(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】心臓の機能を監視する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
A61B8/08
(21)【出願番号】P 2021535000
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2019086139
(87)【国際公開番号】W WO2020127615
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-15
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ラウ ケヴィン ダニエル セン ハン
(72)【発明者】
【氏名】バラゴナ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】マエッセン ラルフ テオドルス フーベルトゥス
(72)【発明者】
【氏名】プレイター デイビッド
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188478(JP,A)
【文献】ALESSANDRO BELLOFIORE, et al.,Methods for Measuring Right Ventricular Function and Hemodynamic Coupling with the Pulmonary Vasculature,Annals of Biomedical Engineering,2013年,Vol. 41, No. 7,pp. 1384-1398
【文献】Maryam Vejdani-Jahromi, et al.,Ultrasound Shear Wave Elasticity Imaging Quantifies Coronary Perfusion Pressure Effect on Cardiac Compliance,IEEE TRANSACTIONS ON MEDICAL IMAGING,2015年,VOL. 34, NO. 2,465-473
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者に関する非侵襲的拡張末期圧力/容積関係を計算する方法であって、
被検者の左心室及び左心房を含む関心領域を表す心臓入力を得るステップと、
前記心臓入力に基づいて前記左心室の心拍静止期末容積を決定するステップであって、心拍静止期が心周期の間における拡張期の心房収縮前の段階である、決定するステップと、
前記心臓入力に基づいて前記左心房における心拍静止期末圧力を推定するステップと、
前記左心室の心拍静止期末容積及び前記左心房における心拍静止期末圧力に基づいて、線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップと、
前記左心室の拡張末期容積及び前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて拡張末期圧力/容積関係を計算するステップと
、を有し、
前記左心室の心拍静止期末容積を決定するステップが、前記左心室の容積の容積波形を大動脈フロー波形及び僧帽弁フロー波形の解析積分を実行することにより生成するステップを有する、方法。
【請求項2】
前記拡張末期圧力/容積関係を計算するステップが、
前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて前記左心室の拡張末期容積における拡張末期圧力を推定するステップと、
前記推定された拡張末期圧力を、一般化された実験的圧力/容積関係に整合させるステップと
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記容積波形を前記左心室のセグメンテーションに当てはめるステップが最小自乗法を実行するステップを有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
被検者に関する非侵襲的拡張末期圧力/容積関係を計算する方法であって、
被検者の左心室及び左心房を含む関心領域を表す心臓入力を得るステップと、
前記心臓入力に基づいて前記左心室の心拍静止期末容積を決定するステップであって、心拍静止期が心周期の間における拡張期の心房収縮前の段階である、決定するステップと、
前記心臓入力に基づいて前記左心房における心拍静止期末圧力を推定するステップと、
前記左心室の心拍静止期末容積及び前記左心房における心拍静止期末圧力に基づいて、線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップと、
前記左心室の拡張末期容積及び前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて拡張末期圧力/容積関係を計算するステップと、
前記心臓入力内に表された心拍の数を決定するステップ
と、
を有する
、方法。
【請求項5】
前記心拍の数が1より大きい場合に、前記線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップが、該線形化された心室圧力/容積関係に切片を当てはめるステップを有する、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記心拍の数が1である場合に、前記線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップが、該線形化された心室圧力/容積関係に一定の切片を当てはめるステップを有する、請求項
4又は請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記心拍の数が1である場合に、前記線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップが、該線形化された心室圧力/容積関係に対して非ゼロの切片を推定するステップを有する、請求項
4又は請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記心拍の数が1である場合に、前記拡張末期圧力/容積関係を計算するステップが、該拡張末期圧力/容積関係を単一の心拍に基づいて当てはめるステップを有する、請求項
4から
7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記心拍の数が1より大きい場合に、前記拡張末期圧力/容積関係を計算するステップが、該拡張末期圧力/容積関係の最小自乗当てはめを複数の心拍に基づいて実行するステップを有する、請求項
4から
8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
拡張末期容積における前記拡張末期圧力/容積関係の勾配を決定するステップと、
前記勾配が予め定められた閾値より大きい場合に、警報を発生するステップと
を更に有する、請求項1から
9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記心臓入力が超音波データを有する、請求項1から
10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記心臓入力が心臓モデルを有する、請求項1から
11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータ上で実行された場合に請求項1から
12の何れか一項に記載の方法を実施するコンピュータプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【請求項14】
拡張末期圧力/容積関係を計算する処理ユニットであって、
被検者の左心室及び左心房を含む関心領域を表す心臓入力を取得し、
前記心臓入力に基づいて前記左心室の心拍静止期末容積を決定し、ここで、心拍静止期は心周期の間における拡張期の心房収縮前の段階であり、
前記心臓入力に基づいて前記左心房における心拍静止期末圧力を推定し、
前記左心室の心拍静止期末容積及び前記左心房における心拍静止期末圧力に基づいて、線形化された心室圧力/容積関係を生成し、
前記左心室の拡張末期容積及び前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて拡張末期圧力/容積関係を計算
し、
前記左心室の心拍静止期末容積を決定することは、前記左心室の容積の容積波形を大動脈フロー波形及び僧帽弁フロー波形の解析積分を実行することにより生成することを含む、
処理ユニット。
【請求項15】
拡張末期容積における前記拡張末期圧力/容積関係の勾配を決定し、
前記勾配が予め定められた閾値より大きい場合に、警報を発生する、
請求項
14に記載の処理ユニット。
【請求項16】
請求項
14又は請求項
15に記載の処理ユニットを有する、超音波システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の非侵襲的監視の分野に係り、更に詳細には超音波心臓監視の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓のポンプ機能は、収縮期駆出及び拡張期駆出により特徴付けられる。駆出の間において心臓は収縮すると共に能動的に剛性化し、血液を動脈循環系へと駆出する。逆に、充満期の間において心臓は受動剛性に向かって弛緩し、肺循環系からの血液の再充填を可能にする。
【0003】
収縮状態から弛緩状態へ急速に移行する能力は、健康な心臓が低い心室圧で再充填することを可能にする。心臓障害の場合、この弛緩する能力及び/又は受動剛性は悪化され、結果として充満圧が異常に上昇される。
【0004】
拡張末期圧力/容積関係(EDPVR)は心室の受動剛性を評価する手法を提供する。EDPVRは、充満(充填)の終期における圧力と容積との間の非線形な関係を、容積の関数として示す。心室の受動剛性はEDPVRの現容積における傾き、即ち、S.F.Nagueh他による文献“Recommendations for the evaluation of left ventricular diastolic function by echocardiography,” Eur. J. Echocardiogr., vol. 10, no. 2, pp. 165‐193, 2009に記載されているように拡張期機能不全にリンクされた尺度から推定することができる。
【0005】
典型的に、EDPVRは一連の心拍にわたり圧力及び容積を同時に測定することにより決定される。しかしながら、心室圧の測定は侵襲的カテーテル法によってしか可能でない。侵襲的カテーテルの必要性は、EDPVRの測定を臨床的に制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、EDPVRを非侵襲的に決定する手段の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、請求項により定義される。
【0008】
本発明の一態様に従う例によれば、非侵襲的拡張末期圧力/容積関係(end-diastolic pressure-volume relationship)を計算する方法が提供され、該方法は、
- 被検者の左心室及び左心房を含む関心領域を表す心臓入力(cardiac input)を得るステップと;
- 前記心臓入力に基づいて前記左心室の心拍静止期末容積を決定するステップであって、心拍静止期が心周期の間における拡張期の心房収縮前の段階である、決定するステップと;
- 前記心臓入力に基づいて前記左心房における心拍静止期末圧力を推定するステップと;
- 前記左心室の心拍静止期末容積及び前記左心房における心拍静止期末圧力に基づいて、線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップと;
- 前記左心室の拡張末期容積及び前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて拡張末期圧力/容積関係を計算するステップと;
を有する。
【0009】
本発明は、被検者の心臓に関連する心臓入力に基づいた拡張末期圧力/容積関係(EDPVR)の非侵襲的測定を提供する。
【0010】
一実施形態において、前記拡張末期圧力/容積関係を計算するステップは、
- 前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて前記左心室の拡張末期容積における拡張末期圧力を推定するステップと;
- 前記推定された拡張末期圧力を、一般化された圧力/容積関係に整合させるステップであって、該一般化された圧力/容積関係が実験的測定から導出されるステップと;
を有する。
【0011】
このようにして、推定された拡張末期圧力を、所与の被検者を実験的データにリンクするために使用できる。該実験的データは、データベースから取得することができ、広範囲のデータを含み得る。
【0012】
一実施形態において、前記左心室の心拍静止期末容積を決定するステップは、前記左心室の容積の容積波形を大動脈フロー波形及び僧帽弁フロー波形の解析積分(analytical integration)を実行することにより生成するステップを有する。
【0013】
一実施形態において、前記容積波形を前記左心室のセグメンテーションに当てはめるステップは最小自乗当てはめを実行するステップを有する。
【0014】
一実施形態において、当該方法は、前記心臓入力内に表された心拍の数を決定するステップを更に有する。
【0015】
他の実施形態において、前記心拍の数が1より大きい場合、前記線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップは、該線形化された心室圧力/容積関係に切片(intercept)を当てはめるステップを有する。
【0016】
前記心臓入力において複数の心拍が利用可能である場合、前記線形化された心室圧力/容積関係の切片は、データ自体に基づいて当てはめられ得る。
【0017】
更なる実施形態において、前記心拍の数が1である場合、前記線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップは、該線形化された心室圧力/容積関係に一定の切片を当てはめるステップを有する。
【0018】
単一の心拍が利用可能である場合、前記線形化された心室圧力/容積関係の切片はゼロ又は何らかの一定の値に設定され、これにより、潜在的に誤った切片が単一のデータ点に基づいて決定されることを除去する。
【0019】
代替実施形態において、前記心拍の数が1である場合、前記線形化された心室圧力/容積関係を生成するステップは、該線形化された心室圧力/容積関係に対して非ゼロの切片を推定するステップを有する。
【0020】
前記切片は、履歴的患者データ及び/又は同様の症状を有する患者からのデータ等の、複数の異なるデータソースに基づいて推定され得る。
【0021】
一構成例において、前記心拍の数が1である場合、前記拡張末期圧力/容積関係を計算するステップは、該拡張末期圧力/容積関係を単一の心拍に基づいて当てはめるステップを有する。
【0022】
一実施形態において、前記心拍の数が1より大きい場合、前記拡張末期圧力/容積関係を計算するステップは、該拡張末期圧力/容積関係の最小自乗当てはめを複数の心拍に基づいて実行するステップを有する。
【0023】
一実施形態において、当該方法は、
- 拡張末期容積における前記拡張末期圧力/容積関係の勾配を決定するステップと;
- 前記勾配が予め定められた閾値より大きい場合に、警報を発生するステップと;
を更に有する。
【0024】
一実施形態において、前記心臓入力は超音波データを有する。
【0025】
例えば、該超音波データは、Bモード超音波データ及び/又はドプラカラー超音波データ等の超音波画像データを含み得る。従って、前記警報は、超音波データを収集する超音波システム又は別の監視システムにより発生することができる。
【0026】
一実施形態において、前記心臓入力は心臓モデルを有する。
【0027】
例えば、上記心臓モデルは心臓の非線形圧力/容積挙動を表す多重スケールモデルであり得る。
【0028】
本発明の一態様に従う例によれば、コンピュータプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提供され、上記コンピュータプログラムコード手段は、当該該コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行された場合に、上述した方法を実施するように構成される。
【0029】
本発明の一態様に従う例によれば、拡張末期圧力/容積関係を計算する処理ユニットが提供され、該処理ユニットは、
- 被検者の左心室及び左心房を含む関心領域を表す心臓入力を取得し;
- 前記心臓入力に基づいて前記左心室の心拍静止期末容積を決定し、ここで、心拍静止期は心周期の間における拡張期の心房収縮前の段階であり;
- 前記心臓入力に基づいて前記左心房における心拍静止期末圧力を推定し;
- 前記左心室の心拍静止期末容積及び前記左心房における心拍静止期末圧力に基づいて、線形化された心室圧力/容積関係を生成し;
- 前記左心室の拡張末期容積及び前記線形化された心室圧力/容積関係に基づいて拡張末期圧力/容積関係を計算する;
ように構成される。
【0030】
本発明の上記及び他の態様は、後述される実施形態から明らかとなり、実施形態を参照して解説されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、一般的動作を説明するための超音波診断撮像システムを示す。
【
図3】
図3は、圧力/容積ループの例示的プロットを示すもので、拡張末期圧力/容積関係(EDPVR)を強調表示している。
【
図4】
図4は、被検者のセグメント化されたボリュームに対する分析的体積関数の当てはめから計算された、時間に対する分析的血流波形のグラフを示す。
【
図5】
図5は、被検者の心臓の左心室に関する容積対時間のグラフを示す。
【
図6】
図6は、容積表示が心拍静止期の終期に位置された
図5のグラフを示す。
【
図7】
図7は、被検者の左心室に関する圧力対容積のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明をより良く理解すると共に本発明がどの様に実施され得るかを一層明確に示すために、添付図面を例示のみとして参照する。
【0033】
以下、本発明を、図面を参照して説明する。
【0034】
以下の詳細な説明及び特定の例は、装置、システム及び方法の例示的実施形態を示すが、解説目的のみを意図するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないと理解されるべきである。本発明の装置、システム及び方法の、これら及び他のフィーチャ、態様及び利点は、以下の記載、添付請求項及び添付図面から理解されるであろう。各図は概略的に過ぎず、寸法通りには描かれていないと理解されるべきである。また、全図を通して同一の符号は同一の又は同様の部分を示すために使用されていると理解されたい。
【0035】
本発明は、拡張末期圧力/容積関係を計算するための方法を提供する。該方法は、関心領域を表す心臓入力(cardiac input)を取得するステップを含み、該関心領域は被検者の左心室及び左心房を有する。次いで、左心室の心拍静止期末容積(end of diastasis volume)が上記心臓入力に基づいて決定され、ここで、心拍静止期は心周期の間の拡張期における心房収縮の前の段階である。更に、左心房における心拍静止期末圧力(end of diastasis pressure)が心臓入力に基づいて決定され、線形化された心室圧力/容積関係が左心室の心拍静止期末容積及び左心房における心拍静止期末圧力に基づいて生成される。次いで、拡張末期圧力/容積関係が左心室の拡張末期容積と上記の線形化された心室圧力/容積関係に基づいて決定される。
【0036】
例示的な超音波システム一般的動作を、
図1を参照すると共に、本発明はトランスデューサアレイにより測定される信号の処理に関するものであるので該システムの信号処理に重点を置いて先ず説明する。
【0037】
該システムは、超音波を送信すると共にエコー情報を受信するためのトランスデューサアレイ6を備えたアレイ型トランジスタプローブ4を有する。トランスデューサアレイ6は、CMUTトランスデューサ、PZT若しくはPVDF等の材料から形成される圧電トランスデューサ、又は何らかの他のトランスデューサ技術を有し得る。本例において、トランスデューサアレイ6は、関心領域の2D平面又は三次元ボリュームをスキャン可能なトランスデューサ8の二次元アレイである。他の例において、該トランスデューサは1Dアレイであり得る。
【0038】
トランスデューサアレイ6は、トランスデューサ素子による信号の受信を制御するマイクロビームフォーマ12に結合される。マイクロビームフォーマは、例えば米国特許第5,997,479号(Savord他)、同第6,013,032号(Savord)及び同第6,623,432号(Powers他)に記載されているように、トランスデューサの副アレイ(一般的に、“グループ”又は“パッチ”と称される)により受信される信号を少なくとも部分的にビーム形成することができる。
【0039】
上記マイクロビームフォーマは完全にオプション的であることに注意されたい。更に、当該システムはマイクロビームフォーマ12が結合される送信/受信(T/R)スイッチ16を含み、該T/Rスイッチは前記アレイを送信及び受信モードの間で切り換えて、マイクロビームフォーマが使用されず前記トランスデューサアレイが主システムビームフォーマにより直接的に作動される場合に主ビームフォーマ20を高エネルギ送信信号から保護する。トランスデューサアレイ6からの超音波ビームの送信は、ユーザインターフェース又は制御パネル38のユーザ操作からの入力を受信し得る主送信ビームフォーマ(図示略)及びT/Rスイッチ16により前記マイクロビームフォーマに結合されるトランスデューサコントローラ18により指示される。コントローラ18は、送信モードの間にアレイ6のトランスデューサ素子を駆動する(直接的に又はマイクロビームフォーマを介して)ように構成された送信回路を含み得る。
【0040】
典型的なライン毎撮像シーケンスにおいて、当該プローブ内のビーム形成システムは以下のように動作し得る。送信の間において、前記ビームフォーマ(実施化に依存して前記マイクロビームフォーマ又は前記主システムビームフォーマであり得る)は、前記トランスデューサアレイ又は該トランスデューサアレイの部分開口を駆動する。該部分開口は、トランスデューサの一次元ライン又は大きなアレイ内のトランスデューサの二次元パッチであり得る。送信モードにおいて、アレイ又は該アレイの部分開口により発生される超音波ビームの収束及びステアリングは、以下に記載されるように制御される。
【0041】
被検者から後方散乱エコー信号を受信すると、受信された信号を整列させるために該受信された信号は受信ビーム形成処理(以下に説明するように)を受け、部分開口が使用されている場合は、部分開口は例えば1トランスデューサ素子だけシフトされる。次いで、該シフトされた部分開口が駆動され、該処理は当該トランスデューサアレイの全トランスデューサ素子が駆動されるまで繰り返される。
【0042】
各ライン(又は部分開口)に関し、最終的超音波画像の関連するラインを形成するために使用される全受信信号は、受信期間の間に当該所与の部分開口のトランスデューサ素子により測定された電圧信号の和であろう。以下のビーム形成処理に従う、結果としてのライン信号は、典型的に、ラジオ波(RF)データと称される。種々の部分開口により発生される各ライン信号(RFデータセット)は、次いで、追加の処理を受けて、最終的超音波画像のラインを生成する。時間に伴うライン信号の振幅の変化は、深さに伴う超音波画像の輝度の変化に寄与し、その場合において、大振幅のピークは最終的画像における明るいピクセル(又はピクセルの集合)に対応する。ライン信号の開始近傍に現れるピークは浅い構造からのエコーを表す一方、該ライン信号において益々遅く現れるピークは当該被検者内の増加する深さにおける構造からのエコーを表す。
【0043】
トランスデューサコントローラ18により制御される機能の1つは、ビームがステアリング及び収束される方向である。ビームは、当該トランスデューサアレイから真っ直ぐ前方に(に対して直角に)、又は一層広い視野に対しては異なる角度でステアリングされ得る。送信ビームのステアリング及び収束は、トランスデューサ素子の駆動時間の関数として制御することができる。
【0044】
一般的超音波データ取得においては、平面波撮像及びビームステアリング撮像なる2つの方法が区別される。該2つの方法は、送信(“ビームステアリング”撮像)及び受信モード(平面波撮像及び“ビームステアリング”撮像)におけるビーム形成処理の存在により区別される。
【0045】
先ず収束機能に目を向けると、トランスデューサ素子の全てを同時に駆動することにより、トランスデューサアレイは被検者を通過するにつれて発散する平面波を発生する。この場合、超音波のビームは収束されないままである。トランスデューサの駆動に位置依存性時間遅延を導入することにより、ビームの波面が、焦点ゾーンと称される所望の点に収束させることが可能となる。該焦点ゾーンは、横方向ビーム幅が送信ビーム幅の半分未満となる点として定義される。このようにして、最終的超音波画像の横方向解像度が改善される。
【0046】
例えば、上記時間遅延が、当該トランスデューサアレイの最外側素子で開始し、中央素子において終了するようにしてトランスデューサ素子を逐次駆動させる場合、当該プローブから所与の距離離れて、前記中央素子に整列して焦点ゾーンが形成される。該プローブからの焦点ゾーンの距離は、各後続する回のトランスデューサ素子駆動の間の時間遅延に依存する。ビームが焦点ゾーンを通過した後、該ビームは発散し始め、遠視野撮像領域を形成する。トランスデューサアレイの近くに位置する焦点ゾーンの場合、超音波ビームは遠視野において急速に発散し、最終的画像におけるビーム幅アーチファクトにつながることに注意すべきである。典型的に、トランスデューサアレイと焦点ゾーンとの間に位置する近接場は、超音波ビームの大きな重なりのために僅かな詳細しか示さない。このように、焦点ゾーンの位置を変化させることは、最終的画像の品質の著しい変化につながり得る。
【0047】
送信モードにおいては、超音波画像が複数の焦点ゾーン(各々が異なる送信焦点を有する)に分割されない限り、1つの焦点のみが定義されることに注意すべきである。
【0048】
更に、被検者内からエコー信号を受信する際、受信収束処理を実行するために上述した処理の逆を実行することができる。言い換えると、到来信号はトランスデューサ素子により受信され、当該システムに信号処理のために受け渡される前に、電子的時間遅延を受ける。この処理の最も簡単な例は、遅延和ビーム形成処理と称される。トランスデューサアレイの受信収束処理を時間の関数として動的に調整することも可能である。
【0049】
次にビームステアリングに注目すると、トランスデューサ素子に対する時間遅延の正しい適用により、トランスデューサアレイを離脱する際に超音波ビームに所望の角度を付与できる。例えば、トランスデューサアレイの第1側のトランスデューサ、続いて残りのトランスデューサを該アレイの反対側で終わる順に駆動することにより、ビームの波面は第2側に向かって傾斜される。トランスデューサアレイの法線に対するステアリング角の大きさは、連続するトランスデューサ素子駆動の間の時間遅延の大きさに依存する。
【0050】
更に、ステアリングされるビームを収束することもでき、その場合において、各トランスデューサ素子に適用される全時間遅延は収束及びステアリング時間遅延の和となる。この場合、トランスデューサアレイはフェーズドアレイと称される。
【0051】
駆動のためにDCバイアス電圧を必要とするCMUTトランスデューサの場合、トランスデューサコントローラ18は、トランスデューサアレイのためのDCバイアス制御部45に結合される。DCバイアス制御部45は、CMUTトランスデューサ素子に供給されるDCバイアス電圧を設定する。
【0052】
トランスデューサアレイの各トランスデューサ素子に対し、典型的にはチャンネルデータと称されるアナログ超音波信号が受信チャンネルにより当該システムに入力される。受信チャンネルにおいては、部分的にビーム形成された信号が前記マイクロビームフォーマ12によりチャンネルデータから生成されて、主受信ビームフォーマ20に受け渡され、該主受信ビームフォーマにおいて、トランスデューサの個々のパッチからの当該部分的にビーム形成された信号は、ラジオ波(RF)データと称される完全にビーム形成された信号に合成される。各ステージにおいてなされるビーム形成処理は、上述したように実行され、又は追加の機能を含むことができる。例えば、主ビームフォーマ20は、各チャンネルが数十又は数百のトランスデューサ素子から部分的にビーム形成された信号を受信する128個のチャンネルを有し得る。このようにして、トランスデューサアレイの数千のトランスデューサにより受信される信号が、単一のビーム形成信号に効率的に寄与し得る。
【0053】
上記ビーム成形された受信信号は、信号プロセッサ22に結合される。信号プロセッサ22は受信されたエコー信号を、帯域通過フィルタ処理、デシメーション、I及びQ成分分離、並びに組織及び微小気泡から返送された非線形な(基本周波数の高調波)エコー信号の識別を可能にするために線形及び非線形信号を分離するように作用する調波成分分離等の種々の方法で処理できる。該信号プロセッサは、スペックル低減、信号合成(signal compounding)及びノイズ除去等の付加的信号向上処理を実行することもできる。該信号プロセッサにおける前記帯域通過フィルタはトラッキングフィルタとすることができ、その通過帯域はエコー信号が受信される深度が増加するにつれて高い周波数帯域から低い周波数帯域にスライドし、これにより、高い周波数が解剖学的情報を有さないような一層大きな深度からの斯かる周波数におけるノイズを除去する。
【0054】
送信のため及び受信のためのビームフォーマは、異なるハードウェアで実施化され、異なる機能を有し得る。勿論、受信器ビームフォーマは送信ビームフォーマの特性を考慮に入れるように設計される。
図1には、簡略化のために、受信器ビームフォーマ12、20のみが示されている。完全なシステムにおいては、送信マイクロビームフォーマ及び主送信ビームフォーマを備える送信チェーンも存在するであろう。
【0055】
マイクロビームフォーマ12の機能は、アナログ信号経路の数を低減するために信号の初期合成を提供することである。これは、典型的には、アナログドメインで実行される。
【0056】
最終的ビーム成形は、主ビームフォーマ20において実行され、典型的にはデジタル化の後である。
【0057】
送信及び受信チャンネルは、固定された周波数帯域を有する同一のトランスデューサアレイ6を使用する。しかしながら、送信パルスが占める帯域幅は、使用される送信ビーム成形処理に依存して変化し得る。受信チャンネルは、全トランスデューサ帯域幅をキャプチャする(古典的方法である)か、又は、帯域幅処理を使用することにより、所望の情報(例えば、主調波の高調波)を含む帯域幅のみを抽出することができる。
【0058】
当該RF信号は、次いで、Bモード(即ち、輝度モード又は2D撮像モード)プロセッサ26及びドプラプロセッサ28に結合される。Bモードプロセッサ26は、身体内の臓器及び血管の組織等の身体内の構造の画像化のために、受信された超音波信号の振幅検波を実行する。ライン毎撮像の場合、各ライン(ビーム)は関連するRF信号により表され、該信号の振幅がBモード画像におけるピクセルに割り当てられるべき輝度値を発生するために使用される。画像内のピクセルの正確な位置は、関連する振幅測定のRF信号に沿う位置及び当該RF信号のライン(ビーム)番号により決定される。このような構造のBモード画像は、高調波画像モード、基本画像モード又は米国特許第6,283,929号(Roundhill他)及び同第6,458,083号(Jago他)に記載されているように両方の組み合わせで形成することができる。ドプラプロセッサ28は、画像フィールド内の血球の流れ等の移動する物質を検出するために、組織運動及び血流から生じる時間的に区別できる信号を処理する。該ドプラプロセッサ28は、典型的に、身体内の選択されたタイプの物質から戻るエコーを通過及び/又は拒絶するように設定されたパラメータを備えるウォールフィルタを含む。
【0059】
上記Bモード及びドプラプロセッサにより生成された構造及び動き信号は、スキャンコンバータ32及び多断面再フォーマッタ44に結合される。スキャンコンバータ32は、受信された空間関係におけるエコー信号を所望の画像フォーマットに配列する。言い換えると、該スキャンコンバータは、当該RFデータを円筒座標系から画像表示器40上に超音波画像を表示するのに適したデカルト座標系に変換するように作用する。Bモード画像化の場合、所与の座標におけるピクセルの輝度は、当該位置から受信されたRF信号の振幅に比例する。例えば、上記スキャンコンバータはエコー信号を二次元(2D)扇形フォーマット又は角錐状三次元(3D)画像に配列する。該スキャンコンバータは、Bモード構造画像に、当該画像フィールド内の各点における動きに対応するカラーを重ね合わせ、斯かる点ではドプラ推定速度が所与のカラーを生成する。該合成されたBモード構造画像及びカラードプラ画像は、当該構造画像フィールド内に組織の動き及び血流を描写する。前記多断面再フォーマッタは、米国特許第6,443,896号(Detmer)に記載されているように、当該身体のボリューム領域における共通面内の各点から受信されるエコーを、該面の超音波画像に変換する。ボリュームレンダラ42は、米国特許第6,530,885号(Entrekin他)に記載されているように、3Dデータセットのエコー信号を、所与の基準点から見た投影3D画像に変換する。
【0060】
上記2D又は3D画像は、スキャンコンバータ32、多断面再フォーマッタ44及びボリュームレンダラ42から、画像表示器40上で表示するための更なる強調、バッファリング及び一時的記憶のために画像化プロセッサ30に結合される。該画像化プロセッサは、最終的超音波画像から、例えば強い減衰器又は屈折により生じる音響陰影;例えば弱い減衰器に起因する後強調;例えば高度に反射性の組織界面が近接して位置する場合における反響アーチファクト;等の特定の画像化アーチファクトを除去するよう構成され得る。更に、該画像化プロセッサは、最終的超音波画像のコントラストを改善するために、特定のスペックル低減機能を扱うよう構成することもできる。
【0061】
画像化のために使用されることに加えて、ドプラプロセッサ28により生成された血流値及びBモードプロセッサ26により生成された組織構造情報は、定量化プロセッサ34にも結合される。該定量化プロセッサは、臓器の寸法及び妊娠期間等の構造的測定値に加えて、血流の体積流量等の異なる流れ条件の尺度を生成する。該定量化プロセッサは、画像の解剖学的構造における測定がなされるべき点等の入力をユーザ制御パネル38から受信する。
【0062】
上記定量化プロセッサからの出力データは、表示装置40上の画像と共の測定図形及び値の再生のために、及び表示装置40からのオーディオ出力のためにグラフィックプロセッサ36に結合される。グラフィックプロセッサ36は、超音波画像と一緒に表示するためのグラフィックオーバーレイも発生することができる。これらのグラフィックオーバーレイは、患者名、画像の日時及び撮像パラメータ等の標準的識別情報を含み得る。これらの目的のために、該グラフィックプロセッサは、ユーザインターフェース38から患者名等の入力を受信する。該ユーザインターフェースは、トランスデューサアレイ6からの超音波信号の発生を、従って該トランスデューサアレイ及び当該超音波システムにより生成される画像を制御するために送信コントローラ18にも結合される。コントローラ18の送信制御機能は、実行される機能のうちの1つに過ぎない。コントローラ18は、動作モード(ユーザにより与えられた)並びに対応する所要の送信器構成及び受信器アナログ/デジタル変換器における帯域通過構成も考慮に入れる。コントローラ18は、固定された状態を備える状態マシンであり得る。
【0063】
前記ユーザインターフェースは、複数の多断面再フォーマット(MPR)画像の画像フィールドにおいて定量化された測定法を実行するために使用することができる該複数の多断面再フォーマット画像の面の選択及び制御のために多断面再フォーマッタ44にも結合される。
【0064】
ここに記載される方法は、処理ユニットにより実行され得る。このような処理ユニットは、
図1を参照して上述したシステム等の、超音波システム内に配置される。例えば、前述した画像化プロセッサ30が、以下に詳述する方法ステップの幾つか又は全てを実行し得る。代わりに、該処理ユニットは、被検者に関する入力を受信するように構成された監視システム等の何らかの好適なシステム内に配置される。
【0065】
図2は、被検者の拡張末期圧力/容積関係(end-diastolic pressure-volume relationship)を非侵襲的に計算する方法100を示す。
【0066】
該方法はステップ110で開始し、該ステップにおいて被検者から心臓入力(cardiac input)が取得される。該心臓入力は、被検者の関心領域、及び特に被検者の左心室及び左心房を含む。
【0067】
該心臓入力は、例えば、被検者から超音波プローブにより取得された超音波データを含む。
【0068】
該超音波データは、例えば、
図1を参照して上述したシステムを用いて取得され得る。該超音波データは、超音波画像データ、例えばBモード超音波データを含み得る。更に、又は代わりに、該超音波データはカラーフロードプラデータ又はスペクトルドプラデータ等のドプラ超音波データを含むことができる。更に、該超音波データは2D超音波データ又は3D超音波データを有し得る。
【0069】
代わりに、該心臓入力は、心臓の挙動の幾つか又は全てをシミュレーションする心臓モデルを含み得る。該心臓モデルは、心臓のモデルをシミュレーションするために被検者から1以上の測定値を取り込むことができる。この場合、以下のステップで使用するために測定値を該シミュレーションから取り込むことができる。
【0070】
上記モデルは、心臓の非線形な圧力/容積挙動を表す多重スケールモデルであり得る。
【0071】
更に、該心臓入力は被検者から取得された非侵襲的血圧測定値を含み得る。例えば、血液測定値は圧力カフにより取得することができる。
【0072】
該心臓入力が超音波データを有する場合、該超音波画像内に含まれる左心室及び左心房はセグメント化できる。
【0073】
セグメント化は、超音波画像データ又はドプラ超音波データに対して実行され得る。言い換えると、超音波データは2つの部分、即ち心室血液プールである一方及び周囲の組織の他方、に区分される。更に、該セグメント化は超音波データ内の左心室及び左心房を識別するのに適した何らかのセグメント化方法を用いて実行され得る。
【0074】
心臓の基本的構造は、血液で満たされるチェンバ及びその周囲組織からなる。超音波画像データを用いてチェンバの容積を定量化する目的で、セグメント化とは該画像を2つの類、即ち、当該チェンバのピクセルである一方の類及び周囲組織である他方の類に分離することを指す。このセグメント化は、画像のピクセルを空間的に平滑化すると共に該平滑化された画像のグレイスケール値の分布を正規化するための画像処理方法を用いて実行することができる。この処理された画像のピクセルの輝度は、次いで、閾輝度と比較される。Bモード超音波画像の場合、血液サンプルは暗くなる一方、組織サンプルは明るくなり、2つはピクセル輝度に基づいて区別され得ることを意味する。
【0075】
ステップ120において、左心室の心拍静止期末容量が前記心臓入力に基づいて決定される。該左心室の心拍静止期末容積を決定するステップは、左心室容積のボリュームセグメンテーションを生成するステップを含み得る。次いで、該左心室のセグメンテーションに基づいて容積波形が生成される。
【0076】
該心拍静止期なる用語は、左心室の拡張期又は充填フェーズの間の或る期間を指す。更に詳細には、心拍静止期は、心室の初期的受動充填が低速化されているが、心室の能動充填を完了するための心房収縮の前の、拡張期充填のE波とA波との間の期間である。心拍静止期の終了は心拍周期の前A波部分(pre-A wave portion)とも称され、A波は心房の収縮から生じるフロー波形である。
【0077】
左心室容積波形の生成は、大動脈フロー波形及び僧帽弁フロー波形の時間にわたる解析積分を実行することにより実行できる。該容積波形の生成は、更に
図4を参照して後述される。
【0078】
該容積波形の左心室のセグメンテーションに対する当てはめは、例えば、最小自乗法を用いて実行され得る。言い換えると、ユーザによって、前記セグメンテーションにより決定された左心室の測定容積を使用して該容積波形に正確に当てはめることができる。
【0079】
ステップ130において、左心房における心拍静止期末圧力が決定される。この決定は、前記心臓入力に基づくものである。心臓入力が超音波画像データを含む例において、左心室における心拍静止期末圧力は、セグメント化された左心房容積に基づいて推定できる。
【0080】
ステップ140においては、線形化された心室圧力/容積関係が左心室の心拍静止期末容積及び左心房における心拍静止期末圧力に基づいて推定される。線形化された心室圧力/容積関係の一例が、
図7を参照して後述される。
【0081】
ステップ150において、拡張末期圧力/容積関係(EDPVR)が、心臓入力から決定され得る左心室の拡張末期容積及び推定された線形化された心室圧力/容積関係に基づいて計算される。該EDPVRは、次いで、心臓の受動剛性又は他の機能を評価するために使用される。
【0082】
図3は、被検者の左心室内の、容積V(ml)に対する圧力P(Pa)のグラフ200を示す。
【0083】
プロット210は左心室内の圧力/容積ループを表し、これらループは一連の異なる生理的条件に対する左心室の圧力及び容積の変化を示す。収縮末期圧力容積関係ESPVRは黒丸により表される一方、EDPVRはグレイの丸により表されている。
【0084】
図4は、時間T(s)に対するフローF(ml/s)のグラフ220を示す。
【0085】
プロット230は、時間にわたる大動脈フロー波形240及び僧帽弁フロー波形250を表し、これら波形は、次いで、上述した左心室の容積波形を生成するために使用される。
【0086】
図4に示された例において、大動脈フロー波形240は完全な正弦波形として定義される一方、僧帽弁フロー波形250は2つの不完全な正弦波により定義され、これにより心拍静止期の間の一定なフローを考慮する。各々の完全な及び不完全な正弦波形の持続時間及び大きさは、前記容積波形に対する最適な最小自乗当てはめをもたらすために数値的に最適化され得る。ドプラ超音波データが利用可能である場合、解析的波形当ては目を更に改善するために斯様な情報を含めることもできる。
【0087】
当該フロー波形は対称な半波正弦波形に限られるものではなく、例えば非対称な半波正弦波形又はスプラインでもよいことに注意されたい。このような波形は、心臓入力として使用するための心臓モデルに含めることができる。
【0088】
図5は、被検者の心臓の左心室に関する容積対時間のグラフ260を示す。この場合において、心臓入力は、左心室のボリュームを識別するためにセグメント化された超音波画像データを有する。
【0089】
プロット270は、解析積分により
図4の大動脈フロー波形240及び僧帽弁フロー波形250から生成された容積波形を示す。当該解析的当てはめは、限られたフレームレートの超音波データから生理学的事象を表す容積波形を再構成するための一層ロバストな方法を提供する。該容積波形は、次いで、該容積波形の値が被検者の左心室の実際に測定される容積に合うことを保証するために、該左心室のセグメンテーションデータ280に当てはめられる。
【0090】
左心室に関する容積波形が示されたが、同等の容積波形は、左心房セグメンテーションに基づいて左心房に関して、又は心臓の如何なる他のチェンバに関しても生成できることに注意すべきである。
【0091】
図6は、容積指示情報が当該容積波形上に表された心拍静止期の終了時に配置された
図5のグラフ260を示す。これは、左心室の心拍静止期末容積が
図2の方法100のステップ120においてどの様に決定されるかの視覚的表現を提供する。
【0092】
図7は圧力対容積のグラフ300を示す。該グラフはプロット310を含み、該プロットは当該方法の正確さを示すために患者から侵襲的に取得された臨床的データを示す。
【0093】
データ点320は心拍静止期末圧力の推定値を示す。該心拍静止期末圧力は心臓入力に基づいて多数の方法で推定できる。例えば、心拍静止期末圧力は超音波データに基づいて推定できる。更に詳細には、左心室における心拍静止期末圧力は、例えば
図1を参照して説明したシステムを用いてキャプチャされ得る超音波画像データからの左心房のセグメンテーションに基づいて推定することができる。
【0094】
言い換えると、超音波撮像により非侵襲的に測定可能な左心室及び左心房の容積を用いて、心拍静止期の終了時における左心室の圧力及び容積を示すデータ点320を推定できる。
【0095】
一例において、心拍静止期末圧力の推定は、M. Kawasaki他による文献“A novel ultrasound predictor of pulmonary capillary wedge pressure assessed by the combination of left atrial volume and function: A speckle tracking echocardiography study,” J. Cardiol., vol. 66, no. 3, pp. 253‐262, 2015に記載された経験的関係を使用する左心房容積波形を使用して実行できる。
【0096】
プロット330は、
図2の方法100のステップ140において推定された線形化された心室圧力/容積関係を示す。該プロット330は、充填の間における心室の挙動の線形近似を表し、心拍静止期末圧力を表すデータ点320を通過する。
【0097】
図2の方法は、更に、心臓入力に示される心拍の数を決定するステップを含み得る。
【0098】
心臓入力が単一の心拍からなる場合、プロット330に示される線形化された心室圧力/容積関係の圧力/容積切片(intercept)はゼロにおけるものであると仮定され得る。代わりに、「Davidson他, PLoS One. 2017; 12(4): e0176302」に記載されているように、V_0が無付加容積(unstressed volume)であり、V_ESが収縮末期における容積である場合においてV_0 = 0.48 * V_ESのように、線形化された心室圧力/容積関係に関する非ゼロ切片を推定するためにゼロ圧力における容積を推定するための種々の経験的関係を用いることができる。
【0099】
心臓入力が複数の心拍からなるか、又は上記単一の心拍データに新たなデータが供給される場合、線形化された心室圧力/容積関係に関して非ゼロ切片を決定することができる。
【0100】
線形化された心室圧力/容積関係は、拡張末期容積における拡張末期圧340を推定するために使用できる。
【0101】
上記拡張末期容積及び圧力は、次いで、例えばS. Klotz他による文献“Single-beat estimation of end-diastolic pressure-volume relationship: a novel method with potential for noninvasive application.,” Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol., vol. 291, no. 1, pp. H403-12, 2006に記載されているもの等の経験的関係を用いてEDPVR350を推定するために使用され得る。
【0102】
心臓入力が単一の心拍からなる場合、EDPVR350は単一のデータ点と整合され得る。しかしながら、心臓入力が複数の心拍からなる、又は上記単一の心拍に新たなデータが供給される場合、EDPVRに対して最小自乗法を実行することができる。
図7に示される例において、推定されたデータ340はEDPVR350を当てはめるために使用される。
【0103】
前述したように、EDPVRは心臓機能の指示情報として使用され得る。例えば、現在の拡張末期容積におけるEDPVRの傾斜を推定することができる。該傾斜が0.1 mmHg/ml(例えば、0.2 mmHg/ml)等の予め定められた値より大きい場合、このことは、拡張機能障害の存在を示し得る。
【0104】
当業者によれば、請求項に記載の本発明を実施するに際して、図面、本開示及び添付請求項の精査から、開示された実施態様に対する変形例を理解し実行することができる。請求項において、“有する”なる文言は他の要素又はステップを排除するものではなく、単数形は複数を排除するものではない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、請求項に記載された幾つかの項目の機能を満たし得る。特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これら手段の組合せを有利に使用することができないということを示すものではない。コンピュータプログラムは、光記憶媒体又は他のハードウェアと一緒に若しくはその一部として供給される固体媒体等の適切な媒体により記憶/分配できるのみならず、インターネット又は他の有線若しくは無線通信システムを介して等のように他の形態で分配することもできる。請求項における如何なる符号も、当該範囲を限定するものと見なしてはならない。