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特許7507695アゾ化合物又はその塩、並びにこれを含有する染料系偏光膜及び染料系偏光板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】アゾ化合物又はその塩、並びにこれを含有する染料系偏光膜及び染料系偏光板
(51)【国際特許分類】
   C09B 31/20 20060101AFI20240621BHJP
   C09B 31/30 20060101ALI20240621BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240621BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C09B31/20 CLA
C09B31/30 CSP
G02B5/22
G02B5/30
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020563115
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049405
(87)【国際公開番号】W WO2020137705
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018244988
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 由侑
(72)【発明者】
【氏名】森田 陵太郎
(72)【発明者】
【氏名】望月 典明
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-128498(JP,A)
【文献】特開平05-295282(JP,A)
【文献】特開2013-249358(JP,A)
【文献】特表2004-517189(JP,A)
【文献】特開平07-097541(JP,A)
【文献】国際公開第2006/132327(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/108502(WO,A1)
【文献】特開2004-285351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 31/20
C09B 31/30
G02B 5/22
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、
は、置換基を有してもよいナフチル基を表し、
、各々独立に、置換基を有してもよいフェニル基、又は置換基を有してもよいナフチル基を表し、
は、水素原子、ヒドロキシ基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基を表し、
mは、0~5の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
nは、1又は2を表し、
kは、0又は1を表し、
環a及び環bの水素原子は、置換基R、置換基SOMで置換されていてもよく、
、A が、それぞれ独立に、下記式(2)
【化2】
(式(2)中、
は水素原子、ヒドロキシ基、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表し、
は0~6の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
は1又は2を表す)
で表される)
で表されるアゾ化合物又はその塩。
【請求項2】
上記式(1)におけるAが、ヒドロキシル基、スルホ基を有するC1~4アルコキシル基及びスルホ基からなる群から選択される置換基を1つ以上有するナフチル基を表す、請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項3】
上記式(1)における、A が下記式(2)又は式(3)
【化3】
(式(2)中、
は水素原子、ヒドロキシ基、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表し、
は0~6の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
は0~2の整数を表す)
【化4】
(式(3)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4アルコキシ基又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表す
表される、請求項1又は2に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項4】
上記式(1)において、Aが、下記式(4)
【化5】
(式(4)中、
は1又は2を表す)
で表される、請求項1~3のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項5】
上記式(1)が、下記式(5)
【化6】
(式(5)中、
、A、A、A、M、n、kはそれぞれ上記式(1)と同じであり、
環a及び環bの水素原子は、置換基SOMで置換されていてもよい)
で表される、請求項1~4のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項6】
上記式(1)が、下記式(6)
【化7】
(式(6)中、R5、R6、R7、はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、を表し、
~mはそれぞれ独立に、0~5の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
、nはそれぞれ独立に1又は2を表し、
は0又は1を表す)
で表される請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩を少なくとも一つ含む偏光膜。
【請求項8】
偏光した光に対して最も高い透過率を示す軸の吸光度(A)と、偏光した光に対して最も低い透過率を示す軸の吸光度(A)との吸光度比Rd(=A/A)が5以上の値を示す波長の少なくとも1つが700~1500nmにある、請求項7に記載の偏光膜。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩、及び、該アゾ化合物又はその塩以外の有機染料1種類以上を含む請求項7又は8に記載の偏光膜。
【請求項10】
ニュートラルグレーを示す請求項7~9のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項11】
ポリビニルアルコール樹脂又はその誘導体を含むフィルムを基材として用いる請求項7~10のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項12】
請求項7~11のいずれかに記載の偏光膜の少なくとも一方の面に透明保護層を備える偏光板。
【請求項13】
請求項7~11のいずれかに記載の偏光膜又は請求項12に記載の偏光板を用いる表示装置。
【請求項14】
車載用又は屋外表示用である請求項13に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾ化合物又はその塩、及びそれらを含有する染料系偏光膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の透過・遮へい機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶とともに液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置に用いられる。このLCDの適用分野も、市販初期の電卓、時計等の小型機器から、ノートパソコン、ワープロ、液晶プロジェクター、液晶テレビ、カーナビゲーション、及び屋内外の情報表示装置、計測機器等へと広がりつつある。また、偏光機能を有するレンズへの適用も可能であり、視認性の向上したサングラスや、近年では、3Dテレビなどに対応する偏光メガネなどへの応用がなされている。また、表示用途だけでなく、真偽判定用デバイスにおける精度向上のための応用や、CCDやCMOSなどのイメージセンサーにおける反射光カットによるS/N比向上への応用がなされている。
【0003】
一般的な偏光板は、延伸配向したポリビニルアルコール又はその誘導体のフィルムあるいは、ポリ塩化ビニルフィルムの脱塩酸又はポリビニルアルコール系フィルムの脱水によりポリエンを生成して配向させたポリエン系のフィルムなどの偏光膜基材に、偏光素子としてヨウ素や二色性染料を染色乃至は含有させて製造される。これらのうち、偏光素子としてヨウ素を用いたヨウ素系偏光膜は、偏光性能には優れるものの、水及び熱に対して弱く、高温、高湿の状態で長時間使用する場合にはその耐久性に問題がある。一方、偏光素子として二色性染料を用いた染料系偏光膜はヨウ素系偏光膜に比べ、耐湿性及び耐熱性には優れるものの、一般に偏光性能が十分でない。
【0004】
近年では、タッチパネル向け認識光源や、防犯カメラ、センサー、偽造防止、通信機器等の用途において、可視光波長領域(可視域)向けの偏光板だけでなく、赤外光波長領域(赤外域)に用いられる偏光板が求められている。そういった要望に対して、特許文献1のようにヨウ素系偏光板をポリエン化した赤外偏光板や、特許文献2又は3のようなワイヤーグリットを応用した赤外偏光板や、特許文献4のような微粒子を含んだガラスを延伸した赤外偏光子や、特許文献5又は6のようなコレステリック液晶を用いたタイプが報告されている。特許文献1では耐久性が弱く、耐熱性や湿熱耐久性、及び耐光性が弱く実用性に至っていない。特許文献2又は3のようなワイヤグリッドタイプは、フィルムタイプにも加工が可能であると同時に、製品として安定していることから普及が進みつつある。しかしながら、表面にナノレベルの凹凸がないと光学特性を維持でないことから、表面に触れてはならず、そのため使用される用途は制限され、さらには反射防止や防呟(アンチグレア)加工をすることが難しい。特許文献4のような微粒子を含んだガラス延伸タイプは高い耐久性を有し、高い二色性を有していることから実用性に至っている。しかしながら、微粒子を含みながら延伸されたガラスであるため、素子そのものが割れやすく、もろく、かつ、従来の偏光板のような柔軟性が無いために表面加工や他の基板との貼合が難しいという問題点があった。特許文献5及び特許文献6の技術は、古くから公開されている円偏光を用いた技術ではあるが、視認する角度によって色が変わってしまうことや、基本的に、反射を利用した偏光板であるため、迷光が発生し、絶対偏光光を形成させることが難しかった。つまり、一般的なヨウ素系偏光板のように吸収型偏光素子であって、フィルムタイプで柔軟性があり、かつ、高い耐久性を有する赤外域に対応した偏光板は無かった。これは、それらで使用される二色性染料が可視域のみに吸収を有し赤外域の吸収が無いことに起因する。
【0005】
赤外域に吸収を有する色素・染料としてはジイモニウム系色素やナフタロシアニン系色素、シアニン色素などがあるが、これらの色素は耐久性が弱く、また、二色性を示すものは極めて少ない。また、アゾ系染料は、耐久性としては強いものの、赤外域に吸収を有する染料は極めて少ない。アゾ系染料で赤外域まで吸収を有する染料としては例えば、特許第4244243号公報に記載の染料がある。しかし、その二色性に関する記載はなく、実施例ではN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFとも省略)媒体などを用いており、偏光板用途として重要な、水に対する溶解性、並びに水媒体中での近赤外光の吸収を開示するに至っていない。
【0006】
特に、一般的な水溶性アゾ染料においては、水媒体中と他の媒体中ではその吸収波長が異なることが知られており、例えば特開2007-84803号 化合物(I-1)は水溶液中では406nmで極大吸収波長を示すが、ポリビニルアルコールフィルム中では440nmを示しており、媒体によって吸収波長が変わることが知られている。つまり、媒体中で溶解、又は分散された状態が示す吸収波長が、二色性を示す状態、即ち偏光機能を奏する状態で示される吸収波長とは異なることが分っている。このことから、水溶性アゾ化合物において、水中、若しくは偏光板用途として重要な親水性高分子中で赤外域まで吸収を有する染料が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US2,494,686号
【文献】特開2016-148871号公報
【文献】特開2013-24982号公報
【文献】特開2004-86100号公報
【文献】国際公開第2015/087709号
【文献】特開2013-64798号公報
【文献】特開平2-167791号公報
【文献】国際公開第2013/035560号
【文献】特開昭63-33477号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「染料化学」;細田豊著、技報堂出版株式会社、1957年、621ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的の一つは、新規なアゾ化合物を提供することにある。本発明の他の目的は、新規な二色性染料アゾ化合物及びそれを含む偏光膜を提供することにある。本発明の他の目的は、赤外域に吸収を有する水溶性二色性染料アゾ化合物、及び、それを含み赤外光に対して偏光機能を示す偏光膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、新規なアゾ化合物を見出した。さらに、該アゾ化合物を含有したフィルム中で該アゾ化合物を配向させることによって偏光板として機能しうることを新規に見出した。さらに、本発明の一態様において、赤外域に吸収を有する新規なアゾ化合物を含む偏光板が赤外光に対して機能しうることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は以下に関する。
[発明1]
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、
は、置換基を有してもよいナフチル基を表し、
、A、Aは、各々独立に、置換基を有してもよいフェニル基、又は置換基を有してもよいナフチル基を表し、
は、水素原子、ヒドロキシ基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基を表し、
mは、0~5の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
nは、1又は2を表し、
kは、0又は1を表し、
環a及び環bの水素原子は、置換基R、置換基SOMで置換されていてもよい)
で表されるアゾ化合物又はその塩。
[発明2]
上記式(1)におけるAが、ヒドロキシル基、スルホ基を有するC1~4アルコキシル基及びスルホ基からなる群から選択される置換基を1つ以上有するナフチル基を表す、発明1に記載のアゾ化合物又はその塩。
[発明3]
上記式(1)における、A、A、Aが、それぞれ独立に、下記式(2)又は式(3)
【化2】

(式(2)中、
は水素原子、ヒドロキシ基、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表し、
は0~6の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
は0~2の整数を表す)
【化3】

(式(3)中、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4アルコキシ基又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表す)
で表され、A、A、Aの少なくとも1つが式(2)で表される、発明1又は2に記載のアゾ化合物又はその塩。
[発明4]
上記式(1)において、Aが、下記式(4)
【化4】

(式(4)中、
は1又は2を表す)
で表される、発明1~3のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩。
[発明5]
上記式(1)が、下記式(5)
【化5】

(式(5)中、
、A、A、A、M、n、kはそれぞれ上記式(1)と同じであり、
環a及び環bの水素原子は、置換基SOMで置換されていてもよい)
で表される、発明1~4のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩。
[発明6]
上記式(1)が、下記式(6)
【化6】

(式(6)中、R5、R6、R7、はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、を表し、
~mはそれぞれ独立に、0~5の整数を表し、
Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、
、nはそれぞれ独立に1又は2を表し、
は0又は1を表す)
で表される発明1に記載のアゾ化合物又はその塩。
[発明7]
発明1~6のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩を少なくとも一つ含む偏光膜。
[発明8]
偏光した光に対して最も高い透過率を示す軸の吸光度(A)と、偏光した光に対して最も低い透過率を示す軸の吸光度(A)との吸光度比Rd(=A/A)が5以上の値を示す波長の少なくとも1つが700~1500nmにある、発明7に記載の偏光膜。
[発明9]
発明1~6のいずれかに記載のアゾ化合物又はその塩、及び、該アゾ化合物又はその塩以外の有機染料1種類以上を含む発明7又は8に記載の偏光膜。
[発明10]
ニュートラルグレーを示す発明7~9のいずれかに記載の偏光膜。
[発明11]
ポリビニルアルコール樹脂又はその誘導体を含むフィルムを基材として用いる発明7~10のいずれかに記載の偏光膜。
[発明12]
発明7~11のいずれかに記載の偏光膜の少なくとも一方の面に透明保護層を備える偏光板。
[発明13]
発明7~11のいずれかに記載の偏光膜又は発明12に記載の偏光板を用いる表示装置。
[発明14]
車載用又は屋外表示用である発明13に記載の表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアゾ化合物又はその塩は偏光膜用の染料として有用である。一態様において、本発明のアゾ化合物又はその塩は水溶性である。一態様において、本発明のアゾ化合物又はその塩は二色性である。一態様において、本発明の偏光膜又は偏光板は、赤外域に吸収を有し、従来の赤外域の光線向け偏光膜又は偏光板と同様な取扱いが可能である。一態様において、本発明の偏光膜又は偏光板は柔軟性がある。一態様において、本発明の偏光膜又は偏光板は物理的に安定である。一態様において、本発明の偏光膜又は偏光板は吸収型偏光板であるために迷光が発生しない。一態様において、本発明の偏光膜又は偏光板は高い耐候性(耐熱性、耐湿熱性、及び耐光性の少なくとも一つ)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、新規なアゾ化合物又はその塩に関し、さらに、該染料を用いてフィルムに染色、延伸することで配向し、異方性を有する吸収を発現させること、を目的とする。赤外域とは、一般的に700~30000nmを指すが、本発明で得られる化合物を含有した偏光膜は、近赤外線の偏光膜として機能し、近赤外線の波長とは700~1500nmの波長を指し、該波長で偏光機能を示す偏光膜となる。
【0014】
<アゾ化合物又はその塩>
本発明のアゾ化合物又はその塩は、上記式(1)で表される。
【0015】
上記式(1)中、Aは、置換基を有してもよいナフチル基を表し、A、A、Aは、各々独立に、置換基を有してもよいフェニル基、又は置換基を有してもよいナフチル基を表し、Rは、水素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~4の(C1~4)アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基を表し、mは、0~5の整数を表し、Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、nは、1又は2を表し、kは、0又は1を表し、環a及び環bの水素原子は、置換基R、置換基SOMで置換されていてもよい。
【0016】
上記Aにおける、置換基を有してもよいナフチル基の置換基としては、特に限定はないが、例えば、置換基を有してもよいC1~4脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよいC1~4アルコキシ基、スルホ基を有してもよいC1~4アルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシ基、ニトロ基、置換又は非置換のアミノ基、アミド基等が挙げられ、置換基を有してもよいC1~4アルコキシ基、スルホ基、ニトロ基、及びカルボキシ基からなる群から選択される置換基が好ましい。
【0017】
上記置換基を有してもよいC1~4脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等、直鎖の脂肪族炭化水素基、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等、分岐鎖の脂肪族炭化水素基、シクロブチル基等、環状の脂肪族炭化水素基、が挙げられる。
【0018】
上記置換基を有してもよいC1~4アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソプロポキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロブトキシ基等が挙げられる。
【0019】
上記スルホ基を有してもよいC1~4アルコキシ基としては、例えば、スルホメトキシ基、スルホエトキシ基、3-スルホプロポキシ基、4-スルホブトキシ基、3-スルホブトキシ基等が挙げられる。
【0020】
上記置換基を有してもよいアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。
【0021】
上記置換又は非置換のアミノ基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、モノフェニルアミノ基、モノナフチルアミノ基等のモノ置換アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、N-エチル-N-メチルアミノ基、N-エチル-N-フェニルアミノ基等のジ置換アミノ基が挙げられる。また、これら置換アミノ基はさらに置換基を有してもよい。
【0022】
上記置換基を有してもよいC1~4脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよいC1~4アルコキシ基における「置換基」としては、特に制限はなく、例えば、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシ基、上記置換又は非置換のアミノ基、アミド基等が挙げられる。
【0023】
上記置換基を有してもよいアリールオキシ基における「置換基」、置換アミノ基がさらに有してもよい「置換基」としては、特に制限はなく、例えば、置換基を有していてもよいC1~4脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0024】
上記Aにおける置換基を有してもよいナフチル基における置換基としては、ヒドロキシル基、スルホ基を有するC1~4アルコキシル基及びスルホ基からなる群から選択される置換基が好ましく、スルホ基又はヒドロキシル基がさらに好ましい。アゾ基の置換位置を1位とした場合、反時計まわりに8位にヒドロキシル基が置換される形態がより好ましく、さらに任意の位置にスルホ基が置換している上記式(4)で示されるナフチル基が特に好ましい。
【0025】
上記式(1)における、A、A、Aは、各々独立に、置換基を有してもよいフェニル基、又は置換基を有してもよいナフチル基を表す。置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基における置換基としては、特に制限はなく、上記置換基を有してもよいC1~4脂肪族炭化水素基が有してもよい置換基と同じでよい。後述するように、上記式(1)における、A、A、Aが、それぞれ独立に、上記式(2)又は式(3)で表され、A、A、Aの少なくとも1つが式(2)で表されることが好ましい。
【0026】
上記式(1)における、Rは、水素原子、ヒドロキシ基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基を表す。Rとしては水素原子、ヒドロキシ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。Rの置換位置は、環aのヒドロキシ基を1位とした場合、5位に置換することが好ましい。
【0027】
上記式(1)における、Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表す。金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウム、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等が挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラ-n-プロピルアンモニウムイオン、テトラ-n-ブチルアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン等が挙げられる。より具体的には、例えば、Mが水素原子又はイオンの場合はスルホン酸(-SOH)を、Mがナトリウムイオンの場合はスルホン酸ナトリウム(-SONa)を、Mがアンモニウムイオンの場合はスルホン酸アンモニウム(-SONH)を表す。
【0028】
上記式(1)における環a及び環bの水素原子は、上記置換基(R)、上記置換基(-SOM)で置換されていてもよい。
【0029】
上記式(1)における環a及び環bは、いずれか一方、あるいは両方にスルホ基が置換していることが好ましい。また、環bにヒドロキシ基が置換していることも好ましい。なかでも、環aのアゾ結合部位を1位とした場合、反時計まわりに、2位にヒドロキシ基、3位と7位にスルホ基が置換したもの、4位にスルホ基が置換したもの、2位にヒドロキシ基、4位にスルホ基が置換したもの、7位にスルホ基が置換したものが特に好ましい。
【0030】
上記式(1)における、A、A、Aが、それぞれ独立に、上記式(2)又は式(3)で表され、A、A、Aの少なくとも1つが式(2)で表されることが、広帯域な偏光素子が得られるため好ましい。
【0031】
上記式(2)中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表し、mは0~6の整数を表し、Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、nは0~2の整数を表し、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基、スルホ基を有するC1~4アルコキシ基、Mはそれぞれ上記と同じでよい。
【0032】
上記式(2)中、mは0~4の整数を表すことが好ましく、0~2の整数を表すことがさらに好ましく、0又は1を表すことが特に好ましい。Rは水素原子又はヒドロキシ基を表すことが好ましい。nは0又は1を表すことが好ましく、1を表すことがさらに好ましく、Rの置換位置は、式(1)においてA側のアゾ基を1位とすると、2位、3位、又は5位が好ましい。特に好ましくは2位又は3位が水素原子又はメトキシ基が置換するのが良く、特に好ましくは3位に置換することが好ましい。8位には水素原子、若しくは、ヒドロキシ基が置換していることが好ましく、特に好ましくはヒドロキシ基が置換していることが良い。上記式(1)中、A、Aが式(2)で示される構造を有することは、本発明のアゾ化合物が、広帯域用で、かつ高い偏光度を有する偏光膜を得るための色素となるため好ましい。具体的にはk=0の時、Aが式(2)の構造を有することが、またk=1の時、Aが式(2)の構造を有することが、特に好ましい。
【0033】
上記式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4アルコキシ基、又はスルホ基を有するC1~4アルコキシ基を表し、C1~4脂肪族炭化水素基、C1~4アルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4アルコキシ基、スルホ基を有するC1~4アルコキシ基はそれぞれ上記と同じでよい。
【0034】
上記式(1)中、A、Aが式(3)で示される構造を有するとき、R又はRが各々独立に水素原子又はC1~4アルコキシ基を表すことが、本発明のアゾ化合物が、広帯域用で、かつ高い偏光度を有する偏光膜を得るための色素となるため、好ましく、より好ましくは各々独立にメトキシ基又はエトキシ基を表し、特に好ましくはR及びRがメトキシ基を表す。具体的にはk=0でかつAが式(3)の構造を有するとき、R及びRがメトキシ基を表すがこと好ましく、k=1でかつAが式(3)の構造を有するとき、R及びRがメトキシ基を表すことが特に好ましい。
【0035】
上記式(1)が、上記式(5)で表されることが好ましい。上記式(5)中、A~A、M、n、k、環a、環bは、それぞれ上記式(1)と同じでよい。上記式(1)が上記式(5)で表されることは、さらに広帯域、かつ高偏光度を有する近赤外偏光膜が得られるため好ましい。
【0036】
上記式(1)が、上記式(6)で表されることも好ましい。上記式(6)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基を表し、m~mは、それぞれ、0~5の整数を表す。Mは、水素原子又はイオン、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、n及びnは、それぞれ独立に、1又は2を表す。kは上記式(1)のkと同じでよい。C1~4アルコキシ基、置換又は非置換のアミノ基はそれぞれ上記と同じでよい。上記式(1)が式(6)で表されることは、さらに広帯域、かつ高偏光度を有する近赤外偏光膜が得られるため好ましい。
【0037】
次に、上記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩の具体例を以下に挙げる。なお、式中のスルホ基、カルボキシ基及びヒドロキシ基は遊離酸の形態で表す。
【化7】

【化8】

【化9】
【0038】
上記式(1)、(5)及び(6)で表されるアゾ化合物又はその塩は、例えば、特許文献3及び非特許文献1に記載されるような通常のアゾ染料の製造方法に従って、ジアゾ化、カップリングを行うことにより製造することができる。
【0039】
具体的な製造方法の一例として、上記式(5)のk=0の場合の製造方法を下記する。
【0040】
アミノナフタレン類である下記式(A)をジアゾ化し、下記式(B)で示されるアミノナフタレン類又はアニリン類と一次カップリングさせ、下記式(C)で示されるモノアゾアミノ化合物を得る。このモノアゾアミノ化合物(C)をジアゾ化し、下記式(D)で示されるアミノナフタレン類又はアニリン類と二次カップリングさせ、下記式(E)で示されるジスアゾアミノ化合物を得る。このジスアゾアミノ化合物(E)をジアゾ化し、下記式(F)のナフトール類と三次カップリングさせることにより上記式(5)のアゾ化合物が得られる。
【化10】
【0041】
上記製造方法において、ジアゾ化工程は、ジアゾ成分の塩酸、硫酸などの鉱酸水溶液又はけん濁液に亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩を混合するという順法によるか、あるいはジアゾ成分の中性又は弱アルカリ性の水溶液に亜硝酸塩を加えておき、これと鉱酸を混合するという逆法によって行うことが好ましい。ジアゾ化の温度は、-10~40℃が適当である。また、アニリン類とのカップリング工程は塩酸、酢酸などの酸性水溶液と上記各ジアゾ液を混合し、温度が-10~40℃でpH2~7の酸性条件で行うことが好ましい。
【0042】
カップリングして得られた上記式(C)及び式(E)のアゾ化合物は、そのまま濾過するか、酸析や塩析により析出させ濾過して取り出すか、溶液又はけん濁液のまま次の工程へ進むこともできる。ジアゾニウム塩が難溶性で懸濁液となっている場合は濾過し、プレスケーキとして次のカップリング工程で使うこともできる。
【0043】
上記式(E)のジスアゾアミノ化合物のジアゾ化物と、上記式(F)で表されるナフトール類との三次カップリング反応は、温度が-10~40℃でpH7~10の中性からアルカリ性条件で行われることが好ましい。反応終了後、得られた式(5)のアゾ化合物又は塩を、好ましくは塩析により析出させ濾過して取り出す。また、精製が必要な場合には、塩析を繰り返すか又は有機溶媒を使用して水中からアゾ化合物を析出させればよい。精製に使用する有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等の水溶性有機溶媒が挙げられる。
【0044】
本発明に係るアゾ化合物又はその塩は、偏光膜用の染料として有用である。本発明に係るアゾ化合物又はその塩によれば、近赤外域に偏光性能を有し、耐湿性・耐熱性・耐光性を有する高性能な染料系近赤外偏光板を製造することがでる。また、可視域に偏光性能を有する染料を併用することにより、これまでの可視域だけでなく、近赤外域まで制御できるニュートラルグレーの高性能な染料系偏光板を実現することができる。よって、本発明に係るアゾ化合物又はその塩は、高温高湿条件下で使用される車載用又は屋外表示用のニュートラルグレー偏光板の作製や、近赤外域の制御が必要な各種センサー向けに好適である。
【0045】
<染料系偏光膜>
偏光機能としては、一般的に透過率の差、偏光度、若しくは異なる軸における光の吸収の比(吸光度の比)から算出される二色比で示されることがある。本願での偏光機能を有することの一つの指標としては、偏光度を有することが挙げられるが、本願の好ましい一つの形態として、偏光入射時の透過率において、偏光した光に対して最も高い透過率を示す軸の吸光度と、偏光した光に対して最も低い透過率を示す軸の吸光度との、それら吸光度比において、吸光度比が5以上の値を示す波長の少なくとも1つが700~1500nmにある偏光膜が挙げられる。その吸光度比は一般的に二色比と呼ばれるが、二色比が5以上を有することによって、一般的な吸収異方性、即ち偏光機能を有することが示される。二色比は高い方が好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上が良い。二色比が5より低いと、確かに吸収異方性は示されているものの、その吸収異方性、即ち偏光機能としては使用用途が著しく少ない。また、二色比が最も高い値を示す波長が700~1500nmであることがより好ましいが、必ずしもその限りではなく、式(1)の化合物を用いることで700~1500nmに二色比として5以上の吸収異方性、即ち偏光機能を有することが本願の特徴であり、またより高い二色比10以上の高い値を700~1500nmに有する偏光膜が得られることが、これまでにない特徴である。具体的には、単体透過率で30%とすると二色比5では偏光度が88.2%、すなわち、約90%の偏光度を示し、二色比10で偏光度は98.3%、すなわち、約99%の偏光度を示すことを意味する。
【0046】
本発明の染料系偏光膜は、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩を少なくとも含む二色性色素と、偏光膜基材とを含む。本発明の染料系偏光膜は、近赤外偏光膜としての機能を有しながら可視域でも機能するカラー偏光膜とすることも可能である。特に、可視域はニュートラルグレーの色相を有する偏光膜を作製しうる。ここで、「ニュートラルグレー」は、2枚の偏光膜をその配向方向が互いに直交するように重ね合わせた状態で、可視域及び近赤外域における特定波長の光漏れ(色漏れ)が少ないことを意味する。具体的には、特に色相がニュートラルグレーになるためには2枚の偏光膜をその配向方向が互いに直交するように重ね合わせた状態で、460nm、550nm、610nmの各吸収波長において、各波長独立に、好ましくは同時に透過率が3%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下であることが良く、その時、近赤外域の波長、例えば850nmや950nmにおいて、透過率が3%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下であることが良い。460nm、550nm、610nmの各吸収波長の透過率を制御することは、視感度に影響が強い波長であり、各青色、緑色、赤色の感度が強い波長であるため、ぞれぞれの波長の透過率を制御することがニュートラルグレーにするには必要であり、同時に赤外域の透過率もほぼ同等程度の透過率で制御できることが好ましい。
【0047】
本発明の染料系偏光膜は、二色性色素として、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩を単独又は複数含み、必要に応じて、該アゾ化合物又はその塩以外の他の有機染料を1種以上さらに含むことができる。併用される他の有機染料は、特に制限はないが、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩の吸収波長域と異なる波長域に二色性を有する染料であって、その二色性が高いものであることが好ましい。併用する有機染料としては、例えばシー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.イエロー28、シー.アイ.ダイレクト.イエロー44、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ26、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ39、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ71、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ107、シー.アイ.ダイレクト.レッド2、シー.アイ.ダイレクト.レッド31、シー.アイ.ダイレクト.レッド79、シー.アイ.ダイレクト.レッド81、シー.アイ.ダイレクト.レッド247、シー.アイ.ダイレクト.ブルー69、シー.アイ.ダイレクト.ブルー78、シー.アイ.ダイレクト.ブルー247、シー.アイ.ダイレクト.グリ-ン80、及びシー.アイ.ダイレクト.グリーン59、などの染料等が代表例として挙げられる。これらの色素は、遊離酸として、あるいはアルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩、又はアミン類の塩として染料系偏光膜に含有される。
【0048】
式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩と他の有機染料を併用する場合、目的とする染料系偏光膜の可視域の色相がニュートラルグレーの偏光膜、液晶プロジェクター用カラー偏光膜、その他のカラー偏光膜であるかよって、それぞれ配合される他の有機染料の種類は異なる。他の有機染料の配合割合は特に限定されるものではないが、式(1)のアゾ化合物又はその塩の質量を基準として、1種又は複数種の有機染料の合計が0.1~10質量部の範囲であることが好ましい。
【0049】
近赤外域に偏光機能を有するニュートラルグレーの偏光膜の場合、得られた偏光膜が可視域における色漏れが少なくなるように、式(1)の色素とともに併用される他の有機染料の種類及びその配合割合の調整が行われる。
【0050】
本発明の近赤外染料系偏光膜又は近赤外域で偏光機能を有するニュートラルグレーの染料系偏光膜は、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩を少なくとも含み、必要に応じて他の有機染料をさらに含む二色性色素を、偏光膜基材(例えば、高分子フィルム)に公知の方法で含有させ配向させる、液晶と共に混合させる、又は塗工方法により偏光膜基材に配向させることにより製造することができる。
【0051】
偏光膜基材は、高分子フィルムであり、好ましくは親水性高分子を製膜して得られるフィルムであり、より好ましくはポリビニルアルコール樹脂又はその誘導体からなるフィルムである。偏光膜基材に用いることができる親水性高分子としては、特に限定するものでないが、水との親和性が高いフィルムを指す。例えば、水に媒体として浸漬若しくは接触させた時、水を含む、若しくは、膨潤するフィルムを指す。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂、アミロース系樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸塩系樹脂、及び、それら誘導体などを用いることができる。それら樹脂よりなるフィルムに赤外域に吸収を有する二色性色素を含有させ、延伸することによって配向させ、偏光板を得る。二色性色素を含有させ、架橋性させることなどを考慮するとポリビニルアルコール系樹脂よりなるフィルムが最も好ましい。ポリビニルアルコール又はその誘導体、及びこれらのいずれかをエチレン、プロピレン等のオレフィンや、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸などで変性したもの等が挙げられる。偏光膜基材としては、ポリビニルアルコール又はその誘導体からなるフィルムが、染料の吸着性及び配向性の観点から好適に用いられる。偏光膜基材の厚さは通常10~100μm、好ましくは25~80μm程度である。
【0052】
偏光膜基材が高分子フィルムである場合、式(1)のアゾ化合物又はその塩を少なくとも含む二色性色素を含有させるにあたっては、通常、高分子フィルムを染色する方法を採用することができる。染色は、例えば次のように行うことができる。まず、本発明のアゾ化合物又はその塩、及び必要によりこれ以外の有機染料を水に溶解して染浴を調製する。染浴中の染料濃度は特に制限されないが、通常は0.001~10質量%程度の範囲から選択される。また、必要により染色助剤を用いてもよく、例えば、芒硝を0.1~10質量%程度の濃度で用いるのが好適である。このようにして調製した染浴に高分子フィルムを例えば1~10分間浸漬し、染色を行う。染色温度は、好ましくは40~80℃程度である。
【0053】
式(1)のアゾ化合物又はその塩を含む二色性色素の配向は、染色された高分子フィルムを延伸することによって行われる。延伸する方法としては、例えば湿式法、乾式法など、任意の公知の方法を用いることができる。高分子フィルムの延伸は、場合により、染色の前に行ってもよい。この場合には、染色の時点で染料の配向が行われる。染料を含有及び配向させた高分子フィルムは、必要に応じて公知の方法によりホウ酸処理などの後処理が施される。このような後処理は、染料系偏光膜の光線透過率及び偏光度を向上させる目的で行われる。ホウ酸処理の条件は、用いる高分子フィルムの種類や用いる染料の種類によって異なるが、一般的にはホウ酸水溶液のホウ酸濃度を0.1~10質量%、好ましくは0.5~7質量%の範囲とし、特に好ましくは1~5質量%とし、処理は例えば30~80℃、好ましくは40~75℃の温度範囲で、例えば0.5~10分間浸漬して延伸される。さらに必要に応じて、カチオン系高分子化合物を含む水溶液で、フィックス処理を併せて行ってもよい。尚、本発明の色素を用いる偏光膜基材は延伸工程における浸漬時の水溶液、若しくは延伸前の工程、若しくは/さらには延伸後の工程においてpH4~9で延伸することで本発明の偏光膜を得ることが可能であるが、延伸工程や延伸後の工程においてpHを6~9で処理を行うことで、より広帯域、かつ長波長の近赤外域の偏光膜が得られるため好ましい。処理時の水溶液のpH、特にホウ酸水溶液のpHを6~9に調整する方法としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硼砂などの塩基性物質を添加して処理することが好ましい。高分子フィルム、特にポリビニルアルコール又はその誘導体からなるフィルムを用いた場合には、硼砂を用いて延伸することが好ましい形態の一つである。硼砂を用いる場合には、ホウ酸と硼砂を併用して用いてもよい。処理工程のpHは6~9であれば本願色素を用いた偏光膜の偏光機能を有する波長域の広帯域化が可能であるが、より好ましくは6.5~8.5、特に好ましくは6.5~8.0が一つの好ましい形態として挙げられる。
【0054】
得られた染料系偏光膜は、保護膜を付けることにより偏光板として使用され得、必要に応じて保護層又はAR(反射防止)層及び支持体等をさらに設けることができる。染料系偏光膜の用途としては、例えば、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、カーナビゲーション、屋内外の計測器や表示器等、及びレンズやメガネ、真偽判定用デバイス、CCDやCMOSなどのイメージセンサー用途等が挙げられる。染料系偏光膜は、近赤外域においても公知のヨウ素を用いた偏光膜にも匹敵する高い偏光性能を有し、かつ、耐久性にも優れる。このため、高い偏光性能と耐久性を必要とする各種液晶表示体用、液晶プロジェクター用、車載用、及び屋外表示用(例えば、工業計器類の表示用途やウェアラブル用途)、高信頼性が必要なセキュリティデバイス等に特に好適である。
【0055】
<染料系偏光板>
染料系偏光板は、染料系偏光膜の、少なくとも一方の面に透明保護膜を貼合することにより得ることができる。染料系偏光板は、上記の染料系偏光膜を備えるため、優れた偏光性能及び耐湿性・耐熱性・耐光性を有する。透明保護膜を形成する材料としては、光学的透明性及び機械的強度に優れる材料が好ましく、例えば、セルロースアセテート系フィルムやアクリル系フィルムのほか、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン系共重合体等のフッ素系フィルム、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂又はポリアミド系樹脂からなるフィルム等が用いられる。透明保護膜は、好ましくはトリアセチルセルロ-ス(TAC)フィルム又はシクロオレフィン系フィルムである。保護膜の厚さは通常10~200μmが良く、好ましくは20~100μmであることが良い。
【0056】
偏光膜と保護膜を貼り合わせるのに用い得る接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタンエマルジョン系接着剤、アクリル系接着剤、及びポリオールとイソシアネ-トよりなる接着剤等が挙げられ、ポリビニルアルコ-ル系接着剤が好適である。
【0057】
染料系偏光板の表面には、さらに透明な保護層を設けてもよい。さらなる透明保護層としては、例えばアクリル系やポリシロキサン系のハードコート層やウレタン系の保護層等が挙げられる。また、単板光透過率をより向上させるために、この保護層の上にAR層を設けることが好ましい。AR層は、例えば二酸化珪素、酸化チタン等の物質を蒸着又はスパッタリング処理によって形成することができ、またフッ素系物質を薄く塗布することにより形成することができる。染料系偏光板は、表面に位相差板をさらに貼付し、円偏光板や楕円偏光板として使用することもできる。
【0058】
染料系偏光板は、用途に応じて上記の近赤外偏光板、又は近赤外域で偏光機能を有するニュートラル偏光板のいずれであってもよい。本発明のニュートラルグレー偏光板は、可視域及び近赤外域において直交位の色漏れが少なく、偏光性能に優れ、さらに高温高湿状態でも変色や偏光性能の低下が防止され、可視域における直交位での光漏れが少ないという特徴を有し、車載用又は屋外表示用、高信頼性が必要なセキュリティデバイス等に特に好適である。
【0059】
車載用又は屋外表示用の近赤外偏光板、又は近赤外域で偏光機能を有するニュートラルグレー偏光板は、偏光膜と保護膜からなる偏光板に、単板光透過率をより向上させるために、AR層を設け、AR層付き偏光板としたものが好ましく、さらに透明樹脂などの支持体を設けたAR層及び支持体付きの偏光板がより好ましい。AR層は、偏光板の片面又は両面に設けることができる。支持体は、偏光板の片面に設けることが好ましく、偏光板上にAR層を介して設けられていても直接設けられていてもよい。支持体は偏光板を貼付するための平面部を有しているものが好ましく、また光学用途であるため、透明基板であること好ましい。透明基板としては、大きく分けて無機基板と有機基板があり、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、水晶基板、サファイヤ基板、及びスピネル基板等の無機基板、並びにアクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びシクロオレフィンポリマー等の有機基板が挙げられ、有機基板が好ましい。透明基板の厚さや大きさは所望のサイズでよい。
【0060】
近赤外偏光板は、偏光性能に優れ、高温高湿状態でも変色や偏光性能の低下を起こさないため、液晶プロジェクター用、車載用、屋外表示用、高信頼性が必要なセキュリティデバイス用に好適である。これらの偏光板に使用される偏光膜も、前記の本発明の染料系偏光膜の製造法の箇所で記載した方法で製造され、さらに保護膜を付け偏光板とし、必要に応じて保護層又はAR層及び支持体等を設けて用いられる。
【0061】
車載用又は屋外表示用の支持体付近赤外偏光板、又は近赤外域で偏光機能を有するニュートラル偏光板やカラー偏光板は、例えば、支持体平面部に透明な接着(粘着)剤を塗布し、次いでこの塗布面に染料系偏光板を貼付することにより製造することができる。また、染料系偏光板に透明な接着(粘着)剤を塗布し、ついでこの塗布面に支持体を貼付してもよい。ここで使用する接着(粘着)剤は、例えばアクリル酸エステル系のものが好ましい。なお、この染料系偏光板を楕円偏光板として使用する場合、位相差板側を支持体側に貼付するのが通常であるが、偏光板側を透明基板に貼付してもよい。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。例中にある%及び部は、特にことわらないかぎり質量基準である。
【0063】
[実施例1]
(工程1)
4-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸22.3部を水500部に加え25%水酸化ナトリウムを用いて溶解させた後、35%塩酸を加えpH0.2とした。得られた液に40%亜硝酸ナトリウム水溶液17.3部を加えジアゾ液を調製した。一方、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸22.3部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(28)で示されるモノアゾ化合物のウエットケーキ122部を得た。
【化11】
【0064】
(工程2)
得られたモノアゾ化合物(28)のウエットケーキ122部を水300部に加えて攪拌し懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を13.8部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸33.4部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸17.8部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(29)で示されるジスアゾ化合物のウエットケーキ129部を得た。
【化12】
【0065】
(工程3)
得られたジスアゾ化合物(29)のウエットケーキ129部を水300部に加えて攪拌し懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を9.7部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸23.3部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、1,5-ジヒドロキシナフタレン-2,6-ジスルホン酸10.0部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH6.5~8.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(7)で示されるアゾ化合物28.6部を得た。
【化13】
【0066】
<偏光膜及び偏光板の作製>
ケン化度99%以上の平均重合度2400のポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製 VF-PS#7500)を45℃の温水に3分間浸漬し、膨潤処理を適用し延伸倍率を1.30倍とした。水を1500質量部、無水芒硝を1.5質量部、アゾ化合物(7)0.30質量部を含有した45℃の染色液に、膨潤したフィルムを10分間浸漬して、フィルムにアゾ化合物を含有させた。得られたフィルムをホウ酸(Societa Chimica Larderello s.p.a.社製)20g/lを含有した40℃の水溶液に1分間浸漬した。浸漬後のフィルムを、5.0倍に延伸しながら、ホウ酸30.0g/l、を含有した50℃の水溶液中で5分間の延伸処理を行った。得られたフィルムを、その緊張状態を保ちつつ、25℃の水に20秒間浸漬させることにより洗浄処理した。洗浄後のフィルムを70℃で9分間乾燥させ、偏光膜を得た。この偏光膜に対して、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製 NH-26)を4%で水に溶解したものを接着剤として用いて、アルカリ処理したトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製 TD-80)をラミネートして偏光板を得た。得られた偏光板は上記偏光膜が有していた光学性能、特に透過率、偏光度等を維持していた。この偏光板を実施例1の測定試料とした。
【0067】
[実施例2]
(工程1)
7-アミノ-1,3-ナフタレンジスルホン酸30.3部を水500部に加え25%水酸化ナトリウムを用いて溶解させた後、35%塩酸を加えpH0.2とした。得られた液に40%亜硝酸ナトリウム水溶液17.3部を加えジアゾ液を調製した。一方、5-アミノ-1-ナフトール-3-スルホン酸23.9部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(30)で示されるモノアゾ化合物のウエットケーキ129部を得た。
【化14】
【0068】
(工程2)
得られたモノアゾ化合物(30)のウエットケーキ129部を水300部に加えて攪拌し懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を12.1部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸29.2部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸15.6部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(31)で示されるジスアゾ化合物のウエットケーキ110部を得た。
【化15】
【0069】
(工程3)
得られたジスアゾ化合物(31)のウエットケーキ110部を水300部に加えて攪拌し懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を7.3部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸17.5部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、5-アミノ-1-ナフトール-3-スルホン酸10.0部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(32)で示されるトリスアゾ化合物のウエットケーキ72.5部を得た。
【化16】
【0070】
(工程4)
得られたトリスアゾ化合物(32)のウエットケーキ72.5部を水300部に加えて攪拌し懸濁させ、35%塩酸を用いて前記懸濁液のpH4.0~4.5を保って70~75℃で3日間攪拌した。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(9)で示されるアゾ化合物8.7部を得た。
【化17】
【0071】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(9)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、実施例2の測定試料とした。
【0072】
[実施例3]
(工程1)
4-アミノ-5-ヒドロキシ-2,7-ナフタレンジスルホン酸31.9部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウムを用いて溶解させた後、4-トルエンスルホニルクロライド19.1部をpH10.5~11.0に保って滴下し、攪拌して反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(33)で示される化合物のウエットケーキ142部を得た。
【化18】
【0073】
(工程2)
得られた化合物(33)のウエットケーキ142部を水300部に加えて攪拌し、懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を15.5部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸37.5部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸20.1部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(34)で示されるモノアゾ化合物のウエットケーキ148部を得た。
【化19】
【0074】
(工程3)
得られたモノアゾ化合物(34)のウエットケーキ148部を水300部に加えて攪拌し、懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を10.9部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸26.3部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸14.0部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(35)で示されるジスアゾ化合物のウエットケーキ138部を得た。
【化20】
【0075】
(工程4)
得られたジスアゾ化合物(35)のウエットケーキ138部を水300部に加えて攪拌し懸濁させ25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を7.6部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸18.4部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、1,5-ジヒドロキシナフタレン-2,6-ジスルホン酸14.1部を水150部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH6.5~8.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(36)で示されるトリスアゾ化合物のウエットケーキ74.6部を得た。
【化21】
【0076】
(工程5)
得られたトリスアゾ化合物(36)のウエットケーキ74.6部を水300部に加えて攪拌し懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液のpH10.0~10.5を保って50~55℃で2日間攪拌した。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(11)で示されるアゾ化合物9.0部を得た。
【化22】
【0077】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(11)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、実施例3の測定試料とした。
【0078】
[実施例4]
4-アミノ-5-ヒドロキシ-2,7-ナフタレンジスルホン酸に代えて1-アミノ-8-ナフトール-4-スルホン酸23.9部を用いた点以外は実施例3と同様にして下記式(13)で示されるアゾ化合物8.5部を得た。
【化23】
【0079】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(13)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、実施例4の測定試料とした。
【0080】
[実施例5]
(工程1)
実施例3で得られたジスアゾ化合物(35)のウエットケーキ138部を水300部に加えて攪拌し、懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液のpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を7.6部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸18.4部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸9.8部を水150部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH4.5~6.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(37)で示されるトリスアゾ化合物のウエットケーキ86.3部を得た。
【化24】
【0081】
(工程2)
得られたトリスアゾ化合物(37)のウエットケーキ86.3部を水300部に加えて攪拌し懸濁させ、25%水酸化ナトリウムを用いてpH10.0~10.5を保って55~60℃で3日間攪拌した。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(14)で示されるアゾ化合物5.0部を得た。
【化25】
【0082】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(14)を用い、かつ、延伸処理において、ホウ酸15.0g/l、硼砂15.0g/lを含有した50℃の水溶液中で5分間の延伸処理を適用した以外は同様にして偏光板を作製し、実施例5の測定試料とした。
【0083】
[実施例6]
モノアゾ合成工程において、8-アミノナフタレン-2-スルホン酸に代えて2,5-ジメトキシアニリン13.8部を用いた点以外は実施例3と同様にして下記式(15)で示されるアゾ化合物8.5部を得た。
【化26】
【0084】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(15)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、実施例6の測定試料とした。
【0085】
[実施例7]
(工程1)
実施例5で得られたトリスアゾ化合物(37)のウエットケーキ86.3部を水300部に加えて攪拌し、懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液をpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を7.6部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸18.4部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、1,5-ジヒドロキシナフタレン-2,6-ジスルホン酸7.0部を水180部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH6.5~8.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して式(38)で示されるテトラキスアゾ化合物のウエットケーキ27.6部を得た。
【化27】
【0086】
(工程2)
得られたテトラキスアゾ化合物(38)のウエットケーキ27.6部を水200部に加えて攪拌し懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いて前記懸濁液のpH10.0~10.5を保って50~55℃で2日間攪拌した。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(27)で示されるアゾ化合物3.0部を得た。
【化28】
【0087】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(27)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、実施例7の測定試料とした。
【0088】
[比較例1]
4-((4-アミノフェニル)ジアゼニル)ベンゼンスルホン酸14部を水200部に加えて攪拌し、懸濁させた。25%水酸化ナトリウムを用いてpH9.0とし、そこに40%亜硝酸ナトリウム水溶液を9.1部加えた。得られた懸濁液を水100部と35%塩酸20部の混合液に滴下し、ジアゾ液を調製した。一方、1,5-ジヒドロキシナフタレン16.0部を水200部に加え、25%水酸化ナトリウム水溶液で弱アルカリ性として溶解した。この液に、先に得られたジアゾ液をpH6.5~8.0に保って滴下し、攪拌してカップリング反応を完結させた。その後、塩化ナトリウムで塩析させた後、濾過して乾燥することにより式(39)で示されるアゾ化合物10.0部を得た。
【化29】
【0089】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、上記化合物(39)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、比較例1の測定試料とした。
【0090】
[比較例2]
【0091】
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、下記化合物(40)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、比較例2の測定試料とした。
【化30】
【0092】
[比較例3]
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、特開2003-64276号公報 実施例2に記載の、下記化合物(41)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、比較例3の測定試料とした。
【化31】
【0093】
[比較例4]
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、特公昭60-168743号公報 実施例2に記載の、下記化合物(42)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、比較例4の測定試料とした。
【化32】
【0094】
[比較例5]
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、特開2001-56412号公報 化合物例No.1に記載の、下記化合物(43)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、比較例5の測定試料とした。
【化33】
【0095】
[比較例6]
<偏光膜及び偏光板の作製>
実施例1における偏光膜の作製で用いた化合物(7)の代わりに、特開平11-269136号公報に記載の、下記化合物(44)を用いた以外は同様にして偏光板を作製し、比較例6の測定試料とした。しかしながら、下記化合物(44)は水に溶解しないばかりか、ポリビニルアルコールフィルムにも含有せず、即ち、偏光膜として機能しなかった。
【化34】
【0096】
(偏光板の極大吸収波長、その透過率及び偏光度の測定)
実施例1~7、比較例1~6で得られた偏光板について、極大吸収波長、その波長の単体透過率(%)、及びその偏光度(%)を測定した。偏光板の極大吸収波長(nm, λmax)の測定及び偏光度の算出において、偏光入射時の平行透過率(Ky,%)、並びに直交透過率(Kz,%)は分光光度計(日立製作所製 U-4100)を用いて測定した。ここで平行透過率(Ky)とは、測定時に用いた絶対偏光子の吸収軸と偏光板の吸収軸が平行時の透過率であり、直交透過率(Kz)とは、測定時に用いた絶対偏光子の吸収軸と偏光板の吸収軸が、直交時の透過率を示す。各波長の平行透過率及び直交透過率は、380~1200nmにおいて、5nm間隔で測定した。それぞれ測定した値を用いて、下記式(i)より各波長の単体透過率を算出し、下記式(ii)より各波長の偏光度を算出し、380~1200nmにおいて最も高い時の偏光度と、その極大吸収波長(λmax)、及び単体透過率を得た。また、Ky、及びKzを吸光度へ換算し(A=log(1/(Ky/100))、A=log(1/(Kz/100))、そこから二色比Rd(=A/A=log(Kz/100)/log(Ky/100))を算出した。また、その二色比が5以上の値を示す波長域、及び、二色比が10以上の値を示す波長域を確認した。結果を表1に示す。尚、比較例6の測定試料は偏光機能を示さなかったので、表1には記載はしていない。
【0097】
透過率(%)=(Ky+Kz)/2 (i)
偏光度(%)=[(Ky-Kz)/(Ky+Kz)]×100 (ii)
【0098】
【表1】
【0099】
表1の通り、実施例1~7で得られた偏光板は、極大吸収波長(λmax)において、高い偏光性能を有し、かつ、いずれも近赤外域に、二色比(Rd)5以上の吸収異方性、即ち偏光機能を有していた。また、850nm以上でも10以上の二色比を発現しており、すなわち広帯域で高い偏光度を有していた。
【0100】
一方、比較例1~5では二色比が5以上の値を示す帯域が全て700nm未満の波長域に限られた。比較例1~3及び5の化合物は特開平11-269136号公報で記載されているようにジアゼニル基のp-位に少なくとも1個の-OH基が付いているにもかかわらず、700nm以上で偏光機能をほとんど有していないことが分かった。特に、比較例2では二色比が5以上の波長域がないことから偏光機能が著しく低いことが分かった。さらに、特開平11-269136号公報 構造式(III)に示される色素に近い比較例1はλmaxが540nmであり、構造式(X)に示される色素に類似する化合物を用いた比較例2はλmaxが590nmであり、いずれも偏光板の状態では、近赤外域に極大吸収波長をもたないことが分かった。
【0101】
[ニュートラルグレー偏光板の作製例]
染色液として、実施例3で得られた化合物(11)を0.2%、シー・アイ・ダイレクト・オレンジ39を0.07%、シー・アイ・ダイレクト・レッド81を0.02%、及び芒硝0.1%の濃度とした45℃の水溶液を用いた点以外は、実施例1の偏光膜の作製方法と同様にして偏光膜を作製した。得られた偏光膜は380~1200nmにおける単板平均透過率が38%、直交位の平均光透過率は0.02%であり、広帯域にわたり二色比が10以上の高い偏光度を有していた。さらに、平行位及び直交位ともに可視域における色相においてニュートラルグレーの色相を呈していた。この偏光膜の両面に、1枚ずつのトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム;富士フィルム社製;商品名TD-80U)をポリビニルアルコール水溶液の接着剤を介してラミネートした。次いで、片方のTACフィルム上に、粘着剤を用いてAR支持体(日油社製;リアルックX4010)を積層させて、AR支持体付きのニュートラルグレーの染料系偏光板を得た。得られた偏光板は、偏光膜と同様に、ニュートラルグレーの色相を呈し、かつ、可視域から近赤外域まで高い偏光度を有していた。得られた偏光板は、高温且つ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示し、また、長時間暴露に対する耐光性も優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩を用いて得られた偏光膜及び偏光板は、赤外域、又は可視域~赤外域にかけて高い偏光度を有することができていた。得られた偏光板は、高温且つ高湿の状態でも長時間にわたる耐久性を示し、また、長時間暴露に対する耐光性も優れ、極めて有用である。よって式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩を用いて得られた偏光板は高い偏光度が要求されるセンサー、レンズ、スイッチング素子、アイソレータ、カメラ、及び屋内外の計測器やドライバーセンシングモジュール等の車載器等に適用することができる。また、赤外線を感知する機器、例えば赤外線パネル、空間赤外線タッチモジュールなどに好適に用いることができ、さらに従来のディスプレイ、例えば電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、偏光レンズ、偏光メガネ、カーナビゲーション等と併用することにより、可視の表示だけでなく、赤外光を活用したモジュールを提供することが可能となる。