(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】エアバッグ及びエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20240621BHJP
B60R 21/239 20060101ALI20240621BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20240621BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/239
B60R21/231
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2020191466
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 典久
(72)【発明者】
【氏名】陶山 洋士
(72)【発明者】
【氏名】小ケ口 晃
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218013(JP,A)
【文献】特開2019-218014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0283700(US,A1)
【文献】特開2019-018791(JP,A)
【文献】再公表特許第2020/017280(JP,A1)
【文献】国際公開第2019/166268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/239
B60R 21/231
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の背面側に展開する後方膨張部と、
前記後方膨張部の座席幅方向両側から前方に延び、前記座席の前方で相互に連結される一対の側方膨張部と、
前記側方膨張部から前記座席の中央側かつ前記座席の前方に設けられるサブバッグと、
を備え、
前記サブバッグと前記側方膨張部との対向面に排気口が設けられる、
エアバッグ。
【請求項2】
前記サブバッグは、前記側方膨張部の膨張完了時の下部に連通され、
前記排気口は、前記サブバッグと前記側方膨張部との連通位置より上方に設けられる、
請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
前記排気口は前記サブバッグに設けられる、
請求項1または2に記載のエアバッグ。
【請求項4】
インフレータと、
前記インフレータから供給されるガスにより展開する請求項1~3のいずれか1項に記載のエアバッグと、
を備えるエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の座席のヘッドレストやシートバックからエアバッグを展開して、このエアバッグにより座席に着座している乗員の頭部の全方位を保護する手法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の乗員の頭部の全方位を保護するエアバッグでは、ヘッドレストやシートバックからエアバッグを車両前方側に展開させるため、フロントエアバッグやサイドエアバッグと比較して、バッグ圧力を長時間維持する構造である。乗員拘束時にはエアバッグと乗員とのクリアランス(隙間)が小さい方が望ましいが、乗員拘束完了後には、乗員の脱出や救出を容易にするために、このクリアランスを大きくできるのが好ましい。
【0005】
本開示は、乗員拘束完了後に乗員の脱出や救出を容易にできるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るエアバッグは、座席の背面側に展開する後方膨張部と、前記後方膨張部の座席幅方向両側から前方に延び、前記座席の前方で相互に連結される一対の側方膨張部と、前記側方膨張部から前記座席の中央側かつ前記座席の前方に設けられるサブバッグと、を備え、前記サブバッグと前記側方膨張部との対向面に排気口が設けられる。
【0007】
同様に、本発明の実施形態の一観点に係るエアバッグ装置は、インフレータと、前記インフレータから供給されるガスにより展開する上述のエアバッグと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、乗員拘束完了後に乗員の脱出や救出を容易にできるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグ展開時の斜視図
【
図4】
図1~3中のエアバッグの平面視の概略構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
なお、以下の説明において、各図面で示すx方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向は車両の前後方向であり、x正方向側が車両前方、x負方向側が車両後方である。y方向は車両の幅方向であり、y正方向側が車両右側、y負方向側が車両左側である。z方向は上下方向であり、z正方向側が上方、z負方向側が下方である。
【0012】
まず
図1~
図5を参照して本実施形態に係るエアバッグ装置10の構成を説明する。
図1は、実施形態に係るエアバッグ装置10のエアバッグ展開時の斜視図である。
図2は、
図1に示すエアバッグ装置10の側面図である。
図3は、
図1に示すエアバッグ装置10の正面図である。
図4は、
図1~3中のエアバッグ20の平面視の概略構成を示す模式図である。
図5は、
図4中のA-A断面図である。
【0013】
図1~
図5に示すように、エアバッグ装置10は車両の座席60に搭載される。座席60は、乗員Dが着座する座部61と、座部61の後端に下端が連結されたシートバック62と、シートバック62の上端に設けられたヘッドレスト63とを含んで構成される。シートバック62の内部にはフレーム64が配置されている。なお、
図1~
図3には図示を省略しているが、座席60にはシートベルト、タング、バックル、リトラクタなど、車両用シートに搭載される一般的な要素も設置されている。
【0014】
また、本実施形態ではエアバッグ装置10が搭載される座席60として車両右側の前部座席を例示する。この場合、y正方向側が車両外側、y負方向側が車両内側となる。
【0015】
エアバッグ装置10は、座席60に乗員Dが着座した状態で、展開したエアバッグ20によって乗員Dを前後左右の全方向の衝突から保護する。エアバッグ20は、座席60のヘッドレスト63と、座席60に着座している乗員Dの頭部Hの周囲を覆い、上方と下方が開口する筒状に形成されている。
【0016】
図1~
図5では、保護すべき乗員Dのモデルとして衝突試験用のダミー人形が座席60の座部61に着座した状態を示している。ダミー人形は、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミー人形は、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢(正規の状態)で着座しており、座席60は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。ダミー人形の頭部Hは、顔面を車両前方(座席60の前方側)へ向けている。
【0017】
エアバッグ装置10は、エアバッグ20と、インフレータ30と、収容部40とを備える。
【0018】
エアバッグ20は、乗員Dの頭部Hを前方及び左右両側方から覆うように膨張展開される筒状の一体の袋体として構成されている。より詳細には、エアバッグ20は、後方膨張部21、一対の側方膨張部22A、22B、一対のサブバッグ23A、23Bを有する。
【0019】
後方膨張部21は、ヘッドレスト63より後方の位置で、ヘッドレスト63やシートバック62と対向するよう展開する。後方膨張部21は、
図4に示すように、y方向両側の端部にて、後方屈曲部74A、74Bを介して一対の側方膨張部22A、22Bの後方側端部に接続されている。後方屈曲部74A、74Bはx正方向側に略直角に屈曲して、
図1、2、4に示すように、一対の側方膨張部22A、22Bを後方膨張部21から前方へ延在させる。
【0020】
一対の側方膨張部22A、22Bは、乗員Dの頭部Hの左右にそれぞれ配置される。一対の側方膨張部22A、22Bは、後方側に対して前方側のほうが上下方向の寸法が長く、かつ、下方側により長く形成される。前方側の長さは、乗員Dの頭部Hより上方から胸前の位置までの上下方向寸法と略同一である。
【0021】
また、
図1~
図3に示すように、一対の側方膨張部22A、22Bの上部には、他の部分より上方に突出する頭頂部29A、29Bがそれぞれ設けられる。頭頂部29A、29Bは、車室の天井と接触可能な高さで形成される。
【0022】
一対の側方膨張部22A、22Bは、
図3、
図4に示すように、前方側端部同士がy方向の略中央位置にて中央接合部76によってz方向に沿って相互に接合され、これにより乗員Dの頭部Hの前方に並んで配置され、頭部Hの前方を完全に塞ぐことができる。
【0023】
このようにエアバッグ20は、中央接合部76によって、一体的な袋体の両端が接合縫いで接合されることで、乗員Dの頭部Hの前後方向、左右方向の全方位を囲んだドーナツ状に形成されている。
【0024】
また、一対の側方膨張部22A、22Bは、中央接合部76を幅方向中央に配置することにより、
図4に示すように、乗員D側から視たときに側方膨張部22A、22Bのy方向の略中央部に前方に窪んだ前方凹部26が形成されている。前方凹部26は、中央接合部76の範囲に亘りz方向に延在する。側方膨張部22A、22Bの内表面に前方凹部26があることによって、頭部Hに対する側方膨張部22A、22Bの内表面の接触面が広くなり、また、対向角度も多様となるので、車両前方側でエアバッグ20が衝撃吸収可能な方位を増やすことができ、乗員Dをより幅広い方向の衝突から保護できる。
【0025】
一対の側方膨張部22A、22Bの上端位置は、乗員Dの頭部Hの頭頂部より上方となればよい。また、その下端位置は、本実施形態では乗員Dの胸部を覆う位置となるように設けられているが、少なくとも乗員Dの頭部Hをカバーできる程度の位置でもよく、
図1~
図5に示す本実施形態の寸法より短くてもよい。
【0026】
一対のサブバッグ23A、23Bは、それぞれ側方膨張部22A、22Bから座席60の中央側かつ座席60の前方側に設けられる。一対のサブバッグ23A、23Bは、
図5に示すように、それぞれ側方膨張部22A、22Bの膨張完了時の下部に連通される。サブバッグ23A、23Bは、側方膨張部22A、22Bの下端から少なくとも乗員Dの胸前までの高さまで延在する。これにより、一対のサブバッグ23A、23Bが側方膨張部22A、22Bの後方にてy方向に並んで配置され、かつ、側方膨張部22A、22Bの前方部分と並行に配置されて、側方膨張部22A、22Bの前方部分とサブバッグ23A、23Bとが乗員Dの胸部の前方に二重に配置される。
【0027】
なお、サブバッグ23A、23Bは、少なくとも側方膨張部22A、22Bと連通されていればよく、連通位置は側方膨張部22A、22Bの下部以外でもよい。また、膨張時のサブバッグ23A、23Bの上端位置は、乗員Dの胸前までの高さより上方(例えば乗員Dの頭部Hより上方の位置)でもよい。ただし、本実施形態のようにサブバッグ23A、23Bの上端位置を胸前までに留め、サブバッグ23A、23Bの膨張時の上下方向の寸法を短くすると、サブバッグ23A、23Bの展開時間を短くできて有利である。
【0028】
エアバッグ20は、
図5に示すように、後方膨張部21のインフレータ挿入口25にインフレータ30が取り付けられて、インフレータ30からのガスが供給される。エアバッグ20は、後方膨張部21から一方の側方膨張部22A、一方のサブバッグ23Aの順でガス流路が形成され、また、後方膨張部21から他方の側方膨張部22B、他方のサブバッグ23Bの順でガス流路が形成される。
【0029】
サブバッグ23A、23Bは、後方膨張部21及び側方膨張部22A、22Bの展開後に、一対の側方膨張部22A、22Bと座席60に着座する乗員Dとの間の距離を縮小するよう膨張する。より詳細には、
図5に示すように、サブバッグ23A、23Bと側方膨張部22A、22Bとの間を連通する連通孔24を有し、連通孔24の面積の調整により側方膨張部22A、22Bの展開後にサブバッグ23A、23Bが膨張するよう制御される。
【0030】
なお、「後方膨張部21及び側方膨張部22A、22Bの展開後」とは、後方膨張部21及び側方膨張部22A、22Bが完全膨張して展開が完了した後に限らず、例えばガス供給は続いているものの側方膨張部22A、22Bが乗員Dの前方に降りたときや、エアバッグ20がまだ完全に乗員Dの前方に降りていなくてもエアバッグ20の拘束面が乗員Dの前に配置される確証が得られるとき(例えば側方膨張部22A、22Bの先端部分が乗員Dの頭部Hより前方まで移動したとき)など、完全膨張よりも前のタイミングも含むものとする。
【0031】
本実施形態のエアバッグ装置10は、このようなサブバッグ23A、23Bを備えることにより、後方膨張部21及び側方膨張部22A、22Bの展開中にはサブバッグ23A、23Bがまだ膨張しないので、エアバッグ20と乗員Dとのクリアランスを大きくできる。これにより、エアバッグ20の展開中には、エアバッグ20が乗員Dと干渉しにくくでき、乗員Dの前方にエアバッグ20を介在させやすくできるので、乗員Dの前方側にエアバッグ20をスムーズに展開することができる。さらに、後方膨張部21及び側方膨張部22A、22Bの展開後に乗員Dの前方側でサブバッグ23A、23Bが膨張するので、エアバッグ20の展開後にはエアバッグ20と乗員Dとのクリアランスを小さくできる。これにより、エアバッグ20が乗員Dをより早いタイミングで拘束できるようになり、拘束性を向上できる。したがって、本実施形態のエアバッグ装置10は、エアバッグ20を乗員Dの前方側にスムーズに展開でき、かつ、エアバッグ20の展開後の拘束性も向上できる。
【0032】
次に、
図5に加えて
図6を参照して、本実施形態に係るエアバッグ20におけるサブバッグ23A、23Bの構成をさらに説明する。
図5は、乗員拘束時のサブバッグ23A、23Bの挙動も示している。
図6は、乗員拘束後のサブバッグ23A、23Bの挙動を示す模式図である。
【0033】
図5、
図6に示すように、サブバッグ23A、23Bと側方膨張部22A、22Bとの対向面には排気ベント27(排気口)が設けられている。排気ベント27は、エアバッグ20内のガスを外部に排出するための開口部である。
【0034】
本実施形態では、サブバッグ23A、23Bは、側方膨張部22A、22Bの膨張完了時の下部に連通孔24によって連通されている。一方、サブバッグ23A、23Bの連通孔24より上方の部分は、側方膨張部22A、22Bに固定されていない。つまり、サブバッグ23A、23Bは、側方膨張部22A、22Bに対して下端部のみが固定されているので、外力が付加されない状態では、
図6に示すように、側方膨張部22A、22Bに対して座席60側に下端部を回転中心として傾倒可能となっている。
【0035】
排気ベント27は、サブバッグ23A、23Bと側方膨張部22A、22Bとの連通位置(連通孔24の上下方向の高さ位置)より上方に設けられている。排気ベント27は上記の対向面のうちサブバッグ23A、23Bの面に設けられる。
【0036】
図5に示すように、エアバッグ20の膨張が完了して乗員Dを拘束する際には、矢印Aで示すように乗員Dが前方に移動して、これによりサブバッグ23A、23Bに接触してエアバッグ20が乗員Dを拘束する。このとき、サブバッグ23A、23Bは乗員Dにより前方へ押圧されるので、サブバッグ23A,23Bと側方膨張部22A、22Bの対向面は互いに密着される。このため、対向面に設けられる排気ベント27は側方膨張部22A、22Bによって封止された状態となる。
【0037】
その後に、エアバッグ20による乗員Dの拘束が完了すると、
図5に矢印Bで示すように、乗員Dはエアバッグ20から離れて後方に移動する。このときサブバッグ23A,23Bは乗員Dからの押圧力を受けなくなるので、矢印Cで示すように反動で後方に傾倒する。これにより、サブバッグ23A、23Bの前方面と、側方膨張部22A、22Bの内周面との接触が弱くなる。この結果、排気ベント27が開口し、矢印Dで示すように、サブバッグ23A、23Bからガスが排出される。
【0038】
ガスの排出がはじまると、サブバッグ23A、23Bから順番にエアバッグ20が縮小しはじめる。この結果、エアバッグ20と乗員Dとのクリアランス(隙間)が広がり、乗員拘束完了後に乗員Dの脱出や救出が容易になる。
【0039】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0040】
排気ベント27は、サブバッグ23A、23Bと側方膨張部22A,22Bとの対向面に設けられればよく、側方膨張部22A,22Bの表面に設けられてもよい。
【0041】
排気ベント27の設置位置は上下方向の上部に限られず、拘束中に封止され、拘束完了後にサブバッグ23A,23Bが側方膨張部22A,22Bから離れたときに開口することができれば任意の位置でよい。
【符号の説明】
【0042】
10 エアバッグ装置
20 エアバッグ
21 後方膨張部
22A、22B 側方膨張部
23A、23B サブバッグ
24 連通孔
27 排気ベント(排気口)
30 インフレータ
60 座席
D 乗員