(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】医療用輸液装置
(51)【国際特許分類】
F04C 5/00 20060101AFI20240621BHJP
F04B 43/12 20060101ALI20240621BHJP
A61M 5/142 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
F04C5/00 341C
F04B43/12 N
A61M5/142 504
(21)【出願番号】P 2021553575
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039970
(87)【国際公開番号】W WO2021080004
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019192865
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000138037
【氏名又は名称】株式会社メテク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和敏
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠佑
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-513617(JP,A)
【文献】実開昭50-149903(JP,U)
【文献】実開平03-001290(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 5/00
F04B 43/12
A61M 5/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在なロータと、
前記ロータの外周に配置されたステータと、を備え、
前記ロータは、当該ロータの外周部に設けられ、前記ロータと共に回転する複数のローラを有し、
前記ローラは、前記ロータの外周部の同一円周上に予め定められた間隔で配置され、
前記ステータと前記ロータとの間にチューブを配置可能で、前記ロータの回転に伴う前記ローラの回転により前記チューブを扱いてチューブ内の液体を圧送するように構成された、ペリスタルティックポンプを有し、
前記ペリスタルティックポンプは、前記チューブを着脱可能に構成され、
前記ステータは、前記ローラによりチューブを閉塞可能な円弧状の閉塞領域を備え、
前記ステータが備える前記閉塞領域
の全体は、(360°/ローラ数)×0.90以上の内角を有し、
前記ステータが備える前記閉塞領域
の全体は、(360°/ローラ数)未満の内角を有する、医療用輸液装置。
【請求項2】
前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.75以上の内角を有する、請求項1に記載の医療用輸液装置。
【請求項3】
前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.83以上の内角を有する、請求項1に記載の医療用輸液装置。
【請求項4】
前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.99以下の内角を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用輸液装置。
【請求項5】
前記ステータは、前記閉塞領域の少なくとも一方の端部に接続され、前記ステータと前記ロータの隙間を前記閉塞領域に向かって次第に狭める緩衝領域を、さらに有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用輸液装置。
【請求項6】
前記緩衝領域は、前記閉塞領域と異なる中心を有する円弧形状を有し、前記閉塞領域と滑らかに接続されている、請求項5に記載の医療用輸液装置。
【請求項7】
前記ローラは、前記ステータに対し進退自在である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用輸液装置。
【請求項8】
20℃以下の液体を圧送する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用輸液装置。
【請求項9】
前記ステータは、前記ロータに対し進退自在である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用輸液装置。
【請求項10】
前記ローラの数は3以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の医療用輸液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年10月23日に出願された日本特許出願番号2019‐192865に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【0002】
本発明は、ペリスタルティックポンプを有する医療用送液装置に関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、液体が流れる軟質のチューブを扱いてチューブ内の液体を圧送するペリスタルティックポンプが知られている(特許文献1参照)。このペリスタルティックポンプは、ポンプの部材が液体と直接接触しないことから、患者に血液製剤を輸液する輸液装置などの医療用送液装置の送液に用いられている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-204462号公報
【文献】特開2018-64872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ペリスタルティックポンプは、チューブを扱く必要があるため、液体を圧送するための大きなトルクが必要になる。このため、ペリスタルティックポンプを使用する場合には、大きなモータを使用したり、モータに減速機を追加することが多かった。
特に、冷蔵保存された血液製剤のような低温の液体を圧送する場合には、チューブが低温で硬化するため、ペリスタルティックポンプには、より大きなトルクが必要になる。
【0006】
この結果、ペリスタルティックポンプや、そのポンプが搭載された装置は、大型化及び重量化し、その消費電力が増大し、発熱する。また騒音・電磁ノイズも増大する。さらにポンプの部品点数が多くなり、組立性やメンテナンス性、耐久性が低下する。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、チューブを扱く際に必要なトルクを低減することができるペリスタルティックポンプを備えた医療用送液装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ペリスタルティックポンプのステータの閉塞領域をローラの間隔に対し短くすることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)回転自在なロータと、前記ロータの外周に配置されたステータと、を備え、前記ロータは、当該ロータの外周部に設けられ、前記ロータと共に回転する複数のローラを有し、前記ローラは、前記ロータの外周部の同一円周上に予め定められた間隔で配置され、前記ステータと前記ロータとの間にチューブを配置可能で、前記ロータの回転に伴う前記ローラの回転により前記チューブを扱いてチューブ内の液体を圧送するように構成された、ペリスタルティックポンプを有し、前記ペリスタルティックポンプは、前記チューブを着脱可能に構成され、前記ステータは、前記ローラによりチューブを閉塞可能な円弧状の閉塞領域を備え、前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)未満の内角を有する、医療用送液装置。
(2)前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.75以上の内角を有する、(1)に記載の医療用送液装置。
(3)前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.83以上の内角を有する、(1)に記載の医療用送液装置。
(4)前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.90以上の内角を有する、(1)に記載の医療用送液装置。
(5)前記閉塞領域は、(360°/ローラ数)×0.99以下の内角を有する、(1)~(4)のいずれか一項に記載の医療用送液装置。
(6)前記ステータは、前記閉塞領域の少なくとも一方の端部に接続され、前記ステータと前記ロータの隙間を前記閉塞領域に向かって次第に狭める緩衝領域を、さらに有する、(1)~(5)のいずれか一項に記載の医療用送液装置。
(7)前記緩衝領域は、前記閉塞領域と異なる中心を有する円弧形状を有し、前記閉塞領域と滑らかに接続されている、(6)に記載の医療用送液装置。
(8)前記ローラは、前記ステータに対し進退自在である、(1)~(7)のいずれか一項に記載の医療用送液装置。
(9)20℃以下の液体を圧送する、(1)~(8)のいずれか一項に記載の医療用送液装置。
(10)前記ステータは、前記ロータに対し進退自在である、(1)~(9)のいずれか一項に記載の医療用送液装置。
(11)前記医療用送液装置は、輸液装置である、(1)~(10)のいずれか一項に記載の医療用送液装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チューブを扱く際に必要なトルクを低減することができるペリスタルティックポンプを備えた医療用送液装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】ペリスタルティックポンプの構成を示す上面図である。
【
図3】ステータが後退した状態のペリスタルティックポンプの構成を示す上面図である。
【
図4】チューブBを配置したペリスタルティックポンプの構成を示す上面図である。
【
図6】輸液システムの構成の概略を示す模式図である。
【
図7】ペリスタルティックポンプの閉塞領域の内角θと必要トルクとの関係を検証した実験結果である。
【
図8】ペリスタルティックポンプの閉塞領域の内角θと吐出圧との関係を検証した実験結果である。
【
図9】ローラがステータに対し進退自在なロータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、ペリスタルティックポンプ1、2を備えたポンプ装置10を示す斜視図である。
図2は、ペリスタルティックポンプ1の上面図である。なお、本明細書では、ペリスタルティックポンプのロータの回転軸方向であってロータが露出している側を、ペリスタルティックポンプの上面側(
図1のZ方向)とする。
【0014】
ポンプ装置10は、
図1に示すように上面視で方形状のポンプ収容部20を有し、そのポンプ収容部20に複数、例えば2つのペリスタルティックポンプ1、2が左右方向Xに並べて設けられている。なお、「左右方向X」は、ペリスタルティックポンプ1、2のロータの回転軸に対し直角の方向で、その2つのポンプ1、2の回転軸を通る方向とする。ポンプ装置10は、ペリスタルティックポンプ1、2の上面(ポンプ収容部20の上面)を開閉自在な開閉蓋21を有している。
【0015】
例えばペリスタルティックポンプ1は、
図1及び
図2に示すようにロータ30とステータ31を備えている。ロータ30は、上面視で円形状を備えている。
図2に示すようにロータ30は、複数、例えば3つのローラ40を有している。3つのローラ40は、ロータ30の同一円周上に等間隔で設けられている。ロータ30は、
図1に示すようにロータ30の下側に設けられたモータ41に接続され、モータ41の駆動により中心の回転軸A周りに回転することができる。
図2に示すローラ40は、ロータ30の回転に伴い回転軸A周りの同一円周上を回転することができる。
【0016】
ステータ31は、ロータ30の前後方向Yの後方側(
図2の紙面上側)の外周に設けられている。なお、「前後方向Y」は、ロータ30の回転軸Aと、左右方向Xに対し直角の方向とする。ステータ31は、ロータ30の後方側の外周の一部を囲む内周壁50を有している。
【0017】
内周壁50は、上面視で円弧状に形成され、内周壁50とロータ30との間には、軟質のチューブBを配置可能でなおかつ着脱可能な隙間Dが形成されている。
【0018】
内周壁50は、上面視で、ロータ30の回転軸Aと同じ中心を有する円弧状の閉塞領域60と、閉塞領域60の両端に設けられた緩衝領域61を有している。閉塞領域60は、隙間Dが一定であり、回転したローラ40がチューブBを潰して閉塞する領域である。
【0019】
閉塞領域60は、 (360°/ローラ数)×0.75以上、(360°/ローラ数)未満の内角θを有している。本実施の形態のようにローラ40が3つの場合には、内角θは90°以上120°未満となる。
【0020】
閉塞領域60の内角θは、(360°/ローラ数)×0.83以上、(360°/ローラ数)未満が好ましい。この場合、本実施の形態のようにローラ40が3つでは、内角θは100°以上120°未満となる。この場合、ペリスタルティックポンプ1は、80mL/minの低流量以上で適切なポンプ性能を有する。
【0021】
閉塞領域60の内角θは、(360°/ローラ数)×0.90以上、(360°/ローラ数)未満がさらに好ましい。この場合、ローラ40が3つの本実施の形態では、内角θは108°以上120°未満となる。この場合、ペリスタルティックポンプ1は、0.2mL/minの低流量以上で適切なポンプ性能を有する。
【0022】
閉塞領域60は、 (360°/ローラ数)×0.99以下、好ましくは(360°/ローラ数)×0.97以下、さらに好ましくは(360°/ローラ数)×0.94以下の内角θを有することが好ましい。なお、閉塞領域60の内角θを(360°/ローラ数)×0.99以下とした場合には、トルクを確実に低減することができ、閉塞領域60の内角θを(360°/ローラ数)×0.97以下とした場合には、トルクを十分に低減でき、閉塞領域60の内角θを(360°/ローラ数)×0.94以下とした場合には、トルクをさらに低減することができる。
【0023】
緩衝領域61は、閉塞領域60よりも広い隙間Dを有し、隙間Dが閉塞領域60に向かって次第に狭くなるように形成されている。緩衝領域61は、上面視で円弧形状を有し、閉塞領域60と滑らかに接続されている。閉塞領域60及び緩衝領域61は、上面視で前後方向Yに沿って延設され、ロータ30の回転軸Aを通る仮想線Cに対し対称になっている。
【0024】
ペリスタルティックポンプ1は、チューブBを位置決めする位置決め部70をさらに備えている。位置決め部70は、例えばステータ31の上流側に位置するチューブBを、ペリスタルティックポンプ1に対し前後方向Yの前方側(
図2の紙面下側)から導入しステータ31まで誘導する第1の位置決め部80と、ステータ31の下流側に位置するチューブBを、ペリスタルティックポンプ1の前方側に導出する第2の位置決め部81を備えている。これにより、チューブBは、上面視でペリスタルティックポンプ1に対し前側から後ろ側に向けて導入され、ステータ31において円弧状に折り返され、後ろ側から前側に向けて導出される。
【0025】
ステータ31は、ロータ30に対し前後方向Yに進退自在に構成されている。ステータ31は、ロータ30との隙間DにチューブBを狭持してチューブBを扱くことができる
図2に示した第1の位置P1と、第1の位置P1よりもロータ30から後方側に離れた
図3に示す第2の位置P2との間で進退自在である。ステータ31は、例えばペリスタルティックポンプ1に設けられたレバー90を引くことにより、第1の位置P1から第2の位置P2に後退し、レバー90を元に戻すことにより第2の位置P2から第1の位置P1に戻る。
【0026】
ペリスタルティックポンプ2は、上記ペリスタルティックポンプ1と同じ構成を有するものであってもよいし、異なる構成を有するものであってもよい。異なる構成を有する場合、ペリスタルティックポンプ2は、例えばステータ31の閉塞領域60の内角θが(360°/ローラ数)以上になるように構成されていてもよい。その他の構成は、ペリスタルティックポンプ1と同じであってもよい。
【0027】
ペリスタルティックポンプ1を作動させる際には、先ずチューブBがペリスタルティックポンプ1にセットされる。この際、レバー90によりステータ31をロータ30に対し後退させ、第1の位置P1から第2の位置P2に移動させ、チューブBをステータ31とロータ30との隙間Dや位置決め部70に配設する。その後、ステータ31をロータ30に対し前進させ、第1の位置P1に戻す。これにより、
図4に示すようにチューブBはロータ30とステータ31との間に把持される。
【0028】
次にモータ41によりペリスタルティックポンプ1を駆動させると、ロータ30が回転し、それに伴い3つのローラ40が回転する。このときローラ40は、ステータ31の一方の緩衝領域61に入り、閉塞領域60を通って、他方の緩衝領域61から出る。ローラ40は、一方の緩衝領域61において次第にチューブBを閉塞していき、閉塞領域60においてチューブBを閉塞する。ロータ40は、閉塞領域60においてチューブBを閉塞しながら移動し、このときチューブBが扱かれ内部の流体が下流側に送られる。ローラ40は、閉塞領域60を通過し他方の緩衝領域61に入ると次第にチューブBを開放していく。3つのローラ40が順にステータ31を通過することにより、チューブBの内部の液体が連続的に送られ、チューブBの液体が所定の流量で圧送される。
【0029】
ここで、ペリスタルティックポンプ1、2が搭載された医療用送液装置としての輸液装置の一例について説明する。
図5は、輸液装置100の一例を示す斜視図であり、
図6は、輸液装置100の輸液システム110を示す説明図である。
【0030】
図5に示すように輸液装置100は、略直方体状の装置本体120と、キャスター121と、装置本体120から上方に延設するポール122などを備えている。装置本体120には、設定画面130と、ポンプ設置部131と、加温部132などが設けられている。ポンプ設置部131は、装置本体120の側面120aに設けられ、このポンプ設置部131に上述のポンプ装置10が設置されている。ポンプ装置10は、例えば装置本体120の側面120aに、左右方向Xが水平方向、前後方向Yの前が下、前後方向Yの後ろが上になるように設置されている。これにより、ペリスタルティックポンプ1のステータ31は、ロータ30に対し上に位置している。加温部132には、後述の加温装置151が設置される。ポール122には、後述の液体バッグ170が吊り下げられる。
【0031】
図6に示すように輸液システム110は、輸液用の液体としての血液製剤を収容する液体容器150と、血液製剤を加温する加温装置151と、血液製剤中の気泡を除去する気泡除去チャンバ152と、液体容器150と加温装置151を接続する第1の流路153と、加温装置151と気泡除去チャンバ152を接続する第2の流路154と、気泡除去チャンバ152と患者に輸液を行う輸液部155を接続する第3の流路156と、気泡除去チャンバ152と液体容器150を接続する第4の流路157と、第1の流路153に設けられた第1のポンプとしてのペリスタルティックポンプ1と、第3の流路156に設けられた第2のポンプとしてのペリスタルティックポンプ2と、制御装置160等を備えている。
【0032】
液体容器150は、例えば血液製剤の供給源となる液体バッグ170に接続されている。液体容器150には、第1の流路153に流出する血液製剤の不要成分を除去するフィルター171が設けられている。
【0033】
加温装置151は、血液製剤が流れる加温流路180と、加温流路180に接触して給熱する熱板181を備えている。加温流路180は、例えば可撓性のあるチューブ状に構成され、加温装置151内に蛇行するように配置されている。
【0034】
気泡除去チャンバ152の上部に第2の流路154と第4の流路157が接続され、気泡除去チャンバ152の下部に第3の流路156が接続されている。
【0035】
第1の流路153、第2の流路154、第3の流路156及び第4の流路157は、軟質の可撓性のあるチューブBにより構成されている。
【0036】
ペリスタルティックポンプ1、2は、例えば50mL/min以上、好ましくは10mL/min以上、さらに好ましくは0.2mL/min以上の送液能力を有する。ペリスタルティックポンプ1、2の動作は、制御装置160により制御される。
【0037】
制御装置160は、例えば汎用コンピュータであり、メモリに記録されたプログラムをCPUで実行することによりペリスタルティックポンプ1、2等を制御して、輸液装置100や輸液システム110の輸液動作を実行できる。
【0038】
輸液装置100及び輸液システム110で輸液が実行される際には、先ず、低温の血液製剤が貯留された液体バッグ170が液体容器150に接続され、液体バッグ170の血液製剤が液体容器150内に貯留される。その後ペリスタルティックポンプ1、2が作動し、液体容器150の血液製剤が第1の流路153を通って加温装置151に送られる。加温装置151では、血液製剤が加温流路180を通過し、その際に熱板181により血液製剤が体温に近い所定の温度に加温される。加温装置151で加温された血液製剤は、第2の流路154を通過し、気泡除去チャンバ152に流入する。加温装置151において血液製剤中に生じた気泡は、気泡除去チャンバ152で補足される。気泡除去チャンバ152内の一部の血液製剤と気体は、第4の流路157を通って液体容器150に戻される。気泡除去チャンバ152の血液製剤は、ペリスタルティックポンプ2により第3の流路156を通過し、輸液部155から患者に輸液される。患者への輸液量は、ペリスタルティックポンプ2の送液流量を調整することにより制御される。
【0039】
本実施の形態によれば、ステータ31の閉塞領域60が(360°/ローラ数)未満の内角θを有することで、複数のローラ40同士の間隔に対して閉塞領域60が短くなり(閉塞領域60に対するローラ40同士の間隔が広くなり)、チューブBを閉塞して扱く際に必要なトルクを低減することができる。この結果、ペリスタルティックポンプ1や、そのペリスタルティックポンプ1が搭載された輸液装置100が、大型化及び重量化すること、その消費電力が増大すること、発熱量が増大すること、騒音・電磁ノイズが増大すること、さらに部品点数が多くなり組立性やメンテナンス性・耐久性が低下することが抑制される。発熱量を抑えることができるので、使用者がペリスタルティックポンプ1に触れ火傷することがない。またポンプ収容部20の温度が上がり過ぎずチューブBの液体が変性することがなくなる。
【0040】
図7は、本実施の形態に係るペリスタルティックポンプ1の閉塞領域60の内角θと必要トルクとの関係を検証した実験結果である。本実験において、ペリスタルティックポンプ1のロータ30とモータ41との間にトルク計を接続し、モータ41によりロータ30を駆動しチューブBを扱いた際のトルク計の値を検出し、その最大値を必要トルクとした。この実験は、環境温度が25℃、チューブBの液体温度が25℃、流量が600mL/minの条件で行った。
図7の実験結果から明らかなようにステータの閉塞領域が(360°/ローラ数)(360°/3=120°)未満の内角θを有する場合には、ステータの閉塞領域が(360°/ローラ数)を以上の内角θを有する場合に比べて、必要なトルクが著しく減少する。
【0041】
なお、一般的なペリスタルティックポンプは、ステータの閉塞領域が(360°/ローラ数)を超える内角を有している。つまり、従来のペリスタルティックポンプは、ローラがステータの閉塞領域に常に存在しチューブを扱き続けるように設定されている。本発明者らは、本実施の形態のようにペリスタルティックポンプがステータ31の閉塞領域60が(360°/ローラ数)未満の内角θを有するようにしてもポンプとして機能することを確認している。
【0042】
図8は、本実施の形態に係るペリスタルティックポンプ1の閉塞領域60の内角θと吐出圧との関係を検証した実験結果である。吐出圧は、ペリスタルティックポンプ1の出口側のチューブBに圧力計を設置して測定した。この実験は、環境温度が25℃、流量が0.2mL/minの条件で行った。
図8の実験結果から明らかなようにステータ31の閉塞領域60が(360°/ローラ数)未満の内角θを有するようにしても、規定値以上の吐出圧が得られる。なお、規定値は、経験則などによって定められるものであり、例えば700mmHg程度の所定値となる。
【0043】
閉塞領域60に対しローラ40の間隔を広げる(閉塞領域60の内角θを小さくする)ほど、ローラ40がチューブ内の流体を送る能力が下がると考えられるが、ステータ31の閉塞領域60の内角θを(360°/ローラ数)×0.75以上とした場合、200mL/min以上の流量(140mm/sec以上の移動速度)で適切なポンプ性能を維持することができる。なお、「適切なポンプ性能」とは、流量と吐出圧が市場要求を満たすことであり、この場合、ポンプによって発生した圧力によって、患者への液体の流れを制御することができる。
【0044】
閉塞領域60の内角θが、(360°/ローラ数)×0.83以上の場合には、80ml/minの低流量以上(移動速度56mm/sec以上)で適切なポンプ性能を維持することができ、適切なポンプ性能を有する流量範囲が広くなる。
【0045】
閉塞領域60の内角θが、(360°/ローラ数)×0.90以上の場合には、さらに0.2ml/minの低流量以上(移動速度0.1mm/sec以上)で適切なポンプ性能を維持することができ、適切なポンプ性能を有する流量範囲がさらに広くなる。特に、輸液装置のような医療装置では、医療現場では投与液をゆっくり投与したいとき(例えば流量0.2 mL/min、移動速度0.1mm/sec)と急速に投与したいとき(例えば流量100 mL/min以上、移動速度71mm/sec以上)があり、広い流量範囲で投与できることが求められている。閉塞領域60の内角θが、(360°/ローラ数)×0.90以上の場合には、広い流量範囲が要求される医療装置にも十分に対応できる。
【0046】
閉塞領域60の内角θが、(360°/ローラ数)×0.99以下の場合には、ペリスタルティックポンプ1がチューブBを閉塞して扱く際に必要なトルクを十分に低減することができる。
【0047】
ステータ31は、閉塞領域60の端部に接続され、ステータ31とロータ30の隙間Dを閉塞領域60に向かって次第に狭める緩衝領域61を有している。これにより、ローラ40が、チューブBを閉塞領域60に近づくにつれて次第に閉塞することができるので、チューブBを閉塞するための抵抗が小さくなり、チューブBを扱く際に必要なトルクをさらに低減すること、ポンプに掛かる負荷の急激な変動を軽減することができ耐久性を向上することができる。
【0048】
緩衝領域61は、閉塞領域60と異なる中心を有する円弧形状を有し、閉塞領域60と滑らかに接続されているので、ローラ40のチューブBを閉塞するための抵抗が、緩衝領域61と閉塞領域60の接続付近で急に変動することがない。この結果、ローラ40がチューブBを扱く際に必要なトルクをさらに低減することができる。
【0049】
ステータ31は、ロータ30に対し進退自在であるので、チューブBの装着作業を簡単に行うことができる。
【0050】
ペリスタルティックポンプ1が20℃以下の液体を圧送するものである。血液製剤のような20℃以下の液体の圧送する場合、チューブBが低温となり硬化しチューブBを扱く際により大きなトルクが必要になるが、本実施の形態のペリスタルティックポンプ1を用いることによりトルクを低減することができる。
【0051】
輸液装置100がペリスタルティックポンプ1を備えている。輸液装置100は、低温の血液製剤を大流量で送液する必要があるため、ペリスタルティックポンプ1を輸液装置100に適用するメリットは大きい。すなわち、ペリスタルティックポンプ1が搭載された輸液装置100が、大型化及び重量化すること、その消費電力が増大すること、発熱量が増大すること、騒音・電磁ノイズが増大すること、さらに部品点数が多くなり組立性やメンテナンス性・耐久性が低下することが抑制される。
【0052】
以上の実施の形態において、ロータ30のローラ40は、ステータ31に対し進退自在であってもよい。かかる場合、例えば
図9及び
図10に示すようにロータ30は、ローラ40を間に挟んで支持する天板200と底板201を備えている。天板200と底板201は、同じ径の円形状を有し、互いに対向している。天板200と底板201は、軸方向Zに延びる中心軸202によって互いに接続されている。各ローラ40は、ローラ40の中心を軸方向Zに貫通する軸フレーム203を有し、軸フレーム203を介して天板200と底板201に支持されている。天板200と底板201には、各ローラ40の軸フレーム203が挿通する貫通孔204が形成されている。貫通孔204は、ロータ30(天板200及び底板201)の径方向Rに長い長孔になっている。これにより、ローラ40の軸フレーム203が貫通孔204内を径方向Rに移動可能になり、ローラ40は、ロータ30の径方向Rに移動自在となる。例えば天板200上には、ローラ40の軸フレーム203を径方向Rの外側方向に付勢する弾性体としてのばね205が設けられている。ばね205は、例えばC字状の線状のばねであり、ローラ40の軸フレーム203毎に3本設けられている。各ばね205は、一端がローラ40の軸フレーム203に接続され、他端が例えば中心軸202の周辺部材に拘束されるように構成されている。
【0053】
かかる構成により、ローラ40は、ステータ31側に進退自在になり、チューブBを常に押しつぶす方向(径方向Rの外側方向)に付勢される。そして、ローラ40は、チューブBに対し力が釣り合う位置まで移動する。ローラ40は、貫通孔204の長さ分移動自在であり、この貫通孔204によって最大移動位置(距離)も規制される。
【0054】
ローラ40がステータ31に対し進退自在であるので、チューブBの取り外し作業が簡単になる。また、ローラ40がばね205により付勢されることにより、一定荷重でチューブBを押さえ付けることができ、例えばチューブBを流れる液体の温度が変化してチューブBの剛性が変化しても、ローラ40の回転に必要な圧送トルクが大きくなり過ぎない。この結果、例えばポンプ1の破損等やモータのトルク不足により送液できなくなることを防止することができる。なお、チューブBを流れる液体の温度変化は、冷蔵保存された血液製剤のような低温の液体や、37℃程度に加温された輸液などを流す際に起こり得る。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0056】
例えば上記実施の形態におけるペリスタルティックポンプ1は、ローラ40が3つであったが、ローラ40の数は3つに限られず、2つ、4つ、5つ、又は6つ以上であってもよい。なお、ローラ40は、回転軸A周りの同一円周上に等間隔に配置されていなくてもよい。ポンプ装置10、輸液装置100及び輸液システム110の構成もこれに限られない。輸液装置100で送液される輸液用の液体は血液製剤であったが、これに限られず、例えば新鮮凍結血漿(FFP)、アルブミン、細胞外液などであってもよい。ペリスタルティックポンプ1は、輸液装置100以外の他の医療用送液装置に搭載されてもよい。例えばペリスタルティックポンプ1は、血液浄化装置、血漿交換装置、腹水濾過濃縮装置、輸液ポンプなどの医療用送液装置に備えられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、チューブを扱く際に必要なトルクを低減することができるペリスタルティックポンプを提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 ペリスタルティックポンプ
30 ロータ
31 ステータ
40 ローラ
50 内周壁
60 閉塞領域
61 緩衝領域
100 輸液装置
110 輸液システム
A 回転軸
B チューブ
θ 内角