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特許7507632スパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法
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  • 特許-スパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】スパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20240621BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240621BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20240621BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C23C14/06 A
C23C14/34 R
H01L21/318 B
H05H1/46 M
H05H1/46 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020137327
(22)【出願日】2020-08-17
(65)【公開番号】P2022033440
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】大澤 篤史
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529009(JP,A)
【文献】特開2009-302550(JP,A)
【文献】特開2016-069687(JP,A)
【文献】特開2004-311624(JP,A)
【文献】特表平01-501072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/318
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングにより基板に窒化アルミニウム膜を形成するスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法において、
前記基板が載置されたステージを内蔵したチャンバ-を減圧する減圧工程と、
前記チャンバ-内に窒素ガスを供給する供給工程と、
前記チャンバ-内に配置されているアルミニウムターゲットと、前記ステージとの間に電圧を印加してプラズマを生成するプラズマ生成工程と、
を実施して成膜を行う際に、
前記チャンバ内の圧力を4.0Pa~10.0Paとするとともに、前記プラズマ生成工程における前記チャンバ-内の温度を室温~50℃として、アモルファス状態である窒化アルミニウム膜を形成させることを特徴とするスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法において、
前記プラズマ生成工程は、正電位と負電位とを交互に印加するパルス電圧であって、その周波数が50kHz以上、デューティ比が90%以下であることを特徴とするスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法において、
前記チャンバは、前記アルミニウムターゲットの近傍に誘導結合型アンテナを備え、
前記誘導結合型アンテナにより、前記プラズマ生成工程におけるプラズマの生成を援助することを特徴とするスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法において、
前記供給工程は、窒素ガス以外の不活性ガスも含むことを特徴とするスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、液晶表示器や有機EL(Electro Luminescence)表示装置などのFPD(Flat Panel Display)用基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などの基板上に、スパッタリング技術を用いて窒化アルミニウム膜を被着させるスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力向けに使用されるパワー半導体モジュール、光記憶や光通信に使用される光半導体デバイス、記憶装置に使用される薄膜磁気ヘッドなどは、近年、高出力が要求されてきている。そのため、デバイスが発熱しやすく、デバイスからの放熱量が従来よりも大きくなってきている。これに対応するため、例えば、デバイスとヒートシンクとの間に形成される被膜の場合には、熱伝導性が高い窒化アルミニウム(AlN)膜が用いられている。また、これらの電子デバイスの基板として被膜を用いるためには、被膜の特性として熱伝導性に加えて、高い絶縁性も要求される。
【0003】
従来、この種のスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法として、スパッタ装置の真空容器内に不活性ガス及び酸素ガスを導入し、真空容器内の圧力を0.08Pa以上0.15Pa以下とした状態で、アルミニウム製のターゲットに直流のパルス電圧を印加するものがある(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、窒化アルミニウム膜の絶縁耐圧を向上できることが記載されている。具体的には、窒化アルミニウム膜の絶縁耐圧が4.5MV/cmが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-3259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の方法は、4.5MV/cmの絶縁耐圧を得ることができるが、昨今の高電力が要求されているデバイスの基板に用いるには絶縁耐圧が不十分であるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、窒化アルミニウム膜の絶縁耐圧を向上できるスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、スパッタリングにより基板に窒化アルミニウム膜を形成するスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法において、前記基板が載置されたステージを内蔵したチャンバ-を減圧する減圧工程と、前記チャンバ-内に窒素ガスを供給する供給工程と、前記チャンバ-内に配置されているアルミニウムターゲットと、前記ステージとの間に電圧を印加してプラズマを生成するプラズマ生成工程と、を実施して成膜を行う際に、前記チャンバ内の圧力を4.0Pa~10.0Paとするとともに、前記プラズマ生成工程における前記チャンバ-内の温度を室温~50℃として、アモルファス状態である窒化アルミニウム膜を形成させることを特徴とするものである。
【0008】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、発明者は、スパッタリングによる成膜におけるチャンバ内の圧力を一般的ではない4.0Paまで上げて成膜を行った。すると、生成された窒化アルミニウム膜は、結晶化が未熟なアモルファスの状態となった。一般的にアモルファスの膜は、完全に結晶化された膜よりも絶縁耐圧が高くなる。この方法によると、窒化アルミニウム膜の絶縁耐圧が8MV/cm以上となり、従来に比較して急激な改善が見られた。したがって、スパッタリングによる成膜が行える一般的な限界値である10.0Paを上限として、チャンバ内の圧力を4.0Pa~10.0Paとすることにより、従来に比較して窒化アルミニウム膜の絶縁耐圧を向上できる。
【0009】
また、本発明において、前記プラズマ生成工程は、正電位と負電位とを交互に印加するパルス電圧であって、その周波数が50kHz以上、デューティ比が90%以下であることが好ましい(請求項2)。
【0010】
プラズマ生成工程では、正電位と負電位とを交互に印加するパルス電圧であって、その周波数が50kHz以上、デューティ比が90%以下とする上限で電力をターゲットに供給する。これにより、アルミニウムターゲットに非エロ-ジョンエリアが発生して、アルミニウム窒化物が蓄積されることを防止できる。したがって、異常放電が生じてスパッタが継続できなくなる不具合を防止できる。
【0011】
また、本発明において、前記チャンバは、前記アルミニウムターゲットの近傍に誘導結合型アンテナを備え、前記誘導結合型アンテナにより、前記プラズマ生成工程におけるプラズマの生成を援助することが好ましい(請求項3)。
【0012】
誘導結合型アンテナにより、プラズマ生成工程におけるプラズマの生成を援助する。したがって、プラズマ密度を高くできるので、反応性を高くできる。その結果、成膜の効率も向上できる。
【0013】
また、本発明において、前記供給工程は、窒素ガス以外の不活性ガスも含むことが好ましい(請求項4)。
【0014】
例えば、窒素ガス以外の不活性ガスであるアルゴンガスも供給工程で供給する。したがって、プラズマ化したアルゴンイオンを高エネルギーでアルミニウムターゲットに衝突させることができる。その結果、成膜の処理レートを向上できる。
【0015】
また、本発明において、前記プラズマ生成工程は、前記チャンバ内の温度が室温~50℃であることが好ましい(請求項5)。
【0016】
チャンバ内の温度を室温~50℃とすることにより、成膜される膜の結晶化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法によれば、スパッタリングによる成膜が行える一般的な限界値である10.0Paを上限として、チャンバ内の圧力を4.0Pa~10.0Paとする。これにより、生成された窒化アルミニウム膜をアモルファスの状態にできる。したがって、従来に比較して窒化アルミニウム膜の絶縁耐圧を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例に係るスパッタリング装置の概略構成を示す図である。
図2】実施例に係るスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法を示すフローチャートである。
図3】電源の動作例を示す図である。
図4】絶縁破壊電圧の測定例を示す模式図である。
図5】絶縁破壊電圧の圧力依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るスパッタリング装置の概略構成を示す図である。
【0020】
実施例に係るスパッタリング装置1は、チャンバ3を備えている。チャンバ3は、例えば、基板Wに対してスパッタリングにより窒化アルミニウム膜(AlN)を被着する。チャンバ3は、図示省略した開閉自在の搬入出口を備えている。処理対象の基板Wは、例えば、シリコン半導体からなる基板Wである。チャンバ3は、下部にマグネット5を備えている。チャンバ3は、マグネット5の上方にターゲット7を備えている。ターゲット7は、例えば、アルミニウム製である。
【0021】
マグネット5の側方には、誘導結合型アンテナ9が配置されていることが好ましい。誘導結合型アンテナ9は、ターゲット7の近辺において発生するプラズマの生成を援助する。誘導結合型アンテナ9には、例えば、13.56MHzの高周波電力が供給される。この誘導結合型アンテナ9は、容量結合型プラズマのプラズマ密度が低いという欠点を補う。つまり、誘導結合型アンテナ9は、容量結合型プラズマの欠点を補うように作用する。
【0022】
チャンバ3は、ターゲット7に対向する天井面にステージ11を備えている。ステージ11は、処理対象である基板Wを取り付けられる。具体的には、ステージ11は、基板Wの処理面を下方に向けた姿勢で基板Wを取り付けられる。
【0023】
チャンバ3には、内部の処理空間に排気管13の一端側が連通接続されている。排気管13の他端側には、排気ポンプ15が接続されている。排気ポンプ15は、チャンバ3内の気体を排出して、チャンバ3内を減圧する。チャンバ3には、内部の処理空間に第1の供給管17の一端側が連通接続されている。第1の供給管17の他端側には、例えば、窒素ガス供給源19が連通接続されている。第1の供給管17には、マスフローコントローラ21が取り付けられている。チャンバ3には、内部の処理空間に第2の供給管23の一端側が連通接続されている。第2の供給管23の他端側には、例えば、アルゴンガス供給源25が連通接続されている。第2の供給管23には、マスフローコントローラ27が取り付けられている。マスフローコントローラ21,27は、供給対象の流体の流量を計測し、所定の流量となるように制御を行う。
【0024】
チャンバ3は、温度調節が可能に構成されていることが好ましい。具体的には、例えば、チャンバ3の周囲にヒータを備え、チャンバ3内の温度を室温~50℃に調節しておくことが好ましい。これにより、成膜される膜の結晶化を防ぐことができる。
【0025】
チャンバ3とターゲット7には、電源29が接続されている。具体的には、電源29の正極がチャンバ3を介してステージ11に対して電気的に接続されている。また、電源29の負極がターゲット7に対して電気的に接続されている。但し、電源29は、正電位と負電位とを交互に印加するパルス電圧を出力する。したがって、ステージ11とターゲット7に印加される極性が周期的に入れ替わる。また、電源29は、パルス電圧の周波数やデューティ比が可変できるように構成されている。
【0026】
次に、図2及び図3を参照して、実施例による製造方法について説明する。なお、図2は、実施例に係るスパッタリングによる窒化アルミニウム膜の製造方法を示すフローチャートである。図3は、電源の動作例を示す図である。
【0027】
ステップS1
まず、基板Wをチャンバ3内に搬入する。具体的には、図示しない搬入出口を介して、処理対象である基板Wをチャンバ3に搬入する。そして、ステージ11に基板Wを取り付ける。なお、基板Wは、窒化アルミニウム膜が被着される処理面が下方に向けられた姿勢でステージ11に取り付けられる。
【0028】
ステップS2(減圧工程)
減圧を開始する。具体的には、図示しない搬入出口を閉止した後、排気ポンプ15を作動させる。これにより、チャンバ3内の気体が排出され、減圧が開始される。
【0029】
ステップS3(供給工程)
反応性ガスを導入する。具体的には、マスフローコントローラ21,27を操作して、例えば、アルゴンガス及び窒素ガスを合わせて200SCCM(Standard CC/Min)の流量でチャンバ3内に供給する。なお、マスフローコントローラ21,27を操作して、窒素ガスの流量を全体の30%~100%とするのが好ましい。窒素ガスが100%の条件では、窒素イオンだけがターゲット7に衝突する。
【0030】
ステップS4
チャンバ3内の圧力が製造方法のうちの成膜圧力に達したか否かに応じて処理を分岐する。なお、圧力は図示しない圧力センサによって計測する。成膜圧力に達した場合には、ステップS5に移行する。成膜圧力は、例えば、4.0~10Paの範囲内である。成膜圧力は、窒化アルミニウム膜に要求される絶縁破壊電圧に応じて決定すればよい。
【0031】
ステップS5(プラズマ生成工程)
プラズマを発生させる。具体的には、電源29によりステージ11とターゲット7にパルス電圧を印加する。そのパルス電圧は、例えば、図3に示すようなものである。具体的には、ターゲット7側の出力が正電位と負電位とで交互に出力される。ここで、負電位が印加されている時間を負電位印加時間T1とし、正電位が印加されている時間を正電位印加時間T2とする。これらの負電位印加時間T1(スパッタしている時間)と正電位印加時間T2(スパッタしていない時間)におけるデューティ比(=T2/(T1+T2))は、例えば、デューティ比が90%以下であることが好ましい。具体的には、例えば、T1=9.5μs、T2=3μsであって、デューティ比=24%である。周波数で表現すると、80kHzである。また、電源29の電力は、例えば、5kWである。これにより、ターゲット7と基板Wとの間に電圧が印加され、アルゴンイオンがターゲット7に衝突してアルミニウムをはじき出す。そして、アルミニウムが基板Wの処理面に付着して窒化アルミニウム膜Fが成長していく。
【0032】
なお、上述したようにプラズマ生成工程において、正負のパルス電圧を印加する。ターゲット7に負電位だけを印加していると、非エロ-ジョンエリアが発生して、アルミニウム窒化物やアルミニウム酸化物が蓄積する。これらは絶縁物であるので、異常放電につながってスパッタ現象が継続できなくなる恐れがある。このような不都合を解消するために、正負のパルス電圧を電源29から印加している。
【0033】
ステップS6
処理時間に達したか否か応じて処理を分岐する。具体的には、例えば、基板Wに200μmの窒化アルミニウム膜Fが成長した時点である。処理時間は、目標膜厚に達する時間を予め測定しておいて決めることが好ましい。
【0034】
ステップS7
基板Wをチャンバ3外に搬出する。具体的には、電源29をオフし、マスフローコントローラ27の流量を0とした後に、図示しない搬入出口を開放して基板Wをチャンバ3の外部へ搬出する。
【0035】
上述した一連の処理により基板Wに対して窒化アルミニウム膜Fを被着させることができる。
【0036】
次に、図4を参照して、窒化アルミニウム膜Fの絶縁破壊電圧の測定条件について説明する。図4は、絶縁破壊電圧の測定例を示す模式図である。
【0037】
試料は、上記の条件で窒素ガスを100%とした場合におけるシリコンの基板Wに被着された窒化アルミニウム膜Fである。その上面には、スパッタによってアルミニウム電極31が複数箇所に形成されている。V-Iテスタ33は、プローブを介してアルミニウム電極31と基板Wの間に電圧を印加し、徐々に電圧を高くしていった際の電流値の変化を測定するものである。その際に、急激に電流値が上昇する電圧を絶縁破壊電圧とする。
【0038】
次に、図5を参照して、上述した製造方法により成膜した窒化アルミニウム膜Fの絶縁破壊電圧に関する測定結果の具体例について説明する。なお、製造条件のうち、チャンバ3内の圧力は、0.5Pa、1Pa、3Pa、4Pa、5Paとした。圧力ごとに7枚の基板Wに窒化アルミニウム膜Fを被着させ、各基板Wの窒化アルミニウム膜Fについて絶縁破壊電圧を測定した。その平均値をプロットすると図5のようになった。絶縁破壊電圧の具体的な数値は、3.0MV/cm(at 0.5Pa)、1.3MV/cm(at 1Pa)、0.2MV/cm(at 3Pa)、8.1MV/cm(at 4Pa)、29.7MV/cm(at 5Pa)となる。つまり、チャンバ3内の圧力が4Pa以上になると、絶縁破壊電圧の急激な改善が見られることがわかった。
【0039】
これらの測定結果から、絶縁破壊電圧を従来よりも高くするには、チャンバ3内の圧力を4Pa以上とすればよいことがわかる。なお、スパッタ現象を利用した成膜においては、一般的に、10Paを越えると実用的な処理レートを得られない。したがって、スパッタリングによる成膜の一般的な限界値である10.0Paを上限として、チャンバ3内の圧力を4.0Pa~10.0Paとすることにより、従来に比較して窒化アルミニウム膜Fの絶縁耐圧を向上できる。
【0040】
なお、発明者は、X線回折(XRD(X‐ray diffraction))を用いて窒化アルミニウム膜Fの結晶化率を測定した。すると、チャンバ3内の圧力を4.0Paと、5.0Paで成膜した窒化アルミニウム膜Fでは、3.0Paまでは現れていた窒化アルミニウムの結晶ピークがなくなっていた。つまり、絶縁破壊電圧が高い窒化アルミニウム膜Fは、アモルファスの状態であることがわかった。一般的にアモルファスの膜は、完全に結晶化された膜よりも絶縁耐圧が高くなる。したがって、この点からも、上述した絶縁破壊電圧の測定結果が妥当であると言える。
【0041】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0042】
(1)上述した実施例では、スパッタリング装置1が誘導結合型アンテナ9を備えている。しかしながら、本発明は、誘導結合型アンテナ9を必須とするものではない。つまり、容量結合型プラズマだけでスパッタリングを行ってもよい。
【0043】
(2)上述した実施例では、アルゴンガスの供給についても記載しているが、本発明はこれを必須とはしない。つまり、チャンバ3内には窒素ガスだけを供給する構成を備えていればよい。また、上述した窒化アルミニウム膜Fの試料の製造時には、窒素ガスだけを供給したが、アルゴンガスも供給するようにしてもよい。これにより、成膜の処理レートを高めることができる。
【0044】
(3)上述した実施例では、電源29がデューティ比24%であるとしているが、本発明はこのデューティ比に限定されない。つまり、デューティ比は、異常放電が生じてスパッタが継続できなくなる不具合の生じないデューティ比であればよく、具体的には、90%以下であればよい。
【0045】
(4)上述した実施例では、プラズマを発生させるために電源29からパルス電圧を発生させた。しかしながら、これは好ましい例であり、本発明はこれを必須とするものではない。例えば、電源29は、上述したパルス電圧を発生させる構成に代えて、RF電圧やDC電圧を発生させるものであってもよい。
【0046】
(5)上述した実施例では、電源29の出力が5kWであるとしたが、本発明はこのような出力に限定されない。出力は、処理レートを勘案して決定すればよい。
【0047】
(6)上述した実施例では、上方にステージ11を備え、下方にターゲット7を備えたスパッタリング装置1によって成膜を行っている。しかしながら、本発明はこのような構成のスパッタリング装置1によって成膜することに限定されない。例えば、下方にステージ11を備え、上方にターゲット7を備えた装置で成膜してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明は、スパッタリング技術を用いて窒化アルミニウム膜を被着させる窒化アルミニウム膜の製造方法に適している。
【符号の説明】
【0049】
1 … スパッタリング装置
3 … チャンバ
5 … マグネット
7 … ターゲット
9 … 誘導結合型アンテナ
11 … ステージ
13 … 排気管
15 … 排気ポンプ
17 … 第1の供給管
19 … 窒素ガス供給源
21 … マスフローコントローラ
23 … 第2の供給管
25 … アルゴンガス供給源
27 … マスフローコントローラ
29 … 電源
W … 基板
F … 窒化アルミニウム膜
図1
図2
図3
図4
図5