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特許7507688ラクトバチルス・クラストラム株を含む焼成組成物
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  • 特許-ラクトバチルス・クラストラム株を含む焼成組成物 図1A
  • 特許-ラクトバチルス・クラストラム株を含む焼成組成物 図1B
  • 特許-ラクトバチルス・クラストラム株を含む焼成組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ラクトバチルス・クラストラム株を含む焼成組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240621BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20240621BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20240621BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240621BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A21D2/26
A21D8/04
A21D13/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020544103
(86)(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 EP2017078475
(87)【国際公開番号】W WO2019091547
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-24
【微生物の受託番号】BCCM  LMGP-29154
(73)【特許権者】
【識別番号】520154690
【氏名又は名称】ジアンナン、ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】505090469
【氏名又は名称】プラトス ナームローズ フェノートサップ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ホアン、ウェイニン
(72)【発明者】
【氏名】タン、シャオジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ジア、チュンリー
(72)【発明者】
【氏名】リー、ニン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、アルノー
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103315015(CN,A)
【文献】FOOD MICROBIOLOGY,2011,Vol.28,Nr.6,p.1129-1139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/00
A21D 2/00 - 17/00
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
CAPlus/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCCM/LMG培養コレクションにて受託番号LMG P-29154で寄託されたラクトバチルス・クラストラム株。
【請求項2】
請求項1に記載の株を含んでなる、ベーカリー製品を製造するための焼成組成物。
【請求項3】
前記焼成組成物が、ベーカリー組成物用のスターター培養物、サワードウ、またはサワードウ製品から選択される、請求項に記載の焼成組成物。
【請求項4】
1種以上の乳酸菌株および/または1種以上の酵母株をさらに含んでなる、請求項またはに記載の焼成組成物。
【請求項5】
前記1種以上の乳酸菌株が、酸形成細菌から選択され、かつ/または前記1種以上の酵母株が、サッカロミセス、カンジダ、ピチア、クルイベロミセスまたはハンゼヌラ株から選択される、請求項に記載の焼成組成物。
【請求項6】
前記1種以上の乳酸菌株が、リューコノストック属またはラクトバチルス属から選択される、請求項又はに記載の焼成組成物。
【請求項7】
前記1種以上の乳酸菌株が、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・サンフランシスエンシスおよび/またはラクトバチルス・ロイテリから選択され、かつ/または前記1種以上の酵母株が、サッカロミセス・セレビシエおよびサッカロミセス・エキシグウスから選択される、請求項のいずれか一項に記載の焼成組成物。
【請求項8】
前記焼成組成物がサワードウまたはサワードウ製品である、請求項のいずれか一項に記載の焼成組成物。
【請求項9】
前記焼成組成物が穀物または穀物片、ならびに場合により糖および/またはミネラルをさらに含んでなる、請求項に記載の焼成組成物。
【請求項10】
前記焼成組成物が、請求項1に記載の少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラム株によって発酵されたものである、請求項またはに記載の焼成組成物。
【請求項11】
前記焼成組成物が、活性もしくは不活性のサワードウまたはサワードウ製品である、請求項10のいずれか一項に記載の焼成組成物。
【請求項12】
前記焼成組成物がスターター培養物である、請求項のいずれか一項に記載の焼成組成物。
【請求項13】
請求項11のいずれか一項に記載のサワードウまたはサワードウ製品の製造方法であって、
-穀類および/または穀物片、ならびに液体を含んでなる(液体)混合物を、少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラム株LMG p-29154で発酵させて(液体)サワードウを得る工程;および
-場合により、該(液体)サワードウを乾燥させて乾燥組成物を得る工程
を含んでなる方法。
【請求項14】
前記液体が水である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
食品の製造における、請求項12のいずれか一項に記載の焼成組成物の使用。
【請求項16】
請求項12のいずれか一項に記載の焼成組成物を含んでなる、ベーカリー製品。
【請求項17】
蒸したバンズである、請求項16に記載のベーカリー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品加工の技術分野に属するものである。より詳細には、本発明は、ベーカリー製品を製造するための、ラクトバチルス・クラストラム(Lactobacillus crustorum)株を含む焼成組成物(baking composition)に関する。
【背景技術】
【0002】
パン(アジア系の蒸しパンを含む)は、独特の民族的特徴を有する伝統的な主食である。今日、パン発酵には二つの主要な種類がある。第一種目は、市販の酵母による小麦粉の発酵である。これは、パンを製造する単純な方法であり、あまり時間がかからないが、風味は一般に乏しいかまたは当り障りがない。より伝統的な様式は、膨張剤として前生地(pre-dough)(サワードウまたは中種など)を使用して得られるパンである。サワードウは、先回の発酵生地の一部を使用して再開されるため、周期的に絶えず更新され、特定のレシピおよび熟成条件を使用する。次いで、母生地は残りの小麦粉、水および他の生地成分と混合して適切な粘稠度にし、次いで、最終発酵および焼成の前に短い期間、バルク発酵させる。この方法を用いて得られたパンまたは蒸しパンは、風味がより豊かであり、栄養価がより高い。しかしながら、この方法は時間がかかり、サワードウの品質は時間が変わると一貫性がないことがある。
【0003】
所望の特性および一定の品質を有するサワードウを提供する代替方法が存在する。二種の製品を考慮し得る。
-「即時利用可能な活性サワードウ(Ready to use active sourdough)」は、発酵を開始するために適合させた菌株または液体サワードウスターターを使用する改善された種類のサワードウである。これらのサワードウは、ペースト状または液体であり得、一般に安定であり、例えば自動化された製パン工程で加工するのが容易である。パン生地をうまく発酵させるため、またはサワードウの多段階プロセスを開始するために十分な生きた乳酸菌および/または酵母が存在している。
-「即時利用可能な不活性な粉末または液体のサワードウ(Ready to use inactive powder or liquid sourdough)」は、伝統的なまたは工業的なベーカリーがその利便性のために使用していて、その理由としては品質が一定であり、使用が容易であるためである。それらは、長い発酵工程を直接回避し、酸味および従来のサワードウの風味をもたらす。
【0004】
さらに、1種またはいくつかの特定の微生物株を産生し、調整し(例えば、乾燥スターターとして)、ベーカー(baker)に提供することで独自の制御されたサワードウを製造できるようにしてもよい。
【0005】
乳酸菌は、サワードウ発酵のプロセスにおいて主要な役割を果たす。それらは、酢酸などの有機酸の産生を通して生地を迅速に酸性化することができる。それらはまた、エタノール、フレーバー、バクテリオシン、エキソ多糖類および酵素などの他の成分を産生する。サワードウ発酵を使用することの利点は、とりわけ以下の通りである:(1)パンの風味の改善;(2)パンの栄養価の改善;(3)パンの量および食感の改善;(4)パンの保存期間の長期化。同時に、サワードウ手法は、例えば、粘着感を低減し、その粘弾性特性を改善することによってドウ自体の加工を改善する。サワードウから単離された乳酸菌は、主にラクトバチルス属、リューコノストック属、ペディオコッカス属および/またはワイセラ属(Weissela)であるが、大部分はラクトバチルスの群に属する。乳酸菌発酵により乳酸および/または酢酸が生成され、それらはサワードウに酸味を付与する。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、従来のサワードウにおいて最も頻度の高い酵母種である。サッカロミセス(Saccharomyces)、カンジダ(Candida)、ピチア(Pichia)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、および/またはハンゼヌラ(Hansenula)の他の種もサワードウから時に単離されることがあった。
【0006】
伝統的なサワードウの製造には時間と費用がかかる。サワードウの品質も一貫していない。現代の産業は、スターター生地に接種するために優性株を使用し、これは条件付き制御発酵およびその後の下流処理(例えば、乾燥または低温殺菌)によるサワードウ製造に使用することができる。これらの方法により粉末、ペーストまたは液体のサワードウを製造することができる。
【0007】
今日製造されているサワードウのほとんどは欧州の様式に従って製造されているために、嗜好が東洋における風味の嗜好とさほど一致していない。したがって、パン、特に(アジア風の)蒸しパンなどのベーカリーおよびペーストリー製品の品質および風味を改善し得る新規のサワードウが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、BCCM/LMG培養コレクションにて受託番号LMG P-29154で寄託されたラクトバチルス・クラストラム株、またはその変異体に関する。
【0009】
さらなる態様においては、本発明は、本明細書で定義されるラクトバチルス・クラストラム株を含むベーカリー製品の製造に使用するための焼成組成物に関する。
【0010】
特定の実施態様において、本発明は本明細書で定義される焼成組成物であって、ベーカリー製品、サワードウまたはサワードウ製品のためのスターター培養物から選択される焼成組成物に関する。
【0011】
特定の実施態様では、本発明は、1種以上の乳酸菌株および/または1種以上の酵母株をさらに含む、本明細書で定義される焼成組成物に関する。特に、1種以上の乳酸菌株は、リューコノストック属またはラクトバチルス属などの酸形成細菌から選択され、かつ/または1種以上の酵母株は、サッカロミセス、カンジダ、ピチア、クルイベロミセスまたはハンゼヌラ株から選択される。より具体的には、1種以上の乳酸菌株は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(Lactobacillus sanfrancisciensis)および/またはラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuterii)から選択され、かつ/または1種以上の酵母株は、サッカロミセス・セレビシエおよびサッカロミセス・エキシグウス(Saccharomyces exiguus)から選択される。
【0012】
特定の実施態様においては、本発明は、本明細書で定義されるような焼成組成物であって、好ましくは本明細書で定義されるような少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラム株によって発酵されたサワードウまたはサワードウ製品である、焼成組成物に関する。
【0013】
特定の実施態様においては、本発明は、本明細書で定義されるようなベーカリー組成物であって、好ましくは本明細書で定義されるような少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラム株によって発酵された、穀物または穀物片、ならびに場合により糖および/またはミネラルをさらに含む、ベーカリー組成物に関する。
【0014】
特定の実施態様においては、本発明は、活性または不活性のサワードウまたはサワードウ製品である、本明細書で定義されるようなベーカリー組成物に関する。
【0015】
特定の実施態様においては、本発明は、スターター培養物である、本明細書で定義されるベーカリー組成物に関する。
【0016】
さらなる態様においては、本発明は、本明細書に定義されるサワードウまたはサワードウ製品の製造方法であって、
-穀類および/または穀物片、ならびに液体、好ましくは水を含む(液体)混合物を、少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラム株LMG p-29154で発酵させることで(液体)サワードウを得る工程;および
-場合により、(液体)サワードウを乾燥させることで乾燥組成物を得る工程を含む方法に関する。
【0017】
さらなる態様においては、本発明は、食品の製造における本明細書に定義される焼成組成物の使用に関する。
【0018】
さらなる態様においては、本発明は、本明細書で定義される焼成組成物を含むベーカリー製品に関する。特に、当該ベーカリー製品は蒸したバン(steamed bun)である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ペトリ皿に乗せた、ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154株(図1A)と参考のL.クラストラムLMG23699株(図1B)の形態学的差異を示す図である。
図2】SPME-GC-MSによりアロマを比較した結果を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0020】
本発明の製品、組成物、使用および方法を記載する前提として、本発明は記載されている特定の製品、組成物、使用および方法または組み合わせに限定されないことを理解するべきであり、その理由としてはそのような製品、組成物、使用および方法または組み合わせは当然変更し得るものであるためである。また、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されるために、本明細書で使用される用語は限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0021】
本明細書で使用される場合、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、単数および複数の両方の指示対象を含むものとする。
【0022】
本明細書で使用される「含んでなる(comprising)」、「含んでなる(comprises)」および「からなる(comprised of)」という用語は、「含んでいる(including)」、「含む(includes)」または「含有している(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素(member)、成分または方法工程を除外するものではない。本明細書で使用される「含んでなる(comprising)」、「含んでなる(comprises)」および「からなる(comprised of)」という用語は、「からなっている(consisting of)」、「からなる(consists)」および「からなる(consists of)」という用語を含むことが理解されよう。
【0023】
端点による数値範囲の記載にはそれぞれの範囲内に包含される全ての数および分数、並びに記載された端点が含まれる。
【0024】
本明細書で使用される「約(about)」または「およそ(approximately)」という用語は、パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値を指す場合、指定された値の、または指定された値から、±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を包含することを意味するが、そのような変動が開示発明において実施するのに適切である場合に限る。「約」または「およそ」という修飾語が指す値自体も具体的に開示されていて、そして好ましく開示されていることを理解されたい。
【0025】
用語「1つ以上(one or more)」または「少なくとも1つ(at least one)」、例えば、要素の群の1つ以上または少なくとも1つの要素はそれ自体明らかであるが、この用語はさらなる例示によって、当該要素のいずれか1つ、または当該要素のいずれか2つ以上、例えば、当該要素のいずれか3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上または7つ以上などの言及をとりわけ包含し、かつ最大では当該要素全てへの言及を包含するものとする。
【0026】
別途定義されない限り、技術用語および科学用語を含む本発明の開示において使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。本発明の教示をよりよく理解するために、さらなる指針を用いて用語の定義が含まれる。
【0027】
以下の文節では、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。そのように定義された各態様は、明確に反対が示されていない限り、任意の他の態様(複数可)と組み合わせてもよい。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の特徴(複数可)と組み合わせることができる。
【0028】
本明細書全体を通して、「一つの実施態様(one embodiment)」または「ある実施態様(an embodiment)」への言及は、その実施態様に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施態様に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な場所で「一つの実施態様では」または「ある実施態様では」という句が現れるが、必ずしもすべてが同一の実施態様を指すわけではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、本開示から当業者に明らかであるように、一つ以上の実施態様において任意の適切な方法で組み合わせることができる。さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施態様は、他の実施態様に含まれるいくつかの特徴を含むものの他の特徴は含まない一方、異なる実施態様の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であり、当業者によって理解されるように、異なる実施態様を形成することが意図される。例えば、付属の特許請求の範囲において、特許請求される実施態様のいずれも任意の組み合わせで使用することができる。
【0029】
本発明は、乳酸菌の特定の株を提供し、この株は改善された特性を有するスターター、サワードウおよび焼成製品を製造するために有利に使用することができる、ラクトバチルス・クラストラムの株である。好ましくは、ラクトバチルス・クラストラム株は、2015年10月2日にBCCM/LMG(Laboratorium voor Microbiologie-Bacterienverzameling;Universiteit Gent(ヘント大学、微生物研究所);K.L.Ledeganckstraat35;B-9000、ヘント、ベルギー)において受託番号LMG P-29154(表A参照)で寄託してある、ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154またはその変異体である。
【0030】
【表A】
【0031】
したがって、本発明は、BCCM/LMG培養コレクションにて受託番号LMG P-29154で寄託されたラクトバチルス・クラストラム株、またはその変異体に関する。
【0032】
本明細書中で言及する場合、「変異体」という用語は、微生物変異体(例えば、ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154の突然変異体、挿入変異体、および欠失変異体)、ならびに少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、そして例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%または99.9%の全ゲノム配列同一性を有する微生物変異体をいう。
【0033】
さらなる態様において、本発明は、BCCM/LMG培養コレクションにて受託番号LMG P-29154で寄託されているラクトバチルス・クラストラム株、またはその変異体を含む、ベーカリー製品の製造に使用するための焼成組成物に関する。
【0034】
特定の実施態様によれば、本明細書で定義される焼成組成物は、ベーカリー製品、サワードウまたはサワードウ製品のためのスターター培養物から選択される。
【0035】
特定の実施態様によれば、本明細書で定義されるベーカリー組成物は、1種以上の乳酸菌株および/または1種以上の酵母株を更に含む。
【0036】
より具体的には、当該1種以上の乳酸菌株は、ロイコノストックまたはラクトバチルスなどの酸形成菌から選択され、かつ/または当該1種以上の酵母株は、サッカロミセス、カンジダ、ピチア、クルイベロミセスまたはハンゼヌラ株から選択される。より具体的には、当該1種以上の乳酸菌株は、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・サンフランシスエンシスおよび/またはラクトバチルス・ロイテリから選択され、かつ/または当該1種以上の酵母株は、サッカロミセス・セレビシエおよびサッカロミセス・エキシグウスから選択される。
【0037】
本明細書で定義される特定の菌株は、本発明による焼成組成物を使用して製造されたベーカリー製品に、特有の芳香プロファイルを提供し、これはベーカリー製品に特有の特徴を提供する。
【0038】
特定の実施態様によれば、本明細書で定義される焼成組成物は、サワードウまたはサワードウ製品である。本発明のさらなる目的は、ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154を用いて製造されたサワードウまたはサワードウ製品を提供することである。本発明の文脈において、「サワードウ」または「サワードウ製品」という用語は、乳酸菌および場合により酵母による発酵を行ったドウを指す。サワードウには、典型的に乳酸菌による乳酸および/または酢酸ならびにいくつかの微量成分の産生に起因する特徴的な酸性風味、ならびに有るとすれば酵母によって産生される典型的なフレーバートップノートがある。サワードウまたはサワードウ製品は1つまたは別の方法で(例えば、乾燥、低温殺菌、冷却、および/または冷凍を通して)さらに安定化させることができるので通常のドウまたは衣用生地に添加することができ、それによってイン=ベーカリー(in-bakery)で製造された予備発酵物(pre-fermentation)に置き換えることができる。
【0039】
特定の実施態様において、本明細書で定義されるサワードウまたはサワードウ製品は、穀物または穀物片、ならびに場合により糖および/またはミネラルを含む。好ましくは、サワードウまたはサワードウ製品は、穀物または穀物片を含み、最終的に糖および/またはミネラルと混合し、少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154株で発酵を行う。より詳細には、このようなサワードウはベーカリーおよびパティスリー製品などの焼成製品に非常に良好な風味および非常に良好な物理的特性を提供する。
【0040】
本出願において使用される場合、「穀類」という用語は、本発明の文脈において、小麦、大麦、エンバク、スペルトコムギ、ライムギ、モロコシ、トウモロコシ、ライコムギ、キビ、テフおよび/または米などの種を含むイネ植物科(Poaceae)の植物の食用部分を指すがこれらに限定されない。好ましくは、穀類は、小麦、トウモロコシ(maize (corn))、米またはライムギの群から選択される。より好ましい穀類は、ライムギ、米および小麦である。さらにより好ましい穀物は小麦である。
【0041】
「穀物片」という用語は、本発明の文脈において、限定されるものではないが、分画(例えば、限定されるものではないが、ふるい分け、スクリーニング、精査、ブローイング、吸引、遠心ふるい分け、風力ふるい分け、静電分離、または電場分離)の有無にかかわらず、例えば、限定されるものではないが、切断、ローリング、粉砕、切断、またはフライス削りを通じて、穀物の大きさを機械的に低減した結果得られた片の全てまたは一部を指す。好ましい穀物片は、小麦粉、全粒小麦粉(whole flours)、ふすまおよび/またはそれらの任意の組み合わせである。
【0042】
本明細書で使用される「糖」という用語は、スクロース、グルコース、およびスクロースまたはグルコースを含有している化合物/生成物、例えば、糖蜜、テンサイ糖、ショ糖、および加水分解デンプンを指すが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、糖の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの当技術分野で公知の方法によって測定されるグルコースおよびスクロースの合計を指す。
【0043】
「ミネラル」という用語は、乳酸菌の培養に使用されるミネラルを指し、K、Na、Mg2+、Mn2+、Fe2+、P0 3-、S0 2-およびClイオンを含むものである。より好ましくは、KおよびMn2+を指す。
【0044】
特定の実施態様によれば、本発明は、サワードウまたはサワードウ製品を提供し、当該サワードウは追加の微生物によって発酵を行う。この実施態様において、本明細書に教示されるサワードウまたはサワードウ製品を得るために使用されるラクトバチルス・クラストラム株、好ましくはラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154は、従来の微生物、すなわち、通常の(従来の)サワードウを製造するために使用される微生物と組み合わせる。そのような追加の微生物は、乳酸菌および/または酵母から優先的に選択し得る。乳酸菌は、ロイコノストックおよびラクトバチルスなどの乳酸形成細菌から選択されてもよく、好ましくはラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス、およびラクトバチルス・ロイテリからなる群から選択される。酵母は、有利には、サッカロミセス、カンジダ、ピチア、クルイベロミセスまたはハンゼヌラ、好ましくは、サッカロミセス・セレビシエまたはサッカロミセス・エキシグウスから選択される。好ましい実施態様において、本明細書に教示される組成物、特にサワードウまたはサワードウ製品に含まれる酵母の量は、パン生地などの生地の発酵に必要な量である。
【0045】
特定の実施態様において、ラクトバチルス・クラストラム株、好ましくはラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154は、サワードウ中に存在する唯一の乳酸菌株である。
【0046】
特定の実施態様において、本明細書で定義されるサワードウまたはサワードウ製品は、少なくともラクトバチルス・クラストラム株、好ましくはラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154によって発酵する。
【0047】
特定の実施態様において、本明細書で定義されるサワードウまたはサワードウ製品は、液体、ペーストまたは乾燥/粉末の形態である。
【0048】
サワードウ製品は多くの形態をとり得る。液体サワードウ製品は、おそらく最も一般的に使用されているタイプである。しかしながら、乾燥または乾燥サワードウ製品を含む他のタイプのサワードウ製品も利用可能である。乾燥形態のサワードウ製品は、典型的には液体サワードウ製品を乾燥させることによって得られる。好ましくは、固体/粉末組成物の乾燥物質は、85%超(w/w)、好ましくは90%超、より好ましくは92%以上である。したがって、この範囲は、86、87、88、89、91、93、94、95、96、97、98、99、100%の乾燥物質も提供する。
【0049】
特定の実施態様によれば、本発明は、液体サワードウ製品を提供し、この液体サワードウ製品は10%(w/w)~45%、好ましくは15%~40%、より好ましくは20%~35%の乾燥物質を有することを特徴とする。したがって、この範囲は、16、17、18、19、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、41、42、43、または44%の乾燥物質を提供する。
【0050】
特定の実施態様において、本明細書で定義されるサワードウまたはサワードウ製品は、活性もしくは不活性のサワードウまたはサワードウ製品である。
【0051】
好ましくは、サワードウは活性サワードウである。「活性サワードウ」という用語は、サワードウが活性および/または生存する微生物を含有することを意味する。活性サワードウは、上記と同じ仕様および特性を有するペースト状または他の液体組成物を製造するためのスターターとして使用することができる。従来の活性サワードウと同様に、本発明の活性サワードウは、品質および加工において均一性を保証する。有利的には、活性サワードウ中の生細胞の範囲は、10~1011個、好ましくは10~1010個、より好ましくは10~10個の乳酸菌細胞/mlであり;かつ10~10個、好ましくは10~10個の酵母細胞/mlである。特定の実施態様において、活性サワードウは活性液体サワードウである。
【0052】
他の好ましい実施態様において、サワードウは不活性である。「不活性サワードウ」という用語は、組成物がもはや活性微生物および/または生存する微生物を含有していないことを意味する。本明細書に教示されるようにサワードウを不活性化するためには、サワードウを例えば約55~約90℃の温度で約10秒~約60分間の(連続)低温殺菌によって不活性化し得る。特定の実施態様において、不活性サワードウは、不活性液体サワードウである。
【0053】
特定の実施態様において、サワードウのpHは、4.0~5.0、好ましくは4.0~4.5である。
【0054】
特定の実施態様において、本発明のサワードウは、12より高い総滴定酸度(TTA)、好ましくは12~300、より好ましくは12~100、一層より好ましくは12~50、例えば12~18の総滴定酸度(TTA)を有する。総滴定酸度は、当業者に一般に知られている製品特性である。TTAは、10gの生成物のpHを8.4にするのに必要な0.1N NaOHの量(mlで表す)を指す。本発明者らは、このようなTTAにより改善された風味などの改善された特性を有するサワードウが得られることを見出した。
【0055】
特定の実施態様において、本発明は、30~70%、好ましくは40~60%の乾燥物質を有するペーストサワードウに関する。
【0056】
特定の実施態様において、本発明は、本明細書に教示されるような液体またはペーストのサワードウ製品を乾燥させることによって得られる乾燥サワードウ製品に関する。液体またはペーストサワードウの乾燥は、当業者に利用可能な典型的な乾燥技術を用いて行うことができる。好ましくは、乾燥サワードウは、液体またはペーストの組成物の流動化、噴霧乾燥またはドラム乾燥によって得られる。固体/粉末の組成物の好ましい乾燥物質は、90%超、好ましくは92%である。
【0057】
特定の実施態様によれば、本明細書で定義される焼成組成物は、ベーカリー製品のためのスターター培養物である。特定の実施態様では、本明細書で定義される焼成組成物は、ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154株を含むベーカリー製品のためのスターター培養物である。本発明の文脈において、スターター培養物は、ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154の生細胞、および場合によりサワードウまたはサワードウ製品を製造するために使用する、例えば酵母菌などの他の微生物を指す。スターター培養物は、乳酸菌の他の株および/または酵母の他の株をさらに含み得る。好ましくは、乳酸菌は、ロイコノストックまたはラクトバチルスなどの乳酸形成細菌から選択されてもよく、好ましくはラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス、およびラクトバチルス・ロイテリの群から選択される。酵母株は、有利的には、サッカロミセス、カンジダ、ピチア、クルイベロミセスまたはハンゼヌラ、好ましくは、サッカロミセス・セレビシエまたはサッカロミセス・エキシグウスから選択される。スターター培養物は、使用前に乾燥形態または液体形態であり得る。乾燥スターターは、例えば、糖および塩を含有する水にスターターを懸濁することによって、使用前に再水和され得る。特定の実施態様では、ラクトバチルス・クラストラムの株、好ましくはラクトバチルス・クラストラム LMG P-29154が、スターター中に存在する唯一の乳酸菌株である。
【0058】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に定義されるサワードウまたはサワードウ製品を製造する方法であって、
-穀類および/または穀物片、ならびに液体、好ましくは水を含む(液体)混合物を、少なくとも1種のラクトバチルス・クラストラムLMG p-29154菌株で発酵し、それによって(液体)サワードウを得る工程;および
-場合により当該(液体)サワードウを乾燥させることによって乾燥組成物を得る工程を含む方法を提供する。
【0059】
特定の実施態様においては、混合物は、追加の微生物をさらに含み得る。そのような追加の微生物は、乳酸菌および/または酵母から優先的に選択され得る。乳酸菌は、ロイコノストックおよびラクトバチルスなどの乳酸形成細菌から選択されてもよく、好ましくはラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス、およびラクトバチルス・ロイテリからなる群から選択される。酵母は、有利的には、サッカロミセス、カンジダ、ピチア、クルイベロミセスまたはハンゼヌラ、好ましくは、サッカロミセス・セレビシエまたはサッカロミセス・エキシグウスから選択される。
【0060】
特定の実施態様においては、ラクトバチルス・クラストラム株、好ましくはラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154が、混合物中に存在する唯一の乳酸菌株である。
【0061】
特定の実施態様において、本発明の方法は、12より高い総滴定酸度(TTA)、好ましくは12~300、より好ましくは12~100、さらにより好ましくは12~50、例えば12~18の総滴定酸度(TTA)を有するサワードウを提供する。特定の実施態様においては、このようなTTAは、発酵の24時間後に得られる。
【0062】
本発明の方法によって(サワードウを用いて得られる)ベークド製品の味を改善し、同時に満足のいくボリュームなど、満足のいく物理的特性を有する焼成製品を提供する、工業的に非常に有用な組成物が製造できる。
【0063】
好ましい実施態様においては、小麦粉と水の混合物は約1対2.5の比であり、約30~40℃、好ましくは35~38℃にて約12~48時間、好ましくは約12~24時間発酵する。
【0064】
さらなる態様において、本発明は、食物製品、好ましくは焼成製品、より好ましくはベーカリー製品またはパティスリー製品の製造における、本発明による焼成組成物の使用に関する。
【0065】
より詳細には、本発明は、本発明による焼成組成物の使用おいて、改良剤(improver)の一部としての、ベーカリー製品の製造におけるプレミックス物または完全なミックス物を提供する。
【0066】
本明細書で使用される「改良剤」は、焼成製品の製造中および/または焼成後にそれらの有益な特性のために使用する成分および/または技術的助剤(technological aids)をさらに含む本発明の組成物を指す。これらの特性は、焼成製品の外観、ボリューム、鮮度、保存性、色、構造または噛み時間の短さ(short bite)を含むが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で使用される「プレミックス物」という用語は、典型的には、「活性」成分の濃度がベーカリー改良剤中よりも低い改良剤組成物を指す。典型的には、プレミックス物は、改良剤(粉の重量/重量)よりも高い用量で使用される。
【0068】
本明細書で使用される「完全ミックス物」という用語は、典型的には、一般に水を除く、焼成製品を得るために焼成することができる生地を製造するのに必要な全ての成分を含む組成物を指す。特に、膨張剤が生物学的薬剤、より具体的にはパン用イーストである場合、それは完全な混合物から除外することもできる。本発明に係る完全ミックスは、本発明によるサワードウ組成物と、焼成することで焼成製品を得ることができる、生地を製造するのに必要な全ての成分を含む。
【0069】
より詳細には、本発明は、液体パン酵母懸濁液を安定化させるための本発明によるサワードウ製品の使用を提供する。
【0070】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるベーカリー組成物を含むベーカリー製品に関する。
【0071】
本発明のさらなる目的は、ラクトバチルス・クラストラム、好ましくは1種以上のラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154の株を含有するか、またはそれを用いて作成されたサワードウを用いて得られるベーカリー製品を提供することである。特定の実施態様では、焼成製品は、非発酵、酵母発酵、または化学発酵した焼成製品であってもよく、その主成分は、穀物由来の粉である。焼成製品はまた、油脂または油脂代替物、糖、卵、グルテン、デンプン、親水コロイド、酵素、乳化剤、酸化化合物または還元化合物、プレバイオティクス化合物および/または改良剤を含有してもよい。焼成製品の例は、ベーカリー製品およびパティスリー製品である。ベーカリー製品の例は、パン、蒸しパン、バゲット、ロールパン、ソフトロール、ドーナッツ、バンズ、電子レンジ用バンズ、デニッシュ、ハンバーガー用ロールパン、ピザおよびピタパンである。パティスリー製品の例は、ケーキ、ローフクリーム(loaf cream)およびパウンドケーキ、カップクリーム(cup cream)およびパウンドケーキ、スポンジケーキ、マフィン、ケーキドーナッツ、ブラウニー、およびワッフルである。好ましくは、本発明のサワードウは、蒸しバンズを製造するために使用される。
本発明を以下の非限定的な実施例で説明する。
【実施例
【0072】
例1:ラクトバチルス・クラストラムの新規株の単離および特徴化
ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154を中国の株源から単離した。ペトリ皿上でラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154株(図1A)は参考L.クラストラムLMG23699(図1B)と形態的な差異を示している(図1Aおよび1B参照)。
【0073】
例2:液体サワードウ
株: ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154(2015年11月12日にBCCM/LMG(Laboratorium voor Microbiologie-Bacterienverzameling;ヘント大学;K.L.Ledeganckstraat35;B-9000、ヘント、ベルギーに寄託)、BCCM/LMG細菌コレクションから得られたラクトバチルス・クラストラム LMG23699。
【0074】
純粋な株をMRS培地(ペプトン10g/l、肉エキス8g/l、酵母エキス4g/l、グルコース20g/l、Tween80 1g/l、KHP02g/l、酢酸Na3HO 5g/l、クエン酸三アンモニウム 2g/l、MgS0.7H0 0.2g/l、MnS0.4H0 0.05g/l、pH6.5)中で増殖させ、これを使用して、小麦粉(Pur8、Ceres、ベルギー)175g、および水325gの混合物に接種した。100rpmで回転する振盪フラスコ中で混合物を37℃にて48時間インキュベートした。
【0075】
発酵中にサワードウのpHおよび総滴定酸度(TTA)を測定した。TTAは、生成物10gのpHを8.4にするのに必要な0.1N NaOHの量(mlで表す)を指す。
【0076】
【表1】
【0077】
例3:乾燥サワードウ
ラクトバチルス・クラストラムLMG P-29154株を、MRS培地(ペプトン10g/l、肉エキス8g/l、酵母エキス4g/l、グルコース20g/l、Tween80 1g/l、KHP02g/l、酢酸Na.3HO 5g/l、クエン酸三アンモニウム2g/l、 MgS0.7H0 0.2g/l、MnS0.4H0 0.05g/l、pH6.5)中、50ml中、35℃にて2~3日間増殖させた。前の工程からの150μlの培養物を1.5Lの新鮮なMRS培地に接種し、35℃で2~3日間インキュベートした。
【0078】
次いで、培養物を遠心分離し(4000rpmで10分間)、Fermentolevainでの接種前に漱ぎを行った。10.5kgの小麦粉と19.5kgの水とのブレンドをFermentolevain(FL80-Bertrand-Puma、フランス)で製造した。このブレンドに、2つの1.5lのフラスコの漱ぎを行ったバイオマスを接種した。発酵を35℃で24時間行った。
【0079】
1回目の発酵後、混合物を約10cfu/g(コロニー形成単位/g)に相当する量のイースト(パン用イーストサッカロミセス・セレビシエ)でさらに接種を行い、30℃にて100rpmで24時間インキュベートを行った。
【0080】
発酵後、サワードウのpHを炭酸ナトリウム(NaC0)で約4~4.2のpHに調整した。サワードウを、Niro P6.3噴霧塔に供給する混合タンクに移した。気流入口温度を185℃に設定し、気流は約630kg/hであった。気流出口温度は、開始時の120℃から終了時の90~100℃まで変化した。生成物(入口流量約151/h)を、1.5Hzで回転する遠心ポンプによって塔内に噴霧した。乾燥した生成物を、噴霧室の底部の後に位置するサイクロンに回収した。
【0081】
例4:SPME-GC-MSによる香気の比較
実施例2のサワードウの揮発性分子中の含量を、SPME-GC-MS(固体相マイクロ抽出(SPME)およびガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS))によって比較した。
【0082】
HS-SPME-GC-MSの構成は、MPS-2Wオートサンプラー(Gerstel(商標))を備えたガスクロマトグラフ質量分析計HP7890A/5975C(Agilent Technologies(商標))からなるものである。ChemSensor(商標)ソフトウェア(G1701BA、バージョンB.01.00、Agilent Technologies(商標))およびThe unscrambler(商標)多変量解析ソフトウェア(9.8、Camo(商標)、オスロ、ノルウエー)をGC-MSシステムにロードした。
【0083】
各サワードウの1gの試料重量を20mlのガラスバイアルに秤量し、これをシリコーン/PTFEセプタムを有する磁気キャップで閉じた。試料を40℃で10分間予熱し、揮発性分子をSPME(Fibre type DVB/CAR/PDMS Supelco Gray(商標)57329-U)により等温で30分間抽出した。HS-SPMEによる単離後、サワードウの繊維からのスプリットレス熱脱着(splitless thermal desorption)を、GCインジェクター(内径0.75mmのSPMEライナー)内で、250℃にて5分間行った。GCカラム(RESTEK Stabilwaxカラム(フューズドシリカ))を40℃で7分間維持し、次に16℃/分の速度で230℃の温度にプログラムし、これを8分間保持した。ヘリウムをキャリアガス(1ml/分)として使用した。注入器および検出器(MS-源)を240℃および230℃にそれぞれ維持した。質量スペクトルは、70eVの電子衝撃によって測定した。40~180amuの質量電荷比(m/z)範囲でモニタリングしてTIC(全イオン電流)クロマトグラムを記録した。異なる成分の質量スペクトルを、Mass Spectral Library Wiley275(商標)(J.Wiley&Sons LTD(商標))におけるものと比較することによって揮発性物質の同定を行った。
【0084】
分析の結果を図2に示す。これは、サワードウの芳香プロファイルが異なることを示す。ラクトバチルス・クラストラムP-29154を用いて得られたサワードウは、他の分子の中でも酢酸、イソ吉草酸およびベンジルアルコールのレベルがより高いことを示す。
【0085】
例5:蒸しバンズ
実施例1のサワードウを使用して、蒸しバンズを製造した。レシピに加える前に、実施例1のサワードウを炭酸ナトリウム(NaC0)で約4.0~4.2のpHに中和した。バンズ生地の組成を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
成分をDiosnaミキサー内で低速(110rpm)で5分間、高速(220rpm)で1分間混合した。次いで、生地を37℃、湿度85%で120分間発酵させた。次いで、生地を25%の新鮮な小麦粉および3%の水と、低速で3分間、高速で1分間混合した。次いで、生地をシーター(sheeter)で5~7mmの厚さにプレスした。シートを圧延し、50g片に切断した。次いで、各片を手で丸めた。次いで、生地片をトレイ上に置き、37℃にて湿度85%で25分間発酵させた。その後、生地を蒸し器に入れ、100℃にて15分間蒸した。
【0088】
三点比較試験
三点比較試験において2種のスチームバンズを19人のパネルに提示した。この試験において3つのサンプルが提案された。それらのうちの2つが同一であり、3つ目が異なるものであった。人々には他の2つのサンプルとは異なるサンプルを見つけるよう求めた。回答することは必須であった。
【0089】
正解数をカウントした。次いで、統計値(p値)を計算し、試験のために取られたリスクのレベルと比較した。リスクより低いp値は有意差を示す。
【0090】
19人中11人の判定者が正解を見出した。
【0091】
p値(2.41%)は、試験(10%)のアルファリスクレベルよりも劣っていて、L.クラストラムLMG P-29154を用いて得られたサワードウを用いて製造された蒸しバンズと、L.クラストラム LMG23699を用いて得られたサワードウで得られたバンズとの間に有意な知覚可能な官能差があったことを示している。
【0092】
例6:北部中国式蒸しパン(Northern China-type steamed breads)
例3のサワードウを用いて北部中国式蒸しパンを製造した。同一のレシピを用いてサワードウを含まない参考の蒸しパンを製造した。成分を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
全ての成分をDiosnaミキサー内で低速(110rpm)で5分間混合した。次いでドウを約5~7mmの厚さにプレスした。このプレスを5回繰り返した。次いで、生地シートを巻き上げ、50gの小片に切断した。次いで生地の小片を丸め、トレイ上に置いた。次いで、生地を35~37℃、85%の湿気で35分間最終発酵させた。最終発酵後、生地を100℃で12分間蒸した。蒸したパンを室温まで冷却し、任意に1週間凍結保存した。
【0095】
消費者の嗜好試験
蒸しパンは消費者のパネルによって評価された。参加者は、全体的な品質および風味の品質の点で、他のサンプルと比較して1つのサンプルに対する自身の好みを回答するように求められた。97人の参加者が評価に参加した。結果は、Wilcoxonモデルを用いたXLSTATを使用して分析した。結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
結果は、パンの種類(p<α)のうち1種について、全体的な品質および風味品質の両方の点で、参加者の好みに有意な差があったことを示す。参加者はラクトバチルス・クラストラムLMG P29154を用いて得たサワードウで製造した蒸しパンを好んだ。
【0098】
例7:南部中国式蒸しパン
例2のサワードウを使用して、南部中国式蒸しパンを製造した。同一のレシピを用いてサワードウを含まない参考の蒸しパンを製造した。成分を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
全ての成分を低速(110rpm)で5分間混合した。次いで、生地を約5~7mmの厚さにプレスした。このプレスを10回繰り返した。次いで、生地シートを巻き上げ、20gの枕形状の小さな生地片に切断した。次いで、生地片を35~37℃、85%の湿度で35分間発酵させた。最終発酵後、生地を100℃で12分間蒸した。蒸したパンを室温まで冷却し、任意に1週間凍結保存した。
【0101】
消費者の嗜好試験
蒸しパンは消費者のパネルによって評価された。参加者は、全体的な品質および風味の品質の点で、他のサンプルと比較して1つのサンプルに対する自身の好みを回答するように求められた。118人の参加者が評価に参加した。結果は、Wilcoxonモデルを用いたXLSTATを使用して分析した。結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
結果は、パンの種類(p<α)のうちの1種について、全体的な品質および風味品質の両方の点で、参加者の好みに有意な差があったことを示す。参加者はラクトバチルス・クラストラムLMG P29154を用いて得たサワードウで製造した蒸しパンを好んだ。
図1A
図1B
図2