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特許7507646曲げ加工部材の製造方法、曲げ加工装置及び曲げ加工装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】曲げ加工部材の製造方法、曲げ加工装置及び曲げ加工装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21D 7/00 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
B21D7/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020156891
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050780
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌也
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-057866(JP,A)
【文献】特開2001-074407(JP,A)
【文献】特開昭61-229421(JP,A)
【文献】特開平07-314042(JP,A)
【文献】米国特許第06003353(US,A)
【文献】米国特許第06571589(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に支持された金属製の被処理材に押圧体を当接させ、前記押圧体に変位を与えて曲げ加工を施す曲げ加工材の製造方法であって、
前記被処理材に前記曲げ加工を施して曲げ部を形成する予備曲げ工程と、
前記被処理材の前記曲げ部に、前記被処理材の変形量が前記予備曲げ工程における変形量Y1よりも大きい目標変形量YTとなるように曲げ加工を行う本曲げ工程と、を有し、
前記本曲げ工程においては、前記被処理材と材質及び形状が同じ試験材に対して前記押圧体に変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yと、xよりも大きい変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yとを決定する予備実験の結果に基づき下記式(1)で表される係数αと、前記予備曲げ工程における変位量X1及び変形量Y1と、を用いて下記式(2)により算出される変位量X2を前記押圧体に与える、曲げ加工材の製造方法。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
X2=X1+(YT-Y1)/α ・・・(2)
【請求項2】
支持体に支持された金属製の被処理材に押圧体を当接させ、前記押圧体に変位を与えて曲げ加工を施す工程を、複数の前記被処理材に対して順次行う曲げ加工材の製造方法であって、
前記被処理材に、変形量が目標変形量YTとなるように前記曲げ加工を行って曲げ部を形成する本曲げ工程を有し、
第n番目(ただし、nは2以上の整数)に曲げ加工が施される前記被処理材の前記本曲げ工程においては、前記被処理材と材質及び形状が同じ試験材に対して前記押圧体に変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yと、xよりも大きい変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yとを決定する予備実験の結果に基づき下記式(1)で表される係数αと、第n-1番目に曲げ加工が施された被処理材の前記本曲げ工程において前記押圧体に付与された変位量Xn-1及び前記被処理材の変形量Yn-1と、を用いて下記式(3)で表される変位量Xを前記押圧体に与える、曲げ加工材の製造方法。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
=Xn-1+(YT-Yn-1)/α ・・・(3)
【請求項3】
請求項1または2に記載の曲げ加工材の製造方法を実施可能に構成された曲げ加工装置であって、
前記被処理材を支持可能に構成された支持体と、前記支持体に支持された前記被処理材を押圧可能に構成された前記押圧体と、を備えた曲げ加工部と、
前記被処理材の変形量を測定可能に構成された変形量測定部と、
前記変形量測定部において測定された変形量に基づいて前記曲げ加工部における前記押圧体の変位量を制御可能に構成された制御部と、を有している、曲げ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記式(1)におけるαの値と前記被処理材の目標変形量YTとを入力可能に構成された入力部と、前記αの値と、前記目標変形量YTと、前記曲げ加工を実施した際に前記押圧体に付与した変位量と、前記曲げ加工後に前記変形量測定部により測定された前記被処理材の変形量とを含む入力データを保持可能に構成された入力データ保持部と、前記入力データ保持部に保持された前記入力データに基づいて前記本曲げ工程において前記押圧体に付与する変位量を算出可能に構成された演算部と、前記演算部により算出された変位量を前記曲げ加工部に出力し、前記押圧体に前記変位量を付与可能に構成されている出力部と、を有している、請求項3に記載の曲げ加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載の曲げ加工装置に用いられるプログラムであって、
前記入力部に入力された前記式(1)におけるαの値と前記被処理材の目標変形量YTとを前記入力データ保持部に保存する入力ステップと、
前記曲げ加工において前記押圧体に付与された変位量及び前記被処理材の変形量を前記入力データ保持部に保存する保存ステップと、
前記入力データ保持部に保持された前記入力データを用い、前記演算部において前記押圧体に付与する変位量を算出する演算ステップと、
前記演算ステップにおいて得られた前記変位量を前記出力部から前記曲げ加工部に出力して曲げ加工を行う出力ステップと、を有している、曲げ加工装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工部材の製造方法、曲げ加工装置及び曲げ加工装置用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の冷間曲げ加工においては、金属材に荷重を与えて塑性変形させることにより、金属材に曲げ部を形成することができる。例えば、特許文献1には、アルミニウム合金の中空押出形材を1回目のプレス曲げ加工で一方向に過剰に曲げ加工した後、2回目のプレス曲げ加工で逆方向に曲げ戻しを行い、これにより前記中空押出形材について目標とする曲げ形状を得るプレス曲げ加工方法が記載されている。この方法は、予め、1回目のプレス曲げ加工後の中空押出形材の曲げ形状の基準値からのずれ量と2回目のプレス曲げ加工における曲げ金型の押し込み量との対応関係を決定しておき、量産開始後に、前記対応関係に基づいて2回目のプレス曲げ加工における押し込み量を決定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5541684号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属材に冷間曲げ加工を行う場合、金属材に荷重を与えた後、除荷すると金属材が曲げ加工を行う前の形状に戻るように変形する、いわゆるスプリングバックと呼ばれる現象が発生する。スプリングバックによる変形量は、金属材の機械的特性に応じて変化する。しかし、金属材の形状や強度等は必ずしも均一ではなく、製造過程で生じた局所的な温度履歴の差異等に起因して、金属材の位置に応じてスプリングバックによる変形量が変化することがある。
【0005】
しかしながら、特許文献1のプレス曲げ加工方法において押し込み量と変位量との対応関係を決定するためには、多数回の実験やFEM解析を試行錯誤的に行う必要がある。さらに、多数回の実験やFEM解析を行ってもなお、押し込み量と変位量の対応関係を精度よく決定することは難しいため、実際には2回を超える多数回の曲げ加工により曲げ加工材の加工精度を確保することが予定されている。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、曲げ加工の回数を低減しつつ曲げ部の形状のばらつきを低減することができる曲げ加工材の製造方法、この製造方法に用いることができる曲げ加工装置または曲げ加工装置用プログラムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、金属材に押圧体を当接させ、押圧体に変位を与えて冷間曲げ加工を繰り返し行った場合、金属材の変形量を押圧体の変位量の一次関数で近似することができること、及び、前記一次関数の傾きは、金属材の材質及び形状が同一であれば同程度の値を示すことを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は、支持体に支持された金属製の被処理材に押圧体を当接させ、前記押圧体に変位を与えて曲げ加工を施す曲げ加工材の製造方法であって、
前記被処理材に前記曲げ加工を施して曲げ部を形成する予備曲げ工程と、
前記被処理材の前記曲げ部に、前記被処理材の変形量が前記予備曲げ工程における変形量Y1よりも大きい目標変形量YTとなるように曲げ加工を行う本曲げ工程と、を有し、
前記本曲げ工程においては、前記被処理材と材質及び形状が同じ試験材に対して前記押圧体に変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yと、xよりも大きい変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yとを決定する予備実験の結果に基づき下記式(1)で表される係数αと、前記予備曲げ工程における変位量X1及び変形量Y1と、を用いて下記式(2)により算出される変位量X2を前記押圧体に与える、曲げ加工材の製造方法にある。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
X2=X1+(YT-Y1)/α ・・・(2)
【0009】
本発明の他の態様は、支持体に支持された金属製の被処理材に押圧体を当接させ、前記押圧体に変位を与えて曲げ加工を施す工程を、複数の前記被処理材に対して順次行う曲げ加工材の製造方法であって、
前記被処理材に、変形量が目標変形量YTとなるように前記曲げ加工を行って曲げ部を形成する本曲げ工程を有し、
第n番目(ただし、nは2以上の整数)に曲げ加工が施される前記被処理材の前記本曲げ工程においては、前記被処理材と材質及び形状が同じ試験材に対して前記押圧体に変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yと、xよりも大きい変位量xを付与して前記曲げ加工を施した時の前記試験材の変形量yとを決定する予備実験の結果に基づき下記式(1)で表される係数αと、第n-1番目に曲げ加工が施された被処理材の前記本曲げ工程において前記押圧体に付与された変位量Xn-1及び前記被処理材の変形量Yn-1と、を用いて下記式(3)で表される変位量Xを前記押圧体に与える、曲げ加工材の製造方法にある。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
=Xn-1+(YT-Yn-1)/α ・・・(3)
【発明の効果】
【0010】
前記曲げ加工材の製造方法の第1の態様において、前記被処理材には、予備曲げ工程と、本曲げ工程とのそれぞれにおいて曲げ加工が施される。そして、本曲げ工程においては、本曲げ工程において達成しようとする目標変形量YTの値と、前記予備実験の結果に基づいて決定されるαの値と、予備曲げ工程における押圧体の変位量X1及び変形量Y1とを用いて式(2)で算出される変位量X2が押圧体に付与される。
【0011】
前述したように、冷間曲げ加工を行った場合、被処理材の変形量は押圧体に与えた変位量の一次関数で近似することができる。また、前記一次関数の傾きは、被処理材の材質及び寸法が同一であれば同程度の値となる。それ故、前記被処理材と材質(つまり、化学成分及び質別)及び形状が同一である試験材を用いて行った予備実験により得られたαの値を、前記被処理材における一次関数の傾きとして用いることができる。
【0012】
そして、予備曲げ工程においては、前記押圧体に変位量X1を付与した時の被処理材の変形量Y1を実際に得ることができるから、これらの値とαの値とに基づいて前記被処理材自体の一次関数を決定することができる。このようにして決定された一次関数、つまり、前記式(2)は、押圧体に付与する変位量と被処理材の変形量との対応関係を表している。それ故、前記式(2)を用いることにより、目標変形量YTの値を達成するために必要な変位量X2を正確に予測することができる。
【0013】
従って、前記第1の態様においては、本曲げ工程において前記式(2)により算出された変位量X2を押圧体に付与すれば、前記被処理材の変形量を目標変形量YTに十分に近づけることができる。その結果、曲げ加工の回数を低減しつつ曲げ加工を精度良く行い、曲げ部の形状のばらつきを小さくすることができる。
【0014】
また、前記曲げ加工材の製造方法の第2の態様では、複数の前記被処理材に対して本曲げ工程を順次行うことにより、曲げ部が形成される。そして、第n番目の被処理材の本曲げ工程において、目標変形量YTの値と、前記予備実験の結果を用いて式(1)により算出されるαの値と、第n-1番目の被処理材の本曲げ工程における押圧体の変位量Xn-1及び変形量Yn-1とを用いて式(3)で算出される変位量Xが押圧体に付与される。
【0015】
前記第2の態様のように、複数の被処理材に対して順次本曲げ工程を行う場合、第n番目の被処理材の形状や強度等と、第n-1番目の被処理材の形状や強度等とが同程度になるように加工順序を決定することができる。そのため、前記第2の態様においては、前記予備実験の結果を用いて式(1)により算出されるαの値と、第n-1番目の被処理材の本曲げ工程における押圧体の変位量Xn-1及び被処理材の変形量Yn-1とに基づいて決定される一次関数を、第n番目の被処理材の本曲げ工程における押圧体の変位量Xの予測に用いることができる。
【0016】
従って、前記第2の態様においては、本曲げ工程において前記式(3)により算出された変位量Xを押圧体に付与すれば、前記被処理材の変形量を目標変形量YTに十分に近づけることができる。その結果、曲げ加工の回数を低減しつつ曲げ加工を精度良く行い、曲げ部の形状のばらつきが小さい曲げ加工材を得ることができる。
【0017】
以上のように、前記の態様によれば、曲げ加工の回数を低減しつつ精度よく曲げ加工を行うことができる曲げ加工材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、曲げ加工材の製造方法において、予備実験の結果に基づいてαの値を算出する方法の説明図である。
図2図2は、曲げ加工材の製造方法において、目標変形量を実現するために必要な変位量を算出する方法の説明図である。
図3図3は、実施例1において用いる曲げ加工装置の要部を示す説明図である。
図4図4は、実施例1における曲げ加工中の被処理材を示す説明図である。
図5図5は、実施例1において用いる被処理材の斜視図である。
図6図6は、実施例1における曲げ加工材の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、実施例1における予備実験の手順を示すフローチャートである。
図8図8は、実施例1における被処理材の変形量の測定方法の説明図である。
図9図9は、実施例1における本曲げ工程の結果を示す説明図である。
図10図10は、実施例2における予備実験の他の態様のフローチャートである。
図11図11は、実施例3において用いる被処理材の平面図である。
図12図12は、実施例3における予備曲げ工程及び本曲げ工程の結果を示す説明図である。
図13図13は、実施例4における曲げ加工材の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図14図14は、実施例4において用いる曲げ加工装置の曲げ加工部を示す説明図である。
図15図15は、実施例4において用いる曲げ加工装置の変形量測定部を示す説明図である。
図16図16は、実施例4における曲げ加工中の被処理材を示す説明図である。
図17図17は、実施例4における本曲げ工程の結果を示す説明図である。
図18図18は、実施例5における曲げ加工装置の他の態様の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、被処理材及び試験材の「変形量」とは、曲げ加工によって形成される曲げ部の形状を表現することができる部位の変形量を意味する。また、被処理材及び試験材の変形量は、曲げ加工が施された後、押圧体が被処理材又は試験材から離れ、荷重が完全に取り除かれた状態において、被処理材又は試験材の形状を測定することにより得られる値である。
【0020】
また、押圧体の「変位量」とは、曲げ加工に用いられる曲げ加工装置の構成に応じて適宜設定される、押圧体の基準位置に対する変位の大きさを意味する。押圧体の基準位置及び変位の向きは、被処理材の変形量に対応して増減するように設定されることが好ましい。
【0021】
例えば、棒状の被処理材に1か所の曲げ部を形成することにより被処理材をU字状またはV字状に変形させた場合、曲げ加工によって得られた曲げ加工材の両端を通る平面を基準面とし、基準面から曲げ部の頂点からまでの距離を被処理材の変形量とすることができる。また、例えば、棒状の被処理材に2か所の曲げ部を形成することにより両端部が中央部よりも突出するように被処理材を変形させた場合、曲げ加工材の中央部の底面、つまり、両端部の突出方向とは反対方向の面を基準面とし、基準面から被処理材の各先端までの距離を個々の曲げ部の形状を表現する変形量とすることができる。変形量の測定位置及び測定方法は、これらの位置及び方法に限定されることはなく、被処理材及び試験材の形状や曲げ加工が施される位置等に応じて適宜設定すればよい。
【0022】
前記曲げ加工材の製造方法の第1の態様及び第2の態様のいずれの態様においても、被処理材の材質は、金属であれば特に限定されることはない。例えば、被処理材の材質としては、純鉄や炭素鋼、合金鋼等の鉄系材料、純アルミニウムやアルミニウム合金等のアルミニウム系材料、純銅や銅合金等の銅系材料、純チタンやチタン合金等のチタン系材料などが挙げられる。これらの金属のうち、アルミニウム系材料は、他の金属に比べて縦弾性係数が低いため、冷間曲げ加工後のスプリングバック量が大きくなりやすい。前記曲げ加工材の製造方法は、このようにスプリングバック量が大きくなりやすいアルミニウム系材料からなる被処理材に対しても、精度よく曲げ加工を行い、所望の形状を有する曲げ部を備えた曲げ加工材を得ることができる。
【0023】
被処理材の形状は、例えば、板材、棒材、管材及び形材等の種々の態様を採り得る。また、被処理材は、圧延加工によって形成された圧延材であってもよいし、押出加工によって形成された押出材であってもよいし、鍛造加工によって形成された鍛造材であってもよい。これらのうち、押出材は、製造過程において局所的な温度履歴の変動が生じやすいため、形状や強度等の局所的な変化が生じやすい。前記曲げ加工材の製造方法は、このように、形状等の局所的な変化が生じやすい押出材を被処理材として用いる場合においても、精度よく曲げ加工を行うことができる。
【0024】
それ故、前記曲げ加工材の製造方法は、アルミニウム系材料からなる押出材の曲げ加工に特に好適である。
【0025】
前記曲げ加工材の製造方法における曲げ加工の態様は特に限定されることはなく、引張曲げ加工、プレス曲げ加工、三点曲げ加工及び四点曲げ加工などの、公知の曲げ加工を採用することができる。支持体及び押圧体の態様は、曲げ加工の態様に応じた構成とすればよい。
【0026】
前記曲げ加工材の製造方法の第1の態様は、被処理材に曲げ加工を施して曲げ部を形成する予備曲げ工程と、被処理材の前記曲げ部に、変形量が予備曲げ工程における変形量Y1よりも大きい目標変形量YTとなるように曲げ加工を行う本曲げ工程と、を有している。
【0027】
すなわち、曲げ加工材の製造方法の第1の態様においては、被処理材に対して少なくとも2回の曲げ加工を施すことにより、被処理材に所望の形状を有する曲げ部が形成される。曲げ加工材の製造方法の第1の態様においては、前記予備曲げ工程以前に、被処理材にさらに他の曲げ加工が施されていてもよい。かかる場合においても、本曲げ工程において、変形量が予備曲げ工程における変形量Y1よりも大きい目標変形量YTとなるように曲げ加工を行うことにより、高い精度で曲げ加工を行い、所望の形状を有する曲げ部を形成することができる。
【0028】
曲げ部の形状のばらつきをより低減する観点からは、予備曲げ工程における被処理材の変形量Y1を目標変形量YTに近づけることが好ましい。より具体的には、予備曲げ工程における被処理材の変形量Y1は、目標変形量YTの0.80倍以上0.98倍以下であることが好ましく、0.90倍以上0.98倍以下であることがより好ましい。
【0029】
曲げ加工材の製造方法の第1の態様において、本曲げ工程で押圧体に付与する変位量X2を決定するに当たっては、予備実験の結果に基づいて下記式(1)により算出されるαの値と、前記予備曲げ工程において押圧体に付与した変位量X1と、予備曲げ工程を行った後の被処理材の変形量Y1とが用いられる。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
【0030】
予備実験は、曲げ加工材の製造方法の実施の度に行う必要はない。例えば、曲げ加工を施そうとする被処理材と同一の形状および材質を有する曲げ加工材を作製した経験がある場合には、当該曲げ加工材を作製した際の、押圧体に与えた変位量と、この変位量に対応する被処理材の変形量とを予備実験の結果として用いることができる。また、例えば、曲げ加工を施そうとする被処理材と同一の形状および材質を有する被処理材に対して前記曲げ加工材の製造方法を実施した経験がある場合には、その際に用いたαの値を使用してもよい。
【0031】
予備実験を行う場合には、前記被処理材と材質及び形状が同じ試験材に対して押圧体を当接させ、押圧体に変位を与えることにより曲げ部を形成する作業を複数回実施する。そして、曲げ加工において得られた変位量の値と試験材の変形量の値との複数の組から、押圧体に変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yと、押圧体にxよりも大きい変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yとを決定する。
【0032】
例えば、押圧体に変位を与えることにより曲げ部を形成する作業を2回実施した場合には、図1に示すように、変位量が小さい方の値の組を変位量x及び変形量yとして用い、変位量が大きい方の値の組を変位量x及び変形量yとして用いればよい。また、押圧体に変位を与えることにより曲げ部を形成する作業を3回以上実施した場合には、複数の値の組の中から2つの値の組を選び、これら2つの値の組のうち変位量が小さい方の値の組を変位量x及び変形量yとして用い、変位量が大きい方の値の組を変位量x及び変形量yとすればよい。なお、図1における横軸は押圧体に与えた変位量であり、縦軸は試験材の変形量である。
【0033】
予備実験におけるyの値及びyの値は、目標変形量YTの0.80倍以上0.98倍以下であることが好ましく、0.90倍以上0.98倍以下であることがより好ましい。この場合、前記式(1)におけるαの値は、予備実験における試験材の変形量を押圧体に与えた変位量の一次関数で表した直線における、目標変形量YTに比較的近い部分の傾きに相当する値となる。そのため、このようにして算出されたαの値を用いることにより、目標変形量YTの付近での一次関数の傾きをより正確に決定することができる。そして、このようにして算出されたαの値を用いることにより、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量X2をより正確に予測することができ、ひいては曲げ加工材における曲げ部の形状のばらつきをより低減することができる。
【0034】
また、予備実験におけるxの値及びxの値は、下記式(4)の関係を満たしていることが好ましい。
0.002 ≦ (x-x)/YT ≦ 0.2 ・・・(4)
【0035】
前記式(4)の関係を満たすxの値及びxの値を用いて予備実験を行うことにより、変位量xに対応する変形量yの値と、変位量xに対応する変形量yの値との差を適度に大きくするとともに、yの値及びyの値を目標変形量YTにより容易に近づけることができる。それ故、これらの値を用いることにより、目標変形量YTの付近での一次関数の傾きをより正確に決定することができる。そして、このようにして算出されたαの値を用いることにより、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量X2をより正確に予測することができ、ひいては曲げ加工材における曲げ部の形状のばらつきをより低減することができる。
【0036】
本曲げ工程においては、前述した式(1)で表される係数αと、前記予備曲げ工程における押圧体の変位量X1及び被処理材の変形量Y1と、を用いることにより、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量X2を予測することができる。この理由は、以下の通りである。
【0037】
被処理材に曲げ加工を施した場合の被処理材の変形量は、曲げ加工を施す際に押圧体に付与される変位量の一次関数として表すことができる。この一次関数の傾きは、予備実験で用いた試験材における一次関数の傾きαと同程度である。それ故、被処理材における一次関数は、例えば図2に示すように、予備曲げ工程における押圧体の変位量X1と被処理材の変形量Y1との値の組、つまり、(X1,Y1)を通り、傾きがαである直線L(下記式(2’))として表すことができる。なお、下記式(2’)における記号Xは押圧体に付与される変位量であり、記号Yは変位量Xに対応する被処理材の変形量Yである。
Y-Y1=α(X-X1) ・・・(2’)
【0038】
本曲げ工程において実現しようとする目標変形量YTと、目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2とは、前記式(2’)で表される直線Lを通ると考えられる。それ故、これらの値を前記式(2’)に代入し、X2が左辺に来るように式変形を行うことにより、下記式(2)を得ることができる。
X2=X1+(YT-Y1)/α ・・・(2)
【0039】
従って、前記式(2)を用いることにより、目標変形量YTの値を達成するために必要な変位量X2を予測することができる。そして、本曲げ工程において前記式(2)により算出された変位量X2を押圧体に付与することにより、本曲げ工程における被処理材の変形量を目標変形量YTに十分に近づけることができる。このように、前記の態様によれば、曲げ加工を精度良く行い、曲げ加工材における曲げ部のばらつきを低減することができる。
【0040】
前記曲げ加工材の製造方法の第2の態様は、被処理材に目標変形量がYTとなるように曲げ加工を行って曲げ部を形成する本曲げ工程を有しており、この本曲げ工程を複数の被処理材に対して順次行うように構成されている。すなわち、曲げ加工材の製造方法の第2の態様においては、各被処理材に対して1回の曲げ加工を施すことにより、被処理材に曲げ部が形成される。
【0041】
曲げ加工材の製造方法の第2の態様において、第n番目の本曲げ工程で押圧体に付与する変位量Xを決定するに当たっては、予備実験の結果に基づいて下記式(1)により算出されるαの値と、本曲げ工程を実施しようとする被処理材の直前に行われた本曲げ工程、つまり、第n-1番目の本曲げ工程において押圧体に付与した変位量Xn-1と、これにより曲げ加工が施された被処理材の変形量Yn-1とが用いられる。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
【0042】
曲げ加工材の製造方法の第2の態様における予備実験の方法は、前述した第1の態様における予備実験の方法と同様である。すなわち、予備実験においては、試験材に曲げ部を形成する作業を2回以上行えばよい。そして、このようにして得られた押圧体の変位量の値と試験材の変形量の値との複数の組から、押圧体に変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yと、押圧体にxよりも大きい変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yとを決定する。
【0043】
予備実験におけるyの値及びyの値は、目標変形量YTの0.80倍以上0.98倍以下であることが好ましく、0.90倍以上0.98倍以下であることがより好ましい。このようにして算出されたαの値を用いることにより、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量Xをより正確に予測することができ、ひいては曲げ部の形状のばらつきをより低減することができる。
【0044】
本曲げ工程においては、前述した式(1)で表される係数αと、本曲げ工程を実施しようとする被処理材の直前に行われた本曲げ工程において押圧体に付与した変位量Xn-1と、これにより得られた被処理材の変形量Yn-1と、を用いることにより、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量Xを予測することができる。この理由は、以下の通りである。
【0045】
前述したように、被処理材に曲げ加工を施した後の被処理材の変形量は、曲げ加工を施す際に押圧体に付与された変位量の一次関数として表すことができる。この一次関数の傾きは、予備実験で用いた試験材における一次関数の傾きαと同程度である。
【0046】
また、本態様のように、複数の被処理材に対して順次曲げ加工を施す場合、本曲げ工程を実施しようとする被処理材の形状や強度等と、その直前に本曲げ工程が実施された被処理材の形状や強度等との差異が小さくなるように、被処理材の加工順序を決定することができる。より具体的には、例えば、金属材を分割することによって複数の被処理材を作製した場合、同一の金属材から分割された被処理材同士は、形状や強度等の差異が小さくなりやすい。そのため、このような被処理材に連続して曲げ加工を施すことにより、本曲げ工程を実施しようとする被処理材の形状や強度等と、当該被処理材の直前に本曲げ工程が実施された被処理材の形状や強度等との差異を小さくすることができる。
【0047】
それ故、本態様においては、第n番目(ただし、nは2以上の整数である。)の被処理材に曲げ加工を施したときの変形量と押圧体の変位量との関係を、第n番目の被処理材との形状等との差異が小さい、第n-1番目の被処理材における変形量と変位量との関係で近似することができる。
【0048】
第n-1番目の被処理材における一次関数は、例えば図2に示すように、第n-1番目の本曲げ工程において押圧体に付与された変位量Xn-1と被処理材の変形量Yn-1との値の組、つまり、(Xn-1,Yn-1)を通り、傾きがαである直線L(下記式(3’))として表すことができる。なお、下記式(3’)における記号Xは押圧体に付与される変位量であり、記号Yは変位量Xに対応する被処理材の変形量である。
Y-Yn-1=α(X-Xn-1) ・・・(3’)
【0049】
そして、第n番目の被処理材の本曲げ工程において実現しようとする目標変形量YTと、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量Xとは、前記式(3’)で表される直線を通ると考えられる。それ故、これらの値を前記式(3’)に代入し、Xが左辺に来るように式変形を行うことにより、下記式(3)を得ることができる。
=Xn-1+(YT-Yn-1)/α ・・・(3)
【0050】
従って、前記式(3)を用いることにより、目標変形量YTの値を達成するために必要な押圧体の変位量Xを予測することができる。そして、第n番目の被処理材の本曲げ工程において前記式(3)により算出された変位量Xを押圧体に付与すれば、前記被処理材の変形量を目標変形量YTに十分に近づけることができる。その結果、曲げ加工を精度良く行い、曲げ部の形状のばらつきを低減することができる。
【0051】
さらに、前記第2の態様においては、予備曲げ工程を省略することができるため、所望の形状を有する曲げ部を備えた曲げ加工材をより効率よく生産することが可能となる。
【0052】
なお、前記第2の態様における、第1番目の被処理材の本曲げ工程の態様は、特に限定されることはない。例えば、第1番目の被処理材の本曲げ工程においては、過去の製造実績等に基づいて経験的に予測される変位量を押圧体に付与してもよい。また、第1番目の被処理材に対して前述した第1の態様、つまり、予備曲げ工程と本曲げ工程と順次行い、予備曲げ工程の結果に基づいて本曲げ工程において押圧体に付与する変位量を決定する方法を適用することもできる。
【0053】
前記曲げ加工材の製造方法は、例えば、以下の構成を有する曲げ加工装置を用いて実施することができる。すなわち、前記の態様の曲げ加工材の製造方法を実施可能に構成された曲げ加工装置は、
前記被処理材を支持可能に構成された支持体と、前記支持体に支持された前記被処理材を押圧可能に構成された前記押圧体と、を備えた曲げ加工部と、
前記被処理材の変形量を測定可能に構成された変形量測定部と、
前記曲げ加工部における前記押圧体の変位量を制御可能に構成された制御部と、を有している。
【0054】
前記曲げ加工装置の曲げ加工部は、前記支持体と前記押圧体とを有している。そのため、支持体に被処理材を支持し、押圧体を用いて被処理材を押圧することにより、被処理材に曲げ加工を施すことができる。また、変形量測定部は、被処理材の変形量を測定することができるように構成されている。それ故、前記曲げ加工装置を用いて曲げ加工を行うことにより、曲げ加工において押圧体に与えた変位量と、押圧体に与えた変位量に対応する被処理材の変形量とを得ることができる。従って、前記曲げ加工装置を用いることにより、前述した曲げ加工材の製造方法の第1の態様及び第2の態様における予備実験を実施することができる。
【0055】
さらに、前記曲げ加工装置を用いて曲げ加工を行うことにより、曲げ加工材の製造方法の第1の態様の予備曲げ工程において押圧体に与えた変位量及び被処理材の変形量を得ることができる。それ故、これらの値と予備実験の結果に基づいて算出されるαの値を用い、目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2を算出することができる。そして、前記曲げ加工装置を用いて被処理材の本曲げ工程を実施することにより、所望の形状を有する曲げ部を備えた曲げ加工材を得ることができる。
【0056】
同様に、前記曲げ加工装置を用いて曲げ加工を行うことにより、曲げ加工材の製造方法の第2の態様の第n-1番目の被処理材の本曲げ工程において押圧体に与えた変位量Xn-1及び被処理材の変形量Yn-1を得ることができる。それ故、これらの値と予備実験の結果に基づいて算出されるαの値を用い、目標変形量YTを実現するために必要な変位量Xを算出することができる。そして、前記曲げ加工装置を用いて第n番目の被処理材の本曲げ工程を実施することにより、所望の形状を有する曲げ部を備えた曲げ加工材を得ることができる。
【0057】
このように、前記曲げ加工装置を用いることにより、前述した曲げ加工材の製造方法を実施することができる。
【0058】
前記曲げ加工装置における曲げ加工部の具体的な構成としては、実施しようとする曲げ加工の方法に応じて適切な構成を用いればよい。例えば、前記曲げ加工部においてプレス曲げを行おうとする場合、押圧体及び支持体は、所望の形状の曲げ部を形成可能に構成された金型であってもよい。より具体的には、例えば、押圧体を所望の形状の曲げ部に対応する凸形状を備えた可動型とし、支持体を前記凸形状に対応する凹形状を備えた固定型とすることができる。この場合、可動型と固定型との間に被処理材を配置し、可動型に変位を付与して被処理材を押圧することにより、前記曲げ加工部においてプレス曲げを実施することができる。
【0059】
また、前記曲げ加工部において三点曲げまたは四点曲げを行おうとする場合、例えば、押圧体を可動ピンとし、支持体を固定ピンとすればよい。この場合、可動ピンと固定ピンとの間に被処理材を配置し、可動ピンに変位を付与して被処理材を押圧することにより、前記曲げ加工部において三点曲げまたは四点曲げを実施することができる。
【0060】
また、前記曲げ加工部において引張曲げを行おうとする場合、例えば、押圧体を所望の形状の曲げ部に対応する凸形状を備えた可動型とし、支持体を被処理材に張力を付与しつつ被処理材を保持可能に構成されたチャックとすればよい。この場合、チャックに被処理材を取り付け、チャックによって被処理材に張力を付与した状態で、可動型に変位を付与して被処理材を押圧することにより、前記曲げ加工部において引張曲げを実施することができる。
【0061】
前記曲げ加工装置における変形量測定部は、種々の態様を採り得る。例えば、変形量測定部は、被処理材における特定の位置の座標を取得可能に構成されていてもよい。この場合、変形量測定部において測定された被処理材の位置に基づいて、被処理材の変形量を算出することができる。この種の変形量測定部としては、例えば、接触式の変位計を使用することができる。また、変形量測定部は、赤外線やレーザ光、超音波などをプローブとする非接触式の変位計であってもよい。
【0062】
また、変形量測定部は、被処理材全体の形状を測定可能に構成されていてもよい。この場合、変形量測定部において測定された被処理材の形状に基づいて、被処理材の変形量を算出することができる。
【0063】
この種の変形量測定部としては、例えば、被処理材に接触させるための接触プローブを有しており、接触プローブを被処理材に接触させることにより被処理材の形状を測定可能に構成された接触式形状測定装置、レーザ光等の非接触式プローブを用いて被処理材の形状を測定可能に構成された非接触式形状測定装置等を使用することができる。また、変形量測定部は、被処理材を撮影可能に構成されたカメラ部を有しており、カメラ部によって撮影された被処理材の画像に基づいて被処理材の形状を測定可能に構成されていてもよい。
【0064】
前記曲げ加工装置における制御部は、具体的には、数値制御式曲げ加工装置における操作盤や曲げ加工装置に接続されたコンピュータ等の、入出力機能を備えた電子装置であってもよい。制御部は、例えば、押圧体に付与する変位量を入力可能に構成された入力部と、入力部に入力された変位量を曲げ加工部に出力し、押圧体に前記変位量を与えることができるように構成された出力部と、を有する構成とすることができる。入力部は、例えば、数値制御式曲げ加工装置の操作盤や曲げ加工装置に接続されたコンピュータ等における、タッチパネルやキーボード、スイッチ、補助記憶装置等の入力装置等であってもよい。また、出力部は、前述した操作盤やコンピュータ等における曲げ加工装置とのインタフェースであってもよい。
【0065】
前記制御部は、前記式(1)におけるαの値と前記被処理材の目標変形量とを入力可能に構成された入力部と、前記αの値と、前記目標変形量と、前記曲げ加工を実施した際に前記押圧体に付与した変位量と、前記曲げ加工後に前記変形量測定部により測定された前記被処理材の変形量とを含む入力データを保持可能に構成された入力データ保持部と、前記入力データ保持部に保持された前記入力データに基づいて前記本曲げ工程において前記押圧体に付与する変位量の目標値を算出可能に構成された演算部と、前記演算部により算出された変位量を前記曲げ加工部に出力し、前記押圧体に前記変位量を付与可能に構成されている出力部と、を有していることが好ましい。
【0066】
前述した構成を有する制御部は、入力部にαの値及び目標変形量を入力することにより、演算部において目標変形量を実現するために必要な押圧体の変位量の目標値を算出することができる。さらに、制御部は、演算部において算出された変位量の目標値を出力部から曲げ加工部に出力することにより、押圧体に所望の変位量を付与して曲げ加工を行うことができる。従って、前記の構成を有する制御部によれば、前記曲げ加工材の製造方法をより簡便に実施することができる。
【0067】
前記の構成を有する制御部において、入力データ保持部は、例えば、数値制御式曲げ加工装置の操作盤や曲げ加工装置に接続されたコンピュータ等における記憶装置であってもよい。記憶装置は、入力データを保持可能に構成されていれば特に限定されることはなく、例えば、制御盤やコンピュータに接続された揮発性メモリや不揮発性メモリ、ハードディスクドライブ等を記憶装置として使用することができる。
【0068】
また、演算部は、例えば、数値制御式曲げ加工装置における操作盤や曲げ加工装置に接続されたコンピュータ等における演算装置であってもよい。演算装置は、入力データを用いて変位量の目標値を算出可能に構成されていれば特に限定されることはなく、例えば、制御盤に内蔵されたマイクロプロセッサやコンピュータのCPU(つまり、中央処理装置)等を演算装置として使用することができる。
【0069】
また、前記曲げ加工装置は、以下のステップを備えたプログラムを用いて動作させることもできる。すなわち、曲げ加工装置に用いられるプログラムは、
前記入力部に入力された前記式(1)におけるαの値と前記被処理材の目標変形量YTとを前記入力データ保持部に保存する入力ステップと、
前記曲げ加工において前記押圧体に付与された変位量及び前記被処理材の変形量を前記入力データ保持部に保存する保存ステップと、
前記入力データ保持部に保持された前記入力データを用い、前記演算部において前記押圧体に付与する変位量を算出する演算ステップと、
前記演算ステップにおいて得られた前記変位量を前記出力部から前記曲げ加工部に出力して曲げ加工を行う出力ステップと、を有している。
【0070】
前記プログラムの入力ステップにおいては、入力部に入力されたαの値及び目標変形量YTがデータ保持部に保存される。また、保存ステップにおいては、プログラムを実行する直前に施された曲げ加工において押圧体に付与された変位量及び被処理材の変形量が入力データ保持部に保存される。従って、入力ステップ及び保存ステップが完了した時点のデータ保持部には、前記入力データ、つまり、目標変形量を実現するための変位量の算出に必要なデータが保持されている。
【0071】
演算ステップにおいては、演算部が入力データ保持部に保持された前記入力データを用いて押圧体に付与する変位量を算出する。演算ステップにおいては、具体的には、入力データを前記式(2)または前記式(3)に代入することにより、目標変形量を実現するために必要な変位量が算出される。
【0072】
そして、出力ステップにおいて演算ステップで得られた変位量を出力部から前記曲げ加工部に出力することにより、曲げ加工部の押圧体に目標変形量を実現するために必要な変位量を付与することができる。以上の結果、前記曲げ加工材の製造方法をより簡便に実施することができる。
【0073】
前記プログラムは、例えば、前記曲げ加工装置の制御部にあらかじめ組み込まれていてもよいし、ハードディスクドライブやフラッシュメモリ等の外部記憶媒体に保存されていてもよい。
【0074】
また、前記プログラムは、保存ステップ、演算ステップ及び出力ステップを繰り返し実施することができるように構成されていてもよい。この場合には、前記曲げ加工材の製造方法を連続して実施することができる。これにより、高い加工精度を有する曲げ加工材をより効率よく作製することができる。
【実施例
【0075】
(実施例1)
本例においては、図3図9を参照しつつ前記曲げ加工材の製造方法及びこれに用いる曲げ加工装置2の構成の例を説明する。本例の曲げ加工材の製造方法は、図3及び図4に示すように、支持体21(211、212)に支持された金属製の被処理材1に押圧体22を当接させ、押圧体22に変位を与えて曲げ加工を施すことができるように構成されている。図6に示すように、本例の曲げ加工材の製造方法は、被処理材1に曲げ加工を施して曲げ部11を形成する予備曲げ工程(ステップS104)と、被処理材1の曲げ部11に、被処理材1の変形量が予備曲げ工程における変形量Y1よりも大きい目標変形量YTとなるように曲げ加工を行う本曲げ工程(ステップS107)と、を有している。
【0076】
また、本曲げ工程において押圧体22に与える変位量X2は、下記式(2)により算出される値である。
X2=X1+(YT-Y1)/α ・・・(2)
【0077】
ただし、前記式(2)における係数αの値は、被処理材1と材質及び形状が同じ試験材に対して押圧体22に変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yと、xよりも大きい変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yとを決定する予備実験(図7、ステップT101~ステップT106)の結果に基づき下記式(1)で表される。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
【0078】
本例において用いられる被処理材1は、JIS A7046合金からなりT1調質が施された押出形材である。被処理材1は、図5に示すように、頂壁部101と、頂壁部101に対面する底壁部102と、頂壁部101と底壁部102とを接続する2か所の側壁部103とを有する角柱状を呈している。被処理材1の内部には、頂壁部101から底壁部102までにわたって立設された隔壁部104が設けられている。また、被処理材1には、頂壁部101、底壁部102、側壁部103及び隔壁部104によって囲まれた2か所の中空部105が設けられている。
【0079】
被処理材1の頂壁部101から底壁部102までの高さは62.6mmであり、一方の側壁部103から他方の側壁部103までの幅は52.6mmである。また、頂壁部101及び底壁部102の厚みは3mmであり、側壁部103及び隔壁部104の厚みは2mmである。また、被処理材1の長さは約1.6mである。
【0080】
曲げ加工装置2は、図3及び図4に示すように、被処理材1を支持可能に構成された支持体21と、支持体21に支持された前記被処理材1を押圧可能に構成された押圧体22と、を備えた曲げ加工部20を有している。押圧体22の変位量は、図には示さない制御部によって制御可能に構成されている。
【0081】
より具体的には、本例の曲げ加工装置2は、プレス曲げを行うことができるように構成されている。曲げ加工装置2の支持体21は、図示しない架台に固定された第1支持体211と、第1支持体211に対面して配置された第2支持体212と、を有している。第2支持体212は、架台に取り付けられた2本の油圧シリンダ213に連結されており、油圧シリンダ213の伸縮により第1支持体211との距離を変更可能に構成されている。
【0082】
また、第2支持体212の側方には、2か所の押圧体22が配置されている。本例の押圧体22は、曲げ加工装置2の架台(図示略)に立設された軸部221に回動自在に取り付けられている。各押圧体22は、架台に取り付けられた油圧シリンダ222に連結されており、油圧シリンダ222の伸縮に伴って、軸部221を中心として回動することができるように構成されている。
【0083】
本例の曲げ加工装置2は、以下のようにして被処理材1に曲げ加工を施すことができるように構成されている。まず、図3に示すように、第1支持体211と第2支持体212との間に被処理材1を配置する。次いで、油圧シリンダ213を伸長させることにより、第2支持体212を第1支持体211に接近させる。これにより、第1支持体211と第2支持体212との間に被処理材1を固定する。
【0084】
その後、押圧体22に連結された油圧シリンダ222を伸長させる。この際、被処理材1に1か所の曲げ部11を形成しようとする場合には、図4に示すように、片側の油圧シリンダ222のみを伸長させればよい。また、被処理材1に2か所の曲げ部11を形成しようとする場合には、両側の油圧シリンダ222を伸長させればよい。油圧シリンダ222を基準位置から伸長させると、押圧体22が油圧シリンダ222の変位に押され、第1支持体211に近づくように回動する。押圧体22が被処理材1の端部に当接した後、さらに油圧シリンダ222を伸長させることにより、被処理材1に荷重を加えて曲げ加工を施すことができる。
【0085】
次に、図6及び図7を参照しつつ、本例の曲げ加工材の製造方法をより詳細に説明する。曲げ加工材の製造方法を実施するに当たっては、まず、得ようとする曲げ加工材の形状に基づき、被処理材1の目標変形量YTを決定する(図6、ステップS101)。目標変形量YTを決定するに当たっては、例えば、目的とする曲げ加工材の形状等に基づいて、被処理材1の変形量を測定する部位を決定し、次いで、本曲げ工程後に実現しようとする変形量、つまり、目標変形量YTを設計図面等に基づいて決定すればよい。
【0086】
例えば、本例のように、柱状を呈する被処理材1の一端に曲げ加工を施す場合には、図4に示すように、被処理材1における押圧体22によって押圧されない端部12を変形量の基準とする。そして、この基準から押圧体22によって押圧される端部13までの、被処理材1の長手方向に垂直な方向における距離を被処理材1の変形量とすることができる。
【0087】
本例においては、図4及び図8に示すように、被処理材1における、第2支持体212に当接する面を基準面14とし、図8に示す、基準面14から押圧体22によって押圧される端部13までの高さHを被処理材1の変形量とする。被処理材1の変形量は、具体的には、被処理材1の基準面14を定盤9に載置した状態で、ハイトゲージ等を用いて定盤9から押圧体22によって押圧される端部13までの高さHを測定することにより得ることができる。
【0088】
次に、前記式(2)におけるαの値を決定するための、予備実験の要否を判断する(図6、ステップS102)。例えば、過去に被処理材1と同一の形状および材質を有する被処理材に曲げ加工を施した経験がある場合には、その結果に基づいてαの値を決定することができる。そのため、改めて予備実験を行う必要はない。この場合には、予備実験を実施せず、αの値を決定するステップに進むことができる(ステップS102における「No」を参照)。
【0089】
予備実験を行う場合(ステップS102における「Yes」を参照)には、まず、被処理材1と同一の形状および材質を有する試験材を準備する。次いで、図7に示すように、押圧体22に変位量xを付与して試験材の曲げ加工を行う(図7、ステップT101)。この時の変位量xは、例えば、試験材の変形量yが目標変形量YTよりも小さくなると予想される範囲から適宜決定することができる。
【0090】
押圧体22の変位量は、曲げ加工装置2の構成に応じて適宜設定すればよいが、被処理材1の変形量に対応して増減する量であることが好ましい。例えば、本例の曲げ加工装置2を用いる場合、押圧体22に連結された油圧シリンダ222の基準位置からの伸長量が大きくなるほど被処理材1の変形量が大きくなる。それ故、本例の曲げ加工材の製造方法においては、油圧シリンダ222の伸長量を押圧体22の変位量とすればよい。
【0091】
次いで、試験材に形成された曲げ部11を目視により観察し、曲げ部11に塑性座屈や曲げしわの発生などの塑性不安定現象が発生しているか否かを評価する(ステップT102)。塑性不安定現象が発生した際の押圧体22の変位量xと試験材の変形量yとの値の組を用いてαの値を決定すると、前記式(1)に基づいて予測される変位量X2を押圧体に付与した際の被処理材1の変形量と、目標変形量YTとの差が大きくなることがある。
【0092】
本例においては、本曲げ工程後における被処理材1の変形量を目標変形量YTにより近づける観点から、曲げ部11に塑性不安定現象が発生した場合には、押圧体22の変位量xと試験材の変形量yとの値の組をαの値の決定に使用しないこととする。曲げ部11に塑性不安定現象が発生した場合(ステップT102における「Yes」を参照)、試験材を取り換える、あるいは、曲げ加工装置2の設定等を変更する等の、塑性不安定現象の発生を回避するための対処を行った後、改めて予備実験を実施する。
【0093】
なお、曲げ部11に塑性不安定現象が発生した場合であっても、曲げ部11に求められる公差の大きさによっては、前記式(1)に基づいて予測される変位量X2を押圧体に付与した際の被処理材1の変形量と目標変形量YTとの差が曲げ部11の公差以下となることもある。この場合には、曲げ部11における塑性不安定現象を許容できるため、曲げ部11に塑性不安定現象が発生した際の押圧体22の変位量xと試験材の変形量yとの値の組をαの値の決定に使用してもよい。
【0094】
曲げ部11に塑性不安定現象が発生していない場合(ステップT102における「No」を参照)、押圧体22に変位量xを付与した際の試験材の変形量yを測定する(ステップT103)。試験材の変形量の測定方法は、前述した被処理材1の変形量の測定方法と同一である。なお、曲げ部11に塑性不安定現象が発生していない場合には、試験材の変形量yが目標変形量YTを超えていても、そのまま予備実験を継続することができる。
【0095】
試験材の変形量yを測定した後、試験材の曲げ部11に押圧体22を当接させる。そして、押圧体22に変位量xよりも大きい変位量xを付与し、さらに曲げ加工を行う(ステップT104)。次いで、試験材に形成された曲げ部11を目視により観察し、曲げ部11に塑性座屈や曲げしわの発生などの塑性不安定現象が発生しているか否かを評価する(ステップT105)。
【0096】
曲げ部11に塑性不安定現象が発生していない場合(ステップT105における「No」を参照)、押圧体22に変位量xを付与した際の試験材の変形量yを測定する(ステップT106)。一方、本例においては、曲げ部11に塑性不安定現象が発生した場合には(ステップT105における「Yes」を参照)、前述した理由と同様の理由により、押圧体22の変位量xと試験材の変形量yとの値の組をαの値の決定に使用しないこととする。この場合には、試験材を取り換えるなどの対処を行った後、改めて予備実験を実施する。
【0097】
なお、前記式(1)に基づいて予測される変位量X2を押圧体に付与した際の被処理材1の変形量と目標変形量YTとの差を曲げ部11に求められる寸法公差以下にすることができる場合には、曲げ部11に塑性不安定現象が発生した際の押圧体22の変位量xと試験材の変形量yとの値の組をαの値の決定に使用してもよい。
【0098】
このようにして、αの値を決定するために用いられる押圧体22の変位量と試験材の変形量との値の組(x,y)及び(x,y)を取得することができる。(x,y)及び(x,y)が得られた時点で、予備実験を完了することができる。
【0099】
図6におけるステップS102において、予備実験が不要と判断された場合(ステップS102における「No」を参照)及び予備実験が必要と判断された場合(ステップS102における「Yes」を参照)のいずれにおいても、次に、αの値を決定するステップが実施される(ステップS103)。
【0100】
前述したように、過去に被処理材1と同一の形状および材質を有する被処理材1に曲げ加工を施した経験がある場合には、ステップS103において、これらの結果に基づいてαの値を決定すればよい。また、予備実験を実施した場合には、予備実験によって得られる(x,y)及び(x,y)の値を下記式(1)に代入することにより、αの値を算出することができる。
【0101】
ステップS103を、図3に示す曲げ加工装置2を用い、前述した被処理材1と同一の形状および材質を有する試験材に2回の曲げ加工を施す予備実験を行った場合を例としてより具体的に説明する。予備実験の1回目の曲げ加工(図7、ステップT101)において押圧体22に付与した変位量x、つまり、基準位置からの油圧シリンダ222の伸長量を95mmとした場合、ステップT103において得られる試験材の変形量yは160.15mmとなる。また、2回目の曲げ加工(図7、ステップT104)において押圧体22に付与する変位量xを100mmとした場合、ステップT103において得られる試験材の変形量yは171.60mmとなる。
【0102】
図6に示すステップS103においては、これらの値を下記式(1)に代入することにより、αの値を決定することができる。前述した予備実験の結果に基づいて決定されるαの値は2.29である。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
【0103】
αの値を決定した後、被処理材1に予備曲げ工程を実施する(ステップS104)。予備曲げ工程においては、押圧体22に変位量X1を付与することにより、被処理材1に荷重を加えて曲げ加工を行う。予備曲げ工程における変位量X1は、予備曲げ工程が完了した後の変形量Y1が目標変形量YTよりも小さくなると予測される範囲で適宜設定することができる。予備曲げ工程における変位量X1は、具体的には、前述した予備実験の結果や、過去に行った曲げ加工の結果などに基づいて設定すればよい。
【0104】
予備曲げ工程において曲げ加工が完了した後、被処理材1の変形量Y1を、図8に示すようにして測定する(図6、ステップS105)。このようにして得られた、押圧体22に付与した変位量X1とその時の被処理材1の変形量Y1とを下記式(2)に代入することにより、目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2を予測することができる(ステップS106)。
X2=X1+(YT-Y1)/α ・・・(2)
【0105】
その後、個々の被処理材1に対してステップS106で算出した変位量X2を付与して曲げ加工を行う(ステップS107)。以上により、所望の形状を有する曲げ加工材を得ることができる。
【0106】
本例の製造方法を、より具体的に説明する。例えば、15本の被処理材1を準備し、押圧体22に95mmの変位量X1を付与して予備曲げ工程を行う場合、予備曲げ工程が完了した後の被処理材1の変形量Y1は、表1に示すようになる。
【0107】
【表1】
【0108】
これらの結果を統計処理することにより算出される変形量Y1の平均値は159.31mmであり、最大値と最小値との差は1.43mmである。
【0109】
次に、表1に示す15本の被処理材1のそれぞれに対して、前記式(2)を用いて目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2を予測する。前述した通り、被処理材1における係数αの値は、2.29である。被処理材の目標変形量YTを182.91mmとする場合、目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2の値は、表1の「変位量X2」欄に示した値となる。
【0110】
そして、15本の被処理材1のそれぞれに対して押圧体22を当接させ、表1に示した変位量X2を付与することにより本曲げ工程を実施する。本曲げ工程後の被処理材1、つまり、最終的に得られる曲げ加工材の変形量Y2は、表2の「変形量Y2」欄に示すようになる。これらの結果を統計処理することにより算出される変形量Y2の平均値は182.62mmであり、最大値と最小値との差は0.64mmである。
【0111】
図9に、表1におけるNo.4、No.6及びNo.7における、押圧体22に付与した変位量とその時の被処理材1の変形量とをプロットしたグラフを示す。図9の縦軸は被処理材1の変形量であり、横軸は押圧体22に付与した変位量である。図9に示したように、点(X1,Y1)と点(X2,Y2)とを結ぶ線分の傾きは、予備曲げ工程における変形量Y1が最も小さいNo.6、最も大きいNo.4及び最も平均値に近いNo.7のいずれにおいても同程度となる。また、図には示さないが、これら以外の被処理材1も、No.4、No.6及びNo.7と同程度の傾きを有している。
【0112】
従って、図9によれば、予備曲げ工程後の被処理材1の変形量Y1が大きい被処理材1ほど、本曲げ工程における押圧体22の変位量X2を小さくすればよいことが理解できる。
【0113】
そして、前述したように、前記式(2)を用いて予測した変位量X2を本曲げ工程において付与した場合、本曲げ工程における変形量Y2の最大値と最小値との差は、予備曲げ工程における変形量Y1の最大値と最小値との差の約0.45倍となる。これらの結果によれば、予備実験の結果に基づくαの値と、予備曲げ工程において押圧体22に付与する変位量X1と、予備曲げ工程後の被処理材1の変形量Y1とを用いて変位量X2を予測することにより、曲げ加工の精度をより向上させることができることが理解できる。
【0114】
(実施例2)
本例においては、図10を参照しつつ前記曲げ加工材の製造方法における、予備実験の他の態様の例を説明する。なお、本例以降において用いる符号のうち、既出の例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り、既出の例における構成要素と同様の構成要素等を表す。
【0115】
本例の予備実験は、変位量を段階的に大きくしながら繰り返し曲げ加工を行うように構成されている。具体的には、まず、予備実験を行う変形量の開始値x、変形量の増分Δx及び変形量の範囲を決定する(図10、ステップT201)。次に、押圧体22に変位量xを付与して試験材に曲げ加工を施す(ステップT202)。その後、押圧体22に変位量xを付与した際の試験材の変形量yを測定する(ステップT203)。なお、iは曲げ加工の回数を表す整数である。すなわち、1回目の曲げ加工における押圧体22の変位量はxとなり、曲げ加工を繰り返すごとにiの値が1ずつ増加する。
【0116】
なお、図には示さないが、曲げ加工を施した後、必要に応じて、試験材に形成された曲げ部11を目視により観察し、曲げ部11に塑性座屈や曲げしわの発生などの塑性不安定現象が発生しているか否かを評価してもよい。曲げ加工材を作製するに当たっては、種々の理由により、塑性不安定現象の発生が望まれないことがある。このような場合には、塑性不安定現象が発生した時点で予備実験を中断し、塑性不安定現象の発生を回避するための対処を行った後に、改めて予備実験を行えばよい。
【0117】
変形量yを測定した後、押圧体22の変位量xにステップT201で決定した増分Δxを加算することにより、次回の曲げ加工において押圧体22に付与する変位量xi+1を算出する(ステップT204)。そして、ステップT204において算出された変位量xi+1が、ステップT201で決定した範囲内か否かを判断する(ステップT205)。
【0118】
変位量xi+1がステップT201で決定した範囲内である場合には(ステップT205における「Yes」を参照)、ステップT201で決定した変位量の範囲内において、さらに(xi+1,yi+1)の値の組を取得することができる。そのため、この場合にはステップT202に戻り、試験材に曲げ加工をさらに施す。この時の押圧体22の変位量xは、ステップT204において算出した値、つまり、前回の曲げ加工において付与した変位量xi-1に増分Δxを加えた値とする。
【0119】
一方、変位量xi+1がステップT201で決定した範囲を超える場合には(ステップT205における「No」を参照)、ステップT202~T205の繰り返しによって、所望の範囲の押圧体22の変位量と、これらの変位量に対応する変形量との組が取得できている。従って、これらの値を用いてαの値を決定することができる(ステップT206)。
【0120】
αの値を決定するに当たっては、まず、取得されている変位量と変形量との値の組から、2つの値の組を選択する。そして、これら2つの値の組のうち変位量xが小さい方の値の組を変位量x及び変形量yとして用い、変位量xが大きい方の値の組を変位量x及び変形量yとすればよい。この際、本曲げ工程後における被処理材の変形量を目標変形量YTにより近づける観点からは、変位量y及び変位量yが目標変形量YTに近く、かつ、変位量yと変位量yとの差が適度に大きくなるような値の組を選択することが好ましい。以上により得られた変位量と変形量との値の組(x,y)及び(x,y)を前記式(1)に代入することにより、αの値を決定することができる。
【0121】
次に、ステップT206において決定したαの値を用い、試験材に対して予備曲げ工程及び本曲げ工程を実施する(ステップT207)。そして、本曲げ工程の結果に基づいて、αの値を採用可能か否かを判断する(ステップT208)。
【0122】
ステップT208においては、例えば、本曲げ工程後の試験材の変形量Y2を測定する。そして、変形量Y2が曲げ加工材に求められる公差の範囲内であるか否かを判断する。変形量Y2が曲げ加工材に求められる公差の範囲内である場合、ステップT206において決定したαの値により、曲げ部の形状のばらつきを十分に小さくできると推定される。従って、この場合には、ステップT206において決定したαの値を採用可能と判断し、予備実験を終了する(ステップT208における「Yes」を参照)。
【0123】
一方、本曲げ工程後の試験材の変形量Y2が曲げ部に求められる公差の範囲外である場合、ステップT206において決定したαの値を用いても、曲げ部の形状のばらつきの低減が不十分となるおそれがある。従って、この場合には、ステップT206において決定したαの値を採用不能と判断し、予備実験を終了する(ステップT208における「No」を参照)。
【0124】
本曲げ工程後の試験材の変形量Y2が曲げ部に求められる公差の範囲外となる原因としては、前述したような塑性不安定現象等が考えられる。従って、この場合には、変形量Y2が曲げ部に求められる公差の範囲外となる原因を特定し、必要な対処を行った後に改めて予備実験を行えばよい。
【0125】
以上のように、本例においては、変位量を段階的に大きくしながら繰り返し曲げ加工を行うように構成された予備実験の方法を説明した。実施例1においては、試験材に2回の曲げ加工を施すことにより、αの値の決定に必要な変位量と変形量との値の組(x,y)及び(x,y)を取得する例を説明した。しかし、例えば、過去に曲げ加工を施した経験がない材質及び/または形状を有する被処理材1に曲げ加工を施そうとする場合、予備実験において、適切な変位量x及びxを与えることが難しい場合がある。
【0126】
このような場合であっても、本例で説明したように、変位量を段階的に大きくしながら繰り返し曲げ加工を行うことにより、ステップT201で設定した変位量の範囲にわたって、押圧体22の変位量と、これに対応する試験材の変形量との値の組を取得することができる。それ故、本例の予備実験の結果に基づき、αの値をより容易に決定することができる。
【0127】
(実施例3)
本例においては、図11を参照しつつ、予め曲げ加工が施された被処理材3に対して前記曲げ加工材の製造方法を適用し、被処理材3の形状を矯正する例を説明する。図11に、本例において用いる被処理材3の平面図を示す。本例の被処理材3は、JIS A7046合金からなりT1調質が施された押出形材である。図には示さないが、被処理材3は長手方向に垂直な断面において略台形状を呈しており、被処理材3の内部には1か所の中空部が設けられている。
【0128】
以下において、被処理材3の上下方向を、前述した断面における互いに平行な一対の辺の並び方向とし、一対の辺の並び方向における、より長い辺を有する側を下方、より短い辺を有する側を上方という。なお、前述した被処理材3の上下方向に関する記載は便宜上のものであり、被処理材3を実際に配置する方向とは何ら関係がない。
【0129】
図11に示すように、本例の被処理材3は、予め曲げ加工が施されており、長手方向における一方の端部32と他方の端部33との間に1か所の曲げ部31を有している。より具体的には、本例の被処理材3には、下方の面を基準面34とした場合に、長手方向の一方の端部32が斜め上方を向くように曲げ加工が施されている。
【0130】
本例の被処理材3においては、基準面34から曲げ加工が施された端部までの、上下方向における距離を被処理材3の変形量とすることができる。被処理材3の変形量の測定方法は、実施例1と同様である。つまり、被処理材3の変形量は、具体的には図11に示すように、被処理材3の基準面34を定盤9に載置した状態で、ハイトゲージ等を用いて定盤9から一方の端部32までの高さHを測定することにより得ることができる。
【0131】
本例における曲げ加工材の製造方法は、予め被処理材3が曲げ部31を有している点を除き、実施例1と同様である。すなわち、まず、被処理材3における係数αの値を決定するための予備実験を行う。具体的には、被処理材3を試験材とし、予め形成されている曲げ部31に2回の曲げ加工を行うことにより、αの値を決定するために必要な、押圧体22の変位量と試験材の変形量との値の組(x,y)及び(x,y)を取得することができる。本例の予備実験により得られるαの値は、0.91である。
【0132】
次に、実施例1と同様にして、被処理材3に予備曲げ工程及び本曲げ工程を順次実施する。本例の製造方法を、5本の被処理材3を準備し、これらに対して予備曲げ工程及び本曲げ工程を行う場合を例としてより具体的に説明する。5本の被処理材3の初期の変形量、つまり、予備曲げ工程を行う前の変形量は、例えば表2に示したようになる。表2に示した初期の変形量の平均値は200.89mmであり、最大値と最小値との差は0.74mmである。
【0133】
次に、これらの被処理材3の曲げ部31に対して押圧体22を当接させ、予備曲げ工程を行う。予備曲げ工程において押圧体22に98.5mmの変位量X1を付与する場合、予備曲げ工程が完了した後の被処理材3の変形量Y1は、表2及び図12に示すようになる。表2に示した被処理材3の変形量Y1の平均値は202.68mmであり、最大値と最小値との差は0.58mmである。なお、図12の横軸は押圧体に与えた変位量であり、縦軸は被処理材3の変形量である。
【0134】
次に、表2に示す5本の被処理材3のそれぞれに対して、前記式(2)を用いて目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2を予測する。目標変形量YTを203.50mmとする場合、目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2の値は、表2の「変位量X2」欄に示した値となる。
【0135】
そして、5本の被処理材3のそれぞれに対して押圧体22を当接させ、表2の「変位量X2」欄に示した変位量を付与することにより本曲げ工程を実施する。最終的に得られる曲げ加工材の変形量Y2は、表2の「変形量Y2」欄に示した値のようになる。これらの結果を統計処理することにより算出される変形量Y2の平均値は203.52mmであり、最大値と最小値との差は0.16mmである。また、図12に、本曲げ工程における押圧体22の変位量X2及び本曲げ工程が完了した後の曲げ加工材の変形量Y2を示す。
【0136】
【表2】
【0137】
表2及び図12に示したように、前記曲げ加工材の製造方法は、予め曲げ加工が施された被処理材3に適用する場合においても、本曲げ工程後の被処理材3の変形量のばらつき、つまり、最大値と最小値との差を初期の値よりも低減することができる。これらの結果から、前記曲げ加工材の製造方法を予め曲げ加工が施された被処理材3に適用することにより、曲げ部31の形状を矯正できることが理解できる。
【0138】
(実施例4)
本例では、複数の被処理材4に順次本曲げ工程を行う曲げ加工材の製造方法の例を、図13図17を参照しつつ説明する。本例の曲げ加工材の製造方法は、図16に示すように、支持体21に支持された金属製の被処理材4に押圧体22を当接させ、押圧体22に変位を与えて曲げ加工を施すことができるように構成されている。図13に示すように、本例の曲げ加工材の製造方法は、被処理材4の変形量が目標変形量YTとなるように曲げ加工を行う本曲げ工程(ステップS204、S207)を有している。
【0139】
また、第n番目(ただし、nは2以上の整数)の被処理材4の本曲げ工程(ステップS207)において押圧体22に与える変位量Xは、下記式(3)により算出される値である。
=Xn-1+(YT-Yn-1)/α ・・・(3)
【0140】
前記式(3)における記号Xn-1は第n-1番目に曲げ加工が施された被処理材4の本曲げ工程において押圧体22に付与された変位量であり、記号Yn-1は第n-1番目に曲げ加工が施された被処理材4の、本曲げ工程後における変形量である。
【0141】
また、前記式(3)における係数αの値は、被処理材4と材質及び形状が同じ試験材に対して押圧体22に変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yと、押圧体22に変位量xよりも大きい変位量xを付与して曲げ加工を施した時の試験材の変形量yとを決定する予備実験(ステップS212)の結果に基づき下記式(1)で表される。
α=(y-y)/(x-x) ・・・(1)
【0142】
本例の被処理材4は、JIS A7046合金からなりT1調質が施された押出形材である。図には示さないが、被処理材4は長手方向に垂直な断面において略台形状を呈しており、被処理材4の内部には隔壁部によって区画された3か所の中空部が設けられている。また、本例の被処理材4は、例えば、共通の金属材を分割することによって作製されている。そのため、被処理材4の間での形状や強度等の差異を比較的小さくすることができる。
【0143】
以下において、便宜上、被処理材4の上下方向を、前述した断面における互いに平行な一対の辺の並び方向とし、一対の辺の並び方向における、より長い辺を有する側を下方、より短い辺を有する側を上方という。なお、前述した被処理材4の上下方向に関する記載は便宜上のものであり、被処理材4を実際に配置する方向とは何ら関係がない。
【0144】
本例の曲げ加工装置202は、図14図16に示すように、被処理材4を支持可能に構成された支持体21と、支持体21に支持された被処理材4を押圧可能に構成された押圧体22と、を備えた曲げ加工部20と、被処理材4の変形量を測定可能に構成された変形量測定部23と、変形量測定部23において測定された変形量に基づいて曲げ加工部20における押圧体22の変位量を制御可能に構成された制御部24と、を有している。
【0145】
より具体的には、本例の曲げ加工装置202は、引張曲げを行うことができるように構成されている。曲げ加工装置202の支持体21は、図14に示すように、架台(図示略)に立設された軸部214と、軸部214を中心に回動可能に構成されたクランプ部215と、を有している。2か所のクランプ部215は、被処理材4の端部42を把持することができるように構成されている。
【0146】
また、2か所のクランプ部215の間には、押圧体22が配置されている。本例の押圧体22は、具体的には、被処理材4に当接する部分が弧状に膨出した凸形状を有する金型223である。金型223は、架台に取り付けられた1本の油圧シリンダ224に連結されており、油圧シリンダ224の伸縮に伴って位置を変更することができるように構成されている。
【0147】
本例の曲げ加工装置202は、以下のようにして被処理材4に曲げ加工を施すことができるように構成されている。まず、図14に示すように、2か所のクランプ部215に被処理材4の端部42を取り付けて被処理材4を支持する。この際、図には示さないが、被処理材4の下方の面が金型223と対面するように被処理材4を配置する。
【0148】
その後、金型223が連結された油圧シリンダ224を伸長させる。油圧シリンダ224を基準位置から伸長させると、金型223が被処理材4の中央部に当接する。この状態からさらに油圧シリンダ224を伸長させると、被処理材4の中央部が金型223によって押圧される。これにより、被処理材4の変形が開始される。このとき、被処理材4の両端が保持されたクランプ部215は、被処理材4の変形に伴って図16に示すように軸部214を中心に回動する。そのため、金型223によって押圧された被処理材4の中央に曲げ部41が形成される。また、被処理材4は、全体が弧状となるように変形する。
【0149】
また、被処理材4が変形し始めると、被処理材4の長さが自然状態、つまり、荷重が加わっていない状態よりも長くなる。このとき、被処理材4の両端がクランプ部215によって保持されているため、曲げ加工中の被処理材4には、引張応力が加わっている。それ故、本例の曲げ加工装置202は、被処理材4に引張曲げを行うことができる。
【0150】
図には示さないが、本例の曲げ加工装置202は、曲げ加工後の被処理材4を、図15に示す変形量測定部23に自動的に移動させることができるように構成されている。変形量測定部23は、被処理材4の両端部42を載置可能に構成された載置部231と、載置部231の上方に配置された接触式変位計232と、を有している。接触式変位計232は、載置部231に載置された状態の被処理材4の中央部、つまり、曲げ部41の頂点に対面するように配置されており、曲げ部41の頂点にプローブ233を接触させることができるように構成されている。
【0151】
本例の変形量測定部23は、例えば以下のようにして曲げ加工材の変形量を測定することができる。まず、図15に示すように、載置部231上に本曲げ工程が完了した後の被処理材4(つまり、曲げ加工材)の両端部42を載置する。これにより、被処理材4における曲げ部41の頂点が、接触式変位計232のプローブ233と対面する。次いで、プローブ233を曲げ部41の頂点に接触させ、曲げ部41の頂点の位置を決定する。このようにして決定された曲げ部41の頂点の位置と、予め変形量測定部23に記憶された載置部231の位置との高さの差を、本曲げ工程後における被処理材4の変形量とすることができる。
【0152】
本例の曲げ加工装置202における制御部24は、図14に示すように、入力部241、入力データ保持部242、演算部243及び出力部244を有している。入力部241は、前記式(1)におけるαの値と被処理材4の目標変形量YTとを入力することができるように構成されている。
【0153】
入力部241は、αの値及び被処理材4の目標変形量YT以外のデータを入力可能に構成されていてもよい。αの値及び被処理材4の目標変形量YT以外に入力可能なデータとしては、例えば、αの値を算出するために用いられる、押圧体22の変位量と被処理材4の変形量との値の組等が挙げられる。本例の入力部241は、具体的には、曲げ加工装置202の操作盤におけるキーボードである。
【0154】
入力データ保持部242は、入力部241において入力されたαの値及び目標変形量YTと、曲げ加工を実施した際に押圧体22に付与した変位量と、曲げ加工後に変形量測定部23により測定された被処理材4の変形量とを含む入力データを保持可能に構成されている。本例の入力データ保持部242は、具体的には、曲げ加工装置202の操作盤に内蔵された記憶装置である。
【0155】
演算部243は、入力データ保持部242に保持された入力データに基づいて、本曲げ工程において押圧体22に付与する変位量を算出可能に構成されている。本例の演算部243は、具体的には、曲げ加工装置202の操作盤に内蔵されたマイクロプロセッサである。
【0156】
出力部244は、演算部243により算出された変位量を曲げ加工部20に出力し、押圧体22に演算部243により算出された変位量を付与することができるように構成されている。出力部244は、具体的には、曲げ加工装置202の操作盤における、曲げ加工装置202本体とのインタフェースである。
【0157】
次に、図13を参照しつつ、本例の曲げ加工材の製造方法をより詳細に説明する。曲げ加工材の製造方法を実施するに当たっては、まず、得ようとする曲げ加工材の形状に基づき、被処理材4の目標変形量YTを決定する(図13、ステップS201)。目標変形量YTを決定するに当たっては、例えば、目的とする曲げ加工材の形状等に基づいて、被処理材4の変形量を測定する部位を決定し、次いで、本曲げ工程後に実現しようとする変形量、つまり、目標変形量YTを図面等に基づいて決定すればよい。
【0158】
本例においては、図15に示したように、被処理材4の両端42を結ぶ直線を基準線44とし、この基準線44から被処理材4の長手方向の中央(つまり、曲げ部41の頂点)までの高さHを被処理材4の変形量とする。なお、図には示さないが、本例の被処理材4の変形量は、実施例1と同様に、被処理材4の両端を定盤に載置した状態で、ハイトゲージ等を用いて定盤から被処理材4の長手方向の中央までの高さを測定することによっても得ることができる。
【0159】
次に、前記式(3)における係数αの値を決定するための、予備実験の要否を判断する(図13、ステップS202)。ステップS202の詳細は、実施例1におけるステップS102と同様である。また、予備実験(ステップS212)の具体的な態様は、実施例1の態様と同様であってもよいし、実施例2の態様と同様であってもよい。なお、本例の曲げ加工装置202においては、油圧シリンダ224の基準位置からの伸長量を押圧体22の変位量とすればよい。
【0160】
図13におけるステップS202において、予備実験が不要と判断された場合(ステップS202における「No」を参照)及び予備実験が必要と判断された場合(ステップS202における「Yes」を参照)のいずれにおいても、次に、αの値を決定するステップが実施される(ステップS203)。ステップS203の詳細は、実施例1におけるステップS103と同様である。本例の曲げ加工装置202及び被処理材4を用いて決定されるαの値は0.63である。
【0161】
αの値を決定した後、第1番目の被処理材4に本曲げ工程を実施する(ステップS204)。第1番目の被処理材4の本曲げ工程においては、押圧体22に変位量Xを付与することにより、被処理材4に荷重を加えて曲げ加工を行う。第1番目の被処理材4の本曲げ工程における変位量Xは、変形量Yが目標変形量YTに近くなると予測される値を用いればよい。具体的には、第1番目の被処理材4の本曲げ工程における変位量Xは、前述した予備実験の結果や、過去に行った曲げ加工の結果などに基づいて設定することができる。
【0162】
第1番目の被処理材4の本曲げ工程が完了した後、被処理材4の変形量Yを測定する(ステップS205)。その後、下記式(3)に基づいて、第n番目(ただし、nは本曲げ工程を行った被処理材4の本数に1を加えた数である。)の被処理材4の本曲げ工程において目標変形量YTを実現するために必要な変位量Xを予測するステップ(ステップS206)を実施する。
=Xn-1+(YT-Yn-1)/α ・・・(3)
【0163】
ステップS206においては、直前に実施した本曲げ加工、つまり、第n-1番目の被処理材4の本曲げ工程において、押圧体22に付与した変位量Xn-1とその時の被処理材4の変形量Yn-1とを前記式(3)に代入する。このようにして得られたXの値は、第n番目の被処理材4の本曲げ工程において目標変形量YTを実現するために必要な変位量Xとして使用することができる。例えば、第1番目の被処理材4の本曲げ工程における押圧体22の変位量Xと、これに対応する被処理材4の変形量Yとを前記式(3)に代入することにより、第2番目の被処理材4の本曲げ工程における押圧体22の変位量Xを予測することができる。
【0164】
ステップS206において変位量Xを算出した後、第2番目の被処理材4に対して変位量Xを付与することにより、本曲げ工程を実施する(ステップS207)。そして、第2番目の被処理材4の変形量Yを測定する(ステップS208)。前述したように、本例において用いる被処理材4は、共通の金属材を分割することによって作製されているため、第2番目の被処理材4の形状や強度等は第1番目の被処理材4の形状や強度等と概ね同様になる。そのため、第2番目の被処理材4の変形量Yを、目標変形量YTに近い値とすることができる。
【0165】
本例の曲げ加工材の製造方法においては、第2番目の被処理材4の本曲げ工程が完了した後に、準備した被処理材4の全てに曲げ加工を実施したか否かを判断する(ステップS209)。曲げ加工がまだ実施されていない被処理材4が残っている場合(ステップS209における「No」を参照)、ステップS206~ステップS208を繰り返し実施し、曲げ加工材を作製する。そして、全ての被処理材4の本曲げ加工が完了した時点で、本例の製造方法を終了する(ステップS209における「Yes」を参照)。
【0166】
本例の製造方法を、より具体的に説明する。以下の例においては、長さ約4mの金属材をそれぞれ4等分することにより、長さ約1mの被処理材4を作製する。このようにして得られた被処理材4を56本準備し、共通の金属材から分割された被処理材4に対して連続して曲げ加工が施されるように加工順序を設定する。
【0167】
本曲げ加工(図13、ステップS204及びステップS207)における目標変形量YTは78.35mmとし、本曲げ工程が完了した後の変形量が77.50mm以上79.20mm以下の範囲内である曲げ加工材を合格と判定する。また、第1番目の被処理材4の本曲げ工程(図13、ステップS204)において押圧体22に付与する変位量Xは、予備実験の結果に基づき、93.00mmとする。
【0168】
これらの被処理材4に対して前述した方法により曲げ加工を連続して行う場合、各被処理材4の本曲げ工程において押圧体22に付与した変位量X及び被処理材4の変形量Yは、図17に示すようになる。なお、図17の縦軸は押圧体22に付与した変位量X及び被処理材4の変形量Yであり、横軸は曲げ加工を施した被処理材4の数である。また、図17においては、共通の金属材から分割された被処理材4を示す記号の間を直線で接続した。すなわち、記号同士が直線で接続されていない部分は、被処理材4の元となった金属材が変化したことを意味している。
【0169】
図17に示す例においては、第1本目の被処理材4の変形量が前述した範囲を下回り、不合格となるものの、第2本目以降の被処理材4の変形量は、全て合格の範囲内となる。図17における押圧体22の変位量と被処理材4の変形量とを比較すると、本曲げ工程が完了した被処理材4の数が増えるにつれて押圧体22の変位量が徐々に大きくなっているのに対し、被処理材4の変形量は概ね前述した合格の範囲内に収まっている。すなわち、図17に示す例では、本曲げ工程が完了した被処理材の数が増えるにつれて、目標変形量YTを実現するために必要な押圧体の変位量が増大している。
【0170】
本例の製造方法によれば、このような場合であっても、直前に実施した本曲げ工程の結果を次回の本曲げ工程にフィードバックし、適切な変位量を設定可能であることが理解できる。さらに、本例の製造方法によれば、被処理材4の元となった金属材が変化した場合においても、金属材が変化する前の被処理材4における本曲げ工程の結果に基づいて、変化した後の被処理材4に対して適切な変位量を予測することができる。
【0171】
なお、本例の方法により曲げ加工材を作製した場合、例えば図17における第1本目の被処理材4のように、準備した被処理材4の形状等のばらつきの程度や加工順序によっては、本曲げ工程後の被処理材4の変形量と目標変形量YTとの乖離が大きくなることがある。この場合には、例えば、目標変形量YTとの乖離が大きい被処理材4に再度曲げ加工を行って曲げ部41の形状を矯正すればよい。再度の曲げ加工を行うに当たっては、例えば、実施例3に記載された曲げ加工方法を適用することにより、曲げ部41の形状を精度よく矯正することができる。
【0172】
(実施例5)
本例においては、変形量測定部の他の態様の例を説明する。本例の曲げ加工装置203は、図18に示すように、被処理材4を支持可能に構成された支持体21と、支持体21に支持された被処理材4を押圧可能に構成された押圧体22と、を備えた曲げ加工部20と、被処理材4の変形量を測定可能に構成された3個の変形量測定部25(25a、25b、25c)と、変形量測定部25において測定された変形量に基づいて曲げ加工部20における押圧体22の変位量を制御可能に構成された制御部24と、を有している。
【0173】
本例の変形量測定部25は、具体的には、プローブ光Pを照射することによって照射位置の座標を取得可能に構成された、非接触式の変位計である。3個の変形量測定部25のうち2個の変形量測定部25a、25bは、それぞれ、被処理材4の端部にプローブ光Pを照射することができるように配置されている。また、3個の変形量測定部25のうち残る1個の変形量測定部25cは、被処理材4の長手方向の中央にプローブ光Pを照射することができるように配置されている。
【0174】
変形量測定部25は、例えば以下のようにして被処理材4の変形量を測定することができる。変形量測定部25a、25bは、被処理材4の両端部にプローブ光Pを照射し、これらの照射位置に基づいて被処理材4の両端の座標を決定することができる。また、変形量測定部25cは、被処理材4の中央にプローブ光Pを照射し、プローブ光Pの照射位置に基づいて被処理材4の中央の座標を決定することができる。このようにして得られた被処理材4の両端の座標を結ぶ線を基準線とし、基準線から被処理材4の中央までの距離を、被処理材4の変形量とすることができる。その他は実施例4と同様である。
【0175】
実施例1~実施例5においては、前記曲げ加工材の製造方法またはこれに用いることができる曲げ加工装置の構成例を説明したが、前記曲げ加工材の製造方法またはこれに用いることができる曲げ加工装置の態様は実施例1~実施例5に記載された態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0176】
例えば、実施例1においては、予備曲げ工程と本曲げ工程との両方を、同一の曲げ加工装置を用いて行う例を説明したが、本曲げ工程において、予備曲げ工程に用いた曲げ加工装置とは別の曲げ加工装置を用いることもできる。この場合、予備曲げ工程において取得した変位量X1と変形量Y1との値の組を本曲げ工程に用いる曲げ加工装置に送信し、本曲げ工程に用いる曲げ加工装置において、これらの値を用いて目標変形量YTを実現するために必要な変位量X2を算出すれば、1台の曲げ加工装置を用いる場合と同様の曲げ加工方法を行うことができる。
【符号の説明】
【0177】
1、3、4 被処理材
2、202、203 曲げ加工装置
20 曲げ加工部
21 支持体
22 押圧体
23、25 変形量測定部
24 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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