(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】農業用多目的台車
(51)【国際特許分類】
A01B 51/02 20060101AFI20240621BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20240621BHJP
A01B 75/00 20060101ALI20240621BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20240621BHJP
B62B 3/00 20060101ALI20240621BHJP
B62B 5/00 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A01B51/02
A01B69/00 303Z
A01B75/00
A01M7/00 D
B62B3/00 B
B62B3/00 E
B62B5/00 E
(21)【出願番号】P 2020170387
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000148380
【氏名又は名称】株式会社前田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】林 志成
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 俊也
(72)【発明者】
【氏名】藤森 学
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴弘
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-133650(JP,A)
【文献】特開2001-301642(JP,A)
【文献】特開平06-191203(JP,A)
【文献】特開平09-202238(JP,A)
【文献】特開2019-041729(JP,A)
【文献】特開2018-122688(JP,A)
【文献】特開平11-225552(JP,A)
【文献】特開2006-000073(JP,A)
【文献】実開平07-005913(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 51/02
A01B 69/00
A01B 75/00
A01M 7/00
B62B 3/00
B62B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種の農作業用アタッチメントを搭載又は取り付けることが可能な前輪操舵・後輪モータ駆動の農業用多目的台車であって、
電力を供給するバッテリーと、
前輪側のリンク連結軸と台車本体の後方側に配置されるステアリング軸とを連結するリンク機構と、
前記ステアリング軸に直列に連結されるステアリングハンドルと、
地面の凹凸面に前記前輪を追従させる前輪左右傾斜追従機構と、
前記台車本体の上部に配置され、拡張可能に構成される荷台と、
前記台車本体の後部下方側に配設され、運転者が立ち乗りすることが可能な乗車ステップと、
前記農業用多目的
台車を制御するコントローラと、
を有し
、
前記農作業用アタッチメントは、除草剤散布用アタッチメント又は消毒剤散布用アタッチメントであり、除草剤又は消毒剤を入れるタンク及びポンプを有し、前記除草剤又は前記消毒剤を散布するものであり、走行しながら散布作業を行うことが可能に構成されている、
ことを特徴とする農業用多目的台車。
【請求項2】
請求項1に記載の農業用多目的台車において、
手動走行又は自律走行が可能であって、
前記コントローラは、手動走行用のコントローラ又は自律走行用のコントローラの少なくともいずれかを有し、
前記手動走行用のコントローラは、モータの駆動制御を担うモータ駆動制御部、及びライト類の点灯制御を担うライト類制御部を有し、
前記自律走行用のコントローラは、運転者が予め設定するナビゲーションデータ、GPS衛星からの電波を受信し検出した現在位置に基づき走行経路を制御するナビゲーション制御部、及び前記前輪の操舵を担うステアリング駆動制御部を有し、
実際に走行した走行経路及び前記走行経路の農作物の生育状況データを記録する走行履歴記録部をさらに有している、
ことを特徴とする農業用多目的台車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の農業用多目的台車において
前記台車本体又は前記荷台は、運転者の頭部を覆うサンシェード、少なくとも運転者の上半身を覆うカバー、ミスト発生器又は送風
機の補助具のうちの少なくとも一つを取り付けることが可能に構成されている、
ことを特徴とする農業用多目的台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用多目的台車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業就業人口の減少や農業就業者の高齢化が進み、農作業における省力化が喫緊の課題となっている。労働負荷が大きい果樹栽培においては、高密植栽培法などの採用によって、摘花、摘果及び収穫作業の省力化を実現しようとしている。しかし、収穫物や資材の運搬作業及び薬剤散布などの作業負荷は依然大きく、この作業領域における省力化及び負荷低減が求められている。
【0003】
運搬作業や収穫作業の負荷低減を実現するために、作業者が荷台上の椅子に座って台車を運転し、椅子に座った状態で葡萄などを収穫することを可能とし、収穫物などの運搬時には、作業者は台車からおりて椅子を倒し収穫物が入ったコンテナを荷台に乗せる。そして、歩行しながら台車を運転する農作業用台車がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、車体フレームの前方側に各種農作業用アタッチメントを装着することが可能なヒッチを有し、車体フレームの後方側に運転手が乗るキャビンを配設し、車体フレームのキャビンを除く領域を荷台とする農業用多目的台車がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、農作業の省力化を実現するために自律走行が可能な果樹用作業車がある。この果樹用作業車は、カーナビシステムによるモニタ画面の道路案内に従って車体を走行させることが可能である。圃場においては、果樹用作業車は、前回の作業内容や走行軌跡のデータに基づき自動で耕耘作業を行い、耕耘作業の履歴を記録している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-118235号公報
【文献】特開平10-313605号公報
【文献】特開2002-187455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の農作業用台車においては、台車上の椅子に座って葡萄の収穫作業を行うことが可能であるが、薬剤散布などの農作業用アタッチメントを取り付けられる構成にはなっていない。また、収穫物を運搬する際には、作業者が歩行しながら農作業用台車を運転するものであるから、走行路に凹凸面がある場合などにおいては作業負荷が生じると共に、走行速度が低下してしまうという課題がある。
【0008】
特許文献2の農作業多目的台車においては、荷台をはじめ、薬剤散布用の噴霧器、ロータリー式耕耘機や荷物を昇降させる昇降機など、各種農作業用アタッチメントを装備することが可能である。しかし、車体フレーム上には、運転者が乗るキャビンを備えている。そのため、荷台を広く取るためには車体が大型化し、コスト高になることや、走行路が狭い圃場では対応できない場合があるという課題がある。また、運転者は、キャビンから降りて何らかの作業をし、キャビンに戻って運転することになるため、乗り降りに時間がかかり、作業ロスが発生する。また、キャビンは走行輪より高い位置にあるため、高齢者にとっては乗り降りに負担がかかるという課題もある。
【0009】
また、特許文献3の果樹用作業車は、道路においては、GPSを利用したカーナビシステムを利用して車体を走行させ、圃場においては、前回の走行軌跡や作業内容などのデータに従って自動で耕耘作業を行うことが可能である。しかし、この農業用作業車は、農作業用アタッチメントとしては耕耘機のみが使用可能であり、荷台さえ有していないことから多目的に供することはできない単能機である。また、運転者は、キャビンから降りて何らかの作業をし、キャビンに戻って運転することになるため、乗り降りに時間がかかり、作業ロスが発生する。また、キャビンはボンネットと略同じ高さ位置にあるため、高齢者にとっては乗り降りに負担がかかるという課題がある。キャビンは、農業用多目的台車のコストアップの要因となる。
【0010】
そこで、本発明は、このような課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、第1に、運転者は走行しながら農作業を行うことが可能であり、作業ロスを低減し、農作業の省力化及び効率化を実現し、圃場内の地面の状況に関わらず速度を落とさずに安定走行が可能な農業用多目的台車を実現する。第2に、実際の走行経路、走行経路にある農作物の生育状況などの履歴を記録しつつ自律走行が可能であり、運転者の負荷を軽減することが可能な農業用多目的台車を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本発明の農業用多目的台車は、各種の農作業用アタッチメントを搭載又は取り付けることが可能な前輪操舵・後輪モータ駆動の農業用多目的台車であって、電力を供給するバッテリーと、前輪側のリンク連結軸と台車本体の後方側に配置されるステアリング軸とを連結するリンク機構と、前記ステアリング軸に直列に連結されるステアリングハンドルと、地面の凹凸面に前記前輪を追従させる前輪左右傾斜追従機構と、前記台車本体の上部に配置され、拡張可能に構成される荷台と、前記台車本体の後部下方側に配設され、運転者が立ち乗りすることが可能な乗車ステップと、前記農業用多目的台車を制御するコントローラと、を有していることを特徴とする。
【0012】
[2]本発明の農業用多目的台車においては、前記農作業用アタッチメントは、除草剤散布用アタッチメント又は消毒剤散布用アタッチメントであり、除草剤又は消毒剤を入れるタンク及びポンプを有し、前記除草剤又は前記消毒剤を散布するものであり、走行しながら散布作業を行うことが可能に構成されていることが好ましい。
【0013】
[3]本発明の農業用多目的台車においては、手動走行又は自律走行が可能であって、前記コントローラは、手動走行用のコントローラ又は自律走行用のコントローラの少なくともいずれかを有し、前記手動走行用のコントローラは、モータの駆動制御を担うモータ駆動制御部、及びライト類の点灯制御を担うライト類制御部を有し、前記自律走行用のコントローラは、運転者が予め設定するナビゲーションデータ、GPS衛星からの電波を受信し検出した現在位置に基づき走行経路を制御するナビゲーション制御部、及び前記前輪の操舵を担うステアリング駆動制御部を有し、実際に走行した走行経路及び前記走行経路の農作物の生育状況データを記録する走行履歴記録部をさらに有していることが好ましい。
【0014】
[4]本発明の農業用多目的台車においては、前記台車本体又は前記荷台は、運転者の頭部を覆うサンシェード、少なくとも運転者の上半身を覆うカバー、ミスト発生器又は送風機の補助具のうちの少なくとも一つを取り付けることが可能に構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記農業用多目的台車は、農作業用アタッチメント(例えば、除草剤散布用アタッチメントや消毒剤散布用アタッチメント)を取り付けることが可能であり、運転者は走行しながら農作業を行うことができることから、農作業業の省力化及び効率化を低コストで実現できる。また、農業用多目的台車は、運転者が立ち乗り可能な乗車ステップを有することによって、運転者は乗り降りを容易に素早く行うことができ、作業ロスを低減できる。農業用多目的台車は、前輪左右傾斜追従機構によって圃場内の地面の状況に関わらず速度を落とさずに安定走行が可能となる。また、農業用多目的台車は、走行履歴記録部によって実際の走行経路、走行経路にある農作物の生育状況などの走行履歴を記録しつつ自律走行させることによって、運転者(管理者)の負荷を軽減することが可能となり、これらの走行履歴によって以降の農作業を効率的に行うことが可能となる。さらに、補助具を設けることによって、運転者の負荷を軽減することが可能な農業用多目的台車を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】農業用多目的台車1の概略構成を示す斜視図である。
【
図5】除草剤散布用アタッチメント90を取り付けた例を示す斜視図であり、除草剤を散布している状況を示している。
【
図6】高密植栽培の果樹に適応する消毒剤散布用アタッチメント110を取り付けた例を示す斜視図であり、消毒剤を散布している状況を示している。
【
図8】手動走行用のコントローラ20Aの主要構成を示すブロック図である。
【
図9】走行履歴を記録することが可能な手動走行用のコントローラ20Bの主要構成を示すブロック図である。
【
図10】自律走行用のコントローラ20Cの主要構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の農業用多目的台車1について、
図1~
図10を参照しながら説明する。以下に説明する各図は、縮尺及び構成など実際とは異なる模式図であり、構成要素の一部の図示を省略している。
【0018】
[農業用多目的台車1の構成]
図1は、農業用多目的台車1の概略構成を示す斜視図である。なお、以降の説明において、
図1の左方側を前進方向、右方側を後進方向、前進方向に向かって右方を右側、前進方向に向かって左方を左側とする。農業用多目的台車1は、モータ走行が可能な台車本体10と、台車本体10の上部に配設される荷台11とから構成される。農業用多目的台車1は、果樹や野菜などの消毒剤や除草剤など薬剤の散布作業及び収穫物を入れたコンテナや資材の運搬などの農作業を補助するための多目的台車である。但し、この農業用多目的台車1は、農作業以外にも適用可能である。また、農業用多目的台車1は、一般道路を走行可能にするための法律及び各種基準に適合させる。
【0019】
農作業用多目的台車1は、前輪操舵・後輪モータ駆動方式であって、前輪12及び後輪13とからなる4輪車であり、前輪12の操舵を担うステアリングハンドル14が台車本体10の後方側に配置されている。前輪12とステアリングハンドル14とは、リンク機構15によって連結されており、前輪操舵を可能にしている(詳しくは
図3参照)。ステアリングハンドル14は、リンク機構15に対して垂直方向に立ち上げられており、運転者Mが乗車ステップ16に立ち乗りした姿勢で操作することが可能になっている(
図5参照)。ステアリングハンドル14は、いわゆるバーハンドルであって、図示は省略するが、自動二輪車と同様にアクセルレバー、ブレーキレバー、前進・後進切替えレバー及び起動スイッチを有している。
【0020】
後輪13の車軸にはトランスミッション及びディファレンシャルギヤ(共に図示は省略)を介してモータ17が連結されている。モータ17は、正逆回転切替え可能である。台車本体10の中央部には、農業用多目的台車1の電気系に電力を供給するバッテリー18が配設され、バッテリー18の後方側にコントローラ20(コントローラの総称)が配設されている。コントローラ20は、コントローラボックス内に格納されている。以上説明した前輪12及び後輪13の車軸、リンク機構15、乗車ステップ16、モータ17、バッテリー18及びコントローラ20は、剛性を有する本体フレーム19に取り付けられることによって台車本体10が構成される。
【0021】
乗車ステップ16は、本体フレーム後部19aに回動可能に取り付けられており、本体フレーム後部19aに沿って上方に畳み込むことができる。従って、運転者Mは、乗車ステップ16を畳んで歩きながらステアリングハンドル14を操作することも可能である。なお、図示は省略するが、簡易的な椅子を本体フレーム後部19aに取り付けるように構成することが可能であり、その際、乗車ステップ16は、運転者Mの足を乗せるステップとなる。また、台車本体10の左右各前方側にはヘッドライト22が配置されている。ヘッドライト22は、作業の種類によっては、左右側面から外側に向かって取り付けることも可能である。
【0022】
本体フレーム前部19bの先端にはバンパー21が取り付けられている。なお、図示は省略するが、前輪12及び後輪13の上部を囲むようにフェンダーが設けられており、台車本体の左右側面、前面及び地面側底面に保護カバーが取り付けられている。
【0023】
続いて、荷台11の構成について説明する。荷台11は、台車本体10の上方において本体フレーム19に固定された格子枠状の荷台フレーム30(
図2参照)、荷台フレーム30の上面に載置される天板類及び天板類の外周辺に取り付けられるアオリ部材(囲い部材と呼ぶことがある)によって構成されている。天板類は、左右方向の中央部に配置される天板31,32,33と、左右端の各々に配置されるスライド天板34,35とから構成されている。スライド天板34,35は各々、左右方向にスライド移動し、荷台11を左右方向に拡張することが可能となるように構成されている。アオリ部材は、前方側のアオリ36、右方側のアオリ37、左方側のアオリ38、後方側のアオリ39によって構成されている。
【0024】
図2は、荷台11の拡張方法を示す図であり、
図2(a)は拡張前を示す平面図、
図2(b)は拡張後を示す平面図、
図2(c)は拡張方法を示す部分拡大図である。
図1及び
図2を参照しながら、アオリ36,37,38,39の構成について説明する。アオリ36は2本の支柱36aが天板31に挿通され、支柱36aの位置で荷台フレーム30に蝶ネジ44によって固定される(
図2(a)参照)。アオリ39は、天板33の後方外側において、2本の支柱39aの位置で荷台フレーム30に蝶ネジ44で固定される(
図2(a)参照)。
図1に示すように、アオリ39は、平面視して前方側に曲げられた窪み39bを有している。運転者Mが乗車ステップ16に立ち乗りしたときに、運転者Mは窪み39b内に居ることによって、左右方向の揺れに対して姿勢を安定させることができるようにしている。
【0025】
アオリ37の支柱37aはスライド天板34に挿通され、アオリ38の支柱38aはスライド天板35に挿通される。アオリ37はスライド天板34と共に左右に移動可能であり、アオリ38はスライド天板35と共に左右に移動可能である。アオリ36は、天板31に対する挿入深さを調整することによって、天板31に対する高さを調整することができる。なお、アオリ36~38は積載物の種類や形態によって、全部取り外してしまってもよく、そのうちのいくつかを取り付けておくことも可能である。
【0026】
続いて、荷台11の拡張方法について
図2(a),(b),(c)を参照して説明する。荷台11の拡張は、荷台フレーム30とアオリ37,38との間で行う。荷台フレーム30は、左右方向に延びる2本のパイプで構成される梁30a,30bを有している。
図2(a)に示すように拡張前のアオリ37,38は、各々梁30a,30bの両端部に接触する位置にある。本例においては、アオリ37とアオリ38との距離W0は約80cmであり、前輪12及び後輪13の左右外側の距離が80cmであることから、荷台11の幅は車幅とほぼ同じである。すなわち、台車本体10が走行可能な通路であれば、荷台11も通過することが可能となる。
【0027】
図2(b)に示すように、アオリ37,38は、各々梁30a,30bに向かって延在される挿通バー37b,37c,38b,38cを有している。挿通バー37b,37c,38b,38cは、梁30a,30bのパイプ孔に挿通可能であって、パイプ孔内においてスライド移動し荷台11を拡張させることができる。なお、アオリ37,38は、平面方向に180度回転すれば共通に使用することが可能な構成である。そこで、アオリ37(挿通バー37b)及び梁30aを例にあげ荷台11の拡張方法について
図2(c)を参照しながら説明する。なお、アオリ36,39は移動させない。
【0028】
図2(c)において、実線で示すアオリ37は拡張前を示し、二点鎖線で示すアオリ37は拡張後を表している。挿通バー37bには、長さ方向に直交し水平方向に開口する孔40,41が設けられている。一方、梁30aには、長さ方向に直交し水平方向に開口する孔42が設けられている。拡張前においては、挿通バー37bの孔41の位置が梁30aの孔42の位置と一致する(
図2(c)のA位置)。この孔41及び孔42に頭付きのピン45を挿通することによって、アオリ37の平面方向位置を決めることができる。
【0029】
次いで、アオリ37を梁30aから孔40がA位置に到達するまで引き出し、この孔40及び孔42に頭付きのピン45を挿通することによって、荷台11を拡張することができる。A位置にあった孔41は、
図2(c)に示すB位置に移動する。説明は省略するが、アオリ38においてもアオリ37と同じようにして移動させることが可能である。本例においては、荷台11の左右方向の幅を約120cmまで拡張することが可能となっている。なお、スライド天板34,35は、アオリ37,38の移動と共に移動する。アオリ37(スライド天板34)、アオリ38(スライド天板35)のどちらか一方移動させることも可能である。また、図示は省略するが、ピン45の落下を防止するために、例えば、ワイヤなどでピン45と梁30aとを連結する、又はピン45の先端にキャップなどの落下防止具を設けるなどの落下防止手段を設けることがより好ましい。
【0030】
農業用多目的台車1は前輪操舵方式であり、ステアリングハンドル14は後方側に配設されているため、前輪12と後方側のステアリングハンドル14とはリンク機構50によって連結される。リンク機構50の構成について
図3を参照して説明する。
【0031】
図3は、リンク機構50の1例を示す平面図である。なお、
図3は、リンク機構50を地面側から見た図であり、駆動輪である後輪13は配置のみを表している。リンク機構50は、車体本体10の中心軸Pに対して左右対称となるように構成されている。リンク機構50は、後輪13側にステアリングハンドル14を連結するステアリング軸51、及びステアリング軸51を回転軸として左右に揺動可能なステアリングレバー52を有している。ステアリング軸51は、プレート53を介して本体フレーム19に固定されている。
【0032】
リンク機構50は、前輪12側にリンク連結軸54、リンク連結軸54を回転軸として左右に揺動可能な連結レバー55を有している。ステアリングレバー52と連結レバー55との間は、平行な2本のロッド56,57によって連結されている。ロッド56は、ステアリングレバー52の支持軸58と連結レバー55の支持軸59とで軸支されている。ロッド57は、ステアリングレバー52の支持軸60と連結レバー55の支持軸61とで軸支されている。なお、ステアリング軸51及びリンク連結軸54は、中心軸Pの延長線上に配置されている。
【0033】
リンク連結軸54には、揺動可能な中間レバー62が固定されている。中間レバー62は、連結レバー55と一体でリンク連結軸54を回転軸として揺動する。連結レバー55と中間レバー62とを一体で形成してもよい。ステアリングフレーム63の両端には、車軸ユニット64が取り付けられ、車軸ユニット64には前輪が取り付けられる。中間レバー62と左右の車軸ユニット64とは、各々ロッド65,66で連結される。左右の車軸ユニット64は同じ構成であることから、主として
図3に示す左側について説明する。
【0034】
車軸ユニット64は、フレーム軸67によってステアリングフレーム63に回動可能に固定された伝達レバー68A、及び、伝達レバー68Aと一体で回動する車軸ブロック69によって構成されている。車軸ブロック69には前輪ホイール70が装着される。右側においては、伝達レバー68B及び中間レバー62は、ロッド66によって連結されている。ロッド65は、一方が中間レバー62の支持軸71によって軸支され、他方が伝達レバー68の支持軸72によって軸支されている。ロッド66は、一方が中間レバー62の支持軸73によって軸支され、他方が伝達レバー68Bの支持軸74によって軸支されている。なお、ロッド65は、ロッドエンドベアリング83によって、支持軸71及び支持軸72に連結される。一方、ロッド66は、ロッド65と同様にロッドエンドベアリング83によって、支持軸73及び支持軸74に連結される。なお、図示は省略するが、台車本体10は、ロッドエンドベアリング83が備えるボールジョイントの許容角度を超えないようにするために、ロッド65,66の偏倚角度を抑えるストッパーを有している。
【0035】
次いで、リンク機構50の作用について
図3を参照して説明する。ステアリングハンドル14を左側(運転者Mから見て右側)に動かすと、ステアリングレバー52、ロッド56,57、連結レバー55、中間レバー62、ロッド65、及び伝達レバー66のそれぞれが、
図3において矢印で示す方向に揺動或いは移動し、前輪12を太い矢印で示す方向に回動し進路を切り替えることが可能となる。つまり、運転者Mから見て右方向に農業用多目的台車1の走行方向を切り替えることが可能となる。同様に、ステアリングハンドル14を右側(運転者Mから見て左側)に動かすと、左方向に農業用多目的台車1の走行方向を切り替えることが可能となる。このような構成によって、ステアリングハンドル14から前方に離れた位置に配置される前輪12を操舵することが可能になる。
【0036】
果樹園や圃場の地面は凹凸面を有している場合が多い。それゆえに、農業用多目的台車1は凹凸面に前輪12を追従させ、台車本体10の傾きを抑制しつつ速度を落とさずに走行させること可能な機構を有している(前輪左右傾斜追従機構という)。次に、前輪左右傾斜追従機構80について
図4を参照しながら説明する。
【0037】
図4は、前輪左右傾斜追従機構80を示す図であり、前輪12が地面の凹凸面によって傾斜した状況を示す図である。前輪12のうち、図示右側を前輪12A、左側を前輪12Bとする。前輪左右傾斜追従機構80は、前輪12A、12Bに車軸ユニット64を介して連結するステアリングフレーム63、及びステアリングフレーム63を高さ方向に揺動可能に固定するステアリングフレーム支持軸81を有している。ステアリングフレーム支持軸81は、中心軸P上に水平に延在される軸部材である。ステアリングフレーム63は、ステアリングフレーム支持軸81によって本体フレーム19の一部であるステアリングフレーム支持プレート82に揺動可能に固定される。
【0038】
続いて、前輪12が傾斜する状況について
図4を参照して説明する。
図4は、一方の前輪12Bが地面の凸面G1に乗り上げ、他方の前輪12Bが凹面G2に入り込んで傾斜した状況を表している。
図4に示すように、ステアリングフレーム63はステアリングフレーム支持軸81を回転軸として左肩上がりに揺動する。ステアリングフレーム63は、凸面G1と凹面G2とを前輪12の間隔で結んだとき傾斜面を走行している状況と同じように傾斜する。ステアリングフレーム63は、右肩上がりに傾斜するときも左肩上がりに傾斜するときと同様に傾斜することが可能である。前輪12が凹凸面を乗り越えることによって、後輪13も凹凸面を容易に乗り越えることが可能となる。傾斜面を走行する場合には、前輪12A,12B共に、傾斜面に倣って接地し走行速度を極端に落とさなくても走行可能である。
【0039】
農業用多目的台車1には、各種農作業用アタッチメントを搭載又は取り付けることが可能である。農作業用アタッチメントとして、除草剤散布用アタッチメント90及び消毒用アタッチメント110などの薬剤散布を例に上げて説明する。
【0040】
図5は、除草剤散布用アタッチメント90を取り付けた例を示す斜視図であり、除草剤を散布している状況を示している。除草剤散布用アタッチメント90は、除草剤を入れるタンク91、ポンプ92及び送液パイプ93で構成されている。タンク91及びポンプ92はアタッチメント取り付け具94によって荷台11上に取り付けられる。但し、タンク90及びポンプ92が走行中に一定の範囲内に収まっていれば、アタッチメント取り付け具94はタンク90及びポンプ92を緩やかに保持することが可能な構造としてもよい。
【0041】
アタッチメント取り付け具94は、タンク91の前方側を支持するアオリ状の前方側支持部95、側方両側を支持する側方側支持部96、及び後方側を支持する後方側支持部97で構成されている。前方側支持部95の左側の支柱95aは、スライド天板34に貫通させ、左側の支柱95bはスライド天板35に貫通させることによってアタッチメント取り付け具94の位置が規制されている。前方側支持部95、側方側支持部96及び後方側支持部97は、それぞれタンク91及びポンプ92の下方側まで延在されており、下方側で格子状に交差し、タンク91及びポンプ92を搭載することが可能に構成されている。前方側支持部95、側方側支持部96及び後方側支持部97は、タンク91及びポンプ92の形状、大きさなどに対応して位置を切り替えることが可能となっている。
【0042】
タンク91とポンプ92とは、パイプやチューブ(図示は省略)で接続されている。ポンプ92は、バッテリー18(
図1参照)に接続される。ポンプ92は、開閉バルブ98を介して送液パイプ93に接続され、ノズル99から除草剤を噴射する。ノズル99は、除草剤をシャワー噴射させることが可能であり、使用条件に対応して噴射の強さや噴射の広がりを調整できる。また、送液パイプ93は、アオリ100にパイプ結束バンド101などで固定するようにすれば、ノズル99の位置や向きを容易に切り替えることが可能となる。なお、送液パイプ93は、開閉バルブ98で分岐して右方側にも配置することが可能であり、この際、開閉バルブ98には三方バルブを使用する。
【0043】
運転者Mは、乗車ステップ16(
図1参照)に立ち乗りした姿勢で、除草剤を散布しながら農業用多目的台車1を走行させることができる。なお、ポンプ92のON/OFFスイッチは、通常、ポンプ92の運転者Mが操作可能な位置に設けられるが、ステアリングハンドル14に設けるようにしてもよく、開閉バルブ98を電磁バルブとし、ステアリングハンドル14に開閉調整ができる操作部を設けるようにすれば、作業効率を高めることが可能となる。続いて、農作業用アタッチメントとしての他の例である消毒用アタッチメント110について
図6を参照して説明する。
【0044】
図6は、高密植栽培の果樹に適応する消毒剤散布用アタッチメント110を取り付けた例を示す斜視図であり、消毒剤を散布している状況を示している。タンク91及びポンプ92は除草剤散布用と共通に使用することが可能であり、アタッチメント取り付け具94も除草剤散布用と同様な構成とすることが可能であることから説明を省略する。なお、除草剤散布用アタッチメント90と共通に使用することが可能な部分には、
図5と同じ符号を付している。消毒剤散布用アタッチメント110は、消毒剤を入れるタンク91、ポンプ92、送液パイプ111及び噴射パイプ112A,112Bで構成されている。
【0045】
タンク91とポンプ92とは、パイプやチューブ(図示は省略)で接続されている。ポンプ92は、バッテリー18(
図1参照)に接続される。ポンプ92は、開閉バルブ98を介して送液パイプ111に接続され、送液パイプ111は噴射パイプ112Aに接続されている。噴射パイプ112Aは、アオリ100に固定されたパイプ支持部102にパイプ結束バンド101によって固定され、消毒剤が運転者Mにかかりにくい後方側に立てられる。なお、噴射パイプ112Bにおいても、噴射パイプ112Aと同様にパイプ支持部102に固定され、開閉バルブ98で分岐された送液パイプ111に接続される。噴射パイプ112A,112Bを運転者Mよりも上方で水平に延在し、走行路の上方に枝がはった果樹に消毒剤を散布する構成とすることも可能である。このような、消毒剤散布は、後述する自律走行の農業用多目的台車1に搭載することが好ましい。
【0046】
噴射パイプ112A,112Bは、それぞれ3個のノズル113を有し、消毒剤を左右方向、すなわち散布対象の果樹に向かって噴射する。但し、ノズル113の数は3個に限らず増減することが可能であり、噴射パイプ112A,112B各々のノズルの数を変えることも可能であり、噴射パイプ112A,112Bうちどちらか一方の噴射パイプの構成とすることも可能である。また、背丈が低い野菜などに対応して噴射パイプ112A,112Bを水平方向に延在させ、下方側に消毒剤噴射させることが可能である。運転者Mは、乗車ステップ16(
図1参照)に立ち乗りした姿勢で、消毒剤を散布しながら農業用多目的台車1を走行させることができる。
【0047】
なお、農業用多目的台車1は、除草剤散布用アタッチメント90、消毒剤散布用アタッチメント110以外の農作業用アタッチメントを取り付けることが可能であり、台車本体10の前方に設けられたアタッチメント取り付けプレート103を利用して取り付けることが可能である。例えば、果樹などの剪定後の枝などを集めたり、草刈り後の草などを集めたり、又は収穫後の野菜などの残渣を集めたりするアタッチメントなどを取り付けることが可能である。
【0048】
以上説明した農業用多目的台車1は、収穫物や資材の運搬、除草剤散布、消毒剤散布などの農作業を可能としたものであるが、農業用多目的台車1には、農作業を快適にしたり、運転者Mを保護したりするための補助具を取り付けることが可能となっている。各種補助具の例をあげ説明する。
【0049】
図7は、補助具の1例を示す図であり、
図7(a)はサンシェード115を取り付けた例を示す図、
図7(b)は運転者Mを覆うカバー117を取り付けた例を示す図、
図7(c)は送風機120を取り付けた例を示す図、
図7(d)はミスト発生器125を取り付けた例を示す図である。
図7(a)に示すように、農業用多目的台車1はサンシェード115を有している。サンシェード115は、シェードフレーム116の上方に天蓋状に取り付けられている。シェードフレーム116は、アオリ100の左右の支柱100aに蝶ネジ44などによって固定される。このようなサンシェード115を設けることによって、例えば、炎天下などにおいて日差しを遮ったり、紫外線をカットしたり、雨に濡れないようにしたりすることが可能となる。なお、サンシェード115を傘のような形態にすることも可能であり、形態は様々なものにすることが可能である。サンシェード115は、乗車ステップ16の乗り降りを妨げないように配設される。
【0050】
農業用多目的台車1が、消毒剤散布用アタッチメント110を有する場合、運転者Mに消毒剤がかからないようにすることが望ましい。
図7(b)に示すように、農業用多目的台車1には、運転者Mの上半身を覆うカバー117が設けられている。カバー117は、カバーフレーム118及びカバーシート119とから構成されている。カバーフレーム118は、噴射パイプ112A及び噴射パイプ112Bの内側において、運転者Mの少なくとも上半身を枠状に囲むように構成されている。カバーフレーム118は、アオリ100の左右両側の支柱100aに蝶ネジ44によって固定される。
【0051】
カバーシート119は、透明性、撥水性及び柔軟性を有するビニールなどの材料で形成された袋状の部材であって、カバーフレーム118の上方から被せるようにして装着される。カバーシート119は、運転者Mが走行操作する際には、運転操作の妨げにならない範囲を解放している。運転者Mの頭上のカバーシート119には、遮光処理を施せばなお好ましい。カバー117は、運転者Mの少なくとも上半身の周囲を囲み、運転者Mが消毒剤を吸い込むリスクを低減することができる。また、カバー117は、運転者Mが乗車ステップ16に乗り降りしやすい形態にすることが望ましい。
【0052】
農業用多目的台車1には、送風機120を取り付けることが可能である。
図7(c)に示すように、送風機120は、支柱121にクランプ122などの取り付け具によって固定される。支柱121は、アオリ100の右側の支柱100aに蝶ネジ44によって固定される。但し、支柱121は、左側の支柱100aに固定することも可能である。送風機120は、運転者Mの頭部方向に向かって送風するように取り付けられる。但し、クランプ122によって取り付け高さを切り替えたり、送風方向を切り替えたりすることができる。送風機120は、ケーブル(図示は省略)によってバッテリー18に接続される。送風機120を備えることによって、運転者Mは体感温度を下げて快適に農作業を行うことを可能にする。なお、農業用多目的台車1が消毒剤散布用アタッチメント110を使用して作業する際に、前述したカバー117がない場合において、霧状になった消毒剤を送風機120で拡散させることができる。
【0053】
また、農業用多目的台車1には、ミスト発生器125を取り付けることが可能である。
図7(d)に示すように、ミスト発生器125は、支柱121にクランプ122などの取り付け具によって固定されている。支柱121は、アオリ100の右側の支柱100aに蝶ネジ44によって固定される。但し、支柱121は、左側の支柱100aに固定することも可能である。ミスト発生器125は、運転者Mの頭上方向に配置されることが好ましいが、クランプ122によって取り付け高さを切り替えることが可能である。ミスト発生器125は、ケーブル(図示は省略)によってバッテリー18に接続される。
【0054】
ミスト発生器125が水貯留タンクを備えるものあるが、貯水量に制約があるため荷台11にポンプ付きの水貯留タンク126を備え、チューブ(図示は省略)によってミスト発生器125に接続するようにしてもよい。このようにミスト発生器125を備えることによって、運転者Mは高温時においても快適に農作業を行うことができる。なお、送風機120及びミスト発生器126は、サンシェード115と併用することができる。
【0055】
農業用多目的台車1は、手動走行は勿論、自律走行を可能にすることが可能である。農業用多目的台車1はコントローラ20によって制御される。コントローラとしては、手動走行、自律走行それぞれに対応するコントローラを装備する。コントローラ20は、手動走行用のコントローラ20A、走行履歴を記録することが可能な手動走行用のコントローラ20B、及び自律走行に対応可能な自律走行用のコントローラ20Cなど、それぞれの走行方式に対応可能なコントローラで構成される。以下に各走行方式に対応するコントローラの構成及び作用について説明する。
【0056】
図8は、手動走行用のコントローラ20Aの主要構成を示すブロック図である。なお、手動走行とは、走行制御を運転者Mが行う走行方式である。コントローラ20Aは、モータ17の駆動制御を担うモータ駆動制御部130、モータ駆動制御部130からの信号に基づきモータ17を駆動するモータ駆動部131を有している。さらに、コントローラ20Aは、ヘッドライト132、ブレーキランプ133及びウインカ134などのライト類の制御を担うライト類制御部135を有している。なお、ライト類には、カメラ142によって撮像する撮像対象物を照明するライトも含まれる。モータ駆動制御部130、モータ駆動部131及びライト類制御部135は、コンピュータ136によって制御される。コントローラ20Aは、バッテリー18から電源制御部(パワーコントローラ)137を介して電力が供給される。電源制御部136は、コントローラ20Aに適切な電力を供給する電源端子、及び災害時などの緊急用として家電などに電力を供給することが可能な家庭用電源端子(100V端子)を有している。
【0057】
図9は、走行履歴を記録することが可能な手動走行用のコントローラ20Bの主要構成を示すブロック図である。コントローラ20Bは、手動走行用コントローラ20及び走行位置検出部140で構成されている。コントローラ20Aの構成は、
図8で説明しているので説明を省略する。走行位置検出部140は、農業用多目的台車1の実際の走行状態を検出するセンサ群141、果樹や野菜などを撮像し静止画又は動画として取り込むカメラ142、果樹との距離を測定するレーダ143、GPS衛星からの電波を受信し自車の現在位置を検出する現在位置検出部144、及び自車の走行履歴を記録する走行履歴記録部145を有している。さらに、手動走行用のコントローラ20Bは通信部156を有し、走行履歴記録部145で収集した走行履歴情報をPC157、スマートフォン158及びタブレット159などの管理者(農作業者を含む)が所有する情報機器に送信する。PC157及びタブレット159は、インターネット網を介して走行履歴情報を入手し、スマートフォン158は、電話網を介して走行履歴情報を入手する。
【0058】
センサ群141は、方位センサ、車輪回転センサ(速度センサ)、操舵角センサ、ピッチングセンサ、ローリングセンサ、傾斜センサなど自車の走行状況を検出し走行履歴記録部145に入力する。ピッチングセンサ、ローリングセンサ及び傾斜センサは、走行路の状態を検知することが可能である。なお、温度、湿度、日照及び降雨などの環境センサを設けるようにしてもよい。環境センサで検出したデータ及びカメラ142で撮像したデータと、作物の生育状況とを関連付けることによって、作物の生育管理に役立てることが可能となる。カメラ142は撮像対象に対応して複数配設することが可能である。例えば、カメラ142は、ステアリングハンドル14の設置位置において、前方向及び左右両側方向を撮像可能な位置に配設することができる。または、台車本体10の前方向及び後方向を撮像することが可能な位置に配設することができる。または、運転者Mの上方にドーム型カメラ(360度撮像カメラ)を配設することも可能である。カメラ142は、果樹や野菜などの生育状態、雑草の繁茂状況などを検出し走行履歴記録部145に入力する。従って、カメラによって撮像する対象物に照明をあてるライト類を設けることが好ましい。コンピュータ136は、コントローラ20A及び走行位置検出部140を制御する。
【0059】
実際の走行履歴と撮像記録とを関連付けることによって、果樹や野菜などの生育状態、或いは雑草の繁茂状況を知ることができ、位置を特定して消毒剤散布、除草剤散布などの適切な散布を行うことが可能となる。電源制御部136は、コントローラ20Bに適切な電力を供給する電源端子、及び災害時などの緊急用として家電などに電力を供給することが可能な家庭用電源端子(100V端子)を有している。なお、バッテリーは、電力消費が大きいモータ駆動と、その他の制御用とに分けて設けるようにしてもよい。
【0060】
図10は、自律走行用のコントローラ20Cの主要構成を示すブロック図である。自律走行は、管理者(運転者)が設定した走行経路に沿って自律的に走行することである。従って、昼夜を問わず農業用多目的台車1を走行させることが可能となる。コントローラ20Cは、手動走行用のコントローラ20B、及びナビゲーション機能部150で構成されている。コントローラ20Bは、前述したようにコントローラ20A及び走行位置検出部140で構成されている。ナビゲーション機能部150は、時間(時刻)を管理するタイマー151、農業用多目的台車1の操舵を制御するステアリング駆動制御部152、ステアリング駆動部153、及び自律走行経路を規定するナビゲーションデータ154に基づき走行経路を制御するナビゲーション制御部155を有している。コンピュータ136は、コントローラ20C全体の制御を行う。ナビゲーションデータ154には圃場の地図データや道路の地図データが含まれる。
【0061】
自律走行は、予め運転者Mや管理者によって設定された走行経路を規定するナビゲーションデータ154、及び走行経路に対する現在位置情報から、指定された走行経路に沿って走行するように制御される。すなわち、走行開始位置(時刻)、走行経路、走行速度及び走行中止位置及び走行距離はナビゲーションデータ154において自在に設定することができる。ナビゲーション制御部155は、設定された自律走行情報をモータ駆動制御部130及びステアリング駆動制御部152に出力し、モータ駆動部131及びステアリング駆動部153を制御する。モータ駆動部131はモータ17を駆動する回路であり、ステアリング駆動部153は、ステアリング軸51又はリンク連結軸54を回動するためのモータ(図示は省略)を駆動する回路である。走行履歴記録部145は、実際に走行した経路及び速度、走行距離の記録並びにカメラ142で撮像した画像データなどを時間(時刻)に関連付けた情報を走行履歴として収集し、通信部156を介して管理者(運転者・作業者を含む)が所有する情報機器にその情報を送信する。
【0062】
管理者が所有する情報機器としては、PC157、スマートフォン158又はタブレット159などである。PC157及びタブレット159は、インターネット網を介して走行履歴情報を入手し、スマートフォン158は、電話網を介して走行履歴情報を入手する。管理者は入手した走行履歴情報に基づき、次回の農作業の計画をたてることによって無駄を排除して効率的な作業を行うことができるようになる。また、センサ群141(ピッチングセンサ、ローリングセンサ及び傾斜センサ)によって、走行路の状態が分かることから、走行経路及び走行速度などを適切に設定することも可能となる。また、消毒剤散布や除草剤散布などの時期や回数などの作業記録を作業日誌のように残すことができる。
【0063】
なお、自律走行中に手動走行に切り替えることが可能である。例えば、運転者Mがブレーキなどの手動走行操作の一つを実行した際に、自律走行から手動走行に切り替えることができる。或いは、自律走行と手動走行とを切り替える手段を設けるようにしてもよい。これらの操作も走行履歴に記録される。
【0064】
以上説明した農業用多目的台車1は、各種の農作業用アタッチメントを搭載又は取り付けることが可能な前輪操舵・後輪モータ駆動の農業用多目的台車である。農業用多目的台車1は、電力を供給するバッテリー18と、前輪12側のリンク連結軸54と台車本体10の後方側に配置されるステアリング軸51とを連結するリンク機構50と、ステアリング軸51に直列に連結されるステアリングハンドル14と、地面の凹凸面に前輪12を追従させる前輪左右傾斜追従機構80と、台車本体10の上部に配置され、拡張可能に構成される荷台11と、台車本体10の後部下方側に配設され、運転者Mが立ち乗りすることが可能な乗車ステップ16と、農業用多目的台車1を制御するコントローラ20と、を有している。
【0065】
農業用多目的台車1は、農作業用アタッチメントを取り付けることが可能であり、運転者Mは走行しながら農作業用アタッチメントを使用することができることから、農作業の省力化及び効率化を実現できる。また、農業用多目的台車1は、運転者Mが立ち乗り可能な乗車ステップ16を有することによって、運転者Mは乗り降りを容易に素早く行うことができ、作業ロスを低減できる。また、農業用多目的台車1は、前輪左右傾斜追従機構80によって圃場内の地面の状況に関わらず速度を落とさずに安定走行が可能となり、農作業の効率化を図ることができる。また、農業用多木庭台車1は、運転者Mが乗車して収穫物や資材などの運搬は勿論、各種農作業アタッチメントを取り付けて作業を行えるなど、多目的に使用可能な農業用多目的台車を低コストで実現することが可能となる。
【0066】
前記農作業用アタッチメントは、除草剤散布用アタッチメント90又は消毒剤散布用アタッチメント110であり、除草剤又は消毒剤を入れるタンク91及びポンプ92を有し、除草剤又は消毒剤を散布するものであり、走行しながら散布作業を行うことが可能となるように構成されている。なお、タンク91及びポンプ92は、軽トラックなどに搭載可能な汎用品を使用することができる。
【0067】
除草剤散布用アタッチメント90は、タンク91及びポンプ92を荷台11上に搭載し、送液パイプ93をアオリ100に固定し、ノズル99から繁茂した雑草に除草剤を噴射散布する。一方、消毒剤散布用アタッチメント110は、消毒剤散布用アタッチメント90と同様にタンク91及びポンプ92を荷台11上に搭載し、噴射パイプ112A,112Bをアオリ100のパイプ支持部102に立てて固定し、複数のノズル113から消毒剤を果樹などに噴射散布する。運転者Mは、乗車ステップ16に立ち乗りした状態で走行しながら除草剤散布及び消毒剤散布を行うことができ、作業の省力化や効率化を図ることが可能となる。
【0068】
なお、農作業用アタッチメントとしては、除草剤散布用アタッチメント90、消毒剤散布用アタッチメント110以外の農作業用アタッチメントを取り付けることが可能である。例えば、肥料散布用アタッチメントや、台車本体10の前方に設けられた剛性を有するアタッチメント取り付けプレート103(
図5参照)を利用し、果樹の剪定後の枝などを集めたり、草刈り後の草などを集めたり、或いは、収穫後の野菜などの残渣を集めたりするアタッチメントなどを取り付けることが可能である。
【0069】
農業用多目的台車1は、手動走行又は自律走行が可能であって、コントローラ20は、手動走行用のコントローラ20A,20B、自律走行用のコントローラ20Cの少なくといずれかを有している。手動走行用のコントローラ20Aは、モータ17の駆動制御を担うモータ駆動制御部130、及びライト類(ヘッドライト132、ブレーキランプ133及びウインカ134など)の点灯制御を担うライト類制御部135を有している。自律走行用コントローラ20Cは、
運転者Mが予め設定するナビゲーションデータ154、GPS衛星からの電波を受信し検出した現在位置に基づき走行経路を制御するナビゲーション制御部155、及び前輪12の操舵を担うステアリング駆動制御部152を有し、実際に走行した走行経路及び走行経路の農作物の生育状況データを記録する走行履歴記録部145をさらに有している。
【0070】
手動走行用のコントローラ20Aは、運転者Mが手動で農業用多目的台車1を走行制御するためのものである。手動走行用のコントローラ20Bは、手動走行においてGPS衛星からの電波を受信して走行中の農業用多目的台車1の現在位置を検出し、走行経路履歴を記録することを可能にしている。
【0071】
一方、自律走行用のコントローラ20Cは、農業用多目的台車1の自律走行(自動走行ともいう)を可能にしている。自律走行用のコントローラ20Cは、走行開始位置(時刻)、走行経路、走行速度、走行中止位置及び走行距離をナビゲーションデータ154として自在に設定することができる。走行履歴記録部145は、実際に走行した経路及び速度、走行距離の記録並びにカメラ142で撮像した画像データなどを時間(時刻)に関連付けた情報を走行履歴として収集し、通信部156を介して管理者(運転者・作業者を含む)が所有する情報機器にその情報を送信する。管理者は入手した走行履歴情報に基づき、次回の農作業の計画をたてることによって無駄を排除して効率的な作業を行うことができるようになる。なお、管理者は、実際に走行した走行距離のデータからメンテナンスの必要時期を判断することが可能となる。
【0072】
走行履歴記録部145によって実際の走行経路、走行経路にある農作物の生育状況などの走行履歴を記録することができ、これらの走行履歴によって以降の農作業を効率的に行うことが可能となり、消毒剤散布や除草剤散布などの時期や回数などの作業記録を作業日誌のように残すことができる。
【0073】
また、台車本体10又は荷台11は、運転者Mの頭部を覆うサンシェード115、上半身を覆うカバー117、ミスト発生器125又は送風機120などの補助具のうちの少なくとも一つを取り付けることが可能に構成されている。このような補助具を設けることによって、運転者Mの運転中の負荷を軽減し、快適に農作業を行うことが可能となる。また、前述した特許文献2及び特許文献3がキャビンを装備していることに対し、農業用多目的台車1においては、補助具を容易に取り付けたり、作業状況に対応して交換したりすることが可能で、省スペース、低コストで実現することが可能となる。
【0074】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。例えば、前述した実施の形態の農業用多目的台車1は、手動走行及び自律走行を可能にするものであるが、遠隔操作とすることが可能である。遠隔操作の場合には、通信部156から運転者Mが持つ無線操縦装置からの操縦に関わる信号に基づき、ステアリング駆動制御部152、モータ駆動制御部130によって農業用多目的台車1を走行させることが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
1…農業用多目的台車、10…台車本体、11…荷台、12…前輪、13…後輪、14…ステアリングハンドル、15…リンク機構、16…乗車ステップ、17…モータ、18…バッテリー、19…本体フレーム、19a…本体フレーム後部、19b…本体フレーム前部、20,20A,20B,20C…コントローラ、21…バンパー、22…ヘッドライト、30…荷台フレーム、31,32,33…天板、34,35…スライド天板、36,37,38,39,100…アオリ、36a,37a,38a,39a…支柱、39b…窪み、50…リンク機構、51…ステアリング軸、54…リンク連結軸、55…連結レバー、63…ステアリングフレーム、80…前輪左右傾斜追従機構、81…ステアリングフレーム支持軸、90…除草剤散布用アタッチメント、91…タンク、92…ポンプ、110…消毒剤散布用アタッチメント、115…サンシェード、117…カバー、120…送風機、125…ミスト発生器、130…モータ駆動制御部、135…ライト類制御部、145…走行履歴記録部、152…ステアリング駆動制御部、154…ナビゲーションデータ、155…ナビゲーション制御部、G1…凸面、G2…凹面、M…運転者、P…中心軸