(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】プリントされたリチウム箔及びフィルム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20240621BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240621BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021556515
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 US2019051699
(87)【国際公開番号】W WO2020190329
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-07-08
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520363317
【氏名又は名称】リベント ユーエスエー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブレワ、マリナ
(72)【発明者】
【氏名】フィッチ、ケネス ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】グリーター、ジュニア、ウィリアム アーサー
(72)【発明者】
【氏名】シア、ジアン
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0239917(US,A1)
【文献】特表2009-527095(JP,A)
【文献】特表2008-503865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箔又はフィルムの形態のプリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板であって、前記プリンタブルリチウム組成物が、乾燥重量に基づいて、
a)5~80ミクロンの平均粒径を有する、50重量%~98重量%のリチウム金属粉末、
b)2重量%~50重量%
のポリマーバインダ及び炭素系レオロジー調整
剤、
を
原料として含み、
ポリマーバインダは、前記リチウム金属粉末及び前記炭素系レオロジー調整剤と相溶性であり、ポリイソブチレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンターポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニリデンクロリド、及びポリビニルアセタートからなる群から選択され、
レオロジー調整剤は、前記プリンタブルリチウム組成物でコーティングされた基板の劣化を防止し、前記基板の耐久性を向上させる三次元構造を提供し、箔又はフィルムの形態のプリンタブルリチウム組成物は1~50ミクロンの厚さを有する、
前記基板。
【請求項2】
前記基板が、エネルギー貯蔵装置基板であり、集電体、アノード、カソード、電解質及びセパレータからなる群から選択される、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
電極を形成するための1つ以上の電極活物質をさらに含む、請求項1に記載の基板。
【請求項4】
カソード、電解質及びアノードを含む電池であって、前記カソード、前記電解質、前記アノード又はその組み合わせがそれぞれ、請求項1に記載のプリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板を
含む、電池。
【請求項5】
前記箔の積層厚が、10ミクロン~20ミクロンである、請求項1に記載の基板。
【請求項6】
請求項
5に記載の基板を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
以下の出願は、2019年9月17日に提出された米国特許出願第16/573,556号に対する優先権を主張し、これは2019年7月15日に提出された米国仮出願第62/874,269号、2019年6月21日に提出された米国仮出願第62/864,739号並びに2019年3月21日に提出された国際出願第PCT/US19/23376号、第PCT/US19/23383号及び第PCT/US19/23390号に対する優先権を主張し、これらは2019年3月20日に提出された米国特許出願第16/359,707号、第16/359,725号及び第16/359,733号に対する優先権を主張し、これらは2018年3月22日に提出された米国仮出願第62/646,521号及び2018年6月29日に提出された米国仮出願第62/691,819号に対する優先権を主張し、これらの出願の開示はそれぞれ、その全体が参照により組み入れられている。
【0002】
本発明は、電池及びコンデンサを含む多種多様なエネルギー貯蔵装置での使用に好適な、プリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池及びリチウムイオン二次電池、即ち充電式電池は、携帯電話、カメラ一体型ビデオ、ラップトップコンピュータなどのある用途に使用され、さらにより最近では、電気自動車やハイブリッド電気自動車などのより大電力の用途で使用されている。これらの用途では、二次電池が可能な限り高い比容量を備えているが、後続の再充電及び放電サイクルで高い比容量が維持されるように、安全な動作条件と良好なサイクル性をなお与えることが好ましい。
【0004】
二次電池には様々な種の構成があるが、各構成は、正極(即ちカソード)、負極(即ちアノード)、カソードとアノードを分離するセパレータ、カソードとアノードを電気化学的に連通する電解質を含む。リチウム二次電池の場合、リチウムイオンは、二次電池が放電されているとき、即ちその特定の用途に使用されているときに、電解質を通じてアノードからカソードに移送される。放電プロセス中に、電子はアノードから回収され、外部回路を介してカソードに移行する。二次電池の充電又は再充電中に、リチウムイオンは、電解質を通じてカソードからアノードに移送される。
【0005】
歴史的に、リチウム二次電池は、TiS2、MoS2、MnO2及びV2O5などの高い比容量を有する非リチウム化化合物をカソード活物質として使用して製造された。これらのカソード活物質は、リチウム金属アノードと結合された。二次電池の放電時に、リチウムイオンは電解質を通じてリチウム金属アノードからカソードに移送された。残念ながら、サイクル時にリチウム金属はデンドライトを生じ、これが、最終的に電池において安全でない状態を引き起こした。結果として、この種類の二次電池の生産は1990年代初めに停止され、このことはリチウムイオン電池にとって有利であった。
【0006】
リチウムイオン電池は、通常、LiCoO2及びLiNiO2などのリチウム金属酸化物を、炭素系材料などのアノード活物質と結合したカソード活物質として使用する。酸化シリコン、シリコン粒子などを主成分とする他の種類のアノードが存在することが認識されている。炭素系アノード系を利用する電池では、アノードでのリチウムデンドライトの形成が実質的に回避され、それによりバッテリーがより安全となる。ただし電気化学的に活性のリチウムは、その量が電池の容量を決定し、全てカソードから供給される。活物質は着脱可能な/サイクル可能なリチウムを含有する必要があるため、このことによってカソード活物質の選択肢が制限される。また、充電中や過充電時に形成されたLixCoO2、LixNiO2に相当する脱リチウム化生成物は安定していない。特に、これらの脱リチウム化生成物は電解質と反応して熱を発生する傾向があり、安全上の懸念を引き起こす。
【0007】
リチウムイオンセル又は電池は、最初は放電状態である。リチウムイオンセルの最初の充電中に、リチウムはカソード材料からアノード活物質に移動する。カソードからアノードに移動するリチウムは、黒鉛アノードの表面で電解質材料と反応し、アノードに不動態皮膜を形成する。黒鉛アノードに形成された不動態皮膜は、固体電解質界面(SEI)である。後続の放電時に、SEIの形成によって消費されたリチウムはカソードに戻されない。これにより、リチウムの一部がSEIの形成によって消費されたため、初期充電容量よりも容量が小さいリチウムイオンセルが生じる。最初のサイクルで利用可能なリチウムが部分的に消費されると、リチウムイオンセルの容量が減少する。この現象は不可逆容量と呼ばれ、リチウムイオンセルの容量の約10%~20%超を消費することが既知である。したがって、リチウムイオンセルの初期充電後、リチウムイオンセルはその容量の約10%~20%超を失う。
【0008】
1つの解決策は、安定化リチウム金属粉末を使用して、アノードをプレリチウム化することである。例えばリチウム粉末は、参照によりその全開示が本明細書に組み入れられている、米国特許第5,567,474号、第5,776,369号及び第5,976,403号に記載されているように、金属粉末表面を二酸化炭素で不動態化することにより安定化することができる。CO2によって不動態化されたリチウム金属粉末は、リチウム金属と空気が反応するため、リチウム金属含有量が減少する前の限定された期間に、水分レベルの低い空気中でのみ使用できる。別の解決策は、例えば米国特許第7,588,623号、第8,021,496号、第8,377,236号及び米国特許出願公開第2017/0149052号に記載されているように、リチウム金属粉末にフッ素、ワックス、リン又はポリマーなどのコーティングを施すことである。
【0009】
しかし、リチウムイオンセル及び他のリチウム金属電池用の様々な基板に適用するためのより薄いリチウム箔及びフィルム、より詳細には、電気化学性能が改善された薄いリチウム箔及び複合フィルムが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
この目的のために、本発明は、基板をコーティングするために、特にアノード用基板の形成又は製造のために使用され得る、プリンタブルリチウム組成物から形成された箔又はフィルムを提供する。プリンタブルリチウム組成物から形成された箔及びフィルムは、約1ミクロン~約50ミクロンの積層厚を有し得る。プリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板を含むアノードは、効率が向上し、寿命が長くなる。プリンタブルリチウム組成物を有する基板を組み込んだ電池は、高濃度電解質、二塩電解質及び/又は他の添加剤並びに固体電解質によって、さらに向上した性能を有し得る。
【0011】
本発明のプリンタブルリチウム組成物は、リチウム金属粉末及びポリマーバインダを含み、ポリマーバインダは、リチウム粉末と相溶性である。プリンタブルリチウム組成物は、組成物内に分散され、組成物でコーティングしたときに製造されるアノードの三次元構造を提供する、リチウム粉末及びポリマーバインダと相溶性であるレオロジー調整剤も含み得る。この三次元構造は、サイクル中のデンドライト成長のリスクをさらに低減する。
他の記載と重複するが、本発明及びその好ましい態様を以下に示す。ただし、本発明は以下に限定されるものではない。
[1]
プリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板であって、前記プリンタブルリチウム組成物が、
a)リチウム金属粉末、
b)ポリマーバインダであって、前記リチウム金属粉末と相溶性であるポリマーバインダ、並びに
c)前記リチウム金属粉末及び前記ポリマーバインダと相溶性であるレオロジー調整剤であって、前記組成物内に分散可能であり、前記プリンタブルリチウム組成物でコーティングしたときに、前記基板の劣化を防止し、前記基板の耐久性を向上させる三次元構造を提供する、レオロジー調整剤
を含む、基板。
[2]
前記基板がエネルギー貯蔵装置基板である、[1]に記載の基板。
[3]
前記エネルギー貯蔵装置基板が、集電体、アノード、カソード、電解質及びセパレータからなる群から選択される、[2]に記載の基板。
[4]
前記プリンタブルリチウム組成物が箔又はフィルムの形態である、[1]に記載の基板。
[5]
前記箔が約1ミクロン~約50ミクロンの積層厚を有する、[4]に記載の基板。
[6]
前記箔の厚さが約10ミクロン~約30ミクロンである、[5]に記載の基板。
[7]
前記レオロジー調整剤がカーボンナノチューブである、[1]に記載の基板。
[8]
前記ポリマーバインダが1,000~8,000,000の分子量を有し、不飽和エラストマー、飽和エラストマー、熱可塑性物質、ポリアクリル酸、ポリビニリデンクロリド及びポリビニルアセタートからなる群から選択される、[1]に記載の基板。
[9]
前記不飽和エラストマーが、ブタジエンゴム、イソブチレン及びスチレンブタジエンゴムからなる群から選択される、[8]に記載の基板。
[10]
前記飽和エラストマーが、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム及びエチレンビニルアセタートからなる群から選択される、[8]に記載の基板。
[11]
前記熱可塑性物質が、ポリスチレン、ポリエチレン及びエチレンオキシドのポリマーからなる群から選択される、[8]に記載の基板。
[12]
前記エチレンオキシドのポリマーが、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(エチレンオキシド)からなる群から選択される、[11]に記載の基板。
[13]
前記プリンタブルリチウム組成物が、1つ以上の追加のレオロジー調整剤をさらに含む、[1]に記載の基板。
[14]
前記プリンタブルリチウム組成物が、約50重量%~約98重量%の前記リチウム金属粉末、約2重量%~約50重量%の前記ポリマーバインダ及び前記レオロジー調整剤を含む、[1]に記載の基板。
[15]
前記プリンタブルリチウム組成物が、約70重量%~約85重量%の前記リチウム金属粉末、約15重量%~約30重量%の前記ポリマーバインダ及び前記レオロジー調整剤を含む、[14]に記載の基板。
[16]
電極を形成するための1つ以上の電極活物質をさらに含む、[1]に記載の基板。
[17]
カソード、電解質及びアノードを含む電池であって、前記カソード、前記電解質、前記アノード又はその組み合わせがそれぞれ、[1]に記載のプリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板を含み得る、電池。
[18]
前記電解質が約1M以上の濃度を有する、[17]に記載の電池。
[19]
前記電解質の濃度が約3M~約5Mである、[18]に記載の電池。
[20]
前記電解質が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドから選択される、[17]に記載の電池。
[21]
前記プリンタブルリチウム組成物と組み合わされて固体電解質膜を形成するのに適した固体電解質成分をさらに含む、[17]に記載の電池。
[22]
プリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板であって、前記プリンタブルリチウム組成物が、
a)約5重量%~約50重量%のリチウム金属粉末、
b)約0.1重量%~約20重量%のポリマーバインダであって、前記リチウム金属粉末と相溶性であるポリマーバインダ、
c)約0.1%~約30%の、前記リチウム金属粉末及び前記ポリマーバインダと相溶性であるレオロジー調整剤であって、前記組成物内に分散可能であり、前記プリンタブルリチウム組成物でコーティングしたときに、前記基板の劣化を防止し、前記基板の耐久性を向上させる三次元構造を提供する、レオロジー調整剤、並びに
d)約50重量%~約95重量%の溶媒
を含む、基板。
[23]
前記プリンタブルリチウム組成物が、約15重量%~25重量%の前記リチウム金属粉末の、約0.3重量%~約0.6重量%の前記ポリマーバインダ、約0.5重量%~約0.9重量%の前記レオロジー調整剤及び約75重量%~約85重量%の前記溶媒を含む、[22]に記載の基板。
[24]
前記溶媒が、非環式炭化水素、環式炭化水素、芳香族炭化水素、対称エーテル、非対称エーテル、環式エーテル、アルカン、スルホン、鉱油及びその混合物、ブレンド又は共溶媒を含む群から選択され得る、[22]に記載の基板。
[25]
プリンタブルリチウム組成物から形成された箔又はフィルムであって、前記プリンタブルリチウム組成物が、
a)リチウム金属粉末、
b)リチウム基板の劣化を防止し、耐久性を向上させるための三次元支持構造を提供するカーボンナノチューブ、及び
c)前記リチウム金属粉末と相溶性であるポリマーバインダ
を含む、箔又はフィルム。
[26]
前記箔が、約1ミクロン~約50ミクロンの積層厚を有する、[25]に記載の箔又はフィルム。
[27]
前記箔の積層厚が、約10ミクロン~約20ミクロンである、[26]に記載の箔又はフィルム。
[28]
1つ以上の追加のレオロジー調整剤をさらに含む、[25]に記載の箔又はフィルム。
[29]
[25]に記載のプリンタブルリチウム組成物から形成された箔又はフィルムを含む、電池。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】SLMP/スチレンブタジエン/トルエンのプリンタブルリチウム組成物の反応性試験の温度及び圧力プロファイルである。
【0013】
【
図2A】プリンタブルリチウム組成物でコーティングした箔の写真画像である。
【0014】
【
図2B】積層前のプリントされたリチウム箔の倍率200倍の顕微鏡画像である。
【0015】
【
図2C】積層後のプリントされたリチウム箔の倍率200倍の顕微鏡画像である。
【0016】
【
図3】約20ミクロンの積層厚を有するプリントされたリチウム箔のSEM写真及びEDSスペクトルである。
【0017】
【
図4】プリンタブルリチウム箔(20ミクロン)と市販の箔(50ミクロン)の放電容量を比較するプロットであり、サイクルを30℃における3V~4.3Vの間の0.2C充電及び1C放電で行った。
【0018】
【
図5】100サイクル後のプリンタブルリチウム箔(20ミクロン)と市販の箔(50ミクロン)の交流(AC)インピーダンススペクトルを比較するナイキストプロットである。
【0019】
【
図6A】100サイクル後の市販のリチウム箔を有する2つの基板の写真画像である。
【0020】
【
図6B】100サイクル後の市販のリチウム箔の倍率200倍の顕微鏡画像である。
【0021】
【
図6C】100サイクル後のプリンタブルリチウム箔を有する2つの基板の写真画像である。
【0022】
【
図6D】100サイクル後のプリンタブルリチウム箔の倍率200倍の顕微鏡画像である。
【0023】
【
図7】100サイクル後の市販のリチウム箔を有する基板の厚さをプリンタブルリチウム箔と有する基板と比較した、倍200倍の顕微鏡画像である。
【0024】
【
図8】レオロジー調整剤としてカーボンナノチューブを添加した場合と添加しなかった場合のプリンタブルリチウム箔の放電容量を比較するプロットである。
【0025】
【
図9】市販のリチウム箔に対する、リチウム箔を形成するためにプリンタブルリチウム配合物でコーティングした基板を有するパウチセルのリチウムメッキ及び剥離特性を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで本発明の上述及び他の態様を、本明細書で与える説明及び方法に関してより詳細に説明する。本発明は様々な形態で具体化することができ、本明細書に記載する実施形態に限定されるとして解釈するべきではないことを理解されたい。むしろこれらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。
【0027】
本明細書の本発明の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の実施形態の説明及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別途明確に指摘しない限り、複数形も含むことを意図する。また、本明細書で使用する場合、「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせを示し、包含する。
【0028】
化合物の量、用量、時間、温度などの測定可能な値を示すときに本明細書で使用する場合、「約」という用語は、明記した量の20%、10%、5%、1%、0.5%又はなお0.1%の変数を含むことを意図する。別途定義しない限り、説明において使用される技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0029】
本明細書で使用する場合、「備える(comprise)」、「備える(comprises)」、「備える(comprising」、「含む(include)」、「含む(includes)」及び「含む(including)」という用語は、示した特徴、整数、ステップ、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を明記するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、構成要素及び/又はその群の存在又は追加を排除しない。
【0030】
本明細書で使用する場合、本発明の組成物及び方法に適用される「から本質的になる」(及びその文法上の変形)という用語は、追加の構成要素が組成物/方法を実質的に変化させない限り、組成物/方法が追加の構成要素を含み得ることを意味する。組成物/方法に適用される「実質的に変化させる」という用語は、少なくとも約20%以上の組成物/方法の有効性の増加又は減少を示す。
【0031】
本明細書で言及する全ての特許、特許出願及び出版物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている。用語に矛盾がある場合は、本明細書が優先される。
【0032】
本発明によれば、箔又はフィルムを形成するためのプリンタブルリチウム組成物が提供される。プリンタブルリチウム組成物は、リチウム金属粉末、リチウム金属粉末と相溶性であるポリマーバインダ、並びにリチウム金属粉末及びポリマーバインダと相溶性であるレオロジー調整剤を含み、レオロジー調整剤は分散性であり、コーティングした電極の電気化学的性能を向上させる三次元構造を提供し得る。例えば、箔は、リチウムを主成分とするプリンタブルリチウム組成物を含み得る。又は、フィルムは、プリンタブルリチウム組成物中の活性カソード、アノード又は電解質材料を含む複合材であってもよい。箔及びフィルムは、一次電池、二次電池、コンデンサ、固体電池及びハイブリッド電池/コンデンサなどの多種多様なエネルギー貯蔵装置に組み込んでよい。薄い箔及びフィルムをマイクロ電池に組み込んでもよい。
【0033】
一実施形態において、レオロジー調整剤は炭素系である。例えば、レオロジー調整剤は、コーティングされた電極用の構造を提供するためのカーボンナノチューブから構成され得る。別の実施形態において、カーボンブラックはレオロジー調整剤として添加してもよい。理論によって限定されることを望むものではないが、炭素系レオロジー調整剤は、積層後にリチウム粒子間の導電性ネットワークも提供し得て、デバイス運転中に面表面積を効果的に増大させ、面電流密度を低下させ、リチウムイオンに、通常のリチウム箔で生じるような箔の表面だけでなく、バルクに堆積するための経路を与えると考えられる。好適なレオロジー調整剤の他の例としては、酸化チタン及び酸化シリコンを含む、非炭素系材料が挙げられ得る。例えば、ナノチューブ又はナノ粒子などのシリコン構造をレオロジー調整剤として添加して、三次元構造及び/又は追加容量を提供することができる。レオロジー調整剤はまた、機械的劣化を防止することによってプリンタブルリチウム組成物から形成された層(即ちコーティング、箔又はフィルム)の耐久性を高め、より高い電荷及びより高速での充電を可能にし得る。
【0034】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、エネルギー貯蔵装置基板などの基板に塗布されてもよい。例としては集電体、アノード、カソード、電解質及びセパレータが挙げられ得る。電解質の例としては、固体電解質、ポリマー電解質、ガラス電解質及びセラミック電解質が挙げられ得る。一例では、プリンタブルリチウム組成物は塗布又は堆積されて、アノード又はカソードをプレリチウム化してもよい。プレリチウム化アノード又はカソードは、コンデンサ又は電池などのエネルギー貯蔵装置に組み込んでもよい。別の例において、基板はリチウムアノードであってもよい。例えば、リチウムアノードは、平坦なリチウム金属アノードであってもよく、又はNiuら[Nature Nanotechnology,Vol.14,pgs.594-201(2019);DOI:10.1038/s41565-019-0427-9]に記載され、その全体が参照により本明細書に組み入れられている、アミン官能化リチウム-炭素フィルムなどのリチウム-炭素アノードであってもよい。
【0035】
電池は、液体電解質から構成され得る。別の実施形態において、電池は、固体電解質及び半固体電解質から構成され、固体電池を形成し得る。別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は使用、塗布又は堆積されて、固体電池で使用するためのモノリシックリチウム金属アノードを形成し得る。
【0036】
また別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、固体電池用の固体電解質を形成するように適用する又は堆積させることができ、固体電解質又は複合固体電解質を形成するための、プリンタブルリチウム組成物とポリマー材料、ガラス材料又はセラミック材料との組み合わせを含む。例えば、プリンタブルリチウム組成物及びポリマー材料を共に押し出して固体電解質フィルムを作製してもよく、場合により他の活性電解質材料を含んでもよい。
【0037】
別の実施形態において、基板は、プリンタブルリチウム組成物でコーティングした電極を備え、リチウム層と電解質との間に保護層、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第6,214,061号に記載されている保護層をさらに含み得る。保護層は、リチウムイオンを伝導することができるガラス状又は非晶質材料であってもよく、リチウム表面と電解質との間の接触を防止するのに適している。好適な保護層の例としては、リチウムシリカート、リチウムボラート、リチウムアルミナート、リチウムホスファート、リチウムホスホラスオキシニトリド、リチウムシリコスルフィド、リチウムボロスルフィド、リチウムアミノスルフィド及びリチウムホスホスルフィドが挙げられる。保護層は、物理的又は化学的堆積プロセスによって電極表面上に塗布されてもよい。プリンタブルリチウム組成物は、コーティング、箔又はフィルムとして保護層上に塗布されてもよい。一実施形態において、保護層は、リチウム層と電解質とを分離していてもよく、電解質は、プリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板から構成されてもよい。配合物は、リチウム金属と固体電解質との接触を増大させ、充電/放電サイクル中に接触を維持するために、Liら[Joule,Vol.3,No.7,pgs.1637-1646(2019),DOI:10.1016/j.joule.2019.05.022]によって記載され、その全体が参照により本明細書に組み入れられるような、半固体導電性ポリマーマトリックスの使用を採用してもよい。
【0038】
一実施形態は、例えばLiuら[Energy Storage Materials,Vol.16,pgs.505-511(2019),DOI:10.1016/j.ensm.2018.09.021]によって開示され、その全体が参照により本明細書に組み入れられるような、三次元(3D)リチウム金属アノードを有する電池を備えてもよく、カソード、電解質、3Dリチウム金属アノード、又はその組み合わせはそれぞれ、プリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板を含み得る。
【0039】
別の実施形態は、Kolensikovら[Journal of the Electrochemical Society,Vol.166,no.8,pages A1400-A1407(2019),DOI:10.1149/2.0401908jes]によって開示され、その全体が参照により本明細書に組み入れられるような、カソード、電解質及びZnI2で修飾したリチウムアノードを有する電池を含み得る。リチウムアノードは、プリンタブルリチウム組成物を銅箔上に塗布することによって調製され、箔をテトラヒドロフラン(THF)溶液中のZnI2と接触させることによって修飾され得る。
【0040】
別の実施形態において、基板は、Forneyら[Nanoletters,Vol.13,no.9,pages 4158-4163(2013),DOI:10.1021/nl40176d]記載され、参照により本明細書に組み入れられるような、シリコン-ナノチューブアノードを含んでもよい。例えば、そのシリコンナノチューブアノードは、プリンタブルリチウム組成物から形成されたコーティング、箔又はフィルムなどのリチウム層をさらに含んでもよい。
【0041】
プリンタブルリチウム組成物のリチウム金属粉末は、微粉化粉末の形態であり得る。リチウム金属粉末は、通常、約80ミクロン未満、しばしば約40ミクロン未満、時には約10ミクロン未満(例えば、約5ミクロン)の平均粒径を有する。リチウム金属粉末は、FMC Lithium Corpから入手可能な低自燃性安定化リチウム金属粉末(SLMP(登録商標))であってよい。リチウム金属粉末は(例えば米国特許第5,567,474号、第5,776,369号及び第5,976,403号に開示されているように)、フッ素、ワックス、リン又はポリマー又はその組み合わせの実質的に連続した層又はコーティングも含み得る。リチウム金属粉末は、水分や空気との反応が大幅に低下している。
【0042】
リチウム金属粉末は、金属と合金化してもよい。例えば、リチウム金属粉末は、第I~VIII族元素と合金化してもよい。第IB族の好適な元素としては、例えば、銀又は金が挙げられ得る。第IIB族の好適な元素としては、例えば、亜鉛、カドミウム、又は水銀が挙げられ得る。周期表の第IIA族の好適な元素としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムが挙げられ得る。本発明で使用され得る第IIIA族の元素としては、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム又はタリウムが挙げられ得る。本発明で使用され得る第IVA族の元素としては、例えば、炭素、シリコン、ゲルマニウム、スズ又は鉛が挙げられ得る。本発明で使用され得る第VA族の元素としては、例えば、窒素、リン又はビスマスが挙げられ得る。第VIIIB族の好適な元素としては、例えば、パラジウム又は白金が挙げられ得る。
【0043】
ポリマーバインダは、リチウム金属粉末と相溶性となるように選択される。「と相溶性である」又は「相溶性」は、ポリマーバインダがリチウム金属粉末と、安全上の問題を生じる激しい反応をしないことを伝えるものである。リチウム金属粉末とポリマーバインダは反応してリチウム-ポリマー複合体を形成するが、そのような複合体は様々な温度において安定性であるべきである。リチウム及びポリマーバインダの量(濃度)は、安定性と反応性に寄与することが認識されている。ポリマーバインダは、約1,000~約8,000,000の分子量を有し得て、2,000,000~5,000,000の分子量を有することが多い。好適なポリマーバインダとしては、ポリ(エチレンオキシド)、ポリスチレン、ポリイソブチレン、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリラートゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、ポリアクリル酸、ポリビニリデンクロリド、ポリビニルアセタート、エチレンプロピレンジエンターモノマー、エチレンビニルアセタートコポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-プロピレンターポリマー、ポリブテンの1つ以上が挙げられ得る。バインダはワックスであってもよい。
【0044】
レオロジー調整剤は、リチウム金属粉末及びポリマーバインダと相溶性であり、組成物中に分散性であるように選択される。プリンタブルリチウム組成物の好ましい実施形態は、カーボンナノチューブなどの炭素系レオロジー調整剤を含む。カーボンナノチューブの使用はまた、プリンタブルリチウム組成物でコーティングしたときにリチウムアノードのための三次元支持構造及び導電性ネットワークを提供し、その表面積を増加させ得る。別の支持構造は、寄生反応を防止し、改善されたサイクル挙動をもたらす安定したホストとして中空炭素球を使用する、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、Cuiら[Science Advances,Vol.4,no.7,page 5168,DOI:10.1126/sciadv.aat 5168]によって記載されているようなものであってもよい。さらに別の支持構造は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第10,090,512号に記載されているようなナノワイヤであってもよい。他の相溶性炭素系レオロジー調整剤としては、カーボンブラック、グラフェン、黒鉛、ハードカーボン及びその混合物又はブレンドが挙げられる。
【0045】
追加のレオロジー調整剤を組成物に添加して、剪断条件下での粘度及び流動などの特性を調整してもよい。レオロジー調整剤は、レオロジー調整剤の選択に応じて、導電性、改善された容量及び/又は改善された安定性/安全性も与え得る。この目的のために、レオロジー調整剤は、異なる特性を与えるように、又は追加の特性を与えるように、2つ以上の化合物の組み合わせであってよい。レオロジー調整剤の例としては、シリコンナノチューブ、ヒュームドシリカ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム及び他の第IIA、IIIA、IVB、VB及びVIA族の元素/化合物並びにその混合物又はブレンドの1つ以上が挙げられ得る。リチウムイオン伝導性の向上を目的とする他の添加剤、例えばリチウムペルクロラート(LiClO4)、リチウムヘキサフルオロホスファート(LiPF6)、リチウムジフルオロ(オキサラート)ボラート(LiDFOB)、リチウムテトラフルオロボラート(LiBF4)、リチウムニトラート(LiNO3)、リチウムビス(オキサラート)ボラート(LiBOB)、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)などの電気化学デバイス電解質塩を使用することができる。
【0046】
別の実施形態において、参照によりその開示全体が組み入れられている米国特許第7,588,623号に記載されているように、ポリマーバインダ、レオロジー調整剤、コーティング試薬及びリチウム金属粉末のための他の考えられる添加剤の混合物が形成及び導入されて、リチウム融点を超える温度での又はリチウム分散物の冷却後のより低い温度での分散中に、リチウム液滴と接触し得る。このように修飾されたリチウム金属は、乾燥粉末形態で又は選択した溶媒中の溶液形態で導入され得る。各種のプロセスパラメータの組み合わせを使用して、特定の用途のための特異的なコーティング及びリチウム粉末特性が達成可能であることが理解される。
【0047】
リチウムと相溶性である溶媒としては、非環式炭化水素、環式炭化水素、芳香族炭化水素、対称エーテル、非対称エーテル、環式エーテル、アルカン、スルホン、鉱油及びその混合物、ブレンド又は共溶媒が挙げられ得る。好適な非環式及び環式炭化水素の例としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサンなどが挙げられる。好適な芳香族炭化水素の例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、イソプロピルベンゼン(クメン)などが挙げられる。好適な対称、非対称及び環状エーテルの例として、ジ-n-ブチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、グリムなどが挙げられる。シェルゾール(Shell Sol)(登録商標)(Shell Chemicals)やアイソパー(Isopar)(登録商標)(Exxon)など、沸点範囲が調整された市販のイソパラフィン系合成炭化水素溶媒も好適である。
【0048】
ポリマーバインダ及び溶媒は、相互に及びリチウム金属粉末と相溶性であるように選択される。一般に、バインダ又は溶媒は、リチウム金属粉末と非反応性であるべきか、又はいずれの反応も最小限に維持され、激しい反応が回避されるような量とすべきである。バインダ及び溶媒は、プリンタブルリチウム組成物が生成され、使用される温度で相互と相溶性であるべきである。好ましくは、溶媒(又は共溶媒)は、(例えばスラリー形態の)プリンタブルリチウム組成物からただちに蒸発して、適用後にプリンタブルリチウム組成物(スラリー)を乾燥させるのに十分な揮発性を有する。
【0049】
プリンタブルリチウム組成物の構成要素は、スラリー又はペーストとして共に混合され得て、固体を高濃度とする。したがって、スラリー/ペーストは、堆積又は適用の時間の前に必ずしも全ての溶媒が添加されるわけではない、濃縮物の形態であってよい。一実施形態において、リチウム金属粉末は、適用又は堆積時に、実質的に均一な分布のリチウム金属粉末が堆積又は適用されるように、溶媒中に均一に懸濁されるべきである。乾燥リチウム粉末は、強い剪断力を加えるために激しく撹拌(agitating)又は撹拌(stirring)することなどによって分散され得る。
【0050】
従来のプレリチウム化表面処理では、バインダ含有量が非常に低く、リチウムが非常に高い組成物が必要であり、例えば参照によりその開示全体が組み入れられている米国特許第9,649,688号を参照されたい。しかし、本発明によるプリンタブルリチウム組成物の実施形態は、プリンタブルリチウム組成物を使用する利点として、乾燥基準で最大20パーセントを含む、より高いバインダ比に適応することができる。従来のリチウム組成物は、得られた組成物が塗布装置の細孔を塞ぎ、組成物の塗布時に抵抗を生じたため、より高いバインダ比に適応することができなかった。例えば、以下に詳述するように、プリンタブルリチウム組成物が、米国特許出願第16/359,725号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み入れられているような一連の線としてプリントされる場合、電解質はなお電極に浸透することができる。粘度や流動などのプリンタブルリチウム組成物の様々な特性は、リチウムの電気化学的活性を失うことなく、バインダと調整剤の含有量を乾燥基準で最大50%まで増大させることによって修飾され得る。バインダ含有量によって、プリンタブルリチウム組成物の添加量とプリント中の流動が容易になる。プリンタブルリチウム組成物は、乾燥重量基準で約50重量%~約98重量%のリチウム金属粉末と、約2重量%~約50重量%のポリマーバインダ及びレオロジー調整剤とを含み得る。一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、約60重量%~約90重量%のリチウム金属粉末と、約10重量%~約40重量%のポリマーバインダ及びレオロジー調整剤とを含む。別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、約75重量%~約85重量%のリチウム金属粉末と、約15重量%~約30重量%のポリマーバインダ及びレオロジー調整剤とを含む。
【0051】
プリンタブルリチウム組成物の重要な態様は、懸濁液のレオロジー安定性である。リチウム金属は0.534g/ccの低密度であるため、溶媒懸濁液からのリチウム粉末の分離を防止することは困難である。リチウム金属粉末の添加量、ポリマーバインダ及び従来の調整剤の種類及び量を選択することにより、粘度及びレオロジーを調節して、本発明の安定な懸濁液が生成され得る。好ましい実施形態は、90日を超えると分離を示さない。これは、1×104cps~1×107cpsの範囲のゼロ剪断粘度を有する組成物を設計することによって達成され得て、このようなゼロ剪断粘度は、特に貯蔵中にリチウムを懸濁状態に維持する。剪断が適用されると、懸濁液粘度は、プリント又はコーティング用途での使用に好適なレベルまで低下する。
【0052】
得られたプリンタブルリチウム組成物は、好ましくは10s-1剪断にて約20~約20,000cpsの粘度、時に約100~2,000cpsの粘度、しばしば約700~約1,100cpsの粘度を有し得る。そのような粘度において、プリンタブルリチウム組成物は流動性懸濁液又はペーストである。プリンタブルリチウム組成物は、好ましくは室温にて長い貯蔵寿命を有し、60℃まで、しばしば120℃まで、場合により180℃までの温度にて金属リチウム損失に対して安定である。プリンタブルリチウム組成物は、時間の経過につれて多少分離し得るが、穏やかな撹拌及び/又は熱の適用により、懸濁液に戻すことができる。
【0053】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、溶液基準で約5~50パーセントのリチウム金属粉末、約0.1~20パーセントのポリマーバインダ、約0.1~30パーセントのレオロジー調整剤及び約50~95パーセントの溶媒を含む。一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、溶液基準で約15~25パーセントのリチウム金属粉末、約0.3~0.6パーセントの分子量4,700,000のポリマーバインダ、約0.5~0.9パーセントのレオロジー調整剤及び約75~85パーセントの溶媒を含む。典型的には、プリンタブルリチウム組成物は、プレス前に約10ミクロン~200ミクロンの厚さに適用又は堆積される。プレス後、積層厚を約1~50ミクロンに低減することができる。プレス技術の例は、例えば参照によりその全体が本明細書に組み入れられている米国特許第3,721,113号及び第6,232,014号に記載されている。
【0054】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、集電体上のアノード活物質に堆積又は適用され、即ちプレリチウム化アノードを形成する。好適なアノード活物質としては、黒鉛及び他の炭素系材料、合金、例えばスズ/コバルト、スズ/コバルト/炭素、シリコン-炭素、様々なシリコーン/スズ系複合化合物、ゲルマニウム系複合材料、チタン系複合材料、元素シリコン及びゲルマニウムが挙げられる。アノード材料は、箔、メッシュ又は発泡体であり得る。適用は、噴霧、押出、コーティング、プリント、塗装、浸漬及び噴霧によるものであり得て、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、同時係属米国特許出願公開第16/359,725号に記載されている。プリンタブルリチウム組成物から形成された箔又はフィルムなどのモノリシック層を有する高シリコンアノードを有する実施形態は、10ミクロン未満の積層厚を有し得る。逆に、プリンタブルリチウム組成物での高シリコンアノードへのストライピング(striping)には、10ミクロンを超える積層厚を必要とし得る。
【0055】
プリンタブルリチウム組成物を使用してプレリチウム化されたアノードは、様々な種類の電池に組み込まれ得る。例えば、プレリチウム化アノードは、その全体が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第7,851,083号、第8,088,509号、第8,133,612号、第8,276,695号及び第9,941,505号に開示されているように、電池に組み込まれ得る。アノード材料上へのプリンタブルリチウム組成物のプリントは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第7,906,233号に開示されているように、リチウムのスミアリング(smearing)の代替法であり得る。
【0056】
一実施形態において、アノード活物質及びプリンタブルリチウム組成物が共に提供され、集電体上に押出される。集電体の例としては、未コーティング箔又は導電性カーボンコーティングした箔、即ち銅及びニッケル、銅及びニッケルの発泡体又はメッシュ、チタン箔、発泡体又はメッシュ、ステンレス鋼箔又はメッシュ、及び導電性ポリマーフィルムが挙げられる。例えばアノード活物質及びプリンタブルリチウム組成物は、共に混合及び共押出され得る。アノード活物質の例としては、黒鉛、黒鉛-SiO、黒鉛-酸化スズ、-酸化シリコン、ハードカーボン及び他のリチウムイオン電池並びにリチウムイオンコンデンサアノード材料が挙げられる。別の実施形態において、アノード活物質及びプリンタブルリチウム組成物は、共押出しされて、集電体上にプリンタブル複合リチウム組成物の層を形成する。別の実施形態において、アノード活物質及びプリンタブルリチウム組成物は、共押出しされて、固体電池の固体電解質上に直接層を形成する。
【0057】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、基板をローラーでコーティングすることによって、基板又は事前形成されたアノードに塗布され得る。一例は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第4,948,635号に記載されているものなどの、グラビアコーティング装置である。この例では、一対の離間したローラーが、グラビアローラーに向かって前進しながら、基板を支持する。ノズル又は浴を利用してコーティング材料をグラビアローラーに塗布し、この間にドクターブレードを利用してグラビアローラーから余分なコーティングを除去する。グラビアローラーが基板と接触すると、基板がグラビアローラーを通過して、プリンタブルリチウム組成物が塗布される。グラビアローラーは、基板の表面に様々なパターン、例えばライン又はドットをプリントするように設計することができる。
【0058】
別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、プリンタブルリチウム組成物を押出機から基板上に押し出すことによって基板に塗布され得る。押出機の一例は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第5,318,600号に記載されている。そのような実施形態において、高圧によって、プリンタブルリチウム組成物が押出ノズルを通過させられて、基板の露出表面積をコーティングする。
【0059】
別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物を基板上にプリントすることによって、プリンタブルリチウム組成物が基板に塗布され得る。スロットダイプリントヘッドを使用して、プリンタブルリチウム組成物のモノリシック、ストライプ又は他のパターンが基板上にプリントされ得る。スロットダイプリントヘッドを利用する互換性プリンタの一例は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第5,494,518号明細書に記載されている。
【0060】
別の実施形態において、従来の炭素アノードは、プリンタブルリチウム組成物を炭素アノード上に堆積させることによってプレリチウム化され得る。これにより、リチウムが炭素にインターカレートされるセルの初期充電時に、多少のリチウム及びセル電解質が消費されて初期容量損失をもたらすことに起因して、多少の不可逆性が起こる、炭素アノードに関連する問題が回避される。
【0061】
一実施形態において、参照により全体が本明細書に組み入れられている米国特許第9,837,659号に記載されているように、プリンタブルリチウム組成物を使用してアノードがプレリチウム化され得る。例えば、この方法は、事前製造/事前形成されたアノードの表面に隣接してプリンタブルリチウム組成物の層、例えばコーティング又はフィルムを配置することを含む。事前製造された電極は、電気活性材料を含む。ある変更形態において、プリンタブルリチウム組成物は、堆積プロセスを介して担体/基板に適用され得る。プリンタブルリチウム組成物の層が配置され得る担体基板は、非限定的な例として、ポリマー膜(例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリポリテトラフルオロエチレン)、セラミック膜、銅箔、ニッケル箔又は金属発泡体並びに他の2D及び3D構造からなる群から選択され得る。次に、基板又は事前製造されたアノード上のプリンタブルリチウム組成物層に熱を加えてよい。基板上のプリンタブルリチウム組成物層又は事前製造されたアノードは、加圧下でさらに共に圧縮又は積層され得る。加熱及び任意の加圧により、リチウムが基板又はアノードの表面に移行しやすくなる。事前製造されたアノードに移行する際に、特に事前製造されたアノードが黒鉛を含む場合、圧力及び熱は、機械的リチウム化を生じる可能性がある。このようにして、リチウムは電極に移行して、好ましい熱力学のために活物質中に包含される。
【0062】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2018/0269471号に記載されているように、アノード内に組み込まれ得る。例えば、アノードは、活性アノード組成物及びプリンタブルリチウム組成物、並びに存在する場合は、任意の導電性粉末を含むことができる。追加又は代替の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、電極の表面に沿って配置される。例えば、アノードは、活性アノード組成物を有する活性層及び活性層の表面上のプリンタブルリチウム組成物層を含むことができる。代替の構成では、プリンタブルリチウム組成物は、活性層と集電体との間に添加され得る。また、いくつかの実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、活性層の両面に添加されて得る。
【0063】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2018/0013126号に記載されているように、三次元電極構造に包含され得る。例えば、プリンタブルリチウム組成物は、三次元多孔性アノード、多孔性集電体又は多孔性ポリマー又はセラミック膜に包含され得て、プリンタブルリチウム組成物はその中に堆積され得る。
【0064】
いくつかの実施形態において、プリンタブルリチウム組成物でプレリチウム化された電極をセル内に組み付けることができる。各電極の間にセパレータを配置することができる。例えば、本発明のプリンタブルリチウム組成物でプレリチウム化されたアノードは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている米国特許第6,706,447号に記載されているような、二次電池に形成され得る。別の実施形態において、プレリチウム化電極は、その全体が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第16/359,733号及び(本出願と同時に提出された代理人案件No.073396.1264)に記載されているように、固体電池用のセパレータ上にプリントされ得る。
【0065】
カソードは、炭素質材料及びバインダポリマーと典型的に併用される活物質で形成される。カソードに使用される活物質は、好ましくはリチウム化できる材料である。好ましくは、非リチウム化材料、例えばMnO2、V2O5、MoS2、金属フッ化物又はその混合物、硫黄及び硫黄複合材料を活物質として使用することができる。しかし、さらなるリチウム化が可能である、LiMn2O4及び、MがNi、Co又はMnであるLiMO2などのリチウム化材料も使用することができる。非リチウム化活物質が好ましいのは、一般に、リチウム化活物質を含む従来の二次電池と比べて、比容量がより高く、コストがより低く、エネルギーと電力の上昇を与えることができるこの構成において、カソード材料がより広く選択されるためである。
【0066】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2017/0301485号に記載されているように、リチウムイオンコンデンサのアノードなどの、コンデンサをプレリチウム化するために使用され得る。例えば、アノードは、ハードカーボン、ソフトカーボン又は黒鉛を使用して構成することができる。次いで、プリンタブルリチウム組成物層をアノードの上面にコーティングする前又はその間に、アノードが集電体に取り付けられ得る。プリンタブルリチウム組成物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第9,711,297号に記載されているように、リチウムイオンコンデンサなどのエネルギー貯蔵装置をプレリチウム化するためにも使用され得る。
【0067】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている米国特許出願公開第2018/0241079号に記載されているように、ハイブリッド電池/コンデンサのプレリチウム化に使用され得る。「ハイブリッド電極」という用語は、電池電極材料及びコンデンサ電極材料の両方を含む電極を示す。一実施形態において、ハイブリッドカソードは、電池カソード材料などの高エネルギー材料と、コンデンサカソード材料などの高出力材料との混合物を含み得る。例えば、リチウムイオン電池カソード材料は、ウルトラコンデンサ又はスーパーコンデンサのカソード材料と組み合わされ得る。ハイブリッドリチウムイオンセルアセンブリを完成させるために、ハイブリッドカソードは、電極間にポリオレフィンセパレータを有するアノード電極に対して配置され得て、エネルギー貯蔵装置容器、例えばハウジングなどの密閉パッケージ内に配置される。電極スタックは好適な電解質が満たされて、好適な電解質に接触していて、電解質は、例えばリチウムイオン電解質塩を含有し、任意に電解質添加剤を含む溶媒である。エネルギー貯蔵装置パッケージは、封止可能である。
【0068】
ハイブリッド化カソードと組み合わせて使用されるアノードは、元素リチウムなどの元素金属を含むことができる。プレリチウム化の方法は、プリンタブルリチウム組成物を電極配合物に直接添加することである。例えば、Mcnallyら.[Journal of Plastic Film and Sheeting,Vol 21,No.1,pages 55-68(2005),DOI:10.1177/8756087905052805]によって記載され、その全体が参照により本明細書に組み入れられているように、プリンタブルリチウム組成物及び電極配合物は、混合及び押し出しされ得る。次いで、電極配合物中に均一に組み込まれた、このプリンタブルリチウム組成物を使用して、乾式プロセスで電極膜を形成することができ、次いで電極膜を金属箔などの集電体上に積層して、アノードなどの電極を形成することができる。プリンタブルリチウム組成物は、乾燥電極と積層する前に集電体に塗布することもできる。他の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物及び電極配合物ミックスは、レーザ堆積、噴霧乾燥、熱間圧延プロセスを含む他の乾式電極塗布プロセスを使用して集電体に塗布され得て、プロセスの例は、どちらも参照によりその全体が組み込まれている、米国特許出願公開第2017/0098818号及びLudwigら[Scientific Reports,Vol.6,no.23150(2016);DOI:10.1038/srep23150]に記載されている。本明細書の実施形態によって、均質な、いくつかの実施形態においては、乾燥及び/又は粒子状の材料を、アノード及びハイブリッド化カソードの原料として使用できるようになる。
【0069】
本明細書のいくつかの実施形態では、各電極上の2つの別個の層(「電池材料」層及び「コンデンサ材料」層など)の必要性を回避することができ、これにより製造上の複雑さ及び製造コストの追加を導入する必要性を回避することができる。さらなる実施形態において、プレドープ電極はハイブリッドカソードである。リチウムを有するエネルギー貯蔵装置に関して本明細書に記載した元素金属及び関連概念は、他のエネルギー貯蔵装置及び他の金属で実施され得ることが理解されよう。
【0070】
一実施形態において、プリンタブルリチウム配合物は、箔又はメッシュ基板上に堆積させることができる。積層後、両面リチウム薄箔基板は、単一ステップのコーティングプロセスから得てもよい。
【0071】
別の実施形態において、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、同時係属米国特許出願第(本出願と同時に提出された代理人案件No.073396.1274)号に記載されているように、プリンタブルリチウム組成物を塗布又は堆積して、固体電池のアノード又はカソードをプレリチウム化してよい。例えば、プリンタブルリチウム組成物は、米国特許第8,252,438号及び第9,893,379号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている固体電池を含む固体電池で使用するための、モノリシックリチウム金属アノードの形成に使用され得る。
【0072】
別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物は、固体電池で使用するための固体電解質を形成し得る、又は固体電池で使用するための固体電解質と併せて使用され得る。例えば、プリンタブルリチウム組成物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている、米国特許第7,914,930号に記載されているように、様々な固体電解質に堆積され得る。固体二次電池の一例は、リチウムを電気化学的に吸蔵及び放出することができる正極、リチウムを電気化学的に吸蔵及び放出することができる負極であって、活物質を含む活物質層を含み、活物質層が集電体上に担持されている、負極並びに非水性電解質を含み得る。方法は、プリンタブルリチウム組成物を負極の活物質層の表面に接触させることによって、リチウムを負極の活物質と反応させるステップと、その後、負極を正極と合わせて電極アセンブリを形成するステップとを含む。
【0073】
プリンタブルリチウム手法の1つの利点は、固体電解質へのコーティング時に、リチウムと固体電解質との間の密接な接触を維持できることである。この手法は、サイクル中のリチウムの体積増加のために生じるリチウムと電解質との間の接触喪失によって引き起こされる、インピーダンス増加を減少させる。出願人らは、
図7のプリンタブルリチウム箔によってより小さい体積膨張を示した。
【0074】
プリンタブルリチウム組成物のある実施形態は、電極活物質を含み得る。プリンタブルリチウム組成物に添加され得る電極活物質の例としては、黒鉛及び他の炭素系材料、合金、例えばスズ/コバルト、スズ/コバルト/炭素、シリコン-炭素、様々なシリコン/スズ系複合化合物、ゲルマニウム系複合材料、硫黄系複合材料、チタン系複合材料、並びに元素シリコン、硫黄及びゲルマニウムが挙げられる。電極活物質は、プリンタブルリチウム組成物を有するプレリチウム化電極組成物の形成に適した三次元構造添加剤であり得る。例えば、元素S及びS/C複合材料は、Li/S電池のカソード材料として使用される。プリンタブルリチウム組成物をこのような電極に添加又はプリントしてプレリチウム化して、安定性を改善してもよい。プレリチウム化アノードを電極活物質から形成して、TiS2、MoS2、V2O5、MeFx又はMnO2カソード材料などの非リチウム供給カソードを有するセルを組み立ててよい。
【0075】
また別の実施形態において、プリンタブルリチウム組成物から形成された箔又はフィルムは、市販のリチウム箔及びフィルムと比べて厚さが薄くなり得るが、同時に、比較して性能を保持又は向上され得る。一実施形態において、プリンタブルリチウムフィルム又は箔の積層厚は、約50%~98%のリチウム金属を含有して、約1ミクロン~約50ミクロンであってもよい。例えば、プリンタブルリチウムフィルム又は箔の積層厚は、約10ミクロン~約20ミクロンであってよい。
【0076】
一実施形態において、プリンタブルリチウム組成物から形成された箔又はフィルムは、電池で使用するための基板に適用され得る。例えば電池は、カソード、電解質及びプリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板を有するアノードを含み得る。電解質は、通常の電解質又は高濃度電解質のどちらでもよい。電解質は、約1M以上の、しばしば約3M以上の、時には5Mを超える濃度を有し得る。好適な電解質の例としては、リチウムペルクロラート(LiClO4)、リチウムヘキサフルオロホスファート(LiPF6)、リチウムジフルオロ(オキサラート)ボラート(LiDFOB)、リチウムテトラフルオロボラート(LiBF4)、リチウムニトラート(LiNO3)、リチウムビス(オキサラート)ボラート(LiBOB)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)及びリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)並びにその混合物又はブレンドが挙げられる。例示的な一例は、カソード並びにプリンタブルリチウム組成物及び高濃度電解質でコーティングした基板を有するアノードを有する電池であり、LiFSIは高濃度電解質の主要な塩である。別の例は、どちらも参照により本明細書に組み入れられている、Weberら[Nature Energy,Vol.4,pgs.683-689(2019),DOI:10.1038/s41560-019-0428-9]及び米国特許出願公開第2019/0036171号に記載されているように、カソード並びにプリンタブルリチウム組成物及び二塩液体電解質でコーティングされた基板を有するアノードを有する電池である。二塩液体電解質は、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB)及びLiBF4から構成されてもよく、約1Mの濃度を有してもよい。二塩電解質は、初期容量維持率の向上及びサイクル性能の向上をもたらし得る。
【実施例】
【0077】
以下の例は、本発明の単なる例示であり、本発明を限定するものではない。
【0078】
例
例1
スチレンブタジエンゴム液(S-SBR Europrene Sol R 72613)10gを、21℃にて12時間撹拌することにより、トルエン90g(99%無水、Sigma Aldrich)に溶解させる。10重量%スチレンブタジエンゴム(ポリマーバインダ)トルエン(溶媒)溶液6gをカーボンブラック(Timcal Super P)(レオロジー調整剤)0.1g及びトルエン16gと合わせて、Thinky ARE 250遊星ミキサにて2000rpmで6分間分散させる。20~200nmのポリマーコーティング及び20μmのd50を有する安定化リチウム金属粉末(SLMP(登録商標)、FMC Lithium Corp.)9.3gをこの懸濁液に添加して、Thinkyミキサにて1000rpmで3分間分散させる。次いで、プリンタブルリチウム懸濁液を180μm開口ステンレス鋼メッシュで濾過する。次に、プリンタブルリチウム懸濁液を、湿潤厚さ2ミル(約50μm)及び積層前の乾燥厚さ約25μmで銅集電体上にドクターブレードでコーティングする。
図4は、アノードとしてのプリンタブルリチウムに由来するリチウム薄膜対市販のリチウム薄箔を有するパウチセルのサイクル性能を示すプロットである。
【0079】
例2
分子量135,000のエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)(Dow Nordel IP 4725P)10gをp-キシレン(無水99%、Sigma Aldrich)90gに21℃にて12時間撹拌して溶解させる。10重量%EPDM(ポリマーバインダ)p-キシレン(溶媒)溶液6gをTiO2(Evonik Industries)(レオロジー調整剤)0.1g及びトルエン16gと合わせて、Thinky ARE 250遊星ミキサにて2000rpmで6分間分散させる。20~200nmのポリマーコーティング及び20μmのd50を有する安定化リチウム金属粉末(SLMP(登録商標)、FMC Lithium Corp.)9.3gをこの懸濁液に添加して、Thinkyミキサにて1000rpmで3分間分散させる。次いで、プリンタブルリチウムを180μm開口ステンレス鋼メッシュで濾過する。次に、プリンタブルリチウム組成物を、湿潤厚さ2ミル(約50μm)及び積層前の乾燥厚さ約25μmで銅集電体上にドクターブレードでコーティングする。
【0080】
例3-カーボンナノチューブを有するプリントされた箔
分子量1.27Mのポリイソブチレン(PIB)1.5gを、21℃で12時間撹拌することによって、トルエンに溶解させる。20~200nmのポリマーコーティング及び20μmのd50を有する安定化リチウム金属粉末(SLMP(登録商標)、FMC Lithium Corp.)30gをこの懸濁液に添加して、Thinkyミキサにて1000rpmで3分間分散させる。次いで、プリンタブルリチウム懸濁液を180μm開口ステンレス鋼メッシュで濾過する。次に、プリンタブルリチウム組成物を、湿潤厚さ2ミル(約50μm)及び積層前の乾燥厚さ約25μmで銅集電体上にドクターブレードでコーティングする。
【0081】
例4-カーボンブラックを有するプリントされた箔
分子量1.27MのPIB 1.5gを、21℃で12時間撹拌することによって、トルエン85gに溶解させる。次いで、カーボンブラック1.5gを溶液に添加し、約1時間連続撹拌して均一な懸濁液を形成した。20~200nmのポリマーコーティング及び20μmのd50を有する安定化リチウム金属粉末(SLMP(登録商標)、FMC Lithium Corp.)30gをこの懸濁液に添加して、Thinkyミキサにて1000rpmで3分間分散させる。次いで、プリンタブルリチウム懸濁液を180μm開口ステンレス鋼メッシュで濾過する。次に、プリンタブルリチウム組成物を、湿潤厚さ2ミル(約50μm)及び積層前の乾燥厚さ約25μmで銅集電体上にドクターブレードでコーティングする。
【0082】
貯蔵寿命安定性
プリンタブルリチウム構成要素は、室温における長期貯蔵寿命の化学的安定性と、輸送中や乾燥プロセス中などのより短い期間の高温における安定性が確保されるように選択する必要がある。プリンタブルリチウム組成物の安定性は、熱量測定を使用して試験した。SLMP 1.5gを10ml容積のハステロイARCボンベサンプル容器に添加した。4%スチレンブタジエンゴム(SBR)バインダ溶液2.4gを容器に添加した。容器には24Ω抵抗ヒータと熱電を装着して、サンプルの温度を監視及び制御した。ボンベサンプル装置は、断熱材とともに350ml格納容器に装填した。Fauske IndustriesのAdvance Reactive Screening Systems Tool熱量計を使用して、190℃までの定速温度傾斜の間にプリンタブルリチウム溶液の相溶性を評価した。温度傾斜速度は2℃/分であり、サンプル温度を190℃にて60分間保持した。試験は、溶媒の沸騰を防ぐために200psiアルゴン圧下で行った。
図1は、SLMP/スチレンブタジエン/トルエンのプリンタブルリチウム組成物の反応性試験の温度及び圧力プロファイルを示す。
【0083】
プリント性能
プリント適性に関するプリンタブルリチウム組成物の品質は、複数の因子、例えば基板又は電極表面へのリチウム添加量を制御する組成物の能力に直接影響する、流量コンシステンシーによって測定される。流量を測定する有効な方法は、添加量を制御する因子、即ち押出中の圧力及びプリンタヘッドの速度に関連する、平方センチメートル当たりの添加量の表示である、流量コンダクタンスである。流量コンダクタンスは、最も単純には流量の抵抗の逆数と考えることができる。
【0084】
この表示を使用すると、可変圧力と速度のプリント間での比較が可能となり、流量コンダクタンスの変化により、流量と圧力の非線形関係について注意喚起することができる。これらはアノード又はカソードの必要性に応じて、プリンタブルリチウムの添加量を増減するために重要である。理想的なプリンタブルリチウム組成物は、押出圧の変化に対して直線的に挙動する。
【0085】
プリント適性を試験するには、プリンタブルリチウム組成物を180μm開口ステンレス鋼メッシュで濾過して、Nordson EFD 10mlシリンジに添加する。シリンジをNordson EFD HP4xシリンジディスペンサに装着して、スロットダイプリントヘッドに取り付ける。スロットダイプリントヘッドには、所望のプリンタブルリチウム組成物の添加量を送達するように設計されたチャネル開口部を有する100μm~300μm厚のシムが装備されている。スロットダイヘッドはLoctite 300シリーズロボットに搭載される。プリントヘッド速度は200mm/sに設定され、プリント圧力はシム及びチャネルの設計に応じて、20~200psiのアルゴンである。プリント長は14cmである。プリント試行実験の例において、プリンタブルリチウム組成物は、80psi~200psiの範囲のディスペンサ設定で単一のシリンジから30回プリントされた。このプリント試行実験では、流量コンダクタンスの平均は0.14
【数1】
で、標準偏差は0.02であった。このプリンタブル組成物は完全に線形に挙動するわけではないが、ディスペンサ圧の変化に対応する組成物流量応答は予測可能であり、当業者はリチウム添加量を所望のレベルに微調整できるようになる。したがって、固定ディスペンサ圧条件にて、リチウム添加量を高度な一貫性で制御できる。例えば、0.275
【数2】
のリチウム金属のプリントでは、CVは約5%である。
【0086】
電気化学試験
プリンタブルリチウム組成物のサイクル性能を、Li[Ni0.8Mn0.1Co0.1]O2(NMC811)/Liパウチ型電池で評価する。正極は、Li-Fun Technology(湖南省、中国、412000)から購入したが、96.4% NMC 811、1.6%カーボンブラック導電性希釈剤及び2%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダで構成されていた。添加量は15mg/cm2である。組み付け前に、カソードを真空下120℃にて12時間乾燥させて残留水を除去した。アノードは、プリンタブルリチウム懸濁液をCu集電体にプリントすることによって作製した。プリントしたリチウム電極を110℃にて2分間乾燥させた後、電極の厚さの約75%のローラーギャップでラミネートする。7cm×7cm電極をプリンタブルリチウム処理アノードシートから打抜く。単層パウチセルが組み付けられ、3M LiFSI/FEC:EMC(1:4)が電解質として使用される。セルは30℃にて12時間事前調整され、次いで形成サイクルが30℃にて行われる。形成プロトコルは、4.3Vまでの0.1C定電流定電圧(CCCV)充電、0.01Cまでの定電圧及び2.8Vまでの0.1C放電であり、次いで3回反復する。説明した試験では、89%の第1サイクルCEが実証された。形成後、セルを30℃にて3V~4.3Vの間で0.2C充電及び1C放電によりサイクルさせた。電気化学的キャラクタリゼーション用の電極は、乾燥室(21℃にてRH<1%)にて作製した。
【0087】
形成後及びサイクル試験後に、セルに対して電気化学インピーダンス分光法(EIS)測定を行った。3.80Vまでセルを充電又は放電してから、セルを25℃に移動させた。Gamryポテンショスタットを使用して、100kHzから10mHzまで10点/ディケード、信号振幅10mVで交流(AC)インピーダンススペクトルを収集した。
【0088】
Li金属めっき/剥離試験を、Li金属を作用電極及び対極として使用してLi|Li対称パウチセルにて行った。試験は25℃にて-0.5V~0.5Vの間で行った。各サイクルの間、0.5mA/cm2のLi金属を対極基板上に堆積させ、次いで電位がLi/Liに対して0.5Vに達するまで剥離した。
【0089】
パウチセルを乾燥室中で解体し、Li金属アノード電極を回収した。これらの電極を最初にDME溶媒で3回すすいで残留電解質を除去し、次いで真空チャンバ内で室温にて12時間乾燥させた。表面及び断面の両方のLi電極のSEM画像を、JOEL SEMを用いて10kVの加速電圧にて得た。Li金属の断面は、Liサンプルをカミソリ刃で垂直に切断して作製した。
【0090】
図2Aは、プリンタブルリチウム組成物から形成された10cm×10cmの箔を示す。積層のある箔と積層のない箔の形態を比較する、倍率200倍の顕微鏡画像をそれぞれ
図2B及び
図2Cに示す。
【0091】
図3は、走査型電子顕微鏡によって得た約20ミクロンの積層厚を有する、プリントされたリチウム箔の画像及びエネルギー分散型X線顕微鏡によって得たスペクトルである。
【0092】
図4は、NMC 811/Liパウチセル中のアノード材料としての、プリンタブルリチウム箔(20ミクロン)と市販の箔(50ミクロン)とのサイクル性の比較を示す。サイクルは、30℃にて3V~4.3Vの間で0.2C充電及び1C放電にて行った。
図4は、20ミクロンのプリンタブルリチウム箔が、50ミクロンの市販の箔と比較して同様のサイクル性能を有することを示している。
【0093】
図5は、100サイクル後の、プリンタブルリチウム箔(20ミクロン)及び市販の箔(50ミクロン)を有するNMC 811/Liパウチセルの交流(AC)インピーダンススペクトルを比較した、ナイキストプロットを示す。
図5は、プリンタブルリチウム箔(20ミクロン)を有するセルが、市販の箔(50ミクロン)を有するセルと比較して、100サイクル後にはるかに低いインピーダンスを有することを示している。
【0094】
図6A~
図6Dは、リチウム金属アノードの100サイクル後の2つの基板の比較である。
図6A及び
図6Bは、市販の箔が100サイクル後に顕著な劣化を受けている一方で、プリントされた箔は、
図6C及び
図6Dに示すように劣化が少ないことを示す。
【0095】
図7は、市販のリチウム箔を積層した基板とプリンタブルリチウム箔との間の厚さの差を示す、倍率200倍の顕微鏡画像であり、市販の箔はプリンタブルリチウム箔よりも実質的に厚い。表1は、市販及びプリンタブルリチウム箔の100サイクル前後の厚さの比較を提供する。市販のリチウム箔とは異なり、プリントされた箔と比較して市販の箔の厚さが厚いことによって示されるように、100サイクル後に、プリンタブルリチウム箔上のデンドライト形成のリスクが低く、機械的劣化が少ない。
【表1】
【0096】
図7は、レオロジー調整剤としてカーボンナノチューブを含むプリントされたリチウム箔と、カーボンナノチューブを添加しないプリントされたリチウム箔との性能比較である。プリンタブルリチウム組成物にカーボンナノチューブを添加すると、カーボンナノチューブを含まないプリントされたリチウム箔と比較して、プリントされたリチウム箔の容量維持率が上昇する。
【0097】
図8は、50ミクロンの積層厚を有する市販のリチウム箔でコーティングした基板と、20ミクロンの積層厚を有するプリンタブルリチウム組成物でコーティングした基板との間のサイクル性能の比較を与える。市販のリチウム箔を有するパウチセルは14サイクル後に機能を停止したが、プリンタブルリチウム箔を有するパウチセルは70サイクルを超えて持続した。サイクル前の出発箔の厚さが低減されたにもかかわらず、プリンタブルリチウム箔は、市販のリチウム箔と比較して高いサイクル性能を示した。
【0098】
本手法は、好ましい実施形態及びその具体的な例を参照して、本明細書で例証及び説明されているが、他の実施形態及び例が同様の機能を果たし、及び/又は同様の結果を達成できることが当業者にただちに明らかとなろう。そのような同等の実施形態及び例は全て、本手法の要旨及び範囲内にある。