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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】成形装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240621BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020150738
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045186
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩出 吉宏
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-069339(JP,A)
【文献】特開2020-009899(JP,A)
【文献】特開2010-221374(JP,A)
【文献】特開2019-186404(JP,A)
【文献】特開2018-163964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を用いて基板上の組成物を成形する成形装置であって、
前記型の第1面と前記組成物とを接触させて前記第1面と前記基板との間に前記組成物の膜を形成する処理を制御する制御部と、
前記型の前記第1面とは反対側の第2面に力を与えて前記第1面を前記基板側に凸形状に変形させる変形部と、
を有し、
前記制御部は、前記処理において、前記第1面と前記組成物とを接触させた後に前記変形部が前記第2面に与える正の圧力が、前記第1面と前記組成物とを接触させる前に前記変形部が前記第2面に与えていた正の圧力よりも大きくなるように、前記変形部を制御することを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記変形部は、前記第2面に設けられている凹部の圧力を調整することによって前記第2面に正の圧力を与えて前記第1面を前記基板側に凸形状に変形させることを特徴とする請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
型を用いて基板上の組成物を成形する成形装置であって、
前記型の第1面と前記組成物とを接触させて前記第1面と前記基板との間に前記組成物の膜を形成する処理を制御する制御部と、
前記型の前記第1面とは反対側の第2面に力を与えて前記第1面を前記基板側に凸形状に変形させる変形部と、
を有し、
前記変形部は、前記第2面に設けられている凹部の圧力を調整することによって前記第2面に力を与えて前記第1面を前記基板側に凸形状に変形させ、
前記制御部は、前記第1面と前記組成物とを接触させる前に前記第1面が前記基板側に凸形状となるように、前記変形部が調整すべき前記凹部の圧力を第1圧力値に設定し、前記第1面を前記組成物に接触させて押し付けている間に、前記変形部が調整すべき前記凹部の圧力を前記第1圧力値よりも大きい第2圧力値に設定することを特徴とする成形装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1面と前記組成物とを接触させてから予め定められた時間内に、前記第1圧力値から前記第2圧力値に変更されるように、前記変形部が調整すべき前記凹部の圧力を設定することを特徴とする請求項3に記載の成形装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1面と前記組成物とが接触したタイミングで前記第1圧力値から前記第2圧力値に変更されるように、前記変形部が調整すべき前記凹部の圧力を設定することを特徴とする請求項3又は4に記載の成形装置。
【請求項6】
前記第1面を前記組成物に接触させて押し付ける押付部を更に有し、
前記制御部は、前記処理において、前記押付部が前記第1面を前記組成物に押し付つける押付力と、前記変形部が前記第2面に与える力とが同期するように、前記押付部及び前記変形部を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の成形装置。
【請求項7】
前記処理は、前記押付力を増加させる期間と、前記押付力を減少させる期間と、を含むことを特徴とする請求項6に記載の成形装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記押付力を増加させる期間において、前記第1面と前記組成物との接触面積が一定の速度で広がるように、前記押付部を制御することを特徴とする請求項7に記載の成形装置。
【請求項9】
前記第1面と前記組成物との接触面積の広がりに関する情報を取得する取得部を更に有し、
前記制御部は、前記情報に基づいて、前記接触面積が一定の速度で広がるように、前記押付部を制御することを特徴とする請求項8に記載の成形装置。
【請求項10】
前記取得部は、前記処理のシミュレーションの結果、又は、前記処理を行った結果から、前記情報を取得することを特徴とする請求項9に記載の成形装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記第1面と前記組成物とを接触させた後の各時刻において、前記変形部が前記第2面に与える力が、前記押付部が前記第1面を前記組成物に押し付ける押付力よりも小さくなるように、前記変形部を制御することを特徴とする請求項6乃至10のうちいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項12】
前記第1面は、パターンを含み、
前記成形装置は、前記第1面の前記パターンを前記組成物に接触させることにより前記基板上に前記組成物のパターンを形成することを特徴とする請求項1乃至11のうちいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項13】
前記第1面は、平面部を含み、
前記成形装置は、前記第1面の前記平面部を前記組成物に接触させることにより前記基板上の前記組成物を平坦にすることを特徴とする請求項1乃至11のうちいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項14】
請求項12に記載の成形装置を用いてパターンを基板に形成する工程と、
前記工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
処理された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント技術は、ナノスケールの微細なパターン(凹凸)の転写を可能にする技術であり、半導体デバイスや磁気記憶媒体などの量産用リソグラフィ技術の1つとして注目されている。インプリント技術とは、パターンが形成された型(モールド)を原版として、シリコンウエハやガラスプレートなどの基板にナノスケールの微細なパターン(凹凸)を転写する技術である。
【0003】
インプリント技術を用いたインプリント装置は、型を用いて基板上の組成物であるインプリント材を成形する成形装置である。具体的には、インプリント装置は、基板上のインプリント材と型とを接触させた状態でインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から型を引き離すことで、基板上にインプリント材のパターンを形成する。インプリント材の硬化法としては、光硬化法や熱硬化法などがある。光硬化法は、温度制御によるパターンの転写時間の増大や温度変化によるパターンの寸法精度の低下を抑えられることから、半導体デバイスや磁気記憶媒体の製造に適している。
【0004】
インプリント装置では、基板上のインプリント材と型とを接触させる際に、インプリント材に気泡が混入する場合がある。このように、気泡が混入した状態でインプリント材を硬化させると、気泡が存在する箇所にはパターンが形成されず、欠陥(未充填欠陥)となる。
【0005】
そこで、基板上のインプリント材と型とを接触させる際に、型(のパターン面)を基板に対して凸形状に変形させ(撓ませ)、その後、型を元の形状(平面形状)に戻す技術が提案されている(特許文献1乃至4参照)。かかる技術によれば、基板(基板上のインプリント材)と型との間に存在する気体を外側に押し出し、基板上のインプリント材に混入する気泡を低減することができる。
【0006】
また、基板上の硬化したインプリント材から型を引き離す際に、型を変形させたり、基板を吸着する吸着力(吸着圧)を変えて基板を変形させたりすることで、基板上に形成されるパターンの欠陥を低減させる技術も提案されている(特許文献5及び6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-536591号公報
【文献】特表2009-518207号公報
【文献】特許第4391420号公報
【文献】特許第5139421号公報
【文献】米国特許出願公開第2006/172553号明細書
【文献】特表2009-517882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、インプリント装置では、生産性(スループット)の更なる向上が益々要求されている。例えば、従来技術のように、型を基板に対して凸形状に変形させた状態で基板上のインプリント材と接触させ、ショット領域の中央から周辺に向けてインプリント材を押し広げる場合を考える。この場合、インプリント材を押し広げる速度を速くして、基板上のインプリント材を型(の凹部)に充填する充填工程に移行する前の工程(ダイナミックスプレッド工程)や充填工程に要する時間を短縮することで、生産性を向上させることができる。但し、充填工程に要する時間は、通常、型と基板とをアライメント(位置合わせ)するアライメント工程に要する時間に依存するため、ダイナミックスプレッド工程に要する時間を短縮することが求められている。しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、ダイナミックスプレッド工程に要する時間をみやみに短縮すると、未充填欠陥が増加して、生産性を低下させることにつながることを見出した。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、生産性を向上させるのに有利な成形装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての成形装置は、型を用いて基板上の組成物を成形する成形装置であって、前記型の第1面と前記組成物とを接触させて前記第1面と前記基板との間に前記組成物の膜を形成する処理を制御する制御部と、前記型の前記第1面とは反対側の第2面に力を与えて前記第1面を前記基板側に凸形状に変形させる変形部と、を有し、前記制御部は、前記処理において、前記第1面と前記組成物とを接触させた後に前記変形部が前記第2面に与える正の圧力が、前記第1面と前記組成物とを接触させる前に前記変形部が前記第2面に与えていた正の圧力よりも大きくなるように、前記変形部を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、生産性を向上させるのに有利な成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一側面としてのインプリント装置の構成を示す概略図である。
図2】インプリントヘッドの駆動部の構成の一例を示す図である。
図3】型のメサ領域を基板側に凸形状に変形させた状態を示す図である。
図4】一般的なインプリント処理を説明するためのフローチャートである。
図5】未充填欠陥の発生の様子を観察した実験結果を示す図である。
図6】基板上のインプリント材と型との接触状態、及び、観察部で取得される画像を示す図である。
図7図6に示す各状態を詳細に説明するための図である。
図8図6に示す各状態を詳細に説明するための図である。
図9】型チャックから型を落下させる力を計算した結果を示す図である。
図10】型のコアアウトの厚さと最大応力との関係を計算した結果を示す図である。
図11】型と基板とが接触した状態を模式的に示す図である。
図12】型のコアアウトに加える圧力と、吸着力と落下力とを合算した合算力との関係を示す図である。
図13】型のコアアウトに加える圧力と最大応力との関係を示す図である。
図14】基本的な制御プロファイルを説明するための図である。
図15】本実施形態における制御プロファイルを説明するための図である。
図16】型のコアアウトに加える圧力と、型の最大変形量との関係を示す図である。
図17】型の曲率を評価する評価方法を説明するための図である。
図18図14に示す基本的な制御プロファイルを用いて、型の曲率を評価した結果を示す図である。
図19図15に示す本実施形態における制御プロファイルを用いて、型の曲率を評価した結果を示す図である。
図20】圧力制御プロファイルを示す図である。
図21図20に示す圧力制御プロファイルに対するシミュレーションの結果を示す図である。
図22】圧力制御プロファイルを示す図である。
図23図22に示す圧力制御プロファイルに対するシミュレーションの結果を示す図である。
図24】型と基板上のインプリント材との間にトラップされた気体の分子数を表すマップを示す図である。
図25】型と基板上のインプリント材との間にトラップされた気体の分子数を表すマップを示す図である。
図26】物品の製造方法を説明するための図である。
図27図1に示すインプリント装置を平坦化装置として用いる場合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置IMPの構成を示す概略図である。インプリント装置IMPは、半導体デバイス、磁気記憶媒体、液晶表示素子などの製造工程であるリソグラフィ工程に採用され、基板にパターンを形成するリソグラフィ装置である。インプリント装置IMPは、型を用いて基板上の組成物であるインプリント材を成形する成形処理を行う成形装置として機能する。本実施形態では、インプリント装置IMPは、基板上に供給されたインプリント材と型とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型のパターンが転写された硬化物のパターンを形成する。なお、型は、モールド、テンプレート、或いは、原版とも称される。
【0016】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料(硬化性組成物)が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。
【0017】
硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。
【0018】
インプリント材は、スピンコーターやスリットコーターによって基板上に膜状に付与されてもよい。また、インプリント材は、液体噴射ヘッドによって、液滴状、或いは、複数の液滴が繋がって形成された島状又は膜状で基板上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0019】
基板には、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられ、必要に応じて、その表面に基板とは別の材料からなる部材が形成されていてもよい。具体的には、基板は、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスなどを含む。
【0020】
インプリント装置IMPは、図1に示すように、基板ステージ3と、基板チャック5と、インプリントヘッド6と、圧力調整部7と、型チャック9とを有する。また、インプリント装置IMPは、リレー光学系12と、バンドパスフィルタ13と、観察部14と、第1計測部15と、第2計測部16と、制御部18と、記憶部19と、照射系30とを有する。
【0021】
本明細書及び添付図面では、基板4の表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれを、θX、θY及びθZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御及び駆動(移動)は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動(移動)を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸周りの回転、Y軸に平行な軸周りの回転、Z軸に平行な軸周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。
【0022】
型1は、矩形の外形形状を有し、石英基板で構成されている。型1は、基板側の第1面1aの中央部に、基板4(の上のインプリント材)に転写すべきパターン(凹凸パターン)が形成されたメサ領域2を有する。メサ領域2は、基板上のインプリント材を形成する際に、メサ領域2を除く領域が基板4に接触することを防止するために、その周囲の領域よりも高くなるように、即ち、段差構造を有するように形成されている。また、型1は、メサ領域2を含む第1面1aとは反対側の第2面1bに、円筒状の凹部であるコアアウト8(窪み構造)を有する。コアアウト8は、キャビティとも呼ばれ、一般的に、コアアウト8の中心がメサ領域2の中心と重なるように形成されている。
【0023】
インプリントヘッド6は、例えば、型1を真空吸着又は静電吸着する型チャック9を介して、型1を保持する。また、インプリントヘッド6は、型チャック9に吸着された型1を基板上のインプリント材に接触させて押し付ける押付部として機能する。インプリントヘッド6は、型チャック9を駆動する(移動させる)駆動部を含む。かかる駆動部は、図2に示すように、3軸の駆動系DZ1、DZ2及びDZ3を含む。図2は、インプリントヘッド6の駆動部の構成の一例を示す図である。駆動系DZ1、DZ2及びDZ3は、例えば、Z方向に独立駆動可能なアクチュエータで構成されている。インプリントヘッド6の位置や姿勢(状態)は、インプリント装置IMPに設けられた各種のセンサ、例えば、インプリントヘッド6に内蔵された高さセンサ及び力センサ(不図示)によってリアルタイムに計測(観察)することが可能である。
【0024】
圧力調整部7は、型1に設けられたコアアウト8の圧力を調整する。コアアウト8は、型1を基板上のインプリント材に接触させる際に、型1、具体的には、メサ領域2を基板側に凸形状に変形させ、メサ領域2の中心部分から、インプリント材との接触領域を徐々に広げることを目的に設けられている。具体的には、圧力調整部7がコアアウト8の圧力を外部の圧力よりも高くすることで、型1のメサ領域2を基板側に凸形状に変形させることができる。このように、圧力調整部7は、型1の第1面1aとは反対側の第2面1bに力を与えて第1面1aを基板側に凸形状に変形させる変形部として機能する。本実施形態では、圧力調整部7は、型1のコアアウト8の圧力を調整することによって、コアアウト8(第2面1b)に力を与えてメサ領域2(第1面1a)を基板側に凸形状に変形させる。型1のメサ領域2を基板側に凸形状に変形させることで、型1(メサ領域2)と基板4(インプリント材)との間に存在する気体を外側(外周)に押し出し、基板上のインプリント材に混入する気泡を低減させることができる。
【0025】
本実施形態では、リレー光学系12は、インプリントヘッド6の内部に配置され、バンドパスフィルタ13及び照射系30は、インプリントヘッド6の上部に配置されている。照射系30は、基板上のインプリント材と型1とが接触している状態において、バンドパスフィルタ13及びリレー光学系12を介して、光(例えば、紫外線)を基板上のインプリント材に照射してインプリント材を硬化させる。
【0026】
観察部14は、インプリントヘッド6の上部に配置されている。観察部14は、バンドパスフィルタ13及びリレー光学系12を介して、型1のメサ領域2や基板4のショット領域を観察する。具体的には、観察部14は、基板上のインプリント材が型1によって押し広げられる様子や型1と基板4との間の狭ギャップによって形成される干渉縞を観察して画像を取得する。また、観察部14は、型1(メサ領域2)と基板上のインプリント材との接触面積(接触領域)の広がりに関する情報を取得する取得部としても機能する。
【0027】
基板ステージ3は、例えば、基板4を真空吸着又は静電吸着する基板チャック5を介して、基板4を保持する。基板ステージ3は、基板チャック5をX方向及びY方向に駆動する(移動させる)ことで、基板4の全面(全てのショット領域)に対するインプリント処理を可能にする。
【0028】
基板ステージ3には、型1の基板側の第1面1aの高さ、例えば、メサ領域2の高さを計測する第1計測部15が設けられている。従って、第1計測部15が型1の下を通過するように基板ステージ3を移動させることで、第1計測部15は、型1のメサ領域2の形状(面形状)やチルト量を計測することができる。
【0029】
また、インプリント装置IMPには、基板ステージ3に対向するように、基板4の高さを計測する第2計測部16が設けられている。従って、基板4が第2計測部16の下を通過するように基板ステージ3を移動させることで、第2計測部16は、基板4の形状(面形状)やチルト量を計測することができる。
【0030】
制御部18は、CPUやメモリなどを含む情報処理装置(コンピュータ)で構成され、記憶部19に記憶されたプログラムに従って、インプリント装置IMPの全体を制御する。制御部18は、インプリント装置IMPの各部を制御して、型1のメサ領域2(第1面1a)と基板上のインプリント材(組成物)とを接触させてメサ領域2と基板4との間にインプリント材の膜を形成する処理を制御する。本実施形態において、インプリント材の膜を形成する処理とは、基板上の複数のショット領域のそれぞれにインプリント材のパターンを形成するインプリント処理である。制御部18は、観察部14で取得された画像を解析してインプリント処理を評価し、その結果をインプリント処理に反映させることが可能である。例えば、制御部18は、第1計測部15や第2計測部16の計測結果(型1のメサ領域2の面形状及びチルト量や基板4の面形状及びチルト量)を取得して、型1と基板4とのレベリング状態を確認する。そして、制御部18は、型1と基板4とのレベリング状態に基づいて、インプリントヘッド6や圧力調整部7を介して、インプリントヘッド6の状態(位置や姿勢)や型1の状態(形状)を制御する。
【0031】
ここで、図4を参照して、一般的なインプリント処理について具体的に説明する。図4は、一般的なインプリント処理を説明するためのフローチャートである。インプリント処理は、通常、型1と基板4とのレベリング状態を平行に維持した状態で行われる。詳細には、型1のメサ領域2と基板4のショット領域とのレベリングを平行にすることで、理想的なインプリント処理を実現しようとしている。そこで、型1のメサ領域2の面形状(高さ方向(Z方向)の位置)及びチルト量を第1計測部15(装置上)で予め計測し、更に、基板4の面形状及びチルト量を第2計測部16で予めグローバルに計測することで、両者のレベリング状態を取得する。そして、S402において、型1又は基板4の目標とするチルト位置(目標チルト位置)を設定するとともに、型1のメサ領域2と基板4との間のギャップ量も設定する。
【0032】
次いで、S404において、図3に示すように、圧力調整部7を介して型1のコアアウト8に圧力を加え(印加し)、型1のメサ領域2を基板側に膨らませて凸形状に変形させる。これは、上述したように、型1と基板上のインプリント材との接触を開始する際に、基板上のインプリント材に気泡が閉じ込められにくくするためである。なお、型1のメサ領域2の変形量、即ち、圧力調整部7から型1のコアアウト8に加える圧力の値は、予め設定されている。図3は、インプリント装置IMPにおいて、型1のメサ領域2を基板側に凸形状に変形させた状態を示す図である。
【0033】
次に、S406において、型1と基板上のインプリント材とを接触させる接触工程を開始する。具体的には、基板ステージ3によってX方向及びY方向に位置決めされた基板4に対して、インプリントヘッド6が、型1を吸着した型チャック9をZ方向に降下させて、型1のメサ領域2の中心部分を基板上のインプリント材に接触させる。更に、その状態を維持しながら、力制御によって所定の力になるまで型チャック9をZ方向に降下させ、型1のメサ領域2の全域まで基板上のインプリント材を押し広げる。この際、型1の高さ(Z方向の位置)制御、チルト制御及び力制御は、インプリントヘッド6の駆動部を構成する駆動系DZ1、DZ2及びDZ3のそれぞれの駆動を制御することで実現される。
【0034】
次いで、型1のメサ領域2の全域まで基板上のインプリント材を押し広げたら、S408において、圧力調整部7を介して型1のコアアウト8の圧力を下げて(低下させ)、型1のメサ領域2の形状を元に戻す。S408では、最終的に、型1と基板4とのレベリング状態を平行にする。そして、S410において、基板上のインプリント材を型1に充填する充填工程に移行し、所定の期間(基板上のインプリント材が型1に充填されるまで)、型1と基板4とのレベリング状態を平行に維持する。なお、充填工程に移行する前の工程、具体的には、S406の工程とS408の工程とを含む工程は、ダイナミックスプレッド工程とも呼ばれる。
【0035】
次に、S412において、基板上のインプリント材が型1に充填されたら、照射系30からインプリント材に光を照射してインプリント材を硬化させる(硬化工程)。その後、S414において、インプリントヘッド6によって型チャック9をZ方向に上昇させて、基板上の硬化したインプリント材から型1を引き離す(離型工程)。
【0036】
図4では、インプリント処理の通常のシーケンスについて説明したが、装置校正を目的として、基板上にインプリント材が存在しない状態でも同様なシーケンスを行うことが可能である。また、圧力制御(型1を基板側に凸形状に変形させる制御)、型1の高さ(Z方向の位置)制御、チルト制御及び力制御は、制御プロファイルとして記憶部19に予め記憶され、制御部18によって実行される。
【0037】
インプリント処理では、生産性(スループット)の更なる向上を実現するために、ダイナミックスプレッド工程に要する時間を短縮することが求められている。ダイナミックスプレッド工程に要する時間を変化させて未充填欠陥の発生の様子を観察した実験結果を図5(a)、図5(b)及び図5(c)に示す。図5(a)、図5(b)、図5(c)は、それぞれ、ダイナミックスプレッド工程に要する時間を、0.6秒、0.5秒、0.4秒とした場合の実験結果を示している。但し、充填工程が終了するまでの時間(ダイナミックスプレッド工程に要する時間と充填工程に要する時間との和)は、0.8秒で同じ条件としている。ここで、図5(a)、図5(b)及び図5(c)を参照するに、ダイナミックスプレッド工程に要する時間が短くなるにつれて、未充填欠陥が発生しやすくなり、未充填欠陥(の発生数)が増加していることがわかる。従って、ダイナミックスプレッド工程に要する時間をみやみに短縮すると、未充填欠陥が増加して、生産性を低下させることにつながる。
【0038】
ここで、ダイナミックスプレッド工程に要する時間を変化させた実験結果について考察する。図6(a)、図6(b)及び図6(c)は、基板上のインプリント材と型1(メサ領域2)との接触状態、及び、かかる接触状態に対応して観察部14で取得される画像40を示す図であって、それぞれ、互いに異なる接触状態を示している。図6(a)、図6(b)及び図6(c)では、互いに異なる接触状態を、型1の形状(変形量)を示す曲面50、60及び70として表している。
【0039】
図6(a)は、基板上のインプリント材と型1とが接触していない状態を示し、かかる状態において観察部14で取得される画像40には、干渉パターンは含まれていない。
【0040】
図6(b)は、基板上のインプリント材と型1とが、接触境界43で規定される接触径(距離)で接触している状態を示し、かかる状態において観察部14で取得される画像40には、干渉パターンIF43が含まれている。干渉パターンIF43は、接触境界43の近傍での干渉縞の間隔が狭いため、接触境界43の近傍での型1の凸形状の傾き(曲面60の曲率)が大きいことがわかる。
【0041】
図6(c)は、基板上のインプリント材と型1とが、接触境界44で規定される接触径(距離)で接触している状態を示し、かかる状態において観察部14で取得される画像40には、干渉パターンIF44が含まれている。詳細には、図6(c)は、型1のコアアウト8に加える圧力を一定に維持しながら、型1を基板上のインプリント材に押し込み続けることで接触境界43が接触境界44になった状態を示している。干渉パターンIF44は、接触境界44の近傍での干渉縞の間隔が広いため、型1の凸形状の傾き(曲面70の曲率)が、図6(b)に示す型1の凸形状の傾き(曲面60の曲率)と比較して、より小さくなっていることがわかる。
【0042】
図7及び図8を参照して、図6(a)、図6(b)及び図6(c)に示す各状態について詳細に説明する。図7では、基板上のインプリント材と型1とが接触していない状態(図6(a))での型1の形状(曲面50)を高さカーブC50で示している。また、基板上のインプリント材と型1とが、接触境界43で規定される接触径で接触している状態(図6(b))での型1の形状(曲面60)を高さカーブC60で示している。同様に、基板上のインプリント材と型1とが、接触境界44で規定される接触径で接触している状態(図6(c))での型1の形状(曲面70)を高さカーブC70で示している。
【0043】
図6(a)、図6(b)及び図6(c)に示す干渉パターンの観察から、接触境界の近傍での干渉縞の間隔は、基板上のインプリント材と型1との接触面積が大きくなるにつれて、大きくなることがわかる。図7を参照するに、干渉縞の半ピッチの高さを破線80で示すと、干渉縞の間隔が広くなるとは、接触境界が大きくなることを意味する。換言すれば、干渉縞の間隔が広くなるにつれて、図8に示すように、型1の凸形状の傾き(曲面50、60及び70の曲率)が小さくなることがわかる。
【0044】
図8を参照するに、接触境界での型1の凸形状の傾きは、接触径が大きくなるショット領域の周辺部で小さくなることになる。従って、ショット領域の周辺部では、接触境界での型1と基板4との相対的な傾き(曲率)が小さくなる。これは、型1を凸形状に変形させることで型1と基板4との間に存在する気体をインプリント材の広がりよりも早く外側に押し出し、基板上のインプリント材に混入する気泡を低減させるという効果がショット領域の周辺部では小さくなることを意味する。
【0045】
ここで、上述した実験結果に戻ると、ダイナミックスプレッド工程に要する時間にかかわらず、接触境界での型1と基板4との相対的な傾きが、特に、メサ領域2(ショット領域)の周辺部で小さくなることは、図5(c)に示す未充填欠陥の分布から理解できる。但し、このような傾向は、ダイナミックスプレッド工程に要する時間を短くしたことで顕著になることも示唆している。これは、基板上のインプリント材を押し広げる速度を速くしたことで型1と基板4との間に存在する気体の圧力が高まり、型1と基板4との間(基板上のインプリント材)にトラップされた気体の分子数が増加したことが主要因と考えられる。
【0046】
このような課題を解決するために、気体の透過性の高い材料を型1や基板4に積層することが考えられるが、気体の透過性の高い材料を積層する工程が増えることに加えて、型1や基板4のコスト増加につながる。
【0047】
一方、インプリント装置IMPにおいて、接触境界での型1の凸形状の傾き(曲面の曲率)を大きくすることで、基板上のインプリント材を押し広げる速度を速くすることに起因する、トラップされる気体の分子数の増加を抑制することが考えられる。例えば、特許文献4に開示されているように、型1のコアアウト8の厚さ、寸法(サイズ)、形状などを変更することで、型1の変形量、即ち、接触境界での型1の凸形状の傾きを変えることが可能である。但し、型1のコアアウト1の厚さ、寸法、形状などの変更は、型1の落下や破損の危険性を伴うため、設計値の再検討(見直し)が必要となる。このような設計値の再検討には、多くの時間やリソースを要することになるため、インプリント装置IMPの生産性(スループット)の向上の妨げとなる。
【0048】
従って、本実施形態では、接触境界での型1の凸形状の傾きを大きくするために、型1のコアアウト8(第2面1b)に加える圧力を大きくして、型1(メサ領域2)の変形量を大きくする。但し、型1の変形量を大きくすることで、型1が型チャック9から落下して破損する可能性も高まる。そこで、本発明者は、圧力調整部7から型1のコアアウト8に適当に圧力を加え、型1に対して、型チャック9から型1を落下させる力がどの程度作用するかを計算により求めた。かかる計算における装置条件を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す装置条件で計算した結果を図9に示す。図9において、MVacは、型チャック9による型1の吸着力(保持力)を示し、BPFは、型1が落下しようとする力(落下力)を示し、TotalVacは、吸着力MVacと落下力BPFとを合算した力(合算力)を示している。ここでの符号は、型チャック9から型1を落下させる方向をプラスとしている。
【0051】
図9を参照するに、型1のコアアウト8に加える圧力が大きくなると、それに比例して型1が落下しようとする落下力(BPF)は大きくなる。一方、型チャック9による型1の吸着力(MVac)は、型1のコアアウト8に加える圧力に影響されず、一定である。従って、吸着力(MVac)と落下力(BPF)とを合算した合算力(TotalVac)は、型1のコアアウト8に加える圧力に比例して大きくなり、ゼロを超えると、型チャック9から型1が落下することになる。このため、型1のコアアウト8に加える圧力を安易に大きくすることは、設計上簡単ではない。
【0052】
また、本発明者は、型1のコアアウト8の厚さと、型1のコアアウト8に圧力を加えた際にコアアウト8の周辺部(へり部)にかかる最大応力との関係を計算により求めた。図10は、型1のコアアウト8の厚さとコアアウト8の周辺部にかかる最大応力との関係を計算した結果を示す図である。図10において、曲線PAは、型1のコアアウト8に加える圧力を基準圧力値とした場合の関係を示している。また、曲線PBは、型1のコアアウト8に加える圧力を基準圧力値よりも小さい圧力値とした場合の関係を示し、曲線PCは、型1のコアアウト8に加える圧力を基準圧力値よりも大きい圧力値とした場合の関係を示している。
【0053】
図10を参照するに、型1のコアアウト8の厚さを現状の1.1mmよりも薄くすると、コアアウト8の周辺部(へり部)にかかる最大応力(σmax)が大きくなることがわかる。また、型1のコアアウト8に加える圧力を大きくすると、曲線(曲線PC)が上昇し、即ち、最大応力が大きくなる。型1のコアアウト8の周辺部にかかる最大応力が大きくなると、型1が破損する可能性が高くなるため、型1のコアアウト8の厚さや型1のコアアウト8に加える圧力は、安全上簡単には変えられない。
【0054】
上述したように、型1のコアアウト8に加える圧力を変更するには、安全性を担保する必要がある。ここでは、安全性を担保し、且つ、型1へのインプリント材の充填性能を向上させる具体的な手法について説明する。
【0055】
図11は、型1と基板4(基板上のインプリント材)とが接触した状態を模式的に示す図である。まず、型側の状態、具体的には、型2のコアアウト8の直径を2Rとし、コアアウト8に加える圧力の圧力値をPとし、基板4からの反力がない状態について計算する。この場合、型1のコアアウト8の周辺部にかかる最大応力σmax及び型1の最大変形量(撓み量)Wmaxは、以下の式(1)から求めることができる。
【0056】
【数1】
【0057】
式(1)において、tは、型1のコアアウト8の厚さを表し、vは、型1のポアソン比を表し、Eは、型1の縦弾性係数を表している。
【0058】
また、型1が基板4に力Fで保持されている状態に関しての最大応力σmax及び最大変形量Wmaxは、型1と基板4との接触領域の径をaとすると、以下の式(2)から求めることができる。
【0059】
【数2】
【0060】
型1と基板4とが接触した最終的な状態は、式(1)と式(2)との合算で表される。型1のコアアウト8に加える圧力の圧力値P、及び、型1と基板4との接触時の力Fを変更しながら計算を行って、設計値と照らし合わせた結果を図12及び図13に示す。なお、その他の条件、例えば、コアアウト8の厚さt、コアアウト8の直径2R、接触領域の径a、型1の材料の係数などは標準値を用いて計算を行った。
【0061】
図12は、型1のコアアウト8に加える圧力と、型チャック9による型1の吸着力と型1が落下しようとする落下力とを合算した合算力(TotalVac)との関係を示す図であって、型1が型チャック9から落下する可能性がある落下領域100を示している。図12を参照するに、型チャック9が型1を吸着する吸着力が-50Nを下回らない条件であれば、型1が型チャック9から落下することはなく、安全性が担保されているといえる。
【0062】
また、図13は、型1のコアアウト8に加える圧力と、コアアウト8の周辺部にかかる最大応力(σmax)との関係を示す図であって、型1が破損する可能性がある破損領域101を示している。図13を参照するに、最大応力が設計値である18N/mmを超えない条件であれば、型1が破損することはなく、安全性が担保されているといえる。
【0063】
ここで、安全性が担保されている条件(型1のコアアウト8に加える圧力の圧力値Pと、型1と基板4との接触時の力Fとの組み合わせ条件)を満足し、且つ、型1へのインプリント材の充填性を向上させるための制御プロファイルについて考える。型1と基板4(基板上のインプリント材)とが接触した状態、即ち、接触中における型1の凸形状の傾き(以下、「曲率」と称する)は、型1と基板4とが接触していない状態における型1の曲率よりも小さくなる。従って、型1の曲率が最も小さくなる箇所において、かかる箇所の手前から型1の曲率を現状よりも徐々に大きくしていければ、かかる箇所でのインプリント材の充填性を向上させることができる。型1の曲率が最も小さくなる箇所は、型1のメサ領域2の周辺部、特に、コーナー部の近傍であるため、メサ領域2のコーナー部までの制御プロファイルを、安全性が担保されている条件の範囲内で調整すればよいことになる。
【0064】
まず、図14を参照して、基本的な制御プロファイルについて説明する。圧力制御プロファイル102は、型1のコアアウト8に加える圧力の圧力値を示すプロファイルであって、動的な接触工程から静的な充填工程に移行するまでのプロファイルを示している。圧力制御プロファイル102には、初期値として、通常、型チャック9から型1が落下せず、且つ、型1を破損しないような圧力値が設定されている。また、圧力制御プロファイル102には、所定の期間の経過後に、圧力値を初期値から0まで急峻に減少させるような圧力値が設定されている。力制御プロファイル103は、インプリントヘッド6が型1を基板上のインプリント材に押し付ける押付力の値を示すプロファイルであって、動的な接触工程から静的な充填工程に移行するまでのプロファイルを示している。力制御プロファイル103には、初期値として、型1と基板上のインプリント材とが接触した初期状態から力を増大させ、型1と基板上のインプリント材との接触面積を広くするような押付力の値が設定されている。また、力制御プロファイル103には、所定の期間の経過後に、押付力の値を初期値から0まで急峻に減少させるような押付力の値が設定されている。
【0065】
次いで、図15を参照して、本実施形態における制御プロファイルについて説明する。圧力制御プロファイル104は、型1のコアアウト8に加える圧力の圧力値を示すプロファイルであって、動的な接触工程から静的な充填工程に移行するまでのプロファイルを示している。圧力制御プロファイル104には、初期値として、圧力制御プロファイル102と同様な圧力値が設定されている。また、圧力制御プロファイル104には、型1と基板上のインプリント材とが接触した後、インプリントヘッド6が基板上のインプリント材に押付力を加えている間に、圧力値を初期値から上昇させるような圧力値が設定されている。但し、圧力制御プロファイル104に設定される圧力値は(即ち、圧力値を初期値から上昇させるような圧力値であっても)、上述したように、安全性が担保されている条件の範囲内で設定されている。具体的には、以下の式(3)に示す関係を満たすように、圧力制御プロファイル104(型1のコアアウト8に加える圧力の圧力値)を設定する。
【0066】
【数3】
【0067】
式(3)において、BP(0)は、型1のコアアウト8に加える圧力の初期値を表し、BP(t)は、型1と基板上のインプリント材とが接触してからt秒後の圧力値を表している。また、aは、型1のコアアウト8に加える圧力の力-圧力換算係数[N/kpa]を表し、IHF(0)は、インプリントヘッド6の押付力の初期値を表し、IHF(t)は、型1と基板上のインプリント材とが接触してからt秒後の押付力を表している。なお、型1のコアアウト8に加える圧力を大きくする方向を力のプラスとし、押付力を加える力の方向はマイナスとする。
【0068】
式(3)は、接触工程を開始してから型1と基板上のインプリント材とが接触した後、式(3)に示す関係式を満たしていれば、いつでも、型1のコアアウト8に加える圧力の増加を開始する圧力制御プロファイルを作成することができることを意味している。
【0069】
また、力制御プロファイル105は、インプリントヘッド6が型1を基板上のインプリント材に押し付ける押付力の値を示すプロファイルであって、動的な接触工程から静的な充填工程に移行するまでのプロファイルを示している。力制御プロファイル105には、初期値として、型1と基板上のインプリント材とが接触した初期状態から力を増大させ、型1と基板上のインプリント材との接触面積を広くするような押付力の値が設定されている。また、力制御プロファイル105には、所定の期間の経過後に、押付力の値を初期値から0まで急峻に減少させるような押付力の値が設定されている。なお、図15を参照するに、型1と基板上のインプリント材とを接触させた後の各時刻において、型1のコアアウト8に加える圧力(力)は、インプリントヘッド6の押付力よりも小さい。
【0070】
力制御プロファイル105には、力制御プロファイル103に設定されている押付力の値よりも大きい押付力の値が設定されている。これは、力制御プロファイル105は、圧力制御プロファイル104と同期(連動)させる必要があり、型1のコアアウト8に加える圧力を大きくすれば、それに同期させて、インプリントヘッド6の押付力も大きくする必要があるからである。
【0071】
図16は、型1のコアアウト8に加える圧力と、型1の最大変形量(Wmax)との関係を示す図である。図16を参照するに、例えば、インプリントヘッド6の押付力を40Nとすると、型1のコアアウト8に加える圧力を圧力値BPAから圧力値BPCにしても、型1の変形量を同等にするためには、60Nに近い押付力が必要であることがわかる。従って、力制御プロファイル105を圧力制御プロファイル104に同期させて、インプリントヘッド6が基板上のインプリント材を押し広げる速度を一定に維持するように、力制御プロファイル105を作成する必要がある。
【0072】
このように、本実施形態では、制御部18は、インプリント処理、具体的には、ダイナミックスプレッド工程において、圧力調整部7を介して、型1のコアアウト8に加える圧力を制御する。具体的には、型1のメサ領域2とインプリント材とを接触させた後に圧力調整部7がコアアウト8に与える力(圧力)が、メサ領域2とインプリント材とを接触させる前に圧力調整部7がコアアウト8に与えていた力よりも大きくなるようにする。例えば、型1とインプリント材を接触させる前にメサ領域2が基板側に凸形状となるように、圧力調整部7が調整すべきコアアウト8の圧力を第1圧力値(初期値)に設定する。そして、型1をインプリント材に接触させて押し付けている間に、圧力調整部7が調整すべきコアアウト8の圧力を第1圧力値よりも大きい第2圧力値に設定する。これにより、図15に圧力制御プロファイル104として示すような圧力制御を実現することができる。なお、本実施形態では、型1とインプリント材を接触させてから予め定められた時間内に、圧力調整部7が調整すべきコアアウト8の圧力を、第1圧力値から第1圧力値よりも大きい第2圧力値に変更する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、型1とインプリント材とが接触したタイミングで、圧力調整部7が調整すべきコアアウト8の圧力を、第1圧力値から第1圧力値よりも大きい第2圧力値に変更してもよい。
【0073】
また、上述したように、ダイナミックスプレッド工程では、インプリントヘッド6が型1をインプリント材に押し付ける押付力と、圧力調整部7が型1のコアアウト8に加える圧力(力)とが同期するように、インプリントヘッド6及び圧力調整部7を制御する。また、インプリント材を押し広げる速度が一定となるように(即ち、型1とインプリント材との接触面積が一定の速度で広がるように)、例えば、観察部14で取得される接触面積の広がりに関する情報に基づいて、インプリントヘッド6を制御する。このような制御は、ダイナミックスプレッド工程に含まれる押付力を増加させる期間及び押付力を減少させる期間のうち、特に、押付力を増加させる期間で行うことが有用である。
【0074】
以下、本実施形態における制御プロファイルを用いてシミュレーションを行った結果について説明する。シミュレーションには、本出願人が開発したシミュレータ(Nilus:Nano Imprint Lithography Unified Simulator)を用いた。かかるシミュレータは、制御プロファイルから型1と基板4との間に存在する気体の圧力(ガス圧)を計算し、ガス圧に応じた型1の変形を計算することができる。これにより、型1と基板上のインプリント材との接触境界での型1の曲率を評価することができる。更に、型1と基板上のインプリント材との間に閉じ込められる気体の分子数を計算することで、インプリント材の充填の速度(充填速度)を評価することができる。
【0075】
まず、接触境界での型1の曲率として、型1のメサ領域2のコーナー部の曲率を評価した。評価条件としては、型1の寸法を150mm×150mm、メサ領域2の寸法を26mm×33mm、メサ領域2の高さを30μm、メサ領域2に形成されているパターンを数十nmの異なる寸法のピラーパターンとした。また、基板上のインプリント材のドロップパターンを、千鳥状配列の標準的な繰り返しグリッドパターンとした。
【0076】
図17を参照して、型1の曲率を評価する評価方法について説明する。図17に示すように、型1のメサ領域2を規定する外形106に対して、メサ領域2の左下のコーナーからメサ領域2の中心に向かう矢印107に沿った断面をプロットすることで、型1の曲率を評価した。
【0077】
図18は、図14に示す基本的な制御プロファイルを用いて型1の曲率を評価した結果を示す図である。図18には、基本的な制御プロファイルとして互いに異なる2種類の制御プロファイルを用いて型1の曲率を評価した結果を、プロット108及び109として示している。また、図19は、図15に示す本実施形態における制御プロファイルを用いて型1の曲率を評価した結果を示す図である。図19には、本実施形態における制御プロファイルとして互いに異なる2種類の制御プロファイルを用いて型1の曲率を評価した結果を、プロット110及び111として示している。上述した4つの互いに異なる制御プロファイルに対する評価において、プロット108乃至111は、同時刻(具体的には、ダイナミックスプレッド工程に要する時間の設定値である0.2秒)における型1の曲率を表している。
【0078】
図14に示す基本的な制御プロファイルに対応するプロット108とプロット109とを比較する。プロット108で示される接触境界での型1の曲率は、プロット109で示される接触境界での型1の曲率よりも高い。但し、プロット108では、接触境界の距離がメサ領域2のコーナー(0mm)から遠く、ダイナミックスプレッド工程に要する時間内に、メサ領域2のコーナー部が基板上のインプリント材に押し付けられていない。一方、プロット109では、接触境界の距離がメサ領域2のコーナーに近接しているようだが、実際には、プロット108と大差がなく、型1の曲率が非常に小さい状態でメサ領域2のコーナー部の近傍まで続いていると考えられる。従って、プロット109でも、プロット108と同様に、メサ領域2のコーナー部が基板上のインプリント材に十分に押し付けられていない。
【0079】
このように、図14に示す基本的な制御プロファイルでは、0.2秒の時間内に、ダイナミックスプレッド工程(基板上のインプリント材に対する型1の押し付け)を完了することができない。また、基板上のインプリント材を押し広げる速度を速くしても、型1の曲率が著しく小さくなることで、型1と基板上のインプリント材との間に気体が閉じ込めやすくなるため、インプリント材の充填性を向上させることが困難となる。なお、気体の閉じ込めに関しては、具体例を挙げて後で補足的に説明する。
【0080】
一方、図15に示す本実施形態における制御プロファイルに対応するプロット110及び111を参照するに、プロット108及び109に比べて、接触境界の距離がメサ領域2のコーナーに近い。また、プロット110及び111では、型1の曲率が非常に高い状態を維持しており、メサ領域2のコーナー部が基板上のインプリント材に十分に押し付けられていることがわかる。
【0081】
このように、本実施形態における制御プロファイルは、ダイナミックスプレッド工程に要する時間を短縮したとしても、メサ領域2のコーナー部の近傍での型1の曲率を高く維持することを可能にしている。
【0082】
ここで、接触境界での型1の曲率の違いについて具体的に説明する。型1のコアアウト8に加える圧力を3種類の圧力値とし、それぞれでインプリント処理を行い、接触境界のメサ領域2の中心からの距離がほぼ同じ状態で型1の曲率をシミュレーションから計算して評価した。図20に示すように、接触工程を0.5秒とし、圧力値を28kPaとする圧力制御プロファイルPCPA、圧力値を34kPaとする圧力制御プロファイルPCPB、圧力値を40kPaとする圧力制御プロファイルPCPCを作成した。図21は、図20に示す3つの圧力制御プロファイルPCPA、PCPB及びPCPCのそれぞれに対するシミュレーションの結果を示す図である。図21を参照するに、型1のコアアウト8に加える圧力が28kPa以上であれば、型1の曲率の違いはほぼないことがわかる。
【0083】
次に、図22に示すように、接触工程を0.2秒とし、圧力値を28kPaとする圧力制御プロファイルPCPA’、圧力値を34kPaとする圧力制御プロファイルPCPB’、圧力値を40kPaとする圧力制御プロファイルPCPC’を作成した。そして、圧力制御プロファイルPCPA’、PCPB’及びPCPC’のそれぞれでインプリント処理を行い、接触境界のメサ領域2の中心からの距離がほぼ同じ状態で型1の曲率をシミュレーションから計算して評価した。図23は、図22に示す3つの圧力制御プロファイルPCPA’、PCPB’及びPCPC’のそれぞれに対するシミュレーションの結果を示す図である。図23を参照するに、図21に示す結果とは大きく異なり、型1のコアアウト8に加える圧力を大きくすることで型1の曲率が大きくなり、圧力制御プロファイルPCPAに対するシミュレーションの結果に近づくことがわかる。
【0084】
図23に示す型1の曲率を示すカーブを比較すると、圧力制御プロファイルPCPAでは、メサ領域2のコーナー部から遠い10mm付近でのメサ領域2の高さが約35nmとなっている。これは、基板上のインプリント材の量やドロップ数から決まるインプリント材の高さに相当する。また、メサ領域2のコーナー部に近づくと、例えば、6mm位から急激にメサ領域2の高さが大きくなっている。一方、圧力制御プロファイルPCPC’、PCPB’、PCPA’の順に、10mm付近から徐々にメサ領域2の高さが大きくなり、6mmを過ぎても大きく変化せず、緩やかに小さくなっている。このことから、定性的には、型1のコアアウト8に加える圧力及びインプリントヘッド6の押付力を大きくすることで、接触工程を0.2秒とする場合における型1の曲率を、接触工程を0.5秒とする場合における型1の曲率に近づけることが可能である。但し、実際には、インプリント装置IMPにおける制御仕様によって上限が決まるはずである。
【0085】
一般的には、接触工程に要する時間を短縮することで、接触境界での型1の曲率が型1と基板上のインプリント材との間の気体の圧力に大きく影響されるため、型1の曲率を高く維持することが困難になると考えられる。但し、本実施形態の制御プロファイルによれば、接触工程に要する時間を短縮したとしても、接触工程に要する時間を短縮する前と同等に、型1の曲率を高く維持することができる。
【0086】
次いで、インプリント処理における型1の曲率の違いから、型1と基板上のインプリント材との間にトラップされる気体の分子数の違いを評価した。図24(a)及び図24(b)は、型1と基板上のインプリント材との間にトラップされた気体の分子数を表すマップを示す図である。図24(a)及び図24(b)では、黒い領域が気体の分子数が多い状態を表し、白い領域が気体の分子数が少ない状態を表している。図24(a)は、図18に示すプロット108に対応するマップ112を示し、図24(b)は、図18に示すプロット109に対応するマップ113を示している。
【0087】
図24(a)及び図24(b)を参照するに、マップ112及び113は、気体の分子数に関して同様な分布を有し、メサ領域2のコーナー部の近傍で気体の分子数が多くなっていることがわかる。マップ113は、マップ112と比べて、黒い領域が広いことから、上述したように、型1の曲率がより小さくなるプロット109の影響を受けていると考えられる。また、型1の曲率がそれほど小さくないプロット108においても、メサ領域2のコーナー部が基板上のインプリント材に押し付けられていないため、多くの気体がトラップされ、気体の分子数が多くなったと考えられる。
【0088】
図25(a)及び図25(b)は、型1と基板上のインプリント材との間にトラップされた気体の分子数を表すマップを示す図である。図25(a)及び図25(b)では、黒い領域が気体の分子数が多い状態を表し、白い領域が気体の分子数が少ない状態を表している。図25(a)は、図19に示すプロット110に対応するマップ114を示し、図25(b)は、図19に示すプロット111に対応するマップ115を示している。
【0089】
図25(a)及び図25(b)を参照するに、マップ114及び115は、マップ112及び113とは異なり、メサ領域2のコーナー部の近傍における黒い領域が消え、トラップされる気体の分子数が改善されている。但し、マップ114及び115には、メサ領域2に内接するような帯状の領域が存在している。これらについては、接触距離の時間変化や型1の高さの時間変化の挙動を観察し、気体の圧力の抵抗に対して、基板上のインプリント材が広がる速度を一定にすることで改善することができる。これにより、型1と基板上のインプリント材との間にトラップされる気体を一定にして、トラップされる気体の分子数を最小化させることが可能となる。換言すれば、基板上のインプリント材の広がる速度が一定となる制御プロファイル(圧力制御プロファイル及び力制御プロファイル)を作成すればよい。また、これらの制御プロファイルは、接触工程だけではなく、その後のコアアウト8の圧力を低下させる工程にかけて連続した制御プロファイルとして作成することで、より効果的な改善が可能となる。なお、接触距離の時間変化や型1の高さの時間変化の挙動は、具体的には、シミュレーションの結果、或いは、インプリント装置IMPを用いた実験(インプリント処理を行った結果)から得ることができる。
【0090】
このように、本実施形態よれば、型1の曲率を高く維持することで、型1と基板上のインプリント材との間にトラップされる気体の分子量を減少させることが可能であり、生産性を向上させるのに有利なインプリント装置IMPを提供することができる。
【0091】
インプリント装置IMPを用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは、各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型などである。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMなどの揮発性又は不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAなどの半導体素子などが挙げられる。型としては、インプリント用のモールドなどが挙げられる。
【0092】
硬化物のパターンは、上述の物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入などが行われた後、レジストマスクは除去される。
【0093】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。図26(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
【0094】
図26(b)に示すように、インプリント用の型を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。図26(c)に示すように、インプリント材が付与された基板と型とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、型と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
【0095】
図26(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、型と基板を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材に型の凹凸のパターンが転写されたことになる。
【0096】
図26(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。図26(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
【0097】
なお、本実施形態では、型1として、凹凸パターンが形成された回路パターン転写用の型について説明したが、型1は、凹凸パターンが形成されていない平面部を有する型(平面テンプレート)であってもよい。平面テンプレートは、平面部によって基板上の組成物を平坦化するように成形する平坦化処理(成形処理)を行う平坦化装置(成形装置)に用いられる。平坦化処理は、基板上に供給された硬化性の組成物に平面テンプレートの平面部を接触させた状態で、光の照射によって、或いは、加熱によって硬化性の組成物を硬化させる工程を含む。このように、本実施形態は、平面テンプレートを用いて基板上の組成物を成形する成形装置に適用することができる。
【0098】
基板上の下地パターンは、前工程で形成されたパターンに起因する凹凸プロファイルを有し、特に、近年のメモリ素子の多層構造化に伴い、基板(プロセスウエハ)は、100nm前後の段差を有することもある。基板全体の緩やかなうねりに起因する段差は、フォトリソグラフィ工程で用いられている露光装置(スキャナー)のフォーカス追従機能によって補正可能である。但し、露光装置の露光スリット面積内に収まるピッチの細かい凹凸は、そのまま露光装置の焦点深度(DOF:Depth Of Focus)を消費してしまう。基板の下地パターンを平坦化する従来技術として、SOC(Spin On Carbon)やCMP(Chemical Mechanical Polishing)などの平坦化層を形成する技術が用いられている。しかしながら、従来技術では、図27(a)に示すように、孤立パターン領域Aと繰り返しDense(ライン&スペースパターンの密集)パターン領域Bとの境界部分において、40%~70%の凹凸抑制率しか得られず、十分な平坦化性能が得られない。また、今後、多層化による下地パターンの凹凸差は更に増加する傾向にある。
【0099】
この問題に対する解決策として、米国特許第9415418号には、平坦化層となるレジストのインクジェットディスペンサによる塗布と平面テンプレートによる押印で連続膜を形成する技術が提案されている。また、米国特許第8394282号には、基板側のトポグラフィ計測結果をインクジェットディスペンサによって塗布指示する位置ごとの濃淡情報に反映する技術が提案されている。インプリント装置IMPは、特に、予め塗布された未硬化のレジストに対して、型1の代わりに平面テンプレートを押し当てて基板面内の局所平面化を行う平坦加工(平坦化)装置として適用することができる。
【0100】
図27(a)は、平坦加工を行う前の基板を示している。孤立パターン領域Aは、パターン凸部分の面積が少ない。繰り返しDenseパターン領域Bにおいて、パターン凸部分の占める面積と、パターン凹部分の占める面積とは、1:1である。孤立パターン領域Aと繰り返しDenseパターン領域Bの平均の高さは、パターン凸部分の占める割合で異なった値となる。
【0101】
図27(b)は、基板に対して平坦化層を形成するレジストを塗布した状態を示している。図27(b)には、米国特許第9415418号に提案された技術に基づいてインクジェットディスペンサによってレジストを塗布した状態を示しているが、レジストの塗布には、スピンコーターを用いてもよい。換言すれば、予め塗布された未硬化のレジストに対して平面テンプレートを押し付けて平坦化する工程を含んでいれば、インプリント装置IMPが適用可能である。
【0102】
図27(c)に示すように、平面テンプレートは、紫外線を透過するガラス又は石英で構成され、光源からの紫外線の照射によってレジストが硬化する。平面テンプレートは、基板全体のなだらかな凹凸に対しては基板表面のプロファイルに倣う。そして、レジストが硬化した後、図27(d)に示すように、レジストから平面テンプレートを引き離す。
【0103】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0104】
IMP:インプリント装置 1:型 2:メサ領域 4:基板 6:インプリントヘッド 7:圧力調整部 8:コアアウト 18:制御部
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