(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】磁気センサと磁気センサを用いたブレーキシステム及びステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20240621BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
G01D5/245 110W
G01D5/245 110M
G01D5/245 B
G01B7/00 101H
(21)【出願番号】P 2021102503
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2022-06-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】石川原 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】大山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】守屋 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓史
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-192261(JP,A)
【文献】特開平5-133704(JP,A)
【文献】特開2004-245823(JP,A)
【文献】特開平7-83698(JP,A)
【文献】特開2016-199185(JP,A)
【文献】登録実用新案第3191530(JP,U)
【文献】特開平11-211410(JP,A)
【文献】特開平7-146102(JP,A)
【文献】特開平8-189932(JP,A)
【文献】特開2011-137796(JP,A)
【文献】特開2008-76194(JP,A)
【文献】特開2004-226345(JP,A)
【文献】特開2012-208112(JP,A)
【文献】特開2019-84839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界検出素子と、
第1の方向に互いに離間して配置され、前記磁界検出素子に対し前記第1の方向に相対移動する複数の磁石と、を有し、
前記複数の磁石は前記磁界検出素子と対向する第1の面を有し、
前記複数の磁石は前記第1の方向と直交する第2の方向に、互いに隣接する2つの磁石の前記第1の面が互いに異なる極性を持つように磁化され、
少なくとも一つの前記磁石の前記第1の面に設けられた少なくとも一つの軟磁性体をさらに有し、
前記複数の磁石は2つの第1の磁石を有し、前記2つの第1の磁石の各々に前記軟磁性体が設けられ、
前記2つの第1の磁石に各々設けられた2つの前記軟磁性体は、前記磁界検出素子と対向する曲面状の第2の面と、前記第1の面と接する第3の面と、を有し、前記第2の方向における前記第2の面と前記第3の面との間隔は、前記2つの第1の磁石に各々設けられた2つの前記軟磁性体の間に向けて徐々に減少する、磁気センサ。
【請求項2】
前記少なくとも一つの軟磁性体は前記第1の面だけに設けられている、請求項
1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁石の高さに対する前記軟磁性体の高さの比は1以下である、請求項1
または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記磁石の高さに対する前記軟磁性体の高さの比は0.5以下である、請求項1
または2に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記磁石は前記第2の方向に一定の断面形状を有する、請求項1から
4のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記磁気センサはストロークセンサである、請求項1から
5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
請求項
6に記載のストロークセンサを有する自動車のブレーキシステム。
【請求項8】
請求項
6に記載のストロークセンサを有する自動車のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気センササと磁気センサを用いたブレーキシステム及びステアリングシステムに関し、特にストロークセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一方向に可動の物体の変位を測定するストロークセンサが知られている。特許文献1には複数の磁石が一方向に互いに離間して配列し、これらの磁石が磁気検知素子に対して相対移動する磁気センサが開示されている。磁石を離間配置することで、隣り合う磁極面同士が接している磁気センサと比較して検出精度の向上が可能となる。特許文献2には同様の構成のストロークセンサが開示され、磁石の磁界検知部と対向する面が磁界検知部に対して凸状に丸められている。特許文献3には長尺の磁石を備えるエンコーダが開示されている。磁石の磁気センサと対向する面は長尺のN極とされ、磁石のN極がヨークで覆われている。ヨークの表面には凹凸形状が磁石の長手方向に沿って配列している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5013146号公報
【文献】特許第6492193号公報
【文献】特開2013-238485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁石は高価であるため、できるだけ磁石の体積を減らすことが好ましい。そこで、特許文献1に開示された磁石の端面を、特許文献2に開示された磁石のように丸く加工することが考えられる。しかしこの構成は磁石の体積を減らす上では有効であるが、磁石は一般に硬いため、加工にコストを要する。特許文献3のエンコーダのようにヨークに凹凸形状を設ける場合、ヨークの凹凸形状で磁界が決定されるため、磁束密度の変化量、特に最大磁束密度と最小磁束密度の差を確保することが難しく、十分な感度が得られない。
【0005】
本発明はコストを抑えるとともに感度の高い磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気センサは、磁界検出素子と、第1の方向に互いに離間して配置され、磁界検出素子に対し第1の方向に相対移動する複数の磁石と、を有している。複数の磁石は磁界検出素子と対向する第1の面を有し、複数の磁石は第1の方向と直交する第2の方向に、互いに隣接する2つの磁石の第1の面が互いに異なる極性を持つように磁化されている。磁気センサは、少なくとも一つの磁石の第1の面に設けられた少なくとも一つの軟磁性体をさらに有している。複数の磁石は2つの第1の磁石を有し、2つの第1の磁石の各々に軟磁性体が設けられ、2つの第1の磁石に各々設けられた2つの軟磁性体は、磁界検出素子と対向する曲面状の第2の面と、第1の面と接する第3の面と、を有し、第2の方向における第2の面と第3の面との間隔は、2つの第1の磁石に各々設けられた2つの軟磁性体の間に向けて徐々に減少する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コストを抑えるとともに感度の高い磁気センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本発明の第1の実施形態に係る磁気センサの概略構成図である。
【
図1B】本発明の第2の実施形態に係る磁気センサの概略構成図である。
【
図1C】本発明の第3の実施形態に係る磁気センサの概略構成図である。
【
図2】軟磁性体の様々な変形例を示す概念図である。
【
図3】比較例1における磁束密度と誤差の算出例である。
【
図4】比較例2における磁束密度と誤差の算出例である。
【
図5】実施例1における磁束密度と誤差の算出例である。
【
図6】実施例2における磁束密度と誤差の算出例である。
【
図8】磁石の高さaと軟磁性体の高さbの比率b/aをパラメータとした磁束密度と誤差の算出例である。
【
図9】磁石の幅をパラメータとした磁束密度と誤差の算出例である。
【
図10】磁気センサをストロークセンサとして用いた自動車のブレーキシステムの概念図である。
【
図11】磁気センサをストロークセンサとして用いた自動車のステアリングシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下の説明において、第1の方向Xは複数の磁石が磁界検出素子に対して相対移動する方向、及び複数の磁石が互いに離間して配置される方向である。第2の方向Yは複数の磁石が磁化される方向であり、第1の方向Xと直交している。
図1Aは本発明の第1の実施形態に係る磁気センサ1の概略構成図を示している。
【0010】
磁気センサ1は磁界検出素子2と、複数の磁石3A~3Cと、各磁石3A~3Cに設けられた軟磁性体4A~4Cと、磁石3A~3Cを相互に連結する共通ヨーク5と、を有している。複数の磁石3A~3Cと複数の軟磁性体4A~4Cと共通ヨーク5は樹脂(図示せず)によって封止されている。複数の磁石3A~3Cは2つの第1の磁石3A,3Bと、一つの第2の磁石3Cと、を有している。第1及び第2の磁石3A~3Cは概ね直方体で同一の寸法を有し、ネオジウムなどの磁性材料で形成されている。第1及び第2の磁石3A~3Cは直方体に限らず、円筒形など、第2の方向Yに一定の断面形状を有することが好ましい。これによって、磁石3A~3Cの製作コストが抑制できる。
【0011】
磁石3A~3Cは第1の方向Xに互いに離間して、且つ相互の位置関係を固定されている。第2の磁石3Cは2つの第1の磁石3A,3Bの間に位置している。第2の磁石3Cの第1の方向Xにおける中心C3は、2つの第1の磁石3A,3Bの第1の方向Xにおける中心C1,C2から等距離にある。従って、第1の磁石3Aと第2の磁石3Cとの間隔は、第1の磁石3Bと第2の磁石3Cとの間隔に等しい。共通ヨーク5はNiFeなどの軟磁性体からなり、磁石3A~3Cの周辺の磁束密度を高めるとともに、第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cの位置決めにも用いられる。2つの第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cは磁界検出素子2に対し第1の方向Xに相対移動する。これらの磁石3A~3Cは第1の磁石3Aが磁界検出素子2と対向する位置と、第1の磁石3Bが磁界検出素子2と対向する位置との間を移動することができ、この2つの位置の間の距離で磁気センサ1のストロークSが決定される。本実施形態では磁界検出素子2が固定され、第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cが可動であるが、磁界検出素子2が可動で、第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cが固定されていてもよい。
【0012】
磁界検出素子2は第1の方向Xに感度軸を有する第1の磁界検出素子2Xと、第2の方向Yに感度軸を有する第2の磁界検出素子2Yと、を有している。第1の磁界検出素子2Xと第2の磁界検出素子2Yは磁界を検出できる限り限定されないが、ホール素子、TMR(Tunnel Magneto Resistance Effect)素子に代表される磁気抵抗効果素子などを用いることができる。第1の磁界検出素子2Xは第1の方向Xの磁束密度Bxを検出し、第2の磁界検出素子2Yは第2の方向Yの磁束密度Byを検出する。従って、atan(By/Bx)を計算することによって、磁界検出素子2の位置における磁束の角度θを求めることができる。第1及び第2の磁石3A~3Cと磁界検出素子2の第1の方向Xにおける相対位置は角度θと相関関係があるため、角度θからこの相対位置を求めることができる。第2の磁石3Cを設けることで、ストロークS内で磁束の角度θが0~360°の範囲で変動するため、磁気センサ1の精度を高めることができる。
【0013】
2つの第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cはそれぞれ、磁界検出素子2と対向する第1の面6A~6Cを有している。2つの第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cは第2の方向Yに磁化されている。互いに隣接する2つの磁石の第1の面は互いに異なる極性を持つように磁化されている。本実施形態では、2つの第1の磁石3A,3Bの第1の面6A,6BがN極、第2の磁石3Cの第1の面6CがS極とされているが、2つの第1の磁石3A,3Bの第1の面6A,6BがS極、第2の磁石3Cの第1の面6CがN極であってもよい。
【0014】
2つの第1の磁石3A,3Bにそれぞれ第1の軟磁性体4A,4Bが、第2の磁石3Cに第2の軟磁性体4Cが設けられている。第1の軟磁性体4A,4Bと第2の軟磁性体4CはNiFeなどの軟磁性体からなり、第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cを出入りする磁束の拡散を防止するヨークとして機能する。換言すれば、第1の軟磁性体4A,4Bと第2の軟磁性体4Cは、第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cを出入りする磁束をガイドし、実質的に第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cの一部として機能する。磁束の方向は軟磁性体4A~4Cの形状で決まるため、第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cは単純な形状でよく、加工コストが抑えられる。
【0015】
第1及び第2の軟磁性体4A~4Cはそれぞれ、磁界検出素子2と対向する曲面状の第2の面7A~7Cと、第1及び第2の磁石3A~3Cの第1の面6A~6Cと接する第3の面8A~8Cと、を有している。第1及び第2の磁石3A~3Cの高さa(Y方向寸法)は互いに等しく、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cの高さb(Y方向寸法)も互いに等しい。後述するように、第1及び第2の磁石3A~3Cの高さaに対する第1及び第2の軟磁性体4A~4Cの高さbの比b/aは、好ましくは1以下(但し、0を除く)であり、より好ましくは0.5以下(但し、0を除く)である。
【0016】
第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは別途作成され、治具で把持して位置を調整しながら、第1及び第2の磁石3A~3Cの第1の面6A~6Cに磁力によって吸着される。その後、樹脂をインサート成形することによって、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cが第1及び第2の磁石3A~3Cに強固に固定される。従って、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cを第1及び第2の磁石3A~3Cに取り付けるために接着剤を用いる必要はない。第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは第1及び第2の磁石3A~3Cの第1の面6A~6Cだけに設けられている。つまり、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは、第1及び第2の磁石3A~3Cの第1の面6A~6Cと側面9とを覆う帽子のような形状である必要がない。これによって、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cの寸法精度が緩和されるとともに、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cの製作と、第1及び第2の磁石3A~3Cへの取り付け作業が格段に容易となる。
【0017】
2つの第1の軟磁性体4A,4Bは、第2の方向Yと平行で2つの第1の磁石3A,3Bから等距離にある軸Pに関し線対称に配置されている。本実施形態では、軸Pは第2の磁石3Cの中心C3及び第2の軟磁性体4Cの中心と一致する。また、第2の軟磁性体4C自体も、軸Pに関し線対称である。これらの対称性によって、各軟磁性層4A~4Cを出入りする磁束が軸Pに関して対称形となる。この結果、第1及び第2の磁石3A~3Cの周囲の磁束が第2の磁石3C及び第2の軟磁性体4Cを中心として対称形となり、磁気センサ1のリニアリティが向上する。
【0018】
本実施形態では、第1の軟磁性体4A,4Bの第2の方向Yにおける第2の面7A,7Bと第3の面8A,8Bとの間隔は、2つの第1の軟磁性体4A,4Bの間に向けて徐々に減少する。一例として、第1の軟磁性体4A,4Bの形状は楕円を長軸と短軸に沿って4分割することで得られる1/4楕円形状である。また、第2の軟磁性体4Cの第2の方向Yにおける第2の面7Cと第3の面8Cとの間隔は、第2の軟磁性体4Cの第1の方向Xにおける中央部で最大であり、中央部から第1の方向Xにおける両端部にむけて徐々に減少して、第1の方向Xにおける両端部でゼロとなる。一例として、第2の軟磁性体4Cの形状は楕円を長軸に沿って2分割することで得られる半楕円形状である。軟磁性体4A~4Cの第1の方向Xにおける両端部は磁石3A~3Cの第1の方向Xにおける両端部と一致している。
【0019】
第1の軟磁性体4A,4Bと第2の軟磁性体4Cは同じ形状及び寸法を有していてもよい。例えば、
図1Bに示す第2の実施形態のように、第1の軟磁性体4A,4Bは、
図1Aに示す第2の軟磁性体4Cと同じ形状であってよい。この場合、一つの形状の軟磁性体4A~4Cだけを作ればよいため、製造プロセスが単純化される。
【0020】
第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは1/4楕円形状や半楕円形状に限らず、様々な形状を取ることができる。
図2には第1及び第2の軟磁性体4A~4Cが取り得る様々な形状を示している。
図2の各図は
図1A~1Cと同じ方向から見た略図であり、以下の説明では磁石3A~3Cを磁石3,軟磁性体4A~4Cを軟磁性体4等と称する。
図2(a)、2(b)を参照すると、
図1Aに示す第2の軟磁性体4Cと同様、第2の方向Yにおける第2の面7と第3の面8との間隔は、軟磁性体4の第1の方向Xにおける中央部で最大であり、中央部から第1の方向Xにおける両端部にむけて徐々に減少して、第1の方向Xにおける両端部でゼロとなる。但し、
図2(a)に示す軟磁性体4の両端部は、磁石3の第1の面6から張り出しており、
図2(b)に示す軟磁性体4の両端部は、磁石3の第1の面6の内部に位置する。
【0021】
図2(c)には、第1の面6を長辺とする長方形の軟磁性体4が、
図2(d)には、
図2(c)に示す長方形の両側の上側角部を面取りした、六角形の軟磁性体4が示されている。
図2(e)には、第3の面8を底辺とする二等辺三角形の軟磁性体4が、
図2(f)には、第3の面8を長辺、第2の面7を短辺とする台形の軟磁性体4が、
図2(g)には、第3の面8を短辺、第2の面7を長辺とする台形の軟磁性体4が示されている。
図2(h)には、第3の面8を一辺とする五角形の軟磁性体4が、
図2(i)には、第3の面8を一辺とする六角形の軟磁性体4が、
図2(j)には、第3の面8を一辺とする七角形の軟磁性体4が示されている。これらの例において、軟磁性体4は、第1の方向Xと第2の方向Yとを含む断面において、磁石3の第1の面6に重なる辺の外側に張り出さない多角形である。これによって、磁石3を出入りする磁束が磁石4で拡散することが防止される。
【0022】
図2(k)と
図2(l)には、第1の面6を一辺とする直角三角形の軟磁性体4が示されている。これらの軟磁性体4はそれ自身の中心軸に関し非対称であるため、第2の軟磁性体4Cとして使用することは好ましくないが、第1の軟磁性体4A,4Bとして使用することができる。
図2(k)に示す軟磁性体4は
図1Aの第1の軟磁性体4Aと置換することができ、
図2(l)に示す軟磁性体4は
図1Aの第1の軟磁性体4Bと置換することができる。直角の頂点は第1の面6の外側の端部と一致している。
【0023】
図1Cに示す第3の実施形態では、第2の磁石3Cが省略され、第1の磁石3Bの極性が第1及び第2の実施形態の第1の磁石3Bの極性と逆にされている(第1の磁石3Aの第1の面6AがN極、第1の磁石3Bの第1の面6BがS極)。この場合も上述した原理によって第1の磁石3A,3Bと磁界検出素子2の第1の方向Xにおける相対位置を求めることができる。第2の磁石3Cが省略されているため、ストロークS内でのθの変動範囲は0~180°となり、磁気センサ1の精度の観点では不利となるが、第2の磁石3Cが設けられないため、磁気センサ1のコストダウンや小型が可能となる。図示は省略するが、
図1Bに示す第2の実施形態においても、第2の磁石3Cを省略することができる。
【0024】
次に、上述したいくつかの実施形態と比較例を対象に磁束密度分布を求めた。表1に概要を示す。表中の矩形の領域Rは計算領域を示す。比較例1では、第1及び第2の磁石3A~3Cの高さが4mmであり、第1の面6A~6Cは平坦である。比較例2では、第1及び第2の磁石3A~3Cの高さが4mmであり、第1の面6A~6Cは曲面である。実施例1では、第1及び第2の磁石3A~3Cの高さが3mmであり、その上に厚さ1mmの半楕円形状の軟磁性体4A~4Cが配置されている。実施例2では、第1及び第2の磁石3A~3Cの高さが3mmであり、第1の磁石3A,3Bの上に厚さ1mmの1/4楕円形状の軟磁性体4A,Bが、第2の磁石3Cの上に厚さ1mmの半楕円形状の軟磁性体4Cが配置されている。
図3~6にはそれぞれ比較例1、2、実施例1、2の磁束密度と誤差を第1の方向Xにおける位置の関数として示す。ギャップGは磁石の上端からの距離であり、複数のギャップGに対して磁束密度と誤差を求めた。温度条件は常温としたが、ギャップG=5.06mmと6.06mmについては、磁石と軟磁性体の温度が150℃の条件でも磁束密度と誤差を求めた。150℃は例えば車載用途などの高温環境で想定される温度である。誤差は以下のように求めた。
図7(a)に示すように、第1の方向Xにおける位置と磁気センサ1の出力との関係を求め、この関係を実際の出力の最小値V1と最大値をV2の間で、最小二乗法で線形近似する。実際の出力Vと線形近似線上の出力Voとの差分をΔV=V―V0とする。
図7(b)に示すように、誤差はΔV/(V2-V1)として求められる。
【0025】
【表1】
実施例1,2の最大磁束密度はほぼ同じであり、比較例1よりわずかに大きく、比較例2より8%程度大きい。実施例1の最小磁束密度は実施例2よりわずかに大きく、実施例2の最小磁束密度は比較例1の最小磁束密度とほぼ同じである。実施例1の最小磁束密度は比較例2の最小磁束密度より11%程度大きい。最大磁束密度は磁気センサ1の保証検知範囲によって制約されることがあり、必ずしも大きいほうが良いとは限らないが、最小磁束密度が大きいと磁気センサ1の感度が向上する。誤差は比較例2が最も小さいが、実施例1,2は比較例1より小さく、また、実施例2は実施例1よりも誤差が小さい。これより、第1の軟磁性体4A,4Bの形状は1/4楕円形状の方がより好ましい。また、磁石3A~3Cの容積は、実施例1,2は比較例1に対し25%、比較例2に対し20%減少している。軟磁性体4A~4Cのコストは磁石3A~3Cのコストと比べて低いため、総コストも実施例1,2の方が比較例1,2より小さい。なお、150℃では常温と比べて磁束密度が下がり、誤差は常温の場合と同程度であったが、比較例1、2、実施例1、2の間で大きな差はなかった。
【0026】
次に、
図1Aに示す第1の実施形態において、第1の磁石3Aと第1の軟磁性体4Aの高さの合計、第1の磁石3Bと第1の軟磁性体4Bの高さの合計、及び第2の磁石3Cと第2の軟磁性体4Cの高さの合計をそれぞれ4mmとして、第1及び第2の磁石3A~3Cの高さaと第1及び第2の軟磁性体4A~4Cの高さbの比率を変えて磁束密度と誤差を求めた。
図8(b)に示すように、比率b/aが1を超えると誤差が急激に増加する。従って、b/aは1以下が好ましい。
図8(a)に示すように、比率b/aが0.5を超えると最大磁束密度が100mTを超え、磁気センサ1の保証検知範囲を超える可能性がある。従って、b/aは0.5以下がより好ましい。
【0027】
次に、
図1Bに示す第2の実施形態において、第1及び第2の軟磁性体4A~4Cの幅D1(第1の方向Xの寸法)を変えて磁束密度と誤差を求めた。第1及び第2の磁石3A~3Cの幅D2(第1の方向Xの寸法)は6.5mmであるので、幅D1が6.5mmの第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは
図1Bに対応し、幅D1が6.5mmより大きい第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは
図2(a)に対応し、幅D1が6.5mmより小さい第1及び第2の軟磁性体4A~4Cは
図2(b)に対応する。幅D1が6.5mmより大きい場合(
図2(a))、最小磁束密度を維持しつつ最大磁束密度を下げることができる。従って、磁束密度を磁気センサ1の保証検知範囲に収めることが容易となる。幅D1が6.5mmより小さい場合(
図2(b))、誤差が減少する。また、軟磁性体の容積を減らすことによるコストダウンが可能となる。
【0028】
以上いくつかの実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。本発明の磁気センサ1は、少なくとも一つの磁石3A~3Cの第1の面6A~6Cに設けられた少なくとも一つの軟磁性体4A~4Cを有していればよい。例えば、第1の磁石3A,3Bに第1及び第2の軟磁性体4A,4Bを設け、第2の磁石3Cについては、第3の軟磁性体4Cに相当する部分も磁性体で作成してもよい。
【0029】
磁気センサ1はストロークセンサとして様々な用途に用いることができる。
図10には、磁気センサ1をストロークセンサとして用いた自動車のブレーキシステム11を示している。ブレーキシステム11はブレーキペダル12と、接続部材13を介してブレーキペダル12に接続されたブースター14と、ブースター14に接続されたマスターシリンダ15と、マスターシリンダ15に接続された油圧制御回路16と、油圧制御回路16に接続されたキャリパー17と、を有している。マスターシリンダ15にはリザーバタンク18が接続されている。磁気センサ1の第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cはブースター14に固定され、磁界検出素子2は車体(図示せず)に固定されている。ブレーキペダル12から入力された制動力はブースター14で増幅され、油圧制御回路16に伝達される。油圧制御回路16には、磁気センサ1で検出したブレーキペダル12の踏み込み量も伝達される。油圧制御回路16はブレーキペダル12の踏み込み量に応じてブレーキオイルをキャリパー17に供給する。キャリパー17はブレーキディスク19を制動する。
【0030】
図11には、磁気センサ1をストロークセンサとして用いた自動車のステアリングシステム21を示している。ステアリングシステム21において、ステアリングシャフト23の一端がステアリングホイール22に連結され、ステアリングシャフト23の他端にピニオンギア24が設けられている。ピニオンギア24はロッド25のラック26と係合し、ステアリングシャフト23の回転運動をロッド25の車両左右方向の直線運動に変換する。ロッド25は前輪のホイール(図示せず)に連結されている。ロッド25が直線運動することで、ホイールの向きが変えられる。磁気センサ1の第1の磁石3A,3Bと第2の磁石3Cはロッド25に取り付けられた取付部材26に固定され、磁界検出素子2は車体27に固定されている。磁気センサ1はロッド25の車両左右方向の位置を検出する。
【符号の説明】
【0031】
1 磁気センサ
2 磁界検出素子
3A,3B 第1の磁石
3C 第2の磁石
4A,4B 第1の軟磁性体
4C 第2の軟磁性体
6A~6C 第1の面
7A~7C 第2の面
8A~8C 第3の面
11 ブレーキシステム
21 ステアリングシステム
X 第1の方向
Y 第2の方向