたるところに付着しやすくなる。そのため、取扱い性を考慮すると、平均粒子径は20nm以上であることが望ましい。
【0025】
<分散剤>
カーボンブラックは、凝集して大きな塊になると、沈殿しやすくなったり、インクジェットプリンタのインク配管、及びインクを吐出するノズルを詰まらせる等の障害を発生させる可能性がある。このカーボンブラックの凝集を抑制するために、分散剤を添加してもよい。分散剤は、カーボンブラック粒子の周りに付着し、溶剤への分散性を向上させる。
【0026】
分散剤と樹脂との相溶性を高めるため、分散剤は、分子構造中にエステル構造を有するものが好適である。また、分散剤は、環状構造を有することが好ましい。環状構造を有する分散剤は、1個のカーボンブラック粒子に付着することにより、分散性を発揮するため、カーボンブラック同士の凝集を抑制できる。環状構造を有するエステルとしては、具体的にはβ-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、3-メチルオクタノ-4-ラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド等を用いることができる。
【0027】
上記分散剤は常温で液体であり、印字ドット内部に長く残ると印字の耐摩擦性を低下させる等の問題が生じる。そこで、溶剤と同様に印字後に揮発させることにより、印字ドット内部から消失するものが好ましい。そのため、分散剤は、常圧で沸点が300℃以下のものが望ましい。具体的にはβ-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド等が挙げられる。
【0028】
また、カプロラクトンのポリマーであるポリカプロラクトンもエステル結合により架橋しており、分散剤としては好適である。数平均分子量は低い方がインクの粘度に影響を与えにくいので好ましい。具体的には概ね25000以上100000以下程度のものが好適である。先に記したように、これより数平均分子量が大きくなると、インクの粘度が高くなる傾向がある。そのため、樹脂の濃度を下げる必要が出てくる。しかし、樹脂の濃度を下げると耐摩擦性、密着性が低下する恐れがある。したがって、耐摩擦性、密着性の低下を抑制する観点から、数平均分子量は最大でも100000程度に抑える必要がある。
【0029】
また、顔料の凝集を抑制する観点から、分散剤の添加量は、顔料に対して25wt%以上75wt%以下であることが好ましい。また、印字の物理的強度の低下を抑制する観点から、分散剤の添加量は、顔料に対して25wt%以上50wt%以下であることが更に好ましい。
【0030】
<蛍光材料>
蛍光材料としては、400nm以上500nm以下の波長域に発光極大波長を有する材料を用いることができる。蛍光材料は、インク溶剤に溶解する蛍光染料やインク中に分散される蛍光顔料を用いることができる。染料と顔料とを比較すると、レイリー散乱による反射光強度低下が生じない染料を用いることが好ましい。
【0031】
蛍光材料を添加する効果を以下に説明する。本発明の一実施形態に係るインクは、カーボンブラックが分散された黒色顔料インクである。通常、顔料インクの印字は、特に茶色の基材上では視認性が低下する。印字を注意深く観察すると、本来は黒色であるべき印字ドットが茶色に見える。そのため、基材の色と同系色となり、視認性が低下するものと考えられる。人間の目は印字ドットの反射光を視認している。人間の視感度と波長の関係を図1に示す。図1で示したように人間の可視領域は400nm以上700nm以下である。印字ドットが茶色に見える理由は、570nm以上700nm以下の範囲にある黄色、橙色、赤色の光の反射光強度に比べて、400nm以上500nm以下の範囲にある紫色、青色の光の反射光強度が低下しているからであると考えられる。
【0032】
400nm以上500nm以下の範囲にある紫色、青色の光の反射光強度が低下する理由を説明する。図2に蛍光材料を添加していない顔料インクで形成された印字ドットの反射光強度1と400nm以上500nm以下の波長域に発光極大波長を有する蛍光材料である2,5-thiophenediylbis(5-tert-butyl-1,3-bennzoxazole)(以下、化合物1という。)の発光強度スペクトル2を示す。図2に示すように、印字ドット中の顔料微粒子によるレイリー散乱のため短波長になるほど印字ドットの反射光強度1は低下することが判った。つまり、茶色の基材表面で印字ドットの視認性が低下する原因は、顔料微粒子により生じるレイリー散乱が原因と考えられる。
【0033】
図1より、波長が550nm近傍で視感度は最大になる。このため、視認性を良くするためには、可視領域のうち短波長であり、光の色としては青~紫色の領域の発光強度を増加させる必要がある。すなわち、400nm以上500nm以下の波長域に発光極大波長を有する蛍光材料を添加することが好適であると想定される。
【0034】
図3に化合物1を添加した顔料インクで形成された光強度スペクトルを示す。図3に示すように、化合物1を顔料インクに添加すると、印字度ドットの反射光強度3は可視領域のうち400nm以上500nm以下の短波長域で上昇し、視認性が向上する。なお、化合物1は印字ドットに含まれる濃度において、400nm以上の可視領域での吸収係数は紫外可視分光測定装置の測定限界以下であった。つまり、目視においては無色と認識される。蛍光材料は、レイリー散乱により低下した400nm以上500nm以下の反射光強度を補うために添加される。そのため、400nm以上500nm以下の波長域に極大発光波長を有さない蛍光材料を用いた場合、視認性は向上しない。
【0035】
図4に655nmを極大値とし、500nm以上840nm以下に発光領域を有する蛍光材料である化合物2(株式会社サイアロン製の赤色蛍光体)の発光スペクトル4、及び印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル5を示す。図4に示すように、化合物2は、発光領域が500nm以上840nm以下であるため、レイリー散乱による反射光強度の低下が著しい400nm以上500nm以下の反射光を補う効果は得られない。逆に、570nm以上700nm以下の黄色、橙色、赤色の強度を高めるため、印字がより茶色に見えやすくなる。そのため、茶色基材上の印字ドットは、化合物2を添加しないものに比べて視認性が低下する。更に、化合物2の吸光度5を見ると350nm以上650nm以下までの光を吸収することが判る。特に500nm以下の短波長域の方が吸収の割合が大きい。そのため、400nm以上500nm以下の反射光強度は更に低下する。
【0036】
図5には、化合物2を添加した顔料インクにより形成された印字ドットの反射光強度6、及び化合物2等の蛍光材料を添加していない顔料インクにより形成された印字ドットの反射光強度7を示す。化合物2を添加することにより、可視領域のうち黄色~赤色の長波長域は反射光強度は強くなり、逆に紫色~青色の短波長域は弱くなることが分かった。つまり、蛍光材料である化合物2を加えることにより印字がより茶色に見えるようになるため、茶色基材上での印字ドットの視認性は大きく低下する。
【0037】
以上のことから、波長400nm以上500nm以下に発光極大を有する蛍光材料を黒色顔料インクに添加することが好ましいと言える。また、蛍光材料は、570nm以上の黄色、橙色、赤色の発光が極力少ない方が好ましい。具体的には、570nmでの発光強度が、極大発光波長における発光強度の30%以下であることが好ましい。また、蛍光材料の吸収で反射強度が低下しないよう、蛍光材料のインク中での波長400nm以上500nm以下の範囲における吸光度は、発光強度より小さいことが好ましい。
【0038】
400nm以上500nm以下の波長域に極大発光波長のある蛍光材料としては、例えば、2,5-thiophenediylbis(5-tert-butyl-1,3-bennzoxazole)、7-diethylamino-4-methylcoumarin、4,4’-bis(2-sulfostyryl)-biphenyl disodium salt等があげられる。特に、発光効率が高い2,5-thiophenediylbis(5-tert-butyl-1,3-bennzoxazole)が好適である。
【0039】
インク中の蛍光材料の添加率は高い方が発光量も増大するので、インク中に少なくとも0.1wt%以上は添加する必要がある。しかし添加しすぎると印字の物理的強度を高めるため添加されている樹脂の割合が下がるので、印字の強度は下がる傾向がある。そのため多くても1wt%以下にすることが好ましい。よって、インクに対して、0.1wt%以上、1wt%以下であることが好ましい。電子部品に印字したときの印字の強度向上の観点から、0.3wt%以上0.5wt%以下であることが更に好ましい。
【0040】
<有機溶剤>
有機溶剤としては、沸点が70℃以上140℃以下であり、印字後速やかに乾燥するものを用いることができる。また、有機溶剤としては、水とは無限希釈しない溶媒を用いることが好ましい。すなわち、水と混合したときに一部相溶しない溶媒であることが好ましい。水とは無限希釈しない溶媒を用いることで、溶剤に空気中の水分などが溶けることによるインクの特性の変化を抑制できる。水とは無限希釈しない溶媒とは、具体的には1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-ブタノン、3-メチル-2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、ピナコロン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等である。水と無限希釈する溶媒とは、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等である。
【0041】
水とは無限希釈しない溶媒の中でも、インクに含まれる溶剤の主成分としては、2-ブタノン、3-メチル-2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、ピナコロン、シクロヘキサノンなどのケトン系の溶媒であることが好ましい。なお、本明細書において主成分とは、最も多く含まれる成分のことである。印字後の印字ドットの乾燥時間を減らすために、アセトン、MEK、2-ペンタノン、3-ペンタノン、3-メチル-2-ブタノン及びこれらの混合物を用いることがさらに好ましい。これらより炭素数の多い溶剤を用いても印字は可能であるが、印字後の印字ドットの乾燥時間が長くなる。
【0042】
<添加剤>
本発明の一実施形態に係るインクに含まれる添加剤としては、インクに導電性を付与する導電剤、及び平坦な印字ドットを形成するレベリング剤が挙げられる。
【0043】
帯電制御方式のインクジェットプリンタで用いるインクは、導電性が求められる。そのため、導電剤を添加する。導電剤としては、金属の塩構造を有するものが挙げられる。ただし、導電材は、溶剤である2-ペンタノン、3-ペンタノン、3-メチル-2-ブタノン等に溶解する必要があり、且つ、インクジェットプリンタ内部のポンプ、ホース部材を腐食、溶解、膨潤させないものが望まれる。これらを考慮すると、テトラアルキルアンモニウムのテトラフェニルホウ酸塩、テトラアルキルアンモニウムのヘキサフルオロリン酸塩、テトラフェニルホウ酸テトラメチルアンモニウム、アルキル鎖を有するピリジニウム塩等が好ましい。必要な導電性を確保できれば、導電剤の添加量は特に制限はない。
【0044】
レベリング剤は印字ドットを平坦化する、またはドットが広がらないようにする効果を有する。これにより、平坦で小型のドットを形成することができる。以下、これらの効果をレベリング性と明細書中に記載する。一般的にはポリジメチルシロキサン鎖を有し、この鎖の末端か側鎖にポリアルコキシ基を有する化合物、又はアルキルアミノ基を有する化合物等が一般的である。これ以外に、スチレン-メタクリレート鎖に含ケイ素基が架橋している化合物等が知られている。本発明のインクの場合は用いる溶剤に可溶であれば、特に制限はない。
【0045】
<インクジェットプリンタ>
上記で説明したインクは、帯電制御方式のインクジェットプリンタに入れて印字することができる。
【0046】
図6は、帯電制御方式のインクジェットプリンタのインク吐出、着弾までのプロセスを示している。
【0047】
ノズル8から吐出したインク滴9は帯電電極10で電荷を付与される。その後、偏向電極11で方向を制御され、被印字物12に着弾する。なお、図6には図示していないが、本インクジェットプリンタはノズル8を加熱する機構も有している。これは、インクが高粘度の場合、インクを加熱し、インクジェットプリンタが所望の粘度まで粘度を下げる役割を果たしている。
【0048】
図6には図示していないが、印字されないインクはガター13から回収され、インクタンクに戻される。
【0049】
以下、種々の実験により本発明の一実施形態に係るインクをさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0050】
容量2LのSUS304容器中に2-ブタノンを816gを加えた。2-ブタノンが飛び散らない程度の速度でオーバーヘッドスターラーを使って攪拌した。撹拌中、重量平均分子量が12,000でガラス転移温度が約50℃のポリエステル樹脂Aを130g、平均粒子径50nmであるカーボンブラックを36g、分散剤としてδ-バレロラクトンを2g、蛍光染料である化合物3(株式会社サイアロン製の広帯域青色蛍光体)を3g、レベリング剤として両末端にポリアルコキシ基を有するポリジメチルシロキサン鎖の化合物を1g、導電剤としてテトラメチルアンモニウムヘキサフルオロボレートを12g加えた。このようにして、インクを調製した。図7に、化合物3の発光スペクトルと吸収スペクトルを示す。
【実施例2】
【0051】
蛍光染料として化合物3を3gの代わりに化合物4(株式会社サイアロン製の青色蛍光体)を3g用いたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例3】
【0052】
蛍光染料として化合物3を3gの代わりに、化合物5(株式会社サイアロン製の狭線幅青色蛍光体)を3g用いたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例4】
【0053】
ポリエステル樹脂Aの代わりに重量平均分子量が22,000でガラス転移温度が約30℃のポリエステル樹脂Bを100gを用い、2-ブタノンの添加量を846gとしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例5】
【0054】
ポリエステル樹脂Aの代わりに重量平均分子量が6,000でガラス転移温度が約60℃のポリエステル樹脂Dを160g用い、2-ブタノンの添加量を846gとしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【0055】
(比較例1)
蛍光材料を添加せず、且つ2-ブタノンの添加量を819gにしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【0056】
(比較例2)
蛍光染料として化合物3を3gの代わりに化合物6(株式会社サイアロン製の広帯域青緑色蛍光体)を3g用いたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例6】
【0057】
ポリエステル樹脂Aの代わりに、重量平均分子量が18,000でガラス転移温度が約0℃のポリエステル樹脂Cを110g用い、2-ブタノンの添加量を836gとしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例7】
【0058】
ポリエステル樹脂Aの代わりに、重量平均分子量が4,000でガラス転移温度が約60℃のポリエステル樹脂Eを190g用い、2-ブタノンの添加量を876gとしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例8】
【0059】
ポリエステル樹脂Aの代わりに、重量平均分子量が10,000でガラス転移温度が約74℃のアクリル樹脂Fを160g用い、2-ブタノンの添加量を846gとしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【実施例9】
【0060】
ポリエステル樹脂Aの代わりに、重量平均分子量が8,000でガラス転移温度が約65℃のスチレン/アクリル樹脂Gを160g用い、2-ブタノンの添加量を846gとしたこと以外は実施例1と同様にインクを調製した。
【0061】
なお、各実施例、比較例に用いたポリエステル樹脂A~E、アクリル樹脂F、スチレン/アクリル樹脂Gについて、各樹脂を構成するモノマーユニット、ガラス転移温度、数平均分子量、酸価、水酸基価等を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
なお、インクの粘度は添加する樹脂の種類、添加量により変化する。他の添加剤は樹脂ほど大きな影響は与えない。そこで、本発明の一実施形態に係るインクに含まれる樹脂の添加量は、調製されるインクの粘度が20℃で3.0mPa・s以上3.5mPa・s以下の範囲に入るように調整している。実施例1~3のように樹脂の種類が同じ場合は添加量を変えない。
【0064】
(2)印字
実施例1~9及び比較例1、2で調整したインクを日立産機社製インクジェットプリンタPX-Rのインクタンクに充填した。充填後、印字面の大きさが4×4mm、厚さ1.5mmであり、印字面が目視で茶色のインダクターに印字した。
【0065】
(3-1)視認性評価方法
実施例1~9及び比較例1、2に係るインクにより形成された印字から30cm離れた位置から、目視で印字ドットが示す内容が視認可能か否かを評価した。視認することが可能な場合を「可」とし、視認することが難しい場合は「否」とした。
【0066】
(3-2)耐熱性評価方法
耐熱性は、実施例1~9に係るインク及び比較例1、2に係るインクをインダクターに印字し、印字を備えるインダクターを240℃の恒温槽に3分間放置後、印字ドットを観察することにより評価した。その後、260℃の恒温槽に3分間放置後、印字ドットを観察した。240℃の高温槽に3分間放置後に、印字ドットの形状が変化した場合を「変化あり」とし、その後、260℃の高温槽に3分間放置後でも、印字ドットの形状が変化しなかった場合を「変化なし」とした。
【0067】
(3-3)耐エタノール性評価方法
耐エタノール性は、実施例1~9に係るインク及び比較例1、2に係るインクが印字されたインダクターを、40℃のエタノールが入ったシャーレに20分間放置後、印字したインクがエタノールに浸漬する前後で変化があるかどうかを目視で観察することにより、評価した。40℃のエタノールに浸漬後も目視による印字の変化が確認されない場合を「視認可」とした。また、40℃のエタノールに浸漬後、印字が薄くなったことが確認された場合を「薄くなった」とした。また、40℃のエタノールに浸漬後、印字が消失したことが確認された場合を「消失した」とした。
【0068】
実施例1~9及び比較例1、2に係るインクで形成した印字ドットまたは印字に対する視認性、耐熱性、耐エタノール性に対する結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
以下、視認性評価および耐熱性評価及び耐エタノール評価について詳細に説明する。
【0071】
(4-1)視認性評価結果
図8に、実施例1に係るインクと比較例1に係るインクで形成された印字を示す。比較例1に係るインクで形成された印字は視認性が低く、30cm離れての目視では印字ドットの示す内容が不明であった。しかし、実施例1に係るインクで形成された印字は視認性が高く、30cm離れても印字の示す内容が確認できた。
【0072】
表2に示すように、実施例2~9に係るインクで形成された印字は、実施例1に係るインクで形成された印字と同様、視認性が高く、30cm離れての印字の示す内容が確認できた。しかし、比較例2に係るインクで形成された印字は、比較例1に係るインクで形成された印字ドットと同様、視認性が低く、30cm離れての印字の示す内容は確認できなかった。
【0073】
蛍光材料として化合物3を添加した実施例1、4~9に係る印字の視認性が良好だった理由は以下の通りである。図7は、化合物3の発光スペクトル14と印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル15である。図7に示すように、化合物3の発光強度の極大値は450nm近傍であり、化合物3は450nm以上に吸収は確認されなかった。よって、カーボンブラック由来の光散乱によって、特に視認性低下の著しい500nm以下の領域を化合物3の発光が補填した形になった。また、発光スペクトルはブロードであり、700nm近傍の長波長域まで発光するが、570nmでの発光強度は極大値の約24%と小さい。つまり、可視領域のうちでも長波長域であり、黄色~赤色光領域である570nm以上700nm以下の発光強度が小さく、基材の色が茶色でも視認性をほとんど低下させないことが判った。
【0074】
図9に蛍光材料である化合物3を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル16と蛍光材料無添加の印字ドットの反射光強度のスペクトル17を示す。図7より、化合物3の発光は、視認性の低い400nm以上500nm以下の領域の発光強度を高め、視認性を向上させたものと考えられる。
【0075】
蛍光材料として化合物4を添加した実施例2に係る印字の視認性が良好だった理由は以下の通りである。図10は、化合物4の発光スペクトル18と印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル19である。化合物4の発光強度の極大値は440nm近傍であり、化合物4は420nm以上に吸収は確認されなかった。したがって、カーボンブラック由来の光散乱により、視認性低下が著しい500nm以下の領域を化合物4の発光料が補填した形となった。また、発光スペクトルは、化合物3に比べるとシャープであり、520nm以上の長波長域では発光が確認されなかった。そのため、この印字ドットは、化合物3を使用した実施例1で形成された印字ドットよりも鮮明であった。
【0076】
図11は、蛍光材料である化合物4を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル20を示している。蛍光材料の発光が視認性の特に下がっている400nm以下500nm以上の領域の発光強度を高め、視認性を向上させたものと考えられる。
【0077】
蛍光材料として化合物5を添加した実施例2に係る印字の視認性が良好だった理由は以下の通りである。図12は、化合物5のスペクトル21と印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル22である。化合物5の発光強度の極大値は460nm近傍であり、化合物5は460nm以上に吸収は確認されなかった。したがって、カーボンブラック由来の光散乱により、視認性低下の著しい500nm以下の領域を化合物5の発光が補填した形となった。また、発光スペクトルは化合物3に比べるとシャープであり、550nm以上の長波長域では発光が確認されなかった。そのため、化合物5を含む印字ドットは、化合物3を使用した実施例1に係るインクで形成した印字ドットよりも鮮明であった。化合物5は、発光する領域の中で短波長域は420nmであり、これ以下で発光は観測されなかった。そのため、400nm以上440nm以下の領域では発光強度が低い。しかし、図1に示すように、人間の視感度は、550nmを境に短波長域に向かうほど視感度は低下する。視認性を向上させるために、420nm以上440nmの発光強度よりも440nm以上500nm以下での発光強度が強いことが望まれる。
【0078】
図13は、蛍光材料である化合物5を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル23である。化合物5の発光が、400nm以上440nm以下の波長域よりも視感度の高い440nm以上500nm以下の領域の発光強度を高め、視認性を向上させたものと考えられる。
【0079】
一方、蛍光材料として化合物6を添加した比較例1に係る印字の視認性が低かった理由は以下の通りである。図14は、化合物6の発光スペクトル24と印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル25である。化合物6の発光強度の極大値は510nm近傍であり、700nm近傍までブロードな発光スペクトルであった。570nmでも発光強度極大値の50%以上の発光強度があり、黄色~赤色も強く発光していた。さらに、化合物6は400nm以上500nm以下まで吸収がある。そのため、化合物6の発光スペクトルのうち400nm以上500nm以下の紫色~青色の発光を化合物6自身が吸収してしまった。以上の結果より、化合物6の発光スペクトルのうち、カーボンブラックによるレイリー散乱で特に低下する400nm以上500nm以下の波長領域は、化合物6自身の吸収により、発光が抑制され、印字ドットの反射光強度が弱められる。更に、黄色~赤色の領域において、化合物6の発光により印字ドットの反射光強度が強められたため、視認性が低下したものと考えられる。
【0080】
図15は、蛍光材料である化合物6を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル26と、蛍光材料無添加の印字ドットの反射光強度のスペクトル17である。視認性向上に必要な400nm以上500nm以下の反射光強度が化合物3、4、5を使った場合に比べて低く、且つ570nm以上の反射光強度が高いため、蛍光材料を添加しても視認性は向上しなかったと考えられる。
【0081】
以上の結果より、400nm以上500nm以下の波長域に発光強度の極大値がある蛍光材料を用いることで、インクの視認性を向上できることが分かった。さらに、570nmでの発光強度が、極大発光波長における発光強度の30%以下となる蛍光材料を用いることにより、黄色~赤色の発光強度を下げ、より視認性を向上できることが分かった。
【0082】
(4-2)耐熱性評価結果
表2より、実施例1~5、7~9、比較例1、2に係るインクで形成された印字ドットは、熱による変形がなかった。このことから、実施例1~5、7~9、比較例1、2に係るインクで形成された印字ドットは、十分な耐熱性があると分かった。 しかし、実施例6に係るインクで形成された印字ドットは、十分な耐熱性が得られなかった。実施例6に係るインクで形成された印字ドットは、240℃の恒温槽に放置前は真上から見ると円形であったが、放置後、該印字ドットは熱融解を起こして不定形となった。更に、260℃の恒温槽に3分間放置後、一部の近傍する該印字ドット同士が融着してしまった。
【0083】
実施例6に係るインクはポリエステル樹脂Cを含んでいる。ポリエステル樹脂Cはジカルボン酸ユニットが両末端にカルボキシ基を有し、その間は炭化水素鎖からなるアジピン酸である。このユニットはベンゼン環を有さない。また、ジオールユニットがベンゼン環を有しないネオペンチルグリコールである。そのため、スタッキング構造を形成できず、耐熱性が低かったものと考えられる。
【0084】
以上の結果より、ベンゼン環を有するポリエステル樹脂を含むインクを用いることにより、印字の耐熱性を向上できることが分かった。
【0085】
(4-3)耐アルコール性評価結果
表2より、実施例1~5、比較例1、2に係るインクは、エタノールに浸漬した後も印字に変化がなく、耐エタノール性があることが分かった。一方、実施例6~9に係るインクは、エタノールに浸漬した後に、印字が薄くなったり消失してしまい、実施例1~5と比較すると耐エタノール性が不十分であった。
【0086】
実施例1~5、7及び比較例1、2に係るインクは、ポリエステル樹脂A、B、D、Eを含む。ポリエステル樹脂A、B、D、Eはベンゼン環を有するポリエステル樹脂である。
【0087】
一方、実施例6、8、9に係るインクは、それぞれ、ポリエステル樹脂C、アクリル樹脂F、スチレン/アクリル樹脂Gを含む。ポリエステル樹脂Cは構造中にベンゼン環を有しないため、スタッキング構造になれず、分子鎖間の隙間がスタッキング構造になる樹脂に比べて大きくなると考えられる。また、印字ドット中の樹脂分子鎖間へのエタノール分子が出入りしやすくなる。したがって、エタノールとともに、顔料であるカーボンブラックのリリースが起こり、実施例6に係るインクの印字が薄くなったと考えられる。また、アクリル樹脂Fは、モノマーがアクリル酸メチルであり、主鎖が炭化水素鎖である。また、スチレン/アクリル樹脂Gはモノマーがスチレンとアクリル酸メチルであり、主鎖が炭化水素鎖である。このことから、インク調製の際に用いる樹脂の主鎖が炭化水素鎖の樹脂の場合は、耐エタノール性が低くなると考えられる。
【0088】
実施例7に係るインクに含まれるポリエステル樹脂Eはベンゼン環を有するが、水酸基価が46mg(KOH)/gであり、酸価が16mg(KOH)/gであるため水酸基価と酸価の合計値が60mg(KOH)/gを超える。したがって、親水性の置換基の割合が高く、耐エタノール性が低下したと考えられる。
【0089】
一方、ポリエステル樹脂A、B、Dのうち水酸基価と酸価との合計が最も大きかったものは、ポリエステル樹脂Dの58mg(KOH)/gであった。実施例1~5、7から、インク調製に用いる樹脂がポリエステル樹脂の場合、水酸基価と酸価の合計を60mg(KOH)/g以下とすることにより十分な耐エタノール性を有する印字ドットが得られることが分かった。
【0090】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1・・・印字ドットの反射光強度のスペクトル
2・・・化合物1の発光スペクトル
3・・・印字度ドットの反射光強度のスペクトル
4・・・化合物2の発光スペクトル
5・・・印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル
6・・・化合物2を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル
7・・・化合物2無添加の印字ドットの反射光強度のスペクトル
8・・・ノズル
9・・・インク滴
10・・・帯電電極
11・・・偏向電極
12・・・被印字物
13・・・ガター
14・・・化合物3の発光スペクトル
15・・・化合物3を含む印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル
16・・・化合物3を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル
17・・・蛍光材料無添加の印字ドットの反射光強度のスペクトル
18・・・化合物4の発光スペクトル
19・・・化合物4を含む印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル
20・・・化合物4を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル
21・・・化合物5の発光スペクトル
22・・・化合物5を含む印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル
23・・・化合物5を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル
24・・・化合物6の発光スペクトル
25・・・化合物6を含む印字ドットに含まれる濃度における吸光度スペクトル
26・・・化合物6を添加した印字ドットの反射光強度のスペクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15