(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】転写用紙
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20240621BHJP
D21H 19/82 20060101ALI20240621BHJP
D21H 19/38 20060101ALI20240621BHJP
D06P 5/28 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B41M5/52 110
D21H19/82
D21H19/38
D06P5/28
(21)【出願番号】P 2021030384
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 巨訓
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 香奈子
(72)【発明者】
【氏名】下之段 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-313787(JP,A)
【文献】特開2008-246962(JP,A)
【文献】特開2008-137369(JP,A)
【文献】特開2019-194384(JP,A)
【文献】国際公開第2010/101131(WO,A1)
【文献】特開2009-127132(JP,A)
【文献】特開2010-100039(JP,A)
【文献】特開2018-062124(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217274(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙と、前記原紙の片面に対して1層又は2層以上の表塗工層と、前記片面に対する前記原紙の反対面に裏塗工層とを有し、前記表塗工層において原紙を基準として最外に位置する最外表塗工層が無機顔料として焼成カオリン、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを少なくとも含有し、前記裏塗工層が無機顔料としてカオリン及び重質炭酸カルシウム並びにバインダーとして澱粉類を少なくとも含有し、前記表塗工層が転写に使用する面になる、転写捺染法に使用する転写用紙。
【請求項2】
前記カオリンが、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下である請求項1に記載の転写用紙。
【請求項3】
前記重質炭酸カルシウムが、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度90体積%以上である請求項1に記載の転写用紙。
【請求項4】
前記カオリンが、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下であり、前記重質炭酸カルシウムが、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度90体積%以上である請求項1に記載の転写用紙。
【請求項5】
前記澱粉類が、尿素燐酸エステル化澱粉である請求項1~4のいずれかに記載の転写用紙。
【請求項6】
裏塗工層において、カオリン及び重質炭酸カルシウムの合計含有量100質量部に対して前記尿素燐酸エステル化澱粉の含有量が24質量部以上40質量部以下である請求項5に記載の転写用紙。
【請求項7】
裏塗工層において、カオリン及び重質炭酸カルシウムの合計含有量100質量部に対して前記澱粉類の含有量が24質量部以上40質量部以下である請求項1に記載の転写用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料等の被印刷物へ図柄を形成する昇華型捺染インク等の捺染インクを用いる転写捺染法において、図柄を転写するために使用する転写用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
転写捺染法に使用する転写用紙では、例えば、基材上に昇華型捺染インク受容層を有し、前記昇華型捺染インク受容層が水溶性樹脂と微細粒子を含有し、前記水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを前記微細粒子100重量部に対し1~200重量部及びカルボキシメチルセルロースを前記微細粒子100重量部に対し100~400重量部の割合で含有し、前記微細粒子として合成非晶質シリカを含有することを特徴とする昇華型インクジェット捺染転写紙が公知である(例えば、特許文献1参照)。
上記昇華型インクジェット捺染転写紙は、昇華型捺染インクを用いたインクジェット印刷において、優れたインク吸収・乾燥性を有しており作業性が良好であるとともに、転写紙表面での画像再現性、加熱転写時の耐熱性、転写後の被転写物表面での画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を有する。ここで、特許文献1の転写効率は、転写画像の解像性、転写画像濃度レベル、及び転写画像の均一性に関する。
【0003】
基材と、前記基材の表面上に設けられた昇華型捺染インク受容層と、前記基材の裏面上に設けられたバックコート層とを有し、前記昇華型捺染インク受容層は、水溶性樹脂と微細粒子とを含有し、前記微細粒子は合成非晶質シリカであり、前記バックコート層が水溶性樹脂を含有し、当該水溶性樹脂として少なくともポリエチレングリコールを含有し、昇華型インクジェット捺染転写紙の伸縮率が、縦方向0.7%以下、横方向0.5%以下である昇華型インクジェット捺染転写紙が公知である(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の昇華型インクジェット捺染転写紙では、昇華型捺染インクを用いて印刷をした際に波打ちが発生し難く、また、加熱転写時の伸縮変動も抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4413979号公報
【文献】特開2010-089343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような、転写時に被印刷物と密着する塗工層が非晶質シリカ、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを含有する転写用紙は、インク吸収・乾燥性を有し、及び転写紙表面での画像再現性が良好である。これは、多孔質な無機顔料である非晶質シリカに起因する。一方で、塗工層が非晶質シリカを含有する転写用紙は、被印刷物に対して上手く密着できる特性が悪化又は転写能が悪化する場合がある。ここで、転写能は、転写紙から被印刷物へ色材の転写のし易さに関する。転写能が良いとは、転写時のエネルギー量が一定であれば短時間で転写が進行する、又は転写時の時間が一定であれば少ないエネルギー量で転写が進行する意味である。これは、解像度等を判断する特許文献1の上記転写効率とは異なる。密着できる特性が悪化すると、転写過程において紙の浮き又は位置ズレが発生して被印刷物に形成される図柄の画質は低下する。転写能が悪化すると、転写過程において捺染インク中の色材を転写するには相対的に大きいエネルギーが必要になる。また、転写能が悪化するとば、同じ温度条件で転写する場合では相対的に長い時間を要する。
【0006】
また、例えば、転写時に被印刷物と密着する塗工層がカルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールから成る樹脂層である転写用紙は、転写過程において前記塗工層が熱収縮する場合がある。転写紙と被印刷物とが密着した状態であって被印刷物に対して転写紙の塗工層が熱収縮すると、被印刷物に形成された本来の図柄の輪郭に沿って別の極薄い輪郭線が発生する。よって、転写用紙には、熱収縮を抑える品質が必要である。
【0007】
転写は、転写紙と被印刷物との密着状態に対して加熱又は加熱加圧によって行われる。
特許文献2の昇華型インクジェット捺染転写紙は、基本的に、上記バックコート層を設けることによって波打ちの発生及び加熱転写時の伸縮変動を抑制する。
また、特許文献2では、昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェット印刷をする際にインクが転写紙の裏面に抜けてしまう、いわゆる裏抜けを防止することができる。すなわち特許文献2に記載の「裏抜け」はインクジェット印刷時の現象であって、転写捺染時の現象ではない。転写捺染法では、転写捺染時に色材が裏抜けする特有の問題がある。この「色材の裏抜け」は、転写時に色材が、転写紙に留まらずに転写紙の裏面(被印刷物が密着する面の反対側)から、例えば昇華して抜ける現象である。色材の裏抜けは、抜けた色材が転写装置及び被印刷物を汚染する。また、抜けた色材はロスになる。色材のロスは、転写能及び被印刷物に形成される図柄の発色にも悪影響する。通常は、コストアップになるものの、色材のロスを考慮して捺染インクの濃度を上げて転写用紙に図柄を形成する。色材の裏抜けは、最外表塗工層が、最外表塗工層を形成する成分において無機顔料がバインダーよりも多く含有する塗工層である場合に、顕著になる。
【0008】
上記を鑑みて本発明の目的は下記の項目を有する転写用紙を提供することである。
(1)転写紙において波打ちの発生を抑制できること(耐波打ち性)。
(2)転写紙において被印刷物に対して上手く密着できる特性を有すること。
(3)転写紙において転写能が良好であること。
(4)転写紙において耐熱性を有すること。
(5)転写紙において色材の裏抜けを抑制できること(耐裏抜け性)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明の目的は、以下により達成される。
【0010】
[1]原紙と、前記原紙の片面に対して1層又は2層以上の表塗工層と、前記片面に対する前記原紙の反対面に裏塗工層とを有し、前記表塗工層において原紙を基準として最外に位置する最外表塗工層が無機顔料として焼成カオリン、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを少なくとも含有し、前記裏塗工層が無機顔料としてカオリン及び重質炭酸カルシウム並びにバインダーとして澱粉類を少なくとも含有し、前記表塗工層が転写に使用する面になる、転写捺染法に使用する転写用紙。
【0011】
[2]上記カオリンが、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下である上記[1]に記載の転写用紙。
【0012】
[3]上記重質炭酸カルシウムが、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度90体積%以上である上記[1]に記載の転写用紙。
【0013】
[4]上記カオリンが、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下であり、上記重質炭酸カルシウムが、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度90体積%以上である上記[1]に記載の転写用紙。
【0014】
[5]上記澱粉類が、尿素燐酸エステル化澱粉である上記[1]~[4]のいずれかに記載の転写用紙。
【0015】
[6]裏塗工層において、カオリン及び重質炭酸カルシウムの合計含有量100質量部に対して上記尿素燐酸エステル化澱粉の含有量が24質量部以上40質量部以下である上記[5]に記載の転写用紙。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐波打ち性を有し、被印刷物に対して上手く密着できる特性を有し、転写能が良好であり、耐熱性を有し、及び耐裏抜け性を有する転写用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、「転写用紙」とは、転写する図柄が印刷される前の白紙状態にある用紙を指す。「転写紙」とは、転写用紙に対して転写する図柄が印刷された状態にある用紙を指す。
【0018】
転写用紙は、原紙と、前記原紙の片面に対して1層又は2層以上の表塗工層と、前記表塗工層に対する原紙の反対面に裏塗工層とを有する。
原紙は、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)等の化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)等の機械パルプ、及びDIP(DeInked Pulp)等の古紙パルプから選ばれる一種又は二種以上のパルプを分散したスラリーに、炭酸カルシウム、タルク、クレー及び各種カオリン等から選ばれる填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化剤、紙力剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤並びに耐水化剤等の各種添加剤を必要に応じて配合した紙料を抄造して得られる抄造紙から成る。さらに原紙には、前記抄造紙にカレンダー処理、澱粉及びスチレンアクリル系樹脂等で表面サイズ処理若しくは表面処理等を施した上質紙が含まれる。さらに原紙には、表面サイズ処理又は表面処理を施した後にカレンダー処理した上質紙が含まれる。
【0019】
抄造は、紙料を酸性、中性又はアルカリ性に調整して、従来公知の抄紙機を用いて行われる。抄紙機の例としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機等を挙げることができる。
カレンダー処理は、従来公知のカレンダー処理装置を用いて行われる。カレンダー処理装置の例としては、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等を挙げることができる。
【0020】
いくつかの実施態様において、上記パルプは、原紙のパルプに対してLBKP及びNBKPの合計が70質量%以上であって、濾水度380ml以上460ml以下の範囲であるLBKPが60質量%以上90質量%以下、並びに濾水度440ml以上520ml以下の範囲であるNBKPが10質量%以上40質量%以下である。これらの理由は、被印刷物に対して上手く密着できる特性及び転写能が良化するからである。被印刷物に対して上手く密着できる特性には紙の伸びが関係する。NBKPは、強度を得ることができるけれども繊維長が長いために繊維間結合が多くて伸び難い。LBKPは、NBKPに比べて繊維長が短く伸び易いけれども保水能があって転写能に悪影響する。前記濾水度は、例えば小さい値であると、紙の保水能及び比表面積が増加する。その結果、捺染インクに対する親和性が高くなって転写能に悪影響する。上記の濾水度の範囲であるLBKP及びNBKPの特定量範囲の組み合わせであれば、転写用紙は、被印刷物に対する密着に関する適度な伸び易さを得ることができかつ転写能に悪影響しない。ここで、濾水度は、ISO5267-2:2001「Pulps-Determination of drainability-Part 2 ”Canadian Standard” freeness method」に準じて求められるCSF濾水度である。
【0021】
上記表塗工層において、原紙を基準として最外に位置する塗工層を最外表塗工層という。表塗工層が1層の場合は該塗工層が最外表塗工層になる。いくつかの実施態様において、最外表塗工層は、最外表塗工層を形成する成分において無機顔料がバインダーよりも多く含有する塗工層である。この理由は、捺染インクで図柄を印刷する際に転写用紙の吸収速度及び乾燥性が良いからである。最外表塗工層は、無機顔料として焼成カオリンを、並びにバインダーとしてカルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを少なくとも含有する。表塗工層が2層以上の場合、原紙と最外表塗工層との間に存在する塗工層は、無機顔料の有無並びに種類及び数量、バインダーの種類及び数量、並びにその他従来公知の添加剤の有無及び数量を特に限定しない。いくつかの実施態様において、表塗工層は1層である。この理由は、転写用紙の製造コストが有利になるからである。
【0022】
最外表塗工層を含む表塗工層は、上記原紙又は塗工層に対して、従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて塗工層塗工液を塗工及び乾燥する方法によって得ることができる。従来公知の塗工装置の例としては、サイズプレス、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、グラビアコーター、バーコーター、Eバーコーター、カーテンコーター等を挙げることができる。従来公知の乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等の各種乾燥装置を挙げることができる。
塗工層塗工液を塗工及び乾燥後に、塗工層には、カレンダー処理を施すことができる。
【0023】
いくつかの実施態様において、最外表塗工層を含む表塗工量の総塗工量は、乾燥固形分で4g/m2以上10g/m2以下である。この理由は、被印刷物に対して上手く密着できる特性が良化するからである。
【0024】
焼成カオリンは、カオリナイト等のカオリン鉱物で主に構成される、例えば、カオリナイト又はパイロフィライト等を焼成処理したものである。焼成カオリンは、公知の種々製造方法によって得ることができる。焼成カオリンには、例えば、カオリナイトを約650℃~700℃の温度で焼成することにより生成したデヒドロオキシル化、すなわち部分焼成カオリンと、カオリナイトを約1000℃~1050℃で焼成される完全焼成カオリンとがある。焼成カオリンには、粒子の形状が焼成前と変わらない六角板状を維持したもの、及び構造水を失って部分的に又は全体的に非晶質化したものがある。焼成カオリンは、例えば、KaMinLLC社、BASF社、白石工業社、GeorgiaKaolin社、Thiele社、兵庫クレー社及び竹原化学工業社等から市販される。いくつかの実施態様において、焼成カオリンの吸油量が70ml/100g以上である。焼成カオリンの吸油量は上限を特に限定しないものの、いくつかの実施態様において、焼成カオリンの吸油量は150ml/100g以下である。少なくとも一つの実施態様において、焼成カオリンの吸油量は、70ml/100g以上130ml/100g以下である。これらの理由は、耐熱性が良化するからである。
【0025】
吸油量は、ISO787-5:1980「General methods of test for pigments and extenders - Part 5:Determination of oil absorption value」に準拠して求められる値である。例えば操作手順は次の通りである。まず、焼成カオリンの試料を70℃~80℃に保たれた乾燥機に10時間放置した後に、デシケータ中で室温まで自然に冷却する。次に、ガラス板上に焼成カオリンの試料を約1g秤取し、正確な質量を記録する。続いて、精製アマニ油をビューレットから少量ずつ焼成カオリンの試料の中央に滴下しながらヘラを用いて全体が均一になるように練りまぜる。滴下と練りまぜを繰り返し、全体が均一なかたまりとなり、ヘラでらせん状に巻き起こすことができるようになった時点を終点とする。吸油量は下記式によって求められる。
吸油量(ml/100g)=
[精製アマニ油の滴下量(ml)/焼成カオリンの試料質量(g)]×100
【0026】
最外表塗工層は、本発明の効果を阻害しない範囲で焼成カオリン以外の無機顔料を含有することができる。いくつかの実施態様において、最外表塗工層は、最外表塗工層における焼成カオリン以外の無機顔料の含有量が、最外表塗工層中の焼成カオリンを含む無機顔料100質量部に対して10質量部以下である。無機顔料は、塗工紙分野で従来公知のものである。無機顔料は、例えば、焼成カオリンを除く各種カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、酸化亜鉛、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、活性白土及び珪藻土等を挙げることができる。
【0027】
カルボキシメチルセルロースは、セルロースエーテルの一種であり、従来公知のものであって特に限定されない。カルボキシメチルセルロースにはアルカリ金属塩が含まれる。カルボキシメチルセルロースは、例えば、パルプを原料としてモノクロル酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを反応させて得ることができる(直接法)。また、直接法以外にアルセル法及び溶媒法によって得ることができる。カルボキシメチルセルロースは、使用するパルプの性状及び製造方法により様々な分子量又は重合度のものが製造可能である。一般的に、カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩として工業的に生産及び販売される。市販のカルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はカルボキシメチルセルロースカリウムである場合が多い。慣用的には、ナトリウム又はカリウムの記載は省略する。少なくとも一つの実施態様において、カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウムである。この理由は、カルボキシメチルセルロースナトリウムが商業的に入手し易いからである。カルボキシメチルセルロースは、例えば、シグマアルドリッチ社、ダイセルミライズ社、第一工業製薬社、CPKelco社、日本製紙社、三晶社及びAshland社等から市販される。
【0028】
いくつかの実施態様において、カルボキシメチルセルロースは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量が770,000以下である。また、いくつかの実施態様において、カルボキシメチルセルロースは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量が27,000以上である。また、少なくとも一つの実施形態において、カルボキシメチルセルロースは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量が27,000以上770,000以下である。この理由は、転写能が良化するからである。
いくつかの実施態様において、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は0.6以上1.27以下である。この理由は、被印刷物に対して上手く密着できる特性が良化するからである。エーテル化度は、セルロースを構成するグルコース環上にある3つの水酸基のうちカルボキシメチル基で置換された水酸基の数(平均値)を指す。
少なくとも一つの実施態様において、カルボキシメチルセルロースは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量が27,000以上770,000以下であり、エーテル化度が0.6以上1.27以下である。
【0029】
本明細書において、ポリビニルアルコールとは、未変性のポリビニルアルコール及び各種変性のポリビニルアルコールを含む総称を指す。ポリビニルアルコールの例としては、各種ケン化度及び各種平均重合度のポリビニルアルコール、並びにシリル基、カルボキシル基、アミノ基又はアセトアセチル基等種々の官能基を導入した変性ポリビニルアルコール、並びにエチレン等他の単量体をランダム的、グラフト的又はブロック的に導入した変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。いくつかの実施態様において、ポリビニルアルコールは、各種ケン化度及び各種平均重合度のポリビニルアルコール並びに変性ポリビニルアルコールから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。ポリビニルアルコールは、三菱ケミカル社、クラレ社、日本酢ビ・ポバール社、及びデンカ社等から市販される。
少なくとも一つの実施態様において、ポリビニルアルコールは、ケン化度が80mol%以上90mol%以下の範囲である。この理由は、カルボキシメチルセルロースとの相溶性に優れるからである。
【0030】
いくつかの実施態様において、カルボキシメチルセルロースとポリビニルアルコールとの最外表塗工層中の含有質量比は、最外表塗工層中のカルボキシメチルセルロース100質量部に対してポリビニルアルコールが90質量部以上150質量部以下である。少なくとも一つの実施態様において、カルボキシメチルセルロースとポリビニルアルコールとの最外表塗工層中の含有質量比は、最外表塗工層中のカルボキシメチルセルロース100質量部に対してポリビニルアルコールが90質量部以上150質量部以下であって、なおかつ前記ポリビニルアルコールが未変性であり及びケン化度80mol%以上90mol%以下の範囲である。これらの理由は、被印刷物に対して上手く密着できる特性及び耐熱性が良化するからである。
【0031】
最外表塗工層は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール以外に従来公知のバインダーを含有することができる。従来公知のバインダーは、例えば、澱粉、加工澱粉及び変性澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロースを除くヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム及びアルブミン等の天然由来の樹脂又はその誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸系樹脂、アクリル酸系樹脂、メタクリル酸系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、アクリレートブタジエン共重合体、スチレンブタジエン共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体等の共重合系樹脂並びにこれらの各種共重合系樹脂のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂、メラミン樹脂及び尿素樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリビニルブチラール、並びにアルキッド系樹脂等を挙げることができる。
【0032】
いくつかの実施態様において、最外表塗工層は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールの合計含有量が、最外表塗工層中のバインダーに対して90質量%以上である。少なくとも一つの実施態様において、原紙の片面における最外表塗工層は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールの合計含有量が、最外表塗工層中のバインダーに対して100質量%である。これらの理由は、被印刷物に対して上手く密着できる特性、転写能及び耐熱性が良化するからである。
いくつかの実施態様において、最外表塗工層は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールの合計含有量が、最外表塗工層中の焼成カオリン100質量部に対して8質量部以上22質量部以下である。この理由は、被印刷物に対して上手く密着できる特性及び/又は耐熱性が良化するからである。
少なくとも一つの実施態様において、最外表塗工層は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールの合計含有量が最外表塗工層中のバインダーに対して90質量%以上かつ最外表塗工層中の焼成カオリン100質量部に対して8質量部以上22質量部以下である。
【0033】
無機顔料は、耐熱性に寄与するものの、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールを吸着するために、最外表塗工層の柔軟性を低下する。その結果、転写用紙は被印刷物に上手く密着できる特性が悪化する。また例えば、捺染インク中の色材を無機顔料は吸着し易い。その結果、転写紙は転写能が悪化する。しかしながら、無機顔料が焼成カオリンであると、焼成カオリンは、転写紙の被印刷物に上手く密着できる特性及び転写能を阻害しない。結果、転写紙は、被印刷物に上手く密着できる特性を有し及び転写能が良好になる。この理由は不明である。本発明者らは、焼成カオリンの極性変化と非晶質化とに起因すると考える。
【0034】
最外表塗工層は、必要に応じて塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、分散剤、定着剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、印刷適性向上剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤及び防バイ剤等を挙げることができる。
また、最外表塗工層は、転写捺染法で従来公知の各種助剤を含有することができる。助剤は、塗工層塗工液の各種物性を最適化する、又は昇華型捺染インク等の捺染インクが含む色材の染着性を向上するため等の目的で使用する材料である。助剤は、例えば、各種界面活性剤、保湿剤、湿潤剤、pH調整剤、アルカリ剤、濃染化剤、脱気剤及び還元防止剤等を挙げることができる。
【0035】
いくつかの実施態様において、最外表塗工層はカチオン性樹脂を含有する。この理由は、転写用紙に印刷される図柄の画質が良化するからである。少なくとも一つの実施態様において、カチオン性樹脂の含有が転写能を悪化する可能性があるために、最外表塗工層中のカチオン性樹脂の含有量は、最外表塗工層中の焼成カオリン100質量部に対して2.0質量部以下である。カチオン性樹脂は、従来公知のカチオン性樹脂であって、プロトンが配位し易く、水に溶解したとき解離してカチオン性を呈する1級~3級アミン又は4級アンモニウム塩を含有する樹脂である。従来公知のカチオン性樹脂は、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアミン及び変性ポリアミン、ポリビニルピリジン、ポリアミドアミン、ポリビニルアミン、ポリアミド及び変性ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド等との共重合物、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン、ジシアンジアミド-ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミドジエチレントリアミン重縮合物、メラミン樹脂、並びに尿素系樹脂を挙げることができる。少なくとも一つの実施態様において、最外表塗工層は、上記カチオン性樹脂からなる群から選ばれる一種又は二種以上を含有する。
【0036】
裏塗工層は、無機顔料としてカオリン及び重質炭酸カルシウム、並びにバインダーとして澱粉類を含有する。裏塗工層は1層又は2層以上である。裏塗工層が1層の場合は、当該1層が無機顔料としてカオリン及び重質炭酸カルシウム、並びにバインダーとして澱粉類を含有する。裏塗工層が2層以上である場合は、少なくとも1層の裏塗工層が無機顔料としてカオリン及び重質炭酸カルシウム、並びにバインダーとして澱粉類を含有する。いくつかの実施態様において、裏塗工層は1層である。この理由は、転写用紙の製造コストが有利になるからである。
【0037】
裏塗工層は、表塗工層と同様に従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて得ることができる。塗工装置及び乾燥装置は、表塗工層と同様であり、説明を割愛する。
【0038】
いくつかの実施態様において、裏塗工層の塗工量は、裏塗工層合計の乾燥固形分で1.5g/m2以上3.5g/m2以下である。この理由は被印刷物に対して上手く密着できる特性を有しつつ、耐波打ち性、転写能及び耐裏抜け性が良化するからである。
【0039】
カオリンは、天然に産出されたアルミニウム及びケイ素を主体とするカオリン鉱物を工業的に精製及び加工した無機顔料であり、さらに粉砕、洗浄、除鉄及び分級等の工程を経て製造された無機顔料である。カオリンには、アスペクト比を向上させるためにせん断力をかけて薄板状としたデラミネーティッドカオリン、粒度分布がシャープになるよう調整したエンジニアードカオリン、及び焼成処理した焼成カオリンといった加工性の高いものも含まれる。
【0040】
いくつかの実施態様において、カオリンは、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下である。この理由は、耐波打ち性、転写能及び/又は耐裏抜け性が良化するからである。カオリンの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置を用いた測定で得られる体積基準の粒度分布曲線から求めることができる。粒度分布測定装置は、例えば、日機装社のMicrotrac MT3000IIを挙げることができる。また、前記平均粒子径のカオリンは、例えば、BASF社、KaMinLLC社、PPSA社、IMERYS社、ThieleKaolin社及びEnglandChinaClay社等から市販される。
【0041】
重質炭酸カルシウムは、CaCO3を主成分とする石灰石又は貝殻等の天然物を乾式粉砕及び/又は湿式粉砕した無機顔料である。いくつかの実施態様において、重質炭酸カルシウムは、CaCO3成分を50質量%以上で含む。
【0042】
いくつかの実施態様において、重質炭酸カルシウムは、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度が90体積%以上である。この理由は、耐波打ち性、転写能及び/又は耐裏抜け性が良化するからである。重質炭酸カルシウムの粒子径2μm以下の累積頻度は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置を用いた測定で得られる体積基準の粒度分布曲線から求めることができる。粒度分布測定装置は、例えば、日機装社のMicrotrac MT3000IIを挙げることができる。また、前記累積頻度の重質炭酸カルシウムは、例えば、IMERYS社、丸尾カルシウム社、白石カルシウム社、カルファイン社、奥多摩工業社及びファイマテック社等から市販される。
【0043】
少なくとも一つの実施態様において、裏塗工層は、カオリン及び重質炭酸カルシウムを含有し、前記カオリンが、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下であり、前記重質炭酸カルシウムが、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度が90体積%以上である。
【0044】
裏塗工層は、本発明の効果を阻害しない範囲でカオリン及び重質炭酸カルシウム以外の無機顔料を含有することができる。いくつかの実施態様において、裏塗工層におけるカオリン及び重質炭酸カルシウム以外の無機顔料の含有量は、裏塗工層中のカオリン及び重質炭酸カルシウムを含む無機顔料100質量部に対して10質量部以下である。
無機顔料は、塗工紙分野で従来公知のものである。無機顔料は、例えば、軽質炭酸カルシウム、タルク、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、酸化亜鉛、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、活性白土及び珪藻土等を挙げることができる。
【0045】
いくつかの実施態様において、カオリンと重質炭酸カルシウムとの裏塗工層中の含有質量比は、[カオリン:重質炭酸カルシウム]=9:1~7:3である。この理由は、耐波打ち性、転写能及び/又は耐裏抜け性が良化するからである。少なくとも一つの実施態様において、カオリンと重質炭酸カルシウムとの裏塗工層中の含有質量比は、[カオリン:重質炭酸カルシウム]=9:1~7:3であり、なおかつ前記カオリンが、体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下であり、前記重質炭酸カルシウムが、体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度が90体積%以上である。
【0046】
澱粉類は、グルコースがグリコシド結合によって重合した多糖類、及びグルコースがグリコシド結合によって重合した多糖類においてグルコースが有する水酸基を種々置換基によって変性した多糖類である。澱粉類の例としては、澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉、ジアルデヒド澱粉、燐酸エステル化澱粉及び尿素燐酸エステル化澱粉などのエステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、並びにヒドロキシブチル化澱粉等を挙げることができる。
【0047】
いくつかの実施態様において、裏塗工層は、バインダーとして含有する澱粉類が尿素燐酸エステル化澱粉である。この理由は、耐裏抜け性が良化するからである。
尿素燐酸エステル化澱粉は、燐酸エステル基とカルバミン酸エステル基とをグルコースに有する澱粉である。燐酸エステル基を導入する方法の例としては、トリポリ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩を単独で添加して焙焼反応させる方法、燐酸エステル基とカルバミン酸エステル基とを導入する方法の例としては、無機燐酸類と共に尿素を添加して焙焼反応させる方法を挙げることができる。尿素燐酸エステル化澱粉は、主に、後者の無機燐酸類と尿素を焙焼反応させる方法によって各種尿素置換度のものを得ることができる。
【0048】
いくつかの実施態様において、尿素燐酸エステル化澱粉は、尿素置換度平均値が0.005以上0.09以下である。少なくとも一つの実施態様において、尿素燐酸エステル化澱粉は、尿素置換度平均値が0.01以上0.05以下である。これらの理由は、耐裏抜け性が良化するからである。
「尿素置換度」とは、澱粉を構成するグルコース単位が有する水酸基におけるカルバミン酸エステル基の置換度である。例えば、尿素置換度=0.02は、澱粉を構成するグルコース単位100個当たり置換基が2個有することを意味する。尿素置換度は、澱粉において従来から知られた値であって公知の方法で求められる。例えば、熱分解GC法又はCHN元素分析計を用いた窒素含有量から求めることができる。また、「澱粉科学実験法」鈴木繁男・中村道徳編集、1979年第1刷発行、朝倉書店発行を参考にすることができる。
【0049】
裏塗工層は、澱粉類以外に従来公知のバインダーを含有することができる。従来公知のバインダーは、例えば、セルロース類、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミン等の天然由来の樹脂又はその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸系樹脂、アクリル酸系樹脂、メタクリル酸系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、アクリレートブタジエン共重合体、スチレンブタジエン共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体等の共重合系樹脂並びにこれらの各種共重合体のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性共重合系樹脂、メラミン樹脂及び尿素樹脂等の熱硬性樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリビニルブチラール、並びにアルキド系樹脂等を挙げることができる。
いくつかの実施態様において、裏塗工層は、裏塗工層中の澱粉類を含むバインダー100質量部に対して澱粉類の合計が80質量部以上である。少なくとも一つの実施態様において、裏塗工層は、澱粉類以外に従来公知のバインダーを含有しない。
【0050】
いくつかの実施態様において、裏塗工層は、裏塗工層中のカオリン及び重質炭酸カルシウムの合計含有量100質量部に対して澱粉類の含有量が24質量部以上40質量部以下である。少なくとも一つの実施態様において、裏塗工層は、裏塗工層中のカオリン及び重質炭酸カルシウムの合計含有量100質量部に対して尿素燐酸エステル化澱粉の含有量が24質量部以上40質量部以下である。これらの理由は、耐裏抜け性が良化するからである。
【0051】
裏塗工層は、必要に応じて塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、白色有機顔料、分散剤、定着剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、印刷適性向上剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤及び防バイ剤等を挙げることができる。
【0052】
転写紙は、昇華型捺染インク等の捺染インクを使用する従来公知の各種印刷方法を用いて、転写用紙の最外表塗工層を有する面側に図柄を印刷することによって得ることができる。各種印刷方法は、従来公知の印刷方法であって、特に限定されない。印刷方法は、例えば、グラビア印刷方式、インクジェット印刷方式、電子写真印刷方式及びスクリーン印刷方式等を挙げることができる。いくつかの実施態様において、転写用紙に図柄を印刷する印刷方式はインクジェット印刷方式である。少なくとも一つの実施態様において、転写捺染法の捺染インクは昇華型捺染インクである。
【0053】
転写捺染法は、転写用紙に図柄を印刷して転写紙を得る工程と、転写紙の図柄を印刷した面と被印刷物とを対向して密着させる工程と、転写紙を被印刷物から剥離する工程とを有する方法である。密着させる工程には、必要に応じて加熱又は加熱加圧が含まれる。密着させる工程における加熱及び加圧のそれぞれの条件は、転写捺染法で従来公知の条件である。密着させる工程は、例えば、プレス機、加熱ロール又は加熱ドラム等により転写紙を被印刷物に密着させ加熱又は加熱加圧する方法を挙げることができる。
【0054】
被印刷物は、繊維材料であって、特に限定されない。繊維材料は、天然繊維材料及び合成繊維材料のいずれでも構わない。天然繊維材料は、例えば、綿、麻、リヨセル、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維材料、絹、羊毛、獣毛等の蛋白質系繊維材料等を挙げることができる。合成繊維材料は、例えば、ポリアミド繊維(ナイロン)、ビニロン、ポリエスエル、ポリアクリル等を挙げることができる。少なくとも一つの実施態様において、昇華型捺染インクを用いる場合、繊維材料はポリエステルである。また、必要に応じて、染着促進に効果のある薬剤等で被印刷物を前処理してよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。ここで「質量部」及び「質量%」は、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」及び「質量%」を表す。塗工層の付与量は乾燥固形分量を表す。
【0056】
(原紙)
叩解によって濾水度を調整したLBKP(CSF濾水度430ml)700質量部及びNBKP(CSF濾水度480ml)300質量部の合計1000質量部を水に分散したパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム50質量部、カチオン化澱粉8質量部、硫酸アルミニウム9質量部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤1質量部を添加して、長網抄紙機で抄造して抄造紙を得た。得た抄造紙をマシンカレンダー処理をしてカレンダー処理抄造紙を得た。前記カレンダー処理抄造紙の両面に対してサイズプレスを用いて、酸化澱粉を片面あたりの塗工量が1g/m2になるように塗工して原紙を作製した。この様にして得た原紙の密度は、0.75g/cm3であった。
【0057】
(最外表塗工層の塗工液)
最外表塗工層の塗工液は、下記の内容により調製した。
無機顔料 質量部は表1に記載
セルロース類 質量部は表1に記載
ポリビニルアルコール 質量部は表1に記載
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド 1.2質量部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、濃度30質量%に調整した。ただし、比較例4では、塗工液を濃度15質量%とした。
【0058】
最外表塗工層の塗工液に用いた材料は以下である。
Pg1:焼成カオリン(比表面積18m2/g、平均粒子径2.5μm)
Ce1:カルボキシメチルセルロース
(重量平均分子量260,000、エーテル化度0.7)
Po1:ポリビニルアルコール
(ケン化度86.5~89mol%、数平均重合度500)
【0059】
(裏塗工層の塗工液)
裏塗工層の塗工液は、下記の内容により調製した。
無機顔料 質量部は表1に記載
バインダー 質量部は表1に記載
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、濃度40質量%に調整した。
【0060】
裏塗工層の塗工液に用いた材料は以下である。
Ka1:カオリン(平均粒子径0.8μm)
Ka2:カオリン(平均粒子径1.1μm)
Ka3:カオリン(平均粒子径1.5μm)
Ka4:カオリン(平均粒子径1.7μm)
Ka5:カオリン(平均粒子径2.1μm)
Gc1:重質炭酸カルシウム(粒子径2μm以下の累積頻度95体積%)
Gc2:重質炭酸カルシウム(粒子径2μm以下の累積頻度90体積%)
Gc3:重質炭酸カルシウム(粒子径2μm以下の累積頻度75体積%)
Si1:非晶質合成シリカ(平均粒子径2.3μm)
Bi1:酸化澱粉
Bi2:尿素燐酸エステル化澱粉(尿素置換度0.02)
Bi3:ヒドロキシエチルセルロース
【0061】
(転写用紙)
転写用紙を以下の手順にて作製した。
原紙の片面に対して、最外表塗工層の塗工液をエアナイフコーターにて塗工及び熱風乾燥機にて乾燥した。次に原紙の反対面に対して、裏塗工層の塗工液をブレードコーターにて塗工及び熱風乾燥機で乾燥した。乾燥後に、カレンダー処理を施して転写用紙を得た。最外表塗工層の塗工量は8g/m2とし、裏塗工層の塗工量は3g/m2とした。
【0062】
【0063】
(転写紙)
得られた転写用紙に、昇華型捺染インクを使用したインクジェットプリンター(JV2-130II、ミマキエンジニアリング社製)を用いて、昇華型捺染インク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の各インク単色、並びにイエローとシアンとの混色であるグリーン、イエローとマゼンタとの混色であるレッド、シアンとマゼンタとの混色であるブルー、及びイエローとシアンとマゼンタとの混色であるブラックから成る評価用図柄を印刷し、転写紙を得た。印刷面は、最外表塗工層を有する側とした。
【0064】
(耐波打ち性)
印刷後及び乾燥後の転写紙に存在する波打ちの状態を目視で観察し、耐波打ち性を以下の基準で評価した。本発明において、転写用紙は、評価A又はBであれば耐波打ち性を有するものとする。
A:乾燥後、波打ちが認められず、良好である。
B:印刷後、混色のブラックで極僅かに波打ちが認められるが、
乾燥後におおよそ解消され、概ね良好である。
C:印刷後、混色のブラックで僅かに波打ちが認められるが、
乾燥後に軽減され、実使用は可能である。
D:乾燥後、混色のブラックでコックリングが認められ、実使用に悪影響する。
【0065】
(転写捺染)
被印刷物として、白色ポリエステル布を用いた。転写紙の最外表塗工層を有する側の面と白色ポリエステル布とを対向させて密着した。白色ポリエステル布が密着した状態の転写紙を、熱転写用プレス機(米国INSTA社、ヒートプレス機モデル204)を用いて、温度190℃、30~60秒間加熱した。
【0066】
(被印刷物に対して上手く密着できる特性(密着性))
実施例では、被印刷物に対して上手く密着できる特性を「密着性」と記す。
密着性は、転写捺染の時間を45秒として図柄が形成される被印刷物に対して、転写紙の位置ズレによって発生する図柄の鮮鋭さの低下及び歪みの観点から目視で観察し、密着性を下記の基準で評価した。本発明において、転写用紙は、評価がA、B又はCであれば密着性を有するものとする。
A:鮮鋭さの低下及び歪みが無く、極めて良好。
B:鮮鋭さの低下及び/又は歪みが極僅かであって、良好。
C:鮮鋭さの低下及び/又は歪みが僅かであって、概ね良好。
D:前記Cより劣り、鮮鋭さの低下及び/又は歪みが認められる。
【0067】
(転写能)
転写捺染時の加熱時間を変化させて、図柄を形成した白色ポリエステルにおける図柄の色濃度を目視で観察し、転写能を下記の基準で評価した。加熱時間は、30秒間、45秒間及び60秒間とした。本発明において、転写用紙は、評価がA、B又はCであれば転写能が良好であるものとする。
A:30秒、45秒及び60秒で色濃度に変化が無い。
B:30秒と45秒との間では色濃度の変化が極僅かに認められる。
45秒と60秒との間では色濃度の変化が認められない。
C:30秒と45秒との間では色濃度の変化が僅かに認められる。
45秒と60秒との間では色濃度の変化が認められない。
D:45秒と60秒との間で色濃度の変化が僅かに認められる。
E:45秒と60秒との間で色濃度の変化が認められる。
【0068】
(耐熱性)
図柄が形成される被印刷物に対して、転写紙が熱収縮したことによって発生する図柄本来の輪郭に沿って現われる線を目視で観察し、耐熱性を下記の基準で評価した。本発明において、転写用紙は、評価がA、B又はCであれば耐熱性を有するものとする。
A:図柄の輪郭に沿った線が無く、極めて良好。
B:図柄の輪郭に沿った極薄い線が極僅かに視認される程度で、良好。
C:図柄の輪郭に沿った極薄い線が僅かに視認される程度で、概ね良好。
D:前記Cより劣り、図柄の輪郭に沿って極薄い線が視認される。
【0069】
(耐裏抜け性)
耐裏抜け性を評価するにあたり、転写捺染を以下の方法で行った。
被印刷物として、白色ポリエステル布を用いた。転写紙の最外表塗工層を有する側の面と白色ポリエステル布とを対向させて及び転写紙の裏塗工層を有する側の面とPPC用紙とを対向させて密着した。白色ポリエステル布及びPPC用紙が密着した状態の転写紙を、熱転写用プレス機(米国INSTA社、ヒートプレス機モデル204)を用いて、温度190℃、45秒間加熱した。
転写後に転写紙から剥離したPPC用紙の転写紙に対向した面において、捺染インクの色材による汚染の程度を目視で観察し、耐裏抜け性を下記の基準で評価した。本発明において、転写用紙は、評価がA、B又はCであれば耐裏抜け性を有するものとする。
A:汚染がほとんど視認されず、良好。
B:汚染が極僅かに視認されるけれど、概ね良好。
C:汚染が僅かに視認されるけれども、実用可能。
D:前記Cより劣り、汚染が視認される。操業的に問題あり。
【0070】
各評価結果を表1に記載する。
【0071】
表1から、本発明の構成を満足する実施例1~25の転写用紙は、耐波打ち性を有し、密着性を有し、転写能が良好であり、耐熱性を有し、及び耐裏抜け性を有すると分かる。一方、本発明の構成を満足しない比較例1~6の転写用紙は、これら効果の少なくとも一つを得ることができないと分かる。
主に、実施例1、2、4、7及び8の間の対比、並びに実施例11~15の間の対比から、裏塗工層のカオリンが体積基準の粒度分布曲線から求められる平均粒子径が1.1μm以上1.7μm以下であると、転写用紙は、耐波打ち性、転写能及び耐裏抜け性が良化すると分かる。
また主に、実施例4、9及び10の間の対比、並びに実施例13、16及び17の間の対比から、裏塗工層の重質炭酸カルシウムが体積基準の粒度分布曲線から求められる粒子径2μm以下の累積頻度90体積%以上であると、転写用紙は、耐波打ち性、転写能及び耐裏抜け性が良化すると分かる。
また主に、実施例2、4、7及び9と実施例12~14及び16との対比から、裏塗工層の澱粉類が尿素燐酸エステル化澱粉であると、転写用紙は、耐裏抜け性が良化すると分かる。
また主に、実施例4及び18~21の間の対比、並びに実施例13及び22~25の間の対比から、裏塗工層において、カオリン及び重質炭酸カルシウムの合計含有量100質量部に対して尿素燐酸エステル化澱粉の含有量が24質量部以上40質量部以下であると、転写用紙は、耐裏抜け性が良化すると分かる。