IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタルの特許一覧

特許7507697肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法
<>
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図1
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図2
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図3
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図4
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図5
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図6
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図7
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図8A
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図8B
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図9
  • 特許-肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組換えアデノ随伴ウイルス産物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240621BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240621BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240621BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20240621BHJP
   C12N 9/64 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/57
A61K48/00
A61P21/00
A61K35/76
C12N15/35
C12N9/64 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020572953
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 US2019039893
(87)【国際公開番号】W WO2020006458
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】62/865,081
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/691,934
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】サヘンク, ザリフェ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515831(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180976(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/087395(WO,A1)
【文献】Circulation,2013年,Vol.128,p.1094-1104
【文献】Expert Opin Drug Deliv.,2014年,Vol.11,p.345-364
【文献】Cell,1995年,Vol.81,p.27-40
【文献】Human Molecular Genetics,2013年,Vol.22,p.4929-4937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 7/00
A61K 48/00
A61P 21/00
A61K 35/76
A61K 31/7088
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のポリヌクレオチド配列の1~3977のヌクレオチドを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項2】
前記rAAVが、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74、およびAAV rh.10カプシドタンパク質のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載のrAAV。
【請求項3】
前記rAAVがrh.74カプシドタンパク質またはAAV9カプシドタンパク質を含む、請求項に記載のrAAV。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のrAAVを含む組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の治療有効量のrAAV又は請求項に記載の組成物を含む、肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組成物。
【請求項6】
前記組成物による前記治療によって、
(a)筋線維径の増加、
(b)小分葉筋線維数の減少、
(c)内核を有する線維数の減少、
(d)筋内膜結合組織含有量の減少、
(e)筋萎縮の補正、及び
(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記筋線維が、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物による前記治療によって、
(a)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm当たりの総筋線維数の減少
(b)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加
(c)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm当たりのSTO筋線維数の減少
(d)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加
(e)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm当たりのFTO筋線維数の減少
(f)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加
(g)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm当たりのFTG筋線維数の減少及び
(h)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる、請求項5~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、筋肉内注射又は静脈内注射による投与のために製剤化される、請求項5~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物による治療後、前記対象の前記心筋が、前記rAAVから発現される最小又は低カルパイン3タンパク質を示す、請求項5~8のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年6月29日出願の米国仮特許出願第62/691,934号、及び2019年6月21日出願の米国仮特許出願第62/865,081号に対する優先権を主張するものであり、その両方は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書では、肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための産物及び方法が提供される。本方法では、組換えアデノ随伴ウイルスは、カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードするDNAを送達する。
【0003】
配列表の参照による組み込み
本出願は、開示の別の部分として、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、コンピュータ可読形態の配列表(ファイル名:52684P2_SeqListing.txt;23,755バイト-2019年6月26日に作成されたASCIIテキストファイル)を含む。
【背景技術】
【0004】
筋ジストロフィー(MD)は遺伝性疾患の一群である。この群は、運動を制御する骨格筋の進行性の進行性衰弱及び変性を特徴とする。乳児期又は小児期に発症するMDもあり、中年期以降まで出現しないMDもあり得る。筋力低下の分布及び程度(一部のMDは心筋にも影響する)、発症年齢、進行率、遺伝パターンの点で疾患は異なる。
【0005】
MDの一つのグループは、MDの肢帯群(LGMD)である。LGMDはまれな病態であり、発症年齢、筋力低下の部位、心臓及び呼吸の関与、進行率及び重症度に関して、異なる人で異なる症状を示す。LGMDは小児期、青年期、若年成人期、又はそれ以降に発症することがある。性別は両方とも等しく影響を受ける。LGMDは肩及び腰帯の衰弱を引き起こし、上脚及び上腕の近隣の筋肉もときに時間の経過とともに衰弱する。脚の衰弱は腕の衰弱の前に現れることがよくある。顔面筋は通常、影響を受けない。病状が進行するにつれて、歩行に問題が生じ、時間の経過とともに車椅子の使用が必要になることがある。肩及び腕の筋肉が関係すると、腕を頭の上に上げたり、物を持ち上げるのが困難になる可能性がある。LGMDのいくつかの種類によっては、心臓と呼吸筋が関与している場合がある。
【0006】
LGMDには少なくとも19の病型があり、これらの病型は関連する遺伝的欠陥によって分類される。
タイプ 遺伝形式 遺伝子または染色体
LGMD1A 常染色体優性 ミオチリン遺伝子
LGMD1B 常染色体優性 ラミンA/C遺伝子
LGMD1C 常染色体優性 カベオリン遺伝子
LGMD1D 常染色体優性 染色体7
LGMD1E 常染色体優性 デスミン遺伝子
LGMD1F 常染色体優性 染色体7
LGMD1G 常染色体優性 染色体4
LGMD2A 常染色体劣性 カルパイン-3遺伝子
LGMD2B 常染色体劣性 ジスフェリン遺伝子
LGMD2C 常染色体劣性 遺伝ガンマ-サルコグリカン遺伝子
LGMD2D 常染色体劣性 アルファ-サルコグリカン遺伝子
LGMD2E 常染色体劣性 ベータ-サルコグリカン遺伝子
LGMD2F 常染色体劣性 デルタ-サルコグリカン遺伝子
LGMD2G 常染色体劣性 テレトニン遺伝子
LGMD2H 常染色体劣性 TRIM32
LGMD2I 常染色体劣性 FKRP遺伝子
LGMD2J 常染色体劣性 Titin遺伝子
LGMD2K 常染色体劣性 POMT1遺伝子
LGMD2L 常染色体劣性 フクチン遺伝子
【0007】
LGMDの特殊検査は、現在、全国的な診断計画であるNational Commissioning Group(NCG)を通じて実施されている。
【0008】
カルパイン3遺伝子(CAPN3)の変異は、世界中で最も一般的な肢帯型筋ジストロフィーの一つであるLGMD2Aを引き起こす。現時点では、この遺伝性疾患に対する治療法はない。これまでの研究では、CAPN3欠損マウスの病理学的徴候を補正するためのCAPN3遺伝子導入の可能性が示されている。しかし、デスミンプロモーターによって駆動されるCAPN3の発現は、心毒性をもたらした[Bartoli等、Mol.Ther.、13:250-259(2006)]。追跡調査試験では、遺伝子の骨格筋発現を検討した[Roudaut等、Circulation,128:1094-1104(2013)]。
【0009】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは長さが約4.7kbであり、そのうち二つの145ヌクレオチド逆位末端配列(ITR)を含む。AAVには複数の血清型がある。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は既知である。例えば、AAV-1の全ゲノムは、GenBank寄託番号NC_002077に提供され;AAV-2の全ゲノムは、GenBank寄託番号NC_001401及びSrivastava等、J.Virol.、45:555-564(1983)に提供され;AAV-3の全ゲノムはGenBank寄託番号NC_1829に提供され;AAV-4の全ゲノムは、GenBank寄託番号NC_001829に提供され;AAV-5ゲノムは、GenBank寄託番号AF085716に提供され;AAV-6の全ゲノムは、GenBank寄託番号NC_00 1862に提供され、少なくとも一部のAAV-7及びAAV-8ゲノムは、それぞれ、GenBank寄託番号AX753246及びAX753249に提供され;AAV-9ゲノムは、Gao等、J.Virol.、78:6381-6388(2004)に提供され;AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.、13(1):67-76(2006)に提供され;並びにAAV-11ゲノムは、Virology、330(2):375-383(2004)に提供される。AAV rh.74ゲノムの配列は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,434,928号に提供される。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージ化、及び宿主細胞染色体統合を指示するシス作用配列は、AAV ITR内に含まれる。三つのAAVプロモーター(相対マップ位置についてp5、p19、及びp40と命名された)は、rep及びcap遺伝子をコードする二つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。二つのrepプロモーター(p5及びp19)は、単一のAAVイントロンのスプライシング(ヌクレオチド2107及び2227において)と結合し、rep遺伝子から四つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製を担う複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、三つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。代替的なスプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、三つの関連カプシドタンパク質の産生に関与する。単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVのライフサイクル及び遺伝学は、Muzyczka、Current Topics in Microbiology and Immunology、158:97-129(1992)にレビューされている。
【0010】
AAVは、例えば遺伝子治療において、細胞に外来DNAを送達するためのベクターとして魅力的であるユニークな特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は無症候性である。さらに、AAVは多くの哺乳類細胞に感染するため、in vivoで多くの異なる組織を標的にすることができる。さらに、AAVはゆっくりと分裂する細胞と分裂しない細胞を形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外要素)として、これらの細胞の寿命の間、本質的に持続することができる。AAVプロウイルスゲノムは、プラスミドにクローン化DNAとして挿入され、組換えゲノムの構築を実行可能にする。さらに、AAV複製及びゲノムカプシド形成を指示するシグナルは、AAVゲノムのITR内に含まれるため、およそ4.3kbの内部ゲノムの一部又はすべて(コード複製及び構造カプシドタンパク質、rep-cap)は、外来DNAで置換されてもよい。AAVベクターを生成するために、rep及びcapタンパク質をトランスに提供してもよい。AAVのもう一つの重要な特徴は、AAVが極めて安定しており、心臓のようなウイルスであることである。アデノウイルスを不活化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐えられるため、AAVの低温保存の重要度は低くなる。AAVは凍結乾燥されることもある。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に対して抵抗性ではない。
【0011】
LGMD2Aの治療に対する当技術分野でのニーズは依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Bartoli等、Mol.Ther.、13:250-259(2006)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードするDNAを送達するための方法及び産物が、本明細書に提供される。こうした方法及び産物は、様々な疾患、例えばLGMD2Aを治療するために使用され得る。
【0014】
カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードする組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)が提供される。組換えアデノ随伴ウイルスは、CAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む。CAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、例えば、配列番号2に対し少なくとも90%同一であるか、又は配列番号2の配列を含む。
【0015】
例えば、提供されるrAAVは、第一のAAV逆位末端配列(ITR)、プロモーター、カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び第二のAAV ITRを含むポリヌクレオチドを含む。CAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、例えば、配列番号2に対し少なくとも90%同一である、又は配列番号2に対し少なくとも91%同一である、配列番号2に対し少なくとも92%同一である、配列番号2に対し少なくとも93%同一である、配列番号2に対し少なくとも94%同一である、配列番号2に対し少なくとも95%同一である、配列番号2に対し少なくとも96%同一である、又は配列番号2に対し少なくとも97%同一である、配列番号2に対し少なくとも98%同一である、配列番号2に対し少なくとも99%同一である。CAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2の配列を含む。
【0016】
さらに、提供されるrAAVは、CAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、ヌクレオチド配列は、配列番号7に対し少なくとも90%同一である、又は配列番号7に対し少なくとも91%同一である、配列番号7に対し少なくとも92%同一である、配列番号7に対し少なくとも93%同一である、配列番号7に対し少なくとも94%同一である、配列番号7に対し少なくとも95%同一である、配列番号7に対し少なくとも96%同一である、又は配列番号7に対し少なくとも97%同一である、配列番号7に対し少なくとも98%同一である、配列番号7に対し少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。rAAVは、配列番号7のアミノ酸配列を含むCAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0017】
提供されるrAAVは、配列番号1に対し少なくとも90%同一である、又は配列番号1に対し少なくとも91%同一である、配列番号1に対し少なくとも92%同一である、配列番号1に対し少なくとも93%同一である、配列番号1に対し少なくとも94%同一である、配列番号1に対し少なくとも95%同一である、配列番号1に対し少なくとも96%同一である、又は配列番号1に対し少なくとも97%同一である、配列番号1に対し少なくとも98%同一である、又は配列番号1に対し少なくとも99%同一であるポリヌクレオチド配列を含む。rAAVは、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含む。
【0018】
一実施形態では、ヌクレオチド配列は、筋特異的プロモーターの転写制御下にある。例えば、筋特異的プロモーターは、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、デスミンプロモーター、骨格アルファ-アクチン(ASKA)プロモーター、トロポニンI(TNNI2)プロモーター、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef結合要素、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、切断されたMCK(tMCK)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、ハイブリッドa-ミオシン重鎖エンハンサー/MCKエンハンサープロモーター(MHCK7)プロモーター、C5-12プロモーター、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速収縮性トロポニンc遺伝子要素、遅収縮性心筋トロポニンc遺伝子要素、遅収縮性トロポニンi遺伝子要素、低酸素誘導性核因子(HIF)応答要素(HRE)、ステロイド誘発性要素及び糖質コルチコイド応答要素(gre)の一つ以上を含む。一実施形態では、筋特異的プロモーターはtMCKプロモーターであり、配列番号 3の配列を含む。
【0019】
例えば、rAAVは、一実施形態において、第一のAAV逆位末端配列(ITR)、tMCKプロモーター、カルパイン3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び第二のAAV逆位末端配列(ITR)を含むポリヌクレオチドを含む。AAV ITR(例えば、第一及び/又は第二のAAV ITR)は、例えば、AAV2逆位末端配列である。rAAVのカプシドタンパク質は、例えば、AAV rh.74カプシドタンパク質又はAAV9カプシドタンパク質を含む。
【0020】
提供されるrAAVは、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74及びAAV rh.10カプシドタンパク質のうちの一つ以上を含む。
【0021】
別の実施形態では、開示されたrAAVのいずれかを含む組成物が提供される。例えば、組成物は、筋肉内注射又は静脈内注射用に製剤化される。
【0022】
対象に、治療有効量の開示されたrAAVのいずれか、又は開示されたrAAVを含む任意の組成物を投与することを含む対象における肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療する方法も提供される。提供される方法のいずれかにおいて、rAAVは、筋肉内注射又は静脈内注射により投与される。
【0023】
例えば、これらの方法での治療では、(a)筋線維径の増加、(b)小分葉筋線維数の減少、(c)内核を有する線維数の減少、(d)筋内膜結合組織含有量の減少、(e)筋萎縮の補正、及び(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる。治療によって影響を受ける筋線維は、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む。
【0024】
さらに、いずれかの提供される方法において、治療によって、(a)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm当たりの総筋線維数の減少、(b)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加、(c)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm当たりのSTO筋線維数の減少、(d)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加、(e)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm当たりFTO筋線維数が減少、(f)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加、(g)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm 当たりのFTG筋線維数の減少、並びに(h)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる。
【0025】
提供される方法のいずれかにおいて、対象の心筋は、提供されるrAAVのいずれかから発現される最小又は低カルパイン3タンパク質、又は提供されるrAAVのいずれかを含む組成物を示す。組成物による治療によって影響を受ける筋線維は、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む。
【0026】
治療有効量の開示されたrAAVのいずれかを含む肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組成物、又は開示されたrAAVのいずれかを含む組成物が提供される。肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するためのこれらの組成物は、筋肉内注射又は静脈内注射による投与のために製剤化される。さらに、開示される組成物のいずれかによる肢帯型筋ジストロフィー2Aの治療は、(a)筋線維径の増加、(b)小分葉筋線維数の減少、(c)内核を有する線維数の減少、(d)筋内膜結合組織含有量の減少、(e)筋萎縮の補正、及び(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる。組成物による治療によって影響を受ける筋線維は、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む。
【0027】
さらに、肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための開示される組成物のいずれかによる治療は、(a)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm当たりの総筋線維数の減少、(b)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加、(c)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm当たりのSTO筋線維数の減少、(d)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加、(e)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm当たりFTO筋線維数が減少、(f)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加、(g)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm当たりのFTG筋線維数の減少、並びに(h)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる。
【0028】
肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための提供される組成物のいずれかによる治療によって、対象の心筋において、提供されるrAAVのいずれか、又は提供されるrAAVのいずれかを含む組成物から発現される最小又は低カルパイン3タンパク質が示される。rAAV投与後の心筋は、炎症、壊死及び/又は再生などの毒性作用を全く示さないか、ほとんど示さない。
【0029】
本開示はまた、肢帯型筋ジストロフィー2Aの治療のための薬剤の調製のために、開示されたrAAV又は開示されたrAAVのいずれかを含む組成物の治療有効量の使用を提供する。例えば、薬剤は、筋肉内注射又は静脈内注射による投与用に製剤化される。
【0030】
この用途のいずれかにおいて、この薬剤による治療は、(a)筋線維径の増加、(b)小分葉筋線維数の減少、(c)内核を有する線維数の減少、(d)筋内膜結合組織含有量の減少、(e)筋萎縮の補正、及び(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる。この薬剤による治療によって影響を受ける筋線維は、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上である。
【0031】
さらに、治療有効量の開示されるrAAVのいずれか又は提供される組成物の用途のいずれかにおいて、この薬剤による治療は、(a)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm当たりの総筋線維数の減少、(b)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加、(c)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm当たりのSTO筋線維数の減少、(d)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加、(e)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm当たりFTO筋線維数が減少、(f)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加、(g)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm当たりのFTG筋線維数の減少、並びに(h)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる。
【0032】
開示されたrAAV又は提供される組成物の治療有効量の用途のいずれかは、薬剤を用いた治療の後、対象の心筋は、開示された又は開示された組成物から発現されるカルパイン3タンパク質が全くない、最小限又は低いことを示す。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
第一のAAV逆位末端配列(ITR)、プロモーター、カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び第二のAAV ITRを含むポリヌクレオチドを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
(項目2)
CAPN3活性を有する前記タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号2と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一である、項目1に記載のrAAV。
(項目3)
CAPN3活性を有する前記タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号2と少なくとも95%同一である、項目1又は2に記載のrAAV。
(項目4)
CAPN3活性を有する前記タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、配列番号2の配列を含む、項目1~3のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目5)
CAPN3活性を有する前記タンパク質が、配列番号7と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一のアミノ酸配列を含む、項目1~4のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目6)
CAPN3活性を有する前記タンパク質が、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一のアミノ酸配列を含む、項目1~4のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目7)
CAPN3活性を有する前記タンパク質が、配列番号7のアミノ酸配列を含む、項目1~4のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目8)
前記ポリヌクレオチドは、配列番号1と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一である配列を含む、項目1~7のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目9)
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1と少なくとも95%同一である配列を含む、項目1~7のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目10)
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1の配列を含む、項目1~7のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目11)
前記プロモーターが筋特異的プロモーターである、項目1~10のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目12)
前記筋特異的プロモーターは、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、デスミンプロモーター、骨格アルファ-アクチン(ASKA)プロモーター、トロポニンI(TNNI2)プロモーター、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef結合要素、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、切断されたMCK(tMCK)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、ハイブリッドa-ミオシン重鎖エンハンサー/MCKエンハンサープロモーター(MHCK7)プロモーター、C5-12プロモーター、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速収縮性トロポニンc遺伝子要素、遅収縮性心筋トロポニンc遺伝子要素、遅収縮性トロポニンi遺伝子要素、低酸素誘導性核因子(HIF)応答要素(HRE)、ステロイド誘発性要素及び糖質コルチコイド応答要素(gre)の一つ以上を含む、項目11に記載のrAAV。
(項目13)
前記筋特異的プロモーターが、MCKプロモーター、tMCKプロモーター、又はMHCK7プロモーターである、項目11に記載のrAAV。
(項目14)
前記筋特異的プロモーターが、配列番号3のヌクレオチド配列を含む切断されたMCKプロモーターである、項目11に記載のrAAV。
(項目15)
前記第一及び第二のAAV逆位末端配列が、AAV2逆位末端配列である、項目1~14のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目16)
前記rAAVが、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74及びAAV rh.10カプシドタンパク質のうちの一つ以上を含む、項目1~15のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目17)
前記rAAVが、rh.74カプシドタンパク質又はAAV9カプシドタンパク質を含む、項目16のいずれか一項に記載のrAAV。
(項目18)
項目1~17のいずれか一項に記載のrAAVを含む組成物。
(項目19)
項目1~17のいずれか一項に記載の治療有効量のrAAV又は項目18に記載の組成物を対象に投与することを含む、前記対象における肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療する方法。
(項目20)
前記治療によって、
(a)筋線維径の増加、
(b)小分葉筋線維数の減少、
(c)内核を有する線維数の減少、
(d)筋内膜結合組織含有量の減少、
(e)筋萎縮の補正、及び
(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記筋線維が、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記治療によって、
(a)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm 当たりの総筋線維数の減少
(b)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加
(c)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm 当たりのSTO筋線維数の減少
(d)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加
(e)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm 当たりのFTO筋線維数の減少
(f)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加
(g)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm 当たりのFTG筋線維数の減少及び
(h)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる、項目19~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
前記投与が、筋肉内注射又は静脈内注射によるものである、項目19~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記対象の心筋が、項目1~17のいずれか一項に記載のrAAV又は項目18に記載の組成物から発現される最小又は低カルパイン3タンパク質を示す、項目19~23のいずれか一項に記載の方法。
(項目25)
項目1~17のいずれか一項に記載の治療有効量のrAAV又は項目18に記載の組成物を含む、肢帯型筋ジストロフィー2Aを治療するための組成物。
(項目26)
前記組成物による前記治療によって、
(a)筋線維径の増加、
(b)小分葉筋線維数の減少、
(c)内核を有する線維数の減少、
(d)筋内膜結合組織含有量の減少、
(e)筋萎縮の補正、及び
(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる、項目25に記載の組成物。
(項目27)
前記筋線維が、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む、項目26に記載の組成物。
(項目28)
前記組成物による前記治療によって、
(a)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm 当たりの総筋線維数の減少
(b)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加
(c)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm 当たりのSTO筋線維数の減少
(d)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加
(e)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm 当たりのFTO筋線維数の減少
(f)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加
(g)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm 当たりのFTG筋線維数の減少及び
(h)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる、項目25~27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目29)
前記組成物が、筋肉内注射又は静脈内注射による投与のために製剤化される、項目25~28のいずれか一項に記載の組成物。
(項目30)
前記組成物による治療後、前記対象の前記心筋が、項目1~17のいずれか一項に記載のrAAV又は項目18に記載の組成物から発現される最小又は低カルパイン3タンパク質を示す、項目25~28のいずれか一項に記載の組成物。
(項目31)
肢帯型筋ジストロフィー2Aの前記治療のための薬剤の調製のための、項目1~17のいずれか一項に記載の治療有効量のrAAV又は項目18に記載の組成物の使用。
(項目32)
前記薬剤による前記治療によって、
(a)筋線維径の増加、
(b)小分葉筋線維数の減少、
(c)内核を有する線維数の減少、
(d)筋内膜結合組織含有量の減少、
(e)筋萎縮の補正、及び
(f)筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる、項目31に記載の使用。
(項目33)
前記筋線維が、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む、項目32に記載の使用。
(項目34)
前記薬剤による前記治療によって、
(a)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm 当たりの総筋線維数の減少
(b)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加
(c)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm 当たりのSTO筋線維数の減少
(d)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加
(e)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm 当たりのFTO筋線維数の減少
(f)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加
(g)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm 当たりのFTG筋線維数の減少及び
(h)投与4週後までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる、項目31~33のいずれか一項に記載の使用。
(項目35)
前記薬剤が、筋肉内注射又は静脈内注射による投与のために製剤化される、項目31~34のいずれか一項に記載の使用。
(項目36)
前記薬剤による治療後、前記対象の前記心筋が、項目1~17のいずれか一項に記載のrAAV又は項目18に記載の組成物から発現される最小又は低カルパイン3タンパク質を示す、項目31~35のいずれか一項に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1A図1Fは、遺伝子治療がCAPN3-KO筋における再生障害を回復したことを示す。一本鎖AAV9.CAPN3 rAAVの模式図を図1Aに示す。5’及び3’一本鎖ITR(逆位末端配列)の間で、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター(563bp)は、CAPN3オープンリーディングフレーム(2466bp)の発現を駆動する。ポリアデニル化部位(ポリA、53bp)も標識される。まず、CAPN3-KOマウス由来の前脛骨筋(TA)にCTXを注射し、2週間後に1×1011vgのAAV.CAPN3を左TA(図1B)に、又はPBSを右TA(図1C)に注射した。rAAV注射の4週間後、筋肉の直径は増加し、分葉線維は未治療のCAPN3-KO筋肉と比較して少なかった。図1Dでは、筋細胞膜下の小器官のパターンを有する分葉線維、ミトコンドリア分布(矢印)は、より高い倍率で未治療のCAPN3-KO筋における部分的な筋管の融合を示唆する。B~Dについては、スケールバー=20μmであった。図1Eでは、CAPN3-KOマウスから治療及び未治療のTA筋の筋線維サイズ分布ヒストグラム(各群における3匹のマウスに由来する平均±SEM/mm面積)は、治療によりより大きい直径の線維に移行し、未治療群に存在する小径の部分集団が増加することを示す。図1Fでは、遅収縮性酸化(STO)線維サイズ分布ヒストグラムは、治療したCAPN3-KO筋肉と比較して、未治療のCAPN3-KO筋肉における多数の小径の線維(例えば、30μm以下の線維直径)を示す。
【0034】
図2図2は、「AAVrh.74.tMCK.CAPN3」と名付けられた、本開示のrAAVの模式図を示す。
【0035】
図3図3A図3Bは、筋肉内注射(1E11 vg)及び全身注射(3E12 vg及び6E12 vg)によるAAVrh.74.tMCK.CAPN3投与後のウエスタンブロット(パネルA)及びRT-PCR(パネルB)データを提供する。このデータを、正常なヒト筋溶解物(マウスの溶解物と比較して60%の総タンパク質のゲル負荷)及び未治療のCAPN3-KOマウスと比較した。
【0036】
図4図4は、CAPN3 KO(注射されたAAV.hCAPN3遺伝子及び未治療)及び野生型(WT)TA筋のSDH染色組織切片の代表的な画像を提供する。AAVrh.74.tMCK.CAPN3で治療を受けたマウスのTA筋において、遅収縮性酸化(STO、暗)、速収縮性酸化(FTO、中間)及び速収縮性解糖(FTG、明)線維の平均線維サイズがWT値に対して正規化されたように見えた。治療ありとなしの場合の線維種のサイズが表4に示される。
【0037】
図5図5は、低用量コホート(3E12 vg、Z18-13、Z18-15、Z18-16、Z18-17、Z18-18)からのWT(Z18-14)及びTA筋のCAPN3タンパク質発現レベルを提供し、並びに高用量コホート(6E12 vg、Z18-20、Z18-21、Z18-23、Z18-24、Z18-22)からの腓腹筋(gastroc)、心臓、四頭筋、前脛骨筋(TA)及び三頭筋が示される(UT:未治療)。
【0038】
図6図6は、以下の筋肉:四頭筋(quad)、心臓、前脛骨筋(TA)、腓腹筋(gastroc)三頭筋、及び肝臓における6E12ベクターゲノム全身高用量コホートにおけるAAVrh74.tMCK.hCAPN3ベクターコピー/μgゲノムDNAを提供する。
【0039】
図7図7は、3E12及び6E12 vgでのAAVrh.74.tMCK.CAPN3の全身投与後の左TA筋からの遅収縮性酸化(STO、暗)、速収縮性酸化(FTO、中間)及び速収縮性解糖(FTG、明)線維の平均線維径を提供する。未治療のCAPN3KO及びWTマウスからのデータを含めた。
【0040】
図8A図8は、run-to-exhaustion試験のデータを提供する。図8Aは、3E12 vgのAAVrh.74.tMCK.CAPN3を投与された低用量コホート、及び6E12 vgのAAVrh.74.tMCK.CAPN3を全身投与の4週間後に投与された高用量コホートのデータを提供する。治療を受けたCAPN3 KOマウスは、未治療のマウスと比較して、Run-to-Exhastion試験でより良く遂行した。図8Bは、AAVrh.74.tMCK.CAPN3の6E12 vgの全身投与の20~24週間後にマウス(n=5)に試験を行った高用量コホート及び未治療のマウス(n-16)のデータを提供する。
図8B】同上。
【0041】
図9図9は、3E12 vg及び6E12 vg用量のAAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクターの全身注射の4週間後のCAPN3 KOマウスの代表的な心臓標本からの左心室のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色された新鮮な凍結切片を適合する未治療の対照と共に提供する。
【0042】
図10図10は、高用量コホート(AAVrh7.4.tMCK.hCAPN3の6E12 vgを投与された)からの心臓組織のウエスタンブロット分析を提供する。この解析では、治療を受けた動物の心臓に、検出可能なカルパイン3タンパク質が全くない、又は最小限であることが示された。動物識別番号Z18-19及び22は、未治療のCAPN3 KOマウスからの溶解物を表す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書に提供される組換えAAV(rAAV)は、第一のAAV逆位末端配列(ITR)、プロモーター、カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び第二のAAV ITRを含むポリヌクレオチドを含む。一実施形態では、ヌクレオチドはCAPN3をコードする。実施形態は、限定されないが、CAPN3をコードするヌクレオチド配列、又はCAPN3活性を有するタンパク質を含むrAAVを含み、ヌクレオチド配列は、配列番号2の配列と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%又は89%同一である。追加の実施形態として、配列番号2に記載されるヌクレオチド配列に少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一でありCAPN3タンパク質分解活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むrAAVが挙げられるが、これらに限定されない。CAPN3タンパク質分解活性は、フォドリン及びHSP60等の潜在的基質をタンパク質分解する活性、及び/又は自己融解的自己切断の活性として当技術分野で理解されている。したがって、本明細書で使用される場合、「カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質」という用語は、CAPN3タンパク分解活性を有するタンパク質を指し、これには、限定されないが、フォドリン及びHSP60等のタンパク質分解基質の活性、及び/又は自己融解的自己切断の活性が含まれる。CAPN3活性を有するタンパク質は、全長カルパイン3タンパク質の完全活性又は部分活性を有し得る。一つの実施形態では、CAPN3活性を有するタンパク質は、全長CAPN3タンパク質の活性の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、又は99%を有する。別の実施形態では、CAPN3活性を有するタンパク質は、配列番号7と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、CAPN3活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2の配列を含む。別の実施形態では、CAPN3活性を有するタンパク質は、配列番号7と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、CAPN3活性を有するタンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、rAAVのポリヌクレオチドは、配列番号1と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含む。別の実施形態では、ポリヌクレオチドは配列番号1と少なくとも95%同一である配列を含む。一実施形態では、ポリヌクレオチドは配列番号1の配列を含む。
【0045】
別の態様においては、CAPN3活性を有するタンパク質をコードし、及び/又は配列番号2の核酸配列又はその相補体にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列を含む組換えAAVが本明細書に記述されている。「ストリンジェント」という用語は、当技術分野で一般的に厳格と理解される条件を指すために使用される。ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、主に温度、イオン強度、及びホルムアミド等の変性剤の濃度によって決定される。ハイブリダイゼーション及び洗浄のためのストリンジェント条件の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム(65℃~68℃)又は0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、及び50%ホルムアミド(42℃)である。Sambrook等、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)。
【0046】
本明細書に記載の組換えゲノムにおいて、CAPN3ポリヌクレオチドは、転写制御要素(プロモーター、エンハンサー、及び/又はイントロンを含むが、これらに限定されない)、特に目的の標的細胞において機能する転写制御要素に動作可能に結合される。例えば、様々な実施形態は、筋特異的転写制御要素を使用して筋細胞を形質導入する方法を提供し、限定されないが、アクチン及びmyoD遺伝子ファミリー等のミオシン遺伝子ファミリーに由来するもの、例えば、から[Weintraub等、Science、251:761-766(1991)を参照のこと]、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF-2[Cserjesi及びOlson、Mol Cell Biol,11:4854-4862(1991))、ヒト骨格アクチン遺伝子に由来する制御要素[Muscat等、Mol Cell Biol,7:4089-4099(1987))、筋クレアチンキナーゼ配列要素[Johnson等、Mol Cell Biol、9:3393-3399(1989)を参照のこと]、及びマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)要素、骨格の速収縮性トロポニンC遺伝子、遅収縮性心筋トロポニンC遺伝子及び遅収縮性トロポニンI遺伝子に由来する制御要素:低酸素誘発性核因子[Semenza等、Proc Natl Acad Sci USA、88:5680-5684(1991)]、糖質コルチコイド応答要素(GRE)を含むステロイド誘発性要素及びプロモーター[Mader及びWhite,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:5603-5607(1993)を参照のこと]、tMCKプロモーター[Wang等、Gene Therapy、15:1489-1499(2008)参照のこと]、CK6プロモーター[Wang等、上述]、及びその他の制御要素が挙げられる。一実施形態では、カルパイン3(CAPN3)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、筋特異的プロモーターに動作可能に連結される。一実施形態において、筋特異的プロモーターは、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、デスミンプロモーター、骨格アルファ-アクチン(ASKA)プロモーター、トロポニンI(TNNI2)プロモーター、筋細胞特異的エンハンサー結合因子mef結合要素、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、切断されたMCK(tMCK)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、ハイブリッドa-ミオシン重鎖エンハンサー/MCKエンハンサープロモーター(MHCK7)プロモーター、C5-12プロモーター、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速収縮性トロポニンc遺伝子要素、遅収縮性心筋トロポニンc遺伝子要素、遅収縮性トロポニンi遺伝子要素、低酸素誘導性核因子(HIF)応答要素(HRE)、ステロイド誘発性要素及び糖質コルチコイド応答要素(gre)の一つ以上を含む。別の実施形態では、筋特異的プロモーターはMCKプロモーター、tMCKプロモーター、又はMHCK7プロモーターである。いくつかの実施形態では、筋特異的プロモーターはtMCKであり、配列番号3の配列のヌクレオチド配列を含む。
【0047】
これまでの研究では、デスミンプロモーターによるCAPN3の発現が心毒性をもたらすことが示された。フォローアップ試験では、遺伝子の選択的骨格筋発現により心臓欠陥が消失した。本明細書に開示されるAAVゲノムは、筋特異的プロモーター、骨格筋へのCAPN3発現を制限するtMCKを含み、遺伝子注射の4週間後に、6E12 vg(提案された初回高用量の2倍)のウイルスの全身送達後、心臓毒性を示さなかった。
【0048】
本明細書に記載されるrAAVゲノムは、AAV rep及びcap DNAを欠く。提供されるrAAVゲノムは、上述のCAPN3ポリヌクレオチド、及びポリヌクレオチドに隣接する一つ以上のAAV ITRを含む。rAAVゲノムのAAV DNAは、組換えウイルスがAAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74及びAAV rh.10を含むがこれに限定されないから生じる可能性があるAAV血清型であってもよい。カプシド変異を有する他の種類のrAAV変異体、例えばrAAVも企図される。例えば、Marsic等、Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。上述の背景技術の項で述べたように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は当技術分野で公知である。骨格筋特異的発現を促進するために、AAV1、AAV5、AAV6、AAV8又はAAV9が使用され得る。
【0049】
提供されるDNAプラスミドは、rAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、AAVのヘルパーウイルス(アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス、又はヘルペスウイルスを含むが、これらに限定されない)の感染に許容される細胞に移され、rAAVゲノムを感染性ウイルス粒子に集合させる。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子を産生する技術が、当該技術分野で標準である。rAAVの産生は、rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離された(すなわち、非存在下の)AAVrep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能という、単一細胞(本明細書においてパッケージング細胞として示される)内に以下の構成要素が存在することを必要とする。AAV ITR並びにrep及びcap遺伝子は、組換えウイルスがrAAVゲノムITRよりも異なるAAV血清型から生じ得る、又は由来し得る任意のAAV血清型、限定されないが、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.10及びAAV rh.74に由来してもよい。偽型rAAVの産生は、例えば、WO01/83692に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、一実施形態では、rAAVは、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74又はAAV rh.10カプシドタンパク質のうちの一つ以上を含む。別の実施形態では、rAAVはAAV rh.74カプシドタンパク質又はAAV9カプシドタンパク質を含む。
【0050】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子の生成に必要な全ての成分を安定的に発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離されたAAV rep及びcap遺伝子、並びにネオマイシン耐性遺伝子等の選択マーカーを含むプラスミド(又は複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング等の手順によって細菌プラスミドに導入されている[Samulski等、Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081(1982)]、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの追加[Laughlin等、Gene、23:65-73(1983)]、又は直接の鈍端連結によって細菌プラスミドに導入されている[Senapathy & Carter、J.Biol.Chem.、259:4661-4666(1984)]。次いで、パッケージング細胞株は、アデノウイルス等のヘルパーウイルスに感染する。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模生産に適していることである。適切な方法の他の例は、rAAVゲノム及び/又はrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するために、プラスミドではなくアデノウイルス又はバキュロウイルスを用いる。
【0051】
rAAV生産の一般原則は、例えば、Carter、Current Opinions in Biotechnology、1533-1539(1992);及びMuzyczka,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.、158:97-129(1992)にレビューされている。様々なアプローチが、Ratschin等、Mol.Cell.Biol.,4:2072(1984);Hermonat等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschin等、Mo1.Cell.Biol.、5:3251(1985);McLaughlin等、J.Virol.,62:1963(1988);Lebkowski等、Mol.Cell.Biol.,7:349(1988);Samulski等、J.Virol.,63:3822-3828(1989);米国特許第5,173,414号;WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号;WO 95/13392;WO96/17947;PCT/US98/18600;WO97/09441(PCT/US96/14423);WO97/08298(PCT/US96/13872);WO97/21825(PCT/US96/20777);WO 97/06243(PCT/FR96/01064);WO99/11764;Perrin等 、Vaccine、13:1244-1250(1995);Paul等、Human Gene Therapy、4:609-615(1993);Clark等、Gene Therapy 3:1124-1132(1996);米国特許第5,786,211号、米国特許第5,871,982号、米国特許第6,258,595号、及びMcCarty,Mol.Ther.、16(10):1648-1656(2008)に記載されている。前述の文書は、参照によりその全体が本明細書に援用され、特にrAAVの生産に関する文書のこれらの項に重点が置かれる。
【0052】
したがって、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞が提供される。一実施形態では、パッケージング細胞は、HeLa細胞、及びPerC.6細胞(同族体293系統)等の安定的に形質転換された癌細胞であってもよい。別の実施形態では、パッケージング細胞は、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎臓細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、ベロ細胞(サル腎臓細胞)及びFRhL-2細胞(アカゲザル肺細胞)等の形質転換された癌細胞ではない細胞である。
【0053】
したがって、本明細書に提供される組換えAAVは、組換えゲノムを含む複製欠損、感染性、カプシド形成されたウイルス粒子である。例としては、CAPN3をコードする配列番号1に記載の配列を含むゲノム、CAPN3をコードする配列番号1に記載の配列から本質的に成るゲノムを含むrAAV、CAPN3をコードする配列番号1に記載の配列から成るゲノムを含むrAAV(「AAVrh.74.tMCK.CAPN3」と命名される)が挙げられるが、これらに限定されない。rAAVのゲノムはAAVrep及びcapDNAを欠いており、すなわち、rAAVゲノムのITR間にAAVrep又はcapDNAはない。
【0054】
AAVrh.74.tMCK.CAPN3配列の配列は、配列番号1に記載され、AAV2 ITRはヌクレオチド1~128に及び、tMCKプロモーターはヌクレオチド165~884に及び、キメライントロンはヌクレオチド937-1069に及び、Kozak配列はヌクレオチド1101-1106に及び、CAPN3ポリヌクレオチドはヌクレオチド1107-3572に及び、ポリAシグナルはヌクレオチド3581-3780に及び、第二のAAV2 ITRは、ヌクレオチド3850-3977に及ぶ。
【0055】
rAAVは、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配等の当技術分野で公知の方法によって精製されてもよい。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製する方法は当該技術分野で公知であり、例えばClark等、Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999);Schenpp及びClark,Methods Mol.Med.,69:427-443(2002)、米国特許第6,566,118号、及びWO98/09657に開示される方法が挙げられる。
【0056】
別の実施形態では、本明細書に記載されるrAAVを含む組成物が提供される。提供される組成物は、薬学的に許容可能な担体にrAAVを含む。組成物は、希釈剤及びアジュバント等の他の成分も含み得る。許容可能な担体、希釈剤及びアジュバントは、レシピエントにとって無毒性であり、使用される用量及び濃度では不活性であることが好ましく、リン酸塩、クエン酸塩、又はその他の有機酸;アスコルビン酸等の抗酸化剤;低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;アミノ酸、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸;単糖類、二糖類。及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含むその他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又はTween、プルロニックス又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0057】
本明細書に記載される方法において投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与形式、治療目標、個体、及び標的とされる細胞型(複数可)に応じて変化し得、当該技術分野の標準方法によって決定され得る。rAAVの力価は、1ml当たり約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013、約1×1014、又はそれ以上のDNase耐性粒子(DRP)の範囲にあり得る。用量はまた、ウイルスゲノムの単位(vg)で表現されてもよい。開示される例示的用量には、1E11 vg、3E12 vg及び6E12 vgが含まれる。
【0058】
in vivo又はin vitroにおいて、rAAVを有する筋細胞等の標的細胞を形質導入する方法が本明細書で企図されている。in vivoの方法は、本明細書に提供されるrAAVを含む組成物の有効用量又は有効反復投与量を、それを必要とする対象(例えば、限定されないが、ヒト患者を含む動物)に投与するステップを含む。疾患/疾患発症前に投与する場合、この投与は、予防的である。疾患/疾患発症後に投与する場合、この投与は、治療である。有効量は、治療される障害/疾患に関連する少なくとも一つの症状を緩和(除去又は低減)する用量であり、障害/疾患状態への進行を遅延又は予防し、障害/病状の進行を遅延又は予防し、疾患の程度を減少し、疾患の寛解(部分的又は全体)をもたらし、及び/又は生存期間を延長する用量である。治療前の対象に比べて、本明細書の治療は、筋線維径の増加、小分葉筋線維数の減少、内核を有する線維数の減少、筋内膜結合組織含有量の減少、筋萎縮の補正、及び筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる。一実施形態では、筋線維は、遅収縮性酸化(STO)筋線維、速収縮性酸化(FTO)筋線維、及び速収縮性解糖(FTG)線維のうちの一つ以上を含む。一実施形態において、治療によって、(a)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%、又は40%の1mm当たりの総筋線維数の減少、(b)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%の筋線維径の増加、(c)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は42%の1mm当たりのSTO筋線維数の減少、(d)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のSTO筋線維径の増加、(e)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%の1mm当たりFTO筋線維数が減少、(f)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、又は20%のFTO筋線維径の増加、(g)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は35%の1mm当たりのFTG筋線維数の減少、並びに(h)投与後4週までに、少なくとも5%、10%、15%、20%、又は25%のFTG筋線維径の増加のうちの一つ以上が生じる。本開示の方法は、一実施形態では、rAAVを投与された対象の心筋において、rAAVから発現されるカルパイン3タンパク質が全くない、最小限又は低くする。
【0059】
これらの結果を調べるためのアッセイは、当技術分野で理解され、及び/又は本明細書の実施例に記載されている。CAPN3活性の欠陥又はCAPN3の発現の欠陥によって引き起こされる障害/疾患(例えば、筋ジストロフィー)を予防又は治療するための本明細書に記載の方法の使用が企図されている。LGMD2Aは、方法による予防又は治療のために意図される疾患の一例である。
【0060】
併用療法も企図されている。本明細書に使用される組み合わせは、同時治療又は連続治療の両方を含む。本明細書に記載される方法を標準的な医療治療(例えば、コルチコステロイド)と組み合わせることは、新規治療との組み合わせと同様に、特に企図される。
【0061】
組成物の有効用量の投与は、限定されないが、筋肉内、非経口、静脈内、くも膜下腔内、経口、頬側、鼻腔、肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸、又は膣を含む、当技術分野の標準的な経路によることができる。rAAVのAAV成分(特に、AAV ITR及びカプシドタンパク質)の投与経路(複数可)及び血清型(複数可)は、治療される感染及び/又は疾患状態、並びにCAPN3を発現することになる標的細胞/組織(複数可)を考慮に入れて、当業者によって選択及び/又は適合され得る。一実施形態では、rAAVは、筋肉内注射、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、皮膚上投与、膣内注射、皮内投与、又は経鼻投与によって投与される。別の実施形態では、rAAVは筋肉内注射又は静脈内注射によって投与される。
【0062】
特に、本明細書に記載のrAAVの実際の投与は、rAAV組換えベクターを動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を使用して達成され得る。投与には、筋肉、血流、及び/又は肝臓への直接の注射が含まれるが、これらに限定されない。rAAVをリン酸緩衝生理食塩液に再懸濁するだけで、筋組織発現に有用なビヒクルを提供するのに充分なことが実証されており、担体又はrAAVと共投与することができるその他の成分に対する既知の制限はない。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが筋肉等の特定の標的組織を標的とするように改変されてもよい。例えば、WO02/053703を参照されたく、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。医薬組成物は、注射可能な製剤として、又は経皮輸送によって筋肉に送達される局所製剤として調製され得る。筋肉内注射及び経皮輸送の両方のための多数の製剤が以前に開発されており、この方法の実践に使用することができる。rAAVは、投与及び取り扱いを容易にするために、任意の薬学的に許容可能な担体とともに使用することができる。
【0063】
筋肉内注射の目的で、ゴマ又はピーナッツ油等のアジュバント中の溶液、又はプロピレングリコール水溶液、並びに滅菌水溶液を用いることができる。かかる水溶液は、所望であれば緩衝することができ、液体希釈剤は、最初に生理食塩水又はグルコースで等張性にすることができる。遊離酸(DNAは酸性リン酸基を含む)又は薬理学的に許容可能な塩としてのrAAVの溶液は、ヒドロックスプロピルセルロース等の界面活性剤と適切に混合された水中で調製することができる。rAAVの分散はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びその混合物、及び油中に調製され得る。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐ防腐剤を含有する。この関連において、使用される滅菌水性媒体はすべて、当業者に周知の標準技術によって容易に入手可能である。
【0064】
全身(例えば、静脈内)注射可能な使用に適した医薬品形態には、滅菌水溶液又は分散液、及び滅菌注射用溶液又は分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。いずれの場合でも、形態は無菌で、容易に注入できる範囲において液体でなければならない。製造及び保管の条件下で安定であり、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体とすることができる。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティング剤の使用によって、分散液の場合に必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等の様々な抗菌剤及び抗真菌剤によって提供される。多くの場合、例えば、糖類又は塩化ナトリウム等の等張剤を含むことが好ましい。注射可能な組成物の持続的吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅延する薬剤の使用によってもたらされ得る。
【0065】
滅菌注射用溶液は、必要に応じて、適切な溶媒中の必要な量のrAAVを上記に列挙された様々なその他の成分と混合し、その後フィルター滅菌することにより調製される。概して、分散剤は、滅菌された有効成分を、基本分散媒体及び上記に列挙されたものから必要とされるその他の成分を含む滅菌媒体に混入することによって調製される。無菌注射溶液の調製のための無菌粉末の場合、いくつかの実施形態において、調製方法は、真空乾燥及び/又は凍結乾燥技術を含み、その各々は、有効成分の粉末と、その以前にフィルター滅菌された溶液から追加の所望の任意の成分とを生じさせることができる。
【0066】
rAAVを用いた形質導入もin vitroで実施してもよい。一実施形態では、所望の標的筋細胞を対象から除去し、rAAVで形質導入し、対象に再導入する。あるいは、同系又は異種の筋細胞は、これらの細胞が対象において不適切な免疫応答を生じさせない場合に使用することができる。
【0067】
形質導入した細胞の対象への形質導入及び再導入の適切な方法は、当技術分野で公知である。一実施形態において、細胞は、例えば適切な培地中で、rAAVを筋細胞と組み合わせ、及びサザンブロット及び/又はPCR等の従来の技術を用いて、又は選択マーカーを用いて、対象のDNAを有するそれらの細胞をスクリーニングすることにより、in vitroで形質導入され得る。次いで、形質導入細胞を医薬組成物に製剤化し、組成物は、例えば、筋肉内、静脈内、皮下及び腹腔内注射、又は例えばカテーテルを使用して平滑筋及び心筋への注射など、様々な技術によって対象に導入することができる。
【0068】
本明細書に記載の方法によるrAAVを用いた細胞の形質導入は、CAPN3又はCAPN3活性を有するタンパク質を持続的に発現させる。したがって、CAPN3又はCAPN3活性を有するタンパク質を発現するrAAVを、対象、好ましくはヒトに投与するための方法が提供される。本開示の対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、齧歯類(例えば、ラット及びマウス)、並びに霊長類を含むがこれに限定されない。これらの方法には、本明細書に記載の一つ以上のrAAVを用いて組織を形質導入すること(筋肉、肝臓及び脳等の臓器、及び唾液腺等の腺などの組織を含むが、これらに限定されない)を含む。
【0069】
筋組織は、重要な臓器ではなく、アクセスしやすいため、in vivoDNA送達の魅力的な標的である。本明細書の方法は、形質導入した筋細胞からのCAPN3の持続的な発現を提供する。
【0070】
「筋肉細胞」、「筋線維」、又は「筋肉組織」とは、任意の種類の筋肉[例えば、骨格筋及び平滑筋(例えば、消化管、膀胱、血管又は心臓組織)に由来する細胞又は細胞の群を意味する。このような筋細胞は、筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞及び心筋芽細胞等、分化又は未分化であり得る。
【0071】
「形質導入」という用語は、in vivo又はin vitroのいずれかで、記載のrAAVを介して、レシピエント細胞へのCAPN3の投与/送達を指すために使用され、レシピエント細胞によるCAPN3の発現をもたらす。
【0072】
したがって、CAPN3をコードする有効量(又は本質的に同時に投与される用量、又は一定間隔で投与される用量)のrAAVを、それを必要とする対象に投与する方法が提供される。
【0073】
治療前の対象に比べて、本明細書の方法は、対象において、筋線維径の増加、小分葉遅収縮性酸化(STO)筋線維数の減少、内核を有する線維数の減少、筋内膜結合組織含有量の減少、筋萎縮の補正、及び筋力生成の増加のうちの一つ以上が生じる。
【実施例
【0074】
態様及び実施形態は、以下の実施例によって例示される。実施例1は、AAV9.MCK.CAPN3の産生を記載する。実施例2は、AAV9.MCK.CAPN3の筋肉内投与を記載する。実施例3は、AAVrh.74.tMCK.CAPN3の産生を記載する。実施例4は、AAVrh.74.tMCK.CAPN3の筋肉内投与を記載する。実施例5は、AAVrh.74.tMCK.CAPN3の静脈内投与を記載する。実施例6は、エンドポイント研究を示す。実施例7は、毒性試験及び体内分布試験を記載する。実施例8は、筋肉内注射後のin vivo生物作用能試験を記載する。実施例9は、全身注射後のin vivo生物作用能試験を記載する。実施例10は、全身AAVrh.74.tMCK.CAPN3遺伝子送達の評価を記載する。実施例11は、AAVrh.74.tMCK.CAPN3ベクターの全身注射後の心臓毒性の評価を記載する。実施例12は、in vivo生理学的分析を記載する。
【0075】
実施例1
AAV9.MCK.CAPN3の産生
筋特異的MCKプロモーターの下にCAPN3遺伝子を担持するAAVベクター(AAV.CAPN3と命名)を産生した(図1A)。二つのNot1制限部位間のマウスCAPN3(NM_007601.3)のオープンリーディングフレームを含むDNAを、Eurofin Genomics、米国によって合成し、その後、Rodino-Klapac等、Journal of Translational Medicine、5:45-55(2007)以前に記載されるAAV.MCK(筋クレアチンキナーゼ)ベクターにサブクローニングする。rAAVベクターは、修正されたクロスパッケージングアプローチによって産生され、それによってAAV2ベクターゲノムをAAVカプシド血清型にパッケージすることができる。[Rabinowitz等、J Virol.76(2):791-801(2002)]。産生は、HEK293細胞を用いた標準的な三つのプラスミドDNA/CaPO4沈殿法を用いて達成した。293細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)及びペニシリン及びストレプトマイシンを補充したDMEMに維持した。産生プラスミドは、(i)pAAV.MCK.microdys、(ii)cap血清型1、6、又は8様単離物をコードするrep2-capX改変AAVヘルパープラスミド、及び(iii)アデノウイルスE2A、E4 ORF6、及びVA I/II RNA遺伝子を発現するアデノウイルス5型ヘルパープラスミド(pAdhelper)であった。血清型間の比較を可能にするために、定量的PCRベースの滴定方法を使用して、Prism 7500 Taqman検出器システム(PE Applied Biosystems)を使用して、カプシド形成されたベクターゲノム(vg)力価を決定した。[Clark等、Hum Gene Ther.10(6):1031-1039(1999)]。プライマー及び蛍光プローブは、MCKプロモーターを標的とし、以下のものであった:MCKフォワードプライマー、5-CCCGAGATGCCTGGTTATAATT-3(配列番号4);MCKリバースプライマー、5-GCTCAGGCAGCAGCAGGTGTTG-3(配列番号5);MCKプローブ、5-FAM-CCAGACATGGGCTGCTCCCC-TAMRA-3(配列番号6)。最終力価(vgml-1)を、Prism 7500リアルタイム検出器システム(PE Applied Biosystems、米国ニューヨーク州グランドアイランド)を使用したMCKプロモーター用の特異的プライマー及びプローブを使用した定量的逆転写酵素PCRにより決定した。アリコートされたウイルスは、使用まで-80℃に保持した。
【0076】
実施例2
AAV9.MCK.CAPN3の筋肉内投与
WT CAPN3がCAPN3ノックアウト(CAPN3-KO)マウスにおいて再生不全プロセスを回復できるかどうかを示すために、麻酔下のCAPN3-KOマウスのTA筋(n=4)[Kramerova等、Hum Mol Genet 13(13):1373-1388(2004)]に、最初に30μlのCTXを注入し、2週間後に、筋肉内注射を介して、20μlの量の1x1011 vgのAAV9.MCK.CAPN3を用いて、野生型CAPN3を発現するように形質導入した。対照としての役目を果たした別のCAPN3-KOコホート(n=4)のTA筋は、CTX注射の2週間後に同量のPBSを受けた。
【0077】
CTX注射の6週間後にマウスを殺し、TA筋を除去し、クリオスタット切片のために処理した。ルーチンの病理組織学的評価のために、厚さ12μmの断面をまずH&Eで染色し、筋線維型固有の直径測定値は、各群の3匹のマウスのTAのSDH染色断面から取得した。TAの三つのランダム画像(動物1匹当たりの断面ごと)を20倍で撮影し、ファイバー直径測定値及び線維型固有のヒストグラムを生成した。
【0078】
コハク酸脱水素酵素(SDH)酵素組織化学を用いて、代謝線維型分化[遅収縮性酸化(STO)、速収縮性酸化(FTO)、速収縮性解糖(FTG)]を評価した。筋線維型固有の直径測定値は、最終的なカルディオトキシン注入の4週間後及び12週間後に、12μm厚のSDH染色断面を用いて得られた。三つの画像は、それぞれ、腓腹筋(主にSTOからなる深部ゾーン、STO、FTO又はFTGのチェッカーボードの外観を示す中間ゾーン、及び主にFTG線維からなる表層ゾーン)の三つの固有のゾーンを正中線軸(動物1頭当たり1断面当たり)に沿って、Olympus BX41顕微鏡及びSPOTカメラ(Olympus BX61、日本)を用いて20倍率で撮影した。このアプローチは、再生中の代謝変化に応答して各ゾーンの線維の酸化状態の変化を捕捉するために選択された。Zeiss Axiovision LE4ソフトウェア(v.4.8)を用いて筋線維の最短距離を測定することにより、暗い(STO)、中間(FTO)、及び明るい(FTG)線維の直径を決定した。線維直径ヒストグラムは、STOについて個別に作成され、FTG及びFTOは、組み合わされて、3匹の動物から得られ、筋内膜面積(平均±SEM)のmm当たりの数として表される総速収縮性線維集団(FTG/O)を示した。平均線維径は、全3種類の線維型を合わせることから生じた。1群当たり平均900~1700本の線維が測定された。線維形成の評価にTA筋を使用した(下記参照)。
【0079】
AAV9.MCK.CAPN3注射の4週間後、内核の明らかな減少及び分葉パターンを有する小径線維のはるかに少ない数で、筋肉の直径の有意な増加が観察された(図1B)。未処理のCAPN3-KO筋肉は、mm面積当たり31.6%以上の線維を有し、主に小さい及び分葉状STO線維から構成され、治療によって、筋管融合が改善し、したがって単位面積当たり個々の小線維数が減少することを示す(図1、C及びD;表1)。
【表1】
【0080】
治療を受けたTA筋の線維サイズ分布ヒストグラムは、治療と共により大きな直径の線維へのシフトを示し、未治療のCAPN3-KO対照筋の小径線維の過剰な数はSTO組織化学的線維型であった(図1E及び1F)。まとめると、これらの知見は、CAPN3-KO筋における遺伝子治療を介したCAPN3置換が、線維径の正常化及びSTO線維集団の数の減少によって証明された、再生欠損を救出したことを示す。
【0081】
実施例3
AAVrh.74.tMCK.CAPN3の産生
切断された筋特異的MCKプロモーター(tMCKプロモーター)の下にCAPN3遺伝子を担持するAAVベクター(AAVrh74.tMCK.CAPN3と命名)を産生した。二つのNot1制限部位間のマウスCAPN3(NM_007601.3)のオープンリーディングフレームを含むDNAを、Eurofin Genomics、米国によって合成し、その後AAV産生プラスミドに挿入した。プラスミドのマップを図2に示す。
【0082】
その後、rAAVベクターを、実施例1に記載されたアプローチにより作製した。
【0083】
実施例4
AAVrh.74.tMCK.CAPN3の静脈内投与
6月齢のCAPN3-KOマウスは、尾静脈への注射を介して低用量(3x1012vg)及び高用量(6x1012vg)のAAVrh.74.tMCK.CAPN3を投与された。エンドポイント試験のために、マウスを遺伝子注射後20週で殺した。年齢の一致するビヒクル処置されたCAPN3-KOマウスは、対照として提供される。
【表2】
【0084】
以下の実施例7に記載されるように実施されるエンドポイント研究には、筋肉生理学(TA力生成又はインビボ筋肉収縮性アッセイ、及び伸張性収縮からの保護)、筋肉組織病理、qPCRを使用したhCAPN3検出、及びウエスタンブロット分析が含まれる。
【0085】
実施例5
AAVrh.74.tMCK.CAPN3の筋肉内投与
老若CAPN3-KO筋において、心臓毒(CTX)誘発性の同期性壊死、続いてrAAV治療を介したCAPN3の再生筋への導入に対する再生反応が測定される。
【0086】
若年(2月齢)及び高齢(6月齢)のマウスのコホートでは、CTXを両方のTA筋に注射して、左TA筋にrAAV注射する2週間前に同期性壊死を誘発する。AAVrh.74.tMCK.CAPN3は、20μlの体積で1×1011vgで、筋肉内注射により投与される。エンドポイント試験は、遺伝子導入後8週目(1×1011vg用量で、我々の過去の試験で確立した有効性と共に)に実施されて、定量的組織学及び生理学的転帰を左TAから未治療の右TAと比較することにより、再生欠損の補正を評価する。
【表3】
【0087】
rAAV注射の8週間後、以下の実施例6に記載されるように実施されたエンドポイント試験には、筋肉生理学(TA力の生成及び伸張性収縮からの保護)、定量的筋肉組織病理、qPCR及びウエスタンブロット分析を使用したhCAPN3検出が含まれる。
【0088】
実施例6
エンドポイント試験
TA力の生成及び伸張性収縮からの保護
TA筋の機能転帰を評価するプロトコルは、マウスから抽出された筋肉に対して実施される[Wein等、Nature Medicine、20(9):992-1000(2014)]。マウスは、ケタミン/キシラジン混合物を使用して麻酔される。解剖鏡を用いて後肢の皮膚を切除して、TA筋及び膝蓋骨を露出させる。遠位TA腱を切開し、腱の周囲にできるだけ近くの筋肉に4-0縫合糸でダブルスクエアノットを結び、腱を切断する。露出した筋肉は生理食塩水で絶えず湿らせる。その後、マウスを熱制御されたプラットフォームに移し、37℃に保つ。針を遠位TA腱縫合部である膝蓋靱帯に通してフォーストランスデューサ(Aurora Scientific、Aurora、ON、Canada)の水平アームまで、膝をプラットフォームに固定し、足はテープで固定する。TA筋収縮は、双極白金電極を介して、坐骨神経を刺激することによって誘発される。筋肉が安定したら、最大収縮力が達成されるまで筋肉を徐々に伸ばすことによって最適な長さを決定した。3分間の静止期間後、TAは50、100、150及び200Hzで刺激され、各刺激の間に1分間の静止期間を設けて最大強縮力を決定する。筋長を測定する。5分間の安静後、収縮誘発性損傷に対するTA筋の感受性を評価する。500msの刺激後、筋肉は最適長の10%に伸長する。これには、150Hzで700msの筋肉の刺激が含まれる。刺激後、筋肉は最適な長さに戻る。サイクルを1分ごとに合計10サイクル繰り返す。特定力は、最大テタニック力をTA筋断面積で割ることによって算出する。伸張性収縮の後、マウスを安楽死させ、TA筋を切開し、秤量し、分析のために凍結する。データの解析は盲検下で実施するが、無作為に実施するものではない。
【0089】
In vivo筋肉収縮性アッセイ
このアッセイは、下肢の足底筋又は背屈筋のいずれかによって生成される総トルクを測定し、筋生理学装置(Aurora Scientific、ON、カナダ)を使用して実施される。イソフルランで麻酔する。動物は麻酔されると、クリッパーで必要に応じて後肢の毛が取り除かれる。クリッパーで脱毛が不充分であれば、薄層の脱毛クリーム(Nair)を塗布し、ぬるま湯で十分に洗浄して不快感を防ぐ。測定する後肢をフットプレートに粘着テープで貼り付ける。肢を鈍的クランプで堅く固定する。坐骨神経の脛骨又は腓骨要素の何れかを、神経の近くの皮膚に皮下に挿入される二つの滅菌された使い捨ての28ゲージ単極電極で刺激する。マウスの体温は、伝導性温度調節加熱パッド(37℃に設定)又は放射熱源により維持され、温度プローブにより監視される。
【0090】
病理組織学的検査
組織学的解析では、筋肉及び臓器はすべて7%のトラガカントゴムに埋め込まれ、液体窒素冷却イソペンタンに急速凍結される。凍結切片(12μm)は、免疫組織化学検査及びウエスタンブロット分析用に採取される。
【0091】
ヒトCAPN3検出用ウエスタンブロット解析
マウス筋組織におけるCAPN3タンパク質定量は、ウェスタンブロッティング法を用いて評価される。CAPN3酵素はドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により溶解され、NCL-CALP-12A2のN末端を認識するNovocastraの臨床グレードの抗体を用いて、約60kDaの自己溶解産物で94kDaのバンドとして遊走する。さらに、NCL-CALP-2C4抗体は、同CAPN3の分子量(94kD)及び骨格筋中の追加の断片(30kD)を認識し、両抗体ともタンパク質検出に適している。治療的rAAVベクターの送達後のカルパインノックアウトマウスの試料内のCAPN3タンパク質発現レベルの半定量的測定を実施し、未治療の対照と比較する。
【0092】
定量的筋組織学
AAVrh.74.tMCK.CAPN3で処置したTA及び大腿四頭筋の断面及び未処置の対象の断面図をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、Zeiss Axiovision L4ソフトウェアを使用して撮影する(動物当たり、一つのセクション当たり4つのランダムな20枚の画像)。処置したものとコントロール間で線維径が比較される。
【0093】
統計解析
スチューデントt検定又は一元配置分散分析多重比較検定を適宜実施する。
【0094】
実施例7
毒性試験/体内分布試験
毒性試験/体内分布試験は、確立された有効用量及び1ログの高用量を用いて実施する。毒性研究は、正常C57Bl6正常マウスとの比較を含む、6~8週齢のCAPN3-KOマウスへのrAAVの全身(尾静脈)送達によって行われる。6~10匹のマウスのコホートを含み、GLP様の方法を用いて完全な剖検を行う。
【0095】
血液サンプルから採取した血清は、血液生化学的検査:アラニンアミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビン(総及び直接)、血中尿素窒素、クレアチニン、クレアチンキナーゼ、グルコース及び総タンパク質に使用される。
【0096】
完全剖検は、動物の内臓及び死体の完全な系統的検査及び切開で実施される。性腺、脳、脾臓、腎臓、空腸、結腸、膵臓、心臓、肺、胃、肝臓、鼠径リンパ節、脊髄腓腹筋、四頭筋を含む組織/臓器が回収される。病理組織学的研究用の組織/臓器を採取し、10%の中性緩衝ホルマリン(10% NBF)に固定し、ただし、OCTを伴うブロック上に載置した全ての骨格筋検体は例外とし、凍結切片用に液体窒素冷却メチルブタンにおいて急速凍結する。
【0097】
実施例8
筋肉内注射後のIn Vivo生物作用能試験
生物作用能試験は、実施例5に上述したように、CAPN3 KOマウス(n=3)の前脛骨筋(TA)へのAAVrh.74.tMCK.CAPN3(1E11 vg)の筋肉内(IM)注射後に実施された。
【0098】
投与後4週目に、逆転写定量PCR(RT-qPCR)及びウエスタンブロット解析により遺伝子送達を解析した。ウエスタンブロット分析のために、50μgの筋タンパク質抽出物全体に相当する試料を3~8%アクリルアミド、トリス-アセテートSDSゲル上で分離し、PVDF膜に移した。免疫検出は、ヒトカルパイン3配列(Leica)のAA1~19を含むs合成ペプチドに対して産生されたモノクローナル抗体、及び負荷対照として筋特異的アクチン抗体(Leica)で行った。図3Aは、筋肉内注射後のTA筋における94kDのカルパイン3タンパク質の存在を示す。RT-qPCR解析は、WTマウスと比較して、遺伝子導入の4週間後のヒトカルパイン3遺伝子の相対発現レベルが、正常レベルに戻ることを実証した(図3Bを参照)。マウスGAPDHを参照遺伝子として使用し、WT C57BL/6を用いてRT-qPCRデータを較正した。
【0099】
また、筋肉内投与後に定量的な病理組織学的解析を行った。示されるように、処置されたCAPN3 KOマウスのTA筋線維の直径を、未処置の対照(乳酸リンゲル注射されたTA)筋の直径と比較した。AAV.hCAPN3を注入TA筋において、遅収縮性酸化(STO、暗)、速収縮性酸化(FTO、中間)及び速収縮性解糖(FTG、明)線維の平均線維サイズはWT値に対して正規化されたように見えた。線維タイプのサイズの定量化は表4に示されており、治療に伴う増加を示す。
【表4】
【0100】
要約すると、CAPN3 KOマウス(n=2)において、ベクター(1E11 vg)を前脛骨筋(TA)にIM注射した後のin vivo生物作用能試験では、遺伝子送達後4週間で、1)RT-qPCR及びウエスタンブロット解析において、CAPN3転写物の発現及び94kDaの全長カルパイン3タンパク質の発現が示され、2)組織解析では、TAの筋線維径が対照(Ringer)と比較して増加したことが示された。
【0101】
実施例9
全身注射後のIn Vivo生物作用能試験
AAVrh.74.tMCK.CAPN3(3E12 vg又は6E12 vg)をCAPN3-KOマウスの尾静脈を介して全身注射した後に、in vivo生物作用能試験を実施した。低用量CAPN3KOコホート(n=5;マウスはZ18-13、Z18-15、Z18-16、Z18-17、Z18-18と表示した)は、300μlの乳酸リンゲル液中3E12 vgを投与された。遺伝子注射の4週間後、マウスを、run-to-exhaustionトレッドミル試験によりランニング疲労について評価し、次いで組織採取のために安楽死させた。上肢、下肢の筋肉(TA、腓腹筋(GAS)、四頭筋、三頭筋)、心臓、肝臓、肺、脾臓、肺精巣を摘出し、組織検体をイソペンタンで凍結し、液体窒素に冷却した。
【0102】
RT-qPCRのCAPN3発現をTA筋で評価した。3E12 vg低用量では、CAPN3 mRNA発現レベルは、高CT値(>27)で観察されたように低かった。ウエスタンブロット解析では、検出不能な対応するタンパク質バンドを示した。この組織では低用量で低発現データが認められたが、3E12 vgの全身投与では機能的ベネフィットと組織学的ベネフィットの両方が示された。
【0103】
続いて、高用量(6E12 vg)を全身投与し、より高い用量のベクター送達でタンパク質発現を検出できるかどうかを調べた。高用量コホート(マウスはZ18-20、Z18-21、Z18-23、Z18-24と表記される)CAPN3-KOマウスに6E12 vg AAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクター(尾静脈への全身注射を介して低用量コホートに使用された用量の2倍)を投与し、注射の4週間後に安楽死させた。RT-qPCRでは、四頭筋、三頭筋、GAS、TA及び心筋におけるCAPN3発現の可変レベルが示された。
【0104】
CAPN3 mRNAの相対的発現を決定するために、筋肉組織試料を、tMCK.hCAPN3ベクターで治療したCAPN3 KOマウスから、3E12 vg(低用量コホート1)及び6E12 vg(高用量コホート2)の用量で採取した。全RNAを両方のコホートから単離し、マウスGAPDHに対するCAPN3のqPCRを、IM注射(1E11vg;実施例8の上記参照)を介してベクターを投与されたコホートからの以前のサンプルと共にアッセイした。
【0105】
CAPN3の相対発現は、以下の方法によって決定された:
CT=CTCAPN3-CTmGAPDH
ΔΔCT=ΔCT-ΔCTCalibrator*
CAPN3の相対発現=2-ΔΔCT
各組織におけるCAPN3の相対発現及び元のCT値を以下の表5及び図5に示す。表5は、IM送達(マウス番号Z18-11及びZ18-12)及び全身投与についてのデータを提供する。
【表5-1】
【表5-2】
【0106】
全体として、全身送達後のCAPN3 KO筋におけるCAPN3 mRNA発現は、動物及び組織特異的変動性を有し、1E11 vgでのIM送達と比較して相対的発現が低く(IM送達の<1%)、これは3E12低用量コホートで特にそうであった。したがって、全長94kDaタンパク質は、ウエスタンブロットによる検出限界未満であった。しかしながら、高用量コホートにおいて全身用量6E12 vgの全身注射の後、堅牢な遺伝子発現及び顕著な量の全長カルパイン3タンパク質が示された。
【0107】
実施例10
全身AAVrh74.tMCK.hCAPN3遺伝子送達の評価
6E12 vgでのAAVrh74.tMCK.hCAPN3の全身送達後のCAPN3 KOマウス組織試料内のベクターゲノムコピーを計算するqPCRにより遺伝子導入効率を評価した。下肢及び上肢の骨格筋(四頭筋、TA筋、gastroc、三頭筋)、心臓及び肝臓のベクターゲノム負荷を測定した。ゲノムDNAを凍結組織試料から単離した。qPCRアッセイは、以下のプライマーセットを用いてABI 7500(Applied Biosystems社)で実施した。“5’-CGGAGAGCAACTGCATAAG-3’(順方向;配列番号8);
“5’-GGCTGATGATGGCTGAATAG-3’(逆方向;配列番号9)。プライマー対は、hCAPN3 ORFの5’領域から産物を排他的に増幅し、イントロン要素の部分を含む発現ベクターに特有の下流領域を増幅する。最終結果は、ゲノムDNAのマイクログラム当たりのAAVrh74ベクターの平均コピー数として報告される。
【0108】
図6に示すように、全身ベクター送達後、肝臓に、最も高いベクターゲノムコピー数が存在した。ベクターゲノム分布は筋群間で変動した。全体的には、他の筋肉と比較して、四頭筋及び心臓組織の方が高値であった。また、実験的変動性も指摘された。マウスNo.Z18-21は、その他の3匹のマウスと比較してすべての筋群において比較的低いコピー数を示した。
【0109】
3E12 vg全身処理CAPN3 KOマウスでは、機能的特徴及び組織学的特徴の両方の改善が観察されたが、RT-qPCRにより全RNA分離株では低レベルの筋カルパイン3発現のみが検出され、特定の筋組織については、全長94kDaタンパク質はウエスタンブロットでは検出できなかった(図3Aを参照)。しかしながら、6E12 vgの全身投与の後、堅牢な遺伝子発現及び顕著な量の全長カルパイン3タンパク質が示された(図3Bを参照のこと)。データは、AAVrh74.tMCK.hCAPN3粒子の遺伝子導入の4週間後に、カルパイン3遺伝子発現がWTマウスと比較して正常レベルに戻ったことを実証している。参照遺伝子及びWT C57BL/6としてマウスGAPDHを使用してRT-qPCRデータを較正した。
【0110】
病理組織学的検査
上述のように、注射後4週目に有効性の傾向が認められた。両方のコホート(3E12及び6E12)において、投与4週間後のAAVrh.74.tMCK.hCAPN3の全身送達後、CAPN3 KOマウスからのTA筋において線維サイズの有意な増加が観察された。図7に示すように、全線維径は、未治療のKO群と比較して両方の治療コホートで有意に増加した(p<0.00001)。治療は線維サイズの正常化をもたらし、治療コホート間で用量に依存した差はなかった(p=0.78058)。表6は、3E12及び6E12 vgでの全身AAV.hCAPN3遺伝子治療後の野生型及びCAPN3 KOマウスにおける筋線維サイズを提供する。
【表6】
【0111】
いずれのコホートでも、4週目のAAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクターの全身投与後の心臓毒性の病理組織学的エビデンスはなかった。心臓組織には様々な量のウイルスが認められたが、いずれのコホートでも、ウエスタンブロットにより心臓組織中にタンパク質バンドは検出されなかった。
【0112】
機能性調査:Run-to-Exhaustion試験
Run-to-Exhaustion試験のためのデータ収集前に、マウス15分間のランニングを1日1回10m/分で3日間、トレッドミル(Columbus Instruments社)に馴化した。使用したプロトコルでは、15度の傾斜のトレッドミルにマウスを乗せる必要があった。トレッドミルを1m/分の速度でオンにし、マウスが消耗するまで毎分1mずつ速度を上げた。マウスが少なくとも15秒間、安静パッド上に座ったときに、疲労を判定した。時間、速度及び消耗までの距離を記録した。
【0113】
図8Aは、3E12 vgのAAVrh.7.4.tMCK.hCAPN3を投与された低用量コホート、及び6E12 vgのAAVrh.7.4.tMCK.hCAPN3を全身投与の4週間後に投与された低用量コホートのRun-to-Exhaustion試験のデータを提供する。両コホートの治療を受けたCAPN3 KOマウスは、未治療のマウスと比較して、Run-to-Exhastion試験でより良く遂行した。低用量コホートと高用量コホートの間では、Run-to-Exhastion試験の性能に明らかな用量に依存した差は認められず、筋線維径に統計学的な差も認められなかった。
【0114】
高用量コホート2(n=16)からのマウスをさらに、AAVrh7.4.tMCK.hCAPN3の6E12 vgの投与の20~24週間後に分析した。図8Bに示されるように、治療を受けたCAPN3 KOマウスは、未治療のマウスと比較して、Run-to-Exhastion試験でより良く遂行し続けた(p<0.00001)。
【0115】
実施例11
AAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクターの全身注射後の心臓毒性の評価
コホートのマウスを投与後4週に安楽死させた後、血清及び臓器試料を採取した。低用量コホート1のCAPN3KOコホート(n=5)に、尾静脈注射を介してAAVrh.74.tMCK.hCAPN3ベクターの300μlの乳酸リンゲル液の3E12 vgを投与した。高用量コホート2CAPN3-KOマウスに、6E12 vgのAAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクターを尾静脈を介して投与し、両コホートを注射の4週間後に安楽死させた。心室の心尖部、浅層及び深層部の二つの切片を検査した。組織切片に炎症、壊死又は再生は見つからず、注射の4週間後の二つの異なる用量でのAAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクターの全身送達から、心筋に毒性作用が観察されなかったことを示す。マウス番号Z18-19及びZ18-22(乳酸リンゲル液を注射/未処置)は対照KO動物として用いた。図9は、H&E染色した心臓からの新鮮な凍結切片を提供する。筋線維壊死、再生、炎症は認められなかった。心臓組織に様々な量のウイルスが存在したが、いずれのコホートでもウエスタンブロットによりタンパク質バンドは検出されなかった。図10は、完全長カルパイン3タンパク質が、形質導入後の心臓組織における検出限界未満であることを示すウエスタンブロット分析を提供する。
【0116】
実施例12
In Vivo生理学的分析
生理学的評価は、AAVrh7.4.tMCK.hCAPN3ベクターのIM又は全身投与後に実施される。in vivo生理学的評価中、マウスは吸入イソフルランで麻酔される。動物が麻酔されると、クリッパーで必要に応じて背部及び後肢の毛が除去される。クリッパーで脱毛が不十分な場合は、脱毛クリームを薄く塗布する。in vivo生理学的力測定では、坐骨神経に最大上刺激を与えた後に、後肢のトルクを運動性を検出力に接続された非侵襲的力のフットプレート(Aurora Scientific、Canada)で測定した。測定する後肢は、粘着テープでフットプレートに固定する。肢を鈍的クランプで堅く固定する。坐骨神経の脛骨又は腓骨成分の何れかを、神経の近くの皮膚に皮下に挿入される二つの滅菌された使い捨ての28ゲージ単極電極で刺激する。マウスの体温は、伝導性温度調節加熱パッド(37℃に設定)又は放射熱源により維持され、赤外線温度プローブにより監視される。
【0117】
本開示は特定の実施形態を提供するが、当業者に変形及び修正がなされることが理解される。したがって、特許請求の範囲に記載されるような制限のみが、本発明になされるべきである。
【0118】
本出願に言及されるすべての文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
【配列表】
0007507697000001.app