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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】評価方法、評価システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/10 20060101AFI20240621BHJP
   G21C 7/10 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
G21C17/10 700
G21C7/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021081396
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2022175184
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昇平
(72)【発明者】
【氏名】中野 敬之
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-277599(JP,A)
【文献】特開2012-068123(JP,A)
【文献】特開2011-191145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0013399(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 7/00-7/36,17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、
前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析するステップと、
前記解析するステップで解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、
前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、
を有し、
前記影響度を評価するステップでは、
ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する、
評価方法。
【請求項2】
前記影響度を評価するステップでは、
中性子の吸収による前記制御棒の膨張度を評価する、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記制御棒が中性子を吸収するとヘリウムガスを発生させる材料で構成されている場合、前記圧力を評価する、
請求項1又は請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、
前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析するステップと、
前記解析するステップで解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、
前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、
を有し、
前記運転条件を取得するステップでは、前記原子炉の運転の開始前に、前記運転の開始後に実施が予測される複数の前記運転条件を取得し、
前記解析するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転での燃料および制御棒の装荷パターンに基づいて、前記運転条件ごとに前記中性子束強度分布を解析し、
前記評価するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転条件ごとに前記評価を行って、当該運転条件を適用した運転の実行可能回数を評価し、
前記判定するステップでは、前記運転の開始後に実行された前記運転条件に対応する運転の回数と、当該運転条件について評価した前記実行可能回数と、に基づいて前記健全性を判定する、
評価方法。
【請求項5】
制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、
前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析するステップと、
前記解析するステップで解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、
前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、
を有し、
前記運転条件を取得するステップでは、前記原子炉の運転の開始前に、前記運転の開始後に実施が予測される複数の前記運転条件を取得し、
前記解析するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転での燃料および制御棒の装荷パターンに基づいて、前記運転条件ごとに前記中性子束強度分布を解析し、
前記評価するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転条件ごとに前記評価を行って、当該運転条件を適用して所定回数運転したときの前記影響度を評価し、
前記判定するステップでは、前記運転の開始後に実行された前記運転条件に対応する運転の回数と、当該運転条件を適用して所定回数運転したときの前記影響度と、前記影響度についての所定の閾値と、に基づいて、前記健全性を判定する、
評価方法。
【請求項6】
前記運転条件を取得するステップでは、前記運転の開始後に、前記実施が予測される複数の前記運転条件以外の前記運転条件である想定外運転条件を取得し、
解析するステップでは、前記想定外運転条件に基づいて前記中性子束強度分布を解析し、
前記評価するステップでは、前記想定外運転条件を適用して前記原子炉を運転したときの前記影響度を評価する、
前記判定するステップでは、さらに前記想定外運転条件を適用して運転したときの前記影響度に基づいて、前記健全性を判定する、
請求項または請求項に記載の評価方法。
【請求項7】
制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するデータ取得部と、
前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析する解析部と、
前記解析部によって解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価する評価部と、
前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定する判定部と、
を有し、
前記評価部は、
ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する、
評価システム。
【請求項8】
コンピュータに、
制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、
前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析するステップと、
前記解析するステップで解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、
前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、
を有し、
前記影響度を評価するステップでは、
ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価方法、評価システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力プラントは一定の出力で運転されることが多いが、再生可能エネルギーの普及等を背景として、柔軟に出力を調整して運転することが求められている。原子力プラントの発電量を変動させるには、原子炉の出力を変動させる必要があり、この制御には制御棒が用いられる(特許文献1)。制御棒は、中性子を吸収する性質があり、制御棒を原子炉に挿入することによって核反応の発生量を減少させ、原子炉出力を低下させることができる。出力一定運転の場合、原子炉の制御棒が概ね全て引き抜かれた状態で原子力プラントの運転を行う。出力変動運転を実施する場合、原子炉出力を変動させるために、制御棒の挿入/引抜を行う。制御棒を原子炉に挿入して、原子力プラントを運転すると、中性子の照射によって制御棒に膨張、変形、破損などが生じ、制御棒の健全性が失われる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6188872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出力変動運転に対応するためには、制御棒の健全性を担保しつつ、原子力プラントの運転を行う必要がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる評価方法、評価システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の評価方法は、制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析するステップと、前記解析するステップで解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、を有し、前記影響度を評価するステップでは、ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する。
【0007】
本開示の評価システムは、制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するデータ取得部と、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析する解析部と、前記解析部によって解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価する評価部と、前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定する判定部と、を有し、前記評価部は、ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束強度分布を解析するステップと、前記解析するステップで解析された前記中性子束強度分布に基づいて、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の中性子照射による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、を有し、前記影響度を評価するステップでは、ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の評価方法、評価システム及びプログラムによれば、制御棒の健全性を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る評価システムの一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る制御棒の健全性の評価について説明する図である。
図3】実施形態に係る評価テーブルの一例を示す図である。
図4】実施形態に係る評価テーブルの作成処理の一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る出力変動可否判定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る評価システム等のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の制御棒の健全性評価方法について、図1図6を参照して説明する。
<実施形態>
(構成)
図1は、実施形態に係る評価システムの一例を示すブロック図である。
評価システム10は、データ取得部11と、制御部12と、出力部13と、記憶部14と、を備える。
【0012】
データ取得部11は、制御棒3(図2)の健全性評価に用いるデータを取得する。例えば、健全性評価の評価条件として、原子炉1(図2)の出力、その出力での運転時間、燃料の配置、制御棒3の配置などの情報を取得する。また、原子力プラントの運転中には、原子炉の出力、その出力での運転時間の情報を取得する。
【0013】
制御部12は、制御棒3の健全性を評価し、原子炉1の出力変動運転(制御棒3を挿入した状態での運転)の可否を判断する処理を制御する。制御部12は、解析部121と、健全性判定部122と、を備える。
解析部121は、(1)評価条件の原子炉出力で運転する際の制御棒位置における原子炉1内の中性子束強度の炉心軸方向の分布を解析し、(2)そのような原子炉1の状態において、評価条件で設定された原子炉出力の運転を、評価条件で設定された運転時間だけ運転したときの中性子照射による制御棒3への影響を評価する。図2を参照する。図2(a)に示すように原子炉1には、燃料クラスタ2と、複数の制御棒3と、が設けられている。複数の制御棒3は、例えば、A~Dバンクのグループに分類されていて、矢印4で示すように、グループごとに炉心軸方向に上下させて原子炉出力を制御する。原子炉出力が制御された際の制御棒位置は予め解析により評価する。解析部121は、評価条件で指定された原子炉出力に対応する位置に各グループの制御棒3を制御した場合の中性子束強度を、所定の核設計コード(炉心解析等を行うコンピュータプログラム群)を用いて解析する。解析結果を図2(b)の模式図に示す。図2(b)に、1日にY時間だけX%出力で原子炉1を運転するという評価条件が与えられたときのC~Dバンクの制御棒3の位置と中性子束強度分布nの例を示す。図示しないA~Bバンクの制御棒3は全引抜位置に制御されている。
【0014】
解析部121は、図2(b)の状態で中性子がY時間照射されたときのC~Dバンクの制御棒3への影響度を評価する。影響度の評価内容を図2(c)に示す。評価内容は、(c1)スウェリングによる吸収材32の外径膨張と、(c2)Heガスの発生によって上昇する制御棒3内の圧力である。制御棒3は、中性子を吸収する吸収材32の外側を、隙間を隔てて被覆管31で覆う構造となっている。制御棒3を挿入した状態で原子炉1を運転すると、被覆管31を通過した中性子が吸収材32によって吸収される。吸収材32が中性子を吸収すると吸収材32が膨張する(スウェリング)。吸収材32が膨張し、被覆管31を押し広げるようになると、制御棒3の外径が膨張する。すると、例えば、制御棒3の抜き差しで引っ掛かりが生じるなど、制御棒3の制御性に影響がでる。PWR(Pressurized Water Reactor)型の原子力プラントの制御棒3では、吸収材32は、銀、インジウム、カドミウムなどの材料で構成されることが多いが、炭化ホウ素(B4C)を用いることによって中性子の吸収性能を向上させた制御棒3も提供されている。炭化ホウ素を用いた制御棒3は、原子炉停止能力が高く、例えば、MOX燃料を使った原子炉1に対しても有効である。炭化ホウ素は中性子を吸収するとHeガスを発生させる。被覆管31内でHeガスが発生すると、被覆管31内の圧力が上昇し、制御棒3の膨張や制御棒3の破損を招く可能性がある。解析部121は、図2(b)の原子炉1の状態で中性子がY時間照射された場合に、C~Dバンクの制御棒3の外径がどの程度膨張するかを示すスウェリング率(%)と、被覆管31内の圧力の上昇度(MPa)を計算する。スウェリング率と被覆管31内の圧力の計算方法は公知であり、本明細書では説明しない。解析部121は、炭化ホウ素が用いられていない制御棒3については、(c1)スウェリング率だけを計算し、炭化ホウ素を用いた制御棒3については、(c1)スウェリング率と(c2)Heガスによる圧力上昇度を計算してもよい。
【0015】
解析部121は、与えられた評価条件における制御棒3への影響度を計算すると、評価対象の制御棒3について、評価条件が示す運転を何回行うことができるのかを評価する。運転可能とは、制御棒3の健全性を担保できる運転であることを意味する。具体的には、解析部121は、評価条件で設定された運転条件(X%出力、Y時間/日)を適用して、原子炉1の運転を1回行った場合のスウェリング率(%)と圧力の上昇の程度(MPa)を、それぞれについて予め定められている閾値と比較して、運転可能な回数の上限値を計算する。例えば、評価条件の運転を1回行ったときのスウェリング率が“x”(%)、スウェリング率の閾値が“10×x”(%)の場合、解析部121は、スウェリング率を考慮した運転可能な回数を10回と計算する。同様に、評価条件の運転を1回行ったときの圧力の上昇が“y”(MPa)、圧力上昇度の閾値が“9×y”(MPa)の場合、解析部121は、内圧を考慮した運転可能な回数を9回と計算する。そして、解析部121は、この評価条件の場合、評価対象の制御棒3を用いて運転可能な回数は、圧力の制約により9回と評価する。解析部121は、データ取得部11が取得する複数の評価条件の各々について、運転可能な回数を評価し、その結果を評価テーブルに登録する。評価テーブルの一例を図3に示す。
【0016】
図3は、実施形態に係る評価テーブルの一例を示す図である。
評価テーブル300は、“No”、“運転条件”、“運転可能回数”、“制約”、1回の運転あたりの“スウェリング率”、“上昇する圧力”の各項目を有している。“評価条件”には、例えば、“50%出力、10時間/日”等の評価条件で設定された運転条件が設定され、“運転可能回数”と“制約”には、上記した計算方法で計算された運転可能な回数の最大値とそのときの制約(スウェリング率又は圧力)が設定される。また、1回の運転あたりの“スウェリング率”、“上昇する圧力”には、解析部121が公知の方法で計算した運転条件が示す運転を1回行ったときのスウェリング率(%)と圧力の上昇度(MPa)が設定される。解析部121は、1つの運転条件に対して、中性子束強度の分布の解析と、解析結果に基づく制御棒3への影響度および運転可能回数の評価を行って、その評価結果を評価テーブル300に登録する。
【0017】
健全性判定部122は、評価テーブル300に基づいて、運転中の原子力プラントに載荷されている制御棒3について健全性を担保できるか否かの判定を行う。例えば、解析部121が運転可能回数の評価を行った制御棒3を載荷した原子炉1において、図3の“No=1”の運転が“X1-1”回だけ実行され、他の全ての時間についてはA~Dバンクの制御棒3が引き抜かれた状態で運転しているとする。この原子力プラントについて、次に“No=1”の運転条件で出力変動運転するよう要求があった場合、健全性判定部122は、評価テーブル300に基づいて、運転可能回数に至っていない為、制御棒3は健全性を担保できると判定する。健全性判定部122が、健全性を担保できると判定すると、“No=1”の条件での出力変動運転が許可される。その後、今回の要求に対して「30%出力、10時間/日」の運転が1回行われたとする。この状態で、次に出力変動運転(“No=1”に限らない。)での運転要求があった場合、既に運転可能回数の上限に達しているので、健全性判定部122は、次に出力変動運転を行うと、制御棒3の健全性を担保できないと判定する。健全性判定部122が、健全性を担保できないと判定すると、現在、載荷されている複数の制御棒3については、制御棒3を挿入した状態での運転が許可されない。つまり、次の定期点検などで制御棒3の交換等が行われるまでの間、当該原子炉1では、全ての制御棒3を引き抜いた状態での運転(出力一定運転)だけが許可され、出力変動運転は禁止される。このような運用により、制御棒3の健全性を担保した原子炉1の運転が可能になる。
【0018】
また、例えば、図3の“No=1”~“No=3”の運転が混在して行われるような場合、健全性判定部122は、評価テーブル300の1回の運転あたりの影響度に基づいて、制御棒3に蓄積される影響度を計算する。例えば、“No=1”の運転が10回、“No=2”の運転が20回、“No=3”の運転が30回、実行されると、健全性判定部122は、スウェリング率に関して、“X11×10+X21×20+X31×30”によって、現在のスウェリング率(%)の値Csを計算し、計算した値Csをスウェリング率について設定された閾値Thsと比較する。健全性判定部122は、圧力の上昇に関して、“X12×10+X22×20+X32×30”によって、現在の圧力上昇度(MPa)の値Cpを計算し、計算した値Cpを圧力の上昇度について設定された閾値Thpと比較する。健全性判定部122は、値Cs≦閾値Thsの範囲で、値Csと閾値Thsの差が所定の範囲内となるか、又は、値Cp≦閾値Thpの範囲で、値Cpと閾値Thpの差が所定の範囲内となると、既に制御棒3を挿入した状態で可能な運転回数の上限に達したとみなして、次に出力変動運転の要求があった場合には、制御棒3は健全を担保できないと判定する。又は、健全性判定部122は、実際に出力変動運転の要求があったときに、その運転条件による影響度を評価テーブル300から取得し、これまでの出力変動運転によって蓄積された影響度に取得した値を加算して健全性の判定を行ってもよい。例えば、次に図3の“No=1”の運転の要求を受けた場合、健全性判定部122は、X11とX12を評価テーブル300から取得し、値CsにX11を加算した値と閾値Thsを比較し、値CpにX12を加算した値と閾値Thpを比較する。値Cs+X11>閾値Ths又は値Cp+X12>閾値Thpとなると、健全性判定部122は、制御棒3は健全性を担保できないと判定する。
【0019】
出力部13は、諸々の情報を表示装置や電子ファイルに出力する。例えば、出力部13は、健全性判定部122による判定結果を出力する。
記憶部14は、諸々の情報を記憶する。例えば、記憶部14は、データ取得部11が取得した評価条件などの情報、解析部121が計算に用いる核設計コード、スウェリング率や被覆管31内の圧力計算に用いるコンピュータプログラムや設定値(吸収材32の金属の物性や被覆管31内の元々の圧力など)、評価テーブル300、健全性判定部122が判定に用いる閾値などの情報を記憶する。
【0020】
(動作)
次に図4図5を参照して、評価システム10の動作について説明する。
【0021】
(評価テーブルの作成)
図4は、実施形態に係る評価テーブルの作成処理の一例を示すフローチャートである。
中性子束の強度分布や制御棒3への影響度は、燃料や制御棒3の装荷パターンに依存する。例えば、定期点検等で原子力プラントの運転を停止したときには、次サイクルの運転用に、旧燃料と新燃料の入れ替え、制御棒3の入れ替え、燃料や制御棒3の配置換えなどが実施される。評価テーブル300は、次サイクル運転用の燃料および制御棒3の装荷パターンが決まった後に、その装荷パターンに基づいて作成される。
【0022】
まず、データ取得部11が、評価条件を取得し(ステップS12)、記憶部14に記録する。評価条件には、新しく決定された燃料および制御棒3の装荷パターン、次サイクルで実施が想定される出力変動運転の運転条件が複数含まれている。次に解析部121が、燃料などの装荷パターンを記憶部14から読み出して核設計コードの計算条件として設定する。次に解析部121は、核設計コードを使って、評価条件にて設定された運転条件ごとに、以下のステップS13~ステップS15のループ処理を行う(ステップS12)。まず、解析部121は、最初の運転条件を記憶部14から読み出して、その運転条件の原子炉出力に対応する中性子束強度分布を解析する(ステップS13)。次に解析部121は、解析した中性子束強度分布における制御棒3への影響度、運転可能回数を評価する(ステップS14)。次に解析部121は、運転条件と、評価した影響度および運転可能回数を評価テーブル300に登録する(ステップS15)。解析部121は、次の運転条件を記憶部14から読み出して、ステップS13~ステップS15を実行する。解析部121は、最後の運転条件まで同様の処理を繰り返す。これにより、事前に想定できる運転条件に関する評価テーブル300が作成される。
【0023】
(出力変動運転の可否判定)
図5は、実施形態に係る出力変動可否判定処理の一例を示すフローチャートである。
前提として、記憶部14には、図4を用いて説明した処理により作成された評価テーブル300が登録されている。原子炉1の運転中に、データ取得部11が、出力変動運転の要求を取得する(ステップS21)。出力変動運転の要求には、原子炉出力と運転時間などの運転条件が含まれている。データ取得部11は、運転条件を制御部12へ出力する。制御部12は、運転条件が評価テーブル300に登録されているかどうかを確認する(ステップS22)。評価テーブル300に登録されていない場合(ステップS22;No)、制御部12は、要求された運転条件が制御棒3に与える影響度を評価し、その結果を評価テーブル300に登録する。具体的には、制御部12(解析部121)が、図4で説明した評価テーブル作成処理を行って、その結果を評価テーブル300に登録する(ステップS23)。これにより、事前に想定できなかった様々な運転条件下での運転を要求された場合でも速やかに制御棒3への影響度を評価し、後続の処理により、制御棒3の健全性が担保できるかどうかを判定することができる。
【0024】
次に制御部12が、出力変動運転が可能かどうかを判定する(ステップS24)。記憶部14には、原子力プラントの運転開始後に行った出力変動運転の履歴(例えば、図3の評価テーブル300の“No=1”の運転が10回、“No=2”の運転が20回、・・・など)が記録されている。健全性判定部122は、図3を用いて説明したように、出力変動運転の履歴によって蓄積された健全性への影響度と今回要求された運転条件による影響度の合計と、スウェリング率に関する閾値Thsおよび内圧に関する閾値Thpとを比較して健全性が担保できるか否かの判定を行う。健全性判定部122が健全性を担保できると判定した場合、制御部12は出力変動運転可能と判定し、健全性判定部122が健全性を担保できないと判定した場合、制御部12は、出力変動運転は不可能と判定する。出力変動運転は不可能と判定した場合(ステップS24;No)、制御部12の指示により、出力部13は、表示装置等に、出力一定運転に限定するよう通知する情報を出力する(ステップS25)。
【0025】
出力変動運転可能と判定した場合(ステップS24;Yes)、制御部12の指示により、出力部13は、表示装置等に、要求された出力変動運転が可能であることを通知する情報を出力する(ステップS26)。今回指示された運転条件での出力変動運転が実行されると、制御部12は、記憶部14が記憶する今回の運転条件で原子炉1の運転を行った回数(出力変動運転の履歴)を更新する。これにより、次回、出力変動運転が要求されたときに出力変動運転の可否を判定(ステップS24)することができる。
【0026】
(効果)
制御棒3の挿入と引抜が頻繁に行われる出力変動運転を行うと、出力一定運転に比べて、制御棒3の健全性が早期に損なわれる。制御棒3の健全性が低下した状態で原子力プラントの運転が実施されることを回避するためには、制御棒3が健全な状態かどうかを評価する必要がある。本実施形態によれば、出力変動運転によるスウェリング率や圧力上昇度などの影響度を事前に評価し、出力変動運転を開始する前に、制御棒3が健全性を担保できるかどうかを把握することができるので、制御棒3の健全性を担保しながら、出力変動運転に対応することができる。例えば、制御棒3の健全性が担保される出力変動運転の回数等を事前に評価し、実際の出力変動運転が評価した回数の上限に達すると、制御棒3の健全性が損なわれる可能性があると考え、それ以降の運転を出力一定運転に制限する。このような運用によって、制御棒3の健全性を維持しながら、柔軟な出力調整の要求に対応することができる。
【0027】
図6は、実施形態に係る評価システム等のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。上述の評価システム10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0028】
なお、評価システム10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0029】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0030】
<付記>
各実施形態に記載の評価方法、評価システム及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0031】
(1)第1の態様に係る評価方法は、制御棒3を挿入した状態で原子炉を運転することを要求する運転条件を取得するステップ(ステップS11、S21)と、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束の状態を解析するステップと(S13)、前記中性子束による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップ(S14)と、前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップ(S24)と、を有する。
これにより、制御棒3の健全性を判定することができる。また、制御棒3の健全性を担保しつつ原子炉1を運転することができる。
【0032】
(2)第2の態様に係る評価方法は、(1)の評価方法であって、前記影響度を評価するステップでは、中性子の吸収による前記制御棒の膨張度を評価する。
これにより、制御棒3の健全性を定量的に評価することができる。
【0033】
(3)第3の態様に係る校正方法は、(1)~(2)の評価方法であって、前記影響度を評価するステップでは、ヘリウムガスの発生による前記制御棒の内側の圧力を評価する。
これにより、制御棒3の健全性を定量的に評価することができる。
【0034】
(4)第4の態様に係る校正方法は、(3)の評価方法であって、前記制御棒3が中性子を吸収するとヘリウムガスを発生させる材料で構成されている場合、前記圧力を評価する。
これにより、ヘリウムガスを発生させる材料で構成されている制御棒3の健全性を評価することができる。例えば、炭化ホウ素を用いた原子炉停止に適した制御棒3の健全性評価を行うことができる。
【0035】
(5)第5の態様に係る評価方法は、(1)~(4)の評価方法であって、前記運転条件を取得するステップでは、前記原子炉の運転の開始前に、前記運転の開始後に実施が予測される複数の前記運転条件を取得し、解析するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転での燃料および制御棒の装荷パターンに基づいて、前記運転条件ごとに前記中性子束の状態を解析し、前記評価するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転条件ごとに前記評価を行って、当該運転条件を適用した運転の実行可能回数を評価し、前記判定するステップでは、前記運転の開始後に実行された前記運転条件に対応する運転の回数と、当該運転条件について評価した前記実行可能回数と、に基づいて前記健全性を判定する。
これにより、事前に制御棒3の健全性が担保される出力変動運転の回数を評価し、健全性が維持できない可能性がある運転に対して制限をかけることができる。
【0036】
(6)第6の態様に係る評価方法は、(1)~(5)の評価方法であって、前記運転条件を取得するステップでは、前記原子炉の運転の開始前に、前記運転の開始後に実施が予測される複数の前記運転条件を取得し、解析するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転での燃料および制御棒の装荷パターンに基づいて、前記運転条件ごとに前記中性子束の状態を解析し、前記評価するステップでは、前記原子炉の前記運転の開始前に、前記運転条件ごとに前記評価を行って、当該運転条件を適用して所定回数運転したときの前記影響度を評価し、前記判定するステップでは、前記運転の開始後に実行された前記運転条件に対応する運転の回数と、当該運転条件を適用して所定回数運転したときの前記影響度と、前記影響度についての所定の閾値と、に基づいて、前記健全性を判定する。
これにより、様々な運転条件に対応しながら原子炉1を運転する場合でも、制御棒3の健全性を維持しながら、出力変動運転に対応することができる。事前に評価した評価結果を用いて健全性の判定を行うので、処理コストを掛けることなく健全性の判定を行うことができる。
【0037】
(7)第7の態様に係る評価方法は、(5)~(6)の評価方法であって、前記運転条件を取得するステップでは、前記運転の開始後に、前記実施が予測される複数の前記運転条件以外の前記運転条件である想定外運転条件を取得し、解析するステップでは、前記想定外運転条件に基づいて前記中性子束の状態を解析し、前記評価するステップでは、前記想定外運転条件を適用して前記原子炉を運転したときの前記影響度を評価する、前記判定するステップでは、さらに前記想定外運転条件を適用して運転したときの前記影響度に基づいて、前記健全性を判定する。
これにより、原子炉1の運転中に、事前に想定していなかった運転条件による運転を要求されたときでも、その運転条件による制御棒3の健全性への影響度を評価し、健全性の判定に用いることができるので、多様な出力変動に柔軟に対応することができる。
【0038】
(8)第8の態様に係る評価システム10は、制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するデータ取得部11と、前記運転条件にて前記原子炉1を運転した場合の前記原子炉内の中性子束の状態を解析する解析部121と、前記中性子束による前記制御棒の健全性への影響度を評価する評価部(解析部121)と、前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定する判定部(健全性判定部122)と、を有する。
【0039】
(9)第9の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、制御棒を挿入した状態で原子炉を運転することを含む運転条件を取得するステップと、前記運転条件にて前記原子炉を運転した場合の前記原子炉内の中性子束の状態を解析するステップと、前記中性子束による前記制御棒の健全性への影響度を評価するステップと、前記評価の結果に基づいて、前記制御棒の健全性を判定するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・原子炉
2・・・燃料クラスタ
3・・・制御棒
10・・・評価システム
11・・・データ取得部
12・・・制御部
121・・・解析部
122・・・健全性判定部
13・・・出力部
14・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6