(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】高温超伝導ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240621BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01F6/06 140
H01B12/06
H01F6/06 110
(21)【出願番号】P 2021558749
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2020059638
(87)【国際公開番号】W WO2020201540
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-28
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】スレード、 ロバート
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-222346(JP,A)
【文献】特開2010-003435(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011491(WO,A1)
【文献】特表2016-534327(JP,A)
【文献】特開2005-085612(JP,A)
【文献】特表2013-503422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0267171(US,A1)
【文献】特表2013ー543631(JP,A)
【文献】特表2004-501493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石のコイルに電流を流すためのケーブルであって、
HTS輸送テープと、
前記
HTS輸送テープの面を横切って横並びで配置された2つ以上のHTSシャントテープを含むシャントアセンブリと
を含み、
前記輸送テープ及び前記シャントテープのそれぞれが基板層と高温超伝導(HTS)材料のHTS層とを含み、前記シャントテープの層は前記輸送テープの層に平行に延び、
前記シャントテープのうちの1つ以上のシャントテープの前記HTS層は、前記HTS層におけるドロップアウト及び/又は完全又は部分的な破断部を含む複数の不連続部によって中断され、
前記HTS輸送テープの面は、前記複数の不連続部のそれぞれを横切って延在する、ケーブル。
【請求項2】
前記不連続部は、隣接するシャントテープ間で互い違いになっている、請求項
1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記1つ以上のシャントテープのそれぞれの内部の前記不連続部は、
前記シャントテープに沿って一定の間隔で設けられる、請求項
1に記載のケーブル。
【請求項4】
前記不連続部の間隔は前記シャントテープ間で異なる、請求項
3に記載のケーブル。
【請求項5】
前記シャントテープは、前記輸送テープ内のHTS材料とは異なるHTS材料を含む、請求項1に記載のケーブル。
【請求項6】
前記2つ以上のシャントテープは互いに異なるHTS材料を含む、請求項1に記載のケーブル。
【請求項7】
前記シャントテープのうちの1つ以上のシャントテープの前記HTS層及び基板層は、前記輸送テープの前記HTS層及び基板層と比較して異なる配向を有する、請求項1に記載のケーブル。
【請求項8】
前記シャントテープの前記HTS層及び基板層の配向は、横方向に隣接するシャントテープ間で交互になっている、請求項
7に記載のケーブル。
【請求項9】
前記シャントアセンブリは、前記2つ以上のシャントテープを含む第1のシャント層と、前記第1のシャント層を横切って横並びで配置された2つ以上の更なるシャントテープを含む第2のシャント層とを含み、前記更なるシャントテープの層は、前記輸送テープの層に平行に延びる、請求項1に記載のケーブル。
【請求項10】
前記第1のシャント層の各シャントテープは、前記第2のシャント層の隣接するシャントテープとタイプ0又はタイプ1又はタイプ2の対を形成する、請求項
9に記載のケーブル。
【請求項11】
前記
ケーブルは、前記シャントアセンブリに隣接する別の輸送テープをさらに含み、前記輸送テープが積層された対を形成し、前記シャントアセンブリが前記2つの輸送テープの間で前記対の内側に配置されるようにする、請求項1に記載のケーブル。
【請求項12】
前記輸送テープは、前記対のそれぞれのHTS層が互いに向かい合い、かつ前記対のそれぞれの基板層の間にあるように、タイプ0の対として配置される、請求項
11に記載のケーブル。
【請求項13】
磁石のコイルに電流を流すためのケーブルであって、
HTSテープの積層テープアセンブリを含み、各HTSテープは、基材層と高温超伝導(HTS)材料のHTS層とを含み、前記テープアセンブリは、
連続的なHTS層を含む
HTS輸送テープと、
それぞれがそのHTS層に複数の不連続部を含む1つ以上のシャントテープを含むシャントアセンブリと、
前記輸送テープと前記シャントアセンブリとの間を電流が流れることを可能にするための前記輸送テープと前記シャントアセンブリとの間の常伝導層と
を含み、
前記HTS輸送テープの面は、前記複数の不連続部のそれぞれを横切って延在し、
前記シャントアセンブリの1つ以上のテープにおける不連続部の配置は、前記輸送テープのHTS層における横方向の電流分布を方向付けるように選択され
る、ケーブル。
【請求項14】
前記ケーブルは、前記テープのうちの別の1つのテープのHTS材料とは異なるHTS材料を含む少なくとも1つのテープを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のケーブルが巻かれたマグネットコイル。
【請求項16】
トカマクと、請求項15に記載のマグネットコイルを含む磁気プラズマ閉じ込めシステムとを含む核融合炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石のコイルに電流を流すためのケーブルであって、高温超伝導材料を含むケーブルに関する。特に、限定されるものではないが、このようなケーブルが巻かれたマグネットコイルを含む磁気プラズマ閉じ込めシステムを含む核融合炉に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導材料は一般に、「高温超伝導体」(HTS)と「低温超伝導体」(LTS)に分けられる。NbやNbTiなどのLTS材料は、その超伝導性をBCS理論で説明できる金属又は金属合金である。すべての低温超伝導体は、約30Kよりも低い臨界温度(それを超えるとゼロ磁場でも材料が超伝導にならない温度)を有する。HTS材料の挙動はBCS理論では説明されず、このような材料は約30Kを超える臨界温度を有する可能性がある(ただし、HTS及びLTS材料を定義するのは、臨界温度ではなく、超伝導動作及び組成の物理的な違いであることに注意すべきである)。最も一般的に使用されるHTSは「銅酸化物超伝導体」、BSCCO又はReBCO(Reは希土類元素、一般にY又はGd)などの銅酸化物(酸化銅基を含む化合物)をベースとするセラミックである。他のHTS材料は、鉄プニクチド(例えば、FeAs及びFeSe)及び二ホウ酸マグネシウム(MgB2)を含む。
【0003】
ReBCOは通常、
図1に示したような構造を有するテープとして製造される。このようなテープ100は、一般に約100ミクロンの厚さであり、基板101(通常、約50ミクロンの厚さの電解研磨ハステロイ)を含み、基板101の上に、IBAD、マグネトロンスパッタリング、又は他の好適な技術によって、約0.2ミクロンの厚さのバッファスタック102として知られる一連のバッファ層が堆積される。エピタキシャルReBCO-HTS層103(MOCVD又は他の好適な技術によって堆積される)がバッファスタックを覆い、通常1ミクロンの厚さである。1~2ミクロンの銀層104が、スパッタリング又は他の好適な技術によってHTS層上に堆積され、銅安定化層105が、電気めっき又は他の好適な技術によってテープ上に堆積され、これにより多くの場合テープは完全に封入される。
【0004】
基板101は、製造ラインを通して供給されかつ後続の層の成長を可能にすることができる機械的なバックボーンを提供する。バッファスタック102は、その上にHTS層を成長させるための二軸配向結晶テンプレートを提供するために必要とされ、その超伝導特性を損なう基板からHTSへの元素の化学拡散を防止する。銀層104は、ReBCOから安定化層への低抵抗界面を提供するために必要とされ、安定化層105は、ReBCOのいずれかの部分が超伝導を停止する(「常伝導」状態になる)場合に代替的な電流経路を提供する。
【0005】
HTSテープは、HTSケーブルに配置することができる。本明細書で言及されるHTSケーブルは、一般に導電性材料(通常は銅)を介してそれらの長さに沿って接続される1つ以上のHTSテープを含む。HTSテープは積層する(すなわち、HTS層が平行になるように配置する)ことができ、又はHTSテープはケーブルの長さに沿って変化し得るテープの他の構成を有することができる。HTSケーブルの注目すべき特別なケースは、単一のHTSテープとHTS対である。HTS対は、HTS層が平行になるように配置された1対のHTSテープを含む。基板付きテープを使用する場合、HTS対は、タイプ0(HTS層が互いに向き合う)、タイプ1(一方のテープのHTS層が他方のテープの基板に面する)、又はタイプ2(基板が互いに向き合う)であり得る。3つ以上のテープを含むケーブルは、テープの一部又はすべてをHTS対に配置することができる。積層されたHTSテープは、HTS対の様々な構成、最も一般的には、タイプ1の対の積層体、又はタイプ0の対(又は同等にタイプ2の対)の積層体のいずれかを含むことができる。
【0006】
HTSテープ(及び一般に超伝導体)の重要な特性は、「臨界電流」(Ic)であり、これは、所定の温度及び外部磁場でHTSが常伝導になる電流である。超伝導体が「常伝導になった」と考えられる超伝導転移の特徴点は、ある程度不定であるが、通常はテープがE0=10又は100マイクロボルト/メートルを生成するときであると考えられる。臨界電流は、超伝導体の温度及び超伝導体における磁場を含む多くの要因によって決まり得る。後者の場合、磁場の大きさと磁場中の超伝導体結晶軸の配向の両方が重要である。
【0007】
HTSケーブルの場合、ケーブルが均一な温度であり、その全長に沿って均一な磁場にあると仮定すると、積層体内のすべてのテープの臨界電流は比較的均一になる。この場合、ケーブルが電源に接続されると、電流は、オームの法則に従って、ケーブルの端部における終端抵抗の比率でテープ間に単純に分布する。しかしながら、多くの場合、電流分布は、ケーブル内のテープの長さに沿って又は幅全体にわたって局所磁場の大きさ又はReBCO層のc軸に対する磁場角度が異なる場合など、多くの要因の影響を受ける可能性がある。このようなばらつきは、ケーブルが磁石用コイルに巻かれるときに生じる。例えば、パンケーキコイルの積層体から形成される磁石では、積層体の端部でコイルを構成するケーブルは、その構成テープの幅全体にわたってIcのばらつきを有し得る。輸送電流はその結果、個々のテープの幅のうちIcが最も高い部分に優先的に流れる。場合によっては、コイル内のケーブルの局所場の大きさ及び方向に応じて、ケーブル内の1つ以上のテープ内の輸送電流が、大部分が一方の端に沿って流れる可能性がある。したがって、ケーブル内のテープ内の電流分布は、主にコイルの形状によって決まる。
【0008】
ケーブルに沿った温度の違いも、特にケーブルのすべてのセクション及び/又は層に適切な量の冷却を提供することが困難な場合があるため、ケーブル内で電流がどのように分布するかに影響を与え得る。
【0009】
テープの両端又はテープ間でのIcの違いは、HTSケーブル内の電流分布につながる可能性があり、これは多くの用途にとって最適ではない。特に、テープの異なる部分の間のIcの違いは、HTS材料の内部に閉ループで流れる遮蔽電流を生じる可能性がある。遮蔽電流は、超伝導状態で必要とされるように、HTS内のすべての点が(外部電圧又は輸送電流が存在しない場合でも)臨界電流を流すように、過剰な臨界電流を「使い果たす」ために生成される。しかしながら、外部から印加された電圧によって駆動される各テープに出入りする電流のみが大きな磁場を生成するため、遮蔽電流はHTS磁石の性能を制限する可能性がある。
【0010】
遮蔽電流(又はループ「超電流」によって生成される磁場は小さく、テープから離れるに従って急速に減衰するが、磁場の質(すなわち、均一性と時間的安定性)に悪影響を与える可能性がある。これは、コイルから磁場が利用される領域までの距離がテープ幅と比較して小さい磁石、例えば、磁場の均一性を0.0001%(NMRの場合)及び0.001%(MRIの場合)よりも良好に制御しなければならない場合があるNMR挿入コイル又はMRIコイルにおいて特に問題となり得る。
【0011】
したがって、高い磁場品質を必要とする用途では、(a)電流が積層体内のテープ間に均等にかつ(b)積層体内の各テープの幅全体にわたって均一に分布することが望ましい。
【0012】
この問題の部分的な解決策は、積層体内の個々のテープを蛇行形状に切断してからより合わせた「Roebel」ケーブルによって提供される。しかしながら、Roebelケーブルにはいくつかの欠点がある。
・Roebelケーブルはテープを無駄にする(蛇行形状を作るために幅の広いテープからセグメントを打ち抜くと約40%が失われる)
・コイルに巻いて通電すると、ローレンツ力により、個々のテープが交差する場所に応力集中が生じる。これらにより、テープが損傷し、局所ICが低下する可能性がある。
・テープ間の電流共有は、単純な積層テープケーブルのように全長に沿ってではなく、テープが交差する場所に制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、これらの問題の1つ以上に対処するHTSケーブルが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、磁石のコイルに電流を流すためのケーブルが提供される。磁石は、HTS輸送テープと、輸送テープの面を横切って横並びで配置された2つ以上のHTSシャントテープを含むシャントアセンブリとを含む。輸送テープ及びシャントテープのそれぞれが基板層と高温超伝導(HTS)材料のHTS層とを含み、シャントテープの層は輸送テープの層に平行に延びる。
【0015】
1つ以上のシャントテープのHTS層は、HTS層におけるドロップアウト及び/又は完全又は部分的な破断部を含む複数の不連続部によって中断され得る。不連続部は、隣接するシャントテープ間で互い違いであることができる。1つ以上のシャントテープのそれぞれの内部の不連続部は、規則的又は半規則的な間隔を有することができる。不連続部の間隔は、シャントテープ間で異なることができる。
【0016】
シャントテープは、輸送テープ内のHTS材料とは異なるHTS材料を含むことができる。
【0017】
2つ以上のシャントテープが、互いに異なるHTS材料を含むことができる。
【0018】
1つ以上のシャントテープのHTS及び基板層は、輸送テープのHTS層及び基板層と比較して異なる配向を有することができる。
【0019】
シャントテープのHTS層及び基板層の配向は、横方向に隣接するシャントテープ間で交互になることができる。
【0020】
シャントアセンブリは、2つ以上のシャントテープを含む第1のシャント層と、第1のシャント層を横切って横並びで配置された2つ以上の更なるシャントテープを含む第2のシャント層とを含むことができ、更なるシャントテープの層は、輸送テープの層に平行に延びる。
【0021】
第1のシャント層の各シャントテープは、第2のシャント層の隣接するシャントテープとタイプ0又はタイプ1又はタイプ2の対を形成することができる。
【0022】
積層体は、シャントアセンブリに隣接する別の輸送テープをさらに含み、輸送テープが積層された対を形成し、シャントアセンブリが2つの輸送テープの間で対の内側に配置されるようにする。
【0023】
輸送テープは、対のそれぞれのHTS層が互いに向かい合い、かつ対のそれぞれの基板層の間にあるように、タイプ0の対として配置することができる。
【0024】
ケーブルは、テープのうちの別の1つのテープのHTS材料とは異なるHTS材料を含む少なくとも1つのテープを含むことができる。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、磁石のコイルに電流を流すためのケーブルが提供される。ケーブルは、HTSテープの積層テープアセンブリを含み、各HTSテープは、基板層と高温超伝導(HTS)材料のHTS層とを含む。テープアセンブリは、連続的なHTS層を含む輸送テープと、それぞれがそのHTS層に複数の不連続部を含む1つ以上のシャントテープを含むシャントアセンブリと、輸送テープとシャントアセンブリとの間を電流が流れることを可能にするための輸送テープとシャントアセンブリとの間の常伝導層とを含む。シャントアセンブリの1つ以上のテープにおける不連続部の配置は、輸送テープのHTS層における横方向の電流分布を方向付けるように選択される。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、磁石のコイルに電流を流すためのケーブルが提供される。ケーブルは、高温超伝導材料を含む連続的な輸送導体層と、シャント構造内の電流の分布を方向付けるための非超伝導バリアを有する高温超伝導材料を含むシャント構造とを含む。
【0027】
シャント構造における電流の分布は、輸送導体層における電流の分布を制御することができる。
【0028】
本発明の第4の態様によれば、上記のケーブルのいずれかが巻かれたマグネットコイルが提供される。
【0029】
本発明の第5の態様によれば、トカマクと、マグネットコイルを含む磁気プラズマ閉じ込めシステムとを含む核融合炉が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図3】
図2のHTSテープの概略部分分解斜視図である。
【
図7】
図6のHTSテープの概略部分分解斜視図である。
【
図8】HTSテープを含むトロイダル磁場磁石の中心柱の概略断面上面図である。
【
図9】
図8のトロイダル磁場磁石の二重パンケーキコイルの一方の概略断面図である。
【
図10】
図9のパンケーキコイルの一方の断面について計算された磁場(B)のベクトルプロット及び磁場(B)の大きさの等高線プロットである。
【
図11】
図10のパンケーキコイルの断面について計算された臨界電流(I
c)の等高線プロットである。
【
図12】異なる間隔の切断部を有するシャントテープを含むHTSテープのI-V曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、より均一な電流密度を生成するためにケーブル幅全体及びテープ間の電流分布を調整することを可能にする、積層されたHTSテープを含むHTSケーブルに関する。これにより、電流密度がテープ間でより均等に分布しかつ/又は各ターン全体にわたってより均一であるHTS磁石を製造することができる。これらの特性は、磁場の均一性などの磁石の「実際の」性能が、HTS磁石の設計者が考えていたものにより酷似しているので、HTS磁石の設計に大いに役立つ。
【0032】
ケーブルの幅全体にわたる電流分布は、各テープにおけるReBCO層のab面に対する磁場角を可能な限りゼロに近づける目的で、意図的に不均一になるように調整することもできる。これは、ケーブルの臨界電流を最大にする。後述するように、HTSケーブルの両端に生じる電圧は、(例えば、複数のランプサイクル又は熱サイクルによる疲労から生じる可能性がある)亀裂などのReBCO層の損傷又は中性子照射によるケーブルの劣化の早期警告も提供する。
【0033】
一実施例では、HTSケーブルは、積層されたHTSテープの「巻かれた」対の間に挟まれた2つ以上の「シャント」HTSテープを含むことができる。巻かれた対は、意図的な破断部又はICドロップアウトがない連続的なテープ対(通常、必ずではないが、タイプ0の対)である。対照的に、非常に低いが無視できない抵抗が、一定の間隔でシャントHTSテープに導入される。巻かれた対の臨界電流を超える輸送電流は、「内部の」シャントHTSテープに共有され、シャントHTSテープ間で分配されなければならない。シャントHTSテープ間の分散した抵抗接続の数及び抵抗、ならびに各シャントテープの「動的な」(すなわち、電流に依存する)抵抗を変化させることによって、ケーブルに沿った個々のテープ間及びケーブルの幅全体にわたる輸送電流の分布に影響を与えることができる。
【0034】
HTSテープの動的抵抗は以下のように定義される。
【数1】
ここで、
・E
0は臨界電流を定義するために用いられる電界基準、通常10又は100μV/mであり、
・hはテープの長さであり、
・Iはテープ内の輸送電流であり、
・I
Cはテープの臨界電流(それ自体、磁場の大きさB、温度T、及びベクトルBとReBCO結晶のc軸との間の角度(θ)の関数)であり、
・nは超伝導から常伝導への遷移の急峻さを定義する超伝導体のn値である(ReBCOテープの場合、nは通常20から50であるが、BとTにも依存する)。
【0035】
したがって、シャントテープに沿って一定の間隔でICドロップアウト(例えば、臨界電流がより低い領域又は使用時に非超伝導である領域)又は完全な切断部を加えることによって、及び/又はケーブルの異なる部分に異なる臨界電流を有するシャントテープを使用することによって、ケーブル内の電流分布を調整することが可能である。ドロップアウトは、例えば、テープを鋭角に曲げるか又は折り畳むことによって形成することができ、その結果、ReBCO層に局所的な歪みによる亀裂及びIC低下が生じる。シャント対に使用されるHTSテープ片のn値も、所望の電流分布を実現するのに役立つように選択することができる。
【0036】
図2は、タイプ0の対として配置されている、一対の比較的幅の広い「巻かれた」HTSテープ201A、201Bを含むHTSケーブル200の断面を示す。これらは「輸送」テープと見なすこともできる。巻かれた対のテープ201A、201Bの間には、「2x2」マトリクス配列、すなわち、2行及び2列を有する配置の4つのより幅の狭い「シャント」HTSテープ202A~202Dがある。HTSテープのそれぞれは、基板層206上にReBCO層204を含み、両層が銅被覆208によって囲まれている。HTSテープ202A及び202Cは、HTSテープ202B及び202Dと同様にタイプ2の対として配置されている。
【0037】
積層されたHTSテープの外面には、ステンレス鋼、真鍮又は銅などの金属から作られた安定化層210も加えられる。安定化層は、ケーブル内の任意の位置に加えることができ、場合によっては全く含まれないこともできる。
【0038】
図3は、HTSケーブル200のいくつかの層の部分的に分解された斜視図を示す(明確にするために、テープ202C~202Dは省略されている)。最も外側に巻かれたテープ201A~201Bは連続的であり、一方、シャントテープ202A~202Bはそれぞれ、それらの長さに沿って規則的な一連の破断部302を有する。破断部は、2つのテープの破断部が互いに長手方向に一致せず、図示の実施例では異なる間隔を有するように、シャントテープ202A~202B内に配置される。対照的に、巻かれたHTSテープ20
1A、20
1Bは意図的な破断部又はI
cドロップアウトを有していないので、コイルに巻かれると、これらのテープは、ゼロ抵抗の連続的な螺旋状超伝導経路を提供する。
【0039】
以下の説明での参照を容易にするために、テープは、S1(シャントテープ202A~202B)、S2(シャントテープ202C~202D)及びW(テープ201A~201B)で示される横方向の対にグループ化される。したがって、シャントHTSテープは、タイプ0の対に関して配置を説明する場合のように、各列内ではなく、各行内の対と見なされる。
【0040】
シャント対S1及びS2のテープは、互いに及びそれぞれ臨界電流IC,Wを有するW対のテープとは異なる臨界電流IC,S1及びIC,S2を有する。
【0041】
ケーブルに増加する電流I0が供給されると、W対は、I0がその臨界電流2*IC,Wに近づくまで、すべての電流を流す。ケーブルはその後、シャントテープに過剰電流(I0-2*Ic,w)を流すのに十分な電圧を生成する。この過剰電流は、テープ間の常伝導金属(すなわち、非HTS材料)を通る局部抵抗に従ってシャントテープ間で分割され、これは、テープの動的抵抗及びテープに沿った不連続部又は中断部(ドロップアウト)の間隔に影響される。
【0042】
図4は、HTSケーブル400が、HTSテープ201Aとテープ202A~202B)を含むS1シャント対との間に位置する追加の安定化層401Aと、HTSテープ202Aとテープ202C~202Dを含むS2シャント対との間に位置する追加の安定化層401Bとを含むことを除いて、
図2と同様である。この実施例では、追加の安定化層は銅から形成されているが、他の金属(又は合金)及び他の導電性材料も使用することができる。HTSケーブル400内の任意の位置に、しかしながら好ましくはW、S1又はS2HTSテープによって形成されるタイプ0の対の間に、1つ以上のこのような追加の安定化層を含めることができる。
【0043】
本明細書に記載されるHTSケーブルの更なる利点は、異なるHTSテープ(すなわち、異なるHTS材料を有するか又は異なる超伝導特性を有するテープ)を単一のケーブルに組み込むことができることである。これにより、例えば、異なる供給業者からのHTSテープを使用して単一のケーブルを製造することができ、これは、単一のケーブル供給業者が十分なHTSテープを供給することができない可能性がある大型のマグネットコイルの製造に特に重要である。
【0044】
本明細書に記載されるHTSケーブルはまた、(a)各「レーン」内の個々のHTSテープ片の長さ(例えば、テープ片202A、202A’及び202A”の長さ)を選択すること、及び(b)各レーンにおけるテープ製造業者を(臨界電流に基づいて)選択すること、及び/又は(c)シャントHTSテープ202A~202Dの幅を選択することの組み合わせを使用して、電流を強制的にテープ間で均等に分布させることによって、臨界電流の増加を可能にすることができる。
【0045】
内部シャントテープの多くの並べ替え及び組み合わせが可能である。
【0046】
図5は、HTSケーブル500のHTSシャントテープ202B及び202Dのうちの2つがタイプ0の対として配置されることを除いて、
図4と同様である。
【0047】
図6は、シャントHTSテープの向き(すなわち、HTS層及び基板層のどちらが最も上であるか)がHTSケーブル600を横切って左から右に交互になるように、HTSケーブル600がタイプ2の対として配置された2つの更なるシャントHTSテープ602A及び602Bを含むことを除いて、
図5と同様である。この実施例では、シャントHTSテープは、2×3マトリクスとして配置される(すなわち、2行及び3列がある)。しかしながら、一般に、任意の数の行又は列を有するマトリクスを形成するシャントHTSテープ、すなわち、nxmマトリクス配列を使用することができる。通常、輸送HTSテープ201A、201Bの幅は、シャントHTSテープの幅の整数倍であるため、輸送HTSテープの面を横切って整数個のシャントテープを設けることができる。
【0048】
図7は、
図6のHTSケーブル600が示されていることを除いて、
図3と同様である。安定剤層は、明確にするために省略されている。シャントHTSテープの3つの(柱状)対は、702A、702B、及び702Cで示される。シャントHTSテー
プの内側の対
702Bは、シャントHTSテー
プの外側の対
702A、702Cの破断間隔よりも小さい破断間隔を有する。このことは、外側の対702A、702Cの特定の範囲の輸送電流に対する動的抵抗がより低くなるため、外側の対が内側の対702Bよりも高い臨界電流を有するので、電流を外側の対702A、702Cに優先的に流すように強制する。これにより、輸送テープ201、201Bの端では中央よりも多くの電流が流れる。
【0049】
電流をケーブルの端に優先的に分布させることにより、各テープに垂直な磁場の成分が減少するため、ケーブルの電流容量を増やすことができる。これは一般に有益であり、(局所的な過負荷による)ホットスポットが熱暴走を引き起こし、結果として磁石のクエンチを引き起こす前に、同じ量のHTSを有するコイルがより高い磁場を(より高い輸送電流で)生成することを可能にする。
【0050】
上記のすべての実施例において、HTSケーブルは、完全な絶縁、部分的な絶縁(例えば「漏れのある」)絶縁を使用して、又は巻線間に絶縁を使用せずにコイルに巻くことができる。(後述するように)トカマクでは、トロイダル磁場(TF)コイルは部分的な絶縁で巻かれ(許容可能なランプ時間で最適なクエンチ保護を提供するため)、ポロイダル磁場(PF)コイルは完全な絶縁で巻かれる(より速いクエンチ検出方法が必要とされるという犠牲を払って、最小のランプ時間及び予測可能な交流電流(AC)挙動を提供するため)。
【0051】
HTSケーブル(上記のような)の1つの重要な用途は、トカマクとして知られる核融合炉の一種である。トカマクは、高温で安定したプラズマを提供するために、強力なトロイダル磁場、高いプラズマ電流、及び通常は大きなプラズマ体積及びかなりの補助加熱の組み合わせを特徴とする。これにより、トカマクは核融合が起こり得るような条件を作り出すことができる。補助加熱(例えば、高エネルギーの水素、重水素、又はトリチウムの数十メガワットの中性粒子ビーム入射による)は、核融合が起こるのに必要な十分に高い値まで温度を上昇させるため及び/又はプラズマ電流を維持するために必要である。
【0052】
トカマクのマグネットコイルは2つのグループに分けられる。ポロイダル磁場コイルは、その中心がトカマクの中心柱にあるように巻かれた水平円形コイルであり、ポロイダル磁場(すなわち、中心柱に実質的に平行なもの)を生成する。トロイダル磁場コイルは、中心柱を通って垂直に巻かれ、プラズマチャンバーの外側の周りに巻かれ(「リターンリム」)、トロイダル磁場(すなわち、中心柱の周りに円形であるもの)を生成する。ポロイダル磁場とトロイダル磁場の組合せは、プラズマを閉じ込めたままにするプラズマチャンバー内にヘリカル磁場を生成する。
【0053】
トロイダル磁場を生成するために必要なアンペア回数は非常に大きい。したがって、トカマクの設計は、磁場コイルに超伝導材料を使用することをますます必要としている。コンパクトな球形トカマクの場合、中心柱の直径はできるだけ小さくする必要がある。超伝導材料でも達成できる電流密度は限られているので、これは相反する要件を提示している。
【0054】
本明細書に記載されるHTSケーブルは、例えば、ポロイダル磁場又はトロイダル磁場のいずれか(又は両方)を生成するために、トカマク、特に球状トカマクでの使用に特に適している。
【0055】
図8から
図11は、トカマクで使用されるようなトロイダル磁場(TF)磁石の課題を示しており、このトロイダル磁場は、中心柱の周りに二重パンケーキコイルの配置を含む。
【0056】
図8は、二重パンケーキコイル801A~801Rが中心柱802の周りに均一に配置されたTF磁石の断面を示す。各二重パンケーキコイル801A~801Rは、各二重パンケーキコイル801A~801Rに電流が順に流れるとトロイダル磁場が生成されるように、その軸が図の平面内にあるように配置されている。
【0057】
図9は、二重パンケーキコイル801A~801Rのうちの1つの半径方向断面の拡大図を示す。各二重パンケーキコイル801A~801Rは、共通の軸(図示せず)を中心に反対方向に巻かれ、向かい合って積層された2つのパンケーキコイル902A、902Bから形成されている。各コイル902A、902Bは、タイプ0の配置の積層されたHTSテープからなるHTSケーブル、すなわち、上記の背景のセクションで説明したような「従来の」HTSケーブルから形成されている。HTSケーブルの隣接する巻線905、906は、部分的に絶縁された層907によって互いに分離されている。
【0058】
図10は、(単一の)パンケーキコイル902A、902Bの一方の内部における磁場の計算結果を示す。図のX軸とY軸は、コイル内のそれぞれの半径方向距離と軸方向距離を示す。等高線は、コイル内の磁場の大きさ|B|を示す。線1001は、コイル902A、902Bの例示的な巻線の位置を示す。図に示した矢印の方向は、線1001に平行からの磁場(B)ベクトルのずれを示す。
【0059】
図11は、臨界電流の計算結果が示されていることを除いて、
図10と同様である。テープによって生成される磁場を計算するために、各テープが12のストリップに分割され、単一ストリップに対する臨界電流が順番にすべてのシャントテープにわたって合計される。臨界電流の計算は、電流がテープ全体にわたって均一であることを前提としている。しかしながら、実際には、電流と臨界電流の均一な比、すなわち、
【数2】
を達成するために、電流がテープ全体にわたって(すなわち、X軸に沿って)再分配されるので、この仮定は常に正しいとは限らない。
【0060】
したがって、臨界電流分布の計算は、
図11に示した近似臨界電流分布I
c(x)を用いて電流分布I(x)を再計算する反復手順を用いて改善することができる。このプロセスは、両方の電流分布が変化しなくなるまで反復的に繰り返すことができる。したがって、
図11に示した結果は最初の反復のみを表している。
【0061】
図11は、
図10に示した計算された磁場を参照して理解することができる。臨界電流は、磁場が0に近い内側半径で最大であるが、大きな半径(X位置)で急速に低下し、Bが増加する。臨界電流はまた、パンケーキの下端(y=0)におけるHTSケーブル内のテープに(したがってReBCO層のab面に)ほぼ平行から上端(y=20mm)における数度のずれまでの磁場角の変化により、コイルの幅(Y位置)全体にわたって変化する。使用中、輸送電流はI
c分布に比例してテープに流れる。したがって、コイル802A、802B内の磁場強度及び磁場方向の不均一性は、電流がパンケーキコイルの内縁を「独占する」傾向を生じさせる。
【0062】
この問題は、「従来の」HTSケーブルを
図2~
図7に関連して上述したものと同様のHTSケーブルに置き換えることによって対処することができる。シャントHTSテープにおける不連続部(すなわち、ドロップアウト又は切断部又はI
cの変化)は、ケーブルの片側にあるシャントHTSテープにおける輸送電流の割合をより大きくするように選択される。これにより、二重パンケーキコイル801A~801Rは、クエンチ前により多くの電流を流すことができる。
【0063】
本明細書に記載されるHTSケーブルの更なる利点は、核融合炉内の中性子損傷、又は熱サイクル若しくは磁場サイクルによる疲労によって引き起こされ得るようなHTSテープのIc低下を監視することを含む。特に、Ic低下の早期警告を提供することができ、これは、例えば、大型のトカマクコイル(PF及びTFの両方)で大いに役立つ。
【0064】
図12は、
図2に示したHTSケーブル200のI-V(電流-電圧)曲線を示す。各曲線は、シャントHTSテープにおける完全な切断部間の異なる間隔に対するものである。間隔が狭いほど抵抗が大きくなり、したがって勾配(dV/dI)が大きくなる。
【0065】
2*IC,W(1201)の電流(巻かれたW対の合計臨界電流)未満では、ケーブル200は、無視できるほどの抵抗を有するので、無視できるほどの電圧を発生する。2*IC,W(1201)<I<2*IC,W+4*IC,S(1202)の範囲の輸送電流(I)の場合(ここで4*IC,Sは2つのS対(S1及びS2)の合計臨界電流である)、ケーブルは一定の抵抗を示し、したがってIに比例した電圧を発生する。I>2*IC,W+4*IC,S(1202)の場合、ケーブルは過剰電流を常伝導(すなわち、非超伝導)金属安定化材210に分流させ、これは、ジュール加熱がケーブル内のHTSテープの臨界電流を減少させるため、最終的にはクエンチ(熱暴走)につながる。
【0066】
図12を参照すると、監視の目的で、ケーブルは、1201と1202の間、すなわち、巻かれたテープの合計I
cとシャントテープの合計Icとの間のどこかの一定の輸送電流で動作するように設計されている。この輸送電流では、ケーブルはわずかに抵抗性がある。したがって、ケーブルはいくらかの電力を熱として消散させる。ケーブル(W対又はS対のいずれか)の臨界電流が低下すると、この消散がわずかに増大し、新しい熱平衡に達するまで温度が上昇する(この場合、発熱の増加は、上昇した温度で利用可能な冷却力の増加に等しい)。この温度上昇は、コイル全体に分布する多くのポイントでケーブルの温度を監視することによって検出することができる。したがって、温度のゆっくりした上昇は、臨界電流の低下の指標となり、したがって、将来のある(不確定な)時間に発生する可能性のあるクエンチ(熱暴走)の非常に早い警告として使用することができる。
【0067】
図13は、(HTSケーブル600のように2つではなく)4つの「輸送」HTSテープ1301A、1301B及び1304A、1304Bが存在することを除いてHTSケーブル600(
図6参照)と類似している、HTSケーブル1300の断面を示す。輸送HTSテープは2つの層に配置され、これらの層は、HTSケーブル600の場合と同様に、すなわち2×3マトリクスに配置された6つのより幅の狭い「シャント」HTSテープ1302A~1302C、1303A~1303Cによって互いに分離されている。各層の輸送HTSテープ1301A、1301B及び1304A、1304Bは、各輸送HTSテープのHTS層をシャントHTSテープに向けて並べて配置され、それにより2対のタイプ0のHTS輸送テープ1301A、1304A及び1301B、1304Bを形成する。中央のシャントHTSテープ1302B、1303Bはそれぞれ、2つのHTS輸送テープにまたがっている。
【0068】
HTSケーブル1300は、輸送HTSテープ1301A、1301B、1304A、1304Bの2倍の幅を有する。より幅の広いHTSケーブルは、タイプ0の対の輸送HTSテープをさらに加え、それに応じてシャントHTSテープの数を増やすこと、すなわち、シャントHTSテープの追加の列を加えるか又は1つ以上のシャントHTSテープ1302A~1302C、1303A~1303Cの幅を増加させて輸送HTSテープにまたがるようにすることによって製造することができる。
【0069】
HTSケーブル1300などのより幅の広いHTSケーブルは、トカマクで使用されるTF磁石での使用に特に有益である。というのは、これらのケーブルは、比較的幅の狭いHTSテープから特定の高さ(コイルの軸に沿ったサイズ)の二重パンケーキコイル801A~801Rを製造することを可能にするから、すなわち、所与の高さの二重パンケーキコイルを得るために軸方向に積層する必要があるコイルがより少ないからである。したがって、必要なコイルの間の接合部(すなわち電気的接続)が少なくて済むため、製造がより簡素化され、故障の「弱点」が少なくなる。また、多数の幅の狭いパンケーキコイルの積層体から構成されたTFコイルの全体の抵抗は、より少ない(例えば2つの)より幅の広いパンケーキコイルを有するTFコイルと比較して、後者においてより均一に分布される。
【0070】
場合によっては、より幅の広いHTSケーブルは単一のTFリムを2つのコイルのみから構成することを可能にすることができる。これは、電流が一方のパンケーキコイルの内径からその外径に(パンケーキコイルの外径上にあるため容易にアクセス可能な)パンケーキコイル間の接合部を通って螺旋状に流れ、次いで他方のパンケーキコイルの外径から他方のパンケーキの内径に螺旋状に戻り、次いで二重パンケーキコイル801A、801B間の「リム-リム」接合部を通って次のリム801Bに入るように、各リム801Aの2つのパンケーキコイルを配置することができるため、特に有利である。リム-リム接合部は、パンケーキコイルの内径にTF中心柱802から離れて配置され、これにより接合部の製造、修理又は試験が容易になる。
【0071】
より少ない(例えば2つの)積層されたコイルを有することの更なる利点は、それによりパンケーキコイル801A~801Rのインダクタンスが(より多くのコイルを有する積層体のインダクタンスと比べて)低減することである。より低いインダクタンス(L)のコイルには、(a)ランピング中の電圧の低下(V=LdI/dt)、(b)クエンチ保護に必要とされるような、急速な通電解除中に生じる電圧の低下という潜在的な利点がある。
【0072】
本発明の様々な実施形態を上記で説明してきたが、それらは限定ではなく例として提示されたことを理解されたい。関連技術の当業者には、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、それらの形態及び詳細に様々な変更を行うことができることが明らかであろう。