(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】回転電機、回転電動機駆動システム、並びに電動車両
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240621BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2022195104
(22)【出願日】2022-12-06
(62)【分割の表示】P 2018134219の分割
【原出願日】2018-07-17
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 愼治
(72)【発明者】
【氏名】民谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 昂歳
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506683(JP,A)
【文献】特開2002-118994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
H02K 1/22
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、前記固定子に対向する回転子と、を備える回転電機において、
前記回転子の極数は6極以上であり、
前記回転子の断面形状は、1極ピッチ分の部分的断面形状が極数分配置されて構成され、
前記部分的断面形状は、前記回転子のコアが備える空隙もしくは前記空隙内に位置する永久磁石を含み、
前記空隙の断面形状がV字であり、
極数分の前記部分的断面形状には、3種類以上の互いに異なる形状が含まれ、
前記回転子の断面形状は2回対称の回転対称性を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記回転子の前記断面形状は線対称性を有すること特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記回転子は、前記空隙によって突極性を有することを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項
3に記載の回転電機おいて、
前記空隙の間を通る磁気抵抗が最小の方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で直交する方向をq軸とすると、前記回転子の前記断面形状の対称軸は、前記d軸または前記q軸であることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項
1に記載の回転電機において、
前記回転子は、前記空隙内に位置する前記永久磁石を有することを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項
5に記載の回転電機おいて、
前記永久磁石における最大起磁力方向をd軸とし、前記d軸に対して電気角で直交する方向をq軸とすると、前記回転子の前記断面形状の対称軸は、前記d軸または前記q軸であることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項
5に記載の回転電機において、
前記3種類以上の互いに異なる形状において、前記永久磁石の前記断面形状は1種類であることを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項
7に記載の回転電機において、
前記回転子の極数をnとすると、前記永久磁石の前記断面形状の配置が前記回転子の回転軸心に対してn回対称性を有することを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項
5に記載の回転電機において、
前記3種類以上の互いに異なる形状において、前記永久磁石の前記断面形状は複数種類であることを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項
9に記載の回転電機において、
前記永久磁石は、単数もしくは複数の単位永久磁石から構成されることを特徴とする回転電機。
【請求項11】
負荷を駆動する回転電機と、前記回転電機を駆動する電力変換装置と、を備える回転電機駆動システムにおいて、
前記回転電機は、請求項1に記載される回転電機であることを特徴とする回転電機駆動システム。
【請求項12】
回転電機と、バッテリと、前記バッテリの直流電力を交流電力に変換して、前記回転電機に供給する電力変換装置と、を備え、前記回転電機のトルクが変速機を介して車輪に伝達される電気自動車において、
前記回転電機は、請求項1に記載される回転電機であることを特徴とする電気自動車。
【請求項13】
回転電機と、ギアを介して前記回転電機によって駆動される車輪と、を有する電気鉄道車両において、
前記回転電機は、請求項1に記載される回転電機であることを特徴とする電気鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電機、回転電動機駆動システム、並びに回転電機を備える電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や電気鉄道車両などの電動車両に用いられる回転電機である駆動用モータには大出力が求められるため、磁気エネルギーを保持する永久磁石を組み込んだ永久磁石モータが用いられる。特に駆動用モータには、低速大トルクや高速低トルクなど広い運転範囲での高効率化が求められるので、これらの特性を満足できる埋込磁石式モータが一般に利用されている。さらに、電動車両の駆動用モータには、これらの特性の他に、振動や騒音の低減が要求される。低振動化や、低騒音化のためには、埋込磁石式モータのトルク脈動低減が課題となる。
【0003】
これに対し、従来、特許文献1に記載の技術が知られている。本技術においては、回転子内部に配置された永久磁石の磁極がN極からS極へ、もしくはS極からN極へ切り替わる回転子表面の位置が成す角度がそれぞれ異なる。この構成を有する回転子が回転した場合、それぞれの磁極の切り替わる部分が固定子側に並んだスロット部を通過する順番に、時間的な遅れが生じる。これによりコギングトルクが低減される。
【0004】
なお、特許文献1においては、磁極ごとに永久磁石の幅が異なる回転子(
図1)や、磁石幅は一定であるが永久磁石を埋め込むスリットの幅が異なる回転子(
図3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、コギングトルクを含むトルク脈動を低減できるが、トルクの回転方向依存性が発生するという問題がある。このため、電動車両に用いられる電動機の駆動制御が複雑になる。
【0007】
そこで、本発明は、トルクの回転方向依存性を発生させることなくトルク脈動を低減できる回転電機、並びに、回転電機を備える回転電動機駆動システムおよび電動車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による回転電機は、固定子と、固定子に対向する回転子と、を備えるものであって、回転子の極数は6極以上であり、回転子の断面形状は、1極ピッチ分の部分的断面形状が極数分配置されて構成され、部分的断面形状は、回転子のコアが備える空隙もしくは空隙内に位置する永久磁石を含み、空隙の断面形状がV字であり、極数分の部分的断面形状には、3種類以上の互いに異なる形状が含まれ、回転子の断面形状は2回対称の回転対称性を有する。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による回転電機駆動システムは、負荷を駆動する回転電機と、回転電機を駆動する電力変換装置と、を備えるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機である。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明による電気自動車は、回転電機と、バッテリと、バッテリの直流電力を交流電力に変換して、回転電機に供給する電力変換装置と、を備え、回転電機のトルクが変速機を介して車輪に伝達されるものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機である。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明による電気鉄道車両は、回転電機と、ギアを介して前記回転電機によって駆動される車輪と、を有するものであって、回転電機は、上記本発明による回転電機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トルクの回転方向依存性を発生させることなくトルク脈動を低減できる。これにより、回転電動機駆動システムや電動車両において発生する電力損失や騒音を低減できる。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】一変形例である回転電機の回転子の断面図である。
【
図5】別の変形例である回転電機の回転子の断面図である。
【
図8】比較例におけるモータ電流とトルク平均値の比との関係を示す。
【
図9】比較例における軽負荷時のトルク波形を示す。
【
図10】比較例における重負荷時のトルク波形を示す。
【
図11】実施例1におけるモータ電流とトルク平均値の比との関係を示す。
【
図12】実施例1における軽負荷時のトルク波形を示す。
【
図13】実施例1における重負荷時のトルク波形を示す。
【
図14】正回転時と逆回転時における実施例1の磁束分布を示す。
【
図15】正回転時と逆回転時における比較例の磁束分布を示す。
【
図16】実施例2である回転電機の回転子の断面図である。
【
図17】実施例3である回転電機駆動システムの概略構成を示す。
【
図18】実施例4である電気自動車の概略構成を示す。
【
図19】実施例5である電気鉄道車両の概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~5により、図面を用いながら説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。なお、各実施例における回転電機は、埋込磁石型の永久磁石同期モータである。また、各実施例における回転電機は、いわゆるインナーロータ型の回転電機である。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例1である回転電機の全体構成を示す。本
図1は、回転電機の回転軸に平行な平面での断面図である。
【0017】
図1に示すように、回転電機1は、固定子10と、固定子10の径方向内側に回転可能に支持される回転子30と、回転子30に固定されるシャフト90と、固定子10および回転子30を覆うフレーム5から構成されている。回転子30は、固定子10にギャップ100(空隙)を介して対向する。固定子10は、後述する固定子スロット22(
図2中の「22」)に巻装される固定子巻線21を備えている。
【0018】
図2は、
図1における回転電機1の、回転軸に垂直な平面での断面図である。
【0019】
図2において、回転子30は回転軸心Xを中心に回転する。なお、以下の説明において、断りのない限り、「内周側」および「外周側」という記載は、それぞれ回転軸心Xに対して距離が近い側および遠い側を意味する。また、「径方向」という記載は、回転軸心Xと垂直に交わる直線方向を意味し、「周方向」という記載は、回転軸心Xまわりの回転方向を意味する。
【0020】
図2に示すように、回転子30は、磁性体からなる回転子コア40と、回転子30の回転軸であり、回転子コア40を貫通するシャフト90とから構成される。また、回転子30は、偶数個(
図2では8個)で6極以上(
図2では8極)の磁極を有している。各磁極は、少なくとも一つ(
図2では一つ)の磁石挿入孔を有している。磁石挿入孔には、磁極を構成するために永久磁石(70a~70c)が収容されている。なお、本実施例1において、周方向における磁石挿入孔の幅は、永久磁石(70a~70c)を収容するために、周方向における永久磁石(70a~70c)の幅(L1~L3)よりもわずかに大きいが、実質、両幅は同等である。
【0021】
固定子10は、磁性体からなる固定子コア20を備える。固定子コア20は、内周側に位置して回転子30と対向する固定子ティース25を有する。隣り合う二つの固定子ティース25間の空間である固定子スロット22には、図示されない固定子巻線が通る。なお、本実施例1においては、固定子スロット22の個数が48個である。
【0022】
図2に示すように、回転子30は、いわば、外形が略扇形である1極ピッチ(角度τp)分の部分的断面形状130(図中、破線で囲んだ領域)を有する部分の集合体である。回転子30の周方向においては、形状が異なる3種類以上の部分的断面形状130が配置されることが好ましく、本実施例1では3種類の部分的断面形状130が配置される。3種類の部分的断面形状130においては、永久磁石の断面形状が異なり、
図2においては、周方向における永久磁石の幅が異なる。すなわち、永久磁石の幅が、永久磁石70aの幅L1、永久磁石70bの幅L2、永久磁石70cの幅L3の三種類である。なお、L1,L2,L3の間には、L1<L3<L2という関係がある。
【0023】
ここで、回転子30の断面では、この断面の形状(永久磁石や空隙(後述)などの断面形状を含むパターン形状)が回転軸心Xを通り回転軸に直交する直線を対称軸とする線対称性を有するように、3種類かつ極数分(8個)の部分的断面形状130が配置される。本実施例1では、磁石幅L1の部分的断面形状130が2個、磁石幅L2の部分的断面形状130が4個、磁石幅L3の部分的断面形状130が2個、回転子30内において互いに向かい合う磁石幅L3の2個の磁石断面の幅方向中央を通る対象軸Lに対して、線対称に配置される。これにより、回転子30の断面形状は線対称性を有する。
【0024】
なお、対称軸Lに直交する直線、すなわち、回転子30内において互いに向かい合う磁石幅L1の2個の磁石断面の幅方向中央を通る直線も対象軸となる。すなわち、本実施例では、対称軸L上に2個の磁石幅L3の磁石断面が配置され、対称軸Lに直交する直線上に2個の磁石幅L1の磁石断面が配置され、両磁石断面間(4か所)に4個の磁石幅L2の磁石断面が一個ずつ配置される。従って、隣接する2個の部分的断面形状130において、磁石幅は互いに異なっている。
【0025】
また、3種類(磁石幅L1~L3)、8個の部分的断面形状130内の磁石幅の周方向の配置順は、対称軸L上に位置する二個のL3の一方を起点かつ終点として、
図2中の時計回りに、L3,L2,L1,L2,L3,L2,L1,L2,L3の順である。なお、磁石幅L1,L3の磁石断面だけでなく、互いに対向する2個の磁石幅L2の磁石断面も、これら磁石幅L2の2個の磁石断面の幅方向中央を通る直線上に位置する。従って、回転子30の断面の形状は、回転軸心Xを回転中心とする2回対称の回転対称性(180°および360°の回転に対して形状が重なる)を有する。
【0026】
上述のように、回転子30の断面形状が、線対称性を有するように、外形が略扇形である1極ピッチ(τp)分の部分的断面形状130から構成され、3種類以上の異なる形状の部分的断面形状130が極数分配置されることにより、後述するように、磁束分布の回転方向依存性が抑制される。これにより、トルクの回転方向依存性を発生させることなくトルク脈動を低減できる。本実施例では、さらに、極数分の部分的断面形状130が回転対称性を有するように配置される。これにより、確実に磁束分布の回転方向依存性が抑制される。
【0027】
なお、
図2におけるL1,L2,L3の関係は、本実施例におけるL1<L3<L2に限らず、例えばL1<L2<L3でもよい。
【0028】
永久磁石70の磁石材料は、フェライト系、ネオジム系、サマリウムコバルト系などのいずれでもよい。また、本実施例1の永久磁石70a~70cは、
図2の断面において矩形形状であるが、これに限らず円弧形状でもよい。さらに、磁石挿入孔50に、ボンド磁石(プラスチック磁石やゴム磁石)を射出充填してもよい。また、1極当たりの永久磁石は、径方向や周方向に複数に分割されてもよい。
【0029】
回転子コア40を構成する磁性体として、好ましくは、回転子コア40に発生する渦電流損失を低減するために、電気的絶縁体でラミネーションされる磁性鋼板の積層体が適用される。なお、材料費や加工費を低減するためにソリッド(バルク)磁性体を使用してもよい。また、回転子コア40は、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成型して構成してもよいし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成してもよい。回転子コア40は、シャフト90に対して接着、溶接、圧入、焼き嵌めなどの手段によって固定される。回転子コア40をソリッド(バルク)の磁性体で構成する場合は、回転子コア40とシャフト90を一体成型してもよい。また、
図2では磁石挿入孔50の断面形状を長方形としているが、これに限らず、略V字形状や略円弧形状などでもよい。
【0030】
また、固定子コア20の材料として、好ましくは、固定子コア20に発生する渦電流損失を低減するために、電気的絶縁体でラミネーションされる磁性鋼板の積層体が適用される。なお、材料費や加工費を低減するためにソリッド(バルク)の磁性体を使用してもよい。また、固定子コア20は、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成型して構成してもよいし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成してもよい。固定子コア20とフレーム5は、接着、溶接、圧入、焼き嵌めなどの手段を用いて固定される。
【0031】
図3~6を用いて、実施例1の変形例について説明する。なお、主に、実施例1と異なる点について説明する。
【0032】
図3は、実施例1の一変形例である回転電機の回転子の、回転軸に垂直な平面での断面図である。本変形例は、回転子コア40に永久磁石が埋め込まれない、いわゆるリラクタンス(reluctance)モータである。回転子コアの以外の構成は、前述の実施例1と同様である。
【0033】
図3の変形例における回転子30は、磁性体からなる回転子コア40と、回転子30の回転軸であり、回転子コア40を貫通するシャフト90とから構成される。また、回転子30は、外周側において周方向に配置される偶数個(
図3では8個)の空隙(60a~60c)を有する。こられの空隙が磁気障壁となることにより、回転子30は、6極以上(
図3では8極)の磁極部(突極)を有する。すなわち、回転子30は、回転子コア40内における空隙60a~60cによって、突極性を有する。
【0034】
空隙60a~60c内は、真空でもよいし、空気などの気体、樹脂や非磁性体などが充填されてもよい。すなわち、空隙内の比透磁率が回転子コア40の比透磁率よりも小さければよい。
【0035】
本変形例の回転子30は、いわば、実施例1(
図2)において永久磁石70a~70cを除去した回転子である。すなわち、周方向における空隙60a~60cの幅w1,w2,w3は、それぞれ実施例1(
図2)における磁石幅L1,L2,L3に対応する。従って、本変形例においては、空隙幅w1,w2,w3の間に、w1<w3<w2の関係がある。
【0036】
従って、本変形例の回転子30の断面では、実施例1と同様に、形状が異なる3種類の部分的断面形状130が周方向に配置される。なお、本変形例における3種類の部分的断面形状130においては、周方向における空隙の断面形状すなわち空隙幅(w1,w2,w3)が異なる。また、実施例1と同様に、3種類で8個の部分的断面形状130が、
図3中の対称軸Lに対して線対称に配置されるともに、回転軸心Xを回転中心として2回回転対称に配置される。これにより、実施例1と同様に、トルクの回転方向依存性を生ずることなくトルク脈動が低減できる。
【0037】
図4は、
図3の回転子30の、回転軸に垂直な平面での部分断面図を示す。
【0038】
回転子30の磁気抵抗の大きさは、空隙60a~60cにより、回転子位置によって異なる。そこで、空隙間すなわち磁極部(突極)を通る磁気抵抗が最小の方向をd軸と定義し、d軸に対して電気角で直交する方向、すなわち空隙の幅方向中央部を通る方向をq軸と定義する。すなわち、各部分的断面形状130において、d軸とq軸を定義することができる。回転子の断面が極端にいびつな形状ではない限り、d軸どうしは電気角で180°ずれた関係にあり、同様にq軸どうしも電気角で180°ずれた関係にあり、本変形例も同様である。本変形例では、任意に選んだある1つの部分的断面形状130のd軸とq軸を、回転子30のd軸およびq軸と定義することができる。
【0039】
上述のように、
図3に示す回転子30の断面では、形状が異なる3種類以上の部分的断面形状130が、
図3中の対称軸Lに対して線対称に配置される。この場合、対称軸Lは、d軸またはq軸であることが好ましい。なお、本変形例では、
図3,4から判るように、対称軸Lはq軸である。
【0040】
図5は、実施例1の別の変形例である回転電機の回転子の回転軸に垂直な平面での断面図である。本変形例の回転電機は、インナーロータ型である埋込磁石型の永久磁石同期モータである。
【0041】
図5の変形例における回転子30は、磁性体からなる回転子コア40と、回転子30の回転軸であり、回転子コア40を貫通するシャフト90とから構成される。また、回転子30は、外周側において周方向に配置される偶数個(
図5では8個)で6極以上(
図5では8極)の磁極を有し、各磁極は少なくとも一つ(
図5では一つ)の磁石挿入孔50a~50cを有している。周方向における磁石挿入孔50a~50cの中央部には、磁極を構成するために永久磁石70a~70cが収容されている。磁石挿入孔50bおよび50cは、永久磁石よりも断面積が大きく、永久磁石70の挿入されていない領域は磁気障壁80となる。この領域内は、
図3の空隙60a~60cと同様に、真空でもよいし、空気などの気体、樹脂や非磁性体などが充填されてもよい。すなわち、磁気障壁80の比透磁率は、回転子コア40比透磁率よりも小さければよい。
【0042】
本変形例の回転子30は、いわば、前述の
図3の変形例において、空隙60a~60cを磁石挿入孔50a~50cとして、永久磁石70a~70cを挿入した回転子である。すなわち、周方向における磁石挿入孔50a~50cの幅w1,w2,w3は、それぞれ
図3の変形例における空隙幅w1,w2,w3に対応する。従って、
図5の変形例においては、磁石挿入孔幅w1,w2,w3の間に、w1<w3<w2の関係がある。
【0043】
さらに、本変形例においては、磁石挿入孔50a,50b,50cに、それぞれ永久磁石70a,70b,70cが収容される。ここで、永久磁石70a,70b,70cは、同じ磁石幅L1を有する。すなわち、部分的断面形状130における永久磁石の断面形状が1種類のみである。磁石挿入孔幅w1は実質、磁石幅L1に等しい。また、磁石挿入孔幅w2は磁石幅L1よりも大きく、磁石挿入孔幅w3も磁石幅L1よりも大きい。このような大小関係に加えて、前述のようにw1<w3<w2であるから、永久磁石70a,70b,70cに接する磁気障壁80の周方向の幅は互に異なっている(但し、永久磁石70aについては、磁気障壁80の周方向の幅は実質「零」)。
【0044】
このように、
図5の変形例の回転子30の断面では、実施例1と同様に、形状が異なる3種類の部分的断面形状130が周方向に配置される。なお、本変形例における3種類の部分的断面形状130においては、周方向における磁石挿入孔の幅(w1,w2,w3)および磁気障壁80の幅が異なる。また、3種類で8個の部分的断面形状130が、
図5中の対称軸Lに対して線対称に配置されるともに、回転軸心Xを回転中心として2回回転対称に配置される。これにより、実施例1と同様に、トルクの回転方向依存性を生ずることなくトルク脈動が低減できる。
【0045】
なお、本変形例では、空隙である磁石挿入孔による突極性によって発生するリラクタンストルクに加え、永久磁石70a~70cによる磁石トルクが発生するので、モータトルクが向上する。
【0046】
本変形例においては、回転子30の極数をnと定義すると(
図5ではn=8)、永久磁石70a~70cの断面形状の配置が、回転子30の回転軸心Xに対してn回対称性を有していてもよい。本配置では、回転子コア40の磁気抵抗分布を無視する場合の永久磁石の起磁力分布は各部分的断面形状130で同一であるが、異なった部分的断面形状130どうしでは回転子コア40の磁気抵抗分布が異なるため、トルク脈動を低減することができる。さらに、各部分的断面形状130で永久磁石70の挿入位置が同じであるため、永久磁石70を挿入する際に、磁極ごとに磁石の位置や磁石量が一定となるため、回転電機の組立において、磁石挿入の自動化が容易になる。
【0047】
図6は、
図5の回転子30の、回転軸に垂直な平面での部分断面図を示す。
【0048】
図5の回転子30は、永久磁石70a~70cを有するので、回転子30における起磁力分布が回転子位置によって異なる。そこで、永久磁石における最大起磁力方向をd軸と定義し、d軸に対して電気角で直交する方向すなわち隣接する磁気障壁80間を通る方向をq軸と定義する。すなわち、各部分的断面形状130において、d軸とq軸を定義することができる。回転子の断面が極端にいびつな形状ではない限り、d軸どうしは電気角で180°ずれた関係にあり、同様にq軸どうしも電気角で180°ずれた関係にあり、本変形例も同様である。本変形例では、任意に選んだある1つの部分的断面形状130のd軸とq軸を、回転子30のd軸およびq軸と定義することができる。
【0049】
上述のように、
図5に示す回転子30の断面では、形状が異なる3種類以上の部分的断面形状130が、
図5中の対称軸Lに対して線対称性に配置される。この場合、対称軸Lは、d軸またはq軸であることが好ましい。なお、本変形例では、
図5,6から判るように、対称軸Lはd軸である。
【0050】
次に実施例1の効果について説明する。なお、以下に説明する効果は、上述の各変形例、並びに後述の実施例2についても同様である。
【0051】
各磁極のある瞬間でのトルクは、回転子コア40の磁気抵抗分布と固定子ティース25との位置関係に依存する。また、このトルクは、回転子30が永久磁石70を有する場合、永久磁石70の起磁力分布と固定子ティース25との位置関係にも依存する。特に、スロットコンビネーションに起因する次数の成分、例えば、実施例1(
図2)のような8極48スロットでは12次成分が、主要なトルク脈動成分であり、かつその位相は回転子コア40の磁気抵抗分布もしくは永久磁石70の起磁力分布と、固定子ティース25との位置関係に依存する。例えば、各磁極で、回転子コア40の磁気抵抗が最小の方向、もしくは永久磁石70の起磁力が最大の方向と、固定子ティース25とが対面する時の位置関係が同一である場合、各磁極でのトルク脈動の位相はほぼ一致する。
【0052】
したがって、形状が異なる部分的断面形状130において、各磁極で、回転子コア40の磁気抵抗が最小の方向と固定子ティース25とが対面する場合の両者の位置関係を異ならせたり、永久磁石70の起磁力が最大の方向と固定子ティース25とが対面する場合の位置関係を異ならせたりすることで、各磁極のスロットコンビネーション起因のトルク脈動の位相をずらすことができる。これにより、トルク脈動を低減することができる。さらに、回転子の断面において、1極ピッチあたりの部分的断面形状130(
図2)を3種類以上とすることで、トルク脈動を確実に低減させることができる。
【0053】
以下、
図8~15を用いて、実施例1の効果について説明するが、その前に、まず、比較例とする回転電機について説明する。
【0054】
図7は、比較例である回転電機の、回転軸に垂直な平面での断面図を示す。
【0055】
図7に示すように、本比較例では、回転子30の断面は、形状が異なる3種類以上(
図7では4種類(永久磁石70a~70dの磁石幅がそれぞれL1,L2,L3,L4:L1<L4<L3<L2))の部分的断面形状130は有しているが、これら4種類8個の部分的断面形状130の配置は、線対称性を有していない。
【0056】
以下に説明する
図8~15は、本発明者の検討に基づく。本検討においては、比較例(
図7)と実施例1(
図2)のトルクの回転方向依存性を電磁界解析で分析している。比較例と実施例においては、固定子10の内外径、回転子30の内外径、固定子巻線21の形状や配置は同一とし、磁石挿入孔50および永久磁石70の寸法と配置を異ならせた。前述の通り、部分的断面形状130の配置すなわち永久磁石の断面形状の配置について、比較例は線対称性を有しておらず、実施例は線対称性を有している。また、比較例と実施例においては、回転電機の各部を構成する各材料の物性値は同一としている。なお、電磁界解析においては、小電流で低トルクの軽負荷条件から、大電流で高トルクの重負荷条件までのトルクを正回転の場合と逆回転の場合とで計算している。
【0057】
図8は、比較例におけるモータ電流とトルク平均値の比との関係を示す。
【0058】
図8において、横軸は固定子巻線21に流した電流の大きさをpu(per unit)値で示す。電流値は、最大電流を1として正規化されている。また、縦軸は、各電流条件で、正回転の場合と逆回転の場合のトルク平均値の比を示す。このため、トルク平均値の比が1の場合、正回転と逆回転の各トルク平均値は同一であり、トルクに回転方向依存性が発生していないことを意味する。また、トルク平均値の比が1ではない場合、トルクに回転方向依存性が発生することを意味する。
【0059】
図8に示すように、比較例では、電流が0.4pu以下の軽負荷条件ではトルクの回転方向依存性は発生しないが、電流が0.4pu以上の重負荷条件ではトルクの回転方向依存性が発生する。
【0060】
図9は、比較例における正回転と逆回転での軽負荷時のトルク波形を示す。横軸は電気角を示し、縦軸はトルクをpu(per unit)値で示す。実線が正回転時のトルク波形を示し、破線が逆回転時のトルク波形を示す。なお、
図9では実線と破線が重なっている。
【0061】
図9に示すように、軽負荷条件の場合、比較例のトルク波形に回転方向依存性は発生しない。
【0062】
図10は、比較例における正回転と逆回転での重負荷時のトルク波形を示す。実線が正回転時のトルク波形を示し、破線が逆回転時のトルク波形を示す。
【0063】
図10に示すように、重負荷条件の場合、比較例のトルク波形に回転方向依存性が発生する。
【0064】
図11は、実施例1におけるモータとトルク平均値の比との関係を示す。横軸および縦軸については、前述の
図8と同様である。
【0065】
図11に示すように、実施例1では、電流によらず、すなわち負荷条件によらず、トルク平均値の比は1である。従って、トルクの回転方向依存性は発生しない。
【0066】
図12は、実施例1における正回転と逆回転での軽負荷時のトルク波形を示す。横軸および縦軸については、前述の
図9と同様である。
【0067】
図12に示すように、軽負荷条件の場合、実施例1のトルク波形に回転方向依存性は発生しない。
【0068】
図13は、実施例1における正回転と逆回転での重負荷時のトルク波形を示す。
【0069】
図13に示すように、重負荷条件の場合、実施例1のトルク波形に回転方向依存性は発生しない。
【0070】
図11~13に示すように、実施例1では、トルクに回転方向依存性は発生しない。
【0071】
なお、本発明者の検討によれば、比較例においてトルクの回転方向依存性が発現する原因は、永久磁石70間の回転子コア40の磁気飽和である。回転子の断面の形状に線対称性がないと、同じ大きさの電流の作る磁束であっても、永久磁石70どうしの間隔が狭い領域では、広い領域に比べて回転子コア40の磁気飽和が進み磁束が通りにくくなる。したがって、電流によって発生する磁束が集中する側の永久磁石70どうしの間隔が狭いか広いかの違いで、トルクは回転方向依存性を有する。
【0072】
これに対し、本発明者の検討によれば、実施例1では、対称軸Lを境界とする回転子の断面における一方の半円領域(以下、領域Aと称する)と他方の半円領域(以下、領域Bと称する)で、正回転時の磁束分布と逆回転時の磁束分布が相補的に現れる。すなわち、正回転時の領域Aでの磁束分布と、逆回転時の領域Bでの磁束分布は、対称軸Lに対する線対称性を有する。このため、トルクの回転方向依存性が発生しない。
【0073】
【0074】
図14は、正回転時と逆回転時における実施例1の磁束分布を示す。
【0075】
図14が示すように、正回転時の回転子の領域A(対称軸Lを境とする、図中で左側の半円領域)の磁束分布と、逆回転時の回転子の領域B(対称軸Lを境とする、図中で右側の半円領域)の磁束分布とが相補的である。例えば、領域Aと領域Bについて、実線の小円で囲む領域を比較すると、両領域における磁束分布の状態は同様である。
【0076】
図15は、正回転時と逆回転時における比較例の磁束分布を示す。
【0077】
図15が示すように、正回転時の回転子の領域A(対称軸Lを境とする、図中で左側の半円領域)の磁束分布と、逆回転時の回転子の領域B(対称軸Lを境とする、図中で右側の半円領域)の磁束分布とは相補的ではない。例えば、領域Aと領域Bについて、実線の小円で囲む領域を比較すると、両領域における磁束分布の状態は異なる。
【0078】
上述のように、実施例1によれば、トルクの回転方向依存性を発生させることなくトルク脈動を低減できる。
【0079】
また、実施例1によれば、コギングトルクを低減できたり、無負荷誘導起電力を正弦波化できたりする。無負荷誘導起電力の正弦波化により、スロットコンビネーションなどの回転電機の構造に起因する高調波損失を低減することができるので、回転電機の効率を向上できる。
【実施例2】
【0080】
図16は、本発明の実施例2である回転電機のる回転子30の、回転軸に垂直な平面での断面図である。本実施例2の回転電機は、インナーロータ型である埋め込み磁石型の永久磁石同期モータである。以下、主に実施例1やその変形例と異なる点について説明する。
【0081】
図16に示すように、本実施例2の回転子30は、磁性体からなる回転子コア40と、回転子30の回転軸であり、回転子コア40を貫通するシャフト90とから構成される。また、回転子30は、外周側において周方向に配置される偶数個(
図16では8個)で6極以上(
図16では8極)の磁極を有し、各磁極は少なくとも一つ(
図5では一つ)の磁石挿入孔50a~50cを有している。周方向における磁石挿入孔50a~50cの中央部には、磁極を構成するために永久磁石70a~70cが収容されている。磁石挿入孔50bおよび50cは、永久磁石よりも断面積が大きく、永久磁石70の挿入されていない領域は磁気障壁80となる。
【0082】
本実施例2の回転子30は、いわば、
図5の変形例において、永久磁石70a~70cの磁石幅を異ならしめた回転子である。すなわち、磁石挿入孔幅w1,w2,w3の間に、w1<w3<w2の関係があるとともに、永久磁石70a,70b,70cの磁石幅が、それぞれ、L1,2・L1,3・L1である。ここで、永久磁石70a,70b,70cは、磁石幅がL1である単位永久磁石から構成される。すなわち、永久磁石70a,70b,70cは、それぞれ、1個、2個、3個の単位永久磁石から構成される。
【0083】
このように、本実施例2の回転子30の断面では、実施例1と同様に、形状が異なる3種類の部分的断面形状130が周方向に配置される。なお、本変形例における3種類の部分的断面形状130においては、周方向における磁石挿入孔の幅(w1,w2,w3)、磁石幅(L1,2・L1,3・L1)および磁気障壁80の幅が異なる。また、3種類で8個の部分的断面形状130が、
図16中の対称軸Lに対して線対称に配置されるともに、回転軸心Xを回転中心として2回回転対称に配置される。これにより、実施例1と同様に、トルクの回転方向依存性を生ずることなくトルク脈動が低減できる。
【0084】
なお、本実施例2では、回転子30が永久磁石70a~70cを備えることにより、トルクが向上する。また、永久磁石70a,70b,70cが、同じ磁石幅(L1)を有する単位永久磁石から構成されるので、磁石トルクの調整が容易になるとともに、永久磁石70の製造コストを低減することができるので回転電機1の製造コストを低減できる。
【実施例3】
【0085】
図17は、本発明の実施例3である回転電機駆動システムの概略構成を示す。
【0086】
本実施例3において、
図17における回転電機1として、前述の実施例1およびその変形例の回転電機、並びに実施例2の回転電機のいずれかが適用される。
【0087】
図17の回転電機駆動システム200において、回転電機1を駆動するための電力は、電源210からインバータやコンバータ等から構成される電力変換装置220を介して供給される。この場合、電力変換装置220によって、回転電機1で駆動される負荷230に応じた出力制御が可能である。
【0088】
従来技術による回転電機や前述の比較例(
図7)では、トルク脈動が発生しやすいため、トルク脈動が発生する場合、一般的に、トルク制御では、トルク脈動を打ち消すような電流を流す制御が実行される。トルク脈動は高次の脈動成分として発生するため、これに制御を追従させるためには、高応答な電力変換装置220が必要になり、電力変換装置220のコストが増大する。また、トルク脈動を抑えるための高調波電流を注入することになるため、電力変換装置220内のスイッチング損失や、回転電機1内に発生する高調波損失が増大し、システム効率の低下を招く。速度制御でも、回転子の慣性モーメントが小さい場合、トルク脈動は速度変動につながるため、トルク制御時と同様に、高応答な電力変換装置220が必要になるとともに、システム効率が低下する。
【0089】
これに対し、本実施例3では、実施例1およびその変形例、並びに実施例2の回転電機1が適用されるので、回転電機1のトルク脈動は小さく抑えることができる。このため、トルク制御および速度制御のいずれの制御方式においても、高応答な電力変換装置220は不要となる。また、電力変換装置220内のスイッチング損失や、回転電機1内に発生する高調波損失を低減することができるため、回転電機駆動システム200のシステム効率が向上する。また位置制御の場合も、トルク脈動による制御性の低下が起こらず、様々な負荷に対して高精度な位置制御が可能になる。
【0090】
さらに、従来技術による回転電機や前述の比較例(
図7)では、負荷条件によってトルクの回転方向依存性が発生するため、回転電機1の回転方向それぞれに対して制御パラメータを設定する必要がある。
【0091】
これに対し、本実施例3では、回転電機1にトルクの回転方向依存性が発生しないため、回転電機1の制御パラメータは一方向分設定すれば十分である。このため、電力変換装置220における制御装置のメモリ消費を削減できたり、制御装置の構成を簡略化できたりするので、電力変換装置220を低コスト化することができる。これにより、回転電機駆動システム200のシステムコストを低減することができる。
【実施例4】
【0092】
図18は、本発明の実施例4である電気自動車の概略構成を示す。
【0093】
本実施例4において、
図18における回転電機351,352として、実施例1およびその変形例の回転電機、並びに実施例2の回転電機のいずれかが適用される。
【0094】
図18に示すように、電気自動車300には、エンジン360と回転電機351,352と、バッテリ380とが搭載されている。
【0095】
バッテリ380は、回転電機351,352を駆動する場合、回転電機351,352を駆動するための電力変換装置370(インバータ装置)に直流電力を供給する。電力変換装置370は、バッテリ380からの直流電力を交流電力に変換して、この交流電力を回転電機351,352にそれぞれ供給する。
【0096】
また、回生走行時には、回転電機351,352が車両の運動エネルギーに応じて交流電力を発生して電力変換装置370に供給する。電力変換装置370は、回転電機351,352からの交流電力を直流電力に変換し、この直流電力をバッテリ380に供給する。
【0097】
エンジン360および回転電機351,352による回転トルクは、変速機340、デファレンシャルギア330および車軸320を介して車輪310に伝達される。このような本実施例3の構成にかぎらず、回転電機351,352(もしくはいずれか一方)の回転トルクを車輪に伝達する種々のトルク伝達構成を適用できる。
【0098】
本実施例5においては、回転電機351,352のトルク脈動低減が可能である。このため、回転電機351,352のトルク脈動に起因する騒音や振動を低減することができるので、電気自動車300の乗り心地を向上させることができる。また、回転電機351,352のトルク脈動が低減することで、変速機340やデファレンシャルギア330に与える機械的な衝撃を緩和することができる。これにより、電気自動車300の信頼性向上や長寿命化が可能になる。また、トルク脈動低減のための高調波電流注入が不要となり、電気自動車300のシステム効率が向上するので、電気自動車300の航続距離を延ばすことが可能になる。
【0099】
また、回転電機351,352におけるトルクの回転方向依存性がないため、バック運転時においても、前進時と同様のトルク脈動低減、およびトルク脈動に起因する騒音や振動の低減が可能になる。
【実施例5】
【0100】
図19は、本発明の実施例5である電気鉄道車両の概略構成を示す。
【0101】
本実施例5において、
図18における回転電機1として、前述の実施例1およびその変形例の回転電機、並びに実施例2の回転電機のいずれかが適用される。
【0102】
図18に示すように、電気鉄道車両400は、ギア410、車輪420、車軸430および回転電機1を備えた台車440を備えている。回転電機1は、ギア410を介して車軸430に接続された車輪420を駆動する。なお本実施例では、回転電機1は2基搭載して例で説明しているが、これに限らず、1基または3基以上搭載しても良い。
【0103】
実施例6では、回転電機1のトルク脈動低減が可能であるため、乗車率によらず、回転電機1のトルク脈動に起因する騒音や振動を低減することができる。これにより、電気鉄道車両400の乗り心地が向上する。また、回転電機1のトルク脈動を低減することで、ギア410に与える機械的な衝撃を緩和することができるため、電気鉄道車両400の信頼性向上や長寿命化が可能になる。また、トルク脈動低減のための高調波電流注入が不要となるので、電気鉄道車両400のシステム効率が向上する。
【0104】
また、回転電機1においてトルクの回転方向依存性がないため、列車の進行方向が逆方向になった場合においても、トルク脈動低減、およびトルク脈動に起因する騒音や振動の低減が可能になる。
【0105】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0106】
例えば、実施例1およびその変形例や実施例2の回転電機は、電気自動車や電気鉄道車両に限らず、他の電動車両にも適用できる。
【0107】
また、実施例1およびその変形例や実施例2のように、線対称性を有する回転子の断面の形状は、アウターロータ型の永久磁石同期モータや、表面磁石型の永久磁石同期モータにも適用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 回転電機
5 フレーム
10 固定子
20 固定子コア
21 固定子巻線
22 固定子スロット
25 固定子ティース
30 回転子
40 回転子コア
50a,50b,50c 磁石挿入孔
60a,60b,60c 空隙
70a,70b,70c,70d 永久磁石
80 磁気障壁
90 シャフト
130 部分的断面形状
200 回転電機駆動システム
210 電源
220 電力変換装置
230 負荷
300 電気自動車
310 車輪
320 車軸
330 デファレンシャルギア
340 変速機
351,352 回転電機
360 エンジン
370 電力変換装置
380 バッテリ
400 電気鉄道車両
410 ギア
420 車輪
430 車軸
440 台車