(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 29/04 20060101AFI20240621BHJP
F04C 18/16 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
F04C29/04 A
F04C18/16 A
(21)【出願番号】P 2021061436
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】谷本 聖太
(72)【発明者】
【氏名】矢部 利明
(72)【発明者】
【氏名】酒井 航平
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-169688(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003453(WO,A1)
【文献】米国特許第05653585(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/04
F04C 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛み合うように回転する複数のスクリューロータと、
前記複数のスクリューロータの各々の軸方向の一方側を回転自在に支持する吐出側軸受と、
前記複数のスクリューロータを収容する収容室を有し、前記収容室よりも前記軸方向の前記一方側の位置に前記吐出側軸受が配置され、前記複数のスクリューロータと共に作動室を形成するケーシングとを備え、
前記ケーシングは、
前記収容室における前記軸方向の前記一方側に連通し、前記作動室内の圧縮気体を前記ケーシングの外部へ導く吐出流路を有すると共に、
前記ケーシングの外部から供給される冷却材が循環する冷却流路を有し、
前記冷却流路は、分岐部において上流から下流に向かって分岐し、
前記分岐部は、前記軸方向における前記吐出流路と前記吐出側軸受との間の位置にあり、且つ、前記吐出流路を前記軸方向に投影した領域に重なる位置にあ
り、
前記冷却流路は、前記分岐部で二又に分岐する第1分岐流路と第2分岐流路とを含み、
前記第1分岐流路と前記第2分岐流路は、前記分岐部から前記ケーシングの周方向に沿って互いに反対方向に向かって延在するように構成されている
スクリュー圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機であって、
前記冷却流路は、前記ケーシングの外部から冷却材を導入する導入口を上流端に有し、前記導入口から前記分岐部まで延在する導入流路を含み、
前記導入流路は、前記軸方向における前記吐出流路と前記吐出側軸受との間の位置かつ前記吐出流路を前記軸方向に投影した領域と重なる位置に配置されている
スクリュー圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機であって、
前記冷却流路は、前記ケーシングの外部から冷却材を導入する導入口を有し、
冷却材の流れ方向を転向させる曲げ流路が前記冷却流路の前記分岐部よりも上流側に配置され、
前記曲げ流路は、その中心線の長さが前記導入口の直径又は水力直径以下の範囲内において、その中心線の向きが上流から下流に向かって45°以上90°以下の範囲内で変化するように構成され、
前記曲げ流路の曲げ点から前記冷却流路の前記分岐部までの流路の最大長さが、前記導入口の直径又は水力直径の10倍未満に設定されている
スクリュー圧縮機。
【請求項4】
請求項
3に記載のスクリュー圧縮機であって、
前記ケーシングの前記導入口に接続された曲がり管を更に備え、
前記曲がり管は、
流路が直線状に延びる第1直管部と、
流路が直線状に延び、前記第1直管部よりも下流側に位置して前記導入口に接続される第2直管部と、
前記第1直管部と前記第2直管部とを繋ぐ曲げ部とを有し、
前記曲げ部の流路は、前記曲げ流路として構成されている
スクリュー圧縮機。
【請求項5】
請求項1に記載のスクリュー圧縮機であって、
上流から下流に向かって流路断面積が縮小する縮小流路が前記冷却流路の前記分岐部よりも上流側に配置され、
前記縮小流路から前記冷却流路の前記分岐部までの間の流路は、分岐の無い一本の流路によって構成されている
スクリュー圧縮機。
【請求項6】
請求項
5に記載のスクリュー圧縮機であって、
前記冷却流路は、前記ケーシングの外部から冷却材を導入する導入口を有し、
前記ケーシングの前記導入口に接続された縮小管を更に備え、
前記縮小管の流路は、前記縮小流路として構成されている
スクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機に係り、更に詳しくは、ケーシングが冷却材により冷却されるスクリュー圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュー圧縮機では、互いに噛合いながら回転する一対のスクリューロータと、両スクリューロータを収納するケーシングとを備えているものがある。このスクリュー圧縮機は、両スクリューロータとそれらを取り囲むケーシングの内壁面とによって形成された複数の作動室の容積が両スクリューロータの回転に伴い増減することで気体を吸い込み圧縮するものである。
【0003】
スクリュー圧縮機の性能を低下させる要因の代表的なものとして、圧縮気体の内部漏洩がある。圧縮気体の内部漏洩とは、圧縮が進んで圧力が上昇した高圧の空間(作動室)から、圧縮の開始前や圧縮が進んでいない相対的に低圧の空間へ、圧縮された気体が逆流してしまう現象をいう。この内部漏洩は、エネルギを要して圧縮した気体が低圧状態に戻ってしまうので、エネルギ損失となる。圧縮気体の内部漏洩の経路となる内部隙間としては、両スクリューロータの噛合い部間の隙間、スクリューロータの歯先とケーシングの内壁面(内周面)との隙間、スクリューロータの吐出側端面とそれに対向するケーシングの吐出側内壁面との隙間などがある。
【0004】
スクリュー圧縮機では、圧縮された気体が高温になるので、高温の圧縮気体によってケーシングやスクリューロータが温度上昇して熱変形する。ケーシングやスクリューロータの熱変形によって、上述の内部隙間が拡大する傾向にある。特に、作動室に対して液体を供給しない無給液式のスクリュー圧縮機では、液体による圧縮気体の冷却効果がないので、給液式のスクリュー圧縮機の場合よりも圧縮気体が高温になり、その分、ケーシングやスクリューロータの熱変形による内部隙間が増大する。
【0005】
ケーシングの熱変形に起因した圧縮気体の内部漏洩の増加を低減させる方策として、ケーシングに設けた冷却流路に冷却液を循環させてケーシングを冷却する技術が知られている(例えば、特許文献1の
図1及び
図4を参照)。特許文献1で図示されたオイルフリースクリュー圧縮機では、ケーシングのうち、ロータ室よりも径方向外側の部分に冷却流路が設けられていると共に、スクリューロータの軸方向吐出側を回転可能に支持する吐出側軸受の周辺部分に冷却流路が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の内部隙間を介した圧縮気体の漏洩のうち、圧縮機効率に与える影響度が最も大きいものは、両スクリューロータの噛合い部間の隙間を介した圧縮気体の内部漏洩であることがシミュレーションから判明している。吐出される圧縮気体が流れるケーシングの吐出流路の近傍には、各スクリューロータを回転可能に支持する吐出側軸受が配置されている。吐出流路周辺のケーシング部分は高温の圧縮気体からの伝熱により熱変形が特に大きくなるので、両吐出側軸受間の相対距離が拡大することで、両スクリューロータの噛合い部間の隙間が大きくなりやすい。
【0008】
このようなケーシングの熱変形により生じる両スクリューロータの噛合い部間の隙間の拡大を抑制する必要がある。特許文献1で図示されたオイルフリースクリュー圧縮機では、吐出流路(吐出口)と吐出側軸受(玉軸受)との間のケーシング部分に冷却流路が設けられているので、吐出流路を流れる高温の圧縮気体の吐出側軸受の周辺部分への伝熱が抑制される。しかし、このような冷却方法でも、ケーシングの熱変形を完全に防ぐことはできない。そのため、圧縮機の効率向上のためには、ケーシングに対する冷却能力の更なる向上が求められている。
【0009】
本発明は上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的の一つは、ケーシングにおける吐出側軸受の周辺部に対する冷却能力を高めて圧縮機効率の向上を図ることができるスクリュー圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい一例は、噛み合うように回転する複数のスクリューロータと、前記複数のスクリューロータの各々の軸方向の一方側を回転自在に支持する吐出側軸受と、前記複数のスクリューロータを収容する収容室を有し、前記収容室よりも前記軸方向の前記一方側の位置に前記吐出側軸受が配置され、前記複数のスクリューロータと共に作動室を形成するケーシングとを備え、前記ケーシングは、前記収容室における前記軸方向の前記一方側に連通し、前記作動室内の圧縮気体を前記ケーシングの外部へ導く吐出流路を有すると共に、前記ケーシングの外部から供給される冷却材が循環する冷却流路を有し、前記冷却流路は、分岐部において上流から下流に向かって分岐し、前記分岐部は、前記軸方向における前記吐出流路と前記吐出側軸受との間の位置にあり、且つ、前記吐出流路を前記軸方向に投影した領域に重なる位置にあり、前記冷却流路は、前記分岐部で二又に分岐する第1分岐流路と第2分岐流路とを含み、前記第1分岐流路と前記第2分岐流路は、前記分岐部から前記ケーシングの周方向に沿って互いに反対方向に向かって延在するように構成されているスクリュー圧縮機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の好ましい一例によれば、スクリューロータの軸方向における吐出流路と吐出側軸受との間の位置かつ吐出流路を軸方向に投影した領域と重なる位置で冷却流路を分岐させることにより、冷却流路の当該分岐部及びその直下流の領域において熱伝達率が向上する。つまり、ケーシングにおける吐出側軸受の周辺部分に対する冷却能力が高まるので、ケーシングの熱変形に起因する吐出側軸受間の相対距離の拡大が抑制され、圧縮機効率の向上を図ることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の概略構造を示す断面図及び当該スクリュー圧縮機に対する冷却材の外部循環経路を示す系統図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すII-II矢視から見た断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すIII-III矢視から見た断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図3に示すIV-IV矢視から見たときの冷却流路内の流れ(二次流れ)を示す概略図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングと冷却流路内の冷却材との間の熱伝達率の分布の解析結果を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の概略構造を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路に接続された曲がり管内の冷却材の流速分布の解析結果を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路に接続された曲がり管の曲げ部(曲げ流路)からの距離と当該位置の冷却材の流速との関係の解析結果を示す図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の概略構造を示す断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路に接続された縮小管内の冷却材の流速分布の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明によるスクリュー圧縮機の実施の形態について図面を用いて例示説明する。本実施の形態は、無給油式のスクリュー圧縮機に本発明を適用した例である。
【0014】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の概略構造を示す断面図及び当該スクリュー圧縮機に対する冷却材の外部循環経路を示す系統図である。
図2は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すII-II矢視から見た断面図である。
図1中、左側がスクリュー圧縮機の軸方向吸込側、右側が軸方向吐出側である。また、太線の矢印は冷却材としての潤滑油の流れ方向を表している。
図2中、太線の矢印はスクリューロータの回転方向を表している。
【0015】
図1及び
図2において、スクリュー圧縮機1は、互いに噛み合い回転する雄ロータ2(雄型のスクリューロータ)及び雌ロータ3(雌型のスクリューロータ)と、雄雌両ロータ2、3を噛み合った状態で回転可能に収容するケーシング4とを備えている。雄ロータ2及び雌ロータ3は、互いの中心軸線A1、A2が平行となるように配置されている。雄ロータ2は、その軸方向(
図1中、左右方向)の一方側(
図1中、左側)及び他方側(
図1中、右側)がそれぞれ吸込側軸受6および吐出側軸受7、8により回転自在に支持されており、回転駆動源であるモータ90に接続されている。雌ロータ3は、その軸方向の一方側及び他方側がそれぞれ吸込側軸受および吐出側軸受(共に図示せず)により回転自在に支持されている。無給油式のスクリュー圧縮機1では、雄ロータ2と雌ロータ3が非接触の状態で回転するように配置されている。すなわち、雄ロータ2と雌ロータ3の噛合い部には隙間が形成されている。
【0016】
雄ロータ2は、ねじれた雄歯(ローブ)21aを複数(
図2中、4つ)有するロータ歯部21と、ロータ歯部21の軸方向の両側端部にそれぞれ設けた吸込側(
図1中、左側)のシャフト部22及び吐出側(
図1中、右側)のシャフト部23とで構成されている。吸込側のシャフト部22は、例えば、ケーシング4の外側に延出しており、モータ90のシャフト部と一体の構成である。なお、吸込側のシャフト部22は、ギア(図示せず)を介してモータ90と接続されるように構成することも可能である。吐出側のシャフト部23の先端部には、タイミングギア10が取り付けられている。
【0017】
雌ロータ3は、ねじれた雌歯(ローブ)31aを複数(
図2中、6つ)有するロータ歯部31と、ロータ歯部31の軸方向(
図2の紙面直交方向)の両側端部にそれぞれ設けた吸込側のシャフト部(図示せず)及び吐出側のシャフト部33(
図3参照)とで構成されている。吐出側のシャフト部33の先端部には、雄側のタイミングギア10と噛み合う雌側のタイミングギア(図示せず)が取り付けられている。雄側のタイミングギア10及び雌側のタイミングギアによって、雄ロータ2の回転力が雌ロータ3に伝達され、雄ロータ2と雌ロータ3が非接触で同期回転する。
【0018】
ケーシング4は、主ケーシング41と、主ケーシング41の吸込側(
図1中、左側)に取り付けられる吸込側カバー42と、主ケーシング41の吐出側(
図1中、右側)に取り付けられる吐出側カバー43とを備えている。
【0019】
ケーシング4の内部には、雄ロータ2のロータ歯部21および雌ロータ3のロータ歯部31を互いに噛み合った状態で収容する収容室(ボア)46が形成されている。収容室46は、ケーシング4の内部に形成された一部重複する2つの円筒状空間である。ケーシング4の収容室46を形成する内壁面に対して、雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31がそれぞれ数十~数百μmの隙間を保って配置されている。雄雌両ロータ2、3のロータ歯部21、31とそれを取り囲むケーシング4の内壁面(収容室46の壁面)とによって複数の作動室Cが形成される。作動室C内の作動気体は、作動室Cが雄雌両ロータ2、3の回転に伴って軸方向に移動しつつ収縮することで圧縮される。
【0020】
ケーシング4には、
図1に示すように、作動室Cに気体を吸い込むための吸込流路47が収容室46に連通するように設けられている。また、ケーシング4には、作動室C内の圧縮空気をケーシング4の外部へ導いて吐出するための吐出流路48が収容室46における軸方向吐出側に連通するように設けられている。
【0021】
主ケーシング41におけるモータ90側の端部には、雄ロータ2側の吸込側軸受6及び雌ロータ3側の吸込側軸受が配置されている。また、雄ロータ2の吸込側のシャフト部22における吸込側軸受6よりもモータ90側には、軸封部材12が配置されている。主ケーシング41には、雄ロータ2側の吸込側軸受6及び雌ロータ3側の吸込側軸受並びに軸封部材12を覆うように、吸込側カバー42が取り付けられている。
【0022】
主ケーシング41におけるモータ90とは反対側の端部には、雄ロータ2側の吐出側軸受7、8及びタイミングギア10並びに雌ロータ3側の吐出側軸受及びタイミングギアが配置されている。雄ロータ2側の吐出側軸受7、8及びタイミングギア10並びに雌ロータ3側の吐出側軸受及びタイミングギアは、収容室46よりも軸方向吐出側(
図1中、右側)の位置に配置されている。雄ロータ2の吐出側のシャフト部23におけるロータ歯部21側から吐出側軸受7、8までの部分には、ロータ歯部21に近い方から順に、エアシール13及びオイルシール14が配置されている。雌ロータ3の吐出側のシャフト部33にも、雄ロータ2の吐出側のシャフト部23と同様に、ロータ歯部31に近い方から順に、エアシール及びオイルシール(共に図示せず)が配置されている。エアシール13は、作動室C内の圧縮気体の吐出側軸受7、8側への漏出を抑制するものである。オイルシール14は、吐出側軸受7、8に供給された潤滑油の収容室46(作動室C)への侵入を防止するものである。吸込側軸受6及び吐出側軸受7、8に潤滑油を供給するための給油路49がケーシング4に設けられている。主ケーシング41には、吐出側軸受7、8及びタイミングギア10を覆うように、吐出側カバー43が取り付けられている。
【0023】
また、ケーシング4には、
図1及び
図2に示すように、冷却材を循環させるための冷却流路60が設けられている。冷却流路60は、気体の圧縮により生じる熱が伝達されるケーシング4を冷却するためのものである。本実施の形態は冷却流路60の構造に特徴を有するものであり、当該冷却流路60の構成及び構造の詳細は後述する。冷却材としては、冷却水や潤滑油などの液体の他に気体を用いることも可能である。
【0024】
ケーシング4の冷却流路60には、冷却材を循環させるための外部冷却系統100が接続されている。外部冷却系統100は、例えば、雄雌両ロータ2、3の吸込側軸受6及び吐出側軸受7、8を潤滑するための潤滑油をケーシング4の冷却材としても用いるように構成されたものである。具体的には、外部冷却系統100は、潤滑油(冷却材)を吸込側軸受6及び吐出側軸受7、8並びにケーシング4へ送出するポンプ101と、潤滑油(冷却材)を冷却する冷却器102と、フィルタや逆止弁などの補機103と、これらを接続する配管104とを備えている。冷却器102は、例えば、冷却器102の周囲の外気を用いて冷却する空冷式のものである。配管104は、冷却流路60に冷却材としての潤滑油を供給する冷却材供給配管104aと、吸込側軸受6及び吐出側軸受7、8に潤滑油を供給する潤滑油供給配管104bとに分岐している。
【0025】
なお、本実施の形態においては、ケーシング4の冷却材として潤滑油を用いることで、吸込側軸受6及び吐出側軸受7、8に潤滑油を供給する系統と外部冷却系統100と共用とした構成の例を示した。しかし、吸込側軸受6及び吐出側軸受7、8に潤滑油を供給する系統とは別に、外部冷却系統を設ける構成も可能である。例えば、外部冷却系統を介して冷却材としての冷却水をケーシング4やモータ90に導入する構成も可能である。
【0026】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路の構成及び構造について
図1~
図3を用いて説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図1に示すIII-III矢視から見た断面図である。
【0027】
図1に示すケーシング4における吐出流路48の周辺や作動室C(収容室46)の周囲は、気体の圧縮過程で生じる熱が伝達されて温度が上昇する。この伝熱によりケーシング4には熱変形が生じる。特に、高温の圧縮気体が流れる吐出流路48の周辺部分の熱変形が大きくなるので、吐出流路48の近く配置されている雄ロータ2側の吐出側軸受7、8と雌ロータ3側の吐出側軸受との相対距離が拡がってしまうことがある。当該相対距離の拡大によって、
図2に示す雄雌両ロータ2、3の噛合い部間の隙間が大きくなると、当該隙間を介した圧縮気体の内部漏洩が増大してしまう。
【0028】
そこで、本実施の形態においては、
図1及び
図3に示すように、雄雌両ロータ2、3の軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置であって雄雌両ロータ2、3の吐出側のシャフト部23、33の径方向外側の位置に、冷却流路60を設けている。具体的には、冷却流路60は、例えば
図1~
図3に示すように、ケーシング4の外部の外部冷却系統100から供給される冷却材(潤滑油)をケーシング4に導入する導入流路61と、ケーシング4を冷却した冷却材をケーシング4の外部の外部冷却系統100に排出する排出流路62と、導入流路61から二又に分岐する第1分岐流路63及び第2分岐流路64と、収容室46の径方向外側に配設されている第3分岐流路65とで構成されている。
【0029】
導入流路61は、外部冷却系統100に直接的に又は接続管を介して接続される導入口61aを上流端に有すると共に、第1分岐流路63と第2分岐流路64とに二又に分岐する分岐部61bを下流端部に有している。導入口61a及び分岐部61bを含む導入流路61は、雄雌両ロータ2、3の軸方向において吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置に配置されていると共に、吐出流路48を雄雌両ロータ2、3の軸方向に投影した領域48pと重なる位置に配置されている。
【0030】
排出流路62は、外部冷却系統100に直接的に又は接続管を介して間接的に接続される排出口62aを下流端に有すると共に、第1分岐流路63と第2分岐流路64との2つの流路が合流する合流部62bを上流端部に有している。排出口62a及び合流部62bを含む排出流路62は、雄雌両ロータ2、3の軸方向において収容室46と吐出側軸受7、8との間の位置に配置されていると共に、雄ロータ2の中心軸線A1と雌ロータ3の中心軸線A2とを含む平面Pを境界として導入流路61の反対側に配置されている。
【0031】
第1分岐流路63及び第2分岐流路64は、上流の導入流路61における分岐部61bから2つに分岐し、ケーシング4の周方向に沿って互いに反対方向に向かって延在し、排出流路62における合流部62bにて合流するように構成されている。第1分岐流路63は、雄ロータ2の吐出側のシャフト部23よりも径方向外側の部分において周方向に沿って延在している。第2分岐流路64は、雌ロータ3の吐出側のシャフト部33よりも径方向外側の部分において周方向に沿って延在している。すなわち、第1分岐流路63及び第2分岐流路64は、雄雌両ロータ2、3の軸方向の吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置において、雄雌両ロータ2、3の吐出側のシャフト部23、33を径方向外側から囲むように設けられている。第1分岐流路63及び第2分岐流路64並びにその分岐部61b及び合流部62bは、高温の圧縮気体が流れる吐出流路48と吐出側軸受7、8との間のケーシング部分を冷却するものである。
【0032】
第3分岐流路65は、第1分岐流路63及び第2分岐流路64の少なくとも一方に連通するものであり、
図2に示すように、収容室46よりも径方向外側においてケーシング4の周方向に延在している。第3分岐流路65は、雄雌両ロータ2、3の歯先と対向しているケーシング4の内周面(収容室46の壁面)の周辺部分を冷却するものである。
【0033】
このように、本実施の形態においては、ケーシング4の冷却流路60が上流から下流に向かって二又に分岐した後に再び合流するように構成されている。この冷却流路60の分岐部61bは、雄雌両ロータ2、3の軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間に位置にあると共に、吐出流路48を雄雌両ロータ2、3の軸方向に投影した領域48pと重なる位置にある。発明者は、冷却流路60の分岐部61bを上述の位置に配置することで、吐出流路48及び吐出側軸受7、8の近傍に位置する分岐部61b及びその周辺部分の熱伝達率が向上することを見出した。
【0034】
次に、第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機における冷却流路の作用及び効果を
図1~
図5を用いて説明する。
図4は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機を
図3に示すIV-IV矢視から見たときの冷却流路内の流れ(二次流れ)を示す概略図である。
図5は本発明の第1の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングと冷却流路内の冷却材との間の熱伝達率の分布の解析結果を示す図である。
図3及び
図5中、白抜き矢印は冷却材(潤滑油)の流れの方向を示している。
図4中、矢印は冷却材(潤滑油)の二次流れの向きを示している。
【0035】
上述の構成を備えたスクリュー圧縮機1では、
図1に示すモータ90により雄ロータ2が駆動されると、雄ロータ2がタイミングギア10を介して
図2に示す雌ロータ3を回転駆動する。これにより、
図1及び
図2に示す作動室Cが雄雌両ロータ2、3の回転に伴って軸方向に移動する。このとき、作動室Cは、その容積を増加させることでケーシング4の外部から
図1に示す吸込流路47を介して気体(例えば、空気)を吸い込み、その容積を縮小させることで気体を所定の圧力まで圧縮する。当該作動室Cが吐出流路48に連通すると、作動室C内の圧縮気体が吐出流路48を通過してケーシング4の外部へ吐出される。気体は圧縮されると温度上昇するので、気体の熱がケーシング4に伝達される。
【0036】
そこで、本実施の形態に係るスクリュー圧縮機1では、
図1に示す外部冷却系統100から潤滑油が冷却材としてケーシング4の冷却流路60に供給される。ケーシング4を冷却して温度上昇した冷却材は、冷却流路60から外部冷却系統100へ排出される。外部冷却系統100へ排出された冷却材は、外部冷却系統100のポンプ101によって冷却器102に送出され、冷却器102にて冷却される。冷却器102により温度の低下した冷却材は、補機103及び冷却材供給管路104aを介して再び冷却流路60に導入される。
【0037】
ところで、ケーシング4に対する冷却能力を向上させる方策の1つとして、ケーシング4の冷却材の温度を下げることが考えられる。しかし、この場合、外部冷却系統100の冷却器102を大型化する必要があるので、その分、コストが増加する。加えて、冷却器102が空冷式である場合には、冷却材の温度が外気温度以上に制約されるので、冷却材の温度を下げることによって冷却能力を向上させることは難しい。
【0038】
冷却能力を向上させる別の方策として、ケーシング4の冷却材の流量を増やすことが考えられる。これにより、冷却材の流速が上昇して冷却流路60の当該壁面近傍における熱伝達率が向上する。しかし、この場合、外部冷却系統100のポンプ101を大型化する必要があり、その分、ポンプ101の動力が増加する。結果として、圧縮機システムの全体の動力が増加することがある。
【0039】
それに対して、本実施の形態においては、
図3に示すように、ケーシング4の冷却流路60を上流の導入流路61から分岐部61bを介して下流の第1分岐流路63と第2分岐流路64とに二又に分岐するように構成したものである。すなわち、ケーシング4の冷却材の温度や流量を従前の場合と同等に設定する場合であっても、冷却流路60の構造の特徴部によってケーシング4に対する冷却能力の向上を図るものである。
【0040】
導入流路61を流れる冷却材の主流の向きは、第1分岐流路63と第2分岐流路64との分岐によって転向される。このため、分岐部61b並びにその直下流の第1分岐流路63及び第2分岐流路64の領域において、冷却材の主流に対して遠心力が作用して圧力勾配が生じる。これにより、分岐部61b並びにその直下流の第1分岐流路63及び第2分岐流路64の領域では、冷却材の主流に直交する断面において、
図4に示すような二次流れが発生する。二次流れの発生によって、当該領域の壁面近傍における冷却材の温度境界層が薄くなるので、当該領域の壁面と冷却材との間の熱伝達率が高まる。
図5に示す解析結果からも、分岐部61b並びにその直下流の第1分岐流路63及び第2分岐流路64の領域において、熱伝達率が向上することがわかる。
図5中、白黒の濃淡は熱伝達率の高低を表しており、白から黒に近づくにつれて熱伝達率が大きくなることを示している。熱伝達率が向上すると、ケーシング4における冷却流路60の壁面と冷却流路60を流れる冷却材との交換熱量が増加するので、運転時のケーシング4の温度上昇を抑制することができる。
【0041】
本実施の形態においては、熱伝達率が向上するケーシング4の冷却流路60の分岐部61bを雄雌両ロータ2、3の軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置かつ吐出流路48を軸方向に投影した領域48pに重なる位置に配置している。これにより、ケーシング4に供給する冷却材の温度や流量を従前と同等に設定しても、ケーシング4のうち最も高温となる吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の部分に対する冷却能力が向上するので、ケーシング4の当該部分の熱変形を抑制することができる。このため、ケーシング4の熱変形に起因する雄ロータ2側の吐出側軸受7、8と雌ロータ3側の吐出側軸受との相対距離の拡大が抑制されるので、雄雌両ロータ2、3の噛合い部間の隙間の拡大の抑制によりスクリュー圧縮機1の内部漏洩が低減される。その結果、圧縮機効率が向上する。
【0042】
上述した本実施の形態のスクリュー圧縮機1は、噛み合うように回転する雄ロータ2及び雌ロータ3(複数のスクリューロータ)と、雄ロータ2及び雌ロータ3(複数のスクリューロータ)の各々の軸方向の吐出側(一方側)を回転自在に支持する吐出側軸受7、8と、雄ロータ2及び雌ロータ3(複数のスクリューロータ)を収容する収容室46を有し、収容室46よりも軸方向の吐出側(一方側)の位置に吐出側軸受7、8が配置され、雄ロータ2及び雌ロータ3(複数のスクリューロータ)と共に作動室Cを形成するケーシング4とを備える。ケーシング4は、収容室46における軸方向の吐出側(一方側)に連通し、作動室C内の圧縮気体をケーシング4の外部へ導く吐出流路48を有すると共に、ケーシング4の外部から供給される冷却材が循環する冷却流路60を有する。冷却流路60は、分岐部61bにおいて上流から下流に向かって分岐する。分岐部61bは、軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置にあり、且つ、吐出流路48を軸方向に投影した領域48pに重なる位置にある。
【0043】
この構成によれば、軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置かつ吐出流路48を軸方向に投影した領域48pに重なる位置にある分岐部61bにおいて冷却流路60を分岐させることで、冷却流路60の分岐部61b及びその直下流の領域において熱伝達率が向上する。これにより、ケーシング4に対する冷却材の冷却能力が向上する。つまり、ケーシング4における吐出側軸受7、8の周辺部分に対する冷却能力が高まるので、ケーシング4の熱変形に起因する吐出側軸受7、8間の相対距離の拡大が抑制され、圧縮機効率の向上を図ることができる。
【0044】
また、本実施の形態に係るケーシング4の冷却流路60は、ケーシング4の外部から冷却材を導入する導入口61aを上流端に有し導入口61aから分岐部61b(所定の位置)まで延在する導入流路61を含んでいる。導入流路61は、軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置かつ吐出流路48を軸方向に投影した領域48pと重なる位置に配置されている。
【0045】
この構成によると、ケーシング4の外部から導入口61aを介して導入された冷却材が高温になる吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の領域を流れるので、吐出側軸受7、8の周辺のケーシングの熱変形を抑制することができる。
【0046】
また、本実施の形態に係る冷却流路60は、分岐部61bで二又に分岐する第1分岐流路63と第2分岐流路64とを含む。第1分岐流路63と第2分岐流路64は、分岐部61bからケーシング4の周方向に沿って互いに反対方向に向かって延在するように構成されている。
【0047】
この構成によれば、第1分岐流路63と第2分岐流路64を分岐部61bからケーシング4の周方向に沿って互いに反対方向に向かって延在させることで、吐出側軸受7、8の周辺部分における外周が冷却されるので、ケーシング4の熱変形に起因する雄ロータ2の吐出側軸受7、8と雌ロータ3の吐出側軸受との相対距離の拡大を抑制することができる。したがって、雄ロータ2及び雌ロータ3(複数のスクリューロータ)の噛合い部の隙間の拡大が抑制されるので、圧縮機効率を改善することができる。
【0048】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機について例示説明する。まず、第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の構成及び構造について
図6を用いて説明する。
図6は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の概略構造を示す断面図である。なお、
図6において、
図1~
図5に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0049】
図6に示す第2の実施の形態によるスクリュー圧縮機1Aが第1の実施の形態と異なる点は、ケーシング4の冷却流路60が接続管としての曲がり管66を介して外部冷却系統100(
図1参照)に接続にされていることである。曲がり管66は、冷却材の主流の流れ方向を転向させて冷却材の流れの剥離を生じさせる曲げ流路を含むものである。本実施の形態においては、冷却流路60の分岐部61b(
図3参照)の上流の或る範囲内に曲げ流路を配置するものである。
【0050】
具体的には、曲がり管66は、流路が直線状に延びる第1直管部66aと、流路が直線状に延び、第1直管部66aよりも下流側に位置する第2直管部66bと、第1直管部66aと第2直管部66bとを繋ぐ曲げ部66cとで構成されている。第1直管部66aは、外部冷却系統100側に接続される部分である。第2直管部66bは、ケーシング4の冷却流路60の導入口61aに接続される部分である。曲げ部66cは、冷却材の主流の流れ方向を転向させて流れの剥離を発生させる曲げ流路として機能する部分である。
【0051】
なお、ケーシング4の冷却流路60の構成や構造、位置などは第1の実施の形態のものと同様である(
図3参照)。すなわち、冷却流路60は、上流の導入流路61から分岐部61bを介して下流の第1分岐流路63と第2分岐流路64とに二又に分岐するように構成されている。さらに、当該分岐部61bは、雄雌両ロータ2、3の軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置にあると共に、吐出流路48を雄雌両ロータ2、3の軸方向に投影した領域48pと重なる位置にある。
【0052】
次に、曲がり管を介してケーシングの冷却流路に冷却材を導入する本実施の形態における作用及び効果について
図7を用いて説明する。
図7は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路に接続された曲がり管内の冷却材の流速分布の解析結果を示す図である。
図7中、白黒の濃淡は冷却材の流速の高低を表しており、白から黒に近づくにつれて流速が高くなることを示している。また、白抜き矢印は冷却材の主流の方向を示している。
【0053】
曲がり管66内を流れる冷却材の流速は、
図7に示すように、曲げ部66c(曲げ流路)の下流側の第2直管部66b内の流速が上流側の第1直管部66a内の流速よりも大きくなる。したがって、曲がり管66を介してケーシング4の冷却流路60に冷却材を導入すると、冷却流路60に導入される冷却材の流速が増速する。このため、冷却流路60の分岐部61b並びにその直下流の第1分岐流路63及び第2分岐流路64の領域(
図3参照)における冷却材の主流の流速も増速する。これにより、冷却材の主流に直交する断面内の二次流れの発生が促進され、ケーシング4の当該領域の壁面と冷却材との間の熱伝達率が更に高まる。したがって、ケーシング4に対する冷却材の冷却能力が更に向上するので、ケーシング4の熱変形が更に抑制され、ケーシング4の熱変形に起因する雄ロータ2側の吐出側軸受7、8と雌ロータ3側の吐出側軸受との相対距離の拡大を更に抑制することができる。
【0054】
ここで、曲がり管66内の冷却材の流速が増速する原理を説明する。曲がり管66の曲げ部66c(曲げ流路)の下流側では、冷却材の流れの剥離によって流速が著しく小さいよどみ領域が発生する。曲げ部66cの下流側の第2直管部66b内では、冷却材の流れ(流量)がよどみ領域以外の領域に集中するので、冷却材の流速が増加する。
図7中、白い部分がよどみ領域に相当する。
【0055】
曲がり管66において流れの剥離を生じさせるためには、冷却材の流れ方向をある程度急激に転向させる必要がある。すなわち、流れの剥離を生じさせる曲げ流路は、その方向を急激に転向させる必要がある。ここで、流路の方向について説明する。流路の断面積が最小となる断面内の重心点を結んだ線を流路の中心線とする。中心線が曲線である場合には、当該曲線上の各点における接線を中心線として中心線の向く方向を流路の方向と定義する。流れの剥離により下流側が上流側よりも流れが増速する曲げ流路の条件としては、例えば、曲げ流路の曲線状の中心線の長さがケーシング4の冷却流路60の導入口61aの直径又は水力直径以下となる範囲内において、当該流路の方向が上流から下流に向かって45°以上90°以下の範囲内で変化することが望ましい。なお、曲げ流路の方向(中心線の向く方向)が上流から見て45°変化したときの中心線の位置を曲げ点と定義する。曲げ流路の条件として、流路の方向(中心線の向く方向)を90°以下とする理由は、曲げ流路の方向を90°よりも大きく変化させると、曲げ流路の長さが長くなって流れの圧力損失が増加するからである。
【0056】
曲げ流路によって増速された冷却材が下流側の直線状の流路内を流れ続けると、よどみ領域が消失して曲げ流路の上流側の流速に戻ってしまう。すなわち、曲がり管66の第2直管部66bの長さが長すぎると、曲げ部66cによる冷却材の増速効果が消滅してしまう。そこで、曲がり管66の曲げ部66c(曲げ点)からケーシング4の冷却流路60の分岐部61bまでの距離、または、曲がり管66の第2直管部66bの長さをある程度の範囲内に限定する必要がある。
【0057】
ここで、曲げ流路としての曲がり管66の曲げ部66cからケーシング4の冷却流路60の分岐部61bまでの距離の設定範囲について
図8を用いて説明する。
図8は本発明の第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路に接続された曲がり管の曲げ部(曲げ流路)からの距離と当該位置の冷却材の流速との関係の解析結果を示す図である。
図8中、横軸L/dは冷却流路60の導入口61aの直径に対する曲がり管66の曲げ部66c(曲げ点)から下流側に向かう距離の比を、縦軸V/V0は曲がり管66における曲げ部66cよりも上流側の第1直管部66a内の冷却材の主流速度に対する下流側の第2直管部66b内の冷却材の主流流度の比を表している。
【0058】
第2直管部66b内の冷却材の主流速度は、
図8に示すように、曲げ部66c(曲げ流路)から下流側に向かうにつれて徐々に増加し、或る位置(
図8中、約1程度)において最大となる。その後、第2直管部66b内の冷却材の主流速度は、下流に行くほど低下する。曲げ部66c(曲げ流路)からの距離が冷却流路60の導入口61aの直径の約10倍となる位置において、曲げ部66cの上流側の第1直管部66a内の冷却材の主流速度と同じ速度となる。
【0059】
このことから、曲がり管66の曲げ部66c(曲げ流路)の曲げ点から冷却流路60の分岐部61bまでの流路の最大の長さを冷却流路60の導入口61aの直径又は水力直径の10倍未満に設定することで、曲がり管66の曲げ部66c(曲げ流路)による冷却材の増速効果を得ることができる。なお、本実施の形態のように、曲がり管66の曲げ部66c(曲げ流路)の曲げ点から冷却流路60の分岐部61bに向かう流路が雄ロータ2及び雌ロータ3の軸方向でなく径方向の場合には、雄ロータ2の中心軸線A1及び雌ロータ3の中心軸線A2を含む平面Pと曲がり管66の曲げ部66cの曲げ点との間の最短距離を冷却流路60の導入口61aの直径又は水力直径に対して10倍以下に設定することも可能である。当該最短距離は、曲がり管66の曲げ部66c(曲げ流路)の曲げ点から冷却流路60の分岐部61bまでの流路長よりも確実に長くなるので、冷却流路60の分岐部61bにおいて、曲がり管66の曲げ部66c(曲げ流路)による冷却材の増速効果を確実に得ることができる。
【0060】
なお、本実施の形態においては、曲がり管66をケーシング4に接続することで、冷却流路60の分岐部61bの上流側に曲げ流路を配置した構成の例を示した。しかし、曲がり管66をケーシング4に接続する代わりに、ケーシング4の内部に曲げ流路を設ける構成も可能である。すなわち、ケーシング4の内部における冷却流路60の分岐部61bよりも上流側の所定の範囲内の位置に曲げ流路を配置する。これにより、冷却流路60内の曲げ流路によって冷却材の増速効果を得ることができ、冷却流路60の分岐部61bにおける熱伝達率が向上する。
【0061】
上述した第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置かつ吐出流路48を軸方向に投影した領域48pに重なる位置にある分岐部61bにおいて冷却流路60を分岐させることで、冷却流路60の分岐部61b及びその直下流の領域において熱伝達率が向上する。これにより、ケーシング4に対する冷却材の冷却能力が向上する。つまり、ケーシング4における吐出側軸受7、8の周辺部分に対する冷却能力が高まるので、ケーシング4の熱変形に起因する吐出側軸受7、8間の相対距離の拡大が抑制され、圧縮機効率の向上を図ることができる。
【0062】
また、本実施の形態に係るスクリュー圧縮機1Aにおいては、冷却材の流れ方向を転向させる曲げ流路としての曲がり管66の曲げ部66cが冷却流路60の分岐部61bよりも上流側に配置され、冷却流路60がケーシング4の外部から冷却材を導入する導入口61aを有する。曲げ流路は、その中心線の長さが導入口61aの直径又は水力直径以下の範囲内において、その中心線の向きが上流から下流に向かって45°以上90°以下の範囲内で変化するように構成されている。曲げ流路の曲げ点から冷却流路60の分岐部61bまでの流路の最大長さは、導入口61aの直径又は水力直径の10倍未満に設定されている。
【0063】
この構成によれば、曲げ流路としての曲がり管66の曲げ部66cによって冷却流路60の分岐部61bにおける冷却材の主流速度が曲げ流路(曲げ部66c)よりも上流の冷却材の主流速度よりも速くなる。冷却材の主流の増速分、当該分岐部61b及びその直下流の熱伝達率が向上するので、ケーシング4に対する冷却材の冷却効果が向上する。
【0064】
また、本実施の形態に係るスクリュー圧縮機1Aは、ケーシング4の導入口61aに接続された曲がり管66を更に備える。曲がり管66は、流路が直線状に延びる第1直管部66aと、流路が直線状に延び、第1直管部66aよりも下流側に位置して導入口61aに接続される第2直管部66bと、第1直管部66aと第2直管部66bとを繋ぐ曲げ部66cとを有する。曲げ部66cの流路は上述の条件の曲げ流路として構成されている。
【0065】
この構成によれば、スクリュー圧縮機1Aのケーシング4の冷却流路60に対して曲がり管66を介して冷却材を導入することで、分岐部61bにおける冷却材の主流の増速効果を簡素な構成によって得ることができる。
【0066】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機について例示説明する。まず、第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の構成及び構造について
図9を用いて説明する。
図9は本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機の概略構造を示す断面図である。なお、
図9において、
図1~
図8に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0067】
図9に示す第3の実施の形態によるスクリュー圧縮機1Bが第1の実施の形態と異なる点は、ケーシング4の冷却流路60が接続管としての縮小管67を介して外部冷却系統100(
図1参照)に接続にされていることである。縮小管67の流路は、上流から下流に向かって流路断面積が縮小する縮小流路として構成されるものである。本実施の形態においては、冷却流路60の分岐部61b(
図3参照)の上流側に縮小流路を配置するものである。
【0068】
具体的には、縮小管67は、外部冷却系統100に接続される大径管部67aと、ケーシング4の冷却流路60の導入口61aに接続される小径管部67bと、大径管部67aと小径管部67bとを繋ぐテーパ管部67cとで構成されている。大径管部67a及び小径管部67bは流路断面積が一定の直線状に延びる直管部であり、大径管部67aの流路断面積は小径管部67bの流路断面積よりも大きくなるように設定されている。テーパ管部67cは、流路断面積が上流から下流に向かって減少する部分である。なお、縮小管67は、テーパ管部67cを介さずに、大径管部67aと小径管部67bとを直接的に繋がる構成も可能である。
【0069】
なお、ケーシング4の冷却流路60の構成や構造、位置などは第1の実施の形態のものと同様である(
図3参照)。すなわち、冷却流路60は、上流の導入流路61から分岐部61bを介して下流の第1分岐流路63と第2分岐流路64とに二又に分岐するように構成されている。さらに、当該分岐部61bは、雄雌両ロータ2、3の軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置にあると共に、吐出流路48を雄雌両ロータ2、3の軸方向に投影した領域48pと重なる位置にある。
【0070】
次に、縮小管を介してケーシングの冷却流路に冷却材を導入する本実施の形態における作用及び効果について
図10を用いて説明する。
図10は本発明の第3の実施の形態に係るスクリュー圧縮機におけるケーシングの冷却流路に接続された縮小管内の冷却材の流速分布の解析結果を示す図である。
図10中、白黒の濃淡は冷却材の流速の高低を表しており、白から黒に近づくにつれて流速が高くなることを示している。また、白抜き矢印は、冷却材の主流の方向を示している。
【0071】
縮小管67内を流れる冷却材の流速は、
図10に示すように、テーパ管部67cの下流側の小径管部67b内の流速が上流側の大径管部67a内の流速よりも大きくなる。これは、断面積が絞られた流路に冷却材の流量が集中するからである。したがって、縮小管67を介してケーシング4の冷却流路60に冷却材を導入すると、冷却流路60に導入される冷却材の流速が増速する。このため、冷却流路60の分岐部61b並びにその直下流の第1分岐流路63及び第2分岐流路64の領域(
図3参照)における冷却材の主流の流速も増速する。これにより、冷却材の主流に直交する断面内の二次流れの発生が促進され、ケーシング4の当該領域の壁面と冷却材との間の熱伝達率が更に高まる。したがって、ケーシング4に対する冷却材の冷却能力が更に向上するので、ケーシング4の熱変形が更に抑制され、ケーシング4の熱変形に起因する雄ロータ2側の吐出側軸受7、8と雌ロータ3側の吐出側軸受との相対距離の拡大を更に抑制することができる。
【0072】
ただし、縮小管67のテーパ管部67cよりも下流側の流路が分岐していると、冷却材が分岐した流路に分流してしまうので、分岐した各流路における流速が低下してしまう。そのため、縮小管67のテーパ管部67cとケーシング4の冷却流路60の導入口61aとの間で流路が分岐しない構成とする必要がある。すなわち、小径管部67bを分岐させないことが要求される。
【0073】
本実施の形態においては、ケーシング4の冷却流路60に接続する縮小管67が第2の実施の形態におけるケーシング4の冷却流路60に接続する曲がり管66に比べて省スペースである。このため、スクリュー圧縮機1Bやモータ90などを収容するパッケージ内のスペースが限られている場合に、第2の実施の形態よりも有利である。
【0074】
なお、本実施の形態においては、縮小管67をケーシング4に接続することで、冷却流路60の分岐部61bの上流側に縮小流路を配置した構成の例を示した。しかし、縮小管67をケーシング4に接続する代わりに、ケーシング4の内部に縮小流路を設ける構成も可能である。すなわち、ケーシング4の内部における冷却流路60の分岐部61bよりも上流側の位置に縮小流路を配置する。これにより、冷却流路60内の縮小流路によって冷却材の増速効果を得ることができ、冷却流路60の分岐部61bにおける熱伝達率が向上する。
【0075】
上述した第3の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、雄ロータ2及び雌ロータ3の軸方向における吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置かつ吐出流路48を軸方向に投影した領域48pに重なる位置にある分岐部61bにおいて冷却流路60を分岐させることで、冷却流路60の分岐部61b及びその直下流の領域において熱伝達率が向上する。これにより、ケーシング4に対する冷却材の冷却能力が向上する。つまり、ケーシング4における吐出側軸受7、8の周辺部分に対する冷却能力が高まるので、ケーシング4の熱変形に起因する吐出側軸受7、8間の相対距離の拡大が抑制され、圧縮機効率の向上を図ることができる。
【0076】
また、本実施の形態に係るスクリュー圧縮機1Bにおいては、上流から下流に向かって流路断面積が縮小する縮小流路としての縮小管67が冷却流路60の分岐部61bよりも上流側に配置され、縮小流路(冷却流路60の分岐部61b)から冷却流路60の分岐部61bまでの間の流路は、分岐の無い一本の流路によって構成されている。
【0077】
この構成によれば、縮小流路としての縮小管67によって冷却流路60の分岐部61bにおける冷却材の主流速度が縮小流路(縮小管67のテーパ管部67c)よりも上流側の冷却材の主流速度よりも速くなる。冷却材の主流の増速分、当該分岐部61b及びその直下流の熱伝達率が向上するので、ケーシング4に対する冷却材の冷却効果が向上する。
【0078】
また、本実施の形態においては、冷却流路60がケーシング4の外部から冷却材を導入する導入口61aを有し、スクリュー圧縮機1Bがケーシング4の導入口61aに接続された縮小管67を更に備える。縮小管67の流路は、縮小流路として構成されている。
【0079】
この構成によれば、スクリュー圧縮機1Bのケーシング4の冷却流路60に対して縮小管67を介して冷却材を導入することで、分岐部61bにおける冷却材の主流の増速効果を簡素な構成によって得ることができる。
【0080】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0081】
上述した第1~第3の実施の形態においては、無給油式のスクリュー圧縮機1、1A、1Bを例に挙げて説明したが、油や水などの液体を作動室Cに供給する給液式のスクリュー圧縮機にも本発明を適用することができる。
【0082】
また、上述した実施の形態においては、一対のスクリューロータを備えるツインスクリュー式のスクリュー圧縮機1、1A、1Bを例に挙げて説明したが、3つ以上のスクリューロータを備えるマルチスクリュー式のスクリュー圧縮機にも本発明を適用することができる。
【0083】
また、上述した実施の形態においては、ケーシング4の冷却流路60が導入流路61から第1分岐流路63と第2分岐流路64とに二又に分岐する構成の例を示した。しかし、冷却流路は、導入流路61から3以上の複数の分岐流路に分岐する構成も可能である。このような構成であっても、複数の分岐流路が分岐する分岐部61bを、雄雌両ロータ2、3の軸方向において吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の位置に配置すると共に、吐出流路48を雄雌両ロータ2、3の軸方向に投影した領域48pと重なる位置に配置することで、ケーシング4のうち吐出流路48と吐出側軸受7、8との間の高温部分の領域の冷却の促進を図ることができる。
【0084】
また、上述した第3の実施の形態における縮小管67の下流側に第2の実施の形態における曲がり管66を配置する構成も可能である。すなわち、冷却流路60の分岐部61bよりも上流において、断面積が下流側に向かって縮小する流路の下流側に曲げ流路を配置する構成が可能である。この構成では、縮小流路による冷却材の増速効果に加えて曲げ流路による増速効果を得ることで、冷却流路60の分岐部61bの熱伝達率の向上効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0085】
1、1A、1B…スクリュー圧縮機、 2…雄ロータ(スクリューロータ)、 3…雌ロータ(スクリューロータ)、 4…ケーシング、 7、8…吐出側軸受、 46…収容室、 48…吐出流路、 48p…吐出流路を軸方向に投影した領域、 60…冷却流路、 61…導入流路、 61a…導入口、 61b…分岐部、 63…第1分岐流路、 64…第2分岐流路、 66…曲がり管、 66a…第1直管路、 66b…第2直管路、 66c…曲げ部(曲げ流路)、 67…縮小管(縮小流路)、 C…作動室