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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20240621BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20240621BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240621BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
F02D13/02 J
F02D15/02 A
F02D43/00 301S
F02D43/00 301Z
F02B25/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021003736
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108631
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】523216148
【氏名又は名称】株式会社三井E&S DU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 敬之
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-183480(JP,A)
【文献】特開2019-157845(JP,A)
【文献】特開2014-005817(JP,A)
【文献】特開2019-157843(JP,A)
【文献】特表2013-510261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に収容されたピストンと、
前記ピストンに面する燃焼室と、
前記燃焼室と連通する排気ポートと、
前記排気ポートに設けられる排気弁と、
前記シリンダのうち前記ピストンの下死点側に設けられる掃気ポートと、
前記ピストンの上死点位置をストローク方向に移動させる圧縮比可変機構と、
前記上死点位置に基づいて、前記排気弁の開弁タイミングを制御する排気弁制御部と、
を備え
前記排気弁制御部は、前記開弁タイミングにおける前記シリンダ内での前記ピストンの前記ストローク方向の位置が前記上死点位置によらずに維持されるように、前記開弁タイミングを制御する、
エンジン。
【請求項2】
前記排気弁制御部は、前記上死点位置が前記掃気ポートから遠くなるほど遅角するように、前記開弁タイミングを制御する、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記排気弁制御部は、前記上死点位置が目標位置に向かって時間経過に伴い変化する間、前記上死点位置の変化に伴って前記開弁タイミングを変化させる、
請求項1または2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記排気弁制御部は、前記燃焼室内から前記掃気ポートを介して排気ガスが逆流するブローバックが生じているか否かを判定し、前記ブローバックの判定結果に基づいて前記開弁タイミングを調整する、
請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等に用いられるエンジンとして、例えば、特許文献1に開示されているように、クロスヘッド型の2ストロークのエンジンがある。このようなエンジンでは、シリンダのうちピストンの下死点側に設けられる掃気ポートからシリンダ内に空気等の活性ガスが吸入される。燃焼室と連通する排気ポートに設けられる排気弁が開弁することによって、シリンダ内の排気ガスが排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-020375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンに関する分野では、ノッキングを抑制しつつエンジンの効率を向上させる目的で、エンジンの圧縮比を可変とする技術が利用されている。上述したクロスヘッド型の2ストロークのエンジンにおいても、圧縮比を可変とする技術を有効に利用し、エンジンの効率を向上させることが望まれている。
【0005】
本開示の目的は、エンジンの効率を向上させることが可能なエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のエンジンは、シリンダと、シリンダ内に収容されたピストンと、ピストンに面する燃焼室と、燃焼室と連通する排気ポートと、排気ポートに設けられる排気弁と、シリンダのうちピストンの下死点側に設けられる掃気ポートと、ピストンの上死点位置をストローク方向に移動させる圧縮比可変機構と、上死点位置に基づいて、排気弁の開弁タイミングを制御する排気弁制御部と、を備え、排気弁制御部は、開弁タイミングにおけるシリンダ内でのピストンのストローク方向の位置が上死点位置によらずに維持されるように、開弁タイミングを制御する
【0007】
排気弁制御部は、上死点位置が掃気ポートから遠くなるほど遅角するように、開弁タイミングを制御してもよい。
【0008】
排気弁制御部は、上死点位置が目標位置に向かって時間経過に伴い変化する間、上死点位置の変化に伴って開弁タイミングを変化させてもよい。
【0010】
排気弁制御部は、燃焼室内から掃気ポートを介して排気ガスが逆流するブローバックが生じているか否かを判定し、ブローバックの判定結果に基づいて開弁タイミングを調整してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、エンジンの効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施形態に係るエンジンの全体構成を示す模式図である。
図2図2は、本開示の実施形態に係るピストンロッドとクロスヘッドピンとの連結部分を抽出した抽出図である。
図3図3は、本開示の実施形態に係るエンジンの機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、本開示の実施形態に係る排気弁の開弁タイミング、および、エンジンの圧縮比の推移の一例を示すグラフである。
図5図5は、本開示の実施形態に係る排気弁の開弁タイミングにおけるシリンダ内でのピストンのストローク方向の位置について説明するための模式図である。
図6図6は、本開示の実施形態に係る制御装置が行う排気弁の開弁タイミングの制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、エンジン100の全体構成を示す説明図である。エンジン100は、クロスヘッド型の2ストロークのエンジンである。エンジン100は、例えば、船舶等に搭載される。図1に示すように、エンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、ピストンロッド114と、クロスヘッド116と、連接棒118と、クランクシャフト120と、フライホイール122と、シリンダカバー124と、排気弁箱126と、燃焼室128と、排気弁130と、排気弁駆動装置132と、排気管134と、掃気溜136と、冷却器138と、シリンダジャケット140と、燃料噴射弁142とを備える。
【0015】
シリンダ110内にピストン112が収容される。ピストン112は、シリンダ110内を往復移動する。ピストン112のストローク方向は、シリンダ110の軸方向(図1中では上下方向)と一致する。ピストン112には、ピストンロッド114の一端が取り付けられている。ピストンロッド114の他端には、クロスヘッド116のクロスヘッドピン150が連結される。クロスヘッド116は、ピストン112とともに往復移動する。ガイドシュー116aによって、ピストン112のストローク方向に垂直な方向(図1中では左右方向)でのクロスヘッド116の移動が規制される。
【0016】
クロスヘッドピン150は、連接棒118の一端に設けられたクロスヘッド軸受118aに軸支される。クロスヘッドピン150は、連接棒118の一端を支持している。ピストンロッド114の他端と連接棒118の一端は、クロスヘッド116を介して接続される。
【0017】
連接棒118の他端は、クランクシャフト120に連結される。連接棒118に対してクランクシャフト120が回転可能である。ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド116が往復移動すると、クランクシャフト120が回転する。クランクシャフト120には、フライホイール122が取り付けられる。フライホイール122の慣性によってクランクシャフト120等の回転が安定化する。
【0018】
シリンダカバー124は、シリンダ110の上端に設けられる。シリンダカバー124には、排気弁箱126が挿通される。排気弁箱126の一端は、ピストン112に臨んでいる。排気弁箱126には、排気ポート126aが形成されている。排気ポート126aは、排気弁箱126の一端に開口する。排気ポート126aは、燃焼室128と連通する。燃焼室128は、ピストン112の冠面に面する。燃焼室128は、シリンダカバー124とシリンダ110とピストン112に囲繞されてシリンダ110の内部に形成される。
【0019】
燃焼室128には、排気弁130の弁体が位置する。排気弁130は、排気ポート126aに設けられる。排気弁130は、排気ポート126aを開閉する。排気弁130のロッド部には、排気弁駆動装置132が取り付けられる。排気弁駆動装置132は、排気弁箱126に配される。排気弁駆動装置132は、排気弁130をピストン112のストローク方向に移動させる。排気弁駆動装置132は、例えば、油圧等によって駆動される。
【0020】
排気弁130がピストン112側に移動して開弁すると、排気ポート126aが開放される。それにより、燃焼室128内で生じた燃焼後の排気ガスが、排気ポート126aから排気される。排気後、排気弁130が排気弁箱126側に移動して閉弁すると、排気ポート126aが閉鎖される。
【0021】
排気管134は、排気弁箱126および過給機Cに取り付けられる。排気管134の内部は、排気ポート126aおよび過給機Cのタービン(不図示)に連通する。排気ポート126aから排気された排気ガスは、排気管134を通って過給機Cのタービンに供給された後、外部に排気される。
【0022】
過給機Cのコンプレッサ(不図示)によって、活性ガスが加圧される。活性ガスは、例えば、空気である。加圧された活性ガスは、掃気溜136において、冷却器138によって冷却される。シリンダ110の下端は、シリンダジャケット140で囲繞される。シリンダジャケット140の内部には、掃気室140aが形成される。冷却後の活性ガスは、掃気室140aに圧入される。
【0023】
シリンダ110の下端側(つまり、シリンダ110のうちピストン112の下死点側)には、掃気ポート110aが設けられる。掃気ポート110aは、シリンダ110の内周面から外周面まで貫通する孔である。掃気ポート110aは、シリンダ110の周方向に離隔して複数設けられている。
【0024】
ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に移動すると、掃気室140a内と燃焼室128内の差圧によって、掃気室140aから掃気ポート110aを介して燃焼室128内に活性ガスが吸入される。掃気室140a内には、温度センサ140bが設けられている。温度センサ140bは、掃気室140a内の温度を検出する。
【0025】
シリンダカバー124には、燃料噴射弁142が設けられる。燃料噴射弁142の先端は燃焼室128側に向けられる。燃料噴射弁142は、燃焼室128に液体燃料(例えば、燃料油)を噴出する。液体燃料が燃焼し、その膨張圧によってピストン112が往復移動する。
【0026】
図2は、ピストンロッド114とクロスヘッドピン150との連結部分を抽出した抽出図である。図2に示すように、クロスヘッドピン150のうち、ピストン112側の外周面には、平面部152が形成される。平面部152は、ピストン112のストローク方向に対して、大凡垂直な方向に延在する。
【0027】
クロスヘッドピン150には、ピン穴154が形成される。ピン穴154は、平面部152に開口する。ピン穴154は、平面部152からストローク方向に沿ってクランクシャフト120側(図2中では下側)に延在する。
【0028】
クロスヘッドピン150の平面部152には、カバー部材160が設けられる。カバー部材160は、締結部材162によってクロスヘッドピン150の平面部152に取り付けられる。カバー部材160は、ピン穴154を覆う。カバー部材160には、ストローク方向に貫通するカバー孔160aが設けられる。
【0029】
ピストンロッド114は、大径部114aおよび小径部114bを有する。大径部114aの外径は、小径部114bの外径よりも大きい。大径部114aは、ピストンロッド114の他端に形成される。大径部114aは、クロスヘッドピン150のピン穴154に挿通される。小径部114bは、大径部114aよりピストンロッド114の一端側に形成される。小径部114bは、カバー部材160のカバー孔160aに挿通される。
【0030】
油圧室154aは、ピン穴154の内部に形成される。ピン穴154は、大径部114aによってストローク方向に仕切られる。油圧室154aは、大径部114aで仕切られたピン穴154の底面154b側の空間である。
【0031】
底面154bには、油路156の一端が開口する。油路156の他端は、クロスヘッドピン150の外部に開口する。油路156の他端には、油圧配管170が接続される。油圧配管170には、油圧ポンプ172が連通する。油圧ポンプ172と油路156との間に逆止弁174が設けられる。逆止弁174によって油路156側から油圧ポンプ172側への作動油の流れが抑制される。油圧ポンプ172から油路156を介して油圧室154aに作動油が圧入される。
【0032】
油圧配管170のうちの油路156と逆止弁174の間の部分には、分岐配管176が接続される。分岐配管176には、切換弁178が設けられる。切換弁178は、例えば、電磁弁である。油圧ポンプ172の作動中、切換弁178は閉弁する。油圧ポンプ172の停止中、切換弁178が開弁すると、油圧室154aから分岐配管176側に作動油が排出される。切換弁178のうち、油路156と反対側は、不図示のオイルタンクに連通する。排出された作動油は、オイルタンクに貯留される。オイルタンクに貯留された作動油は、油圧ポンプ172に供給される。
【0033】
油圧室154aの作動油の油量に応じて、大径部114aがストローク方向にピン穴154の内周面を摺動する。その結果、ピストンロッド114がストローク方向に移動する。ピストン112は、ピストンロッド114と一体に移動する。こうして、ピストン112の上死点位置が可変となる。
【0034】
すなわち、エンジン100は、圧縮比可変機構Vを備える。圧縮比可変機構Vは、上記の油圧室154aと、ピストンロッド114の大径部114aと、油圧ポンプ172と、切換弁178とを含む。圧縮比可変機構Vは、ピストン112の上死点位置をストローク方向に移動させることで、圧縮比を可変とする。
【0035】
ここでは、一つの油圧室154aが設けられる場合について説明した。ただし、大径部114aで仕切られたピン穴154のうち、カバー部材160側の空間154cも油圧室としてもよい。この油圧室は、油圧室154aと併用されても、単独で用いられてもよい。
【0036】
油圧室154a内には、位置センサ154dが設けられる。位置センサ154dは、クロスヘッドピン150に対するピストンロッド114のストローク方向の相対位置を検出する。位置センサ154dは、例えば、ピン穴154の底面154bとピストンロッド114の大径部114aにより挟まれた状態でストローク方向に伸縮する接触式のセンサである。
【0037】
図3は、エンジン100の機能構成を示すブロック図である。図3に示すように、エンジン100は、制御装置180を備える。制御装置180は、例えば、ECU(Engine Control Unit)である。制御装置180は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含み、エンジン100全体を制御する。制御装置180は、圧縮比制御部182と、排気弁制御部184とを含む。
【0038】
圧縮比制御部182は、ピストン112の上死点位置をストローク方向に移動させることによって、エンジン100の圧縮比を制御する。具体的には、圧縮比制御部182は、圧縮比可変機構Vの油圧ポンプ172および切換弁178の動作を制御することによって、ピストン112の上死点位置を移動させる。それにより、エンジン100の幾何的な圧縮比が制御される。圧縮比制御部182は、エンジン100の負荷に応じて、圧縮比を制御する。例えば、圧縮比制御部182は、エンジン100の負荷が小さいほど大きくなるように圧縮比を制御する。それにより、ノッキングが抑制されつつ、エンジン100の効率が高められる。
【0039】
排気弁制御部184は、排気弁130の開閉動作を制御する。具体的には、排気弁制御部184は、排気弁駆動装置132の動作を制御することによって、排気弁130の開閉動作を制御する。
【0040】
制御装置180は、温度センサ140bおよび位置センサ154dから検出結果を取得することができる。温度センサ140bおよび位置センサ154dから取得された情報は、後述するように、排気弁制御部184が行う処理において用いられる。
【0041】
本実施形態では、排気弁制御部184は、エンジン100の圧縮比に基づいて(つまり、ピストン112の上死点位置に基づいて)、排気弁130の開弁タイミングを制御する。排気弁130は、ピストン112の下降中において、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達するより前に(具体的には、ピストン112の冠面が掃気ポート110aの上端より下死点側に到達し、燃焼室128と掃気ポート110aとが連通するより前に)開弁する。排気弁130の開弁タイミングは、エンジン100の燃焼サイクルにおいて排気弁130が開弁するタイミングであり、クランク角によって表される。
【0042】
排気弁制御部184は、例えば、位置センサ154dの検出結果に基づいて、エンジン100の圧縮比を特定することができる。ただし、エンジン100の圧縮比は、他の方法によって特定されてもよい。例えば、シリンダ110内でのピストン112のストローク方向の位置を検出するセンサを利用することにより、ピストン112のストローク方向の位置とクランク角との関係に基づいて圧縮比が特定されてもよい。
【0043】
図4は、排気弁130の開弁タイミング、および、エンジン100の圧縮比の推移の一例を示すグラフである。図4の横軸は、時間[s]を示す。図4の縦軸は、排気弁130の開弁タイミング[deg]とエンジン100の圧縮比を示す。図4に示すように、排気弁制御部184は、圧縮比が高いほど遅角するように(つまり、ピストン112の上死点位置が掃気ポート110aから遠くなるほど遅角するように)、排気弁130の開弁タイミングを制御する。
【0044】
図4の例では、時点T1以前において、圧縮比が比率R1となっている。ゆえに、時点T1以前において、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを、比率R1と対応するクランク角θ1に制御する。
【0045】
圧縮比制御部182は、例えば、エンジン100の負荷に応じて目標圧縮比(つまり、圧縮比の目標値)を決定し、圧縮比を目標圧縮比になるように制御する。なお、圧縮比が目標圧縮比となるようなピストン112の上死点位置を目標位置と呼ぶ。図4の例では、時点T1において、目標圧縮比が比率R1から比率R2に切り替わる。比率R2は、比率R1よりも高い。時点T1において、圧縮比制御部182は、圧縮比を比率R1から比率R2に向けて増大させ始める。時点T1から時点T2までの期間において、圧縮比は、目標圧縮比である比率R2に向かって時間経過に伴って徐々に増大する。つまり、ピストン112の上死点位置が目標位置に向かって時間経過に伴い徐々に変化する。
【0046】
時点T1から時点T2までの期間において、排気弁制御部184は、圧縮比の変化に伴って(つまり、ピストン112の上死点位置の変化に伴って)、排気弁130の開弁タイミングを変化させる。具体的には、上記期間において、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングをクランク角θ1から比率R2と対応するクランク角θ2に向けて時間経過に伴って徐々に変化させる。クランク角θ2は、クランク角θ1よりも大きい。つまり、上記期間において、排気弁130の開弁タイミングを表すクランク角は、時間経過に伴って徐々に増大する。
【0047】
時点T2において、圧縮比は、比率R2に到達する。時点T2以後において、圧縮比は、比率R2に維持される。時点T2において、排気弁130の開弁タイミングは、クランク角θ2に到達する。時点T2以後において、排気弁130の開弁タイミングは、クランク角θ2に維持される。これにより、圧縮比の変更、および、圧縮比の変更に伴う排気弁130の開弁タイミングの変更が完了する。
【0048】
図5は、排気弁130の開弁タイミングにおけるシリンダ110内でのピストン112のストローク方向の位置について説明するための模式図である。図5中で実線により示すように、排気弁130の開弁タイミングにおいて、ピストン112は、シリンダ110内で下死点側(図5中の下側)に位置する。この際、ピストン112の冠面が掃気ポート110aの上端よりも上死点側に位置しているので、燃焼室128と掃気ポート110aとは連通していない。
【0049】
ここで、圧縮比が高くなるように変更された際に、仮に、排気弁130の開弁タイミングが変更されない場合、排気弁130の開弁タイミングにおけるシリンダ110内でのピストン112のストローク方向の位置は、図5中で破線により示すように、上死点側に移動する。
【0050】
本実施形態では、上述したように、排気弁制御部184は、エンジン100の圧縮比に基づいて(つまり、ピストン112の上死点位置に基づいて)、排気弁130の開弁タイミングを制御する。具体的には、排気弁制御部184は、圧縮比が高いほど遅角するように(つまり、ピストン112の上死点位置が掃気ポート110aから遠くなるほど遅角するように)、排気弁130の開弁タイミングを制御する。ゆえに、排気弁制御部184は、圧縮比が高くなるように変更された際に、排気弁130の開弁タイミングを遅角させる。それにより、圧縮比が高くなるように変更された際に、排気弁130の開弁タイミングにおけるシリンダ110内でのピストン112のストローク方向の位置が上死点側に移動することが抑制される。ゆえに、ピストン112の下降中に膨張行程が行われる期間が長く確保される。よって、エンジン100から出力されるエネルギが増大するので、エンジン100の効率が向上する。
【0051】
特に、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングにおけるシリンダ110内でのピストン112のストローク方向の位置が圧縮比によらずに(つまり、ピストン112の上死点位置によらずに)維持されるように、排気弁130の開弁タイミングを制御することが好ましい。それにより、例えば、図5の例では、圧縮比が高くなるように変更された際に、排気弁130の開弁タイミングにおけるシリンダ110内でのピストン112のストローク方向の位置が、図5中で実線により示す位置に維持される。ゆえに、ピストン112の下降中に膨張行程が行われる期間がより長く確保されるので、エンジン100の効率がより向上する。
【0052】
なお、ピストン112のストローク方向の位置が圧縮比によらずに維持されることは、圧縮比の変更の前後において上記位置が厳密に一致することに限定されない。例えば、ピストン112のストローク方向の位置が圧縮比によらずに維持されることは、圧縮比の変更の前後において上記位置が厳密には一致しないものの所定範囲内に収まることを含む。
【0053】
特に、排気弁制御部184は、圧縮比が目標圧縮比に向かって時間経過に伴い変化する間、圧縮比の変化に伴って排気弁130の開弁タイミングを変化させることが好ましい。つまり、排気弁制御部184は、ピストン112の上死点位置が目標位置に向かって時間経過に伴い変化する間、ピストン112の上死点位置の変化に伴って排気弁130の開弁タイミングを変化させることが好ましい。それにより、圧縮比が目標圧縮比に向かって時間経過に伴い変化する間においても、ピストン112の下降中に膨張行程が行われる期間が長く確保されるので、エンジン100の効率がより向上する。
【0054】
図6は、制御装置180が行う排気弁130の開弁タイミングの制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。図6に示す処理フローは、例えば、設定時間間隔で繰り返し実行される。
【0055】
図6に示す処理フローが開始すると、ステップS101において、排気弁制御部184は、圧縮比が変更されたか否かを判定する。例えば、排気弁制御部184は、今回の処理フローでの圧縮比が前回の処理フローでの圧縮比と比べて所定値以上変化している場合、圧縮比が変更されたと判定する。
【0056】
圧縮比が変更されたと判定された場合(ステップS101/YES)、ステップS102において、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを変更する。具体的には、圧縮比が高くなるように変更された場合、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを遅角させる。圧縮比が低くなるように変更された場合、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを進角させる。一方、圧縮比が変更されていないと判定された場合(ステップS101/NO)、ステップS103において、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを維持する。
【0057】
ステップS102またはステップS103の次に、ステップS104において、排気弁制御部184は、ブローバックが生じているか否かを判定する。
【0058】
掃気ポート110aから燃焼室128内への活性ガスの吸入は、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達した際に(具体的には、ピストン112の冠面が掃気ポート110aの上端より下死点側に到達し、燃焼室128と掃気ポート110aとが連通した際に)、掃気室140a内の圧力が燃焼室128内の圧力よりも高いことを条件に実現される。ここで、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達した際に、燃焼室128内の圧力が掃気室140a内の圧力よりも高い場合、燃焼室128内から掃気ポート110aを介して掃気室140aに排気ガスが逆流する。つまり、ブローバックが生じる。
【0059】
ステップS104では、排気弁制御部184は、掃気室140a内の温度に基づいて、ブローバックが生じているか否かを判定する。例えば、排気弁制御部184は、掃気室140a内の温度が基準温度より高い場合、ブローバックが生じていると判定する。基準温度は、掃気室140aへの排気ガスの逆流によって掃気室140a内の温度が上昇した場合に想定される程度に高い温度に設定される。排気弁制御部184は、例えば、温度センサ140bの検出結果に基づいて、掃気室140a内の温度を特定することができる。
【0060】
ただし、ブローバックが生じているか否かの判定は、上記以外の方法によって実現されてもよい。例えば、排気弁制御部184は、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達した際の掃気室140a内の圧力、および、燃焼室128内の圧力に基づいて、ブローバックが生じているか否かを判定してもよい。排気弁制御部184は、燃焼室128内の圧力が掃気室140a内の圧力よりも高い場合、ブローバックが生じていると判定する。
【0061】
ステップS104でYESと判定された場合(つまり、ブローバックが生じていると判定された場合)、ステップS105において、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを進角させ、図6に示す処理フローは終了する。それにより、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達した際の燃焼室128内の圧力を低くすることができる。ゆえに、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達した際に燃焼室128内の圧力が掃気室140a内の圧力よりも高くなることが抑制される。よって、ブローバックが抑制される。
【0062】
一方、ステップS104でNOと判定された場合(つまり、ブローバックが生じていないと判定された場合)、ステップS106において、排気弁制御部184は、排気弁130の開弁タイミングを遅角させ、図6に示す処理フローは終了する。それにより、ピストン112の下降中に膨張行程が行われる期間がより長く確保される。ゆえに、エンジン100の効率がより向上する。
【0063】
上記のように、排気弁制御部184は、燃焼室128内から掃気ポート110aを介して掃気室140aに排気ガスが逆流するブローバックが生じているか否かを判定し、ブローバックの判定結果に基づいて排気弁130の開弁タイミングを調整してもよい。それにより、ブローバックが抑制されつつ、エンジン100の効率がより向上する。
【0064】
なお、排気弁制御部184は、上記で説明したパラメータ以外のパラメータをさらに用いて、排気弁130の開弁タイミングを制御してもよい。例えば、排気弁制御部184は、エンジン100の回転数に基づいて、排気弁130の開弁タイミングを制御してもよい。ピストン112の下降中において、エンジン100の回転数が高いほど、燃焼室128内の圧力は減少しにくくなる。ゆえに、排気弁制御部184は、例えば、エンジン100の回転数が高いほど進角するように、排気弁130の開弁タイミングを調整する。それにより、ピストン112が掃気ポート110aより下死点側に到達した際に燃焼室128内の圧力が掃気室140a内の圧力よりも高くなることが抑制される。よって、ブローバックが抑制される。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
本開示は、エンジンの効率の向上を促進するので、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」および目標13「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 エンジン
110 シリンダ
110a 掃気ポート
112 ピストン
126a 排気ポート
128 燃焼室
130 排気弁
184 排気弁制御部
V 圧縮比可変機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6