(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
(21)【出願番号】P 2022007272
(22)【出願日】2022-01-20
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲司
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149415(JP,A)
【文献】特開2012-212833(JP,A)
【文献】特開2020-123719(JP,A)
【文献】特開2019-201146(JP,A)
【文献】特開2006-126532(JP,A)
【文献】特開2019-176139(JP,A)
【文献】特開2023-053892(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0363716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01L 21/30
H01L 21/46
G03F 7/20-7/24
G03F 9/00-9/02
G03F 1/00-1/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の上に複数の液滴として配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させて前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を、情報処理装置によって予測するシミュレーション方法であって、
前記処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するとともに、前記処理において前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に生じるディストーションの分布を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された前記ディストーションの分布を表示する表示工程と、
を含み、
前記表示工程では、前記硬化性組成物の挙動の予測に用いられた複数の入力情報の中から少なくとも1つの入力情報が選択された場合に、前記少なくとも1つの入力情報を二次元的な画像として前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記表示工程では、前記複数の入力情報の中からユーザにより選択された前記少なくとも1つの入力情報を、二次元的な画像として前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記複数の入力情報の中から、前記ディストーションの分布に対する相関性が最も高い入力情報を選択する選択工程を更に含み、
前記表示工程では、前記選択工程で選択された入力情報を、二次元的な画像として前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記複数の入力情報のうち1つは、前記第1部材の表面構造を示す情報である、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記複数の入力情報のうち1つは、前記第2部材の表面構造を示す情報である、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記複数の入力情報のうち1つは、前記第1部材の上に配置された前記硬化性組成物の前記複数の液滴の分布を示す情報である、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記複数の入力情報のうち1つは、前記第1部材を保持する保持面の構造を示す情報である、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記表示工程では、前記硬化性組成物の挙動の予測結果を示す出力情報が選択された場合、前記出力情報を二次元的な画像として前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記算出工程では、前記処理における前記硬化性組成物の挙動の時間変化を予測するとともに、前記ディストーションの分布の時間変化を算出し、
前記表示工程では、前記硬化性組成物の挙動の予測結果と前記ディストーションの分布とが時間的に整合するように、前記出力情報を二次元的な画像としてディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とする請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記表示工程では、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ誤差の計測結果を示す計測情報が選択された場合、前記計測情報を前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記表示工程では、前記計測情報が選択された場合、前記ディストーションの分布のうち指定された部分について、前記算出工程で算出された前記ディストーションの時間変化と前記重ね合わせ誤差の計測結果の時間変化とを示すグラフを表示する、ことを特徴とする請求項10に記載のシミュレーション方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実施した結果に基づいて、前記処理の条件を決定する工程と、
前記条件に従って前記処理を実行する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項14】
第1部材の上に複数の液滴として配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させて前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するとともに、前記処理において前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に生じるディストーションの分布を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された前記ディストーションの分布を表示する表示工程と、
を実行し、
前記表示工程では、前記硬化性組成物の挙動の予測に用いられた複数の入力情報の中から少なくとも1つの入力情報が選択された場合に、前記少なくとも1つの入力情報を二次元的な画像として前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項15】
請求項14に記載のシミュレーション装置が組み込まれた膜形成装置であって、
第1部材の上に複数の液滴として配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させて前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理を、前記シミュレーション装置による前記硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する、ことを特徴とする膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に硬化性組成物を配置し、当該硬化性組成物と型とを接触させ、当該硬化性組成物を硬化させることにより、基板上に硬化性組成物の硬化物からなる膜を形成する膜形成技術が知られている。このような膜形成技術は、インプリント技術や平坦化技術などに適用されうる。インプリント技術では、パターンを有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と当該型とを接触させた状態で当該硬化性組成物を硬化させることにより、基板上の硬化性組成物に型のパターンが転写される。平坦化技術では、平坦面を有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と当該平坦面とを接触させた状態で当該硬化性組成物を硬化させることにより、平坦な上面を有する膜が形成される。
【0003】
例えばインプリント技術では、基板上に新たにパターンを形成する際、基板上に既に形成されているパターンまたは基板の構造に対し、新たに形成すべきパターンを位置合わせすることが一般的に行われる。この位置合わせの精度向上が、インプリント技術を用いて製造される物品の性能および歩留まり(収率)を向上させるために重要である。特許文献1には、走査型電子顕微鏡により得られた画像に複数レイヤのパターンが含まれている場合に、複数レイヤの設計情報(CADデータ)を用いて当該パターンをレイヤ毎に分離し、レイヤ間の位置ずれを検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜形成技術では、硬化性組成物を介して型と基板とを接触させた際に、基板表面の凹凸、硬化性組成物の表面張力、基板上に配置される硬化性組成物の分布などに起因して、型および/または基板に局所的な変形(ディストーション)が生じることがある。例えば基板表面に凹凸が存在する場合、硬化性組成物を介して型と基板とを接触させると、基板表面の凹凸に応じた撓みが型および/または基板に局所的に生じ、型のパターンと基板のパターンとの位置関係が設計値からずれうる。その結果、基板上に既に形成されているパターンと、型を用いて基板上に新たに形成されるパターンとの間で、局所的な位置ずれが生じることとなる。このような位置ずれは、基板上に複数の液滴として配置される硬化性組成物の分布、基板上の硬化性組成物への型の押し当てなどの条件(以下、膜形成条件と表記する)を調整することにより補正することができる。しかしながら、膜形成条件を調整するには、当該位置ずれの箇所および要因を特定する必要があり、当該位置ずれの箇所および要因を、膜形成装置(インプリント装置、平坦化装置)を用いた試行錯誤によって特定するには膨大な時間を要することとなる。したがって、当該位置ずれの箇所および要因を特定するために、シミュレータの利用が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、2つの部材間における硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーションにおいて、当該2つの部材の少なくとも一方に生じるディストーションの箇所および要因を特定するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのシミュレーション方法は、第1部材の上に複数の液滴として配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させて前記第1部材の上に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を、情報処理装置によって予測するシミュレーション方法であって、前記処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するとともに、前記処理において前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に生じるディストーションの分布を算出する算出工程と、前記算出工程で算出された前記ディストーションの分布を表示する表示工程と、を含み、前記表示工程では、前記硬化性組成物の挙動の予測に用いられた複数の入力情報の中から少なくとも1つの入力情報が選択された場合に、前記少なくとも1つの入力情報を二次元的な画像として前記ディストーションの分布に重ねて表示する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、2つの部材間における硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーションにおいて、当該2つの部材の少なくとも一方に生じるディストーションの箇所および要因を特定するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】膜形成装置と情報処理装置とを含むシステムの構成を示す概略図
【
図2】シミュレーションにおいて考慮されうる事項を説明するための図
【
図3】基板の表面の凹凸によって生じる変位を説明するための図
【
図4】硬化性組成物の液滴の配置によって生じうる変位を説明するための図
【
図5】硬化性組成物の表面張力によって生じうる変位を説明するための図
【
図7】基板保持部の構成によって生じうる変位を説明するための図
【
図8】シミュレーション条件を設定するためのユーザインターフェースを示す図
【
図16】情報処理装置で実行される処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における膜形成装置IMPと情報処理装置1とを含むシステムの構成を示す概略図である。膜形成装置IMPは、基板S(第1部材)の上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型M(第2部材)とを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理(以下では、膜形成処理と表記することがある)を実行する。膜形成装置IMPは、例えば、インプリント装置として構成されてもよいし、平坦化装置として構成されてもよい。
図1では、膜形成装置IMPがインプリント装置として構成された例を示している。ここで、基板Sと型Mとは相互に入れ替え可能であり、型Mの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と基板Sとを接触させることで、型Mと基板Sとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成してもよい。つまり、第1部材を基板Sとし、第2部材を型Mとしてもよいし、第1部材を型Mとし、第2部材を基板Sとしてもよい。
【0013】
インプリント装置は、膜形成処理として、パターンを有する型Mを用いて基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターンを転写するインプリント処理を行う。インプリント装置では、凹凸パターンが設けられたパターン領域PRを有する型Mが用いられる。インプリント装置では、インプリント処理として、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mのパターン領域PRとを接触させ、基板Sのパターンを形成すべき領域と型Mとの間の空間に硬化性組成物IMを充填させ、その後、硬化性組成物IMを硬化させる。これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRのパターンが転写される。インプリント装置では、例えば、基板Sの複数のショット領域のそれぞれに硬化性組成物IMの硬化物からなるパターンが形成される。
【0014】
平坦化装置は、膜形成処理として、平坦面を有する型Mを用いて基板Sの上の硬化物組成物IMを平坦化する平坦化処理を行う。平坦化装置は、平坦化処理として、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mの平坦面とを接触させ、硬化性組成物IMを硬化させることによって、平坦な上面を有する膜を基板上に形成する。平坦化装置では、基板Sの全域をカバーする寸法(大きさ)を有する型Mが用いられる場合、基板Sの全域に硬化性組成物IMの硬化物からなる膜が形成される。
【0015】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。このように、硬化性組成物は、光の照射、あるいは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスを含む。
【0016】
本明細書および添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸およびZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向およびZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転およびZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θYおよびθZとする。X軸、Y軸およびZ軸に関する制御または駆動は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御または駆動を意味する。また、θX軸、θY軸およびθZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸およびZ軸の座標に基づいて特定される情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸およびθZ軸の値で特定される情報である。位置決めは、位置および/または姿勢を制御することを意味する。
【0017】
[膜形成装置の構成例]
膜形成装置IMPは、基板Sを保持する基板保持部SHと、基板保持部SHを駆動することで基板Sを駆動する(移動させる)基板駆動機構SDと、基板駆動機構SDを支持する支持ベースSBとを備える。また、膜形成装置IMPは、型Mを保持する型保持部MHと、型保持部MHを駆動することで型Mを駆動する(移動させる)型駆動機構MDとを備える。
【0018】
基板駆動機構SDおよび型駆動機構MDは、基板Sと型Mとの相対位置が調整されるように基板Sおよび型Mの少なくとも一方を駆動する、即ち、基板Sと型Mとを相対的に駆動する相対駆動機構を構成する。相対駆動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触のための駆動、および、基板Sの上の硬化した硬化性組成物IMからの型Mの分離のための駆動を含む。また、相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sと型Mとの位置合わせを含む。基板駆動機構SDは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸およびθZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸およびθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。型駆動機構MDは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸およびθY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸およびθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。
【0019】
膜形成装置IMPは、基板Sと型Mとの間の空間に充填された硬化性組成物IMを硬化させるための硬化部CUを備える。硬化部CUは、例えば、型Mを介して硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーを与えることによって、基板Sの上の硬化性組成物IMを硬化させる。膜形成装置IMPは、型Mの裏面側(基板Sに対面する面の反対側)に空間SPを形成するための透過部材TRを備えうる。透過部材TRは、硬化部CUからの硬化用のエネルギーを透過させる材料で構成され、これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに対して硬化用のエネルギーを与えることを可能にする。また、膜形成装置IMPは、空間SPの圧力を制御することによって、型MのZ軸方向への変形を制御する圧力制御部PCを備えうる。例えば、圧力制御部PCが空間SPの圧力を大気圧よりも高くすることによって、型Mは、基板Sに向けて凸形状に変形する。圧力制御部PCにより型Mの変形を制御しながら型Mと基板上の硬化性組成物IMとを接触させることにより、型Mと基板上の硬化性組成物IMとの接触面積を徐々に広げ、型Mと基板Sとの間の硬化性組成物IMに残存する気泡を低減することができる。
【0020】
膜形成装置IMPは、基板Sの上に硬化性組成物IMを配置、供給または分配するためのディスペンサDSPを備えうる。ディスペンサDSPは、例えば、空圧式、機械式、インクジェット式等の方式で硬化性組成物IMの基板Sの上に供給あるいは吐出しうる。このような方式は、基板Sの上に配置される硬化性組成物IMの複数の液滴の分布を、基板Sの上に形成すべきパターンの密度に応じて調整するために有利である。ここで、硬化性組成物IMは、膜形成装置IMPの外部装置において、スピンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法等の方法で基板Sの上に配置(塗布)されてもよい。この場合、膜形成装置IMPには、外部装置によって硬化性組成物IMが配置された基板Sが供給(搬入)されるため、膜形成装置IMPにディスペンサDSPが設けられていなくてもよい。
【0021】
膜形成装置IMPは、基板S(または基板Sのショット領域)と型Mとの位置ずれ(位置合わせ誤差)を計測するためのアライメントスコープAS(計測部)を備えていてもよい。また、膜形成装置IMPは、型M(のパターン領域PR)の歪(形状)を調整する型歪調整部MC、および/または、基板S(のショット領域)の歪(形状)を調整する基板歪調整部SCを備えていてもよい。型歪調整部MCおよび基板歪調整部SCは、型Mのパターン領域PRの歪と基板Sのショット領域の歪との差分を低減あるいは調整する歪調整部を構成するものと理解されてもよい。型歪調整部MCは、例えば、型Mの側面にXY方向の力を与えることによって型Mを変形させ、パターン領域PRの歪を調整する。型歪調整部MCが型Mの側面に入力する力は、アライメントスコープASが計測した基板Sと型Mとの位置ずれに応じて制御されうる。基板歪調整部SCは、例えば、DMD(デジタル・ミラー・デバイス)を用いて基板Sに対して制御された強度分布を有する光を照射し、これによって形成される温度分布により、基板Sのショット領域の歪を調整する。
図1に示される膜形成装置IMPは、硬化部CUからの光をハーフミラーを通過させて基板S上の硬化性組成物IMに照射し、基板歪調整部SCからの光をハーフミラーで反射させて基板Sに照射するように構成されている。
【0022】
膜形成装置IMPは、膜形成装置IMPの各部を制御することにより膜形成処理(インプリント処理、平坦化処理)を制御する制御部CNTを備えうる。制御部CNTは、例えばCPUなどのプロセッサおよびメモリを有するコンピュータによって構成されうる。
図1に示される膜形成装置IMPでは、制御部CNTと情報処理装置1とが別々に設けられているが、制御部CNTが情報処理装置1の一部として構成されてもよいし、情報処理装置1が制御部CNTの一部として構成されてもよい。
【0023】
[情報処理装置の構成例]
次に、情報処理装置1について説明する。情報処理装置1は、膜形成装置IMPに実行させる膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。情報処理装置1は、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するシミュレーション装置として理解されてもよい。具体的には、情報処理装置1は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。また、情報処理装置1は、膜形成処理において基板S(具体的には、基板Sのショット領域)および型M(具体的には、型Mのパターン領域PR)の少なくとも一方に生じるディストーションの分布を予測する計算を実行する。つまり、情報処理装置1は、膜形成処理における基板Sのディストーションの分布、型Mのディストーションの分布、および/または、基板Sと型Mとのディストーションの差の分布を予測する計算を実行する。
【0024】
ここで、基板Sのディストーションの分布とは、基板S(ショット領域)上に設定されたグリッドにおける各格子点の変位の分布として定義されうる。同様に、型Mのディストーションの分布とは、型M(パターン領域PR)上に設定されたグリッドにおける各格子点の変位の分布として定義されうる。以下では、基板Sのディストーションの分布を「基板Sの変位分布」、型Mのディストーションの分布を「型Mの変位分布」と表記することがある。また、基板Sと型Mとのディストーションの差の分布とは、基板S(ショット領域)上における各格子点の変位と型M(パターン領域PR)上における各格子点の変位との差の分布、即ち、基板Sと型Mとの重ね合わせ誤差の分布として定義されうる。以下では、基板Sと型Mとのディストーションの差の分布を「重ね合わせ誤差」と表記することがある。
【0025】
情報処理装置1は、例えば、汎用または専用のコンピュータにシミュレーションプログラム21を組み込むことによって構成される。また、情報処理装置1は、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、または、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)によって構成されてもよい。一例において、情報処理装置1は、プロセッサ10と、メモリ20と、ディスプレイ30(表示部)と、入力デバイス40(入力部)とを有するコンピュータによって構成されうる。そして、メモリ20には、硬化性組成物IMの挙動およびディストーションの分布を予測するためのシミュレーションプログラム21が格納されている。プロセッサ10は、メモリに格納されたシミュレーションプログラム21を読み出して実行することにより、硬化性組成物IMの挙動およびディストーションの分布を予測するシミュレーションを行うことができる。なお、メモリ20は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスクなどのディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム21は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されてもよいし、電気通信回線等の通信設備を介して情報処理装置1に提供されてよい。
【0026】
[膜形成装置の動作]
以下、膜形成装置IMPの動作を例示的に説明する。ここでは、膜形成装置IMPとしてインプリント装置を例示して説明する(以下では、インプリント装置IMPと表記することがある。また、当該動作は、制御部CNTによって制御される。
【0027】
まず、硬化性組成物IMが塗布された基板Sがインプリント装置IMPに供給されるか、または、基板Sにおける1つ又は複数のショット領域上にディスペンサDSPによって硬化性組成物IMが配置される。次に、パターンを形成すべきショット領域が基板駆動機構SDによって型Mのパターン領域PRの下方に位置決めされる。
【0028】
次いで、圧力制御部PCによる空間SPの加圧によって型Mのパターン領域PRを基板Sに向かって凸形状に変形させる。そして、その状態で、ショット領域の上の硬化性組成物IMとパターン領域PRとが接触するように型駆動機構MDによって型Mが駆動される。この動作は、基板駆動機構SDが基板Sを駆動することによってなされてもよい。その後、圧力制御部PCが空間SPの圧力を低下させることによってパターン領域PRが平坦に戻されながら、硬化性組成物IMとパターン領域PRとの接触領域が拡大される。
【0029】
型Mのパターン領域PRの全域が基板S上の硬化性組成物IMと接触し、パターン領域PRの凹部に硬化性組成物IMが十分に充填された後、硬化部CUによって硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーが供給され、硬化性組成物IMが硬化される。硬化性組成物IMが光硬化性組成物である場合には、硬化用のエネルギーとして、光、例えば紫外光が使用されうる。
【0030】
[シミュレーションでの考慮事項]
次に、
図2を参照しながら、情報処理装置1が、基板Sの変位分布、型Mの変位分布、および重ね合わせ誤差を予測するための計算(シミュレーション)において考慮されうる事項を説明する。型Mに対しては、型駆動部MDからの力F、空間SPの圧力P(による力)、硬化性組成物IMからの力が作用しうる。基板Sの上の硬化性組成物IMに対しては、型M、基板Sからの力が作用しうる。基板Sに対しては、硬化性組成物IM、基板保持部SHからの力が作用しうる。硬化性組成物IMの挙動は、型Mから受ける力、型Mのパターン領域PRの表面の形状(凹凸)、基板Sの表面の形状(凹凸)の影響を受けうる。また、硬化性組成物IMが複数の液滴で構成される場合には、拡がった液滴が隣接する液滴と接合しうる。基板Sと型Mとの間にはガスも流動しうる。これらの事項を考慮して、型Mの変形、基板Sの変形、硬化性組成物IMの流動の挙動を計算し(解き)、型Mの変位分布、基板Sの変位分布、および重ね合わせ誤差を算出する。
【0031】
以下、情報処理装置1が考慮する前述の事項によって生じうる型Mの変位を3つ例示的に説明する。
一つ目の例として、基板Sの表面の凹凸によって生じうる変位を説明する。
図3(a)には、基板Sの上にディスペンサDSPによって硬化性組成物IMが複数の液滴として配置された状態が模式的に示されている。
図3(b)には、
図3(a)における硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRを接触させた状態(接触状態)が模式的に示されている。接触状態では、基板Sとパターン領域PRとの間には硬化性組成物IMが存在し、また、パターン領域PRが相応の剛性を有する。そのため、基板Sの凹部における硬化性組成物の膜厚が当該基板Sの凹部の深さを補償することができない場合に、基板Sの凹部に応じて型Mのパターン領域PRの表面が変形しうる。
図3(c)~(d)は、
図3(a)~(b)にそれぞれ対応するパターン領域PRのX方向における位置と変位との関係を示している。横軸は、X方向の位置を示し、縦軸は、X方向の各位置における変位の大きさを示している。このように、基板Sの表面に凹凸が生じていると、基板Sの表面の凹凸に応じてパターン領域PRの表面の形状が変化し、パターン領域PRの面内方向(XY方向)に変位が生じうる。
【0032】
二つ目の例として、基板S上における硬化性組成物IMの液滴の配置によって生じうる変位を説明する。
図4(a)には、基板Sの上にディスペンサDSPによって硬化性組成物IMが複数の液滴として配置された状態が模式的に示されている。
図4(a)の例では、硬化性組成物IMの液滴の密度が相対的に高い領域HDAと低い領域LDAとを有する。
図4(b)には、
図4(a)における硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRを接触させた接触状態が模式的に示されている。
図4(b)を参照すると、
図4(a)に例示した硬化性組成物IMの液滴の密度分布に応じて、液滴同士が結合した後に形成される硬化性組成物IMの膜厚に分布が生じうる。そのため、硬化性組成物IMの膜厚が変化する部分(即ち、領域HDAと領域LDAとの境界部分)において、型Mのパターン領域PRの表面が変形しうる。
図4(c)~(d)は、
図4(a)~(b)にそれぞれ対応するパターン領域PRのX方向における位置と変位との関係を示している。横軸は、X方向の位置を示し、縦軸は、X方向の各位置における変位の大きさを示している。このように、硬化性組成物IMの液滴の密度分布が生じていると、当該密度分布に応じてパターン領域PRの表面の形状が変化し、パターン領域PRの面内方向(XY方向)に変位が生じうる。
【0033】
三つ目の例として、硬化性組成物IMの表面張力によって生じうる変位を説明する。
図5(a)には、基板Sの上にディスペンサDSPによって硬化性組成物IMが複数の液滴として配置された状態が模式的に示されている。
図5(b)には、
図5(a)における硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRを接触させた接触状態が模式的に示されている。
図5(a)~(b)は、パターン領域PRの端部PREを含む範囲を拡大して表示している。
図5(b)の例では、硬化性組成物IMのメニスカス圧力によってパターン領域PRの端部PRE付近に撓みが生じうる。
図5(c)~(d)は、
図5(a)~(b)にそれぞれ対応するパターン領域PRのX方向における位置と変位との関係を示している。横軸は、X方向の位置を示し、縦軸は、X方向の各位置における変位の大きさを示している。
【0034】
図3~
図5においては、型Mの変位のみを説明したが、硬化性組成物IMから力が作用する基板Sも型Mと同様に変位が生じうる。情報処理装置1は、基板Sの変位も計算しうる。
【0035】
基板Sの変位に関する例としては、基板保持部SHからの力によって生じうる変位が挙げられる。
図6(a)に、基板保持部SHを型Mから見た平面図を示す。
図6(a)に示されるように、基板保持部SHの上面(基板Sと対向する面、保持面)には、複数のリブRIと複数のピンPIが形成されている。
図6(b)に、基板Sを保持した状態の基板保持部SHのXZ断面を示す。複数のリブRIは、基板Sによって閉空間CSを形成する。この閉空間CSは、配管PLを介して、不図示のポンプなどの圧力印加部を有する圧力調整部に連通し、閉空間CSの圧力をそれぞれ調整可能である。通常、閉空間CSには負圧を印加し、基板Sを基板保持部SHに真空吸着する。ただし、閉空間CSへの圧力の印加方法はこの限りではなく、複数の閉空間CSのうち一部に正圧を印加し、基板保持部SHから離れる方向に湾曲するように基板Sを変形してもよい。ここで、基板保持部SHのリブRIおよびピンPIの数や形状は、
図6に示した限りではなく、少なくとも一つの閉区間CSを形成できればよい。また、基板保持部SHは、真空吸着によって基板Sを保持する真空チャック機構を例示したが、この限りではなく、例えば、静電引力によって基板Sを保持する静電チャック機構でもよい。
【0036】
図7(a)には、基板保持部SHに保持された基板Sの上に硬化性組成物IMが複数の液滴として配置された状態が模式的に示されている。基板Sの下面(基板保持部SHと対向する面)には真空吸着により下向きの力が働いている。このとき、基板Sは、リブRIおよびピンPIに接触する面において、リブRIおよびピンPIから上向きの反力を受けて湾曲に変形する。
図7(b)には、
図7(a)における硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRを接触させた接触状態が模式的に示されている。パターン領域PRは、接触状態において、基板Sの表面の形状に応じた形状に変形する。
図7(c)~(d)は、
図7(a)~(b)にそれぞれ対応しており、基板Sの上面(パターン領域PRに対向する面)およびパターン領域PRの各々について、X方向における位置と変位との関係を示している。横軸は、X方向の位置を示し、縦軸は、X方向の各位置における変位の大きさを示している。実線が、パターン領域PRにおけるX方向の変位分布を示し、点線が、基板SにおけるX方向の変位分布を示している。そして、両者の差(実線と点線との差)が、X方向の重ね合わせ誤差の分布となる。
【0037】
[ディスプレイへの表示例]
まず、情報処理装置1のディスプレイ30に提供(表示)されるシミュレーション条件を設定するためのユーザインターフェースを説明する。本実施形態では、
図8に示されるように、ユーザは、ディスプレイ30に提供されるユーザインターフェースを参照しながら、入力デバイス40を介して、シミュレーションに必要な情報を入力する。これにより、情報処理装置1は、ユーザにより入力された情報に基づいて、膜形成処理における硬化性組成物の挙動を予測するとともに、型Mの変位分布、基板Sの変位分布、および/または重ね合わせ誤差を算出するシミュレーションを実行する。
【0038】
例えば、情報処理装置1のメモリ20には、複数種類の設定ファイル331が予め作成されて格納されおり、ユーザは、複数種類の設定ファイル331の中から、所望のシミュレーション条件に応じた設定ファイル331を選択することができる。設定ファイル331は、シミュレーションを行う膜形成処理の条件を統合して管理するファイルであり、シミュレーション条件(設定条件)として、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動の予測に用いられる複数の入力情報を含む。設定ファイル331には、例えば、型設計ファイル332と、基板設計ファイル333と、液滴配置ファイル334と、時間プロファイル335とが含まれうる。
【0039】
型設計ファイル332は、型Mのパターン領域PRに設けられた凹凸パターンの設計情報など、型Mの表面構造(高さ分布)を示す情報を入力情報として含みうる。基板設計ファイル333は、基板Sのショット領域に既に形成された凹凸パターンの情報や、基板Sの凹凸構造の設計情報など、基板Sの表面構造(高さ分布)を示す情報を入力情報として含みうる。液滴配置ファイル334は、基板S上に配置される硬化性組成物IMの複数の液滴の分布を示す情報を入力情報として含みうる。複数の液滴の分布は、ディスペンサDSPによって基板S上に供給される硬化性組成物IMの液滴の体積および配置として理解されてもよい。時間プロファイル335は、型駆動部MDが型Mに対して作用させる力Fの時間的なプロファイルを入力情報として含みうる。ここで、
図8の例では、設定ファイル331に含まれるシミュレーション条件として、4つの具体的なファイルを示したが、
図8に示されていないシミュレーション条件についても、ファイルとしてメモリ20に格納され、ライブラリを構成してもよい。例えば、設定ファイル331は、基板Sを保持する基板保持部SHの保持面の構造(例えば、保持面の高さ分布、複数のリブRIおよび複数のピンPIの配置)を示す情報を入力情報として含んでもよい。
【0040】
設定ファイル331に含まれる各ファイルは、通常、メモリ20に予め格納されている。このように、複数のファイルをメモリ20に格納してライブラリ化することで、シミュレーション条件(解析条件)の設定を容易にすることが可能となる。設定ファイル331に含まれる各ファイルのファイル名は、条件表示ウィンドウ336に表示される。また、ビジュアルウィンドウ301には、設定ファイル331の誤入力(誤選択)を防止するために、設定ファイル331に関する画像情報が表示される。また、ユーザは、シミュレーションを実行する場合、条件表示ウィンドウ336およびビジュアルウィンドウ301に表示される情報を確認し、問題がなければ実行ボタン337を操作する。これにより、プロセッサ10において、シミュレーションプログラム21によるシミュレーション計算が開始される。シミュレーション計算により作成されたシミュレーション結果(予測結果)はメモリ20に格納される。
【0041】
次に、情報処理装置1のディスプレイ30に提供されるシミュレーション結果(予測結果)を参照するためのユーザインターフェースを説明する。本実施形態では、ユーザは、
図9に示されるユーザインターフェースを参照しながら、ディスプレイ30に表示すべきシミュレーション結果を入力デバイス40を介して選択する。これにより、情報処理装置1(プロセッサ10)は、ユーザにより選択されたシミュレーション結果として、型Mの変位分布、基板Sの変位分布、および/または重ね合わせ誤差をビジュアルウィンドウ301に表示する。ここで、ビジュアルウィンドウ301に表示されるシミュレーション結果の大きさ、形状および数等は、
図9に示されるものに限定されるものではなく、シミュレーション結果として表示する対象に応じて任意に変更してディスプレイ30に表示してもよい。
【0042】
図9における結果表示選択欄302は、ビジュアルウィンドウ301に表示するシミュレーション結果を選択するためラジオボタンである。
図9の例では、ビジュアルウィンドウ301に表示するシミュレーション結果の項目として、「型の変位分布」、「基板の変位分布」および「重ね合わせ誤差」が挙げられており、それらのうち「重ね合わせ誤差」が、ユーザによって選択されている。以降、重ね合わせ誤差が選択された場合を例示的に説明するが、型の変位分布、または基板の変位分布が選択された場合も同様である。
【0043】
ビジュアルウィンドウ301に表示された複数のベクトル305は、硬化性組成物IMが形成する膜に平行な平面(XY方向)における、ディストーションの大きさおよび方向を可視化して表示したものである。ディストーションとは、前述したように、型Mの各格子点の変位、基板Sの各格子点の変位、および/または重ね合わせ誤差のことである。ディストーションの大きさは、ベクトルの長さ、および色によって可視化されて表示されている。カラーバー306は、色とディストーションの大きさとの関係を示している。
図9の例では、結果表示選択欄302において「重ね合わせ誤差」がユーザにより選択されているため、重ね合わせ誤差が複数のベクトル305としてビジュアルウィンドウ301に表示されている。本実施形態ではディストーションをベクトルで表示したが、この限りではなく、例えば、ワイヤーフレーム等で表示してもよい。
【0044】
外周307は、型Mのパターン領域PRの外周(あるいは、基板Sのショット領域の外周)を示している。
図9の例では、ビジュアルウィンドウ301にパターン領域PRの全域を表示しているが、この限りではなく、必要に応じて特定の領域のみを拡大表示してもよい。
【0045】
経過時間303は、膜形成処理(インプリント処理、平坦化処理)における経過時間を示している。本実施形態では、情報処理装置1(プロセッサ10)は、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動の時間変化、およびディストーションの分布(型Mの変位分布、基板Sの変位分布、重ね合わせ誤差)の時間変化を算出している。そのため、膜形成処理における任意のタイミング(経過時間)でのディストーションの分布をビジュアルウィンドウ301に表示することができる。
図9の例では、硬化性組成物IMと型Mとが接触を開始した時刻を基準時刻(0[s])と定めているが、この基準時刻は任意で変更することが可能である。また、
図9の例では、経過時間を変更するためのマイナスボタンとプラスボタンとが経過時間の表示の両脇に設けられており、それらを使用することで、所望の経過時間でのディストーションの分布をビジュアルウィンドウに301に表示することができる。ユーザは、入力デバイス40を介してプラスボタンを操作すると経過時間を進めることができ、入力デバイス40を介してマイナスボタンを操作すると経過時間を戻すことができる。
【0046】
ここで、
図9に示されるビジュアルウィンドウ301では、ディストーションの分布のみを表示している。この場合、ユーザは、ディストーションの大きさおよび方向について評価することができるが、なぜそのディストーションが発生しているのかまで把握することが困難である。そこで、本実施形態では、ディストーションの分布と、ディストーションの発生要因となりうる情報(項目)とを対比して表示することができるように構成されている。具体的には、硬化性組成物IMの挙動の予測に用いられた複数の入力情報の中から少なくとも1つの入力情報が選択された場合に、当該少なくとも1つの入力情報を二次元的な画像としてディストーションの分布に重ねて表示するように構成されている。そのために、本実施形態では、重ね表示選択欄304が設けられている。なお、二次元的な画像とは、XY方向における平面画像として理解されてもよく、以下では二次元画像と表記することがある。
【0047】
重ね表示選択欄304は、ディストーションの分布に重ねて表示する情報(以下、重ね表示情報)を選択するためのチェックボックスを有する。重ね表示情報の種類としては、硬化性組成物IMの挙動の予測に用いられた入力情報が含まれる。入力情報としては、例えば、基板Sの表面構造を示す情報、型Mの表面構造を示す情報、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴の分布を示す情報、および、基板保持部SHの保持面の構造を示す情報のうち少なくとも1つが挙げられる。
図9の例では、入力情報として、「基板の高さ(表面構造)」、「液滴の配置(分布)」および「基板保持部の構造」が重ね表示選択欄304に選択可能に含まれている。
【0048】
また、重ね表示情報の種類としては、硬化性組成物IMの挙動のシミュレーション結果(予測結果)を示す出力情報が含まれてもよい。出力情報としては、硬化性組成物IMの挙動(例えば複数の液滴の拡がり)の時間変化のシミュレーション結果を示す情報が挙げられ、
図9の例では、出力情報として「液滴の拡がり」が重ね表示選択欄304に選択可能に含まれている。さらに、重ね表示情報の種類としては、型M(パターン領域PR)と基板S(ショット領域)との重ね合わせ誤差を実際に計測した結果を示す計測情報が含まれてもよい。計測情報としては、アライメントスコープASで取得された重ね合わせ誤差の計測結果、および、外部装置で取得された重ね合わせ誤差の計測結果のうち少なくとも1つが挙げられる。
図9の例では、計測情報として、アライメントスコープASでの計測結果を示す「AS取得データ」と、外部装置での計測結果を示す「外部取得データ」とが、重ね表示選択欄304に選択可能に含まれている。
【0049】
重ね表示選択欄304における少なくとも1つの情報がユーザによりで選択された場合、ユーザにより選択された情報(項目)が、二次元画像として、ディストーションの分布(複数のベクトル305)に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示される。このとき、ユーザにより選択された情報の二次元画像と、ディストーションの分布(複数のベクトル305)とが相対的に位置合わせされてビジュアルウィンドウ301に表示される。このような表示処理はプロセッサ10によって行われる。重ね表示選択欄304では、ユーザによって任意の数の情報(項目)を選択することができる。
【0050】
図10は、基板Sの表面構造(高さ分布)を示す入力情報を、二次元画像としてディストーションの分布に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示した例を示している。ビジュアルウィンドウ301には、パターン領域PRの一部が拡大表示されている。基板Sの表面構造を示す入力情報の二次元画像では、基板Sの高さが色の濃淡で可視化されており、カラーバー306で基板の高さと色の濃淡との関係を示している。
図10の例では、領域308は、基板Sの高さが相対的に高い領域、領域309は、基板Sの高さが相対的に低い領域を示している。この例では、領域309を境にしてディストーションの向きが反転していることから、ビジュアルウィンドウ301に表示されたディストーションの主要因は基板Sの高さの変化であると判断することができる。このように、ディストーションの分布と基板Sの表面構造(高さ分布)を示す入力情報とを重ねて表示することで、ユーザは、ディストーションと基板の表面構造との因果関係を直感的に認識することができる。ディストーションの主要因が基板の高さの変化であると判断された場合、例えば、基板Sの高さが低い領域309における硬化性組成物IMの液滴密度を増加させることで、ディストーションを低減することができる。
【0051】
図11は、基板S上における硬化性組成物IMの複数の液滴の分布(配置)を示す入力情報を、二次元画像としてディストーションの分布に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示した例を示している。ビジュアルウィンドウ301には、パターン領域PRの一部が拡大表示されている。複数の液滴の分布を示す入力情報の二次元画像は、ディスペンサDSPによって基板上に配置された複数の液滴310の位置を可視化して表したものである。
図11の例では、点線311で囲まれた範囲の液滴の密度が他の範囲より相対的に高いことを示している。この例では、液滴の密度が低い領域から高い領域に変遷する領域(点線311の周辺)のディストーションが大きいことから、ビジュアルウィンドウ301に表示されたディストーションの主要因は液滴の密度の変化であると判断することができる。このように、ディストーションの分布と複数の液滴の分布を示す入力情報とを重ねて表示することで、ユーザは、ディストーションと複数の液滴の分布との因果関係を直感的に認識することができる。
【0052】
図12A~
図12Cは、硬化性組成物IMの拡がりを示す出力情報を、二次元画像としてディストーションの分布に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示した例を示している。ビジュアルウィンドウ301には、パターン領域PRのうち外周307を含む一部が拡大表示されている。この例では、硬化性組成物IMの挙動(拡がり)のシミュレーション結果とディストーションの分布とが時間的に整合するようにビジュアルウィンドウ301に表示される。硬化性組成物IMの複数の液滴が結合して成る膜313は、パターン領域PRと硬化性組成物IMとが接触した領域をXY平面に投影した面で表示したものである。硬化性組成物IMの拡がりを示す出力情報では、硬化性組成物IMの膜313の厚みが色の濃淡で可視化されており、カラーバー312で硬化性組成物IMの厚みと色の濃淡との関係を示している。
【0053】
図12Aの例では、パターン領域PRの外周307に近いほどディストーションが大きい。これは、
図5に例示された通り、メニスカス圧力によってパターン領域PRの端部が撓むためである。
図12Bは、
図12Aから時間が更に経過したときのシミュレーション結果を示している。はみ出し部314(染み出し部)は、パターン領域PRの外周307に達した硬化性組成物IMが外周307からはみ出した部分である。はみ出し部314では、硬化性組成物IMの厚みが他の部分より高くなるため、硬化性組成物IMの厚みを示す色の濃淡が他の部分より濃くなっていることで可視化されうる。
図12Bの例では、外周307からはみ出した硬化性組成物IMの表面はメニスカス圧が低下するため、
図12Aと比較して、ディストーションが低下している。このように、ディストーションの分布と硬化性組成物IMの拡がりを示す出力情報とを重ねて表示することで、ユーザは、ディストーションと硬化性組成物IMの拡がりとの因果関係を直感的に認識することができる。例えば、ユーザは、硬化性組成物IMの拡がり方によるディストーションの変化が大きいと判断した場合、型Mの凹部への硬化性組成物IMの充填時間や、パターン領域PRの外周307近傍における硬化性組成物IMの液滴の密度・配置を見直すことができる。これにより、硬化性組成物IMの拡がりに起因するディストーションを低減することができる。ここで、充填時間とディストーションとの因果関係の確認を補助するため、
図12Cに例示するようにディストーションの時間変化を示すグラフを表示する機能を備えてもよい。当該グラフは、例えば経過時間とディストーションの大きさとの関係を示すものであり、ポップアップウィンドウ316に表示されうる。また、当該グラフは、ビジュアルウィンドウ301のうち、入力デバイス40を介してユーザによりカーソル315で指定された座標(部分)におけるディストーションの時間変化を示すものであってもよい。
【0054】
図13は、基板保持部SHの構造を示す入力情報を、二次元画像としてディストーションの分布に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示した例を示している。ビジュアルウィンドウ301には、基板保持部SHのリブRIを含む一部が拡大表示されている。
図13の例では、リブSIを境にしてディストーションの向きが反転していることから、ビジュアルウィンドウ301に表示されたディストーションの主要因は、基板保持部SHが基板Sを保持したことで生じる基板Sの撓みであると判断することができる。このように、ディストーションの分布と基板保持部SHの構造を示す入力情報とを重ねて表示することで、ユーザは、ディストーションと基板保持部SHの構造との因果関係を直感的に認識することができる。
図13の例では、例えば、リブRI周辺の硬化性組成物IMの液滴配置を修正することで、ディストーションを低減することができる。
【0055】
上述したように、本実施形態では、硬化性組成物IMの挙動の予測に用いられた入力情報、および/または、硬化性組成物IMの挙動のシミュレーション結果を示す出力情報を、二次元画像としてディストーションの分布に重ねて表示する。これにより、ユーザは、ディストーションの分布と、ディストーションの発生要因となりうる情報(項目)との因果関係を直感的に且つ容易に認識することができる。つまり、ユーザは、ディストーションの主要因を容易に認識し、当該主要因に応じて膜形成条件を適切に調整することができるため、膜形成条件の調整に要する時間を低減することができる。
【0056】
<第2実施形態>
本発明に係る第2実施形態について説明する。本実施形態では、型M(パターン領域PR)と基板S(ショット領域)との重ね合わせ誤差を実際に計測した結果を示す計測情報を、二次元画像としてディストーションの分布に重ねて表示する例を説明する。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、本実施形態で言及しない事項は第1実施形態に従いうる。
【0057】
図14は、硬化性組成物IMの拡がりを示す出力情報と、アライメントスコープASによる重ね合わせ誤差の計測結果を示す計測情報とを、シミュレーションで得られたディストーションの分布に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示した例を示している。硬化性組成物IMの拡がりを示す出力情報は、二次元画像としてビジュアルウィンドウ301に表示され、アライメントスコープASによる計測結果を示す計測情報は、点線のベクトル317としてビジュアルウィンドウ301に表示されうる。
【0058】
また、ビジュアルウィンドウ301の一部が、入力デバイス40を介してユーザによりカーソル315で指定された場合、ポップアップウィンドウ318が表示される。ポップアップウィンドウ318には、ユーザにより指定された座標(部分)について、シミュレーションで得られたディストーションの時間変化とアライメントスコープASで得られた重ね合わせ誤差の計測結果の時間変化とを示すグラフが表示される。
図14の例では、アライメントスコープASによる計測結果と比較して、シミュレーションの方がディストーション(重ね合わせ誤差)の増加が早いことを示している。この例では、メニスカス圧によるパターン領域PRの撓みが、シミュレーション結果よりも実際(実現象)の方が早く進行したと考えられる。要因としては、例えば、硬化性組成物IMの拡がり方の差が挙げられる。ユーザは、このようなビジュアルウィンドウ301(およびポップアップウィンドウ318)の表示に基づいて、シミュレーション条件および/または膜形成条件を見直すことができる。
【0059】
ここで、
図14の例では、アライメントスコープASで計測された一つの点の重ね合わせ誤差をシミュレーション結果と対比して表示しているがこの限りではない。アライメントスコープASで計測された複数点の重ね合わせ誤差から算出されるパターン領域PRの全域にわたる変形形状、具体的には、倍率、ひし形、台形、弓形などの成分を、シミュレーション結果と対比して表示してもよい。倍率、ひし形、台形、弓形などの成分は、例えば、複数点のディストーションから最小二乗法で算出することができる。
【0060】
図15は、外部装置による重ね合わせ誤差の計測結果を示す計測情報を、シミュレーションで得られたディストーションの分布に重ねてビジュアルウィンドウ301に表示した例を示している。外部装置は、膜形成装置IMPの外部に設けられた装置であり、基板に既に形成されているパターンと膜形成処理によって基板上の硬化性組成物IMに形成されたパターンとの重ね合わせ誤差を計測するように構成されうる。外部装置による重ね合わせ誤差の計測結果を示す計測情報は、点線のベクトル319としてビジュアルウィンドウ301に表示されうる。
図15の例では、パターン領域PRの四隅において、外部装置で計測された重ね合わせ誤差の方が、シミュレーションで計算されたディストーション(重ね合わせ誤差)よりも大きくパターン中心方向に向かって延びている。この例では、シミュレーション結果よりも実際(実現象)の方が、パターン領域PRの四隅が大きく撓んだと考えられる。要因としては、型駆動部MDからの型Mに働く力Fの誤差が挙げられる。ユーザは、このようなビジュアルウィンドウ301の表示に基づいて、シミュレーション条件および/または膜形成条件を見直すことができる。
【0061】
ここで、情報処理装置1(プロセッサ10)は、アライメントスコープASや外部装置で取得された重ね合わせ誤差の計測結果を加工する機能を備えていてもよい。例えば、アライメントスコープASや外部装置で取得されたデータにおけるパターン領域PRの全域の位置・形状を調整しうる。つまり、当該データにおけるパターン領域PRと、シミュレーション結果におけるパターン領域PRとの位置・形状が一致するように、当該データにおけるパターン領域PRの低次の位置ずれ成分(例えば、シフト、回転、ひし形、倍率成分など)を除去しうる。これは、基板Sの凹凸、硬化性組成物IMの複数の液滴の分布、硬化性組成物IMの表面張力によるディストーションが、パターン領域PRの局所的な領域で起こるため、当該局所的な領域を拡大表示するには、位置・形状を一致させる必要があるからである。
【0062】
データの加工は上記に限られず、例えば、型歪調整部MCおよび基板歪調整部SCの歪み調整成分や、型Mや基板Sに予め形成されたパターンの設計値からの位置ずれなど、情報処理装置1が考慮しない事項によって生じうる位置ずれ成分を除去してもよい。また、膜形成処理で実施されうる、アライメントスコープASで取得した基板Sと型Mとの位置ずれの補正制御、例えば、型歪調整部MSや基板駆動機構SDの閉ループ制御を、情報処理装置1の予測計算に盛り込んでディス―ションを算出してもよい。
【0063】
上述したように、本実施形態では、重ね合わせ誤差の計測結果を示す計測情報を、シミュレーションで得られたディストーションの分布に重ねて表示する。これにより、ユーザは、シミュレーション結果と計測結果とを比較することができるため、シミュレーション結果と計測結果との差分を的確に把握し、シミュレーション条件および/または膜形成条件を適切に調整することができる。つまり、ユーザは、シミュレーション条件および/または膜形成条件の調整に要する時間を低減することができる。
【0064】
<第3実施形態>
本発明に係る第3実施形態について説明する。上記の第1~第2実施形態では、複数の重ね表示情報(例えば入力情報)の中からユーザにより選択された重ね表示情報を、シミュレーションで得られたディストーションの分布に重ねて表示する例を説明した。本実施形態では、複数の入力情報の中から、シミュレーションで得られたディストーションの分布に対する相関性が最も高い入力情報を、当該ディストーションの分布に重ねて表示する例を説明する。なお、本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、本実施形態で言及しない事項は第1実施形態に従いうる。また、本実施形態は、第2実施形態を引き継いでもよい。
【0065】
図16は、本実施形態において、シミュレーションプログラム21により情報処理装置1(プロセッサ10)で実行される処理を示すフローチャートである。
ステップS11では、情報処理装置1は、シミュレーション条件としての複数の入力情報に基づいて、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動のシミュレーションを行う(シミュレーション工程(算出工程))。複数の入力情報は、前述したように、型Mの表面構造を示す情報、基板Sの表面構造を示す情報、基板S上に配置される硬化性組成物IMの複数の液滴の分布を示す情報、基板保持部SHの保持面の構造を示す情報を含みうる。また、当該シミュレーションでは、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測するとともに、膜形成処理において基板Sおよび型Mの少なくと一方に生じるディストーションの分布も算出する。
【0066】
ステップS12では、情報処理装置1は、複数の入力情報の中から、ステップS11で算出されたディストーションの分布に対する相関性が最も高い入力情報を選択する(選択工程)。例えば、情報処理装置1は、複数の入力情報の各々について、ステップS11で算出されたディストーションの分布に対する相関性を算出し、複数の入力情報の中から当該相関性が最も高い入力情報を重ね表示情報として選択する。相関性は、入力情報の二次元画像に対して公知の画像処理を行うことによって当該二次元画像の特徴点を抽出し、抽出された特徴点とディストーションの分布を示すベクトル305の方向および長さとの一致度から算出されうる。入力画像の二次元画像の特徴点は、例えば、型Mの段差部分、基板の段差部分、液滴の密度の変化部分などが挙げられる。また、相関性は、入力情報を入力とし、当該入力情報に対するディストーションの分布の相関性を出力とするモデルを用いて算出されてもよい。当該モデルは、AI(Artificial Intelligence)技術を用いた機械学習によって生成されうる。
【0067】
ステップS13では、情報処理装置1は、ステップS12で選択された入力情報を二次元画像として、ステップS11で算出されたディストーションの分布に重ねてディスプレイ30に表示する。これにより、ユーザは、複数の入力情報のうちディストーションの分布の主要因となる入力情報を的確に且つ容易に認識すし、当該主要因に応じて膜形成条件を適切に調整することができるため、膜形成条件の調整に要する時間を低減することができる。
【0068】
<第4実施形態>
上記実施形態では、膜形成処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する情報処理装置1(シミュレーション装置)を、膜形成装置IMPと別体として構成する例を説明した。しかしながら、それに限られず、膜形成装置IMPに情報処理装置1(シミュレーション装置)が組み込まれてもよい。この場合、膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理(膜形成処理)を、情報処理装置1による硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御しうる。また、上記実施形態では、型Mがパターンを有する形態について説明したが、本発明は、基板Sがパターンを有する形態にも適用できる。
【0069】
<物品の製造方法の実施形態>
実施形態の物品製造方法は、上記シミュレーション方法を実施した結果に基づいて、膜形成処理の条件を決定する工程と、該条件に従って該膜形成処理を実行する工程を含みうる。膜形成処理の条件を決定する工程では、上記シミュレーション方法を繰り返しながら該膜形成処理の条件が決定されてもよい。
【0070】
図17には、物品製造方法のより具体的な例が示されている。
図17(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0071】
図17(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図17(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0072】
図17(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0073】
図17(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図17(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0074】
<その他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0075】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0076】
IMP:膜形成装置、M:型、S:基板、1:情報処理装置、10:プロセッサ、20:メモリ、30:ディスプレイ、40:入力デバイス