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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】永久電流スイッチ及び超電導装置
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/30 20230101AFI20240621BHJP
   H01F 6/00 20060101ALI20240621BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H10N60/30
H01F6/00 160
H01B12/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546580
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032810
(87)【国際公開番号】W WO2021054094
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019171841
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】502147465
【氏名又は名称】ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 高史
(72)【発明者】
【氏名】大木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】永石 竜起
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 衞
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117042(JP,A)
【文献】特開2019-160817(JP,A)
【文献】特開2015-198015(JP,A)
【文献】特開2014-130793(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314617(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/30
H01F 6/00
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された超電導層とを有する超電導線材と、
ヒータとを備え、
前記超電導線材は、前記超電導線材の長手方向に沿って互いに離れて配置された第1部分及び第2部分を含む表面を有し、
前記第1部分と前記第2部分とは、互いに対向しており、
前記ヒータは前記第1部分と前記第2部分とに挟み込まれている、永久電流スイッチ。
【請求項2】
前記超電導層は、前記基材よりも前記表面に近い位置にある、請求項1に記載の永久電流スイッチ。
【請求項3】
保持部材と、
充填材とをさらに備え、
前記超電導線材は、前記保持部材の内部に保持されており、
前記超電導線材と前記保持部材との間には、前記充填材が充填されており、
前記保持部材は、第1樹脂材料により形成されており、
前記充填材は、前記第1樹脂材料とは異なる第2樹脂材料により形成されている、請求項1又は請求項2に記載の永久電流スイッチ。
【請求項4】
前記第2樹脂材料のガラス転移点は、前記第1樹脂材料のガラス転移点よりも低い、請求項3に記載の永久電流スイッチ。
【請求項5】
前記第1樹脂材料は、熱硬化性樹脂材料であり、
前記第2樹脂材料は、熱可塑性樹脂材料である、請求項3又は請求項4に記載の永久電流スイッチ。
【請求項6】
前記第2樹脂材料は、パラフィン又は発泡樹脂材料である、請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の前記永久電流スイッチと、
前記永久電流スイッチに接続された超電導コイルとを備える、超電導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、永久電流スイッチ及び超電導装置に関する。本出願は、2019年9月20日に出願した日本特許出願である特願2019-171841号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(国際公開第2014/034295号)及び特許文献2(特開2015-053314号公報)には、永久電流スイッチが記載されている。特許文献1及び特許文献2に記載の永久電流スイッチにおいては、超電導線材がヒータにより加熱される。その結果、加熱された部分の超電導線材が常電導化される(加熱された部分における超電導線材の電気抵抗値が上昇する)。
【0003】
また、特許文献3(特開2015-198015号公報)には、超電導線材が記載されている。特許文献3に記載の超電導線材は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層を介して基材上に形成されている超電導層とを有している(以下においては、このような構造の超電導線材を薄膜超電導線材ということがある)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/034295号
【文献】特開2015-053314号公報
【文献】特開2015-198015号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る永久電流スイッチは、基材と、基材上に配置された超電導層とを有する超電導線材と、ヒータとを備える。超電導線材は、超電導線材の長手方向に沿って互いに離れて配置された第1部分及び第2部分を含む表面を有する。第1部分と第2部分とは、互いに対向している。ヒータは、第1部分と第2部分とに挟み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、永久電流スイッチ10の側面図である。
図2図2は、超電導線材1の長手方向に直交する断面図である。
図3図3は、図1のIII-IIIにおける断面図である。
図4図4は、図1のIV-IVにおける断面図である。
図5図5は、永久電流スイッチ10の動作を説明するための模式図である。
図6図6は、永久電流スイッチ10の製造方法を示す工程図である。
図7図7は、準備工程S1における永久電流スイッチ10の断面図である。
図8図8は、永久電流スイッチ30の側面図である。
図9図9は、永久電流スイッチ40の側面図である。
図10図10は、永久電流スイッチ50の側面図である。
図11図11は、永久電流スイッチ10、永久電流スイッチ30、永久電流スイッチ40及び永久電流スイッチ50におけるヒータに供給される電力と超電導線材1の電気抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1及び特許文献2に記載の永久電流スイッチは、薄膜超電導線材を用いた永久電流スイッチではない。そのため、特許文献3に記載されているような薄膜超電導線材を用いた永久電流スイッチの加熱効率をいかにして向上させるかは、上記の従来技術からは明らかではない。
【0008】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、薄膜超電導線材を用いて構成され、かつ加熱効率が改善された永久電流スイッチを提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によると、薄膜超電導線材を用いて構成された永久電流スイッチの加熱効率を改善することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
(1)一実施形態に係る永久電流スイッチは、基材と、基材上に配置された超電導層とを有する超電導線材と、ヒータとを備える。超電導線材は、超電導線材の長手方向に沿って互いに離れて配置された第1部分及び第2部分を含む表面を有する。第1部分と第2部分とは、互いに対向している。ヒータは、第1部分と第2部分とに挟み込まれている。
【0012】
上記(1)の永久電流スイッチによると、永久電流スイッチの加熱効率を改善することができる。
【0013】
(2)上記(1)の永久電流スイッチにおいて、超電導層は、基材よりも表面に近い位置にあってもよい。
【0014】
上記(2)の永久電流スイッチによると、永久電流スイッチの加熱効率をさらに改善することができる。
【0015】
(3)上記(1)又は上記(2)の永久電流スイッチは、保持部材と、充填材とをさらに備えていてもよい。超電導線材は、保持部材の内部に保持されていてもよい。超電導線材と保持部材との間には、充填材が充填されていてもよい。保持部材は、第1樹脂材料により形成されていてもよい。充填材は、第1樹脂材料とは異なる第2樹脂材料により形成されていてもよい。
【0016】
上記(3)の永久電流スイッチによると、極低温から常温に戻された際に超電導線材の表面に結露が生じることを抑制できる。
【0017】
(4)上記(3)の永久電流スイッチにおいて、第2樹脂材料のガラス転移点は、第1樹脂材料のガラス転移点より低くてもよい。
【0018】
上記(4)の永久電流スイッチによると、充填材を保持部材と超電導線材との間に容易に充填することができる。
【0019】
(5)上記(3)又は上記(4)の永久電流スイッチにおいて、第1樹脂材料は、熱硬化性樹脂材料であってもよい。第2樹脂材料は、熱可塑性樹脂材料であってもよい。
【0020】
上記(5)の永久電流スイッチによると、充填材を保持部材と超電導線材との間に容易に充填することができる。
【0021】
(6)上記(3)から上記(5)の永久電流スイッチにおいて、第2樹脂材料は、パラフィン又は発泡樹脂材料であってもよい。
【0022】
上記(6)の永久電流スイッチによると、超電導線材を断熱することができるため、加熱効率をさらに改善することができる。
【0023】
(7)一実施形態に係る超電導装置は、上記(1)から上記(6)の永久電流スイッチと、永久電流スイッチに接続された超電導コイルとを備える。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0025】
(第1実施形態に係る永久電流スイッチの構成)
以下に、第1実施形態に係る永久電流スイッチ(以下においては、「永久電流スイッチ10」とする)の構成を説明する。
【0026】
図1は、永久電流スイッチ10の側面図である。図1に示されるように、永久電流スイッチ10は、超電導線材1と、ヒータ2とを有している。永久電流スイッチ10は、さらに、保持部材3と、充填材4(図1中において図示せず、図3及び図4参照)とを有していてもよい。
【0027】
超電導線材1は、第1面1aと、第2面1bとを有している。第1面1aは、第1部分1aaと、第2部分1abとを有している。第1部分1aa及び第2部分1abは、超電導線材1の長手方向において互いに離間して配置されている。超電導線材1は、第1部分1aa及び第2部分1abが互いに対向するように、曲げられている。超電導線材1は、第1端1cと、第2端1dとを有している。第1端1c及び第2端1dは、長手方向における超電導線材1の端である。
【0028】
図2は、超電導線材1の長手方向に直交する断面図である。図2に示されるように、超電導線材1は、基材11と、中間層12と、超電導層13とを有している。すなわち、超電導線材1は、薄膜超電導線材である。
【0029】
基材11は、例えば、ステンレス鋼、銅(Cu)及びニッケル(Ni)を順次積層したクラッド材により形成されている。
【0030】
中間層12は、基材11上に配置されている。中間層12は、例えば、安定化ジルコニア、酸化イットリウム、酸化セリウム等を順次積層することにより形成されている。中間層12は、例えば、スパッタリング法により形成される。
【0031】
超電導層13は、中間層12を介して基材11上に配置されている。超電導層13は、基材11よりも第1面1aに近い位置にあることが好ましい。超電導層13は、基材11よりも第2面1bに近い位置にあってもよい。
【0032】
超電導層13は、酸化物超電導体により形成されている。超電導層13は、例えば、REBaCu(RE:希土類元素)により形成されている。この希土類元素は、例えば、イットリウム(Y)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)等である。超電導層13は、例えば、PLD(Pulse Laser Deposition)法により形成される。
【0033】
超電導線材1は、保護層14と、安定化層15とをさらに有している。保護層14は、超電導層13上に配置されている。安定化層15は、保護層14上に配置されている。安定化層15は、さらに、基材11の裏面(中間層12とは反対側の面)上、基材11の側面上、中間層12の側面上、超電導層13の側面上及び保護層14の側面上にも配置されている。保護層14は、例えば、銀により形成されている。安定化層15は、例えば、銅により形成されている。保護層14は、例えばスパッタリング法により形成され、安定化層15は、例えば電気めっき法により形成される。
【0034】
図3は、図1のIII-IIIにおける断面図である。ヒータ2は、図1及び図3に示されるように、第1部分1aaと第2部分1abとに挟み込まれている。このことを別の観点からいえば、ヒータ2は、その両面が超電導線材1に接している。
【0035】
ヒータ2は、発熱体21と、絶縁膜22とを有している。発熱体21は、通電によりジュール発熱する材料により形成されている。発熱体21は、例えば、ニクロムにより形成されている。絶縁膜22は、発熱体21の周囲を覆っている。これにより、ヒータ2を介して超電導線材1が短絡されることを防止している。
【0036】
図1に示されるように、超電導線材1及びヒータ2は、保持部材3の内部に保持されている。保持部材3は、超電導線材1に加わる電磁力による応力に起因した超電導線材1の変形を抑制するための部材である。保持部材3は、樹脂材料により形成されている。以下においては、保持部材3を構成する樹脂材料を、第1樹脂材料という。
【0037】
図4は、図1のIV-IVにおける断面図である。図3及び図4に示されるように、充填材4は、超電導線材1と保持部材3との間に充填されている。充填材4は、樹脂材料により形成されている。以下においては、充填材4を構成する樹脂材料を、第2樹脂材料という。第2樹脂材料は、第1樹脂材料とは異なる樹脂材料である。
【0038】
第2樹脂材料のガラス転移点(第2樹脂材料が結晶性の樹脂材料である場合は第2樹脂材料の融点。以下においても同じ。)は、第1樹脂材料のガラス転移点(第1樹脂材料が結晶性の樹脂材料である場合は第1樹脂材料の融点。以下においても同じ。)よりも低いことが好ましい。
【0039】
第2樹脂材料の粘度は、第1樹脂材料の粘度よりも低いことが好ましい。第1樹脂材料の粘度及び第2樹脂材料の粘度は、JIS Z 8803:2011に規定された方法により測定される。第1樹脂材料の粘度及び第2樹脂材料の粘度を同一温度で比較し、後者が前者よりも低い場合に、「第2樹脂材料の粘度が、第1樹脂材料の粘度よりも低い」ことになる。
【0040】
第1樹脂材料は、熱硬化性樹脂材料であってもよく、第2樹脂材料は、熱可塑性樹脂材料であってもよい。第1樹脂材料の具体例は、エンジニアリングプラスチック、ガラス繊維強化プラスチック(FRP、Fiber Reinforced Plastic)である。第2樹脂材料の具体例は、パラフィンである。第2樹脂材料は、発泡樹脂材料であってもよい。
【0041】
なお、永久電流スイッチ10は、ケース(図示せず)の内部に配置されて冷却される。これにより、永久電流スイッチ10を構成している超電導線材1は、超電導転移温度以下の温度に保持されている。この冷却は、例えば、液体窒素、液体ヘリウム等で行われる。ケース及び保持部材3からは、第1端1c及び第2端1dが引き出されている。
【0042】
(第1実施形態に係る永久電流スイッチの動作)
以下に、永久電流スイッチ10の動作を説明する。
【0043】
図5は、永久電流スイッチ10の動作を説明するための模式図である。図5に示されるように、超電導線材1(永久電流スイッチ10)及び超電導コイル20は、電源PWに並列に接続されている。
【0044】
ヒータ2がオフ状態にある場合(ヒータ2に電流が流れていない場合)、超電導コイル20はコイルインピーダンスを有しているため、電流は、もっぱら超電導状態となっている超電導線材1中の超電導層13を流れる。そのため、超電導コイル20は、励磁されない(この状態を、第1状態という)。
【0045】
ヒータ2がオン状態にされると(ヒータ2に電流が流されると)、ヒータ2に対向している超電導層13が、常電導状態となる。この状態で徐々に電流を流すと、超電導コイル20にも電流が流れ始める(この状態を、第2状態という)。そして、所望の電流が流れるようになってから所定の時間が経過すると、超電導線材1には電流が流れなくなり、電流は、もっぱら超電導コイル20に流れるようになる(この状態を、第3状態という)。
【0046】
第3状態となった後にヒータ2を再びオフ状態にすると、ヒータ2に対向している超電導層13は、超電導状態に戻る。この状態で電源PWからの電流供給を徐々に減少させると、超電導コイル20に流れている電流の一部が、超電導線材1に流れるようになる(この状態を、第4状態という)。
【0047】
電源PWからの電流供給が徐々に減少して0アンペアになると、電流は、超電導線材1及び超電導コイル20のみを流れるようになる(この状態を、第5状態という)。第5状態に達すると、電源PWを遮断しても、電流は、超電導線材1及び超電導コイル20を流れ続ける(永久電流モード)。このようにして、永久電流スイッチ10は、超電導コイル20を永久電流モードで動作させることができる。
【0048】
(第1実施形態に係る永久電流スイッチの製造方法)
以下に、永久電流スイッチ10の製造方法を説明する。
【0049】
図6は、永久電流スイッチ10の製造方法を示す工程図である。永久電流スイッチ10の製造方法は、図6に示されるように、準備工程S1と、充填工程S2とを有している。
【0050】
準備工程S1においては、内部に超電導線材1が保持された状態の保持部材3が準備される。図7は、準備工程S1における永久電流スイッチ10の断面図である。図7に示されるように、準備工程S1においては、保持部材3と超電導線材1との間には、空隙SPが残存している。
【0051】
充填工程S2においては、超電導線材1と保持部材3との間に(つまり、空隙SPに)充填材4が充填される。充填工程S2においては、第1に、保持部材3及び充填材4が加熱される。この際の加熱温度は、第2樹脂材料のガラス転移点以上の温度であって、第1樹脂材料のガラス転移点未満の温度である。この加熱により、充填材4が容易に流動しうる状態となる。充填工程S2においては、この加熱が行われた後に、充填材4が保持部材3と超電導線材1との間に流し込まれる。
【0052】
なお、充填材4は、内部に超電導線材1が保持された保持部材3を流動状態になるように加熱された充填材4に浸漬することにより、保持部材3と超電導線材1との間に流し込まれてもよい。
【0053】
流し込まれた充填材4が冷却されて固まることにより、保持部材3と超電導線材1との間が、充填材4により充填される。以上により、図1から図4に示される構造の永久電流スイッチ10が形成される。
【0054】
(第1実施形態に係る永久電流スイッチの効果)
以下に、永久電流スイッチ10の基本的な効果を、第1比較例に係る永久電流スイッチ(以下においては、「永久電流スイッチ30」とする)及び第2比較例に係る永久電流スイッチ(以下においては、「永久電流スイッチ40」とする)と対比しながら説明する。
【0055】
図8は、永久電流スイッチ30の側面図である。図8に示されるように、永久電流スイッチ30は、超電導線材1と、ヒータ2と、保持部材3と、充填材4とを有している。この点に関して、永久電流スイッチ30は、永久電流スイッチ10と共通している。
【0056】
しかしながら、永久電流スイッチ30において、ヒータ2は、その片面のみが超電導線材1に接している。この点に関して、永久電流スイッチ30は、永久電流スイッチ10と異なっている。
【0057】
永久電流スイッチ30においては、超電導線材1のうち、ヒータ2と対向している1箇所のみが加熱されることになる。他方で、永久電流スイッチ10においては、超電導線材1のうち、ヒータ2と対向している2箇所が加熱されることになる。このように、永久電流スイッチ10によると、超電導線材1における加熱長が増加し、超電導線材1を高抵抗化しやすくなる。
【0058】
図9は、永久電流スイッチ40の側面図である。図9に示されるように、永久電流スイッチ40は、超電導線材1と、ヒータ2と、保持部材3と、充填材4とを有している。この点に関して、永久電流スイッチ40は、永久電流スイッチ10と共通している。
【0059】
しかしながら、永久電流スイッチ40において、ヒータ2の数は、2つである(これらを、ヒータ2a及びヒータ2bとする)。また、永久電流スイッチ40において、ヒータ2(ヒータ2a及びヒータ2b)は、その片面のみが超電導線材1に接している。これらの点に関して、永久電流スイッチ40は、永久電流スイッチ10と異なっている。
【0060】
永久電流スイッチ40においては、超電導線材1のうち、ヒータ2a及びヒータ2bと対向している2箇所が加熱されることになる。他方で、永久電流スイッチ10によると、1つのヒータ2に対して電力を供給することにより超電導線材1を2箇所において加熱することができるため、永久電流スイッチ40と比較して、ヒータ2を動作させるのに必要な電力を低減することができる。
【0061】
このように、永久電流スイッチ10によると、ヒータ2による加熱効率を高めることができる。すなわち、永久電流スイッチ10によると、短時間かつ低電力で永久電流モードによる動作が可能になる。
【0062】
以下に、永久電流スイッチ10の付加的な効果を説明する。
永久電流スイッチ10において、超電導層13が基材11よりも第1面1aに近い位置にある場合には、超電導層13が基材11よりも第2面1bに近い位置にある場合と比較して、超電導層13とヒータ2との間の距離が短い。そのため、この場合には、ヒータ2からの熱か超電導層13に伝わりやすくなり、ヒータ2による加熱効率をさらに高めることができる。
【0063】
永久電流スイッチ10において、超電導層13が基材11よりも第1面1aに近い位置にある場合、超電導線材1を曲げた際に超電導層13に生じる曲げ応力は、圧縮応力になる。そのため、この場合には、超電導層13に損傷が生じにくくなる。
【0064】
永久電流スイッチ10は、極低温に保持された状態から常温に戻される。保持部材3と超電導線材1との間に隙間がある場合、永久電流スイッチ10が極低温から常温に戻される際に、超電導線材1の表面に結露が生じる。超電導線材1の表面に生じた結露は、超電導線材1の超電導特性を劣化させる原因となる。
【0065】
保持部材3と超電導線材1との間に充填材4が充填されている場合には、超電導線材1の表面が充填材4で被覆されていることになるため、永久電流スイッチ10が極低温から常温に戻されたとしても、超電導線材1の表面に結露が生じがたい。
【0066】
第2樹脂材料のガラス転移点が第1樹脂材料のガラス転移点よりも低い場合には、保持部材3は軟化していないが、充填材4を軟化して流動性がある状態にすることにより、充填材4を保持部材3と超電導線材1との間に充填しやすい。
【0067】
第2樹脂材料のガラス転移点が第1樹脂材料のガラス転移点よりも低い場合、保持部材3の変形(又は溶解)を抑制することができる。さらに、この場合、充填材4の充填に失敗した場合、充填材4を除去して充填工程S2をやり直すことが可能であるため、歩留まりが向上する。
【0068】
第2樹脂材料の粘度が第1樹脂材料の粘度よりも低い場合には、この充填がさらに行いやすい。また、この場合、充填材4を充填する際に、保持部材3の変形を抑制することができる。特に、パラフィンは融点が低いために、充填工程S2における取り扱いが容易である。
【0069】
第2樹脂材料がパラフィン、発泡樹脂材料である場合、超電導線材1を断熱することができるため、ヒータ2を低出力化することができるとともに、冷媒の蒸発を抑制することができる。
【0070】
(第2実施形態に係る永久電流スイッチの構成)
以下に、第2実施形態に係る永久電流スイッチ(以下においては、「永久電流スイッチ50」とする)の構成を説明する。ここでは、永久電流スイッチ10の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0071】
図10は、永久電流スイッチ50の側面図である。図10に示されるように、永久電流スイッチ50は、超電導線材1と、ヒータ2と、保持部材3と、充填材4とを有する。この点に関して、永久電流スイッチ50の構成は、永久電流スイッチ10の構成と共通している。
【0072】
永久電流スイッチ50は、ヒータ2cと、ヒータ2dとをさらに有している。永久電流スイッチ50において、第1面1aは、第3部分1acと、第4部分1adと、第5部分1aeと、第6部分1afとをさらに有している。
【0073】
第1部分1aa~第6部分1afは、超電導線材1の長手方向において互いに離間して配置されている。超電導線材1は、第1部分1aa及び第2部分1abが互いに対向し、第3部分1ac及び第4部分1adが互いに対向し、かつ第5部分1ae及び第6部分1afが互いに対向するように曲げられている。
【0074】
ヒータ2cは、第3部分1ac及び第4部分1adに挟み込まれるように配置されている。ヒータ2dは、第5部分1ae及び第6部分1afに挟み込まれるように配置されている。
【0075】
超電導線材1の長手方向におけるヒータ2の幅を幅W1とし、超電導線材1の長手方向におけるヒータ2cの幅を幅W2とし、超電導線材1の長手方向におけるヒータ2dの幅を幅W2とする。超電導線材1の長手方向におけるヒータ2とヒータ2cとの間の距離を距離DIS1とし、超電導線材1の長手方向におけるヒータ2cとヒータ2dとの間の距離を距離DIS2とする。
【0076】
距離DIS1は、幅W1及び幅W2の平均値以下であることが好ましい。距離DIS2は、幅W2及び幅W3の平均値以下であることが好ましい。すなわち、超電導線材1の長手方向において隣り合う2つのヒータの間の距離は、超電導線材1の長手方向において隣り合う2つのヒータの幅の平均値以下であることが好ましい。
【0077】
幅W1、幅W2及び幅W3は、互いに等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。距離DIS1及び距離DIS2は、互いに等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。上記の例においては、ヒータの数を3個としたが、ヒータの数は2個であってもよく、4個以上であってもよい。
【0078】
(第2実施形態に係る超電導線材の効果)
以下に、永久電流スイッチ50の効果を説明する。ここでは、永久電流スイッチ10の効果と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0079】
永久電流スイッチ50は、超電導線材1の長手方向に沿って互いに離間して配置された複数のヒータ(ヒータ2、ヒータ2c及びヒータ2d)を有しており、それらのヒータは両面において超電導線材1に接している。そのため、永久電流スイッチ50によると、長い領域にわたって超電導線材1が効率よく加熱されることにより、長い領域にわたって超電導線材1を効率的に高抵抗化することができる。
【0080】
(実施例)
図11は、永久電流スイッチ10、永久電流スイッチ30、永久電流スイッチ40及び永久電流スイッチ50におけるヒータに供給される電力と超電導線材1の電気抵抗値との関係を示すグラフである。図11中においては、横軸がヒータに供給される電力(単位:W)であり、縦軸が超電導線材1の電気抵抗値(単位:Ω)である。図11の例では、永久電流スイッチ10、永久電流スイッチ30及び永久電流スイッチ40のヒータの長さが10mmとされた。また、永久電流スイッチ50に関しては、幅W1~幅W3がそれぞれ3mmとされるとともに、距離DIS1及び距離DIS2がそれぞれ3mmとされた。さらに、永久電流スイッチ40及び永久電流スイッチ50に関しては、各々のヒータに電力が均等に供給された。なお、永久電流スイッチ10、永久電流スイッチ30、永久電流スイッチ40及び永久電流スイッチ50の温度は、77Kとされた。
【0081】
図11に示されるように、同一の電力がヒータに供給された際の永久電流スイッチ10における超電導線材1の電気抵抗値と永久電流スイッチ30における超電導線材1の電気抵抗値とを比較すると、永久電流スイッチ10における超電導線材1の電気抵抗値の方が大きくなっていた。より具体的には、永久電流スイッチ10においては、ヒータにより加熱される超電導線材1の長さが永久電流スイッチ30の2倍になっているため、超電導線材1の電気抵抗値が、永久電流スイッチ30の約2倍になっていた。
【0082】
超電導線材1を同一の電気抵抗値にするために必要なヒータの電力に関して永久電流スイッチ10と永久電流スイッチ40とを比較すると、永久電流スイッチ10においてはヒータ2の数が1つである一方、永久電流スイッチ40においてはヒータ2の数が2つであるため、永久電流スイッチ10のヒータ2に加えられた電力が、永久電流スイッチ40のヒータ(ヒータ2a及びヒータ2b)に加えられた電力の約半分になっていた。このように、永久電流スイッチ10によるとヒータによる加熱効率を改善できることが、実験的にも明らかにされた。
【0083】
永久電流スイッチ10と永久電流スイッチ50とを比較すると、超電導線材1の電気抵抗値が相対的に低い場合、永久電流スイッチ10の方がヒータに供給される電力が少なくなっていた。しかしながら、超電導線材1の電気抵抗値が相対的に高い場合、永久電流スイッチ50の方が、同一の電気抵抗値を得るためにヒータに供給される電力が小さくなっていた。このように、永久電流スイッチ50によると、長い領域にわたって超電導線材1が効率よく加熱されることにより、長い領域にわたって超電導線材1を効率的に高抵抗化することができることが明らかにされた。
【0084】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 超電導線材、1a 第1面、1aa 第1部分、1ab 第2部分、1ac 第3部分、1ad 第4部分、1ae 第5部分、1af 第6部分、1b 第2面、1c 第1端、1d 第2端、2,2a,2b,2c,2d ヒータ、3 保持部材、4 充填材、10 永久電流スイッチ、11 基材、12 中間層、13 超電導層、14 保護層、15 安定化層、21 発熱体、22 絶縁膜、20 超電導コイル、30 永久電流スイッチ、40 永久電流スイッチ、50 永久電流スイッチ、PW 電源、S1 準備工程、S2 充填工程、SP 空隙。
図1
図2
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図9
図10
図11