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  • 特許-ナノ磁性粒子の作成方法 図1
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  • 特許-ナノ磁性粒子の作成方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ナノ磁性粒子の作成方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/00 20060101AFI20240621BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20240621BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01F1/00 163
H01F10/14 ZNM
H01F10/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020197759
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022085978
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 忠義
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-230958(JP,A)
【文献】特開2013-065844(JP,A)
【文献】特開2003-196818(JP,A)
【文献】特開昭62-123022(JP,A)
【文献】特開2006-089781(JP,A)
【文献】特開2021-147659(JP,A)
【文献】特開2001-044025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/44
H01F 10/00-10/32
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
H01F 41/14-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属またはその合金からなるナノ粒子が、フッ素化合物からなるマトリックスに分散されているナノグラニュラー構造材料を作製する工程と、
前記ナノグラニュラー構造材料を水に溶かすことにより、前記ナノ粒子に由来するナノ磁性核粒子と、前記マトリックスに由来する保護膜と、により構成されているナノ磁性粒子を抽出する工程と、
を含む、ナノ磁性粒子の作製方法。
【請求項2】
磁性金属またはその合金からなる平均粒子径が2nm以上8nm以下のナノ粒子が、フッ素化合物からなるマトリックスに分散されているナノグラニュラー構造材料を作製する工程と、
前記ナノグラニュラー構造材料を水に溶かすことにより、前記ナノ粒子に由来するナノ磁性核粒子と、前記マトリックスに由来する保護膜と、により構成されているナノ磁性粒子を抽出する工程と、
を含む、平均粒子径が2nm以上8nm以下のナノ磁性粒子の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ磁性粒子およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人により、絶縁体マトリックスにナノメーターサイズの金属粒子が分散しているナノグラニュラー構造を有する磁性薄膜が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6619216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナノグラニュラー構造材料と同様の磁気特性を有するナノ磁性粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のナノ磁性粒子は、
磁性金属またはその合金からなるナノ磁性核粒子と、
前記ナノ磁性核粒子を全体的に被覆するフッ素化合物からなる保護膜と、により構成されている。
【0006】
前記磁性金属が、Fe、CoおよびNiからなる群から選択されることが好ましい。
【0007】
前記保護膜が、Li、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、およびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素のフッ素化合物からなることが好ましい。
【0008】
本発明のナノ磁性粒子の作製方法は、
磁性金属またはその合金からなるナノ粒子が、水溶性(潮解性)を有するフッ素化合物からなるマトリックスに分散されているナノグラニュラー構造材料を作製する工程と、
前記ナノグラニュラー構造材料を水に溶かすことにより、前記ナノ粒子に由来するナノ磁性核粒子と、前記マトリックスに由来する保護膜と、により構成されているナノ磁性粒子を抽出する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナノグラニュラー構造材料と同様の磁気特性を有するナノ磁性粒子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態としてのナノ磁性粒子の模式的説明図。
図2】ナノグラニュラー薄膜の構造の模式的説明図。
図3】磁性金属含有量およびナノ粒子の平均粒径の関係に関する説明図。
図4A】磁性金属含有量およびナノ粒子の粒径分布の関係に関する説明図。
図4B】磁性金属含有量およびナノ粒子の粒径分布の関係に関する説明図。
図5】基板の温度およびナノ粒子の粒径分布の関係に関する説明図。
図6】ナノグラニュラー薄膜およびナノ磁性粒子のそれぞれの磁化曲線に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ナノ磁性粒子の構成)
図1に概念的に示されている本発明の一実施形態としてのナノ磁性粒子1は、ナノ磁性核粒子11と、ナノ磁性核粒子11を全体的に被覆するフッ素化合物からなる保護膜12と、により構成されている。
【0012】
ナノ磁性核粒子11は、磁性金属またはその合金からなる。Fe、Co、NiおよびGdから選択される少なくとも1種類の強磁性金属が磁性金属として採用される。付加的または代替的に、Au、Ag、CuおよびZnから選択される少なくとも1種類の反磁性金属が磁性金属として採用されてもよい。磁性金属の合金としては、Fe-Pt合金、Fe-Pd合金、Co-Pt合金、Co-Pd合金、ケイ素鋼(Fe-Sn合金)、パーマロイ(Ni-Fe合金)、センダスト(Fe-Si-Al合金)、パーメンジュール(Fe-Co合金)およびソフトフェライトのほか、磁石を構成するアルニコ(Al-Ni-Co合金)、フェライト、サマリウムコバルト(Sm-Co合金)、ネオジム鉄ボロン(Nd-Fe-B合金)およびサマリウム鉄窒素(Sm-Fe-N合金)などがあげられる。ナノ磁性核粒子11の粒径は、例えば、1~50nmの範囲、または1~20nmの範囲に含まれている。
【0013】
保護膜12は、Li、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、およびBaからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素のフッ素化合物からなる。保護膜12の厚さは分子レベルであると推察される。
【0014】
(ナノ磁性粒子の作製方法)
図1に示されている構成のナノ磁性粒子1の作製方法について説明する。まず、ナノグラニュラー構造材料が作製される(STEP1)。ナノグラニュラー構造材料は、例えば、スパッタ法またはRFスパッタ法にしたがって作製される(例えば、特許文献1参照)。磁性金属またはその合金の円板の上に、水溶性(潮解性)を有するフッ素化合物のチップが均等に配置されている複合ターゲット、または、磁性金属またはその合金のターゲットおよび水溶性(潮解性)を有するフッ素化合物から成るターゲットが同時に用いられてスパッタリングされる。スパッタ成膜に際してはArガスが用いられる。ナノグラニュラー構造材料の膜圧は、成膜時間が調節されることにより調査設され、例えば、約0.3~5μmの厚さに成膜される。基板は間接水冷され、あるいは、100~800℃の温度範囲に含まれる任意の温度に維持される。成膜時のスパッタ圧力は1~60mTorrの範囲に含まれるように制御される。スパッタ電力は50~350Wの範囲に含まれるように制御される。
【0015】
これにより、図2に模式的に示されているように、磁性金属またはその合金からなるナノ粒子21が、水溶性(潮解性)を有するフッ素化合物からなるマトリックス22に分散されているナノグラニュラー構造材料が作製される。ナノグラニュラー構造材料は、例えば、LをFe、Co、Niから選択される1種以上の元素、MをLi、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Bi、希土類元素から選択される少なくとも1種以上の元素、Fをフッ素とした場合に、L-M-Fで表される組成を有している。Mの原子比率が0.10~0.40の範囲に含まれ、Fの原子比率が0.20~0.70の範囲に含まれ、かつ、MおよびFの合計の原子比率が0.60である。ナノグラニュラー構造材料は、主にLからなり、粒径が1~50nmまたは1~20nmの範囲に含まれているナノ粒子21が、主にMのフッ化物からなるマトリックス22に均一に分布したナノグラニュラー構造を有する。
【0016】
ナノ粒子21の粒径は、例えば、1~50nmの範囲または1~20nmの範囲に含まれている。ナノ粒子21の粒径分布(ひいてはナノ磁性粒子1の粒径分布)は、成膜条件および/または成膜組成を変化合させることにより調整可能である。
【0017】
図3には、Fe-Co-Mg-F系のナノグラニュラー構造材料における磁性金属であるFeおよびCoの含有量と、ナノ粒子21の平均粒径との関係が示されている。図3からわかるように、FeおよびCoの含有量が約10at%から約70at%まで変化するにつれて、ナノ粒子21の平均粒径が約2nmから約8nmまで線形的に変化する。このように、ナノグラニュラー構造材料における磁性金属または合金の含有量を調節することにより、ナノ粒子21の平均粒径が調整されうる。
【0018】
図4Aには、Fe-Co-Mg-F系のナノグラニュラー構造材料における磁性金属であるFeおよびCoの含有量が24at%である場合におけるナノ粒子21の粒径分布が示されている。図4Bには、Fe-Co-Mg-F系のナノグラニュラー構造材料における磁性金属であるFeおよびCoの含有量が30at%である場合におけるナノ粒子21の粒径分布が示されている。図4Aおよび図4Bの対比からわかるように、FeおよびCoの含有量が変化するにつれて、ナノ粒子21の粒径分布(粒径頻度の最大値および分散値など)が変化する。このように、ナノグラニュラー構造材料における磁性金属または合金の含有量を調節することにより、ナノ粒子21の粒径分布が調整されうる。
【0019】
図5には、Fe-Co-Al-F系のナノグラニュラー構造材料をスパッタリング法にしたがって作製する際の基板の温度と、ナノ粒子21の平均粒径との関係が示されている。図5からわかるように、基板の温度が約20℃から約610℃まで変化するにつれて、ナノ粒子21の平均粒径が約3nmから約20nmまで指数関数的に変化する。このように、基板の温度などの製膜条件が調節されることにより、ナノグラニュラー構造材料におけるナノ粒子21の平均粒径が調整されうる。
【0020】
そして、前記のように作製されたナノグラニュラー構造材料が水に溶かされることにより、ナノ磁性粒子1が抽出される(STEP2)。ナノグラニュラー構造材料を構成するマトリックス22はフッ素化合物からなるため、水に溶ける。その一方、ナノグラニュラー構造材料を構成するナノ粒子21の周囲に存在するフッ素化合物は、ナノ粒子21を構成する磁性金属または合金と電磁気力や分子間力により結合している。このため、ナノ粒子21に由来するナノ磁性核粒子11と、マトリックス22に由来する保護膜12と、により構成されているナノ磁性粒子1が抽出される。
【0021】
例えば、ナノグラニュラー構造材料が濾過されることによりナノ磁性粒子1が抽出され、当該濾過物が乾燥されることによりナノ磁性粒子1が得られる。
【0022】
Fe-Co-Ba-F系のナノグラニュラー構造材料の水溶液は、最初は無色透明であるものの、徐々に黄色味を帯び、最後にはナノ磁性粒子1が凝集して当該凝集物が茶色身を帯びる様子が観察された。
【0023】
図6には、Fe-Co-Ba-F系のナノグラニュラー構造材料の磁化曲線が破線で示され、当該ナノグラニュラー構造材料が水に溶かされて抽出されたナノ磁性粒子1の磁化曲線が実線で示されている。図6から、ナノ磁性粒子1は、ナノグラニュラー構造材料と同様の磁気特性を示していることがわかる。よって、ナノ磁性核粒子11が酸化していない、ひいては水と接触しないようにフッ素化合物からなる保護膜12により全体的に被覆されていることが確認された。
【0024】
(用途)
本発明に係るナノ磁性粒子1は、電磁波遮蔽材、医療用磁気ビーズ、電磁ノイズ吸収体、高周波用磁性材料、高密度記録磁気媒体、生体分子標識材、薬剤キャリア、ナノスケールエレクトロニクス、永久磁石材料、電磁気シールド材、圧粉体および超常磁性材料などへの応用が可能な有用性が高い素材である。ナノ磁性粒子1の粒径が超常磁性限界を超える程度に小さく調節されることにより、超常磁性材料への応用が可能になる。
【符号の説明】
【0025】
1‥ナノ磁性粒子、11‥ナノ磁性核粒子、12‥保護膜、21‥ナノ粒子、22‥マトリックス。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6