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特許7507685ナノ複合材料接着剤の高速硬化のための高周波誘導加熱法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ナノ複合材料接着剤の高速硬化のための高周波誘導加熱法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/80 20060101AFI20240621BHJP
   H05B 6/54 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H05B6/80 Z
H05B6/54
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020528109
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 US2018062313
(87)【国際公開番号】W WO2019104216
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】62/589,298
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502334319
【氏名又は名称】ザ テキサス エーアンドエム ユニヴァーシティ システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】スウィーニー, チャールズ ブランドン
(72)【発明者】
【氏名】グリーン, ミカ ジェイ.
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-510402(JP,A)
【文献】特開2010-006908(JP,A)
【文献】特開平04-277581(JP,A)
【文献】特開2017-030311(JP,A)
【文献】特表2013-510402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/159654(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/023433(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/013954(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/200359(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第04092789(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/80
H05B 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化接着剤を直接加熱することによって2つの部材を接合する非接触の方法であって、
前記2つの部材の第1の部材と第2の部材の間に、カーボンナノ材料であるサセプタを含む前記熱硬化接着剤を配置することと、
電磁界を生成することとを含み、
前記電磁界の生成は、
ステップi)平行板キャパシタの両プレートの間に、前記2つの部材の前記第1の部材および第2の部材を配置し、前記平行板キャパシタの両プレートの間に電磁界が生成されるようにRF信号を印加して行うか、または、
ステップi i)前記第1の部材および第2の部材の上方に、インターディジテイティッドキャパシタを通し、前記インターディジテイティッドキャパシタのまわりに電磁界が生成されるように、前記インターディジテイティッドキャパシタにRF信号を印加して行い、
前記サセプタが、前記電磁界と相互作用して、抵抗加熱によって前記熱硬化接着剤が加熱されるようにし、前記2つの部材が前記熱硬化接着剤とは異なる速度で加熱される、方法。
【請求項2】
前記平行板キャパシタの前記プレートが、プラットフォームの平面より上の平面に配設された第1のプレートと、前記プラットフォームの前記平面より下の第2の平面に配設された第2のプレートとを含み、
前記第1の部材および第2の部材を配置することが、前記第1の部材および第2の部材を前記プラットフォームの前記平面に沿って送ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つの部材が前記電磁界によって直接加熱されない、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップi i)において、前記RF信号を印加することが、RF増幅器によって3kHz~300MHzのRF信号を出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カーボンナノ材料が、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、グラフェンナノシート、カーボンブラック粒子、または、Ti 無機ナノ材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記2つの部材が、加熱された前記熱硬化接着剤からの伝導によって加熱される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
【0002】
本出願は、2017年11月21日出願の米国仮出願第62/589,298号の優先権の利益を主張するものであり、全体の開示を参照によって組み込む。
連邦支援の研究または開発に関する声明
【0003】
本発明は、全米科学財団によって授与された認可番号CMMI-1561988の下に政府支援によってなされたものである。米国政府は本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
この項目では、本開示の様々な態様のさらなる理解を助長するための背景情報を提供する。この文献のこの項目における声明は、従来技術の容認としてではなく、この観点から読み取られるべきであることを理解されたい。
【0005】
ナノ複合材料物質のジュール加熱は、複合材料の埋め込み硬化、防氷用途のための埋め込まれた発熱体、および3Dプリントされた部品の局所的溶接を含めて、材料処理に関する多くの独特な用途をもたらした。現在までのほとんどの研究は、導電性ナノ複合材料の直流(DC)加熱またはマイクロ波加熱に的を絞ったものである。製造業では、部品がほぼ瞬間的に接合される接着剤ベースのスポット溶接の等価物が必要とされている。
【0006】
導電性ナノ材料を添加した熱硬化性ポリマーを硬化させるために、電磁波源としてマイクロ波エネルギーを使用する方法が使用されてきた。しかしながら、熱硬化接着剤を加熱するためのマイクロ波エネルギーが導電性部分によって反射されるため、従前の方法では2つの導電性部品を接合することができない。
【発明の概要】
【0007】
例示的実施形態では、直接接触の容量結合電界アプリケータによってポリマーナノ複合材料の高周波(RF)電磁加熱を使用するシステムおよび方法が開示される。RF加熱では、接着剤の中のサセプタ(たとえばナノ複合材料)が電界で抵抗加熱され得、オーブンやヒートガンなどの熱源の必要性が解消される。RF加熱技術を使用すると、所定の位置の接着剤を加熱することによって部品同士を接合することができる。重要なことには、RF加熱技術では、サセプタの抵抗加熱によって接着剤の中に熱が生じるので、接合される部材ではなく接着剤が直接加熱される。接合される部材を直接加熱することなく接着剤を直接加熱するのは、接合される部材の歪み、反り、および/または熱膨張係数の不整合を解消するかまたは緩和するので、重要なことである。
【0008】
この例示的方法は、熱硬化接着剤を用いた構造用部品の迅速な接着が望まれている自動車産業および航空宇宙産業において特に有益である。たとえば、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を添加した自動車級エポキシを硬化させるために、即時印加のRF加熱技術が使用され得る。発熱体として接着剤成分を標的にすることにより、接着剤を反応温度まで加熱するのに通常は必要とされる高くつく特注装備である熱伝導制限が回避される。即時RF法で硬化されるラップ剪断接合は、エポキシ複合材を直接加熱するという熱伝導の有利性のために、オーブンの中で硬化される対照試料と比較して、より速く硬化した。
【0009】
熱硬化接着剤を加熱するためのマイクロ波エネルギーが導電性部分によって反射されるため、従前の方法では2つの導電性部品を接合することができない。即時RF法は、複合接着剤にRFエネルギーを印加するための電極として、接合される構造用部品を使用することにより、この問題を克服するものである。
【0010】
例示のRF加熱法は、電磁エネルギーに影響され得る、ナノ複合材料を添加した接着剤を作成することと、接合される部品にこの接着剤を適用することとを含む。いくつかの実施形態では、接着剤によって接合される2つの部品を保持するためにクランプシステムが使用され得る。クランプ圧は、気泡が形成しないことを保証するために十分高くするべきである。接着剤層に対して必要な電界を供給するためにRFアプリケータが使用され得る。高周波増幅器の出力は、接着剤に対するRFの高効率結合のために同調される。同調は、周波数同調、整合回路網、またはこれら2つの手法の混成によって行われてよい。
【0011】
例示的方法は、2つのやり方のうち1つで適用され得る。第1の方法は直接接触法であり、2つの導電性部品を接合するために接着剤が使用され得る。接合される2つの部品の各々に電極が与えられ、一方の電極が接地され、他方の電極は「ホットな」高周波増幅器出力に接続される。電磁界を生成するために電極にわたってRF信号が印加され、抵抗加熱によって接着剤を加熱する。この方法を使用すると、接合される部品が直接加熱されることはない。システムは、接着剤に対するRFの高効率結合のために同調され得、同調は、周波数同調、整合回路網、またはこれら2つの手法の混成によって行われてよい。
【0012】
第2の方法は、接着剤の近辺に電界を印加するためにRFアプリケータがキャパシタを使用する非接触法である。たとえば、平行板キャパシタが使用され得て、試料は、平行板の間、または平行板の電界の近くに配置される(一方のプレートは接地されており、他方のプレートはRF増幅器出力に接続されている)。これは「フリンジ電界」キャパシタでも行われ得る。フリンジ電界の例では、平行な金属板、パターン、またはラインが、(ほぼ数ミリメートルのかなり小さい間隔で)キャパシタとしてセットアップされ、試料は電極の真上のフリンジ電界に配置される。試料までの距離は、一般的にはほぼ数ミリメートルである。RFアプリケータが生成した電磁界が抵抗加熱によって接着剤を加熱する。
【0013】
実例となる実施形態では、熱硬化接着剤を直接加熱することによって2つの部材を接合する方法は、2つの部材のうち少なくとも第1の部材に、サセプタを含む熱硬化接着剤を適用することと、2つの部材のうち第1の部材を第1の電極に接触させ、第2の部材を第2の電極に接触されることと、第2の部材を熱硬化接着剤に接触させることと、第1の電極と第2の電極にわたってRF信号を印加して電磁界を生成することとを含み、サセプタが、電磁界と相互作用して、抵抗加熱によって熱硬化接着剤を加熱する。
【0014】
実例となる実施形態では、熱硬化接着剤を直接加熱することによって2つの部材を接合する非接触法は、2つの部材のうち少なくとも第1の部材に、サセプタを含む熱硬化接着剤を適用することと、2つの部材のうち第1の部材および第2の部材を平行板キャパシタのプレートの間に配置することと、平行板キャパシタのプレートにわたってRF信号を印加して、平行板キャパシタのプレートの間に電磁界を生成することとを含み、サセプタが、電磁界と相互作用して、抵抗加熱によって熱硬化接着剤を加熱する。
【0015】
実例となる実施形態では、熱硬化接着剤を直接加熱することによって2つの部材を接合する非接触法は、2つの部材のうち第1の部材に、サセプタを含む熱硬化接着剤を適用することと、2つの部材のうち第2の部材を熱硬化接着剤に接触させることと、インターディジテイティッドキャパシタを第1の部材および第2の部材にわたって通し、一方でインターディジテイティッドキャパシタにRF信号を印加し、インターディジテイティッドキャパシタのまわりに電磁界を生成することとを含み、サセプタが、電磁界と相互作用して、抵抗加熱によって熱硬化接着剤を加熱する。
【0016】
この発明の概要は、以下の詳細な説明においてさらに説明される概念の選択を導入するために提供されたものである。この発明の概要は、特許請求される主題の重要な特徴または必須の特徴を識別することや、特許請求される主題の範囲を限定する助けとなるように使用されることを意図するものではない。
【0017】
以下の詳細な説明を添付の図とともに読み取れば、本開示の最善の理解が得られる。産業界の標準的技法により、様々な機構は原寸に比例しないことが強調される。実際には、様々な機構の寸法は、議論の明瞭さのために便宜的に増減されることがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】ホットプレスされた異なるCNT重量%のフィルムの導電率対周波数のグラフである。
図1B図1Aの導電率の損失正接のグラフである。
図1C】異なるCNT重量%のMWCNT/PLA複合材料の加熱速度対周波数のグラフである。
図1D】PLAのホットプレスされたフィルムの50MHzおよび200MHzにおけるAC導電率対CNT重量分率のグラフである。
図1E】CNT添加の関数としてのDC導電率値のグラフである。
図1F】加熱速度が計算される様子を示す、0.1重量%のホットプレスされたフィルム試料のサーモグラフィ分光データのグラフである。
図2A】熱硬化接着剤を加熱するための直接接触ジオメトリの図示である。
図2B】熱硬化接着剤を加熱するための非接触平行板キャパシタ型アプリケータのジオメトリの図示である。
図2C】熱硬化接着剤を加熱するためのインターディジテイティッドキャパシタ型アプリケータのジオメトリの図示である。
図2D】非接触インターディジテイティッドキャパシタ型アプリケータの側面図である。
図3】接着剤にRF加熱を適用するための走査システムの図示である。
図4A】キャパシタのプレートの間の試料に関する電界強度のCOMSOLモデルの図である。
図4B図4Aの試料において生成された定常的温度場のCOMSOLモデルである。
図4C図4Aの試料の消費電力密度のCOMSOLモデルである。
図5】FLIRカメラによって記録された温度プロファイルをRF硬化時間の関数として図示するグラフである。
図6】従来のオーブン硬化技術とRF硬化技術とが同等の生強度に到達する時間を図示するグラフである。
図7】CNT/PLAコンポジットフィルムの様々な重量パーセントについてAC導電率対周波数の誘電分光法の結果を図示するグラフである。
図8】CNT/PLAコンポジットフィルムの様々な重量パーセントについて損失正接対周波数の誘電分光法の結果を図示するグラフである。
図9】熱硬化接着剤と接合される2つの部材との温度対時間を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の開示は、様々な実施形態の異なる特徴を実施するための異なる実施形態または例を提供するものであることを理解されたい。本開示を簡単にするために、以下で、部材および機構の特定の例が説明される。これらはもちろん単なる例であり、限定するようには意図されていない。加えて、本開示は、様々な例において参照数字および/または参照文字を繰り返すことがある。この繰返しは簡単さおよび明瞭さのためであり、論じられる様々な実施形態および/または構成の間の関係を規定するものではない。
【0020】
本明細書では、デバイスが添付図に表されるので、様々な部材の間の空間的関係および部材の様々な態様の空間的配向が参照されることがある。しかしながら、当業者には本開示を完全に読み取った後に認識されるように、本明細書で説明されるデバイス、メンバ、装置などは、任意の所望の配向に置かれてよい。したがって、本明細書で説明されるデバイスは任意の所望の方向に配向され得るので、「~の上の」、「~の下の」、「上部の」、「下部の」などの用語、または様々な部材の間の空間的関係を説明するためもしくはそのような部材の態様の空間的配向を説明するための他の類似の用語の使用は、それぞれ部材またはそのような部材の態様の空間的配向の間の相対的関係を説明するものと理解されたい。
【0021】
ポリマーナノ複合材料の高周波(RF)加熱は、ナノ複合材料を加熱するための、興味深く、概して未調査の方法である。本明細書で論じられるようなRF加熱は、約3kHz~約300MHzの高周波を使用して加熱することを含む。現在まで、文献は、ナノ複合材料の高温誘発用途向けのRF加熱またはナノ複合材料の誘導結合のRF加熱に的を絞っている。誘導加熱が効果的なのは、磁気ヒステリシス損失を伴う材料、または導電性組成物に対して非常に大きい磁界を有する材料のみである。カーボンナノチューブ(CNT)を添加した複合材料の場合には、誘導加熱は非常に低効率であり、作用するのは、材料がソレノイドの内部または外部に隣接して配置されたときの狭い範囲のみである。対照的に、電界を用いるRF加熱は、はるかに大きな距離にわたって動作することができ、複合材料に対して直接結合する。
【0022】
RF加熱の利益には、ナノ複合材料に対して電磁エネルギーを直接または遠隔で結合するための融通性があること、容量結合であるため材料に対してエネルギーをより効率的に伝達すること、ナノ粒子充填剤のサブ浸透添加レベルを使用するという選択肢があること、漂遊電磁放射を弱めて安全上の懸念を緩和すること、また、接合される部品ではなく接着剤を直接加熱することが含まれる。
【0023】
RF加熱の注目すべき例には、徐氷コーティングのためのカーボンナノチューブフィルムのDC抵抗加熱がある。しかしながら、DCジュール加熱に関連した2つの大きな短所がある。第1に、抵抗材料は、導電性電極を有する回路に直接接続する必要がある。第2に、材料は、電流を通すように比較的高い導電率を有する必要がある。交番電界は、加熱用途のために導電性組成物材料に電流を励起するためにも使用され得る。ナノ複合材料のマイクロ波加熱は、損失性誘電体を加熱するために300MHz~300GHzの電磁エネルギーを利用し、高エネルギー密度を用いてターゲット材を遠隔で加熱することができるという利益がある。それでも、マイクロ波を用いて部品を均一に加熱するのは困難であり、実際の用途については、マイクロ波エネルギーの危険な放射を防止するために遮蔽する必要がある。
【0024】
即時RF加熱法は、直接接触、平行板、およびフリンジ電界アプリケータのジオメトリで作用し、これらの各々がナノチューブ複合材料を高い加熱速度で加熱することができる。たとえば、ラップ剪断接合構成でCNTを添加された高強度エポキシを硬化させることが示される。この場合、エポキシナノ複合材料にRFエネルギーを印加するように使用されるアルミニウムのラップ剪断クーポンが、直接接触電極として働く。従来のオーブン硬化法については生強度に到達するのに5分かかるところ、RF硬化されたラップ剪断試料は、RF法の体積加熱能力のために3分で到達した。
【0025】
即時RF加熱技術は、電磁界の存在下で反応する熱硬化性樹脂とサセプタの様々な組合せを用いて使用され得る。熱硬化性樹脂の例はエポキシおよびウレタンを含む。サセプタの例は、広範なsp2混成および導電率を有するカーボンナノ材料を含む。これは、カーボンナノチューブ(単層と多層の両方)、グラフェン群ナノシート、およびカーボンブラック微粒子を含むことになる。また、Tiナノシートなどの無機ナノ材料も正常に機能するはずである。サセプタは、PLA、PEEK、ナイロン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、およびポリエチレンなどの熱可塑性複合材料と組み合わせて使用される。
【実施例
【0026】
試料調製
溶融混合によってカーボンナノチューブポリラクチド(PLA)複合フィルムを調製した。10.0重量%のMWCNT/PLAマスタバッチ(Nanocyl SA、カスタムバッチ)から始めて、様々な稀釈液が、マイクロコニカル2軸混合機(Thermo Fisher Scientific社のHAAKE(商標)MiniCTW)を用いて純粋なPLA(NatureWorks LLCの3D850)に溶融混合された。ポリマー試料は、混合する前に、製造業者の仕様書に準拠して完全に乾燥させた。試料を215℃で約4分間溶融混合してから、ダイを開いて試料を押し出した。次いで、ナノ複合材料稀釈液を、150℃、27.6MPaでホットプレス機(Carver社のモデル3856)にかけて、0.5mmの均一な厚さのフィルムにした。フィルムから3cm×5cmの矩形の試料を切り出し、RFアプリケータケーブルに対する接触を支援するために、エッジ上に銀の電極を塗布した。
インピーダンス分光分析
【0027】
2つの導電性円筒ディスクおよび回路網解析器を含む容量性試料保持器を使用して複素誘電率を測定した。回路網解析器のN型同軸接続を、キャパシタのディスクに接続する2つの平行ピンに変換するために、アダプタを使用した。測定では、試験中の試料は2つのディスクの間に配置され、所望の周波数範囲にわたって散乱パラメータS11が得られた。接続ケーブル、アダプタ、および寄生キャパシタを明らかにするために較正手順を使用した。測定されたS11パラメータからキャパシタのインピーダンスを取得し、これを使用して、フリンジ電界を考慮に入れて複素誘電率を計算した。
サーモグラフィ分光法
【0028】
信号発生器(Rigol社のDSG815)および500Wの増幅器(Prana R&DのGN500D)を用いて、高周波(RF)電力を試料に印加した。試料は、センタピンおよびグランド基準にはんだ付けされたワニ口クリップを用いて、N型隔壁コネクタによって終端処理した50Wの同軸伝送線路で増幅器に接続された。試料は、特注の層流空気流れボックス内に配置し、すべての試料にわたって移流の冷却速度を一致させた。試料は、前方監視赤外線カメラシステム(FLIR Systems社のA655sc)を用いて直接監視された。試料およびRF電力機器の周波数依存性加熱応答を試験するために、信号発生器には段階的な冷熱周波数掃引をプログラムした。まず1MHzで40dBm(10W)の電力を2秒間印加し、次に13秒間冷却してから周波数をステップ状に1MHz増加させ、これを繰り返して200MHzまで周波数を掃引した。周波数の関数としての加熱速度は、各サイクルにおいて電力オンのポイントと1秒後のポイントとを選択し、図1Cに示されるようにポイント間の勾配を計算して判定された。
ラップ剪断RF接着
【実施例1】
【0029】
単一パートの高温硬化エポキシ(DuPont社のBetamateDow)を使用して、厚さ1mm、幅25.4mm、長さ152.4mmのアルミストリップ(ThyssenKrupp Materials NA社の7075 T6)を接着した。遊星遠心ミキサ(THINKY USA社のAR-100)を用いて、エポキシとCNT(0.25重量%)を2000rpmで15分間混合した。ラップ剪断試料を調製して、ASTM D1002に従ってラップ剪断強度を試験した。すべての試料にわたって均一なボンドライン厚さを保つことを保証するために、ラップ剪断試料の両方のエッジにPEIスペーサを挿入した。硬化手順中にストリップを適所にクランプするために、カプトンポリイミドテープのストリップを使用した。対照試料は、製造業者の推奨する処理条件に従ってオーブンの中で硬化された。対照試料は、アルミストリップを通じての熱伝導ではなく、慣例の加熱が支配的であることを保証するために熱絶縁性アルミナ煉瓦にわたって懸垂された。オーブンは200℃に予熱されており、対照試料は、オーブンの中で2~6分の範囲の合計の滞留時間に従って計時された。RF硬化された試料については、準備した試験片は、アルミストリップの一端を接地し、他端をN型隔壁コネクタのセンタピンに接続することによって、RF増幅器に接続した。印加電力は、硬化処理の全体にわたって、44MHzにおいて約10~100Wであり、FLIRカメラを用いて試料の温度を直接観測することによって手動で制御された。接合の「生強度」は、試験片を200℃において規定された時間硬化させ、直後に8.2kgのラップ剪断試験片で重みをかけることよって評価した。測定可能な節点移動なしで重みを保持することができた試料は生強度に到達したものと定義され、反対にラップ剪断接合が障害を起こした場合には、試験片は生強度を達成しないものと定義された。
【実施例2】
【0030】
試料は、標準的なDC浸透限界未満である0.25重量%のCNTを添加した一部自動車級のエポキシ系(Dow Betamate)から調製されたものであるが、それでもRF電源と効果的に結合する。所望の熱硬化プロファイルを達成するために電力を手動で制御することができるように、ラップ剪断試料をRF源に接続し、FLIRカメラを用いて監視した。図5は、FLIRカメラによって記録された温度プロファイルをRF硬化時間の関数として図示するグラフである。すべての試料は、直接接触のホットプレスされたフィルムと同様に、初期の加熱速度は約5℃/sであった。加熱速度は、印加されるRF電力から接合される部材への熱流束を差し引くことによって判定される。最大の加熱速度は、エポキシとCNTの複合材料の絶縁破壊の強さ、エポキシの劣化温度、または接合される部材に関する他の熱考察によって管理される。より高い添加レベル(>0.5重量%)では、電力レベル(したがって電界)を上げ過ぎると絶縁破壊やアーク発生が観測された。CNT充填剤の添加レベルを低くすると、より高い絶縁破壊の強さを有する接着剤またはより精巧なRF機器は、すべて絶縁破壊を軽減する助けになり得る。
【0031】
即時RF硬化法により、接着剤試料は、44MHzで100WまでのRF電力を印加することによって、2分以内に200℃の所望の硬化温度になり得た。3分間加熱した後、RF硬化された試料は、最低限の30秒にわたって8.2kgの質量を保持し、生強度試験に合格した。この試料は、グリップが取り除かれるまで、30分間おもりを保持し続けた。残りの、4分間硬化されたRFラップ剪断試料および5分間硬化されたRFラップ剪断試料も、生強度試験に合格した。図6は、従来のオーブン硬化技術とRF硬化技術とが同等の生強度に到達する時間のグラフである。対照的に、対照試料(200℃にセットされたオーブンの中で対流熱伝達によって硬化されたもの)は、生強度まで硬化するのに5分かかった。ラップ剪断試料は4分後に硬化し始めたが、グリップしておもりを付けてから数秒後に、接着破壊によってスリップした。
【0032】
RF硬化処理とオーブン硬化処理の間のこの差は、作動中の熱伝達機構によって最もよく説明できる。RF硬化技術では、熱は、サブ浸透されたCNTネットワークの容量結合ジュール加熱によって接着剤系自体の内部で体積測定的に生成される。オーブン硬化技術には、アルミストリップへの対流熱伝達およびエポキシへの伝導加熱といった制限因子がある。エポキシならびに大半の接着剤系は劣った熱導体であり、フーリエの法則によって支配された同一の律速段階を共有する。ナノ複合材料エポキシの体積RF硬化は、特に、生産に対応できる技術かどうかがサイクルタイムによって規定される自動車製造分野において、接着剤接合の高速硬化のための優れた機会を提供するものである。その上、体積硬化により、大きな試料にわたって空間的に均一な硬化状態が可能になるはずである。
【0033】
低活性の充填剤材料を使用することに加えて、CNTの添加レベルが低ければ、接着剤は固有の機械的性質を保ち、著しく脆くなることはないことが保証される。これは、十分な加熱性能を達成するために必要なナノ材料充填剤の量を制限することにより、コストの観点からも有利である。工業用途に関するさらなる利益には、一般に、大きなオーブン、特注の装備、および他の発熱体に関連した資本的設備の大きなコスト削減が含まれる。この加熱法は、ターゲット材の内部で熱が直接生成されるため、エネルギーの観点から非常に効率的であり、したがって、誘導加熱と同様に、過度の熱損失が最小限になる。
結果
電気的特性評価
【0034】
ポリマーCNT複合材料のRF加熱の応答を完全に理解するために、最初に、ホットプレスされたPLAフィルムを、誘電分光法を使用して、RF領域において特徴づけた。誘電特性は、4点プローブ(図1E)を使用して測定されたDC導電率値と併せて、50~200MHzの周波数の関数としてプロットされた(図7図8を参照されたい)。ACとDCの両方のデータにおいて、0.1重量%から0.5重量%で、導電率の大きな増加が観測され、浸透されたネットワークの発現を指示している。低い添加レベルにおいて明らかなAC導電率が一般にDC導電率よりも高いことに留意されたい。これは、CNTからCNTへの電子のホッピングまたはトンネリングを可能にするようにCNT同士が十分に近くなければならないDC浸透の挙動とは対照的に、絶縁CNTの容量結合からの寄与のためである。グラフェンおよびカーボンブラックを含むCNT以外のナノ材料はRF電界に応答し得るが、加熱速度がより低いことに留意されたい。従前の報告により、CNTにしばしば付随する不純物は、加熱の主要な源ではないことも確立されている。
サーモグラフィ分光法
【0035】
PLA/CNT複合フィルム(厚さ0.5mm)を1~200MHzのRF電力で加熱し、加熱速度を周波数の関数として測定した。0.1~10重量%のすべての試料が、効率的に結合され、印加されるRFエネルギーに応答して加熱された。この結果は、類似のCNT複合フィルムのマイクロ波加熱と比較して、驚くべきものである。1重量%未満の試料のマイクロ波エネルギーに応答した加熱はわずかであり、5重量%を超える試料は入射するマイクロ波エネルギーを反射し始め、したがって、あまり加熱しないことが示された。5重量%の複合フィルムが16℃/sの最大加熱速度を達成した。すべての試料が、顕著な共振モードを有する周波数依存性の強い加熱速度を示した。少なくとも2つの試料に共通の共振モードは、約5、35、90、120および180MHzに集中している。一般的傾向として、より低い重量パーセントの複合試料はより高い周波数においてよく結合し、反対に、より高い重量パーセントの複合試料はより低い周波数においてよく結合した。この挙動は、RF源から見た(試料、アプリケータ、および接続ケーブルによる)インピーダンスと、RF源のインピーダンスとが、ぴったり一致する(互いに複素共役である)周波数において、高効率結合が生じるという事実に起因するものである。CNT添加がより低い試料は誘電率が低く、したがって、キャパシタンスが誘電率に比例するため、高いCNT添加を有する試料と比較して、RFアプリケータに対してより低いキャパシタンスをもたらす。キャパシタのインピーダンスはキャパシタンスに反比例するので、キャパシタンスがより低ければインピーダンスはより高くなる。結果的に、高効率結合が生じる周波数は、インピーダンスを低下させて信号源インピーダンスに近づけるものでなくてはならない。その上、共振回路の共振周波数はキャパシタンスに反比例するので、キャパシタンスを低下させる(CNT添加を低下させる)と共振周波数はより高くなる。
【0036】
観測された共振モードに寄与する2つの主要な要因は、複合フィルムのインピーダンスおよびRF増幅回路の特性である。CNT複合試料は標準的な浸透モデルに従い、特に、より低い添加レベルにおいて複素容量性インピーダンスを示す。図1Cをもたらす加熱速度に基づき、2.5重量%を境にしてフィルムの加熱挙動に明瞭な相違があり、2.5重量%の試料は2つの応答の間のクロスオーバ挙動を表す。この二相性反応は、DC浸透限界をうまく追跡した。より高い添加のフィルムは、マトリクスに分散したCNT間のより高い抵抗性相互接続の密度を有し、無効成分のない理想抵抗器により近い挙動を見せる。より低いCNT添加のフィルムは、大部分は分離したCNTのネットワークから成る。そのようなネットワークは抵抗とキャパシタの直列および並列の組合せによって表現され得る(たとえば図1Cの挿入部分を参照されたい)。容量性効果からの寄与が大きければ大きいほど、加熱速度は、電源と全体的な回路との共振周波数に敏感になる。これらのピークの正確な位置は、容量性の寄与を変化させることになるCNTの分散品質に基づいて変化するはずであることにも留意されたい。また、CNTに官能基を追加すれば分散品質を改善するはずであるが、CNT同士の接触抵抗にも影響し得ることに留意されたい。
RF回路の同調および整合
【0037】
RFエネルギーを用いてナノ複合材料を効果的に加熱するために最も重要な考察は、恐らくインピーダンス整合の概念である。ナノ複合材料は、主として、組成または処理条件における小さな変化に対して電気的性質が数桁にわたって変化し得るため、整合に対して独特な課題をもたらす。さらに、ナノ複合材料は、抵抗とキャパシタンス(非磁性ナノ複合材料については誘導性成分を無視できる)の両方を有する複合材料である。RF源から負荷に最大の電力が伝達されるのは、(増幅器の出力ポートから見た)等価負荷インピーダンスZが、テブナンの等価回路からのRF信号源インピーダンスの複素共役Z と等しいときである。
【0038】
=Z 式(1)
【0039】
これは、インピーダンスの実部(抵抗R)が互いに等しく、しかもインピーダンスの虚部(リアクタンスX)が相殺する必要があることを意味する。
【0040】
Z=R+iX 式(2)
【0041】
=R 式(3)
【0042】
=-X 式(4)
【0043】
ここで、RSはソース抵抗であり、Rは負荷抵抗であり、Xはソースリアクタンスであって、XLは負荷リアクタンスである。負荷インピーダンスが試料のインピーダンスとケーブルのインピーダンスの両方を含み、他の回路素子は試料を負荷に接続するために使用され、したがってこのように一括された等価回路になることに注意することが重要である。負荷ZLの複素インピーダンスは次式で定義され得る。
【0044】
【0045】
ここでLは負荷のインダクタンスであり、CLは負荷のキャパシタンスであって、ωはω=2πfによって与えられる角周波数である。誘導性リアクタンスと容量性リアクタンスが等しいときシステムは共振すると考えられる。直列RLC回路の共振周波数ωは次式で与えられる。
【0046】
【0047】
RFソースは一般に固定抵抗およびゼロリアクタンスを有し、ほとんどの商用システムは50Ωのインピーダンスを有するように設計されている。本発明者の試料については、インピーダンスが周波数に強く依存するため、これらの項は、周波数変化を使用することによる高効率結合を可能にするために(図1Cの加熱速度によって測定されたように)バランスをとられてよい。これは、低い添加においてCNT/エポキシ系のRFベースの硬化を採用するために使用され得、サブ浸透添加を伴う試料は、適切に一致した共振周波数で、引き続き電界に強く結合し得る。
【0048】
対照的に、大部分の工業用RF加熱システムは、国際電気通信連合(ITU)の無線通信規則(RR)によって商業用途として指定された、定義済みの工業用帯域、科学的帯域、および医学帯域のうち1つの範囲内の動作周波数を採用する。利用可能な帯域のうち加熱用に一般に使用されるのは、13.56、27.12、および40.68MHzである。これらの事例では、効率的な加熱は、一般的には可変のインダクタ素子およびキャパシタ素子から成る整合回路網を用いて手動または自動で制御されるインピーダンス整合によって達成され得る。
【0049】
即時システムは、整合回路網だけを使用して調整するのではなく、ナノ複合材料の組成に基づいて調整され得る。このことは、できるだけ効率的な整合システムでさえ、低い誘電損失または抵抗損失を有するターゲット材を加熱することができない可能性があり、すなわち、加熱するために通常は非常に高い電力レベルを必要とするエポキシ系が、ナノ複合材料の充填剤を添加することにより、はるかに低い電力レベルで加熱され得るので、やはり重要である。
アプリケータ技術
【0050】
直接接触RF加熱と非接触RF加熱の両方の実証が、複合フィルムに対して実行された。直接接触法はサーモグラフィ分光法技術に関して使用されたものと同一である。図2Aは例示的直接接触フィルム機構10を図示するものである。直接接触フィルム機構10は、フィルム11、第1の電極12、および第2の電極13を含む。フィルム11は抵抗加熱能力を有する熱硬化接着剤である。たとえば、フィルム11はMWCNT/PLAフィルムでよい。フィルム11には電極12、13が塗布されている。図2Aに図示されたように、電極12、13はフィルム11の両端に配置されている。いくつかの実施形態では、電極12、13は銀を含み、フィルム11の端部またはエッジに塗布される。電極12、13の一方はRF増幅器の出力に接続され、電極12、13の他方は接地される。RF増幅器は、フィルム11の近辺において電極12と電極13の間に電界を生成するRF信号(たとえば正弦波のRF信号)を供給する。電界がフィルム11内のCNTと相互作用してフィルム11内に抵抗加熱をもたらし、接着剤を直接加熱する。フィルム11における勾配は電界の強度を図示するものである。
【0051】
次に図2Bおよび図2Cを参照すると、非接触法が図示されている。図2Bは例示的非接触フィルム機構20を図示するものである。例示的非接触フィルム機構20は、第1のプレート22と第2のプレート23の間に配置されたフィルム21を含む。フィルム21は抵抗加熱能力を有する熱硬化接着剤である。たとえば、フィルム21はMWCNT/PLAフィルムでよい。プレート22、23は電極として(電極12、13と同様に、ただしフィルム21から間隔を置いて)使用され、平行板キャパシタを形成するように、互いに全体的に平行である。図2Bの例示的実施形態では、プレート22、23は直径約5cmの銅ディスクである。各プレート22、23は絶縁支持バーに固定されている。フィルム21はどちらのプレートにも物理的に接触することなく、プレート22と23の中間に配置されている。いくつかの実施形態では、プレート22は、ともに接合される2つの部品の第1の部品と接触して配置され、プレート23は接合される2つの部品の他方と接触して配置される。接合される第1の部品と第2の部品の各々が導電性であって、プレート22と23の間に電界が確立され得る。フィルム21における勾配は電界の強度を図示するものである。プレート22、23の一方がRF電源からの同軸ケーブルのセンタピンに接続されており、プレート22、23の他方が接地されている。RF増幅器はプレート22、23にRF信号(たとえば正弦波のRF信号)を供給する。プレート22とプレート23の間に生成された電界がフィルム21に時変電界を誘起して抵抗加熱をもたらす。この熱は、フィルム21の熱硬化接着剤をセットして2つの部品を接合するために使用される。
【0052】
図2Cはインターディジテイティッドキャパシタ機構30を図示するものである。例示的インターディジテイティッドキャパシタ機構30は第1の電極31および第2の電極32を含む。第1の電極31および第2の電極32は基板33上に配置されている。いくつかの実施形態では、第1の電極31および第2の電極32は銅テープから作製される。他の実施形態では、第1の電極31および第2の電極32は他の導電材料から作製され得る。図2Cに図示されるように、第1の電極31および第2の電極32は基板33の下に置かれて、インターディジテイティッド「フィンガ」のパターンを生成する。第1の電極31はフィンガ34を含み、第2の電極32はフィンガ35を含む。基板33は、たとえばポリエーテルイミドまたはUltem(商標)のシートでよい。必要に応じて、他の基板も使用され得る。いくつかの実施形態では、第1の電極31および第2の電極32は、カプトンテープの層などの絶縁層36で覆われてよい。絶縁層は第1の電極31と第2の電極32の間の短絡防止を支援する。
【0053】
電極31と電極32の一方が接地に接続されており、電極31と電極32の他方がRF増幅器(たとえばRF増幅器のN型隔壁コネクタのセンタピン)に接続されている。たとえば、第1の電極31および第2の電極32には、電線が、クリップ、はんだ付け等によって接続され得る。RF増幅器は、電極31、32にRF信号(たとえば正弦波のRF信号)を供給する。電極31と32の間に生成された電界は、電極31および32から間隔を置いて平行に配置されたフィルム37(たとえば図2Dのフィルム37を参照されたい)に時変電界を誘起するために利用される。図2Cに図示されたように、フィルム37はインターディジテイティッドキャパシタ機構30よりも小さい。他の実施形態では、フィルム37は様々な任意のサイズであり得る。フィルム37は抵抗加熱能力を有する熱硬化接着剤である。たとえば、フィルム37はMWCNT/PLAフィルムでよい。いくつかの実施形態では、フィルム37は、電極31、32から約5mmだけ間隔を置いている。電極31、32に供給されたRF信号がフィルム37の近辺に電界を形成し、これがフィルム37に時変電界を誘起して抵抗加熱をもたらす。この熱はフィルム37の熱硬化接着剤をセットするために使用される。図2Dは、フィルム37の近くに配置されたインターディジテイティッドキャパシタ機構30の側面図である。いくつかの実施形態では、フィルム37はインターディジテイティッドキャパシタ機構30から間隔があって接触しない。いくつかの実施形態では、フィルム37は絶縁層36と接触することができる。
【0054】
インターディジテイティッドキャパシタ機構30は、互いに関連して動く平坦な材料(いずれかの材料がフリンジ電界アプリケータに対して動き、逆もまた同様である)を加熱するのに特に有益である。フリンジ電界を力線に対して平行に走査すると、シートまたはフィルムを均一に加熱するのに役立つ。この構成には、ナノ複合材料薄膜を熱処理すること、プリンテッドエレクトロニクスの電気的性質をサーモグラフィ法で特徴づけること、および材料の連続送りを処理すること、といった用途がある。
【0055】
図3は、接着剤を加熱するための走査システム40の一例を図示するものである。フィルム44は、走査システム40が含むプラットフォーム42にわたって走査されるかまたは送られ得る。フィルム44は、たとえばMWCNT/PLAフィルム、またはサセプタを含むいくつかの他のフィルムであり得る。フィルム44は、接合される2つの部材の間にはさまれ得る。第1の電極46および第2の電極48は、プラットフォーム42の幅に及び、フィルム44が電極46、48の上を通り得るように配置されている。図3に図示されたように、電極46、48はプラットフォーム42にわたって延在する直線の電極である。他の実施形態では、電極46、48は他の構成で実施され得る。たとえば、電極46、48は、図2Cのインターディジテイティッドキャパシタ機構30と同様にインターディジテイティッドキャパシタ設計を用いて実施されてよい。
【0056】
第1の電極46はRF増幅器50の出力に接続されており、第2の電極48は接地52に接続されている。RF増幅器50が信号を出力すると、電極46と48の間およびまわりに電界が生成される。フィルム44の熱硬化接着剤を硬化させるために、フィルム44は電極46、48を通り過ぎて移動され得る。電界が、フィルム44内のサセプタと相互作用して、フィルム44の熱硬化接着剤内に抵抗加熱を生成する。矢印56は、プラットフォーム42にわたるフィルム44の進行方向を図示するものである。他の実施形態では、フィルム44は、フィルム44の中の接着剤を硬化させるために、フィルム44が電界に十分に暴露されることを保証するように、所望の任意の方向に移動するように関節でつながれ得る。いくつかの実施形態では、フィルム44は、プラットフォーム42にわたって手動で送られ得る。いくつかの実施形態では、プラットフォーム42は、プラットフォーム42にわたってフィルム44を運ぶための機構を含む。機構はコンベヤベルト等を含むことができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、走査システム40は赤外線カメラ54を含み得る。赤外線カメラ54は、フィルム44が走査システム40によって処理されているときフィルム44を監視するように配置されている。赤外線カメラ54は、フィルム44内の熱硬化接着剤の硬化に関する指示を与えるために、フィルム44に関する温度データを供給することができる。
【0058】
他の実施形態では、電極46、48は平行板キャパシタのプレートであり得、一方がプラットフォーム42の平面の上に配置され、他方がプラットフォーム42の平面の下に配置されている。そのような実施形態では、フィルム44(および接合される部材)は、電極46と48の間の空間を通過することができる。平行板キャパシタにRF信号を印加すると、フィルム44は、プレートの間を通るとき抵抗加熱によって加熱される。
【0059】
どちらの非接触法も「電気的に小さい」構成で動作し、すなわち、アプリケータの寸法は、印加されるRF電界の波長(200MHzにおいて波長は約1.5mである)の1/8未満である。このために、プレートまたはインターディジテイティッドフィンガの間に生成される電界は定在波を確立することができず、そのため実際にはとても均一である。
【0060】
上記で論じられた例の各々において、試料は印加された電界に応答して急速に加熱され、数百ワットの電力レベルに応答して100℃/sを上回る加熱速度が観測された。直接接触構成は、100MHzで315ワットの電力を4秒印加した後に、1.0重量%CNTのPLAフィルムに熱を生成した。これはRF電界の最も簡単な印加方法であり、電界中のフィルム配向などの要因に対して全般的に非常に低感度であった。非接触加熱の結果は同様に活動的である。図2Bの非接触プレート機構は、組み込まれている材料または金属電極を用いる直接接触にとって近づきにくい材料の、目標とされた加熱のために非常に有益であろう。別の有効な用途は、一般的にはオーブンによる間接加熱が実施される環状炉におけるナノ複合材料の効率的な直接加熱であろう。
【0061】
図9を参照すると、熱硬化接着剤と、接合される2つの部材との温度対時間を図示するグラフが示されている。図9は、電界の存在下で接合される即時施工熱硬化接着剤および部材における温度変化を表すものである。実際には、接合されている特定の熱硬化接着剤と特定の部材の温度応答は、接着剤のタイプ、サセプタのタイプおよび量、RF信号の特性、接合される部材の材料特性等の様々な要因に左右される。時間t=0において、RF加熱処理は、熱硬化接着剤に近接した電界を生成するためにRF信号を印加することから始まる。t=0において、接合される部品と熱硬化接着剤の温度は同一の約25℃である。電界の存在下で、熱硬化接着剤の温度は部材の温度と比較して比較的急速に上昇する。約50秒後に、熱硬化接着剤は90℃を上回る温度に到達した。熱硬化接着剤とは対照的に、部材の温度は約40℃までしか上昇しなかった。部材温度の上昇は電界の直接的な結果ではなく、むしろ加熱された熱硬化接着剤からの熱伝導の結果である。引き続き電界を印加すれば熱硬化接着剤の温度が保たれる。部材の温度はゆっくり上昇し続けるが、熱硬化接着剤の温度よりも非常に低い温度に保たれる。約150秒において、RF信号および対応する電界を停止させた。電界がなくなると熱硬化接着剤の温度が低下し始め、最終的には周囲と平衡することになる。部材の温度も同様に低下して周囲と平衡することになる。図9は、即時RF法が、接合される部材のはるかに低い温度をもたらすことを図示するものである。温度が低くなれば、歪み、反り、および/または接合される部材同士の熱膨張係数の不整合が解消または緩和される。
COMSOLモデリング
【0062】
試料における電界分布およびRFエネルギーによって生成された熱の結合のより十分な理解を深めるために、上記で論じたアプリケータの構成を、シミュレーションプログラムCOMSOLでモデル化した。アプリケータのジオメトリおよび加熱される試料のモデル化は、実際の印加において効率的かつ有効なRF加熱モジュールを作り出すために役立つツールである。
【0063】
このジオメトリに対して、電界は一括されたポートを用いてモデル化され、100Wの電力入力が使用された。これは、50Ωのシステムに対して100Vのピーク電圧入力をもたらす。フィルムの誘電特性は、以前に遂行された測定から採用された。消費電力と、これに付随する材料の温度増加とを判定するために、COMSOLのMultiphysics RFおよびHeat-Transferモジュールを使用してフィルムの電界分布を計算し、材料の誘電特性と結合した。容量結合平行板アプリケータに関して、図4Aは電界分布、図4Bは温度上昇、また図4Cは消費電力密度を図示するものである。予測される電界強度の最大値を計算することは、空気の絶縁破壊電圧(約3MV/m)および加熱される複合材料の破壊強度を大幅に下回る条件でシステムが動作することを保証するために重要である。試料の外部で、アプリケータプレートの鋭いエッジおよび試料のコーナーのあたりに最大の電界が集中する。図4Aに示される強電界強度は、プレートと試料の間のエアギャップ領域におけるものであることに留意されたい。これは、このシミュレーションで検討された平行板構成については、電界が、空気領域と試料の間の境界面に対してほとんど垂直であるという事実によるものである。電磁界に関する境界条件は、電束密度Dの垂直成分は空気領域と誘電性の領域(試料)の間の境界面を横切って連続していなければならないと規定する。電束強度Eは、E=D/∈という関係によって電束密度Dに関連づけられ、∈は材料の誘電率である。理想的な平行板構成については、Dは両方の領域で同一であり、結果的に、誘電体の誘電率が空気よりも高いため、エアギャップ領域における電界強度Eは誘電体試料におけるEよりも強い。誘電体試料の内部で、図4Bにおける勾配によって図示されるように、加熱は試料の中心においてより強く、このことは図4Cにおける消費電力と一致している。加熱は試料における誘導電流によるものであり、試料において(熱として)消費される電力は誘導電流に比例する。試料内部の電流分布は試料の中心において最大であり、プレートの近くのエッジに向かって徐々に減少する。しかしながら、様々な試料にわたる電界および加熱は、加熱の均一性がフィルムの誘電特性に大きく依拠する複合フィルムのマイクロ波導波管加熱に関して以前に示した結果よりも均一である。
用途
【0064】
自動車産業および航空宇宙産業が的を絞ったこの技術の用途には、カーボンナノチューブを添加した高性能エポキシ系接着剤を用いてアルミニウム板を接着することが含まれる。リベットまたは従来の溶接の代わりに高性能接着剤を用いてアルミニウムと複合部品を接着することは非常に望ましい。適切に選択された接着剤は、機械的強度、耐衝撃性、および耐疲労性ならびに重量に関して、溶接と機械的締結具の両方を凌ぐ。歴史的に、車両構成材を接着するために使用される一部エポキシは、十分な強度に到達するためには180℃の硬化温度を30分間必要とするものであった。これには、所望の硬化度合いを達成するために、車両構成材を、加熱器ブランケットが掛かった大きくて割高なオーブンに配置すること、ホットエアガン、または赤外線加熱器が必要とされた。即時RF硬化技術では、エポキシ系接着剤自体が、埋め込まれたCNTのジュール加熱のために、硬化させるのに必要な熱を体積測定的に生成する。ナノチューブの添加レベルは標準的なDC浸透限界未満であるが、それでもRF電源と効果的に結合する。活性が低い充填剤材料を使用することに加えて、CNTの添加レベルが低ければ、接着剤が著しく脆くなることはないことが保証される。
【0065】
本明細書で使用される、とりわけ、「できる」、「可能性がある」、「でよい」、「たとえば」等の条件付き言語は、特に別記しない限り、または使用されている文脈の範囲内で別様に理解されない限り、全般的に、ある特定の実施形態が、他の実施形態には含まれない、ある特定の特徴、要素および/または状態を含むことを示唆するように意図されている。したがって、そのような条件付き言語は、一般に、特徴、要素および/または状態が1つまたは複数の実施形態に必要であること、あるいは、1つまたは複数の実施形態が、著者の入力またはプロンプティングの有無にかかわらず、これらの特徴、要素および/または状態が、含まれているかどうか、または何らかの特別な実施形態において遂行されることになっているかどうかを、裁定するための論理を必然的に含むことを暗示するようには意図されていない。
【0066】
「実質的に」という用語は、主として当業者によって理解されるように規定されるものと定義される(また、たとえば実質的に90度は90度を含み、実質的に平行は平行を含む、といった具合に、規定されているものを含む)。任意の開示された実施形態における「実質的に」、「約」、「概して」、および「およそ」といった用語は、規定されたものの「0.1%、1%、5%、または10%以内」で置換され得るものである。
【0067】
上記の詳細な説明は、新規の特徴を、様々な実施形態に適用されるものと示し、説明し、かつ指摘してきたが、本開示の趣旨から逸脱することなく、図示されたデバイスまたはアルゴリズムの形態および詳細における様々な省略、置換、および変更が可能であることが理解されよう。認識されるように、本明細書で説明された処理は、いくつかの特徴が他のものからの別個に使用され得、または実施され得るので、本明細書で明らかにされた特徴および利益のすべてを提供するわけではない形態の範囲内で具現され得るものである。保護の範囲は、前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって定義される。特許請求の範囲の同等の意味および範囲に入るすべての変更形態は、特許請求の範囲に包含されるものとする。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9